雨上がりの午後

Chapter 185 最後の雪里の散策

written by Moonstone


「じゃ、これまでどおりの時間と場所で待ち合わせ、ってことで。」
「ああ。気をつけてな。」

 俺と晶子は、スキーをしに行く面子4人と手を振って別れる。
面子にとっても丸々1日スキーに費やせるのは今日が最後だから、それこそ心行くまで滑るつもりだろう。宏一は幾分、否、かなり怪しいが今回は目を瞑っておくことにする。
 今日の雪はちらつく程度。傘を差している人といない人が居る。恐らく前者は観光客、後者は地元の人だろう。雪国では多少の雪で傘を差さないと聞いたことがある。
雪を見慣れていない俺でもあまり降ってない、と思える程度のこの降りなら尚更、地元の人は傘を差すどころか傘を持つことも思いつかないだろう。

「朝ご飯の時・・・、凄く嬉しかったです。」

 人の賑わいが増してきたところで、俺の左腕に腕を回している晶子が言う。

「私が祐司さんより歳は1つ上なのに同じ学年ということに触れないようにしてくれて・・・。あのままの展開だと、どうして1年遅いのかっていう流れに
なっていても不思議じゃなかったですから・・・。」
「晶子にとって、今の大学に居ることは順風満帆の結果じゃない。他人には言いたくないことだってあるし、俺はそのことを知ってる。だからせめて、
古傷に触れられないように先手を執ることくらいはする。・・・その程度しか出来ないけど。」
「それが・・・凄く嬉しかったんです。私は祐司さんに大切にしてもらってるんだ、ってことが改めて分かって・・・。」

 コートとセーター越しにでも、晶子が俺の腕に回す腕に力を込めるのが分かる。表情も感激したとそのまま率直に表現している。
晶子とは逆に何かと気の利かない不器用な俺だが、晶子が喜んでくれて何よりだ。
 やっぱり晶子は過去の古傷に触れられることを恐れてる。
俺だって宮城と別れたことを自分から積極的に話す気にはなれない。出来ることならそのことは言いたくないしそのことには触れないでくれ、と思う方だ。
 晶子が今の大学に入り直して今住んでいるマンションに移り住むまでにも色々あっただろう。俺よりもっと悲しい思いをしていると思う。
母親からの電話に仰天するほどの怒声をぶつけて、最後は電話を叩ききったくらいだ。今でも思い出したくないものだとしても何ら不思議じゃない。

「今日は南の方へ行ってみるか。朝はゆっくり見て回ってなかったし。」
「はい。私も見てみたいです。」

 俺の腕に込めた力はそのままに、晶子は今までの少ししんみりした口調から一転して明るい口調で答える。
29日にこの町に入って昼間ずっとこの町を歩き回ったつもりでいたが、今朝の時点でまだ南の方を歩いていないことが分かった。
考えてみれば、この町に入った時に宿に着くまでの道のりを歩いた時くらいだから当然か。
今日になって気づいたのが惜しいといえば惜しいが、今更悔やんでも仕方ない。今日1日で出来る限り見て回ろう。
 通りを行き交う人の数はそれなりに多いが、多過ぎて鬱陶しいほどじゃない。賑やかだが喧しいほどじゃない。
静かに降り続ける雪と昔ながらの街並みと調和する人と音・・・。これらが、昼間ずっと歩いて回るだけでも退屈しないで居られる要因だ。
 大通りをひたすら南に歩いていくが、この町の雰囲気は変わらない。ただ、通りに面している建物の種類が、土産物屋が少なくなって民家が多くなってくる。
宿は温泉が湧き出る地域、すなわち俺達が宿泊している宿もある地域に集中していて、その客を対象に土産物屋が立地しているんだろう。
温泉が出るからといって彼方此方掘るのは今のリゾートだが、この町は開発があったとは言えそういうところは今までの暗黙の了解を踏襲しているようだ。
 民家が多い分、人が固まることが少ない。土産物屋があれば買う買わないは別として中を覗くからそこに人の固まりが出来るが、民家では普通そういうことはない。
降り続ける雪の中、景色を眺めながら大通りを歩いていく。

「祐司さん。あれ、今朝見た標識ですね。」

 晶子が指差した方向を見ると、確かに今朝見た「黄金の丘」への方向を示す標識がある。
向かう時は懐中電灯の明かりで、しかも晶子が見つけてようやく分かったくらいだったが、今ははっきり見える。
今まで歩いてきた道はまさしく「黄金の丘」へ向かった時に歩いたものだが、全く違う場所を歩いていたようにしか思えない。

「此処までずっと歩いてきたわけか・・・。そうは思えないな。」
「私もです。真っ暗でしたものね。帰りは明るくなってましたけど、今は初めて見るように感じます。」
「見る方向が違うからだろうな。」
「そうですね。」

 「黄金の丘」へ行く時は懐中電灯の灯りを頼りに雪を踏みしめて出口を探すようなものだったが、今は町並みを眺めながら歩いていられる。
半日も過ぎてないのにこうも違うもんなんだな。
 時折小さな旗を持った女性を先頭にした団体客やスキー道具を担いだ団体とすれ違う。前者の年齢層は高めで後者は若い。
前者は温泉を中心にした観光、後者は明らかにスキーが目的だと分かる。
その誰もがチラチラと俺と晶子を見る。俺と晶子の組み合わせか、晶子か・・・。何れにせよ注目とまではいかないにしても、視線を向けるに値するようだ。

「・・・見られてますね・・・。」
「・・・分かるか?」
「ええ・・・。」

 晶子は不安そうな、否、怯えるような表情で言い、俺の腕をより強く抱き寄せる。
俺が見ても、特に若い男の目が獲物を狙うようなものになっている。良い女だ。どうしてあんな男に。声かけてみるか。視線にそういった欲情が篭っているのを感じる。
晶子もそれを感じてるんだろう。俺でさえ分かるんだから。

「・・・こっちへ行こう。」

 俺は人通りが多い、今まで歩いてきた大通りを脱出することにする。左に折れるには人の流れを渡る形になるし、それだと余計に晶子を嫌な視線に晒すことになる。
逃げる格好になるのは癪だが、右手に折れることで晶子を視線から遠ざける。
 幸い直ぐ脇道があったから、そこで右手に折れる。
晶子を視線から遠ざけることを優先させるため後先考えてなかったから仕方ないが、家と家との間に出来た隙間を再開発でどうにか広げたような、かなり狭い道だ。
俺と晶子が並んで歩けないことはないが、密着しないと壁にぶつかってしまう。

「晶子。大丈夫か?」
「はい。大丈夫です。」
「とりあえずここを真っ直ぐ進んで出よう。」
「はい。」

 晶子は俺の腕に両腕を絡ませる。俺の腕にしがみついている格好、否、しがみついているから、俺の腕に身体が密着する。
着込んでいるからあの感触は腕に感じない。少し惜しい気もするが、贅沢は言ってられない。早く此処を抜けよう。道の向こうに人が結構行き交う光景が垣間見える。
 両側から圧迫されるような気分からようやく解放される。
出た通りの幅はさっきまでの大通りより少し狭いが、人の数はそれなりにある。
この町は南北方向に幾つか大きめの通りがあって、その間に狭い通りがあるような構造だということは大体分かっていたが、それは随分南に来た
−徒歩で半日も歩いてないから大した距離じゃないだろうが−此処でも通用する概念のようだ。
 どっちに向かおうか少し迷ったが、今日の方針に従って南に歩を進める。
ここは土産物屋は全くと言って良いほどないが、飲食店がぽつぽつ目に付く。蕎麦(そば)とか奥濃戸牛とかいう文字が、それぞれの店の看板に大書されている。
この界隈にはこの地方の特産品を扱う専門の飲食店が点在するようだ。
 懐に手を入れてコートの内ポケットにある携帯を取り出して時間を見る。11時まであと少しといった時間だ。
まだ昼飯には早いから、もう暫く散策を楽しむとするか。あの視線から晶子を遠ざけられたことだし。

「納得行かない格好だけど、これで晶子をあの視線から遠ざけられたな。」
「・・・ええ。」
「どうした?」
「・・・祐司さんと腕を組んで歩いているのに、どうしてああいう目で見るのかと思って・・・。」

 少し沈んだ表情の晶子が呟くように答える。
俺と腕を組んで歩いていたし顔も似てないから、少なくとも仲の良い兄妹とは思えない筈。むしろ高校生か大学生のカップルと思うのが自然だろう。
にもかかわらず晶子にああいうい視線を向けてきたのは、晶子にとって不本意どころか嫌悪感を呼び起こすに余りあるものだったんだろう。
・・・俺も良い気分はしなかったが。

「私と祐司さんはつり合わないとでも思ってるんでしょうか?自分の女にした方が相応しいとでも思ってるんでしょうか?」
「・・・全部が全部じゃないけど、結構そういうところがあるんだよ。男は。あの男にあの女は似合わないって思ったり、たとえ男が居ても俺のものに
したいって思ったりするんだ。」

 男に限ったことじゃないが、どちらか一方が良い意味で際立っているとカップルの評価も下がる。
男が美形だと「あんな良い男にあの女は勿体無い」となるし、女が美人だと「あんな美人にあの男じゃつり合わない」となる。
俺と晶子の場合は後者だ。背も高い方じゃなければ顔も良い方じゃない男と、見るからに美人となれば、あの男の代わりに俺が、と思ってしまうもんだ。
 男が全員そうじゃないことくらいは分かってる。
俺の場合は一度に複数の女に交際を迫られたことがないし、そんな境遇にはなりえないと分かってるから、自分が好きになった相手に絞り込むことが出来たし、
片思いの相手が誰かと付き合っていても自分なら割り込んで俺のものに出来る、とは思わなかった。暫く遠くから未練がましく眺めて身を引く、というパターンだった。
 だが、良い悪いは別にして自分に自信がある奴はそういう見方が出来ないらしい。
此処じゃ雰囲気的に行動には出られないようだが、人気がないところで相手が弱そうに−腕力もそうだが雰囲気でも−見えたら正面から割り込むこともあるらしい。
自分さえ満足出来ればそれで良い。そういう考え方が出来るからこそなせる業だ。

「・・・女性も男性のことをとやかく言えませんけどね。」

 晶子は自嘲気味な笑みを浮かべて小さい溜息を吐く。

「女性の時代とか、女性は、女性が、とか言って女性が前面に出れば万事解決万事安泰って決め付ける一方で、金銭的に裕福な男性に寄生して優雅な生活を
送ろうとする女性を何ら批判しない・・・。自分が一生金銭に不自由しない生活を保障する男性と結婚することを至上命題にすると、それが何時までも出来ないと
なればそれを周囲のせいにするだけですから・・・。」
「そうだな・・・。男性でも女性でも、気持ちより欲が前面に出ると、視線や言動が歪んでしまう・・・。さっき晶子に向けられた視線も、晶子を想う気持ちより
良い女を抱きたいとかいう欲が先行してのことだろうな・・・。心って恐ろしいよな。自分では分かってなくても、言葉や行動で示さなくても分かっちまうんだから。」

 俺は感情がストレートに出やすいタイプだと自分で分かってるし、宮城が別れを仄めかした時も行動や言葉が素っ気無く余所余所しく、冷たくさえ感じた。
それまで宮城の友達曰く「羨ましいほど仲の良い」関係だったのに、だ。
程度の差はあっても心が表情や言動に表れるから、「目は口ほどにものを言う」とかいう格言があるんだろう。
 俺は晶子が彼女になって、そして今では事実上の妻となったが、それを自慢することはしない。
そういうことに不慣れだし、自慢するほど「積極的」でないのもある。疚しい付き合いとは少しも思ってないが、必要以上に自分のことを話す必要はないと思ってる。
 それに他人の惚気話なんて聞きたくないって人も居るだろう。
何処までが日常会話の話題になりうるプライベートの話で、何処からが惚気話の境界線か、なんてのは人それぞれだ。
そういう場合は境界線が近いというのか遠いというのか・・・、どういえば良いか分からないが、容器で言えば量の少ない方に合わせる方が良いと思ってる。
 俺がそう思うなら、その逆の考えの男も居る筈。そういう男の方が多いのか少ないのかは調べてないから分からないし、調べるつもりもない。
さっきのスキー道具を抱えた男達の集団がたまたま俺と逆の考えをする奴らばかりだったのか・・・、そんなことも考えたくない。
これ以上考えてるとこれからの時間が台無しになりそうな気がする。

「行こう、晶子。もっと向こうに行けば今まで見たこともないものがあるかもしれないぞ。」
「・・・はい。」

 柄にもなく明るく言って見せると、晶子は表情を明るくして同意する。
晶子も思うところは色々あっただろう。だけど、あんなことで今こうして2人で居る時間を無駄にしたくない。
 雪の降り具合が少し増してきた通りを、俺は晶子と腕を組んで歩く。まだ足を踏み入れていない向こうに何があるのか、行ってみないと分からない。
何だかこれって人生と似てるな。俺が口に出しても様にならないから、言わないでおこう。言ったら晶子がどんな顔をするか見てみたい、という気もするけど・・・。

 南の方をずっと歩いて回ったが、景色に大きな変動はなかった。
丸1日といっても徒歩だから行動範囲はどうしても限定されるし、町全体が昔の面影を残すようにしているから、変わらない方がむしろ当然と言うべきかも知れない。
 昼飯は蕎麦屋に入って、天ぷら蕎麦を食べた。
確かに野菜は天ぷらだった。問題なのはこの町に流れる川で獲れるイワナという魚の塩焼き。そのイワナの大きさに驚いた。
20cmはあったが店の人曰く「これはまだまだ小さい方で昔はもっと大きいのが獲れた」そうだ。
 野菜とは別の皿に塩焼きにされて鎮座していて、これで天ぷら蕎麦とメニューに書くのはいかがなものかと思って改めてメニューを見たら、
「冬季限定でイワナの塩焼きをお付けします」とあった。驚きはしたが味は文句なし。晶子と一緒に舌鼓を打った。
大学での昼飯は大体ローテーションが把握出来ているメニューの何れかだから、こういう立派な昼飯も時にはあって良い。
 店を出た後、雪の降りが強くなった。風はなかったから吹雪かなかったが、傘を持って来て良かったと思った。
歩いていても踏む雪の量が多くなったと感じるほどだったし、視界が随分悪くなった。白一色と言っても良いくらいのものだった。
俺達は長いと言っても1週間そこそこでこの町を出るから雪景色を見ても「綺麗」で片付けられるが、この町に住んでいる人達にとっては、雪は迷惑でしかないだろう。
 白一色に染められていく、否、塗り潰されていく町を歩き回って、雪道を歩くのに結構体力が要ることが分かった。
通りでも積雪が多いから、歩くには足を普段よりしっかり上げないといけない。脇道に入ったら、雪の中で膝を高く上げる運動を繰り返すのと変わらないような
気分になったほどだ。
 鉛色の空の白さが消え始めた頃に、俺と晶子は帰路に着いた。
徒歩で行動範囲が限定されるとは言えかなり歩いたことには違いないし、深く積もった雪道を歩くことで体力を使うし、地図も持たずに気まぐれに彼方此方
歩き回ったせいで宿へ向かう大通りに辿り着くのに予想以上に時間を要した。
そこから一直線だったとは言っても、雪深い中で運動のように足を毎回高く上げて歩き続けてかなり疲れた。
 宿の軒先で傘を畳んで服に付いた雪を払って、宿の玄関を開ける。頬に馴染んだ冷気が暖房で溶かされるのに少し時間がかかった。

「凄い降りになってきましたね。」
「スキー場の方も降ってるだろうけど、前が見えなくて誰かとぶつかったりしてなきゃ良いけどな・・・。」

 スキーの経験がない俺は「スキーは雪が多ければ良い」という単純な考え方しか出来ないが、歩いている分にも視界が悪いと思えるほどだったから、
単純に考えても坂を滑り落ちることで加速するスキーだと、気が付いた時には誰かとぶつかる直前だった、ってこともありうる。
 その上、夕暮れ時はあっという間に明るさが消え失せる。窓から外を見ると、宿に向かう頃より随分暗くなっている。
照明があるとは聞いているが、何も降ってなくても夜は昼より視界が悪くなる。ましてや雪となれば視界は更に悪くなる。・・・大丈夫かな、あいつら。

「ひとまず俺達は一旦部屋に戻って、コートとかを置いてこよう。」
「はい。」

 部屋に戻ろうとしたところで、玄関のドアが開く。ドアが近いから思わず振り返る。
すると、雪をまだ身体の彼方此方に残している耕次達が入って来る。スキー三昧で満足そうな顔をしているものと思いきや、一様にしてやられた、という顔をしている。

「皆。戻ってきたのか。」
「戻るも何も、あれだけ降られたら敵わん。」

 耕次が不満そうに言う。

「滑ろうにも雪の降りが凄すぎて、前が見えやしない。スキー場もリフトが止まっちまったしな。」
「リフトって止まるのか?」
「前もろくに見えやしないのに滑らせたら、衝突事故続出だ。そうなったらスキー場の責任問題になるから止めるのは当然だ。お前なら少し考えれば分かるだろ?」
「ああ。事故にならなくて良かった。スキーが最後まで出来なくなったのは運が良かったのか悪かったのかは分からないけど。」
「運が良かったに決まってるさ。スキーの衝突は骨折どころか死亡事故にすらなりかねない。正月早々人身事故で病院送りや警察沙汰になりたくないからな。
正月でなくてもそんなのは御免だが。」

 耕次の言ったことと俺の推測は皮肉にも一致する。
スキー場以外のレジャーランドでも何か事故があると報道されるし、「関係者の事情聴取」という文字列が入る。耕次曰く「骨折どころか死亡事故にしかなりかねない」という
スキーなら、そうなる前にスキー場を経営している会社−と言うべきかどうなのかは知らないが、スキーに必要な「上へ登る」ということに必要なリフトを止めるだろう。

「ま、予定より1時間くらい遅くなっちまったからって言って、事故ったりするよりかはマシってもんだぜ。」

 宏一が何時もどおりの口調で言う。

「さっき耕次が言ったとおり、スキーやってて衝突すると骨折も珍しくないし、死亡事故になることだってある。レジャーっていっても冬、その上、
人間が均(なら)したとは言え山の斜面。事故と隣りあわせみたいなもんだ。」
「俺や渉と同じ理系組のお前なら分かるだろ?斜面で、しかも摩擦が少ない状態で物体が持つ高い位置エネルギーを運動エネルギーに変えた時の凄まじさは。」
「ああ。物理の教科書における移動物体の問題には最適だ。ゲレンデの斜面の傾斜角の変化や自分で引き起こす向かい風による影響とかを除いて単純に考えても、
運動エネルギーは速度の2乗に比例する。物体の質量にもよるが、徐行している乗用車・・・は大げさか。原付若しくは自転車くらいなら妥当か?それと同程度以上の
威力のある凶器になりうるな。」

 宏一に続く勝平の言葉は俺にも分かる。
勝平の言うとおり俺も理系組だし、物理の成績は面子の中で渉と常に一ニを争ってたからな。高校時代は数式の組み合わせと計算を繰り返すだけで単調にしか
感じなかった物理の知識は、幸か不幸かこういう時に生かされる。

「途中、店でしこたま買い込んできた。今日が此処での最後の夜だ。飲んだり話したりしようぜ。」

 そう言った耕次、そして他の面子も全員1つずつレジ袋をぶら下げている。
去年の成人式では缶ビール1缶だけ、しかも自分の車で来た勝平はジュースでの乾杯だったから−幾ら俺達でも飲酒運転させるほど馬鹿じゃない−分からなかったが、
面子はそれなりに飲めることが分かっている。次にこうして顔を合わせられる時間が何時取れるか分からないから、飲みつつ話をしたりしておきたい。

「晶子さんは良いですか?祐司との時間を割いてもらうことになりますが。」
「はい。祐司さんとはこれからも一緒に居られますし、祐司さんが高校時代に仲良くしていた皆さんとどんな高校生活を送っていたのか、聞いてみたいですし。」
「耕次の奴が気が回らなくてすみません。」
「今日も今日とて、スキーそっちのけで底引き網漁に励んでたお前には言われたくなかったな。」

 切り替えした耕次が不敵な、逆に切り返された宏一が苦い、それぞれの笑みを浮かべる。こういうやり取りも変わってないな、本当に。

このホームページの著作権一切は作者、若しくは本ページの管理人に帰属します。
Copyright (C) Author,or Administrator of this page,all rights reserved.
ご意見、ご感想はこちらまでお寄せください。
Please mail to msstudio@sun-inet.or.jp.
若しくは感想用掲示板STARDANCEへお願いします。
or write in BBS STARDANCE.
Chapter 184へ戻る
-Back to Chapter 184-
Chapter 186へ進む
-Go to Chapter 186-
第3創作グループへ戻る
-Back to Novels Group 3-
PAC Entrance Hallへ戻る
-Back to PAC Entrance Hall-