雨上がりの午後

Chapter 94 秘密のアイテム探し、久々の遭遇

written by Moonstone


 今日のバイトも終わった。始まりこそギクシャクしていたが、今はそんなごたごたがあったことが嘘のようだ。
俺と晶子は何時ものように手を繋ぎ、寒風を凌ぐように身を寄せ合っている。
勿論、俺の首には晶子手編みのマフラーが巻きついているし、指にはペアリングの片割れが嵌っている。
 「仕事の後の一杯」では俺と晶子双方、潤子さんから窘められた。
怒鳴ったり押し付けがましくなかった分、余計に心に響いた。
パートナーなら常に情報交換を。
その場その時で全てを決めちゃ駄目。
そしてとどめに「信じること」。
俺が最初に智一の口から噂話を聞かされた時散々自分に言い聞かせた言葉を、俺は何時の間にか忘れていた。傷つくことを恐れるあまり。
 道程半ばにしてまだ会話はない。何と切り出して良いのか分からない。
今回の件は潤子さんの言ったとおり、俺に黙って全てを片付けようとした晶子も悪いが、晶子を頭から疑ってろくに言い分も聞かずに関係断絶を
告げたことが一番問題だ。やはりここは、俺から話を切り出さないとな・・・。

「・・・今日は・・・悪かった。御免。」

 俺は晶子の方を向いて言う。
晶子は俺の声に反応するかのように俺の方を向く。その目や表情からは疑念や怒りとかいったものは感じられない。

「俺が晶子の言うことを聞いてれば、否、それ以前に晶子を信じてれば、一方的に言うだけ言って・・・もう終わりだ、なんて最後通牒を突きつけることは
なかったよな。・・・本当に悪かった。」
「私の方こそ・・・祐司さんが居ながら祐司さんを頼らなかったんですから、祐司さんを信じてなかったと言われても仕方ないですよ・・・。」
「晶子・・・。」
「それ以前に、私がもっと毅然と対処していれば、ここまで問題をずるずる引っ張らずに済んだんです・・・。変に気を使って返事を引き延ばしたから、
自分に気があると思わせてしまったんです・・・。私は祐司さんが悪いとは思ってません。変な気の使い方をして問題をこじれさせてしまった私の方が
悪いんです。・・・御免なさい・・・。」
「晶子に謝られたら・・・、俺はどうすりゃ良いんだよ。」

 俺は溜息を吐く。白い吐息が宙に広がり、闇に溶け込んでいく。

「晶子の言葉に聞く耳を持とうともしなかった俺は、自分可愛さに自分の耳を塞いだんだ。晶子から終わりの言葉を聞きたくない。
その前に俺から言ってやる。・・・そんなことしか頭になかった。信じて裏切られることより、疑って安心することを選んだんだ・・・。
臆病って、こういうのを言うんだよな。」
「臆病だなんて・・・。」
「今まで何度も痛い目に遭って来たから、先に防衛本能っていうか、そういう考え方に走っちまったんだ。智一から最初に噂話を聞いたときには、
晶子を信じる、なんて言っておきながら、何時の間にやら晶子を信じるっていう気持ちを投げ捨ててた。田畑と何かあるんじゃないか。
そんなことばっかり考えてた。だから頭ごなしにあんなことを言ったんだ。・・・そう思う。」
「それも元はと言えば、私が田畑先生と必要以上に仲良くするっていう、噂になるようなことをしたのが原因ですよね・・・。」

 晶子はしんみりした表情で言う。

「私、やっぱりまた調子に乗ってたみたいです。前に伊東さんからデートを申し込まれた時みたいに・・・。祐司さんに言わなきゃ良い。
自分一人で解決出来るから言わなくて良い。そうやって思い上がってたのがあると思うんです。最初から噂になるようなことをしてなければ、
今回みたいにこじれなくて済んだと思うと、自分がつくづく馬鹿に思えます・・・。」
「潤子さんが言ってたけど・・・タイミングが悪過ぎたな。互いにさ。」
「そうですね・・・。」
「もう互いに悪かった点は分かったみたいだから、謝り合いはもう止めよう。それより晶子。今日俺が走り去ってからはどうなったんだ?」

 互いに悪かった点は出尽くした。だからもう謝り合う必要はないだろう。堂々巡りになるだけだ。
それより俺が去ってから何があったのか、今はそれが知りたい。
 俺が尋ねると、晶子は神妙な面持ちで答える。

「田畑先生には、お付き合い出来ません、とはっきり言いました。田畑先生は散々待たせた答えがそれか、って言って不満そうに立ち去りました。
それから私は日が暮れるまでに祐司さんのマフラーと指輪を探して拾ったんです。マフラーはまだしも、指輪は暗くなったら探しようがなくなりますから。」
「不満そうに立ち去った、ってのが気になるな・・・。まあ、じらされた結果『御免なさい』じゃ、不満に思うのも無理はないと思うけど・・・。」
「そういうことにまで頭が回らなかったんですよね・・・。」
「晶子が穏便に自分から手を引いてもらうように、と考えた結果のことだから仕方ない。それよりこれから田畑がどんな行動に打って出るか
分からないのが問題だな・・・。晶子、今、田畑の講義って受けてるのか?」
「はい。必須科目の一つです。」
「だとしたら余計に厄介だな。単位と引き換えに交際を迫る教官の話なんて、インターネットで検索すればずらりと出てくるから。」
「私の場合、自分で自分の墓穴を掘ったようなものですよね・・・。」
「もう反省は良い。それより田畑のそういった復讐行為を何とかしないと、晶子の今後が大変だから・・・。」

 俺はうんと思案する。田畑が自分の立場を悪用した報復に打って出たら逆襲できるような方法というと何があるか・・・・!
そうだ。あの手があるか。少々姑息かもしれないが、この際そんなことは言ってられない。晶子の今後かかかってるんだから。

「今度の週末に俺がちょっとしたものを買ってくる。晶子は常時それを身につけて、田畑が絡んで来たらスイッチ一つ押して徹底抗戦する。
それで場合によっては田畑の首が飛ぶ。」
「何なんですか?それ。」
「それは見せてからのお楽しみ。それまでは極力田畑に近付かないようにしろよ。」
「分かりました。もう今度こそ噂になるようなことは慎みます。祐司さんに疑われるようなこともしません。」
「晶子の言葉、信じるからな。」

 俺の言葉は自分自身に向けてのものと言って良い。
晶子は俺を裏切ってなんかいなかった。ただ俺が、その場その時の状況で裏切ったと即断してしまったに過ぎない。
信じたくない噂を耳にして、晶子を信じる、と言っておきながら信じきれなかった俺・・・。
今回は潤子さんのフォローがあったから良かったようなものの、何時までも潤子さんに頼るわけにはいかない。
俺と晶子の関係なんだから、俺と晶子共に信頼関係を支えあっていくようにしないといけないな・・・。

 その週の土曜日。
俺は眠気が残る目を擦りつつ、普段ならまだ寝ている午前9時過ぎに起き、久しぶりに上り方向の電車に乗り込んだ。
今の町に住むようになって以来一度も帰省してないし、宮城と会うのは専ら今の町だったから、約1年半、否、それ以上か・・・。
バンドの奴ら、どうしてるかな。案外呆気なく出くわしたりして。
 週末なのに電車は結構混み合っている。
まあ、俺が今住んでる町は大して若者が遊ぶような場所はないし、やっぱり遊びに行くなら都心、ということだろう。
見た目にも俺と同年代、或いはそれ以下の顔が目立つ。顔で年齢を即決することは出来ないが、多分推測は間違ってはいないだろう。

「ご乗車ありがとうございました。間もなく小宮栄(こみやさかえ)、終点です。この電車、この駅まででございます。お降りの方はお忘れ物の
ございませんよう、よくお確かめ下さい。」

 久しぶりに聞く駅の名がアナウンスに乗って耳に入ってくる。
小宮栄・・・。俺が住む胡桃町が含まれる新京市は、この小宮栄市のベッドタウンにあたる。
小宮栄から電車を乗り継いで1時間半ほどのところに俺の実家がある町がある。
ちょっとセンチな気分になるが、今日俺が小宮栄に足を運んだのにはそれなりの理由がある。
 晶子に言い寄る浮名流しの教官、田畑。
晶子が返事を先延ばしにした挙句「御免なさい」と来たもんだから、恐らくプライドを傷つけられたに違いない。
「御免なさい」に至った状況を踏まえると恋愛感情が−真剣なものだったかどうかなんて知りたくない−憎悪に変わることは十分ありうる。
同じような経験をしたことがある身として、したくはないが同感してしまうものがある。
 今後田畑が自分の講義の単位と引き換えに交際を迫るという、インターネットで検索すればズラリと例が並ぶセクハラ行為に出ないとは限らない。
むしろそうするものと考えたほうが良いだろう。だが、それは明確な証拠がないと被害を立証するのがなかなか難しいという。
 そこで俺が考えたのは、ICレコーダーを晶子に持たせることだ。
ICレコーダーなら携帯にも不自由しない大きさや形状のものがあるし、その大きさに似合わず長時間、しかも鮮明に録音できるという。
俺自身、講義にバイトにギターの練習で疲れが溜まってダウン寸前になるということがあったし−それで帰宅しようとしたときに例の場面に出くわしたのは
本当にタイミングが悪かったと思う−、智一に負担をかけるわけにもいかないから、一つ持っておきたいと思っていたところだ。
まあ、智一の場合は実験で散々世話焼かせられてるからお互い様と言えばそうなんだが。

 他の客の流れに乗って電車を降りた俺は、中央改札を通って商店街へ向かう。
駅は地下にあって、そこから別の鉄道会社の路線や商店街、或いはオフィス街に出られるようになっている。
ICレコーダーはパソコンや携帯電話を扱っていてそこそこ大きな規模の店なら置いてあるだろうから、幾つか知っている店を回ってみようと思う。
新京市の都心はよく知らないし、その中から家電販売店な何処かでICレコーダーを売っている所を探し出すのは至難の業だ。
 バイトは休むつもりもないし休める状況じゃないから−クリスマスコンサートは目前だ−、とっとと買い物を済ませて帰るつもりだ。
昼食は帰りにコンビニに寄って弁当かおにぎりあたりを買って済ますつもりだ。外食は高くつくから避けたい。
それにICレコーダーがどの程度の価格か分からないのもある。事前に大学のPCで調べておくんだったな・・・。
 まずは寒い外を避けて地下道を通り、ICレコーダーを売っていそうな店を探す。
流石に地下の商店街にはその手の店はなさそうだな・・・。仕方ない。寒いのを我慢して外に出るか。
地下道を歩き回ってたら、食べ物の匂いにつられて食欲を満たす方向に走ってしまいそうだ。
 近くにあった通用口を上って外に出ると、肌に刺さるような冷気が襲い掛かってくる。
厚着にロングコート、マフラーという防寒対策を施していても、剥き出しの頬まではカバー出来ない。カバーすると警察の厄介になりかねないから仕方がない。
俺は手近な知っている店に向かう。今の一人暮らしを始める前に親父と一緒に小宮栄に来て家電製品の店を回ったから、その記憶を頼りに人で賑わう
大通りを歩いていく。
 1軒目にはなかった。パソコンは腐るほどあったが・・・。
2軒目にもなし。家電製品がパソコンを含めてズラリ揃う中で、ICレコーダーはなかった。
かなり歩いて3軒目の店に入る。ここは品揃えが豊富なことで名が知れてる量販店だから、1つや2つ置いてあるだろう。
 中は広い上に何階もあるし、今まで散々歩き回ったお陰で腹も減ったし歩き疲れた。ICレコーダーがあるかないか自分の足で確かめるのは面倒だ。
俺は近くに居た店員に声をかける。中年の男性の店員は、所謂営業スマイルを浮かべつつ話し掛けてくる。

「どういった商品をお探しでしょうか?」
「ICレコーダーってあります?カセットじゃなくて持ち運びに便利そうなやつ。」
「はい、ございますよ。そのような商品でしたら、パソコン関連商品があります3階へお願いします。」

 良かった。また歩き回ることになる羽目にならずに済んだか。俺はその店員に礼を言ってエスカレーターで3階へ向かう。
3階に到着すると、デスクトップ、ノート問わずにパソコンがずらりと並んでいる。
自作機とやらも扱っているらしく、マザーボードやケースが入った棚も見える。
兎も角俺は目的のICレコーダーの置き場に手っ取り早く辿り着くために、近くの店員に声をかける。
若い男性店員がこれまた営業スマイルを浮かべて話し掛けてくる。

「お客様、どういった商品をお探しでしょうか?」
「ICレコーダーを探してるんですけど、どこにあります?」
「それならご案内いたします。どうぞ。」

 店員に先導されて、俺は店内を歩いていく。
少し奥の方まで歩いたところで店員が足を止め、手で棚を指し示す。

「こちらになります。録音時間や形状でお値段が違ってきますが、どのような商品をご希望ですか?」
「そうだな・・・。3時間くらい録音できるやつで、大きさは小さければ小さい方が良い。操作性が良くて使いやすいと良いな。」
「それでしたら・・・そうですねえ・・・。このあたりになりますかね。」

 店員は棚から掌に収まるくらいの箱型サイズのものとペン型の二つを手に取って見せる。
箱型サイズのものはボタンが明確だが、ペン型の方は操作方法がちょっと想像出来ない。

「こちら、箱型のものですと、6時間録音が可能です。ポケットにも十分入ります。赤いボタンが録音、青いボタンが再生ボタンです。
勿論停止ボタンもございます。早送り、巻き戻し機能もございます。」
「ふーん・・・。」
「で、こちら、ペン型のものですと、3時間録音が可能です。これはシャーペンとほぼ同サイズですね。ペンの頭を早く連続で2回押しますと録音、
1回押すだけですと再生になります。停止は本体脇の小さい赤いボタンを押すことで可能です。早送りや巻き戻しといった機能はございません。
停止すると自動的に最初に戻ります。」
「値段はどんなものになりますか?」
「えっと・・・箱型のものですと3万円から、ペン型のものですと1万円からになります。勿論お値段の方は努力させていただきます。」
「ちょっと触らせてもらえませんか?」
「どうぞどうぞ。」

 店員は俺に二つの形状の違う商品を差し出す。俺はそれを受け取って見比べつつ、指でボタンを触ったりして操作性の感触を確かめる。
操作性としてはダブルクリックみたいな操作を必要としない上に早送りや巻き戻しといった機能もある箱型の方が良いが、値段が問題だ。
ケチるつもりはないが、そんなに金の持ち合わせがない。
それにいざっていう時、いかにも録音してます、っていう感じの箱型はちょっと問題があるな・・・。

「こっちの・・・ペンみたいな方の録音は、どんな感じでボタンを押せば良いんですか?」
「シャーペンの芯が出るまで押すような感覚で押してもらえれば結構です。回数と速さは機械が判別しますので、何回押しても変わりません。」
「試してみて良いですか?」
「はい。勿論どうぞ。」

 俺はペン型のICレコーダーの頭を言われたような感覚で2回押して、適当に喋ってみる。
時々距離を開けたりして、どれくらいの音量が録音できるのかどうかも併せてチェックするつもりだ。
 適当に録音してみたところで、赤い小さなボタンを押す。
小さい割に押した感覚はしっかりしてて、録音途中でうっかり止めてしまう、ということはなさそうだ。
そして頭を1回だけ押すと、俺がさっき喋った声と共に、店内に流れているBGMや他の客や店員の会話なんかが雑音みたいに、それでいて
割とはっきり聞こえて来る。
小さい割に良く出来てるな・・・。3時間録音出来るなら、午前午後のどちらか寝てても大丈夫だな。

「これは・・・なかなか・・・。」
「そちらの商品は、私立探偵の方からもよくお買い上げいただいております。探偵さんですと目立つ装備は禁物だということで・・・。」
「別に探偵ごっこするわけじゃないけど、これはなかなか良いな・・・。これにするかな。これ、2つ下さい。」
「ありがとうございます。お値段の方は2点お買い上げいただくということも併せて努力させていただいて・・・税込みでこんなもので如何でしょう?」

 店員がズボンのポケットから取り出して叩いた電卓を見せる。
2つで税込み15800円。十分予算範囲内だ。でも、ここであっさりOKするのはちょっと癪だから、値段交渉をやってみるか。

「その800円、ってのはちょっと邪魔だな・・・。何とかなりません?」
「お客様、なかなかお上手ですねえー。・・・分かりました。では15000円ポッキリでどうです?」
「OK。じゃ、1つはラッピングしてもらえます?」
「かしこまりました。お買い上げありがとうございます。お支払いはこちらです。どうぞ。」

 店員は俺が差し出した商品を受け取って棚に戻し、棚の下から小さな箱を2つ取り出して俺を先導してレジへ向かう。
そしてレジの女性店員に何やら話して俺をレジに案内し、自分もレジの中に入って1つの箱をラッピングし始める。

「ありがとうございます。2点お買い上げで15000円になります。」

 俺はポケットの財布から2万円を取り出して差し出す。店員はそれと引き換えに5000円札とレシートを差し出す。
俺がそれらを受け取って財布にしまって間もなく、ラッピングが完了する。
男性店員が箱剥き出しのものとラッピングされたものを両手で下から支えるように差し出す。俺はそれを受け取ってコートのポケットに仕舞う。

「どうも。」
「「ありがとうございました。」」

 店員の声に送られて俺はエスカレーターへ向かう。なかなか良いものが手に入ったな。
さて、用も済んだことだし、とっとと帰って実験のレポートを仕上げるとするかな・・・。
 俺は店の外に出る。
暖房が効いていた店内に慣れていた身体が、凍てつく空気に包まれてブルッと震える。
夏場もそうだが、屋内と屋外の寒暖の差はなかなか厳しいものがある。
その辺を加減すれば省エネも掛け声だけに終わらずに済むだろうし、経費削減にも繋がって一石二鳥だと思うんだが。
 朝食もそこそこに家を出て更に駅からかなり歩いたせいか、腹の虫が騒ぎ始めた。これで地下街を通ったらふらふらと飲食店に入っちまいそうだ。
ここは兎に角誘惑を逃れるためにも早く電車に飛び乗って、家に帰った方が無難だな。
俺は駅へ向かう足を速める。人で混み合っているとはいえ、吹きっ晒しの屋外に長時間居るのは俺には辛い。

「祐司。」

 不意に背後から声がして右肩に手が置かれる。この声・・・もしや・・・!
俺が振り向くと、背後に宮城が立っていた。
黒のハーフコートに同じく黒のマフラー、黒のズボンという出で立ちの宮城は、宝物か何かを見つけた子どものような笑みを浮かべている。

「宮城・・・。」
「久しぶりね。わざわざ小宮栄に来るなんて、何かあったの?」
「まあ、ちょっと買い物にな。こっちの店じゃないと場所知らないから。それより、宮城こそ何で此処に?」
「あたし、4月から就職でしょ?それで地元離れることになるから、一人暮らしに必要な家電製品とかを見て回ってるの。決めたものは自宅に
配送して貰うように代金引換払いで注文してる。」
「そうか。地元出るのか・・・。」
「通えないこともないんだけど、一人暮らしの方が融通利くし、仕事柄不規則な生活になるから、電車乗り遅れたらアウトだし。」

 宮城は短大だから、来年3月で学生生活が終わりなんだっけ。
不規則な生活になる上に一人暮らしってのは、大変だろうな・・・。まあ、その点は宮城のことだ。何とでもするだろう。

「ねえ祐司。折角会ったんだしさ、お昼一緒に食べない?あたし、朝からずっと歩き詰だからいい加減疲れてきたし。」
「俺はバイトと実験のレポート仕上げなきゃならないから・・・。」
「たかが1時間くらいのこと良いじゃない。さ、行こ行こ。」
「お、おい!」

 宮城は俺の腕を引っ張って歩いていく。
まさかこんなところで宮城に会うとは・・・。それも一緒に食事だなんて、デートじゃあるまいし。
だが、宮城は俺の腕をしっかり掴んで離しそうにない。
仕方ない。此処は大人しくついて行くことにするか。前みたいに顔を見るのも嫌だってこともないし、間もなく地元を離れる宮城と最後の顔合わせに
なるだろうから、少々一緒の時間を持っても悪くはないか。

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