何も知らない町の一角で、誰も知らない中で暮らした。
時は流れ、就職のために、環境を変えるために、何度か引っ越した。
何も知らない町の一角で、誰も知らない中で暮らしている。
幼い頃とは、大きな違いが1つある。
車を買ったこと。
移動範囲が格段に広がった。
電車やバスがないところにも行けるようになった。
深夜でも早朝でも、山の上にも最果ての岬にも行けるようになった。
ある時、幼い頃に住んでいた町に行ってみた。
引っ越す前と引っ越した後の町、それぞれに。
2つの町は、低い山と小さな川といくつかの田畑を隔てた程度の距離しかなかった。
別世界と思っていた2つの町は、隣町のようなものだった。
ああ、そうか。
大人になるってことは、行動範囲が広くなるってことなんだ。
行きたい所へ行けるようになって、子どもの頃より距離が短く感じられることなんだ。
幼い頃を過ごした、2つの町をアプリで見比べて、そう思う。