謎町紀行 第126章

人造の山に眠る秘宝、潜む脅威と異教の存在(前編)

written by Moonstone

 その日の夜、夕ご飯を食べ終えたところでシャルが言う。

「宮司の父親が住んでいたと思われる小屋が見つかりました。」

 早速事態が動き始めた。シャルが壁に映像を出す。鬱蒼とした森の隙間に放棄された古民家のような小屋が建っている。暗視カメラとリアルタイムの画像処理で見えているけど、既に日は沈んでいる森は真っ暗の筈。野生動物が住みついていそうな、ホラー映画で殺人鬼が潜んでいそうな不気味な佇まいだ。

「今の時間、灯りがないってことは、無人?」
「はい。接近するとその理由が推測できます。」

 小屋に接近する。彼方此方に穴がある。これは…銃弾の跡?

「トライ岳は自衛隊の勢力範囲でした。そこにこんな怪しい小屋があれば、敵、すなわちAo県警が潜んでいると見て攻撃対象になるのは容易に推測できます。」
「それだと…。」
「いえ、恐らくは拉致されたものかと。」

 映像が小屋の内部に切り替わる。6畳くらいの空間に、寝袋と小さいテーブル、小型のカセットコンロなど生活用品がひしめき合っている。明らかに生活していたことが窺える痕跡だ。室内には血痕はない。この乱雑かつ狭い空間で拭き取るなどはまず不可能だろう。

「恐らく、自衛隊がトライ岳周辺を勢力範囲にした際に制圧され、捕らえられたと思います。小屋の弾痕はAo県警との銃撃戦の結果で、この小屋の住人-宮司の父親である確率が高いですが、それとは無関係です。」

 訓練を受けているれっきとした軍隊と、単独で小屋に住みついている歴史マニアの一般人男性では、勝負になる以前の問題。シャルの推測が正しいだろう。自衛隊に拉致されたのは安全面では良かったかもしれない。見つからずに住み続けていたら、自衛隊とAo警察の交戦に巻き込まれて、ただでは済まなかっただろう。

「自衛隊に踏み込まれて拉致されたっていうシャルの推測は正しいと思うけど、何処に連れていかれたか、だね。やっぱり駐屯地かな?」
「その確率が高いと思います。敵対関係にある警察に引き渡すことは考えられませんし、尋問の結果、トライ岳を調査していたと分かったら、猶更自分達のもとから逃がしはしないでしょう。」
「駐屯地に侵入したり、武器を強奪したりしたわけでもない一般市民を拉致監禁しているとしたら、重大なスキャンダルになるだろうし。」
「はい。警察と実弾で交戦していた事実も含めて隠蔽するしかありません。」

 自衛隊も警察も表沙汰にしたくない事実が山積している。イザワ村などで起こった一連の事態は、前代未聞のことが犇めき合っている。治安や国家体制の維持という立ち位置からどうしても政権との距離が近くなりやすい警察と自衛隊が、1つの村を舞台に実弾で交戦し、隣接する町ではホテルを占拠して、住民を口止めしていた。どれもこれも強い批判は免れない、前代未聞の重大スキャンダルだ。
 そこに、自衛隊の業務を妨害したわけでもない、語弊はあるけどオカルトに染まった歴史マニアを武力鎮圧の上拉致したなんて発覚したら、自衛隊の本性が露呈したとか、特高警察の再来とか、左派や人権団体を中心に総攻撃を受けるのは間違いない。当然ながら、シビリアンコントロールの面から政権党にも延焼するのは確実だ。
 自衛隊も、最初から矢別さんの父親を拉致しようとは思ってなかっただろう。警察との実弾での交戦中、勢力下のトライ岳付近を警戒していたら、不審な小屋が森に紛れて佇んでいるのを発見して、警察の偵察部隊あるいは諜報部隊が潜伏していると見て急襲した。ところがそこにいたのは武器を持たない一般人。拍子抜けすると同時に、この一般人が、銃を持った自衛隊にいきなり襲い掛かられたと公表したらまずい、と危機感を抱いた。
 軍隊に限らず、強いトップダウンと階級が絶対の縦社会組織は兎に角隠蔽や身内擁護に走りやすい。武器を持たない一般市民を集団で襲撃したとなれば、スキャンダルは間違いない。そう思った自衛隊は矢別さんの父親を拉致して、恐らく駐屯地に連行して監禁している。-ありがちだけど、十分考えられるシナリオだ。

「並行してトライ岳のジャミング施設を捜索していますが、木に偽装したAタイプはひととおり所在地を把握して破壊を続けていますが、それ以外のBタイプの正体を掴めていません。しかもBタイプのジャミング強度が増して、パターンも複雑になっています。」
「学習機能か、司令塔みたいなものが別にあるってこと?」
「はい。恐らく後者だと思いますが。」

 無人兵器が自分で学習して強化するなんて、SFかゲームの話かと思うけど、シャルを見ていれば、シャルが創られた世界ではそれが十分可能なことが分かる。だけど、それがマスターやSMSAが介在していない歴史上の遺物で実現しているとなると、非常に重大な意味を持ってくる。
 1つは、この学習機能付きのヒヒイロカネ関連の兵器が、他にも存在する恐れがあること。直接的な攻撃手段を持たないジャミングでも大概対処に難渋するのに、シャルが使うような戦闘機や戦車にそれが搭載されたら、この世界の軍隊や兵器は太刀打ちできない。しかも自分で学習して強化できるくらいなら、自分自身を量産することにも手を出すだろう。そうなったら、この世界が人間じゃない何かに制圧されてしまう結末が現実のものになる。
 もう1つは、マスターやSMSAが介在していない歴史上の遺物、つまり何百年以上前に逃げ込んだ天鵬上人こと手配犯の1人は、ヒヒイロカネだけじゃなくて製造技術や学習機能の搭載まで持ち込んだ確率が高いこと。どうやって持ち込んだかは分からないけど、そう考えないと逆鉾山やトライ岳のジャミングやピーキングアイの存在は説明できない。
 それに、時の朝廷の諜報員として暗躍していた顔を持つ天鵬上人こと手配犯が、こういった兵器や設備を配置する場所を限定していたとは考えにくい。天鵬上人は、天皇の病気治癒を祈願して治癒するなどの宗教的能力と、各地の治水や灌漑の指導や陣頭指揮といった土木建築能力で、朝廷と民衆の両方から厚い支持を得て今もその名をとどめている。その背後には、ヒヒイロカネなど異世界のオーバーテクノロジーがあったと考えることも出来る。
 実際のところは、タイムマシンがないと確認できない。シャルが創られた世界にあるという時空間転移装置…だったか?その設備は通常は使用できないものだろうし、異世界の住民である僕が使える筈がない。謎が多いどころか増える一方だけど、当座の問題は学習機能すら有する確率があるBタイプのジャミングをどうやって見つけて破壊するか、だからそれに専念しよう。

「ジャミングだからレーダーは効果がない。赤外線やX線でも識別できない。何か方法がないかな…。」
「私も検討していますが、今のところ解決策を見いだせずにいます。Aタイプ-木に偽装したタイプは、明日にはすべて破壊できると思います。」
「そういえば…Bタイプのジャミングが残っていても、トライ岳に近づくこと自体は出来るんだよね?」
「はい。自衛隊もそうでしたし、試験的に戦闘機や戦闘ヘリの光学迷彩を解除して周囲を飛行させましたが、攻撃の動きはありませんでした。」
「…ジャミングしか残ってないなら、ジャミングを無理に排除しなくても、トライ岳に強行突入できるね。」
「!」

 ジャミングをすべて破壊しないとトライ岳に隠されたヒヒイロカネに近づけないと思っていたけど、一時勢力下においていた自衛隊はトライ岳を調査して、攻撃されたとかはなかった。ジャミングでレーダーは無効化されても、目視は無効化されない。つまり、通常のカメラや目視でトライ岳の入口をこじ開けて中に入ることはできるということだ。
 それなら、ジャミングの全破壊に固執しないで、本来の目的であるヒヒイロカネの捜索と回収、つまりトライ岳内部への突入とヒヒイロカネの回収に移行して良い。ジャミングを全破壊しないとトライ岳の中に入れないっていうルールや制限があるわけでもないんだから、トライ岳に入ることを妨害してこないなら、ジャミングは放置で良い。

「ただ、ジャミングを全破壊しないと、中に入った時に攻撃されたり、最悪トライ岳を自爆させる仕組みがあるかもしれないから、ジャミングを全破壊できればそれに越したことはないと思う。」
「ジャミングの捜索と破壊に意識が行き過ぎていましたね。」
「僕もそうだよ。内部への突入はシャルの部隊でできそう?」
「まったく問題ありません。出来る限りトライ岳の外観を損なわないように、最小限の作業にします。」
「トライ岳への突入やヒヒイロカネ回収のハードルは下がったから、今後は矢別さんの父親の捜索が主体になりそうだね。駐屯地の捜索は可能?」
「はい。こちらも全く問題ありません。」
「じゃあ、Ao県の駐屯地、特にトザノ湖超えを狙った部隊が所属する駐屯地を捜索して欲しい。」
「分かりました。空と陸の両方から捜索します。」

 トライ岳とヒヒイロカネの方はおおよその目途が立った。問題は矢別さんの父親の消息と、監禁されている場合の救出の方法だ。恐らく自衛隊に拉致されて駐屯地に監禁されていると思うけど、そこから救出するのは自衛隊との交戦に至る恐れが高い。シャルなら自衛隊と交戦しても敗北する確率はないと思って良いけど、後々に影響する。
 政権や政権党と癒着している神社本庁が、僕とシャルに警戒して通報するよう通達を出しているところからして、恐らくXは僕とシャルの存在を把握している。ということは、自衛隊や警察にも同じような通達が出されている確率が高い。少なくとも上層部は何らかの形で知っていると見た方が良い。その状況下で自衛隊と交戦するのは、政権全体と敵対することを宣言するのと等価だ。
 シャルの能力なら、警察も自衛隊もまとめて殲滅できるだろう。だけど、「下は脳筋、上は右翼」と揶揄されるように政権べったりな上層部は兎も角、上の命令に従って動くだけの末端の警官や隊員は出来るだけ巻き込みたくない。絶対的なトップダウンで動く組織で責任を取るべきはトップであって、末端ではない。その覚悟もないならその手の組織でトップである資格はない。

「…三岳神社の方はどう?」
「何も不審な動きはありません。宮司代理の女性は、社務所に閉じこもっています。」
「こちらは様子見だね。何も起こらないならその方が良い。」

 トライ岳はジャミングの全破壊から強行突入に舵を切ったことで、意外に早く決着しそうだ。警察も自衛隊も表立った動きはないけど、イザワ村を舞台に実弾で交戦までして痛み分けで終わった両者がこのまま大人しくしているとは思えない。早期に決着できると良いんだけど…。
 その日の夜、シャルは早速トライ岳内部への強行突入を決行した。ジャミングに翻弄されて手を拱いた分、早期決着を図る構えだ。SMSAは周辺に配備済み。最も近い集落まで約5km。それでも静かな夜に悪影響が出ないよう、シャルは重機を使わずに陸上部隊で扉の隅にごく小さい穴を開けて突入させる。こんなことが出来るのはシャルだけだ。僕は映像を介して見守るしかない。

「開口完了。突入します。」
「気を付けてね。何があるか分からない。」
「はい。」

 ジャミングを無視しての突入は、逆鉾山のようにレーダーによる内部解析が出来ない代償がある。つまり、内部で待ち構えているかもしれない罠や兵器を、その場で発見して迎撃することを迫られるアウェイな状況を受け入れなければならないということ。相当な危険を伴うけど、Bタイプのジャミングの正体が未だに掴めない以上、危険を承知で進めるしかない。
 部隊がトライ岳内部に突入する。ジャミングはかなり強力で、レーダーなど電波を使用するものは使用不能。高解像度の暗視カメラと強力なライト、ミニチュアサイズの戦闘ヘリがいるから何とかなっている。流石のシャルも慎重にならざるを得ない。調査と移動の中心は歩兵部隊で、戦闘ヘリと戦車が護衛と迎撃を担う。通常サイズだと到底不可能な部隊編成だけど、シャルが分離創成するミニチュアサイズだから可能だ。勿論、攻撃力は折り紙付き。
 内部は少し一直線に進んだのち、十字路に差し掛かる。戦闘ヘリが前に出て前方を照らすが、かなり奥まで伸びているらしくて強力なライトでも十分見通せない。1つ1つたどるか分散するかだけど、何しろ天鵬上人が残した遺跡だ。唐突に退路を遮断されるトラップがないとも限らない。

「部隊の増派は可能?」
「はい。問題ありません。」
「部隊を増派して、十字路を並行調査しよう。かなり複雑な構造のようだし、今後上下に道が分岐することもあり得る。」
「分かりました。部隊を増派します。」

 歩兵から戦車、戦闘ヘリがその場でアメーバか何かのように分離して、一挙に3部隊に増強される。こんなこと、通常では不可能だ。通路は人が2,3人並んで通れるくらいの幅と、僕くらいの身長で頭が天井に着くか着かないかといったところ。部隊が3倍になってもサイズがサイズだから詰まって移動できないなんてことはない。

「3方向に分岐して、調査を継続します。」

 スクリーンには、3部隊それぞれの戦闘ヘリからの360度映像と、トライ岳の3D画像が表示されている。部隊の進行による映像と解析で、3D画像に通路が作られていく。左のルートを進む部隊が早速下方と別方向への分岐に差し掛かる。迷路のような構造なのが鮮明になってきた。

「かなり複雑な構造だね…。」
「はい。罠らしい罠がないのが意外ではあります。」
「落とし穴くらいならまだしも、稼働するタイプの罠は当時の技術では作れなかったか、耐用年数で機能しなくなると思って断念したか最初から度外視したか、のどれかかもしれない。」
「なるほど…。そういう見方も出来ますね。」

 逆鉾山でも巨大な石の通路は発見されたけど、トラップがあるかは未確認。建造の知見と信奉を利用して巨大な建造物を作ることはできたけど、可動部分がある罠は肝心な時に動かなくなるリスクもある。だから作るとしたら落とし穴程度に留めて、本体の建造を優先したとも考えられる。あと、罠の種類や場所を知られることで、盗掘のリスクが高くなると踏んだかもしれない。棟梁の一団を火山噴火で抹殺したくらいだ。それくらい考えていても不思議じゃない。
 幸い、罠は出現しないまま調査は続く。3D画像に通路がどんどん記載されていく。上に下にと分岐して、かなり複雑な構造だけど、肝心のヒヒイロカネやBタイプのジャミングが出てこない。暫くして、3D画像への通路の追加が停止する。全部隊の調査が完了したようだ。でも、ヒヒイロカネとBタイプのジャミングはどの部隊も-最終的に10を超えた-発見できなかった。

「トライ岳はダミーで、ヒヒイロカネは別のところにある、ということでしょうか?」
「伝承が嘘というか誤りがあるのは珍しくないけど、今回はそうじゃない気がする。」

 矢別さんが語った伝承がすべて本当あるいは全て嘘と断言することは出来ない。だけど、今回は伝承のとおりトライ岳が人造の建造物なことが確定し、距離があって集落の範囲も異なる-田舎は集落が違うと「余所者」になることもある-キリストの墓での催事を担う理由も合理的。更にシャルですら未だに所在を掴めないジャミングがある。何もないところにわざわざここまで凝ったことをする確率は低い。ダミーなら調査したら「実は偽物」と分かる陳腐な作りだったりする。
 Bタイプのジャミング施設は勿論、ヒヒイロカネもトライ岳の何処かに隠されている。何処に?通路はシャルの部隊が隈なく捜索した。部屋も中央部に大きなものが1つ、小さいものが幾つかあったけど、そこには何もなかった。罠や仕掛けらしいものもなかった。ジャミングの影響を受けない目視で分からないようにする仕掛けがある?どんな仕掛け?…!

「シャル。トライ岳の画像を、横からの2Dに変えることは出来る?」
「はい。何ら問題ありません。」

トライ岳の画像が横から見たものに変わる。シャルに頼んで、見る角度を徐々に変えてもらう。この構造、確かどこかで…!

「シャル。30度くらい前の画像に戻して。」
「はい。この角度で良いですか?」
「うん。…シャル。このあたりを調べてみて。」

 僕はベッドから出て、スクリーンに表示されるトライ岳のある場所を指さす。

「恐らくここは閉鎖空間だから、隙間から光ファイバーみたいな細いセンサを差し込むことになると思う。隙間がないなら、このあたりから穴を開けて差し込んでみて。」
「分かりました。工作部隊を派遣します。」

 光ファイバーか何かを差し込む位置を別に指し示す。トライ岳への突入口を作ったシャルの工作部隊が派遣される。隙間らしいものが見つからないようだから、早速挿入口を作って極細のカメラを差し込む。カメラの性能は間違いないから、僕の記憶違いがなければ恐らく「あれ」が見つかる筈だ。

「!広大な閉鎖空間を発見しました!」
「やっぱり。恐らくそこにヒヒイロカネかBタイプのジャミングのどちらかがある。注意して捜索して。」
「分かりました。部隊を突入させます。」

 シャルの部隊がライトに照らされた閉鎖空間を映し出す。閉鎖空間と言うにはやや似つかわしくない、かなり広大な空間。その奥、祭壇のような石組の構造物がある。そこに櫓のようなものが置かれている。多分、あれがヒヒイロカネを収めた箱か何かだ。

「ジャミングが厳しいので詳細な測定や分析が困難ですが、特徴的なスペクトルが断片的に検出できます。ヒヒイロカネが納められています。」
「注意して。此処へ来て罠が仕掛けられていても不思議じゃない。」
「はい…!」

 部隊が祭壇のような場所に近づくと、壁や床から何かがせり出してくる。それらはダンゴムシを巨大化したようなものや、蜂を機械化したようなものに変化していく。

「擬態兵器?!」
「シャル!全力で攻撃するんだ!」
「は、はい!」

 間違いなくヒヒイロカネの奪取を阻む防衛ライン。しかも登場の仕方からしてヒヒイロカネ。シャルも本気で挑まないと大ダメージを受けかねない。シャルは歩兵部隊と戦車、戦闘ヘリで一斉攻撃を仕掛ける。更に待機していた部隊を続々突入させて攻撃させる。ダンゴムシは丸まって、蜂は素早い動きで弾丸やミサイルを巧みに避ける。物量作戦で少しずつ押してはいるけど、これまでになくシャルが苦戦している感がある。
 広いとはいえ閉鎖空間で激しい銃砲撃が展開される。ダンゴムシの攻撃手段は触手と体当たり、蜂は槍のような針を広範囲に撒き散らす。数で押す作戦のシャルの部隊は数が仇になって攻撃をまともに受ける部隊が多い。映像からしてダンゴムシと蜂はシャルの部隊よりややサイズが大きいくらい。人が踏み込んだから穴だらけにされているだろう。サイズは小さくても攻撃力が高いのはヒヒイロカネ製の兵器の特徴。強力な存在や兵器が敵に回ると非常に厄介なことになることをまざまざと見せつける。

「数が多い…。」
「!シャル!祭壇に攻撃を集中して!」
「は、はい!」

 祭壇、つまりヒヒイロカネを防衛するのがこの兵器の役割なら、祭壇を守ることを優先する筈。敢えて攻撃を祭壇に向けて集中してもらう作戦だ。案の定、ダンゴムシと蜂は踵を返して祭壇を覆うように固まる。そこに増援を含めた攻撃が集中する。音量を抑えても激しい爆発音が絶え間なく響く。数の面ではシャルの方が有利。弾薬切れも心配ない。このまま相手を防戦一方にして物量作戦で押し切る。これでどうだ?