written by Moonstone
「・・・驚かないんですか?」
「何を?」
「私がストローを使わないで氷と一緒に飲むこと。」
「ああ何だ、そのことか。最初はちょっと驚いたけど、別に気にならないよ。女だからストローを使うべき、なんて言うつもりは毛頭無いし、
それにこういう氷がある飲み物は、氷と一緒に飲んだ方が今日みたいな暑い日は気持ちが良いだろう?まあ、俺の個人的な考えだけど。」
「・・・やっぱり祐司さんは見た目で全てを決めつけない人なんですね。」
「ん?」
「こういう時にこう言うのも何ですけど・・・伊東さんは凄く意外に思ったんです。見た目から想像するにストローを使ってゆっくり飲む、って
思い込んでたみたいで・・・。」
「智一はああ見えて結構ロマンチストだからな。清楚な深窓のお嬢様を晶子にイメージしてたんだろう。ま、それも見た目で決め付けていたことには
変わりはないけどな。」
「やっぱり祐司さんと来れて良かった・・・。」
「祐司さんって、意外に女の人にモテたんじゃないですか?」
「いや、その逆。連戦連敗さ。ようやく手にした初勝利もあえなく幻になっちまったし・・・。」
「祐司さんが目をつけた女の人って、余程人を見る目がなかったんですね。こんなに思いやりがあって真面目で誠実な人なのに・・・。」
「褒め過ぎ褒め過ぎ。褒めたって何も出ないぞ。」
「いいえ。絶対人を見る目がなかったんですよ。接してみれば分かることなのに・・・。その女の人達も見た目で何もかも決めつけるタイプだったんですよ。」
「まあ、見た目はこのとおりショボいからな。仕方ないさ。」
「あ、御免なさい。そういうつもりで言ったんじゃ・・・。」
「いや、分かってるから良いよ。それより今、俺を高く評価してくれる存在が傍に居るから、それで十分。」
「それに変な気を使ったりしなくて良いから、気軽で良いよ。」
「変な気?」
「ほら、食事はこういう場所じゃなきゃ駄目とか、服装はこうしなきゃ駄目だとか、晶子はそういうことをあんまり気にしないタイプだから、
こうして遊園地で遊んだり話をしたりすることに集中出来るだろ?普段着付き合いっていうか・・・自分を取り繕ったり装ったりする必要がない
付き合いが出来るから良いんだ。」
「それは私も同じですよ。服を選んだりアクセサリーに凝ったりしなくて良いから、一緒に居られることそのものを楽しめるんです。
それが本当に気軽で幸せで・・・。祐司さんと私って、似た者同士ですね。」
「まさか、俺に似たタイプの彼女が出来るなんて思わなかったな。」
「聞くべきじゃないと思いますけど・・・宮城さんはそうじゃなかったんですか?」
「割とこだわるタイプだった。デートなんだからもうちょっとお洒落に気を使ってよ、って言われたこともある。まあ、それも最初のうちだけだったけどな。
多分諦めたんだと思う。」
「そうですか・・・。」
「ま、それも所詮思い出。今、こうして晶子と飾り気なしで一緒に居られることが幸せだよ。この幸せを大切にしたい。今思うのはそれだけさ。」
「私も。」
「なあ、晶子。」
「何ですか?」
「こんな事聞くのも変だと思うけど・・・前に智一と此処に来た時、観覧車に乗ったのか?」
「乗りませんでした。そもそも此処に居た時間は午前中の2時間くらいだけで、食事は外の高級レストランへ連れていってもらいましたから。
・・・緊張しっぱなしで全然味は分からなかったですけどね。」
「じゃあ、観覧車は初めてなわけか。」
「ええ。伊東さんには失礼ですけど、あの時観覧車に乗る機会がなくて良かったと思ってます。観覧車には好きな人と一緒に乗りたいですから・・・。
なんて、ちょっと乙女チックですね。」
「カップルと観覧車には密接な関係があるからな。短い時間だけど誰にも見られない小さな空間で一緒に居られるから。」
「そうですよね。誰にも見られませんものね。」
「祐司さん、見て下さい!大学が見えますよ!」
晶子が興奮気味に言って窓の外を指差す。「文学部はあの辺ですね。祐司さんがいる工学部はどの辺りですか?」
「えっと・・・。生協の六角形の建物から右に、団地みたいに並んでる建物があるだろ?あの辺だよ。」
「ああ、ありますね。建物多いですねー。学科っていくつあるんですか?」
「確か・・・俺がいる電子工学科と電気工学科、機械工学科、分子工学科、建築工学科、情報工学科、微小材料工学科だから、7つか。
定員は全部で1000人以上だって聞いたことがある。」
「へえー。多いんですねー。文学部は、私がいる英文学科、東アジア文学科、現代日本文学科、古代日本文学科、フランス文学科、イタリア文学科、
スペイン文学科、ロシア文学科、欧州文学科の9学科あるんですけど、定員は何処も50くらいですから、全部合わせても500人居るか
居ないかってところですね。」
「ふーん・・・。意外と少ないんだな。もっと居るもんだと思ってた。」
「文学部は3年になったら少数のゼミ形式になりますから、それで丁度良いくらいなんですよ。」
「俺達工学部は3年になった10人から20人くらいずつ2年までの成績と希望で各研究室に仮配属になって、4年になったら3年までの成績と希望で
本配属になるんだ。定員オーバーの場合は成績優先。」
「じゃあ、3年まで油断出来ませんね。」
「まあな。俺は学科での付き合いが少ないから、配属されたい研究室は自分で調べないといけないし、兎に角成績だけはしっかり取っとかないといけないな。
親からは4年分の学費と月10万の仕送りしか用意出来ない、って念押しされてるから、留年なんてもっての外だな。まあ、俺だって留年は御免だけど。」
「バイトして生活費稼いで、音楽のアレンジやデータ作りや練習とかして、その上成績優秀でないと大変なことになるなんて・・・祐司さん、大変ですね。」
「ま、一人暮らしをするって言い出したのも、理系は厳しいっていうことを承知で入試を受けたのも俺自身だからな。それくらいは覚悟の上だよ。」
「無理して身体壊さないで下さいね。祐司さんはこの世に一人しか居ないんですから。」
「ああ、分かってる。前みたいに晶子に余計な手間かけさせたくないしな。」
「何だか・・・別の世界に来たみたい・・・。」
「俺もそう思う・・・。」
「・・・祐司さんと一緒に居られることが何時も以上に幸せに思える・・・。これって、観覧車の魔法かもしれませんね。」
「そうだな・・・。」
「・・・私のこと、どう思ってますか?」
「そんなこと・・・今更聞かなくても分かってるだろ?」
「分かってます。でも・・・聞きたいんです。」
「・・・愛してる・・・。」
「私も・・・愛してます・・・。」
「女って・・・言葉を聞かないと不安になるのか?」
「女の人は・・・愛している人から愛されてるっていう気持ちが自分に注がれていることを確認したがるんですよ・・・。」
「男と女の違いだな・・・。まあ、俺も愛されてるかどうか気になることはあるけど、口にすることは少ないな。」
「女の人の心は男の人よりずっと脆いんです。だから・・・愛されているっていう気持ちを注がれることでそれを補強してるんです。
そうしてないと・・・心が崩れてしまいそうで怖いから・・・。」
「言葉じゃなくて・・・行動じゃ駄目か?」
「え?それって・・・。あっ。」
「・・・こういうのじゃ駄目か?愛してるってことを示すには。」
「こういうのも良いです。でも・・・やっぱり言葉が欲しい。」
「・・・。」
「愛してるって言葉の力と重みを祐司さんは良く知ってます。私も分かってるつもりです・・・。だから・・・言葉が欲しい。」
「・・・正直なかなか言い辛いんだ。照れくさいし、言わなくても気持ちが変わってないことは伝わってると思ってるから・・・。
俺はふられた経験は山ほどあるけどふった経験はないから、その時どんな行動に出るかはよく分からないけど、多分最初に晶子に向けていたような
態度で相手を突き放すと思う。率直に、大嫌いだ、とは言えないと思う。」
「・・・。」
「でも・・・想ってる相手から、愛してる、って言われて嬉しくない筈はないよな。挨拶するみたいに気軽にはなかなか言えないと思うけど、
少しずつでも言葉にしていくようにするよ。それで晶子が安心出来るなら・・・。」
「私も出来るだけ言うようにしますね。言われるのを待っているだけじゃずるいですから。」
「言われるのも・・・何だか照れくさいな。何せそういうのに慣れてないからさ。」
「慣れてない方が良いです。気軽に口にされると、それが気持ちをきちんと映しているのか不安になりますから。」
「難しいもんだな。愛してる、って言葉にするのは。」
「それだけその言葉の力と重みを感じてるって証拠ですよ。」
「・・・晶子。・・・愛してる。」
「祐司さん・・・。愛してます・・・。」
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