雨上がりの午後
Chapter 117 夏の楽祭−1−
written by Moonstone
熱は一向に引かない。身体に発熱体を突っ込まれたように熱い。
耳は相変わらず聞こえない。立ってるのも辛いっていうのに耳が聞こえなくなるなんて・・・。災難どころのレベルじゃない。
どうやら、俺がぶっ倒れるのが先かステージが無事終了するのが先かのどちらかになりそうだ。
腕時計を見ると開演まであと10分を切っている。耳の回復があるとしてもコンサートの途中か・・・。
期待しない方が良いな。こういう場合は最悪の事態を想定して行動したほうが良いに決まってる。
晶子とは合図を決めたし、文字どおり二人三脚で臨むしかない。
その時、俺のブレザーの袖がくいくいと引っ張られる。見ると晶子がステージ中央を指差している。どうやら最後の集合がかけられたようだ。
俺はベッドから起き上がるような感覚で壁から身体を離すと、晶子の後をついていく。ステージ中央には他のメンバーが続々と集まってきている。
桜井さんが何か言っている。だが、まったく聞こえない。
こんな時声をかけられたらどうする?耳が聞こえなくなっているのがばれたら大騒ぎになることは必至だ。
そう思っていたら、左耳から晶子の声が入ってくる。
「いよいよ本番だ。皆、今までの練習の成果を存分に発揮してくれ。」
晶子が桜井さんの言葉をそのまま伝えてくれているようだ。
他の全員が頷いたのに少し遅れて俺と晶子が頷く。再び桜井さんが話し始めるが、やはり何を言っているのかまったく聞こえない。
「念のため、曲順を言っておく。潤子さんと賢一のところには曲順を書いた紙が貼ってあるが、他はMCに頼る部分が大きいからな。まず『MORNING STAR』。
文彦の挨拶が入って『Jungle Dance』と『HIBISCUS』を連続。俺と文彦のMCが入って『Kiss』『PACIFIC OCEAN PARADISE』『Aquatic Wall』を連続。
またMCが入って『Secret of my heart』と『TERRA DI VERDE』を連続。またMCが入って『THE SUMMER OF '68』『CHATCHER IN THE RYE』『put you hands up』
『NO END RUN』『鉄道員』を連続。潤子さんはステージを上がったり下がったりで大変ですが我慢してください。で、MCが入って『WIND LOVES US』
『Feel fine!』。またMCが入って『AMANCER TROPICAL』。メンバー紹介に続いて『energy flow』。MCを挟んで『BIG CITY』と『プラチナ通り』を連続。
文彦の最後の挨拶を入れて『Fly me to the moon』で終わって全員退場。アンコールがかかったら『Make my day』と『Fantasy』。これが終わったら
全員が整列して、手を繋いで両手を挙げて一礼して退場。これで終わりだ。何か質問は?」
誰も手を挙げない。
桜井さんが全員を見回し、改めて正面を向いて何か言い始めるがやっぱり聞こえない。その代わりに晶子が耳元で伝えてくれる。
「それじゃ、これにて解散。全員それぞれの持ち場についてくれ。健闘を祈る。」
メンバーはそれぞれの持ち場に向かう。俺は「定位置」であるステージに向かって右寄りの位置に立つ。
身体が宙に浮かんでいる感覚は全然消えないが、ここが踏ん張りどころだ。
晶子は俺が居る位置に近いステージ右脇に退避して俺の方を見る。俺は精一杯の笑みを浮かべて小さく頷く。頼りにしてるからな、晶子。
時間が粘性たっぷりの泥流のように流れていく。
立っているのも辛い今は、一刻も早く演奏を始めて汗を流して熱を下げることを試みるしかない。早く開演にならないものか・・・。
幕を通してうっすらとシンセブラスの音色が聞こえて来る。
・・・聞こえる?!
どうやらスピーカーの音量は相当あるらしい。
まあ、あれだけでかい会場全体に音を届かせるためにはそれなりの音量が必要だろうが、このテンポ・ルバート(註:演奏者が任意にテンポを変えながら
演奏することの指示)の部分で聞こえるなら・・・大丈夫だ。スピーカーに近い位置という俺のポジションも幸いした格好だな。
だが、テンポを知らせてくれることを頼んだ晶子の厚意を無にするわけにはいかない。
それに晶子のリズム感は、つい先走りがちなこういう場面で重要なメトロノームになる。俺は晶子を横目で見ながら演奏の時を待つ。
目の前の幕がゆっくりと上がり始める。
シンセブラスがファンファーレを奏で始める。そしてそこに勝田さんのEWIが重なる。
やや金属的な響きを持っている音色は、明けの明星を表現するのに相応しい。
晶子がリズムに合わせて手を叩いているのが見える。テンポは正確だ。耳と目でテンポを確認できるのは嬉しい誤算だ。
ドラムのフィルに続いてステージを照らす照明が一気に明るくなり、ドラムとベースが入る。バスドラムとベースの重低音が腹に響く。
これだけ聞こえれば何ら問題ない。俺の演奏を入れる出番までひたすら突っ立つのみ。
壮大なファンファーレのようなイントロ部分が終わると、潤子さんのシンセに代わって俺のギターが加わる。
簡単なバッキングだが、リズムを形成する上で決して軽んじられない部分だ。
俺は横目で手拍子をする晶子を見つつ、耳で桜井さんと青山さんのリズム音を聞きながら、音を刻む。
勝田さんのEWIによるメロディが軽快に響く。
桜井さんと青山さん、そしてピアノの国府さんのリズムキープは抜群だ。俺も負けじと目と耳でテンポを確認しながら演奏を続ける。
メロディは二度目の演奏に入り、シンセ音が加わる。
これが終わったら俺はエフェクターを切り替えてEWIとユニゾンだ。その時まで俺は脇役に徹する。
俺は足元のフットスイッチの位置を確認して足を合わせる。切り替えまであと少し・・・。今だ!
絶好のタイミングでエフェクターを切り替え、EWIとメロディをユニゾンする。
ギターならではの音の伸びと音色の程好い歪みを利用して、存在感をアピールする。
晶子のテンポキープはしっかりしている。安心して指先を演奏に集中させることが出来る。
足元のボリュームを少し上げて、ギターがやや前面に出る形になってサビの後半部分を演奏する。
ここもEWIとのユニゾンだが、ここはギターの存在感をよりアピールする場面だ。
音が伸びる部分ではビブラートを効かせてギターで表現出来る音の世界を堪能してもらおう。
スネアのフィルで、それまでの勢いと盛り上がりが一転して静寂へと切り替わる。
再びシンセブラスのファンファーレが鳴り響き、EWI、シンセ音、ピアノ、ベース、ドラムが一斉に加わり、華やかさを演出する。
ここでは俺の出番はない。長く続くソロのバッキングに備えて、目と耳でテンポを確認する。
EWIに代わって浮遊感のあるシンセ音がソロを奏で始める。これは潤子さんの演奏だ。
ピッチベンド(註:シンセサイザーにある音程操作スイッチ)を巧みに利用した、滑らかなフレーズが印象的だ。口笛を聞いているような感じがする。
ピアノを国府さんが担当しているから、潤子さんはシンセソロに専念出来るというわけだ。
やはり人数が居て本物のピアノが入ると違うもんだなと実感する。
旋律は原曲と多少違うが、原曲の再現に留まらない俺達のコンサートということで良いんじゃないだろうか?
潤子さんの演奏はアレンジされてはいるものの、原曲の雰囲気を壊さないように上手く纏まっている。
流石は潤子さん。「本職」のピアノだけじゃなく、シンセサイザーも見事に弾きこなすとはね・・・。
シンセソロに続いてはEWIのソロだ。
いきなり6連音符で駆け上がるフレーズで始まり、複雑なフレーズをすらすらと弾きこなす。
と思ったら、一音一音を際立たせるような演奏になったりと変化の激しい、言い換えればメリハリの効いた演奏を聞かせてくれる。
勝田さんはEWIを旋律に合わせて上げたり下げたりして、「見せる」こともリハーサル以上に力を入れている。
EWIソロは6連音符をふんだんに織り込んだフレーズが続き−勝田さんのアレンジだが、即興だろうか−、いよいよ最大の盛り上がり部分に差し掛かる。
勝田さんはもの凄い速さで指を動かして6連音符の連続のフレーズを吹き鳴らし、それが終わると一転して分かりやすいフレーズで安心させる。
あれだけややこしいフレーズを演奏しながら、きっちりテンポキープしているのは流石だ。
しかし俺も負けては居られない。最後は俺の見せ場が待っている。
曲はサビ前の部分に戻る。俺は音色を切り替える準備をして出番を待つ。・・・今だ!
今回も絶妙のタイミングで切り替えに成功し、EWIの金属的な響きにまろやかさをプラスする。勿論、目と耳によるテンポキープは怠らない。
桜井さんと青山さん、特にリズムの中核をなす青山さんのテンポキープは抜群だ。安心して演奏出来る。これがプロの実力か。
さあ、ボリュームを少し上げてギターを少し前面に出したフレーズを奏でたあとは、ギター最大の見せ場だ。
ここは気合入れていくぞ!俺の持つ技術を全て出して最高の演奏を聞かせてみせる!
EWIの音量が控えめになって、俺はギターソロを始める。
ギターを縦方向に大きく傾けて、練習に苦労した複雑なフレーズに自分の即興のアレンジをブレンドする。
ライトハンド奏法やアームも存分に混ぜて、ギターは此処に居る、というアピールを自分なりに最大限してみせる。
人間と人間がぶつかり合い融合する形のコンサートならではの醍醐味を満喫する。
自分が楽しくなけりゃ聞き手が楽しくない筈がない。それはこれまでのクリスマスコンサートで体験済みだ。
ソロの最後を締めると、再び音量を増したEWIとメロディをユニゾンする。
曲はラストに向かって着実に進む。
EWIとギターのユニゾンの背景では、青山さんの細かいドラムフィルが混じる。それでもテンポキープは崩れることがない。
最後は全員で呼吸を合わせて演奏を締める。
短い残響が消えると、真っ暗で殆ど見えない客席から大きな拍手と歓声が飛んで来る。
よく見ると、会場は前から後ろまでびっしり埋まっている。
チケットが完売したから当たり前と言えばそうなんだが、これだけ縦にも横にも奥行きも広い会場を客が埋め尽くしているという現実を目の当たりにして、
今自分は凄い場所に居ることを実感する。
「皆さん、今日はようこそお越しくださいました!」
マスターのMCが始まり、再び拍手と歓声が飛んで来る。
MCは会場全体に聞こえるようにか、かなりの音量だ。これなら俺でも聞き取れる。
メンバー紹介でも大丈夫だろう。まだ気の早い話だが。
「普段はそれぞれのプラットホームで活動している面々が今回一堂に集い、この新京市公会堂という大きな会場でサマーコンサートを開催するに
至りました。チケットをお買い求めいただいた皆さん、本当にありがとうございます。」
客席から拍手と歓声と指笛が飛び出す。
「さて、オープニングは『MORNING STAR』で始まりましたが、オープニングに相応しいものではなかったか、とステージ脇で聞いていて思いました。
続きましては夏の香り満載のナンバー、『Jungle Dancer』と『HIBISCUS』の二曲を続けてお送りします。どうぞお楽しみください。」
マスターのMCが終わると、客席から拍手が起こる。
それが消えていったところでコンガが鳴り始める。青山さんがスティックで叩いているものだ。これもきちんと聞こえる。
俺はタイミングを見計らって、アームとビブラートを効かせた動物の鳴き声のSEを入れる。客席からどよめきが起こる。
初めて耳にする客も居るだろうから、これは結構新鮮だろう。
スネアの単純なフィルを合図に曲が基本のリズムに乗り始める。俺はリズムを聞きつつギターを操ってSEを続ける。
そしてエレピのバッキングを背景に、音の伸びを前面に出したフレーズに切り替える。
あくまでも自然に、楽しく・・・。
宙に浮いているような感覚が心地良くなってきた。
俺はドラムとベース、そしてエレピというシンプルなバッキングの中でメロディを奏でる。テンポキープは目と耳で確実に行う。
晶子は律儀にリズムに合わせて手を叩いてくれている。
まだスピーカーの音が聞こえると言ってないから−言う暇もなかったが−、俺がイントロをきちんとこなせたことを不思議に思っているかもしれないな。
メロディにサックスが加わる。チラッと右を見ると、マスターがサックスを吹いている。
マスターとのユニゾンは何度も経験があるから、安心出来る。サックスは俺のギターと溶け合い、艶を与えてくれる。
再びギター単独になった後、今度はサックス単独になる。一音一音を大切にしていることがよく分かる、耳に心地良い音だ。
そして序盤最大の難関、バッキングなしでのサックスとの細かいフレーズのユニゾンを弾きこなす。
このあたり、何度も弾いているせいか指が動きを覚えているようだ。
スピーカーの音は聞こえるとは言え、ここはサックスの音しか聞こえないし、それもタイミングを合わせないといけないから、これまでの練習や演奏が
無駄じゃなかったと実感させられる。
そしてギターソロに入る。ここはバッキングがあるから安心して演奏に専念出来る。
ダイナミクス、ビブラートをふんだんに織り込んで「生きた」フレーズを奏でるようにする。
これはこの曲に限ったことじゃないが。客席からの手拍子がもう一つのリズム楽器となって俺の演奏に花を添えてくれる。
ギターソロの次はシンセソロだ。
店での演奏ではマスターがサックスの音にエフェクターを通して演奏していたが、ここでは潤子さんが演奏する。
ふわふわした音色で奏でられる細かいフレーズがこれまた耳に心地良い。
それにしても、潤子さんは何時の間に練習したんだろう?幾らピアノを弾けるからって言ってもそう簡単に弾けるようになるフレーズじゃないと思うんだが。
と思っていたら、この曲最大の難関、バッキングなしでのサックスとのユニゾンだ。
ここは最初の方のそれとは違ってリズムがはっきりしないから、サックスとしっかり呼吸を合わせることが肝要だ。
俺はマスターの指の動きに注目して−視力が良いのは幸いだな−サックスと歩調を合わせてフレーズを奏でる。
徐々に駆け上がるようなフレーズに続いて、一気に細かいフレーズで駆け上がる。
・・・成功だな。まずはひと安心だ。
再びバッキングが始まった。俺はSEを入れる。
動物の鳴き声をギターで表現するというのは、初めて聞く人間にとってはかなり意外なものだろう。
俺もこの表現には苦労させられたが、ギターが単にドレミファソラシドとコードを演奏するだけの楽器じゃないってことをアピール出来る面白い場所だ。
最後の狼の遠吠えではボリュームもより丁寧に操作して、「らしさ」を強調する。客席から大きな拍手が起こる。どうやら好感を得られたようだ。
そしてギター単独、サックスとのユニゾン、ギター単独、サックス単独と曲は進み、最後のサックスソロに入る。
ここではサックスの底辺を支えるように、音の伸びを効かせたフレーズを演奏する。エレピのバッキングもかなり細かくなってくる。
それでもサックスの邪魔にならないように聞こえるあたりは、流石と言うべきか。
細かい駆け上がりのフレーズが奏でられ、全ての音が客席に向かって伸びる。そんな中、コンガの音だけが奏でられ、それも徐々に小さくなっていく。
やがコンガの音が聞こえなくなり、伸びていた音も消えていく。
全ての音が完全に消えたところで手拍子が拍手と歓声に変わる。良い感じで締めることが出来たな。
まずは一安心だ。演奏している間は身体が宙に浮いている感じがそれ程気にならない。
それより自分の演奏を聞いてもらおう、という意識が前面に出て、高熱を出していて耳の聞こえが悪いという状態をかなり無視出来る。
というか、そんなことに構っていられない。
誰一人欠けてもこのコンサートは成功しない。
その言葉が頭にあるから立っていられる、否、立って居なければならない状況下に自分を追い込んでいると言える。
次は「HIBISCUS」。角の立ったシンセ音のクイが響き始める。
この曲での俺の役割は本来はない。シンセを担当する潤子さんの両手で足りない部分を補う程度だから、何もせずに突っ立っている時間の方が圧倒的に長い。
だからと言って気を抜くと、熱に負けて衆人環視の前でぶっ倒れることになりかねないから、目と耳に神経を集中させ続けなければならない。
俺も単音のバッキングを加えたイントロが終わると、サックスが艶っぽい音色を響かせ始める。
「Jungle Dancer」ではアルトサックスだったが、「HIBISCUS」ではテナーサックスが使われる。
見た目には殆ど変わらない楽器なんだが、テナーサックスはアルトサックスより更に艶っぽさを含んでいるように思う。
マスターもテナーサックスであることを意識してか、ダイナミクスを強調した演奏をしている。
サビの部分に入ると、わざと「行儀の良い」演奏ではなく、多少モタった演奏をする。
歌手が、譜面からわざと外れた調子で歌って聞き手にそのフレーズを印象付けようとするのとよく似ている。
否、テナーサックスは息を使う楽器だから殆ど同じと言った方が的確か。
もう一度最初に戻ってサビまで繰り返す。俺の出番は全くない。
マスターの演奏するテナーサックスが益々熱と艶っぽさを帯びてきたことだけは確実に分かる。聞いているとふわふわしてくる。
曲のテンポはゆっくりした方だし、テナーサックスの音色が音色だから、聞いていると酒を飲んで良い気分になった時みたいな感じになる。
足元がふらつきそうになるのを何とか堪えて、演奏に耳を傾ける。
間奏部分に入る。原曲ではここでサックスのエフェクター−リバーブ(註:残響を人工的に作り出す効果のこと)だけだが−が切れて原音そのままになるんだが、
この広い会場では否が応にも残響が生まれる。マスターはそれを考慮してか、原曲より発音をやや短めにしてツブを際立たせている。
そして最後は原曲どおり、残響をたっぷり含んだフレーズで締めてサビの繰り返しに入る。
繰り返されるサビのバッキングの中で奏でられるテナーサックスのフレーズが、本当に歌っているように聞こえる。
音の高低、ダイナミクス、そしてモタり。これらをフルに生かした演奏は、息を使った楽器ということも相まって、年季をつんだ男性歌手が歌っているように
聞こえてならない。
基本のフレーズから徐々に変化していき複雑になっていく課程でもそれらは失われず、マスターはサックスという楽器を通して歌っているんだ、と感じさせる。
32小節分繰り返された後、俺もダウンストロークでエンディングに加わる。
シンセ音とシンバルワークの中、マスターのテナーサックスがジャズっぽい駆け上がりフレーズを特別艶っぽい音色で奏でる。
微妙に揺れる最後の音の伸びが耳に心地良い。
そして全ての音が闇に消えていき、拍手と歓声が沸き起こる。
マスターはステージ中央にセッティングされている、晶子が使うマイクをスタンドから取り外す。
「いやぁ、序盤から熱いコンサートになってきましたねぇ。」
「お客さんも早々とオールスタンディングで。座って聞いていただいてても構わないんですよ。でないと脳みそ沸騰しちゃうかも。」
客席から笑いが起こる。
「さて、今までの3曲は楽器のみの曲、正確にはインストルメンタルの曲だったわけですが、今回の我がチームにはヴォーカルも居るんだよね。」
「チームって言うと、何だか野球とかサッカーみたいだね。」
「まあ、良いじゃない。呼び方なんて。じゃあ何て言うわけ?」
「グループとか。」
「それじゃ変わらないじゃないの。」
マスターと桜井さんの掛け合いに、客席から笑いが起こる。
流石に長い間行動を共にしてきただけのことはあるな。会場全体が和やかな雰囲気になったような気がする。
「ま、それは兎も角、我がチームがインストルメンタルだけではないことを証明しましょう。お客さんもお待ちでしょうし。」
「そうですね。では続けて3曲参りましょう。ヴォーカル曲の『Kiss』『PACIFIC OCEAN PARADISE』、そして再びインストルメンタルに戻って涼しげな雰囲気を
皆さんに。『Aquatic Wall』。この3曲を続けてお送りしましょう。」
客席からの拍手の中、マスターはマイクを元の位置に戻してステージ脇に退散し、桜井さんは後ろに引っ込む。
そして緊張で表情が引き締まった晶子が小走りでステージに出てくる。すると拍手がより大きくなり、歓声や指笛まで混じる。
晶子を知ってるこっちの店関係の客は、この瞬間を楽しみに待っていたのかもしれない。
一人でこれだけ客の注目を集められるのは、晶子のルックスの成せる業だな
晶子は賑やかになった客席に迎えられて、ステージ中央のマイクスタンドの前に立つ。俺はその間にギターをアコギに切り替える。
絶不調の身体でのこの作業はかなり堪えるが、ここは我慢のしどころだ。俺は演奏の準備を整えると晶子の方を向き、その右手に注目する。
「Kiss」はいきなりヴォーカルが入る上にギターも同時に入るから、ぴったり呼吸を合わせないといけない。
それに俺は耳が満足に聞こえないから、事前の晶子との打ち合わせで決めた合図を頼りに演奏を始めるしかない。果たして上手く出来るか・・・。
不安に思っていると、晶子が身体を軽く揺らし始める。これは・・・テンポを取っているのか?
1、2、3・・・4のタイミングで右手が少し上がる。俺は演奏を始める。
スピーカーから聞こえて来る晶子の声と俺のギターの音がきちんとシンクロしている。
晶子は俺がタイミングを取りやすいようにしてくれたんだ。これまた嬉しい誤算だ。
俺のことをきちんと考えてくれてたんだな。まったく俺は良い彼女を持てたもんだ。
8小節分の俺と晶子のデュエット−と言うんだろうか−が終わる直前になって、シンセサイザー、ベース、ドラムが続々と入ってくる。
シンセの音は爽やかな感じがする音色で、この曲が夏を意識して作られたことを窺わせる。
演奏の間、晶子は身体を軽く揺らしてリズムを取っている。俺はその様子とスピーカーからの音を頼りに演奏を進める。
晶子のヴォーカルが入る。やや前面に出した俺のアコギのアルペジオとよく溶け合う、透明感のある声が響く。
爽やかな夏をイメージさせるには十分だ。何時も以上に晶子の声が綺麗に聞こえるのは気のせいか?
爽やかなイメージの曲調が少し変化する。
本当はバックコーラスが入るところなんだが、コーラスが出来る人間が居ないから仕方ない。
晶子のヴォーカルが徐々に切なさを帯びてくる。曲調に合わせて歌い方も変えるようになったとは、晶子も本当に上達したもんだ。
俺が教えることなんてもう何もないな。嬉しくもあり、ちょっと寂しくもある。
切なさを前面に出した晶子のヴォーカルが広がる。何だか俺に向かって歌っているような気がするが・・・熱で頭が逆上せたせいか?
そう思っていると、再び爽やかな雰囲気に変わって最初の部分を歌う。勿論歌詞は違うが。
うっかりしていると演奏を忘れて聞き入ってしまいそうだ。それだけの「吸引力」を晶子のヴォーカルは持っているように思う。
再び俺のアコギがちょっと前面に出て、晶子の歌を下支えする。
晶子の身体の揺れは青山さんのドラムとぴったりシンクロしていて、どちらを取るべきか迷う必要はない。
出てくる時は緊張で表情が固まっていたのに、いざ本番、となるとその緊張感を力に出来るとは。やはり俺が教えることはもうないな。
柔らかいストリングスが中高音部を彩る中、次第に切なさを帯びてきた晶子のヴォーカルが歌詞の世界を描く。
俺のギターは合いの手みたいな感じでそれに花を添える。花になってるかどうか怪しいが。
やがてヴォーカルはヤマ場に達し、切なさがじんわり伝わってくる。楽器との歩調もぴったりだ。本当に文句のつけようのないヴォーカルだ。
やや鋭いストリングスと共に、爽やかさを取り戻した晶子のヴォーカルが軽快に響く。
歌を聞いているとその光景が自然と頭に思い浮かび上がってくる。昨年マスターと潤子さんに連れられて海に行った時のことを。
場所が海じゃなくてプールだったら、晶子が歌詞に出てくるような仕草をしていても何ら不思議じゃないような気がする。
曲は間奏に入る。晶子のヴォーカルが最も切なさを帯びる部分をベース以外の楽器が演奏するというものだが、晶子がそこに無声音でコーラスを入れる。
8小節の短いものだが、ヴォーカルが消えている分楽器の音がよく目立つから演奏する側としてはより気を抜けない部分だ。
俺は目と耳でテンポをキープしつつ、弦の上で指を動かす。自然な感じで動く。良い感じだ。
再びヴォーカルが入る。
切なさを帯びて始める部分からだ。俺は音を伸ばす部分でちょっとビブラートを効かせてヴォーカルの醸し出す切なさに彩りを添える。
そして合いの手的に演奏する部分では音のツブを際立たせる。こうしてメリハリを利かせることも演奏では大切なことだ。
切なさを存分に帯びた晶子のヴォーカルが朗々と会場に響く。高音部が特に切なさを感じさせる。聞き惚れていると演奏を忘れてしまいそうだ。
店での演奏回数が他の曲よりやや少なかったのに、どうしてここまで表情豊かに歌えるんだろう?
やっぱり家で一人練習を重ねてきたんだろうな。それを無にしないためにも、俺も自分の力を全て出さねばならない。
輪郭のはっきりしたストリングスとデュエットするように、晶子の爽やかなヴォーカルが広がる。
湿気が纏わりつく鬱陶しいものとは違う、歌詞にも出てくるような新しい風が吹き抜ける爽やかな夏の一コマを楽器と共に演出している。
一緒に練習し、ステージにも上がった俺もお見事、と言いたくなるヴォーカルが「Kiss」の一言を最後に楽器音と共にぴたりと止む。
一瞬沈黙が支配した会場に拍手と歓声がこだまする。
ステージ左脇からソプラノサックスをぶら下げた−勿論手で支えているが−マスターが出てくる。
俺は急いでエレキに切り替えてフットスイッチでエフェクターを選択する。
晶子の「担当」ということでソプラノサックスと一緒にハーモニカのフレーズを演奏する羽目になった次の曲、「PACIFIC OCEAN PARADISE」のためだ。
半拍分のスネアのフィルの後、シーケンサ的なフレーズを奏でるシンセ音と華やかさを生かしたピアノが入ってくる。
安心しては居られない。俺の演奏はこのイントロ段階から始まるからだ。ここはまず音の伸びが強調されるべき部分だ。
俺は弦を弾く強さにも気をつけながら、フレットの上にある左手をやや緩やかに揺らしてハーモニカらしい演奏を心がける。
ハーモニカと同じ「吹く楽器」であるソプラノサックスも、その辺は心得ているらしい。
マスターと呼吸を合わせつつ、俺は10本の指に全神経を集中する。
吹く楽器で奏でられるメロディを弾く楽器で演奏すること自体にかなりの無理があるのは否めない。
だが、サックスとのユニゾンは何度も経験してきたことだ。
サックスとハーモニカじゃかなり違うが吹く楽器特有の息遣い、楽譜では白玉になりそうなところで短く吐き捨てるように吹き残すところは、
アタックを強調してそう聞こえるようにすればそれなりに聞こえる、エフェクターは試行錯誤してハーモニカに極力近づけたつもりだ。
俺とマスターの演奏に代わって晶子のヴォーカルが入る。
ウィスパリングを効かせたその歌声は、流暢な発音と相俟って南の島の砂浜に打ち寄せるさざ波を思わせる。
潤子さんのシンセも、国府さんのピアノも、桜井さんのベースも、青山さんのドラム−スネアだけだが−も、それぞれが控えめに自己主張しつつ
ヴォーカルを支えている。
再び俺とマスターのユニゾンに入る。
マスターの息遣いに合わせようとすると失敗する。何故なら指使いは見てリズムを把握することは出来ても、聞こえて来る音を頼りにリズムを取ろうとすると
必ずタイムラグが生じるからだ。
今まで試行錯誤と練習を重ねてきて指に染み込ませた弦の弾きや指の揺らしに全てを賭けるしかない。
強弱入り乱れるスネアでリズムを取りながら、俺は懸命にフレットの上で左手を動かし、右手で弦を弾く。
こだわるところはとことんこだわる。ハーモニカとはまったく違う性質の楽器をハーモニカに近づけてやる。
偏屈ギタリスト安藤祐司の10本の指とギターを一体にして、ハーモニカの音の揺れと金属的な響きを再現してみせる。
身体中が燃えているように熱い。全身から汗が噴出してくるのを感じる。これで熱が下がるなら儲けものだ。俺はただひたすら指に意識の全てを注ぎ込む。
よし、切り抜けた。晶子のヴォーカルが入るのに合わせて俺は右手から力を抜く。それと同時に全身から力が抜けそうになるが何とか踏み止まる。
晶子の歌声が、立ち消えしそうになる俺の意識を保ってくれているようだ。
セイレーンという魔物はその歌声で船乗りを魅了して難破させるというが、俺のやや右斜め前で身体を揺らしながら歌う井上晶子というセイレーンは、
俺の高熱に揺らぐ意識に輪郭を与え、足がステージについているという感覚を齎してくれている。人助けの上手いセイレーンだよ、まったく。
晶子のヴォーカルが終わると、俺とマスターにとって最大の難関が待ち構えている。16小節に及ぶハーモニカのソロだ。
ハーモニカの特質をフルに生かしたこのソロをギターで再現するのは至難の業だ。だが負けるわけにはいかない。
一回一回の弦の弾きに微妙な力加減を働かせ、フレットの上にある左指を息遣いのように動かす。
フレーズは寄せては返す波のように強弱が何度も何度も繰り返される。昨年行った海の浜辺を再び思い起こす。
フレーズをなぞるばかりが演奏じゃない。強弱や長短を上手く組み合わせ、その曲に合った演奏をするのがプレイヤーの役目だ。
音を強調するところでは弦を強く弾き、時にはアームも効かせ、音を吐き捨てるようなところではさり気ない感覚で弦を軽く弾く。
音の伸びが特に強調される最後の4小節では、アームとビブラートを組み合わせて生々しい息遣いを表現する。
ラストの音は足元のボリュームも組み入れてハーモニカ独特の音の震えを表現する。・・・良い感じだ。
また晶子のヴォーカルが入る。俺とマスターはその合間に合いの手のように短いフレーズを入れる。
短いが油断は禁物。あくまでもギターという楽器を通してハーモニカを演奏しているつもりになって演奏する。ここで気を抜いたら全てがお釈迦だ。
短いフレーズだから、バッキングだから、といって軽く扱わないのが本物のプレイヤーだ。プロと共に演奏している今、それを特に強く思う。
晶子のヴォーカルはコーラスに替わり、ゆったりとした流れでフレーズの上を漂う。
俺とマスターの演奏はストップ。16小節は晶子のコーラスに国府さんのピアノが絡むという構図で続く。
俺は目を閉じ、リズムに乗って自然と身体を揺らしつつ晶子のコーラスと国府さんのピアノに聞き入る。南国の浜辺はこんな感じなんだろうか・・・。
晶子のよく伸びるコーラスに、国府さんの中音部の白玉クイと高音部のキラキラした感じの細かいフレーズが彩りを添える。
そこに、潤子さんの目立たないが柔らかいストリングス系のパッド(註:主に白玉を演奏する際に使う音色)が広がりを加える。
存分に音を伸ばした後、全ての音が消えていく。鳴り響いていた手拍子が拍手と歓声の津波となって押し寄せてくる。
俺は目を開け、直ぐにエフェクターを切る。次の曲「Aquatic Wall」に備えるためだ。
俺の出番は少ないがギタリストのテクニックが問われる部分もあるなかなか歯応えのある曲だ。
この曲を終えるまで俺はギターをぶら下げていなきゃならない。俺の背後を走り去っていく晶子を横目で見送りながら額から噴き出る汗を袖で拭う。
暑い。兎に角暑い。頭上から照らす照明に加えて自分が発熱体になっているから暑いのは当然だろう。
まだまだコンサートは序盤だ。気を抜くわけにはいかない。
コンガの音と共に涼しげな感じを醸し出すは十分なベル系の音がフェードインしてくる。
このあたり、コンガの音が先に鳴り始めることになっているとは言え−その部分は俺には聞こえなかった−、潤子さんと青山さんの息がぴったり合っている。
そしてシンバルのロールが入ってくると演奏開始の合図だ。
俺は単音主体の演奏だ。
ベルの音とこれまた涼しげなシンセ音のバッキングの中でのこの演奏は、さながら水槽を優雅に泳ぐ熱帯魚、といったところだろうか。
マスターのソプラノサックスが少しだけ入って、同じく優雅に泳ぐ熱帯魚をイメージさせる。曲のタイトルに相応しいようによく考えられて作られているな。
メロディに入る。
俺とマスターのユニゾンだが、今度はエレキのナチュラルな響きを生かしたものだ。管楽器を意識する必要はない。
ソプラノサックスが休んでいる間に俺が合いの手のようにフレーズを入れる。このあたりはさり気なく、さり気なく・・・。
ソプラノサックスが奏でるメロディが印象的だ。俺はソプラノサックスとのユニゾンを終えると、ごく簡単なバッキングに専念することになる。
俺のギターとソプラノサックスのユニゾンが盛り上がりを見せたかと思うと、前奏に戻る。
再び軽やかなベル系の音がシーケンサ的なフレーズを奏でる中、ソプラノサックスの高音と俺のギターがよく響く。
バッキングが機械的な分、余計に音が生きているように感じる。
そう、ここでは簡単なフレーズをいかに「生きた」ものにするかが勝負どころだ。さっきはハーモニカの模倣だったから、頭の切り替えが要求される。
そして再びマスターとのユニゾンだ。合いの手を入れるところも同じ。さり気なく、涼しげなイメージで弦を爪弾く。
自分が何かをイメージしながらの演奏は客に伝わりやすいことを、これまでのステージで経験している。水槽の中を涼しげに、優雅に泳ぐ感じで・・・。
マスターのサックスが良い味を出している。やはり俺と同じようなイメージを思い浮かべているんだろうか?
曲は俺とマスターのユニゾンで一気に盛り上がる。加わってきたシンバルのロールが爽やかで耳に心地良い。
フルートっぽいシンセ音でメロディが奏でられる。簡単な旋律だが印象深いものだ。バッキングのシンセ音が涼しげで心地良い。
よく似た形の二つのフレーズを演奏すると、今度はそこにソプラノサックスが加わる。
そのままユニゾンしていくのかと思ったら途中で離れ、自分のフレーズを奏でる。
二つの異なる旋律が存在するわけだが、これがどうして全然耳障りじゃないんだよな。
作曲者の技量のなせる業か、それとも演奏者の技量のなせる業か。どちらにせよ爽やかで心地良いことには間違いない。
曲はコーラスっぽいクイが連打された後、ソプラノサックスのソロに入る。
一定のリズムを刻むコンガと低音を支える割と忙しいウッドベースとベルを含んだ涼しげなシンセ音をバックに、マスターのソプラノサックスが
優雅にフレーズを奏でる。
決して細かい音符の連発ばかりじゃないところがここのミソだ。
ダイナミクスを存分に生かし、音の長短とアタックの速さにメリハリを効かせた、休符部分もフレーズの一部ということも思い知らされる、
本当に優雅で心地良いフレーズだ。
再び俺とのユニゾンで盛り上げておいてから、マスターは潤子さんの共演に入る。
潤子さんは例のフルートっぽいシンセ音で基本となるフレーズを奏で、そこにマスターがソプラノサックスで自由な形で絡む。
ソプラノサックスは時にゆったり、時に早く次々と音を発していく。ダイナミクス、長短、アタック、休符を存分に生かしたフレーズが本当に涼しげで、
同時に生命の息吹を感じさせる。聞く度思うが水族館のBGMにぴったりだな。
16小節分演奏したところのラストでシンセ音のバッキングがクイで駆け上って場を盛り上げ、再びフルートっぽい音の基本フレーズにソプラノサックスが絡む。
今度のサックスは細かいフレーズが主体だ。よくリズムが乱れないものだと毎度毎度感心させられる。
マスターは休符を巧みに生かして息継ぎをしながら、複雑な、しかし嫌味のないフレーズを奏でる。
32小節分演奏したところのラストで再びシンセ音のバッキングがクイで駆け上がり、シンバルのロールと共に白玉で最後を飾る。
音の響きが残っている間に、マスターのサックスが細かいフレーズを少しだけ加えてラストを演出する。
音の響きが消え始めると客席から大きな拍手と歓声が沸き起こる。
マスターはサックスのストラップから身体を抜き、サックスを振り上げて歓声に応える。そしてステージ中央のマイクスタンドからマイクを取る。
「はいはい、連続3曲聞いていただきましたが皆さんどうですか?少しは涼しい気分になれましたか?」
マスターがそう言ってマイクを客席に向けると、「なれたぞー」とか「最高ー」とかいう声が返ってくる。
「ヴォーカル2曲が入ったけど、やっぱりサックスとは違うのかな?」
「よく似てるんじゃないかな。息を使って音を出す、っていう基本部分は同じだし。それにリードや指使いが加わって音程を変えるようにしたのが
サックスに相当するんだと思うよ。」
「しかしあれだね。ギターでハーモニカの音を出すとは皆さんには意外だったんじゃないかな?あれを最初に聞いた時は、僕もホントにびっくりしたよ。」
桜井さんのMCで拍手が起こる。俺は一瞬戸惑ったが、直ぐに客席に向かって一礼する。
「そりゃ何てったって、我がチームが誇る将来の名ギタリストの卵だからね。」
「おいおい。この前のMCで、チームじゃ野球やサッカーみたいだ、って言ったじゃない。」
「ま、細かいことは気にしない、気にしない。」
「自分で言っておいて、勝手な人だねぇ。」
会場から笑いが起こる。リハーサルでもやっていたから聞き慣れている筈なんだが、思わず俺も笑ってしまう。
本番でも気さくで息の合った掛け合いを見せてくれるあたりは流石だな。
「さ、それはさておき、ノリの良い曲が続きましたね。ここらで一度しっとりした気分に浸っていただきましょうか。」
「そうだね。我がグループ自慢の二人の美女主役でね。」
客席から俄かに拍手と歓声が沸き起こる。晶子と潤子さんの「進出」を待ってました、と言わんばかりのものだ。
晶子はさっき出ているが、潤子さんはステージ上段、客席から見れば奥の方でシンセサイザーに向かっていたからな。
「まずは、ヴォーカル曲『Secret of my heart』。続いては舞台をシンセからピアノに移してのソロ曲『TERRA DI VERDE』。この2曲を続けて
お送りしましょう。どうぞ!」
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