written by Moonstone
「安藤君!写真撮らせてー!」
何度目かの記念撮影が終わった後、俺の名が呼ばれる。「おっと、皆さんお揃いで。」
「噂をすれば何とやら、ってところか?」
「人垣が出来たから何かと思って見てみたら、安藤君達なんだもんね。びっくりしたわ。」
「そうそう。まさかこんなところでライブやってるなんて思わなかったもん。成人式そっちのけじゃないの。」
「まあ、私達も人のこと言えないけどね。」
「さてさて、安藤君と優子が揃ったところで記念撮影、記念撮影。」
「何だか、結婚写真撮るみたいじゃない?」
「言えてる、言えてる!」
「どう?これ。」
「どうって・・・。」
「似合ってるか似合ってないか、それくらいは言えるでしょ?」
「似合ってるよ。」
「ありがと。」
「ほらほら、優子!さっさと並ぶ!」
「こらーっ!折角記念撮影するのに離れたら意味ないでしょ!」
ったく、仕方ないか・・・。俺は諦め気分で宮城の接近を許す。「安藤君!表情が硬い!笑って笑って!」
注文の多いカメラマンだな。「もう一枚撮るねー!はい、チーズ!」
と思ったら、今度は声がかかって、その直後にカシャッという音がしてカメラを持っていた女がカメラを下げて姿勢を元に戻す。「何だ?」
「あの娘と上手くやってる?」
「ああ。」
「なあんだ。祐司がフリーだったらよりを戻そうかな、なんて思ったんだけど。」
「そんなに都合良くいくか。」
「そうかなー?案外喧嘩とかしてたりして。」
「喧嘩はしてないけど、考え方の行き違いはたまにある。」
「へえ。でもきちんと話し合いとかしてるんだ。」
「喧嘩を避けるあまり本音を出すのを避けてたら、ずれが本格化したときにすり合わせようがなくなるからな。お前との経験で勉強させてもらったよ。」
「じゃあ、授業料はしっかり頂戴するわよ。」
「授業料って・・・。」
「安藤君!撮った写真、見てみなさいよ!」
宮城の友人の一人が俺に向かって声をかけて盛んに手招きをする。まあ、どんな風に写っているかを見ておくのを悪くはないか。「これ、プリントして安藤君の家に送ってあげるね。」
「家ってどっちだよ。」
「決まってるじゃない。安藤君の実家よ。」
「俺の実家に送るのは勘弁してくれ。話がややこしくなる。」
「そう・・・。じゃあ優子。あんたが安藤君の今の家に送ってあげなさいよ。」
「そうね。そうするわ。」
「送らなくて良いよ。自分の記念に持っておけば良いだろ?」
「折角撮った二人の記念写真なのよ。青春の一ページとして持っておくべきじゃない?」
「今の彼女に見られて誤解されたら厄介だ。その写真は内輪で仕舞っておいてくれ。俺は記念撮影に応じただけ。それで良いだろ?」
「うーん・・・。よりは戻りそうにないか。まあ良いわ。安藤君の気持ちを踏まえて、この写真はあたし達の記念写真として撮っておくわ。」
「そうしてくれ。」
「祐司!こっち来い!全員で記念撮影するぞ!」
「よっし、これで全員集合だ。祐司は俺の隣な。」
「分かった。」
「俺がリモコンを操作すると、カメラの赤いLEDの点滅が始まる。それが点灯に変わって3秒後にシャッターが切れる。良いな?」
「OK。」
「分かった。」
「了解。」
「おーし!じゃあ撮影といこうぜ!」
「俺達は何時までも仲間だ!忘れるなよ!」
その一言で緊張感がフッと解ける。そして次の瞬間、カシャッという音が聞こえる。良い感じで撮れたんじゃないだろうか。「念のため、もう一回行くぞ。」
勝平が言って、再びリモコンを操作する。カメラのLEDが点滅を始める。そして点滅が点灯に変わり、少し間を置いてカシャッという音がする。「良い感じじゃないか。」
「ナイスだぜ!流石は最強メンバーってとこだな!」
「プリントアウトして全員の家に送る。普通の写真サイズだから場所も取らないだろう。念のために俺のPCでCDに焼いておく。折角の記念写真だからな。」
「いつも悪いな、勝平。」
「気にすんなよ、耕次。こういうメカ関係は俺の分野だからさ。」
「勝平。」
「何だ?祐司。」
「お前、将来家業を継ぐんだろ?」
「ああ。その前に10年ほど他の会社で働いて、実務経験を積むつもりだけどな。それがどうかしたか?」
「・・・将来が決まってるなんて、窮屈じゃないか?」
「否。俺はガキの頃から工場で遊んでたし、今でも講義が無い日とかに親父の手伝いをしてる。結構面白いぜ。会社経営をリアルに体験出来るんだからな。」
「そうか・・・。」
「そういや、お前も理工系だったな。何か悩みでもあるのか?」
「祐司。悩み事があるなら遠慮なく言えよ。相談に乗るぜ。」
「言うだけでも結構すっきりすると思うが。」
「祐司。俺達の間で困ってる奴を放ってはおけないぜ?」
「いや、そんな困ってるとかいうんじゃないんだが・・・何て言うか・・・ちょっと考え事があってさ・・・。」
「さあ、無理しないで言っちまえよ。」
「折角の機会だ。これだけ面子が揃ってるんだし、言ってみたらどうだ?」
「無理に言わなくても良いが、無理に言わないのも身体に悪いぞ。」
「言っちまえよ、ベイビィ!水臭いじゃないかよ!」
「将来のこと・・・考えてるんだ。俺は勝平と同じく理工系に進んだけど、バイト先でギターを弾いてそれを聞いてもらって拍手を浴びたりしているうちに、
プロのギタリストになりたいっていう気も起こってきたんだ。このまま普通に企業や官公庁に就職っていう道で良いのか、って疑問に思うようになってきたんだ。」
「「「「・・・。」」」」
「だけど、皆知ってると思うけど、俺ん家脱サラして自営業やってるだろ?親が苦労したことくらい今の歳になってみりゃ分かるから、音楽で飯を
食っていこうとするなんて、絶対反対すると思うんだ。否、絶対反対する。正月の親戚周りの時に思い知らされたからな・・・。バイトで生活費の必要分を
捻出するっていう条件で、俺の一人暮らしと大学進学を認めてもらったことには感謝してる。でも、それを逆手にとって俺の人生まで決められたくない。
でも、俺自身プロのギタリストとしてやっていけるのか、っていう不安もある。どうしたら良いか・・・分からないんだ。」
「俺は、お前の腕ならプロとしてやっていけると思う。正直、お前よりずっと下手な、ディストーションかましてコードを掻き鳴らすだけの奴が
プロを名乗ってCD出してるんだ。お前ならそれを上回ることは十分可能だと思う。問題は・・・ジャンルだな。」
「ジャンル?」
「ああ。所謂J-POPとかロックとかなら、極端な話、デビューしたがってる奴をライブ会場とかで探して集めりゃ何とかなると思う。だけどジャズとかだと
勢いだけじゃやっていけない。それに知名度もJ-POPとかより圧倒的に低い。そんな中で人に知られる存在になるのは難しいと思う。そうでなくても、
ギター一本で食っていけるだけの存在になるのも難しいんじゃないか?CDを出したりしていかないと。」
「俺も同意見だな。」
「お前の腕前は認める。正直その辺のCD出してるアーティストっていう奴より腕は確かだと思う。だけど耕次が言ったとおり、ジャンルによってCDの売上が
格段に違う。これは知名度や愛好者の数が根本的に違うからどうしようもない。ギター一本で食っていこうと思うなら、スタジオミュージシャンで
終わりじゃなくて、自分のCDを出してそこそこ売上を出さないと厳しいんじゃないかな。」
「俺も同じだ。」
「演奏の腕とCDの売上は比例しない。お前の腕は確かだが、CDを売って暮らしていくのはジャンルによっては厳しいだろう。ただでさえ日本での
ミュージシャンの社会的地位は低い。CDが売れないミュージシャンなら尚更だ。俺としては、ギターは趣味に留めておいて、企業や官公庁とかに
就職することを勧める。だけどお前がギタリストを目指すなら応援する。」
「良いじゃないか。いっちょチャレンジしてみろよ!」
「俺はお前の腕ならやっていけると思うぜ。生活は厳しいかもしれないけどさ、ギタリストでやっていけないことはないと思うぜ。CDの売上を目指すか
どうかは兎も角、どっかの事務所に所属して仕事を貰うようにしていけば、それなりにやっていけるんじゃないか?まだまだ俺達は若いんだ。
どれだけでもやり直しは出来るさ。その気があるならやってみろよ!」
「宏一。ことは祐司の将来に関わることだぞ。それに、勢いだけでやっていけるほど、音楽業界は甘くない。祐司の人生をもっと真剣に考えてやれ。」
「俺は真剣に考えていったつもりだぜ?」
「渉。宏一は宏一なりに真剣に考えて言ってくれたんだと思う。」
「祐司・・・。」
「まだ時間はあるからじっくり考えてみる。最初からプロのギタリストを目指すんじゃなくて、最初は普通に就職して、決心がついたら脱サラって
手もあると思う。今の時勢じゃやり直しは難しいかもしれないけど、不可能じゃない筈だ。自分の人生なんだから、自分で模索してみる。
勿論、皆の意見を参考にして、な。」
「祐司。一つ言っておくが・・・。」
「俺達は仲間だ。何かあったら遠慮なく言ってこいよ。こうやって話を聞いて意見を言うだけでもするからさ。」
「そうだぞ、祐司。お前は一人で抱え込みやすい質だからな。仲間っていうのは自分が困った時のよろず相談所でもあるんだぞ。」
「お前がどんな道を進むにしても、俺達は仲間だ。それに変わりはない。」
「祐司!俺達の仲じゃないか!これからも一人で悩まないで、俺達の胸に飛び込んで来いよ!」
「・・・ありがとう、皆。俺・・・皆とバンドやってて本当に良かった。今、改めてそう思う。」
「安藤くーん!皆で写真撮ってあげる!」
甲高い呼び声が聞こえて来る。見ると、宮城をはじめとする振袖集団が駆け寄って来る。「折角の機会だもの。ここで記念写真を撮っておかないとね。」
「それじゃ、俺のカメラで撮ってやるよ。一人だけ写らないってのもつまらないだろ?」
「和泉君、話せるー。」
「・・・よし、これで良い。俺は宏一の横に入るからな。」
「オッケー!」
「俺がリモコンを操作するから、カメラの赤い光をよく見ててくれ。点滅が点灯に変わって3秒後にシャッターが切れるから。」
「え?点滅が点灯に変わって・・・?」
「あのなぁ・・・。要するに点滅しなくなって光りっ放しになるってことだよ。」
「そうなら初めからそう言ってよね。」
「・・・普通分かるだろ。」
「念のため、もう一回な。」
全員が姿勢を崩しかかったところで勝平の声がそれを制止する。全員姿勢を立て直して身構える。「はい、お疲れー。」
勝平の声で全員がやれやれといった様子で姿勢を崩す。「わー、良く撮れてるー。」
「グッドグッド。良い感じじゃないか。」
「何だかあたしの表情、変ー。」
「男の方は俺が全員に送るけど、女の方はどうする?」
「あたしが後で携帯の番号教えるから、電話してよ。それで住所教えるから。あたしから皆に送るわ。」
「分かった。」
ご意見、ご感想はこちらまでお寄せください。 Please mail to msstudio@sun-inet.or.jp. |
|
若しくは感想用掲示板STARDANCEへお願いします。 or write in BBS STARDANCE. |
Chapter 105へ戻る -Back to Chapter 105- |
Chapter 107へ進む -Go to Chapter 107- |
||
第3創作グループへ戻る -Back to Novels Group 3- |
|||
PAC Entrance Hallへ戻る -Back to PAC Entrance Hall- |