【単独制作作品No.83 相合傘】 Written by Moonstone
思わぬきっかけだった。 下校を前にして降り始めた雨。一時の気の迷いとの期待は裏切られた。 勢いを弱めない雨。それを滴らせる鉛色の雲。 下駄箱から程近い出入り口で立ち尽くしていた僕の後ろからかけられた声。 それが 彼女と接近出来る初めての機会への狼煙だった。 ショートのボブヘアー。そこからほんのり漂う柑橘系の匂い。 純和風の横顔は こうして並ぶと頭半分ほど僕より低い位置に見える。 吹奏楽部でフルートを吹く時の上品さと清楚さと 昼休みや部活以外の誰にでも気さくに接する明るさ。 僕にないものを持っている彼女が 前から眩しくて仕方なかった。 同じクラスで同じ部活。条件は恵まれてる。 だけど 彼女があまりに眩しくて 近づけなかった。 アルトサックスの僕は 楽器を口実に近づけなかった。 成績がそこそこの僕は トップクラスの彼女に近づけなかった。 そして 何よりも 彼女に近づくことで嫌われるんじゃないかと思えて 近づけなかった。 今日、傘持ってこなかったの? あ、うん。このところずっと天気予報が外れてたから。 元々気紛れな天候のこの季節。外れると思っていたら当たってしまった。 最悪雨の中駅まで走ることを考えたけど 思わぬ形で濡れなくて済んだ。 しかも 憧れの彼女に傘に入れてもらって。 だけどこれは 彼女にとっては困ってる人を助けたことの1つなんだろうな。 川倉さんは電車で通ってるの? とっくに答えを知ってることを 尋ねてみたりする。 そうでもしないと 会話することが思いつかないから。 うん。中瀬駅から京橋線へ乗り継いでるの。高野君も? 僕は 中瀬駅までは川倉さんと同じで そこからは平井線。 そうなんだ。じゃあ このまま駅まで行けるね。 彼女と歩くだけで 雨模様が続いてほしいと思う 勝手な僕。 中瀬駅で別方面になるまで 彼女と一緒なのかな・・・。 そうだとしたら どうしようかな・・・。 |
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