【単独制作作品No.19 水満ちる月の日に】

Written by Moonstone

絶え間なく降り注ぐ天からの雫。辺りの景色が水煙で霞む。
鉛色の重い空の下、一つの黒い花がゆるりと動いていく。
一人の男が雨中に開いた黒い花。
男の表情は寂しげでもあり、何も考えていないようでもある。

雨の季節に色鮮やかな花を咲かせる紫陽花。
雫を浴び続ける青や赤の花は、天のように泣くこともなく、
ただ無言で佇んでいる。誰かの訪れを待っているかのように。

黒い花が一本の紫陽花の前で止まる。男は紫陽花を見詰める。
男が紫陽花に何を思うのかは分からない。
男は只紫陽花を見詰め、雨中に佇む。

何故花を咲かせるんだ・・・?

暫し佇んでいた男の口から疑念を含んだ呟きが漏れる。
紫陽花の花は後世へ繋ぐ為の花ではない。
只、水満ちる月の訪れを告げるように開き、人知れず消えていく。
季節を告げるためだけに花開かせることが、男には疑問なのだろう。

だが、紫陽花の花が男の問いに答えることはない。
紫陽花と一つの黒い花は、静かな雨を受けながらそこに佇み続ける・・・。

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