『アレン。聞こえるか?』
待ちに待った声が聞こえて来る。アレンは先んじて耳から外しておいた送信機を口元に持っていく。「ああ、聞こえるぞ。イアソン。」
『まずアレンの方から今日入手した情報を教えてくれ。俺も続いて報告するから、それも含めて謎の解明を進めよう。』
「分かった。じゃあ今日入手した情報を伝えるよ。」
「−今日、俺が入手出来た情報はこんなところ。大した情報じゃないと思うけど。」
『否、両方共問題の彼女が執拗に命を狙われる背景は勿論、彼女の抹殺を企てていると断言してほぼ問題ないリルバン家当主フォン氏の実弟ホーク氏の
背後関係にも迫れる可能性がある。些細なことでも他の情報と重ね合わせたり別角度から切り込むことで、それまで分からなかった謎の核心に迫れることは
往々にしてあるもんだ。』
「そう・・・。なら良いんだけど。」
『次はこっちの動向や情報だが、順を追って伝える。』
『まずフォン氏周辺の動向だが、オーディション本選が近づいていることもあって、フォン氏は相当忙しいようだ。フォン氏を支えるリルバン家の重鎮、筆頭
執事のロムノ氏をはじめとする執事も色々動いている。一方、警備の不手際でフォン氏の怒りを買って妻ナイキ氏と顧問共々別館に軟禁されたホーク氏の
動きは今のところ全くない。やはりこれまで2度も重大な失態をやらかしたから、次の失敗は自分の処刑への許可証を発行することになると分かっているから
だろう。別館周辺は警備の兵士が厳重に包囲していて、食事を運んだりする使用人も兵士に目的を伝えた上で、部屋まで最低でも2人は同行させないと
入れないようになってる。事実上ホーク氏の動きは完全に封じられたと言って良いだろう。この点に関してはとりあえず安心出来そうだ。』
「ルイさんの護衛のクリスとも話してたんだけど、次に動きがあるとすればやっぱりオーディション本選に間違いないかな。」
『そうだな。フォン氏は中央実行委員長だから当然審査員として出席する。その間にホーク氏の背後にいる顧問って奴が一挙に行動に乗り出す可能性は
かなり高いと踏んだ方が良いな。それまで鳴りを潜めておけば、幾分でもフォン氏は警戒心と緩めるだろうし。』
「少し話が逸れるけどさ。フォン氏がリルバン家当主就任に就任した時期の前後に招聘した顧問っていう人物が気になるんだ。前にシーナさんを通じてその
人物の特徴を聞いたんだけど、小柄でローブを着ていたっていう外見の違いはあっても、ザギと同じように目の部分に細い切れ込みを入れた仮面を着けてる
ってことは、自分の素性がばれるのを恐れてのことかな?」
『その件に関しては、俺も仕事中とかに他の使用人とかに尋ねたりしてみた。ホーク氏が何故得体の知れない人物を、自分の法案を当主に伝えさせるとかいう
重要な役職である顧問として招聘したのかとか、顧問の目的が何なのかとかな。これに関しては、前にシーナさんを介してアレンに伝えた情報よりもう少し
突っ込んだ情報を幾つか入手した。』
『ホーク氏は先代と同じく所謂強硬派だが、一応職務遂行能力とかは一等貴族当主としてのものを備えていた先代と比較しても明らかに劣るそうだ。顧問を
通じて当主フォン氏に提出していた各種法案も、どうやらホーク氏じゃなくてその顧問が作成した可能性が高いらしい。リルバン家に長く仕える使用人ほど、
ホーク氏の職務遂行能力や統治能力といった、この国の行方に大きな影響力を齎し、当主として要求される能力が明らかに低くて威張ることだけには秀でて
いるホーク氏が次期当主に就任したら、使用人や小作人といった立場の弱い人民は半ば奴隷としてこき使われるようになるだろうという確信に近いレベルの
推測で共通している。だが、現時点でホーク氏が次期当主継承権第1位なのは間違いない。使用人はこれを非常に不安視している。』
「そうだろうな。一等貴族の影響力は二等三等貴族の小作料の徴収だけじゃなくて、この国全体に適用される法案を議会に提出出来る権限を持つくらい
物凄く絶大なものだ、って聞いたから。それと関係するかどうかは分からないけど、その顧問って奴はやっぱり・・・ザギかその手下なのかな。」
『これもシーナさんから聞いているかもしれないが、背格好は違うが同じ仮面を着用していることや、レクス王国の事例のように裏で強権指向の強い人物を
操るという行動を執っているようだから、謀略や策略といった悪知恵を体得しているザギ本人、若しくはその側近である衛士(センチネル)の可能性が高いと
いう見方だ。そう断言して良い段階にある。』
「それに関係するけど、ザギはレクス王国の国王を利用して、ハーデード山脈の坑道内部にあった、強大な威力を持つ古代文明の殺戮兵器の運び出しを
狙ってたし、ザギと盟友関係にあるっていうゴルクスとかいうセイント・ガーディアンは生物改造に固執していたってシーナさんが言ってた。この国には建国
神話に登場する天使に神が10人の従教徒を付き添わせて、この国にあったとされている『シャングリラ』とかいう名称の王城の地下神殿を厳重に封印出来る
4つの王冠を、リルバン家を含む4つの家系が代々受け継いでるそうだけど、顧問の目的は最終的にはその王冠なのかな?」
『その可能性はある。建国神話は俺も先に王国の図書館で読んだんだが、神の座に就くことを企てた人間の傲慢に怒った神が、天から光の槍を投げつけて
地上を焼き尽くした、とある。そして神の怒りを買った人間が、その技術や知識を後世に伝えることを目的に建設したのが「シャングリラ」という場所で、それが
王城の地下神殿に相当するらしい。神が天使に与えたという王冠が、神が放った光の槍でも滅せなかった「シャングリラ」を封印する力を持っているなら、
ホーク氏を利用するなりしてそれを奪うことで古代文明の遺産探しに乗り込むつもりなのかもしれない。』
「そうだよな・・・。」
『だが、今最優先で取り組むべき課題は、ホーク氏の顧問の素性や本当の目的を探ることじゃない。問題の彼女の身の安全を確実なものにすることだ。
顧問の動きが気にならないことはないが、優先順位の高いものから順に解決していった方が良い。・・・ってことで、話を元に戻す。』
『リルバン家の次期当主継承権が現時点でホーク氏が第1位というのはくどいほど伝えたが、何故そうなのかについてはどの使用人も話題にしない。
このままだと先代以上の暗黒時代が到来するっていう危機的状態なんだから、当主への絶対服従を要求される使用人がもっと次期当主継承に関して
井戸端会議的にでも色々話して不思議じゃないんだが、そういう傾向もない。俺も現時点における次期当主継承権の順位を聞き出すのが精一杯だった。
当主フォン氏やロムノ氏を筆頭とする執事にはまだ接触出来てないから断言は出来ないが、少なくとも使用人は次期当主継承者がホーク氏ではないと
薄々知っていて、このままだとそれが覆ってホーク氏が次期当主に就任してしまうから、暗黒時代の再来を懸念していると考えられる。』
『その疑問を解き明かすためにも物的証拠を探っていたんだが、アレンから問題の彼女の指輪について聞き出せたのは幸運だ。入手出来る条件が非常に
限定されている特注品なら、この町で有名な高級宝飾店を回って指輪の形状を元に入手経路を探り当てることが出来る。そうなれば、俺が提示した推論が
成立するかどうかが確定に向けて大きく前進するだろう。此処で1つ聞くが、その指輪についてもう少し具体的な特徴は知らないか?』
「俺もその指輪を見たことがあるっていうクリスに尋ねたんだけど、特注品かもしれないってことだけは宝飾店の主人から聞いたけど、それ以外はあまり詳しく
見てないそうなんだ。その指輪はルイさんのお母さんの形見の品だし、クリスはルイさんにオーディション本選出場を強く勧めたことで、結果的にルイさんが
絶えず危険に晒されることになったことに負い目を感じてるみたいで。」
『随分友人思いだな。勿論良い意味で。友達の看板をひけらかせば他人の内情に踏み込めると勘違いする輩は多いもんだからな。だが、指輪の入手経路を
調べるには具体的な形状とかの情報が必要だ。その辺はどうだ?』
「俺はまだルイさんから100ピセルの信頼を得られていないと思うから、護衛でもあって幼馴染でもある、ルイさんを懸命に護ってきたクリスを通じて調べて
もらう約束を取り付けた。指輪の外観とかついている宝石とか、出来るだけ詳しく調べて俺に教えてもらうように頼んである。」
『なかなか手際が良いな。これもくどくなるが。彼女はアレンが自分を見る目が変わるのを恐れて真相を隠している可能性が高い。そんな中でアレンが
いきなり彼女の過去に踏み込んだら、彼女との親密さや好感といったものが一挙に崩壊してしまう危険性がある。そうなると原因究明が遠ざかってしまう。
時間は多少かかるだろうが、アレンの選んだ選択肢は適切だ。彼女の護衛は彼女と随分親しそうだから、指輪を見せてもらうにしてもさほど抵抗感はない
だろう。その情報はシーナさんに直接伝えてくれ。俺はリルバン家で引き続き情報収集をするからな。』
「これって俺とイアソンが直接通信出来るように、ってシーナさんが魔法を変えてくれたんだろ?どうやってシーナさんに伝えれば良いんだ?」
『通信を開始する時に相手の名前を呼べば良いようになってるそうだ。俺がアレンと通信する際にアレンに呼びかけるのは、起きてるかどうかを確かめることも
あるし、アレンと直接通信すると通信機に宣言するためでもある。アレンも同じように、通信を開始する時にシーナさんの名前を言えば出来る。ただ、途中で
切り替えることは出来ない。その場合は一旦現在の通信相手との通信を切る必要があるそうだ。まあ、ドルフィン殿やシーナさんと俺とでは通信出来る時間が
違うから、切り替える必要性は現時点では殆どないと思ってる。必要に応じてシーナさんに魔法を使って切り替えてもらうようにはするが。』
「分かった。じゃあ指輪に関する情報が入り次第、俺はシーナさんに伝えるよ。」
『この件に関しては今後の方針が一致したな。次は別角度から切り込むとするか。』
『問題の彼女が命を狙われるようになったのは、オーディションの予選が終わって、彼女と護衛が住んでいる村を出る前後からだったということ。そして
フォン氏がリルバン家当主就任直後に全国を視察して、その途中に彼女と護衛が住んでいる村にも訪れたこと。彼女がオーディション予選に出場することに
なったのは彼女の自薦じゃなくて、村の実行委員会宛に届けられた差出人不明の封書によるものだったということ。彼女は本来オーディションに出場する
つもりじゃなかったが、親友でもある護衛の強い勧めを断りきれずに出場した。そして当初は予選に出るだけだから、と言っていたのにどういうわけかある日
いきなり態度を180度変更して本選出場を決めた。護衛も疑問に思って尋ねたが気晴らしして来る、と言っただけだった。これで間違いないか?』
「ああ。間違いない。」
『今日のアレンの情報でも、彼女の態度変更の理由についてはめぼしい情報がなかった。やはり彼女の態度変更には何らかの理由があって、それは彼女が
この町に来る何らかの目的を持ったためだったと考えるのが自然だな。』
「俺もそう思ってる。その辺に関してイアソンの方で何か情報は入手出来てない?」
『間接的に聞いたから確証はないが、1つ関連すると思われる情報がある。フォン氏の側近中の側近という位置づけにあるロムノ氏が、オーディション絡みで
かなり動いているらしい。オーディションの中央実行委員長がフォン氏だということもあるだろうが、それだけじゃ説明しきれない部分もある。』
「どういうこと?」
『ロムノ氏はフォン氏の指示を受けて、オーディションに関連する形を装って別の目的で動いているらしいんだ。』
『この辺に関しては間接的だし、使用人としての仕事を優先させている関係もあってロムノ氏の行動を観察することはほぼ不可能だ。だが、先にドルフィン殿と
シーナさんに傍受してもらった、リルバン家と同じく建国神話にも登場する王冠を代々所有する一等貴族であるポイゴーン家当主ラミル氏とフォン氏の、
リルバン家執務室における会話の内容は解析を完了した。その内容は殆どがこの国の主要産業である銀製品の粗悪品の流通を阻止することと、事実上
野放し状態の二等三等貴族の小作料徴収に一定の歯止めをかけること、そして実践能力に長けた魔術師をカルーダ王国から招聘して王国の国境防衛を
強化することを提案するための打ち合わせで占められていて、今から説明していたら何時終わるか分かったもんじゃない。』
「法案の詳細なんかは俺も聞いてると寝てしまうだろうから聞かないけど、最後の魔術師のカルーダ王国からの招聘っていうのはどういうこと?そう言えば
この国にはあまりというか殆ど魔術師が居ないようだけど。」
『その件に関するフォン氏とラミル氏の打ち合わせは、この国の基本方針に関わる重要法案だからだ。』
『この国では、教会による各町村の地区管理制といった形に代表されるようにキャミール教が国家体制に深く関与していて、聖職者、特に高位だったり有能な
聖職者となれば下手な役人よりずっと社会的地位は高いし人望も厚い。だが、魔術師の社会的地位は俺達が居たレクス王国や、魔術研究や魔術師養成の
一大拠点としてクルーシァと肩を並べるカルーダ王国とは逆に、存在感や社会的地位やかなり低い。それは建国神話と関係がある。』
「建国神話との関係?」
『そうだ。今までにも話したとおり、この国の建国やキャミール教との密接な関係は、この国のある地域がかつて最も神の教えを曲解して世界を絶滅の瀬戸際に
追い込んだことを憂慮した神が、この地を神への信仰が篤い国にするために1人の天使に10人の従教徒を付き添わせて派遣したことに端を発する。魔術師が
使う力魔術が当然ながら殺傷性が強いことや、無から有を作り出すという神でしか成し得ない業を神の名を語ることなく当たり前のように使うことから、
力魔術を使う魔術師は神を冒涜する者、として忌み嫌われる傾向にあるそうだ。リーナが予選を突破して役所に賞金とかを受け取りに言った際に、役人が
護衛として魔術師と武術家と剣士を挙げたが、武術家や剣士を護衛にする傾向が強いというのはそういう背景もある。実際魔術師がオーディション本選
出場者の護衛になることはまずないと言って良いくらいらしい。』
「なるほど・・・。どうりでこの国に入って以来、魔術師の事務所とか殆ど見当たらなかったわけだ。」
『その魔術師関連の法案の詳細は説明を省略するが、法案提出の目的は、隣国シェンデラルド王国の国情に関係しているようだ。』
「シェンデラルド王国っていうと確か・・・、この国では少数民族のバライ族が多数派の国だよな。」
『そうだ。何でも国境付近の町村にシェンデラルド王国からかなりの数の悪魔崇拝者や魔物が雪崩れ込んで来て、これまでのように武器だけを扱う軍人だけ
じゃ迎撃しきれない危機的状況に陥りつつあるそうだ。かと言っていきなり徴兵制を敷いて人民をかき集めても戦闘出来るようにするには間に合わないし、
無駄に人民の命を落として国力の衰退を招いちまう。国家運営の基幹は農業などの食糧生産だ。その中心的担い手である男性を失えば食糧生産力が
がた落ちして、結果的に小作料を搾取している二等三等貴族ばかりか、王族や一等貴族も甚大な被害を受けるし、国家存亡の危機に直結する。』
『同じくドルフィン殿とシーナさんに傍受してもらった王国議会での審議内容の解析はまだだが、フォン氏がラミル氏と昼食を共にした際の会話は
聞き取った。基本的に雑談だったが、その中には俺の仮説を裏付けそうなものがあった。』
「何だよ、それ。」
『−こんなところだ。やはり彼女が命を狙われるにはそれ相応の理由があって、彼女もそれを知っているがアレンに話すことで自分を見る目が変わることを
恐れて話せないで居る、と考えた方が自然だ。』
「・・・だったら、このまま情報のやり取りを続けていても解決を遅らせるどころか、オーディション本選でルイさんが襲撃されるのをわざわざ待たないと
いけないんじゃないか?リルバン家に乗り込んで顧問共々ホーク氏を片付ければ、問題は解決するんじゃないか?」
『落ち着けアレン。そんな強硬策は絶対執っちゃいけない。』
「どうしてだよ!」
『ホーク氏の顧問はザギ本人若しくはその衛士(センチネル)だと断言して良い。だとすると、ドルフィン殿とシーナさんもこの町に居ることを掴んでいて、
ドルフィン殿とシーナさんがリルバン家に乗り込んだのを合図にアレンが居るホテルに配下の部隊を突入させて、彼女を抹殺する手筈を整えている可能性が
高い。レクス王国全体を巻き込んだ策略を張り巡らせていたザギだ。それくらい想定している方がむしろ当然と考えた方が良い。』
『ホテルの警備が幾ら厳重とは言え、それは一般人民のレベルから見てのこと。力の聖地と称されるクルーシァで訓練された軍隊を送り込まれたら、とても
歯が立たないだろう。警備の兵士もホーク氏やその顧問の息がかかっている可能性が否定出来ないから、アレン達は圧倒的に不利な戦いを強いられる。
剣士のアレン、召還魔術が使えるリーナ、Enchanterの称号を得ているフィリア、そして問題の彼女の護衛−剣士か武術家のどちらかだと思うが、そんな
小規模の戦力でクルーシァで訓練された精鋭軍をぶつけられたらひとたまりもないだろう。それこそむざむざ彼女を抹殺する機会を提供するだけだ。』
「た、確かに・・・。」
『アレンが彼女の身の安全を保障したい気持ちは分かる。だが、焦って強硬手段に打って出たら取り返しのつかない事態を招くことだってある。俺が使用人と
してリルバン家に潜入したり、ドルフィン殿とシーナさんに各種法体系の調査や王国議会の傍受を依頼したのも、彼女に危害が及ばないように黒い翳を
取り除くという目的の一環だ。勿論、こうしてアレンと今情報交換をしているのもな。確実に裏付けを取った上でフォン氏に事実を伝えて、ホーク氏とその
顧問を確実に排除して二度と彼女に手を出せないようにするよう対策を執ってもらうのが最も安全だ。前にも言ったと思うが、急ぐことと焦ることとは違う。
そのことを念頭において、引き続き情報収集をしてくれ。』
「分かった。」
『シーナさんにはアレンから事情を伝えてくれ。俺は昼間殆ど使用人の仕事で手がいっぱいだし、アレン達はそっちのホテルに事実上軟禁状態だから、
指輪の出所とかこの町での調査はドルフィン殿とシーナさんに任せるしかない。俺を通じて伝えるより、アレンが直接伝えた方が欠落とかがなくて安全だ。』
「分かった。俺も昼間はずっと料理とかしてるから、クリスから何か情報が入ったりしたらシーナさんに伝えて、ドルフィンと一緒に動いてもらう。」
『よし。じゃあ頼んだぞ。』
「フォン様。銀商業品品質基準法改正案の質疑内容を整理した書類をお持ちしました。」
「ご苦労だったな、ロムノ。こんな夜遅くまで。」
「いえ。リルバン家の当主であられるフォン様をご支援するのが我々執事の仕事でございますが故。」
「フォン様。例の件でございますが・・・。」
ロムノは声量を落として話を切り出す。「国軍兵士の中に、時期をほぼ同じくして不審な動きを見せていた者が居たとの知らせが先程入りました。」
「やはりか・・・。」
「相手はかなりの切れ者のようでございます。縦横に網を張り巡らせ、並行して動かしていることからして、相当巨大な組織が背後に控えているものかと。」
「隣国の動きとも重複するな・・・。だが、時期が時期だけに臨時建議会71)の召集にまでは手が回らぬ・・・。」
「現在では対象者と、同部屋で生活を共にしている者の力量を信じる他ないかと。」
「そうだな・・・。では、引き続き動向を調査して逐次報告してくれ。何かあれば出来る限りの策を講じる。」
「承知いたしました。では、失礼いたします。」