芸術創造センター こぼれ話
Dropped talk of Performing Arts Center

2004年11月30日更新 Updated on November 30th,2004

2004/11/30

[明日からのつもりですけど・・・]
 「この日!」と断言していないので問題ないのかもしれませんが、携帯用ページの運営開始を延期するかもしれません。理由の一つは、新規連載が物理的にまったく白紙の状態だということ。日曜は殆ど寝ていたので(起きたのは食事の時くらい)書くに書けなかったんです。骨子は出来ているので睡眠時間を削れば間に合うでしょうが、今日も仕事がありますからね・・・。
 もう一つは機密上(そんな大層なものじゃないかもしれませんが)言えませんが、準備に時間がかかるにも関わらず、規格を絞り込めずに今日までずれ込んでしまったという・・・。後々揃えるということにして見切り発車しても良いんでしょうが(そうすべき性質かもしれない)、それが出来ない性格だったりします(汗)。
 やれるだけのことはやりますが、延期の場合は御免なさい(_ _)。月代わりと同時に華麗なスタート(どこが)を切りたいのは山々ですし、12月も色々忙しくなるのは確実なので(泊りがけの出張がほぼ確定しています)、開始するだけでもしておく、というある種の妥協が必要かもしれません。明日以降のチェックもお願いします。
 俺は一人暮らしをするにあたって、ひととおり食器や調理器具を揃えてもらったんだが、晶子が使うようになるまで埃を被ってる状態だった。どんな立派な道具でも、どれだけ道具を揃えても、使われなけりゃただのガラクタだ。その点でも晶子に感謝しないといけない。

「その順子の件なんだけどさ、あいつから何もないか?」
「何もないけど?」
「そうか・・・。」

 智一は難しい表情で相槌を打って食事を再開する。大学内では他人のふりをしているが、帰宅すれば同じマンションに住む、ガキの頃から一緒の従兄妹という間柄だけに、上手く釘をさせずに困ってる、というところか。まあ、こういう場合は何もない方が良い。何かある場合は、相手から行動を起こしてくる場合に限られるからな。
 俺も食べかけだった食事を再開する。混み合っている時間帯にのんびりしていると顰蹙(ひんしゅく)を買う。飯時くらいゆっくりしたいというのが本音だが、限られたスペースと大学の食堂という性質を考えれば仕方ないだろう。

「ん?こんな時に電話か。」

 半分ほど食べ終わったところで、横の智一がややくぐもった声で言う。食べている最中だったんだろう。俺は、智一が携帯を取り出すのを横目でチラッと見て食べ続ける。

「俺だ。今昼飯中だぞ?・・・居る。・・・居るだろうな。・・・だから自分で何とかしろって言ってるだろ。くれぐれも言っておくが、妙な真似はするなよ?・・・それは自分で考えろ。じゃあな。」

雨上がりの午後 第1723回

written by Moonstone

「そう言えば、彼女も料理出来るんだったな。」
「ああ。だけど、晶子ちゃんみたいに自分で刺身作れるほどじゃない。って、からっきし料理が駄目で、押しかけられて作った飯を一緒に食ってる俺がどうこう言う資格なんてないけどな。」

2004/11/29

[命の沙汰も銭次第、にするのか?]
 昨日は結局ひたすら寝てました(汗)。今まで満足に寝られなかった分が、「休み」というキーワードで一気に噴出したようです。まだ自分で通常の睡眠リズムが作れないので、こういう時期は必要なのです。昨日もお話ししたとおり、風邪で栄養補給が必要なのと同じですから。
 さて、最近の「規制緩和」の美名の名の下に進められる秩序破壊が、いよいよ生命を左右するところまで迫って来ました。混合診療、簡単に言うと保険が利く部分と保険が利かない部分の医療の混在を認めるというものですが、その解禁を東大、京大、阪大の付属病院長まで言い出しました。独立行政法人と「独立」の名は付いても、「理事」などの名目で文科省官僚の天下りポストを用意させられたり、「効率化」の名の下に必要経費を削らされるなど、結局中央統制が強まった国立大学の政府寄り姿勢が表れた格好です。
 今でも高度先進医療など限定的に混合診療が認められていますが、一旦解禁してしまえば、医療費を抑えたい国の思惑で保険が利かない部分が拡大されるのは目に見えています。その背景に市場拡大を狙う保険業界などの思惑があるのは、大規模小売店関連法の時などとまったく同じ構図です。キャプションにもあるように「命の沙汰も銭次第」にさせないよう、本当に無駄な部分にメスを入れる改革こそ必要です。マスコミの言う「改革」など所詮、自分達に「改革」が及ばないから言える範囲のものでしかありません。こんな無能な集団こそ再編するべきです。

「祐司。お前、今でも昼飯は生協だよな。」
「ああ。」

 急に智一が俺の方を向いて話を振ってくる。思わず生返事してしまった。

「晶子ちゃんに作ってもらわないのか?月曜だって待ってくれてるんだから、頼めば作ってくれるんじゃないのか?」
「晶子だって講義やゼミがあるんだ。昼食の世話まで負担かけさせられない。」
「そういうことか。考えてるんだな。」
「それなりにはな。」

 智一の言うとおり、頼めば晶子は嫌とは言わずに弁当を作ってくれるだろう。だが、晶子だって学部や学科は違えど同じ大学生。講義もあればゼミもあるし、レポートだってある。ただでさえ俺のために色々時間を割いてくれているのに、無理をさせるわけにはいかない。そうでなくても、約一月後に見せのクリスマスコンサートを控えているんだ。この時期に体調を崩すようなことはあってはならない。
 列は徐々にだが前に進み、何時ものように流れ作業的に食券を買い、料理の載った皿をトレイに乗せて、空いている席を探す。この時間帯では虫食い的に空いている席を探す方が手っ取り早い。たまたま空いた二人分の席に俺と智一は向かって、並んで腰を下ろす。こういう時に座り方や相席云々は言えない。

「そう言えばさ。」

 食い始めて間もなく、智一が話しかけてくる。

「晶子ちゃんって、料理上手いのか?」
「ああ。料理出来ない俺が言うのも何だけど、上手い。」
「レパートリーも豊富なのか?」
「和洋中、主だったものは何でも出来る。自分で魚捌いて刺身も作れる。」
「ふうん。そりゃ凄いな。」
「何でいきなりそんなこと聞くんだよ。」
「順子がお前に絡んで来ただろ?だからちょっと気になってな。」

雨上がりの午後 第1722回

written by Moonstone

 前に居る智一がぼやく。生協の食堂の昼時の混雑は今に始まったことじゃない。押し寄せる波はそのうち引くのと同じように、ピークを過ぎれば席に十分余裕は出来る。列だって一時のものだ。昼食のメニューが品切れになったことは今までないから、混雑を見越して作っているんだろうし。

2004/11/28

[暢気に居眠り・・・]
 今日付の更新がやたらずれ込んだのはキャプションのとおり居眠りしていたからです(汗)。明日から仕事再開だっていうのに、こんなので大丈夫か?と思われるかもしれませんが、長期休暇(といっても1週間弱ですが)明けにはきちんと切り替わりますのでご安心を。今は出来るだけ日常から離れて休んでおきたいんです。風邪で栄養補給などが必要なように、私の持病の回復には休養が必要ですから。
 そんな中でも作品制作は進めています。時間を気にすることなく気軽に気が向いたら、という感覚で昨日1作仕上げました。所要時間は実質4、5時間というところでしょうか。サイズ(20kB超)とこれまでの傾向と比較すると、私としては随分早い部類に属します。決して多作な方ではないので、こうして少しずつ準備を進めているわけです。
 携帯用ページの準備も着々と進んでいます。今日の分の作品制作が終わったら残りの時間をそっちに向けて、12月1日からの運用にこぎつける構えです。構造は単純でも、携帯用ページの機動性を考えて涙ぐましい節約をしています。こういう場合、制約がある方が今までのあり方を見詰めなおしたり出来るので良いこともあるんですよね。何が登場するかは、このページをチェックしてお確かめください。
 プレゼントや世間に沿った形のイベントには自己流を貫く晶子だが、結構こだわっているところもあるな・・・。やっぱり、今の半通い婚状態から法律上でも一緒になる前提の言葉には特別の思い入れがあるんだろう。俺にもまったくないわけじゃないし。
 俺と晶子は再び歩き始める。空気そのものが益々凍てつく時期。多忙な中迎える3回目のクリスマスコンサート。俺と晶子を繋ぐきっかけの一つとなった、今でも繋いでいる店での大きな思い出をまた一つ作るために、多忙に押されっぱなしにならないようにしないとな・・・。

 翌日。午前中の講義を終えた俺は、智一と一緒に生協の食堂に居る。水曜は仮配属中の研究室のゼミがある。来年本配属になったら、今度は中心になって説明したりする必要に迫られる。ゼミは4年が中心になって進め、院生と教官はオブザーバー的立場だからだ。単に英語の文献を訳して読み進めていくだけなんだが、時によって用語の解説を求められたりする。それに4年が補足する、という格好だ。
 ゼミが少し早く終わったので、研究室を見学させてもらった。音声のディジタル信号処理の最適化、カクテルパーティー効果(註:複数の音声が混濁した状態である音声のみ認識すること)を利用した雑音下での音声加工処理など色々。4年や院生に質問したところ、やっぱりワープロや表計算、データベースソフトは本配属までに覚えておいた方が良いらしい。そうでないと卒研などに振り向ける時間的余裕がなくなってくるとのことだ。プレゼンテーション用ソフトは卒業研究の発表会で実際に使うから是非とも、と言われた。
 問題のPCは、ほぼ絞り込めた。今日バイトが終わってからマスターと潤子さん、それに晶子を加えた「仕事の後の一杯」の席上で相談してから決定して、明日にでも発注するつもりでいる。ソフトは後で統合型ソフトを買うとして、CPUが高速でメモリを最初から沢山積んでいる機種にするつもりだ。丁度年末商戦が近付いていることもあってか予算的にも申し分ない。

「それにしても、今日も混んでやがるな・・・。」

雨上がりの午後 第1721回

written by Moonstone

「さっきの祐司さんの言葉の続きは、プロポーズしてくれる時までとっておいてくださいね。その時、きちんと聞きますから。」
「・・・そうする。」

2004/11/27

[寝てばっかりだった・・・(汗)]
 仕事がひと段落したことで月曜以外有給で埋め尽くした今週ですが、作品製作に関しては、結局今日公開の「雨上がりの午後」アナザーストーリーVol.2の1篇と携帯用ページに掲載する作品の骨子を固めただけで終わりました。じゃあどうして今日はこんなに揃ってるのか、と思われそうですが、一月以上前からちょこちょこと準備をしてきた結果です。これは今回に限ったことではないですが。でも、ストックが殆どないので今日明日は新作を書かないと、半月後、一月後の更新が貧弱なものになってしまうわけです。
 携帯用ページのアンケートにお答えくださった方々、ありがとうございます(感謝)。個別にお答え出来ませんが(無記名にした以上は当然か)、ご要望に出来る限り沿える形にします。「携帯でしか見られない作品」或いは「携帯で先に見られる作品」ということを念頭に置いたものにします。連載小説の掲載決定も、ご要望が多く寄せられたからです。
 アンケートは携帯用ページ運用開始後も続けていくつもりです。メールだと言い難いけど無記名アンケートなら、という方も居られるでしょうし、携帯用ページはコンパクトにするのが第一なので(この辺のことも携帯用ページで言及するつもりです)、実際に見てもらった上でのご意見を反映していく必要があると思うからです。主要3社全部の携帯、しかも全機種で確認出来るわけじゃありませんからね。この辺りがPC用ブラウザとの大きな違いの一つですね。
 改めて通帳の残高を見たら、4年の学費を出せるだけ貯まっていた。弟の進学先を狭めないためにも、親に4年の学費は自分で出す、とこの前の週末の電話で言った。親は本当に4年で卒業出来るのか、と問い質すに併せて、公務員試験の準備をしろ、と言って来た。4年で必ず卒業する−成績証明書が4年進級決定後に実家に郵送されることになっている、と付け加えておいた−、就職先は他も考えている、というのが俺の答えだ。
 とんでもない時期に俺の世代は生まれて来たと思う。中学では校則、高校では受験戦争、ようやく大学に進学したと思ったら就職先云々を研究室配属前から絞り込め、早い者勝ちと煽られる。そして就職出来たと思ったら過労死・サービス残業・・・。何のために生きてるんだろう、って思う時もある。
 そんな時心の拠り所になっているのが晶子だ。晶子の願いを、俺の願いを叶えたい。そう思うこと、それ自体が今の生き甲斐になっている。晶子が居なかったら俺は・・・どうなっていたんだろう?それを考えると、断崖絶壁に臨む覚悟を決めないといけない。自分の将来を自分で、否、晶子と一緒に切り開くために。

「ずっと・・・一緒に居てくれよな。」
「祐司さん・・・。」

 思わず立ち止まって晶子に言った俺が居る。そんな俺を大きな二つの瞳に映している晶子が居る。車と人が行き交う通りで、俺と晶子は見詰め合っている。

「生活は厳しくなるかもしれない。旅行やプレゼントは今以上に期待出来なくなるかもしれない。だけど・・・。」
「そんなことを祐司さんとの関係に期待してませんよ。」

 プロポーズに近くなって来た俺の言葉を、晶子が微笑みと共に遮る。

「私が望むことは唯一つ、祐司さんと一緒に暮らせることです。どんな生活スタイルになっても、祐司さんと一緒に暮らせるなら良いんです。」
「晶子・・・。」
「それから、もう一つ。」

 晶子は微笑を悪戯っぽい笑みに変える。

雨上がりの午後 第1720回

written by Moonstone

 俺は今の大学進学の時点で、4年きっかりで卒業、という親との取り決めが出来ている。大学院進学なんて想定していない。親もこれ以上学費を払う余裕はない、と断言していた。弟も大学進学することになったが、弟は自宅通学圏内の国公立系しか受験させられない。譬え受験して合格してもびた一文出さない、という態度は俺の時と同じだ。

2004/11/26

[明日にでも告知するかな・・・]
 携帯用ページ用、と言うと言い回しが妙ですからもう一度。携帯用ページに掲載する作品の骨子が固まりました。20kB程度ある長編連載作品の比重が多いこのページ(以後、PC版PAC)とはまったく違う中・小規模の新連載を掲載します。この作品は当面PC版PACに掲載する予定はありません。PC版のコピーだけだったら作る方もご覧になる方もつまらないでしょうし。
 ある程度書き溜めしておきたいですし、まだ固まっていない部分もあるので告知時期をどうすべきかちょっと迷っているのですが、人が集中する(であろう)明日明後日あたりがベストかな・・・。月代わり、つまり携帯用ページの運用開始時期に合わせるのも良いでしょうし。
 最近此処の連載の消費量が著しいので(書き溜めファイルの行数は既に規定容量3000行の1/3を超えています)、更に連載を抱え込むというのは精神的に逼迫している時期だと厳しいでしょうが、携帯用ページはPC版PACとはまた違う感覚で楽しみつつ更新を続けていこうと思っています。告知をお楽しみに♪

「祐司さん、補講の予定はありますか?」
「幾つかある。俺には関係ないものもあるけど。」
「実験は、年末ギリギリまであるんですよね?」
「ああ。来年の期末テスト直前までしっかりと。」
「大変ですね・・・。」
「晶子はゼミとかないのか?」
「ゼミや講義は普段の日程どおりです。補講が若干入ってますけど。」
「そうか・・・。となると、早めに曲の絞り込みをした方が良いな。新曲を導入するのはちょっと無理だから、既存のレパートリーの中から候補を出して、マスターと潤子さんとも相談して・・・。」
「そうですね。そうなると祐司さん、益々忙しくなりますね。」
「今年、来年は特に忙しくなるだろうな。色々と。」

 3年の後期も前半の終わりを迎えようとしている。多忙に誤魔化されがちだが、研究室配属希望は年明け早々に集約されて、期末テストの結果とこれまでの成績を総合して正式に研究室配属となる。希望通りの配属になるかどうかがこれまでの成果で決まるわけだ。
 少なくとも現段階では、俺の希望配属先である久野尾研への配属の可能性は高い。それを想定して、晶子にも協力してもらってPC選びをしている。研究室が決まると今度は卒業研究に着手するし、就職活動も本格化するだろう。
 今の就職はそれこそ「早い者勝ち」の様相を呈している。会社資料をインターネットで集めたりしている奴も珍しくない。一方で大学院進学が、耳に流れ込んで来る学科の話題にもボツボツ出て来ている。大学院進学は前の進路指導でも解説があったとおり、成績上位者は面接のみだがそれに入れない奴も当然居る。学卒での就職は枠が狭いから院卒、という方針の奴もそれなりに居る。自分で見た限りでは、学歴は大学卒業が当たり前になっている。「学歴社会脱出」の掛け声は何処へやら。

雨上がりの午後 第1719回

written by Moonstone

 晶子は嬉しそうに微笑む。これでまた1曲決まりだな。今年は忙しさに拍車がかかったおかげであまりレパートリーを増やせていない。まあ、店で演奏する曲は流行を追うタイプじゃないし、来る客もその辺のことは弁えてるから問題ないんだが、既存のレパートリーだけというのもな・・・。

2004/11/25

[予定変更]
 秋季休業中(自分だけですが)の私、眠気に任せて寝ていたら、家の中が薄暗くなるまで寝入ってました(汗)。勿論断続的(2、3時間程度を繰り返す)なんですが、薬なしで寝られるのは早々ない状態にある私は、作品制作の予定を変更して1日オフにしました。何時以来かの「目が覚めた」状態になりました。それくらい、薬を飲んでも解消出来ない睡眠不足が続いて来た、ということなんですが。
 さて、オンラインニュースで某右翼系大衆紙が大増税時代の到来をいとも深刻気に紹介していますが、私に言わせれば「今更何を」です。自民党・公明党は勿論、有権者が自民党の対抗馬と思って投票した民主党も、形の違い(名称など)はあっても消費税増税という路線ではまったく同じなのです。社民党も幹部がマスコミ向けに言うことが二転三転しています。明確に消費税に反対して、トヨタなど儲けを増やして「景気回復」と政府に言わしめている大企業への課税をせめて欧州並みにせよ、と言っているのは共産党だけです。
 挙げている数値も、共産党が先の参議院選挙以前から繰り返し主張していること。それを今になって「増税路線だ」「気付いたときにはもう遅い」、あろうことか「今こそ行動を起こすしかない」などと、その行動を軽視・黙殺して来たマスコミが何を偉そうに言っているのでしょう。我々はこういうマスコミこそ「今こそ行動を」起こして切り捨てていくべきです。一般市民の視線に立てないマスコミなど不要です。
 即答したところからするに、隠しているのではなさそうだ。俺は内心胸を撫で下ろす。従妹とは言え、あの吉弘という女は智一とは違ってかなりの性悪だ。昨日は一旦引き下がったから日を改めて、ということもありうる。晶子に何もなかったのは何よりだ。

「もう少ししたらクリスマスですね。」

 晶子から話を切り出して来る。そう、もうクリスマスまであと一月くらいだ。俺の性格からすると、自分に関係なければクリスマスなんて自分の脇を通り過ぎていく年中行事の一つに過ぎない。だが、今の俺にとっては一大イベントとなる。
 晶子と二人で豪華ディナー、なんて世俗的なものじゃない。俺と晶子を繋ぐきっかけの一つとなった、今でもそうなっているバイト先の店でクリスマスコンサートをする。今年も俺が実験で忙しいだろうから、ということで、早い時期からの泊り込みも認められているし、曲選びも並行してやっておくように言われている。選考や練習時間を考えると、そうゆっくりして居られない。

「今年の曲、どうしますか?」
「去年と違う曲を中心にしたいところだけど、あまり増やせないんだよな。『Winter Bells』と『UNITED SOUL』は決まりだけど、去年までにしてない曲をしたいところだな。」
「それだったら、『Can't forget your love』はどうです?」

 「Can't forget your love」か・・・。晶子のレパートリーの中では人気は中くらいだが、最近リクエストが増えているように思う。曲調が冬っぽいし、店の雰囲気にも合うからな。晶子の歌声が綺麗なのも人気の一つだろうけど。

「去年は演奏曲に入れなかったですから、今年はどうかな、と思って。」
「そうだな。それにするか。」

雨上がりの午後 第1718回

written by Moonstone

「晶子。今日、何もされなかったか?」
「はい。何も。」

2004/11/24

[秒読み開始、か?]
 最近お話してないので滞ってるのか、とか、中止か、とか思われているかもしれませんが、携帯端末用ページの運用開始準備は進んでいます。体裁はほぼ整っていますので、あとは掲載作品を完全に揃えるだけです。今週はずっと休みですので、ストックも併せて作っておこうと思います。
 「ニュース速報」でも告示していますが、運用開始予定日は12月1日です。ですから今日から丁度1週間後に開始するわけです。以前お話しましたが、4月以降文芸関係6グループの揃い踏みが一度も出来ていないので、今週の休みを利用して何としても実現したいところですし、やはり今週がヤマ場でしょう。昨日は睡眠不足が一気に噴出して日が出ている間の大半は寝ていたのですが、書き下ろし1作品は出来たのでこの調子で進めたいところです。
 纏まった量のテキスト作品を用意するのは、結構時間を食うんですよ。今週散発的に投入しているグループ合同企画作品「Do you love me?」でも最低1時間はかかってます。当然長編となれば1日仕事。でも読むのは数分。何だかなぁと思うこともあるのですが、創るということでは共通する課題なのかもしれません。
 俺は荷物を鞄に放り込んで講義室を小走りで出て、そのままのスピードで通りに沿って文系学部エリアの生協へ向かう。大学ってのはどういうわけか無駄に広いから、こういう急ぎの時とかには自転車でもないと辛い。まさか、一般教養が終わった3年になってから文系学部エリアと行き来することになるとは思わなかったからな・・・。
 まばらな人通りは、生協の建物に近付くにつれて賑やかなものに移り変わっていく。外は暗いとは言え時間はまだ午後5時。所謂アフター5ということもあって、食堂は勿論各種売店が揃っている生協は必然的に人の集う拠点となる。
 俺は生協の建物に入る。俺だけかもしれないが、文系学部エリアの生協は理系学部エリアのそれより雰囲気が柔らかく感じる。女の比率が違うせいもあるんだろうか。俺は人垣をかいくぐって書籍売り場に入る。・・・居た。入って正面少し奥にある雑誌売り場のところに佇んでいるその横顔が、気配を察したのか、俺の方を向く。表情が一気に晴れていくのを見ながら、俺は駆け寄る。

「待たせたな。」
「いえ。」
「行こうか。」
「はい。」

 何時もの、でも俺と晶子が互いの存在を確かめ合う挨拶をして、連れ立って生協から出る。人通りが少なくなって来た、正門へ続く大通りに出ても、闇に染み込む微かな蛍光を受けて浮かぶ晶子の横顔は普段と変わらない。どうやら俺が恐れていた事態、すなわち智一の従妹である吉弘が追い討ちをかけてきたりということはなかったようだ。
 でも、晶子の性格からして、何かあっても俺に心配をかけまいと隠しているかもしれない。自分に非がなくても、理不尽だと分かっていても頭を下げることを厭わないのが晶子だ。少し気が引けるが聞いてみるか。

雨上がりの午後 第1717回

written by Moonstone

「智一。俺は先に行く。」
「そうか。また明日な。」
「ああ。また明日。」

2004/11/23

[「勤労」と「過労」は違う]
 今日は勤労感謝の日。とは言うものの、昨今のアメリカを中心とする新自由主義経済信奉者の元では、会社の儲け(株主第一主義と言い換えられる)を増やすためにひたすら働け働けで、労働者は身体と心を病んで使い捨てされるか、働くことも出来ないかの二極化を強いられています。こんな状況で、特に政府の旗振り役をやっているマスコミが「勤労感謝」を言うのは笑止千万というものです。公務員や特殊法人を叩くマスコミですが、一番恵まれているからこそあのような高みの見物的物言いが出来るのです。
 身体と心を病んだ当人である私に言わせれば、キャプションのとおり、「勤労」と「過労」は違います。仕事をするのは主権者としての権利であり義務でもあります。労働の対価として得た収入に応じた税金を拠出して、国という組織を動かすわけですから(その意味では、同じように働きながら20歳未満には選挙権がないというのはおかしい)。しかし、主権者と奉仕者とは違います。人間はモノではない、という主権者として、労働者として当然の意識が「競争社会」「弱肉強食」「規制緩和」などの美名で無意識のうちに奪われていると言えます。過労死やサービス残業が言われる一方でリストラという名の首切りや就職出来ない若者の増加の矛盾を書かないあたりにも、マスコミの無能ぶりが表れています。
 そもそも、「サラリーマン」などという英単語はありません。労働者と書くと右翼の街宣車が押し寄せたり、その後押しを受ける政府与党や財界に睨まれたりするのが怖いから、そのようなオブラートをマスコミが用意したに過ぎません。「勤労感謝の日」の今日、労働の意味について特に主権者である国民自身が考え直すべきではないでしょうか。
「実験のレポートもまともにやらないようじゃ、PCの使い方を覚えるには至らないか。」
「お前さん、それは言いっこなしだよ。」

 それは俺の台詞だ、という返しを飲み込んで、ふと携帯を取り出して時計を見る。・・・もう直ぐだな。俺はカタログを鞄に仕舞う。講義の始まりが近い。正面でしかも前方のこの席は何かと目立つ。それに、カタログを見ながらノートを取るほど器用じゃない。見る時間はまだある。

「あ、電話だ。誰だ?」

 智一が携帯を取り出し−俺と同じくシャツの胸ポケットに入れている、−広げて見る。・・・一気に表情が厳しくなっていく。どうしたんだ?智一は厳しい表情のまま携帯を耳に当てる。

「俺だ。もう直ぐ講義だぞ?・・・ああ、居る。・・・居るんじゃないのか?・・・自分で何とかしろ。言っておくが妙な真似はするなよ。幾らお前だからってただじゃすまないぞ。良いな?・・・じゃ。」

 智一は何時になく素っ気無い調子で電話を切って、携帯を畳んで仕舞う。そして大きな溜息を吐く。表情は固いままだ。俺はあえて誰か聞かない。電話の相手を聞くのはプライバシーに踏み込むことだし−携帯を使うのに未だ抵抗感があるのはそのせいもあると思う−、聞かなくても相手は何となく分かる。何を言って来たのかは知らないが。
 講義室が俄かに慌しくなる。前のドアから教官が入って来た。それと時を合わせたかのように、リレー形式で俺の元にレポートが返って来る。俺はそれを予め用意しておいた提出するレポートとすり替える。一部しか違わないレポートを2つ用意するのは手間がかかるが、この方が怪しまれない。まあ、怪しまれたり文句を言われたところでどうするものでもない。そもそも文句を言われる筋合いがないんだから。
 教壇の前に立った教官は、早速テキストを広げる。俺もテキストとノートを広げる。レポートの提出は講義終了後。俺は眠気すら誘う教官の棒読み解説を聞きつつ、走り書きのような黒板の記述内容を整理してノートに記録していく。何時もの火曜日の幕開けだな。

 講義は終わった。過ぎ去ってしまえばあっという間なのは何時ものこと。すっかり真っ暗になった屋外の冷え込みはかなり厳しい。さて、今から迎えに行くか。待ち合わせ場所は文系学部エリアの生協の書籍売り場。時間がちょっと迫ってるから−講義の終了がずれ込んだからだ−、急いだ方が良いな。

雨上がりの午後 第1716回

written by Moonstone

「家じゃ専らインターネットでネットサーフィンさ。ワープロソフトは一応使えるけど、単純に文章を入力出来る程度だから、覚えなきゃならないとは思ってるんだけどな・・・。」

2004/11/22

[な、何事?!(汗)]
 更新前に昨日のアクセスを確認したのですが、とんでもない数字を弾き出していてあらびっくり(汗)。「魂の降る里」第100章を投入したとき以上の数(確かあの時は1200程度)だったのですが、当の本人(私)にはまるで理解出来ません。グループ単位のアクセス数(各インデックスの値)から推測するに、Side Story Group 1がその根本要因のようですが・・・。
 いえ、コミカルにしろシリアスにしろ、どんなカップリングにしろ、手を抜いてはいません。ただ、作品製作に要した時間が「魂の降る里」と前回投入したグループ合同企画作品「Do you love me?」では全然違います(「魂の降る里」はそれこそ1日仕事)。シンジ×アスカのカップリング(所謂LAS)が好評だったのか、と思っていますが、真相の程は分かりません。
 必ずしも労力や時間にアクセス数が比例するわけじゃない、と改めて実感。「魂の降る里」でこのページを知った方には私がLASを書くのは意外かもしれませんが、私は別にアスカが嫌いなわけではなくて、「魂の降る里」の世界ではこういう位置づけ、というだけのことです(詳細は第100章末尾からリンクしている「挨拶文」をご覧ください)。勿論、今回アクセス数が稼げたからと言って「魂の降る里」の構想を捻じ曲げるようなことはしません。このページでは私の表現したいことを追及するのみです。今の企画もその一環です。
 仕事がひと段落したことを受けて、今日出勤したら今週残りはお休み。作品制作に没頭するつもりです。4月以降一度も出来てない「文芸関係6グループ揃い踏み」を目指しています。・・・それにしても、最近此処の話が長くて、連載を書いても書いても溜まりゃしないな(汗)。

「ああ、智一。おはよう。」
「おはよう。最近ずっと早いな。」
「レポートは?」
「今日の分はやってある。・・・また取られたのか?」
「ああ。待ってました、とばかりにな。」

 俺は特段の怒りもなく答えて視線をカタログに戻す。どうせ培養中のレポートは第一次培養完了後に俺の元に戻ってくるし、内容は一部改竄してあるから、試験とかで痛い目を見るのはあいつらだ。そう割り切れるようになった。
 晶子は昨日の吉弘との対決で、理不尽なことでも受け入れなければならないことがある、と言った。俺だけならそうなっても良い。そもそも理不尽なことなら、大学での講義が専門科目の色合いが濃くなるにつれてその頻度が増している。今から始まる講義のレポートだってそうだ。だけど、晶子にああはさせたくなかった・・・。晶子はあれから何も言わなかったが、それが余計に申し訳なく思う。

「PC選びか。」
「ああ。研究室でワープロソフトとか使えるようにしておいた方が良いみたいだし、それなら今から買って少しずつ覚えていこうかと思ってな。」
「どれを買うかは最終的にはお前の自由だけど、メモリが多い機種を優先した方が良いと思うぞ。特にノートタイプは機種によって増設出来るメモリがかなり限られてくるし、値段も結構するからな。」
「詳しいな。」
「一応俺もPC持ってるんでな。家にはLANが標準装備だし。」

 智一の家は高級賃貸マンションだからな。俺の仕送りプラスバイトの収入だと、家賃だけで半分以上取られてしまう。まあ、そんなところに住みたいとは思わないけど。うっかりコーヒーを零すのも憚られて、窮屈に感じてしまうに決まってる。

「卒研に備えてPC買うのか。大したもんだな。」
「卒業研究がどの程度のものか知らないけど、卒業研究してバイトして、更にPCの使い方まで覚える、なんて器用なことは出来そうにないからな。出費はこの際必要経費と見てる。」
「研究室のPCが何時でも自分専用で使えるってわけじゃないから、自分用に1台持っておいた方が何かと便利だろうな。ノートタイプだと尚更。」
「お前は使ってないのか?」

雨上がりの午後 第1715回

written by Moonstone

「祐司。」

 名前を呼ばれて顔を上げると、隣に智一が居た。俺はノートを取りやすいように正面前方に座っているから、混雑する講義室の中でも比較的余裕がある。智一は普段俺と一緒に行動するから、必然的に隣になるわけだ。

2004/11/21

[そんなに死の商人になりたいか?]
 とうとうここまで本音が出て来ました。政府が武器輸出基準緩和の方針を打ち出しました。日本は「武器輸出三原則」といって、(1)旧ソ連系諸国(共産圏、とはあえて言わない)、(2)紛争当事国、(3)国連決議による武器禁輸対象国、に対する武器輸出は認めない、として、その後事実上の武器全面禁輸に踏み込みました。戦争放棄、交戦権の否認を謳っている憲法を遵守する向きに立てば、あまりに当然のことです。
 しかし、「敵のミサイルを撃ち落とす」という一見もっともな主張に基づく「ミサイル防衛」やアメリカなどとの共同武器開発、更には「技術力に見合った国際貢献」を口実に、武器輸出基準緩和に大きく踏み出したのです。当然ながら軍需企業が跋扈するアメリカは大歓迎。この動きは今になって急浮上したわけではなく、今年7月の日本経団連の提言や今年10月の首相の諮問機関の一つ「安全保障と防衛力に関する懇談会」の提言など、着々と地ならしは進行していたのです(マスコミが書かないだけ)。
 音速に近い速度で飛ぶミサイルを撃ち落す、など荒唐無稽な議論は、軍需企業にとっては格好の儲け口です。先に挙げた日本経団連にせよ「安全保障と防衛力に関する懇談会」にせよ(会長は東京電力の顧問)、結局は大企業、特に軍需企業と日本の更なる前線基地化を求めるアメリカの意向に沿っただけです。武器関連の取引では莫大な金が動きます。今アメリカが「テロとの戦争」にすり替えたイラク占領でも、莫大な武器がアメリカ国民の税金で賄われています。幾ら美辞麗句を持ち出しても「死の商人」になることは避けられない。こんな単純明快なことをまともに取り上げないマスコミの無能ぶりが、ここでも現れています。
 自分は最低とでもプライドなしとでも罵られても構わない。自分のプライド云々よりまず俺のことを考えるこの女神・・・。元はと言えば、俺の軽率とも言える依頼から始まったことなのに、それを全部一人で背負い込んで恨み節の一つも口にしないこの女神・・・。この女神の切なる願い、俺と一緒に暮らすこと、それを叶えることは俺の・・・使命だ。何としても・・・晶子の笑顔に幸せ色を重ねよう。それだけで喜んでくれるに違いないんだから・・・。

 翌日、何時ものように晶子を送り届けてから1コマめの講義室に入った俺は、PCのカタログを眺めている。講義までにはまだ時間があることもあって講義室は閑散としてるし、他の奴はレポートのクローン作成−元は俺のものだが無論一部改竄してある−や雑談をしているから、覗き込まれることもない。
 俺はあまり自分の手作業、講義のノート取りや携帯の操作なんかがそうだが、そういうのを覗かれるのがかなり嫌だ。覗かれるのが好き、という奴はあまり居ないと思うが。カタログは勿論、昨日晶子が生協で確保して俺にくれたものだ。量は豊富でやはりというか、生協で買うと割引があって尚安く買えると言うから目移りしてしまう。
 昨日から−晶子が夕飯を作ってくれている間だ−見ていた限り、色々ソフトが入っているものとすっぴんプラス必要なソフトというものを比較して、絶対後者が安いとは言えないようだ。値段なんてそれこそ30万という予算内で2台買えてしまうものもあるし、上を見たら予算オーバーだ。マスターが言っていた基準、CPUの性能が出来るだけ高くてメモリが出来るだけ多いものとかいうように、何らかの基準を持ってないと選びようがない。情報量に振り回されるとはこのことか。
 マスターの言っていた基準と予算を重ね合わせてみると、候補は結構絞れてくる。HDDとメモリを比べると、メモリの方が圧倒的にコストパフォーマンスが悪い。晶子は周辺機器のカタログも集めておいてくれたんだが、HDDは数万だせば本体に積んでいる以上の容量でも容易く確保出来るのに対して、メモリはそうはいかない。やっぱり最初から出来るだけ多くのメモリを積んでいるものにした方が良さそうだ。
 ソフトのカタログも時折見ているうちに、周囲が徐々にざわついてきた。顔を上げて周囲を見ると、かなり人が詰まっている。講義に出ているのはその学科の該当学年だけじゃない。単位を落とした4年や留年している−何時の間にか学科の名簿が増えていたりする−人が居るからだ。新京大学では、俺の居る工学部をはじめとする理系学部は総じて厳しいんだが、何でも3年から4年の段階で1/3が留年するそうだ。留年は親が絶対許さないし俺もそのつもりはないから、他人事と思ってはいられない。

雨上がりの午後 第1714回

written by Moonstone

 俺は晶子をよりしっかり抱き締める。今はそうすることでしか晶子の気持ちに応えられない。もし全人類と俺とを天秤にかけられたら、晶子は、俺が抱き締めている女神は俺を選ぶんだろう。否、選ぶに違いない。

2004/11/20

[グループ合同企画作品一挙放出]
 今日付の更新では、「Moonlight PAC Edition」で既報のグループ合同企画作品「Do you love me?」を参加表明残り2グループ分を公開しました。両グループは時間軸や設定に応じて同じ人物でも立場や心境が異なってきますので、結構な数になると思います。私は来週は休養を兼ねて月曜以外は仕事を休みますし(勿論事前に有給は届け出てある)、今回作ってみた感じではそれほど大規模な作品にはならないようなので、散発的に制作・公開していこうと思っています。お楽しみに♪
 さて、昨日は大相撲で外国人力士についてお話しましたが、今日はプロ野球について。今年セリーグの首位打者になったのは広島カープの嶋重宜(しま しげのぶ)選手。首位打者(最高打率)に加えて最多安打数の二冠を獲得した嶋選手は、10年の選手生活の大半を2軍で暮らし、今年一気に開花した苦労人。前にこのページで大々的に取り上げた「鉄人」金本選手(タイガース)も広島カープ出身。全球団中最も厳しいプレー環境(球場の老朽化など)を持ちながら、初代鉄人衣笠選手など幾多の名選手を育て上げているカープの姿勢は、兎角ネームバリューや短期的成果ばかりをもてはやす今の風潮だからこそ大いに見習う必要があると思います。
 地元密着という面ではタイガースが特に注目されますが、カープの地元密着はその相互関係を見れば分かります。いち早く地元の名称をチーム名に冠していること(プロ野球で「広島」と地元地名が出て容易に通用するのはカープでしょう)、老朽化が著しい球場を市民や地元経済人などが寄付で改善しようという姿勢などなど・・・。原爆資料館で原爆の惨状を痛烈に思い知らされた思い出を持つ者として、カープには「広島」の名をずっと留めていって欲しいです。
「良くない!何も悪いことしてない晶子がどうして謝るんだよ!」
「祐司さんに危害が及ぶかもしれなかったからです。」

 思わず語気を荒らげた俺に対して、晶子は落ち着いている。俺は晶子の肩にかけていた手の力を弱める。

「あの女性(ひと)は私が気に入らないんです。あそこまで状況が悪化していて気に入らない対象である私が謝らなかったら、あの女性は激昂して他に居た男の人達に祐司さんを攻撃させてでも謝らせようとしたと思うんです。」
「・・・。」
「私は殴られても構いません。でも、祐司さんに危害が及ぶのは絶対嫌なんです。私が頭を下げることでその可能性がなくなるなら、私は迷わず頭を下げる方を選びます。あの女性は私が頭を下げることを第一に望んでいたんですから、そうしたんです。」
「晶子・・・。」
「曲がったことが嫌いな祐司さんからすれば、私の行動は許せないと思います。自分可愛さに逃げたんだろう、とか、徹底抗戦すべきだった、との責めは甘んじて受けます。でも、私の既成事実の上積みに応えてくれている祐司さんを護るためなら・・・、私はそうする手段を選びます。現にあの女性は許す、と言っていました。祐司さんに危害が及ぶ可能性はなくなりました。私は・・・それで良いんです。」

 晶子がそう言った次の瞬間、俺は晶子を抱きすくめていた。言葉は出てこない。否、出せない。晶子は・・・俺のために自分のプライドを捨てたんだ。俺のことだけを考えて・・・、俺のために・・・、ただそれだけのために・・・、理不尽な選択を受け入れることを選んだなんて・・・。

「謝らなきゃならないのは・・・俺の方なのに・・・。俺が・・・晶子に雑誌を引き取りに来させなかったら、こんなことにはならなかったのに・・・。なのに、俺のために・・・。」
「譬え理不尽なことでも受け入れざるを得ない時はあるんです。祐司さんにとっては理不尽なことだとは思います。でも、私が頭を下げて済んだから・・・それで良いんです。それだけで・・・。私のプライドは常日頃祐司さんに護ってもらっているんですから・・・。」
「晶子・・・。」

雨上がりの午後 第1713回

written by Moonstone

「晶子、どうして謝ったりしたんだよ。晶子が謝る理由なんて、何もないじゃないか。」
「・・・あれで良いんです。」

2004/11/19

[左でやって何が悪い?]
 今大相撲は九州場所の真っ最中です。大相撲は一時期よく見ていたこともあって(今は更新時間&ページ巡回&連載ストック上積みetc.でTVニュースを見てられない)オンラインニュースで結果を見たり、帰省した時に(年末年始を除くと丁度大相撲の時期と重なる)TVや新聞で見たりしています(帰省した時くらいしか紙の新聞は読みません)。で、今は朝青龍関を筆頭とする外国人力士が圧倒的に強いです。朝青龍関は前回5連覇こそならなかったものの4回連続優勝。一族はモンゴルでは有名な格闘技一家だそうですが、それを差し引いても強いです。
 その朝青龍関が、懸賞金を受け取る時の手刀を左手でするのがけしからん、とか言われているようです。でもそれは所詮、外国人力士が強くて日本人力士がなかなか昇格出来ないのをやっかんでのことでしょう。大相撲人気が低下していると言われて久しく、相撲協会が座席の値段を下げたりして観客動員に躍起になってる今、大相撲の最高位である横綱、しかも強い力士を叩いて何が面白いんでしょうか。外国人力士が多いのはけしからん、という声もあるようですが、外国人なら必ず昇格出来るわけではなくて、日本人同様大半は幕下以下に居ます。特別扱いされているのは、アマチュア相撲での実績で幕下付けだしからデビュー出来る日本人力士の方でしょう。
 それに、プロ野球と違って、外国人力士は必ず日本語を喋ります。外国人力士は一家の生計を支えるため、遠い異国の地で異国の言葉を覚えるという大きなハンディを背負いつつ日本人力士と同じように稽古をしているのです。左手がけしからん云々を言う暇があるなら、強い日本人力士を育成する名案を提言してもらいたいものです。

「貴方が智一の友人だから、こうして人目につき難い条件を整えてあげたのよ?むしろ感謝して欲しいくらいだわ。」
「何を勝手なことを・・・!」
「祐司さん、待ってください。」

 頭に血が上って来た俺を晶子が呼び止める。そして俺の横を通り過ぎて、そのまま俺の前に出て吉弘の前に歩み寄る。どうする気だ・・・!

「出過ぎたことをして、すみませんでした。」

 晶子が吉弘に深々と頭を下げた・・・。喉が硬直して声が出ない。身体全体が硬直してしまっているのが分かる。どうして・・・どうして謝るんだよ・・・。そう言いたいけど声が出ない。身体が動かない。

「祐司さんには何もしないでください。お願いします。」
「ま・・・。」
「・・・良いわ。許してあげる。」

 そう言った吉弘の口調は威張ってはいるものの驚きは完全には隠せていない。平静を装っているつもりの表情にも驚きが見え隠れしている。まさかこうもすんなりと自分の要求どおりに晶子が頭を下げるとは思わなかったんだろう。俺もそう思ってるんだが・・・。どうして謝るんだよ・・・。

「・・・安藤君。智一が終わるのは何時頃?」
「・・・教官の設問と説教があるけど、今日は割と時間が早いから日付を超えることはないと思う。」
「そう。分かったわ。・・・それじゃあね。」

 吐き捨てる、否、ばつが悪そうに言うと、視線と一緒に俺と晶子に背を向けて歩き去って行く。取り巻き連中もそれに続いていく。ついさっきまでの一触即発状態が嘘のように静まり返ってしまった。
 ・・・そうだ、晶子。どうして、どうしてあんな女に謝ったりしたんだ。雅夫は何も悪いことしてないのに。俺は晶子に駆け寄りその肩を掴んで振り向かせる。晶子は驚いた顔で目を見開いている。驚いてるのはこっちだよ。

雨上がりの午後 第1712回

written by Moonstone

 俺も吉弘も口調が強まってきた。吉弘にしてみれば晶子が庇われるのが我慢ならないんだろうが、晶子が謝る理由はない。そんな理不尽な要求を受け入れさせるわけにはいかない。

2004/11/18

[「鬱で休業」は誰の責任?]
 オンラインニュースをぼちぼち眺めていたら、鬱病での休業明けに東芝を解雇された元社員が訴訟を起こした、というニュースを発見。数年前なら「病気になる方が悪い」で片付けられたでしょうが、メンタルヘルスがマスコミでも叫ばれ、自殺者が交通事故死者の約3倍になっていて、小中学生にまで抑うつ(鬱病の比較的軽い状態)が見られるという調査結果が出ている今なら、ほぼ確実東芝の負けでしょう。心の病気を甘く見た代償は高くつくでしょう。
 風邪をひいたら鼻水が止まらなくなったり咳やくしゃみをするのと同じく、鬱病になると何をしても楽しくない、死にたい、と思う症状を発します。精神病と言うと異質な感じがするでしょうが、胃や腸が炎症を起こし、大動脈や脳の血管が破裂するのと同じでれっきとした病気です。癌や心筋梗塞などと同じく診断書も出ます。糖尿病や動脈硬化に食事制限や投薬が必要なように、鬱病の治療には投薬や安静が必要なのです。「魂の降る里」(Side Story Group 1所蔵)第111章で三河医師が言っているように、鬱病も風邪などと同じく、条件さえ揃えば誰でもかかる病気です。風邪をひいたと思ったら内科に行くのと同じように、鬱病にかかったと思ったら精神科に行くのです。
 精神病に対する認識がまだまだ甘い(軽い)日本の企業らしく、利益向上の邪魔になる社員を休業明けに体良く片付けたつもりでしょうが、こんなことを欧米でやったら裁判所に復職命令&多額の賠償金を支払わされるでしょう。自分が矢面に立つことがないことが分かっている連中が未だに科学的根拠のない根性論や精神論をまくし立てて憚らない今、「鬱病は病気だ」と患者自身が堂々と声を上げて反撃して良いと思います。そうでもしないとその手の連中は分からないでしょうから。その病気になって初めて苦痛などが分かるものです。
 晶子は本当に屈託ない微笑を浮かべて言う。俺と関われること。ただそれだけで嬉しくて幸せなんだということがよく分かる。図書館で一人飲まず食わずで俺の帰りをじっと待っていてくれるのも、そこから派生したものならそうなるのが必然的か。

「カタログとかはPC本体の他にソフトの分も取っておきましたよ。まっさらのPCを買う場合、ソフトを別に買う必要があると思って。」
「わざわざすまないな。ありがとう。」
「私が夕食作ってる間にでもゆっくり眺めてみてくださいね。」
「そうさせてもらうよ。」

 俺は晶子と顔を見合わせて微笑む。これから俺の家に帰って晶子が作る夕食を一緒に食べる・・・。何かと気苦労が多くて理不尽ささえ感じる実験で重くなった気分が、急速に軽くなっていくように思う。

「彼女と夜遅く一緒にお帰り?随分なご身分ね。」

 正門がはっきり見えてきたところで右側から声がかかる。反射的に晶子の前に出る形で庇って様子を窺っていた俺の前に、吉弘というあの女がゆっくりと姿を現す。取り巻き連中は忘れていないのは流石と言うべきか。

「智一はどうしたの?さっき家と携帯に電話したけど、どっちも留守電になってたわ。」
「・・・俺だけ先に終わったんだ。これは今日だけのことじゃない。」

 吉弘という女の問いに答えつつ視線だけ動かして周囲を見る。囲まれてはいないようが、少なくとも正面は完全に塞がれている。昼間自分を遮った智一が居ないことを不審に思っていたところに、自分が目の敵にしている晶子と俺が一緒に居るのを見て怒髪天を突く状態になった、ってところか・・・。

「まさか貴方が智一の友人だなんて思わなかったわ。智一が聖華女子大の女と遊んだりしてるのは知ってたけど、大学で男友達が出来てたなんて聞いてなかったから。」
「要求は何だ?」
「後ろの彼女に頭下げさせて頂戴。貴方のファンを取り上げてすみませんでした、ってね。それで勘弁してあげるわ。」
「断る。」
「貴方には言ってないわ。」

雨上がりの午後 第1711回

written by Moonstone

「今日お昼ご飯を食べに生協に行った帰りにPCのカタログやチラシを集めたんですけど、そこでも、旦那に頼まれたのかとか言われて・・・。私が何か違ったことをすると祐司さん絡みだと思われてるみたいです。」

2004/11/17

[マイクロメートル単位の死闘]
 最近此処で携帯用ページのお話をしているわけですが、形式がどうであれ、Webページはそれを表示する媒体がないと夢物語で終わってしまうわけです。携帯用ページに限って言いますと、片手で楽に持てる程度の重さと20に満たないボタンという極めて限定された操作系統に、液晶画面表示、遠距離無線通信、漢字変換機能など小型PCとも言える機能を凝縮しています。
 それらを実現するには、集積回路は勿論、抵抗などの周辺部品は「手で持てて、裸眼で確認出来る」レベルのものでは物理的に不可能です。出来るだけ小さい面積で沢山の入出力機能を持たせた集積回路のピン(回路基板に半田付けする部分)の間隔はミリメートル(10の-3乗メートル)より一桁小さい単位、マイクロメートルの単位が当たり前になっています。昨日仕事でそういう部品の半田付けをしたのですが、そんな微小な間隔や大きさの部品ですから当然裸眼では(眼鏡かけてますが)確認出来ません。拡大鏡を使ってピンセットと髪の毛くらいの太さの半田を使っての実装は、猛烈に神経を使いました。
 完成した基板(PCとUSBコネクタで接続して動作確認しないといけませんが)の大きさは、2つ並べても500円硬貨2枚分くらいですかね・・・。そこに定規の最小目盛りより小さい部品が乗っかってます。少なくともディジタル回路に関しては、部品の組み合わせは実装技術さえあれば良くて、後はどういう動作をさせるかをプログラミング(ソフトウェアのプログラミングとは次元が違います)するだけになっています。小型軽量化が加速している以上必然的でしょうが、趣味レベルの電子工作から回路技術などに興味を持ってそういう世界に、という大切な道が益々狭まっていくことには憂慮しています。先にもお話しましたが、ソフトウェアがどれだけ高度になろうとしてもそれを動かす媒体であるPCなどのハードウェアがなければ話になりません。このままでは日本の技術水準の後退が加速するばかりでしょう。
 俺は晶子と共に図書館を出る。街灯が一定間隔で照らす通りを二人で歩く。バイトの帰りとかでもう日常の一部とも言えるシチュエーションなのに、こうして一緒に居られるだけで心の疲れが取れていくように思う。

「今日のお昼、祐司さんからメールが来た時は凄かったですよ。」

 晶子が弾んだ声で言う。

「ゼミの教室には居ましたけどまだ昼休みだったので音を鳴らすようにして置いたんですよ。そうしたら『明日に架ける橋』が流れて来て、旦那からメールね、とか、もっと聞かせて、とか言われて・・・。」
「俺が送ったメール、見られたのか?」
「『明日に架ける橋』が流れ始めたら一斉に集まって来て、止めようにも止められなかったんですよ。電話だったら私の声が聞こえづらくなってたかもしれません。」
「そんなに大騒ぎするようなことかな。携帯で電話したりメールのやり取りしたりなんて、それこそ俺と晶子より頻繁にやってるだろうに・・・。」
「私だからこそですよ。ほら、先週祐司さんを誘導して学部の講義室に来てもらったじゃないですか。あの時もそうだったんですけど、私があの会社のプランで祐司さんとお揃いの携帯を買ったことが、凄い話題になってるんです。」
「ああ、あの時か。」
「今でも着信音を聞かせてくれ、ってせがまれるんですよ。祐司さんがアレンジした『Fly me to the moon』は特に凄い人気ですよ。あれを聞いてCDを買った娘(こ)も居るくらいですから。」
「そんなに珍しいかな・・・。」
「ああいうジャンルは着信音になってる曲が少ないらしいんです。それに、祐司さんがギター用にアレンジしたあのメロディの評判が凄く良いんです。凄く綺麗だ、とか、お洒落ね、ってよく言われますよ。同じゼミの娘から話を聞いたっていう別のゼミの娘にも聞かせてくれ、ってせがまれて聞いてもらったら、凄く羨ましがってましたよ。」
「随分話のネタになってるんだな。」
「ええ。」

 それこそ携帯サイトでとっかえひっかえ出来る着信音が注目を集めてるのか・・・。晶子としては、自分と俺しか持っていない着信音ってことで自慢出来るみたいだし評判も上々だから、二重に嬉しいんだろう。作っている俺としても、それだけ喜んでもらえれば嬉しい。

雨上がりの午後 第1710回

written by Moonstone

「待たせたな。」
「いえ。実験お疲れ様。」
「行こうか。」
「はい。」

2004/11/16

[???]
 今は本当にPCの周辺機器の接続or取り外しが楽になりましたね。config.sysファイルとかをいじらないといけなかった(何それ?っていうリスナーもいらっしゃるんだろうな(^^;))時代を知っていると、特にUSBの安定動作が確立した最近はつくづく楽に思います。PCの電源を入れたまま挿し間違えようがないコネクタとケーブルでさくっと接続すれば勝手に認識してくれて、その上その後の操作まで案内してくれるんだから、親切親切。
 で、携帯電話に眠っていた写真をPCに吸い込んだんですが、Photoshopで開いてみるとやけにでかい。源画像は240*360なんですが、どう見ても携帯電話の液晶画面よりでかい。で、試しにおよその液晶画面サイズに縮小してサーバーにアップして携帯電話で見てみると(現段階ではURLを直接入力しないといけませんが)、やけに小さい。某携帯ページ(グラビア系ではない。念のため)で画像を試しに一つダウンロードしてサイズを見ると、表記と違う。
 どうも私の携帯電話の液晶画面におけるサイズ表記(ピクセル)がPCのそれと基準が異なるようです。待ち受け画像を用意しようにも、幾つか種類を用意しないといけないようです。というわけで、今日付の更新で無記名アンケートを新設しました。興味があったらご協力をお願いします。
 まだ機械音や相談する声がする実験室で、俺は一人携帯の画面に向かう。思えば操作にも結構慣れてきた。最初はボタンの数に対する割り振られた操作やメニューとかの多さに戸惑ったり面倒に思うことが何かと多かったが、これはこういうもの、と頭を切り替えて覚えればそれなりに出来るようになる。今はこれだけの機能をよくこんな小さな筐体に詰め込んだもんだ、と電子工学科の学生らしいとも言える関心を持っている。小さな発振回路(註:ある周波数の電気信号を発生する回路)一つでも苦労していちゃ通用しない世界の人達が設計してるんだろうな・・・。

 20時過ぎ。実験室から出た俺は夜の帳の下に居る。予想どおりだった。1時間ほどして帰って来たが、雁首揃えて「分かりません」。智一は多少ましだったが、携帯で呼び出してようやく手伝わせた残り二人は最悪以外に言葉が見当たらない有様だった。教官が説教したくなる気持ちが嫌でも分かる。
 で、今日も俺だけ先に何問か設問されて先に解放、と相成った。恐らく今頃設問攻めに遭ってる頃だろうが、それで懲りてるくらいなら何の苦労もしない。懲りない面々を相手にしなきゃならない教官に同情してしまう。俺だったら物ぶつけてるか殴りかかってるかもしれない。
 ・・・兎も角、晶子を迎えに行かないと。俺は「迎えに行く」メールを作ろうかと携帯のあるセーターの襟首に手を突っ込んだが、止めた。メールを作って送って返事を待っている間の時間で、少しでも待ち合わせ場所の図書館に急いだ方が良い。俺が携帯を操作している時、必ずしも晶子が電波の届きやすい個室に−窓際のせいかアンテナは常に3本立つ−居るとは限らないしな。読み終わった本を戻しに奥まった位置にある書庫に居ないとは言えない。
 俺は街灯が転々と灯る通りを軽く走る。闇に白い息が周期的に浮かんで消えるを繰り返す。本格的な冬の訪れは近い。少しでも晶子の待ち時間を減らそう。白い息が闇に溶け込む前に新たな白い霧が浮かぶようになる。
 灯りをその筐体に幾つも抱える図書館がどんどん近付いて来る。俺はIDカードで図書館のゲートを潜り、エレベーターで3階に上り、歩調を落として呼吸を整えながら305号室を目指す。301号室、302号室、・・・305号室、ここだ。俺はドアに「使用中 Using」の表示が出ていることを確認してから、控えめにノックする。程なく人の気配が近付いてきて、ドアロックが外されてドアが静かに開く。出来た隙間から現れた晶子の表情が一気に晴れる。

雨上がりの午後 第1709回

written by Moonstone

 それだけ言って携帯の画面に視線を戻す。携帯を操作していると、後ろでガタガタと音がする。視線だけ動かすと、3人がテキストやノートを持っていそいそと実験室を出て行く様子が僅かに視界に入って消える。行ったか・・・。まあ、どうせ1時間くらいでギブアップして戻って来るだろうが、俺はそれ以上の手間を踏んでるんだ。多少は苦しんでもらわないとな。

2004/11/15

[連載小説はどうしよう?]
 昨日付更新で正式に発表した携帯端末用ページ制作プロジェクトに関してですが、ページの基本形は大体出来ました。使用出来るタグに制限があること、文字エンコードをしっかり定義しないといけないこと、など幾つかの重要事項を踏まえて制作すればそれなりのものは直ぐ出来ます。元々このページのタグ入力も今時全部手入力ですから、タグ入力は苦になりません。
 携帯電話の待ち受け画面用写真(グラビアアイドルなどを期待する方はそっち方面の携帯用ページをご利用ください)を公開することは確定していますが、折角用意するんだからもっと何か出来ないか、と考えた末、連載小説を新たに手がけるのはどうか、と思っています。
 此処での連載小説とはまた別のもので(同じだったら通信料が割安なこちらをご覧になった方がお得)、設定が全然違う世界の作品を複数並行して進めるのは経験済み(経験中(汗))ですので、需要があるか、どのくらいの頻度で続ければ無理がないか、といったところが焦点でしょう。早いうちにアンケートを作って調査を実施しないと・・・。
 俺はメールを閉じて、携帯の着信音の調整を始める。「Fly me to the moon」と「明日に架ける橋」を並行して作っているが、音数が比較的少ない「Fly me to the moon」の方は完成にかなり近付いている。「明日に架ける橋」は結構音数が多いし調整項目、特にボリュームが多いから、まだベタ打ち部分が目立つ。俺と晶子を繋ぐ、まだ輝きに新しさが残る携帯・・・。2種類の着信音が形になって俺と晶子の携帯から揃って流れる日を早く迎えたい。その気持ちが、携帯に触れる時間を生んでいると言えるかな。

「うー、これってどうやってグラフにすりゃ良いんだ?」

 情けない声で、俺の携帯を操作していた手が止まる。まだそんなこといってる段階なのか・・・。俺はあえて救援信号とも取れるその声を無視する。説教が待っているとは言っても所詮一過性のもの。産みの苦しみ、ってやつを多少なりとも味わってもらわないことには、俺としても我慢ならない。

「ここではどこを原点にすれば・・・。」
「えっと、横軸はこのパラメータにすると、縦軸が2つ要るんだよね・・・。でもどうやって描けば・・・。」
「この設問がどうしても分からないな・・・。」

 暗に助けてくれと言っているのが分かる。だが俺は便利屋じゃない。そう毎度毎度おんぶに抱っこなんてやってられるか。俺は携帯をそのままに首だけ3人の方に向ける。

「分からなかったら調べて来るんだな。俺の分はもう出来てる。テキストや関連書籍を少し調べれば解けるようになってるのは、もう分かってる筈だ。俺はそう気の良い方じゃない。早く片付けてくれ。」

雨上がりの午後 第1708回

written by Moonstone

 晶子は何時になるかも分からない俺の実験終了を待っている。一人音もろくにしない個室に篭っているのは寂しいだろうし、点になって生じた不安は円になり、球になって膨れ上がる一方だろう。それを一刻も早く解消したいんだが・・・。自分の力だけではどうにもならないものがあるということは、こういう時に本当にもどかしく感じる。

2004/11/14

[携帯用ページ]
 今日最新号発行の「Moonlight PAC Edition」で紹介していますが、このページの携帯用ページを作ることにしました。携帯用ページというとどうも怪しげなイメージが付き纏うのですが、此処のページの携帯版は此処の基本精神を踏襲しつつ、携帯用に特化したお得なページにしようと思っています。
 携帯と言えば着信音と待ち受け画面。着信音は様々なページで無料有料問わず広く公開されていますが、待ち受け画面、特に写真は意外に少ないと思います。勿論X指定ではありません(レンタルサーバーの規定でその手の写真や画像は掲載出来ません)。私が9月中旬の帰省の際に撮影した花々の写真を掲載する予定です。通信料はご覧になる方の負担になりますが、写真の利用料などは請求しませんので(ただし個人利用限定)ご安心ください。
 問題は、携帯電話のシェアが実際にどの程度なのか、ということなんですよね・・・。現在までのところドコモが関連ツールや情報が一番豊富で、auは技術情報は豊富ですが関連ツールがない、ボーダフォンは何やらややこしい(汗)。機種判別技術を導入するか、最大多数の普遍化を狙うか、これから色々模索していきます。そのうちアンケートを実施する予定ですので、ご協力をお願いします。
「お前が何時帰って来るかも分からないのに、律儀に晩飯作って夜中まで待ってるくらいだからな、晶子ちゃんは。」
「ああ。」

 俺は晶子がメールの返信を作っている様子を思い浮かべる。同じゼミの連中に囲まれて歓声とも冷やかしとも取れる声を浴びながら、メールを作る晶子・・・。俺との専用道具になることを自他共に認める携帯を持っていることそのものを、晶子は喜んでいるんだと改めて実感する。
 献身的とも言える晶子の気持ちに応えるには、やっぱり俺がしっかりしないといけない。智一の従妹を敵視したくはないが、晶子を敵視している以上は警戒態勢を解くわけにはいかない。晶子の事実上の夫として、智一のようにやる時はやる、っていう姿勢でないとな・・・。

 19:00を過ぎたが、まだ実験は終わっていない。データの纏めで梃子摺っているからだ。勿論俺は自分の分を片付けている。しかも他の3人の分を合わせた分より多い量を。だが、智一を含む残り3人はその量ですら満足に片付けられないでいる。
 俺は助けない。この程度出来なかったら実験指導担当の教官の設問に答えられるはずがない。もっとも今の今まで満足に答えた例がないから、今日期待したところで無理がある、と言われればそれまでだが。
 シャーペン片手に手持ちのグラフ用紙とテキスト、そして実験結果を纏めたノートを机の真ん中に置いて必死に格闘−もがいていると言うべきか−している3人を見た後、俺は3人に背を向けて携帯を取り出して最新のメールを開く。

送信元:井上晶子(Masako Inoue)
題名:講義が終わりました
私は何時もどおり講義が終わって、今は図書館の3階305号室に居ます。祐司さんが買う予定のPCのカタログやチラシは、生協の店舗で入手しました。その辺の詳しいことは、帰りにお話します。実験頑張ってくださいね。

雨上がりの午後 第1707回

written by Moonstone

「おっ、早いな。」
「智一が言ったとおり、晶子は自分より他人って人間だからな。自分も不安だろうに・・・。」

2004/11/13

[ようやくひと段落]
 長らく引き摺って来た(引き摺らされて来た、と言うべきか)本業のシステムがようやく軌道に乗りました。データ移行の前準備をしておいたので、スムーズに移行出来たのが何より(^^)。主治医から休養勧告を受けながらもこのシステムが軌道に乗るのを確認しないことには、と思って粘ってきた甲斐がありました。これで安心して休める・・・。
 それを記念して、というわけではありませんが、今日の更新で「Moonlight PAC Edition」第29号で紹介したグループ競作作品の第1弾を投入しました。Novels Group 4の「Do you love me?−Side A-1−」がそれです。第1弾と言うくらいですから今後も続きます。他のグループでも(参加グループに関することなど詳細は「Moonlight PAC Edition」第29号をご覧ください)順次始めていきますので、お楽しみに。
 グループ競作作品が公開開始したのと並行して、もう一つのプロジェクトが進行しています。明日付の更新あたりに発行するつもりの「Moonlight PAC Edition」最新号で詳細をお伝えするつもりですので、気になる方はチェックしてください。
 こんなことでメールを送るのも何だか気が引けるけど、この不安はどうにも抑えられない。俺はプレビューを見てからメールを送信して携帯を仕舞う。何時でも連絡が取れる手段を持ってはいても面と向かっていないと不安になる・・・。これは、TV電話で24時間連絡を取り合えるようにならないと解消されないかもしれない。

「晶子ちゃんに事情説明か?」
「否、今どうしてるかって聞いただけ。間接的とは言え智一が絡んでると分かったら、晶子は俺以上に不安がるだろうから。」
「晶子ちゃん、基本的に自分より他人、って性格だからな。順子もちょっとは見習って欲しいもんだ・・・。」

 そう溢(こぼ)して食事を再開した智一の表情は重い。ガキの頃から兄弟動揺に育って来て互いをよく知る間柄だからこそ、今の事態が打開出来ないことを余計にもどかしく思ってるんだろう。
 重い空気の中昼飯を食べてコップに手を伸ばした時、胸に小刻みの振動を感じる。俺はコップに向かっていた手をセーターの内側に突っ込んで、振動の主である携帯を取り出して広げる。メール着信1件・・・!俺は携帯を広げてメールを開く。

送信元:井上晶子(Masako Inoue)
題名:心配してくれてありがとう
実験お疲れ様です。私は今ゼミの部屋に居ます。祐司さんからメールが来たことで、ゼミの皆が大騒ぎです(このメールを書いている時も私の周りには人垣が出来ています)。講義が終わったら、何時ものように待ち合わせ場所を伝えますね。

 晶子が早速返事をしてくれたことを嬉しく思うと同時に胸を撫で下ろす。こういった不安は、相手からの応答がない限り、否、正確には自分の望んでいる応答が返って来ない限り消えないんだよな・・・。俺は小さい安堵の溜息を吐いて携帯を仕舞う。

雨上がりの午後 第1706回

written by Moonstone

送信元:安藤祐司(Yuhji Andoh)
題名:しつこいかもしれないけど
こっちは今、実験がひと段落して昼飯を食べている。晶子は何ともないか、ってふと不安になってメールを送った。監視されてるようで嫌な気分かもしれないけど・・・。講義が終わってから何時ものように連絡を頼む。

2004/11/12

[何時でも手に出来る薬で良いのか?]
 政府やマスコミが大好きな「規制緩和」の一環で、コンビニでの医薬品販売が広がってきています。「何時でも薬を買いに行ける」という歓迎の声がマスコミに紹介されていますが、薬に頼らないと睡眠もままならない状態になって久しい私からすれば、薬に対する認識があまりにも甘すぎると言わざるを得ません。
 「魂の降る里」(Side Story Group 1所蔵)で何度か触れていますが、本来薬というものは医師や薬剤師と言った専門家の処方や指示がない元で無闇に服用すべきではありません。近年は対象の症状により効果を発揮するよう緻密な化学合成が行われていますから尚更、市販の薬と言えども異種の薬が複合すると何が起こるか分かりません。ともすれば命を落とす危険さえあります。現に昨年私は急性虫垂炎で手術しましたが、その時にも服用している薬のリスト(「お薬手帳」と言います)を持参して、麻酔が薬効の衝突がないことを確認してもらったくらいです。
 「便利さ」を求めるあまり、薬が害になることさえある危険を疎かにしてはいないでしょうか。アレルギーだ残留農薬だ合法ドラッグだ、と騒ぐ一方で何故薬が容易く入手出来る現状を問題視しないのか(頭痛薬でも常用していると禁断症状を呈する恐れがあります)。薬で個人的に処理させることで医療費を安く抑えたいという政府や儲け拡大を目論む製薬業界の意向を垂れ流すだけのマスコミなど要りません。
 その仲を以ってしても抑えられる見込みが少ないとなると、相当厄介な相手と考えるべきだろう。現にさっきも智一が静止しなかったらあの態度のまま俺に詰め寄り続けて、無視されることに激昂して食いかかって来た可能性もある。それで済めば別に良いが、晶子に飛び火する可能性さえある。そっちの方がはるかに問題だ。

「智一。変なこと聞くけど、彼女って昔からああなのか?」
「中学あたりからずっとあの調子だ。一応あのとおり見てくれが良くて成績も良かったし、妙に人の扱いが上手いところがあるからな。高校時代には生徒会長もしてた。バレンタインデーには取り巻きの男に適当にチョコばら撒いて、ホワイトデーで菓子とかを荒稼ぎしてた。当然女には煙たがられてたが、当人は何処吹く風って感じだった。」
「智一に対しては?」
「俺に対してはどういうわけか、お前に見せた様子からは想像出来ないくらい普通だったりするんだ。ガキの頃から一緒ってこともあるのかもしれないけどな。従兄妹関係じゃないことを知らない奴は、彼氏彼女の関係とマジに思ってたくらいだ。」
「外と内とで顔を使い分けるタイプ、か。」
「そんなところだ。」

 俺と智一は同時に溜息を吐く。俺からすれば、何だかんだ言っても大学で数少ない、否、唯一の親友の従妹、智一からすれば、ガキの頃から実の兄弟以上に仲良くして来た従妹。単純だがややこしい人間関係が出来上がってる。
 思えば大学生活では何かと智一と縁がある。入学最初のコンパ以降バイト探しとバイトそのもので「孤立」していた俺に声をかけて来たのは智一だった。バイトが休みの月曜の夜に飲みに行った相手は智一だけ。そして、宮城と別れた直後でささくれ立っていた俺が晶子と付き合うことになったのも、智一の援助と挑発に因るところが大きい。そして持つ気もなかった携帯を持つきっかけにも、間接的ではあるが智一が絡んでいる。・・・何とも不思議な話だ。
 少なくとも今言えることは、彼女が俺にとってまったく見ず知らずの赤の他人じゃないということだ。智一がブレーキになれば良いんだが、智一自身がそれは望み薄と言うから、やっぱり彼女が晶子に妙な手出しをしないように「抗戦」するしかない。晶子に気を付けるように念押しのメールを送っておくか。

雨上がりの午後 第1705回

written by Moonstone

 小さい頃からの付き合い、それも小中高大と同じで住んでるマンションも同じ、更には週末になると飯を作りに押しかけて来るほどだから、相当仲が良いんだろう。俺は、従兄妹とは盆や正月に親の実家の挨拶回りの時に顔を合わせる程度だ。去年帰省した時は何事かと思うくらいの歓迎ぶりだったが。

2004/11/11

[中東に展開されるアメリカ版「大東亜共栄圏」]
 昨日ヤマ場を迎えるはずだった仕事は今日以降に延期。一緒に仕事をしている先輩が急病で休んだからです。私も日曜一日寝込んだ身ですから、仕事は兎も角早く良くなって欲しいです。病気して良いことなんてありませんからね。
 さて、イラク情勢は悪化の一途を辿っています。米軍は約2万の大軍でイラク中部の都市ファルージャに攻め込んでいます。アメリカ曰く「テロリスト掃討のため」、もっと遡れば「テロとの戦い」のため、居るかどうかも分からないテロリストが居るとして、傀儡政権(イラク暫定政府のアラウィ首相はCIA(アメリカ中央情報局の略称で世界的諜報機関)とのパイプを持っている)の支持と協力を得て民間人が多数居る町を海兵隊と言う殴りこみ部隊で攻撃しています。この海兵隊が沖縄から出撃していること、今年の8月に沖縄国際大学(宜野湾市)に墜落した大型ヘリもイラク出撃の準備をしていたこと、アメリカ本土以外に海兵隊の基地があるのは日本だけ、という事実をどれだけの人が知っているのでしょうか。
 そもそもアメリカが国連憲章を無視してイラクを先制攻撃したのは、「イラクは大量破壊兵器を持っているから危険」というのが理由だった筈。ところがその大量破壊兵器とやらは、アメリカが派遣した調査団が「湾岸戦争以降計画自体なかった」と断定した虚構の産物。大量破壊兵器がないから今度は「テロとの戦い」を掲げる・・・。結局戦争がしたい、自国企業の利権を拡大したいがための口実だけで、無実の一般市民が殺されているのです。
 アメリカは「中東の民主化」を掲げ、イラクはその足がかりと位置づけられています。軍事力を背景にして乗り込んで「解放」を言いつつ、「反対勢力を抑えるため」と称して無差別攻撃する。まさに半世紀以上前、軍国日本がアジア諸国に対して繰り広げた「大東亜共栄圏」の構図そのものではありませんか。歴史は繰り返す、と言いますが、「自衛」を掲げた先制攻撃に何の正当性もないことがまたしても証明されたわけです。これでもまだイラクに自衛隊を居させる日本は、歴史を憶えるだけで学んでいないことを露呈した格好です。いい加減、こんな政府やそれに異議を唱えないマスコミなど切り捨てるべき、彼らが好きな言葉を使えば「再編」すべきではないでしょうか。
「さっきのやり取りでもあったように、順子とは親族関係を出して相互干渉しない、って約束をしてるんだ。幾らガキの頃からの付き合いだからって大学の中でまで馴れ馴れしくされたくないし、親父の会社の子会社が経営してるマンションだから、ってことで今住んでるマンションに入れられたもんだから、尚のこと大学の中くらいは静かに過ごさせて欲しくてな。」
「大学の中くらいは静かに、って彼女、智一の家に来るのか?」
「しょっちゅうだ。ああ見えても料理は出来るから、週末とかに押しかけてきて飯作るもんだから、一緒に食ってる。俺が言うのも何だが腕は確かだ。」

 料理出来るのか・・・。しかも、智一の家に押しかけて作るとは・・・。お嬢様だからてっきり外食頼みか召使−今時こんな言い方しないか−に作らせてるかと思ってたんだが、人は見かけに依らないとはこのことだな。

「根は良い奴なんだが、何せプライドが高くてな。自分の存在を脅かすと見るや、相手を追い落としにかかるんだ。どうもかなり根に持ってるらしいな。今までだったら暫く相手を叩くか男を取り巻きに加えるかしたら大人しくなったんだが・・・。」
「・・・前に彼女が言ってたんだけど・・・。」

 俺は以前彼女、吉弘に晶子を人質に取って俺に付き纏う理由を話した時のことを智一に話す。智一は納得したような呆れたような、何とも表現し難い複雑な表情を浮かべる。

「あの一件が絡んでたのか・・・。あの時祐司は居なかったけど、生協の店舗はひと騒動になったんだ。晶子ちゃんが立ち去るところを携帯のカメラで撮ってた奴も現に居た。ただでさえ女の絶対数が少ないこのエリアじゃ、晶子ちゃんクラスの美人にお目にかかれることはそうそうないからな。美人、と思って話してみたら大抵大学の中か外に彼氏が居るし。」
「智一は彼女から聞いてなかったのか?晶子がこっちに来たこと。」
「否、全然。さっきも言ったように、大学内でのことにはお互い干渉しないって約束してるから、大学で何があったかは俺もそうだが順子も一切話さないんだ。しかし厄介だな。順子は昔から、自分の取り巻きが他の女に靡くのを凄く嫌がるんだ。自分のテリトリーを侵害された、と思ってな。」
「そうか・・・。」
「順子には俺から釘を刺しておく。だが、順子の性格からして俺の言うことをすんなり聞き入れるとは思えないから、用心しておいてくれ。・・・悪かったな。」
「智一のせいじゃないから謝らなくて良い。」

 こんな形で智一が絡んで来るとはな・・・。世の中って案外狭いもんだ。さっきの様子からするに、吉弘と言うあの彼女は、智一には俺に見せたような傲慢極まりない態度に出られないようだ。

雨上がりの午後 第1704回

written by Moonstone

「すまなかったな、祐司。」
「いや・・・。それより智一が彼女と従兄妹同士だったなんて、驚いた。」

2004/11/10

[アンケート終了しました]
 一月ほどトップページ最上段にリンクを貼っておいた、メールフォーム「Shooting Star」に関するアンケートを撤去しました。メールフォームに付随している(回答は任意です)アンケートをご来場者の皆様がどう思っているのか知りたくて急遽設置したのですが、現状で良いようですね。新たにアンケートを設置するかどうかはこれから検討します。ご協力ありがとうございました。
 今日は本業の最後のヤマ場を迎えます。これさえ超えれば半ば、否、実際ノイローゼになるまで悩みに悩んだシステムが軌道に乗ります。勿論次は控えているんですが、長らく引き摺ってきた重荷だっただけに、これから一先ず解放されるというだけでも気分が軽くなります。一旦軌道に乗ればこっちのもの。改良は時間のある時にでも少しずつやれば良いことです。本体がないのに改良も何もありませんからね。
 ページを巡回していると、風邪をひいた、という記述をよく見かけます。私もこの前の日曜に1日寝込んだばかりですし、寒暖の差が激しいこの時期は体調を崩しやすいと思います。年賀状が発売されたりカレンダーも出回るなど年末はもうそこまで迫っています。皆様もお身体を大切になさってください。病気抱えている私が言うのも何ですが、やっぱり「人間は身体が資本」です。
 それにしても驚いたな・・・。まさか智一とこの女が従兄妹同士、しかも幼い頃からの付き合いってことには・・・。そう言えば、智一が自分の家が大きな会社を経営していることを明かしたのは、智一と何度目かの飲みに行った時だったな。それ以外では自分が大会社の社長の息子だってことを言っていない。親の威光を借りるな、と教育されているんだろうか。

「智一だって、今まで何も言わなかったじゃないの。それを今になって・・・。」
「大学内でのことには相互干渉しない、って約束だったよな?」
「それが分かってるなら・・・」
「今のお前はそれをやってるだろう。お前が付き纏ってる男、安藤祐司は俺の親友だ。親友が迷惑を被ってるのをこれ以上見て見ぬ振りするわけにはいかないんでな。」

 智一の口調は、何時にない厳しさを含んでいる。表情も口調に比例して厳しい。何時もの飄々とした、いい加減とも言える様子からは俄かに想像し難い。やる時はやる、というタイプってことか。

「・・・分かったわよ。」

 とは言うものの、吉弘という女の視線は俺と智一の方を向いていないし、表情も謝罪のそれではなくてふてぶてしささえ感じさせるものだ。心からのものじゃないってことが嫌でも分かる。

「またね、智一。」

 吉弘という女が吐き捨てるように言って顎をしゃくって歩き出すと、後ろに居た取り巻き連中はいそいそとその後をついて行く。女と取り巻き連中が食堂から出て行ったのを−奴等が行った先には売店がある−確認してから、智一に向き直る。智一はさっきまでの様子から一転して神妙な表情をしている。

雨上がりの午後 第1703回

written by Moonstone

 明らかに動揺した声の方を見ると、吉弘という女がそういう表情をしている視線も俺の方から逸らしている。今の今まで他人の振りを決め込んでいて安心していたところで、智一に家族関係の詳細まで明かされたことで動揺しているんだろう。

2004/11/9

[嵐過ぎ去り・・・]
 日曜殆ど寝込む羽目になった(でも食事は自分で用意せにゃならんのさ(遠い目))風邪ですが、更新も程々にさっさと寝て昨日時間ギリギリまで寝ていたおかげか、午前中鼻水が多少多かった程度でそれ以降は音沙汰がなくなりました。私は肺炎の罹患歴がありますし(肺炎になりやすい)常用している薬がある関係で迂闊に市販の薬を飲めないので(薬局で確かめてもらわないといけない)、風邪をひきたくないんですよ。小さい頃は冬となれば直ぐ風邪をひいて寝込んでいたという嫌な思い出もありますし。
 とは言ってもまだ病み上がり状態ですし、今日明日は仕事のヤマ場が連続しますので、適当なところで寝ます。寝不足が重なると免疫系が弱まるので、また風邪をひくどころか、場合によってはこじらせて肺炎に発展、ってことも十分ありえるので(肺炎になった時がそうだった)。
 冬至にかぼちゃを食べると風邪をひかない、と言いますが、風邪をひく前日(土曜)にかぼちゃの煮込みを作ってたりします(汗)。2時間じっくり煮込んだだけあって美味く仕上がりましたが、タイミング悪いよ・・・。まあ、冬至にかぼちゃを食べれば風邪をひかない、っていう保証がないことくらい知ってますが、小さい頃から散々風邪に苦しめられて来た身としては、風邪の回避方法があるならそれを執りたいところです。

「驚くのも無理はない。大学では他人の振りを決め込んでたからな。だが、ここまで付き纏われたんじゃお前もたまらんだろうからな。」
「付き纏うだなんて人聞きの悪い・・・。」
「黙ってろ。」

 智一は再び吉弘という女を黙らせる。

「もっと厳密に言うと、俺の親父の弟の娘、つまり父方の従姉妹だ。俺の親父が会社経営してるのは知ってるだろうが、俺の親父が代表取締役会長兼社長で、親父の弟、つまり叔父が取締役副社長だ。親父の会社は俺の親父と叔父が手を組んで今の規模に育て上げたっていう経緯もあるんだが。」
「・・・。」
「親が兄弟で、しかも二人三脚で会社を大きくしてきたっていう関係もあって、後ろの女、吉弘順子とはガキの頃から家族ぐるみの付き合いなんだ。住んでる地域も一緒だったから小中高と同じで、しかも大学まで同じときたもんだ。俺は一年浪人した関係で学年が同じになっちまったんだが、同じ大学、しかも学部まで同じだって知った時には驚いたぜ。」
「智一。お前の父さんの方の従姉妹なら、彼女・・・吉弘さんの姓はお前と同じ伊東になるんじゃないのか?」
「俺の叔父が順子の家、つまり吉弘家の婿養子になったんだ。吉弘家は俺の地域じゃ名の知れた旧家で、俺のお袋はそこの出なんだ。だが、跡取りがなかったのとさっき言ったように俺のお袋が吉弘家の出ってこともあって、叔父が家族ごと吉弘家を継いだんだ。」
「そうか・・・。」
「大学が同じ、しかも昔から家族ぐるみの付き合いしてきたってこともあって、俺が此処に引っ越す時のマンションも同じにされたんだ。だが、大学の中では学科も違うし、親族関係が出るとややこしくなるから、親族関係を引き合いに出して双方干渉しない、って約束で今まで来たんだ。だからお前が順子に付き纏われるようになってからも他人を装ってきたんだが・・・。」
「そ、そんな目で見ないでよ、智一。」

雨上がりの午後 第1702回

written by Moonstone

「お前の後ろの女、吉弘順子は俺の従姉妹だ。」
「え?!」

 思わず聞き返してしまった。あの女が智一の従姉妹だったとは・・・。

2004/11/8

[ふ、不覚・・・]
 風邪ひいたようです。鼻水とくしゃみに続いて発熱しています。睡眠不足が祟ったようです。積もる話はまた後日・・・。

「だ、大学内で名前で呼ばないって約束でしょ?智一。話があるのは貴方じゃなくて安藤君の方なんだから。」
「祐司は俺の親友だ。俺としても、これ以上お前が親友に妙なちょっかい出すのを傍観出来ないんでな。」

 やっぱり智一と吉弘というこの女は知り合いのようだ。それに口ぶりからするに、単なる顔見知りというレベルのものじゃない。智一はこの女に関する情報を教えてくれたが、それは既存のルートじゃなくて智一独自のものだったんだろうか?

「智一。お前、知り合いなのか?」
「・・・ああ。大学では秘密にしておくつもりだったんだが、ここまで来た以上、被害者の祐司に黙っておくわけにはいかないから、説明する。」
「智一。貴方・・・。」
「黙ってろ、順子。元はと言えば、お前が女王面して俺の親友にまで因縁つけてきたのが原因だろう。」

 智一が吉弘という女を黙らせると、何時になく神妙な表情で俺に向き直る。

雨上がりの午後 第1701回

written by Moonstone

 ?智一が制した・・・?しかも名前で。智一はこの吉弘って女を少なくとも俺よりはよく知っているが、知り合いなのか?

2004/11/7

[続・ケータイで見る]
 昨日お話しした携帯ページのことですが、一言で「携帯」と言っても色々あるんですよね(今更)。主だったところではドコモ、au、ボーダフォン、TUKAというところですか。私が知っている携帯ページありのページ(ややこしいな)をPCで見てみると、かなり小ぢんまりしていて文字中心、画像はあっても小さめで文章量にも限度がある様子。見たのは2、3箇所ですから断言は出来ないのですが、かなり絞り込まないといけないようです。
 まあ、本体(つまり此処)の更新が最優先ですから毎日とはいかないまでも、昨日もお話ししたように、前に携帯のカメラで撮影した写真の展示くらいは出来るのではないかな、と。画像のサイズは今のサイズで良さそうな気がしますし。
 ・・・待てよ?両親の携帯の液晶はモノクロで、液晶画面のサイズも小さかったような・・・。見て回った携帯ページの画像でも、何種類かサイズやフォーマットがありましたし・・・。愛着があったりして以前の機種(と言っても2、3年前でしょうが)に対応させようとなると、それくらいの配慮は必要かな・・・。写真掲載の際にサムネイルを作るくらいにしか使っていない画像ソフトを色々試してみる必要がありそうです。カラー表示出来る機種を持っている方でも「モノクロの方が味があって良い!」という主義の方も居られるでしょうし(私もモノクロ画像は好きです)、工夫の価値はありそうです。
 昼食をほぼ食べ終わったところで背後から声がかかる。この高飛車な物言い・・・。もしやと思って振り返るとあの女、吉弘とかいう女が取り巻き連中を後ろに従えて立っていた。向こうにとっては奇遇かもしれないが、こっちにとっては偶然以外の何物でもない。

「電子工学科は今日実験だそうだから、今は遅めの昼食ってところかしら?」
「そういうこと。じゃ。」
「ちょっと!こっちから話しかけてるのにそんな態度はないでしょ?!」

 俺が食事に向き直った途端にヒステリックな声が飛んで来る。・・・それはこっちの台詞だよ。出くわしたのが偶然なら、声をかけてきたのは向こうだ。関わり合いになりたくないと思っている俺の態度が気に食わないからと言って八つ当たりするのは勘弁して欲しい。

「大体ね、貴方何様のつもり?彼女呼び寄せて私のファンを掠め取らせたら、次は無視。馬鹿にするのも程々にしてもらわないと困るのよね、こちらとしては。・・・。」
「・・・。」
「ちょっと!まだ無視するつもり?!」

 こういうタイプには関わるだけ損だ。俺はヒステリックな声を背に受けながら食事を進める。昼飯が不味く感じるが我慢するしかない。・・・こういうところでも何か理不尽さを感じる。

「・・・。とことん無視を決め込むつもり?信じられないわね、その女を見下す態度。彼女に対してもそんな態度なのかしら?」
「・・・やめろ、順子。」

雨上がりの午後 第1700回

written by Moonstone

「あら、奇遇ね。」

2004/11/6

[一安心]
 本業の方は(昨日ドタバタしましたが)本格稼動の具体的日程が決まりましたし、今日の更新では1年以上更新出来なかった広報紙Moonlight PAC Editionの最新号発行、前置きとして5年以上前の作品を引っ張り出して来た(個人的には好きな作品ですけど)「オヤジ達に捧ぐ日常雑話」の最新作を公開しました。今日は此処では久しぶりに、自分の作品に関するお話をすることにします(そういうのもどうかと思う(汗))。
 前置きとして「Where is my Daddy?」を公開していた背景は、今日公開の巻の9「再会の時」のため、もっと正確に言えば大和タケシを登場させるためだったんです。構想自体はずっと前、「Where is my Daddy?」を書き終えた頃からあったんですが、このページの運営が軌道に乗ってその管理運営に専念する中で、エヴァSSは「魂の降る里」に全力投球する形になってなかなか新作に手が出せず、ようやく今日に至る、というわけです。
 で、大和タケシを登場させるにあたり、彼には「Where is my Daddy?」でシンジとアスカの二人に密接に関わったことがあるだけに、この部分を知らない方には片手落ちに映るのではないか、と思ってこういう措置を執ったわけです。今はようやく大和タケシを再始動出来た安堵感に浸っています。「魂の降る里」は勿論ですが、「オヤジ達に捧ぐ日常雑話」など他のシリーズも順次更新していこうと思っています。お楽しみに♪

「特に電話じゃなければいけない、ってこともないからな。」
「今声を聞きたいとか思わないのか?」
「遠くに居るわけじゃないし、事前の連絡もなしに携帯に電話をかけると不安になるだろうから、必要時以外は使わない。別に電話代ケチってるわけじゃないが。」
「携帯って、何時でも何処でも電話出来るから『携帯』っていう略称で通ってるようなもんだぞ。晶子ちゃんだって、お前から電話がかかってくれば喜ぶと思うけどな。」
「話は大学との行き帰りでも出来るから、それこそ緊急のことでもなければ、その時すれば良いだろ?」
「まあ、そういう考えもあるか。」

 智一はちょっと呆れたような表情を見せる。智一の言うことは分からないでもない。そもそも携帯を持っていて電話番号やメールアドレスの交換とかをしない−晶子とは交換してるから正確には「1人限定でしている」だが−というのは、「常識」から考えれば異常だろう。だが、俺と晶子の場合、携帯は言わば非常連絡手段として持ったから、相手と以外交換する必要はない。
 晶子以外で携帯を使う時間や手間を、着信音作成に注ぎ込んでいると言っても過言じゃない。普通は逆なんだろうが、こう使わなきゃならないっていう決まりはないんだから、周囲の迷惑になる使い方をしなければ−電車の車内、特に混雑している時の会話は勘弁して欲しい−どう使おうが構わないはずだ。
 晶子が今どうしているか気にならないというわけじゃない。むしろ気にしている方だ。「便りがないのは良い便り」と言うが、携帯と言う何時でも何処でも繋がる手段を持ってしまうと、便りがないと不安に思う。それが増幅して、何かあったんじゃないか、何をしてるんだ、といった疑念に変わることがないとは言えない。
 だが、以前田畑助教授の件で俺が一方的に絶縁を宣告した時に仲介してくれた潤子さんに諭されたように、信じることが肝要だ。晶子は同じゼミの連中に、旦那とお揃いであの会社のプランだから旦那と以外は使わないだろうと、端的に言えば仲間外れにされていると言っていた。それを信じるしかない。信じなかったら・・・待っているのは破局だ。それだけは絶対御免だ。今の幸せは絶対手放したくない。

雨上がりの午後 第1699回

written by Moonstone

 だが、電話をする気にはなれない。晶子とのやり取りは「今から迎えに行く」とか「今此処に居ます」とかそんなものだから、メールで事足りるというのもあるが、それを差し引いても、電話を使おうとは思わない。

2004/11/5

[ケータイで見る]
 眠たさに任せて断続的に寝てたら、とっくに日付変わってました(汗)。今日も仕事があるので、今構想していることと併せた話題をお話します。「辛口話が聞きたい!」という方には申し訳ないです(ぺこ)。
 半ばノイローゼになるほど、時には職場で朝から日付変更線超えるまで詰めて取り組んで来た、システムの稼動の具体的日取りが急に固まりました。ソフトがどれだけ出来ていても、それを動かす端末(PC)がなけりゃ夢物語なわけで。それは企業が外部に公開しているWebページだけではなくて、此処のように個人で運営しているWebページもそうですし、企業内のシステムもそうです。よくソフトウェアとPCは鶏と卵の話に喩えられますが、両方手がけている者の一人としては、PCがなけりゃソフトは夢物語だよ、と思います。
 さて。そのシステムを作る過程で色々なWebページ構築法やセキュリティ問題などに調査したわけですが、携帯端末、身近なところでは携帯電話で見られるWebページの構築にも興味が出てきました。前にお話したと思いますが、9月に帰省した時に植物園に行った際携帯のカメラで嬉々として花を撮影したんですが、お気に入りの一枚以外の行き場がなかったんです。そのままPCに転送してPhoto Group 1で公開、というのも芸がないので、携帯用ページを作ってみようかと。今のページはとても携帯では見られないですし(汗)、思い切った割り切りが必要なようですので、準備中の科学文化研究所用コンテンツの一つとしても取り組める課題ではないか、と思います。
 だが、何か何処かの歯車が狂っているように思えてならない。通学で使う電車の車内で、時と場所も考えずに大声で携帯を使っている光景を目にすることはそんなに珍しいことじゃない。バイトしている店に来る客のマナーは、年を追う毎に悪くなっているような気がする。強面(こわもて)のマスターが回る時は大人しくなるが、俺だと態度を一変させる中高生の客も居る。自分が見下ろす立場になれれば良い、自分さえ良ければ良い、という輩がやたら目に付くようになっているのは気のせいじゃないと思う。
 今持っている携帯。晶子とのコミュニケーションの道具が増えたことそのものは嬉しい。だが、これを持つきっかけとなったのは、自分を常に高みに置いている高慢ちきな女が、自分の地位が脅かされると判断するや否や、取り巻きを侍(はべ)らせて物陰で謝罪を強要して来たことへの報復を未然に防ぐためだ。被害者が身銭を切ってまで自分を護らなきゃならないというのも、何かの歯車が歪んでいることの表れじゃないだろうか。
 俺は一音を調整し終えたところで携帯を畳んで仕舞う。間もなく奴等が戻って来るだろう。そうしたら次の実験の段取りを教えないといけない。連携が不可欠な実験だし、特性測定の例に漏れず、一度でも失敗したら最初からやり直しだ。同じグループになって以来、同じ実験のテーブルに居る時間を探す方が大変な輩のために自分が余分な時間を割かなきゃならない・・・。やっぱり何かが違うような気がしてならない。

 必死の形相で戻って来た奴らに実験の段取りを教え、戻って来るまで間違いがないように復習しておけ、と念押ししてから、俺は智一と一緒に食堂へ向かった。ピークを過ぎた食堂は広々している。流れ作業そのままのパターンを辿って料理が乗った皿や箸、コップをトレイに乗せて、コップに茶を汲んで手近な席に智一と向かい合う形で腰を下ろす。

「それにしても祐司。お前、携帯で晶子ちゃんとやり取りするのは専らメールだな。」

 食べ始めたところで智一が言う。言われてみれば確かにそうだ。今は・・・12時40分を過ぎたところ。その気になれば今此処で携帯で晶子に電話することは可能だ。恐らく晶子は昼飯を済ませているだろうから、電話をしても問題はないだろう。

雨上がりの午後 第1698回

written by Moonstone

 今は携帯を持っていて当たり前だ。インターネットを通じてまったく知らない世界に触れることも出来るし、図書館を駆けずり回らなくても公開中の研究論文から一部失敬することも、その気になれば容易い。

2004/11/4

[道具の使い方]
 道具に意思はありません。使う人間次第で便利で快適なものになりますし、人を(肉体的にも精神的にも)傷つける凶器になりもします。今流行(?)のフリーメールも今更私が言うまでもなく、「道具」の一つです。
 私が迷惑メールに辟易しているということは、此処で何度もお話してきたとおりですし、今でも変わらないどころか益々酷くなっています。「メールアドレスを公開するからだ」というご意見もあるでしょうが、少なくとも私がこのページを開設した1999年から一昨年くらいまでは、感想や意見を募るためにメールアドレスを掲載するのは当たり前でした。掲示板にメールアドレスを付記するのもそうです。先に挙げた類のご意見は結局犯罪において「被害者にも責任がある」として加害者の責任を軽減若しくは免罪するものでしかないと思います。メールアドレスを収集して迷惑メールを送りつける方に根本的責任があるのではないでしょうか。
 私の元に連日舞い込む迷惑メールの中には、某大手フリーメールのアドレスがかなりの割合を占めます。我慢の限界に達した私は、そのフリーメールアドレスを使用したメールは問答無用で破棄するように設定を変更しました。私はその某大手フリーメールは勿論、フリーメールそのものに対する悪い印象を強めています。道具であるフリーメールそのものに罪はありません。利用者を厳密に審査するなどのフリーメール企業の倫理見直しや、DMを含む迷惑メールを送ることそのものがその企業などの印象を悪くしていることを認識して、使い方を改めることを強く求めます。
 智一は携帯を操作して耳に当てる。

「・・・ああ、同じ実験グループの伊東だ。・・・え?何で知ってるか?お前さんと仲の良い奴等から聞き出したんだ。今回は場合が場合だからな。・・・どういう意味か?それは実験の主導権保持者から直々に説明してもらう。」

 智一は俺に携帯を差し出す。自分が説明するより俺にさせた方が説得力があるということだろう。俺は智一から携帯を受け取って耳に当てる。

「電話代わった。安藤だ。今回の実験はどう足掻いても人手が足りない。言い換えれば2つの頭と4つの手じゃ足りない、ってことだ。終われなかったら帰れないのは俺だけじゃない。今何してる?」
『せ、生協を出たところだけど・・・。』
「じゃあ、今直ぐ実験室に戻って来い。実験の段取りを説明する。勿論二人揃ってだ。居るんだろ?もう一人も。」
『い、居る・・・。』
「走って来れば5分もかからない筈だ。とっとと戻って来い。俺からは以上だ。智一に代わる。」

 腹立たしさが再び増してきたのを感じつつ、俺は智一に携帯を手渡す。智一は再び携帯を耳に当てる。

「というわけで、主導権保持者は甚(いた)くご立腹だ。早急に戻って来ないと後でどうなっても知らないぞ?じゃ、実験室で。」

 智一は携帯を切る。脅しをかけたから間もなく戻って来るだろう。脅しと言うより警告か。実際戻って来なかったら本当にぶん殴るかもしれない。

「こういう時携帯は便利だな。何処に居ても直ぐ捕まえられる。相手が電源切ってたり無視したりすればそれまでだがな。」
「便利になるのは良いけど、何か肝心なことがいい加減になってるような気がしてならないな、俺は。」

雨上がりの午後 第1697回

written by Moonstone

「聞き出したぞ。やっぱり知ってた。事情を説明したらすんなり教えてくれた。で、今から電話かけるか?」
「当然。」
「じゃ、早速。」

2004/11/3

[文化とは何か?]
 今日は文化の日。先に文化勲章受賞者と文化功労者が発表されましたが、私達は誰が受賞した云々を言う前に、「文化とは何か」を考えるべきだと思います。あー、最近此処のお話が長くなっているおかげで、連載ストックの消費量が激しい(汗)。ってこれは独り言です。
 中央教育審議会や文科省、政府与党や民主党などは「日本の伝統文化を尊重する心」だの「愛国心」だのを教育基本法に書き込み、その基となっている憲法改悪を狙っています。「愛国心」の欺瞞に関しては以前にもお話しましたので、今回は先に挙げた勢力が語る「文化」の欺瞞ぶりをお話しすることにします。
 「日本の伝統文化を尊重」ですか。率直に言って、それ自身を蹂躙している輩が文化を口にするなどおこがましいの一言です。典型的なものが食文化。米を中心とする日本食は海外では低カロリー高タンパクの健康食、ということで海外では大流行です。英語の授業で「Do you know Sushi?」などと習った方も居られるでしょうが、今外国人に、特に中国韓国や欧州出身の外国人に言ったら大笑いされるのが関の山です。ところが日本ではどうか。ファーストフードが蔓延し、高カロリー摂取で糖尿病などが若年層でも急増しています。
 その一方、日本では日本食の原材料である米など第一次産業を保護するどころか、「市場原理」の美名の下に輸入品と価格競争をさせる動きが加速しています。欧米では農業収入を税金で安定させるのが大勢です。「自国の食料は自国で賄う」という食料主権は、前にもお話したと思いますが、食料が戦略物資であることを考えれば国策として第一に考えるべきことの一つです。ところが先に挙げた勢力はそれと逆行していますし、マスコミも「規制緩和」「市場原理導入」で煽り立てる。こんな輩は要りませんし、こんな輩が言う「文化」など聞くに値しないものです。そんなに規制緩和が万能ならマスコミにも再販制度という規制を撤廃させるべきです。
 文化とはカビの生えた精神論ではありません。その国やその地域に応じた食や芸術、歴史を刻むといった有形無形財産と、海外から入って来る様々なものを適切に取捨選択して取り入れる有形無形の財産との融合の産物です。「文化とは何か?」を考えるのもそうですが、その立脚点を見詰めることも肝要ではないかと思います。

「今は食堂も混んでるし、奴らを捕まえる手がかりもないから、休憩がてら此処で待つか?」
「そうだな。行き違いになったら馬鹿馬鹿しいし。」

 とりあえず今後の方針が固まったから、食堂のピークが過ぎるまで待つとするか。俺は椅子に座ってセーターの首元に手を突っ込み、携帯を取り出して広げる。まずすることはメール確認。・・・ないな。実験中にも振動がなかったし。その次にすることは、携帯の着信音の仕上げ。今は楽譜がないから、ベタ打ちが終わっている部分から少しずつ調整するわけだが。

「おっ、早速晶子ちゃんとのラブラブ通信か?」
「今は違う。着信音の調整だ。」
「ああ、祐司と晶子ちゃんの携帯の着信音は祐司が作ってるんだったな。どのくらいまで出来た?」
「今のところはここまで。」

 俺は調整していた「Fly me to the moon」のギターソロバージョンを智一に聞かせる。こういう場合は言うより聞かせた方が手っ取り早い。

「前聞いた時よりまたギターっぽくなってるな。」
「そうか?自分で聞いてると聞き慣れてるせいもあるのかもしれないけど、どうかな、って思う時があるんだが。」
「否、前に聞いた時よりギターらしくなってる。それにしても本当にまめだな。晶子ちゃん、喜んでるだろ?」
「ああ。それが一番嬉しい。」
「おーおー、惚気てくれるねぇ。」

 智一は片を肘で軽く何度も小突いてくる。俺は照れ隠しに笑いながら着信音の調整を再開する。着信音は本当に少しずつだが完成形に近付いている。たまにMIDI版と比較すると何か機械的な印象を感じる時もあるが、ベロシティの可変領域が違うから−MIDIも生の音と比較すれば機械的だ−仕方ない。物理的に出来ないことに何時までもこだわっていても何も進まないから、これはこれ、と割り切るのも大事だと思う。

「あ、帰って来たな。」

 俺が携帯から顔を上げると、実験室のドアの一つから−俺が居る実験室は広い−わらわらと人が入って来る。昼食を終えて帰って来たグループか。と思ったら智一が走っていく。早速奴らの携帯の番号を聞きに行ったようだ。フットワークが軽いな。自分が言い出した手前もあるんだろうが。少しして智一が戻って来た。その手には携帯が握られている。

雨上がりの午後 第1696回

written by Moonstone

 だが、奴らが捕まらないことには実験再開の目処が立たない。居たところで実験がスムーズに進むわけじゃないことは分かりきってるが、今回は兎に角人が居ないことには話が進まないから、何としても捕まえないといけないことには変わりない。

2004/11/2

[スペインに学ぶべきこと]
 残念ながら、イラクで武装勢力の人質になっていた日本人が遺体で発見されたとのこと。昨日もお話ししましたが、人質をとって要求を突きつけて受け入れられないなら殺すなど、どんな理由があっても許されるものではありません。言うまでもありませんが念のため。
 ここで日本はスペインに学ぶことが必要でしょう。スペインは当初米英と共にイラク侵略戦争推進の筆頭格でした。当時の政権が日本と同じく(日本ほど従属的じゃないですが)アメリカ追随外交だったため、そういう選択をするのは必然的とも言えます。ところが国内では反対世論が圧倒的多数。日本では殆ど報道されませんでしたが、今年3月20日に世界一斉に起こったイラク侵略戦争反対、国連査察継続を訴えた集会やデモは、右派政権のイタリアでも各都市で十万人単位で実施され、スペインでも大規模なものでした。
 その後総選挙を迎えたスペインで大規模な列車爆破テロが発生し、多数の犠牲者を出しました。当時の政権は日本や米英と同じく「テロに屈するな」をスローガンにして、アメリカも当然圧力をかけましたが、スペイン国民はイラクからの撤兵を訴えた左派政党に政権を渡しました。その後もアメリカの圧力を受けながらもスペインは自国軍隊をイラクから全面撤退させました。
 スペインはNATO(北大西洋条約機構)の一員、つまり日本と同様アメリカと軍事同盟(「安保条約」と言って通用するのは日本だけと思った方が良いです)を締結している国の一つです。海軍は日本と同じくイージス艦(主に空母を護衛する対空攻撃能力の高い軍艦)を所有しています。しかし、アメリカの度重なる圧力を跳ね返してイラクから軍隊を撤退させました。出来損ないのミサイル一つで国境を接する隣国より大騒ぎしたり、その国の実情をスパイもどきに報道する暇があるなら、スペインの姿勢に学ぶべきではないでしょうか?

「奴ら、何処へ行きやがった?」

 俺は実験室を見回すが目標、すなわちグループの残り2人の姿が見えない。・・・何時ものことと言ってしまえばそれまでだが、今日は首根っこを掴んで引き摺り戻しでもしないといけない。

「今昼休みだから、飯食いに行ってるんじゃないか?」
「あいつら・・・!」
「今は食堂も混み合ってる時間帯だし、食堂に乗り込んで探すのは骨が折れるぞ?」
「じゃあ、このまま指咥えて待ってろって言うのか?」
「奴らと特に仲が良いグループが居ないから、そいつらが帰って来るのを待って、携帯の番号を聞き出すのが一番手っ取り早いと思うぜ?」
「教えると思うか?」
「教えなきゃ実験が進まない、とでも泣きつくしかないか。」
「冗談じゃない。そんなこと出来るか。」

 思わず吐き捨ててしまう。どうして俺が手伝いすらろくにしないで、レポートのクローンだけ作る奴らを引っ掴むために他人に泣きつかなきゃならないんだ。こんな理不尽な話、到底容認出来ない。そんなことするくらいなら、今から食堂に乗り込む方を選ぶ。

「奴らの携帯の番号は俺が聞き出すから、祐司は気にするな。」
「智一。」
「俺がこんなこと言っても説得力がないだろうけどさ。祐司の気持ちは分かるつもりだぜ?そのくらいの泥は俺が被るから、祐司は引き続き実験をリードしてくれりゃ良い。」
「智一・・・。」

 何だか急に自分が大人気なく思えて来た。どのみち奴らは答えられる筈もない徹底的な質問攻めに遭って、その後説教を食らう。先週教官が内密の話と前置きしてこっそり教えてくれたが、実験の様子は全て仮配属されている研究室の教官に報告されて、就職の際の教官推薦に悪影響を及ぼすと言う。当然と言えば当然だが不真面目にしている分の報いは必ず受けるわけだから、目くじらを立てるもんじゃないのかもしれない。

雨上がりの午後 第1695回

written by Moonstone

 そう、問題はここからだ。これから先を進めるにはどうしても人手が足りない。今までは二本しかない手と智一を指示することでどうにか乗り切って来れたが、今回はそういうわけにいかない。最低でも1人必要なんだが・・・。

2004/11/1

[何人死ねば分かるのか?!]
 このお話をしている時点では未確認ですが、ニュースをチラッと見たところ、この前イラクで武装勢力に拉致された日本人の遺体が発見されたとのこと。事実だとすると、襲撃されたジャーナリストに続く死者になります。
 無論、人質をとって要求を突きつけ、それが受け入れられないなら人質を殺害するというのはどんな理由があっても許されざる蛮行です。同時に何故日本人が人質になったのかを考えなければいけません。他の外国人の人質事件でも共通しているのは、イラクに駐留しているその国の軍隊の撤退要求。イラク侵略戦争(何故「侵略」なのかはトップページからリンクしている決議を参照のこと)を主導した米英軍と日本人は、少なくとも武装勢力から見れば同じ、すなわち敵なのです。
 「自衛隊は復興支援をしている」と言いますが、他国の領土に武器を片手に乗り込んで広大な陣地を造り、そこに篭って1日何億円もの費用がかかる給水活動の何処が復興支援なのか。「テロには屈しない」「テロとの戦い」と言いますが、復興支援で何故テロや人質事件の標的になるのか。これら自衛隊のイラク展開が生んでいる根本的問題を直視しない限り、次の犠牲者が自衛隊から出ても何ら不思議ではありません。
 人をコマに見立てて戦争ゲーム、否、戦争ごっこをしている気分に浸っている大統領や首相、「取材」と称してそれを傍観しているマスコミに、「復興支援」だの「テロとの戦い」だのという資格などありません。国民は捨て駒ではないということをまったく認識していない大統領や首相は勿論、それを問題視しないばかりか「自己責任」を持ち出して人質を非難するマスコミなど言語道断。自衛隊即時撤退世論で政府与党を突き上げると共に、それを支持支援するマスコミを今こそ切り捨てるべきときではないでしょうか?「殺し殺される」などと人間の生死を他人事のように言う輩がのさばる現状を、国民は直視すべきです。

「明日も腕によりをかけて美味しい料理を作りますからね。」
「それを期待して実験を終わらせるようにするよ。」

 明日の実験も終了が何時になるかまったく予想出来ない。研究室や進級の実情を知っていることを明かした智一は勿論、他の二人も程度の差はあってもその手の情報を仕入れているんだろう。奴等がどれだけ言っても説教を食らっても動こうとしない理由は分かった。だが、俺はそれに便乗する気になれない。要領が悪いと言われればそれまでだが。
 紅茶を啜りつつこの前の披露会を思い出す。携帯や指輪を見て着信音を聞いて歓声を上げた。俺が晶子をエスコートしたら羨望の声が上がった。晶子はそういうことに幸せを感じて学生生活を送っているんだろう。俺は早くその幸せをもっと確固たるものにしないといけない。研究室を絞り込んで進級や配属の条件を整えるのもそうだが、何より俺が進路を決めないといけない。
 晶子。お前が抱いている、他人から見ればささやかな、ちっぽけなものかもしれないが、お前が何よりも大切にしているその幸せを壊して笑顔を涙でぬらすことは絶対しないからな・・・。だから・・・もう少し待っててくれよな・・・。

 翌日。昼休みの時間だが俺はまだ実験室に居る。実験の途中だからだ。電動機に限ったことじゃないが、特性の測定は大抵一度開始したら中断は出来ない。中断前後で測定条件が変化することで特性も変化する可能性がある、というのが理由だ。実験前後でその時の室温、湿度も測定して−部屋に温度計と湿度計がある−大幅な変化があったらやり直す必要がある。
 それに加えて、測定は出来るだけ速やかにしないといけない。余計に時間がかかるとそこで室温や湿度といった測定条件が変化して、これまた実験やり直し、ということもあるからだ。智一から聞いた話では、俺が居る学科はまだましな方で、化学実験がある分子工学科は実験が徹夜になることもあるそうだ。実験で気楽さを求めることそのものが間違ってると言えなくもないが。

「祐司。データ取ったぞ。」
「ようやく区切りがついたか。」

 智一の声で俺は電動機のスイッチを切る。慣性で回転を続ける大きな電動機の前で、俺は手の甲で額の汗を拭う。実験室には暖房は入っていないが、あれこれしていると汗が出て来る。

「今日は順調だな。」
「今のところは、な。問題はこれからだ。」

雨上がりの午後 第1694回

written by Moonstone

 晶子は少しも嫌そうな様子を見せない。俺と一緒に居ること。ただそれだけでも満足してくれる。バンドの面子の言葉じゃないが、こんな燃費の良い女はそうそう居ないだろう。何だかんだ言っても俺は恵まれているな。

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