謎町紀行 第137章

新たに始まるドローン戦闘、自衛隊の背信的策謀

written by Moonstone

「え、ええ?!」
「…。」

 翌朝、シャルに起こしてもらって、1階のレストランで朝ご飯を食べていると、TVが衝撃的な映像を流している。彼方此方で黒煙が上がり、鉄筋のビルを除いてほぼ壊滅した都市。その上空を縦横無尽に飛び回るドローン。ドローンのあるものは小型ミサイル、あるものは機銃掃射で敵を撃墜しようとしている。空でいくつかの爆発が起こり、白髪炎上しながら墜落していくドローンが映る。

「信じられません!この映像はオダワカ市に残っている市民がSNSにアップした映像です!焼け野原と化したオダワカ市の上空でドローンが戦闘を繰り広げています!」

 シャルがホログラフィで同士討ちを誘い、それにまんまと嵌って同士討ちを繰り返し、更に内ゲバも発生してクルド人グループはほぼ完全に行動不能になった。これは起こしてもらった直後にシャルから聞いた。同時にオダワカ市は自警団の勢力範囲、すなわち須佐皇神社周辺以外はほぼ焼け野原になったことも聞いたが、クルド人グループを壊滅に追い込んだ結果の副産物だ。
 なのに、空には多数のドローンが飛び交い、ミサイルと機銃で交戦している。クルド人グループがドローンに、戦場が都市から空に代わっただけだ。否、そもそも誰がドローンを操縦しているんだ?ドローンは小型の無人ヘリコプター。飛行体の製造は容易じゃない。シャルが同士討ちに誘導しつつ、戦闘機や戦闘ヘリのミサイル攻撃でアジトの解体工場を完膚なきまで叩き潰したから、ドローンの製造どころじゃない筈だ。

『これらのドローンは、無線操縦ではありません。自律航行です。』
『!自分達で判断して戦闘行動をしてるってこと?!』
『はい。実際、クルド人グループは全員戦闘不能で、ドローンの操縦どころではありません。それに相応する電波も出ていませんから、ジャミングも効果がありません。』

 ということは、クルド人グループが戦闘不能になったところに、何処からともなくドローンが現れて交戦を開始したってこと?いったい誰が、何のために?TVでは彼方此方から上がる黒煙を背景に、激しい戦闘を繰り広げるドローンの映像が続いている。他の宿泊客も何事かという様子で見入っている。戦争映画さながらの光景が同じS県で繰り広げられているという非現実的な現実が、容易に信じられないんだろう。

「ドローンは推定100機以上!撃墜されても何処からか現れているようです!クルド人グループに占拠されて久しいと言われるオダワカ市は、ドローンの戦場へと変貌しています!」
『シャル。警察や自衛隊、S県、政府に動きは?』
『まったく動きがありません。SNSでは調査や介入を求める声が強く上がっていますが、現在調査中という定型句を出すだけです。』
『これほど目立つ騒乱でも介入しないなんて…。』

 市民を放置して騒乱に紛れて逃げ出した警察は兎も角、自衛隊が何もしないのは明らかにおかしい。S県は自衛隊に出動要請を出すべきところなのに、それをしない。焼け野原になった東京近郊の市街地上空で所属不明のドローンが空中戦を続ける状況を放置することは、それこそ侵略行為として自衛隊や右翼が「我が国の防衛」を連呼すべきところ。にもかかわらず「調査中」なんて、連中が揶揄する左翼の平和ボケそのものでしかない。

『…シャル。自警団の勢力範囲ではどう?』
『複数のドローンが旋回していますが、戦闘はありません。』
『クルド人グループが検問を敷いていた道路やその周辺は?』
『クルド人グループと共に壊滅したため、物理的には通行可能です。』

 市街地の多くで戦闘が展開されているのに、自警団、すなわちオダワカ市の市民の勢力範囲では警備するような動きを見せている。そして、がら空きになった検問と、一応の復旧がなった自警団と「外」を繋ぐ補給ルート。そこから考えられることは…。

『シャル。ドローンを乗っ取ることは出来る?』
『解析します。…何ら問題ありません。』
『数機乗っ取って、自警団の勢力範囲に向かわせて。』
『分かりました。直ちに実行します。』

 シャルが乗っ取ったドローンは囮。自警団の勢力下では旋回行動を続けるドローンにそれらを向かわせたらどうなるかで、入り乱れるドローンの意図が推定できる。

『迎撃行動に出ました!』
『可能なら撃墜して、一定時間経過したら自警団の勢力範囲から離脱して。』
『分かりました。』

 目はTVを主に見て、料理を適時持ち運びしながら、テーブルに置かれたスマートフォンに映される映像を横目で見る。こちらも激しい空中戦が展開されている。ただ、シャルが乗っ取ったことで戦闘飛行がより俊敏になったのか、迎撃に来たドローンを翻弄し、後方からの追撃にヘッドオンでの挟撃など、コンビネーションを盛り込んだ攻撃で1機、また1機と撃墜していく。

『30%を撃墜しました。損害ゼロ。自警団の勢力範囲から離脱します。』
『離脱したら戦闘に紛れ込ませて。もしかしたら自警団上空のドローンが追撃してくるかもしれない。』
『分かりました。交戦範囲に入ったら解放します。』

 多分、自警団の勢力範囲にいるドローンは、自警団の防空用。市街地全域で空中戦を展開するドローンの一部でも自警団の勢力範囲に入ってくるだろうから、自警団の防空目的に送り込まれたと考えられる。
 問題はやっぱり、ドローンを送り込んだのは誰か、何かということ。自警団を明らかに防衛する様子から、自警団への物資や銃器供給と出所が同じである確率は高い。となれば、それを確かめる必要がある。

『シャル。別のドローンを乗っ取って、自警団の勢力範囲に通じるルートを破壊して。』
『分かりました。ドローンの撃墜に備えて、光学迷彩付きの航空部隊も派遣します。』
『頼むよ。破壊の際に流入した荷物があるようなら、その中身を可能な範囲で解析して。』
『分かりました。確実に実行します。』

 ドローンを乗っ取って向かわせるのは、ドローンの自律制御が本来の目的を逸脱することで、何らかの介入があるかもしれないから。そして、自警団への補給ルートを破壊して荷物の内部を解析することは、それを別角度から誘導できる可能性があるから。思惑どおりにいくかどうかは分からないけど、やってみないと分からない。ドローンが撃墜されることも想定して、シャルの航空部隊で確実に補給ルートを破壊する。恐らく…ドローンの流入ルートの1つはそこだ。
 シャルが乗っ取ったドローンが、戦闘空域から離脱して自警団の勢力範囲に突入する。自警団の勢力範囲にいたドローンが一斉に迎撃する。激しい空中戦だが、シャルが乗っ取ったドローンの方が上手なのは変わらない。数機撃墜しつつ、復旧間もない橋にミサイルを一斉に撃ち込む。橋が大爆発を起こして崩落する。折角修復された橋だけど、自警団の背後にいる「何か」の尻尾を掴むためだ。補給が多少不自由になるのは我慢してもらうしかない。

『橋の破壊に成功しました。同時に、運搬中だった荷物の一部が判明しました。ドローンです。』
『やっぱりドローンが補給物資として運び込まれていたか…。』
『予定どおり撤収して、戦闘空域で解放、で良いですか?』
『うん。当面の目的は達成できたから、そうして。攪乱にもなるから。』
『分かりました。』

 乗っ取ったドローンで自警団の防空にあたるドローンと交戦するのは、自律行動から逸脱することで、ドローンを送り込む何かに疑問を生じさせるため。オダワカ市全域で戦闘するドローンは、どれもこれも自警団の勢力範囲には踏み込んでいないようだ。クルド人グループが壊滅したから、オダワカ市に残るは自警団のみ。オダワカ市を人間以外のものにするためなら、事件段ももれなく攻撃対象になる筈。なのにドローンは自警団の勢力範囲には踏み込まないばかりか、防空を担うドローンが運び込まれてさえいる。
 それらから推測されること。それは、ドローンを送り込み、オダワカ市上空で戦闘を展開させている何かは、ドローンでの戦闘データを取得することと、オダワカ市の市民をある程度保護することを目的にしていると見られること。四六時中地上で交戦を続けていたクルド人グループは、ドローン撃墜を企てる確率が高いからリスクになる。自律行動をするドローンが何らかの理由で自警団を襲撃するかもしれないし、自警団ではドローンを迎撃できないから、防空用としてドローンを配備している。こう考えられる。

『ドローンは、他の補給物資と同じくコンテナに入っていました。コンテナを開放すると自動で飛び出すものと思われます。』
『混入じゃなくて、明らかに特定の目的をもって搬入されてるね。』
『はい。破壊したドローンからプリント基板と制御用ICを回収しました。これらを解析すれば、より詳細が分かるでしょう。』
『よく回収できたね。』
『コンテナごと破壊する際に、敢えて1機プロペラのみ破壊するように精密攻撃しました。』

 ミサイルなどの攻撃は広範囲を破壊することが主体だから、破壊範囲を狭めたり、攻撃対象の特定箇所を破壊あるいは残したりといったことは難しい。シャルは、ドローンにコンテナを破壊させた直後、航空部隊で破壊範囲を限定するように精密攻撃して、1機だけプロペラを破壊して行動不能にして、その本体を回収した。その直後、ドローンで全体を破壊させた。
 航空部隊が回収したドローンは、プロペラと本体の一部以外はほぼ完全に残っている。内蔵されているプリント基板(註:ICや抵抗などの回路部品を実装した、一般に緑色の塗料が塗られている回路基板)や制御の中枢を担うと見られるICは完全な形で回収できた。当然CRP(註:Code Read Protectの略。マイコンに書き込まれたプログラムの第三者による読み出しを防止する)はかけられているが、シャルなら突破は造作もない。制御コードが読み出せれば、ドローンの自律行動の詳細が分かるだろう。
 更に、プリント基板を完全な形で回収できたことで、基板本体の製造企業やICの供給ルートを辿れる可能性がある。わざわざ補給物資に紛れ込ませてオダワカ市に搬入するくらいだ。公にしたくないことであることは違いないし、それを暴くことはXやそれを取り巻く支配層をより深く知ることにもつながる。

『念のためだけど、自爆とか盗聴とかの恐れはない?相手がこうなることを見越して何か仕込んでいるかもしれないから。』
『大丈夫です。解析作業は、核爆発レベルの爆発にも耐え、一切の電波を遮断する特別な空間で実施します。ウィルス対策も万全です。』
『それなら大丈夫だね。くどくなるけど、注意や警戒は続けてね。』
『勿論です。』

 TV画面では、今もドローンが黒煙を背景に激しい空中戦を続けている。同じ日本とは思えない光景が現実のものだと思い知らされる。この映像、SNSで現地からアップされたもの、って言ってたな。…あれ?変じゃないか?

どうして現地の映像がアップできるんだ?

『…シャル。TVの映像が撮影されているポイントを捜索できる?』
『あれだけの情報があれば十分可能です。どうかしたんですか?』
『自警団の勢力範囲からじゃないなら、まともに動ける人がいない筈のオダワカ市であんな映像を配信できるのはおかしい。』
『!た、確かに…。』

 映像の非現実性に目が行くけど、クルド人グループはシャルのホログラフィと光学迷彩付きの戦闘機や戦闘ヘリの攻撃に誘導されたグループ間抗争と内ゲバで戦闘不能。クルド人グループの支配下に置かれていたオダワカ市の住民は、シャルの誘導で市外に脱出。警察や市役所は先に市外に脱出。だからオダワカ市にいるのは自警団のみ。なのに、市街地で映像を撮影してSNSにアップしている。
 クルド人グループが戦闘不能になったことと、クルド人グループの支配下にあった市民の脱出はシャルが確認済み。なのに、ドローンが飛び交う市街地に何者かが居て、映像を撮影してSNSにアップしている。敢えて警察か市役所の職員の誰かが残った?否、内戦状態のオダワカ市に何もできないまま、クルド人グループをまともに送検できないまま、市民を見捨てて逃亡したのに、わざわざ危険と物資の欠乏が明らかな市街地に残って、「その後」を記録する胆力がある職員がいるとは思えない。

『解析完了しました。該当ポイントに人はいません。代わりにホバリングしているドローンが居ます。』
『ドローンが撮影して、SNSにアップするところまでしてるってこと?』
『映像から計算される位置と角度からして、撮影からSNSへのアップまでドローンの自律行動だと見て間違いありません。』
『だとすると、電波を傍受して制御元を特定することは出来ないね。』

 ドローンの自律行動は、コマンドを送信する電波が届かないところでも行動可能にすると同時に、電波の発信源、言い換えれば制御する人物や場所の特定をできなくして秘匿性を高めるためだと考えられる。何処からか送り込まれたドローンは、あるものは交戦し、あるものは指定区域を防衛し、あるものは交戦の様子を撮影してSNSで公開する。人間が直接介在しない戦闘と記録が行なわれているわけだ。
 素材がヒヒイロカネかそうでないかを除けば、シャルの航空部隊に近い。戦闘能力はシャルの航空部隊の方が圧倒的だけど、少なくともドローンの戦闘能力は人間よりは格段に高い。ますます人間がいない場所でドローンの戦闘データの取得のために、焼け野原になったオダワカ市が使われている疑惑が高まる。

『ドローンは私の航空部隊には気づいていません。破壊や乗っ取りは可能ですが、どうしますか?』
『…このままにしておこう。』

 今も交戦中のドローンは、撮影しているドローンに向かっていく様子がない。ホバリングして空中の一点に静止しているドローンは、格好の攻撃対象になる筈。レーダーやカメラを搭載しているだろうから、見落とす確率は低い。ましてや何十何百といるドローン全部が見落とすことはあり得ない。なのに、ある意味悠々と撮影に興じているのは、交戦中のドローンが予め撮影中のドローンを攻撃対象から除外するようプログラムされている、つまり、撮影中のドローンも交戦中のドローンと製造元やプログラム元が同じである確率が高い。
 撮影用のドローンは、映像だけでなく、交戦における飛行の軌跡やミサイルの発射位置、ミサイルからの逃避行動を記録している確率が高い。そして、交戦が終われば映像の全部あるいは一部と共にそれらのデータを「主」のところに持ち帰ることも。無線だとどうしても傍受のリスクがあるし、転送失敗もあり得る。内部で保管しておいて持ち帰ってケーブルを接続して転送するのが、結局一番確実だったりする。

『交戦は恐らく2,3日で終了すると思う。ドローンのバッテリーがそこまで持たないだろうから。交戦終了が一時的でも、その時に撮影中のドローンもバッテリーの充電や交戦データの転送のために基地に帰還する筈。このドローンの行き先を追跡すれば、からくりが見えて来る可能性がある。』
『まったくそのとおりです。撮影中のドローンを護衛して、移動を始めたら追跡します。』
『回収したドローンの解析で、バッテリーの持続時間が計算できるなら、それも合わせて頼むね。』
『分かりました。バッテリーもプリント基板に接続された状態で回収できたので、十分計算できます。』

 戦場にドローンだけが存在することと、ドローン同士の交戦に目を奪われるけど、ドローンだけで製造からプログラムまですべて出来るわけじゃない以上、どこかに人の手が介在する。それが見えるのが、戦闘終了から撤収の時。シャルの航空部隊があれば、十分追跡可能だ。そこから見えて来るもの次第で、今後の展開が大きく変わるかもしれない。
 ドローンの数は100を超えると見ている。恐らく、一定数を下回ったらドローンが補充されることになっている。そのルートは自警団の勢力範囲に隣接するトリキ市と繋がる橋だけじゃない。複数のルートがあると見られる。そのルートもシャルに調査してもらう。1つの自治体に自称難民のクルド人を跋扈させ、焼け野原になった後はドローンが入り乱れて空中戦をさせるのは、恐らく醜悪な意図に基づくもの。そして、その背景には…。
 3日後。僕とシャルは長瀬町全域と近くを巡ってゆったりしている。並行して、オダワカ市関連で大きな動きがあった。昼夜問わず戦闘に明け暮れていたドローンが、昨夜続々と撤収していった。断続的にSNSに戦闘映像をアップしていたドローンも同じ。すぐさまシャルの航空部隊が追跡・調査したところ、重大な事実が幾つも明らかになった。
 ドローンは、オダワカ市の南西、同じく乱川沿いにあるカスミ市にある自衛隊の駐屯地に着陸した。カスミ市の自衛隊駐屯地はこの地方では最大規模で、飛行場を含む広大な訓練場を併設している。夜の闇に紛れて、ドローンはその飛行場に着陸した。そこには複数の充電設備が備えられていて、そこに着陸すれば自動的にコネクタと接続して充電が開始される仕組みになっている。
 更に、充電設備には通信コネクタもあって、充電と同時にそのコネクタに接続して、コマンドやデータの送受信が可能になっている。情報の盗難や漏洩を防ぐため、通常のLANコネクタじゃないしすべて有線。ネットワーク全体も駐屯地で閉じているタイプ。シャルは航空部隊から諜報部隊を投下し、充電設備の1つから侵入してネットワークの構成、コマンドとデータの解析に着手した。
 結果、自衛隊がオダワカ市の混乱に乗じて戦闘用ドローンの実証試験を行なっていたことが判明した。戦闘用ドローンは既に他国では実戦投入が進んでいる。一方、日本はドローンの飛行そのものの制限が厳しくて、市街地で飛ばすのは相当なハードルがある。クルド人グループ同士の抗争と内ゲバで市街地ごと壊滅した後なら、ドローンをどれだけ飛ばしても事故のリスクはないし、ミサイルや機銃を乱射しても被害が出ない。焼け野原になったオダワカ市は戦闘用ドローンの格好の実証試験の場になったわけだ。
 更に、オダワカ市の自警団に対して武器弾薬や生活物資を供給していたのも、元をたどればカスミ市の自衛隊だったことも判明した。かなり迅速かつ潤沢な物資供給は、カスミ市とオダワカ市を通過する圏環道-首都圏環状自動車道を使っていた。カスミ市の自衛隊駐屯地から最寄りのインターチェンジは至近距離。そこから圏環道を外回り方向に走ると、トリキ市にあるトリキインターチェンジに着く。そこから接続する国道7号線を少し南下すれば、程なく自警団の勢力範囲と乱川を挟んで隣接するポイントに到着できる。
 橋の復旧や損傷の間の物資の受け渡しは、自衛隊が民間企業に偽装して実施していた。橋の復旧がやけに早かったり、決して狭くない川を挟んだ物資の搬入がやけにスムーズだったのは、災害救助の訓練を受けた自衛隊だから出来たことだった。これだけならクルド人グループの跋扈に苦しむ国民を支援する自衛隊という美談になるけど、知事の要請がなかったとはいえクルド人グループを放置して大半のオダワカ市市民を守らなかったのは事実だし、単に国民の限られた住居範囲を守るためじゃなかった。
 自衛隊が物資搬入と共に武器弾薬を供給していたのは、国民皆兵制度、言い換えれば徴兵制復活に向けた地均しと前例づくりのため。クルド人グループからの自衛のためとして銃器の使用方法を秘密裏に教え、簡単な訓練もして銃器を使用可能にしていた。それによって、自警団を付きっ切りで守る任務から遠ざかることが出来るし、不法移民・自称難民の外国人の流入による治安悪化を大義名分に、国民皆兵、つまりは徴兵制復活のための実績づくりにする目論見がある。
 自衛隊は最近の数々の不祥事やハラスメントの発覚に加え、それらを隠蔽どころか涵養する風土が広く知られ、日本全体に共通する若年人口の減少と自衛隊に対する忌避感情の高まりで、隊員数の減少と慢性的な人手不足に直面している。幹部候補である防衛大学も不祥事と右翼べったりの思想教育が発覚し、任官拒否が増加の一途。防衛庁から防衛省に格上げし、次は国防省、ひいては陸軍省・海軍省の復活を目論む自衛隊としては、むしろ存続の危機にある状況の打破が不可欠だった。
 その抜本的対策として、国民皆兵、徴兵制度復活が浮上した。だけど、日本国憲法施行から約80年が経過し、数々の不祥事やハラスメント体質、それらの隠蔽・涵養の体質が知れ渡ったことで、「自衛隊は必要し何なら戦力不保持の憲法9条改正も賛成だけど徴兵制は勘弁」という認識が国民の中にある。昨今の上級国民のあからさまな優遇措置それを支える検察・裁判所の無能ぶりもあちこちで露呈したことが、それに拍車をかけている。「政府や司法は上級国民を優遇し、国民を搾取する」という認識は、支配層には厳しい。
 さらに(自衛隊にとっては)悪いことに、後ろ盾となる政権党が重大な不祥事の数々でガタガタになっている。特に、自衛隊ひいては防衛省を優遇する財務省の元財務相が、核兵器保有計画も含めた重大な違法脱法行為に手を染めていたことが発覚して事実上失脚したことが痛手になっている。元財務相は長く財務省を牛耳り、その思想背景を基に自衛隊の国防軍化構想や国民皆兵制度の復活を目論んでいた。しかし、ヒョウシ理工科大学を舞台とする数々の悪行が露呈したことで事実上失脚。財政面で便宜を図る強力な後ろ盾を失った。
 そこで、自衛隊の上層部は独自の策を練ることにした。そして、近隣のオダワカ市の深刻な事態に目を付けた。不法滞在で住民に危害を加える外国人の跋扈。「差別」との糾弾を恐れて介入や取り締まりに消極的な自治体や警察、議員。それに対抗するための自衛策として国民自ら武器を取って抗戦する。自衛隊としては国民皆兵に向けた格好の大義名分が揃っていた。
 僕とシャルも初めて知ったのは、自警団への支援以外に、クルド人グループに秘密裏に武器弾薬や物資を供与していたこと。人員が入ると危険が大きいことから、これも夜間にドローンで近くまで運ぶという方法で行っていた。シャルの度重なる攻撃でも復旧が早かったのは、クルド人グループの人海戦術も大きいけど、自衛隊による物資供給があったのが理由の1つだ。
 自衛隊としては、クルド人グループに武器弾薬や物資を供給することで、混戦を長期化させることが出来る。それは自警団への支援の正当化を強化し、クルド人グループが疲弊して戦闘力が減衰したところで、戦闘用ドローンを投入する。誤射してもクルド人グループを抹殺できるだけだし、自国民・自国領土を防衛するためという正当化が可能だ。
 自衛隊にとって予想外だったのは、クルド人グループが内ゲバまで起こしたことで疲弊を通り越して壊滅したこと。そして戦闘用ドローンの一部が勝手に離脱して、自警団の勢力範囲に侵入して、防空用ドローンを撃墜までしたこと。前者は当初の想定が早まったという解釈で問題ないが、後者は想定されていない事態だ。ドローンの同士討ちと言えるこの事態の原因を解明しないと、実戦投入で重大な悪影響が生じる恐れがある。得られた行動データを解析して原因を究明している。

「-つまり、自衛隊の野望のためにオダワカ市の混乱が利用されたってことか…。」
「そのとおりです。なかなか手の込んだ自作自演劇ですね。勿論皮肉ですが。」
「自衛隊は、自警団の勢力範囲にある須佐皇神社のヒヒイロカネを防衛することで、いずれそれを手中にするつもりだった?」
「これもそのとおりです。自警団を防衛・支援して恩を売ることで、須佐皇神社に入りやすくする目論見があります。」

 これもある意味分かりやすい。自警団を防空用ドローンで防衛しつつ、武器弾薬や物資を供給することで、否が応でも求心力は高まる。自衛隊が知事の要請なく独断に動くことは、シビリアンコントロールの面から重大な違反だから、人目を避けるため民間企業に偽装しているが、事態が収束したら実はと正体を明かす。求心力を高めた段階なら「なぜもっと早く救援しなかった」という批判を住民レベルで封じることも出来る。それにより、自警団の勢力範囲にある須佐皇神社への立ち入りが容易になるという筋書きだ。
 自衛隊がなぜ、どのルートでヒヒイロカネを知ったかはまだ分からない。しかし、イザワ村の件でも自衛隊がヒヒイロカネを探していることは明らかだし、東京近郊にあるヒヒイロカネということで、須佐皇神社のご神体になっているらしいヒヒイロカネを手中にしようと目論んだ…!

「元をたどれば、須佐皇神社のヒヒイロカネを手に入れるために、自衛隊はオダワカ市の混乱を利用して、ついでに自衛隊の本願である国民皆兵制度の復活を狙った?」
「それが一連の謎に対する最適解だと思います。国民の苦難を踏み台に一挙両得を狙ったわけです。」

 馬鹿げている。狂ってる。腐ってる。シビリアンコントロールの面で知事の要請なしに動くのは重大な問題だから、この点で自衛隊を批判するのはおかしい。だけど、国民の苦難に乗じて戦闘用ドローンの実証試験をしたばかりか、混乱を助長するためにクルド人グループに武器弾薬や物資を流し込み、一方で国民を防衛する体で武器弾薬や物資を供給して求心力を高め、不法滞在で犯罪を繰り返す外国人からの自衛のためという大義名分を形成して、国民皆兵制度の復活を目指していたことは絶対に看過できない。
 シャルの言うとおり、オダワカ市は自衛隊の巧妙かつ狡猾な自作自演劇の踏み台にされたわけだ。自衛隊の本願である国民皆兵制度の復活、そして国防軍構想の実現のために。そしてヒヒイロカネを手中にするために。警察や司法が支配層やその取り巻き、所謂上級国民を優遇する動きはよりあからさまになっている。インターネットとSNSの普及でそれが通用しづらくなっている面はあるけど、もっと水面下で、もっと醜悪な上級国民優遇策が企てられていた。

「…事態の打破のためには、自衛隊の排除が不可欠だね。」
「その見解に賛成です。戦闘用ドローンは、充電完了後に再びオダワカ市に向かい、実証試験という名の戦闘を展開する計画です。連中の気が済むまで、つまり十分な戦闘データが得られるまで、この状況は続きます。」
「…こういう依頼はしたくなかったけど…、仕方ない。」

 僕は一呼吸置いて、僅かにあった迷いを振り払う。手段を選ぶ必要はない。

「シャル。カスミ市の自衛隊駐屯地を破壊して。あの一帯から自衛隊を完全に排除する。」
「分かりました。直ちに実行に移します。」