雨上がりの午後
Chapter 189 望む未来を語る朝
written by Moonstone
・・・リリリ。ピリリリリ。
規則的で軽い電子音が徐々に輪郭を鮮明にしてくる。音は・・・頭の上の方からだな・・・。目覚まし時計ってこんな音だったっけ・・・?
まだ頭の濃霧が残っている俺がそんなことをつらつらを考えていると、俺の上でもそもそと何かが動く。開けてきた視界に・・・胸の谷間?。
一気に意識が鮮明になったところで、俺の頭の上の方から鳴っていた電子音が消える。
「はい、安藤です。」
晶子が今日の第一声を発する。電話に出たのか。
「・・・あ、おはようございます。・・・はい。このお電話で目を覚ましたんです。・・・まだ寝ているようで・・・。」
「起きてるよ。」
俺は、立っているとしたら見上げる形で晶子に言う。右手を畳に突いて電話を耳に当てている晶子は、同じように立っているとすると下を見る形で俺の顔を見て小さく頷く。
「起きてました。・・・はい。今から着替えて向かいます。すみません。・・・はい。では、また後ほど。・・・はい。失礼します。」
晶子は電話を終えて、乗り出していた身体を元の位置、俺の真上に戻す。
「おはようございます。」
「おはよう。」
「御免なさい。祐司さんの電話が鳴って目を覚ましたので、急いで取ろうと・・・。」
「それは良いよ。電話は渉からだろ?」
「はい。祐司さんと私が来ないので、祐司さんの電話番号を登録してある渉さんが起きてるかどうかを確かめるために電話をかけたんだそうです。
皆さん起きて1階のロビーで待ってる、と。」
「また俺と晶子は寝坊組か。今何時だろ?」
「えっと・・・。8時を少し過ぎたところです。」
晶子は、今度は俺の上から身体を退かして、自分の携帯−俺のと並べて枕元に置いてある−で時刻を見る。
朝飯の時間は7時から9時だから時間としてはまだ圏内だけど、この時間帯はかなり混雑する。今日は宿を出るからただでさえバタバタしがちな時に出遅れるというのは、
後々にまで響く。・・・時間になったら荷物と共に蹴り出されるってことはないだろうから、気にし過ぎるのは良くないか。
俺は布団から出て着替える。着替えに関して言えば、男の方が何かと都合が良い。
俺が髪型や服装に無頓着というのもあるんだろうけど、朝だとパジャマ若しくは今回のように浴衣を脱いで適当に畳み、Tシャツ、長袖シャツの順に着てズボンを穿いて、
セーターを着れば屋内での服装は準備完了だ。外出する時はコートを着てマフラーを巻くだけ。
一方の晶子も基本的には同じだが、長い髪を整える時間が必要だ。
寝相は良いけど俺よりは寝癖とかが目立ちやすくなる。それを整える時間は少なくとも俺よりはずっと長い。化粧はハンドクリームや乳液を使う程度だから、
その時間はほぼ無視出来る。
着替えが済んだ後、晶子は髪に櫛を通す。茶色がかった髪が窓から差し込む淡い光で虹色の輝きを発する。何度も見ているが、本当に綺麗だな・・・。
高校時代まではその色のためにあまり良い思いをしなかったが、今は存分に自分の髪を、そして自分を大切にしている。髪に櫛を通すその表情が、
それを端的に物語っている。
「お待たせしました。」
「じゃあ、行こうか。」
「はい。」
俺は晶子に携帯を渡して自分のをセーターの内側にあるシャツの胸ポケットに突っ込んで、部屋の鍵を持って部屋を出る。鍵を閉めたのを確認してから1階に向かう。
ロビーのソファに座っていた面子が、俺と晶子に気づいて立ち上がる。
「悪い。遅くなった。」
「遅れて申し訳ありません。」
「あー、良いですよ。お二人が朝遅くなるのは元より承知済みですし。」
「・・・耕次。どういう意味だ?」
「言わなきゃ分からないってことはないだろ?ん?」
耕次だけでなく、面子全員がにやけて見せる。
・・・口に出してもらうまでもない。この地での最後の夜を色んな意味で満喫したんだろう、と言いたいに決まってる。
「昨日はしてない」なんて言っても無駄どころか、火に油を注ぐようなもんだ。「昨日はってことは普段はどうなんだ?」とでも返されるだろう。
そうなったら俺と晶子の夜を暴露させられる羽目になっちまうのは、火を見るより明らかだ。
「・・・寝過ごしただけだからな。」
「2人揃って寝過ごした理由はさて、何でしょうか?安藤祐司君。証言しなさい。」
「・・・証言を拒否させていただきます。」
法律関係の職を目指す耕次らしい詰め寄りを、俺はそれらしい言葉でかわす。耕次本気になればあまりにも稚拙なかわし方だろうが、俺にはそれしか思い浮かばない。
「ま、此処で面白おかしく尋問してても話が続かない。」
「話って何だ。」
「食堂へ行くぞ。」
俺の問いかけを軽く受け流して、耕次が先頭になって食堂に向かう。・・・駄目だ。やっぱり耕次には敵わない。
バンドへの加入を誘われた当初は、テストや宿題がない日を探すのが難しいどころかないと言っても良いくらいと聞いていたのもあって、バンドをやってたら
それこそ何を言われるか分からない、と躊躇っていた俺を熱心に説得して俺をバンドに迎えたのは耕次だ。あの時耕次が言った言葉の数々は今でも思い出せる。
此処は進学校だからテストや宿題からは逃げられない。
だけど、出されるものを受けて吐き出す、の毎日で良いのか?
むしろ、そういう条件だからこそ、自分達から何かを生み出してみないか?
お前一人じゃない。俺達皆で勉強しつつ、生み出すんだ。
出されたものを受けて吐き出すだけの生活より、きっと充実する筈。
だから、一緒にやってみないか?俺達と一緒に。
耕次の言うとおり、普段の授業だけでなく、規模こそ違えど毎日のようにあったテストや宿題をこなし、尚且つバンド活動をするのは決して楽じゃなかった。
だけど、平々凡々の日々じゃなくなった。作詞作曲と練習を重ね、視聴覚室で冷やかしも含んでいたであろう30人ほどの少ない観客の前で始めたライブを皮切りに、
バンドの名前は一気に全校的なものになった。
1年から文化祭のステージで−事前に実行委員会から候補が告示されて順番などは投票で決まるようになっていた−メインの座を掴み、大成功を収めた。
その後、「風紀を乱す」とか難癖をつけてバンド活動を止めさせようとしてきた生活指導の教師達と観客と共に対峙しつつ、成績の維持向上とバンド活動充実の
両立を続けた。
あの時耕次の誘いを受けなかったら、この時間もなかった。宮城との関係もなかった。宮城との関係は破局に終わったけど、それに続いて晶子と出逢い、今に至る。
流れに任せて無難に生きるのは容易いだろう。自分で流れを作って生きるのは決して楽じゃない。だけど、そこから得られる無形の財産、友情や充実感といったものは
格別だ。それがあったからバンド活動を続けられたんだと思うし、今も大学とバイトを続けていられるんだと思う。
食堂は混んでいるが、どうにか6人揃って座れる席があった。これまでと同じ並びで座って食事が来るのを待つ。
作り置きかどうかまでは分からないが、少なくとも宿泊している人数分の食材は用意してある筈だから、品切れを心配する必要はない。
「今回の旅行は良かったよなぁー。」
隣の宏一が切り出す。
「早くも回想か。まだ早いんじゃないか?」
「そうは言うけどさ、勝平。3年間同じ学校だったのに一度も全員同じクラスになれずじまいで、修学旅行もクラス単位の班別行動だったし。
大学卒業したら何時こうやって全員揃えるか分からねぇぜ?」
「それは言えるな。大学3年になっても、俺のクラスは一度もクラス会してないし、誰が何処に居るのかもろくに把握してない。むしろ、今回の旅行の方が同窓会らしい。」
俺の3年の時のクラスでも、クラス会の案内は一度もない。受験一色の3年にしてはそれなりに纏まりとかがあった方だとは思うんだが、一言で言ってしまえば
「消息不明」の人の方が多い。勝平の言うとおり、今回の旅行の方が同窓会らしいと言える。
「ま、別にクラス会なんてあってもなくても良いような気がするけどな。上っ面だけの付き合いが大半だったし。」
「そうだな。宿題見せてとかノート写させてとか、そういうのならいっぱいあったが、そんなの付き合いとは言えないな。」
宏一の見解に渉が同調する。
確かにそういう形での会話は多かった。会話といえるかどうかは別として、宿題も過去の大学入試での出題を集めた問題集が授業と並行して使われていて、
難易度の高い問題−理数系だと特に理工学のみの大学でそういう傾向が高い−だと解答にこぎつけられる可能性が当然低くなる。
回答は問題集の末尾にあるにはあったが、文字どおり回答のみ。そこに至るまでの計算式や説明とか、そういったものは殆どなかった。
その回答だけ書いても無意味だし、そういうのも平気な顔で中間テストや期末テストで出題された。当然というべきか、回答に至るまでの計算式とかを省くと
減点どころか×になることも珍しくなかった。
だから特にテスト前になると、「この問題どう解くのか」「この授業休んじゃったからノート写させて」とかいう会話が彼方此方で飛び交うのがお決まりの光景だった。
問題集にはなくてもノートの内容が出題されることもざらにあったからだ。ノートを取っていれば問題ないといってしまえばそれまでだが、何処かで躓いたり
宿題で夜遅くなって居眠りしてたりでノートを取り損ねるというのが結構あったようだ。
俺達は学年でも成績優秀者の一団として有名だった。勉強だけならまだしも、全校的にメジャーなバンド活動を並行しているにもかかわらず、常に成績上位を
維持していたことが大きい。だから勉強のみの人より有名で、宿題の解答やノートを求める目星をつけやすかったんだろう。
別段渋る理由も断る理由もなかったから貸したが、それだけで友人とか言える関係になる筈がない。
俺達は泊り込み合宿やバンド練習の合間とかに教えあったり、それぞれの得意教科で講師役をしたりして相互補完した。その過程では「どうして此処がこういう
流れになるのか」とか「これに至るまでの背景の遷移は」とかいう突っ込んだやり取りが交わされて、より理解が深まった。
全員自分が納得出来ないのに安易に妥協はしない、というこだわりがあったし、この年代にこれがあった、とかの表面をなぞるだけの暗記に終わることなく、
系統的な理解が出来た。それが全員揃って成績上位を維持出来た理由の1つだろう。
「それに加えて、今回は祐司の嫁さんが見られたのが大きいよなぁ。」
「な・・・。」
宏一の唐突な話題の拡張に、俺は思わず絶句する。
「耕次の命令で全員に送られた写真で見た時も凄い美人だと思ったけどさぁ、写真と実際に見るのとではやっぱり違う。美人だし気立ても良いし祐司を立てるし、
それで居て筋を通すところは通すし、完璧だよな。」
「まったくだ。」
「料理の腕も抜群だって言うし、条件さえ整えば新婚生活は直ぐスタート出来るな。」
「・・・ああ。」
宏一に続く渉の同意と勝平の勧めに、俺はそう応えるしか思いつかない。
条件はもう既に揃っているといって良い。晶子は必要最小限の荷物だけ持って俺の家で暮らす心構えは出来てるし、晶子は狭い俺の家で十分だと言っている。
寝る場所はあるし、服も大してないから、一緒に暮らすには何も支障はない、とも。
食事も朝だけでなく、弁当も用意してくれる心積もりで居る。俺が晶子に「俺の家で一緒に暮らさないか」と切り出せば、晶子は即OKしてその日のうちに
荷物を持って俺の家に来るだろう。
同居は一昔前は疚しいイメージがあったが、今は結婚前のシミュレーションとして一定の地位を確立している。
家を別にした付き合いと、毎日の暮らしを共にした付き合いとでは、見えるものも違ってくるだろうし、新たな課題も生じるだろう。
それを自分の価値観の押し付け合いだけにしていたら一発で終焉だ。歩み寄りと良い意味での妥協もして、自分達のスタイルを確立する。
その前準備として結婚前の同居はむしろ好ましいと思う。
だけど、晶子だって今年は4年で卒論がある。それがどんなものかは知らないが、これまでどおりの生活が送れるという保障はない。それは俺も同じだが、
何にせよ生活時間のずれが今より拡大する可能性が高いと思っておいた方が良い。
となると、仮に俺の家で仮同居を始めたとしても、俺はとりあえずバイトと卒研を両立させられることが分かっているから良いが、晶子がバイトの時間に遅れるとか
来られないという事態や、土日でもどちらか一方若しくは誰も家に居なくて、顔を合わせるのは寝る時と朝飯の時だけ、という事態になる可能性もある。
それにどう対応するか・・・。
晶子と相談して調整していくなら、やっぱり少しでも多く一緒の時間を持てた方が良いよな。それに今は携帯を持ってるから、何処に居るのか分からないし、
電話をしようと公衆電話を探し回る必要もない。その点では有効なコミュニケーションの道具が加わったと言えるな。
「去年成人式会場で集合した時と違って、祐司も携帯持つようになったんだ。しかも、晶子さんとお揃いなんだから、有効利用すると良い。待ち合わせの場所や
時間もやり取り出来るし、それ以外にも利用方法は色々あるだろう。」
「それは今考えてたところだ。今まで持ってるだけだったってことはないけど、使う機会が今より増えるのは事情があれば当然だし、今は無料利用分も
使い切れてないようだし。」
耕次が俺の思っていたことと重複することを言う。
去年は携帯を持ってなくても別に不自由はしなかったし、必要とも思わなかった。今も晶子とやり取りはしているが、それほど頻繁に使ってるわけじゃない。
単純に兎に角使えば良いというものじゃないが、使う時には使ってこそ道具だろう。そうじゃなかったら意味がない。
「晶子さんとしては、祐司から電話やメールが来ても困りはしないでしょう?」
「はい、勿論です。周りに同じゼミの娘(こ)や事情を知っている人が居ると、注目されたり騒がれたりしますけど、通話やメールの邪魔にならなければ問題ありません。」
「細かいことを聞きますけど、事情を知ってるっていうのは、どういうことですか?」
「私が左手薬指に指輪を填めていることです。少なくとも私が居る文学部では知らない人は先生学生問わず居ないと思います。」
耕次との問答には、一昨年のトラブルの結果が含まれている。
あの件は結局、晶子を引っ掛けようとした田畑助教授が、ICレコーダーに録音された会話の一部始終が決定的証拠となって停職半年・減給1年の処分を食らい、
以来すっかりおとなしくなったそうだが、それを契機に文学部では男性が晶子に声をかけるにはかなり神経を使っている様子だという。恐怖の前例が出来たから、
そうなっても仕方ない。
晶子は元々指輪を填めて以降、照れで隠す俺とは逆にさりげない様子で見せびらかしていた。あの一件で指輪が単なるアクセサリーじゃないという認識が
広く深く定着したから、晶子にとってはこれ以上ない虫除けになっている。それに、晶子が携帯電話で俺を講義室に誘導して同じゼミの人に紹介したから、
疑いの余地などありはしない。
「そうなるともう、卒論の段階で苗字を井上から安藤にしても良いかもしれませんね。論文で戸籍上の姓と通称の姓を併用しているものも見受けられますし。」
「でも、そのためには役所に婚姻届を出さないといけないんじゃないか?」
「事実婚の段階だから微妙なところだが、安藤姓でもいけるんじゃないかと思う。今の井上姓と併用する形でなら。」
耕次と渉の間でかなり突っ込んだ議論がなされる。当の晶子はどうなんだろう?今まで約20年井上姓を名乗ってきて、卒論に取り掛かるとほぼ同時に安藤姓に
変わるとなると、色々と違和感が生じるんじゃないかと思うが・・・。
確か1年の後期だったと思う。その辺はちょっとうろ覚えだが、法律関係の一般教養の講義で夫婦別姓制度に関するものがあった。
その時に事前に賛成反対の両方の立場からの意見や見解を紹介した上で、賛成反対を投票した。結果は賛成と反対が拮抗。といえば聞こえは良いが、
白票が2/3以上を占めて投票が成立したとは言えないものだった。
自分でまとまらない場合は白票でも良いが一言理由を添えて、とあったからその一部が読み上げられた。中でも多かったのは「賛成も反対もそうだが
そんなに躍起になるほどのものか」というものだった。受講者の男女比とかは覚えてないし、その当時はまだ宮城と別れる前だったから、俺も同様の意見を沿えて
白票を投じた記憶がある。
その講義の担当は法学部の女性助教授だったが、「この問題は戸籍制度や、婚姻関係の成立が役所に届け出て成立する法律婚か両性の同意で成立する
事実婚かの問題、そして今尚日本に根付く家意識の問題にも関わる重要なテーマ」と力説していたのを憶えている。重要なのはその時にもそれなりに分かったが、
力説までする意味までは分からなかった。
だが、晶子と夫婦関係だということが事実上周囲に認定され、晶子は勿論のこと俺も腹を括っているつもりの今は違う。結婚が成立するには、現在の段階では
役所に婚姻届を提出しないといけないことくらいは知ってる。その時どちらかの姓を選択することになるんだが、仮に晶子が姓を変える場合、曲がりなりにも約20年
慣れ親しんできた井上の姓が変わることに抵抗はないんだろうか?
「その立場になってみれば分かる」というが、今回の場合はまさにそれだ。だから耕次が高校時代から法律分野での職業を目指していたんだろう。
法律と乖離している現状をどうにかする資格を得るために。
「私は、今この場で姓が井上から安藤に変えられるなら変えたいです。」
当事者の晶子が方向を決定付ける発言をする。俺は勿論、面子も一斉に晶子に注目する。
「私に限ってですが、自分の今の姓に何ら執着はありません。ですから私は祐司さんの姓、すなわち安藤に変えたいと思っています。」
「・・・抵抗とはそういうのはないんですか?」
「ありません。」
慎重に確認する耕次に、晶子は即答する。口調は普段どおり穏やかだが、迷いやそういったものは一切ない。
本当にそれこそ、今この場に婚姻届があって俺と晶子の分の印鑑もあれば、証人−聞いた話では2人必要らしい−を面子の誰かにして署名してもらえば
即完成することになる。
「そうですか・・・。じゃあ後は、祐司からのプロポーズと新婚生活の条件が揃えば良いってことになりますね。仮定の話ですけど、晶子さんの実家がその地方の名家で、
晶子さんが一人娘か跡継ぎ候補だと、井上姓は変更出来ないという意識があるんじゃないかと思ってましてね。」
「それはありません。私には兄が居ますし、跡継ぎとかそういうのとは無縁ですから。」
耕次の推論に、晶子が補足する形で家庭の事情に触れる。
晶子に兄さんが居るのは前に聞いてる。それから考えると井上の姓は兄さんの方で残るだろう。
それに晶子は実家と半ば絶縁状態にあって、結婚を決めるまで帰らないとまで言っている。仮に跡継ぎがどうとかあっても一切聞く耳を持たずに、
俺との結婚を報告してはいおしまい、という決意が既に完成しているんだろう。
「俺達は晶子さんの彼氏じゃないし、弁護士とかでもありませんから、晶子さんの家庭の事情に深く突っ込んで対策を練る、というわけにはいきませんけど、
晶子さんがそこまで決心出来ているなら後は祐司からのプロポーズ待ちと新婚生活の準備ですね。」
「そうですね。」
「後者は住む場所を何処にするかとか今それぞれの家にある家具をどうするかとか、これも突っ込んでいくと結構細かいことがありますけど、少しずつでも話し合って
良い方向に向かえば良いでしょう。前者に関しては、祐司の方で条件が整うのを待っていれば何時になるかは凡そ予想出来るますよ。返事をはぐらかして逃げ出す、
なんてことはしない筈です。やきもち妬きの祐司が自分から晶子さんを手放すようなことはしませんから。」
「分かっています。機が熟するまで祐司さんと少しずつでも話をして待ちます。」
渉との問答でも、やはり晶子は少しも躊躇したり答えを選んだりすることなく明快に答える。裏返せばそれだけ気持ちの整理が出来ているという証拠。
ならば少なくとも渉が提示した前者の条件、すなわち俺がプロポーズ出来る状況を整えるのは俺の責任だ。
晶子が唯一こだわる俺との結婚という夢を叶えることは、俺の夢でもある。夢を描くのは勿論大切だが、夢を描いているだけでは実現しない。
実現させる方向に自分から動くことが不可欠だ。夢に向かって歩いていこう。晶子と一緒に・・・。
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