「関係者識別データ未登録の集団が新たに正面入口より敷地内に侵入。付近を警戒中のイントルーダ・ガーディアンは直ちに迎撃せよ。
A級警戒態勢
発令中につき、対象は抹殺せよ。繰り返す。A級警戒態勢発令中につき、対象は抹殺せよ。」
「結界を張って!!」
アレンが叫ぶ。姿無きこの遺跡の「主」は、確実に一行を敵と認識している。言っている内容は分からずとも、説得もこちらの事情も全く受けつけない「何だ、一体?!」
「魔法反応18)が全然無いよ!」
「・・・魔法じゃない。火薬の匂いがする。」
リーナは対照的に冷静に状況を判断する。「火薬?!じゃあ、火薬付きの弓矢?!」
「そんな感じのものね。ただ、それより遥かに強力なのは確かよ。」
「くそっ!これじゃ埒があかない!どうする?!」
「どうするって言われても・・・。」
「建物に入るのよ。あの気味悪い声の主を叩けばどうにかなる筈。」
「建物に?!でも、建物っていってもどれがどれだか・・・。」
「そんなもの適当よ!奴等も何かを探して何処かの建物に入った筈よ!」
「早く!!ぼうっとしてる暇なんてない筈よ!!」
アレンは爆炎の向こうから微かに見える、近くの白亜の建物に向かってドルゴを走らせる。「全IG-100SPへ。侵入者は何れもエネルギー勾配による防禦壁を張り巡らせている。攻撃をIG-101DGに切り替える。管理棟に向かっている3名の
侵入者集団の防禦壁は比較的弱く、IG-101DGの集中攻撃で突破できる可能性有り。」
「管理棟・・・。どうやら正解みたいね。」
リーナが呟く。意味不明な部分もあるが、ある程度は「主」の言語が理解できるのだ。「管理棟というくらいだから、弓矢を飛ばして来る奴等の親玉がいる筈。奴を叩けば・・・!」
「そうと分かれば一気に行くぞ!」
「な、な、何だ、こいつら?!」
「金属で出来てる!!」
「しっかり捕まってて!!」
アレンが言うと、フィリアはアレンの、リーナはフィリアの腰にしっかりとしがみつく。「振り落としてやる!!」
アレンはドルゴをいきなりスピン・ターンさせる。ドルゴと共に結界が大きく傾き、その拍子に金属の犬が弾き飛ばされる。「何て奴等だ!」
「ある程度始末しないと、とても中に入れてもらえないようね。」
「これならどうだ!!」
アレンは頭上にしがみ付いている金属の犬に剣を突き立てる。剣は金属の犬の顔面を見事に刺し貫いた。「リーナ!運転代わって!!」
確信を得たアレンは一度スピン・ターンをして金属の犬を振り払ってからドルゴを止める。すぐにアレンとリーナが位置を入れ替わる。「適当に走らせて!」
「振り落とされるんじゃないわよ!」
「これでも食らえ!!」
リーナは建物に衝突する寸前のところでスピン・ターンする。「ズーダ・ディジェール・アル・フォンド!空を裂き出でよ雷の剣!ジルヴァルド19)!!」
フィリアはなおもしがみ付く金属の犬に、あまり使わない電撃の魔法を浴びせる。経験的に金属=電撃が効果ありと判断したのだろう。「よーし、これだけ減らせば大丈夫だ!」
「でも、ドアが・・・。」
「あんなもの、あたしが吹っ飛ばしてやる!!」
「高密度のエネルギー反応あり!大型火器の可能性大!」
「いっけぇ!レイシャー・フルパワー!」 リーナの両手から眩い光の帯が迸り、閉ざされた扉に命中する。大音響と共に扉が粉砕され、瓦礫がばら撒かれる。「行くわよ!!」
リーナは土煙が立ち込める中、ドルゴを建物へと突進させる。けたたましく重低音の警報が鳴り響き、またもあの無機質な声が響く。「3名の侵入者、管理棟入口を破壊し、管理棟内部に侵入!IG-200HMは直ちに迎撃態勢に入れ!」
一行は目茶目茶に破壊された扉から建物内部に突入した。建物内部はこれまでとは打って変わって、明るく照らされている。「ここは・・・。」
「凄く奇麗・・・。」
「人がいるの?何百年も前の建物なのに?」
「一体、何処に行けば・・・。」
アレンは目標か目印になるようなものを探す。すると、前方の壁に文字が刻まれたプレートが幾つも縦に整然と並べられているのが目に留まる。「リーナ。前にあるあのプレートの近くに行って。」
アレンが言うと、リーナはゆっくりとプレートの近くまでドルゴを走らせて止める。アレンがプレートに目をやると、そこには矢印と共に何処かで見たことの「・・・これって、マイト語じゃないか?」
「そう言われてみれば、そうね・・・。」
「でも、何か違うみたい・・・。見たこともない文字がいっぱいあるし・・・。」
それまで黙ってプレートを見ていたリーナが言った。「・・・マイト語には違いないけど、今のとは違うわね。多分、古代マイト語よ。」
「読めるの?」
「まあね。どうも案内用みたいね、このプレートは。」
「何て書いてあるのよ?」
「上から・・・『総合受付』『所長室』『庶務部』『経理部』『会議室』・・・。ここまでは何とか読めるけど、あと2枚は意味が分かんない・・・。見たことも聞いたことも
ない単語よ。」
「その辺が怪しいな。その2枚のプレートは何処に行けって書いてある?」
「矢印の方向からすると、2枚とも奥へ行けって指示してあるわよ。」
「じゃあ、そっちへ行こう。」
「な、何よ、あれ・・・!」
フィリアは異様としか表現できない光景に恐怖でがたがたと震えた。「構ってられないわ。行くわよ!!」
リーナがドルゴの手綱を叩いた瞬間、金属の骸骨が一斉に手に持っていた筒を向ける。雷が同時に空を引き裂いたかのような激しい音と共に、結界に「追って来るぞ!」
後ろを見たアレンが叫ぶ。再び激しい音と共に小さな物体が立て続けに結界に叩き付けられる。「奴等、変な飛び道具を持ってるぞ!」
「あれが古代文明の兵器なの?」
「このっ!!」
リーナがドルゴを大きく左に寄せる。金属の骸骨が結界と壁に挟まれ、激しい火花を飛び散らせる。しかし、金属の骸骨は表情を変えることもなく、「しつこい奴等。余程性格の悪い奴が作ったのね。」
「でも、金属の塊がなんで勝手に動いてるんだ?」
「あたし達より先に潜入した調査隊の目的は、こんな物騒なものを手に入れるためなの?」
「・・・違うわね。あいつらは単なる迎撃部隊。本当に重要なものは別よ。」
「あの不気味な声が言ってたでしょ?侵入者を迎撃せよって。奴等は侵入者迎撃用の兵器よ。それに本当に大事なものがのこのこと侵入者の前に
のこのこ姿を現すと思う?」
「あの声か・・・人がいる筈もないのに、あの声は一体何なんだ?」
「さあね。」
「侵入者は2階に到達。直ちに迎撃せよ!」
あの無機質な声が廊下中に響き渡る。「この声の主は、一体何処からあたし達を見てるの?何で誰もいないのにあたし達の居場所が分かるの?」
「何処から見てるんでしょ?慌てるあんたを悠然とね。」
「しつこいって言ってるでしょ!」
リーナはドルゴを全速力で走らせる。廊下は一直線に伸び、突き当たって右に折れている。「管理棟への侵入者、端末室に接近中!非常用シャッター閉鎖!IG-200HMは迎撃せよ!」
あの無機質な声が響くと、天井から低い音を立てて灰色の壁がゆっくりと降りて来た。「邪魔するなあー!!レイシャー!!」
リーナは右手の人差し指を前に向けて叫ぶ。指先から眩い光線が迸り、半分以上閉まった壁をぶち抜く。そこへリーナはためらうことなく体当たりする。「何て頑丈な壁なのよ!」
リーナは何としても突破しようと、必死の形相でドルゴの手綱を何度も叩く。アレンは金属の骸骨を続々となぎ倒していったが、その残骸を踏み越えて「離せ!!」
アレンは左手一本で剣を持ち、金属の腕を叩き落とす。それでもなお金属の腕は、アレンの右腕を掴んで離さない。「伏せなさい!」
背後から叫び声がした。アレンがとっさに身を屈めると、リーナが人差し指を後ろに向けて叫ぶ。「レイシャー!!」
アレンの頭上を掠めた光線が結界を突き抜けて、金属の骸骨を貫通する。「乗るのよ!!」
アレンは左腕からなおも離れない金属の骸骨の腕を斬り落として、尚も残る指をもぎ取り、ドルゴに飛び乗る。「ええい、面倒!!」
リーナは目を血走らせて、レイシャーを召喚して壁に穴を開ける。そこに勢い良く体当たりし、強行突破を図る。金属の骸骨は一行が開けた穴を潜り「このっ、このっ!!」
リーナは強引にドルゴを進ませようとする。しかし、それとは裏腹に壁の穴はなかなか開かない。「システム・インタラプト発生!システム・インタラプト発生!」
あの無機質な声が響き渡る。「どうしたの?突然壁が開いて・・・。」
「さっき、何やら言ってたよな。意味は分からないけど。」
「何かが発生したって言ってたわ。あの声の『主』の意志とは反対なことは確実ね。」
「ここに何かある。」
リーナはこれまでの状況から扉の重要性を推理する。「あの声の『主』は、あたし達にここに来られるのを嫌がってたのよ、きっと!」
フィリアが言うや否や、リーナは両手を扉に向ける。この建物の入口を同様に破壊するつもりなのだろう。「警告!A級警戒態勢プログラムに対して内部から重大なシステム・インタラプト発生!端末室入口オートロック解除!」
あの無機質な声が異常を知らせているようだ。「アンチ・ハッカー・セキュリティ一部解除!ウイルス注入フォールト!」
一行は顔を見合わせた。「・・・どうする?」
「・・・入ってみるか。中に何か重要なものがあるかもしれない。」
「・・・良いんじゃない?」