芸術創造センター こぼれ話
Dropped talk of Performing Arts Center

2004年7月31日更新 Updated on July 31th,2004

2004/7/31

[同じことの繰り返し(10)]
 7月最後である今日の更新で、Side Story Group 1にて5年ぶりに名作(迷作?)「Where is my Daddy?」を蘇らせました。収録コーナーにありますとおり、次回作への布石になるものですので、未読の方は勿論、既読の方も是非ご覧下さい。今日は午後から出張です(汗)。来週は職場のレクリエーションの実行委員会の一員として午後から行動するので、実質休みは1日か。まあ、仕方ないでしょう。それでは、論評の続きを。

 (続きです)オウム真理教などと形は違えど、「血液型性格判断」なるものの本質は結局「お前はこういうものだ」と十分な吟味もなく決め付けて無用な選別を行い、相互理解と共同を妨げるばかりかそれに逆行する極めて有害な選民思想です。それは先に触れたように「血液型性格判断」が単なる日常会話の話題の域を超え、教育や就職といった、本来個人の適性や能力や鍛錬に委ねるべき問題に持ち込まれていることからも明らかです。
 此処まで来れば「血液型性格判断」なるものの科学としての立脚点の欠如や有害性がお分かりいただけたのではないでしょうか。しかし今度は「占いとかと同じで、良いところだけ信じるのなら良いだろう」という「抵抗」が生じてくるかもしれません。一見もっともな主張に思えますが、これには重大な矛盾があります。「占いとかと同じ」と逃げ道を作る一方で「信じる」ことを正当化しているのですから。結局この「抵抗」も「血液型性格判断」を肯定する立場であることを証明しているに過ぎません(続く)。

「その過程で晶子のところに噂が舞い込んだり、妙な誘いとかがあったりするかもしれない。その時はまず最初に俺に面と向かって問い質してくれ。俺はその時の状況なんかをきちんと話すし、勿論晶子が要求する分質問にも答える。それで・・・良いか?」

 晶子は頷いて俺に身を委ねてくる。俺の背中に腕が回り、軽く、しかし強く力が篭る。俺の左肩口に頭を乗せている晶子のトレードマークの一つ、茶色がかった長い髪からは仄かに甘酸っぱい香りが立ち上っている。
 やっぱり心の何処かに、微かではあっても不安があるんだろう。田畑助教授絡みのトラブルとは、俺と晶子の立場が今と逆なだけだ。その不安、始まりに付き纏う終わりという不安が最悪の形で現実のものになるんじゃないか、またあの痛い思いを味わわされる羽目になるのか、という不安は失恋した、それも相当相手に入れ込んでいなければ分からないものだと思う。
 だから今の晶子に、俺を信じろ、とか、俺を疑うのか、とか念押ししたり恫喝したりすることは出来ない。自分からして裏切りと取れる行為を絶対に避けて、不安を自然消滅させるしかない。

「祐司さんが私を捨ててその女性に走ることはしない、と思ってます。でも・・・どうしても不安が拭いきれないんです。信じてる人を、愛してる人を疑いたくない。そうは思ってもどうしても・・・。」
「・・・。」
「100%信じきれない時点で言い訳がましい、って思われても仕方ないとは思います。でも・・・気になるんです。祐司さんにとって初対面のその女性が、祐司さんの名前と顔を一致させていたことに加えて、学科も学年も知っていたことが・・・。その女性の意図は分かりません。でも、意図はどうであれ祐司さんに接近しようとしている、って思わざるを得ないんです。」
「言わない方が良かったのかもしれない。晶子を不安の渦に放り込むことになっちまったことには変わりないから・・・。だけど、黙っておいていきなり変な噂が晶子の耳に入ったら、もっと不安にさせることになるかもしれない。ついこの前自分との結婚を公言したのにどうして、って思うかもしれない。」
「・・・。」

雨上がりの午後 第1601回

written by Moonstone

 俺は身体を晶子に向けて両手を晶子の方に置く。晶子は驚きで目を見開いて俺を見る。

2004/7/30

[同じことの繰り返し(9)]
 あう・・・。転寝してたら日付変わってました(汗)。薬を飲まないとどれだけ疲れていてもごく浅い眠りにしかならないので、その間のラジオの音声と夢(この場合は幻覚?)がごっちゃになったものが頭の中で展開されてました。最近大麻に手を出す青少年が増えているようですが、そんなに幻覚体験がしたいなら、私のような身体になることです。ただ、治療に何年掛かるかはまったく予想出来ませんので(私は4年かかっても完治してません)その点はお忘れなく。それでは、論評の続きを。

 (続きです)では、何故そんなおよそ科学と言えない代物を持ち出すのか。そこにはお手軽に人を選別したいという思惑の需要と供給があるからです。近年の教育「改革」なるものでは殊更「ゆとり」や「個性」が叫ばれていますが、実際は「優秀な人は現在の支配体制の継承してより高度且つ強固なものにするようにし、それ以外の(大多数の)人はその支配体制を支える従順な僕(しもべ)になるように」という二極化が際立っています(「見解・主張書庫」参照)。その歪みに晒されている大多数の人は自己を喪失し易く、それが暴走すると自己否定が他者の否定にまで発展します。これは自殺者の激増や衝動的且つ凶悪な犯罪の激増に見られます。
 自己喪失に陥っている人は他人との交流を避ける傾向にあります。自分の言動を批判されることでただでさえ薄らいでいる自己が否定されると恐れているからです。そんな背景がありますから、お手軽に人を選別する手段が欲しいという需要が生じ、それに応えた供給の一つが「血液型性格判断」であり、かつてはオウム真理教などのカルト的宗教だったのです(続く)。
 それらを踏まえると余計に分からなくなってきた。何であの吉弘って女は俺の名前も学科も学年も知ってて、俺に絡んできたんだろう?晶子の言うとおり、何かの事情で関心を持っているようだが、こういう場合は迷惑行為でしかない。

「ま、適当にあしらっておけば、そのうち諦めると思うけど。」
「そうだと良いんですけど・・・。」

 晶子の声のトーンが急に落ちる。表情もかなり曇っている。不安なんだろうか?俺があの女の勢いに押されて自分を捨てたりしないか、と。俺は左手を晶子の右肩にそっと置く。

「断る時はきちんと断るから大丈夫。先週結婚宣言までした相手を捨てるようなことは絶対しないから。」
「そう・・・ですよね。」

 とは言うものの、晶子の口調は何時になく歯切れが悪い。嫉妬・・・か?俺が晶子を捨ててあの女の取り巻きになるという不安から生じるそれを抑えきれないんだろうか?そう言えば晶子は俺と付き合う前、今の大学に入る前に大恋愛をして、一緒に居よう、って約束したのにふられたんだったな。だから不安なんだろう。あの悪夢がまた現実のものになるんじゃないか、って。

「その人を好きであればあるほど、気持ちを反故にされた時の反動が大きくてどうしようもなくなるってことは、俺にも分かるつもりだよ。晶子とは比較にならないかもしれないけど、俺もそういう経験したから。」
「・・・。」
「俺と晶子はお互いそんな古傷を乗り越えて、今こうして一緒に居るんだし、先週は俺も結婚を公言した。今俺と晶子が左手薬指に指輪を填めている意味を、大学時代のお遊びにするつもりなんてこれっぽっちもない。」
「・・・。」
「けれど、心を引き裂かれるような深さだった古傷が何かの拍子で疼くことはある。以前の俺がそうだったし、今は晶子がそうなんだと思う。勿論相手を信じたいし自分を裏切ることはしないと思いたい。だけどもう二度とあんな思いはしたくない。そんな心の軋轢が生じても無理はないと思う。」
「・・・。」
「どれだけ、信じてくれ、とか、安心しろ、って言われても軋轢は100%消えないと思うからもう言わない。俺は行動で晶子の心に生じた軋轢を消すようにする。言葉を並べるより行動で実証する方が確実だろうから。ただ、これだけは憶えておいて欲しい。」

雨上がりの午後 第1600回

written by Moonstone

 それに高校までは進級毎にクラス編成が変わったから、ある程度横の繋がりってのもあった。現に高校時代のバンド仲間は5人バラバラだったし、当時付き合っていた宮城とは同じクラスになったことがなかった−新学期早々見ず知らずの奴に「彼女と一緒のクラスになれなかったんだな」と言われたこともある−。大学はそんなことがないし、個人の裁量が格段に大きくなるから、極端な話実験以外であえて他人と関わる必要はない。

2004/7/29

[同じことの繰り返し(8)]
 このところ更新時刻が後ろにずれ込んでいますが、大きな原因は睡眠リズムが乱れているせいです。メールと掲示板のチェックはきちんとしてますので(メールは9割9分ウィルスかDMかですけど(怒))ご安心を。それでは、間隔が空きましたが論評の続きを。

 (続きです)統計において基本的且つ重要なことは「データを純粋に集めること」です。出てもらっては困る(予想外など)データが出て来た場合、それを切り捨てて都合の良いデータを集めてこういう傾向が出た、と主張するのは科学と言うに値しません。集めたデータから今までの定説や常識などでは合理的説明が出来なくなったら論議を重ねて新たな体系を形成する、というのが科学というものです。自分の主義主張に都合の良いように文章や事実を解釈したり歪曲したりする典型例が「改憲派」や「新しい歴史教科書を作る会」なのです。
 話を「血液型性格判断」に戻しますが、そこではデータの収集方法が極めてずさんです。「何千何万のサンプル」を誇示していますが、著作の愛読者から特に自説に協力的と判断した人からデータを集めたり、自説の信奉者が自発的に収集したデータを使用するなど、最初から自説に有利なように細工をしているのです。予め用意された結論に向かって用意されたデータなど何の信憑性もありません。「結論先にありき」で進めたものがどれだけ歪んだものになるかは、他の事例でもお分かりでしょう。それが統計まで持ち出した「血液型正確判断」の正体なのです(続く)。
 晶子の表情が微かに曇る。気持ちは分からなくもない。逆の立場だったら目の色変えて詰め寄ってるところだろうな。

「2コマ目が終わって生協の食堂に行く最中にいきなり後ろから『話があるから来てくれない?』とか言ってさ。それだけならまだしも、俺が自己紹介くらいしてからにしろ、って言ってそれが終わったら、これで断る理由はないわよね、って調子で迫って来たんだ。腹立って無視したけど。」
「話がある、って・・・何なんでしょう?」
「俺が聞きたいよ。智一の話じゃ、その女は目に付いた男を取り巻きに加えるらしいんだけど、何で俺に目をつけたのかすら分からないし、そんな状況で話があるから来い、って、しかも高飛車に言われたんじゃ敵わない。」

 愚痴っぽくなったが、今回は場合が場合だけに勘弁してもらおう。思えば晶子と出会ってから暫くは不快に思うことが多々あった。ストーカーという単語が相応しい執念に辟易したこともしばしばだった。だが、あの時は宮城と良くない別れ方をした直後という独特のフィルターがあった時期だし、少なくとも晶子が横柄な態度を取ることはなかった。

「気がかりなのは、相手が俺の名前はおろか学科と学年まで知ってたってことだな。」
「かなり訳ありのようですね。その女性。」
「晶子もそう思うか?」
「ええ。好意かどうかは分かりませんけど、その女性が祐司さんに高い関心を持っているのは間違いないと思います。」
「その女、学部は同じでも学科が違うんだ。俺は自分の学科ですら未だに顔と名前が一致しない奴が居るのに、カリキュラムがまったく違う学科の奴がどういう経緯で俺を知ったのかが気になる・・・。」

 時間割が違っても狭い校舎内で、教室の位置も隣り合っていた高校までとは違って、大学は無駄なくらい広い上にカリキュラムが学部や学科毎にまったく違う。俺が居る電子工学科と電気工学科は同じカリキュラムだがこれは特殊な事例。

雨上がりの午後 第1599回

written by Moonstone

「そこでミスコンテストがあるのって知ってるか?」
「ええ。何でも工学部の女性(ひと)が2連覇したとか。私が居る文学部の他、法学部や教育学部とかから結構出場して、私が1年の時に優勝した女性も出場したそうです。それが何か?」
「今日、そのミスコンテスト2連覇の女が声かけてきたんだよ。」

2004/7/28

[たかがダイアログボックスで・・・]
 仕事でやってるプログラミングで、入力内容が間違ってる場合に「これは駄目!」って内容のダイアログボックス(Wordとかで「上書き保存」を選択した時に出るあの小さなウィンドウです)を表示させようとあれこれ試してたんですが悉く失敗してました。
 文法は間違いないのにどうして?と思い、とうとうサポートセンターに問い合わせ。たらい回しにされるんじゃないか、と訝ってたんですが、対応が凄く丁寧であらびっくり。で、エラーの内容や環境を伝えたところ、「この可能性がある」という情報を提供してもらいました。
 それを読んでみたところ、私が(正確には私のPCが)管理者権限を持っていないために実行出来ない命令がある、ということ。サーバーを設営した人に問い合わせたところ、「セキュリティの問題があるからダイアログボックスは使わない方向で」との回答。たかがダイアログボックスでセキュリティ云々が効いて来るとは・・・(汗)。しょっちゅうセキュリティホールを出している一方でセキュリティを口実に身近な命令を使えなくするってのはどうかと。phpとかに逃げられても仕方ないぞ、これじゃ(溜息)。

「しかし、何でまた祐司に目をつけたんだろうなぁ。」
「さあな。何なら智一、お前が下僕に立候補したらどうだ?高確率で当選出来るぞ?」
「最初見た時はおおっ、と思ったけど性格があれじゃあなぁ・・・。はっきり言ってタイプじゃない。」
「新手の通り魔だな、あれは。」

 キャッチセールスや宗教の勧誘とかは、少なくとも見かけ上は好印象を持たせるように言い寄って来るが、いきなり現れて話があるから来い、なんてのは今時中学や高校の勘違い野郎でもしない。あの分だと相当周り、というか取り巻きとやらからちやほやされてるんだろう。
 ミスコンテストを女性を容姿で差別するものとは思わない。女だって容姿で男を差別するし、ハゲ、チビ、デブだのもっと露骨な表現で切り捨てるから偉そうに言えたもんじゃない。ただ、ミスコンテストでは少なくとも性格が審査の対象にならないことは間違いないようだ。

 バイトが終わり、何時ものように晶子の家で紅茶をご馳走になっている。慌しい時間の終わりを告げる寛ぎの時間。鼻腔を心地良く擽る芳香が仄かな湯気と共に立ち上る液体が半分程残ったカップをテーブルに置くと、小さい溜息が出る。緊張と多忙から解放された安堵感から反射的に出るものだ。

「なあ、晶子。」
「はい。」
「大学祭について何か知ってるか?」
「少しは。1年の時行きました。」

 行ったことがあるのか。大学祭は5月だから、俺と出会う前の話になる。

雨上がりの午後 第1598回

written by Moonstone

 智一はあの女の表情を見たようだが、どんな顔をしようが何を思おうが俺の知ったことじゃない。そもそもあの女が俺に目をつける理由がまったく分からない。単に取り巻きを増やしたいなら、その辺の男を捕まえれば良いだけの話だ。この理系学部のエリアは男の方が絶対数が多いんだから。

2004/7/27

[ケーキトリックの謎]
 昨日帰宅してから何時ものとおり「名探偵コナン」を見ましたが、今回のトリックには首を傾げました。私は元々推理ものが苦手で(トリックや犯人がまるで分からないから)「名探偵コナン」を見るようになったきっかけは「Secret of my heart」を歌う蘭ちゃんを見たこと、というあまりにもミーハーなものだったりします(倉木麻衣さんのファンになったのもこれがきっかけ)。
 今回の凶器は木材でそれをウッドケーキでカモフラージュしたというのがトリックだったのですが、ウッドケーキにすっぽり隠せる程度の太さの木材で人の頭を殴打して殺害出来るのかかなり疑問。それに、ウッドケーキにカモフラージュするなら、生地に包む時間をとりあえず無視しても、デコレーションの時間を考えると推定犯行時間内で隠すのは無理なのでは?
 ケーキのデコレーションは想像以上に緻密な作業です。少なくとも平行で十分な広さの作業台と時間、集中力が要求されます。ウッドケーキ表面の木目模様だけでも慎重にやらないと簡単に表面をを崩してしまいます(事件発生前にコナンが失敗した)。どうせなら平次と和葉を出して欲しかったです。・・・分からない方、すみません(汗)。

「今度は良いわよね?」

 十字路に差し掛かったところで声がかかる、否、呼び止められる。この高飛車な口調、この声・・・。声がかかった左側を見ると、交差点の一角にある街灯の灯りの下にあの女、吉弘が立っていた。何なんだ?この女。しつこいにも程があるぞ。晶子もストーカーかと思うくらい執念深かったが、この女の場合は高慢さがある分癇に障る。本人はそんなこと自覚しちゃいないだろうが。

「話があるの。来てくれない?」
「そんな暇はない。」

 即答して俺は前に向き直って歩くのを再開する。待ち伏せして呼び止めた次は女王様ごっこの続きとは・・・。趣味が悪いのレベルをはるかにすっ飛ばして、迷惑行為に他ならない。こんな馬鹿女に付き合ってられるか。

「ちょっと待ちなさいよ!」

 後ろから声がかかる、否、怒声が飛んでくるが俺は気にしないようにして歩く速さを速める。あんな女に付き合ってたらバイトに遅刻してしまう。それ以前に気分が悪くなるだけだ。

「おい、祐司。良いのか?」
「何が。」
「彼女、かなり怒ってるみたいだぞ。」
「知るか。ある日勝手に出て来て自分の言うことを聞いて当然、って構える女王様の示威行動になんか付き合ってられない。」

雨上がりの午後 第1597回

written by Moonstone

 羨んでいるのかぼやいているのか分からない智一と並んで歩いて行く。急いでも1本遅れは確実だから、正門まで智一と適当に会話して駅に向かうだけだ。

2004/7/26

[本当にどうしよう・・・]
 連日ぼやいていますが、このところウィルスとDMの数が増加の一途です。最高記録は計118なんですが、この分だと記録更新も可能性ゼロではないので弱り果てています。受信してタイトルを見るだけでも(ウィルスやDMのタイトルなんてそんなにありませんからね)うんざりしますし、数が増えて受信に時間がかかると尚更・・・。
 やっぱり今のメールアドレスを無効にする、つまりはプロバイダを移行するしか手はないんでしょうかね。でも、プロバイダは1年契約ですし、ファイルの移動で結構手がかかるのは経験済み。それに各作品の末尾部分を全て変更しないといけないのですが、その手間に割ける余裕なんてありません。
 思うように進まないことばかりでイライラが募る一方です。イライラしたところでどうにもならないことが分かってますけど。やっぱりDM配信を犯罪にする以外ないような気がします。
 どうしてあの「新京の女王」とやらが俺に目をつけたか知らないし、知りたくもない。あの女に言った言葉じゃないが、女王様ごっこなら他所でやって欲しい。高校時代宮城と付き合っていたが、その時俺に言い寄って来た女は居なかったし、それより宮城が他の男と仲良くする様子を見てやきもちを妬く方が圧倒的に多かった。
 嫉妬。キリスト教で7つの大罪の一つに挙げられているそうだが、そうなる意理由は何となく分かる。嫉妬で頭がいっぱいになったせいで、田畑に詰め寄られていた晶子を見て一方的に関係断絶を告げてしまったんだから。あの時は潤子さんが仲裁してくれたから良いようなものの、これからずっとそんなことを期待するわけにはいかない。

 ようやく今日の講義は終わった。この後帰宅してバイトへ直行だ。講義終了は本来の終了時刻を10分程オーバー。何時ものことだが、この10分のずれが結構痛い。電車は余程のことがない限り定刻で動くから、本来ならギリギリ間に合う筈の発車時刻の電車に乗れない。晶子に先に帰るように言ってあるのはこのためだ。

「もうそろそろコート出さなきゃならねえな。」

 夕闇が色濃くなっている。日の入りの時刻は日に日に早くなっている。朝晩の冷え込みもこのところ急速に強まっている。冬はもうそこまで来ている。智一の言うとおり、衣替えとやらをしないといけない時期だ。

「祐司は良いよな。寒くなっても晶子ちゃんが優しく温めてくれるんだからさ。」
「妙な言い回しは止めろ。」
「でも実際そうなんだろ?良いねえ、彼女持ちは。大学じゃすれ違いでも外じゃしっかり繋がってるし。」

雨上がりの午後 第1596回

written by Moonstone

 厳しい口調で智一の言葉を遮る。そんな馬鹿げた真似するもんか。先週晶子との結婚を公言しておいて、あっという間に女王様の下僕になってたら笑い者だ。俺が笑い者になるだけならまだしも、そんな馬鹿な男に捨てられた晶子は生きる希望を失う。大泣きに泣くだけじゃ済まない。確実に死を選ぶだろう。・・・考えたくもないが。

2004/7/25

[気分最悪]
 昨日お話したように、メールチェックすればウィルスかDMのどちらかっていう状況を改めて目の当たりにしたのもありますが、一応起きたもののPCに向かう段階で猛烈に気分が悪くなって、以後食事と買い物以外はずっと横になってました。日付が変わってからのそのそと起き出してお話してます。
 ウィルスは差し出し元を詐称するタイプが当たり前ですのでまあ仕方ないとしても、DMは何とかならないものか・・・。日本では「未承諾広告」と表題につけないと違法になりますが、海外にはそんな類の条文はないようですし(調べてないですけど)。
 DM送った段階で「個人情報無断使用」ってことで犯罪に出来ないものでしょうか。そうでもしないとこの手の迷惑は止められそうにないように思います。自己防衛にも限度がありますし、「犯罪の被害者も悪い」的論調にはどうしても賛同出来ないですから。誰だって好き好んで被害者になるわけじゃなくて、あくまで加害者の側が悪いんですから。
 まったく関心がなかったが、此処新京大学では毎年5月に大学祭がある。高校の文化祭や学園祭の拡大版みたいなものらしい。「らしい」というのは大学祭が土日に行われる関係もあって、俺が実際に見たことはないからだ。
 その前後に「ミスコンテストは容姿で女性を差別するものだ」とかいう主旨のビラを見たことはある。ミスコンテストが女性差別なら、学歴やら収入やらで男を選り好みする方も槍玉に挙げるべきだと思うが、そんな話は聞いたことがない。

「で、さっきの吉弘って娘は俺達みたいな理系学部じゃ絶対数が少ない女で、しかも成績優秀であれだけの美人、そこにミスコンテスト2連覇の栄誉も重なって男の取り巻きが指数関数的に増えて、『新京の女王(クイーン)』って呼ばれるようになったそうだ。」
「ふーん。」

 女王と称されてるから態度まで女王になった、ってところか。思い込みもそこまで行けば立派なもんだ。

「けど、何でそんな女王様が俺に絡んでくるんだ?」
「それは分からねえけど、噂じゃ目に付いた男をあの手この手で自分の取り巻きにすることも女王って呼ばれるようになった一因だそうだ。」
「俺に目をつけてどうするつもりだ?」
「それは俺が聞きてえよ。晶子ちゃんに見初められただけでも十分犯罪的なのに、新京の女王にまで言い寄られるとは。」
「あんなの言い寄られたうちに入るかよ。女王だか何だか知らないけど良い迷惑でしかない。」
「乗り換え、なんて・・・」
「するか。」

雨上がりの午後 第1595回

written by Moonstone

「あの娘、去年と今年の大学祭のミスコンテストで優勝したんだ。」
「大学祭ねえ・・・。」

2004/7/24

[誰か何とかして]
 皆様のところには日に何通メールが届きますか?私は約20通くらい来ます。「それで返事が遅いのか」と思われるかもしれませんが、その約半数がウィルスメール、残り殆ど半数が英語のDMです。まともなメールなんて此処一月殆ど見てないです。
 英語のDMはある時を境に急激に増えました。まさかDMの送信元に何処でアドレスを仕入れたのか、なんて聞くわけにはいきませんが、このページでは至るところにメールアドレスが記載してあるので、それを拾っているのでしょう。
 はっきり言ってメールチェックが億劫です。プロバイダの方ではフィルタリングを一切してくれてないので、受信したものを削除するしかありません。ウィルスの方は勿論自分のPCでフィルタリングしてますけど。何とかならないものですかね・・・。
 俺は前を向いて早足で歩く。呼び止められないところからするに、諦めたようだ。その方がありがたいのは勿論だが。

「なあ、祐司。」
「何だ?」
「さっきの娘(こ)、吉弘順子って言ってたよな。」
「ああ。知ってるのか?」
「名前と噂はな。」
「噂?」

 噂・・・。去年の冬、晶子が文学部の田畑助教授と仲が良いという噂を智一から聞いた。最初は言葉どおりのものだと思っていた。だが、俺から見てあまりの親密度を目の当たりにして、更に田畑本人に嘲笑われたことで激昂した。そして田畑が秘密裏に晶子に交際を迫る現場に遭遇し、はっきり断らない晶子が俺と田畑を天秤に掛けていると思い込んで怒りを爆発させて関係断絶を告げた。
 潤子さんの仲裁で誤解が解けて仲直りは出来たが、田畑はキャンパスセクハラそのものの行為に出た。晶子は俺がプレゼントしたICレコーダーを証拠として大学のセクハラ対策委員会に訴えたが、それを逆恨みした田畑がとんでもないデマメールを大学中にばら撒いた。
 結局田畑は停職プラス減給処分を食らって、今じゃすっかり大人しくなったらしいが、あの事件で噂の恐ろしさを改めて思い知らされた。それを踏まえると、噂は聞き流す程度にするに限る。

雨上がりの午後 第1594回

written by Moonstone

「・・・兎に角、女王様ごっこなら他所でやってくれ。それじゃ。」

2004/7/23

[同じことの繰り返し(7)]
 頭がぼーっとしてます。2日分の睡眠時間を1日分に詰め込もうとしたのが間違いなんですけど。ル・マンって24時間ぶっ続けで1人のレーサーが走るわけじゃないんですね。情報ありがとうございます>O.M様。では、2日空きましたが続きを。

 (続きです)また「膨大なデータの統計」を誇らしげに掲げますが、その統計もデータの収集も出鱈目なものだったりします。まず統計について。χ(カイ)自乗検定を用いているようです。この検定方法は推測統計学といって、確率と統計を結び付ける重要な数学の一つですが、「血液型性格判断」では分析の仕方がご都合主義の塊です。例えば政治家の血液型分布を調べたらO型が多かった場合、本来なら日本人の血液型分布がおよそA:B:O:AB=4:3:2:1ですから必然的に他の職業のO型が少なくなるという現象が生じます。ですからこれをもって「重大な相関関係」が出たとは言えません。それを踏まえた上で分析していないのです。これで「血液型と人間性との重大な相関関係」と提示するのは誤りです。
 そして統計の根本であるデータの収集方法が出鱈目です。曲がりなりにもχ自乗検定を持ち出すなら、データの母集団は対象の基準分布(この場合は先に挙げた日本人の血液型分布)に沿わなければなりませんが、「血液型性格判断」ではこの時点で逸脱しています(O型を多く取りすぎているとか)。これだけでも統計学を使うには失格ですが、更に失格を示すものがあります(続く)。
 吉弘というその女は、少し首を横に傾けて髪をかきあげる。これで文句ないでしょう、と言わんばかりに。

「自己紹介も終わったことだし、来てくれるわよね?」
「・・・自己紹介をしたら即自分の要求を飲め、っていうのか?」

 だんだん腹が立ってきた。この女、何が何でも相手を自分のペースに乗せないと、否、相手が自分のペースに乗らないと気が済まないタイプらしい。晶子と宮城もこういう傾向がまったくないとは言えないが、この女は晶子と宮城とは全然比較にならない。勿論、悪い意味でだ。
 女は俺が自分の思いどおりにならないのが余程気に入らないようで、髪をかきあげた後眉間に急速に起伏を形成していく。その表情で俺を睨む。見据えただけかもしれないが、腕を組んでいることや今までの印象も相俟って、そう表現せざるをえない。

「安藤君。私はね、話があるって言ってるの。分かる?」
「あのな・・・。」
「断る理由はないでしょ?」
「ある。」

 もう我慢の限界だ。こんな女に付き合ってられるか。

「な・・・。」
「俺はこれから昼飯食って午後から講義。帰ってバイト、レポート作成その他諸々。ただでさえ昼時は生協の食堂が混むから早めに行きたかったってのに。」

 早口で一気にまくし立てて一息吐いたところである考えが浮かんでくる。このまま続けてると口汚く罵るまで突っ走っちまうんじゃないか?それは拙いな。前に潤子さん−読みが同じだから余計に嫌な気分だ−に言われたっけ。言う前にはゆっくり10数えなさい、って。1、2、3、・・・10。ちょっと落ち着いた。

雨上がりの午後 第1593回

written by Moonstone

 俺の言葉を遮って、しかも学科と学年まで言い当てたことに一瞬驚いたが、直ぐに落ち着く。俺を俺と知ってて声をかけてきたんだから、名前くらい知ってて当然だ。それにしても、学科と学年まで言い当てたところからするに、何か深い事情があるんだろうか。

2004/7/22

[24時間?48時間?]
 カーレースでル・マン耐久レースってありますよね?ふと思ったんですけど、あれの「耐久時間」ってどれだけかご存知ですか?24時間だったかな〜。否、48時間だったかと思うけど〜。とか思ってます。ついでに、あのドライバーってぶっ続けで走り続けるんだったっけ〜。休憩や食事とかはカウントしないんじゃないの〜。とか思ってます。
 ・・・えー、危機的状態です(汗)。昨日眠気でダウン、とかお話しましたけど、本当に眠れるなら良いんです。昨日はダウン時間が長くて(薬は飲んでません。横になってただけです)更新時間が大幅にずれ込んだので薬を飲んで寝るには時間が短すぎて・・・寝ませんでした。簡潔に言えば徹夜したってことです。はい。
 現在、足の痺れと冷え感に加え、頭が朦朧としていて口の中は酸っぱいです(唾液の代わりに胃液が出て来てる感じ)。おまけに味覚と消化器が機能不全(グラビガ食らった)。更新して巡回済ませたらとっとと寝ます。こんなのでよく2週間も悩んできた問題を解決出来たもんだな・・・。
 名前も名乗らず−晶子の時は智一を通じて自己紹介があった−、しかも「来てくれませんか」じゃなくて「話があるから、来てくれない」と来た。少なくとも初対面の相手に対するものの言い方じゃない。礼儀とか敬語とかは、高校時代にバンドをやってた関係で頭の固い生活指導の教師と散々やりあった経験からどっちかと言うと忌避する方だが、最低限のマナーってもんがあるだろう。
 気分を多少害された俺が前に向き直って歩き始めたところで、右腕を掴まれた。不意打ちで危うく後ろに倒れそうになってしまう。後ろを振り向くと、問題の女が眉をやや吊り上げている。どうしてこの私を無視するのか、と言いたげだ。

「ちょっと。話があるって言ったでしょ?」
「だったら最低限の順序は踏まえたらどうだ?」

 俺の「逆襲」に女は少し戸惑った様子を見せる。

「順序って・・・何よ。」
「君は俺を知ってるみたいだけど、俺は君を知らない。そういう場合はまず自分の名前くらいは言うべきじゃないか?」

 女は反論の糸口を見出せないらしく、俺の腕を離して髪をかきあげてから俺に向き直る。だが、改まっては居ない。簡潔に言えばふんぞり返ってることは変わらない。・・・俺が言うのも何だが、態度でかいな・・・。

「私は吉弘順子。情報工学科3年。」
「俺は・・・」
「安藤祐司君。電子工学科3年。そうでしょ?」

雨上がりの午後 第1592回

written by Moonstone

「何か?」
「話があるから、来てくれない?」
「勧誘の類なら一切お断りだよ。」

2004/7/21

[KO寸前・・・]
 うう、ダメダメです(汗)。足の痺れと冷え感覚が全然消えません。帰宅するや眠気とだるさに苛まれてダウン。食事作って食べて後片付けするのが精一杯です。悪化してきたのかな・・・。周囲の無理解と内側からの真綿で首をじわじわ締められるような拷問と、意識がある間ずっと一人で戦わなければならないので職場じゃ平静を装ってますけど、それが余計に悪いのかも・・・。
 そんなこんなで暫く更新時間が出鱈目に前後しますが(もうしてるけど)、勘弁願います。こういう時に限って仕事の納期が迫ってたりするのはお約束。で、連載のストックが枯渇してるのもお約束。何とかしなければ・・・。

「ちょっと良いかしら?」

 晶子との結婚を公言した週の翌週の木曜日。2コマ目の講義が終わって、智一と一緒に生協の食堂に向かっていた時、不意に後ろから声をかけられた。誰かと思って振り向くと、女だった。・・・誰だ?
 長い黒髪を左手でかきあげるその女は、ファッション雑誌に出てても不思議じゃない顔立ちの整った美人だ。ここまでは晶子とほぼ晶子と同じだ。だが、晶子と決定的に違う点が幾つもある。
 まず目がきつい。大きさそのものは晶子よりやや細めといった感じだが、晶子の目は柔和な印象なのに対して、この女の目はどこか人を見下しているような気分を感じさせる。
 そして服装。晶子の服装はファッションとかにはてんで無頓着な俺とは違って綺麗にコーディネートされているものの、その辺の店で簡単に買えるような服の組み合わせだ。この女もコーディネートの面ではしっかりしているが、かなり派手な印象を感じる。
 そしてアクセサリー。晶子は俺がプレゼントしたペアリングとペンダントを常に身につけていて、イアリングは「落とすといけないから」という理由でデートの時など特定の時しか着けない。サマーコンサートの時もその理由で着けなかった。この女は確認出来るだけでも指輪を複数、ペンダント、ピアスを着けている。服装と相俟って派手な印象を強める。
 客観的に見て美人の部類に入ることは間違いないが、晶子が以前言った言葉を借りれば「住む世界が違う」タイプだと直感する。何にせよ、相手は俺のことを知ってるようだが、俺は初対面だ。宗教の勧誘か?

雨上がりの午後 第1591回

written by Moonstone

 他人から見ればささやかでも良い。安っぽくても良い。今抱いている幸せを手放したくない。自らを崖っぷちに追い込んでまでも俺と一緒に生きることを決めた女神の悲壮な決意を足蹴にしないためにも・・・。それは同時に、金や看板より幸せを優先させることでもある。俺は・・・どうしたら良いんだろう?

2004/7/20

[同じことの繰り返し(6)]
 ちょっとましになりましたけど、まだ芳しくないです。今日から仕事ですからその間は何とかなるでしょうけど、その後がね・・・。それじゃ、昨日の続きを。

 (続きです)この疑問に対して「心理学などで性格を何種類かに分類するのと同じじゃないか」という反論があるでしょう。しかし、心理学などにおける分類には必ず根拠や定義があります。繰り返しになりますが、定義が明確でないものは科学的とは言えません。
 ABO式「血液型性格判断」に関して言えば、「何故4種類なのか」という問いに対する答え、すなわち命題の定義の明確化が必要です。占いなど偶然の要素が重なって構築されたものじゃなくて膨大なデータの収集と統計に基づく「人間学の開拓」とまで言うなら、その根底になるべき命題の定義を明確にしなければなりません。それが科学というものです。
 何故4種類なのか。別に白血球型でもルイス式でも、MN型でもP型でも良いじゃないか。そもそもABO式自体、基本となる分類は3種類(A、B、Hの組み合わせで4種類が決まります)ですし、厳密に分類すれば16種類ありますから16でも良い筈。なのに何故どれもこれも4種類なのか。この疑問に答えられない限り科学と認めるわけにはいきません(続く)。
「私も同じですよ。」

 晶子の柔和な微笑みに誘導されて、俺は笑みを返す。週に1度は何処かにドライブに出かけて洒落たディナーを食したり、何かのイベント毎に高価なプレゼントを贈ったりするのも幸せの一つなら、俺と晶子が共有しているものも幸せの一つの形。妥協の産物かもしれない。貧乏学生の絵空事かもしれない。でも、それに俺と晶子が幸せを感じているのは事実だし、それならそれで良い。
 やがて大学の建物と正門が見えてくる。そこを入って少し歩くと、俺が居る工学部他理系学部のエリアへ続く道と、晶子が居る文学部他文系学部エリアへ通じる道に分かれる。此処で一旦お別れだ。この時交わす挨拶と言えば・・・。

「それじゃ、また後で。」
「はい。また後で。」

 晶子は笑顔で手を振ってから、文系学部エリアへ通じる道を歩いていく。また何時もの生活に戻る。「すれ違いカップル」とバイト仲間という両面を持ち合わせた関係に。晶子も言ってたが、幸せな時間ってのは過ぎ去ってしまうとあっという間だ。あの幸せを本当に手中にしたいなら、もう決めないといけない。どの道に進むのかを。
 晶子の姿が見えなくなったのを見て、俺は講義棟への歩みを再開する。晶子と出会ってもう2年が過ぎた。正式に付き合い始めて間もなく2周年。それに大学卒業と同時にピリオドを打ちたくなければ、尚のこと俺が進むべき道を決めなきゃならない。晶子は俺の将来設計に合わせる、と言ってるんだから。
 俺は・・・どうしたら良いんだろう?この根本的な疑問に未だ回答を見出せないでいる。就きたい職業ってもんが明確にあったわけじゃない。どういうわけか成績優秀だったことと、ちょっとした家電製品にもコンピュータが内蔵されている今の時代と、趣味の音楽に関係するカリキュラムがあるってことで今の大学を受験候補に入れて、結果合格して入学出来た。それだけだ。
 妙な選り好みをしなければ、全国に名立たると言われるこの大学の学生、ってことでそれなりに職はあるだろう。だが、受験戦争という濁流に投げ込まれてしがみ付いた岸が偶々今の大学の今の学科、って有様だった惰性で就職したくない。金を稼ぐことはこんなもんだ、と妥協して仕事するのも必要かもしれない。だが、それは俺の性に合いそうにない。

雨上がりの午後 第1590回

written by Moonstone

「俺はこんな性格だしファッションとか流行とかに全然興味ないから、たまにプレゼントするものと言えば小さなアクセサリーくらいだし、気の利いた言葉も言えない。一緒に居られる時間を作ってそれを一緒に過ごすのが関の山。だけどそれで晶子が幸せなら、俺も幸せだよ。他のどんなものにも変えられないものだからさ・・・。金額で価値がつけられないから安っぽい、って言われればそれまでだけど、俺はそれで良い。」

2004/7/19

[同じことの繰り返し(5)]
 もの凄い体調不良です。両足は痺れっ放しだし身体はだるいし・・・。今も無理矢理身体動かしてます。仕事で神経が極度に張り詰めてる分、緩んだらアウトのようです。それじゃ、昨日の続きを。

 (続きです)先に「命題の定義」と書きましたが、「血液型性格判断」が占いの類ではなく「膨大なサンプル」と「緻密な分析」に基づいた「科学」を標榜している以上は、命題の定義が明確でなければなりません。例えば「日本語」が「名詞や動詞に助詞或いは助動詞をつけて文法を形成する膠着(こうちゃく)語の一種で、漢字と仮名で表記される言語」などと言うように。
 「血液型性格判断」に焦点を当てると、どれもこれもA、B、O、ABの4種(以下、ABO式)です。先に一部紹介しましたが、血液型の分類はABO式だけでなく、Rh型や白血球型、ルイス型など非常に多岐にわたります。また、ABO式で表現される4種類の「代表的」な血液型も厳密には16種類あります。「何故ABO式なのか」「何故4種なのか」この定義をまともに提示した「血液型性格判断」なるものは一つもありません(続く)。
 電車がゆっくり去っていくのをチラッと見て、人の波に乗って改札へ向かう。混雑した改札を抜けると、人の波が大きく二手に分かれる。一方はバス乗り場。もう一方は大学方向。俺と晶子は当然後者だ。

「過ぎてしまうとあっという間ですね。」

 大学へ向かう道を歩いている途中、晶子の言葉が耳に流れ込んでくる。

「2日間だけでしたけど、自分の家じゃないところで食事を作ったり、それを一緒に食べたり、好きな人からの電話や好きな人が帰って来るのを待ったりするのが凄く楽しくて幸せで・・・。」
「・・・。」
「同じバイトしてますし、1週間に1度は朝御飯を一緒に食べられますけど、それとはまた違う幸せがありました。・・・安っぽいですよね?」
「否。俺も同じだよ。」

 歩を止めず、顔だけ晶子の方を向ける。

「ゆっくり味わいながら朝飯食って、実験の合間に電話で声聞いて、帰った時に普段なら真っ暗な窓が明るくて、ドアが開いたら好きな相手が笑顔でお帰りなさい、って迎えてくれる・・・。本当に嬉しかったし、幸せだった。特に・・・帰ったら迎えてくれるってのが。」
「・・・。」
「あれは・・・実家から戻って来た時以来だったからな。ドアが開いて晶子が迎えてくれた瞬間、帰って来たんだ、って実感したよ。あれで実験の疲れが一気に取れたし、約束守って良かった、って思った。」
「祐司さん・・・。」

雨上がりの午後 第1589回

written by Moonstone

 混み合う空間に幽閉されて揺られること暫し。聞き慣れたアナウンスが流れ、電車が次第に減速していく。軽い衝撃の後空気が抜けるような音がして、人の波が音の方向へ向かう。俺は晶子の手を取ったままその流れに乗って電車から降りる。人に溢れるホームに晶子と共に降り立ったことを確認して手を離す。手は離しても距離は変わらない。

2004/7/18

[同じことの繰り返し(4)]
 もはや休日は日頃の睡眠不足を解消するためだけのものに成り果てたのか?(汗)。今日は何とか作品制作に取り組みたいです。それでは、論評の続きを。

 (続きです)血液型性格判断に関する書籍を見てください。そのどれもが、読み手によってどうにでも解釈出来るものになっていることに気づきませんか?例えば「慎重」が「優柔不断」だったり、「マイペース」が「独立独歩」だったり。これは読み手に都合の良い解釈をさせ(人間は大抵、自分に関しては良い方向に解釈したがるものです)、自分の性格に該当してるな、と思わせるための「策略」なのです。単語にしろ文章にしろ、明確な定義がないと作為無作為を問わず拡大解釈を可能にします。日本国憲法9条と自衛隊の関係がその典型例です。
 そして、拡大解釈で自分に該当すると思った「性格」だと思い込みます。更に「血液型性格判断」の「信奉者」ほどその性格に近づけようとするのです。これが「刷り込み」です。拡大解釈と刷り込みの結果、例えば「A型の人は神経質」だと思うと、本人がA型ならそうなるように行動すると同時に、神経質な(と主観的に判断した)人を見たら「この人はA型だ」と思い、その人の血液型がA型だったら「あの本(TVなど)のとおりだ」と思い込みを強め、A型でなかったら例外と片付けるの。これが「血液型性格判断」なるものが「当たっている」と言わしめるシステムなのです(続く)。
 ゆったりした雰囲気の中で一緒に朝飯を食った後、シャワーを浴びてから着替え、家を出た。朝の空気が肌にひんやりと染み入る。その感覚はやがて訪れる冬を予感させる。
 俺と晶子が並んで歩く通りは、活気に満ちている。活気と言うより喧騒と言った方が良いか。定時までに学校や会社へ向かうべく人も車も急ぐ。そんな忙しない日常の光景から、俺と晶子が切り離されているように思う。俺と晶子は1コマ目の開始に十分間に合う時間の電車に乗る。しかもこうして歩いていっても十分間に合う時間だ。あえて周囲の流れに乗る必要はない。
 改札を通り、混雑するホームで電車を待つ。小宮栄方面のホームは鼠が入る隙間もないほどごった返してる。反対側のこっちのホームはそれほどではないにしても結構混雑している。大学の他に新京市の市役所や県庁があるし−市役所へは住民票移動のために1回行ったことがある−、小宮栄には遠く及ばないにしても企業がそれなりに集中している中心部があるから当然と言えばそうだが。
 甲高いブレーキ音と共に、見慣れたカラーリングの電車がホームに入ってくる。電車が目前に来ただけで早々と出入り口付近に移動するのも、何時もの光景の一つだ。そして空気が抜けるような音に続いてドアが開き、若干の乗客を吐き出した後大量の乗客を吸い込むのも、これまた何時もの光景だ。俺が晶子の手を握って離れないようにするのは、火曜の朝に限った光景だ。

「大丈夫か?」
「はい。」

 俺と向かい合わせで密着している晶子が答える。鮨詰めの車内だからこそ実現可能な、ある種の役得だ。俺と晶子はあまり身長差がないから、晶子とほぼ同じ高さの目線で向かい合える。身長があまり伸びなかったことに少々劣等感を持っていたこともあるが、それはもう過去の話だ。
 軽い衝撃の後、電車が動き出す。窓の外は窺い知ることは出来ないが、俺に密着して左肩口に頭を委ねている晶子の存在は十二分に感じ取れる。茶色がかった長い髪の隙間から垣間見える銀と緑の小さなコントラストが、小さく揺れている。
 今日、晶子は講義が終わったら俺の家に向かい、荷物を持って自分の家に戻る。2日間の突然の蜜月−蜜日と言うべきか−は終わる。けれど、それで以って俺と晶子の関係が終わるわけじゃない。間近で甘い香りを放つ髪と、俺の左手を軽く握る手が、短い蜜月の終幕を名残惜しんでいるように思う。

雨上がりの午後 第1588回

written by Moonstone

 今度は何時晶子がOKサインを出すかは分からない。そんなのを待ってるだけの関係なんて御免だ。湧き上がってくる欲望は適当に処理するか時の流れに放り込むかしておいて、左手薬指に象徴される晶子との関係を大切にすることに専念した方が良い。否、そうしなきゃならない。少なからぬ周囲に結婚を公言し、晶子とその約束をしている以上は・・・。

2004/7/17

[出鱈目更新]
 何時もの時間帯に来たら更新されてない。しかもまたまた事前告知なし。申し訳ないとは思ってます。でも、身体の具合が更新させてくれなかったんです。
 7/16、7/17両日付更新をする7/15、7/16両日は、仕事で終日回路基板を作ってました。基板の配線は専用の機械がするんですが、設定をしたら完成までお任せ、とは出来ないのです。道具の交換、ヤスリがけ(穴を開けるときにバリ(凸凹)が出来るのでそれを削って表面を平らにする)、動作の指示などやることが多いんです。しかも作成する基板は6枚、1枚に3時間はかかります。
 7/15は特に、朝から晩まで動作させていたためか、最後の方で機械が暴走し始めましてね・・・。どうにか鎮めて区切りの良いところまで作成するのにべらぼうな時間と体力と神経を使って、帰宅して食事を食べたら、その場にバッタリ。虚ろな目で起きた時には、薬を飲んで本格的に寝ないといけないじかんになってました。
 更に具合の悪いことに、最近の本業多忙などで連載のストックが完全に底をつきまして・・・。その補充に時間がかかってこんな時間(7/17のA.M.5:30)になってようやく更新、となりました。両足の痺れは酷いし、どうしたものやら・・・。
「否、それで良いんだ。男は性欲を自分で適当に処理出来るからな。だけど、相手が居る以上は相手のことを考えないといけない。前にも言ったかもしれないけど、男って奴は一旦女の味を占めてしまうと、なかなかストップがかけられないんだ。しかもその相手が好きだという気持ちを持ってると尚更・・・。」
「・・・。」
「前に潤子さんに言われただろ?子どもを出汁にした関係にはなるな、って。俺と晶子が合意の上なら良いけど、殆ど毎日したい盛りの男の都合で晶子が妊娠したら、結婚するか中絶するかの選択を迫られる。心の準備も実際の生活の準備も出来てないのに結婚したら行き詰まるだろうし、中絶は話でしか聞いたことないけど、女にとっては二度と子どもを産めない身体になっちまうこともある危険なものなんだろう?」
「ええ。」
「そんな危険に晶子を放り出したくない。そんなことは晶子に対しては勿論、本来生まれてくるべき命を絶ってしまうんだから、その子どもに対しても責任放棄だと思う。そんなことになるなら、ベッドで妄想して欲望を処理してた方がずっと良い。誰にも迷惑かけないから。」
「だから、私が態度で示さないと祐司さんは行動に移さないんですね?場所が祐司さんの家でも。」
「ああ。生まれてくるべき子どもの命を弄んだ挙句に、それがきっかけになって晶子との関係が壊れるなんて真っ平御免だからな。」

 晶子の頬擦りがまた始まる。つい数時間前、暗闇の中でこの肌の感触と温もりを指と唇で堪能した。悩ましい喘ぎ声と魅惑的な動きも見聞きした。だが、朝日が染み込む今は、左頬に感じる滑らかな感触、そして背中に感じる柔らかい感触がどれも心地良くて幸せだ。

雨上がりの午後 第1587回

written by Moonstone

「そのせいで、祐司さんを苦しめてるのは心苦しいですけど・・・。」

2004/7/16

[同じことの繰り返し(3)]
 ※この日記は7/17に書いたものです。ま、論評文なので良いでしょう。

 (続きです)「血液は全身を駆け巡ってるから、性格に関係する」と言う反論もあるでしょう。髪の毛からも唾液からも血液型が分かりますから、そう考えても無理はありません。確かに血液は全身を隈なく駆け巡ります。しかし、思考や判断といった、性格を構成する重要な要素を司る脳には血液は直接入れないのです。血液・脳関門という一種の関門があって、血液は養分や不要物を脳からその関門を通じて受け取る仕組みになっているからです。
 言い方を変えれば、脳は血液型など知らないのです。脳にとって(実際は脳だけではありませんが)血液は、活動に必要な養分と活動の結果生成された不要物を運搬する道具でしかないのです。脳とそんな関係にある血液の種類が性格に影響を及ぼすとはおよそ考えられないのではないでしょうか。
 それでも尚「血液型性格判断は当たっている」と強弁する人も居るでしょう。ある書籍などを広げて「この記述に一致する」などと。しかし、それは「刷り込み」と「拡大解釈」が成せる技です。此処に血液型性格判断なるものの大きな落とし穴があるのです(続く)。
 何かと慌しい毎日。ともすれば大学と此処、そしてバイト先と此処とのピストン運動の反復になってしまう、言い換えれば惰性そのものになりがちな毎日に刺激と活力を与えてくれる、晶子という存在。何時になるとも知れぬ俺の帰りを手作りの食事と共にじっと待っていてくれた。その食事を一緒に食べた。そして昨夜は短い時間だったがギターを披露した。更に夜を共にした。愛する相手と一緒に居るという幸せが凝縮されたひと時だった。
 否、「だった」という表現は適切じゃないな。今でも続いているんだから。俺の背後から腕を首に絡めて左肩口に顎を乗せている晶子との時間は、確かにまだ続いている。耳に感じる、前後にゆっくり行き交う微かな風が、その存在を静かに、しかし如実に物語っている。

「こういう時間って、良いですね・・・。」
「そうだな・・・。」

 耳に流れ込んでくる囁きに対して、思ったままが言葉になって返って行く。こういう時間。こういう関係。幸せなんだ、と改めて実感出来る。左頬に滑らかな感触を感じる。それはゆっくり前後し始める。磨かれた石の滑らかさと程好い弾力が合わさった心地良さに、俺は目を閉じる。

「あまりに安っぽいと思うかもしれないけど、一緒に手作りの料理を食べたり、こうやって特に何もせずに漠然と二人だけで過ごしたりするのが、俺の理想だったんだ・・・。」
「ちっとも安っぽくないですよ。少なくとも私にとっては・・・。少しでも、短くても良いから、好きな人と時間を共有出来る関係が幸せなんです。だから日曜の夜から泊まらせてもらったんです。一緒に居られることそのものを大切に出来る人と一緒に居たかったから・・・。それに・・・。」
「それに?」
「私が愛してもらえる時に・・・愛して欲しかったから・・・。」

 その言葉の後に、それまで止まっていた滑らかな感触の動きが再開される。思えば、今まで晶子を抱いた時は避妊をしていない。それは妊娠を避けるためでもあり、晶子が俺に愛されていることを直接感じたいからだろう。昨日と一昨日は「その時」だったんだ。だから日曜から此処に泊り込み、俺を求めたんだろう。

雨上がりの午後 第1586回

written by Moonstone

 ゆったりした朝のひと時。火曜の朝はこんな感じだ。だが、晶子の家で向かえる朝とはまた趣が違う。普段はレポートの作成とギターの練習と風呂と寝ることくらいしか存在しない空間に、温かくて美味い食事が出来る過程とそれを作り出す人が居る。それだけでも全然違う。土くれで作られた人型に息吹が吹き込まれたような、そんな感じだ。

2004/7/15

[同じことの繰り返し(2)]
 (続きです)一見同じに見える赤い血液が(誰ですか?自分は緑色だ、なんて言う人は)A、B、O、ABの4種に分けられるということそのものは、それまで不確実だった献血療法を大きく改善し、遺伝研究発展にも大きく寄与しました(発見者のラントシュタイナーはノーベル賞を受賞しました)。しかし、このA、B、O、ABの違いは何かというと、赤血球の抗原(体内で免疫の働きをする物質)の組み合わせの違いでしかなく、性質や機能の違いではありません。
 もっと厳密に言うと、赤血球の表面を覆っている膜状にある糖鎖(連結した糖分)がどのような形になっているかの違いです。しかも糖鎖の基本部分はA、B、O、ABの4つの型で全て等しく、最末端部の連結が違っているだけです。
 で、血液型というものは絶対不変のものではありません。骨髄移植で血液型が変わる場合があります(血液は骨髄で生成されます。その生成に異常が発生する病気の一つが骨髄性白血病なのです)。しかし、骨髄移植の前後で性格が変わったという報告はありません。これだけ見ても、赤血球の表面のごく一部が違うだけなのに性格が明確に分類できるというのはおかしな話とは思えないでしょうか(続く)。
 晶子が服を着終えた後で、俺はベッドから出て下着とパジャマを着る。閉じられたカーテンの片方を掴んで少し捲ると、明るくて柔らかい陽射しが差し込んでくる。どうやら今日も秋晴れのようだ。
 キッチンから色々な音が聞こえてくる。水が蛇口から流れ出る音、何かを掻き混ぜる音、何かが軽くぶつかり合う小さくて甲高い音。俺一人で慌しく向かえる朝に奏でられる狂想曲とは全然違う、心地良くて穏やかな時間に相応しいプレリュードだ。俺は陽射しを遮る厚手のカーテンだけ開ける。薄暗かった部屋が一気に明るくなる。今日一日が始まったと言う気分が強まる。
 晶子が朝飯を作ってくれている間、俺は大学へ行く準備をする。準備と言っても大層なものじゃない。テキストとノート、レポート、筆記用具を鞄に入れればおしまいだ。後は・・・大人しく待つとするか。勝手を知らない俺が手を出しても足手纏いになるだけだしな。

「あ、聞かなかったですけど、今日もご飯で良いですか?」
「ん?ああ、良いよ。」

 俺一人の時は大抵、否、殆どパンなんだが−ご飯炊いてる時間がない−、こういうゆったりした時間はゆっくりご飯を食べたい。パンとご飯では腹持ちが違う。それは昨日よく分かった。頬杖をついてぼんやり窓を眺めていると、肩にそっと手がかかる。

「ご飯が炊けるまで時間かかりますから、もう少し待っててくださいね。」
「慌てなくて良いさ。何時も火曜の朝はこの時間に起きてるんだろ?」
「ええ。私は朝にご飯を食べますし、炊き立てを食べるのが好きですから。」
「時間も十分あるし、美味いものを作ってくれれば良いよ。」
「それは任せてください。」

雨上がりの午後 第1585回

written by Moonstone

 晶子は俺の頬に軽くキスしてからゆっくり起き上がる。そしてベッドの脇に腰掛けて下着をパジャマを着る。・・・そう。昨夜も一戦交えた。交互に風呂に入って揃ってベッドに入り、寝る時の挨拶を交わした直後に晶子が俺の手を握って目で訴えかけてきたから「戦闘」に突入した。よく眠れたが、ちょっと寝不足な気もする。

2004/7/14

[同じことの繰り返し(1)]
 種類を問わず「流行」なんてものは、文化が高まるほど(その是非は別として)サイクルが短くなるものです。最近流行っている(らしい)血液型別判断なるものもその一つ。主な根拠となっているものも元を辿れば前回の隆盛時と同じ。またか、と呆れているんですが、看過出来ないところも多々ある問題なのですよね、これは。
 「何故A、B、O、ABの4型なのか」という命題の定義を科学的に説明したものはありません。せいぜい表現は違えど「このような傾向がある」というレベルのものです。ご存知の方も居られるでしょうが、血液型はA、B、O、ABの4型だけで分類出来るものではありません。RH型、白血球型、ルイス式など分別方式だけでも非常に沢山あり、A、B、O、ABに関してもそれぞれ何種類かあります。
 命題の定義をきちんと出来ないものは合理性と客観性がありません。単なるお遊びレベルならまだしも、クラス分けや交際相手の理想など、本来合理的理由や(小学生と大学生に同じレベルの教育を行うのが無理なように)個人の価値観に委ねられるべき問題までに絡んでくるのは非常に問題です。同じことを繰り返すことが大好きな日本人に対して、血液型別判断なるものの問題点を説明します(つづく)。
 何となく予想はしていた。失恋のショックでささくれ立っててひたすら晶子を避けていた俺の前にまた現れ、挙げ句の果てには同じバイトとして食い込んだ時に弾いていた曲。この曲を弾く度にあの時を思い出す。新曲を喜び勇んで投入し、夢中になって弾いていた俺が顔を上げた先に見えた、驚愕と感動が入り混じった晶子の顔を・・・。
 深夜の、たった一人の観客を程近いところに置いた短いコンサートが続く。俺は進むべき道を、否、進まなければならない道をまだ決めていない。否が応にも決めなければならない時期が間もなくやって来る。少なくとも晶子と、今俺の前に居る大切な人と、自分を崖っぷちに追い込んでまでも俺との幸せに全てを見出した孤独な女神との幸せを掴むために、心を固めておこう。10本の指が奏でる音の流れと、それに纏わる記憶で・・・。

 ・・・ピピッ。ピピピッ。ピピピッ。
何処かから音が聞こえてくる。頭の中が急速に白んでくる俺の傍でごそごそと何かが動く。俺が目を開けたところで音が止まる。両肘を布団についた晶子が目覚ましの背面を操作している。

「これで良いんですよね?」
「どれ・・・。」

 俺は目覚ましを受け取り、背面のスイッチを見る。この位置なら少し時間をおけばまた鳴り出すことはない。俺は腕を伸ばして目覚し時計を元の位置に戻す。元の位置、と言っても適当なもんだが。

「あれなら大丈夫。・・・おはよう。」
「おはようございます。朝御飯作りますね。」
「ああ。」

雨上がりの午後 第1584回

written by Moonstone

「何か聞きたい曲はある?」
「それじゃ『AZURE』を。」
「分かった。」

2004/7/13

[Back to 60 years ago]
 参議院選挙の結果はキャプションの一言に尽きます。国会外の談合と強行採決で数々の重大法案を成立させ、名前は違えどまったく同じ道を歩んでいる二大政党とやら+その援護者に今後の日本を委ねたんですからね。どうやら60年前に戻ってもう一度痛い目に遭わないと分からない模様。まあ、60年前にもあれだけ痛い目に遭わされておきながら、その張本人の子孫や手下達をのうのうと生き長らえさせてきた大多数の日本人は何度痛い目に遭わされても分からないでしょうけど。
 まあ、それはさておき・・・。日曜午後から安静にしていたんですが、ふとある企画が浮かびました。あるキーワードを題材にしてそのグループに応じた作品を創ろうというもの。「○○のお題」とかいうあれです。
 幸か不幸かこのページには文芸関係のページだけでも6つあるので(あう・・・。更新停滞中のグループが気になる(汗))、社会風刺のNovels Group 2と詩篇のNovels Group 4を除いても、複数のグループに跨った企画として結構楽しめそうな予感。さくっと読める長さにして色々なパターンを想定して書こうか、と思ってます。今の状況じゃ執筆に取り掛かれるのは来月になってからでしょうけどね。
 緩やかな沈黙が部屋を支配している。晶子が俺を注視する中、演奏を始める。乳白色の満月の光をイメージしたオープニングに続いて音域をフルに使ったアルペジオからなるイントロを奏でる。もう分かっただろう。そう、「Fly me to the moon」のギターソロバージョン。俺と晶子のレパートリーの一つであり、俺と晶子を結び付けるきっかけの一つになったアイテムでもある。
 店ではアコギを使うんだが、店に比べると圧倒的に狭いこの閉鎖空間ではかなりの音量になる。時間も時間だ。近所迷惑になったら話にならない。多少イメージは違ってくるが、こういう時は全体の音量を任意に調節出来るエレキギターを使うに限る。
 この曲は今でも時折リクエストを受けるし、忙しい合間を縫ってステージで弾く時もある。俺を含めた店の関係者4人がそれぞれのバージョンを持つから、原曲を知っている人も意外な楽しみを感じられるからだろう。店が今連日大盛況なのも、コーヒーや軽食片手に生演奏が楽しめるという喫茶店らしからぬ「余興」があることが広まったからだしな。
 駆け下りるようなフレーズを奏でて、最後に零れ落ちる光をイメージした装飾音符付きの高音を一つ奏でる。音が消えて俺がフレットから左手を離すと、パチパチパチと拍手の音が鳴り始める。たった一人の、でも誰よりも大切な人からの拍手。これだけでも演奏した甲斐があったってもんだ。

「何時聞いても良いですね。」
「アコースティックだともっと良いんだけどな。」
「その曲と演奏が融合して生み出す雰囲気があれば十分ですよ。音楽は音という形で人の心に共鳴を呼んで、感動を生み出す芸術の一つなんですから。」
「そうだよな・・・。」

 音楽は自分が楽しむのも大切だが、俺の場合は人に聞かせて楽しんでもらうことを要求される。今回はその目的が達せられたんだから、それで良い。まだ時間はあるな。もう1曲くらい演奏出来そうだ。さて、何にしようか・・・。折角だ。リクエストしてもらうか。優柔不断と言えなくもないが。

雨上がりの午後 第1583回

written by Moonstone

 ベッドに腰掛けている晶子を時々横目で見ながら、エレキギターの準備をする。配線して電源を入れ、適当に爪弾きながらボリュームを調整する。・・・これで良いだろう。俺はデスクの椅子に腰掛け、丁度晶子と向かい合う形になって、ギターを構える。

2004/7/12

[2番乗り]
 その日の午後から通算12時間以上寝た後、明け方に更新するという出鱈目な過ごし方をした昨日、勇んで投票所へ出かけました。勿論目的は一番乗り。前にもお話したかもしれませんが、最初に投票する時には、投票箱が空かどうかを確認するんです。投票箱自体がそうそう見られるものじゃないですし、ましてや中身なんて見られませんからね。
 この時間なら(到着予定時刻6:40)大丈夫だろう、と思って、少しひんやりする朝の通りを歩いて投票所に到着したら・・・先客が居た(汗)。結局キャプションどおり2番乗りとなって、目的は果たせませんでした(がっくり)。その後は食事をぼちぼち食べながら時折PCに向かいましたが、足の痺れ(正座によるものではない)と冷え感が酷くて、殆ど横になってました。
 現時点では私は開票速報を一度も見てません。どうせ明日になれば嫌でも分かりますし、安静にすべき時間に喧騒など聞きたくないからです。選挙結果の見解については明日にでもお話するつもりです。
 これまで揃って指輪を填めていることは必要以上に話さないで来た。だが、今自分が抱いている気持ちが本物なら、それが決して後ろめたいものでないと思っているなら、大学時代のひと時の思い出にするつもりはさらさらないなら、言うべき時には言わなければならない。今回はまさにその時だったんだろう。約束・・・。それは相手の心は勿論、自分の心も信頼し、尊重して初めて成立するものだということを改めて実感した。
 遅い夕食、否、もう夜食と言うべき時間だが、決して広いとは言えない部屋の一つの灯火の下でそんな時間はゆったりと流れていく。今日も色々あったけど、腹が減るのを我慢して実験を終えた後にこんな時間が待っているなら・・・空腹を我慢するのも悪くはないな。

 食事が済んで洗い物−今日は二人でやった−を終えた時には、午前1時を過ぎていた。洗い物をする前に風呂の準備をしたが、洗い物にかかる時間なんて100lを越える湯を溜める時間と比較すれば短いもんだ。二人が風呂に入って寝るのは、この分だと2時くらいになるかな。まあ、普段もそんなもんだから良いんだけど。
 風呂の準備が出来るまであと20分くらいはかかるな。・・・俺のためにずっと待っててくれた晶子のために、一曲弾くか。指慣らしも兼ねて。わざわざPCを起動してシーケンサなんかを準備しなくても、弾ける曲はあるからな。

「ちょっと待っててくれ。今からギターの準備するから。」
「何を弾くんですか?」
「それは聞いてみてのお楽しみ。」

 ベッドに腰掛けている晶子を時々横目で見ながら、エレキギターの準備をする。配線して電源を入れ、適当に爪弾きながらボリュームを調整する。・・・これで良いだろう。俺はデスクの椅子に腰掛け、丁度晶子と向かい合う形になって、ギターを構える。

雨上がりの午後 第1582回

written by Moonstone

 ペアリングを贈って左手薬指に填めさせ填めたのは、女神の強い要求に押されたという側面があったにせよ、初めて俺が手を差し出した出来事と言えるだろう。10本ある指の中でこの指に指輪を填めることは、際立って特別な意味を持つことくらいは知っていた。改めて真剣に自分の気持ちと向き合い、彼女を愛している、という意思を彼女に、そして自分に明確に提示したんだ。

2004/7/11

[選挙は有権者の権利であり、義務である]
 出鱈目な時間(このお話をしているのは7/11 A.M.5:20頃)に更新です。昨日の断続的な更新が予想以上に長引いたが故寝る機会を逸してそのまま起きていたんですが、正午前から身体に異常を感じ、思考が定まらなくなってきたので薬を服用。途中電話と食事など3、4回目を覚ましたものの今日のA.M.3:00過ぎまでの約12時間延々と寝てました。これまでの睡眠不足も重なったからでしょう。
 さて、今日は参議院選挙の投票日。キャプションにも書きましたが、選挙は議会制民主主義を採用している国の国民の権利であり、義務でもあります。意に反する議員を減らし、主権者たる国民の代表者に相応しい候補者を選ぶ。これは権利であると同時に、代表者の行動を監視して失格なら落選させるという主権者の義務なのです。
 会社や労組や団体で命令されたとおりに投票する。地縁血縁があるから投票する。こんな意識が馬鹿げた議員を多数のさばらせた原因の一つです。自分一人投票しなくても変わらない。誰がなっても同じ。自分の1票で全てが決まるわけがありません。貴方は王様などではないのですから。そして自分の考えに100%一致する候補者や政党などまずありえません。最大多数の最大幸福を実現させるに相応しい候補者を選択するのも有権者の義務です。棄権や白票などは意思表示でも何でもなく、現政権に白紙委任状を手渡すに過ぎません。それらをよく踏まえた上で近くの投票所に足を運んでください。
 晶子が過去の恋愛でどうだったのかは知らないし聞かないし、あまり聞きたくない。大恋愛が無惨な結果に終わった悲しみを乗り越えて俺との関係に今後の全てを見出したことへの気遣いもあるが、どんな奴と付き合ってたのかなんて聞きたくないというのもある。だが少なくとも晶子は、今の自分の幸せをより多くの人に知って欲しいし知らせたいと思ってるんだろう。そうでなけりゃ、俺がプレゼントしたペアリングをさり気ない振りして見せびらかすようなことはしない。

「ですから、祐司さんが大勢の人の前ではっきり答えてくれて凄く嬉しいです。後ろめたいとか否定的な感覚じゃないってことが改めて分かったから・・・。」
「後ろめたいなんて少しも思ってないよ。ただ・・・、おおっぴらにすることに慣れてないし、そう思えるだけの数をこなしてないから、まあ、これは人によって違うだろうけど、問い詰められて答えに窮して妙なことを口走ったりしないようにしてただけだよ。それが晶子にとって良く言えば控えめな、悪く言えばひた隠しにするような感じに受け止められても仕方ないけど。」
「・・・。」
「今回は晶子と事前に約束したし、予想どおりっていうのかな・・・。晶子に尋ねた後で大挙して俺に確認しに来たから一致して当然の、一致しないと俺が他に女作ってるって思われても仕方ないことを答えたんだ。朝言ったことと重複するかもしれないけど公言出来る勇気がないしプライベートに関することだから普段は言わない。だけど必要に迫られたら言う。それだけだよ。」
「私と付き合ってることを言うのが嫌だとか、そういう気持ちじゃないんですよね?」
「それはない。」

 俺が断言すると晶子は嬉しそうに、そして安心したように微笑む。やっぱり確かめたかったんだな。俺が自分との今の関係を気恥ずかしいものとか後ろめたいものとか、そんな風に思ってないかどうかを。言い換えれば衆人環視の前でも自分との関係を宣言出来るかどうかを。
 俺は恋愛ごとに関してはあまり「積極的」じゃない。これまでの環境や経験がそうせざるをえないものにさせたからだと思う。だからようやく掴めた絆がある夜一瞬にして飛散した時、目の前に降臨した女神が差し出した手を払い除けた。何度差し出されてもひたすら払い除けていた。
 自分の方を向いて欲しい、自分が差し出す手を掴んで欲しい、と願う女神を疎ましくさえ思い、一時は背を向け合ってしまった。所詮はつまらない意地の張り合いだった。ようやく再び向き合えた後でも俺は女神の手を取ろうとしなかった。女神が消え去るのを怖れてようやくその手を掴んだ。

雨上がりの午後 第1581回

written by Moonstone

 確かにそうだ。ペアリングのことを話したのも智一に発見されて問い詰められてからだし、店でも出来るだけ見えない、否、見せないようにして来た。晶子のファンが特に男性層に多いから無闇に刺激したくない、という思いもあったが、こういうことを公言するのに慣れてないからどうすりゃ良いのかよく分からないから黙っておこう、というある種の逃げがあったと思う。

2004/7/10

[インタビューしてきました]
 昨日お知らせした、職場に来ている韓国人へのインタビューをしてきました(要した時間は3時間半)。話の流れで事前に挙げたもの全ては尋ねられませんでしたが、興味深い、しかも日本人が知らなければならない重要なことを聞けました。「集団的自衛権」の美名の元に(歴史をしっかり勉強していれば「自衛」の名の元に行われてきたベトナム戦争やグレナダ侵攻、アフガン侵攻がどんな蛮行かは自ずと分かることですが)アメリカと一緒になって戦争したがっている今の日本の流れを変えなければならないこと、それが隣国の一つで切に求められていることがよく分かりました。
 詳細は後程公開しますが、日本に侵略された歴史とその傷痕をどれだけしっかり後世に伝えているか、そして日本がどれだけ自国の歴史に真摯に向き合おうとしないどころか、「大東亜戦争」だの「アジア諸国の独立に不可欠だった」などの戯言がどれほどアジア諸国の感情を逆なでしているかが分かります。
 グローバル時代、などと言われて久しいですが、それは所詮一部大企業の利益拡大という矮小化された視野に過ぎないこと、そしてそれさえもアジア諸国からは新たな侵略と捉えられていることを認識しなければなりません。これは日本の雇用問題などとも密接に関係していることです。明日行われる参議院選挙では、本来の意味で世界的視野で日本の進路を考える機会と捉えるべきでしょう。
 俺は左手を晶子に差し出す。左手薬指に填まっているペアリングの片割れが、電灯の輝きを受けて星のように煌いている。

「填めさせて填めた時点で結婚するって合意したからペアリングでも問題ないだろ、って言ったんだ。とどめって言ったら言葉が悪いけど、俺はプライベートに関してはあまり積極的に話すタイプじゃないから必要以上は答えないでいたけど、今回は晶子に質問した後で大挙して俺に確認してきたから一致して当然の回答を示した、って答えておしまい。・・・こんなところ。」
「今日、あ、日付ではもう昨日ですけど、朝大学に行く時言いましたよね?私との関係について聞かれたら答えてください、って。」
「ああ。」
「一応予想はしてたんです。祐司さんのいる学科の人が声をかけてくることは。祐司さんが以前、私と一緒に撮った写真を学科の人に見せたから、見たことある顔だなと思って話し掛けてくるんじゃないか、って。伊東さんをはじめとしてあんなに大勢の人が押し寄せてくるとは思いませんでしたけど。」
「そりゃそうだよな。」

 俺と晶子は揃って苦笑いする。数えてはいないが、俺に詰め寄って来た奴は少なくとも30人は居たと思う。それだけの、或いはそれ以上の数の男が、それも見ず知らずの男が雪崩になって押し寄せてきたら驚いても不思議じゃない。しかも未踏の地である理系学部でそんな事態に遭遇したんだ。思わず逃げ出さなかっただけでも度胸があると言うべきだろう。

「祐司さんの言ったとおりに答えた後真っ直ぐ自分の学部に戻ったんですけど、多分あの人達は祐司さんに確認しに行くんだろう、って思ったんです。その時祐司さんはどう答えてくれるんだろう、って思ってました。」
「不安・・・だったか?」
「まったく不安じゃなかった、って言えば嘘になりますね。祐司さん、あまり表立って言わないですから。」

雨上がりの午後 第1580回

written by Moonstone

「で、智一が、何時結婚式したんだ、って聞いてきて、式はまだで指輪の交換だけ先にした、って答えたんだ。智一が、その指輪は晶子の誕生日にプレゼントしたものって言ってたじゃないか、って問い詰めてきたんだ。晶子は知ってるだろうけど、ペアリングをプレゼントしたことは智一に以前話したからな。俺は、ものはペアリングには違いないけど、この指に・・・。」

2004/7/9

[今日は英語でいんたびゅう]
 やっぱり平仮名で書くとコミカルと言うか間抜けと言うか、そんな感じがしますね。あ、更新遅れて御免なさい。寝不足がたたって転寝してました。何やらよく分からない夢(幻覚?)を見ましたが、よく憶えてません。
 今日は仕事を終えた後、6/29に外食に出向いた先で偶然出くわした韓国人と、同じ店で夕食を食べることになっています(昨日その人から職場の内線に電話がありました)。以前此処でもお話しましたとおり、韓国人という立場から見た「北朝鮮について」「夫婦別姓について」「(夫婦別姓に伴う)家族の連帯感について」などについて尋ねます。その結果をこのウィンドウ最上段にある「メモリアル企画書庫」かトップページの臨時コーナーで発表します。
 英語でインタビュー、なんて言うと高度な知識が要求される、と思われるでしょうが、英会話で使用する文法は中学レベルで十分。どれだけ単語を知っているかで決まると言って良いですよ。結果発表をお楽しみに。多分遅くなるでしょうけど。

「せーの・・・。」
「『彼女でもありますけど妻でもあります。』」

 俺と晶子の即席変則デュエットが見事に一致する。面白くて笑いがこみ上げて来た。口を手で押さえている晶子の目は明らかに笑っている時のものだ。

「ぴったり・・・一致しましたね。」
「一息で言える程度のフレーズで簡潔でしかもインパクトがあるから、直ぐ覚えられるさ。俺の答えは経過を話した奴の言葉そのものなんだけど、智一以外は俺が以前見せた写真を除けば初対面の奴でも覚えてるんだからな。」
「それじゃあ、私のその後の言動も聞いたんですね?」
「ああ。これは俺が言うよ。左手を見せて『これが証拠です』って言った。そして最後に『午後から講義がありますので失礼します』って言って頭下げて立ち去った。そうだろ?」
「ええ、そのとおりです。追いかけてこられることもなかったです。」
「多分、否、間違いなくその直後俺のところに向かったんだろう。晶子の言葉が正しいのかどうか。俺が同じ学科の奴等に写真を見せてから結構日が経ってるし、その時一度しか見せてないからうろ覚えになってても不思議じゃない。それに、見知らぬ男が大挙して押し寄せてきたことに驚いた晶子がその場凌ぎで言った嘘かもしれない、って思いもあったんだろうな。」
「祐司さんは、私の言動を聞かされた後どうしたんですか?」
「左手出して『これと同じ指輪だよ。』って言った。此処でまず一回どよめき。次に定期入れの写真を広げて見せた。もう一度どよめき。そして俺が『これだけ証拠見せれば満足か?』って念押ししたら智一が『お前何時晶子ちゃんと結婚したんだ?!』って、愕然とした表情で聞いてきたから、『この指輪をプレゼントした時だよ。』って答えたんだ。三度目のどよめき。」

 経過を話す俺を晶子は黙って、しかし目を輝かせて見詰めている。

雨上がりの午後 第1579回

written by Moonstone

 あくまで俺に言わせたいらしいな・・・。まあ、良いか。俺は茶碗と箸を置いて晶子と向き合う。晶子は既に雑誌を床に置いて俺の方を向いている。その顔が何を求めているか、それこそ似非占い師でも分かる。俺は軽く息を吸い込む。

2004/7/8

[○○言葉]
 昨日(7/7)何気なしに「名探偵コナン」のコミックスを読んでたんです(そんなの読んでないで新作書け、って声が聞こえなくもない)けど、そこで「宝石言葉」って出て来たんです。花言葉ってのは知ってますし私自身幾つか知ってます。私の誕生月である6月の象徴的な花の一つ紫陽花は「移り気」、赤い薔薇は「燃える情熱」、黄色の薔薇は「薄れ行く愛」「嫉妬」、黒い薔薇(色素的には濃い紫ですが)「死んでも消えぬ憎しみ」とか。まあ、地方とか国とかによって色々あるらしいですけど。
 6月の誕生石は、私はmoonstone、すなわち月長石の方を採用していますが、広く知られている(らしい)のは真珠。これの宝石言葉なるものは「月」「女性」とのこと。・・・「あのー。それだったら月長石の方が相応しいんじゃ?」と思わずツッコミを入れてしまいました(汗)。あ、ちなみに私は男ですので念のため。妙な期待をしないように(しないか)。
 となると、他の宝石にも宝石言葉なるものがあるんでしょうね、やっぱり。7月の誕生石はルビー。予想されるのは「妖艶」かな。まだ全容は明かしてませんが、Novels Group 1で連載中の「Saint Guardians」で魔術師は称号に応じた宝石の付いた指輪を填めてるんですが、上位3つはスターサファイア、ムーンストーン、ルビーなんです。ルビーをNecromancer、すなわち妖術師にしたのはその魔性ともいえる赤い輝きが印象的だったからです。今度検索してみるかな・・・。
「そうか・・・。」
「祐司さんは実験で忙しかったでしょうから、お腹減ったらイライラするとかそっちの方に向かったと思いますけど、私は此処でゆっくり待たせてもらいましたから。CDを聞きながら祐司さんより先に・・・この雑誌を読んで。」

 晶子は箸を置いて左脇に手を伸ばす。ガサガサと木の葉が風でざわめく音がする。その音が止んだ後晶子が俺の前に差し出したものは・・・俺が代わりに引き取ってもらうよう頼んだギターの雑誌。

「それにしてもあの時はびっくりしましたよ。」
「ん?」
「私が生協の店舗を出ようとしたところで地鳴りみたいな足音が近付いて来て、何事かと思ったら呼び止められて・・・。声の方を見たら伊東さんの他に大勢の男の人がもの凄く切羽詰った顔で詰め寄って来たんです。そうしたら・・・。」
「『君って電子工学科3年の安藤祐司君の彼女か?』って聞かれたんだろ?」

 晶子の目が大きく見開かれる。元々大きい瞳がよく見える。

「どうして知ってるんですか?」
「嫌でも分かるさ。実験室に居た俺のところに、他の実験室に居る筈の奴らまで押し寄せて来て一斉に質問ぶつけたんだから。その中には実験を途中で放り出して生協の店舗に行ったっていう智一も居たよ。」
「確認しに行ったんですね?祐司さんのところに。それじゃあ、祐司さんが言った私への質問の答えも知ってますよね?」
「勿論。その後で何をしたかもな。」
「何て言われました?」
「俺が聞かされた答えと照合するから、言ってみろよ。あんなインパクトのある言葉、俺でも今の今まで憶えてるんだから。」
「じゃあ・・・せーの、で言いましょうよ。それなら祐司さんも誤魔化せないでしょうから。」

雨上がりの午後 第1578回

written by Moonstone

「普段は大体食事の時間が決まってますから、その時間が近づくとお腹減ってきますね。でも、それを過ぎるとお腹減ったっていう気分が不思議と和らぐんですよ。喉が乾いたらお茶飲んでましたし。」

2004/7/7

[短冊に書きたいこと]
 世間では今日は棚ボタ、もとい(汗)、七夕だそうで。小学生の頃は自宅の庭に生えてた細い竹に短冊ぶら下げてたものです(何年前の話かは絶対聞かないように)。今は少なくとも私の行動圏内には竹がまったくないですし、短冊をぶら下げた竹を飾っている家も見かけません。
 まあ、天の川に隔てられた彦星と織姫が1年に1度会う日、なんて言っても今時はプレゼントや料理とかがセットになってないと通用しないでしょうかね。私も天の川を観た記憶はないです。夏に天の川が見えるくらいに奇麗な夜空ってのは私の幼少時代でもなかったですからね。数年前、冬に北斗七星と北極星を見つけて結構喜んでたりはしますが(笑)。
 幼少時に短冊に書いた願い事が何だったのかは流石に思い出せませんが、今書けば一つだけなら叶うのなら、書きたいことが一つあります。金持ちになりたいとかそういうありふれた、且つ現実的なものじゃありませんけどね。このお話をしている時は曇り空なので星一つ見えませんが、少しの間昔に戻って何かの木に短冊でも括りつけておこうかな、なんて。
 二人の遅い夕食−夜食と言うべきか−が始まった。俺は箸を手に取るとまず魚の煮物に手を伸ばす。俺の好みに合わせてくれるとは言え晶子の煮物は甘くなる傾向があるし、魚の煮物はあまり食べないからな。どんな味なんだろう?期待と不安が脳裏で複雑に交錯する中、皮を剥いでほんのり煮汁の色にそまった実を口に入れる。・・・あ。

「美味いな、この煮物。」
「そうですか。良かった。やっぱり私から見て少し辛めかな、っていうくらいが丁度良いみたいですね。」

 晶子は笑顔を浮かべていかにも嬉しそうに箸を手に取って食べ始める。俺の評価を受けるまで待っていたのか。こんな時間まで待っていてくれただけでも十分嬉しいのに。

「・・・悪かったな。遅くなって。」

 味噌汁を啜ってから晶子に言う。煮魚を食べていた晶子が顔を上げて俺の方を向く。

「日付が変わるまで、作らせた食事を前に待ちぼうけさせてしまってさ・・・。」
「そんなことなら気にしなくて良いですよ。それより祐司さんがこんな遅い時間になっても、私との約束を守ってくれて嬉しいです。お腹減ったでしょ?」
「それは俺が聞きたいさ。腹減っただろ?」
「ええ・・・。」

 晶子は少し頬を赤くして視線を落とす。女が腹減ったって言うのは恥ずかしいとでも思ってるんだろうか?昼飯の後で約12時間も何も食わなかったら大抵の人間は腹減らす筈だ。それこそ気にしなくて良いのに・・・。

雨上がりの午後 第1577回

written by Moonstone

「お待たせしました。それじゃ・・・。」
「「いただきます。」」

2004/7/6

[使えないカード]
 大学の図書館はどうなっているのかよく知りませんが、私の職場の付属図書館は建物自体が事務関係の部署が集まる建物の一部になっていて、定時以外は予め発行を受けたIDカードを通さないと入館出来ません(出るのには必要ない)。此処の連載で祐司君が実験のメンバーを夜図書館に向かわせるシーンでカードを使え云々というくだりがあったのは、そこから派生したものなんです。
 今週の木曜日の勉強会で、予想外に早く講師役に指名されたのでその準備をするために図書館に行くつもりではいたのですが、かなり前に(何年前かすら憶えてない)IDカードを使って入館しようとしたら出来なくて、渋々引き返したのを思い出したんです。IDカードはその時から変わってませんから、もしかすると、と思ってあえて昨日、定時過ぎに行ってみたわけです。
 そしたらやっぱりIDカードが認識されない(汗)。IDカードが有効なのはそれで本の貸し出し手続きが出来ることで(IDカードに刻印されている番号を入力しないと手続きが出来ない)分かっているんですが、「鍵」の役割を果たさないのでは困るので担当部署に電話。しかし出ない(怒)。定時になったらさっさと退散した模様。仕方ないので今日朝一番で向かいます。再発行まで時間がかかる、って言われたら厄介だな・・・。まさか扉壊すわけにもいかないし。

「晶子。もう一つの鍋って何だ?」
「魚の煮付けですよ。」
「あ、魚か。」
「祐司さんが食べたお昼ご飯と重なっちゃったかもしれませんけど、料理の種類が違うということで見逃してくださいね。」

 今日の昼は魚だったから重なってると言えばそうだが、フライと煮付けじゃ全然違う。「温めたりすれば良い状態にしてある」と言ってたが、煮物なら後で加熱し直すことも容易だから、何時帰るか分からない奴を待つ料理としては一番適切だろう。

「もう少ししたら出来ますから、席で待っててください。」
「あ、良いのか?」
「料理の準備は私がすることですからね。特に今日は、私が此処で準備する、って言い出したんですから、祐司さんは待っていてくれれば良いんですよ。」
「それじゃ、向こうで待ってる。」
「はい。」

 香ばしい匂いに惹かれてその場に突っ立っていた、というのが本当のところなんだが、邪魔にならないように退散した方が良いな。俺は自分の席に向かい、途中でブレザーを椅子に引っ掛けて腰を下ろす。部屋に何時以来かの生活感豊かな匂いが充満してくる。楽しみだな・・・。
 程なく、軽い足音が近付いて来る。晶子が蓋をした鍋を持って来て、鍋敷きの上に置く。それを2回繰り返してから戻り、今度はラップに包まれた皿を運んで来る。サラダに冷奴、それに・・・ほうれん草のおひたしってやつか。夏場はとうに過ぎたとは言え、この手のものを出しっぱなしにしておくと乾燥して味気がなくなるってことくらいは、学食で経験済みだ。
 それが終わると、今度はやかんと炊飯ジャーを持ってくる。そこでようやく料理が皿に盛り付けられていく。魚の煮物、味噌汁、茶、ご飯。どれも温かいことが嬉しいものだ。盛り付けが終わると、晶子は皿を覆っていたラップを取ってエプロンを外し、髪をポニーテールにして俺の向かい側に座る。

雨上がりの午後 第1576回

written by Moonstone

 タオルで顔の水気を拭って、隣を覗き込む。少し湯気を立ち上らせているのは味噌汁。もう一つは・・・煮物か?まあ、焼くのは程度やものにもよるがある程度時間がかかるし、揚げるなら専用の鍋が必要だし、揚げ物が出来る程度の量の油を加熱するのには結構時間がかかることは、今まで晶子の手料理を食わせてもらっているから分かる。何の煮物だろう?

2004/7/5

[駄目なのね、もう・・・]
 いや、私が駄目って言っちゃ駄目なんですがね(汗)。此処と掲示板JewelBoxでお知らせした記事移転と科学文化研究所設立の件ですが、予想以上に梃子摺ったのでこの週末では間に合いませんでした。Perlそのものは忘れちゃいませんが、記事移転作業が思いの外大変でタイムアップ。
 で、来週の土日は7/9(金)に会う韓国人の方とのお話の模様の編集やら更新やらがありますし、そして参議院選挙の最寄の投票所への一番乗りを果たすべく(執念燃やしてます)早急に寝ますので、7/17〜7/18までずれ込みそうです。平日はあまり余裕ないですし。
 それに、連載のストックがまたしても底つきかけてますし・・・。毎日毎日ガブガブ食べてくれるんで、その分以上追加していかないといけないんですが、平日は気力体力使い果たしてるんでなかなか出来なくて・・・。ま、早めに実行に移します。ところで、今日のキャプションのネタ分かった方、どのくらいいらっしゃるかな?

「祐司さん。」

 智一の後姿を見送っていた俺に声が掛けられる。・・・外堀も内堀も埋められ、自分でも埋めてのこととは言え、俺も晶子も思い描く将来像を展開していることには変わりない。今はその幸せに甘んじるとするか。

「悪い。つい、な。」

 俺は家に入り、晶子に代わってドアを閉めて鍵をかける。そして改めて晶子と向き合う。

「ただいま。」
「お帰りなさい。」

 後ろに両手を回した晶子と挨拶と笑みを交わして、俺は靴を脱いで上がる。微かに漂う味噌汁の匂い。ランプがついている炊飯ジャー。テーブルに伏せて並べられている食器の数々・・・。今夜この家に居るのは俺だけじゃないってことを嫌が応にも実感させてくれる。

「今から温めますから、その間に顔を洗ってうがいをしてください。直ぐ出来ますから。」
「分かった。」

 俺は先にデスクの椅子に鞄を置いて、流しの蛇口を捻って顔を洗い、うがいをする。その横では、晶子が2つのコンロに乗せられた鍋を火に掛けている。片方は味噌汁というのは匂いで分かったが、もう一つは何だろう?

雨上がりの午後 第1575回

written by Moonstone

 智一は手を挙げてから背を向けて立ち去っていく。闇に消えていくその後姿がやけに寂しげだ。自分から見たいと言っておきながら、なんて気持ちは少しも湧き上がってこない。

2004/7/4

[初日焼け]
 昨日、用事があって日中外に出てました。こちらは梅雨はもう終わったのかと思わせる夏日で、陽射しも強烈でした。帰って夕食を食べる段階になってふと両腕を見たら、真っ赤になってました。日焼けです。
 私は見た目からは想像出来ないほど肌が弱くて、ベテランの理髪業者を悩ませ(非常に高い確率でカミソリ負けします)、日焼けすると真っ赤になって程度が酷いと痛みますし、水が染みます。まあ、日焼け自体が火傷みたいなものですからそうなっても仕方ないという側面もあるんですが。
 今回は痛むほどではないにしても、日焼けしていない部分との色の違いは歴然。夏そのものは好きなんですが、日焼けで痛い思いをするのは嫌ですね。炎天下に出るときは長袖にしないといけないな・・・。

「ただいま。」
「お帰りなさい。」
「ううう・・・。新婚家庭そのものじゃねえかよ・・・。」

 家に入ろうとしたところで、智一の恨み節にも取れる呻き声が聞こえる。

「祐司が晶子ちゃんに合わせてその場限りの言い逃れをしたんじゃないか、って少しばかり思ってたけど、本物だったのか・・・。エプロン姿と笑顔でお出迎え。何て羨ましいシチュエーションなんだ・・・。」
「これで確認出来ただろ?俺が何で今日あんなに苛立ってたかって。」
「さっきのやり取り見聞きしたら嫌でも分かるさ。はあ・・・。晶子ちゃんはもう俺の手の届かないところに行っちまったのか・・・。」

 智一は明らかに肩を落としている。何だかんだ言っても目の前で展開された状況を見てショックだったんだろう。俺もかつて想いが届かず、好きな相手が自分と違う男と仲良さげに話していたり、一緒に下校するのを見てやるせない気分になったことが何度ある。今度は結婚、しかも相手が夜遅くまで夕食を作って待っていた。ショックに思わない方がおかしいか・・・。

「あーあ、羨ましいなぁ〜。これから二人で温かい夕食タイムか・・・。癒されるだろうなぁ〜。」
「智一・・・。」
「この目でしかと確認させてもらった。それじゃあな。」
「ああ。」

雨上がりの午後 第1574回

written by Moonstone

 晶子はドアを一旦閉める。金属同士がぶつかり合う音がした後、ゆっくりドアが開く。今度は晶子の姿と俺の家の玄関が見えるくらい広く。髪はおろしているが、エプロンは着けているその服装は今朝見たものと同じだ。

2004/7/3

[また出たか・・・]
 一昨日あたりかな?何だか妙に痒(かゆ)いな、と思ってその場所を見たら、小さな水ぶくれが幾つか出来ていたんです。それは日を追う毎に増え、今じゃその場所、右手人差し指の親指側側面がそれで覆われています。
 これが出来るのは決まって、心理的ストレスが多大に蓄積している時です。このところなりを潜めていたんですが、忘れた頃にやってくる、ってやつですね。普段はさほど痒くないんですが、汗をかくほど気温と湿度が上昇すると急激に痒みを増すので、汗かきの私にはかなり厄介です。
 原因は分かってます。何時間も延々とアルゴリズム(プログラムの処理手順)を考えてプログラムを書いてテストして、それがなかなか進まないことです。原因を根本的に除去しない限りこの水ぶくれは治らないので、当面は痒みと見た目の悪さ(色白の肌に赤い水ぶくれはもの凄く目立つ)を我慢するしかないです。うう、また痒くなってきた・・・。
 ピンポーン、と外からでもよく響く音がした後、中で何かが近付いて来る気配を感じる。ガチャッという音がしてドアがゆっくり開く。幅約10cmのところで止まったドアの中央部にはドアチェーンに続いて、茶色がかった髪がゆっくり見えてくる。

「どちら様ですか?」
「祐司だよ。」
「そして伊東智一様もご一緒でーす。」

 嬉しさが溢れてきた晶子の表情が見えなくなる。智一が俺を横に押しやって陽気に名乗り出たからだ。その拍子に壁にしこたま身体をぶつけてしまう。何か勘違いしてやいないか?智一。此処は俺の家。晶子が待ってたのは俺だぞ。

「あ、伊東さん・・・。どうして?」
「いやあ、祐司を送って来たついでに、祐司をこんな遅くまで帰らせなかったことを晶子ちゃんに謝ろうと思ってね。」
「実験が長引いてる、って祐司さんから電話で聞きましたけど・・・。」
「やっぱりこういう時は面と向かって謝るのが、人間関係の基本でしょ?」
「は、はあ・・・。」
「智一。いい加減にしろよ。」

 俺はされたのと同様に智一を押し退けて、ドアと壁との隙間に身体を戻す。当惑気味だった表情が急速に歓喜へと戻っていくのが分かる。

「すっかり遅くなったな。」
「いえ・・・。それじゃ、開けますね。」

雨上がりの午後 第1573回

written by Moonstone

 インターホンを押そうとしたところで智一の不満混じりの声が聞こえる。そう言えば智一の奴、晶子を見たいんだっけ・・・。思わず笑みが零れたのを感じて、俺はインターホンを押す。

2004/7/2

[先んじてここで予告]
 お返事が滞って大渋滞を起こしている掲示板JewelBoxですが、運営方針を一部変更することにしました。ここの上位ページ(URLの.org/までの部分)をご覧いただくと、芸術創造センターへの入り口「Performing Arts Center」の下にリンクが貼られていない「Institute for Science And Culture」という文字列があります。そこは「科学文化研究所(略称ISAC)」といって、科学技術・社会経済をテーマにした論文を発表していく場所への入り口なんです。
 以前お話したかもしれませんが、このページのドメインが.orgなのは.netが既に取られていて、迷っている間に.comを取られてしまって止む無く、という側面もあるのですが、Moonstone Studioが組織形態を取っていて芸術創造センターはMoonstone Studio管轄の芸術系施設という位置付けなので丁度良い、と思って取った経緯があります。芸術創造センター(略称PAC。URLの末尾もそうなってるでしょう?)の管理運営に追われてISACの方はまったく手付かずのままだったのですが、この際ISACを暫定的に立ち上げようか、と。
 具体的に言うと、JewelBoxにおける政治社会に関する記事をISACに新設する掲示板(「談話室」みたいな名称にする予定)にそっくりそのまま移動し、それ以外はJewelBoxに残して、JewelBoxのお返事を優先して行う、というもの。何せ激動の時代だけに、政治社会の関係は直ぐ次の対応が求められる状態なので、一先ず最低限のルールさえ守ってもらえれば自由にお話できるようにしておこうと思います。今日か明日の夜に日程を正式に告示しますので、チェックをお願いします。
 尚も走って行くと、何となく見覚えのある風景が目に入って来た。点々と灯る街灯、闇に浮かぶ似かよった建物のシルエット・・・。これって、俺の家と晶子の家を結ぶ通りの延長線上じゃないか?カーナビの画面を見ると、赤く点滅している一角に向かってほぼ一直線に道が走っている。

「この先500mを左折です。」
「もう直ぐだぞ、祐司。」
「そう・・・なのか?俺にはよく分からないけど。」
「普段通ってる道でも昼と夜とじゃ随分違って見えるもんだからな。だが、お前の家に近付いているのは確かだぞ。」

 そうこうしていると、眼前の光景と脳裏にある光景がはっきり重なってくる。ああ、確かにこれは晶子の家から俺の家に向かう道だ。遠くに視線を移すと、コンビニの看板とその近くに幾つかの人影が見える。年中無休、24時間営業のコンビニには、常に誰かが居るものだ。
 車が左折し、スピードを落とす。程なく見えてきたものは、間違いなく俺の家があるアパート。カーナビの画面を見ると、周辺の太さ様々の道に−通ったこともないな−矢印と赤い点滅が隣接している。

「祐司。降りて良いぞ?」
「あ、ああ。」

 カーナビの画面に気を取られて、降りることをすっかり忘れていた。俺は鞄を抱えてからドアを開けて車を降り、ドアを閉める。闇にうっすらとシルエットを浮かべる見慣れた建物の、最も西寄りの一角の窓が白い明かりを放っている。普段は真っ暗な筈のそこがこんな時間でも明るいことで、心まで明るくなっていくような気がする。
 俺は小走りで晶子が居る筈の自分の家に向かう。何時もなら「今日も1日終わったか」と溜息混じりに向かう道程が妙に心躍る。近付いていくにしたがって、俺の家に灯りが灯っていることが実感出来る。ドアを前にしたところで足を止める。

「おいおい。置いていくなよな。」

雨上がりの午後 第1572回

written by Moonstone

 暫くして車は住宅街らしいところに入る。らしい、というのは闇に浮かぶ建物のシルエットが家らしいものばかりだからだ。車はおろか、人どおりもない。ゴーストタウンとはまさにこういうのを言うんだろうか。

2004/7/1

[はい、7月です]
 とはいっても気候や自分の生活に大した変化はありゃしませんが(笑)。蒸し暑いのは相変わらずですし、1つ歳食ったといっても、公に煙草が吸えるとか酒飲めるとかいう目立った変化もないですし(私は酒は飲めますが煙草はまったく駄目)。メイド、じゃなくて(汗)冥土にまた一歩近付いたとしか言い様がないですな。あ、掲示板に「お誕生日おめでとう」書き込みをくださった皆様、ありがとうございます〜♪近々お返事しますね。
 さて、月始め恒例ということで背景写真を変更しましたが、この花、当初は桔梗とばかり思っていました。「青っぽい紫でこの時期に咲く」ということは知っていたので。ところが、職場の昼休みに検索してみたら、背景写真の花と桔梗の花とは色こそそれっぽいものの形は全然違う(汗)。そもそも春に咲く花はそこそこ知ってますけど、夏に咲く花はハイビスカスくらいしか知らないですからね・・・。何気に道の片隅で咲いていた花を撮影して、それを断片的な知識から桔梗とばかり思い込んでたわけです。
 この正体不明の花の写真はかなりあって、倉庫ディレクトリを探っていたら見つけたものです。撮影日は・・・1年前の6月29日(汗)。そう言えば昨年、自分の誕生日(6/29)は日曜と重なってたっけ・・・。そうでなきゃ、朝の6時にうろついたりしないよな(笑)。ハイビスカスもあるので、頃合を見て変更します。しかし、この花の名前って何だろう?
 運転席の隣にはカーナビがあって、中央にある矢印がほぼ上、すなわち北を向いた状態で地図がじりじりとスクロールしていく。ちらっとスピードメーターを見ると・・・80km?!おいおい、チラッと見たが標識では制限時速50kmってなってた筈だぞ。

「智一。お前、スピード出し過ぎじゃないか?」
「ん?この時間でこれだけ広い道を突っ走るのにスピード出さなかったら、罰があたるってもんだ。」
「警察が追いかけてくるぞ。」
「大丈夫大丈夫。この道のこの時間帯じゃネズミ捕りはやってない。あれはこういう目立つ道じゃなくてバイパスみたいな道で、しかも流れから離れてぽつんと走ってる車をターゲットにするもんだ。」
「つまり、警察が来ないことを承知でぶっ飛ばしてるってわけか。」
「そういうこと。」

 なるほど・・・。抜けがないと言うか何と言うか・・・。智一が休日とかにドライブに出かけるって話は聞いたことがあるが、その甲斐あって−と言って良いものかどうかは別として−走り慣れてるな。ぶっ飛ばすにしてもまったく躊躇してる様子がないし。

「それに、お前の到着がこれ以上遅くなったら、晶子ちゃんが可哀相だからな。元はと言えばお前の言うとおり、お前におんぶに抱っこで実験を進めてる俺やあと二人に責任があるんだし。」
「・・・。」
「謝るついでに会いたいしな〜。晶子ちゃんに。」
「智一。謝るの『ついで』じゃなくて、会う『ついで』に謝るの間違いだろ。」
「チッ、ばれたか。」
「最初から俺の家まで車走らせる気だったんだろ?晶子見たさで。」
「ご名答。超能力が開花したか?」
「そんなこと、その辺の似非(えせ)占い師でも当てられる。」

 俺と智一は笑う。車に乗る前に、俺は胡桃町駅前までで良い、と言ったんだが、智一はカーナビがあるからお前の家まで送ってやる、と言った。その時はあまり深く考えずに承諾したが、やっぱり下心があったのか・・・。

雨上がりの午後 第1571回

written by Moonstone

 智一の車が夜道を疾走している。平日、しかも時間が時間ということもあってか、道は閑散としている。一応大通りらしいが−電車通学だし自転車と徒歩以外に交通手段がないしそもそも出歩かないからよく知らない−このくらいの時間だとこの辺は空いているらしい。

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