written by Moonstone
「くっそー、ありゃ難しすぎだ。ギリギリセーフかどうかってとこだな。」
智一が悔しそうな表情で頭を掻きながらぼやく。「ヤマ張ってたのか?」
「おおよ。過去問題持ってる奴にコピーさせてもらって、それを完璧に解けるようにしておいたんだけどさぁ。半分ぐらい意表を突かれちまったよ。
あんなところから問題出すか?普通。」
「講義や教科書の演習問題から出題されるって言ったのは、他ならぬお前じゃないか。今までの傾向がそのまま続くとは限らないだろ?」
「そりゃそうだけどさぁー。試験の時くらい楽したいってのが人情ってもんだろ?だから過去問題解けりゃ完璧ってことにしてほしいよなぁー。その点、
お前、随分余裕じゃないか。」
「俺はひととおり出来るようにしておいたからな。お前から聞いたとおりに。まあ、完璧とは言えないけど8割くらいはいけたと思う。」
「それだけ出来りゃ上等じゃないか。くっそー。何でルックスも懐具合もハートも申し分ない俺が試験ごときで苦しめられなきゃならないんだよー。」
「・・・智一。それって俺に対するあてつけか?」
「よく分かったな。」
「おい。」
「ったく、お前には薬指に指輪嵌め合うほどの相手が居るっていうのに、試験は出来ないわ、彼女は出来ないわ、何でこんなに世の中不公平なんだよ・・・。」
「お前が仕入れた情報どおりに、講義や教科書の演習問題を解けるようにしておきゃ良かったんじゃないのかよ。それに彼女が出来ないのを
俺のせいみたいに言うなよな。」
「ふん。美人の彼女が居る奴は良いよな。いざとなったら彼女に慰めてもらえるんだから。」
「晶子だって試験があるんだぞ。妙な言い方するなよ。」
「どうだか。実は週末デートでもしてたんじゃないのか?その勢いで夜も一緒に、とか。」
「試験期間中にそんな悠長なことやってられるかよ。只でさえここは進級が厳しいんだから。俺は留年なんて絶対許されないんだから尚更だ。」
「留年なんて俺だって真っ平御免さ。でも、この分だと後期に盛り返さないときついかもなぁー。」
「後期から専門教科の実験が入ってくるんだぞ。言っとくけど、グループが分かれたら前期の物理や化学の実験みたいにフォロー出来ないから
そのつもりでな。人の実験にまで構ってられないからな。」
「そんな冷たいこと言うなって。お前の苗字は安藤。俺は伊東。この間に人は居ない。そして情報では実験のグループ分けは4人単位。頭から数えれば、
俺とお前はほぼ間違いなく同じグループになる。というわけで、よろしく頼む。」
「そう言えばさ、祐司。お前と晶子ちゃんが出会ったのって、このくらいの時期じゃなかったか?」
「人のことなのによく覚えてるな・・・。」
「そりゃ当たり前だろ。お前と晶子ちゃんがきちんと顔合わせできるセッティングをしてやったんだから。それにしてもあの頃のお前、尋常じゃなかったよな。
本当に心底嫌そうだって顔してたし。」
「しかし、今だから聞けるけどさ、何であの時お前、あんなに荒れてたんだ?」
「・・・その時付き合ってた女に、ある夜電話一本でふられたからだよ。」
「はーあ、そうか・・・。成る程ね。」
「相手は俺の気持ちを試すつもりだったらしいけど、結局別の男と付き合ったんだから世話ないさ。ま、その相手とはきっちり清算したから良いけど。」
「お前って、純情一直線って言うか、これと決めたものにはとことんってところがあるから、そんなことがあったら自棄になっちまうのも無理はないわな。
そうか・・・。晶子ちゃんが初めての相手じゃなかったのか。」
「しかしな、祐司。そういう事情があったにしても、あの時のお前の態度は幾らなんでもぞんざい過ぎたぞ。せめて話をするくらいの余裕がないと。」
「今思うと、あの時は確かに酷い対応だった。聞く耳一切持つもんか、って思ってたからな。」
「2、3回顔を合わせただけの相手に自分の事情を洗いざらい説明しろとは言わないけどさ、自分の事情はひとまず置いておいて普通に、一人の人間として
接するようにした方が良いぞ、絶対。お前、相手が晶子ちゃんだったから良かったんだぞ。」
「ところで、予定は何か立ててあるのか?」
「予定って、何の?」
「何の、ってお前なぁ・・・。出会って一周年企画に決まってるだろ。」
「まったく・・・何でこんなボケボケ男に惚れ込んじゃったんだろうなぁ、晶子ちゃん。美人だけど思考パターンはいまいち理解出来ん。」
「悪かったな。」
「悪いも何も、祐司。お前も女と付き合った経験があるっていうんだから幾らボケボケでも多少は分かってると思うが、年のために言っておいてやる。
女って生き物はな、二人の記念日とかそういうのを大切にしたがるもんなんだ。そういうのをいい加減にしてると、相手の憤激を買うぞ。
まあ、それで俺にチャンスが巡ってくるならそれでも構わないけどな。」
「で、本題に戻るが、予定はどうなんだ?」
「まだ何も考えてない。今は試験のことで頭がいっぱいだから。」
「おいおい、そんなんで大丈夫なのか?」
「試験が終わったら考えるさ。まあ、お前みたいに豪華絢爛なディナーで盛大に祝う、なんてことは出来ないけど。」
「つくづく馬鹿だな、お前って奴は。晶子ちゃんが豪華絢爛な催しや演出を好むタイプじゃないってことは、付き合ってるお前なら十分分かってるだろ。
俺ですら分かってるんだから。」
「・・・ああ。」
「お前が出来る範囲のことでやれば、晶子ちゃんは間違いなく喜んでくれるさ。極端な話、『今日は俺たちが出会った日だよな』の一言だけでも
感激するかもしれないぞ。」
「まあ、考えてみる。それにしても智一、お前って付き合い方とかそういう方面は色々詳しいな。実験とかはてんで駄目なくせに。」
「人間誰でも得手不得手はあるもんさ。ま、幾ら詳しくても相手の心を分かろうとしないと駄目だけどな・・・。」
「なあ、智一。」
「何だ?」
「前々から思ってたんだけどさ、何で今の今まで晶子にそこまで熱を上げてるんだ?お前なら合コンとかで簡単に彼女が出来ると思うけど。」
「晶子ちゃんは今まで俺が見てきた女とは違うんだよ。あんな良い娘、お前っていうこぶが付いただけで諦められないさ。」
「でも、お前、以前合コンで聖華女子大の娘とくっついたじゃないか。直ぐに性格の不一致とかで別れたって言ってたけど、その線とかで探してみれば、
お前の人脈ならお前が気に入る娘が見つかるんじゃないか?」
「それがそんなに簡単に出来れば何の苦労も要らないだろ。聖華女子大の娘とは確かにコネがあるし、お前が以前言ったように、文学部とか法学部とかの
娘を当たってみる手はあるさ。だけどな、晶子ちゃん以上の娘には出会えないんだよ。俺に寄って来る女なんて、大抵俺ん家の財力に目をつけたか、
車持ちでセンスが良いとか、自分で言うのも何だけどな、洒落たデートスポットを知ってるとか人伝で聞いた奴ばっかりだ。そんなんで性格が合うも
へったくれもありゃしないだろ?」
「そりゃそうだな・・・。」
「それにな、俺、思うんだ。お前は偏屈で斜めからものを見るような奴だけど、一方で真面目で誠実で、人が困ってるのを見て見過ごすようなことは
出来ない奴だ。外見や財力や女を寄せる武器では圧倒的に俺に劣るけど、俺にはそういう突っ込んだところでの魅力がないんだ。だから上辺だけの
付き合いで終わっちまう。俺はいい加減そういうのに飽きたんだ。だから晶子ちゃんを諦めないんだよ。」
「でも智一。俺はお前の気さくで陽気な性格に惚れ込む女が、探せばきっと見つかると思うぞ。少なくとも女を集められる能力は確実に俺より上なんだから、
その分可能性も高い筈だし。」
「だからな、性格を見通したり見通されたりするまでに時間がかかるんだよ。それまで女のご機嫌とったりしなきゃならない。俺はそういうのが
もう嫌になったんだよ。馬鹿馬鹿しくてさ。」
「はあ・・・。こうなったら、通学途中に食パン加えた女の子と出会い頭にぶつかる機会を待つしかないんかね。」
「何だそりゃ?」
「つまりは、お前みたいな極めて幸運な機会を待つしかないかな、って意味だよ。」
「ホント、お前ってつくづく運の良い奴だよな。あれだけ鬱陶しがってた相手に諦められないで、結局180度態度を変えたら見事にくっつけられたんだから。」
「俺もそう思う。」
「お前、そう言っておいて晶子ちゃんを泣かせるようなことしたら、それこそ承知しないぞ。遠慮なく割り込ませてもらうからな。」
「そうならないようにするつもり。」
「俺は何時でも隙を窺ってることを忘れるなよ。」
「大学や町に特定人物専門のひったくりが徘徊してるってことだな。」
「お、お前なぁ・・・。」
「祐司。何を空見上げて浸ってるんだ?」
「ん?こういう空は良いなって思ってさ。」
「お前にアンニュイは似合わないって。」
「大きなお世話だ。」
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