written by Moonstone
「はい、安藤です。」
「こらーっ!祐司ーっ!」
「宏一か?お前・・・、挨拶くらいしろよ。いきなり電話口で叫ぶ奴があるか。間違い電話だったらどうするつもりだ?」
「これが叫ばずに居られるかってんだ!耕次から連絡があったとおり、お前が今付き合ってる彼女と一緒に写ってる写真を受け取ったんだが、夜電話に出やしねえから
今電話したんだぞ?ベイビィ!」
「言ってなかったか?俺は夜バイトがあるんだ。だから普通電話をする時間には誰も居ない。で?」
「で?じゃねぇよ!お前、本当にこの写真の彼女と付き合ってるのか?!」
「耕次達とも話して聞いたんだろ?俺の今の事情は。お前に送った写真に写ってるのは、紛れもなく俺と今付き合ってる彼女だ。」
「無茶苦茶美人じゃないか!何処でどうやって引っ掛けたんだ?!全部吐け!ベイビィ!」
「引っ掛けたって・・・人聞きの悪いこと言うなよ。お前じゃあるまいし。」
「何処で出会った?!どっちから声かけたんだ?!どうやって結婚指輪填めさせたんだ?!」
「・・・ったく。」
「−こんなところだ。」
「こんな美人から言い寄られるなんて・・・何て運の良い奴なんだ、お前。で、彼女の性格はどんな感じだ?」
「控えめで物腰は柔らかい。かなり頑固なところもあるが。」
「プレゼントとかは豪華にしてるのか?」
「否、値段がどうとかより、俺と一緒に居られることそのものを喜ぶタイプだ。実際、彼女に今まで贈ったプレゼントはアクセサリーなんだが、全部1万円以下。
でも彼女は値段や材質とか、そんなことは一切聞かない。話題になってるペアリングもそうだが、譲らなかったのは左手薬指に填めてくれってことだけだ。」
「随分燃費が良いな・・・。料理の腕は?」
「良い。実家の地域の違いで煮物とかが甘くなる傾向があるが、俺の好みに合わせてくれてる。自分で魚捌いて刺身も作れる。」
「お嬢様なのか?」
「実家の事情は彼女があまり話したがらないし、俺も聞かないからよく知らないが、躾は結構厳しかったらしい。」
「で、祐司さん、って呼ばれてるってのはマジなのか?」
「ああ。」
「同い年なんだろ?」
「否、学年は同じだが歳は彼女の方が1つ上だ。」
「オウ・・・。こんな美人に、しかも燃費が良くて料理も上手い彼女にさん付けで呼ばれてるとは・・・。何て女引っ掛けるのが上手い奴なんだ、お前は!」
「だから、引っ掛けるなんて人聞きの悪いこと言うなって言ってるだろ。」
「で、結婚式は何時なんだ?」
「はぁ?」
「絶対呼べよ!この目でしっかり拝ませてもらう!呼ばなかったら承知しねえぞ、ベイビィ!ってなわけで、またな。」
「はい、安藤です。」
「おはよう、祐司。渉だ。」
「あ、渉か。おはよう。」
「さっき電話したら通話中だったんでな。メンツの誰かか?」
「ご名答。宏一からだった。」
「ま、内容は察しがつくよな?」
「ああ。」
「写真は見せてもらった。随分美人だな。優子ちゃんからの情報どおり、茶色がかった長い髪で、何より笑顔が綺麗だ。優子ちゃんとあんな別れ方したお前に
とっちゃ、まさに女神だろう。」
「俺もそう思う。」
「で、問題の結婚指輪だが。」
「否、あれは結婚指輪じゃない。彼女の誕生日に贈ったペアリングだ。」
「だが、どんな事情があったかは別にせよ、彼女もお前も今の指に填めてるってことは、当然その意味は分かってるよな?」
「ああ。」
「てことは、彼女もお前も、今の付き合いを大学卒業と同時におしまいにするつもりはさらさらないってことだな。」
「ああ。」
「今手元に写真があるが、彼女もお前も本当に幸せそうだ。こんなことを引き合いに出すのは良くないことは承知の上で言うが、お前が優子ちゃんと付き合って
いた時に優子ちゃんに見せたり優子ちゃんのことを話題にされた時のお前の顔と同じくらい、否、それ以上に幸せそうだ。本気で今の付き合いを続けて指輪の
意味を確固たるものにしようと思ってるなら、彼女のこの笑顔を壊すことだけは絶対するなよ。」
「ああ。」
「式の目処はついてるのか?」
「否、まだ・・・。」
「まあ、お前の進路がまだ定まってないということは耕次からも聞いてるし、それを決めないことにはお前も彼女も身動きが取れないだろう。どんな式にするのかは
それこそお前と彼女が相談して決めるべきことだが、する時は呼んでくれ。必ず行く。」
「勿論、結婚式の時は呼ぶつもりだ。」
「よし。楽しみにしてるぞ。彼女と仲良くな。それじゃまた。」
「ああ、またな。」
「はい、安藤です。」
「おはよう、祐司。勝平だ。」
「ああ、勝平か。おはよう。」
「メンツで順番に電話するように裏工作してたのか?」
「否、俺ん家は土曜も工場が動いてるから、その手伝いがある。レポートもあるしな。この辺はお前も同じ理数系なら分かるだろ?」
「ああ。偶々ってわけか。」
「そういうこと。で、用件だが・・・。」
「俺が送った写真のことだろ?」
「よく分かるな。超能力が開花したか?」
「馬鹿言うな。お前の前に宏一、渉の順で電話があったんだ。勿論、俺が送った写真のことについて、な。」
「それなら話は早いな。」
「彼女、凄い美人だな。正直言って驚いた。優子ちゃんから話は聞いてたが。彼女、モデルでもやってるのか?」
「否、俺と同じバイトをしてる。」
「大学は同じか?」
「ああ。学部は違うが。」
「なのにどうやって知り合ったんだ?古傷を抉ることを承知で言うが、優子ちゃんと別れたのが確か一昨年の今頃だろ?」
「・・・そうだ。宮城との電話で最後通牒を突きつけられたショックで自棄酒飲んで、大学とバイトをサボっちまってな・・・。その夜、遅い夕食を買いに行った
コンビニのレジで偶然。」
「ふーん・・・。で、結婚指輪填めさせて今に至る、と。」
「否、あれは結婚指輪じゃない。彼女の誕生日に贈ったペアリングだ。」
「でも、どういう経緯があったにせよ、お前も彼女も左手薬指に填めてるってことは、双方本気なんだろ?」
「ああ。」
「彼女にはウェディングドレスが似合うだろうな。優子ちゃんからの情報どおり髪が茶色がかってるし、色白だから。」
「ウェディングドレスは、彼女も憧れてるそうだ。」
「今、俺は問題のブツを持ってるんだが、お前は兎も角、彼女の笑顔が印象的だ。本当にモデルとしても通用すると思う。よくまあ、こんな美人を彼女に
出来たもんだな。」
「勝平。誉めてるのか、貶(けな)してるのか、どっちだ。」
「どちらもだ。で、料理の腕は?」
「良い。実家の地域の違いで煮物とかが甘くなる傾向があるが、俺の好みに合わせてくれてる。自分で魚捌いて刺身も作れる。」
「へえ、そりゃかなりのもんだな。俺の知ってる範囲だが、今時自分で魚捌ける女なんてそうそう居ないぞ。お前のバイト、確か喫茶店だったな。」
「ああ。」
「お前と同じバイトで料理が出来るってことは、彼女は料理担当か?」
「接客もするけどな。」
「看板娘ってところか。」
「店のマスターの奥さんと人気を二分してる。彼女のファンからは、同じ指輪填めてるってことで睨まれてる。」
「それは当然のことと思え。」
「まあ、それはそれとして・・・、入籍はしたのか?」
「にゅ、入籍?」
「祐司。結婚指輪填めさせたんなら、入籍したのかどうか疑問に思うのは当然じゃないか?」
「だ、だからあれは結婚指輪じゃないって。」
「二人揃って左手薬指に填めてる以上、言い逃れ出来ると思うな。で、入籍はしたのか?」
「・・・否、してない。」
「式は?」
「まだだ。」
「てことは、指輪の交換だけ先にやっちまったってことか。ま、それはそれで良いだろう。式には呼べよ。この目でしかと確かめさせてもらうからな。」
「ああ、そのつもりだ。」
「しかし、本当に美人な彼女だな。写真をスキャナで取り込んで、お前の部分を俺に置き換えたいところだ。」
「勝平。」
「冗談だ。だが、彼女を泣かせるようなことをしたらそうされても文句は言えないってことを頭に入れておけよ。」
「ああ。」
「恐らく今頃耕次が手薬煉引いて待ってるだろうから、この辺にしておく。彼女と仲良くな。それじゃ、また。」
「ああ。またな。」
「はい、安藤です。」
「おう、祐司か。耕次だ。おはよう。」
「おはよう、耕次。・・・写真の件か?」
「よく分かったな。」
「分かるも何も・・・、お前の直前に宏一、渉、勝平の順で電話があったんだ。勿論写真のことについて、な。念のため聞くが・・・、メンツで順番に電話するように
裏工作してたんじゃないだろうな?」
「偶然に偶然が重なるってことはあるもんだ。」
「それが宝くじの時に発揮されると良いんだけどな。」
「こんな美人を捕まえておいて、宝くじまで欲を伸ばすのは贅沢ってもんだぞ。」
「写真が手元にあるのか?」
「ああ、勿論。」
「では改めて感想を言わせてもらう。覚悟は出来てるか?」
「一応な・・・。」
「彼女、情報どおりの美人だな。茶色がかった長い髪が綺麗なのは勿論、写真から推測するに、身長は165cmくらいってところか。女優かモデルやってても
不思議じゃない。残念なのは、この服装じゃスタイルがよく分からないことだな。付き合って・・・2年くらいか。彼女のスリーサイズは知ってるだろ?」
「知らん。」
「まあ、その件は置いといて・・・。彼女の髪が茶色がかってるのは染めたりしてるからか?」
「否、生まれつきのものだそうだ。」
「大学は同じか?」
「ああ。学部は違うが。」
「てことは、少なくとも中学高校じゃあまり良い思いはしなかっただろうな。お前と同じ新京大学に入るくらいの成績だったんだ。彼女の経歴は知らんが、
恐らくその地方じゃ有名な進学校だったんだろう。俺達と同じで。そんな中で茶色がかった髪で居たんじゃ、程度の低い奴らや頭の固い連中が揃う生活指導の
教師の目の敵にされてたと考えても不自然じゃない。」
「話はころっと変わるが、彼女の手料理を食ったことはあるか?」
「あ、ああ。」
「腕前は?」
「良い。煮物とかが甘くなる傾向があるが、俺の好みに合わせてくれる。自分で魚捌いて刺身も作れる。」
「随分立派なもんだな。レパートリーも豊富なんだろ?」
「ああ。和食、中華、洋食まで色々。」
「選り取りみどりってやつか。で、維持費はどうなんだ?」
「言葉は悪いが、もの凄く安い。話題のペアリングもそうだが、彼女にプレゼントしたものは全部1万円以下だ。勿論、それなりに選んではいるけどな。
物の値段や材質とかで気持ちを測ることはしない。俺から何かをもらうこと、俺と一緒に居られることそのものを喜ぶタイプだ。」
「今時珍しいな。優子ちゃんからの情報や前のお前の話からするに、頑固なところもあるけど、基本的には控えめで穏やかな性格なんだろ?」
「ああ。」
「これだけ見栄えが良いと、それこそ男は選り取りみどり、って妙な勘違いして高慢になりやすいんだがな。結構狙われてたんじゃないか?」
「ああ。俺がプレゼントしたペアリングを填めて以来、声をかけられる回数は激減したらしいが。」
「彼女にペアリングをプレゼントすることは、事前に言ってたのか?」
「否、ひた隠しにしてた。彼女も知らなかったらしい。彼女の指輪のサイズは、言葉は悪いが騙し騙し調べた。」
「てことは、お前にペアリングをプレゼントされることが分かった時点で、彼女にとっては少なくとも婚約という位置付けだったんだろう。左手薬指に填めてくれ、
って譲らなかったっていうのも、そう考えれば筋が通る。」
「ことがここまで進んだ以上は、後はお前次第だ。お前が進路を決めないことにはお前も彼女も身動きが取れないし、ましてや結婚して一緒に暮らす
−まあ、結婚しなくても一緒に暮らすことは可能だが、ある程度の将来構想もない状態では綱渡り状態になっちまう。その場その時で考える、なんて悠長なことは
やってられない。一つ聞くが、彼女の学部は何だ?」
「文学部だ。」
「だとすると、尚更条件的に厳しくなる。言葉は悪いことを承知で言うが、そんな学部出て何が出来るんだ、って企業に突っ込まれる可能性は高い。
今は即戦力とやらを求めて来るからな。自分達の都合で将来性から即戦力とやらに基準を変えて、おまけに自分達は何もしないんだから勝手な言い分だとは思うが、
それが現実だ。それを変えようとする人間が少数派な以上は、歯噛みしながら頭を下げるか、お前の選択肢にあるように企業に背を向けるかどちらかしかない。」
「確かに・・・。」
「それに、彼女の髪が茶色がかってるってのも問題だ。念のため最初に言っておくが、これは彼女が悪いわけじゃない。俺が行ってる大学の学部でも就職説明会
みたいなものがあったんだが、就職活動の際の服装は黒のスーツに白のシャツ、髪のパーマや染色脱色は不可、ってな有様だ。中学高校ならまだしも
−まあ、それが良いかどうかはとりあえず置いといて、服装にまで画一性を強いてくるのが今の企業の実態だ。彼女の性格やお前の話から推測するに、
彼女は就職のために髪を黒く染めたりするようなことはしないだろう。そうするくらいなら迷わず企業に背を向ける道を選ぶだろうな。」
「・・・。」
「となると、進路は必然的にほぼ試験の成績で決まる公務員か、服装や髪にはあまりこだわらないサービス業に限られてくる。公務員が生涯安泰なんてのは
もはや過去の幻想だし、場合によっては遠方への転勤もあり得る。だが、彼女の性格から推測するに、仕事のためにお前と離れることはしないだろう。
そうなると、給料は低水準のままにならざるを得ない。転勤を繰り返して昇格する、ってのが公務員の実態だからな。」
「・・・。」
「それに、サービス業の労働条件はお世辞にも良いとは言えない。どういう形にせよ、大学卒業と同時にお前と暮らすしか選択肢はないと言って良いだろう。
彼女はそこまで思い詰めてるんだ。一時の伊達や酔狂で左手薬指に指輪を填めたんじゃないなら、尚のことお前は真剣に、選択肢によっては親に勘当されることを
覚悟しろ。前にも言ったが、それが彼女に対するお前の責任だ。」
「・・・分かった。」
「勝平と渉と宏一が何て言ったのかは知らんが、少なくともお前と彼女のゴールイン、すなわち結婚を期待してる筈だ。だが、結婚は新たなスタートでもある。
これまでまったく違う生い立ちを辿って、尚且つそれぞれの過去を背負った二人が一緒に暮らすんだ。十分な準備運動もなしに二人三脚を始めれば、転倒するか
足の引っ張り合いになるかのどちらかになる。お前も彼女もバツ一っていう履歴欲しさに結婚を考えてるんじゃないだろうし、彼女がお前の将来設計に自分を
当てはめると言っている以上は、お前の準備運動が不可欠だ。・・・言いたいことは分かるな?」
「ああ。」
「俺は、お前と彼女がこの写真と同じ、否、それ以上の幸せな顔で式を挙げることを期待してる。式を挙げなくても書類を役所に出せば結婚は成立することくらいは
知ってる。だが、俺としてはお前と彼女が二人揃って新しいスタートラインに着く儀式を見たい。もしその気があるなら、日程が決まり次第連絡してくれ。
必ず行く。」
「分かった。何らかの形で式は挙げるつもりだから、その時になったら連絡する。」
「よし。彼女と仲良くしろよ。それじゃ、またな。」
「ああ、またな。」
あんた達、今時珍しく感じ良いね。嫌味が全然ないよ。
自分で言うのも何だが、確かにこの写真からは嫌味を感じない。見ているだけで心温まる一コマだ。「はい、安藤です。」
「あ、祐司。誰だか分かる?」
「・・・もしかして、宮城か?」
「正解。そのまさかよ。」
「どうしたんだ?宮城。今日は仕事休みか?」
「ううん、昼休み中。私の仕事、カレンダーや曜日なんて表記の違いでしかないのよね。」
「忙しいんだな。」
「まあね。色々やってる間に1日終わっちゃうわ。こうなってみると、祐司が大学とバイトで大変だったのが分かる。・・・御免ね。」
「良いさ。もう過ぎたことだし。」
「そういうところ、祐司らしいね。」
「そうかな・・・。で、どうして電話してきたんだ?昼休みくらいゆっくりしたいだろ?」
「昼休みだからこそ、よ。ちょっと一息、って時にふと、祐司はどうしてるかな、って思って電話してみたの。・・・迷惑だった?」
「否、今日は朝から電話の連続だったから目も覚めちまったよ。」
「祐司に連続で電話なんて、何かあったの?ファンクラブでも出来たとか。」
「馬鹿言うな。高校時代のバンドのメンバーからだよ。俺が奴らに送った写真の感想を立て続けに言ってきたんだよ。まるで裏工作でもしたかのように連続でな。」
「写真って、もしかして今の彼女が写ってる写真?」
「ほぼ正解。今年の春、俺と二人で撮ったんだ。それを耕次にメンバー全員に送れ、って命令されてな。」
「ああ、本田君ね。本田君と和泉君と須藤君と則竹君には成人式の後、私が祐司の現状についてしっかり報告してあげたから。ペアリングのこと、皆凄く
興味持ってたわよ。祐司の奴早くも結婚か、って特に本田君と則竹君が大騒ぎ。」
「やっぱりか・・・。」
「で、その彼女とは今でも上手くやってるの?」
「ああ。今度の冬で2周年になる。」
「何時結婚式するの?」
「祐司、大丈夫?」
「・・・ああ、何とかな。そ、それより・・・何で結婚式まで話が飛躍するんだ?」
「ファッションなんかにてんで無頓着な祐司がアクセサリーを着けること自体が驚異的なことなのに、そんな目立って訳ありを示す指にペアリングを填めてるなら、
そうなって当然でしょ?」
「・・・やっぱり目立つか?」
「当たり前よ。分からない方がどうかしてるわ。それで、結婚式は何時するの?」
「未定だ。プロポーズもまだしてないし。」
「私が言うのも何だけどさ・・・、祐司がプロポーズして式挙げて、その時に指輪填めさせる、っていう順番は守った方が良いんじゃない?このままだと、
出来ちゃった結婚になっちゃうわよ。ま、それは否定しないけど。」
「去年の夏、言っただろ?ペアリングを左手薬指に填めてるのは、彼女がそうしてくれ、って譲らなかったから、って。」
「でも、今の彼女を真剣に愛してるからそうした、とも言ってたわよね?」
「・・・都合の良いところだけ憶えてるな。」
「・・・ああ。真剣に愛してるさ。今の彼女をな。」
「祐司、一途だもんね。でもさ、祐司。」
「何だよ。」
「祐司ってまだ進路決まってないんでしょ?」
「・・・何で知ってるんだよ。」
「ペアリングのこと話した時に本田君達から聞いたのよ。祐司が進路で迷ってるって。ミュージシャンになることも考えてるけど、親の苦労も分かるし、
プロとしてやっていけるのか不安だから迷ってる、ってね。」
「・・・ああ。そのとおりだよ。この前進路指導の個人面談があったんだけど、その時出した選択肢も体裁を整えただけって感じだった。自分で言うのも何だけどな。
実際、今になっても決められないでいる。」
「あたしは祐司の腕ならプロとしてやっていけると思うけどね。この前、新京市の公会堂で、プロの人達と一緒にコンサートやったんでしょ?客席いっぱいにして
大成功だったそうじゃない。」
「な、何でそんなこと知ってるんだ?!」
「言わなかった?あたしの職場は小宮栄にあって、住んでるところはオフィス街のど真ん中だって。」
「そう言えば・・・。」
「そんな関係で小宮栄周辺にある彼方此方のお店に出入りしてるんだけど、その手の店じゃ凄い評判になってたわよ。プロを唸らせる凄腕の若手ギタリストを
加えてコンサートする、って。お店の人が、そのプロの人達が今度手を組むのは新京市の喫茶店の人達だ、って言ってたからピンと来たのよ。祐司のバイト先は
喫茶店。そもそもギターの腕を云々言う喫茶店なんて、普通聞かないからね。」
「まさか宮城・・・。お前もあのコンサートに来てたのか?」
「チケット買おうと思ったら、とっくに売り切れてたのよ。チケット置いてあるお店が彼方此方にあった分、一つのお店の割り当てが少なかったらしくてね。
コンサートの評判は、チケット買って観に行ったっていうお店のお客さんから聞いたのよ。凄かったって言ってた。」
「そうか・・・。」
「御免、祐司。お呼びがかかったから今日はこれで切るわ。元気でね。」
「ああ。そっちこそな。」
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