written by Moonstone
「・・・来てくれたのね。」
「まあな・・・。」
「・・・高校時代にあたし、何度か祐司を怒らせたわよね。他の男の子と仲良さそうに話してるところを見られて・・・。」
「ああ、覚えてる。」
「あたしって・・・誰にでも好かれたいって思うタイプなのよね。一番好きな相手の他に、二番目、三番目を望むっていうか・・・。
別に男をキープしたいって訳じゃないけど、一番好きな相手だけにだけ目を向け続けるんじゃなくて、変な言い方だけど・・・視野を広く持ちたいって
いうか・・・そんな感じ。」
「・・・。」
「それが浮気っぽいと思われても仕方ないとは思う。祐司にもきっとそう見えたんだろうし、だから怒ったんだと思う。・・・今回も元を辿れば、
そういう自分のままだったから祐司に疑惑を持たれて、それが束縛に感じたあたしがバイト先の男の人、その人、3つ上なんだけどね、その人のあたしに
接する時の態度が寛容に思えて・・・祐司っていう一番好きな相手が居ながら、その人を自分の傍に寄せることで安心感を得ようとしたことが原因だと思う・・・。」
「・・・お前、俺が何度言っても聞かなかったよな。他の男とベタベタするな、って言っても・・・。」
「あたしはベタベタしてるつもりじゃなかった。ただ自分の話し相手として男女分け隔てなく接してたつもりだったのよ。それが結果的に・・・
こんなことになっちゃったのよね。はは・・・。あたしって・・・ホントに馬鹿よね・・・。」
「まあ・・・昔話は別にして・・・、去年の秋のあの夜の電話で俺はお前とはもう終わったと思った。そしてお前はバイト先の男だったか?
まあ、誰でも良いけど、その男と付き合った。この時点で俺がお前にふられたっていう事態が出来上がったわけだ。お前が言うところの
『一番好きな相手』が俺じゃなくなった時点で、俺とお前の関係は終わったんだ。・・・俺はそう思ってる。」
「・・・すれ違い、よね。あたしと祐司の付き合いに対する考え方の。」
「そういう言い方もあるかな・・・。高校時代、俺とお前が学校に行けばほぼ間違いなく会えたあの時代に、互いの考え方を知っておくべきだったな。
それこそ喧嘩してでもとことん話し合ってさ・・・。俺とお前は喧嘩することが即別れに繋がると思ってて、それが怖くて互いの心を窺おうとしなかった。
未熟者同士の恋愛ごっこだったんだよ、俺とお前の関係は。」
「そうね・・・。あたしは何で祐司以外の男と話してただけで祐司が怒るのか真剣に考えたり、祐司に理由を聞いたりしなかった・・・。ただあたしが謝って
一件落着、って感じだったもんね・・・。」
「恋愛ごっことはいっても・・・お前と付き合ってたときは幸せだった。学校へ行く途中で待ち合わせたり、分岐点まで名残惜しげに話し込んだり・・・。
それで電車を乗り過ごした時もあったけど、まあ良いや、で軽く済ましたもんな。寄り道して一緒に買い物したり・・・。恋愛ごっこでも
精一杯のものだったと思う。・・・もう、それで良いんじゃないか?」
「それって・・・。」
「今はもう互いに違う方を向いてる。二度と彼女なんて出来ないと思ってた俺は晶子に拾われた。お前は就職活動の真っ最中なんだろ?」
「ついこの前決まったわよ。でなきゃ暢気に泊りがけで海に来るなんて出来ないでしょ?」
「良かったな、無事に決まって・・・。何にせよ、これでお前も向かう方向が決まったわけだ。その道を歩いていく過程で、きっとお前に相応しい
寛容な男が現れるさ。この俺ですら拾われたんだからな。」
「・・・そんなに上手くいくとは限らないじゃない・・・。あたしは・・・あたしは・・・!」
「抱えていたものが大きければ大きいほど、失った時の喪失感や悲しみは大きいのよ・・・。あたしは祐司を失いたくない。あんなことで
祐司を失うことになるなんて、そんなのやだ・・・。」
「・・・。」
「祐司だって、あたしと切れたと思った時の喪失感や悲しみは大きかったんでしょ?昨日言ってたじゃない。だったらあたしの気持ちも分かるでしょ?」
「・・・深く好き合ってたらそれを失った時にどうしようもないと思うのは、俺だって同じだ。昨日俺が言ったとおりな。だけど・・・事実は覆しようがないんだ。
お前は俺の気持ちを試すつもりでまた別れ話を持ち出して、俺はお前と切れたと思い、お前はそのときのショックもあるかもしれないけど、
別の男と付き合うようになった。期間の長短や気持ちの浅い深いは関係ない。お前は俺を失ったことで出来た心の穴を別の男と付き合うことで
埋めようとした。そうだろ?」
「それは・・・そうだけど・・・。」
「寂しさを別の男と付き合うことで埋めようとした。でもしっくり来なくて別れた。それでもう一度俺と付き合うことで寂しさを埋めようだなんて、
それこそ身勝手なんじゃないか?俺とその男を秤にかけるようなことが許されるとでも思ってるのか?男はお前にとってジグソーパズルのひと欠片なのか?
心の穴に合うか合わないか試してみて、やっぱりこっちがぴったりだからこっちにしよう、なんて俺は勿論、お前が以前付き合ってたっていう男をも
侮辱することだって思わないのか?」
「・・・。」
「宮城・・・。これ以上未練がましくするのは止めよう。お前は勿論、俺もな・・・。」
「祐司・・・。」
「今、俺に彼女が居なかったら、人の心を試すようなお前のしたことを一頻り責めて、それでおしまい、もう一度やり直そう、って言ってるかもしれない。
あの夜の別れ話にお前の思惑があったことには、以前ほど腹立たしく思わないしな。・・・正直少しは、お前とやり直せれば、とも思う。」
「だったら・・・。」
「でも、俺はお前とやり直せないんだよ、どうやっても・・・。お前と切れたショックでささくれだって女なんか信じられるか、って頑なに思っていた俺を
拾って傍に居てくれる女が居る。お前とやり直したいが為にその女を切り捨てることは出来ないんだよ。」
「・・・あの娘のことね?」
「ああ。・・・これを見てくれ。」
「これはその女の誕生日にプレゼントしたペアリングの片割れなんだ。その女の同じ指にもこれと同じリングが填まっている。俺がプレゼントした時、
この指に填めて、って譲らなかった上に、俺にも同じ指に填めて、と来たもんだ。その時は照れくさく思うのが精一杯だったけど、今になって思うと、
俺がその女の左手の薬指にリングを填めたのも、俺が同じ指にリングを填めたのも、俺の気持ちがそうさせたからだと思うんだ。
俺がその女を真剣に・・・愛してるっていう気持ちがな。」
「・・・。」
「だからもうお前の方を向けない。向いちゃいけないんだ。俺はお前と違って、一人の相手に全てを注ぐタイプだからな。どっちが良いとか悪いとか、
そういう問題じゃなくて・・・ただ、俺がそうしたいし、そう思うだけだ。」
「・・・祐司のそういう一途なところ、変わってないわね。」
「1年やそこらで変わりゃしないよ。」
「祐司の言いたいこと、よく分かった。考えてみれば自分で蒔いた種だもんね。自分で蒔いた種は自分で刈り取らないと駄目よね・・・。」
「宮城・・・。」
「今日この場であたしと祐司の関係は高校の同期、以前付き合ってた相手同士ってことにしましょ。あたしだって、このままずるずる引き摺りたくないし。
でもね・・・。」
「祐司の心が揺らぐようなことがあったら、容赦なく突っ込むからね。あの娘としっかりやりなさいよ。いい?」
「・・・分かった。」
「あたしは諦めたわけじゃないからね。ただ、一つの区切りをつけただけだからね!」
「どうやって経緯を説明しようかな・・・。綺麗さっぱり区切りはついたとはいえ、宮城は諦めたわけじゃないって言うし・・・。
それは秘密にしておいた方が無難かな・・・。」
「もう秘密には出来ませんよ。」
「ま、晶子?!一体何時此処に?!」
「祐司さんの後をつけてきたんですよ。気付かれないように距離を置いて。祐司さんとあの女性が背を向けた時を見計らって、此処に来たんです。」
「・・・じゃあ、俺と宮城の会話は・・・。」
「最初の方は距離があったから聞こえませんでしたけど、大体は聞かせてもらいましたよ。」
「・・・話、聞いてたんだよな?」
「ええ。大方は。」
「何で怒らないんだ?」
「怒る必要が何処にあるんですか?」
「あの女性とやり直したい、って思う気持ちは理解出来るつもりですよ。いくら後味の悪い別れ方をしたといっても、祐司さんの心の中に占める
あの女性の存在は決して小さくはないでしょうし。」
「・・・。」
「最初は祐司さんを引きとめるつもりでした。でも、潤子さんに言われたんです。『祐司君を信じてあげたら?』って。私は・・・あの女性と話し合うことで
祐司さんの気持ちが私からあの女性に向くかもしれないってことが怖かったんです。でも、潤子さんの言葉を聞いて、私が祐司さんを信じなかったら
どうするんだ、って思ったんです。彼を信じられないのに彼女を名乗る資格があるのかって。」
「・・・だから、割り込まずに聞いてただけだったのか・・・。」
「ええ。正直言って、祐司さんが『少しはやり直したい気持ちはある』って言った時は飛び出しそうになりました。でも、祐司さんはあの女性と
やり直したいが為に私を切り捨てることは出来ない、ペアリングの片割れを左手の薬指に填めたのは私を真剣に愛してるから、って聞いて、
その時の衝動に任せて飛び出さなくて良かったと思いました。潤子さんの言ったとおり、祐司さんを信じて良かったです。私があの時飛び出してたら、
それこそ泥沼になったかもしれませんし。」
「・・・だろうな。晶子も宮城も、気の強いところでは良い勝負だから。」
「祐司さんと付き合うようになってかなり経ちますけど、あまり好きだ、とか愛してる、とか殆ど言って貰えなかったし、私も言わなかった。
互いの気持ちは分かってるから言わなくても、とは思ってましたけど、実際に言って貰えて、それも前の彼女を前にして言って貰えて凄く嬉しかったです・・・。」
「ありがとう・・・。信じてくれて・・・。」
「潤子さんの助言があったからですよ。私、祐司さんを取られることばかり考えていて、祐司さんを心底信用してなかったことを思い知りました・・・。
こんなんじゃ彼女失格ですよね。折角人の前で自分を愛してる、ってはっきり言える彼が居るのに・・・。」
「俺が宮城と会うことに晶子が疑問を感じるのは当たり前だよ。別れた相手となんで今更話し合いなんて、って思うのは。俺はある意味、
晶子の信用の上に胡座(あぐら)をかいていたんだ。・・・勿論、晶子が俺を信じてくれたのは嬉しい。だけど、それに甘んじてちゃいけないよな。
人の心なんて意外に脆いもんだから、しっかり補強しないといけない・・・。」
「俺は・・・晶子が居てくれて良かったと思ってる。それに・・・ずっと一緒に居て欲しいと思ってる。」
「・・・嬉しい。」
ずっと・・・。
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