謎町紀行 第141章

山寺の奥に潜む天鵬の痕跡、出没する公安警察(前編)

written by Moonstone

 最寄りのコウノ東インターからホテルの駐車場まで、シャルがHUDで経路を細かく指示した理由が改めて分かる。道が細かくて一方通行が多い。土地勘がないと簡単に迷う。それに加えて信号が多くて人も多い。更に嫌がらせのように路上駐車も多い。HUDの表示どおりハンドルを切って、ブレーキ主体の運転をする。物陰にいる人も物体を透過してHUDに表示されるから、飛び出しに備えられる。
 10分以上かけてどうにか大通りに出る。と思ったら再び入り組んだ路地に入る。今度は道幅はそこそこあるけど、蛇行と傾斜が厳しい。コウノ市って都会ってイメージがあったけど、下町と山が組み合わさった町だと認識を改める必要がありそうだ。慎重に運転していくと、文字どおりの山道になる。両側は森と崖しか見えない。その割に人が多い。ハイキングコースでもあるらしい。対向車にも注意しないと。

「この先に竜光寺の最寄り駐車場があります。片側1車線は確保されていますから、安全運転に徹してください。」
「分かった。」

 幸い、後方から距離を詰めて来る車はいないから、スピードと歩行者に注意して蛇行する山道を進む。山の上に出て、森を進むと、左手方向に少し開けた場所が見えて来る。HUDはそこを駐車場と示して、進入コースを表示する。このHUD表示のおかげで初見の場所でも間違って逆走したりといった事故を防げる。
 駐車場の一角にシャル本体を止めて、無事到着。運搬と建設が人力だけの時代に、こんな山奥に寺を創建できたのが不思議だ。今でも重機や資材を搬入して、大きな建物だと現場監督や施工管理といった管理者もいて、物凄く大掛かりになることがあるのに。
 駐車場の奥に巨大な仁王門が鎮座している。シャルの説明だと、この仁王門から階段と坂道を上ると、竜光寺の境内にたどり着けるそうだ。山奥にある寺社仏閣は、参拝まで歩くことがほぼ必須。気候も良いし、運動がてら歩いて登れば良い。
 参道も森の中にある。森の中を参道が通っているというのが自然だろうか。所々に大小の墓地がある。場所からして竜光寺が管理している墓地だろう。森の中だから昼でも少し薄暗い。街灯代わりの灯篭が参道沿いに並んでいるけど、夜間に参拝する気になれそうもない。
 傾斜がなかなか厳しい石段を登っていくと、何とか境内に到着。山と森に囲まれて佇む竜光寺は、鳥の囀りや森のざわめきだけが聞こえる静寂の中にある。途中で登山客に何度か出くわしたからもっと参拝客で賑わっていると思ったけど、知る人ぞ知るという雰囲気に満ちていて、こういうのも良い。
 まずは普通に参拝。周囲を囲む山と森でこじんまりしているように思っていたけど、想像以上に広くて建物も多い。改めて、こんな険しい山奥の森に囲まれた土地に、良くこれだけの建物を建てられたものだと思う。今は重機があると言っても、それらを走らせられるほど参道は広くないし、階段も多いからそもそも移動できないだろう。寺社仏閣は古来から人力で建立や改築がなされるべきもので、それが修行や神仏への帰依の証明だという認識あるいは暗黙の了解があるのかもしれない。
 シャルの希望で朱印をもらう。それと合わせて、奥の院へ行けるか、行くには何処から行けば良いか尋ねる。応対の若い僧侶は、奥の参道から行けること、通常の参拝であれば特に制限はないと回答する。礼を言って奥の院へ向かう。
 奥の院への参道は人が何とかすれ違える程度の幅で、不規則な石段が多くを占める。森がアーケードみたいに左右と上を囲んでいるから、圧迫感すら感じる。足元に注意して慎重に石段を上る。段の高さは不規則だけど、勾配は本来の参道と同じかもっときつい。履き慣れたスニーカーとかじゃないと確実に足を痛めるだろう。
 ようやく奥の院に到着。人気はまったくない。小さなお堂が正面にあって、その奥に巨大な岩らしいものが森の間から見える。お堂に参拝してから、岩らしいものの方へ向かう。そこには、巨大な岩に乗ってどこか遠くを見るような、岩の亀があった。話には聞いていたけど、予想外に大きいのと、「亀に見える岩」じゃなくて「岩を彫って作られた亀」なのに驚く。

「シャル。この亀の向いている方向って、本当に長安?」
「確認します。…間違いありません。誤差0.7度で長安の方を向いています。」

 森に囲まれて方角どころか太陽もあまり見えない中で、これだけ正確にある方向を向くように彫られたことに、驚きを禁じ得ない。GPSどころかコンパスもない時代に、正確な方角を見出すのは至難の業だろう。森の隙間から見える太陽、あるいは月の位置や動きで方角を知ったんだろうけど、現代人でそれが出来る人は相当少ないだろう。GPS矢マップアプリがあっても、土地勘が少ないと行き先が分からない人は大勢いる。

「森の中でどうやって方角や位置を知ったんだろう。」
「間違いなく太陽や月、星といった天体の位置と動きです。森が邪魔なら一時的に枝を退けたり伐採したりすれば何とかなります。」
「枝を退けたり木を切ったりするって手があるか。」
「創建当時の時代は、国立公園という概念すらありませんでした。必要に応じて森を切り開くことは、肉体的、物理的な課題を除けば、躊躇するものではなかったと思われます。」

 竜光寺の創建は、称徳天皇の時代に各地に第二次国分寺と言える寺院を建設するよう命じ、その1人が摂津国担当が和気清麻呂だったことに依る。天皇の勅命を受けて寺院創建に相応しい場所を捜索していたんだから、その過程で方角や位置を知るために森を適当に伐採したところで、法律違反となる理由がなかった。天体が見えれば、後に桓武天皇の地勢ブレーンとなるほど地政学に秀でた和気清麻呂なら、他のランドマークとの位置関係や方角を知ることは容易だっただろう。

『ところでシャル。このあたりにヒヒイロカネはある?』
『ヒヒイロカネのスペクトルは検出されません。ただ、天鵬上人こと手配犯が、此処に岩の亀を彫った時点で、逆鉾山にヒヒイロカネがあることを知っていた、もしくは隠したと考えられます。』
『どうして?』
『逆鉾山の頂上近くに、鶴石と亀石という巨石が存在するからです。国生み神話で重要な位置づけがなされている2社と此処竜光寺、そしてヒヒイロカネが隠されている逆鉾山が一直線上に並ぶ事実。これらは、天鵬上人が逆鉾山に秘宝があることを知っていた、もしくは隠したことを暗喩する有力な状況証拠です。』

 逆鉾山には鶴石と亀石という巨石が存在する。竜光寺の岩の亀と違って、これが鶴でこれが亀と言われてようやくそう思うような、実際の鶴と亀とは似ても似つかないものだが、古来から崇められてきた。この2つの巨石が何時から鶴石と亀石と呼ばれてきたかなど、詳しいことは何も分かっていない。
 瀬戸内海を隔てた距離にある逆鉾山と竜光寺の2つを繋ぐのが亀であること、どちらも天鵬上人が深く関与していることは、決して偶然ではない。既に逆鉾山山頂には、ヒヒイロカネがあることが分かっている。更に、天鵬上人は逆鉾山を仰ぎ見る讃岐国、88ヶ所札所の1つ大道寺(だいどうじ)がある今の大道寺市の出身。天鵬上人にとって剣山は身近なものであり、そこにヒヒイロカネが隠されていることを知ったら、自らの所縁の地に何らかの暗号を隠して不思議はない。

『逆鉾山の近くには、不可思議な神社が幾つもあるけど、それらの伝承から、天鵬上人は逆鉾山にヒヒイロカネがあると推測したか、隠したかして、その在処を暗喩することも兼ねて、竜光寺に岩の亀を置いた。-こういう推論が成り立つね。』
『はい。あからさまな情報を置くと解析されるリスクが高まります。ランドマークである寺社仏閣であれば、調査発掘のリスクも大幅に低減できます。更に、自身の地政学や方位学、天文学を駆使してランドマークとして山奥や険しい地形に寺社仏閣を配置すれば、その神秘性も増します。』

 天鵬上人が隠したのか、逆鉾山に隠されたか、どちらが先かは証拠や情報が少なすぎて現時点では分からない。だけど、逆鉾山と竜光寺を繋ぐ重要な要素が幾つもあって、その2つを結ぶ直線上に、天皇家や国生み神話と密接な関係がある伊弉諾神宮や舟木石上神社が存在することは、偶然で片づけるのは無理があると思う。特に、竜光寺と逆鉾山は、どちらも天鵬上人が重要視して、形状は違えど岩の亀がある。88の札所を仰ぎ見るように配置した逆鉾山の亀石に倣って、竜光寺に岩の亀を置いたと考える方が筋が通る。
 竜光寺にはヒヒイロカネはないようだ。でも、天鵬上人の痕跡があり、しかもヒヒイロカネが隠されていることが分かっている逆鉾山と重要な位置関係と要素がある。天鵬上人は逆鉾山に隠された、もしくは隠したヒヒイロカネや、その他の場所のヒヒイロカネの所在を暗喩するため、彼方此方を行脚・暗躍してランドマークとしての寺社仏閣を創建したり関連アイテムを置いたりした。その例が88ヶ所札所であり、トライ岳であり、竜光寺奥の院の岩の亀。これも筋が通る。
 一方未だに不明瞭なのが「なぜ逆鉾山に隠したのか」もしくは「なぜ逆鉾山にあると分かったのか」。どちらが先か分からないのも、この謎を解明することの足枷になっている。所謂「空白の7年間」の期間か、史実とは異なる経路で早期に帰国した際かのどちらかだと思うけど、どちらが正解かで天鵬上人の行動理由や手配犯の前後関係、ひいては歴史の流れや真相が大きく変わってくる。
 前者「なぜ逆鉾山に隠したのか」が正解、言い換えると「天鵬上人がこの世界の最も古い時代に逃げ込んだ手配犯」だと、天鵬上人はどうやって逆鉾山に大規模な工事をしてヒヒイロカネを隠したのかが、大きな焦点になる。逆鉾山の内部には巨大な人口の通路がある。その1つが岩殿神社の本殿に封印される形で存在する。
 人口の通路と一言で言っても、現代でもトンネル工事が時に死傷者も出る危険で大規模な工事だということを踏まえると、人力しかない時代、しかも現代でも、蛇行する上に幅員が狭い道を長時間走らないと移動できないほどの山と森に囲まれた未開の地、その最深部にある逆鉾山でどうやってそんな大工事を遂行したのかが大きな疑問として立ち塞がる。
 後者「なぜ逆鉾山にあると分かったのか」が正解、言い換えると「天鵬上人より前の時代に逃げ込んだ手配犯が居る」だと、事態はより複雑になる。天鵬上人の時代より前だと、更に文明水準は低くなるし、人口の少なさも無視できない。日本に限っても、当時の都-有名どころの平安京より前、長岡京や平城京、藤原京という都城制(城壁で周囲を囲み、宮城を中心として碁盤目状に区画された城郭都市のこと)採用以前は、天皇の即位のたびに都、すなわち天皇の住居を移動させてきたけど、それは集落の集合体のようなもので、都を離れれば山と森、あるいは海しかないようなものだった。だから都より遠く離れた場所への左遷が「島流し」として重い懲罰と見なされていた。
 そんな時代だと、人を集めるだけでも容易じゃない。ましてや起伏が激しく森に覆われた奥地に、巨石を幾つも運搬して、逆鉾山の内部に埋め込むような巨大な通路や空間を作れたとは思えない。でも、ヒヒイロカネを持ち込んだ手配犯が天鵬上人より前の時代に逃げ込んで、何者かに成り代わっていたら、日本史どころか世界史にまで食い込んでいることになる確率が高い。
 どういう手段を使ったかは分からないけど、天鵬上人となった手配犯が高度な技術を駆使して、造営や治水、果ては不老不死の手術を銀狼に施すなどして、神格化に成功した。天鵬上人より前の時代に逃げ込んだ手配犯なら、まさに神や創造主という扱いを受けていても不思議じゃない。それは誰なのかも気がかりだけど、どうして逆鉾山をヒヒイロカネの隠し場所に選んだのかが大きな謎として立ち塞がる。
 古代になればなるほど、手掛かりが少なくなる。日本は特に「空白の4世紀」の大きな原因が文字がなかったことであるように、文献での手掛かりが非常に少なくなる。数少ない文献も、神話と同一化したり、真偽不明だったりする。その文献解釈を巡って右往左往しているのが日本の考古学や史学だ。遺跡や建築物や集落の発掘調査、その科学的分析といったフィールドワークを基にしていない、権威と学閥派閥でものを言う界隈だから、藤村新一氏のような重大な捏造を生み、未だに誰も責任を取っていない。
 今までの旅を軽く振り返っても、東西南北を奔走して、長短の往復を繰り返している。旅を続けることで、様々な謎とヒヒイロカネに纏わる腐臭を伴う欲望や動きが明らかになっている。ヒヒイロカネがかつてこの世界にあり、今はあってはならないとされる理由が、嫌でも分かる。だから東西南北奔走して手掛かりになりそうな場所を訪れ、人や建物や遺跡を調査してヒヒイロカネを捜索し、回収する。この路線は変わらないし変えようがない。

「奥の院はこれ以外にないようだから、戻ろうか。」
「はい。」

 階段は登るときよりも降りる時が怖い。足を滑らせないように慎重に降りる。…よし、本堂の境内に到着。来た時より少し境内が賑わっている。装備からして登山客が立ち寄ったようだ。年齢層が高めなのは暇と金を持て余しているからだろう、という穿った見方をしてしまう。シャルを見てあからさまにひそひそ話すのがなければ、気に留めることはなかっただろう。

「早く行きましょう。良い感じのカフェを見つけてあるんです。」

 シャルが僕の手を取って、更に僕の腕に自分の腕を回す。手を繋ぐより密着度が高いのと、季節柄服が薄いから、上腕部に強烈に柔らかい感触が伝わってくる。思わずシャルを見ると、周囲の声などまったく聞こえていないと言わんばかりに、僕をまっすぐ見て微笑んでいる。シャルのこの表情を間近で見ると、他が何を言おうがどうでも良いと思えて来る。
 登山客からの聞こえるひそひそ話が聞こえなくなり、僕とシャルは境内を後にして駐車場に向かう。シャル本体のシステムを起動すると、ナビに目的地のマーカーと経路がハイライト表示される。此処からの所要時間は15分くらい。ここまでの経路の途中で別方向に向かう形のようだ。

「ヒロキさんが羨ましいんですよ。さっきの連中。だから聞こえるように悪口を言っていたんです。」
「だから敢えて密着した?」
「そうですよ。羨ましいなら遠目で見るだけにしておけば良いものを、私のヒロキさんの悪口を言うのはいただけません。少しばかりお仕置きしておきました。」
「お仕置きって?
「荷物の重量が倍になって、靴に10kg相当の重量が加わります。歩くのもままならないでしょうね。」

 少しどころかかなりきついお仕置きだ。荷物の重量が倍になるだけでも足腰の負担は大きく増加するけど、靴まで10kg重くなったら、鉄球を足に填められて重労働を強いられる古代の奴隷みたいなもの。シャルが言うには1時間の時間制限を設けたらしいけど、1時間でも相当厳しいだろう。僕とシャルの悪口を言われたことが相当頭に来たようだ。これで万一手が出ていたら、その場で丸1日棒立ちにさせられたところだろう。こういう時、シャルは一切容赦しない。
 今頃子泣き爺に苦しめられているような状況であろう登山客を他所に、僕はナビとHUDに従ってシャルお勧めのカフェへとシャル本体を走らせる。蛇行する山道を走っていくと、森の中に1軒の民家のような建物が見えて来る。店舗前の空き地が駐車場らしい。HUDに従って慎重に入って停止。シャルと連れ立って店内へ。
 民家を改装したらしい店内は、木製のテーブルとイスが並べられている。店内には既に数組の客が居て、お約束のようにシャルに視線が集中する。シャルは集中する視線を意に介さずに、応対に来た店員に2名予約済みであること、富原であることを告げる。きっちり予約してあるのはシャルらしい。
 店員に案内されて、奥のテーブル席に着く。シャルによると、お勧めメニューとしてフルーツソースのパンケーキのセットがあり、それを予約済みだという。少ししてパンケーキのセットメニューが2人分運ばれてくる。小皿ほどのサイズのパンケーキが2枚重ねられていて、そこに苺かブルーベリーの果肉満載のソースがかけられている。セットは飲み物と苺の小さいパフェ。飲み物はシャルの選択で紅茶。フルーツソースの材料が違うのは、食べ比べがしたいというシャルの意向。シャルに先に選んでもらって、シャルは苺、僕はブルーベリー。
 程よい酸味と甘みが、ふっくら柔らかいパンケーキに絡みつく。ふんだんに使われている果肉が、パンケーキの食感と対照的で良いアクセントになっている。パンケーキは予想外だったけど、美味しいものを探して選べるシャルの調査力と感性には驚かされる。あと、こういう店は男性1人だと少々入り辛いけど、シャルが居るから何も問題ない。シャルに視線が集中するのはお約束だけど。

『見る分にはお好きにどうぞ、ですよ。そこから踏み込んだらお仕置きします。』
『お店には損害を出さないようにね。』
『お店が無関係なら被害が出ないようにしますよ。それより。』
「はい、あーん。」

 シャルが苺ソースに通したパンケーキの一部をフォークに刺して、僕に差し出してくる。シャルがもう片方の手でガードしているけど、ソースがこぼれるとよろしくない。意を決して差し出されたパンケーキを食べる。何だかこういうのって、結構恥ずかしい。

「次は私の番ですね。あーん。」

 シャルはフォークを置いて、少し前のめりになって目を閉じて口を開ける。…此処に僕のパンケーキの一部を入れろということですか、そうですか。僕は緊張で身体が強張る中、自分のパンケーキをシャルの口に丁度良い大きさに切って、ブルーベリーのソースに全体を通してから、シャルの口に入れる。パンケーキを受け取ると、シャルは何度か噛んで飲み込み、満足そうな笑顔を浮かべる。何をしても様になるなぁ。

「美味しいです。」
「そ、それは良かった。」
「こういうのって、カップルや夫婦の特権ですよね。」
「そう…だね。」

 確かに特権ではあるけど、どちらかと言うと見せつけるのが主目的だと思う。シャルが店の出入り口から見て右側の席、つまり左半身が見える椅子に座ったことも、フォークに刺して差し出した時には通常とは違って左手を使ったことも、僕がフォークに刺して差し出すのを受ける時に両手を組んで顎を乗せたことも、左手薬指に光る指輪と共に自分の立ち位置を見せつけるためだという有力な状況証拠だ。

『ヒロキさんと食べさせあいが出来るのは私だけの特権というのを示しておきたいところなので。』
『念入りというか、警戒心が強いというか。心なしか僕に向けられる視線が痛い。』
『さっきと同じで羨ましいんですよ。羨ましいなら、自分もすれば良いことです。目の前に相手がいるんですから。』
『確かに。』
『あと、私の特権を示すのは勿論として、様子見もあります。』
『どういうこと?』

 僕が尋ねると、シャルはスマートフォンをテーブルの中央に置いて、店の見取り図を表示する。僕とシャルの席に青のマーカーがあって、シャルの斜め後方、窓側に近い席に赤いマーカーがある。

『この男女、ヒロキさんと私を竜光寺から尾行しているようです。』
『尾行って、まさか。』
『車両と装備からして、公安警察と見て間違いなさそうです。』

 ついに来たか。Xの支配下にあると思われる警察や自衛隊を何度も翻弄し、この前は駐屯地1つ壊滅に追い込んだ。政権党は支持率15%を切って久しいし-あれだけ不祥事が続出しても支持者がいるんだから不思議ではある-、Xの屋台骨が揺らいでいる。僕とシャルを妨害するため、警察の中でも諜報隠密を専門とする公安警察を派遣させたと見て良いだろう。

『ヒロキさんには緊張や不安は生じると思いますが、雑魚がどれだけ増えても無意味です。絡んできたら、同胞と同じように存在を抹消すれば良いことです。』
『シャルの能力は今更疑いようがないけど、このままだと逆鉾山にまでついて来られて、厄介なことになる。』
『ついてくる気があるならついてくれば良いですよ。行方不明になっても構わないなら。』
『前みたいに危害を加えて来るなら仕方ないか。』

 これだけ支配層、上層部が腐りはてているのに、ただ命令のままに動く諜報組織。恐らく国家組織の歯車であり、駒であるように教育されて、それが絶対と信じているんだろう。それなら…その信念に殉じてもらうしかない。僕とシャルの旅の目的は、ヒヒイロカネの捜索と回収。支配層、ひいてはXの手駒が1人2人居なくなっても、それこそ「代わりはいくらでもいる」。

『警察や自衛隊と戦争するのが目的じゃないのも同じだから、こちらから攻撃することは控えて。あと、無関係な一般市民は絶対に巻き込まないように。これだけ守ってくれれば迎撃や反撃の手段は問わないよ。』
『!分かりました。遵守します。』

 相手が警察権力まで出して来た以上、専守防衛から迎撃へと本格的に移行する必要がある。残念だけど、この世には話し合いが出来ない存在ってものがいて、金や権力、それらが生み出し呼び出し、時に絡み合う暴力を使うことも厭わないってことが分かってきた。暴力に対抗できるのは、残念だけど、暴力しかない。

『此処から逆鉾山に向かう?』
『その予定だったんですが、候補地を1つ追加しました。そちらに行きたいと思います。』
『大出(おおいで)神社です。此処も天鵬上人と深い関係があります。』
『!』