Saint Guardians

Scene 6 Act 1-1 対決-Show down- 恋する者の気持ちとは如何に?

written by Moonstone

 見渡す限り青色の世界だ。
下を見れば緩やかに波打つ広大な藍色の海が果てしなく広がり、上を見れば均一に水色に塗られたかのような空が広がっている。
そんな青色の世界にただ一つ、ぽつんと置き忘れられた木の葉のように1隻の帆船が東へ向かって航海していた。
新たにドルフィンの婚約者−事実上夫婦と言えるが−であるシーナをパーティーに加えたアレン達一行は、カルーダ王国とサオン海を挟んで東にある
ランディブルド王国を目指して、定期客船に乗り込んでいた。
レクス王国からカルーダ王国に入る際の、国境を跨(また)ぐ程度のものとは比較にならない遥かにスケールの大きい、本格的な船旅である。
陸ですら異形の魔物がうごめくこの世界において、海はそれこそ何が出てくるか分からない未知の世界である。
幾ら結界で保護されている1)とは言え、そんな世界をちっぽけな帆船−ちっぽけと言っても、一行が乗船しているのは世界で有数の巨大帆船なのだが−で
航海するというのは、船乗りにとっても乗客にとってもそれなりの緊張を強いられる一大行動だ。
それを承知の上で一行が海を渡るのには、勿論それなりの理由がある。
 マリスの町で町長夫妻の娘として暮らしていたシーナの存在を嗅ぎ付けたセイント・ガーディアンの一人ゴルクスとの戦闘でドルフィンが重傷を負って
しまったが、シーナの懸命の治療にもかかわらず傷はなかなか塞がらなかった。
それがドルフィンを斬りつけた剣に込められた、傷の自然回復、或いは自己再生能力(セルフ・リカバリー)の発動を極端に鈍らせ、更に傷を開いていくという
悪質な呪詛の仕業であること、それが町の聖職者や国内の聖職者では到底手に負えないことを聞かされた一行は、ドルフィンを「診断」した聖職者の進言と
シーナの「両親」である町長夫婦の厚意に従って、キャミール教第二の聖地と言われるランディブルド王国に渡ることにしたのである。
 カルーダの港を出港してから早4日が過ぎた。殆ど代わり映えのしない青色の世界を、アレンは看板の手摺に寄りかかって眺めている。
四方に水平線が広がる光景を眺めているだけで、アレンは十分楽しめる。
内陸部で生まれ育ったアレンにとっては、一見退屈な世界も目を見張るようなスペクタクルの連続なのだ。

「よ、アレン。」

 不意に後ろから声がした。
アレンが振り返ると、イアソンが陽気な笑顔で立っていた。

「イアソンか。どうかしたの?」
「いや、リーナを『俺と一緒に大海原を見ながら語り合わないかい?』って誘ったんだけど、『大海原と好きなだけ語り合ってれば』ってあっさり
断られちゃってさぁ。」
「・・・またふられたの?懲りないなぁ。」
「失敗を恐れずに果敢にアタックし続ければ、いつか彼女も分かってくれるさ。これが恋のロマンってやつなんだよ。」

 アレンは呆れたように溜息を吐く。
イアソンが本格的な船旅に乗じて度々リーナにアプローチするものの、悉く一蹴されていることをアレンは知っている。

「で、そっちはどうなんだ?アレン。」
「どうって・・・何が?」
「やだなぁ。恋だよ、恋。アレンは恋をしてないのか?」

 アレンはイアソンの問いに答えず、黙ってイアソンを見る。

「ドルフィン殿とシーナさんがラブラブって話は聞いたことがあるけど、まさかあれほどとは・・・。いやあ、良いよねえ。羨ましい。本当に羨ましい。
・・・って思わないか?」
「その場に居辛いなぁ、とは思う。あんなアツアツの場面を毎度毎度見せられちゃあ、ねぇ。」

 アレンは苦笑いする。
ドルフィンとシーナの部屋を訪ねると、シーナがベッドに横になっているドルフィンに覆い被さるように抱きついている場面に高い確率で遭遇する。
実は照れ屋なドルフィンはシーナに直ぐ離れるように言うのだが、シーナは一頻りドルフィンに頬擦りしてキスをしてからようやく顔を上げるという有様だ。
そんなこともあって、最初の頃は面白半分に二人の部屋を訪ねていたアレン達も、いい加減腹いっぱいになってしまい、二人の部屋を避けている。

「ああいうの見てるとさ、よーし、今度は自分も、って思わないか?」

 イアソンの問いに、アレンはもう一度首を傾げてから答える。

「今は・・・あんまり思わないなぁ。」
「えー?何で?どうして?」
「うーん・・・。何で、って言われても・・・。」

 アレンが困ったように言うと、イアソンがやれやれ、といった様子で首を何度か横に振って言う。

「いけないね。恋は人生を彩る素晴らしいイベントだよ。時には甘く、時には切ない自分の気持ちをどうやって相手に伝えるか、いや、それ以前に
その気持ちを伝えるべきか、それを考えることもまた素晴らしいことじゃないか。」
「は、はあ・・・。」
「恋に恋する愚か者、と言う輩も居るけれど、それは恋のロマンを知らない人間の戯言だね。恋は人の心を豊かにし、人生に張りを齎す素晴らしいこと。
一度恋をすれば、どんな豪傑も、どんなクールな人間もたちまち瞳潤ます詩人に変わる。これこそまさに恋のロマン、ってやつじゃないかい?」

 声のトーンを少々落として渋みを出しているつもりらしいイアソンは、自分の主張に半ば酔っているようだ。
アレンはただ呆然とイアソンの「演説」を聞く。甲板に居た他の乗客が、イアソンの「演説」を耳にして続々と集まって来た。

「多くの詩人が恋を詠うのは何故か?それは恋がそれだけ素晴らしい世界を秘めているからさ。そして多くの人が共感出来る、或いは共感したいと思う
題材でもある。自分で体験すればより一層深まる神秘に満ちたもの、それが恋ってもんじゃないか?俺はそう思うね。」

 イアソンが言い終わると、集まっていた観客から拍手が起こる。

「いやあ、どうもどうも。ありがとうございます。」

 イアソンは観客の拍手に笑顔で手を振って応える。アレンは呆れた様子でイアソンに尋ねる。

「・・・言ってて恥ずかしくない?」
「・・・ちょっとね。」

 アレンはもう呆れて何も言う気が起こらない。
「観客」が去った後で、イアソンは何時もの表情に戻って言う。

「でもさ、本当に恋は良いぞ。自分の心が何時も新鮮でいられるから。」
「ふーん・・・。」
「もしかしてアレンって、女の子に興味がないのか?」
「そんなことはないよ。俺も一応男だしね。ただ・・・、相手が居ないと恋は出来ないだろ?」
「相手って、フィリアやリーナじゃ駄目なのか?あ、リーナは駄目だぞ。俺が先に目をつけたんだから。」
「リーナのことは知らないよ。それに駄目とかそういうんじゃなくって・・・、今まで恋らしいことをした憶えがないから、そういうのはよく分からないんだ。」

 アレンの言葉にイアソンは耳を疑う。

「ええ?!恋をした覚えがないだって?!」
「そんな大袈裟に驚くようなことじゃないだろ。」
「驚くさ。恋は人生にはつきものだぞ。アレンだって、小さい時に近くのお姉さんや学校の先生に初恋をしただろ?」

 イアソンが相槌を求めるように詰め寄ると、アレンは首を捻って答える。

「・・・憶えがないんだ、本当に。学校は3日で辞めちゃったし・・・。シーナさんは綺麗だなぁ、って思うけど、どちらかって言うとお姉さんって感じがするし・・・。」
「そ、そんな・・・。それは勿体無いぞ。さあ、アレンも今直ぐ恋をしようぜ。」
「だから相手が居なきゃ出来ないだろ?それに・・・そんなに急がなくても良いんじゃないの?この長い旅の途中で出会いがあるかもしれないし。」

 アレンが言うと、イアソンが何か思い出したような表情でポンと手を叩く。

「そうそう、今度行くランディブルド王国は優秀な聖職者を数多く輩出している国なんだが、美人が多い事でも有名なんだ。」
「そうなの?何で?」
「ランディブルド王国は北で国境を接するウッディプール王国の国民で、長寿と美貌で名高いエルフ2)の血を引いているからな。聖職者の女性は特に人気が
高いんだ。この『赤い狼』随一の情報屋が言うんだから間違いない。」

 イアソンは得意げに話す。
イアソンの情報収集力の確かさはこれまでの道中で幾度も証明されてきているから話の内容は本当だろうが、よくもまあそんなことまで知っているもんだ、と
アレンは呆れ半分に思う。

「ドルフィン殿の治療中に教会を回ってみれば?一人や二人、お気に入りの娘が見つかるぞ、きっと。」
「教会ってお見合い相手の紹介所じゃないだろ?そんな目的で教会に出入りするなんて・・・。」
「いやいや、男女の出会いもまた、神の思し召し。それに聖職者が全部が全部上級クラスを目指して修行に没頭している訳じゃない。心身の鍛練や
花嫁修業の一環として通ってる人も大勢居る。」
「気が向いたらそうするよ。」

 アレンが言うと、イアソンはアレンの肩を叩く。

「是非そうしなよ。自分の人生に華やかな彩りを齎す出会いは、自分から探さないとな。じゃ。」

 イアソンが一人満足げに去って行った。
アレンは小さな溜息を吐いて、再び青色の世界に目をやる。

恋は人生につきものだぞ

 イアソンの言葉が妙にアレンの心にこびり付いていた。
ふとアレンが周囲を見てみると、甲板にはそれまで気にならなかったのに、妙にカップルが目に付く。肩を寄せ合ったり、手を繋いだり、幸せそうな笑顔を
浮かべたりしている様子が、何故か気になる。
 アレンは再び青色の世界に目をやる。穏やかな海面を見ているうちに、遠い日の思い出がぼんやりと脳裏に浮かび上がってきた。

「あれが・・・初恋だったのかな・・・。」

 アレンは呟く。
 6歳か7歳くらいの頃。はっきりとは憶えていない。
近所の子ども達と鬼ごっこをして遊んでいる時、こざっぱりとした格好の少女が目に留まった。少女の姿形ははっきりと思い出せない。
今まで見たこともないその少女の存在が、何故か気になった。

『何処の娘だろう。一緒に遊ばないのかな?』

 少女はアレン達を遠くから眺めていた。
次の日も、その次の日も、その少女はアレン達を眺めていた。
 ある日、アレンは思い切ってその少女の元に走り寄った。少女は驚き、戸惑っているようだった。

『君誰?一緒に遊ばない?』

 アレンが言うと、少女は俯いたり、横を向いたりと落着かない様子を見せた。そして少女は何か言った。しかしその言葉は思い出せない。

『アレン!何やってんのよぉ!』

 遠くからフィリアの苛立ったような声がした。少女がまた何か言ったが、やはりその言葉は思い出せない。
少女は突然、その場から逃げるように走り去った。
セピア色の光景の中に蘇った少女は、その日以来、ぱったりと姿を見せなくなった。
 あの少女は誰だったのか。何故アレン達を眺めているだけだったのか。アレンに何と言ったのか。それらは今となっては知る由もないが、あの時、アレンが
あの少女の存在が気になっていたのは確かだった。
アレンは次第に何となくやりきれない気分になってきた。

『あの娘・・・何処の娘だったんだろう・・・。』

 アレンは自然と視線を下に落とす。
その時、不意に誰かがアレンの背中を軽く叩く。

「わっ?!」

 アレンが驚いて振り向くと、そこにはシーナが立っていた。

「シ、シーナさん…。」
「そんなに驚かなくても。」

 シーナ自身、アレンが予想外に驚いたことに驚いているようだ。

「ドルフィンは?」
「今、鎮痛剤を飲んで寝てるわ。ずっと付きっきりだったから俺が寝てる間に外の空気を吸って来い、って言われてね。」
「そうですか。そうでもない限り、シーナさんが愛しのドルフィンの傍から離れたりしませんよね。」
「いやぁね。からかわないでよ。」

 シーナはそうは言うものの、その見るからに幸せそうな笑顔から考えるに、むしろからかって欲しかったようだ。

「それはそうと・・・アレン君、何か悩み事でもあるの?」
「どうしてですか?」
「アレン君らしくもない暗い顔してたから。」

 アレンは自分の顔に手をやる。

「そんなに・・・暗い顔してました?」
「してたわよ。もし良かったら、私に話してみて。」

 アレンは少し間を置いてからシーナに尋ねる。

「シーナさんとドルフィンって、幼馴染ですよね?」
「そうよ。」
「初恋の相手もドルフィンだったんですか?」

 シーナは突然の質問に少し驚いた様子を見せる。シーナは少し間を置いてから、少し照れくさそうに答える。

「そう・・・ね。初恋の相手よ。もっとも、それに気付いたのはかなり後になってからだけどね。」
「何時頃ですか?」
「何時・・・って言われると難しいわね・・・。一緒に遊んだりしているうちに、何となくこの人は特別な感じがするって思うようになって、それが暫くして、ああ、
私はこの人が好きなんだ、って思うようになってた・・・って言えば答えになる?」
「はい。あともう一つ聞きたいんですけど・・・。」
「何かしら?」

 シーナはどんな質問が来ても良いように心構えをする。

「恋って・・・、良いものですか?」

 アレンが尋ねると、シーナは回答を整理すべく暫く考え込んでから答える。

「結構鋭い質問ね・・・。そりゃあ、勿論良いものよ。時には辛いこともあるけど・・・。」
「辛いことって何ですか?」
「ん・・・。例えばね・・・、自分の気持ちを伝えたくてもチャンスがないとか、他の女の人にとられたりしないかって疑心暗鬼になったりとか、些細な誤解で
お互いを傷付け合ったりとか…。でも、そういうのって、人間同士の気持ちのやり取りだし、まして相手を一人占めしようっていう思いがだんだん強くなって
来るものだから、必然的だと思うけど・・・。」
「そうですか・・・。」
「アレン君の悩みって、恋そのものについてでしょ?」

 今度はアレンが鋭いところを突かれて、動揺した素振りを見せる。

「ど、どうして分かるんですか?」
「質問から簡単に想像出来るわよ。」

 シーナはアレンの視線に合わせて、少し前屈みになる。シーナの方がアレンより若干背が高いため、そうしないとアレンを見下ろすような感じになるので
シーナはそれを避けたのだ。

「アレン君は初恋をはっきり意識しないで子どもの頃の思い出の一つとして心の中に仕舞ってきたのね。だから恋した時の気分が分からないし、恋そのものが
どんなものなのかっていうイメージが思い浮かばない。そんなところでしょ?」
「は、はい・・・。」

 アレンは心の中を見透かされているような気がする。

「でも後で、ああ、あれが初恋だったのかな、って思うことがあれば、それがそうなんじゃないかしら。恋する気分に理論的な裏付けを要求するなんて無理な
話よ。恋のとらえかたそのものも、人それぞれだし。それに、これからアレン君が生きていくうちに何時か、この人の存在が他の人より特別に感じる、って
女の人と巡り合うと思う。その時に自ずと恋する気分が分かると思うわ。」
「結局は、自分で経験するしか分かる方法はないんですね?」
「恋は人それぞれの価値観の問題だから。1+1=2みたいに一律に決定出来るものじゃないし、そうするものじゃないわ。」

 シーナの話で、アレンの心の中に漂っていた霧がさあっと晴れていくような気がする。

「やっぱり、恋愛ごとはシーナさんに相談するとすっきりしますよ。ドルフィンとの豊かな経験に裏打ちされているだけありますね。」
「もーっ、からかわないでったらあ。」
「とか何とか言いながら・・・、実は結構からかって欲しいんじゃないんですか?」
「そんなわけないじゃないの。」

 頬をほんのりと赤く染めてはにかむ様子からは、からかわれて嬉しそうにしか見えない。恋をするとこんな気分になるのだろうか、とアレンは思う。
普通はからかわれると良い気分はしないものだが、恋をすると逆にからかわれて幸せな気分を満喫出来る。

『不思議な感情なんだな。恋って…。』

 もっとからかって欲しそうなシーナを見て、アレンはそう思う・・・。
 一行を乗せた客船は道中何事もなく、カルーダを出てから10日後に無事目的地であるランディブルド王国の港町パンに入港した。
ゆったりと流れる風を受けて、船は桟橋に身を寄せていく。入港を知らせるカーン、カーンという甲高い鐘の音が響きわたる。
船は桟橋に接触しそうなほどに身を寄せると、そのゆったりとした動きを止める。船首から錨が投げ落とされ、水飛沫を立てて海底へまっ逆さまに落ちていく。
 船の左脇から橋げたがゆっくりと伸ばされ、桟橋に下ろされる。両脇に船員が立って会釈をする中、乗客が久々の大地の感触を味わうべく、早足で
吊り橋を降りて行く。桟橋では乗客を出迎えに着た人々も居て、ある乗客を見ると歓声を上げ、早くこっちへ来いと盛んに手招きしている人も居る。
降りる乗客の列の最後に、アレン達一行が居た。腱が至るところで寸断されたためまだ歩くこともままならないドルフィンに、シーナが肩を貸しているからだ。
サムソン・パワーで腕力を上昇させているとは言え、身長差がかなりあるドルフィンの身体を支えるのにはかなりの苦労を強いられる。
邪魔にならないように、二人以外は先に橋げたから桟橋に降りた。

「船から降りるからね。」
「分かった・・・。」

 シーナはフライの魔法を使って宙に浮き上がり、橋げたを使わずに船から外に飛び出す。
橋げたはかなりの急傾斜であるため、うっかり足を滑らせると大変なことになるので、シーナは魔法を使うことでその危険を回避したのだ。
 アレン達が見守る中、ドルフィンとシーナは無事に船から降りた。
シーナは額にうっすらと汗を滲ませている。宙に浮き上がった時にドルフィンを落とさないように神経を注いでいたためだ。

「もうすぐイアソンが戻ってきますよ。」

 アレンがドルフィンとシーナに言う。イアソンは一足先に、宿泊先と呪詛を解除するために赴く教会を探しに行ったのである。
ドルフィンは鎮痛剤が効いているため苦痛からは解放されていたが、身体が自分のものでないかのような感覚は相変わらず続いている。
 暫くして、イアソンがドルゴに乗って戻って来た。

「お待たせしました。宿と教会を手配してきました。」
「ありがとう、イアソン君。」

 シーナはドルゴを召喚する。

「私とドルフィンは早速教会に行くから、私とドルフィンの荷物を宿へ運んでおいてくれないかしら?」
「分かりました。教会へはこの略地図を見ていただければ行けると思います。」

 イアソンはポケットからメモを取り出してシーナに手渡す。シーナは二人分の荷物をアレンとイアソンに預ける。

「宿もその略地図に併せて書いてあります。手配した中央教会はさほど宿から離れていません。」
「分かったわ。後は私がするから、みんなは先に宿で休んでて頂戴。」
「「「「はい。」」」」

 アレン、フィリア、リーナの三人は、宿への道を知っているイアソンを先頭にして、それぞれドルゴに跨って宿へ向かって走り去った。

「ドルフィン。もうすぐ楽になるからね。」
「ああ・・・。」

 シーナはドルフィンをドルゴに座らせ、次いで自分が颯爽とドルゴに跨り手綱を握る。ドルフィンは重りのようにだらんとぶら下がる自分の腕を
引っ張り上げるように動かして、シーナの腰に回す。
幾ら呪詛が緩和されたとは言え完全に回復したわけではないため、腕を動かすこと一つとってもドルフィンには一大事なのだ。

「しっかり掴まっててね。」

 ドルフィンが頷くと、シーナはイアソンから貰った略地図を広げて教会の位置を確認し、手綱をパシンと叩く。二人を乗せたドルゴは、空中を滑るように
走り始めた・・・。

用語解説 −Explanation of terms−

1)結界で保護されている:本文にもあるように海は陸以上に危険なため、客船には高位の魔術師が複数乗船して三交代で結界を張っている。

2)エルフ:RPGでお馴染みの、長くて尖った耳が特徴的な人間型の種族。その長寿と美貌は人間の憧れでもあると同時に、オークなどの憎悪の対象でも
ある。


Scene5 Act4-2へ戻る
-Return Scene5 Act4-2-
Scene6 Act1-2へ進む
-Go to Scene6 Act1-2-
第1創作グループへ戻る
-Return Novels Group 1-
PAC Entrance Hallへ戻る
-Return PAC Entrance Hall-