「ねえ。部屋にあった案内見たんやけど、このホテルん中に色々店があるんやて。行ってみん?」
クリスの提案に、暇を持て余しそうな予感がしたアレン達はすんなり同意して、揃って出かけることにした。「・・・18だったの?」
「信じられないわね・・・。」
「何よぉ。あたしはこのとおり18歳の乙女よ。レディなんよ。」
「こう言っちゃ何だけど・・・、ルイさんの方が大人だね。」
「・・・よく言われるんよ。・・・で、あんた達は幾つ?」
「・・・私は16。」
「あたしは15。」
「あたしも15。って言っても、もう16になるけど。」
「ふーん。じゃあ、ルイと同じくらいなんだ。」
「え?今、何て・・・?」
「ルイは今年の2月に15歳になったんよ。」
「じゅ、15?!」
「嘘ぉ。」
「とても見えへん?そうやろ。あたしもルイが年下だって意識出来へんもん。」
「・・・でしょうね。」
「ところでさ、あんた達って彼氏居る?」
「え?いや、居ない・・・けど・・・。」
「もう、何言ってんのよ。アレンはあたしの彼氏のくせにぃ。」
ところがフィリアが何時もの調子でやってしまった。クリスとルイは驚きを露にし、アレンの表情は引き攣り、リーナは非難の眼差しをフィリアに向ける。「ちょ、ちょっと。それってどういうことなん?んじゃ、もしかして・・・」
「あーっ!!」
「ちょ、ちょっと訳ありなんだ。お願いだから内緒にしてくれない?」
アレンの小声での要請に重大な背景があることを察したらしく、クリスは頷く。アレンはほっと安堵の溜息を吐いてソファに座り直し、隣のフィリアを「時と場合も考えないで寝ぼけたこと口走るんじゃないわよ。ったく。」
既にフィリアを睨んでいたリーナが、アレンの気持ちを代弁するかのように小声で非難をぶつける。流石に今回は完全に自分に非があると分かって「何事ですか?」
「あ、いや、その・・・。」
「すみません。うっかり飲み物を零しそうになってしまったもので、つい大きな声を・・・。」
「そうですか。他のお客様のご迷惑になりますので、声量は控えめに願います。」
「ご迷惑をおかけしました。」
「・・・ありがとう、ルイさん。助かったよ。」
アレンは小声で礼を言う。「いえ・・・。お役に立てて光栄です。」
「でも、何でまた・・・。」
「・・・ふーん。武術の出来る女の護衛がパーティーに居らんかったから、性転換の薬で・・・ねぇ。そりゃ大変だわ。」
「アレンの苦労も、そこのでしゃばりのお陰で危うくぶち壊しにされるところだったけどね。」
「もう良いじゃないか。とりあえずばれなかったみたいだし。」
「アレンがそうやって甘やかすから、そいつが突け上がるのよ。」
「まあまあ、それだけ言えばもう十分だろ?もうこの件については言いっこなし、ね?」
「アレンさん・・・。」
ルイが少し言いにくそうに話を切り出す。「何時・・・戻れるんですか?」
「今日の夜まではこのままだよ。昨日の夜薬を飲まされて、効き目は1日だから。」
「そうですか・・・。」
「何?そんなに早う、アレン君に男に戻って欲しいん?」
「そ、そうじゃなくって、大変そうだから早く戻れれば良いなって思って・・・。」
「いやぁ、あんた達に会えて良かったわ、ホント。」
豪快に料理を口に運んでいたクリスが、口に料理を運ぶ手を休める。「やっぱ食事は大勢の方が楽しいし、こういう時でもないとホテルのフルコースなんて食べられへんからね。」
「・・・それにしても、あんた、本当によく食べるわね。」
「やっぱ人間の基本は食よ、食。人間、食べるために生きとるっちゅうのが、あたしの流儀なんよ。」
「・・・あっそ。」
「あんた達ってさ、普段は何やってるの?」
初めて食するピーゲル貝13)のワイン蒸しに舌鼓を打っていたフィリアが尋ねる。「あたしは村の中央教会付属の武術道場に通っとるんよ。師範代14)やから、少ないけど給料貰っとるよ。」
「へぇ。教会の下にそんな施設があるの?あたし達の国にはそんなのないけど。」
「この国は教会の下に色んな施設があるんよ。武術も男女問わずやっとる人多いよ。心身の鍛練ってことでね。あたし、5歳からずっと通っとる。」
「両手のグローブは伊達じゃないってわけだ。」
「まあね。」
「ルイさんは?」
「私は教会に住み込みで働いています。」
「へぇ。教会に住み込みで・・・って・・・。」
「「ええ?」」
「じゃ、じゃあ、もしかして聖職者なの?」
「え?はい。そうですけど・・・。」
「聖職者がこんなイベントに出て良いの?」
「何の問題もありません。教会には休職届を出してあります。」
「・・・割とオープンなのね。」
「皆様方の国ではどうかは分かりませんが、本来、キャミール教の教えは、神と教会、ましてや教会と人とを分かつものではありません。神を信じることで
自分が高潔になる、だから他とは違うという考え方は、人間は等しく神と共にあるというキャミール教の教えの根幹に矛盾することに基づく錯覚です。
神はそれを信じる人と常に共にあるものです。」
「ふーん・・・。そうなんだ・・・。」
「やっぱり本場の本職は違うわね・・・。」
「宗教の教えが正しく伝えられるのって、せいぜい教祖の直弟子くらいのもんだからね。」
「そうですね。宗教に限らず、思想や哲学、伝統や慣習というものは、後世になればなるほど頻繁な検討が必要だと思います。変えれば良いというものでは
ありませんが、変えなくても良いものや変えてはいけないものもあります。それを見極めることも必要ですね。」
「宗教家のあんたに一つ聞くけど、人は等しく神と共にあるっていう観点からすると、聖職者の称号や役職は矛盾してない?等しく神と共にある人間一人
一人に、人間が勝手に作り出した差を付けるんだから。自己検討の一環としての回答を聞きたいわ。」
「それは平等という言葉の解釈の仕方ですね。平等というのは性別や肌の色といった外見上の特徴と、出身地や思想信条といった内面上の特徴を除いて、
ただ純粋な人間として『良く生きる』ことが出来るという意味だと思います。私のような聖職者が使える衛魔術を例にしますと、魔術は自らの魔力を自然現象や
物理法則に作用させて効力を発揮させるという性質上、使用者の魔力−これは内面上の特質ですね。これを超えるものを使えば、自分のみならず、場合に
よってはこの世界そのものに重大な影響を及ぼすかもしれません。となれば、講じるべき対策は、魔術の水準を区分けして使用者の魔力で無理なく使用
出来る魔術を使えるシステムを作ること・・・。」
「なるほど・・・。つまり、階級や役職というもの全てが悪というんじゃなくて、それが何のために存在するかということが明確にされていて、その立場にある者が
それを実証出来るかどうかってことね。よく『泥棒にも三分の理』とか言うけど、あれって『良く生きる』ことから外れちゃってる以上、手前勝手なへ理屈でしか
ないわよね。」
「そのとおりだと思います。私のような職業にも称号が幾つかありますし、教会には色々な役職がありますが、それは先程のような理由で使用出来る魔術を
区分けしているということに加え、それだけの資質を持った人間だからこそ出来ることを絶えず要求されているということだと思います。」
「逆に言えば、存在の意味を立証出来ないような階級や役職は無意味で、それに留まろうとしたり、それを維持しようというのは、それによって自己利益のみが
得られるからでしかない、ってことになるわね。」
「おっしゃるとおりだと思います。」
「・・・ルイだっけ?あんた、なかなか見所あるわね。聖職者の看板は本物だわ。」
「そう言っていただけると、この職業に就いていることを実証出来たような気がして嬉しいです。」
「へぇ・・・。この超が付くほどの真面目人間ルイと互角に議論出来るなんて、リーナだっけ?あんた凄いね。」
「そう?あたしからすれば、こういう議論が出来る方が本当だと思うけどね。」
「いやいや、やっぱり此処に来てあんた達と出会えて良かったわ。ね?ルイ。」
「そうね。行く前は不安だったけど・・・。」
「何で?」
「あんた達も薄々感じてると思うけど、このオーディションって、華やかな表向きとは違って結構どろどろしとるんよ。本選出場者と関係者しか居らへん
このホテルなんて人居るところ全てが殺気立ってた、って去年の村の出場者も言うとったし。」
「せやから警戒してたんよ。アレン君と初めてロビーで出会った時も何か仕掛けてくるんやないか思てね。」
「それは、お、いや、私も同じ。ロビーなんて妙にピリピリしてたし・・・。」
「大丈夫やて、アレン君。普通に話しても。他の護衛なんてごつい奴ばっかやから、絶対分からへんよ。」
「それって・・・誉めてるの?」
「・・・ふぅん。アレン君の父ちゃんを攫った奴を探して、ねぇ・・・。で、当ては?」
「それが、手がかりどころか音沙汰もさっぱりなくなっちゃって・・・。」
「なぁに。そういう奴って、忘れた頃か来て欲しくない時に向こうから勝手に来るもんやて。」
「それにしても、あんた達がこのオーディションに出場した理由が財政難解消のためっちゅうのは、凄い現実的やねぇ。」
「仕方ないでしょ。お金がなきゃ野宿あるのみだし。ところで、あんた達はどういう理由で出たの?」
「それが・・・誰かが勝手に申し込んだんです・・・。私は興味もなかったので辞退しようと思ったんですが、クリスが出ろ、ってあまりにも強く勧めるので
断りきれなくて・・・。」
「誰かって分からないの?」
「はい。差出人不明の封書で申し込まれたと聞きました。」
「ま、ええやないの。下馬評どおり圧勝して此処に来れたんやし。」
そう言うクリスはいたって陽気だ。「賞金はどうしたの?あたし達は事情が事情だから別だけど。」
リーナが尋ねると、今度はクリスが困惑の表情を浮かべる。「それがさぁ・・・。ルイが貰ったその日に中央教会付属の慈善施設に全部寄附しちゃったんよ。」
「えーっ?!」
「まあ、ルイの気持ちは分かるし、予選突破したのはルイ本人やから文句言えへんのやけどさ・・・。」
とは言うものの、クリスはどこか不満そうだ。「この娘、根っから真面目やからね。あたしは友達やからええ言うたのに、謝礼金きっちりくれたしさ。ううっ。」
「・・・単にあんたが不真面目なだけじゃないの?」
「痛いとこ突いてくれるわね。ま、よう言われるけど。」
「そんなの自慢にならないわよ。」
「圧勝した、って言うけど、出場者って他にどのくらい居たの?」
「確か20人ほど・・・。去年本選に出場した方も居ました。」
「それで得票率8割だから凄いでしょ?文字どおり圧勝。ルイの出場を知った人は皆ルイが勝つ言うてたからね。」
「じゃ、村じゃ有名なんだね。」
「そうそう。見てのとおり美人でスタイルもええし、おまけに教会の祭祀部長やってて人望も知名度もあるから、男の目から見れば尚更勝って当然やて
思うやろ?アレン君。」
「うん。確かに美人だから、圧勝したっていうのも納得出来る。」
「ところでさ、俺、聖職者のことあまり知らないから初歩的なこと聞くと思うけど、祭祀部長って何?」
ただ一人、自分の発言の与えた影響に気が付いていないアレンは、顔全体を真っ赤にして俯くルイに尋ねる。「あ、え、はい・・・。冠婚葬祭や礼拝の陣頭指揮と実行を任される教会の役職です。」
ルイは慌てて平静を装って答えたものの、顔色までは隠せない。「そうなの。ルイはね、14歳で司教補15)になった、むちゃ優秀な聖職者なんよ。」
すかさずルイの両肩に手を置いたクリスが補足する。「と、ところでさ。最初は嫌々出てたのに結局本選に参加したってことは、やっぱり玉の輿を狙ってのこと?」
危機感を抱いたフィリアが話題を強引に逸らす。クリスは内心舌打ちする。「いえ、予選突破の賞金を頂いて、それを全額寄附しておいて本選出場辞退ということは出来ませんから。」
「でもさぁ、本当に出るのが嫌だったら、結果が分かった時点で辞退出来た筈よ。結局は何か目的があってでしょ?」
「清純そうな素振りしてるけど、やっぱり玉の輿狙いか、そうでなければ人の多い都会に出て来ての男漁りが本心なんじゃないの?」
「違います!」
「じゃあ、目的は何?」
「そ、それは・・・。」
「言えないの?やっぱり人には言えない何かがあるんじゃない。人は見掛けによらないわね。」
「止めろよ、フィリア。」
たまらずクリスが助け船を出そうとした時、アレンがフィリアを嗜める。予想もしなかった方向からのルイへの援護に、フィリアは戸惑いを隠せない。「な、何よぉ。」
「そんな言い方ないだろ。」
「ちょ、ちょっと、ルイの味方する気?」
「そういうんじゃなくって、何か深い事情があるんだろうから、しつこく追求しちゃ駄目だって。」
「わ、分かったわよ・・・。」
「御免、ルイさん。フィリアも悪気があって言ったわけじゃないから・・・。」
「は、はい。」
『アレン君、聞こえる?』
不意にアレンの左耳にシーナの声が飛び込んで来た。アレンは右耳に取り付けていた赤い宝石の付いた受信機のイヤリングを外して、口元に近付ける。「はい、シーナさん。聞こえますよ。」
『今、何してるの?』
「夕食を終えて寛いでるところです。」
『こっちはドルフィンを中央教会で診断してもらってね、呪詛解除の目処がついたの。今は宿に居るわよ。』
「アレン君、何やっとんの?」
「今別行動取ってる仲間と連絡取り合ってるのよ。あのイヤリングで。」
「イヤリングで?」
『2日あれば解除出来るって。』
シーナの声が明らかに弾んでいる。「そうですか。意外に早く解除出来るんですね。」
『ええ。もっと時間がかかるんじゃないか、って思ってたんだけど。良かったわ。』
「シーナさん、嬉しそうですね。」
『当然じゃない。』
「そういえば、イアソンはどうしてます?」
『イアソン君は別室よ。どうして?』
「いや、お二人がアツアツだと、イアソンの居場所がないんじゃないかなぁって。」
『あら、言ってくれるわね。でも、実際そうみたい。』
『そう言うアレン君はどうなの?』
「え?どうって?」
『誰かアレン君のお目に適う女の子は居たのか、ってこと。』
「・・・ええ、まあ・・・。」
『どんな娘?』
「そ、それはちょっと・・・。」
『後でゆっくり聞かせてね。アレン君が見初めた女の子って、興味あるから。』
「シーナさぁん・・・。」
『じゃあ、何か問題が起こったら直ぐに知らせてね。お休みなさい。』
「は、はい。お休みなさい。」
「・・・何の話してたの?」
アレンの動揺ぶりに疑惑を持ったフィリアが、早速アレンに笑顔を向ける。それが作られたものであることは、こめかみに浮かぶ青筋で容易に察しがつく。「ドルフィンの呪詛解除の目処がついて、2日で解除出来るって。」
「それだけ?」
「イアソンはドルフィンとシーナさんとは別室だって。当たり前だよな。ははは。」
「それだけ?」
「うう・・・。それだけだって。」
「んなわけないでしょ。動揺してたのは何故?」
「言いなさい。」
フィリアの目は怒り爆発寸前と言わんばかりの迫力を醸し出している。「だ、だから、本当に・・・。」
「言いなさい!」
「や、止めて下さい!」
ルイが身を乗り出してフィリアの腕を抑える。「何よ!邪魔する気?!」
フィリアは爆発寸前の感情の矛先をルイに向ける。否、むしろルイが制止したことでより感情が高ぶったと言えよう。「あんたに指図される覚えはないわ!引っ込んでなさい!」
「いい加減にしたら?みっともないわよ。」
「な、何よ!」
「あんた・・・本来あたしの護衛じゃないわよね?」
「ど、どういうことよ。」
「あんたに分かるように言い換えてあげれば、パーティーの金食い潰してまであたしの護衛になった身よね?」
「それがどうかしたの?」
「アレンはあたしが予選突破で得た謝礼金で付けた正規の護衛よ。その護衛に妙な手出ししないでくれる?」
「あたしが頼んでもいないのに護衛になったあんたがこれ以上でしゃばった真似するなら、警備の兵士呼んで摘み出してやっても良いのよ?」
「そ、それは・・・。」
「分かったならアレンから手を放しなさい。」
「あ、ありがとう、リーナ。」
「良いのよ。それより・・・。」
「ドルフィンの呪詛が解除出来るって本当なの?アレン。」
「あ、ああ。」
「そう。此処まで来て、出来ません、って言われたんじゃ、話にならないもんね。」
「お連れの方、どうかなさったのですか?」
「横恋慕でとち狂った奴に変な剣で斬られて、自己再生能力(セルフ・リカバリー)を妨害してまで傷を開こうとする呪詛をかけられちゃったのよ。」
「厄介な呪詛ですね・・・。そのレベルでは僧正16)クラスでないと対処出来ないでしょう。」
「分かるの?」
「はい。職業柄、相反する力の効果や対処法は修行の一環として学んでいますから。対処法を実行出来るかどうかは称号に依りますけど。」
「アレン君の薬も解除出来るんやない?」
「薬は・・・呪詛とは違うから無理よ・・・。」
「もう切れる頃だよ。時間が時間だし。」
「切れるんやったら教えてよね。本来のアレン君がどないな17)もんか、興味あるし。ね?ルイ。」
「何の興味だか・・・。」
ぼやいたアレンは、身体の内側が大きくびくんと脈動するのを感じる。「・・・やれやれ。ようやく男に戻れた。良かった良かった。」
本来の姿に戻れて一安心しているアレンに、クリスが我が目を疑っているといった様子で尋ねる。「・・・それで・・・男に戻ったん?」
「そうだけど・・・?」
「背が多少伸びて声がちょいと低くなった程度で、あとは何も変わっとらへんやん・・・。」
「わ、笑うなよ!」
「だ、だって・・・。」
「ったく、人の気も知らないで・・・。」
アレンがぼやきを漏らす。もはや怒りを通り越して呆れるレベルに達したようだ。「へぇ・・・。こりゃ驚いたわ。凄い美形やないの。男に戻る言うからどないなごつい顔になるか思とったんやけど・・・。」
クリスは興味津々という様子で、身を乗り出してアレンの頬や髪を撫で回す。「肌は白くてすべすべやし、髪なんて艶もあってさらさらやん。羨ましいわぁ・・・。あたしのと交換して欲しいくらいやわ・・・。」
クリスは素直に羨ましがっているらしい。「ルイも触ってみぃよ。肌なんてすべすべやで。」
「え?わ、私は・・・。」
「何遠慮しとるんよ。折角の機会なんやから触らせてもらいぃな。ええやろ?アレン君。」
「ああ、良いよ。」
「ほら、アレン君もええ言うとるんやし。」
「・・・じゃ、じゃあ・・・。」
「し、失礼します・・・。」
「ど、どうぞ・・・。」
「綺麗・・・。」
ルイの口から呟くような感嘆の声が漏れる。ルイの右手がアレンの髪から頬へゆっくりと降りていく。「ちょ、ちょっと!いい加減にしなさいよ!」
二人だけの世界に突入したかのような雰囲気のアレンとルイを、フィリアが強引に現実世界に引き戻す。「す、すみません。」
ルイは慌てて手を引っ込め、逃げるように元の場所に戻る。「ったく、油断も隙もあったもんじゃないわね。」
フィリアはアレンとルイを交互に睨む。ルイを見る視線には殺気さえ篭っている。「・・・何がおかしいのよ。」
「アレンがあんまり気持ち良さそうにしてたから・・・。このまま放っておいたらどうなってたのか、って思ってね・・・。」
「く、くだらないこと想像してんじゃない!」
フィリアは怒りで顔を赤くして怒鳴る。それでもリーナは笑いを止めない。