『シーナさん、聞こえますか?』
うつらうつらしかけたアレンの耳に、イアソンの声が流れ込んで来る。アレンは慌てて身体を起こして赤いイヤリングを外し、小声で応える。「イアソン、聞こえるぞ。アレンだ。」
『どうしてアレンと直接通信出来るんだ?ドルフィン殿もシーナさんも、ホテルに行ったとは言ってなかったが。』
「直接通信出来た方が良い、ってことでシーナさんが通信機の魔法を変えてくれたんだって。それよりイアソン。何か分かったのか?」
『色々とな。かなり長くなるし込み入ったことを言うが、そっちは良いか?』
「ちょっと待って。近くでリーナとかが寝てるんだ。起こすと拙いから場所を替える。」
「待たせて御免。じゃあ頼む。」
『まず、ドルフィン殿とシーナさんに依頼して調査してもらった、一等貴族に関する法体系のうち、当主継承の部分を説明する。』
『一等貴族は絶対世襲制だ。一等貴族はこの国の建国神話にまで歴史が遡る伝統を有するから、当然と言えばそうだが、当主就任の優先順位は基本的に
直系の年齢順で男性優先。要するに、当主の兄弟より当主の子どもが次期当主に就任する優先順位が高くて、その子どもが例えば18歳の長男、19歳の
長女、16歳の次男だとすると、優先順位は長男、長女、次男、となるわけだ。当主に実子が居ない場合は傍系、つまり当主の兄弟に焦点が移る。そこでも
男性優先となっている。兄弟が居ないと伯父や伯母が対象になるが、当主は正妻の他に側室を持つことが出来るから、異母兄弟が生じる場合はある。
当主継承の優先順位は直系の方が高いこともあって、当主は側室を設けてでも実子をもうけることが半ば義務付けられている感がある。』
「それは良いけど、ルイさんが襲撃される件に関してどういう関係があるんだよ。」
『その件は、彼女のアレンに対する信頼の強さとかが必要だ。だからアレンはまず、一等貴族の当主継承条件とかを頭に入れておく必要がある。』
「・・・分かった。当主継承はまず当主の子どもが優先で、子どもが居ないと当主の兄弟になるんだな?」
『そうだ。ところが、法律がそうなっているからといって、実際は必ずしもそうとは限らない。これは、一等貴族における当主の地位が大きく関係している。』
「どういうこと?」
『一等貴族における当主は絶対的権限を持つ。法律では当主継承の優先順位が定められているが、当主の権限が強いこともあって、次期当主が法律
どおりになるとは限らない。例えばさっき挙げた例で言うと、法律上での当主継承の優先順位は長男、長女、次男の順になるが、当主が長男に一等貴族
当主の器がない、とか判断すれば、法律上では継承順位2番目の長女が次期当主になる場合があるってことだ。』
「なるほど・・・。」
『シーナさんから聞いてるかもしれないが、リルバン家の先代当主、つまり現当主フォン氏の父は名だたる強硬派で、一等貴族の小作料を決定する重要な
数値である小作料率の大幅引き上げや、この国で少数民族のバライ族の肌が黒いことを悪魔の祝福を受けている、として隣国ランディブルド王国に強制
移民させようと躍起になっていた。そのため、穏健派のフォン氏とはかなり深刻な確執があって、リルバン家に仕える執事の中で最高位の筆頭執事
ロムノ氏が、先代とフォン氏との仲介役になっていたそうだ。ロムノ氏は先先代、つまりフォン氏の祖父の代から仕えているリルバン家の重鎮で、強硬派の
先代に進言出来た希少な人物でもある。』
「それはシーナさんから聞いたとおりだよ。」
『そうか。そのロムノ氏だが、今では現当主フォン氏の側近中の側近として、フォン氏が所属する王国議会に提出する法案の準備における各種調査や
条文整理、教会人事監査委員会に提出された全国の教会からの異動要請許可申請の事務処理支援、そして今年フォン氏が中央実行委員長となっている、
リーナも本選に出場するシルバーローズ・オーディションの担当者決定の相談に乗るなど、かなり深く関わっている。ロムノ氏の性格は穏健で実直、
フォン氏との関係は極めて良好だ。同時に、問題の彼女が狙われた事件がホテル内で2度も起きたことの責任を問われて警備班班長を解任されて、現在は別館に
軟禁されている実弟ホーク氏が取り入る隙は何ら見当たらない。』
『先代は一等貴族としての統治能力や執務遂行能力といった実務的側面では、深刻な確執があったとは言えフォン氏を認めざるを得なかったが、考え方が
同じホーク氏を次期当主に指名する意向だったそうだ。先代と同等以上の強硬派で、この国の人民の生活などに大きな影響力を持つ一等貴族当主としての
能力が明らかに欠けているホーク氏が当主に就任するのを危惧したんだろう。ロムノ氏は先代に、次期当主としてフォン氏を強く推していたそうだが、先代は
その件に関してはロムノ氏の進言を頑として聞き入れなかったらしい。』
「その話はこっちでも聞いた。リルバン家の先代当主は名だたる強硬派で、一等貴族以外の小作人達もこの先どうなるのかって不安がってた、って。
でも、先代当主は5年前急病で死んで、先代当主の長男のフォン氏が当主に就任した、とも聞いてる。」
『そこまで聞いてるなら、話は早いな。』
『一等貴族の法制度の話に戻るが、一等貴族では当主がある年齢に達したとか体力の限界とかを理由に、在任中に次期当主を指名して国王に報告する、と
定められている。リルバン家の先代当主は次期当主として次男のホーク氏を指名する意向だったが、それより先に急病を罹患して程なく逝去した。
指名がなかった場合は、法律で定められた優先順位に沿って国王が次期当主を指名する。つまり、先代当主の長男のフォン氏が就任したってわけだ。』
「フォン氏の評判は、強硬派だった先代とは正反対に良いんだよな。」
『そうだ。フォン氏は穏健派であると同時にかなり行動的でもある。この町に所有する小作地における小作人を増やすことを、議会提案に先駆けて実行したり、
各地の教会、特に財政基盤が弱い辺境の町村への寄付にも熱心だ。小作人や使用人にも気さくに声をかけて、要望を聞いて必要だと判断すれば即実行に
移す。この国で強い影響力を持つ教会の人事を監視する、教会人事監査委員会の委員長に一昨年全会一致で推挙されたのも、そういう行動的な側面が評価
されてのことだろう。国王の信頼も厚いそうだ。」
「フォン氏がルイさんの命を狙う可能性はなさそうだな。俺も、ルイさんとその護衛のクリスって娘(こ)から、フォン氏が当主に就任して以来リルバン家が大きく
変わったって評判だ、って聞いた。国の産業基盤整備とかにも熱心で、当主就任直後に全国を回って、ルイさんとクリスが居る村にも視察に来て、小作人の
処遇改善や農作物の生産向上とかにも関与したらしい。」
『結構アレンも情報を集めてるんだな。じゃあ、現在のリルバン家当主継承に関する問題に焦点を絞って話す。』
『現時点における次期当主継承権第1位は、実弟ホーク氏になっているそうだ。これは、フォン氏に実子が居ないのが大きな原因になっている。』
「実子が居ないって・・・、当主は側室を持ってでも子どもを作るのが半ば義務付けられてるんだろ?」
『そうだ。しかし、フォン氏は側室を設ける気が全くないらしい。俺が調べた限りでも、フォン氏の側室は1人も居ない。ホーク氏にはナイキという妻が
居るんだが、このナイキ氏はかなり曰くつきの人物だったりする。』
「曰くつき?」
『ああ。ナイキ氏は16年前、つまり先代当主が存命の頃にオーディション本選に出場したところをホーク氏が目をつけた現三等貴族の令嬢で、性格は非常に
高慢。ホーク氏が現時点で次期当主継承権第1位ということもあって、小作人や使用人を人を人と思わない態度で、ホーク氏と同じくらい嫌われている。
まだ子どもは居ないが、ホーク氏が当主に就任すれば早速にでも作る構えらしい。子どもなど夫が当主に就任してからで十分間に合う、と公言して憚らない
そうだ。ナイキ氏を輩出した三等貴族は以前は二等貴族で、当主は過去に王国議会議員を務めていた。ナイキ氏がホーク氏の妻になったことで、ホーク氏が
リルバン家の資産をかなりナイキ氏の出身家庭に横流ししていたという話がある。さっきと重複する部分があるが先代はホーク氏を次期当主にする意向
だったし、ホーク氏は自分がリルバン家次期当主になることを想定して、妻の出身家庭を押し上げようとしていたんだろう。一等貴族当主の妻を輩出したと
なれば知名度や社会的地位は格段に上昇するし、当主になればその絶対的権限を悪用して、特定の家庭に資金援助したりすることも出来るからな。』
「妻の実家を箔付けするために、ホーク氏は先代との仲を利用してた、ってことか・・・。」
『そうだな。だが、先代が次期当主を決定する前に急逝してフォン氏が当主に就任したことを契機に、ナイキ氏の出身家庭はかなり没落して、当主は三等
貴族降格と同時に王国議会議員を解任されたそうだ。二等三等貴族が王国議会議員になるには国王の任命が必要だが、元々議員として不適格だった
らしい。これもさっき言ったが、一等貴族の当主の権限は絶大だ。兄弟でも当主でなければその家の資産を動かせない。フォン氏は敬虔なキャミール教徒
だし、農林水産・畜産業といった食糧生産を担う農漁民の処遇改善に熱心な一方で、成り上がり者が多い関係で小作料の搾取が横行している二等三等
貴族の動向を見る目はかなり厳しい。自分が汗水流して働きもしないのに集まる金を安易に使うのは許されない、というのがフォン氏の方針だそうだ。』
「じゃあ、どうしてルイさんがホーク氏に狙われるんだ?」
『現時点では、リルバン家における次期当主継承権第1位は現当主フォン氏の実弟ホーク氏だ。』
「それはさっきも聞いた。」
『落ち着け、アレン。「現時点では」と言っただろう?』
「それがどうしたんだよ。」
『フォン氏は、次期当主としてホーク氏を指名していない。フォン氏はまだまだ働き盛りだが、人間何時死ぬか分からない。継承権が直系優先ということで、
側室を設けてでも実子をもうけることが半ば義務付けられているのにフォン氏は俺が今まで調べた限りでも側室を1人も設けていない。だったら、次期当主と
してホーク氏を指名しておくべきだ。フォン氏があえてそうしないことなどから、次のような仮説が立てられる。』
「そんな馬鹿なことが・・・。」
『だが、この仮説だとホーク氏が問題の彼女を狙っていることは勿論、ホーク氏が警備班班長になることを強く自薦したこと、フォン氏が側室を1人も設けて
いないこと、そして問題の彼女の母親の不可解な戸籍の理由などが全て合理的に説明出来る。』
『今日の昼間に、リルバン家にポイゴーン家当主が来訪して昼食を摂りつつ会談して、その後王国議会出席のため王家の城49)に出向いた。』
少しの沈黙の後、イアソンが言う。『その会談や王国議会の一部始終は、ドルフィン殿とシーナさんの協力も得て全て傍受した。だが、それらの時間に対して俺が単独行動出来る時間が
短過ぎるから、まだ一部しか解析出来ていない。それは追って報告する。で、問題の彼女はさっきの仮説を立証するものを何らかの形で有している筈だ。』
「・・・ルイさんが?」
『そうだ。だからアレンは、兎に角彼女から徹底的に情報を聞き出すんだ。アレンに対する彼女の信頼が今より増せば、話してくれるだろう。』
『彼女に好意を持っているアレンとしてはあまり気が進まないだろう。だが、場合が場合だ。彼女の口から真相を聞き出してくれ。その時、いきなり問題の
核心に触れる質問の仕方は厳禁だ。普段から会話を続けて信頼を高めていくことが肝要だ。必要なら彼女の護衛を通じるのも良い。』
「・・・。」
『彼女のアレンに対する気持ちを利用するような側面は否定出来ないが、彼女の未来を保障するためには、事態の打開が必要不可欠だ。彼女もアレンが
自分を見る目が変わることを恐れて、真相を隠している可能性がある。アレンはたとえ彼女が何であろうとその気持ちが変わらないことを、普段から言葉や
態度で示すことだ。その積み重ねが信頼の熟成に繋がる。分かったか?』
「・・・分かった。」
『この国に限ったことじゃないが、風習には色々ある。しかも彼女は、この国で非常に社会的地位が高い聖職者だ。風習のことを色々聞いたり、「教書」の
教えを知りたいとか、周辺から徐々に詰めていくことだ。急ぐことと焦ることは違うってことを頭に入れておけよ。』
「分かった。」
『アレンの方で、何か彼女に関する問題とか、そういうものは聞いてないか?』
「シーナさんを通じて、ルイさんの護衛であるクリスとルイさんが親しいならクリスから話を聞いておけ、ってイアソンから指示を受けたから、クリスから話を
聞いた。何でもフォン氏がリルバン家当主に就任して間もない頃、つまり5年前か?その頃、教会人事監査委員会の委任状を持った人達が、ルイさんが
住んでいる村の役場を訪れたらしい、って言ってた。クリスの母親から少し聞いただけで、あまりはっきり憶えてないらしいけど。」
『やはりフォン氏の当主就任前後に動きがあったか・・・。他には?』
「えっと・・・、これは今日聞いた話じゃないけど、ルイさんがこのオーディションに出場することになったのは自薦じゃなくて、オーディション開催の告示がされて
間もなく村の実行委員会宛に届いた、ルイさんを出場させるっていう旨の差出人不明の封書がきっかけで、ルイさんは興味がなかったから辞退しようとした
けど、ルイさんがお母さんを亡くして沈んでいたから少しでも気分転換にでもなれば良いって思ったクリスが強く出場を勧めて、ルイさんは観念して出場を
決めたんだ。それから、ルイさんが襲撃されるようになったのは、予選が終わって村を出発する頃からだって。」
『そうか・・・。だとすると尚更、さっきの仮説が現実味を帯びてくるな。』
『俺は事実関係を更に突っ込んで調査する。ホーク氏の背後に居る顧問っていう人物が何を企んでいるかとか突き止めることも必要だろうからな。』
「俺はイアソンの指示どおり、ルイさんとクリスから色々聞いてみる。」
『頼んだぞ。じゃあ、また明日の夜にでも連絡する。』
あの娘は今までの人生を全部、自分を散々苛めた奴含めた村の人のため、そしてお母ちゃんのために注いで来た。もうそれで十分や。
ルイには今まで苦労してきた分だけ、今まで流して来た汗と涙の分だけ、否、それ以上に幸せになって欲しいんよ。
「・・・ンさん。アレンさん。」
アレンはルイの呼びかけで目を覚ます。その場所は台所の椅子の上。考え込んでいたアレンは日頃の疲れに屈して椅子に座ったまま寝てしまい、普段「・・・あ、ルイさん。」
「どうして此処で寝てたんですか?」
「昨日ルイさん達が寝てから、外で動いている仲間から通信が入ったんだ。それから始まった情報交換が長引いてね・・・。」
「そうですか・・・。すみません。疲れているところを夜遅くまで・・・。」
「ルイさんは気にしなくて良いよ。通信が終わったらソファに戻れば良いのに、戻らないで居眠りしてしまった俺が悪いんだから。」
「改めて寝た方が良いのでは・・・。」
「否、良いよ。町に居た時も此処に来るまでに野宿してた時も、夜中モンスターとかが襲って来たとかで起きて、翌日は普通どおり、ってことは珍しく
なかったし、こんな程度で眠気を引き摺ってたら、この先やっていけないよ。」
「・・・眠気覚ましに良いティンルーを入れますね。」
「湯が沸くまで時間がありますから、アレンさんは着替えてきてください。」
「そうさせてもらうよ。」
「・・・ねえ、ルイさん。」
少しの沈黙の後、アレンがやや遠慮気味に切り出す。「ルイさんは、今でも国の彼方此方の教会から異動要請を受けてるんだってね。」
「はい。」
「その異動要請をルイさんは全部断って来た、ってクリスからも聞いたんだけど、教会の総長とかから異動要請を受けないでくれ、とか慰留されたことは
ある?」
「それは出来ません。異動要請を受けるかどうかは、対象者の判断のみで決定されることであって、他者は一切干渉してはならない、と教会人事服務規則や
国の法律で定められています。私は村を離れたくなかったので、異動要請を全て断って来ました。」
「ちょっと突っ込んだことを聞くけど、ルイさん宛の異動要請の内容はどんな感じなの?」
「我が国の将来の一端を担う聖職者として資質を伸ばすため、という理由が大半で、準備役職としては最低でも常任委員、最高では称号昇格を条件に
総長職が挙げられています。この町にある6つの地区教会からも頻繁に異動要請が来ています。」
「異動要請を受けると、出世の早さとか格付けとか、そういうのは変わる?」
「この町の6つの地区教会は、国の中央教会と同じく王国議会議員を輩出することもあって、高い権威を持ちます。ですから、そこからの異動要請は、
聖職者にとって大変名誉あることです。各町村も、国の中央教会やこの町の6つの地区教会の聖職者への異動要請には、大抵厚遇を用意しています。国の
中央教会やこの町の6つの地区教会の役員は、称号の高い聖職者や将来性が期待される聖職者が多いので、尚更ですね。」
「だとすると・・・生え抜きって言うのかな。そういう聖職者は町村にとってどうなの?」
「正規の聖職者は絶対数が少ないこともあって、特に私とクリスが住んでいるヘブル村のような辺境の町村では大変重宝されます。このフィルのような大きな
町では若い正規の聖職者を多数養成しては居ますが、修行が厳しいなどの理由で早期に辞職する割合が高いんです。辺境の町村は人口が少ないです
から、尚のこと正規の聖職者は、私が言うのも何ですが、絶対数が少なくて非常に貴重なのです。その町村で高位の聖職者を輩出することは、町村として
非常に名誉なこととされています。そういうこともあって、町村の教会としては、その町村出身の聖職者をあまり異動させたくないのですが、先程も言ったように
異動要請を受けるかどうかは対象者の判断のみに委ねられる事項ですので、願う程度に止まりますね。」
「そうなんだ・・・。」
「・・・話は変わるけど、クリスは教会の依頼の時必ずルイさんを指名する、って言ってたけど、そういうのって良いの?」
「はい。祭祀部の常任委員以上に対しては、教会の申請に当たって寄付をすれば指名出来ます。寄付の額はその人に委ねられます。それらを祭祀部の
役員会議で集約して、スケジュールを調整するんです。」
「ルイさんには彼方此方から教会の依頼が来てるそうだけど、あまり多いと全部に対応出来ないんじゃない?」
「その場合は祭祀部所属の聖職者に私の名前で職務代理を通達します。クリスのお父様が村駐在の国軍指揮官、お母様が村役場に勤務されているという
ことや、厳しい環境下にあった私を幼い頃から母と共に家族同様大切にしてくださったことで、私が優先的に受けるという暗黙の了解が出来ています。」
「また話が飛んじゃうけど・・・、聖職者の異動要請には教会人事監査委員会の承認が必要だっていうけど、それで承認されないことってあるの?」
「教会人事監査委員会での監査50)を通過したものはまず承認されます。異動要請に記載される結果は、『許可』か『条件付許可51)』のどちらかです。」
「『許可』と『条件付許可』の違いって何?」
「大差はありません。承認の可否を最終的に決定するのは委員長なのですが、異動要請許可申請書における申請内容が高圧的だったりすると、異動要請を
受けるかどうかはあくまで対象者の判断にのみ委ねられる、と念を押すと言うのか釘を刺すと言うのか・・・、そういう意味合いで『条件付許可』となります。
私が司祭長に昇格した辺りから、『条件付許可』と書かれたものが目立っています。辺境の村での異動のみというのは待遇不相応、と記載されていますから。
私は町村の規模がどうであろうと、その町村に住む人々の心に安寧を齎す聖職者の役割の重みに変わりはない、と思っています。」
「やっぱりルイさんは『村一番の聖職者』って言われるだけのことはあるね。」
「アレンさんにそう言ってもらえると嬉しいです。」