Saint Guardians

Scene 2 Act2-3 潜入-Infiltrating- 暗黒に佇む白亜の砦

written by Moonstone

 未知の空間へ誘う巨大な入口から、アレン、フィリア、リーナの一行は謎の古代遺跡に突入した。入口をくぐった瞬間、体全体を揺さぶるような
けたたましい警報が鳴り響く。

「関係者識別データ未登録の集団が新たに正面入口より敷地内に侵入。付近を警戒中のイントルーダ・ガーディアンは直ちに迎撃せよ。 A級警戒態勢
発令中につき、対象は抹殺せよ。繰り返す。A級警戒態勢発令中につき、対象は抹殺せよ。」

 あの低い無機質な声が残響成分豊かに体に染み込んで来る。

「結界を張って!!」

 アレンが叫ぶ。姿無きこの遺跡の「主」は、確実に一行を敵と認識している。言っている内容は分からずとも、説得もこちらの事情も全く受けつけない
異質の相手だとアレンは直感する。
 フィリアとリーナもそう感じたのか、半透明の結界を張り巡らせる。
その直後、周囲の闇から幾つかの白い軌跡と共に何かが一行目掛けて突進して来る。一行の結界に命中すると、重厚な爆発音と閃光が暗闇を切り裂く。
それを合図に白い軌跡が続々と一行目掛けて突進して来る。

「何だ、一体?!」
魔法反応18)が全然無いよ!」

 フィリアは悲鳴のように叫ぶ。

「・・・魔法じゃない。火薬の匂いがする。」

 リーナは対照的に冷静に状況を判断する。

「火薬?!じゃあ、火薬付きの弓矢?!」
「そんな感じのものね。ただ、それより遥かに強力なのは確かよ。」

 激しい爆炎に包まれながら、一行はひたすら先に突入した調査隊に追い付くべくドルゴを走らせる。だが、暗闇で周囲5メールもろくに見えない上に
激しい爆炎に視界を遮られ、全く足取りを掴めない。一行は絶え間なく続く見えない敵からの攻撃に受けながら、暗闇を闇雲に走り続けるだけだ。

「くそっ!これじゃ埒があかない!どうする?!」
「どうするって言われても・・・。」

 途方に暮れるアレンとフィリアに、リーナが言う。

「建物に入るのよ。あの気味悪い声の主を叩けばどうにかなる筈。」
「建物に?!でも、建物っていってもどれがどれだか・・・。」
「そんなもの適当よ!奴等も何かを探して何処かの建物に入った筈よ!」

 リーナは躊躇するアレンの腕を掴んで叫ぶ。

「早く!!ぼうっとしてる暇なんてない筈よ!!」

 アレンは爆炎の向こうから微かに見える、近くの白亜の建物に向かってドルゴを走らせる。

「全IG-100SPへ。侵入者は何れもエネルギー勾配による防禦壁を張り巡らせている。攻撃をIG-101DGに切り替える。管理棟に向かっている3名の
侵入者集団の防禦壁は比較的弱く、IG-101DGの集中攻撃で突破できる可能性有り。」

 またしても、あの気味悪い無機質な声が響き渡る。

「管理棟・・・。どうやら正解みたいね。」

 リーナが呟く。意味不明な部分もあるが、ある程度は「主」の言語が理解できるのだ。

「管理棟というくらいだから、弓矢を飛ばして来る奴等の親玉がいる筈。奴を叩けば・・・!」
「そうと分かれば一気に行くぞ!」

 アレンはドルゴを建物に向かって全速力で走らせる。暗闇に浮かび上がる白い建物がどんどん迫って来る。
正面にぴったりと閉じられた入口らしいものが見えた。
 突然、結界のあちこちで激しい火花が飛び散る。一行が驚いて見ると、結界から白銀色に輝く何かが少し顔を覗かせていた。激しい火花に照らされた
それは、金属で形作られた犬達であった。見たこともない異様な光景に、一行は悲鳴を上げる。

「な、な、何だ、こいつら?!」
「金属で出来てる!!」

 結界には数匹の金属の犬がしがみ付いている。金属の犬は激しい火花をものともせずに何度も結界に鋭い牙を立て、一行に食らいつこうと暴れている。

「しっかり捕まってて!!」

 アレンが言うと、フィリアはアレンの、リーナはフィリアの腰にしっかりとしがみつく。

「振り落としてやる!!」

 アレンはドルゴをいきなりスピン・ターンさせる。ドルゴと共に結界が大きく傾き、その拍子に金属の犬が弾き飛ばされる。
ガシャンという金属が地面にぶつかる音が響く。
しかし、あれほど激しく地面に叩き付けられたにもかかわらず、金属の犬はすぐに起き上がって、一行目掛けて飛び掛かって来る。またしても激しい火花が
飛び散る。
金属の犬は、結界を食い破らんばかりの勢いで何度も牙と爪を突き立てる。アレンはすぐにスピン・ターンで振り払ったが、それでも尚金属の犬達は怯まず
襲い掛かって来る。

「何て奴等だ!」
「ある程度始末しないと、とても中に入れてもらえないようね。」

 アレンはリーナの言葉を聞いて、右手で腰の剣を抜く。

「これならどうだ!!」

 アレンは頭上にしがみ付いている金属の犬に剣を突き立てる。剣は金属の犬の顔面を見事に刺し貫いた。
アレンは剣を大きく上から下へと振り下ろす。金属の犬は野菜のように簡単に真っ二つに切り裂かれ、二つに分かれて地面に落下する。
ガシャンという音が2回、僅かにずれて聞こえた。

「リーナ!運転代わって!!」

 確信を得たアレンは一度スピン・ターンをして金属の犬を振り払ってからドルゴを止める。すぐにアレンとリーナが位置を入れ替わる。

「適当に走らせて!」
「振り落とされるんじゃないわよ!」

 リーナは手綱を強く叩く。ドルゴが再び走り出し、それに金属の犬が一斉に襲い掛かる。
アレンはしっかりとドルゴを両足で挟み込み、結界にしがみ付く金属の犬に剣を突き立てては斬り裂く。リーナは建物目掛けてドルゴを突進させる。

「これでも食らえ!!」

 リーナは建物に衝突する寸前のところでスピン・ターンする。
側面にしがみ付いていた数頭の金属の犬は、建物の壁に叩き付けられ、さらに結界と壁に挟み付けられる。激しい火花が飛び散り、金属の犬が爆発を
起こし、金属の破片があちこちに飛び散る。
暫し戦闘から離れていたフィリアは、ようやく自分の魔力がドルフィンに貰った腕輪のお陰で上昇していることを思い出した。

「ズーダ・ディジェール・アル・フォンド!空を裂き出でよ雷の剣!ジルヴァルド19)!!」

 フィリアはなおもしがみ付く金属の犬に、あまり使わない電撃の魔法を浴びせる。経験的に金属=電撃が効果ありと判断したのだろう。
その直感は見事に的中する。電撃を浴びた金属の犬は次々に爆発し、無残な残骸となって力無く地面に落下していく。

「よーし、これだけ減らせば大丈夫だ!」
「でも、ドアが・・・。」
「あんなもの、あたしが吹っ飛ばしてやる!!」

 リーナが手綱から手を離して、両手を正面に見える扉に向けて精神を集中する。翳した両手が青白く輝き始め、その光が急速に大きく膨らんでいく。
それを察知してか、あの無機質な声が響く。

「高密度のエネルギー反応あり!大型火器の可能性大!」

「いっけぇ!レイシャー・フルパワー!」

 リーナの両手から眩い光の帯が迸り、閉ざされた扉に命中する。大音響と共に扉が粉砕され、瓦礫がばら撒かれる。

「行くわよ!!」

 リーナは土煙が立ち込める中、ドルゴを建物へと突進させる。けたたましく重低音の警報が鳴り響き、またもあの無機質な声が響く。

「3名の侵入者、管理棟入口を破壊し、管理棟内部に侵入!IG-200HMは直ちに迎撃態勢に入れ!」

 一行は目茶目茶に破壊された扉から建物内部に突入した。建物内部はこれまでとは打って変わって、明るく照らされている。
白一色の壁や床は、古代遺跡とは思えないほどに美しく、土足で乗り込むのが気が引ける思いすらさせられる。

「ここは・・・。」
「凄く奇麗・・・。」
「人がいるの?何百年も前の建物なのに?」

 一行はドルゴを止めて周囲をきょろきょろと見回す。廊下は前方と左右の3方向に分かれ、前方の廊下の奥には階段らしき物が見える。

「一体、何処に行けば・・・。」

 アレンは目標か目印になるようなものを探す。すると、前方の壁に文字が刻まれたプレートが幾つも縦に整然と並べられているのが目に留まる。

「リーナ。前にあるあのプレートの近くに行って。」

 アレンが言うと、リーナはゆっくりとプレートの近くまでドルゴを走らせて止める。アレンがプレートに目をやると、そこには矢印と共に何処かで見たことの
ある文字が刻まれている。

「・・・これって、マイト語じゃないか?」
「そう言われてみれば、そうね・・・。」

 フィリアが相槌を打つ。

「でも、何か違うみたい・・・。見たこともない文字がいっぱいあるし・・・。」

 それまで黙ってプレートを見ていたリーナが言った。

「・・・マイト語には違いないけど、今のとは違うわね。多分、古代マイト語よ。」
「読めるの?」
「まあね。どうも案内用みたいね、このプレートは。」

 リーナはプレートの文字を注意深く読む。

「何て書いてあるのよ?」
「上から・・・『総合受付』『所長室』『庶務部』『経理部』『会議室』・・・。ここまでは何とか読めるけど、あと2枚は意味が分かんない・・・。見たことも聞いたことも
ない単語よ。」
「その辺が怪しいな。その2枚のプレートは何処に行けって書いてある?」
「矢印の方向からすると、2枚とも奥へ行けって指示してあるわよ。」
「じゃあ、そっちへ行こう。」

 リーナがドルゴを走らせようとした時、周囲のドアが一斉に勢い良く開いた。一行が見ると、金属で出来た骸骨が鎧を着込んだかのような格好の物体が
中から続々と出てきた。手にはどれも細長い筒のような物を持ち、目は異様に赤く輝いている。

「な、何よ、あれ・・・!」

 フィリアは異様としか表現できない光景に恐怖でがたがたと震えた。

「構ってられないわ。行くわよ!!」

 リーナがドルゴの手綱を叩いた瞬間、金属の骸骨が一斉に手に持っていた筒を向ける。雷が同時に空を引き裂いたかのような激しい音と共に、結界に
小さな物体が高速で次々に叩き付けられる。
一行を乗せたドルゴは前方の廊下を疾走する。金属の骸骨がガチャッ、ガチャッと足音を立てながら、一行の後を走って追って来る。

「追って来るぞ!」

 後ろを見たアレンが叫ぶ。再び激しい音と共に小さな物体が立て続けに結界に叩き付けられる。

「奴等、変な飛び道具を持ってるぞ!」
「あれが古代文明の兵器なの?」

 長い廊下を一行はひたすら前へ走る。突然、左右のドアが開き、中から次々とあの金属の骸骨が飛び出して来る。フィリアが悲鳴を上げる。

「このっ!!」

 リーナがドルゴを大きく左に寄せる。金属の骸骨が結界と壁に挟まれ、激しい火花を飛び散らせる。しかし、金属の骸骨は表情を変えることもなく、
平然と手に持っていた筒を一行に向ける。
 リーナはドルゴを左右に寄せて、金属の骸骨を壁と結界で挟む。だが、金属の骸骨は一体たりとも壊れることはない。どうやら建物外部で執拗に
襲い掛かってきた金属の犬よりもずっと頑丈に出来ているようだ。
 結界後部に無数の物体が衝突しては、小さな火花を散らせる。二重に結界を張っているから防禦できているものの、結界を張っていなかったらたちまち
穴だらけにされているかもしれない。
 階段のところでリーナは急速に向きを変えて、ドルゴを階段に沿って上へと走らせる。あのガチャッ、ガチャッという足音はなお数を増して一行を
追って来る。

「しつこい奴等。余程性格の悪い奴が作ったのね。」
「でも、金属の塊がなんで勝手に動いてるんだ?」

 アレンは疑問で仕方が無い。
遺跡である以上、内部に人がいたとしてもとっくに寿命が尽きて白骨になっているだろう。それなのに、金属の犬にしろ骸骨にしろ、内部に人が入って
いるとは到底思えないようなものが自分達を執拗に攻撃し、度々響くあの無機質な声の「主」は確実に一行の動きを捉えている。コンピュータ、ましてや
機械という概念がない一行には、人がいないのに動くものなど想像も出来なかったのである。

「あたし達より先に潜入した調査隊の目的は、こんな物騒なものを手に入れるためなの?」
「・・・違うわね。あいつらは単なる迎撃部隊。本当に重要なものは別よ。」

 リーナがドルゴを操りながら後ろのフィリアの疑問に答える。

「あの不気味な声が言ってたでしょ?侵入者を迎撃せよって。奴等は侵入者迎撃用の兵器よ。それに本当に大事なものがのこのこと侵入者の前に
のこのこ姿を現すと思う?」
「あの声か・・・人がいる筈もないのに、あの声は一体何なんだ?」
「さあね。」

 アレンの疑問に、リーナは素っ気無く答える。
一行を乗せたドルゴは2階に辿り着いた。

「侵入者は2階に到達。直ちに迎撃せよ!」

 あの無機質な声が廊下中に響き渡る。

「この声の主は、一体何処からあたし達を見てるの?何で誰もいないのにあたし達の居場所が分かるの?」
「何処から見てるんでしょ?慌てるあんたを悠然とね。」

 得体の知れない恐怖感で弱気になりかけているフィリアとは対照的に、リーナは相変わらず落ち着き払っている。
下の方からガチャッ、ガチャッとあの足音が近付いて来る。

「しつこいって言ってるでしょ!」

 リーナはドルゴを全速力で走らせる。廊下は一直線に伸び、突き当たって右に折れている。
左右のドアが一行を待ち受けていたかのように開き、そこから続々と金属の骸骨が現れる。リーナは全速力でドルゴを走らせ、立ち塞がろうとする金属の
骸骨を跳ね飛ばす。跳ね飛ばされた金属の骸骨は、壁谷天井や床に勢い良く叩き付けられたが、間もなく何事もなかったかのように立ち上がって
追いかけて来る。金属の骸骨は手にした細長い筒から集中豪雨のように小さい物体を迸らせる。
 リーナは急速に向きを変えて廊下を曲がる。廊下は一直線に伸び、その突き当たりに階段らしいものが見える。左側はガラスらしい透明の窓があったが、
外は真っ暗闇で全く様子が分からない。右側には扉が並び、そこから続々とあの金属の骸骨が現れて来る。
ガチャッ、ガチャッと金属質の足音を立てて、一行を前後から挟み撃ちにする格好で迫って来る。リーナはドルゴを全速力で走らせ、立ち塞がる金属の
骸骨をなぎ倒していく。左側に跳ね飛ばされた金属の骸骨は、甲高い音を立てて割れた窓の破片と共に地上に落下していく。

「管理棟への侵入者、端末室に接近中!非常用シャッター閉鎖!IG-200HMは迎撃せよ!」

 あの無機質な声が響くと、天井から低い音を立てて灰色の壁がゆっくりと降りて来た。

「邪魔するなあー!!レイシャー!!」

 リーナは右手の人差し指を前に向けて叫ぶ。指先から眩い光線が迸り、半分以上閉まった壁をぶち抜く。そこへリーナはためらうことなく体当たりする。
激しい火花が飛び散る。灰色の壁に開けられた穴が徐々に溶けて広がっていく。
 その間に、後ろから金属の骸骨が続々と迫って来た。アレンがドルゴを降り、結界越しに間合いに入った金属の骸骨に剣を振り下ろす。
金属の骸骨は頭から真っ二つに切り裂かれ、両側に別れて床に崩れ落ちる。アレンはがむしゃらに剣を振り回し、金属の骸骨の進行を食い止める。
灰色の壁の穴がかなり開いて来た。

「何て頑丈な壁なのよ!」

 リーナは何としても突破しようと、必死の形相でドルゴの手綱を何度も叩く。アレンは金属の骸骨を続々となぎ倒していったが、その残骸を踏み越えて
新たな金属の骸骨が現われて来る。
一体の金属の骸骨が左手を結界に突っ込む。激しい火花を撒き散らしながら、金属の腕が結界内部に入り込んで来た。
一部が結界との摩擦熱で溶解したその腕はアレンの右腕を捕らえた。異様な冷たさと強烈な痛みがアレンを襲う。

「離せ!!」

 アレンは左手一本で剣を持ち、金属の腕を叩き落とす。それでもなお金属の腕は、アレンの右腕を掴んで離さない。
アレンが怯んだ隙に、金属の骸骨が続々と結界に腕を突っ込んで来た。アレンは後ろに下がったが、金属の骸骨はとうとう結界を突破しようとするところ
まで歩を進めて来た。

「伏せなさい!」

 背後から叫び声がした。アレンがとっさに身を屈めると、リーナが人差し指を後ろに向けて叫ぶ。

「レイシャー!!」

 アレンの頭上を掠めた光線が結界を突き抜けて、金属の骸骨を貫通する。

「乗るのよ!!」

 アレンは左腕からなおも離れない金属の骸骨の腕を斬り落として、尚も残る指をもぎ取り、ドルゴに飛び乗る。
灰色の壁の穴が広がり、結界が通り抜けられる幅になった。裂け目から弾け飛ぶかのように一行を乗せたドルゴは走り始める。しかし、すぐに灰色の壁が
立ち塞がっているのが見えた。

「ええい、面倒!!」

 リーナは目を血走らせて、レイシャーを召喚して壁に穴を開ける。そこに勢い良く体当たりし、強行突破を図る。金属の骸骨は一行が開けた穴を潜り
抜けて、ガチャッ、ガチャッという足音と共に迫って来る。

「このっ、このっ!!」

 リーナは強引にドルゴを進ませようとする。しかし、それとは裏腹に壁の穴はなかなか開かない。
突然、灰色の壁がゆっくりと上に上昇し始めた。

「システム・インタラプト発生!システム・インタラプト発生!」

 あの無機質な声が響き渡る。
一行が通れる分だけ壁が開くと、一行はすぐさま壁の下を潜り抜ける。一行が通り抜けるとその壁はゆっくりと降り、間一髪のところで金属の骸骨の進行を
食い止める。金属の骸骨が激しく灰色の壁を乱打する音が背後から聞こえて来る。

「どうしたの?突然壁が開いて・・・。」
「さっき、何やら言ってたよな。意味は分からないけど。」
「何かが発生したって言ってたわ。あの声の『主』の意志とは反対なことは確実ね。」

 一行を乗せたドルゴは、一直線に伸びる廊下を走る。正面に巨大な扉が見えた。リーナはドルゴを止める。
今までの扉と同様に、ノブのない中央に切れ目があるだけのものだったが、大きさが異なる。

「ここに何かある。」

 リーナはこれまでの状況から扉の重要性を推理する。

「あの声の『主』は、あたし達にここに来られるのを嫌がってたのよ、きっと!」

 フィリアが言うや否や、リーナは両手を扉に向ける。この建物の入口を同様に破壊するつもりなのだろう。
リーナの両手が青白く輝き始めた時、ピッピッピッという短い音がして扉の左脇のランプが赤から緑に変わった。
扉が空気が風船から抜けるような音と共に、中央で両側に分かれて勢い良く開く。

「警告!A級警戒態勢プログラムに対して内部から重大なシステム・インタラプト発生!端末室入口オートロック解除!」

 あの無機質な声が異常を知らせているようだ。

「アンチ・ハッカー・セキュリティ一部解除!ウイルス注入フォールト!」

 一行は顔を見合わせた。

「・・・どうする?」
「・・・入ってみるか。中に何か重要なものがあるかもしれない。」
「・・・良いんじゃない?」

 一行は頷いた…。

用語解説 −Explanation of terms−

18)魔法反応:魔法を使用すると必ず残留する、放出された魔力の一部。拳銃を使用した時に残る硝煙反応のようなもの。これにより使用された魔法の規模や
使用からの経過時間が分かる。魔力を感じることが出来れば知覚できる。


19)ジルヴァルド:力魔術の一つで雷魔術系に属する。Thaumaturgist(魔術師の8番目の称号)から使用可能。静電気を発生させて、蓄積したその電荷を
一気に対象へ放出する。瞬間電圧は数千V以上であり、相当の効果を期待出来る。


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