written by Moonstone
「よっ。もう風呂入ったのか。」
「ああ。そっちはもう飲み会終わったのか?」
「終わり終わり。せいぜい飲んで食って来た。」
「俺達はこれから風呂に行って来る。その後、差し障りなければ部屋に寄らせてもらう。」
「そうか。俺と晶子はまだ起きてるから、温泉でゆっくりして来いよ。」
「じゃ、また後で。」
「皆さん、これからお風呂ですか。」
「そうらしい。それから此処に来るつもりらしいけど、良いか?」
「ええ。」
「・・・祐司さん。」
「何?」
「隣・・・良いですか?」
「良いよ。」
コンコン
ドアがノックされる音で目を開ける、否、覚ます。心地良さに浸るあまり殆ど寝ていたように思う。「あ、祐司だ。」
耕次の声が聞こえる。俺がドアから顔を出して左右を見ると、浴衣姿の面子が二手に分かれて部屋に入ろうとしているところだった。「起きてたのか。」
「ああ。どうしてだ?」
「何回ノックしても出て来ないから、寝てるかと思った。」
「何回も?さっきのノックが初めてかと。」
「どうしたんだ?入れよ。」
「いや・・・、嫁さん、良いのか?」
「晶子?起きてるぞ。」
「起きてるのはまだしも、服は着てるのか?」
「ちゃんと着てる。良いから入れ。」
照れ隠しにちょっとぶっきらぼうに言うと、耕次が中を窺ってから−信用出来ないのか−中に入る。それに渉、勝平、宏一が続く。「横に広がれば良いのに。」
「晶子さんを正面から見たくてな。」
「それに晶子さんに近づくと、祐司が怖いし。」
「それは兎も角、どうして早く帰って来たんだ?てっきり施錠時間ギリギリまで飲んでるかと。」
「向こうが先に引き上げたんだ。宿の門限に遅れるから、ってな。」
「『これ食べると太るよね』とか言いつつ、出て来たものを手当たり次第にバクバク食って飲んで、『ご馳走様』でおしまいだ。落とす落とせない以前の問題だった。」
「そ、そんな目で見るなよな。ベイビィ。」
「腕が落ちたな、宏一。」
「否、宏一の腕が落ちたというより、底引き網漁の後の選び方が拙かったと言うべきだろう。取れた魚が何でも食べられるわけじゃない。」
「俺が思うに、あの場でまともな出会いを期待する方が間違いだったんだ。人の結婚指輪に宝石がないことや、人の将来設計を批判するどころか別れろとまで
仄めかすような常識知らずの連中に期待するだけ無駄ってもんだ。」
「渉が宏一を援護するなんて珍しいな。」
「遅刻するくらいなら、底引き網漁で得た魚を選ぶ目を持て、ってことだ。」
「まあ、そのくらいにしておけよ。妙な魚の毒にやられるより、あの場限りで済んだんだからさ。」
「オー!マイブラザー!心温まること言ってくれるじゃないか!」
「おーおー、随分余裕の発言だな、祐司。流石に早々と結婚指輪填めさせただけのことはある。」
「俺に話を振るなよ。」
「生憎そういうわけにはいかない。さあ、出演者が揃ったことだし、じっくり事情聴取と参りましょうか。」
「勝平のMCもあったことだし、早速リーダーの俺が事情聴取を始めるとするか。」
「始めなくて良い。」
「これも法律家が備えるべき、コミュニケーション能力と相手の心理探究の実践の場だ。しかも、こういうケースはなかなかお目にかかれない。」
「耕次、お前なぁ・・・。」
「さあ、祐司。此処まで来た以上逃げられると思うなよ?さて・・・、まずは出逢った状況から詳細に説明してもらおうとするか。晶子さんは憶えてるでしょう?」
「はい。」
「当事者且つ証人も居る。妙な弁解や言い逃れは、後々お前の損になるだけだぞ?」
「耕次・・・。」
「祐司にとっちゃ、聴取の内容はちょっと古傷を抉られることになるだろうが、それがあったからこそ今の関係があるんだからな。」
耕次の言葉が俺の心に大きな残響を生む。「んじゃまず、晶子さんと出逢った時の状況から詳述してもらうか。」
「そりゃあ良い。出逢いの瞬間は忘れられないものだからな。」
「オー!祐司が晶子さんを引っ掛けた場面がいよいよ明らかになるのか!」
「お前に引っ掛けた、って言われたくない。」
「まだ余裕はあるようだな。時々晶子さんの証言と照合するから、覚悟は良いな?」
「一応。」
「じゃ、語ってもらおうか。」
「−出逢った日はこんなところ。」
「・・・それが晶子さんとの出逢いなのか?」
「嘘は言ってないぞ。」
「念のため聞きますけど、晶子さん、本当ですか?」
「はい。祐司さんが言ったとおりです。」
「普通なら、それっきりで終わっても不思議じゃないな。」
「まったくだ。」
「同感。」
「レディに対する接し方がなってないぞ?祐司。」
「あの頃祐司さんは、優子さんにいきなり一方的に最後通牒を突きつけられた直後だったんですから、仕方ないですよ。」
「運が良かったな、祐司。」
「俺もそう思う。」
「そんな味も素っ気もない出逢いが、結婚指輪を填めさせるまでに至ったのが不思議でならない。ちなみにその指輪、何か特徴はあるのか?」
「裏側に刻印がある。俺のは『from Masako to Yuhji』で、晶子のは『from Yuhji to Masako』ってな。」
「論より証拠。見せてもらおうか。」
「ふむふむ。確かに刻印があるな。記念の品にはピッタリだ。」
「綺麗なイタリック体だな。味わい深くて良い。」
「光り方が随分柔らかいな。貴金属って感じがしない。」
「オウ。ファッションセンス皆無で有名だった祐司が贈ったとは思えないナイスな代物じゃねえか。」
「その指輪は晶子さんの誕生日に贈った、って聞いてるが、どうしてまた指輪にしたんだ?」
「付き合い始めて初めて迎える晶子の誕生日、ってことで何を贈ろうか、って色々考えた。服とかだとサイズ知らないし、俺のファッションセンスじゃ
ろくなものにならないだろう、ってことでパス。バッグとかそういうものもよく知らないしな。それに、甲斐性のないこと言うけど、俺の経済状況じゃ
何万もするプレゼントは贈れないし、無理に買って贈ったとしても晶子は喜ばないと思ったんだ。」
「「「「「・・・。」」」」」
「残る選択肢は指輪とかのアクセサリーになったんだけど、何か心に残るものを、って思ってペアリングにしたんだ。俺が填めるやつには『晶子から祐司へ』ってことで
『from Masako to Yuhji』、晶子に填めてもらうやつには俺から晶子へってことで『from Yuhji to Masako』って刻印してもらった。俺もだけど晶子は利き手が右だから、
包丁使ったりするのに邪魔になると思って左手中指を想定して買った。・・・こんなところ。」
「ほう。でも、結局は結婚指輪として晶子さんの左手薬指に填めて、自分も填めた、というわけか。」
「ああ。」
「じゃあ指輪を贈られた晶子さんに伺います。指輪をプレゼントされるってことは知ってましたか?そういう予兆とかも含めて。」
「いえ、全然知りませんでした。私の誕生日の前に、祐司さんが連日何か真剣に考え事をしてるな、とは思ってましたけど。」
「指輪だと分かってから、左手薬指に填めてもらおう、って思ったわけですか。」
「はい。」
「指輪の値段とかは知ってますか?」
「いえ、全然。聞くつもりもありませんし、聞くべき性質のものでもないとも思いますから。手入れの方法だけは指輪と併せて教えてもらいました。」
「良いこと言いますねー。」
「じゃあ祐司に戻すか。期間限定で晶子さんと同居してるって言ってたが、入籍に向けた下準備か?」
「そんなところだ。」
「食事とか洗濯とかは普段どうしてるんだ?」
「普段は俺が自分で土日にやってる。実験の都合で夜遅い月曜は最近、夕飯作って待っててくれてる。」
「昼飯は作ってもらってないのか?」
「晶子だって講義とかレポートとかがあるんだ。余計な負担かけさせられない。」
「と祐司は言ってますが、晶子さんとしてはどうですか?」
「私も講義やレポートがありますけど、祐司さんと比べれば圧倒的に楽ですし、言ってくれれば即実行するつもりです。」
「俺からも質問。居酒屋で宏一が引っ掛けた女性4人組が晶子さんの将来設計を聞いて、主体性がないとかジェンダー思想そのものの発想とか色々言ってましたが、
祐司の食事を作ったりすることに抵抗感はないんですか?」
「全然ありません。それより、難しいレポートに毎日取り組んで、バイトで使う曲のデータを私の分まで作ってくれているんですから、祐司さんが苦手な
食事の用意とかそういうのを私がしたいです。」
「世間一般では夫婦の家事分担がある意味強制されつつありますが、それも踏まえて祐司との生活に臨む見解をどうぞ。」
「共働きでも色々な生活パターンがありますし、夫婦だからといって必ずしも家事を分担する必要はないと思います。一見共働きのように見えて実は夫の収入で
豪遊する女性だって居ますし、妻も一般の男性のように働いていて、子どもは実家の両親に預けているという夫婦もあります。こういう例は挙げれば切りがありませんが、
何れにせよ、私と祐司さんとの生活においては私が得意な家事に比重を高めて、祐司さんが安心して働けるようにしたいと思っています。その過程なりで
祐司さんが料理を覚えたりするのであれば、勿論私は教えます。相互補完して共同生活をするのが夫婦だと私は思います。」
「非常に明快な回答、ありがとうございます。」
「話は変わりますが、バイトではどういう仕事をしてるんですか?」
「最初は料理を担当しているマスターの奥さんのお手伝いをしつつ接客、という状態でしたが、最近は料理を任される割合が多くなっていますね。」
「男性客から言い寄られた経験はありますか?」
「表立っては殆どありませんけど、祐司さんと私とで態度が違うお客さんは少し居ます。」
「祐司にその結婚指輪を填めてもらって以来、どうですか?」
「私と同じ指輪を填めているっていうことで、祐司さんに対する視線が鋭いものに変わったお客さんは居ます。」
「あ、やっぱり。」
「じゃあ、祐司に戻るか。祐司は晶子さんに結婚指輪を填めさせたってことを、大学で言ってるのか?」
「つい最近までは表立って言ってなかった。」
「その理由は?」
「他人の恋愛話を聞かされることが嫌な人も居るだろうし、そうでなくてもその手の話はプライベートに属することだから、尋ねられない限り話すつもりはない。
念のため言っておくけど、晶子と付き合ってるのが恥ずかしいとか後ろめたいとか、そういう気持ちは一切ない。」
「なるほど。さっき『つい最近までは』って言ったが、どうして公言したんだ?」
「月曜は実験なんだけど、その日晶子に、俺が生協で購読してる雑誌が発売日だから代わりに引き取ってくれ、って頼んだんだ。俺と晶子が通う新京大学は
文系学部と理系学部の各エリアに生協の建物があって、誰かの代わりに品物を受け取る時は、依頼をした人が居る学部学科のエリアの生協の店舗で組合員証を
提示する、っていう決まりがあるんだ。晶子は文学部で俺は工学部だから、晶子には理系学部エリアの生協に来てもらうことになるんだが、その日の朝、
組合員証を貸した。」
「「「「「・・・。」」」」」
「その時俺は実験の真っ最中だったから居合わせなかったんだけど、晶子が生協の店舗に来たのは丁度昼休みで、生協の店舗はひと騒動になったらしいんだ。
化学とか情報とかは割と女の比率が高いけど、全体から見れば少数派には違いないし、見てのとおり人目を惹くには十分だからそうなったんだろうけど。」
「「「「「・・・。」」」」」
「その場に俺と同じ実験グループの友人が居たからやり取りが始まって、別の奴が俺の彼女かって尋ねて、晶子が『彼女でもありますけど妻でもあります』って
答えてから証拠として指輪を見せたんだ。その直後実験室に居た俺のところに確認しに殺到したから、指輪と皆に送った俺と晶子の写真を見せて−定期入れに
入れてるんだけど、晶子の答えを裏付けた。こんな流れだ。」
「自分から積極的に話すつもりはないが、言う時は言う、ってわけか。良い心構えだ。」
「芸能記者−記者と表現すべきかどうかは兎も角、そういう連中のように他人の色恋話を聞きたがる奴も居れば、毛嫌いする奴も居るから、普段自分から
積極的に話さないのは賢明だ。後者は言うまでもないが、前者は敏感な好奇心を煽り立ててしまうだけだ。一方で必要に迫られたら言うってのは、自分の気持ちを
明確に表現することでもあるし、自分の気持ちを確認することでもある。その姿勢を堅持することだな。」
「話はころっと変わるが、携帯を見せてもらおうか。同じ会社のやつだろ?」
「ああ。ちょっと待ってくれ。」
「PAC910ASか。かなり最近なんだな、買ったのは。」
「実験が無闇に遅くなって来たし、公衆電話は大学の中でも限られたところにしかないのもある。」
「これを売ってるところって、ファミリープランで有名だよな。」
「知ってるのか?勝平。」
「俺の携帯もここのやつでな。買った時に隣で、婚約したっていうカップルがサービスの紹介受けてたんだ。何でも契約するには、入籍してなくても後で
戸籍謄本の写しとかを提出すれば良いし、金融機関が夫婦別でも一向に構わないとか、聞いててかなり柔軟なサービスだと思った記憶がある。」
「そのとおり。おかげで携帯の料金は随分安く上がってる。まあ、毎日何時間も電話するわけじゃないし、『今から迎えに行く』とか『今から帰る』とかいう
業務連絡みたいなものはメールを使ってるのもあるだろうけど。」
「着メロとかはどうしてる?」
「俺が直接入力して作った。」
「携帯サイトとかでダウンロードしなかったのか?」
「俺と晶子の連絡手段として買ったものだから、ってことで作ったんだ。晶子も欲しがってたし。」
「おうおう、さり気なく惚気てくれるな。」
「さて、祐司自作の着メロを実際聞かせてもらうか。」
耕次が差し出した携帯を受け取り、キーを操作して着信音再生のメニューから、まず電話の着信音を選択して再生する。「ギターソロか。祐司らしいといえばらしいな。」
「曲は・・・何だ?聞いたことないな。」
「『Fly me to the moon』っていう、ジャズのスタンダードナンバーの1つだ。それをギターソロにアレンジして作った。」
「着メロとしては大人しい感じもするが、普通に聞いてても耳障りにならないから、丁度良いかもな。」
「電話のコール音で驚きたくないしな。」
「その点からすると、的確な選択と言えるな。晶子さんはどうです?」
「凄く気に入ってます。この携帯の着信音がきっかけで、原曲のCDを買った娘(こ)も居るんですよ。綺麗でお洒落な着信音だ、って評判なんです。」
「着メロとしては異色だが、十分合格点だな。次はメールの着メロを聞かせてもらおうか。」
「これは・・・『明日に架ける橋』か。これも着メロとしては控えめだが、雰囲気も出来栄えも合格点だな。」
「しかし、さっきの『Fly me to the moon』もそうだし『明日に架ける橋』もそうだが、自作とは思えないほど凝ってるな。その分愛着は沸くだろうが、かなり時間が
かかったんじゃないか?携帯だとキーが圧倒的に少ないし、キーボードをパラパラ弾いて後でシーケンサソフトでエディトするっていう手段が通用しないし。」
「確かに入力は面倒だったけど、完成して晶子に気に入ってもらえたから何よりだ。携帯サイトからダウンロードすれば直ぐだけど、二人共通の連絡手段として、
何か特徴が欲しかったっていうのもある。」
「オリジナリティを追求する姿勢は十分評価に値する。大事にしろよ?」
「ストラップもお揃いか。これだとシャッフルしたらどっちが誰のものか分からなくなるな。」
「そうなっても別に困ることはないと思う。アドレス帳には晶子関係とバイト関係と、念のため実家の番号を登録してあるだけだし。あ、今日のやり取りで
渉の分が増えたけど。」
「晶子さんもですか?」
「はい。私もアドレス帳に登録してあるのは祐司さんの番号とバイト関係だけですし、取り違えても祐司さんの自宅の電話も携帯も番号を憶えてますから、
支障はありません。」
「完全に2人のコミュニケーションツールになってるな。まあ、携帯の使用方式に義務規定なんてないし、迷惑にならない限りどう使おうが自由だから、
それはそれで良いか。」
「購入目的が2人の連絡手段なんだから、利用対象限定なのはむしろ良いことなんじゃないか?」
「それは言えてる。」
「どちらかの実家に相手を連れて行ったことはあるのか?」
耕次はいきなり深く突っ込んだ質問を投げかけて来た。食べ物か飲み物を口にしていたら、間違いなく噴出していたところだ。「いや・・・、まだない。1年の年越しは俺の自宅だったし、去年は俺が帰省したけど、その時晶子は連れて行かなかったからな。で、今年はこうして此処に居る、と。」
「親には言ってあるのか?晶子さんのこと。」
「帰省した時に話した。晶子から毎日決まった時間に電話がかかって来ることになってたから、予め話しておかないと、妙な勧誘電話とか怪しまれたりする可能性が、
あるし後ろめたい付き合いじゃないからな。」
「じゃあ、祐司の親は知ってるわけか。印象とかは?」
「好感度は凄く高い。晶子からの電話は殆ど親が取り次いだんだけど、父さんは今度は連れて来い、って言ってたし、父さんも母さんも連れて来れば
良かったのに、とか言ってた。」
「それの鸚鵡(おうむ)返しになるが、晶子さんを連れて行けば良かったんじゃないか?」
「去年帰省したのは皆との約束を守るためで、実家に帰ったのはそのついでだったからな。」
「晶子さんは一緒に行きたかったんじゃないですか?」
「祐司さんと、お父様とお母様のやり取りは少しですけど聞こえたので、歓迎されると分かっていたら連れて行ってもらえば良かった、とは思います。
でも、先のことなんて分かりませんし、祐司さんのご両親も、帰省した子どもがいきなり見ず知らずの女性を連れて来たら凄くびっくりされたでしょうし、
祐司さんが説明したり、ご両親が話を飲み込まれるのが大変でしたでしょうから。」
「俺達は高校時代にバンド組んでたこともあって相手の家や親の顔は大体知ってるんですけど、祐司の親はかなり厳しいんですよ。祐司が事前に説明してあったとは
言っても電話が初対面で好印象を持たれた、ってのは相当なもんだと思いますね。」
「対する晶子さんは、祐司と付き合ってるってことを親に言ってあるんですか?」
「はい。伝えています。」
「祐司みたいに、連れて来いとか言われたことはありますか?」
「言われてことはあります。今のところ実家に戻るつもりはありませんから、それを理由に断っています。」
「双方やましいと思うこともなく、順調に付き合っているってことか。去年祐司が帰省したのが俺達との約束を守るためで、その間に電話をしたいって理由が
あったとは言え、祐司が親にもきちんと話してあるのは良いことだな。後ろめたいと思ってると相手の前でも態度や言葉の端々に出たりするもんだから。」
「指輪も携帯もこの目で見たことだし、俺達がすることと言えば、2人が入籍して一緒に暮らすのを待つくらいか。」
「そうだな。」
「否!肝心なことを聞いてないぜ。」
「何だ?宏一。肝心なことって。」
「週何回・・・」
「痛いぜ・・・。」
「馬鹿か、お前は。それは今回の尋問の性質にそぐわない。祐司単独ならまだしも、レディが居ることを忘れるな。」
「へーい。了解ー。」
「これにて終了。良い話を聞かせてもらった。」
耕次が終了を宣言して立ち上がると、面子が続いて席を立ってドアへ向かう。俺と晶子も立って面子を見送る。「長居したな。朝飯は7時から9時までだし、俺達とは別行動だから、ゆっくりでも良いぞ。」
「チェックアウトは何時だ?」
「確か10時だ。」
「分かった。」
「じゃあ、また明日。」
「お休み。」
「お休みなさい。」
「寝ようか。」
「はい。」
「明日は、地元の子ども達と雪合戦ですね。」
隣の布団が動いて、晶子が俺の布団に入って来る。俺は身体半分ほど横にずらして受け入れる。「こういう機会ってなかなかないですから、楽しみです。」
「まさか、こんな形で雪合戦が出来ることになるとは思わなかったけど、こういうハプニングは良いよな。」
「厄除けの意味もある、って言ってましたから、この町では子ども達にとって遊びであると同時にお祭りでもあるんですよ。そういう行事に飛び入りで参加させて
もらえるなんて、そうそうないことですよ。」
「今日話した分では気の良い子達だったから、楽しめそうだな。」
「皆さん、壁に耳を当てたりしてるんでしょうか。」
「だろうな。宏一が最後に言いかけたし、誰しも少なからず興味はあると思う。俺と晶子の部屋が真ん中なのも、多分面子の策略だよ。悪戯好きが揃ってるから。」
「そういうのを聞いて、面白いんでしょうか。私はいまいち理解出来ないんですけど。」
「面白いって言うか・・・興味が沸くんだよ。男と女の性欲の方向性の違いかもしれない。」
「祐司さんは、他の女の人の裸やセックスを見たいと思いますか?」
「・・・まったく見たくない、って言えば嘘になる。」
「・・・。」
「だけど、今は晶子で十分過ぎるほど満足してる。だから晶子以外の女を見ようとは思わない。」
「そういう晶子は、俺以外の男を見て・・・俺と比較したりしてるか?」
「・・・自分ではしていないつもりでも、何時の間にかしているかもしれません。この男性(ひと)は祐司さんより背が高いな、とか。」
「・・・。」
「でもそれで、祐司さんへの気持ちが揺らいだとか、そういうことはないです。」
「それは俺も同じだよ。」
Fade out...
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