「どうしたもんか・・・。」
ドルフィンは難しい表情でコーヒーを一口飲む。「おはよう、ドルフィン。」
アレンとフィリアが、やや遠慮気味に声を掛ける。ドルフィンの厳しい表情を見て、何となく声を掛け辛く感じたのである。「おお、おはよう。もう起きたのか?」
「よく眠れたよ。久しぶりにベッドの上で寝たからね。」
「ドルフィンさん、早起きなんですね。」
「ちと夜遊びしてたから寝てないんだが。・・・まあ、座れや。」
「何か考え事でもしてたの?」
「ああ。例の鉱山閉鎖のことだ。」
「どうも奴等、かなり怪しいことやってるようだ。単なる趣味や道楽じゃねえ。」
「調査したの?」
「もう少し踏み込んだところまで調べるつもりだったんだが、よりによってトラップに引っ掛かっちまった。」
「もしかして、昨日の夜中にやけに外が騒がしくなったのは・・・?」
「そう、俺が原因だ。折角の安眠を妨害してすまなかったな。」
「いや、そんなこといいよ。で、どうするの?」
「できるだけ早めに行動を起こしたいんだが、ここの住人として生きてる俺が下手に動くと、飼い犬に知られた場合、この店が危ない。思うように動けないって
わけだ。」
「ドルフィン、どうしてこの店のために動こうとしてるの?前に、父さんの救出に関係ないことはしないって言ってたのに。」
「なかなかよく覚えてるな。本当はそうなんだが、ちと事情ができてな。駄目か?」
「そんなこと・・・。ドルフィンには本当に色々助けてもらってるし、このくらいのことは。」
「すまんな。勝手なこと言って。」
「ドルフィンさん。何なら・・・あたしとアレンがやってみましょうか?」
フィリアの大胆不敵な申し出に、アレンは勿論、ドルフィンも驚きを隠せない。「ドルフィンさんには助けてもらってばかりですし、ここで一つ、今度はあたし達が助ける番かなと。」
「・・・折角の申し出だが、受けるわけにはいかんな。」
「奴等の規模はテルサとは比べ物にならん。おまけに今度は魔術の心得がある奴が混じってる。はっきり言って、お前達の力ではどうにもならん。
わざわざ死にに行かせるようなもんだ。」
「ドルフィンさん。お言葉ですが、あたしはこの旅に参加したいと言った時、覚悟はできていると断言しました。その気持ちに変わりはありません。」
「・・・自分の言葉には責任を持つ。魔術師である前に、人間として大切な心構えだ。その心構えに賭けてみるのも良いだろう。」
「あ、ありがとうございます。」
「アレンは良いのか?お前は仮にも父親と逢うことを目的にしている。わざわざ危険に飛び込むことはねえぞ。」
「ドルフィンは前に勇気こそ最大の武器だって言ったよね。ここで…、自分の勇気を試してみたい。」
「下手すりゃ死ぬかも知れんぞ。」
「行く。今度は俺達がドルフィンを助ける番だから。それに・・・男の俺がフィリア一人で行かせるわけにはいかないよ。」
「似た者同志だな。じゃあ、似た者同志で行ってこい。」
「ありがとう、ドルフィン。」
「礼は俺が言うべきだ。お前達の勇気に敬意を表して、ささやかなプレゼントをやろう。まずはアレン、お前にはこれだ。」
「これは魔水晶だ。」
「魔水晶?」
「召喚できる魔物を、水晶の結晶に封じ込めたものだ。床にでも叩き付けて割ってやれば召喚できる。一つにつき一匹しか召喚できんし用が済んだら
それっきりだが、強力な奴を封じ込めてある。大事に使え。」
「中に何が入ってるの?」
「今は言えん。ここで名前を言うと、召喚したことになって効果がなくなっちまう。どれも戦いに役立つことは間違いないから、安心しろ。効果は中心の色で
判別が付く。赤が攻撃、緑が防禦だ。赤が2つに緑が1つある。」
「次はフィリアだ。お前にはこれをやろう。」
ドルフィンはポケットから2つの腕輪を取り出す。腕輪はどれも黄金に輝き、細かい彫刻が前面に施されている。1つにはサファイアが、もう1つには「これは魔力増強の腕輪と防御力上昇の腕輪だ。サファイアの嵌まっている方が防御力上昇で、ルビーが魔力増強だ。どれも術者の能力を2倍にする。
仮にもPhantasmistだから、それを嵌めれば魔力は相当強力になる。エルシーア9)でも鉄の鎧くらいは楽にぶち抜けるぞ。」
「ありがとうございます。」
「腕輪はどっちの腕に嵌めてもいい。腕輪本体も頑丈だから多少ダメージを受けても壊れたりしない。」
「行動は夜の方がやり易いだろう。何せ兵士共がうろちょろしてるからな。できるだけ人目に付きにくい方が良い。」
「でも、問題の遺跡がある鉱山って何処にあるの?俺達、この町の人間じゃないから分からないんだけど。」
「うーん。この町に入る時に通って来た取水トンネルを通れたところで、そこから鉱山まではかなりあるからな・・・。」
「・・・こうするか。こうするしかないか・・・。」
「どうしたの?」
「俺の他に取水トンネルの構造を把握できて、町から鉱山までの行き方を知っている人間があと一人いる。」
「あと一人って・・・ま、まさか・・・。」
「そのまさかだ。リーナを連れて・・・。」
「あたしは嫌です!!」
「絶対嫌です!!あんな奴と組むくらいなら、あたしは行きません!!」
「言うと思った・・・。」
「だが、地理も分からんお前達二人が、鉱山まで行けるか?」
「無理だよ。山道で下手に迷ったら、警備中の兵士に捕まる可能性が高い。」
「そのとおりだ。リーナはこの町の人間だから取水トンネルの構造も把握できるだろうし、鉱山までの道も知ってる。道案内にはもってこいだ。」
「・・・でも、協力なんてしてくれるのかな?あの娘、あんな調子だし・・・。」
「それは俺が言い出した以上、責任を持って説得する。」
「今からリーナの部屋に行って来る。ちょっと待っててくれ。」
ドルフィンはそう言って席を立ち、食堂から出て行く。バタンとドアが閉まると、フィリアがアレンの耳元で疑問を口にする。「アレン、あんな奴があたし達に協力なんてしてくれると思う?どう考えても第二の敵になると思う。」
「味方になるなんて期待はしてないよ。ただ・・・。」
「ただ?」
「あの娘、ドルフィンの言うことは何故か素直に聞くみたいだから、少なくとも敵になることはないと思う。」
「どうかしら・・・。」
「やっぱり無理なのかしら。」
「うーん・・・。」
「待たせてすまん。どうにか説得できた。」
ドルフィンは軽くため息を吐く。「よく受け入れたね。時間が掛かっているからてっきり・・・。」
「最初は断固拒否だったんだが、粘り強く説得したら何とか応じてくれた。あいつとて聞く耳がないわけじゃない。」
「でも良かったよ。」
「お前達は朝飯でも食べてろ。どのみち夜までやることはねえし。」
「そうするよ。お腹すいて来たし。」
「朝食はカウンターで注文すればいい。前もって伝えておいてあるから安心しろ。俺は用事があるんで部屋に戻る。」
「混んで来たねえ。」
「なくなるといけないから、早く注文しに行こう。」
「アレンさんにフィリアさんですね?ドルフィンさんから話は伺っておりますよ。」
カウンターの奥で食事を並べていた中年の女性が、二人を見て言う。「何にしますか?メニューは手元にありますよ。」
カウンターのテーブルには、5種類の朝食のメニューが描かれている。「うーんと、どれにしようかなあ・・・。Aも良さそうだけど、Bもいい感じだし。あ、でも、Cでもいいなあ・・・。」
メニューを見比べながら考え込むアレンに、フィリアは空腹もあって苛立ちが募っていく。「あーもう!アレンに任せてたらいつまで経っても食べられない!あたしが決める!」
フィリアはカウンターにいたアレンを押しのけて、フィリアがメニューを見比べて言う。「これ!C二つお願いします!」
「はい。お席の方でお待ち下さい。」
「本当にアレンって、優柔不断よねえ。」
フィリアは不満そうに口を尖らせる。「ああいうのって苦手なんだよ。どれでも良さそうだし、一つ選んだら他のが良かったって後悔しそうだし。」
「これだって最初に思ったやつに決めちゃえばいいのよ。そういうときは。」
「あの子達かな?ドルフィンさんと一緒にテルサから来たのって。」
「赤い髪の子って、男の子なんだって。凄い美形よね。線が細くてスマートだし可愛らしい顔だし。」
「そうねえ。後で声かけてみよっか。」
「アレンって、どこでももてもてよね。アレンの話題で持ちきりよ。このこのぉ。」
フィリアが茶化す。「やっぱり、もてると嬉しいでしょ?」
「・・・あんまり嬉しくないなあ。」
「どうして?」
「だって、それは俺が女の子みたいで可愛いっていう理由からだろ?男らしいって見られてるわけじゃないから・・・。」
「贅沢な悩みよ、それって。良いじゃない。もててるんだから。」
「さ、食べようよ。」
「そうだね。」
「おいしいね、これ。」
「学生の人達って、こんな良いもの毎日食べてるんだな。」
「薬剤師になるのってお金掛かるらしいから、こういうのって有難いんじゃないかしら。」
「やあね、田舎者は。がつがつと食べてばっかりで。」
二人が驚いて顔を上げると、それはリーナだった。リーナはどかっと二人の向かい側の椅子に腰掛ける。フィリアとリーナの間に、再び激しい火花が「何よ。」
「席がないからここに来ただけ。朝御飯食べにね。文句ある?」
「あんた達ね。ドルフィンにどれだけ迷惑かけたら気が済むわけ?いい加減にしておきなさいよね。」
「どういう事?」
「呆れた。自分達が鉱山への行き方が分からないもんだから、ドルフィンに頼った挙げ句、あたしまで手を煩わせるくせに。」
「自分達で言い出したんなら、自分達で最後まで責任持ったらどう?自分達でやるって言っときながら、人様の手を煩わせるなんて、矛盾してるって
思わないの?どうしようもなく頼りない奴等ね。」
「しょうがないでしょ。この町の住人じゃないんだから。」
「この町の住人じゃないなら、この町のことに下手に首突っ込まないで欲しいわね。迷惑なのよ、あたしは。」
「ドルフィンさんが動けないから、今度はあたし達が動くのよ。あんたにあれこれ言われる筋合いなんかない筈よ。」
「大体ね、あんた、どうして他人にそんなに露骨に敵意を剥き出しにするの?あたし達があんたに何か悪いことした?」
「したわよ。」
「いつ?何を?」
「今ここに居る事、存在そのものよ。」
「・・・どういうこと?それ。」
「言った通りの意味よ。」
「それに何?その態度。あんた達、あたしが協力しなかったら、何もできないことお忘れ?」
「何をお望み?」
「ま、土下座して泣きながら『リーナ様、ここは一つ、愚かで無知なあたし達のために一肌脱いで下さい。お願いします。』とでも懇願することね。」
「いい加減にしたら!そのでかい態度!あんた、自分を何様だと思ってるの!」
「それはこっちの台詞よ!それが人にもの頼む時の態度?ちょっとは申し分けなさそうにしたら!」
「態度がでかいって、あんたに言われたかないわね!」
「喧嘩売ってるの?また痛い目に遭いたいようね!」
「どっちが!謝るなら今のうちよ!」
「ちょ、ちょっと待った!」
フィリアとリーナは、同時にアレンの方を向く。「何?今度は二人がかりで挑もうって魂胆?」
リーナが身構えると、アレンは首を横に振る。「喧嘩は・・・後でもできる。今は互いに手を結ばないといけない。」
「あんた達と手を組む理由なんて、あたしにはないわよ。」
「いや、鉱山の閉鎖はこの町にとっても影響は大きい筈。それに、兵士達がこのまま居座ることは、君にとっても良いことじゃないだろ?」
「それに君が協力してくれないって言うんなら、ドルフィンの頼みを反故にすることになるんだよ。君にそれが出来る?」
リーナの表情が見る見るうちに歪み、握った右手がぶるぶると震える。偶然ではあったが、アレンはリーナにとって最も痛い所を突いたのである。「そ、それは…。」
「俺達が嫌ならそれでいい。だけど、一度協力するとドルフィンに約束したなら、それはきちんと果たすべきじゃないかな?」
「あんた・・・恥ずかしくないの?!人の弱みに付け込んで…!」
「嫌な奴だと思ってるだろうけど、そう思われても仕方ない。兎に角この喧嘩は、俺が一時預かるってことで・・・、どう?」
「いい度胸してるじゃない。あたしがその気になれば、この場であんたの命消し飛ばすことも出来るのよ。」
「・・・消し飛ばすなら、約束を果たしてからにしてくれない?」
「…良いわ。あんたの言うとおり、この場は押さえてあげる。あんた達に手を貸すわ。だけど・・・。」
リーナの表情の険しさが最高潮に達する。「その後で、あんた達二人まとめて消えてもらうわよ。覚悟しておきなさい!」
リーナは再び座ることなく、怒りの篭った速く激しい足取りで食堂を出て行く。「アレン・・・。格好良かったよ!」
「こ、恐かった・・・。殺されるかと思った。」
「いやあ、凄い。お嬢様のあの脅しに耐え切れるなんて。」
「よくあれだけ堂々と渡り合えたもんだ。」
「格好良かったわあ。私達だったら、とても耐えられないわ。」
「アレン。男らしかったよ。凄く!」
フィリアの一言がアレンの胸の奥をじんと震わせる。アレンは周囲の賞賛に戸惑いながらも、少しだけ自分の行動に自信が持てたような気がした。「来たか。じゃあ早速要領を説明するぞ。」
全員は床に腰を下ろし、ドルフィンが手書きの簡単な地図を前に広げる。地図には側面から見た山と、斜面から伸びるトンネルらしい線が描かれ、細かい「事前にパピヨンをあちこちに送り込んで出来る限り情報を集めておいた。魔術師の隙を突いて送り込むには苦労したぜ。これは鉱山に送り込んだパピヨンが
得た地形の情報から作った略地図だ。で、問題の奴等の調査とやらの進行状況だが・・・。」
「奴等は200メール程奥に入ったところで本来の坑道から大きく離れて、山の中心部に向かって斜め下に掘り進んでいる。」
「中心部には何があるの?」
「それなんだが・・・パピヨンが記録して来た会話を聞いても、何のことやらさっぱり分からねえんだ。まあ、ちょっと聞いてくれ。」
「内部構造はどうなっておるのだ?」
「はっ、魔法探査の結果、分厚い岩盤に被われた半球状の閉鎖空間に建造物が点在しており、目標の施設は最も奥にある模様です。小型の移動物体が
多数確認されておりますが、恐らくイントルーダ・ガーディアンだと思われます。」
「ゲート・キーパーは稼動しているのか?」
「建造物周囲にはイントルーダ・ガーディアンが配備されているようですが、ゲート・キーパーは確認できておりません。」
「イントルーダ・ガーディングの種類は分かるか?」
「はっ、断定は出来ませんが形状からしてIG-100SPが最も多く、建造物入口付近にIG-101DGが配備されている模様です。」
「100SPと101DGか。攻撃は防御できるのだろうな?」
「赤外線探査式超小型追尾ミサイルは爆発範囲を最小限に留めた対人兵器ですので、魔術師の結界を重ねれば十分防禦できるものと思われます。」
「問題はゲート・キーパーだな。ものがものだけに相当強力なものが配備されているだろう。」
「施設の重要度と機密性から、MGK-1100DRGが配備されている可能性が極めて高いものと思われます。」
「こんな訳の分からん会話が延々と続いてるんだ。ただ、会話の内容から、何かを入手するために古代遺跡を調査しているということは分かった。残響の
度合いから判断して奴等は今、相当広い空間にいるらしい。」
「やっぱり財宝か何かかな?」
「多分な。で、周辺は物凄い警備だ。入り口付近は数百人の兵士が固めていて、中にも警備の兵士がうじゃうじゃいる。」
「リーナは知ってるだろうが、川を渡ったところに森があって、それをまっすぐ抜ければ鉱山の麓に辿り着けるが、森の中でも兵士が警備してる。鉱山に
入るどころか、そこまで行くのも相当難しそうだ。」
「どうすれば・・・?」
「そんなの、問答無用に消し飛ばしちゃえば良いのよ。」
「国家のためにって動いてるんだから、国家のとやらのために死ぬ覚悟ぐらいできてるんでしょ?だったら遠慮なく殺っちゃえば良いのよ。」
「無駄な殺し合いはするべきじゃないと思うけど。」
「殺し合いに得や無駄があるの?あんたの言っていることは、単なる奇麗事よ。これだから物を知らない奴は・・・。」
「ま、事情が事情だ。戦闘は避けられんだろう。そうなったら躊躇した方が負けだ。」
「やっぱり、戦わなきゃ駄目みたいだね。」
「当然でしょ。殺さなきゃ自分が殺されるだけよ。」
「アレン。今回の行動はドルゴが重要だ。」
「どうして?」
「いちいち兵士を相手にしてたらきりがねえ。ドルゴで強行突破するんだ。」
「それで大丈夫なの?」
「ドルゴでは森は飛び越せないから、道を通る以外に方法はねえ。それに全速力で突進して来られると、大抵の人間は横に避ける。全速力のドルゴは相当の
スピードだ。十分走る凶器になる。」
「でも、俺のドルゴは二人乗りだよ。」
「何考えてるの、あんた。自分のドルゴぐらい持ってるわよ。」
「発掘には各地の政治犯が強制労働で駆り出されている。パピヨンの記録から分かったことだが、監視役の兵士の中には、魔術の心得を持つ者がいる。」
「魔道剣士11)ってやつ?」
「そうだ。勿論、専門の魔術師もいる。どうやら、Warlock12)クラスの奴もいるようだ。」
「魔術師のフィリアは結界をしっかり張ることだ。魔法のダメージも直に受けるよりは減らせるからな。」
ドルフィンは表情を厳しくして3人を見る。「三人共、今回ばかりはいがみ合わないことだ。内輪もめに気を取られたら・・・死ぬぞ。」
ドルフィンの忠告に、三人は身を固くする。「良いか?これ以上無理と思ったらすぐに逃げろ。誰もお前達を非難する資格はない。無理を承知で実行して失敗することが勇気ある行動と思うな。
それは無謀って言うもんだ。無理と明らかなら速やかに退くことが出来るのも勇気の証だ。それを忘れるな。」
「俺が言うことはそれだけだ。気をつけて行って来てくれ。」
三人は立ち上がり、緊張した面持ちで部屋を出て行く…。「間もなく発掘は完了です。進入用の暗号の解読も順調に進んでいます。」
黒地に金色の刺繍の施されたローブを纏った中年の女の魔術師が報告する。「そうか。ようやく古代の叡智が我々の手中に入る時が来たか。」
魔術師の横にいた、黄金に輝く趣味の悪い鎧を着た中年の男が感慨深げに言う。男は遺跡発掘が間近という報告を受けて視察にやって来た、国家特別「問題は建造物が今尚稼動しているかどうかということだ。あれを入手するには、建造物が稼動していないと不可能だと聞くが。」
「魔法探査の結果、建造物に目立った損傷が発見できなかったことから推測して、恐らく稼動していると思います。そもそも古代遺跡は、人がいなくとも
機械さえ正常であれば、何千年もの長い時間にわたって稼動し続けるというものということですし。」
「古代文明というものは、驚くべきものを作ったものだ。」
「どうした?まだ交代の時間じゃなかろう。」
「用足しだよ。こればっかりは我慢できるもんじゃないからな。」
「しょうがないな。速やかに戻って来いよ。長官が視察に来られていることだし、サボりがばれたら事だぞ。」
「分かってる。すぐに戻る。」
「赤い狼、夜空に向かい・・・。」
「勝利への咆哮を高らかに上げる。」
「その咆哮は夜空にこだまし・・・。」
「自由の夜明けを告げる。」
「首尾は?」
「遺跡の発掘はほぼ完了。進入のための暗号解読も進められている。」
「もはや時は来た。行動に打って出るべきだ。」
「ひとまず代表に連絡する。引き続き動向の監視にあたってくれ。」
「貴方は誰?ここは何処?」
人影は小声で答える。「我は自由を求める戦士。ここは自由の戦いの拠点。」
「よし、入れ。」
「代表。偵察にあたっている同志からの伝言のようです。」
ランプに照らされた人影は、まだ少女という年頃の女の子だ。「来たか。では、ファオマをこちらに遣してくれ。」
奥の方で数人と何やら話していた若い男が言う。少女は男にファオマを渡す。男が首の辺りを軽く掴むと、ファオマは単調な調子で青年からの伝言を「遺跡発掘は間もなく完了。至急行動を開始されたし。」
静かにファオマの伝言を聞いていた人々はざわめく。「代表。」
「・・・もはや猶予はない。囚われの罪なき人々や我々の同志を救い、国家権力の横暴を打破するのは今だ。決起する。」
「全員武器を取ってくれ。爆薬や煙幕、目潰しも全て持っていく。遺跡調査を実力で阻止し、政治犯を救出する。同志よ、行こう!」
「おーっ!」