雨上がりの午後
Chapter 5 腫れた心に想いは痛い
written by Moonstone
客のコップに水を注いで回る。次は何時演奏するのか、とよく尋ねられる。
常連客はまだしも、見慣れない客にも初めての曲を披露してそう尋ねられると自信が湧いて来る。
常連でない方がなまじ社交辞令がないだけに率直な感想が聞けたりする。
・・・あの女もそうだな・・・。
俺はあの女のことが脳裏に浮かんできたのを悟って慌てて押え込む。
考えちゃ駄目だ。甘い顔を見せたら・・・
また騙されるんだから。
一通り客席を回ったところで、一旦カウンターのほうへ引き上げようとした時、ステージ向かってやや右側のかなり近い位置にある2人用のテーブルに、
あの女が、
井上晶子が座っている・・・。
井上は俺と目が合うと、微笑んで手招きをする。
客になったら避けるわけにはいかない。雇われウェイターの悲しいところだ・・・。
他の客が大勢居る手前、間違っても嫌な顔をするわけにはいかない。
何を言い出すか気になって仕方がないが、あくまでも客とウェイターという現状は弁えておかなければならない。
沸き立つ感情が表情に出るのをどうにか抑えて平静を装いつつ、俺はあの女、井上の居るテーブルへ向かう。
距離が近付くにつれて、あの女が間近に迫る。
何か言いたげだが、切なげというものではない。悪戯を考えた子どもの表情、と言えば良いだろうか?
「・・・何か御用でしょうか?」
「へえ。本当に客になるとちゃんと応対してくれるんですね。」
「・・・?」
「マスターが教えてくれたんですよ。客になればちゃんと話をしてくれる筈だって。」
・・・今日ほど俺がマスターを恨んだことはないだろう。
頼むから余計なことを吹き込まないでくれ。俺が一体どういう状況に置かれているか分かってるのか?
・・・って、
この女に付き纏われているってことは言ってなかったか・・・。
結局、俺が悪いのか・・・。
「じゃあ改めて・・・。さっきの演奏は、本当に凄かったですよ。聞き入っちゃいました。途中からだったのが惜しいです。」
「・・・ありがとうございます。」
「他にどんな曲が弾けるんですか?」
「・・・ジャズ系が多いですね。ギターのソロで弾けるようにアレンジはしてますが。」
「一日どのくらい演奏されるんですか?」
「その日の混み具合などにも依りますが・・・、まあ、4、5曲くらいですね。」
井上の質問に答えながらちらっとカウンターの方を見ると、マスターと潤子さんが口を押さえて笑いを堪えているのが見える。
マスターなんか、今にも大笑いしそうだ。
この女が客になる前後で俺の態度があまりにも違うのが余程面白いんだろうか?
・・・くそ、人の気も知らないで。
「客のリクエストには応えてもらえるんですか?」
「・・・時々籤を引いてもらって、当たった人のリクエストに応じます。まあ、あまり場違いなものはお断りしますが。」
偏見かもしれないが、どうせカラオケ向きの曲しか知らないんだろう。
ジャズやクラシックが高尚でポップスが低俗だとは思っちゃいないが、ポップス以外は音楽じゃない、と言わんばかりの扱いをされる風潮は大嫌いだ。
第一、譜面もろくに読めない人間が音楽の善し悪しを論評すること自体が間違ってる。
そんな思いの俺が皮肉を含ませながら答えるが、井上は全く動じた様子を見せない。
どうやらこの女、目標以外は全く眼中に入らないタイプらしい。・・・智一が泣き付いてきた理由がよく分かる。
逆にこういうタイプが思い詰めるとストーカーになり易いって、前にテレビで言ってたと思う。・・・テレビもたまには本当のことを言うのか。
「その籤の時間は、何時頃なんですか?」
「日によりますが・・・、8時から9時頃ですね。」
そう答えた俺の頭に一つの疑問が浮かぶ。
籤の時間を聞くということは・・・まさか、その時間までここに居座るつもりか?
この店でも俺はこの女の視線を浴び続けなきゃならないというわけか?
そう思っていると、井上が俺に呼びかける。
「すみません。えっと・・・ミートスパゲッティにオレンジジュースをお願いします。」
・・・どうやら持久戦を決め込むらしい。今日は智一に付き合うべきだったな・・・。
井上から注文を聞いた俺はカウンターの方へ向かう。潤子さんに伝えて調理してもらう為だ。
ミートソースは潤子さんの手製で、小さいサラダも付く。客の間でも人気の高い一品だ。
俺も食べたことがあるが、それ以来コンビニでミートスパゲッティを買うことはない。
カウンターではまだ笑みが残っている潤子さんが別の注文の下拵えをしていて、マスターはコーヒーを沸かしながら必死に笑いを堪えている。
面白がらないで欲しい。こっちはかなり深刻なんだから。
確かに他人の色恋沙汰は笑い種ともいうが・・・少なくとも俺にとっては違う。
「・・・注文です。ミートスパゲッティとオレンジジュース。7番テーブルです。」
「はい、熱烈な追っかけの彼女からね?」
そう言ってスパゲッティの束を棚から取り出した潤子さんの目は笑っている。そして、そこに駄目押しをするのがこの人だ。
「ウェイターとしての態度はちゃんと出来てたぞ。結構結構。」
「・・・他人事だと思って・・・。」
「俺は今から演奏に回るから、注文が出来たら運んでやるんだぞ。」
こ、この髭親父め。俺をからかってそんなに面白いか?
コーヒーサイフォンのアルコールランプを消してにやけながらカウンターを出て行くマスターを、俺は恨めし気に睨むが、この熊さんは全く気にしちゃいない。
格好の笑い種を提供する羽目になったのだから仕方ないといえばそれまでだが・・・。
俺は溜め息を吐いてカウンターの隅に腰を下ろす。
ずっと関係が続くと思っていた女には呆気なく捨てられ、今度は望みもしないブラコン女に追い回されて・・・本当に俺という男には恋愛運というものがない。
神の前に人は平等であるだなって、やっぱり口からでまかせとしか思えない。
「彼女、随分祐司君に御執心のようね。」
塩を少し入れた湯が沸騰するのを待っている潤子さんが、俺の方を見て言う。
おれはもう一度溜め息を吐く。諦めたというか降参したというか、そんな感じの溜め息だ。
「執心だなんて・・・迷惑ですよ。」
「迷惑って、彼女が?」
「あの女は俺に兄貴の替わりをさせたいだけなんですよ。自分の都合で言い寄ってきて、もっと良いのが見つかればポイ・・・。そんなのはもう沢山です・・・。」
そう、ギターを弾く俺に近付いてきたのは、あの女と同じだ。それが余計に俺の中で疑念を増幅させる。
ギターを弾く姿ってのは楽器の中でも目立つ方だと思う。だが、俺は女を寄せる為にギターを弾くんじゃない。
ギターを弾く姿がカッコ良いからと俺に近付くなら・・・迷惑でしかない。
マスターのサックスが耳に届く。これは・・・「When I think of you」だな。
情感たっぷりで蕩けるような音色。井上に向けたマスターの応援のつもりなんだろうか?それとも枯れた俺の恋する気持ちを蘇生させようというのか?
だったら・・・止めてくれ。
もう、愛や恋で傷付くのは・・・
嫌なんだ・・・。
「恋愛のことは一先ず考えないでみたら?」
「え?」
「彼女と触れ合うことが即恋愛になると考えるから、また傷つけられるって警戒して迷惑に思うんじゃないかな?」
潤子さんの言葉で、俺の心の中で痞えていた何かがすっと消えたような気がする。
俺は無意識に新しい恋を、傷付く心配のない安全な恋を探していたんじゃないだろうか?
・・・俺が恋愛なんてもう嫌だ、と思ったのは、ひとえにその結末がまた悲しいものに終わるという確信めいたものが自分の中に根付いたからなんだと思う。
学習効果と言おうか・・・変な表現だが。
その確信から来る警戒が女との関わり、ひいては女全てにまで広がった・・・。これが俺の中で燃え上がったあの黒い炎の正体だったのかもしれない。
怪しいものは何でも火炙りにしてしまおう、という魔女狩りの決め付けに等しい理由で自ら火種を用意したとでも言おうか。
でも、同時にこうも思う。
「恋愛のない男女の仲って・・・あり得るんですか?」
疑問がまた言葉という形を成す。
俺が回答を求める先の潤子さんは、湯が沸騰した鍋にスパゲッティを解しながら放り込む。
調理で手がいっぱいだから聞いてなかったかな、と思った矢先、返事が返って来る。
「私は・・・あると思うわ。」
潤子さんの答えは俺にとっては意外なものだった。
これまで俺が女と会話する時といえば、クラスや部活動のことといった事務的なことが殆どで、個人的な話をしたのはそれこそ、
俺を捨てたあの女が初めてといって良いくらいだ。
だから学校とかで男女が親しげに話している光景を見ては、その間柄を勘ぐったりしたものだ。
別に今時男女6歳にして、などと前時代的な講釈を信じてはいないが−第一、共学ではその前提条件するない−、
俺は異性と会話するというのはある種の境界を越えた証拠だと思っているし、それが自然だと思う。
・・・付き合い下手を証明している様なものかもしれないが。
「ただ、その境界は凄く曖昧で微妙で、それに付き合いの数だけあると思うけどね。」
「そんな不確実なものなんですか・・・?」
恋愛感情が生じるかそうでないかの境界線は、それこそグラデーションのように明確なものではないということなんだろうか?
正直な話、俺には理解し難い。
潤子さんが沸き立つ湯にカップ1杯の水を差してから俺に向き直る。
「・・・祐司君って、理数系だったっけ?」
「ええ、そうですけど・・・。」
「恋愛とかで定義とか公式とかは有り得ないし、考えない方が良いと思うけどな。」
「・・・。」
「音楽だって同じじゃない?祐司君のさっきの演奏を凄く素敵だと思う人も居れば、つまらないって思う人も居ると思う。
それはこのコード展開が感動を呼び起こすこの定義に当てはまるからとか、逆にこのフレーズが不快感を呼び起こす公式で証明できるとかいうことじゃないでしょ?」
それは確かにそうだ。音楽の善し悪しの判断なんてそれこそ十人十色。流行の曲が全てだと思ってる奴にはさっきの曲は退屈の限りだろうし、
それは「そう感じたから」と言われればそれまでだ。・・・だけど、恋愛感情の生じる境界線は知っておきたい。そうでないと・・・
また、あのひとときの甘美な罠に嵌まってしまうから・・・。
潤子さんは煮立つ鍋を時折かき混ぜながら、付け合わせのサラダの準備を始める。
俺はマスターのサックスを聞きながら、潤子さんの様子をぼんやりと眺めている。
やや俯き加減の潤子さんはやっぱり魅力的だ。こういう女性(ひと)となら、もう一度恋愛に挑戦してみようかな、という気になるかもしれないが・・・。
マスターと俺の違いは何なんだろう?
「取り敢えず、お友達の関係を始めてみたらどうかな?」
不意に潤子さんが顔を上げる。俺は少し驚いたがどうにか平静を装う。
「相手が女の子だからって別に意識することはないわ。昨日あったこととか好きな音楽のこととか・・・恋愛になるかどうかを考えないで、
男の子のお友達と同じ様に接すれば良いのよ。」
「そんなこと・・・出来るかどうか・・・。」
「一度試してみたら?付き合ってみて祐司君がどうしても嫌なら止めれば良いんだから。それは仕方がないことだし、
どちらが悪いとかいう問題じゃないから気にすることはないわ。」
つまりは俺に選択権があるというわけか・・・。
今まで俺が立たされるのは選ばれる側ばかりで、それも決まって捨てられるという選択結果が待っていた。
他に好きな相手が居る。
嫌いじゃないけど付き合えない。
もう疲れた・・・。
選ばれる側、否、必ず捨てられる側に立たされた俺は、そんな一言で抱いた想いと一緒に心まで打ち砕かれてきた。
一度くらい・・・選べる側に、捨てる側に立てなきゃ不公平だ。俺の中でそんな思いが俄かに頭を擡げて来る。
思わせぶりな態度で適当に遊んだ後で、それこそ一言で御破算にすることだって出来る・・・。恋愛は選べる側に立たなきゃ絶対駄目なんだ。
それなら・・・あの女と関わりを持っても良いか・・・って、
ちょっと待て。
何で俺は・・・こんなに恋愛にこだわるんだろう?
潤子さんは「恋愛のことは一先ず考えないでみたら」って言った筈だ。それを分かったつもりでいたけど実は何も分かってなかったことに気付く。
異性との接触=恋愛という公式が頭から離れないのもあるだろう。でも、それ以上に・・・敗者であり続けた俺の屈折した感情があるように思う。
そう、俺は恋愛を勝負として捉え、その勝ちにこだわっている・・・。
そんな俺が恋愛を意識しないであの女、井上と関われるんだろうか?
そう自問すると何処からか2つの回答が同時に返って来る。
良いじゃないか。気持ちに応えた振りをして弄んでやれば。気が済んだらあの女と同じ様にポイしてやれば、望んでいた勝者になれるんだぞ?
止めておけ。最初は意識しないつもりでも何れ本気になるかもしれない。そうしたらまた、たった一言で捨てられて傷付くことになるんだぞ?
「勝ち」を拾いに行くか「逃げ」に徹するか、相反する行動を促する回答に俺の頭はますます混乱する。
二つの回答がガンガンと頭の中で鳴り響く。どうしたら良いのか全く分からない。
「そんなに深刻に考えなくても良いのよ・・・。」
我に返って顔を上げると、潤子さんが苦笑いを浮かべながら俺の方を見ている。どうやら思考のどつぼに嵌まっていたようだ。
他人と、それも女とどう接するかでこれほど悩むというのは、それだけ経験が少ないということの現れなんだろう。
「まずは肩の力を抜いて、話し掛けられたら答えることから始めてみたらどうかな?さっきみたいに。」
「はあ・・・。」
「折角彼女が居ることだし、丁度良い機会よ。もうすぐ出来るから運んであげてね。」
・・・そうだった。今潤子さんが作っている注文は井上のものだったな。
スパゲッティが茹で上がる少し前に鉄板を温めて、そこに溶き卵を敷き詰めて茹でたてのスパゲッティを乗せてミートソースをかける。
「Dandelion Hill」特製のミートスパゲッティーの出来上がりだ。
ジュースを注いで出来立てのスパゲッティをサラダと共にトレイに乗せれば、ここから先は俺の仕事だ。
注文を運ぶのは初めてでもないのに妙に緊張するのがちょっと情けない。
「じゃあこれ、7番テーブルへお願いね。熱いから気を付けてね。」
「はい。」
「別の注文ももう直ぐ出来るけど、そんなに急がなくて良いから。」
「潤子さん・・・。」
「さあさ、冷めちゃうといけないから。」
俺は溜め息を吐くと席を立って井上の注文を受け取る。鉄板のせいで結構重みがあるし、ジュースが乗っているので慎重に運ぶ必要がある。
運ぶ先が先だけに尚更神経を使う。
マスターが次の曲を演奏し始める。この曲は・・・「待ちぼうけの午後」か?
俺の姿を見たマスターの目が笑っているような気がする。この曲はあまり演奏しない筈なんだが、やはり何か意図的なものを感じずにはいられない。
徐々に井上の姿が近付いて来る。
井上は頬杖を突いてステージの方を物思いにふけるように眺めている。すっかりこの店の雰囲気に浸っているようだ。
丁度斜め後方から横顔を見せるような体勢だが、意外に大人っぽい雰囲気を漂わせている。・・・店の雰囲気のせいだと思いたい。
「・・・お待たせしました。」
出来るだけ音を立てないようにトレイを置いて言うと、井上がぱっと俺の方を向く。
俺は井上と目を合わせずにスパゲッティの乗った鉄板、サラダ、ジュースを井上の前に並べると、空になったトレイを抱えて声量を落として尋ねる。
「・・・ご注文は以上でよろしかったでしょうか?」
「はい。」
「では、失礼します。」
他のテーブルを回る為に一礼して踵を返して立ち去る。
やっぱり意識してしまう。意識したくないという思いが素っ気無い態度を取らせてしまうんだろう。
・・・慣れない状況にどう対応して良いか判らない俺が居る。
テーブルを一通り巡回して2、3の注文を取って、再びカウンターに戻ろうとした俺を井上がまた手招きしている。
今度は何だろう、と訝りながらテーブルに歩み寄ると、井上が頬杖を突いた姿勢で上目遣いで俺を見る。
・・・妙に思わせぶりな態度だ。これが天性のものなら相当男を誑かしてきたんだろう。
そう思って警戒心を強める俺に、井上が話し掛けてきた。
「今度は、いつ演奏するんですか?」
井上の問いに俺は腕時計を見る。
リクエスト権をテーブル単位で獲得できる籤の時間には8時と見てもまだ1時間ほどあるから・・・、あと1回は演奏の時間があるだろう。
「何時と決まってはいませんが、1回演奏すると思います。」
「へえ・・・。さっきの曲が最初から聞けると嬉しいですけど。」
「生憎、籤の時間以外のリクエストはお断りしておりますので。」
なかなか強(したた)かというか・・・自分が途中から聞く羽目になったあの曲「AZURE」を暗にリクエストしている。だが、そうはいかない。
この女に気があるならまだしも、俺はこの女が客だから相手しているだけだ。
・・・そんな相手にまで丁寧な言葉遣いをしなきゃならない現状が悲しい。このバイトでこんなにストレスを感じるのは初めてだ。
全く近頃の俺はついてない。
そんな俺の内側の葛藤など全く知らずに、井上はにこやかに微笑む。
智一が見たらそれこそ一発で脳みそが沸騰するような魅惑的な微笑みというやつだ。
だが、俺には何人もの男を誑かした魔法は通用しない。一度痛い目に遭った俺は、この魔法に耐性が備わったんだ。
心の壁とも言えるが・・・。
「私、籤運は結構強いんですよ。」
「・・・そうですか。」
「籤の時間、楽しみに待ってますね。」
やはりこの女、少なくとも籤の時間までは居座るつもりらしい。
昼間は町中をほっつき歩き−さっきの話から推測した限りだが−、夜はこの席に根を下ろして持久戦に持ち込むとは・・・。
何故そこまで俺にこだわるんだろう?余程兄貴に惚れ込んでいたということか?
だが・・・この女は肝心なことを知らない。
俺は確認したわけじゃないが、俺と兄貴が似ているのはあくまでも顔だけだということを。
顔なんざ所詮骨格と筋肉で形成して皮膚で表面を包んだ細胞の彫像だ。
顔が同じだからといって性格が同じだとは限らない。むしろ、違うと考えた方が正しい。
仮に・・・万が一・・・俺の心に取り入ったとしても、この女は何れ俺と兄貴の性格が違うことに気付くだろう。
そして・・・こう言って俺を捨てるだろう。
貴方は兄と違う、と・・・。
違って当然だ。俺はお前の兄貴じゃないんだから!
俺に面影を重ねても、俺にその代わりを求めないでくれ!
自分の都合で俺を弄ぶのは、もうあの女だけで沢山だ!
「・・・籤運が良いからといって、籤に当たるとは限りませんから。」
「でも、籤はやってみないと当たらないんですよ?」
「・・・どうぞ御自由に。では、失礼します。」
俺は会話をどうにか打ち切ってカウンターの方へ向かう。
この女には全く皮肉や嫌みが通じない。それどころか、俺との会話を楽しんでいるようだ。
徹底的に無視を決め込めれば良いんだが、この女が客である以上それは出来ない。
・・・今日は智一と呑みに繰り出すべきだったとつくづく思う。
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