芸術創造センター こぼれ話
Dropped talk of Performing Arts Center

2005年5月31日更新 Updated on May 31th,2005

2005/5/31

[いよいよ梅雨の時期]
 先んじて傘を持ってないのに雨に降られて濡れて帰った、というのが非常に嫌ですが、今後こういう天候の方が多い時期になるんですよね。巷では「ジューンブライド」とも言いますが、雨降りが続いて湿気も多い時期に客を呼び込むための結婚式場の商売戦術ですからいい加減なものです。
 精神的にはどうにか多少持ち直しましたし、携帯の電源を入れてメールの受信は再開しましたが、迷惑メールの多さに再びげんなり。昨日分だけで通常の5割増です。こんなのちっともありがたくありません。
 明日から6月。この月はどういうわけか祝祭日は1つもないし、夏休みや冬休みとも関係ないという理不尽な月なのですが、背景写真はたくさんあるので1週間単位で変更していきます。突き指もまだ治らないし、踏んだり蹴ったりだった5月から一転したものになれば良いな、と思っています。
 耕次が答える。その口調はやっぱり少し投げやりだ。

「『これ食べると太るよね』とか言いつつ、出て来たものを手当たり次第にバクバク食って飲んで、『ご馳走様』でおしまいだ。落とす落とせない以前の問題だった。」
「そ、そんな目で見るなよな。ベイビィ。」

 渉を除く面子の冷たい視線を受けて、宏一がうろたえる。確かに、責任はあの場を作った宏一にあるから、多少の批判はやむを得まい。

「腕が落ちたな、宏一。」
「否、宏一の腕が落ちたというより、底引き網漁の後の選び方が拙かったと言うべきだろう。取れた魚が何でも食べられるわけじゃない。」

 勝平の批判に対する耕次のフォローは、フォローになってないような気がする。最も乗り気だった宏一は肩透かしを食った分だけダメージが大きいだろうに。・・・あ、やっぱりしょげている。

「俺が思うに、あの場でまともな出会いを期待する方が間違いだったんだ。人の結婚指輪に宝石がないことや、人の将来設計を批判するどころか別れろとまで仄めかすような常識知らずの連中に期待するだけ無駄ってもんだ。」
「渉が宏一を援護するなんて珍しいな。」
「遅刻するくらいなら、底引き網漁で得た魚を選ぶ目を持て、ってことだ。」

雨上がりの午後 第1899回

written by Moonstone

「それは兎も角、どうして早く帰って来たんだ?てっきり施錠時間ギリギリまで飲んでるかと。」
「向こうが先に引き上げたんだ。宿の門限に遅れるから、ってな。」

2005/5/30

[第三者的に書くとこうなる]
 現在、Moonstone氏の新作公開が危機的な状態にある。彼はこのところ周囲の環境などに強いストレスを感じており、それが解消出来ずに蓄積されたことで非常に神経が過敏になっている。普通なら気にならない音、例えば空調の音や大型店での賑わいも煩わしく、ついに先日耳栓を購入したが、彼が最も嫌うロードノイズ(車の走行音)が十分遮れないこと、中でも最も嫌悪するバイクなど低音領域を多く含むものに効果が薄いことで、更にストレスが増した模様だ。
 彼は神経が非常に過敏になっているため、とても執筆どころではない。遠いロードノイズにも反応してしまい、執筆を中断してしまって以来それっきりだ。運が悪いことに持病の腰痛が再び悪化し、更に利き手の右手の薬指を突き指して未だものを掴めず、手を振っても(手を洗った後で水気を切るなど)痛むほど状態が悪く、それが神経過敏に拍車をかけている模様だ。
 現在、彼との連絡手段は非常に少ない。彼は固定携帯とも自宅の電話を遮断してしまい、メールも受信していない。些細なことがストレスになることを本人が知っているため、他人との接触を自ら断っている様子だ。現在のところ、執筆再開の見込みはない。

「どうしたんだ?入れよ。」
「いや・・・、嫁さん、良いのか?」
「晶子?起きてるぞ。」
「起きてるのはまだしも、服は着てるのか?」

 少し躊躇いがちな耕次の問いで、俺は質問の意味を悟る。起きてたのにあまりにも出るのが遅れたことで、俺と晶子が「真っ最中」だったと思ったんだ。

「ちゃんと着てる。良いから入れ。」

 照れ隠しにちょっとぶっきらぼうに言うと、耕次が中を窺ってから−信用出来ないのか−中に入る。それに渉、勝平、宏一が続く。ドアを閉めて晶子を見ると、髪をおろしている。それを見て少し安心して戻る。
 面子は晶子の向かい、最初晶子が座っていたところに押し込むように座っている。俺はさっきまで居た場所である晶子の隣に腰を下ろす。面子の座り具合はかなり狭苦しく感じる。二人部屋ということからか机はあまり大きくないが、それでも俺と晶子が座っている側を除く3辺に分散すれば、結構ゆとりがある筈だ。

「横に広がれば良いのに。」
「晶子さんを正面から見たくてな。」
「それに晶子さんに近づくと、祐司が怖いし。」

 宏一に続く勝平の回答で、俺は苦笑いする。自分で言うのも何だが、俺はやきもち焼きと言うか独占欲が強い。俺が宮城と付き合っていた時代を知っている面子は、そのことを憶えている筈だ。

雨上がりの午後 第1898回

written by Moonstone

 面子が近寄って来るが、俺が脇に退いても中に入ろうとはしない。

2005/5/29

[募るイライラ]
 木曜辺りからずっとイライラしています。普通なら気にならないような誰かのちょっとした言動でもイライラして、それを我慢することで更にイライラ。48時間ぶりに寝た昨日も起床後からイライラしていて、ロードノイズで何時にも増して更にイライラが募り(元々ロードノイズは嫌い)、とても新作制作どころではありません。
 止むに止まれず耳栓を購入。結構効果はありますが、低音成分が強いバイクなどでは耳栓でも効果が薄くてちょっと聞こえてきます。もう鬱陶しくて仕方ありません。自宅で音がなる最大の要因、つまり電話は固定携帯とも切ってあります(固定はモジュラーケーブルを抜いて、携帯は電源を切ったということ)。
 腰は相変わらずじくじくと疼きますし、突き指をした右手薬指もまだ回復しません。どうにか物が持てる程度にはなりましたが、握るには至りません。せめて身体ぐらい治って欲しいです。
 晶子は湯飲みを持って立ち上がり、俺の左隣に座る。湯飲みを机に置いて、俺の肩に頭を乗せる。晶子の家に居る時は並べたクッションに座っているし、俺の家に居る時も食事は向かい合ってするけどその後は隣り合って座るから、断らなくても良いのに・・・。
 ふと左手の甲に滑らかな感触を感じる。左手を反転させると、重なっていた晶子の手が重なり、俺の指の間に指が入り込んで来る。軽く握られた手を握り返す。目を閉じて微笑を浮かべる晶子は、眠っているようにも見える。
 俺はその晶子の頭に寄りかかるように頭を傾けて、目を閉じる。ゆるりと流れ行く時間と共に漂う空間。気が付いたらもうこんな時間、という日々からは完全に隔絶された今が心地良い。

コンコン

 ドアがノックされる音で目を開ける、否、覚ます。心地良さに浸るあまり殆ど寝ていたように思う。晶子は俺の肩からゆっくり頭を上げる。晶子も寝ていたのかな。俺は晶子と手を離し、ドアへ向かう。ドアを開けると・・・あれ?誰も居ない。

「あ、祐司だ。」

 耕次の声が聞こえる。俺がドアから顔を出して左右を見ると、浴衣姿の面子が二手に分かれて部屋に入ろうとしているところだった。

「起きてたのか。」
「ああ。どうしてだ?」
「何回ノックしても出て来ないから、寝てるかと思った。」
「何回も?さっきのノックが初めてかと。」

雨上がりの午後 第1897回

written by Moonstone

「・・・祐司さん。」
「何?」
「隣・・・良いですか?」
「良いよ。」

2005/5/28

[48時間ぶりに寝ます]
 木曜は一睡も出来なかったので、これから寝ます。新作は今日起きて書けたら公開します。新作を楽しみにしていた方は御免なさい。・・・では。
 耕次を先頭に面子は向かう。その後姿を見送ってからドアを閉めて戻る。

「皆さん、これからお風呂ですか。」
「そうらしい。それから此処に来るつもりらしいけど、良いか?」
「ええ。」

 晶子は入れたての茶を差し出す。俺は礼を言ってから一口啜る。女達の言葉に気分を害した、と明確に言っていた渉は兎も角、耕次に勝平、そして飲み会をお膳立てした宏一は結構楽しんでいたようだったが・・・。
 静かな時間がゆっくり流れていく。TVはあるが点けていない。元々見る週間があまりないし、大学が忙しくなって来た2年以降だと、電源を入れた回数は指折り数えられるかどうかだ−いちいち憶えてないし−。家ではレポートかMIDIのデータ作りかアレンジかギターの練習かで大半を過ごし、残るは寝てる。隙間を縫うように辛うじて洗濯をしている有様だ。
 かと言って間が持たないわけじゃない。晶子と過ごす時は大体こんな感じだ。二人で居る時間をどう過ごすか考えることなく、その時話すことや話したいことがあれば話して、後は二人で居る時間を過ごす。これで十分だ。普段何かと慌しいから、こういう時を待っていたとも言える。

雨上がりの午後 第1896回

written by Moonstone

「俺達はこれから風呂に行って来る。その後、差し障りなければ部屋に寄らせてもらう。」
「そうか。俺と晶子はまだ起きてるから、温泉でゆっくりして来いよ。」
「じゃ、また後で。」

2005/5/27

[突き指・一人思う]
 一昨日自損事故で右手薬指を突き指をしてしまって、かなり不自由しています。特にキーボードを使う時。自宅のノートPCはタッチが軽いのでまだ良いんですが、職場のデスクトップPCはタッチがちょっと硬いので、右手薬指を使うとちょっと痛みます。現にかなり腫れていまして、ものが満足に握れません。右利きの私にはかなり深刻なダメージです。包丁も満足に持てないので料理はほぼ不可能です。直ぐ治ると思っていたのが甘かったようです。
 今日もでたらめに遅くなってしまったんですが、更新に取り掛かれなかったからです。仕事疲れは勿論ありますが、かなり精神的に参っているのが大きいです。なかなか改善しない自分の病状、あまりにも身勝手な周囲の環境、その他色々で蓄積する一方の不満やストレスを解消する手段を見出せずに居ます。
 所謂「毒吐き」が必要なんでしょうが、生憎その相手が居ません。メールをやり取りしていただいている方に話したら気分を悪くされるだけでしょうし、オフで「ちょっと話聞いて」と言える相手は居ません。どうすれば良いのか、と一人思うだけです。

「ずっと・・・、一緒に居てくれよな。」
「はい。」

 晶子は不安そうだった顔を微笑みに変える。俺について来い、と言えないのが我ながら情けなく思うが・・・。

「その先は、プロポーズしてくれる時まで仕舞っておいてくださいね。」 「・・・ああ。」

 やっぱり晶子は特別な時や瞬間を大切にしている。晶子の求愛への返事の時もそうだったし、晶子を初めて抱いた時も、「出逢って何年目」という節目の時も・・・。
 あまりにも安っぽいと言ってしまえばそれまでだ。少なくとも、指輪に宝石が付いていて当たり前と仄めかしていた女4人組には分からないだろう。だが、それを大切にしている相手が今時分の傍に居るんだから、その気持ちに応えたい。現実というものは厳しい時もあれば、心地良い時もあるものなんだな・・・。

 俺と晶子が部屋に戻って程なく、ドアがノックされる。立とうとした晶子をやんわり制して、俺が出る。不審者は居ないと思うが、念には念を、というやつだ。ドアを開けると、耕次他面子全員が顔を出す。

「よっ。もう風呂入ったのか。」
「ああ。そっちはもう飲み会終わったのか?」
「終わり終わり。せいぜい飲んで食って来た。」

 耕次の口調は何となく、飲み会で楽しんだ、というより、ようやく終わった、という解放感の方が強いように思う。

雨上がりの午後 第1895回

written by Moonstone

 俺は笑みを作って首を横に振る。そして、晶子の手を握る左手の力を少し強める。

2005/5/26

[分かれ道]
 演歌みたいなキャプションですが、そう思うことが多々あります。誰もが多かれ少なかれ不満やストレスといったものを抱えていると思います。「価値観の多様化」と言われる現代社会では尚更です。仕事、勉強、人間関係、恋愛、社会そのもの・・・。要素となりうるものを挙げれば切りがありません。そうして蓄積した不満やストレスをどう解消するか、というのは重要な課題でしょう。
 不満やストレスの解消法は、これも人によって様々です。電話、寝る、飲酒、喫煙、食べること、趣味・・・。そういったもので解消出来れば良いのですが、それが出来ない場合、蓄積したものは必然的に許容量を超えてしまいます。自分の中で炸裂した場合は過労死に代表される形で心身を壊し、自分以外のものに向けた場合は犯罪となる。その分かれ道を決めるのが理性とかそういうものだと思います。
 ストレス解消、と言って自分以外の他人、特に弱者(ホームレスや自分の子ども(特に乳児や幼児))に暴力などの形で向けるのは簡単なことです。鬱積した不満やストレスで自分を壊すより他を壊せば良いだけのことですし、犯罪となってもせいぜい傷害致死、刑罰にすれば数年の懲役で済んでしまいます。理性というものがあるのが良いのかどうか・・・。したい放題やり放題で手段の正当性は何ら問われず、結果だけがちやほやされる現在に疑問を感じて止まない今日この頃です。
 俺は今の大学に進学したことを少しも後悔してない。合格率は五分五分、と進路指導で言われていた大学を目指して懸命に取り組んで、その上合格出来たんだから。でも、大学進学で人生の残り全てが決まったわけじゃないという現実がじわじわと迫って来た今、大学進学よりずっと難しい選択をしなきゃならない。
 公務員なら将来安泰ってのは幻想に過ぎない。それを目指して、否、目指させている子どもを持っている時は散々羨んでおきながら、自分と関係がなくなると1つの些細な−良いとは言わないが−不祥事で陰口を叩いて、人員削減をマスコミやその辺の議員と一緒になって強いる有様だ。首を切られるのは一般の職員で幹部クラスや議員の首はそのままだから、何も変わらない。そんな状況で仕事にやりがいを持てるとは思えない。
 かと言って、企業では過労死とかただ働きとかが、それこそ就職志望上位の常連から出て来る始末だ。花形の裏に累々と横たわる死体を横目で見ながら仕事、なんて俺には出来そうにない。
 俺は、今のバイトが気に入っている。勿論忙しいし−サマーコンサート以降は尚更−、妙な客ともきちんと対応しなきゃならないという問題はある。だけど、気の良いマスターと潤子さん、そして晶子と一緒に一つの店を動かしている、という、手応えと言うのか充実感と言うのか、そういうものがある。それを追い求めたいとも思う。むしろ、今はどちらかと言えば、そっちの方に気が向いている。
 だが、そうなると親との衝突は避けられないだろう。「折角今の大学に進学しておきながら」という接頭語が付くのは、簡単に想像出来る。それでも、ネームバリューとか求人広告の記載につられて、理想と現実とのギャップに悩むよりはましだと思う。
 俺が進路を決めないことには、俺と一緒に暮らす、否、俺と結婚することを前提にしている晶子が身動きが取れない。大学卒業と同時におしまい、なんて真っ平だ。自然消滅ならまだしも、俺と晶子は今進むところまで進んだ。それに、晶子はその意味を知った上で指輪を左手薬指に填めてと譲らなかったし、俺もそれに応えた。そこまで築き上げた俺と晶子の共通の夢を「なかったことにする」なんて出来ないし、したくない。
 押し寄せる現実という波に晶子との絆がこのまま揺られ続けていたら、この先どうなるか分からない。自分の人生だけでもこの先なんて見えないんだから、分かる筈もない。分かるようなら占い師は全員失業だ。

「どうしたんですか?」

 晶子の呼び声で我に帰る。見渡せる景色は何時の間にやら廊下をとうに過ぎて階段の前のもの。俯いて考えながら歩いていたらしい。器用なもんだ。

「・・・いや、何でもない。」

雨上がりの午後 第1894回

written by Moonstone

 俺は進学校で、幸か不幸かは兎も角1年からテストのない日はなかったといって良いくらいの状態だったから、受験に対して鍛えられてきた。一方、3年生から受験態勢に転じた弟はその分ブランクがある。プレッシャーは相当のものだろう。だから俺は、自分の貯金を確かめた上で、4年生の学費は自分で出す、と親に言った。そうすれば1年間だけの気休めだが、入学金を含めれば100万近い金が浮くのは間違いない。高校までは喧嘩ばかりしていたが、去年の年末年始に帰省した時には冬休みの宿題を見てやったし、近況を話したりもした弟の、息が詰まる受験勉強の、それこそ気休めにでもなれば良い。

2005/5/25

[消されたぁ・・・]
 とうとうA.M.3:00にまでずれ込みました(汗)。最近の連載ストック枯渇状況を打開しようと懸命に執筆していたところ、エディタが不具合を起こしてかなりの部分を消されてしまいました(泣)。構想が消えないうちに、と急いで書いていたらこの時間までずれ込んだ始末。「更新待ってるのに遅い!」とお怒りを受けそうですが、どうかご容赦のほどを。軽くて必要な機能を揃えたテキストエディタを本気で探そうかな・・・。
 本業では複数を並行させているので、かなりややこしくなっています。回路設計(回路図なんて描くの久々だよ)、回路基板と部品の寸法の測定とシールド(ノイズを拾わず出さすという構造)を考慮した実装案の作成と依頼者への回答(何故この部品を選んだのか、と聞かれたから)、認可された企画に向けた別領域の専門の人との懇談、書類発送手続き・・・。こんなところですね。
 私の本業は電子機器の設計と制作が主なんですが、最近はそれらもプログラミング方向に大きくシフトしていたので、回路図を描いて配線パターンを考えて・・・という従来の手法がかなり面倒に思います。ですが完成させるには避けては通れない上に、マイクロメートル単位(髪の毛の太さ程度)で半田付けするという精密作業が要求されるので、かなり冷や汗が出ています。工具とかを選ぶことも視野に入れないといけないかな・・・。
「あの人達は、ある程度の集団で一斉に風呂に入りに来たんだろうな。だから、晶子の答えを聞いて、早速柵の向こうに居る筈の男友達に真偽のほどを確かめた。・・・こんなところか。」
「そうです。あと・・・、『お幸せにね。』って、皆さんが出て行く時に言われました。それが一番、嬉しかったです。」

 そう言って微笑む晶子は、本当に嬉しそうだ。何より俺との絆や時間を求める晶子にとっては、自分の幸せを実感出来るその瞬間こそ喜びの共鳴に浸れる至福の時なんだろう。宏一が引っ掛けた女4人組が、宝石が付いていて当たり前と遠回しに揶揄された指輪は、晶子にとって、今の自分の幸せを示す何物にも代えられない大きな証なんだと改めて実感する。
 渉も言っていたが、その幸せと今の笑顔を壊すことだけは絶対にしちゃいけない。指輪を左手薬指に填めてくれとせがまれた時は、照れくささで頭が沸騰しそうだった。だけど日が経つに連れて、指輪に込めた想いとそれを確固たるものにしようという思いが照れくささを上回った。見せびらかすとまではいかないが、ここぞという時にはその思いを示す。そうすることで、現実の濁流に飲み込まれそうになるのを防いでいる。最近は特にそうだ。
 現実という波は確実に俺にも迫っている。自分の進路は言うまでもないが、別方向からも迫っている。弟のことだ。入学した時には次は就職、と決まっていた筈の弟は、今年3年になるとほぼ同時に大学進学に進路変更した。そうせざるを得ない事情があった。弟は俺と同じく−学校は違う−普通科に進学したが、そこからでは就職が殆どないという現実を見たからだ。
 工業高校とかの実業系でも何社も面接を受けてようやく1社合格、そしてその結果だけが「過去の卒業生の進路状況」として掲載される、という生臭い現実に突き当たった。「即戦力」の筈の実業系でその有様だ。普通科の進路状況となれば言われなくても分かる。
 大学進学に切り替えたは良いものの、厄介な問題に突き当たった。・・・金だ。俺が一人暮らしをするのにも、今の大学で4年で卒業、仕送りは月10万きっかり、足りない分は自分でバイトして補填する、という条件があった。そもそも私立に行かせる金は家にはない、と前置きされたくらいだ。その「実績」と実家の経済状況に変化がないということを踏まえれば、自ずと条件は絞られて来る。簡潔に言えば「自宅から通える国公立大学」と。そして、その条件を満たす大学を数えるには、片手で十分だったりする。

雨上がりの午後 第1893回

written by Moonstone

「それで、柵越しのあの会話になったわけか。」
「ええ。『夫と一緒に温泉に入りに来た』って答えたら直ぐ・・・。」

2005/5/24

[いやはや・・・]
 平日の更新時刻が遅くなって申し訳ありません。自宅では、平日は眠れず休日は寝過ぎ、というでたらめな生活パターンが定着していて、自分ではどうにもならないですし、その克服にこだわると余計に悪化するという悪循環を生じるので、その辺は妥協と言うのでしょうか、そういうものに任せるようにしています。
 今はADSLや光などの「定額で常時接続」の比率が高いせいか、更新チェックも割と早い時間帯(21:00とか)に行われています。対して此処の更新は前後することはあっても23:00〜翌日(日付上は当日)2:00になるので、ずれが生じてしまっているようです。「週末にじっくり新作を読みたいのに〜」と言われるとちょっと辛いですし、私自身そうしたいのは山々なんですが、時間ギリギリまで校正することが結構ある上に駆け込み(更新直前まで仕上がっていなかったものを一気に仕上げること)もあるので、どうしてもずれこんでしまうんですよね・・・。
 とは言え、週末になると更新がまだでもアクセスが増えますし、更新チェックに表示されてからアクセスが大幅に増えるので、更新は結構待たれているのかな、とも思っています。ご覧のとおりテキストだらけで見栄えは決して良くないページではありますが、「継続は力なり」との格言は脈々と生きているようです。
 バイトでは色々な客が来る。塾帰りの中高生から仕事帰りのOL、音楽好きだという会社員−この店でCASIOPEAの曲が聞きたかったと言った客でもある−まで色々。マスターと潤子さんの話では、昼間は主婦層や年配の人も来ると言う。顔馴染みの客とは短いが話をしたりする。「今日は同僚を誘ってきたのよ」とか「君のギターは今日聞けるかな」とか言われて、その場その時の状況で受け答えしている。
 年齢が違う人との付き合いは難しい面もないとは言えない。けど、サマーコンサートのように、見知らぬ人との出会いが新鮮な出来事や楽しい思い出を作ることもあると思う。年齢層による客の行動の断絶が良いのか悪いのか・・・。この宿だけじゃなくてこの町全体の問題でもあるだろうから、それを考えると何とも言えないが、何か大切なものが欠けているように思う。

「お風呂では、凄く注目されましたよ。」

 やや沈んだ調子だった晶子の声が、一転して明るくなる。

「身体と髪を洗っていたら、『あら、若い娘(こ)が1人でなんて珍しい』って話しかけられて、そのまま温泉に向かったんです。何でも、高校の地区単位の同窓会で此処に来たそうで。」
「ああ、俺の方でもそう聞いた。」
「温泉に居たのは偶然、その同窓会の参加者だけだったみたいで、色々話をしてたんですよ。皆さんが『私達もこんな時代があったのよね』とか言っているうちに私に話が向けられて、私が新京市から来た大学生で、同じ大学に通う夫と、夫の高校時代のお友達との一足早い年越し旅行に混ぜてもらった、って答えたら驚かれて・・・。『学生結婚なの?』とか『旦那は今何処に居るの?』とか一斉に尋ねられたので、まずこれを見せたんです。」

 晶子は服とかを包んだバスタオルを抱えた状態で、左手の指を見せる。その薬指に輝くのは、俺のと同じ指輪。関係を示すにはそれを見せれば事足りる、と言っても過言でないものだ。

雨上がりの午後 第1892回

written by Moonstone

 寂しい。そう言われればそうだ。温泉では見ず知らずの人達、しかも年齢層が違う人達と結構盛り上がった。自分達を話題にするのにはあまり慣れてないから相手の思惑どおりとは行かなかっただろうが、俺はそれなりに楽しかった。

2005/5/23

[サーバー一時停止期間終了]
 サーバーの管理は私がしていないので(今のネットの状況を考えると自宅でサーバーを持つ勇気はない)何時終わるか分からなかったんですが、夕食後アクセスしたら問題ありませんでした。最も終了時刻が遅れる場合、すなわち16:00開始で6時間後の22:00を考えていたんですが、その必要はなかったようです。
 今回のサーバー一時停止による影響は、ご来場者の方にはその時間帯だけアクセス出来ないだけだったと思いますが、サーバーにファイルを置いて更新などをしている私にはかなり重大な出来事です。少しずつファイルの欠損がないかなどを確認していますが、htmlファイルだけでも洒落にならない数なので、欠損がないことを祈っています。まず大丈夫でしょうけど。
 土曜に必死こいて更新した反動で、昨日は完全にダウン。そういう時に限って連載のストックがすっからかんだったりするわけで(泣)。一時期は割と余裕があったんですが、油断してると直ぐ枯渇するのが怖いです。連載終了までこの格闘は続くんですが、2000回間近で2年強しか進んでないのでもっと怖いです(汗)。

「じゃあ・・・行こうか。」
「はい。」

 早々と会話に詰まった俺は、部屋に戻ることを選択する。俺が様子を窺うように手を出すと、晶子がすっと手を出して握る。柔らかくて滑らかな感触を感じて、それをよりしっかり感じ取るために痛くならない程度に握る。
 来た道を戻る形で通路を歩いて行く。往路では何人かとすれ違ったが、復路では誰ともすれ違わない。年齢層によって行動パターンや時間帯のずれが明確になっているのは分かったけど、ここまで極端というのは初めて見る。旅行とかそういうのには無縁の生活を送っていてその辺の変化に疎い俺が知らなかっただけなのかもしれないが。

「人、居ませんね。」

 隣に居る晶子が呟くように言う。

「人の行動が、年齢を主な要因として分断されているようですね。この時間でも、私と祐司さんくらいの若い人が温泉に入りに行ったり、お風呂で一緒になった年代の人達が夜の街に繰り出していても良いように思うんですけど・・・。」
「推測だけど、俺と晶子も居たあの繁華街は若者向けに作られてた。此処に来る高い年齢層の客はそれを知ってるから、夜は宿で温泉に浸かって飲み会か寝るかで、俺や晶子くらいの年齢層だと、昼間出会った子ども達も言ってたように、昼はスキーで夜はあの繁華街で遊ぶ、っていうように二極化されてるのかもしれない。」
「年齢で行動範囲や時間帯が制限されるのはある程度まではやむを得ないかもしれませんけど、こういう観光地ではちょっと寂しいですね。」
「そうだな・・・。」

雨上がりの午後 第1891回

written by Moonstone

 思ったことそのままを言うと、晶子は嬉しそうに微笑む。悪い気はしないらしい。「可愛い」とか「綺麗」とか言うのは良いが、「色っぽい」とか所謂性的関心を惹く褒め言葉は良くない、って聞いたことがあるからな。

2005/5/22

[ふう・・・疲れたぁ・・・]
 どうにか更新です。これをお聞きいただいている分には分かりませんが、日付更新まで30分を切っています。「魂の降る里」が予想以上に長引いいちゃいまして・・・。で、これが済んだら新作の制作に取り掛かる、と。
 なかなか大変ではありますが、どうにか間に合いましたし、頭を切り替えて頑張ります。うー、メールのお返事が全然出来てないー(大汗)。早く返したいんですけど、どうしても毎日の更新を優先させるのでなかなか・・・。
 今日は事前の告知どおり、一時的にサーバーが停止します。その間に作品制作とメールのお返事・・・とはなかなか行かないでしょう。掃除洗濯洗い物、色々ありますから(汗)。文句言ってないで、早速取り掛かります。

「先、出るからー。」
「分かりましたー。」

 元々風呂に入る時間が短い俺がこのままこうしていると、本当にのぼせてしまいそうな気がする。笑いの種になる前にさっさと出よう。湯船から出て急いでガラス戸を開けて中に入り、かけ湯をしてから脱衣場に向かう。本当に人気がない。時計を見ると9:00過ぎ。早いと言えば早いが、誰も来ないというのは何だか妙な気がする。
 身体を拭いて浴衣を着て、その上に羽織を着て、服やタオルを一抱えにして風呂場から出る。人気はまったくないし、晶子もまだだ。髪を拭くのに時間がかかるって前に言ってたし、俺が出たからと行って必ず出てくるってわけでもないから、約束どおり待つ。
 温泉の熱の余韻と暖房が重なってか汗が染み出して来た。入るまでは丁度良いくらいだったんだが、出てからだとかなり暑く感じる。まさか暖房を止めろ、って言うわけにもいかないし、そんな子どもじみたことを言うつもりもないから、汗を拭って凌ぐ。

「お待たせしました。」

 晶子が出て来る。髪は後ろで結わえられてポニーテールにしている。風呂上りの浴衣姿を見るのは去年の夏以来だが、やっぱり色っぽいな・・・。仄かに上気した頬と白いうなじのコントラストが魅惑的だ。

「どうしたんですか?ぼうっとして。」
「あ、いや、色っぽいなって思って・・・。」

雨上がりの午後 第1890回

written by Moonstone

 柵1枚隔てた向こうは晶子1人だけか・・・。この広い湯船を柵を隔ててだが、俺と晶子が占有していることになる。湯気に霞むガラス戸の向こうには誰も居ない。完全に2人きり・・・かな。かと言ってどうすることも出来ないんだが。何だかのぼせて来たように思う。多分、温泉の熱さと浸かっている時間だけが原因じゃない。

2005/5/21

[突然ですが]
 TOP最上段にもリンクを貼りましたが、明日5/22の14:00〜16:00を開始として、20〜30分、最長5〜6時間の予定でサーバーが一時停止します。これはサーバーのメンテナンスに依るものですので、URLの変更はありません。
 今日は事務連絡だけにさせていただきます。酷い疲れの上にこれまた酷い頭痛が重なっていますので・・・。
 男性達は連れ立って風呂から上がっていく。飲み会とか言ってたな。あの飲み屋の通りには行かないで、この宿でするんだろうか。俺と晶子が加わるわけでもないから、聞かないでおこう。
 見回すと、湯船には俺しか居ない。さっきまで浸かっていた男性達は全員、高校の地区の同窓会とやらのメンバーらしい。女湯の方にどれくらい居るのかは分からないが、団体客であることには違いない。俺達の部屋は3つとも2人部屋で、どれも2人には十分な広さだが、団体客用のものもあるんだろうか?
 さっきまでの会話が嘘のように静かになった。柵の向こうからも声は聞こえない。向こうはもっと会話が長引きそうなもんだが、飲み会の時間に遅れないように早めに出るとか、予め決めておいたんだろうか。・・・もしかして、向こうは晶子だけか?

「晶子ー。聞こえるかー?」
「聞こえますよー。」
「・・・今、そっちは1人かー?」
「はいー。さっき一斉に出て行かれましたー。」
「こっちもだよー。」

雨上がりの午後 第1889回

written by Moonstone

「んじゃ、そろそろ上がるかー。」
「そうだな。これから飲み会だし。じゃ、兄さん。お先に。」
「あ、どうも。」

2005/5/20

[ネタバレ注意]
 Novels Group 1の「Saint Guardians」読者の方で、「この先の展開は公開分だけで知るんだ!」と決意されている方はご注意ください。まあ、それほど重大なことではありませんし、30代以上のPCゲーマー(経歴者含む)なら既にお気づきかもしれませんし。次の行から始まります。
 現在ランディブルド王国編が展開中ですが、10ある一等貴族が物語の重要な鍵の1つだということはお察しだと思います。Scene7 Act2-1で10の家系の名前と王冠を所持する家系が登場しますが、10の家系は「XanaduシナリオU」(日本ファルコム)の1から10までのレベル(面)の名前で、王冠はそのレベルにあるものの名前です。で、王家の城の地下神殿の名称「シャングリラ」はレベル11の名前です。この件に関してはまたお話します。はい、此処まで。
 本来なら明日付でどかっと更新するところですが、肝心のブツが出揃っていないので多分1日延期になると思います。とても今日帰宅してから揃えられないので。あ、「Saint Guardians」に限って言えば出来ていますけど。

「晶子ー。聞こえるかー?」
「はい。聞こえますよー。」
「指輪、見せたのかー?俺も見せたけどー。」
「はい。見せましたー。」

 やり取りに続いて拍手が起こる。こちら側は元より、壁の向こう側からも聞こえる。嬉しいのは勿論だが、照れくささが先に出る。こういうのに慣れてないからな・・・。

「そう言えば、兄さんの連れは?」

 拍手が止んだ後、最初に話しかけて来た男性が再び話し掛けて来る。これも何かの縁だ。答えられるだけ答えておくか。

「今、居酒屋で呑んでます。俺達だけ先に帰って来たんです。で、風呂に行こうか、ってことになって。」
「スキーは?」
「いえ、してないです。」
「あらま、珍しいね。若い人が此処へ来るのはスキーするためだ、っていうくらいなのに。」
「スキーはしたことないですし、最初から観光目的ですので。」

 他の男性も加わって来る。やっぱり、この年齢の中で1人だけ若い俺は目立つらしい。それに、スキーをせずに観光に来たというのも異色のようだ。俺に誘いの電話をかけて来た耕次もスキーに行くことを最初に言っていたし、飲み屋の通りに居た年齢層も考えると、俺と晶子の行動は浮いて見えるようだ。

雨上がりの午後 第1888回

written by Moonstone

 照れくさいが、こういう展開で無下に断るわけには行かない。覚悟を決めて、壁の向こうに居る晶子に呼びかける。

2005/5/19

[ドラゴンの謎]
 時事ネタとは無縁の話ばかりですが、本業で製作元でさえ何1つ公開していないことについて詳細に調べて簡潔に纏める、なんて無体なことを1日やっていて息が詰まるしぐったり感が強いので、雑学レベルのお話をすることで気を紛らわせようと思います。Novels Group 1の「Saint Guardians」をご覧の方は元より、コンシュマー(PS2とかそういうもの)ゲームをされる方やファンタジー小説愛読者の方にはお楽しみいただけるでしょう。
 ファンタジーでよく出て来るモンスター、というと色々ありますが、「強いもの」と限定するとドラゴンがその1つに挙げられると思います。ドラゴンクエストでもファイナルファンタジーでも(私がプレイした範囲ですが)ドラゴンは後半で出て来る強力なモンスターですし。で、それらは大抵「怪獣」と言いましょうか、トカゲを巨大化させて見た目怖くした容貌で、炎だの吹雪だの雷だのを吐き、この世の平和を取り戻そうとする主人公に敵対する、ということで大方共通していると思います。
 こういったドラゴンのイメージを「普及」させることになった大きな要因の1つは、かの有名な「ヨハネの黙示録」です(Side Story Group 1の「魂の降る里」でも章毎のタイトルで由来にしているものが幾つかあります)。そこには「7の頭と10の角を持つ赤い竜」なるものが登場しますが、現在「主流」となっているドラゴンの原型が此処にあります。この竜は使いと共に大天使ミカエルの一団と戦って敗れ、地に投げ落とされる、とあります(この件が、ミカエルが有名になった要因の1つとも考えられます)。「絶対善」の神の使いに対抗したのですから当然悪の象徴になるわけです。蛇を巨大化させて神格化したような日本や中国の龍と違うのもそういうわけです。
「はい。大学生です。」
「私は高校の地区の同窓会で来たんですよ。飲んでたんで、入るのが他より遅れちゃったんですけどね。お兄さんは?」
「私は高校時代の友人と・・・妻と来ました。」
「え?お兄さん、結婚してるの?」
「はい。」

 他人に対して言い慣れてないからちょっと躊躇してしまったが、確認の問いには迷わず答える。話からするにこの男性は、かなりの人数で来ているらしい。風呂から出た後で女湯に居るかもしれない同期の人とその話になって、話が矛盾したら大変なことになる。俺は湯に浸けていた左手を出して見せる。薬指の指輪を見て、男性は納得した様子で何度も頷く。
 その時、壁の向こう側から何やら声が聞こえる。悲鳴ではない。歓声と言うのか、そんな声だ。何かあったんだろうか?耳を澄ましてみるが、色々な声が交じり合っている上に多少残響があるせいもあって、よく分からない。

「ねえねえー!そっちに若い男の子居なーい?」

 壁の向こうから一際大きな声が聞こえて来た。・・・もしかして・・・。

「おー!居る居るー!新京市から来たっていう若い兄さんがなー!」
「こっちにねー!新京市から来たって言う、髪の長い色白の綺麗な女の子が居るのよー!」

 ・・・やっぱり。晶子も俺と同じように話しかけられたんだろう。無理もない。男湯でも居る年齢層は明らかに俺より高い。それに、晶子は俺と同じく20代で客観的に見ても美人だ。人目を惹くには余りある。

「その女の子、結婚指輪填めててねー!聞いてみたら、旦那と一緒に風呂入りに来たんだってー!」
「こっちでも指輪見たぞー!」
「凄い綺麗な女の子でねー!旦那の高校時代の友人との一足早い卒業旅行に同席させてもらったんだってさー!」
「兄さんもそう言ってたー!・・・さ、お兄さん。奥さんに声かけてやりなさい。」

雨上がりの午後 第1887回

written by Moonstone

「新京市からです。」
「ほう、随分遠くから来なさったねぇ。見たところかなり若いけど、学生さん?」

2005/5/18

[不眠気味]
 肉体的にはさほど疲れはないんですが、精神的にはほぼ毎日へろへろ状態です。そんなこともあって不快眠が続いています。不眠ではありません。服薬しているので寝ることは寝られるんですがすっきり目覚められません。何て言うんでしょう・・・。「頭の中に常に霞がかかった状態」とでも言いましょうか。健康的な状態ではないのは確かです。
 昨日の話から少し続き。倉木麻衣さんは大学卒業直前辺りからシングルを結構な頻度で出していますが、宇多田ヒカルさんはこのところ新曲リリースの話を聞きません。公式Webページを見ても新曲は2004年4月以降ないようですし。
 ヴォーカル曲は倉木麻衣さんのもの以外は一切聞かない!なんてことはなくて、「Secret of my heart」をきっかけに「名探偵コナン」を見るようになってから知ったミュージシャンは結構居ます。この前までエンディング曲だった「忘れ咲き」(GARNET CROW)は、歴代エンディング曲第2位です(1位は言うまでもなく「Secret of my heart」)。歌詞を一部でも引用すると某著作権料徴収団体が文句言ってくる可能性もあるのでおちおち書けない故表現し難いんですが、サビの最初はかなり印象的です。Novels Group 3あたりで「アルバム紹介」なんてやってみようかな・・・。
 少々違和感を感じつつ、近くのプレートを見る。温泉の歴史や効能が書いてある。・・・ふーん。500年以上の伝統か。スキー場のついで温泉宿が作られたんじゃなくて、温泉宿だけでは特に若い客を呼べないってことでスキー場が出来た、って流れかな。効能は・・・関節痛、筋肉痛、美肌。スキーで筋肉痛になった、とかいう話はチラッと聞いたことがあるから、丁度良いだろう。美肌は俺には関係ないが。
 服を脱いで脱衣籠に仕舞ってから−鍵はゴムバンドで左手首にくくりつけてある−、今時珍しい木製の引き戸を開ける。予想以上に広い。湯船だけで俺の自宅くらいはありそうだ。周囲は日本庭園そのもので、ライトアップもされている。積もった雪がオレンジ色の光を受けて輝いている。身体や髪を洗うところと湯船は、殆ど枠のないガラス戸で仕切られているからよく見える。
 洗うところには10人、否、それ以上の腰掛があるが、座っているのは2人だけ。しかも、見たところこれから出ようとしているようだ。やっぱり、この年齢層から見ると入浴時間帯がずれているらしい。近くの木製の腰掛けに座って身体を洗う。身体を洗うのは石鹸じゃなくてポンプ式のボディソープ、シャンプーもポンプ式というのは目を瞑るべきところか。
 身体と髪を洗った後、ガラス戸を開ける。寒い!雪が積もっているくらいだから当たり前だが、急いで湯に入る。今度は熱く感じるが、これは一時的なもの。落ち着いたところで思わず溜息が出るのはご愛嬌。湯船に浸かっているのはざっと見て10人そこそこ。やっぱり少ない。湯船が余計に広く感じられる。
 ふと横を見ると、竹で作られた柵というより壁がある。この向こうが女湯なんだろう。晶子は多分まだ身体か髪を洗ってるところだろう。「烏の行水」を地で行く俺に対して、晶子は結構長風呂だ。長い髪を洗う分時間がかかるらしい。前に潤子さんもそんなことを言ってたし。

「お兄さん、何処から来なさった?」

 のんびり浸かっていたら、初老の男性が声をかけてきた。普段客商売のバイトをしているせいか、こういう場面でも動揺しないで居られるのはありがたい。

雨上がりの午後 第1886回

written by Moonstone

 晶子と小さく手を振って、男湯と女湯に別れる。中は・・・空いてる。3人居るが何れも服を着ているかタオルで身体を拭いているかのどちらかだ。此処に来るまでにも何度かすれ違ったが、時間帯としてはもう湯上りなんだろうか。

2005/5/17

[何故Kは出てUは出ない?]
 連載では私が好んで聞くT-SQUAREをはじめとするフュージョン関係の曲が多く登場しますが、ヴォーカル曲で登場するのはほぼ倉木麻衣さんの曲だけです。「Master's Profile」をご覧になった方や此処の常連さんはご存知かと思いますが、ヴォーカル曲を10数年来聴かなかった私が倉木麻衣さんにどっぷり浸かったきっかけは「Secret of my heart」で、これは今までの倉木麻衣さんの曲で個人的ランキング2位です(1位は何かは内緒)。
 その倉木麻衣さんがデビューした頃、宇多田ヒカルさんと似ている、とか結構言われていたものです。その結果かどうかは知りませんが「アンチ宇多田=倉木」(その逆も成立)という公式が成立しました。現在宇多田ヒカルさんはアメリカ在住で活動地域が分かれましたから、その公式が今でも成立するのかは謎ですが、連載読者の方でも「Moonstoneは宇多田嫌いか」と思われている方が居られるかもしれません。
 結論から言うと、私は決してアンチ宇多田ではなくて、宇多田ヒカルさんも立派な歌手だと思っています。勿論好きな曲もあります。「SAKURA ドロップス」と「Can You Keep A Secret?」がお気に入りです。倉木麻衣さんの歌声を多く聞いている分、宇多田ヒカルさんの曲が出し難いんです。声質も違いますし(どちらが良いというものではない)。最近になってようやくCASIOPEAが出て来たのも、出すタイミングがなかっただけです(所有CD数はT-SQUAREに次ぎます)。別に指摘を受けたわけではありませんが、この場で一応説明した次第です。
 晶子は首を横に振る。

「いきなり祐司さんが席を立ったら、その後の場が乱れたと思います。勿論、祐司さんが出て行くなら私も出て行くつもりでしたけど、あの場の雰囲気を保ったまま離れたんですから、あれで良かったんですよ。」
「・・・そうだな。」

 途中退席した以上、今更ああだこうだ言っても仕方ない。少なくとも見た目は円満に退席出来たんだから、それでよしとしよう。先に2人で戻った温泉宿。温泉と言えばやっぱり・・・あれだよな。

「温泉に行くか。」
「はい。」

 風呂はこの部屋にはない。今時の旅館やホテルは、大浴場はあっても大抵それぞれの部屋に浴室がある。その面からも、この宿は珍しい部類に入ると思う。温泉宿、と銘打つくらいだからそれなりに大きいんだろうが、どんなものかは行って見ないことには分からないからな。
 俺と晶子は茶を飲んでから立ち上がり、浴衣と羽織、下着とタオルを持って部屋を出る。部屋の鍵は俺が持つことにする。風呂の時間は晶子の方が長いから、俺が部屋を開けて待っている、ということも出来ないことはない。だが、晶子に1人で帰って来い、とは言いたくない。
 階段を下りて長い廊下を進んでいくと、偶に他の客とすれ違う。誰もが俺と晶子が持っている浴衣と羽織を着ている。客層は中高年ばかりだ。昼間出会ったあの子ども達が言っていたように、今は若い奴が遊んでいる時間帯なんだろう。
 風呂は、かなり奥まったところにあった。混浴・・・じゃない。残念なような、ホッとしたような・・・複雑な気分。晶子が風呂に入ってるところは見たことがないし、興味がないと言えば嘘になる。けど、他の男に見せたくない。ある意味男らしい立派な独占欲だな。

「それじゃ、此処で待ち合わせしよう。」
「はい。待ってますね。」

雨上がりの午後 第1885回

written by Moonstone

 我慢していた結果とは言え、俺の行動は遅かった。晶子が躊躇したり、面子が止めようとしても振り切って、それこそ晶子に「俺について来い」と言ってでも早々に店を出るべきだった。そういう主導的な行動が執れないのは、未だもって進路を決められずにいることにも表れていると思う。

2005/5/16

[ただいま、脱力中]
 土曜の高揚感は何処へやら、脱力感と倦怠感に支配されて何も手が付けられませんでした(食べるものもろくに食べてない)。連載の書き下ろしが精一杯です。こちらはこれまで結構余裕があったんですが、気を抜くと直ぐにストックが枯渇してしまうので油断ならないんですよね。かと言って「ストックが少ない」と一昨日付でお話したような携帯電話のようにPCがメッセージを出すなら、「喧しい!」とそんな機能は即座に無効にするでしょうが。私にとってPCは「自分にとことん忠実に動くべき道具」でしかありませんからね。
 嫌味なほど体調が悪いので、昨日は酒を飲んでいません、本当は昨日飲みたかったんですが、こんな状態で飲んだらほぼ間違いなく悪酔いしますし、嘔吐との戦いになるでしょうから。土曜に1.4リットル(350ml×4)飲んだんですが、残りは明日に取っておこう、と思って・・・。飲める時と飲めない時の差が極端なのがネックです。飲めない時は本当に駄目です。
 昨日付公開分であることを仕込んだんですが、気付いた方は居られるでしょうか?別にリンクをクリックしたら妙なページに飛ばされるとか、そういう危険なことは仕込んでいません。じっくり探して見てください。
「そうですか。渉さんが随分長いこと戻らなかったのはどうしてかな、と思ってたんですけど、場を壊さないための渉さんなりの配慮だったんですね。」
「ああ。渉があれだけ自分の考えとかを話すことはなかったんだけどな。」
「祐司さんに話したかったんだと思いますよ。渉さんが言ったとおり、祐司さんが無理をしてその場に居ると思って、心境を吐露してもらうために。」
「そうだろうな・・・。」

 渉は口調こそ普段どおりだったが、話した内容は明らかに怒りを含んでいた。同時に、こんな奴等に言いたい放題言われて黙ってるつもりか、とも言いたかったのかもしれない。俺とてそんなつもりは毛頭なかったし、渡るの言葉がきっかけで晶子を連れて退席することに踏み切れたんだから、むしろありがたいくらいだ。

「・・・祐司さんと別れろ、と暗に言われたのには、正直頭に来ました。」

 湯飲みを置いて両手で包み込んだ状態で晶子が言う。

「私は、人生において勝敗はないと思います。あるとするなら、その人の人生がどれだけ充実していたかで決まることで、それは個人の問題で他人と比較して評価する性質のものではないと思います。あの女性(ひと)達には、絶えず自分と他人と比較して、自分より劣る、とみなした対象を見下す思考が身についているんだな、と思いました。それは個人の価値観の問題ですからまだ良いです。けど、祐司さんと別れろ、と暗に言われたのには・・・。」
「・・・勝手なこと言うな、と怒鳴りつけたかったんだけど、それはちょっとな・・・。だから黙ってた。渉から途中退席は構わない、って言われたから、頃合を見て出ることにしたんだ。遅い、って言われればそれまでだけど。」

雨上がりの午後 第1884回

written by Moonstone

「−こんなところ。」

2005/5/15

[規模は小さいけど会心]
 睡眠不足を反映して目を覚ましたのは昼過ぎだったのですが(ちなみに寝たのは0時過ぎ)、何時以来かの自宅での飲酒(服薬の関係で飲酒は原則禁止)の後、長く書きたかった作品「オヤジ達に捧ぐ日常雑話」の冬月編(副題はありませんが後日分割します)の執筆に着手して無事成功。ちょっと長くなりそうなので前後編に分割することにしました。その勢いでSide Story Group 3の作品まで仕上げて、同時公開に踏み切りました。
 昨日付まで鬱憤が心の奥底でくすぶっていたのですが、書きたかったものが書けて(全部じゃないですが)そこそこ解消出来ました。じゃあ他の作品は書きたくないのか、と言われそうですがそんなことはありません。ただ、日頃の更新を優先するためにどうしても後手後手に回っていただけです。今日付公開の「オヤジ達の〜」の冬月編は1年以上暖めてきただけに、満足です。Side Story Group 3の「サヨナラ」では、この関係で2回連続女性の登場人物が泣くことになってしまいましたが(許せ、志保(^^;))。
 あと、久しぶりに此処の過去ログを公開。読み返してみると、かなり心身の状態が危険だったことが窺えます。こうなる前に病院行ってれば、とは思うんですが、その時は自分がそんな病気だとは思いもしませんでしたからね。過去ログはテキストだけですがかなり重いので(117kBある(汗))、ご注意ください。
 賑わう通りを出ると、そこは完全に雪が降る夜の田舎町、だ。家々の窓が灯りで浮かび上がる他は、静かに雪が降っているだけ。人通りは殆どない。若い奴は昼間スキーで夜遊ぶ、と昼間出会った子ども達が言っていたが、その子ども達らしい姿もない。俺と晶子が住んでいる町は一応住宅街だが、少し行ったところにコンビニがあって本屋があって、そこには誰かが居る。年齢は大抵若い。今まで当たり前と思っていた夜の光景が当たり前でない。この町はそうだ。
 俺は、晶子と手を繋いだまま、宿に戻る。宿の中も静かだ。夕食の時見た限りでは、満員御礼とまではいかないものの結構な数の客が居た筈だが、少なくとも此処で見た限りでは、客で賑わっているという雰囲気はない。他の客も、あの建物と内装が別世界の飲み屋が立ち並ぶ通りに遊びに出かけているんだろうか。肩や頭に乗った雪を払って部屋に戻る。

「お茶、入れますね。」
「あ、悪いな。」

 部屋に戻ってコートを箪笥に仕舞うと、晶子が早速茶を入れる。二人分の急須と湯のみ、そして和菓子が置いてある机の隣に、布団が並べて敷かれてある。夕食が終わってから直ぐにあの居酒屋に出かけたから、その間に敷かれたんだろう。布団の距離がないのは・・・気を利かせてのことか?
 俺と晶子は向かい合う形で座り、茶をすする。居酒屋で飲んだのはビール大ジョッキ1杯だけ。食べ物はそれなりに食べたが、「飲んだ」というレベルじゃない。俺自身アルコールに特別強い方じゃないが、あの程度なら浅めのほろ酔いで済む。入れたての茶を飲むと、冷えていた身体が内側から温められていく。

「・・・晶子。居酒屋で中座した電話の件なんだけど。」

 前置きした上で俺は事情を包み隠さず説明する。電話の主は、自分が連絡用に、と電話番号を教えた渉だったこと。渉から飲み会の席を揃って退席しても構わない、と言われたこと。渉が女4人組の主張で気分を害して退席し、俺も同じことを思っていたが我慢していたこと、など。

雨上がりの午後 第1883回

written by Moonstone

 人波を掻い潜るように、俺と晶子は界隈を抜ける。はぐれないように、離さないためにしっかり手を繋いで。どうにか一息吐けるところまで来て、改めて周囲を見る。賑わっている通りと静まり返っている通りが、空間的には隣接していても明らかに隔絶しているように思う。

2005/5/14

[今日は見送り]
 まだかまだか、と思って更新されたと思ったら何もなし、というのは私自身嫌ですが、適当に取り繕った状態で公開したくないので今日は見送ります。昨日(正確には一昨日)は早く就寝したのに寝付いたのは2時間後(枕元の目覚まし時計による)、しかも起きたのは1時間早いという有様で、結局寝不足のままです。帰省中落ち着いていた腰の具合もじくじくと重く痛むようになっていて、5月半ばで踏んだり蹴ったりです(泣)。
 さて・・・。昨日職場で部屋を行き来していて、ある時ピーピーと甲高い音が聞こえて来ました。警報機が鳴ってるのか、と思って音の方に近づいて行くと、そこには自分の携帯電話がありました。・・・はい、バッテリー切れです。液晶画面には「電池がない」ことを示すCGをでかでかと表示されていました。
 未だに自分の携帯電話の電話番号を憶えられないでいる上、時々充電を忘れてそのまま、というあまりにあまりな使い方をしています。普段は「猫の鈴」(携帯していない時点で問題だと思う)、時にデジカメの代用という位置づけですから、そうなるのも必然かもしれません。
「ああ。結婚は俺と晶子の合意の上でするもんだから、式は記念になるだろうからするけど、長々したスピーチとかを要求するつもりはない。式が済んだら俺も晶子も着替えて、立食パーティーでも出来るようなイメージを持ってる。」
「親に報告はするのか?」
「報告はする。だけど、承諾を求めはしない。耕次に言われたが、結婚は自分のためにするものであって、親のためにするもんじゃないからな。ましてや20歳超えて就職決めたら、一応けじめとしてこの人と結婚する、とは報告しに行くけど、それ以上のことはしないつもりだ。反対されようが勘当されようが、晶子と二人でやっていくつもりで居る。」
「そうか・・・。その心意気を忘れなきゃ、お前と晶子さんは二人の幸せを見出せる筈だ。他人が何と言おうが、自分達のライフスタイルを模索して、それを推し進めれば良い。」
「そのつもりだ。・・・じゃ、俺と晶子は先に宿に帰る。」
「そうか。金は宏一に出させる。宿でゆっくり過ごせ。俺は適当に飲み食いしながら、目の前の馬鹿騒ぎを眺めてる。結構楽しいんでな。」
「ああ。じゃあ、お先に。」
「お先に失礼します。」
「道中お気をつけて。」

 渉の見送りを受けて、俺と晶子は盛り上がる一方の席を尻目に店を出る。レジの従業員には、テーブル番号を告げてそいつらに金を請求してくれ、と言っておく。俺は晶子と一緒に外へ出る。細かい雪が静かに降っている。生憎傘は持ってないが、この程度なら宿に着いてから払えば良いだろう。
 通りは賑わっている。だが、その光景は日本家屋が軒を連ねる光景にはあまり似合わないと思う。まず、闇に滲む程度の建物と派手な看板とのギャップが目に付く。そして、若い数人の男のみか女のみのグループか、それら同士の混在。建物を別にすれば、1年の前期に智一と飲みに出かけた繁華街と殆ど変わらない光景だ。年齢層が違うくらいで。

雨上がりの午後 第1882回

written by Moonstone

「まあ、ファッションとかにはてんで無頓着で有名だった祐司は、晶子さんに結婚指輪填めさせたんだから、もう指輪の交換は必要ないだろう。俺がどうこう指図出来る立場じゃないことを前提にして言うが、式だけして気軽に食事、って流れが良いかもな。」

2005/5/13

[エスカレート]
 昨日付以上に虫の居所が悪い(悪くされた)上に捌け口もないので、帰宅してからもずっと嫌な気分です。その昔、酔った亭主が家族に暴力を振るう、なんてパターンがありましたが、そうしたくなる気持ちも分からなくもないです。もっとも今そんなことをしたら、女性団体とかからDV(ドメスティックバイオレンス)などと言われて逮捕されかねませんし、そうでなくても他人を不満の捌け口にして良いわけがありませんから、くすぶり続けるものを一人で抑え込むだけです。
 こういうのは精神衛生上絶対良くないことくらい分かっては居ますが、どうしようもありません。早めに寝ます。

「耕次から祐司に今回の旅行の電話をよこした時、面子との情報交換で知ったですけど、結婚指輪は晶子さんが、左手薬指に填めてくれって譲らなかったそうですね。」
「はい。祐司さんからプレゼントされることが分かった時点で、左手薬指に填めてもらおう、と思ったんです。」
「後は祐司からのプロポーズを受けて挙式して入籍、で、同居を本格化させる、ってところですか。」
「順序はどうなるかは分かりませんけど。」
「祐司。決める時は決めろよ。二次会とかでネタになるんだからな。」
「するな。」

 渉の宣告を拒否する。プロポーズは俺からするつもりだ。晶子もそれを望んでいる。だが、何処でするか、何時にするか、何て言うか、なんて全然纏まらない。同じ時間を俺と二人で過ごしたいという気持ちはあっても、イベントは必須とか、雰囲気はこうでないと嫌だとか、プレゼントはこういうものとか、晶子はそんなことを全然気にしない。それこそこの場で「結婚しよう」と言えば良いのかもしれない。
 だけど、やっぱり渉の言葉じゃないが、決める時は決めたい。バツ一の履歴欲しさに結婚するわけじゃないんだから、結婚の意志に加えて同居を始めたい、という意思表示をしっかりしたい。
 俺は、好きだとか愛してるとかいう言葉もそうだが、愛情を表現する言葉を軽々しく口にしたくない。決まり文句のように口にしていると、言葉の意味が軽くなってしまうような気がするからだ。だから、普段言わない、言えないようなことを面と向かって言いたい。・・・その時になったら、頭の中が真っ白になってしまいそうな気がしないでもないが。

雨上がりの午後 第1881回

written by Moonstone

 場における「住み分け」が、時を経てより鮮明になって来た。女4人と宏一、耕次は大盛り上がり、それに適度に順応しているのが勝平。俺と晶子はその盛り上がりとはほぼ完全に隔絶して、暫くして戻って来た渉とゆっくりしたペースで飲み食いしながら話をする。

2005/5/12

[英訳の仕方]
 このページの作品は原則日本語のみですが、一部日本語版/英語版があるものがあります。Side Story Group 1の「Dreaming」と「Passing Rain」がそうですが(これしかない(汗))、これを執筆した当時はインターネットの日英翻訳なんてものが殆どない状態でしたので、ぼちぼちと自力で翻訳しました。執筆状況が様変わりした今となっては、とても英語版作成には手が及びません。
 とは言え、本業でも英語に接する機会が多いということで(道具の1つだから必然的に使うだけ)、何気なしに「この表現は英語ではどうする?」と考えることがあります。例えばSide Story Group 1の「魂の降る里」の第101章における「惣流さんの出廷は不可能だ」。某翻訳ページを利用すると「Ms. Sohryu's appearing in court is impossible.」となります(流石に「惣流」の読みには対応してない(苦笑))。「出廷する」は「appear in court」に相当します。動名詞使用ですね。
 不可能、という表現で思い浮かびやすいのは「〜出来ない」の「can't」ということで、「Ms. Sohryu can't appear in court.」とも出来ます。この台詞が出て来るシーンは「不可能」ということを強調している雰囲気ですので、「It is impossible for Ms.Sohryu to appear in court.」とも出来ます。インターネット環境の向上で色々なことが手軽に出来るようになって隔世の感さえありますが(年寄り臭い)、それを利用するのはあくまで人間だ、ということを忘れたくはないものです。
「渉から電話がかかって来た時は丁度、・・・浅井だったかな。そいつが宏一の話の振りに答えようとしたところだったんだけど、俺も渉と同じようなことを考えてた。」
「晶子さんも言ってたが、所詮は価値観の問題だ。奴等にジェンダーフリーを基礎から教えようとしたところで場を損なうだけだし、奴等が聞く耳を持つとも思えない。奴等が晶子さんの回答をどう思おうが自由だ。だが、お前と別れろ、とまで、あろうことか本人の前で言って良い筈がない。」
「・・・この場だから言うけど、俺も、晶子にこんな男とは別れろ、って仄めかしたのと、晶子を負け犬とまで罵ったのには腹が立った。だけど、あの場で怒鳴りつけたら今度は逆に、女性の接し方がなってない、とか言うだろうし、場を壊してしまうと思って黙ってた。」
「賢明だな。だが、最初に戻るが、無理はしなくて良い。代金はあの場を作った宏一に持たせる。」
「・・・悪いな、渉。」

 我関せず、と言った様子で飲み食いしていて自分の回答だけ言った渉は、内側で相当葛藤していたんだな・・・。渉の言いたいことは分かる。場を壊さずに俺だけに伝えようと、偶然だろうが、連絡用に伝えておいた携帯の番号を使ったんだろう。気遣いがありがたい。

「あまり長引くと妙に思われるだろうから、この辺にしておく。俺は酔いが奴等の脳みそを染めた頃に戻る。」
「分かった。じゃあな。」
「ああ。」

 俺は通話を切って店に戻る。席は・・・大盛り上がりだ。女達は勿論、仕切り役の宏一と耕次、そして勝平も加わって賑やかだ。他の席もBGMが聞こえないほど盛り上がってるから迷惑にはならないだろう。そんな中、晶子だけがぽつんと居る。傍観者の立場に徹してるのか、俺のように、或いはそれ以上に内側の爆発を抑え込んでいるのか・・・。兎も角、俺は晶子の隣に座る。

「おー!マイブラザー祐司!お前、何処行ってたんだぁ?」
「弟から電話があってな。弟は年明け受験だから、俺の携帯の番号聞き出してるから、分からないことがあると俺を携帯で捕まえるんだ。」
「おー!何てこった!嫁さん捕まえたと思ったら弟に捕まったのかー!何て不憫な奴だ!うっうっ。」

 俺にしては上出来の嘘八百を大袈裟に受け止めた宏一の言葉で、その場が爆笑に包まれる。晶子を見ると、俺の視線に気付いたのか少し俺の方を向いて小さく頷く。・・・後できちんと説明するからな。

雨上がりの午後 第1880回

written by Moonstone

「愚痴めいたことを言うが・・・、さっきの晶子さんの答えに対する奴等の反応は、一見まともなようだが、実のところ自分達が快感を覚える、共感じゃなくて快感だが、ジェンダーフリーの上っ面だけを振り回している画一的なものだ。晶子さんが言ったとおり、家庭運営の方針は公序良俗に反するものじゃない限りどういう形があっても良い。だが、ジェンダーフリーの上っ面だけに快感を覚えて振り回してる奴等は、ジェンダーフリーの基本思想であるアンチジェンダー、言い換えるなら社会が押し付けた一律な性差に抗するものだ、ってことを知らない。気付かないと言った方が正確かもしれないが。何れにせよ、晶子さんに対して自分達はこんな輝かしい人生を設計してるんです、と言いたいんだろう。」

2005/5/11

[何か違う]
 現在急激な食欲減衰傾向真っ只中な上、昨日から虫の居所が悪いので、職場でも極力他人との接触を避けています。元々共同作業を要求されることが非常に少ないですし、今はある意味通常どおり個人で動いていますから、極端な話、居室が同じでも朝から晩まで誰とも口を利かないことも出来ますが故(挨拶を除く)。それが良いのか悪いのかは知りません。
 JR福知山線の事故を契機に、JRに対する苦情の他、JR職員に対する嫌がらせが相次いでいるようです。前にも触れましたが、あの事故は利益第一主義と見せしめ的懲罰に対する恐怖心や遅れを取り戻そうとした焦燥感が重なった人災ですし、日常の光景が突然最期の記憶になってしまったご遺族にしては怒りのぶつけどころさえ見出せないでしょう。JRの経営体質を批判し改めさせるのも必要です。役員に責任を取らせて懲戒免職にするのは当然です。
 ですが、JR職員に嫌がらせをして何になるんでしょうか?暴言をぶつけたり暴行をはたらいたりしてJRに制裁を下しているつもりなのでしょうか?所詮それは日頃の鬱憤をJRという叩きやすいものにぶつけて「悪しきJRに制裁を下した」と正義ぶっているだけではないでしょうか?「魂の降る里」を読み返してみるとそういったことがあまりにもダブっていて、なんともやりきれない気分です。私ですら不機嫌を人にぶつけないようにしているというのに・・・。
 俺はそう言って、一瞬晶子と目を合わせる。晶子は小さく頷く。・・・信じてくれてるんだな。勿論後できちんと説明するから、と心の中で断って、俺は席を立って外に出る。まだ人が大勢居るところで携帯を使うことが出来ないで居る。しんしんと降る雪が闇夜の光で照らされる中−灯りが派手だからあまり雰囲気は感じない−、俺はフックオフのボタンを押して耳に当てる。

「渉。待たせてすまない。祐司だ。」
「祐司が謝る必要はない。よく、俺の電話番号だって分かったな。」
「一応お前と同じく、数字は飽きるほど見てるからな。電話番号1つくらいならメモしなくても1日は覚えられる。・・・で、用件は何だ?」
「お前に言っておきたいことがあってな。」

 渉はひと呼吸置く。

「・・・無理はしなくて良い。」
「え?」
「俺が中座したのは気分が悪くなったからだ。念のため言っておくが、身体の方じゃない。」
「・・・一応分かるつもりだ。」

 渉は普段の会話でも冗談を言うタイプじゃない。渉が中座したタイミングと「気分が悪くなった」という渉の言葉を組み合わせれば、渉が中座した真の理由は俺でも想像出来る。

「どうせ今頃、女の方から自分のライフスタイルを語ってるところだろう。」
「そのとおり。話を振ったのは宏一だけどな。」

雨上がりの午後 第1879回

written by Moonstone

「悪い。俺も中座する。」

2005/5/10

[左右どっち?]
 何やら色々あったんですが、それは伏せます。キャプションは思想信条ではなくて、「利き○」のことです。例えば利き手は右手とかそういうものです。利き手が左という方は、何かと幼い頃不自由や不快感を感じられたのではないでしょうか。どういうわけか右に矯正しますからね。私は滅多に使いませんが、自動改札にしても右手で切符や定期券を受け取ることを前提にしている作りですし。
 かく言う私は、利き手は右です。ところが電話(固定・携帯共)は右手で持ちます。「普通じゃないか」と思われるかもしれませんが、利き手が右ならメモ書きのために利き手の右手を開ける、つまり左手で電話を持つところをそうせずに右手を使います。メモが必要になった時だけ左手に持ち替えます。うーん、ややこしい。そのくせ、切符や傘といった割と軽いものを持ったりドアノブを握ったりするのは左。自動改札を通るのが結構大変です。
 どうしてこんな「使い分け」になったのかは私自身分からないんですが、左利きに対する憧れみたいなものはあります。此処だけの話ですがNovels Group 1の「Saint Guardians」で後に本格的に登場する(今のところは名前だけ)セイント・ガーディアンの1人ルーシェル(女性)は左利きで武器も左手で使う、という設定です。スポーツなどでは左利きは重宝されるのに実生活では左利きが敬遠されるのは、何か矛盾するように思います。
「それって結局、言い訳じゃないですかぁ?」
「そう受け止められても、仕方ありません。これは価値観の問題ですから。」
「ジェンダー思想に基づく時代遅れの価値観へ逃避してますねぇ。ゼミでも先生がそう言ってたよね?」
「うん、言ってた言ってた。」「そうそう。」「こんな人も居るんだね。」

 今まで間延びしていた語尾が、身内への同意になると途端に切りが良くなって、しかも早口になる。ゼミの内容がどうなのかは知らないが、公序良俗が分からないのにジェンダー思想にはやたらと敏感なところは、宏一の読みからも薄々分かっていたとは言え、何だかな・・・。

「失礼。ちょっと中座する。」

 渉が席を立って、俺と晶子の前を素早く横切って出て行く。トイレか?高校時代の打ち上げとかでも、渉が中座したのはなかったように思うが、まあ、あっても不思議じゃないか。渉だって人間だし。

「家庭の話題が出たところで、女性陣から理想の家庭像なるものを窺ってみるとしますか!じゃあ今度は浅井さんからどうぞ!」
「えー?私ぃ?」

 言葉だけ聞くと戸惑っているようだが、その表情は「聞いてくれてありがとう」と言っている。宏一の煽り方の上手さもあるんだろうが、さっきの晶子の答えを受けて、「自分達は人生前向きに生きてます」と言いたいんだろう。そのくらいの予想は出来る。
 携帯のコール音が鳴り始める。自己主張を始めようとした浅井をはじめとする女4人組は勿論、面子と晶子の視線が俺に集中する。店に薄く流れるアップテンポのBGMと周囲の喧騒に微かに浮かぶのは、紛れもなく携帯のコール音。で、鳴らしているのは、俺のシャツの胸ポケットにある携帯。
 ワンコールだけしか鳴らない、所謂「ワン切り」はごく偶にある。アドレス帳に登録している電話番号は、晶子の携帯と自宅、店−マスターと潤子さんの自宅でもある−、念のため俺の実家。これだけの筈。だが、携帯のコール音は続く。携帯を広げて電話番号を見る。・・・これは確か、渉のもの。

雨上がりの午後 第1878回

written by Moonstone

「こうじょりょうぞく・・・。難しい言葉使いますねぇ。要するに、自分達のやることに口出しするな、ってことですかぁ?」
「端的に言えば、そうです。」

2005/5/9

[写真吸い取り]
 念のため言っておきますが、怪しい写真を何処ぞのエロページから吸い取ることではありません。連休で帰省している間、春の花の写真を結構撮影したんですが、迂闊にもデジカメの充電を忘れていてその時使えず、携帯電話のカメラ機能を使って撮影しました。その写真をPCに吸い取る、ということです。
 昨日は「母の日」で、急の買い物に出かけた店では、カーネーションが花壇のように数多く陳列されて、当然人だかりも凄かったです。ちなみに私は今年の「母の日」に何もしていません。何せ当人が宝石類、しかも高級なものでないと(宝石ならダイヤ、貴金属なら金かプラチナ)嫌、などとのまたうので、来年プレゼントする約束をしました(^^;)。ダイヤなんて成分は鉛筆の芯と同じですし、ルビーや金やプラチナは職場じゃ何も珍しくないので(量や宝飾品として使えるかどうかは別として)、その辺の感覚が分からないんですよね・・・。
 ダイヤの成分が鉛筆の芯と同じ、っていうのは高校の化学あたりで習うと思いますが、ダイヤは切削や研磨の工具に、ルビーはレーザーに、金は回路基板のコネクタピンとかに、プラチナは触媒として、特に金はリスナーの皆様がお使いのPCの中身にも結構使われています。そういうこともあって、部品や材料っていう感覚はあっても貴金属っていう感覚が沸かない・・・。そんなのでよく恋愛もの書けるな、と思われるかもしれませんが、その辺は切り替えっていうんでしょうか。そういうもので対応しています。

「えっとぉ。私はぁ、IT関連企業を目指してまぁす。」
「私はぁ、Webデザイナーを目指してますぅ。」
「私はですねぇ、TVのアナウンサーを目指してまぁす。」
「私はぁ、IT企業を目指してまぁす。」

 ありがちと言えばありがちな職種が並んだ。どれも今流行の−変な言い方だが−企業や職種だからな。

「そう言えばぁ、えっと・・・、安藤さんの奥さん。」
「井上晶子です。」
「晶子さんが目指す職業は何ですかぁ?」
「私は夫の祐司さんに合わせた職業を考えています。企業や官公庁に就職するなら祐司さんの転勤に即対応出来るように、ミュージシャンになるならいきなりメジャーデビュー出来るのはごく限られていますから、二人で生活出来る収入を確保出来るように、といった具合です。」
「えー、それって主体性がないじゃないですかぁ。」
「ジェンダー思想そのままですねぇ。」
「今は女性が社会の主役になるべき時代ですよぉ?夫に合わせるなんて、負け犬人生そのものじゃないですかぁ。」
「内助の功を目指すんだったら、家庭に専念出来るような男性を探した方が良いんじゃないですかぁ?」

 ・・・ちょっと待て。前半はまだしも後半は何だ?俺と結婚することが間違いだ、と言うどころか、見切りをつけて別れろ、と言ってるようなもんじゃないか?何で今日が初対面のこいつらにそこまで言われなきゃならないんだ?くそ・・・。かと言ってこんな場で怒鳴りつけようものならこいつらのことだ、今度は、女性に接する態度じゃない、とでも言うだろうしな・・・。ここは堪えるしかないか・・・。

「祐司さんと私に限ったことではありませんが、家庭運営の方針は、公序良俗に反するものでない範囲であればどのような形があっても良い筈です。ジェンダーを一律に押し付けるのが問題なのは言うまでもありませんが、そのアンチテーゼであるジェンダーフリーを一律に適用するのも問題だと思います。その人や家庭には、それぞれの幸せの形があるものです。」

雨上がりの午後 第1877回

written by Moonstone

 本当に、こういう時の仕切りは上手いな、宏一の奴。安心出来ると言って良いものかどうかは、とりあえず置いておいて。

2005/5/8

[こういうのも自滅と言うのか?]
 昨日自宅に戻って来ました。早速途中だったメールのお返事の続き(1通書くのに軽く1時間以上かかる手紙下手)と連載の増量を開始しました。現在受け取っている「まともな」メール(こちらで迷惑メールと判断されない内容、とう意味です)には、ある程度纏まった時点で一斉にお返事を発送します。「私のだけ遅い!」とか言うクレームを防ぐためですので、ご了承願います。
 昨日付で文芸関係7グループの揃い踏みを実現したのは良いんですが、Noves Group 1とNovels Group 2が深みに嵌り込んだな、というのが公開後の自己評価。勿論考えて書いてはいますが、特にNovels Group 1は、ね・・・(汗)。こんなの出版したら大赤字だな、と思います。用語解説と照らし合わせながら読むファンタジー小説ってどうよ、と自分に突っ込みを入れています。うー、今年公開分くらいで収拾付けられれば良いんですけど(汗)。
 唐突に出版の話が出ましたが、コミケに出展するとか自費出版するとかいう予定は少なくとも今の段階ではまったくありません。連載読者の方でも恐らく一部しかお分かりいただけないであろうネタを何処かに差し込んだので・・・。こういうことが出来るのもオリジナルもあれば二次創作もある、恋愛もあればファンタジーもある、というごちゃ混ぜのこのページならではかもしれませんが。

「じゃあ、次は耕次。」
「俺は公務員試験の準備の一方で、司法書士と司法試験の合格を目指してる。将来的には法律関係の資格で独立開業したいって考えてる。」
「えー!司法試験ってことは将来は弁護士さんですかぁ?」

 堀江をはじめ相手方4人の目の輝きが増す。こいつらの頭の中では「司法試験合格=弁護士=高収入」っていう公式があるんだろう。その候補生が居るとなれば、触手が動く筈だ。

「まあ、今のところ想定してるのは弁護士だけど、資格取ったからって即開業出来るほど甘くないからね。何処かの法律事務所に勤務して実務経験積むつもりだよ。」
「でも、凄いですねぇ。将来は弁護士なんて。」
「まだ試験の準備中だから、決まったわけじゃないって。」

 耕次は堀江の押しを軽くいなす。

「俺は経営コンサルタント志望。いろんな企業が乱立する今は、的確な経営アドバイスが出来る専門家が必要だからね。俺も耕次と同様、他の事務所で実務経験を積んでから独立するつもりなんだ。」
「皆さん、将来有望ですねぇ。」

 堀江が感嘆した声で言う。俺は兎も角、研究職、社長、弁護士、経営コンサルタントといった輝かしい職種−候補の段階だが−が出揃ったことで、これを逃す手はない、といった表情だ。現金な奴らだ。宏一の性格把握は的確だが、何か嫌な気分だ。結局将来安泰で優雅な生活を保障してくれそうな男を捕まえて結婚、という都合の良い青写真を描いているに過ぎない。・・・勝手なもんだ。

「じゃあ、対する女性陣の将来像を聞いてみましょうか。男性陣と同じく、自己紹介とは逆順で石原さんからどうぞ!」

雨上がりの午後 第1876回

written by Moonstone

 目を輝かせた堀江に、勝平はさりげなく条件を提示する。「社長夫人」の椅子でのんびり優雅に過ごす、なんて考えは通用しない、ってことを暗示しているようだ。

2005/5/7

[今日、帰還(予定)]
 ふー、どうにかこうにか、今年初の(みっともないなー)文芸部門7グループ揃い踏みを実現しました。最も梃子摺ったのはNovels Group 2です。「噂の人」を書きたかったのですがどうにも構想が纏まらず、ギリギリで「TV健康ライフ」続行を決断して執筆しました。Novels Group 2は創設以来の歴史があって、作品数とキツイ内容にもかかわらず、かなりのご来場者数を誇っています。私としても更新に力を入れたいのですが、なかなか・・・。
 これでどうにか、1週間作品制作につぎ込んだ成果は出せた、と思います。今後の反動が不安ではありますが(こら)、これ以降も続けていきたいと思います。で、今日の夕方自宅に帰還する予定です。これで迷惑メールの受信に苛立つこともなくなるでしょう。
 今日付の更新内容はシリアスあり、推理もの(何か違う)あり、ギャグあり、恋愛あり、ともう何でもありです。この土日がお休みの方は勿論、これまで特定のグループしか見たことがない方も、是非ごゆるりとご鑑賞ください。
 控えめに言っておく。元々俺はこんなことが出来るんだ、と誇示するタイプじゃないし、質問の答えにはなってるからこれで良いだろう。

「じゃあ次は渉!」
「・・・あ、俺か。」

 会話に加わらずにマイペースで飲食を続けていた渉は、飲食の手を休める。

「俺は大学院に進学して、企業の研究職を考えてる。もっとも今は企業の研究所が縮小傾向にあるから、公的機関の研究所の研究職も視野に入れてる。」
「泉州大学の理学部っていったら、凄いじゃないですか。将来は高額の特許を得られるんじゃないですかぁ?」
「企業にしろ公的機関にせよ、無数の研究開発の中で脚光を浴びるのはほんの一握り。大学のネームバリューで決まるほど甘い世界じゃない。」

 堀江の称賛を、渉は素っ気無く断じる。相手が高額の特許を持ち出してきたことに対する牽制を兼ねた皮肉だろう。成功して脚光を浴びるのはほんの一握り。都合の良いところだけを期待するな、と言いたいんだろう。

「じゃあ、次は勝平。」
「俺は大学を出て一般企業、機械関係の製造メーカーで10年ほど実務経験を積んでから、父親が経営してる工場の後継者になることになってる。」
「えー!それじゃ、将来は社長さんですかぁ?」
「経営感覚を身に着けるまでは父親の指導を受けないといけないだろうけど、父親の後を継ぐことを見越して今の大学と学部を選択したんだ。」
「じゃあ、社長夫人が欲しいところじゃないですかぁ?」
「まあ、簿記2級程度の資格は持っていて欲しいね。母親は経理担当だけど、大抵の事務関係の資格は持ってるし。」

雨上がりの午後 第1875回

written by Moonstone

「それのオープニングに使われてる曲を作曲して演奏してるのが、T-SQUARE(註:タイトルは「TRUTH」(同名のアルバムなどに収録)。現在はアレンジ版が使用されています)。」
「へえー。じゃあ、ギターは上手いんですねぇ?」
「まあ、毎日やってるから、そこそこはね。」

2005/5/6

[JR事故でマスコミを見る]
 今まで此処では触れなかったのですが、JR福知山線の事故は知っています。死者が100人を超えるという、電車そのものが原因となった(踏切事故など往来妨害に相当するものでない、という意味)事故としては稀に見る大惨事ですから、完全にマスコミ情報から隔絶しては居ないので必然的に目にする機会はあるわけです。事故の原因究明は今後の検証を待たないといけませんし、JRの対応の拙さはあえて言いません。犠牲者の遺族の方々にしてみれば、普段どおりの日常が突然最期の記憶になったわけですからそのショックは計り知れないものでしょうし、「自動車より安全で省エネにもなる」などと謳った公共交通機関にあるまじき事故や、それを起こしたJRの対応に対する怒りはそう簡単には消せないでしょうから。
 これまでに、「安全より儲け」というまさに利益第一主義がまかり通っていたことや、運転技術が未熟な運転士の技術向上とはまったく無関係な見せしめ的懲罰があったことなどが報道されています。で、マスコミはそれらをけしからんことだ、と批判しています。改めて言うまでもないでしょうが、利益第一主義や見せしめ的懲罰などは論外です。経営に責任を負う役員には、事故対策や補償を完全にさせてから懲戒免職にすべきです。
 しかし・・・、過密労働や労働者に対する見せしめなどの嫌がらせといったものの根本には、極力少ない人員で極力多くの利益を、という利益第一主義があり、それをマスコミ自身が「リストラ」という美名で煽り立てさえして、その「リストラ」の結果大儲けした名だたる大企業を「史上最高益更新」などともてはやしさえして来たという事実。先に挙げた労働者の犠牲を、こういった事故が起こるまでマスコミは悉く黙殺して来たという事実。この構図は、三菱製大型自動車の事件と何ら変わりません。結局マスコミは、自分が表立って攻撃出来る側に立てる時に勇ましくなっているに過ぎないのです。「リストラ」「コスト削減」を政府財界と一緒になって散々煽り立てておいて、こういう時になってそれらがけしからん、と正義面するな。・・・私はマスコミへの怒りを新たにしています。

「凄いですねぇー。バンド活動しながら成績優秀だなんてー。皆さん、女の子からも人気あったんじゃないですかぁ?」
「まあ、そこそこあったね。バレンタインデーには結構チョコ貰ったよ。ま、何処までが義理で何処からが本命かの区別は出来なかったけど。」

 えっと・・・大野だったか?そいつの問いに耕次が答える。此処までの段階で、会話に積極的なのは耕次と宏一。程々なのが勝平。補足程度なのが俺。渉は我関せず、と言った様子でジョッキを傾け、運ばれて来た料理を摘んでいる。渉は元々口数が少ないから、聞き役に徹しているんだろう。

「皆さんはぁ、将来何になるんですか?」

 えっと・・・堀江だったか?そいつが聞いて来る。自己紹介の順で質問や会話が始まるのは、何かの偶然だろうか?それは別としても、堀江の質問で相手方4人全員の目が輝く。男5人が全員有名どころの大学生ということで、興味が高まってるんだろう。宏一が「落とすにはもってこいのタイプ」と言ったのが頷ける。

「答えるのが俺からばっかり、ってのもワンパターンだから、今度は逆順で行ってみようか。祐司。お前からどうぞ!」

 俺は思わず口に含んだビールを噴出しそうになる。いきなり話を振るなよな・・・。まあ、流れを壊さないためにも、宏一の言うとおりにするか。しかし、よりによって俺が今最も悩んでることを最初に言え、ってのはな・・・。まあ、思いつくことを言っておくか。

「俺はレコード会社とか、音楽に関係する企業への就職を希望してる。あと、今のバイトの関係で音楽を演奏してる関係もあって、ミュージシャンになりたい、とも思ってる。だから今は・・・迷ってる段階だな。」
「バイトで音楽やってる、ってどういうことですかぁ?」
「基本は喫茶店で注文を聞いたり出来た料理を運んだりすることなんだけど、その合間とか、営業時間の終わりの方で客から抽選でリクエストされた曲を演奏することも含まれるんだ。」
「えー、何々?じゃあぁ、今でもギター弾いてるんですかぁ?」
「毎日弾いてる。今日は旅行ってことで持って来てないけど。」
「どんな曲弾けるんですかぁ?」
「俺は歌わないから、インストルメンタルが主だな。T-SQUAREが殆どで最近CASIOPEAも加え始めた。アレンジを含めると、倉木麻衣も入る。」
「T-SQUARE?CASIOPEA?・・・聞いたことないですぅ。」

 それまで目を輝かせて質問をぶつけて来た堀江をはじめ、相手方4人が首を傾げる。知らないだろうな。番組のBGMに使われていることはあっても、その曲名やミュージシャンの名前は殆ど前面に出て来ないから。かく言う俺自身、店でバイトを始めるまではその方面は未開拓分野だったんだが。

「えっと、F1の中継番組見たことある?」
「F1ですかぁ?・・・あ、ちょっとなら見たことありますぅ。」

雨上がりの午後 第1874回

written by Moonstone

 活動のエピソードが耕次と宏一をメインにして幾つか語られる。文化祭では1年目からメインの座に座り、ほぼ全校生徒を集めたライブが大盛り上がりになったこと。バンド活動をしていることを特に生活指導の教師に突っ込まれるわけには行かない、ということで、全員で成績向上にも力を入れたこと。合宿と称して学校に泊り込み、飯盒炊爨(はんごうすいさん)をやったりして、その煙が近隣の住民に火事と間違えられたが、懇意にしてくれていた用務員さんが上手く誤魔化してくれたこと。2年になった頃には成績優秀者が揃う「頭脳派バンド」として校内では有名になったこと。・・・聞いていて懐かしい思い出が語られる。

2005/5/5

[うー、疲れる]
 着々と新作が出揃っています。その代わり、1作で体力を使い果たしてしまっています(汗)。1日2作品、とは思うようにいかないものです。ほぼ全作書き下ろしにする予定です(1グループはご厚意に甘えて投稿作品を再掲載の予定)。1回の更新のために一月前から準備しているものを1週間に集約出来るのは嬉しいのか辛いのか、よく分かりません(汗)。
 連載は冬の温泉宿の一幕を描いているのですが、実際にある観光地がイメージになっています。旅行好きな方は、途中に出て来たアイテムなどで「あ、此処かな」と思われたのではないでしょうか(ネタばれはSTARDANCEの方へお願いします。念のため)。
 勿論イメージですから、そのままではありません。建物が日本家屋で中身が今風の居酒屋というのはその典型です。町並みを残すという動きそのものは、全国で地道に続けられていますから、それを反映しています。私は雪が嫌い(寒さが嫌い)なのでこういう場所には行けませんが、イメージを膨らませることは出来ますので。

「へえー。バンドやってたんですかぁ。なのに皆さん、凄い大学ばっかりですねぇ。有数の進学校だったんでしょう?なのによく続けられましたねぇ。」
「一応県下では一二を争う進学校だったね。勉強と試験だけに追われるのも味気ない、と思って、俺が同じ中学卒だった宏一と渉を誘ってまず結成。で、ギターが必要だってことで祐司を引き込んで、直後に勝平も加入して活動を始めたんだ。」

 えっと・・・石原だったか?まだ名前と顔がいまいち一致しないんだが、そいつの問いに耕次が答える。バンド結成に最も奔走したのは耕次だ。まず正反対の性格とも言える渉と宏一を引き込み、続いてギターが必要、ってことで人伝に俺が中学からギターをしていたことを聞きつけて、耕次が熱く加入を訴えてきた。根負けした格好で俺が加わり、その直後話を聞きつけた勝平が加わり、バンド結成と相成った。
 耕次と宏一が中心になって、バンド活動のエピソードを語る。方針としてオリジナル曲のロックバンドにしようと決めたこと。作詞を耕次、作曲を俺と勝平が担当すること。初回の視聴覚室でのライブでは、事前に同学年の全てのクラスに案内のチラシをばら撒いて、30人ほど集まった客の前で初演奏をして、最初はいまいちだった客の盛り上がりも耕次の煽りと全員の演奏で結果的に大成功に終わったこと。それを契機に口コミで広がり、客がどんどん増えて、とうとう体育館を会場にしてライブを決行したこと。そこに「風紀を乱す」とか難癖をつけて乗り込んで来た生活指導の教師との応酬になったこと。
 曲作りのエピソードには、俺と勝平も加わる。バンドの演奏技術向上のために、あえてテクニックを要する曲を作って、専ら演奏する耕次や宏一が度々文句を言ったこと。それでも、バンド全体のレベルアップのためという共通の目標で関門を乗り越えていったこと。

雨上がりの午後 第1873回

written by Moonstone

 宏一の隣に居る浅井という女の問いに、宏一から順に答える。

2005/5/4

[ギリギリ(汗)]
 TOP最上段にリンクを貼ってある企画に参加を表明しておきながら、今の今までずれ込んでしまいました。私は本文を書いてからタイトルを決めるタイプなので、ある意味長編作品の新作より梃子摺りました。まあ、これをお聞きいただける頃には見られると思いますので、是非一度ご覧くださいませ。
 新作は着々と揃って来ています。このまま順調に進めば、恐らく今年初の文芸関係グループ揃い踏みが実現出来るでしょう。7に増えたのでこういう余裕がある時でないと尚更難しいんですよね。新作は長短編問わずそれなりに時間がかかりますし、校正も含めると、それこそギリギリまでもつれ込むこともあります(それでも公開後に誤字脱字が発覚することもある)。
 新作のラインナップに目処がついたら、メールのお返事を早急に始めます。連休中にもかかわらず、多くのアクセスをいただいているのでとても嬉しいです。「待っただけの甲斐はあった」と思っていただける作品を1つでも多く用意いたしますので、もう暫くお待ちください。
 ・・・出て来た言葉は失望と言うか軽視と言うか、そんな類のものだ。自分達が填めている指輪と同様、豆粒程度でも宝石が付いていることを期待していたらしい。お前らにくれてやるわけじゃないからどうだって良いだろ、と思いつつ、俺は手を引っ込める。晶子も「批評」を受けて手を引っ込める。

「それでは引き続き、美女4人の自己紹介をお願いいたします!」

 宏一が話を切り替える。こういった場繋ぎも上手い。変な言い方だが、女の扱いに慣れている宏一らしい。

「私達はぁ、毎日学院大学の人間科学部2年の4人組でーす。順にぃ。浅井紫積美。」
「大野朱美でぇす。」
「堀江有希でぇす。」
「石原恵理子でぇす。同じゼミに居まーす。」

 人間科学部ってことは・・・晶子と同じ文系学部か。で、同じゼミ。晶子もゼミに所属しているが、同じゼミの奴と一緒に居るのは大学に居る時だけだから、その辺りが違うな。善い悪いの問題じゃなくて。

「皆さんは、どういう関係なんですかぁ?」
「高校時代のバンド仲間なんだ。俺はドラム。」
「俺はヴォーカル。リーダーと言うか、言いだしっぺなんだ。あと、作詞。」
「俺はキーボードと作曲をやってた。」
「俺はベース。」
「俺はギターと作曲をやってた。」

雨上がりの午後 第1872回

written by Moonstone

 宏一の説明に続く耕次の促しで、俺と晶子は左手を差し出す。2つの手の同じ位置に輝く指輪を、女4人組は興味深そうに眺める。

「宝石はないんだぁ。」
「ダイヤぐらいあっても良さそうなのにねぇ。」

2005/5/3

[憲法記念日にあたって(声明)]
 今日は憲法記念日です。明日付の商業新聞各紙では護憲派改憲派それぞれの集会や催し物などが報道されるでしょう。それらは商業新聞各紙が例年行っていることですから、今更此処で後追いするまでもありません。言えることを言っておきます。
 改憲派に限らず「時代に応じて今の憲法を見直すべき」「時代の要請に応じた条文を」といった「論憲」「加憲」の声はあります。プライバシー権や環境権といったことが該当します。しかし、プライバシー権は「通信の秘密はこれを侵してはならない」という条文、環境権は「全ての国民は健康的で文化的な最低限度の生活」という条文に代表される、現憲法に明記されている基本的人権の尊重を実現することで自ずと実現されることではないでしょうか。「時代に応じて」「時代の要請に応じて」という前に、現憲法の条文を全て読んでみるべきではないでしょうか。それらの言葉が単に目まぐるしく変わる、否、変えられる現実に追従するものになっていないか、今一度見直してみるべきではないでしょうか。改憲派はプライバシー権や環境権など、目新しそうなものをちらつかせて護憲派を取り込み、最大の目的である9条変更をドサクサ紛れに達成しようとしているのです。プライバシー権を踏み躙っているのが週刊誌や大衆紙をはじめとするマスコミ自身であり、環境権を侵害しているのが儲け第一主義で労働者の生活も健康をも無視して突っ走る大企業、そしてそれらの傘下にあるマスコミだということ、そのマスコミが憲法「改正」を声高に主張していること、そして「国家」「権利より義務」をいう改憲派やマスコミがいざ戦争となった時には自らは日の丸を掲げて銃を持って戦場に赴かず安全地帯で煽るだけという事実を直視すべきではないでしょうか。
 60年前の戦争で内外に多くの犠牲者を出しました。昨今の事例を見ても「自衛」を掲げた戦争は先制攻撃且つ侵略行為に他ならないことは明らかです。二度の世界大戦をはじめとする痛苦の教訓の上に、「先制攻撃の禁止」「対等平等の多国間外交」を柱に据えた国連憲章が成立したのであり、現憲法は前文にあるようにその先駆けとも言えるものです。東京都などのように教育委員会と行政が一体になって内心の自由を侵害する事例が後を絶たない今、現在の政治が現憲法が掲げる理想に近づけようとするものかどうか、今一度考え直すべきではないでしょうか。ナチスも天皇制政府も、共産主義者の弾圧から始めて、やがてマスコミを動員して自由主義者や宗教者に弾圧の手を広げ、そして国民全体へと支配の手を広げたという事実があります。一般国民が気付いた時にはもう手遅れなのです。歴史を学ぶことは年号を憶えることではないのです。この日を、現在空気のように慣れ親しんでいる自由や権利の背景にあるものを見詰め、考え直す機会にすることを、一国民として皆様に呼びかけます。

「よーし!それじゃ、白銀の郷での出会いを祝して乾杯と参りましょうか!」

 宏一が陽気に音頭を取る。こういう時の仕切りは専ら宏一の役目。全員がジョッキを手に取って掲げる。

「かんぱーい!」

 全員のジョッキがテーブルの中央で軽くぶつかり合う。そして近くの人と軽くジョッキを合わせる。端に居る俺は晶子と渉だけに留める。

「さあ、どんどん頼んじゃって!」

 やっぱり仕切るのは宏一。女の方がこれは太りそう、とか言いながら迷っていると、すかさず宏一が、手始めにこういうのからすると良いよ、とか「助言」してから、従業員を呼んで自分が勧めた野菜サラダやもずく、焼き鳥の盛り合わせなどの他に、「定番」とも言える唐揚げやポテトフライなどを注文する。

「じゃあ、料理が来るまで自己紹介と参りましょうか。まずは男サイドからということで。」

 宏一は沈黙の時間を作らない。やっぱり慣れてるな・・・。

「俺は則竹宏一。市ヶ谷大学の経済学部3年。よろしく!んじゃ、次。」
「俺は本田耕次。日本中央大学の法学部3年。よろしく。」
「俺は和泉勝平。大嶽工科大学の工学部3年。よろしく。」
「俺は須藤渉。泉州大学理学部3年。よろしく。」
「俺は安藤祐司。新京大学の工学部3年。よろしく。」
「私は井上晶子。新京大学の文学部3年生です。どうぞよろしくお願いします。」

 市ヶ谷大学は経済、経営分野で「御三家」と称される有名どころの1つ。日本中央大学は毎年の司法試験合格者で在学・出身者が常に上位3位に入る法律関係の大御所。大嶽工科大学は工学部だけの大学だが、製造メーカーへの就職率は全国有数。泉州大学はどの学部もトップレベルの総合大学。そして俺と晶子が通う新京大学も全国的に有名な大学の1つ。少なくとも大学の知名度や偏差値のレベルでは、知らないものは居ない大学だ。全員の自己紹介が終わった段階で、女4人組の目が俄かに輝きを増したのは気のせいではないだろう。

「へえー、凄ーい!有名どころばっかじゃーん!」
「全員現役合格なんですかー?」
「イエース、イエース。」

 宏一が答える。正確には晶子は1年違うんだが、この場でなくても暴露する性質のものじゃないから黙っておく。女4人組の目が更に輝きを増す。宏一の読みは正解だったようだ。

「先に断っておくけど、こっち側に居る安藤祐司は皆さんの対象外ということで1つよろしく。こいつだけ彼女、じゃなくて嫁さん持ちなんで。」
「えー?学生結婚ってやつぅ?」
「そうそう。隣の井上さんが嫁さん。だからこっち側に居るわけ。」
「どうして結婚してるのに苗字違うのー?」
「入籍がまだなんだ。大学進学と一人暮らしで知り合った関係で、それぞれ家があるから。でもしっかり結婚指輪填めてるし、今は半同居中。」
「お二人さん、見せてあげて。」

雨上がりの午後 第1871回

written by Moonstone

 宏一が言ったとおり、待ち合わせ時間に遅れること約10分。宏一が引っ掛けた女子大生4人組が席に着いた。髪はショートからウェーブがかかったロングまで色々。服装も色々。主な共通項は、宏一が言っていたとおり客観的に見て「美人」だということ、ピアスやら指輪やらを2つ以上は身に着けていること、何処か常に男を品定めしているような様子だということ。なるほど、宏一が「今時のタイプの一極」と言っていたわけが分かる。ちなみに全員にビール大ジョッキがある。晶子も同調した時には、注文した宏一と相手の4人組が意外そうな顔をした。

2005/5/2

[雨降りの日曜日]
 こちらは昨日朝から雨で、今も降っています。それまで「もう夏到来か?」と思わせるような陽気だったのが一転して涼しくなったせいもあってか、身体の具合がどうもすっきりしません。寝不足というのもあるんでしょうけど。
 今は帰省中のため、巡回先をかなり限定しています。実家には光ファイバーは勿論ADSLなんて大層なものはありませんので、メールを吸い上げて更新しておしまい、というのが基本パターンです。改めてダイアルアップで確認すると、ページの軽さ重さがかなりはっきりします。マスコミのぺーじなんてとても見られません。FLASHやらで見た目を派手にする見返りに肥大化しているからでしょう。
 メールのお返事が遅れています。3月あたりは1通もまともなメールが来なかったのですが(迷惑メールやらスパムやらは嫌と言うほど来てます)、4月後半から少しずつ届いています。長い間メールを削除することばかりだったもので返信の仕方がいまいち・・・。もう暫くお待ちください。
 夕食が済んだ後早速宿を出て、俺達は宏一が手配したという「鉢郷」なる店に向かう。昼間町を観光した俺と晶子も店の名前は場所は全然知らないから、宏一に任せるしかない。先頭に立つ宏一は、昼間俺と晶子が歩いた大通りをひたすら真っ直ぐ突き進み、途中、右手に折れる。こちらも大通りだが風景がこれまでと違う。建物こそ他と調和させるためか伝統的な日本家屋だが、看板とかは人目を引くようなものばかりだ。
 看板を見ると、居酒屋やスナック、バーの類ばかりだ。どうやらこの界隈が、昼間出会った子ども達が言っていた「若いのが夜遊ぶ」場所なんだろう。通りを歩く人の年代も、見た限り俺達と同じ年代が多くて、中年代の男性の塊が若干混じっているくらいだ。
 宏一はその通りを少し歩いて、一際大きな日本家屋に入る。看板には「鉢郷」とある。中に入ると、名前や外装と内装のギャップが目立つ。内装は明らかに若者を対象にしたと考えられるもので、「小粋な店内でくいっとお猪口(ちょこ)を傾ける」という温泉宿のイメージとは大きな隔たりがある。BGMも今流行っているような曲で、此処にも若者向けという目的が垣間見える。
 宏一が出迎えた店員に自分の名前と人数を言うと、店員が先頭になって案内する。席は店のほぼ中心部にある、4辺のうち3辺を仕切り壁を背後にした大きめのもので、俺達はそこに座る。最深部に宏一、そこから右方向に耕次、勝平、渉、晶子、俺という順番だ。宏一が仕切り役だから、中心部に居るのが望ましい。

「相手はまだ・・・か。」
「こういう時、女の方の10分や20分の遅れは当然だぜ?」
「確かに・・・。」

 耕次のぼやきに宏一が答える。どうやら宏一は相手の行動パターンも把握しているらしい。引っ掛ける際に相手の受け答えの内容から読み取ったんだろう。この辺は抜かりない。宏一の得意分野だからな。もっとも宏一のそれはナンパの時しか働かなくて、普段の洞察力は耕次が圧倒的に強い。耕次曰く「相手の心理を読むのも法律家の技術の1つ」らしい。癖のある面子を3年間束ね、ヴォーカル兼リーダーとしてコンサートを大いに盛り上げたのも、そういった耕次のなせる技だ。

雨上がりの午後 第1870回

written by Moonstone

 耕次の推測に、渉が同調する。先の宏一の話からも、宏一が引っ掛けた女子大生は、寄生に手頃な男を見つけて将来安泰且つ優雅に過ごすことを目論んでいるタイプだと分かっている。そうなると、晶子とはかなりギャップが生じる可能性がある。だがらって、晶子にシフトされるわけには行かないんだが。

2005/5/1

[メーデーにあたって(声明)]
 TOP最上段にも記載しましたとおり、今日5/1は労働者の祭典メーデーです。「メーデーは共産党の祝賀行事」などというデマも一部にはありますが、それは日本における左翼勢力や労働運動の拡大を嫌う、財界やアメリカをはじめとする日本の支配勢力が事実を歪めたものです。メーデーの原点は旧ソ連でもキューバ(アメリカはキューバを敵視しています)でもなくて、実はアメリカの労働運動です。
 現在、日本の労働者の諸権利はじわじわと侵食され、「先祖帰り」の道を進んでいます。昨日までTOP最上段に掲載していた古田敦也選手へのお祝いメッセージでも言及していたとおり、球団という企業を私物化した雇用者の一方的な行為に対して「1年の凍結を」と訴え、ファンとも連携したその動きを完全に無視した雇用者側に対抗して労働組合でストライキ決行を議決・遂行したことは、長年にわたる労働運動で勝ち取られた労働者の正当な権利です。しかし日本ではマスコミがごく少数の系列会社で支配され、政府財界の意向を受けて労働運動を軽視・敵視さえしています。正社員として就職出来ず派遣・パートなど不安定な雇用条件を強いられる若年層が増え続け、正社員がどんどん派遣・パートに置き換えられ、労働者は「成果主義」などの名目で長時間過密労働を強いられ、過労による労災認定も激増しています。
 消費者や労働者より儲けを優先させる利益第一主義がまかり通る一方、マスコミの労働運動敵視報道や政府財界による反動構成の影響で、年々労働者の組織率は低下し、労働者は分断され、労働組合も大企業を中心に雇用者の主張を組合員に押し付けるだけの労働貴族化が進行しています。そのような腑抜けた労働組合が選挙で支持を強要する政党が、労働者への圧迫に対抗するどころか、企業からの献金欲しさに右派与党と同じ内容の政策を掲げる「二大政党」という甘い現実に誤魔化されてはいけません。今こそ労働者は団結し、戦うべきです。権利は与えられるものではなく、勝ち取るものです

万国の労働者よ、団結せよ!社会の主役は労働者だ!
憲法改悪、庶民増税を許すな!労働者は赤旗の下に集おう!

「では改めて私からも。私は井上晶子。文学部に在籍しています。どうぞよろしくお願いします。」
「あ、どうも、こちらこそ。」

 夕食前に、遅刻と他の面子を無視した言動に関して晶子に説教を食らったことが影響しているのか、宏一は随分低姿勢だ。俺が知る限り、女に対して宏一がこんな態度を見せるのは初めてだ。流石の宏一も、まさかあの場で、しかも今日が初対面の晶子に説教されるとは思わなかったんだろう。

「何だ宏一。お前らしくない低姿勢だな。」
「いや、ちょっとな・・・。」
「宏一には1人くらい天敵が居た方が、丁度良い。」

 勝平の突っ込みに言葉を濁した宏一に対し、渉が普段の口調でとどめを刺す。宏一のやりたい放題そのものの行動に一番腹を立てていた渉としては、宏一が晶子に一本取られたことが小気味良いんだろう。自己紹介は終了したものとみなして、俺は体勢を元に戻す。
 運ばれて来る料理は、安っぽさを感じさせない適度な量だ。1泊7000円でこれだけのものが食べられるのは、本当に破格だと思う。実家が自営業の俺としては、1泊7000円で経営を続けられるのか、と疑問に思う。・・・まあ、この場でそんな湿っぽい話をするのも気が引けるし、「得した」って気分を感じるに留めておいた方が良いな。

「でもさ、晶子さん。幾ら俺達が祐司と高校時代からの付き合いとは言っても、男5人の中に女1人で居るのって、結構心細くない?」
「いえ、全然。それより、初対面の私を皆さんの同窓会とも言うべき今回の旅行に加えていただいて嬉しいです。」
「あ、こっちは1人足りないからどうしようか、って言ってたところだったし、喜んでもらえるとは光栄だな・・・。」

 晶子の明快な答えを受けて、尋ねた勝平はかなり当惑している様子だ。やっぱりこちらも晶子みたいなタイプには免疫がないらしい。よく考えれば、この面子の中で女付き合いが一番限定されていた−当時宮城と付き合っていたから俺としては当たり前だが−俺が、出会ってから今まで違和感を覚えることなく接して来られたのは、ある意味奇跡だな。

「宏一がセッティングした飲み会の前に晶子さんと話してると、飲み会の相手が霞んじまいそうだな。」
「あり得る。」

雨上がりの午後 第1869回

written by Moonstone

「俺は則竹宏一。バンドじゃドラムやってまして、今は経済学部に居ます。よろしく。」


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