雨上がりの午後
Chapter 128 闇と部屋での睦みの時間(とき)
written by Moonstone
夜が訪れた。
俺と晶子は、と言えばまだ此処、通称「別れずの展望台」に居たりする。
時折秋の到来を感じさせる心地良い微風が吹きぬける中、俺は晶子の肩を抱いてベンチの一角に腰を下ろして空を眺めている。
宝石を撒き散らした、という表現がぴったりの夜空は綺麗の一言に尽きる。
星空を眺めるのに障害になる蛍光灯が駐車場付近にしかないのが大きい。うっすらとだが天の川も見えたりする。
そんな天球が愛の炎を燃やすのか、此処は夜になっても人が多い。
深い藍色に浮かぶシルエットは、カップルの熱愛ぶりを静かに、しかし雄弁に物語っている。抱き合っているものもあり、キスをしているものもあり・・・。
かく言う俺も普段は晶子の家でしか出来ないようなことをしていたりする。これがバイトの帰り道だったら、絶対に晶子の肩を抱くなんて出来ない。
帰る時間が街が眠りについた時間、場所は閑静な住宅街となれば、その気になれば肩を抱くことくらい造作もないことだろう。
だが、生憎俺には、街灯が点々と灯る街路は俺にとって、何時現れるか、或いは何処に潜んでいるか分からない人目を無意識に警戒してしまう場所だ。
そもそも夜にデートした経験があまりないから−高校時代は親が五月蝿かった−、夜の闇に乗じて、なんて考えが表面化してこないんだろう。
「祐司さん・・・。」
微風のように晶子の声が耳を擽る。俺はゆっくりと晶子の方を向く。
微かに届く蛍光灯の明かりを受けた晶子の瞳と唇が、俺を頻りに誘惑しているような気がしてならない。
俺は何も言わずに右手で晶子の左腕を取り、晶子の肩を抱いている左手と同時にゆっくりと引き寄せる。
晶子は何も抗うことなく、俺により密着してくる。
俺との距離が一層近くなったところで、晶子は目を閉じる。何を求めているかはこの俺でも分かるつもりだ。
キスはこれが初めてじゃない。だが、思わず音を立てて生唾を飲み込んでしまうシチュエーションに、俺は身体が小刻みに震えるのを感じる。
俺は目を閉じながら晶子との距離を更に縮める。程なく距離はゼロになる。
柔らかで温かい感触を唇に、やや速い周期で小さな風が頬に吹き付けてくるのを感じる。
晶子もこのシチュエーションに言葉は悪いが興奮しているんだろうか?俺自身急速に早まってきた胸の鼓動が晶子に伝わらないかと思う。
俺は少し口を開いて舌を差し出す。舌が晶子の唇に触れると、それを合図としたかのように開く。
俺が舌を差し込むと、そこに唇とはまた別の柔らかさと温もりを持ったものが絡み付いてくる。
頬に吹き付ける風の周期が更に早まる。それを反映するかのように、晶子の口の中を這い回る俺の舌に晶子の舌が絡み付いてくる。
存分に小さな密室の感触を温もりを堪能してから舌を引っ込めると、今度は俺の口の中に別の感触と温もりを持つものが差し込まれる。
それが暫く中を彷徨ったところで−その感触が心地良いからだ−俺はそれに舌を絡める。
右腕に軽い圧迫感を感じる。晶子が掴んでいるからだろう。
それに意識を取られているうちに折角の感触を忘れてしまいかけたので、俺は舌に意識を集中させる。
晶子の舌は俺の舌を絡めた状態で口の中を動き回る。頬に当たる小さな風が速くて荒い。晶子も同じことを感じてるんだろうか。
暫くして晶子の舌がゆっくり引っ込んでいく。
俺は絡めていた舌を離し、一旦晶子から距離を開けることにする。名残惜しいから、晶子の舌の感触と温もりが完全に消えた後でゆっくりと・・・。
目を開けると、目を閉じて口を半開きにした、恍惚且つ艶かしい晶子の顔が間近に見える。
距離が出来た代わりに微かに煌く一本の細い糸が俺と晶子の唇を繋いでいる。
俺はもう一度晶子との距離をゼロにして直ぐ離す。そして目を閉じたまま肩で息をしていた晶子の左の首筋に唇を持っていく。
「此処じゃ・・・駄目・・・。」
唇にきめ細かい感触を感じたところで、耳に速くて荒い呼吸音に混じった無声音が滴ってくる。
俺は一瞬このまま強引に続けようかと思ったが、晶子が嫌がっていては俺も気分が悪いから、素直に晶子の要求を聞き入れる。
キスする前の体勢になったところで、晶子がゆっくりと目を開ける。
「悪かったな・・・。」
弁解にもならない謝罪の言葉を口にすると、晶子は俺の肩に頭を委ねたまま小さく首を横に振る。
「嫌じゃないの・・・。場所が・・・。」
「・・・帰るか。」
「はい・・・。」
眠気が残った状態で起床するように晶子が俺の肩から頭を上げた後、俺は晶子の肩を抱いたままゆっくり立ち上がる。晶子もそれに合わせて立ち上がってくる。
後ろ髪を引かれる思いで晶子の肩から手を離し、俺はベンチの端に立てかけておいたギターを右肩に担ぐ。
その時、俺の左腕に何かが添えられる。見ると、左手にバスケットを持った晶子が俺の左腕に手を回している。
俺は何も言わずに歩き始める。晶子は黙って俺に歩調を合わせてくる。
深い藍色の中に重なり合ったシルエットが幾つも見える中、俺は晶子と一緒に駐車場へ向かう。
駐車場付近には蛍光灯が一定の間隔で灯っている。
程なく乗ってきた車を見つけて、俺はズボンの右ポケットから車のキーを取り出して先端を車に向けてボタンを押す。ガチャッというロックが外れる音がする。
俺が隣の車にぶつけないように後部座席のドアを開けて、担いでいたギターを座席に寝かせる。
その直前に俺の左腕から手を離していた晶子の手からバスケットを取って、ギターの隣に置く。
「ありがとうございます。」
俺は晶子の謝意への応えとして、晶子に向けて笑みを浮かべて首を横に振る。
「さ、乗って。」
「はい。」
晶子は明るい表情で頷くと、小走りで助手席の方へ向かう。
俺は運転席のドアを開けて車に乗り込む。それに少し遅れて晶子が乗り込んでくる。
シートベルトを締めて晶子もそうしたことを見てからキーを差し込む。
「祐司さん・・・。」
エンジンをかけようとした時、晶子が話し掛けてきた。
何だろう、と思って晶子の方を向く。晶子は少し暗い表情だ。
「さっきは・・・御免なさい。」
「さっき、って?」
「・・・祐司さんをその気にさせておいて、途中で止めたこと・・・。」
何だ、そんなことか。俺は思わず笑みを零す。
自分で、されることが嫌なんじゃなくて場所がまずい、と言ったことを忘れてしまったんだろうか?
「強引にする気がまったくなかった、って言えば嘘になるけど、それじゃ晶子は嫌だろ?ああいうことは双方合意の上でしないと後々尻尾引っ張ることに
なるだろうから・・・止めたんだ。」
「祐司さん・・・。」
「欲望剥き出しにしておいて善人ぶったこと言う、と思うだろうけど・・・、もう二度と・・・結ばれた絆を離したくないから・・・、離すようなことをしたくないから・・・。」
俺はそれだけ言うと前を向いてキーを捻る。エンジン音が鳴り始めるとほぼ時を同じくして車体が微かに揺れ始める。
俺はライトを灯してギアを「P」から「D」に切り替え、ハンドブレーキを戻してゆっくり駐車場から車を出す。
車が坂道を下り始めたところで、俺はアクセルに乗せていた右足をブレーキペダルに移す。
黙っていてもスピードが出る下り坂、しかも蛇行している上に街灯がないから文字どおりお先真っ暗。
こんなところでスピードを出せるほど俺には勇気はない。
幸いなことに後に続いてくる車はないから、兎に角安全第一で車の運転に集中する。暗闇の中に浮かぶ坂道に光の筋が走る様は不気味だ。
どうにか坂を下り終えたところで再びアクセルを踏む。だが控えめにすることは忘れない。
昼間でも神経を磨り減らす思いをしたんだから、視界が制限される夜は尚のこと神経を使わなきゃいけない。
次第に迫ってきた信号が青から黄、そして赤に変わる。車を止めて一息吐いたところで、俺は晶子に言う。
「道は憶えてるから、その点は心配しないでくれよ。」
「はい。」
はっきりした返事が返って来る。
出発前に俺が言いたかったことが伝わったのかどうかは分からないけど、少なくとも晶子が制止したのに俺が応じたことは間違いない。
これで良いんだ。これで・・・。
俺は信号が青になったところでアクセルを踏む。夜の帰り道は割と車が少ない。
まず俺がなすべきことはこの車を無傷でレンタカー会社に返すこと。それは一時預かっている、隣に居る大切な人の命を無傷で返すことでもある。
この後のことはその後で考えれば良いことだ。俺は車の運転に集中する・・・。
流石に疲れた・・・。
車の数が少なかったのは最初のうちだけ。両脇に建物の明かりが数多く見られるようになった頃には、すっかり車の波に飲み込まれていた。
そんな中でもどうにか途中のガソリンスタンドでガソリンを満タンにして−看板を目にするまでうっかり忘れていたんだが−、レンタカー会社に到着。
その後料金を払ってキーを返した。
今日のデートにおける最も高くて危険な山を乗り越えたことで、安心感と同時に疲労感がどっと噴出してきた。
俺は無意識のうちに小さい溜息が何度も出るのを感じながら、空からの天然の煌きを阻害する人工の星空の下、胡桃町駅からの帰路を歩く。
「大丈夫ですか?」
傍らに居る晶子が声をかけてくる。左手に仄かな、しかし確かな温もりを感じる。
レンタカー会社に車を返したところで、はいさようなら、ではなく、レンタカー会社の事務所を出たところで自分から申し出て半額を払ってくれたし
−100円未満は俺が丁重に辞退した−、帰路のバスの運賃も自分の分を出した。
そして自分の家で夕食を食べましょう、と誘ってくれた。何でも下準備をしてあるから程なく食べられるらしい。
「ああ、大丈夫。運転に疲れただけだから。」
「・・・私があそこに連れて行ってくれ、なんて言わなければ・・・。」
「違う違う。晶子と無傷で帰ってこれたことで安心したら、一気に緊張の糸が切れちまっただけだよ。俺だけなら兎も角、晶子を危険な目に遭わせるわけには
いかないからな。」
「何だか、祐司さんを引っ張りまわしてばかりですね。私・・・。」
「今日良い思い出が出来たのは晶子のおかげだよ。あんな場所知らなかったし、願掛けも出来たし。・・・楽しかったよ。」
俺が笑みを浮かべて−勿論作ったものじゃない−言うと、少し沈んでいた晶子の表情が明るくなっていく。
俺がほっとした次の瞬間、晶子が俺の左腕に身体を密着させてくる。あの独特の弾力とセットで。
「今はどうですか?」
「・・・し、幸せだよ。勿論・・・。」
「顔はあまり楽しそうじゃないですよ?」
「こ、こんな場所で・・・その・・・、こうやってぴったりくっつかれると・・・。」
晶子の奴、分かっててやってるな?俺が胸を押し付けられることに未だ慣れてないってことを。
あれをやっておいて何を今更、という気がしないでもないが、あれは二人きりの密室という場所とそれなりの雰囲気が重なり合ったから出来たことだ。
「別れずの展望台」では他に人が居たのに俺の方から晶子にキスしたのは、闇の中で見られることはないだろう、という観測と、軽く見渡しただけでも
自分達の世界にのめり込んでいるカップルのシルエットしか見えなかったからだ。
実際、昼間は頬にキスをされただけでも頬が火照るのを感じたし、それから間もなく唇にキスされた時は身体の内側が一気に沸騰する思いを味わった。
人前で見せられる熱愛ぶりは手を繋ぐことくらいだ。
此処は街中。しかも時々車が行き交うし、疎らだが人影も見える。
こんな場所で胸を押し付けられると・・・人目が・・・気になるんだよな・・・。
視線の先を彼方此方に彷徨わせていると、晶子はくすっと笑って俺からゆっくり離れる。手は繋いだままだ。
俺は無言で前を向いて、止まっていた脚の動きを再開させる。
自分でも困惑とも照れともどっちとも付かない表情になっているのが分かる。
一旦俺の家に立ち寄ってギターを置き、下着の換えとバスタオルを小さな鞄に詰め込んでから−この辺りは普段の月曜日と変わらない−晶子の家へ向かう。
見慣れた住宅街の風景を横目に見ながら暫し歩いていくと、晶子の家があるマンションが見えてくる。
白亜の壁が所々明かりで照らされて存在感を醸し出している。見方によっては学校の校舎や病院の建物のようにも見える。
マンションの出入り口の前に来たところで、ようやくと言うかとうとうと言うか、複雑な気分で手を離し、晶子に例のガチガチのセキュリティを
解除してもらって再び手を繋いで中に入る。
初老の管理人に会釈をして、エレベーターで上り、廊下を歩いていくと晶子の家のドアが見えてくる。
帰って来たんだな、という思いが再びふつふつと湧き上がってくる。
晶子が鍵を外してドアを開け、俺はお邪魔します、と言ってから中に入る。当たり前だが室内は真っ暗だ。
続いて入って来た晶子が電灯とエアコンのスイッチを入れる。
明るくなったダイニングに上がり、晶子に続いて洗面所で手を洗ってうがいをする。
「リビングで待っててください。直ぐ出来ますから。」
「ああ、分かった。」
冷蔵庫から何かを取り出しながらの晶子の「指示」に応えて、俺はドアを開けてリビングに入る。
今日は室内でも湿気が少ないらしく、エアコンのスイッチが入って間もないのに結構涼しい。
俺は鞄を部屋の隅に置いて「指定席」のクッションに腰を下ろし、夕食が来るのを待つ。
ここへ来てようやく空腹を感じる。直ぐ出来る、と言っていたが、一体何だろう?
「祐司さん。ドア開けてくれませんか?」
10分待ったか待たないかの時間で−体感時間だが−ドア越しに晶子の声が届く。俺は立ち上がってドアを開ける。
両手でトレイを持った晶子が入って来る。そのトレイには見覚えのある料理が二人分ある。・・・冷やし中華だ。
晶子はテーブルの前に屈み、ガラスの器に盛り付けられた冷やし中華とたれを並べて置く。
冷やし中華には細く刻まれた胡瓜とハム、卵が彩り良く盛り付けられていて、食欲をそそられる。
「へえ・・・。冷やし中華か。」
「具は今日のお弁当を作った時に併せて作ったんですよ。麺もその時に水で戻して、具と一緒に冷蔵庫で冷やしておいたんです。手抜き・・・ですね。」
「いや、朝早くから大変だっただろうから夕食くらい楽しても良いさ。それに、冷やし中華なんて随分食べた記憶がないし、見た目にも涼しいこういう料理は
こういう時期にこそ味わわないとな。」
俺はワクワクしながら「指定席」に腰を下ろす。
晶子は俺の隣の「指定席」に腰を下ろすと、ブラウスの胸ポケットから黒の輪ゴムを取り出して唇で軽く咥え、髪を束ねてポニーテールにする。
白いうなじが魅惑的だ。
「・・・忘れてないな。」
「祐司さんと二人きりですからね。さ、食べましょう。」
「ああ、そうだな。」
俺と晶子は、いただきます、と唱和してから食べ始める。
具と一緒に麺を箸で適量摘み上げ、たれに付けてからつるつると食べる。
・・・うん、よく冷えていて美味い。酸っぱさも程好い。
「美味いな、これ。」
「そうですか?良かった・・・。」
「このたれって、晶子が作ったのか?」
「ええ。初めて作ったんですけど、祐司さんの口に合いますか?」
「文句なし。本格的だな。」
晶子は嬉しそうな微笑みを浮かべる。たれは麺に付いているだろうから、それを使っても良かったのに。そういう心遣いが俺にはたまらなく嬉しい。
確かに家に入ってから夕食までの時間は短かった。でも、その背後にはそれなりの時間と手間隙がある。
たれもそうだし、具の一つの卵も単に溶き卵をフライパンで焼いて冷まして細切りにしたわけじゃないことは俺でも分かる。
空腹に食欲をそそる味が重なって、あっという間に冷やし中華は胃袋に収まった。今度は満腹感と充足感で溜息が出る。
「ご馳走様。美味かったよ。」
「ありがとうございます。それじゃ、片付けてきますね。」
「その間に俺は歯磨きでもしておくかな。」
晶子がトレイに氷が溶けた水だけが残るガラスの器と色が薄くなったたれの入った器を乗せて立ち上がるとほぼ同時に俺も立ち上がり、ドアを開ける。
晶子はありがとう、と言ってからトレイを流しへ運ぶ。俺は洗面所へ向かい、歯磨きをする。
歯ブラシが歯を擦る音に混じって、様々な音程が混じり合う不規則なリズム音が聞こえてくる。
弁当を作ってもらった上に洗い物・・・。申し訳ない気分がする。
歯を磨き終えた俺は、泡のついた器を水で洗い流している晶子を見てからリビングに戻る。
ろくに勝手を知らない俺が手伝おうとしても、邪魔にはなっても手助けにはならないからな。
俺は「指定席」に腰を下ろして、晶子には悪いと思いながらものんびり寛がせてもらう。
レンタカー会社を出てからずっと続いていた疲労感は何時の間にやら殆ど消え失せてしまった−一時的に引っ込んだだけかもしれないが−。
俺はテーブルで頬杖をついて晶子が来るのを待つ。時折ふっと溜息が漏れる。心身共に寛いでいるのが自分でも分かる。
「お待たせしました。」
ドアが開いて晶子が入って来る。そして俺の隣に腰を下ろすと、俺の左肩に組んだ両手を置いてそこに頭を乗せる。
俄かに胸が高鳴ってくる。
晶子がゆっくり顔を上げる。その瞳と唇が俺を誘惑しているような気がしてならない。
「・・・続き・・・、してくれないんですか?」
「・・・良いのか?」
俺が確認の問いを投げかけると、晶子は無言で小さく頷く。
沈黙の時間が少し流れた後、俺は晶子の頭と腰に手を伸ばす。
晶子は俺の肩から顔を上げて身体を俺の方に向ける。そして両腕を俺の首に回す。
自然な形で晶子と抱き合った俺は、ゆっくり晶子に体重をかける。晶子はリクライニングするシートのようにゆっくり身体を倒していく。
晶子に乗りかかる形で床に横たわった俺は、間近に見える晶子の首筋に唇を触れさせる。はぁ、という甘い吐息が聞こえる。
俺の唇の動きに合わせて晶子が頭を動かす。
俺の首に絡みつく腕に力が篭るものの、何ら抵抗する素振りを見せない。
俺は晶子の喉に唇を当てたまま、右手を晶子の背中と床の間から引き抜いて後ろに持っていく。
滑らかなそこ−晶子の太腿−に触れた瞬間、晶子の身体がぴくんと振動し、呼吸音が荒くなって周期が速くなる。
俺が太腿を撫でると、晶子は俺の首により強く抱きついてくる。荒い呼吸音が欲望を刺激する。
一頻り太腿の感触を手に馴染ませた後、俺は左手も引き抜いて身体を少し浮かして晶子のブラウスに手をかける。
晶子は俺の首から両腕を離す。脱がすのに邪魔にならないようにするためだろう。
俺は生唾を飲みながら晶子のブラウスのボタンを一つ一つ外し、出来た隙間に手をかけて開く。
凹凸がはっきりした白い肌の上に、別の白さを持つ下着が乗っている。
俺は再び晶子の身体に乗りかかり、下着の間に手を差し込んで胸を軽く掴み、首筋に唇を当てる。
俺の手の動きに合わせて柔軟に形を変える豊かな膨らみを暫し堪能する。
この部屋で晶子の胸に触れるのは何時以来だろう・・・。それどころか、晶子の胸の感触を手に感じさせるのも随分久しぶりだ。
成人式会場前でのスクランブルライブの後この町に戻って、俺の家で晶子の手料理で祝ってもらった後以来か・・・?そうだな。多分そうだ。
あの時はそのまま・・・。
でも、此処じゃ・・・。
右手に独特の弾力と滑らかさを染み込ませた後、俺はゆっくり身体を起こして晶子を見る。
ブラウスをはだけて−はだけさせたんだが−下着を露出させ、目を閉じて肩で息をしている晶子は色っぽいことこの上ない。でも、このまま進めるのは・・・。
俺が躊躇っていると、晶子がゆっくり目を開けて俺を見る。息は荒いままだしとろんとした表情が艶かしい。
「どうしたんですか・・・?」
「・・・このままじゃ・・・俺は・・・。」
「続けて・・・。出来れば・・・ベッドの上で・・・。」
「でも、此処は・・・。」
「続けて・・・。」
懇願するように言うと、晶子は再び目を閉じる。全てを俺に委ねる、ということか?
俺は改めて晶子を見る。身体の内側から火照ってくる。一旦鎮静していた欲望の炎が再び勢いを増してくる。
俺は生唾を飲み込んでからゆっくり立ち上がり、ベッドの掛け布団を捲って晶子を抱き上げ、ベッドに運ぶ。
ベッドに横たわる晶子は目を閉じたまま自分の背中に手を回し、続いてスカートのファスナーとホックを外して両手をベッドに投げ出す。
俺はズボンとシャツを脱いで床に置いてから、晶子のブラウスを脱がす。晶子は俺の手の動きに合わせて身体や腕を動かし、自分から脱いでいく。
次に俺がスカートに手をかけると、やはり腰や足を動かして脱がしやすいようにする。
共に下着だけになった。晶子は目を開けない。
少し開いている口元が妙に色っぽい。下着が覆っている二つの隆起が小さく速く上下運動をしている。
俺は晶子の両脇に手を置き、ゆっくりと晶子に乗りかかる。独特の弾力と滑らかさと温もりが伝わってくる。薄い布越しに感じる弾力は格別だ。
否応なしに呼吸が早まってくるのが分かる。俺は晶子だけを視界に収める。
「本当に・・・良いのか?」
囁き声で確認すると、晶子は目を閉じたまま小さく頷く。俺は胸の下着に手をかける。
あ、まずはホックを外さないと・・・。俺が晶子の背中に手を回して弄るが、ホックの感触はない。
「もう・・・外してあります・・・。」
晶子の小さな声が聞こえてくる。さっき背中に手を回したのはそのためだったのか・・・。
俺は晶子の背中から手を引き抜き、俺の胸と晶子の胸を隔てる一枚の布を右手で軽く引っ張る。それはするっと取れる。あまりにも呆気ない。
俺はその布をベッドの脇に投げ出すと、改めて晶子に乗りかかる。さっき右手に覚えさせた感触が胸全体に伝わってくる。この感触・・・久しぶりだ・・・。
俺は晶子の唇を覆うように自分の唇を重ね、まず自分の下着を脱ぐ。そして唇を離して最後の一枚に手をかける。俺の手の動きに合わせて晶子の腰が動く。
軽い引っ張り感が消えると、それはするすると取れて、とうとう何の感触もなくなる。
手にした最後の一枚をベッドの脇に落とし、俺は改めて晶子の身体に乗りかかる。
隔てるものが全てなくなった俺と晶子の身体はぴったり密着する。
この弾力、この滑らかさ、この温もり、そして唯一異なるあの感触。これらが今年初めて晶子と顔を合わせたあの夜の記憶を鮮明に蘇らせる。
もう止めない。
止められない。
止めるもんか。
晶子・・・!
・・・。
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