雨上がりの午後
Chapter 133 思い描く未来への夢
written by Moonstone
俺と晶子が晶子の家で紅茶の入ったカップを合わせた時には、11時をとっくに過ぎていた。
晶子が俺の腕に抱き付いて来て暫くそのままで居たんだが、それで随分時間を食ったらしい。
こういう時間の食い方なら、むしろ喜んで時間を食わせてやりたい。
「遅くまで引き止めてしまいましたね。」
紅茶−今日はアップルティーだ−を一口啜ったところで、晶子が少し申し訳なさそうに言う。
「祐司さんにとって大切な話の方向を、私の方に向けさせてしまって・・・。」
「そんなこと気にしなくて良いよ。晶子が俺との関係をどれだけ大切に思ってるかが、改めてよく分かったから。」
晶子の顔に笑みが戻る。やっぱりこうじゃないとな。
・・・あ、そうだ。大切なことと言えば、あのことを言っておかないと・・・。
「実はさ、今日の個人面談は成績とか実験態度とか進路とか、俺の今の学科での問題だけで終わらなかったんだ。」
「何かあったんですか?」
「・・・去年の冬、田畑助教授絡みで俺と晶子がトラブったこと、憶えてるか?」
「ええ。」
「あの時大学中に流れたデマメールに関して、メールに名前があった彼女とは実際に交際していたのか、今でも仲良くしてるのか、て聞かれたんだ。
勿論、はい、って即答したけど。それに続いて田畑助教授の話になって、何でも田畑助教授の女子学生に対する態度は文学部の教授会で度々問題に
なってきたらしいんだ。そういうことも踏まえてだろうけど、油断しないように言ってあげなさい、って言われたんだ。」
「田畑先生は停職処分が終わって復職してから、学生の接し方に、特に女子学生との接し方にかなり神経を使ってるようです。変な表現ですけど、
それまで自信たっぷりだったのが嘘のように大人しくなって・・・。」
進路指導の教官が言ってたように、流石の田畑助教授といえども、停職処分を食らってその上減給処分中だから大人しくしてるようだな。
また同じような問題を起こせば今度は首が飛ぶってことくらい分かってるようだ。
分かってないならそれこそ身体に教えなきゃならないだろうが。
「文学部では、男の人は先生も含めて事務的なこと以外では殆ど話し掛けてきません。同じゼミの娘(こ)から聞いたんですけど、左手薬指に指輪を填めている
私に手を出したから停職プラス減給っていう手痛いしっぺ返しを受けたんだ、っていう話が定着しているそうです。」
「窮屈じゃないか?」
「元々私は浮いた存在でしたし、この指輪が・・・。」
晶子は左手の甲の側を見せる。薬指には俺との絆の証の一つであるペアリングの片割れが微かな、しかし確かな煌きを放っている。
「此処にこうして光っている女に迂闊に声をかけるわけにはいかない、ってことが周知徹底されたんですから、丁度良いんです。前のような噂話が立って
祐司さんを困らせたくないですから。」
晶子の微笑みは客観的に見ても晴れやかでさっぱりしている。
あの事件の結果、晶子の左手薬指に指輪が煌く意味が、晶子の言葉を借りれば周知徹底されたわけだから、晶子にとっては、これまた晶子の言葉を借りれば
丁度良かったんだろう。俺としても指輪一つで晶子の虫除けになるならそれで良い。
この指輪を左手薬指に填めて以来言い寄られる回数が激減した、と晶子は以前言った。智一にいたっては半ば錯乱したくらいだ。
それでも尚、田畑助教授のように言い寄る男が居たんだろう。単なるアクセサリーの一つに過ぎない、とでも思って。
あの時は晶子にせがまれて照れくさく思いながらこの位置に填めたんだが、晶子の言うとおりにしておいて良かった、と今は強く思う。
「祐司さんからの忠告は肝に銘じておきますね。また調子に乗って噂になるようなことをしかねませんから。」
「良い噂なら別に良いんだけどな。まあ、それはそれとしてもう一つ。これは俺に対するアドバイスなんだけど、勉強とバイトの両立に加えて特定の異性と
交際するのはなかなか大変だろうがこれからも彼女と仲良くやりなさい、って言われたんだ。」
「そうなんですか・・・。先生からも応援されるなんて、私としては凄く嬉しいです。」
「俺もだよ。」
俺が笑みを浮かべると、晶子は笑みで返す。
もう一つ、言っておきたいことがある。
これは何故晶子が俺にここまで惚れ込んだかという謎を解き明かす鍵になるかもしれないし。
「それの前置きにもう一つ言われたんだ。教官の今日の面談での印象では、俺は真面目で誠実に見えたらしい。それに続いて言われたんだ、実験指導担当の
教官や久野尾先生っていう、俺が仮配属になっている研究室の教授からの報告はそれを裏付けていると思う、って。時にはそれを逆手に取られて厳しい状況に
追い込まれることもあるだろうが自分に自信を持ちなさい、って。それに・・・。」
「・・・。」
「彼女は、つまりは晶子は俺の真面目さや誠実さに惹かれたんだろう、って。」
「そうです。私は祐司さんの真面目で誠実なところに惹かれたんです。」
俺を見詰める晶子の顔は真剣そのものだ。
「上辺だけ見て全てを決める風潮の中、こんなに自分の仕事や言葉などに誠実で居られること、誠実で居ようとする真面目さに強く惹かれたんです。
最初こそ兄にあまりにもそっくりなのでその面影を重ねていたんですけど、祐司さんと接しているうちに祐司さんの真面目さや誠実さを感じて、
安藤祐司っていう一人の男の人を好きになったんです。でも、これだけは誤解しないで欲しいんです。」
「ん?」
「祐司さんの真面目さと誠実さに惹かれたのは事実ですけど、それだけが今祐司さんを愛している理由じゃありません。祐司さんの全てが・・・愛しくて・・・
たまらないんです。」
俺の左手に柔らかくて温かい感触が重なる。俺の顔を映す晶子の大きな瞳は微かに潤んでさえいる。
「だから・・・ずっと一緒に居たいんです。ずっと一緒に居て欲しいんです。」
「・・・そのために親から勘当されてもか?」
「それで祐司さんと一緒に居られるのなら、私は喜んで家を出ます。」
晶子は静かな口調で、しかしはっきり言うと、俺の左肩に頭を乗せる。
俺が少し頭を寄せれば唇を重ね和えられる距離に見える晶子の顔は真剣で、それでいて儚げで・・・。触れたら壊れる繊細な彫像のようだ。
悲壮とも言える決意をさせる晶子にさせるほどの想い・・・。
過去に追った失恋の傷がいかに大きく、深いものだったか何となく察しがつく。
「別れずの展望台」で俺が弾き語りをした、晶子も添えるように一緒に歌ったあの曲「Time after time〜花舞う街で〜」の歌詞を思い出す。
今度掴んだ幸せは絶対離さない。・・・そんな想いが心から溢れるほどなんだろう。
俺と晶子はじっと見詰め合う。晶子の二つの瞳には俺の顔しか映っていない。俺の目にも晶子の顔しか見えない。
愛に溺れる、という言葉があるが、今はまさにそれを絵に描いたような状態なんだろう。溺れても良い。肺の中、否、俺の全身に溢れる愛を注ぎ込みたい。
ここまで決意を固めているなら、やはりあのことが気になる。
晶子にとっては聞かれたくないことだろうが、聞いておかなければならない。
どの道を進むにせよ、晶子と手を取り合って生きていくことを選ぶことには違いない男として・・・。
「・・・晶子は・・・実家と断絶状態なんだよな?」
「ええ。」
「両親に・・・この話はしたのか?」
俺の問いかけに晶子は無言で、俺を見つめたまま頷く。
「何か言われなかったのか?」
俺の更なる問いかけに、晶子は少しの沈黙を挟んでから口を開く。
「親に何を言われても、私は私の人生を進むだけです。私の幸せをズタズタに引き裂いた親に、私の人生に口を挟む権利はありません。」
晶子の言葉は俺の問いへの回答を含んでいる。
やっぱり両親に何か言われたんだろう。相手はどんな男か、とか、そんな生活が続けられる筈がない、とか。
俺が親に晶子と結婚して今のバイトを続けながらプロのミュージシャンへの道を進む、と言ったら、間違いなくああだこうだと畳み掛けてくるだろう。
晶子と付き合っていることは、去年の成人式出席のついでに帰省した時に親に話してある。
名前も知らない相手から、しかも女から電話がかかってきたら必要以上に警戒すると−特に母親が−思ったからだ。
だが、左手薬指に指輪を填めていることについては−やっぱり目立つらしい−「アクセサリーだ」としか言ってない。
その時晶子と結婚する意志がなかったわけでは勿論ないが、自分の進路も定まっていない状態で、結婚を決めた相手が居る、なんて言おうものなら
どうなるかくらいは想像出来た。
ここでも俺は何れ話さなければならないこと、決めなければならないことを先送りしていると言える。
晶子が自分で後がない状況を作ってまで俺と一緒に暮らすことを決めているなら、俺はそれになんとしても応えなければならない。
左手薬指に指輪を填めている、そして「別れずの展望台」で願掛けまでしたパートナー、否、事実上の婚約者として。だけど・・・。
「肝心の俺が進む道を決めていない今は・・・、まだプロポーズ出来ない。晶子が俺に向けて来る真剣な気持ちをまた足止めすることになるのは・・・、
悪いと思ってる。」
「・・・。」
「言い訳がましく聞こえるだろうけど、これだけは分かって欲しい。晶子との絆を大学時代の思い出の一つにするつもりはこれっぽっちもないってことを。
俺は・・・本当に・・・晶子と・・・」
四苦八苦しながら言葉を引っ張り出していた俺の唇が、晶子の唇で塞がれた。
間近に迫った晶子の顔は、ゆっくりと離れていく。
「その続きは、プロポーズしてくれる時までしまっておいてください。」
「・・・。」
「祐司さんが私と一緒に暮らすことを念頭において進路を模索していることは、私なりに分かっているつもりです。だから今は、進路を選ぶことだけ
考えてくださいね。私は、待ってますから。」
次の瞬間、俺は晶子を抱き締めていた。強くしっかりと。
俺の背中に晶子の腕が回り、優しく摩(さす)られる心地良い感触を感じながら、俺は目を閉じて晶子を抱き締める。
こうすることでしか晶子の気持ちに応えることが出来ない自分がもどかしい。
待っててくれ、晶子。必ず進む道を決めてきちんとプロポーズするから・・・。
その時まで・・・待っててくれ・・・。
頭の中が白んで来た。徐々にはっきりしてきた視界に映るのは・・・ベージュ一色の世界。
夢の中?
何度か瞬きをしてふと首を傾けると、見慣れたテーブルが見える。
身体を起こして周囲を見渡すと、すっきり整頓された、見慣れた部屋の風景が広がっている。
・・・そうだ。俺は晶子の家に泊まらせてもらうことにしたんだった。
晶子を腕の拘束から離した時、時計の針は0時を過ぎていた。
これから帰宅して朝起きるのは大変でしょう、という晶子の勧めを受けて、泊まらせてもらうことにした。
普段は目覚し時計と格闘しているくせにこういう時にしっかり起きられるんだから、まったく不思議なもんだ。
テーブルには茶碗と箸が並べて置かれてある。晶子は朝食を作っているんだろう。
普段は時間ぎりぎりになってからようやく飛び起きて、トーストとインスタントコーヒーを腹に放り込んで着替えて出発、というところだが、晶子の家に
泊まった時はゆったりした朝を迎えられる。ありがたいもんだ。
俺は軽く伸びをして身体に残る倦怠感を取り払う。
白いレースのカーテンを通して差し込む陽射しは、見ているだけでも暖かい。
ベッドから出たとほぼ時を同じくしてドアが開いて、エプロン姿の晶子が顔を出す。
「あ・・・。」
「おはようございます。そろそろ起こそうかと思ったところだったんですよ。」
「おはよう。自然と目が覚めたんだ。家に居る時はこんなことないんだけどな。」
「朝ご飯出来ましたから、一緒に食べましょうね。」
「ああ。」
晶子は両手に持っていたトレイから、ほこほこと湯気が立ち上るハムエッグとキャベツの千切りの乗った皿を並べて置いて出て行く。
程なく炊飯ジャーとお玉の入った片手鍋を持って来る。炊飯ジャーを床に、片手鍋をテーブルの空きスペースに置くと、また出て行く。今度は急須を持って来た。
その間、俺はベッドに腰掛けている。火曜の朝もそうだが、勝手を知らない俺は黙って見ているだけにしている。手伝いたいのは山々なんだが。
晶子がエプロンを外す。運搬が終わったという「合図」だ。俺は「指定席」に腰を下ろす。
晶子は薄いブルーのブラウスにベージュのズボンというシンプルな服装で、トレードマークの茶色がかった長い髪はしっかりポニーテールにしている。
ご飯や味噌汁をよそったりする横顔が何とも魅力的だ。
ふとその左手を見ると、薬指には俺が填めているものと同じ指輪が填まっている。見慣れたものの筈なのに、不思議と心和む。
晶子は俺の隣の「指定席」に腰を下ろして、穏やかな顔を向ける。
「じゃあ、食べましょう。」
「ああ。」
「「いただきます。」」
俺と晶子の二人の朝食が始まる。会話こそないが、気分は軽い。昨日の朝と同じく穏やかでゆったりした時間が流れていく。
「今日も祐司さんと一緒に大学へ行けるんですね。」
晶子が言う。窓からの日差しのような穏やかな顔は、その心情を表しているんだろう。
「ああ、そうだな。」
俺は仮配属になった研究室の週1階のゼミに加えて、受けられる講義を片っ端から詰め込んだ関係で−単位を取っておけば何年かの実務経験で自動的に
取得出来る資格があるから、取れる機会に取っておこうという貧乏性くさい理由でだ−、実験がある月曜以外は1コマから4コマまでぎっしり詰まっている。
昨日の個人面談が4コマ目の後にあったのは、前年度までの単位を取り損ねた学生に対する配慮だろう。
晶子は2コマ目から始まる曜日もあれば、3コマで終わる曜日もある。そんな関係で一緒に大学へ行けるのは晶子の家に泊まった翌日、すなわち火曜日しかない。
下校は俺の4コマ目の講義が終わる時間が不規則なので−大抵後ろにずれる−、晶子にそれまで待ってもらうのは申し訳ないということで先に帰ってもらっている。
智一に接触させたくないという俺の思惑がないわけではないが。
こんな事情の上に、俺の受講講義が専ら専門科目のみで一般教養棟がある文系学部のある場所まで行かない問題が重なるから、俺と晶子が大学で会うことはない。
智一に言わせれば「すれ違いカップル」そのものだ。
だが、同じ店でバイトしてるし、帰りには此処に立ち寄って紅茶を啜りながら話をするし、月曜の夜は此処に泊まって一夜を明かす−ちなみにあれはしてない−。
もっと晶子と一緒に居たいというのは山々だが、講義を放ったらかしにしてキャンパスでデートするほど俺は暇じゃないし、晶子もそんなことを望んでない。
晶子はその場その時俺と一緒に居ることそのものに満足する女だ。そう、今のように。
「朝、大変じゃないですか?」
「元々朝は苦手な方だからバタバタしているうちに変な言い方だけど、これで今日一日が始まる、って思うんだ。実家に居た時も親にどやされてようやく
起きる有様だったし。」
「講義はぎっしり。レポートも沢山。その上生活費の補填のためにバイト。祐司さん自身と私がお客さんに披露する曲のデータ作りにその練習。
・・・そんなハードスケジュールなのに成績優秀なんですから、本当に凄いですね。」
「生活費の不足分を自分で賄うことを交換条件にして一人暮らししてるんだし、バイトしてることを成績が悪いことの理由にしたくないからな。
根が意地っ張りなんだよ、俺は。」
「疲れませんか?」
「流石に疲れは溜まるけど、土日は昼まで寝てるし、何だかんだ言ってもバイトや音楽やってる時は楽しいし、それに毎日何らかの形で時間は短くても晶子と
一緒に居られる時間があるから、それで十分疲れは取れてるよ。慣れもあるんだろうけど。」
「やっぱり祐司さん、真面目な人ですね。」
晶子は柔和な笑みを浮かべる。
「そういう真面目な男性(ひと)に愛されて、私、本当に幸せです。」
「そう思ってもらえて光栄だよ。」
親に幸せをズタズタに引き裂かれた、と昨日晶子は言った。
晶子が今感じている幸せがどんな大きさかは所詮想像の域を出ないし、思い上がりも多分にあるだろうが、その幸せを俺の手で壊すようなことだけは
絶対にしたくない。
俺の愛っていう気持ちは、他人から見れば子どもの約束事のレベルかもしれない。飯事遊びの延長線上のレベルなのかもしれない。
でも、それで晶子が幸せを感じてくれるなら・・・それで良い。
俺と晶子は朝食を済ませて歯を磨き、早い時間に晶子の家を出た。途中俺の家に寄って着替えるためだ。
昨日と同じ服というのは、幾ら服装に無頓着な俺でも流石にちょっと気が引ける。
何時もより早い時間の急行電車に乗り込み、通勤・通学ラッシュで車内も道中も混み合う中、練習中の曲や新しくレパートリーに加えたい曲について話す。
そうこうしているうちに時間は流れ、場所は正門から文学部などがある場所へ通じる道への分岐点に差し掛かる。
名残惜しいが避けられないひと時の別れ。こういう時交わす挨拶は・・・こうだよな。
「それじゃ、また後で。」
「ええ。また後で。」
晶子はにこやかに手を振って俺とは違う道を歩いていく。
晶子の後姿が見えなくなるまで見送った後、俺は前を向いて再び歩き始める。
晶子とはまたバイト先で会える。その後話が出来る。
「おーい!祐司!」
工学部の講義棟が見えてきたところで背後から声がかかる。
立ち止まって振り向くと、智一が走ってくるのが見える。智一は俺の隣まで走って来て、荒れる呼吸をひととおり整える。
「今日は早いじゃないか。どうしたんだ?」
「たまにはこういうこともあるさ。」
「随分ご機嫌だな。・・・ははぁ。さては晶子ちゃんと何かあったな?もう晶子ちゃんは俺の手の届かないところへ連れ去られてしまって、そしてお前に
汚されて・・・、ああ!」
「妄想は布団の中だけにしろ。」
俺と智一は並んで工学部の講義棟への歩みを再開する。
「昨日は悲惨だったぜ。」
「何が?」
「個人面談に決まってるだろ。必須科目の単位は落とすわ、実験はきちんとしてないわ、研究室のゼミも人任せだわ、と悉く指摘された上に、こんなことで
社会でやっていけると思ってるのか、ってみっちり説教されちまったよ。1時間もだぞ?1時間も。安藤君の苦労を考えれば説教で済むだけありがたいと思え、
ってとどめに一発。まいったぜ。まさか実験指導担当の教官や久野尾先生からの報告まで入ってるとはな・・・。」
「俺からすれば、1時間の説教で済んだのは甘いと思うがな。」
「ぐっ・・・。お、お前に言われるとキツイ・・・。」
「キツイと思えるだけまだましと思っておくか。ま、これを機会に心を入れ替えることだ。今度からレポートは一切写させないから、そのつもりでな。
ついでにゼミの予習も自分でやれよ。良いな?」
「そ、そりゃないだろ。俺を見捨てないでくれよ〜。」
智一の泣き言は聞こえない振りをして、ふと点々と植えられた街路樹を見る。その葉の緑は心なしか色褪せて見える。
季節は巡り巡りて秋が深まり、やがて見を縮こまらせなければならない冬が訪れる。
季節感が日常から薄れつつある今、木々や空気は無言のまま時の流れを伝えている。
譬えどれだけ時が流れようと、俺とお前の絆は色褪せないよな?寒風に吹かれて散っていくなんてことはないよな?晶子・・・。
残された時間で精一杯考えて悩んで相談して必ず進む道を決める。そしてお前にプロポーズする。
俺とお前の左手薬指に填まっている指輪が示す絆を、俺とお前が今抱(いだ)いている幸せを、より確かなものにするために・・・。必ず・・・。
だからその時まで・・・待っててくれよな・・・。
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