Saint Guardians

Scene 4 Act 3-1 困惑-Perplexity- 露呈する正体U

written by Moonstone

 イアソンを先頭とするアレン達は、秘宝の隠された洞窟をドルゴで全速力で突っ走る。
往路は足場に注意しながらの進入だったが、ドルゴに乗っていれば足元を気にする必要はない。
大量の魔物が擬態していた通路、オーディンが居た場所を抜け、マグマの湖に渡された橋を渡り、天井が低くなった場所を頭を屈めて抜ける。
あの圧倒的な強さを誇るドルフィンにとって、待っているのは地獄、というのだから、余程の罠に違いない。
大きな不安を胸に抱きながら、大きく蛇行する長い通路を抜け、アレン達は洞窟から脱出する。
そして、前方に見える高い塔を目指してドルゴを走らせる。
 アレン達は、試練の塔と言われる高い塔の前に到着する。両開きの扉は開け放たれていて、何者かが進入したことは明白だ。
アレンがドルゴから降りて中に入ろうとした時、イアソンが制する。

「待て、アレン。」
「どうしたんだよ。一刻も早くドルフィンのところへ・・・。」
「試練の塔と言われる場所だ。中に何があるか分からないところへいきなり進入するのは危険だ。ドルフィン殿だから突破できた罠が仕込まれている
可能性がある。改革派の僧侶が言っていた。ドルフィン殿でも突破に相当の時間を要する筈だ、とな。」
「じゃあ、どうするんだよ。」
「俺に任せて。」

 イアソンはそう言うと、両手を塔の内部に向かって翳し、何やらぶつぶつと呪文を唱える。
すると、イアソンの両手から半透明の白い球体が飛び出し、塔の内部に吸い込まれるように入っていき、少ししてイアソンの手に戻ってきて消える。

「・・・中はすっからかんであまり広くない。中央に階段がある。罠らしい突起物や仕掛けの類はない。僅かだが魔法反応がある。」
「魔法反応があるってことは、ドルフィンが魔法を使ったってことか。」
「そういうことだ。皆、ドルゴから降りて中に入ろう。」
「ええ。」
「了解。」

 アレンとリーナとイアソンはドルゴを消して、フィリアと共に中に入る。
入った途端、室内に立ち込める悪臭に思わず全員が鼻と口を押さえる。

「な、何よ、この臭い・・・。」
「軟体、或いは不定形の魔物を倒した時に出る臭いね・・・。ほら、アレン。あんたが洞窟でブルーローパーを倒した時にこんな臭いがしたでしょ?」
「そう言われれば確かに・・・。」
「ということは恐らく・・・試練とは各階に居る魔物を倒すということだろう。ドルフィン殿でも突破に相当の時間がかかるということは、相当強力な魔物が
配置されているに違いない。スライムやローパーは普通の武器や弱い魔法じゃダメージを与えられないからな。」
「てことは、ドルフィンさんに追いつける可能性もあるわね。」
「ああ。急ごう。臭くてたまらん。」

 アレン達はイアソンを先頭に、アレン、フィリア、リーナの順で部屋の中央にある階段を上っていく。
二階の扉も開け放たれている。アレン達は念のため、武器を持っているアレンとイアソンが剣を抜いて中に入る。
魔物などは居なくてやはり部屋はがらんどうだが、バラバラにされた魔物の死骸が床に散乱している。

「・・・ドルフィン殿が撃退したんだな。」
「そうみたいだな。」

 アレンが手招きすると、フィリアとリーナが入ってくる。

「うわ・・・。バラバラじゃないの。」
「これ・・・、グリフォンね、多分。」
「グリフォンが早くも二階に居るということは、上にはもっと強力な魔物が・・・。」
「よし、急ごう。追いつけるかもしれない!」

 一行は再びイアソンを先頭として階段を上っていく。
階段を上り、ドアを開けて中に入って中に何も居ないかバラバラになった魔物の死骸しかないのを確認して、一行はひたすら上を目指す。
階段の傾斜はかなり急なので、ドルゴでは上れない。ひたすら足で駆け上っていくしかない。
アレンとイアソンはまだしも、体力的に劣るフィリアとリーナは上に進むにつれて足が遅くなってくる。
アレンとイアソンは度々足を止め、フィリアとリーナが追いついてくるのを待って先へ進む。

「ど、どうして吹き抜けにしなかったのかしらね・・・。」
「これは・・・流石にキツイわ・・・。」
「二人共、今は上に進むことだけに集中するんだ。」

 愚痴を零すフィリアとリーナにイアソンが釘を刺す。
ただでさえ傾斜が急な階段を幾つも幾つも上らなければならないのだから、無駄口を叩く余裕があるなら足を進めることを考えた方が良い。
フィリアは言うに及ばず、リーナも普段なら喧嘩を吹っかけるところだが、イアソンの言うことが正論なので黙って従う。
 試練の塔はどうやって建造したのか分からないが、もの凄く高い建造物だ。
部屋に入って階段を上がり、また部屋に入って、を何度となく繰り返しても、一向にドルフィンに追いつくどころか戦闘の音すら聞こえてこない。
流石にアレンとイアソンも息が切れてきた。階段の傾斜が急なのと、階数が予想以上に多いことで、体力がそれなりにあるアレンとイアソンも疲れを隠せなく
なってきたのだ。フィリアとリーナに至っては、もう足がガクガクですっかり息が上がり、疲れを隠すどころの状態ではない。
一行はやむなく近くの部屋で小休止をして、歩いて階段を上っていくことにする。
 続くどの部屋も、がらんどうか悪臭を漂わせているか、バラバラの死骸が散乱しているかのどれかだ。
どんな魔物が居たのかは想像の域を出ないが、ドルフィンは難なく突破していったらしい。
自分達は息が上がって戦闘どころの状態ではないのに、時間差があるとは言え急な階段を幾つも上って、その上部屋に配置された恐らく強力な魔物を
撃退していっているのだから、ドルフィンの力量はただものではないと考えざるを得ない。
一行は一歩一歩踏みしめるように階段を上っていく。

 何度同じことを繰り返したか分からない程上ったところで、フィリアとイアソンが上方から魔法反応を感じる。
その魔法反応は断続的に繰り返されて放出されてきていて、戦闘中であることが想像出来る。

「近くなってきたみたいだぞ。」
「ドルフィンが?」
「ああ。断続的な魔法反応が伝わってくる。これは相当苦戦していると考えられるな。」
「ドルフィンが戦闘で苦戦するなんて信じられないわ。」
「だが、魔法反応が断続的に伝わってくるのは事実。ドルフィン殿の身に何か起こっている可能性も否定出来ない。」
「先を急がなくちゃ駄目ね。」
「ま、足元もおぼつかないあたし達が追いついたところで、何の役に立つか分からないけど。」
「急ごう。ドルフィン殿は近い。」

 一行は力を振り絞って階段を上っていく。
上へ進むにしたがって、フィリアとイアソンが魔法反応が強まってくるのを感じる。それだけ戦闘地点に近付いているという証拠だ。
強まってくる魔法反応を頼りに−アレンとリーナは感じないが−、一行は疲れが蓄積した身体に鞭打って懸命に上へ進む。
幾つか階を上ったところで、上方から何やら音が聞こえて来る。爆発音らしいものも混じっているところからして、風の音とは考えられない。

「爆発音・・・?」
「これは・・・相当長期戦になっていると考えた方が・・・自然ね。」

 リーナが切れる息に交えて推測を口にする。
確かにお世辞にも早いと言えない自分達の進行スピードにも関わらず戦闘が続いているのだから、長期戦になっていると考えるのが自然だ。
ドルフィンが長期戦を強いられるほどの魔物とは一体どんなものか?召還に生贄を必要とする上級の悪魔か、果てはドラゴンや上級の精霊か。
自分達に何が出来るか分からないが、兎に角ドルフィンに追いつくことが先決だと判断した一行は、再び歩を進める。
 上に進むにしたがって、爆発音の他に何かが切れるような鋭い音、更に雷が落ちる音まで聞こえて来る。
フィリアとイアソンは相当強力な魔法反応を感じ続けている。これは相当苦戦、且つ長期戦になっているのは確実だ。
危機感を感じた一行は、力を振り絞って階段を上るスピードを速める。
 爆発音などが明瞭に聞こえて来るようになってきた。ドルフィンの居る場所は近い。一行は懸命に階段を上り、上へ上へと進んでいく。
何度目か覚えがないほどの階段を上っている途中で、爆発音などが鮮明に聞こえて来るようになった。ドルフィンは次の階に居る、と判断した一行は、疲れも
忘れて階段を駆け上る。
爆発音が止んだところで、居丈高な女の声が聞こえて来る。

「ハハハハハ。どう?魔法を受け続ける気分は?たまには良いもんでしょ?」

 敵はどうやら人間らしい。それも、強い魔法反応からしてかなり上級の魔術師のようだ。
一行が部屋に駆け込むと、信じられない光景が飛び込んできた。
部屋の中央付近でドルフィンが金色のリングで身体を束縛され、全身傷だらけになっていたのだ。
彼方此方から血を滴らせ、白煙を−自己再生能力(セルフ・リカバリー)が発動している証拠だ−立ち上らせているドルフィンの向こう側に、女が居た。
女は長い金髪を窓からの風に靡かせ、線の細い、それでいて凹凸が明瞭な身体のラインを際立たせるようなローブを身に纏っている。
女神を思わせるその美しい顔はしかし、動けないものを嬲る狂気の楽しみに酔いしれている。

「ドルフィン殿!」
「!イアソンか?」
「あら、またいたぶられたい子が現れたようね。それも大勢で。」

 女は嘲笑うような口調で言う。女を見たリーナは、ドルフィンに向かって叫ぶ。

「ドルフィン!その女はシーナさんなんかじゃない!ドルフィンなら分かるでしょ?!」
「何?」
「人聞きの悪いことを言う子ね。お仕置きが必要ね。」

 リーナがシーナじゃない、と言ったその女は、アレン達に向かって魔法を使おうと指を向ける。魔力の集中を感じたイアソンが早口でドルフィンに告げる。

「ドルフィン殿!改革派の目的は我々とドルフィン殿を分断することだったのです!リーナの言うとおり、恐らくそのシーナという女性は偽物!」
「口の悪い子達ね。ドルフィンより先に貴方達へのお仕置きが必要みたいね。」

 シーナというその女が言うと、くくく・・・という含み笑いが聞こえて来る。
その笑い声の主はドルフィンだ。

「何がおかしいの?」
「くくく・・・。そうだよな・・・。偽物か・・・。確かにそうだよな・・・。」
「え?」

 シーナが聞き返すと、ドルフィンを束縛していた金色のリングが、ボン、と大きな音を立ててバラバラに砕け散り、床に散乱する。

「本物のシーナなら・・・バインダー26)がこんなに弱っちいわけないよなぁ。」

 ドルフィンの口元に笑みが浮かぶ。その確信と殺意に満ちた笑みに、シーナは顔を強張らせて思わず後ずさりする。
全身から白煙を立ち上らせつつ、ドルフィンは身体の節々を動かす。

「もし本物のシーナにバインダーを使われたら、俺でも破ることは出来ん。」
「え?!」
「い、Illusionistのドルフィンさんでさえも・・・?」
「・・・。」
「で、では本物のシーナという女性は・・・。」
「そう、Wizardだ。」

 ドルフィンの言葉に、アレン達は驚きで声も出ない。
偽物が姿形を真似しているシーナという女性は、恐らく10代後半か20代前半。その年齢で魔術師の最高位であり、魔術師でなくても尊敬と畏怖の対象である
Wizardになったというのであれば、途方もない才能と魔力の持ち主である。
正体がばれたと感じたのか、シーナは早口で呪文を唱える。

「マーカス・デミーラ・ハンズ・リェジェラ。天よ怒れ。その青い鉄粋を彼の敵に叩き付けよ!ライトニング・ヴォルト!」

 大音響と共にドルフィンの周囲が眩く輝き、青白い稲妻が襲い掛かる。
しかし、その直前にドルフィンの周囲に結界が張られ、稲妻を完全にシャットアウトする。

「違う違う。こうやるんだよ。ライトニング・ヴォルト。」

 ドルフィンが言うと、猛烈な音と共にシーナの周囲が激しく輝き、青白い稲妻が発せられる。
シーナはドルフィンがやったように結界を張り巡らせて防禦を試みるが、稲妻は結界を貫き、シーナに向かって降りかかる。
絶叫が稲妻の音と共に部屋中に轟き、稲妻が止むと、シーナは全身から黒煙を上げてその場に倒れ伏す。

「ライトニング・ヴォルトを呪文ありで使うところからしても、お前は本物じゃないよなぁ。本物なら今頃俺は消し炭になってる筈。」

 ドルフィンは全身を見回して、傷が完全に回復したのを確認して指をボキボキと鳴らす。
ようやく顔を上げたシーナを見て、アレン達はあっ、と驚きの声を上げる。焼け焦げたシーナの顔がべろりと剥がれ、別のやはり焼け焦げた顔が表れたのだ。

フェイスコピー27)か。てことは貴様、何処かでシーナのドローチュアか本物を見たな?何処でだ?吐け。」
「は、吐けと言われて素直に吐く偽物なんて居ないわよ・・・。」
「ほう、そうか。ならば嫌でも吐かせてやる。」

 ドルフィンはずかずかと偽シーナに歩み寄り、左手の剣を床に置いて偽シーナの胸座を掴んで立ち上がらせる。
ドルフィンの瞳が鋭さを帯びて凄まじい殺気を漂わせているのを見て、偽シーナは顔面を蒼白にして弁明する。

「わ、私を殴る気?!わ、私は女よ!男が女を殴るなんて・・・」
「だからどうした?!」
「ひっ・・・。」
「てめえの都合で魔術師になったり女になったりするんじゃねえ!!」

 ドルフィンの右拳が偽シーナの横っ面に叩き込まれ、偽シーナの顔が首から千切れそうになるほど右に傾く。
続いて偽シーナの腹にドルフィンの右拳がめり込む。偽シーナは激しく嘔吐する。
ドルフィンが手を離すと、偽シーナは自らの嘔吐物の上に倒れこむ。そのひしゃげた横っ面にドルフィンの右足が踏み込んでくる。全く容赦がない。

「もう一度別のものを吐きたいか?」

 ドルフィンが偽シーナを見下ろしながら、冷たく問う。
言わなければ殺す、と暗に仄めかしているのがアレン達にもビシビシと感じられる。

「い・・・言わせていただきます・・・。」
「吐け。」
「ゴ、ゴルクス様からドローチュアを見せられて・・・。」

 ゴルクスという名を聞いて、ドルフィンのこめかみがぴくっと動く。

「お前、い、いえ、貴方様がラマンの町に来たと言う情報を改革派の僧侶から聞きつけたゴルクス様が、私にシーナに扮し、仲間の小僧、い、いえ、少年達を
騙して改革派が秘宝を入手し、始末する間にドルフィンをせいぜい嬲り殺せ、と命じられて・・・。」
「・・・ゴルクスか。」

 ドルフィンは偽シーナの顔面から足を退け、髪を掴み上げて立たせる。
益々殺気が強まった瞳に見据えられた偽シーナは、半分泣きながら懸命に命乞いをする。

「ま、待って!わ、私は命令されただけ!そ、それに私を殺しても何の特にもなりゃしないわよ!私を殺してもゴルクス様はどのみち、あ、あんたを殺しに
向かわれるだろうし・・・。」
「言い残すことはそれだけか。」

 ドルフィンはその一言に続いて、偽シーナの全身に拳を叩き込む。骨や肉が砕け、潰れる音が室内に幾つもこだまし、フィリアは思わず目を塞ぐ。
ドルフィンの拳が再び姿を現した頃には、偽シーナは原型が分からない程全身を打ち砕かれて、見るも無残なぼろきれのようになっていた。

「殺しはしない。お前を殺すだけ力の無駄だ。」
「う、うう・・・。」
「良いか、よく聞け。一度しか言わんぞ。ゴルクスに伝えろ。今度会った時は必ず貴様を殺す、とな。」

 偽シーナは何度か首を縦に振る。それを見たドルフィンは偽シーナを床に放り捨て、剣を拾うと踵を返してアレン達の方に歩み寄って来る。
その唇は真一文字に結ばれ、今にも炸裂しそうな怒りをどうにか押さえ込んでいるといった表情だ。

「ド、ドルフィン・・・。」

 アレンが恐る恐る声をかけると、ドルフィンは言う。

「出るぞ。俺の腕に掴まれ。」

 ドルフィンの言葉で急いでアレン達はドルフィンの腕に掴まる。

「フライ。」

 ドルフィンが言うと、ドルフィンを含めた全員の身体が宙に浮かぶ。
ドルフィンはアレン達を腕に乗せたまま、開かれた窓から塔の外へ出て、滑らかに素早く降下していく…。
 その日の夜。反改革派の僧侶達は大きな部屋にアレン達一行を案内し、大夕食会を催した。
ミディアスをはじめとする改革派の僧侶達は、身柄を拘束されたまま部屋の隅に固められている。

「剣士殿。よくご無事で・・・。」
「魔法の威力が弱いから手加減しているのかと思ったら、あれが実力だったとはな・・・。迂闊だった。」
「幸い秘宝もイアソン殿のお陰で無事流出を防げましたし、どうかお気になさらずに。」

 ドルフィンは杯に注がれたベルニ酒28)を一気に飲み干し、周囲からどよめきが起こる。
ドルフィンにベルニ酒を注いだ高僧の一人も、すっかり感心した様子だ。

「なかなか剣士殿は酒にお強いようですな。」
「まあな。ところで改革派の背後関係は掴めたのか?」
「ええ。その件ですが・・・。」

 高僧が言う。

「ミディアスめは秘宝をゴルクスという人物に引き渡すことと引き換えに、ラマン教の指導権を掌握しようと企んでいたようです。この話は3年程前、ゴルクスが
ミディアスに直接接触し、成立させたとのことです。ミディアスめが全部吐きました。」
「秘宝とは一体何なんだ?」
「・・・人間をはじめとする動物の身体を構成するための、目に見えない情報を記してある書物です。」

 一般僧侶も居る席なので躊躇したようだが、どのみち現場で耳にしたイアソンが話すだろう、と思ったのか、高僧の一人は説明する。

「動物の身体を構成するための目に見えない情報・・・か。」
「はい。古代文明はあれを悪用したことで悪魔を生み出し、人類絶滅の危機に陥ったとのことです。」
「動物の身体を構成するための情報・・・。」

 ドルフィンは、レクス王国のナルビアで戦った、得体の知れない化け物のことを思い出す。
動物を構成する情報を掴むことであのような化け物を作り出すことが目的なのか、とドルフィンは推測する。しかし、それだとザギのやろうとしていたことと
重複する。

「ドルフィン。ゴルクスって奴とどういう関係があるの?」

 アレンが尋ねると、ドルフィンは推測を打ち切って答える。

「奴とは因縁がある。セイント・ガーディアンになるという俺の夢を打ち砕いたんだ。」
「セイント・ガーディアン・・・。剣士殿はあのクルーシァの人間なのですか?」
「元、な。今のクルーシァはザギやゴルクスといった奴らが支配している。ザギがレクス王国、ゴルクスがラマン教に絡んできたのは、生物に関わる何かを
企んでのことだろう。どうせろくでもないことに決まってるがな。」
「剣士殿。クルーシァは一体どうなってしまったのですか?」
「今言えることは、これまでの掟を破って他国や宗教に接触して何かを企んでいるってことだ。」

 ドルフィンが言い終ると、その場が沈黙に包まれる。

「ドルフィン殿。ザギとゴルクスには何らかの関係があるのですか?」

 暫しの沈黙を破ったのは今回大きな功績を上げたイアソンだった。

「秘宝を入手させるために反乱軍の罠に嵌ったアレンは、剣を奪われていました。それに今は指導部の皆さんが再度封印しましたが、その封印を破れる
力をアレンの剣が持っていることを知っていたということは、アレンの剣についての情報を入手していると考えるのが自然です。」
「そのとおりだ。ザギとゴルクスは盟友関係にある。ザギはレクス王国からの逃亡の途中でゴルクスと接触して、情報交換をしたんだろう。アレンの剣が
洞窟の封印を破るだけの力を持っているということを把握していて、反乱軍はアレンを抱きこんだんだからな。」
「俺の剣は7つの武器の一つだ、ってミディアスが言ってたけど・・・。」

 アレンの言葉に、その場がざわめき始める。
ドルフィンが口に近づけていた杯を離し、アレンの方を向いて言う。

「それは本当か?」
「本当だよ。」
「・・・だとしたらアレン。尚のことお前はその剣を守り通せ。これはお前の使命だと思え。」
「7つの武器って一体何なの?」
「・・・創造の天使が命と引き換えに創り出した、7の悪魔を倒した武器。」

 それまでマイペースで食事を進めていたリーナが言う。

「それと同時に創られた鎧が、武器と共にクルーシァに運ばれ、代々セイント・ガーディアンに受け継がれている・・・。そうでしょ?ドルフィン。」
「ああ。つまりザギやゴルクスが装着している鎧とペアになっているてことだ。ザギが狙う理由がそこにある。本来セイント・ガーディアンである自分が持つべき
ものだ、ってことでな。」
「一体父さんはこの剣をどうやって・・・。」

 アレンは傍に立てかけてある剣を手に取って、しげしげと眺める。その左隣に居るフィリアは、アレンの肩に手を置いて優しく言う。

「アレン。叔父様は絶対泥棒なんかじゃない。叔父様が本当の持ち主なのかもしれないわ。ううん、きっとそうよ。」
「父さん・・・。」
「だが、今セイント・ガーディアンはザギだ。さっきも言ったように、ザギがアレンの剣を狙うのはある意味当然だ。だからこそ、剣を守れ。何としてもだ。
奴に剣を渡したところで親父さんが帰って来るどころか、ろくなことになりゃしない。迂闊な行動は慎むんだぞ。」
「うん・・・。」

 アレンは剣を元の場所に戻す。高僧の一人がドルフィンに尋ねる。

「剣士殿。これからどうなさるおつもりで?」
「とりあえずカルーダへ向かう。そこでフィリアの魔術師の称号が上がる状態に達しているか判定してもらって、ついでに持ち金の一部をデルグからペルに
変換して西へ向かう。海を渡るには資金不足だしな。」
「そうですか・・・。何分我々はこの聖地ラマンに篭っていて世間の情報に疎いもの。故にご助言は出来ませんが、出来る限りのことを。」

 高僧の一人は近くに居た一般僧侶に指示して、何かが入った皮袋を持って来させ、それを受け取ってドルフィンに差し出す。

「これは反乱軍がラマンの町での説法で集めていた金。汚れた金ですが、旅を続ける役には立つでしょう。」
「良いのか?」
「我々指導部もこれからはラマンの町に赴き、ラマン教の教えを説きに行くつもりです。聖地ラマンの復興は自らの手で行いますが故。」
「・・・では、ありがたく頂戴する。」

 ドルフィンは皮袋を受け取る。場から自然に拍手が起こる。夕食会は夜遅くまで賑やかに、そして和やかに続く・・・。
 翌朝、一行は反改革派、否、主流派の見送りを受けて、聖地ラマンの門の前に集った。
ミディアスら反乱軍は賢者の石を剥奪され、一生を下働きとして聖地ラマンで過ごすという処分が下されたということだ。
フィリアを除く全員がドルゴを召還し、出発の準備が整った。高僧の一人が前に進み出る。

「どうか道中お気をつけて。セイント・ガーディアンが絡んでいる以上、彼らも次を狙ってくるに違いありません。」
「ああ。短い間だったが、世話になったな。」
「我々はラマン教の本当の改革と浸透を目指し、日々修行に励む所存です。」
「町民の誤解を解くには時間がかかるだろうが、道理はそちらにある。必ず道は開けるさ。」
「ありがとうございます。皆さんに我らラマンの神々のご加護があらんことを・・・。」

 その高僧をはじめとする主流派の僧侶達が、胸の前で両手を合わせて頭を下げる。アレン達もそれに倣って両手を胸の前に合わせ、頭を下げる。
ラマン教の挨拶を交わした後、アレン達はドルゴに跨る。ドルゴを持っていないフィリアだけはアレンの後ろに跨る。

「「お世話になりました。」」
「ありがとう。さようなら。」
「それじゃ、お元気で。」

 アレンとフィリアは声を揃え、リーナは平坦に、イアソンは快活に別れの挨拶を告げる。

「行くぞ。」

 ドルフィンの声を合図にして、操縦者が手綱を叩き、ドルゴを走らせる。
蒼く澄み切った空の所々に灰色の雲が漂う天候の中、一行は聖地ラマンを後にする・・・。

用語解説 −Explanation of terms−

26)バインダー:力魔術の一つで古代魔術系に属する。触媒として髪の毛が必要。魔力を金色のリングに変えて相手の動きを封じ込める。Enchanter以上で
使用可能。


27)フェイスコピー:力魔術の一つで古代魔術系に属する。触媒は対象を目で見ること(ドローチュアでも可)と特殊。顔に対象者の顔を写し取って変化させる。
Phantasmistから使用可能。


28)ベルニ酒:米などの穀物から作られる吟醸酒。ラマン教での祝いの席に用いられる。アルコール度数は20%程度とやや強め。

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