【単独制作作品No.87 遠い日の場所に戻りて】

Written by Moonstone

随分小奇麗になった駅舎を出ると、しなびた町並みが顔を並べる。
活気が薄れ、衰えた商店街を歩く。休日の昼間なのにシャッターの多くが閉まっている。
あの店では買えない専門書を立ち読みした。
あの店では自炊用の食材を探して値段を見比べた。
閉じられたシャッターの向こうに浮かぶ記憶の僕は、かなり若く思う。

商店街を抜けると、林立する高層マンションが見下ろしている。
高層マンションには似たような形のワゴン車が出入りしている。
此処の住人は、郊外の駐車場が豊富な大型量販店を利用しているんだろう。
此処の住人は、駅前の商店街の存在を知らないかもしれない。
すぐ近くにあっても、使わなければ、その価値を知られなければ、
忘れ去られて、消えていく。どんなものでも。

高層マンションの谷間を抜けると、記憶の風景と多くが重なる。
急峻で狭い坂道を挟むように、ひしめきあうように並ぶ不揃いな住宅。
次元のゆがみを抜けたような感覚と共に、坂道を登る。
坂道を登り切った、他の住宅に紛れた場所に、僕が居たアパートはあった。

そこだけは、
まるで記憶から取り出して再現したかのようにそのままで、何も変わっていなかった。
薄汚れた壁、錆びた手すりもそのままのアパートは、かつて僕が居た場所。君と居た場所。
時の流れに取り残されたような建物に、懐かしさと寂しさを添えて暫し佇む。

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