雨上がりの午後
Chapter 125 絶景に流れる弦の音
written by Moonstone
5分ほど歩いただろうか。前の方に赤地に白いロゴが描かれた看板が見えてきた。晶子は他の看板には目もくれず、その看板の方へ向かって歩いていく。
ロゴが自動車を象ったものからして、あそこが晶子がマスターに教えてもらったというレンタカー会社なんだろう。
並んでいるとはいえ晶子に手を引かれて、俺はレンタカー会社の敷地に入る。車庫がずらりと並び、その奥から色々な車の前方部分が垣間見える。
晶子は車庫の方ではなく、それに隣接するいかにも事務所といった雰囲気の建物へ俺を連れて行く。
そりゃ幾らレンタカー会社でも、免許証を見せたら即乗れる、ってわけないよな。
晶子と共に事務所に入ると、「いらっしゃいませ」という声が幾つか飛んで来る。
カウンターの向こうには若い女性職員が座っている。あそこへ行けば良いか。俺は晶子と共にカウンターへ向かう。
「すみません。レンタカーを借りたいんですけど。」
「はい。それでは恐れ入りますが運転される方の免許証をご提示ください。」
俺はズボンのポケットから免許証を取り出し、女性職員に差し出す。
女性職員は少しそれを見た後−期限が切れてないかどうかとか確認しているんだろう−、免許証を俺に差し返して何枚かの書類とボールペンを差し出す。
「確認させていただきました。それではこちらの書類の太枠の部分に必要事項を記入してください。」
俺はボールペンを受け取って、書類の太枠で囲われた部分に必要事項とやらを記入していく。
氏名に住所に電話番号に免許証番号に免許証の種類・・・。結構あるな。
何度も同じことを書くこともあって正直面倒に感じるが、車という、使い方によっては犯罪にも使えるし走る凶器にもなるものを見ず知らずの他人に
貸すんだから、それなりの書類が必要なんだろう。
5分ほどで全ての欄に記入し終えて、書類を纏めて女性職員に差し出す。
女性職員は、少々お待ちください、と言ってから顔を下に向けて何やらごそごそし始める。
多分書類を確認したり俺が書かなかった部分に記入したり印鑑を押したりとかしてるんだろう。俺は黙って女性職員が顔を上げるのを待つ。
「お待たせしました。書類を確認させていただきました。」
程なく女性職員は顔を上げて言う。
「それでは係の者が車庫へご案内しますので、こちらからどの車種をご希望かお伝えください。」
女性職員はプラスチックの板を差し出す。そこには様々な車の写真が印刷されている。
さて、どれにするか・・・。決めるには、晶子がどんな場所へいきたいのかにも依るな。
市街地を走りたいなら普通の乗用車で良いし、山道とかを走るなら四駆の方が良いだろうし。
「晶子。どんなところへ行きたいんだ?」
「坂道を登ったところにある展望台みたいなところです。」
「その坂道ってのは舗装されてない道?」
「いえ。片側一車線で舗装されてます。」
随分詳しいな。以前行ったことがあるんだろうか?
ま、舗装された坂道を走るなら、普通の乗用車で良いだろう。それに正直言って四駆なんかは運転する気が引けるし。
俺はオーソドックスなタイプの乗用車の写真を指差す。
「それじゃ・・・これをお願いします。」
「かしこまりました。少々お待ちください。」
女性職員はプラスチックの板を引っ込めて、席を立って奥へ向かう。
間もなく男性職員がキーを持ってカウンターから出て来る。
「お待たせしました。では、車庫へご案内いたします。」
俺は晶子の手を引いて、男性職員の後をついて行く。
男性職員は事務所を出て車庫へ向かう。そして割と手前の方の車庫へ入っていく。そこには写真にあったのと同じ色と車種の乗用車がある。
「こちらで間違いありませんでしょうか?」
「はい。」
「それでは、こちらが車のキーになります。紛失しないようにお願いします。万が一紛失された場合は直ちにこちらへご連絡ください。」
男性職員はキーと一緒に名刺サイズの厚紙を差し出す。厚紙には看板にあった自動車を象ったロゴと社名、そして電話番号が記載されている。
俺はそれらを受け取る。
「お戻しの際はガソリンを満タンにしてくださいますよう、お願いします。」
「分かりました。」
「それでは、ごゆっくりどうぞ。」
男性職員は頭を下げる。
俺と晶子も頭を下げた後、キーの先を車に向けて簿ボタンを押す。ガチャッという音がしてロックが外れる。
俺は後部座席のドアを開けて背負っていたギターを座席に寝かせるように置いた後、俺が運転席に、晶子が助手席に乗り込み、それぞれシートベルトをする。
これは基本中の基本だ。
俺はキーを差し込んでエンジンをかける。晶子がブラウスの胸ポケットから何かを取り出して広げる。・・・地図か。
俺は晶子が行きたいという場所を知らないから、道案内がないことには行きようがない。忘れてなかったか。
車庫の中に入っていたこともあって、車の中はそれほど暑くない。
一応冷房のスイッチを入れて−ご親切にマークが描かれたボタンがある−弱めに設定してからギアを「P」から「D」に切り替え、ハンドブレーキを下ろし、
ゆっくりをアクセルを踏む。オートマチックだから教習所の時よりはるかに楽だ。
男性職員が頭を下げて見送る中、俺はゆっくり車庫から出て道へ向かう。
道はそれほど混み合っていないが、結構スピードを出している車が多いから油断は禁物だ。
俺は道の直ぐ傍まで出たところで晶子に言う。
「どっちだ?左か右か。」
「右へ曲がってください。それから暫くは道に沿って直進です。」
「右折ね。了解。」
俺は左右を見て車の流れが途絶えたのを見計らって道に出て、右のウインカーを点滅させてから車道を横切って右折する。
車が道と並行になったところでゆっくりアクセルを踏む。俺と晶子を乗せた車がどんどん加速していく。
どうにか車の流れに乗ることが出来た。標識では・・・40kmか。50kmくらいまでならスピード違反で捕まることもないだろう。
だが、免許を取って以来初めての、しかも大切な同乗者が居る運転だから安全運転で行こう。事故ってから後悔しても手遅れだし。
ゆっくりとはいえ、自転車とは比較にならない速さで景色が前から後ろへ流れていく。
俺は緊張したまま運転を続ける。暫くは直進だそうだからまだ良いが、交差点に入る時が要注意だな。特に右折は。
新京市の市街を走っていくと、道は緩やかなカーブや信号待ちを含んでいる。
暫くして建物が徐々に少なくなってくる。退屈どころか緊張で何も喋れない。
兎に角今は目的地まで無事に辿り着くことしか考えられない。
こういう時、智一なら楽勝だろうが、免許を取って以来約1年車に乗ってない俺に運転以外のことを考える余裕はない。
更に走っていくと、T字路の交差点が見えてくる。
交差点と言っても俺から見て横方向に走る車はかなりスピードを出している。サーキットじゃあるまいし・・・。
信号はあるとは言え、のんびり制限速度を守って走っていたら後ろからクラクションを鳴らされるだろう。
だが、クラクションを鳴らされようが罵声を浴びせられようが物を投げつけられようが、事故を起こすことを考えれば安全運転に徹するに限る。
「次のT字路を左折してください。」
晶子の声が耳に届く。左折か・・・。あんな道で右折しろ、と言われたら正直困るが、左折ならまだましだ。
俺は左のウインカーを点滅させ、交差点で右方向からの車の流れを見て、その流れが途絶えたところでハンドルを右に切って車道に入りアクセルを踏む。
標識を見ると・・・標準速度は50kmか。しかし、対向車が走り去っていくのを見る限り、とてもそれが守られているとは思えない。
俺は片側2車線の左側を制限速度そのままのスピードで走らせる。俺と晶子を乗せた車を、右側からどんどん車が追い越していく。
とてもじゃないが、スピードを出す気にはなれない。追い抜きたいなら追い抜いてくれ。
「このまま暫く道に沿って走ってください。そのうちY字路が見えてきますから、それを右に行ってください。」
晶子の指示に応える余裕もない。
せめて一言くらい返事をするべきなんだろうが、周りのスピードが速過ぎて、アクセルを踏む足とハンドルを握る手と周囲を見る目に意識を分散させているから、
それ以外に分散させる余地がない。
これじゃとても「楽しく爽やかなドライブ」とは言い難い、否、とても言えないが、晶子には暫く我慢してもらうしかない。
緩やかな右カーブを描いている道を走っていくと、前方にY字路の標識が見えてくる。遠くには信号が見える。近いな・・・。
信号の色は青だが、スピードを出す気にはとてもなれない俺はそのままのスピードで車を走らせる。
俺と晶子を乗せた車を追い抜いていく車は、かなりの割合で−正確に数える余裕はないが−右方向へ流れていく。
信号が黄色になる。俺はアクセルを踏む足の力を徐々に弱めて減速していくが、右車線を走る車はスピードを緩めるどころか一層増して
−俺が減速しているからそう見えるだけかもしれないが−右方向へ疾走していく。
信号が赤になったのを見て、俺はアクセルペダルに乗せていた足をブレーキペダルに移してゆっくり踏む。
車は緩やかに減速して、前に止まっている車の後ろで止まる。
俺は右のウインカーを点滅させて溜息を吐く。どうにか此処まで来れたか・・・。
前方では左方向から車が少し流れてくる。やがてその流れが止まり、今度は右方向から車が少し多く流れてくる。
俺はブレーキを踏んだまま晶子の方を向く。
「退屈だろうけど、我慢してくれよ。」
「全然退屈してませんよ。このまま安全運転を続けてください。」
「そうする。」
俺は視線を前に戻す。
車の流れが加速してくる。信号が黄色か赤に変わり始めているんだろう。
だからってそんなにスピードを出してどうするんだ?急患を運ぶ救急車とかじゃないんだから、慌てることもないだろうに。
まあ、運転することが精一杯で「爽やかドライブ」とは無縁な俺が言えたもんじゃないんだろうが。
前方からの車の流れが止まり、信号が赤から青に変わる。その瞬間、否、それより少し前に前の車が離れていく。
おいおい、前の車が信号無視して来たらどうするつもりだ。ぶつかるぞ。
自分達だけが怪我したり死ぬなりするのは勝手だが、他の人間まで巻き込みかねないんだから多少は考えろよ・・・。
兎も角俺はアクセルを踏んで右方向に車を走らせる。前の車はぐんぐん離れていく。
Y字路を進んだ先は片側1車線。追い越しは不可能だから後ろを走る車には我慢してもらうしかない。
それよりこのまま進んでいけば良いんだろうか?途中で交差点があるなら早めに指示を出して欲しいんだが。
「このまま道に沿って進んで下さい。間もなく坂道が見えてきますから。坂道は蛇行してますから、注意してくださいね。」
げっ、坂道の上に蛇行か・・・。運転初心者の俺にはカーレースのコースを走るのと同じだな。
蛇行する道はすれ違いがかなり怖いんだよな。
路上教習ではそんなコースを走らなかったし、父さんの運転する車に乗っていた時に、助手席から蛇行する坂道での車のすれ違いがかなり微妙なことを
目の当たりにしてきたから油断大敵だ。
まあ、無闇にスピード出さなければ何とかなるだろう。
晶子の言うとおり、少し走ると直ぐ坂道が見えてきた。確かに蛇行している。しかも上り坂。
間違っても下ってくる車と接触しないように注意しないと・・・。
兎に角スピードを出さないこと。今はこれに尽きるな。出せと言われても出す度胸なんてありゃしないが。
俺はアクセルを踏む力加減とハンドルを切るタイミングに全神経を注ぐ。
チラッとバックミラーを見ると・・・後ろの車がかなり接近して来てるな。
恐らく、もっとスピード出して走れ、と言いたいんだろうが、それは無理な注文だ。
それに事故って進めなくなることを考えたら、ゆっくりでも上っていける方がまだましだろう。
それにしても、下ってくる車、随分スピード出してやがるな・・・。
ガードレールの向こう側は断崖絶壁だってことを忘れてやいないか?運転慣れしているのか、それとも怖いもの知らずなだけなのか。
懸命に運転していくと、道の向こうに青い空が見えてきた。どうやら終わりは近いようだ。
だが、上り切るまで気は抜けない。
俺一人なら怪我しても死んでも構わないが、見ず知らずの他人を巻き込むわけにはいかない。
それに加えて、俺の隣には俺の大切な人が乗ってるんだ。遅いと言われても大切な人の命には代えられない。
視界が一気に開ける。坂道の上にあるとは思えないほどの広大な平面が広がっている。人と車がいっぱい居るなぁ。
向こうの方に車が固まっている一角がある。あそこが駐車場なんだろう。俺はそこへ向かってゆっくり車を走らせる。
下っていく車が結構あったせいか、駐車場はかなり空きがある。だが、何処もすんなり停められそうにない。
・・・仕方ない。ここは晶子の力を借りるか。
俺は奥の空いているところの前まで車を走らせたところで一旦停めて、晶子に言う。
「晶子。悪いけど、降りて後ろを見ていてくれないか?」
「分かりました。」
晶子は嫌な顔一つせずにシートベルトを外して車を降り、車の後ろ側に回り込む。
俺はシートベルトを外してギアを「B」に切り替え、座席から身を乗り出して後ろを見ながらハンドルとアクセルを操作してゆっくりバックする。
晶子が手招きをしているのが見える。まだ大丈夫だろう。スピードを出さないように慎重に、慎重に・・・。
晶子が両手を俺に広げて見せる。ストップ、という合図だろう。晶子の後ろにある車の後部がかなり近く見えるし。
俺はブレーキを踏んで車を停め、ギアを「P」に切り替えてハンドブレーキを引く。
・・・何とか無事辿り着いたな。正直言って生きた心地がしないが、無事で何より、と思っておこう。
俺が座席に深く凭れて深い溜息を吐くと、助手席のドアが開く。
「お疲れ様でした。大丈夫ですか?」
「ああ。ちょっと疲れただけ。さて、降りるとするか。」
俺はもう一度溜息を吐くと、ドアを開けて車から降り、後部座席に寝かしておいたアコギを取り出してドアを閉める。
「お弁当も取りましたから、ロックしてもOKですよ。」
「分かった。」
俺はギターを背負ってからキーの先端を車の方に向けてボタンを押す。ガチャッとロックされる音がする。
俺はシャツの胸ポケットにキーを入れて、助手席の方から駆け寄って来た晶子と合流する。
「爽快なドライブ、とはいかなかったな。」
「安全運転が何よりですよ。それに私、実は車酔いしやすい方なんです。だから、祐司さんの運転で丁度良かったです。」
「事故って俺だけ怪我したり死んだりするならまだしも、晶子を巻き込むわけにはいかないからな。それにあんな道でスピードを出せる勇気もないし。」
「そういうのは勇気じゃなくて、無謀って言うんですよ。それに祐司さん、初めて運転する、って言った割には上手かったですよ。安心して乗っていられました。」
「そうか。で、どうして此処に来たかったんだ?」
「それはこれから教えますよ。さ、行きましょう。」
晶子は左手でバスケットを持ち、右手を俺の左腕に回して歩き始める。俺は晶子に案内されるままに歩いていく。
晶子が此処に来たかった理由とは何なのかが、今から明らかになるわけか。
柵に近付いていくにしたがって、徐々に晶子が言う理由とやらが明らかになってくる。
見渡す限り広がる青い空と青い海が雄大なスペクタクルを形成している。
水平線がはるか遠くで青の世界に一本の横線を描いている。坂道を随分上っただけ甲斐があったと言うか、本当に良い眺めだ。
「良い景色だな。これが此処に来たかった理由か?」
「ええ。・・・つまらないですか?」
「いや、良い気分だよ。運転で縮こまっていた身体を思いっきり休められるし、こんな良い景色を見られただけでも此処に来た甲斐があったってもんだ。」
「良かった。喜んで貰えて。」
晶子は嬉しそうに微笑む。
なるほど、確かにこの景色を見ると、マスターと潤子さんのペアと一緒じゃなくて、俺と二人きりで見たかったという晶子の気持ちがよく分かる。
二人の思い出ってやつを作りたかったわけだな。誰の手も借りない形で・・・。
高く上った太陽から降り注ぐ陽射しは厳しいが、高所なのも相俟って爽やかだ。深呼吸すると肺に入ってくる空気も爽やかで気持ち良い。
此処で時間の経過を眺めるのも面白そうだな。空の色が変わると同時に海の色も変わっていって・・・。夜になると満天の星空が見えて、きっと綺麗だろうな。
ふと周囲を見渡すとカップルがやたらと目に付く。というか、カップルだらけだ。
何となくだが、男の視線がこっちにチラチラと向けられているように思う。
多分、否、きっと晶子を覗き見してるんだろう。風に靡(なび)く茶色がかった長い髪が太陽の光を浴びて虹色に輝いている。
心地良さそうなその横顔はさながらCMやポスターの女優かモデルだ。見たくなる気持ちは分かるが、自分の彼女を見てやれよ。
「祐司さん。一つお願いしても良いですか?」
景色を眺めていた晶子が俺の方を向いて尋ねる。本当に映画のワンシーンみたいで、俺はドキッとする。
「何だ?」
「ギター、弾いてください。」
この景色に俺のギターの音を流すのか・・・。
ちょっと恥ずかしいというか、何とも表現し難い複雑な気持ちはあるが、晶子がギターを持って来て欲しいといった理由が分かったし、思えば俺のギターを
屋外で晶子に聞かせたことは今まで一度もない。よし、その願い叶えてみせよう。
「分かった。ちょっと聞き取り難いかもしれないけど。」
「しっかり聞きますから。」
「立って弾いても良いけど・・・。どこか良い場所ないかな・・・。」
「あ、あそこが空いてますよ。」
晶子が大小の丸太を組み合わせて作ったベンチの一つを指差す。近くにはカップルが居るが、まあ良いだろう。俺は晶子と共にそのベンチへ向かう。
ベンチの前まで来たところで、俺はギターを背中から下ろす。晶子は座ろうとしない。先に座れば良いのに、どうしたんだろう?
「座れよ。別に立って聞く必要はないんだから。」
「祐司さんのギターの邪魔になるかと思って。」
「大丈夫。その辺は勘考するから。さ、観客は座って、座って。」
「では、お言葉に甘えて。」
晶子はベンチに腰を下ろす。
俺はソフトケースからギターを取り出して、晶子の邪魔にならずに、しかも離れ過ぎない程度の距離を置いて座り、ギターを構えてチューニングをする。
・・・よし、これで良いだろう。今日は湿気が少ないせいもあってか、さほど時間を食わなかった。
「何が聞きたい?」
「リクエストして良いんですか?」
「今日は特別だ。」
「それじゃ・・・『THE SUMMER OF '68』を。」
「OK。」
俺は大切な人のリクエストに応えて、ギターの演奏を始める。
数え切れないほど演奏してきたから、もうフレットを見なくても演奏出来る。
屋外でギターを弾くのはこれが初めてじゃないが、アコギに限定すると今回が初めてだ。
屋外で演奏したのは高校時代のバンドでの屋外ライブと、成人式会場前でのスクランブルライブだけだし、それにその時は全部エレキだったからな。
アコギの音が泡のように宙に浮かんでは消えていく。蒼の世界にアコギの音は予想以上によく似合う。
俺は時々晶子を見ながら演奏を続ける。晶子は心地良さそうな表情で、俺がギターを弾く様子を見詰めている。
・・・ん?何だか視界に黒いものが増えてきたな。雲にしては動きや形が変だし・・・。
何かと思ってふと前を見てみると、何時の間にやら人だかりが出来ていた。
俺は思わず演奏を止めそうになったが、晶子の願いを途中で打ち切るわけにはいかない。
俺は半自動で動く両手と晶子の両方に意識を二分させて、想定外の観衆は見えないことにする。今は晶子のリクエストに応えて弾いているんだからな。
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