芸術創造センター こぼれ話
Dropped talk of Performing Arts Center

2004年2月1日更新 Updated on February 1st,2004

2004/2/29

[今日から再開です]
 2/28はシャットダウン日程になかったのに何故事前通告もなしに休んだ、とご立腹の方も居られるでしょう。そこで早速且つ簡単ではありますが、2/28の更新がなかった経緯を説明します。
 2/26、2/27両日付の更新がないことはシャットダウン日程で告知しましたし、その理由が私の本業の出張であるということは2/25付のこの欄でお話したとおりです。で、実際私は2/27夜に帰宅し、更新出来る環境にあることはありました。しかし、私個人が直面する問題と今後のページ運営を天秤に掛けた結果、やむなく2/28付更新を通告なしに見送ったのです。
 此処でも以前お話したかもしれませんが、私は自律神経失調症を患っています。この病気は神経性疾患の一つで、人間の身体機能を司る自律神経のバランスが崩壊してしまうため、幾ら疲れていても薬やアルコールの力なしでは寝ることすらも出来ません。現在は回復の軌道に乗っているとは言え、今でも寝るためには薬の力を借りないといけません。
 実は、出張当日(2/25)朝にその準備で慌てていたため、迂闊にも薬を持っていくのを忘れてしまったのです。薬を飲まずには寝られない身体で無理に寝ようとすれば、身体は眠っているのに頭は起きている、すなわち金縛りと同じ状態になり、酷い幻覚と幻聴に苛まれ、精神状態を酷く悪化させます。それを避けるため出張中の3日間はずっと起きていたのですが、幻覚と幻聴に苛まれることと引き換えに、猛烈な吐き気、消化器の機能停止、左半身の機能不全(感覚の麻痺、指を動かすことさえままならないなど)に陥り、出張3日目であり帰宅した2/27には立つのがやっとという有様でした。
 そんな状態で更新やメールチェックなどをすればどうなるか。肉体状態の更なる悪化はもとより、精神崩壊も予測出来ます。そうなったら今後のページ運営に重大な支障をもたらすことになります。それでは元も子もありません。帰宅してからも悩み、考えました。その結果、1日の無断欠勤より今後の安定したページ運営の選択肢を取ることを決断し、2/27夜は薬を飲んで早急に就寝しました。このお話をしている2/28にも吐き気こそおさまったものの、消化器の機能停止、左半身の機能不全は未だ残っており、食事も液体の栄養食を飲むのが精一杯です。そこで、今日2/29付更新は必要最低限に留め、メールや掲示板のお返事をすることは止め、更新とメールと掲示板のチェックを完了次第、就寝することにしました。
 自業自得とは言え、厳格な運営方針を掲げるページの管理人にあるまじき失態は無責任とのそしりを免れません。しかし、1日の更新と今後の運営を天秤に掛けた場合、後者を選択せざるをえませんでした。本日2/29より通常の運営に戻します。メールや掲示板のお返事も順次行います。どうかご容赦くださいますと共に、今後ともお付き合いくださいますよう宜しくお願いします。
そうなってしまったらその後が怖い。俺がその気になっているのに晶子が拒否したら俺は多分、否、きっと怒るだろう。そこで絆に−それが絆と言えるものなのかどうかも怪しいが−小さな亀裂が生じ、それがどんどん増えていって最後には全てが繋がって大きな裂け目となって絆を分断する。後に待っているのは・・・どうしようもない気まずさだけだろう。

「それで良かったのかもしれない・・・。当の本人が言うのも何だけど、男ってやつは一度・・・変な言い方だけど・・・女の味を占めるとそう簡単にストップがかけられないんだ・・・。そこにその女が好きだという感情が絡むと尚更・・・。だから此処に、晶子の家に居る時は、俺が男で晶子が女だという根本的な課題を棚上げしていたように思う・・・。」
「・・・苦しいんでしょう?男の人って。」
「生々しいこと言うけど・・・、晶子と寝た時のことを思い出して処理してた。それ以前に、毎日を過ごしていく中で都合良く忘れていたっていう側面もある・・・かな。あっという間の毎日だったからさ・・・。」
「・・・。」
「口でどれだけ、好きだ、とか、愛してる、とか言ってても、陰じゃそうしてるもんなんだよ・・・。欲望を自分で処理するか、激しい時の流れの中に放り捨てているか・・・。だから・・・、俺に憧れなんか持たない方が良い。くだらないから。」

 我ながら良く出来たと思う自嘲の言葉を並べると、晶子は微笑みながら首を横に振る。

「祐司さんは私を真剣に愛してくれているから、無意識のうちに我慢したり、ほんの小さな隙間から出て来た欲求を処理していたんだと思うんです・・・。祐司さんが言ったように、なかなか自分自身にストップがかけられないということを分かっているから、そうならないように予防措置を施していたんだと思うんです・・・。」
「・・・。」
「だから私は・・・、そんな祐司さんの懸命な努力を一瞬にして無にするようなことをしてしまったのかもしれません・・・。でも、これだけは分かって欲しいんです。」

 俺の左手に柔らかいものが重ねられる。そして強く握られる。俺の顔が映る晶子の瞳は真剣で、何かを懸命に訴えているのが分かる。

「私は・・・祐司さんを愛してます。本当に。真剣に。だから・・・欲しかったんです。祐司さんの全てが。」
「晶子・・・。」
「あんなところを見せておきながら何を今更、と思うでしょうけど・・・、私は・・・本当に・・・。」

 俺は晶子の唇を自分の唇で塞ぐ。ん、というくぐもった声が一瞬だけ浮かぶ。目を閉じているからどんな表情なのかは分からないが、晶子の言いたいことは十分分かったつもりだ。だからもう言わせたくない。自分で自分を責め立てるだけになってしまうから。そんな晶子の顔は見たくない。今までで十分見せられた。もう十分だよ、晶子・・・。
 晶子の身体から力が抜けたのを感じてから、俺は晶子の口を覆っていた唇をそっと離す。目を開けて見ると、晶子は眠っているような安らかな表情をしている。やがて晶子がゆっくり目を開ける。

雨上がりの午後 第1451回

written by Moonstone

 それに加えて、俺の家のみならず、此処ででも一度ことに及べば、もうストップがかけられなくなるんじゃないか、ただ身体を求めるだけの関係になってしまうんじゃないか、というある種の恐怖感があったのも事実だ。

2004/2/25

[ちょっとお休みします]
 正常化して間もないのに何事か、と怒られるかもしれませんが、事前の告知どおり明日明後日はシャットダウンさせていただきます。此処の常連組リスナーの方や「Total Guidance」に目を通された方はご存知でしょうが念のため説明しますと、要するに「事情があって更新出来ません」ということです。今回は本業の出張で関東地方に遠征してきます。そこには一応PCを持っていくつもりですが、ネットに繋げる環境があるかどうか不明な上、あったとしてもそこが更新に必要な時間だけ占拠出来るかどうか不明なので、安全措置としてシャットダウンするというわけです。
 戻って来るのは金曜(2/27)ですが、時間は何時になるか分かりません。遠征先からの出発時間に大きく影響されますので。ただ、時間はずれ込んでも金曜の夜の更新、即ち2/28付更新からは再開します。
 実は昨日(2/23)は寝てません。眠れなかったのではなく、寝るタイミングを逸しただけです。前にもやらかしたことですが、うっかり自分の作品を読んでいたらハマってしまい、気が付いたら薬の効力より短い時間しか寝られない時刻になってしまったんです。私は薬を飲まないと寝られない身体ですからね。朝は酷い吐き気に苦しめられましたが、今は大丈夫です。それでは、少しの間留守にします。皆様は他のグループの作品をご堪能下さいませ。

「何事もなかった様子だったから、てっきりそう思ってるのかと・・・。」
「どう切り出せば良いか分からなかったんですよ・・・。祐司さん、もしかしたら私のこと、はしたない女だ、って思ってるんじゃないかと思って・・・。」
「・・・綺麗だったよ。それに・・・幸せだった・・・。」
「嬉しい・・・。」

 晶子はうっとりした表情で目を閉じる。余韻に浸っている、という表現が相応しい。俺の前で全てを曝け出し、尽くしてくれた晶子を綺麗だとは思っても、はしたない、なんて思うもんか。良かった・・・。昨夜のことは晶子にとって何でもないことじゃなかったんだ・・・。
 俺は晶子の肩を抱いたまま目を閉じる。昨夜俺が晶子にしたこと、晶子が俺にしたことを思い返す。思いつく限りのことを晶子にしたし、晶子が俺にしてくれた。久しぶりだったとは言え、本当に力の限り晶子を愛したし、晶子に愛された。何度想いの丈を晶子に解き放ったか分からない。本当に激しかった。終わった後、どうにか晶子の横に身体を横たえたんだが、その後は憶えていない。

「好きな人だから・・・、全てを曝して・・・全てを尽くしたんです・・・。」
「・・・。」
「私は・・・壁を作っていたと思うんです。祐司さんが慎重なのを良いことに、祐司さんが健康な男の人だという厳然たる事実を私の頭からも、祐司さんの頭からも排除させていた・・・。貴方はこの壁を越えて私の家という聖域に入ったんだから、男の人であるという事実を捨てるよう、私自身にも祐司さんにも強制していた・・・。そう思うんです・・・。」

 そうかもしれない。此処は晶子の家、しかも女性専用のマンションだという印籠を突きつけられてある意味臆病になっていた。その気になれば何時でも手を出せた筈だ。風呂上りで白い肌を上気させ、色気を発散させている女が自分の直ぐ傍に居るのに手を出さなかった、否、出せなかったのは晶子が言うとおり、此処に来た以上は男であることを忘れなければならない、という強力な圧力を伴う落し蓋が俺の第一次欲求を押さえ込んでいたからだと思う。

雨上がりの午後 第1450回

written by Moonstone

 晶子の言葉をきっかけにして、再び脳裏に昨夜の光景と物音と声が鮮明に再現される。俺が恐る恐る晶子の肩に手をかけると、左肩にかかる重みが増す。晶子は本当に幸せそうな笑みを浮かべて、頬をほんのり赤らめている。

2004/2/24

[リスナーの皆様へ]
 ここ数日「こぼれ話」という謳い文句さえ当てはまらないほどの無様さを聞かせてしまったことをまずお詫びします。どうにかゴタゴタに一応の区切りがつきました。それに伴う若干の余波はあるでしょうが、ここ数日のことを考えれば取るに足らないレベルであり、私はそれを受け止めなければならないと自覚しています。
 ここで特に二人の方にお礼を言います。お一人は、幾度となく脳裏を過ぎった「死」の光景を現実にすることを思い止まらせてくれた上に、私に前を向いて進む力と勇気を与えてくれました。もう一方は、危機に陥った私を無言で救ってくれた上に、その後も決して感情的にならずに客観的立場に徹して、私の心に太く強い鎹(かすがい)を打ち込んでくれました。特にその方は、私がその方より先に死ぬことでもない限り、このお話を聞くことは一生ないと思います。そんなお二人にこの場を借りてお礼を言います。

本当にありがとうございます。心から感謝しています。

 そして全てのリスナーの皆様へ。私事でこの場を滅茶苦茶にしてしまい、日々訪れてくださるにも関わらずつまらない思いをさせてしまったことを深くお詫びします。そして見守ってくださったことに感謝申し上げます。どうかこれからも私の戯言にお付き合いください。宜しくお願いいたします。
 テーブルに湯気の原因であるところのハムエッグと千切りキャベツが盛り付けられた皿とコップと箸を二つずつ並べて置くと、晶子は小走りで出て行く。次はお玉が入った片手鍋。次は炊飯ジャー。最後に茶褐色の液体が入った、表面に水滴が浮かぶ瓶。晶子が手際良くご飯と味噌汁をよそい、最後に麦茶をコップに注いだところで、俺は「指定席」に腰を降ろす。晶子もエプロンを外して「指定席」に座る。
 声を合わせて、いただきます、と唱和してから俺はまず味噌汁を啜る。程好い熱さの味噌汁が喉に心地良い。俺は味噌汁の器を置いて軽く溜息を吐く。何時もの火曜の朝と変わらないな。メニューは違うけど。
 双方無言のうちに食事は終わる。ほぼ同時に終わったのもこれまた何時もの火曜の朝と変わりない。揃ってご馳走様、と唱和した後、晶子が手早く食器をテーブルから片付け、コップに麦茶を注いだ後、晶子はトレイを持って部屋を出て行く。何だか・・・呆気ないと言うか、味気ないと言うか・・・。俺は麦茶を一口飲んで、ふう、と溜息を吐く。余韻に浸るっていう感覚じゃないな・・・。
 麦茶が半分ほどになったところで、晶子が戻って来る。そして黙って俺の隣に座る。俺が前を向いて麦茶の入ったコップを手にしたところで、俺の左肩に軽い衝撃に続いて重みが加わってくる。

「夜は・・・凄く幸せでした・・・。」

 コップを口に運ぼうとした俺の手が無意識に止まる。晶子の方を見ると、その言葉どおり幸せそうな微笑みを浮かべている。

「晶子・・・。」
「何でもなかったように見えたんでしょ?」
「・・・ああ。」
「そんなわけないじゃないですか・・・。夜・・・、祐司さんが私にしたことも、私が祐司さんにしたことも、全部憶えてますよ・・・。」

雨上がりの午後 第1449回

written by Moonstone

「味噌汁とご飯持って来ますから。」

2004/2/23

[今日の賽はどう転ぶ?]
 とりあえずするべきことはしました。後は今日次第です。どうなるか・・・現時点(2/22 23:00)ではまったく分かりません。当たり前と言えばそうなんですが。明日どころかほんの1時間先のことすらも分からない。どうして人間は一寸先が見えないのか。普段考えもしないことが今は強く切実に思えてなりません。何時かほろ苦い思い出になれば良いんですけどね・・・。何時になることやら。
 聞き慣れた繊細な声で、俺は一気に現実に引き戻されて跳ね起きる。見ると、昨日とは違って淡いブルーのブラウスとズボンというシンプルな服装にエプロンを着けた晶子が少し前屈みになって首を傾げている。髪はポニーテールなのは昨日と、否、何時もの月曜と同じだ。

「あ、お、おはよう。」
「おはようございます。・・・もしかして、起こしちゃいました?」
「い、いや、少し・・・、いや、ついさっき目が覚めたばかり。」
「そうですか。もう直ぐ朝御飯出来ますから、待っててくださいね。」
「あ、ああ。」

 俺が取り繕っているのが見え見えな返事をすると、晶子は笑みを浮かべると踵を返して部屋から出て行く。何事もなかったかのようだ。晶子にとっては何でもないことだったのか?昨夜は今までしなかったこともしたりされたりしたっていうのに・・・。俺は少しがっかりしながら布団から出て服を着る。あれ?下着が代わってる。何時の間に・・・。
 服を着終えてベッドに腰掛けて待っていると、ドアが開いて晶子が入ってくる。その手には微かに湯気が立つトレイがある。

雨上がりの午後 第1448回

written by Moonstone

「・・・じさん。・・・祐司さん?」

2004/2/22

[ちょっとだけ・・・]
 昨日は日中彼方此方飛び回っていました。それで疲れているにも関わらずまったく寝られず、頭の中がぐちゃぐちゃになったままです。メールや掲示板はチェックしていますが、お返事は暫くお待ちください。今の状況ではとてもまともに対応出来ませんので・・・。じゃあ今までまともだったのか、とは言わないでください。何れきちんとお返事しますので、暫く見守っていてください。お願いします。
 俺は晶子の唇を覆うように自分の唇を重ね、まず自分の下着を脱ぐ。そして最後の一枚に手をかける。俺の手の動きに合わせて晶子の腰が動く。軽い引っ張り感が消えると、それはするすると取れて、とうとう何の感触もなくなる。
 手にした最後の一枚をベッドの脇に落とし、俺は改めて晶子の身体に乗りかかる。隔てるものが全てなくなった俺と晶子の身体はぴったり密着する。この弾力、この滑らかさ、この温もり、そして唯一異なるあの感触。これらが今年初めて晶子と顔を合わせたあの夜の記憶を鮮明に蘇らせる。もう止めない。止められない。止めるもんか。

晶子・・・!

・・・。

 ・・・視界が徐々に白んでくる。意識にかかった霞が晴れていく。目の前に広がるのは・・・天井か。改めて思い返してみると・・・、俺は久々に朝に目を覚まして眠気を水シャワーで取っ払って、出かける準備をして少し待っていたら晶子がやって来て・・・、免許取って以来初めて車を運転して晶子が行きたかったと言う「別れずの展望台」とやらに行って・・・帰って来て・・・、晶子の家で夕食を食べて・・・俺は晶子と・・・晶子と・・・!
 俺は左側を見る。しかし、晶子の姿はない。夢だった・・・?否、違う。あのテーブル、そしてこの掛け布団。これは間違いなく晶子の家のものだ。念のため俺は掛け布団を少し捲って中を覗きこむ。・・・裸だ。俺は掛け布団を元に戻して天井を見上げる。口元が自然と緩んでくる。目を閉じると、このベッドの上で展開された光景と声と物音が次々と、しかも鮮明に脳裏に浮かんでくる。

雨上がりの午後 第1447回

written by Moonstone

 晶子の小さな声が聞こえてくる。さっき背中に手を回したのはそのためだったのか・・・。俺は晶子の背中から手を引き抜き、俺の胸と晶子の胸を隔てる一枚の布を右手で軽く引っ張る。それはするっと取れる。あまりにも呆気ない。俺はその布をベッドの脇に投げ出すと、改めて晶子に乗りかかる。さっき右手に覚えさせた感触が胸全体に伝わってくる。この感触・・・久しぶりだ・・・。

2004/2/21

[・・・]
以下の言葉を忠告と受け止めるも由。戯言と聞き流すも由。

この世に「絶対儲かる」話などない。
それは悪魔の囁きでしかない。
悪魔は手を変え品を変え、常に貴方を狙っている。
悪魔は貴方のほんの僅かな心の隙を狙っている。
悪魔の囁きに耳を貸したら最後。待っているのは破滅のみ。
 懇願するように言うと、晶子は再び目を閉じる。全てを俺に委ねる、ということか?俺は改めて晶子を見る。身体の内側から火照ってくる。鎮静していた欲望の炎が再び勢いを増してくる。俺は生唾を飲み込んでからゆっくり立ち上がり、ベッドの掛け布団を捲って晶子を抱き起こし、ベッドに運ぶ。
 ベッドに横たわる晶子は目を閉じたまま自分の背中に手を回し、続いてスカートのファスナーとホックを外して両手をベッドに投げ出す。俺はズボンとシャツを脱いで床に置いてから、晶子のブラウスを脱がす。晶子は俺の手の動きに合わせて身体や腕を動かし、自分から脱いでいく。次に俺がスカートに手をかけると、やはり腰や足を動かして脱がしやすいようにする。
 共に下着だけになった。晶子は目を開けない。少し開いている口元が妙に色っぽい。下着が覆っている二つの隆起が小さく速く上下運動をしている。俺は晶子の両脇に手を置き、ゆっくりと晶子に乗りかかる。独特の弾力と滑らかさと温もりが伝わってくる。薄い布越しに感じる弾力は格別だ。否応なしに呼吸が早まってくるのが分かる。俺は晶子だけを視界に収める。

「本当に・・・良いのか?」

 囁き声で確認すると、晶子は目を閉じたまま小さく頷く。俺は胸の下着に手をかける。あ、まずはホックを外さないと・・・。俺が晶子の背中に手を回して弄るが、ホックの感触はない。

「もう・・・外してあります・・・。」

雨上がりの午後 第1446回

written by Moonstone

「どうしたんですか・・・?」
「・・・このままじゃ・・・俺は・・・。」
「続けて・・・。出来れば・・・ベッドの上で・・・。」
「でも、此処は・・・。」
「続けて・・・。」

2004/2/20

[ラストシーンを思い浮かべて]
 このウィンドウスペースの有効利用、というあまりにも安直な思いつきから始まった連載「雨上がりの午後」。ふと構想しているラストシーンとその直前のシーンを思い浮かべたのですが、今の進み具合から逆算すると、2000回ではそこに辿り着けそうにないです。下手すると3000回でも無理じゃないか、という推測もあながち出鱈目とは言えない状況です。
 連載当初からは勿論、現在の読者がどれだけ居るのかも怪しいにも関わらず、今尚しぶとく日記と同時に続けているのは、結局のところ、出来るならこんな恋愛がしたい、という理想像を描いているからだと思います。平日は仕事&家事、休日は作品制作&家事というパターン化した日常の中で(家事から逃げられないのが厳しいと言えば厳しい)、これを書いている時間くらいは理想の世界に浸っていたい。そんな感じですね。
 携帯電話が登場しないのはその端的な証明ですね。祐司君が以前語ったように、相手が自分の知らない、知ることが出来ない秘密をちらつかせながら持たれているのは我慢ならないんですよ。まあ、独占欲が強過ぎ、と言われればそれまでなんですけど。何時か携帯電話が登場するかもしれませんが、その時はあくまでも自分の理想を投影するつもりです。さあ、ラストシーンへ向かって今日も一歩進むぞー!

「・・・続き・・・、してくれないんですか?」
「・・・良いのか?」

 俺が確認の問いを投げかけると、晶子は無言で小さく頷く。沈黙の時間が少し流れた後、俺は晶子の頭と腰に手を伸ばす。晶子は俺の肩から顔を上げて身体を俺の方に向ける。そして両腕を俺の首に回す。
 自然な形で晶子と抱き合った俺は、ゆっくり晶子に体重をかける。晶子はリクライニングするシートのようにゆっくり身体を倒していく。俺が晶子に乗りかかる形で床に横たわる。俺は間近に見える晶子の首筋に唇を触れさせる。はぁ、という甘い吐息が聞こえる。俺の唇の動きに合わせて晶子が頭を動かす。俺の首に絡みつく腕に力が篭るものの、何ら抵抗する素振りを見せない。
 俺は晶子の喉に唇を当てたまま、右手を晶子の背中と床の間から引き抜いて後ろに持っていく。滑らかなそこ−晶子の太腿−に触れた瞬間、晶子の身体がぴくんと振動し、呼吸音が荒くなって周期が速くなる。俺が太腿を撫でると、晶子は俺の首により強く抱きついてくる。荒い呼吸音が欲望を刺激する。
 一頻り太腿の感触を手に馴染ませた後、俺は左手も引き抜いて身体を少し浮かして晶子のブラウスに手をかける。晶子は俺の首から両腕を離す。脱がすのに邪魔にならないようにするためだろう。俺は生唾を飲みながら晶子のブラウスのボタンを一つ一つ外し、出来た隙間に手をかけて開く。凹凸がはっきりした白い肌の上に、別の白さを持つ下着が乗っている。俺は再び晶子の身体に乗りかかり、下着の間に手を差し込んで胸を軽く掴み、首筋に唇を当てる。
 俺の手の動きに合わせて柔軟に形を変える豊かな膨らみを暫し堪能する。この部屋で晶子の胸に触れるのは何時以来だろう・・・。それどころか、晶子の胸の感触を手に感じさせるのも随分久しぶりだ。成人式会場前でのスクランブルライブの後この町に戻って、俺の家で晶子の手料理で祝ってもらった後以来か・・・?そうだな。多分そうだ。あの時はそのまま・・・。でも、此処じゃ・・・。
 右手に独特の弾力と滑らかさを染み込ませた後、俺はゆっくり身体を起こして晶子を見る。ブラウスをはだけて−はだけさせたんだが−下着を露出させ、目を閉じて肩で息をしている晶子は色っぽいことこの上ない。でも、このまま進めるのは・・・。俺が躊躇っていると、晶子がゆっくり目を開けて俺を見る。息は荒いままだ。

雨上がりの午後 第1445回

written by Moonstone

「お待たせしました。」

 ドアが開いて晶子が入って来る。晶子は俺の隣に腰を下ろすと、俺の左肩に組んだ両手を置いてそこに頭を乗せる。俄かに胸が高鳴ってくる。晶子がゆっくり顔を上げる。その瞳と唇が俺を誘惑しているような気がしてならない。

2004/2/19

[恋と愛の違いって?]
 「恋愛」という単語は誰しも一度は見聞きしたことがあると思います。此処での連載「雨上がりの午後」も恋愛ものという位置付けですし、このページに来てくださる方々の中には、何処かで「雨上がりの午後」なる恋愛小説があることを知って、果てさてどんなものか、と読んでみたのがきっかけになった、という方も居られるかもしれません。
 ここまででも「恋愛」という単語を何気なしに使いましたが、この「恋愛」という単語を個別に使うこと、つまり「恋」と「愛」を明確に区別して使うことはあまりないように思います。間もなく1500回に達しようという長さで祐司君と井上さんの心の行方を辿って来たわけですが、何処からが「恋」で何処からが「愛」なのか、私自身では、此処だ、という明確な線引きが出来ません。ふとNovels Group 3で公開中のシーンを読んで、井上さんの視点で綴ったアナザーストーリーVol.1を思い起こしてみたんですが、やはり「恋」と「愛」の線引きは出来ずにこのお話をしています。
 生々しいことを承知で言いますが、肉体関係を持ったか持たないかで「恋」と「愛」の線引きが出来る、と言われると、それは違うんじゃないか、という気がします。そもそも「恋」の発展形が「愛」なのか、ということすらも私には分かりません。それも違うんじゃないか、と言わざるを得ない何かを感じるんですが、上手く表現出来ません。それは結局のところ「恋」と「愛」の線引きが出来ないからでしょう。「好きだ」という短い言葉に込められた気持ちは「恋」なのか「愛」なのか・・・。どうでも良いことなんでしょうけど、そんなことを真剣に考えてみました。ご意見などありましたら、メールか掲示板JewelBoxへお願いします。
 俺と晶子は、いただきます、と唱和してから食べ始める。具と一緒に麺を箸で適量摘み上げ、たれに付けてからつるつると食べる。・・・うん、よく冷えていて美味い。酸っぱさも程好い。

「美味いな、これ。」
「そうですか?良かった・・・。」
「このたれって、晶子が作ったのか?」
「ええ。初めて作ったんですけど、祐司さんの口に合いますか?」
「文句なし。本格的だな。」

 晶子は嬉しそうな微笑みを浮かべる。たれは麺に付いているだろうから、それを使っても良かったのに。そういう心遣いが俺にはたまらなく嬉しい。確かに家に入ってから夕食までの時間は短かった。でも、その背後にはそれなりの時間と手間隙がある。たれもそうだし、具の一つの卵も単に溶き卵をフライパンで焼いて冷まして細切りにしたわけじゃないことは俺でも分かる。
 空腹に食欲をそそる味が重なって、あっという間に冷やし中華は胃袋に収まった。今度は満腹感と充足感で溜息が出る。

「ご馳走様。美味かったよ。」
「ありがとうございます。それじゃ、片付けてきますね。」
「その間に俺は歯磨きでもしておくかな。」

 晶子がトレイに氷が溶けた水だけが残るガラスの器と色が薄くなったたれの入った器を乗せて立ち上がるとほぼ同時に俺も立ち上がり、ドアを開ける。晶子はありがとう、と言ってからトレイを流しへ運ぶ。俺は洗面所へ向かい、歯磨きをする。歯ブラシが歯を擦る音に混じって、様々な音程が混じり合う不規則なリズム音が聞こえてくる。弁当を作った上に洗い物・・・。何だか申し訳ない気分がする。
 歯を磨き終えた俺は、泡のついた器を水で洗い流している晶子を見てからリビングに戻る。ろくに勝手を知らない俺が手伝おうとしても、邪魔にはなっても手助けにはならないからな。俺は「指定席」に腰を下ろして、晶子には悪いと思いながらものんびり寛がせてもらう。レンタカー会社を出てからずっと続いていた疲労感は何時の間にやら殆ど消え失せてしまった−一時的に引っ込んだだけかもしれないが−。俺はテーブルで頬杖をついて晶子が来るのを待つ。時折ふっと溜息が漏れる。心身共に寛いでいるのが自分でも分かる。

雨上がりの午後 第1444回

written by Moonstone

「・・・忘れてないな。」
「祐司さんと二人きりですからね。さ、食べましょう。」
「ああ、そうだな。」

2004/2/18

[気になる唇]
 いや、別に化粧品のTVCMを見て、そこに出てくる女優だかモデルだかの唇の魅力に心奪われた、っていうようなロマンス話じゃありません。残念ながら(?)私と浮いた話は無縁です。背景に花が似合うような話をお望みなら、此処の連載やNovels Group 3をご覧くださいませ。特に今、連載はそっちの方の展開になってますから桜より早く見頃になっています(何が?)。
 気になっているのは自分の唇です。・・・誰ですか?私が鏡見て自分の唇によっている姿を想像したのは。生憎ですが、私にはナルシズムの気はありません。先月中頃辺りから唇がやたらとかさついていて困ってるんです。少しでも気にし始めると気になって仕方ないほどかさついてるんです。酸味のあるものは勿論、飲食物の汁が唇に染みて痛いです。
 何がきっかけになったのかは分かりませんが、早く尚って欲しいものです。かさつきを感じると、どうしても舐めたり触ったりしてしまって、余計に治りを遅くしてるんですよね。こういうのを素早く確実に治す方法をご存知の方、掲示板JewelBoxへ書き込み願います。
 冷蔵庫から何かを取り出しながらの晶子の「指示」に応えて、俺はドアを開けてリビングに入る。今日は室内でも湿気が少ないらしく、エアコンのスイッチが入って間もないのに結構涼しい。俺は鞄を部屋の隅に置いて「指定席」のクッションに腰を下ろし、夕食が来るのを待つ。ここへ来てようやく空腹を感じる。直ぐ出来る、と言っていたが、一体何だろう?

「祐司さん。ドア開けてくれませんか?」

 10分待ったか待たないかの時間で−体感時間だが−ドア越しに晶子の声が届く。俺は立ち上がってドアを開ける。すると、両手でトレイを持った晶子が入って来る。そのトレイには見覚えのある料理が二人分ある。・・・冷やし中華だ。
 晶子はテーブルの前に屈み、ガラスの器に盛り付けられた冷やし中華とたれを並べて置く。冷やし中華には細く刻まれた胡瓜とハム、卵が彩り良く盛り付けられていて、食欲をそそられる。

「へえ・・・。冷やし中華か。」
「具は今日のお弁当を作った時に併せて作ったんですよ。麺もその時に水で戻して、具と一緒に冷蔵庫で冷やしておいたんです。手抜き・・・ですね。」
「いや、朝早くから大変だっただろうから夕食くらい楽しても良いさ。それに、冷やし中華なんて随分食べた記憶がないし、見た目にも涼しいこういう料理はこういう時期にこそ味わわないとな。」

 俺はワクワクしながら「指定席」に腰を下ろす。晶子は俺の隣の「指定席」に腰を下ろすと、ブラウスの胸ポケットから黒の輪ゴムを取り出して唇で軽く咥え、髪を束ねてポニーテールにする。白いうなじが魅惑的だ。

雨上がりの午後 第1443回

written by Moonstone

「リビングで待っててください。直ぐ出来ますから。」
「ああ、分かった。」

2004/2/17

[貴方はどちら?]
 私は考え事をする時に腕と足を組む癖があるんですが、腕は左が上、足は右が上になります。ちなみに両手を組むと右が上になります。これは所謂「利き手」の一種だそうで、人間には一般的に言われる「右利き」「左利き」という手の使い方のみならず、目にも耳にも足にも「利き側」が存在するそうです。
 私は一応右利きなんですが、幼い頃から(2、3歳)鍵盤の前に座っていたせいもあって、左手もかなり使えます(左手が使えないと鍵盤楽器はまともに弾けない)。マウスを左手で使うことも出来ます。今よく使っているのはPCのキーボードですが、左手が自由に動くことがあって、昨日の日記でも触れたようにブラインドタッチが比較的容易に出来ます。
 「利き側」は脳の使用領域、所謂「右脳」「左脳」の発達具合にも関係しているそうで、幼い頃に左利きを無理に右利きにすると、脳の発達に悪影響を及ぼすそうです。本来使うべき神経回路を使わず、わざわざ迂回する形の神経回路を構成するからだそうです。私がやたら理屈っぽいところもあれば感情的なところがあったりと相反する性格傾向なのは、脳の使い方が絡んでいるせいかもしれません。
あれをやっておいて何を今更、という気がしないでもないが、あれは二人きりの密室という場所とそれなりの雰囲気が重なり合ったから出来たと言って良い。「別れずの展望台」では他に人が居たのに俺の方から晶子にキスしたのは、闇の中で見られることはないだろう、という観測と、軽く見渡しただけでも自分達の世界にのめり込んでいるカップルのシルエットしか見えなかったからだ。
 実際、昼間は頬にキスをされただけでも頬が火照るのを感じたし、それから間もなく唇にキスされた時は身体の内側が一気に沸騰する思いを味わった。人前で見せられる熱愛ぶりは手を繋ぐことくらいだ。ここは街中。しかも時々車が行き交うし、疎らだが人影も見える。こんな場所で胸を押し付けられると・・・人目が・・・気になるんだよな・・・。
 視線の先を彼方此方に彷徨わせていると、晶子はくすっと笑って俺からゆっくり離れる。手は繋いだままだ。俺は無言で前を向いて、止まっていた脚の動きを再開させる。自分でも困惑とも照れともどっちとも付かない表情になっているのが分かる。
 一旦俺の家に立ち寄ってギターを置き、下着の換えとバスタオルを小さな鞄に詰め込んでから−この辺りは普段の月曜日と変わらない−晶子の家へ向かう。見慣れた住宅街の風景を横目に見ながら暫し歩いていくと、晶子の家があるマンションが見えてくる。白亜の壁が所々明かりで照らされて存在感を醸し出している。見方によっては学校の校舎や病院の建物のようにも見える。
 マンションの出入り口の前に来たところで、ようやくと言うかとうとうと言うか、複雑な気分で手を離し、晶子に例のガチガチのセキュリティを解除してもらって再び手を繋いで中に入る。初老の管理人に会釈をして、エレベーターで上り、廊下を歩いていくと晶子の家のドアが見えてくる。帰って来たんだな、という思いが再びふつふつと湧き上がってくる。
 晶子が鍵を外してドアを開け、俺はお邪魔します、と言ってから中に入る。当たり前だが室内は真っ暗だ。続いて入って来た晶子が電灯とエアコンのスイッチを入れる。明るくなったダイニングに上がり、晶子に続いて洗面所で手を洗ってうがいをする。

雨上がりの午後 第1442回

written by Moonstone

 晶子の奴、分かっててやってるな?俺が胸を押し付けられることに未だ慣れてないってことを。

2004/2/16

[夜の春一番]
 全国で春一番が吹いたと言うニュースがありましたが、リスナーの皆様のところではどうでしょう?私が住んでいるところでは、昨夜猛烈な風が吹きました。昼間は穏やかな晴天だったんですが、夜はかなり荒れた模様です。一日家に中に居たので光と音の変化しか分からないんですよね。
 そうそう、皆様はNHKでの倉木麻衣さんのライブ放送を見ましたか?私はネット巡回後半に放送が始まったので、TVとPCを交互に見てTVでは放送を見て、PCではネット巡回をして、手はマウスとキーボードを動かす、ということをやっていました。こういう時、ブラインドタッチが出来て良かったと思います。今でもTVを見ながら(「暴走特急」)このお話をしています。
 それにしても、倉木麻衣さん、綺麗だったなぁ〜。CDのブックレットやPV(プロモーションビデオ)ではあまり見れない笑顔がたくさん見られて満足満足。それに私が好きな「Time after time〜花舞う街で〜」も歌ってくれましたし。出来ればアコギの音をバックに歌って欲しかったんですが、まあそれは我が侭というものでしょう。これからも綺麗な歌声を聞かせて欲しいです。
 今日のデートにおける最も高くて危険な山を乗り越えたことで、安心感と同時に疲労感がどっと噴出してきた。俺は無意識のうちに小さい溜息が何度も出るのを感じながら、空からの天然の煌きを阻害する人工の星空の下、胡桃町駅からの帰路を歩く。

「大丈夫ですか?」

 傍らに居る晶子が声をかけてくる。左手に仄かな、しかし確かな温もりを感じる。レンタカー会社に車を返したところで、はいさようなら、ではなく、レンタカー会社の事務所を出たところで自分から申し出て半額を払ってくれたし−100円未満は俺が丁重に辞退した−、帰路のバスの運賃も自分の分を出した。そして自分の家で夕食を食べましょう、と誘ってくれた。何でも下準備をしてあるから程なく食べられるらしい。

「ああ、大丈夫。運転に疲れただけだから。」
「・・・私があそこに連れて行ってくれ、なんて言わなければ・・・。」
「違う違う。晶子と無傷で帰ってこれたことで安心したら、一気に緊張の糸が切れちまっただけだよ。俺だけなら兎も角、晶子を危険な目に遭わせるわけにはいかないからな。」
「何だか、祐司さんを引っ張りまわしてばかりですね。私・・・。」
「今日良い思い出が出来たのは晶子のおかげだよ。あんな場所知らなかったし、願掛けも出来たし。・・・楽しかったよ。」

 俺が笑みを浮かべて−勿論作ったものじゃない−言うと、少し沈んでいた晶子の表情が明るくなっていく。俺がほっとした次の瞬間、晶子が俺の左腕に身体を密着させてくる。あの独特の弾力とセットで。

「今はどうですか?」
「・・・し、幸せだよ。勿論・・・。」
「顔はあまり楽しそうじゃないですよ?」
「こ、こんな場所で・・・その・・・、こうやってぴったりくっつかれると・・・。」

雨上がりの午後 第1441回

written by Moonstone

 流石に疲れた・・・。車の数が少なかったのは最初のうちだけ。両脇に建物の明かりが数多く見られるようになった頃には、すっかり車の波に飲み込まれていた。そんな中でもどうにか途中のガソリンスタンドでガソリンを満タンにして−看板を目にするまでうっかり忘れていたんだが−、レンタカー会社に到着。そして料金を払ってキーを返した。

2004/2/15

[くわぁ〜、凄い難産]
 念のため言っておきますが、私は妊婦ではありません。難産だったのはNovels Group 2にて公開中の「噂の人」の新作(続きと言うべきか?)。創作文芸部門で唯一2004年になってから一度も更新していないという不名誉な記録に何としてもピリオドを打とうと昨日は朝からPCに向かったんですが、なかなか進まない。この作品、進め方によってはそれこそどうにでも結末に結び付けられるので、理想的な形に持っていくのが非常に難しいんです。更新が滞っていたのはそれが原因です。
 どうにでも結末に結び付けられるなら簡単じゃないか、と思われたそこの貴方。実際はその逆なんですよ。此処での連載「雨上がりの午後」や「Saint Guardians」、「魂の降る里」などのように、ラストまでの粗筋が大体固まっている作品はそれにしたがって書いていけば良いんですが、ラストは決まっていてもそこまでの道程が出来ていないと一歩一歩道を作りながら進むしかなく、しかもどの方向に道を作っていくかで作品の出来栄えが大幅に変わってくる可能性が高い、言い換えれば自由度が高い分だけ戸惑いやすいんです(「雨上がりの午後」もかなり自由度が高いので、時々執筆の手が止まります)。
 どうにか出来た新作はラストに結び付ける道を構築したことには間違いないですが、中短編と掲げている割には長くなりそう・・・。でも、無理に切り詰めて誤魔化すようなことはしたくないので、正念場だと思って進めていきます。でも、この正念場なるものが完結までずっと続くんだろうな・・・。いやいや、弱気になっちゃいけないですね。公開を楽しみにしていてください。
 何だ、そんなことか。俺は思わず笑みを零す。自分で、されることが嫌なんじゃなくて場所がまずい、と言ったことを忘れてしまったんだろうか?

「強引にする気がまったくなかった、って言えば嘘になるけど、それじゃ晶子は嫌だろ?ああいうことは双方合意の上でしないと後々尻尾引っ張ることになるだろうから・・・止めたんだ。」
「祐司さん・・・。」
「欲望剥き出しにしておいて善人ぶったこと言う、と思うだろうけど・・・、もう二度と・・・結ばれた絆を離したくないから・・・、離すようなことをしたくないから・・・。」

 俺はそれだけ言うと前を向いてキーを捻る。エンジン音が鳴り始めるとほぼ時を同じくして車体が微かに揺れ始める。俺はライトを灯してギアを「P」から「D」に切り替え、ハンドブレーキを戻してゆっくり駐車場から車を出す。
 車が坂道を下り始めたところで、俺はアクセルに乗せていた右足をブレーキペダルに移す。黙っていてもスピードが出る下り坂、しかも蛇行している上に街灯がないから文字どおりお先真っ暗。こんなところでスピードを出せるほど俺には勇気はない。幸いなことに後に続いてくる車はないから、兎に角安全第一で車の運転に集中する。暗闇の中に浮かぶ坂道に光の筋が走る様は不気味だ。
 どうにか坂を下り終えたところで再びアクセルを踏む。だが控えめにすることは忘れない。昼間でも神経を磨り減らす思いをしたんだから、夜は尚のこと神経を使わなきゃいけない。次第に迫ってきた信号が青から黄、そして赤に変わる。車を止めて一息吐いたところで、俺は晶子に言う。

「道は憶えてるから、その点は心配しないでくれよ。」
「はい。」

 はっきりした返事が返って来る。出発前に俺が言いたかったことが伝わったのかどうかは分からないけど、少なくとも晶子が制止したのに俺が応じたことは間違いない。これで良いんだ。これで・・・。
 俺は信号が青になったところでアクセルを踏む。夜の帰り道は割と車が少ない。まずはこの車を無傷でレンタカー会社に返すこと。それは一時預かっている、隣に居る大切な人の命を無傷で返すことでもある。この後のことはその後で考えれば良いことだ。俺は車の運転に集中する・・・。

雨上がりの午後 第1440回

written by Moonstone

「さっきは・・・御免なさい。」
「さっき、って?」
「・・・祐司さんをその気にさせておいて、途中で止めたこと・・・。」

2004/2/14

[連載読者&Novels Group 3のファン諸氏は要チェック!]
 今日の夜24:50〜25:50、NHK総合TVで倉木麻衣さんの平安神宮でのライブが放映されます。連載読者の方やNovels Group 3のファンの皆様は恐らくご存知でしょうが、私は倉木麻衣さんのファンです。倉木麻衣さんは、この10年余り、買うCD全てがジャズ・フュージョン一色だった私が久々に心奪われたヴォーカリストで、「雨上がりの午後」では倉木麻衣さんの歌が度々登場します。ついこの前にも「Time after time〜花舞う街で〜」と「Kiss」が登場し、前者は語り手の祐司君に弾き語りをやってもらいました。
 どうしてジャズ・フュージョン一色だった私が倉木麻衣さんに心奪われたか?それは「Secret of my heart」とアニメ版「名探偵コナン」との関係です。アニメ版「名探偵コナン」を見るようになったきっかけが、チャンネルを変えているときにふと目にした蘭ちゃんに一目惚れしたことなんですが、一時期そのエンディングで蘭ちゃんが「Secret of my heart」を切なげに歌っていたんですよ。その歌詞とメロディと蘭ちゃんの切ない表情のコンボでKOされて、「Secret of my heart」が収録されているアルバム「delicious way」を購入したのが始まりなんです。
 倉木麻衣さんの曲を「雨上がりの午後」に登場させることにした経緯についてはまたの機会にお話しますが、今や倉木麻衣さんの曲なしに「雨上がりの午後」は語れなくなっていると思います。新曲のリリースが楽しみです♪
 眠気が残った状態で起床するように晶子が俺の肩から頭を上げた後、俺は晶子の肩を抱いたままゆっくり立ち上がる。晶子もそれに合わせて立ち上がってくる。後ろ髪を引かれる思いで晶子の肩から手を離し、俺はベンチの端に立てかけておいたギターを右肩に担ぐ。その時、俺の左腕に何かが添えられる。見ると、左手にバスケットを持った晶子が俺の左腕に手を回している。
 俺は何も言わずに歩き始める。晶子は黙って俺に歩調を合わせてくる。深い藍色の中に幾つもの重なり合ったシルエットが見える中、俺は晶子と一緒に駐車場へ向かう。駐車場付近には蛍光灯が一定の間隔で灯っている。程なく乗ってきた車を見つけて、俺はズボンの右ポケットから車のキーを取り出して先端を車に向けてボタンを押す。ガチャッというロックが外れる音がする。俺が隣の車にぶつけないように後部座席のドアを開けて、担いでいたギターを座席に寝かせる。その直前に俺の左腕から手を離していた晶子の手からバスケットを取って、ギターの隣に置く。

「ありがとうございます。」

 俺は晶子の謝意への応えとして、晶子に向けて笑みを浮かべて首を横に振る。

「さ、乗って。」
「はい。」

 晶子は明るい表情で頷くと、小走りで助手席の方へ向かう。俺は運転席のドアを開けて車に乗り込む。それに少し遅れて晶子が乗り込んでくる。シートベルトを締めて晶子もそうしたことを見てからキーを差し込む。

「祐司さん・・・。」

 エンジンをかけようとした時、晶子が話し掛けてきた。何だろう、と思って晶子の方を向く。晶子は少し暗い表情だ。

雨上がりの午後 第1439回

written by Moonstone

「嫌じゃないの・・・。場所が・・・。」
「・・・帰るか。」
「はい・・・。」

2004/2/13

[ラブシーンの書き方]
 今、連載では語り手の祐司君とお相手の井上さんが良い雰囲気になっていますが、実はこれ、書いている私も結構ドキドキしていたりするんですよ(苦笑)。挿絵なし(入れられないんだけど)の文章ならではとも言える、読者のイメージを膨らませるものにしようとしているんですが、果たして読者の方はどう感じておられるのでしょうか?
 「雨上がりの午後」以外の作品でもラブシーンはあるんですが、比重という観点からすれば、やはり「雨上がりの午後」がダントツです。そりゃ一応恋愛ものなんだからラブシーンがない方がおかしいと言えばそうなんですが、書き慣れていないものですからこれがなかなか難しい。所謂「18禁」に突入させるわけにはいきませんし、かと言って何処が「境界線」なのかの判断が、ね。
 単調で冗長になりがちな演奏シーンが長く続きましたから、ここらで二人きりの熱愛シーンを書こう、と意気込んで今のシーンを書き始めたのは良いものの、これをどうやって締めるかがこれまた難しいんですよね。延々とラブシーンばかり続けるのもどうかと思うし・・・。変化を持たせるというのは文芸にしろ漫画にしろ映画にしろ必要なことですが、なかなか奥が深いものです。
 俺は少し口を開いて舌を差し出す。舌が晶子の唇に触れると、それを合図としたかのように開く。俺が舌を差し込むと、そこに唇とはまた別の柔らかさと温もりを持ったものが絡み付いてくる。頬に吹き付ける風の周期が更に早まる。それを反映するかのように、晶子の口の中を這い回る俺の舌に晶子の舌が絡み付いてくる。
 存分に小さな密室の感触を温もりを堪能してから舌を引っ込めると、今度は俺の口の中に別の感触と温もりを持つものが差し込まれる。それが暫く中を彷徨ったところで−その感触が心地良いからだ−俺はそれに舌を絡める。右腕に軽い圧迫感を感じる。晶子が掴んでいるからだろう。それに意識を取られているうちに折角の感触を忘れてしまいかけたので、俺は舌に意識を集中させる。晶子の舌は俺の舌を絡めた状態で口の中を動き回る。頬に当たる小さな風が速くて荒い。晶子も同じことを感じてるんだろうか。
 暫くして晶子の舌がゆっくり引っ込んでいく。俺は絡めていた舌を離し、一旦晶子から距離を開けることにする。名残惜しいから、晶子の舌の感触と温もりが完全に消えた後でゆっくりと・・・。目を開けると、目を閉じて口を半開きにした、恍惚且つ艶かしい晶子の顔が間近に見える。距離が出来た代わりに微かに煌く一本の細い糸が俺と晶子の唇を繋ぐ。俺はもう一度晶子との距離をゼロにして直ぐ離す。そして目を閉じたまま肩で息をしていた晶子の左の首筋に唇を持っていく。

「此処じゃ・・・駄目・・・。」

 唇にきめ細かい感触を感じたところで、耳に速くて荒い呼吸音に混じった無声音が滴ってくる。俺は一瞬このまま強引に続けようかと思ったが、晶子が嫌がっていては俺も気分が悪いから、素直に晶子の要求を聞き入れる。キスする前の体勢になったところで、晶子がゆっくりと目を開ける。

「悪かったな・・・。」

 弁解にもならない謝罪の言葉を口にすると、晶子は俺の肩に頭を委ねたまま小さく首を横に振る。

雨上がりの午後 第1438回

written by Moonstone

 俺は目を閉じながら晶子との距離を更に縮める。程なく距離はゼロになる。柔らかで温かい感触を唇に、やや速い周期で小さな風が頬に吹き付けてくるのを感じる。晶子もこのシチュエーションに言葉は悪いが興奮しているんだろうか?俺自身急速に早まってきた胸の鼓動が晶子に伝わらないかと思う。

2004/2/12

[Macではどう見えるんだろう?]
 Total Guidanceをご覧になった方や此処の常連組リスナーの方はご存知でしょうが、このページはWindowsのNetscape4.7を表示確認に使用しています。IEだと一部TABLEタグを使っているところで意図どおりにならないのですが(IE6.0はTABLEのTDタグの表示デフォルト値がcenterになっている)、それ以外は問題ない筈です。
 問題はMacでの表示がどうなっているか、ということ。私は職場でもWindowsを使っているので、Macではどう表示されるか分からないんですよね。そもそもMacユーザーがNetscapeかIEのどちらをお使いなのかも分からないし、MacのNetscapeやIEがどんな表示をするのか殆ど知らないし、私自身Macを持ってないので、何とも確かめようがないんですよ。
 出来るだけブラウザやOSの違いによる視認性の違いが問題にならないように配慮しているつもりではありますが、ことMacに関しては何とも・・・。もし此処のリスナーの方でMacをご利用の方がいらしたら、「私のMacのこのブラウザでは此処がこう見える」なんてご一報を掲示板JewelBoxに書き込んでいただけると嬉しいです。Macには長らく触れていない私ですが、日本では決して少なくないというMacユーザーを無視するつもりはありませんので。

絶対に・・・。

 夜が訪れた。俺と晶子は、と言えばまだ此処、通称「別れずの展望台」に居たりする。時折秋の到来を感じさせる心地良い微風が吹きぬける中、俺は晶子の肩を抱いてベンチの一角に腰を下ろして空を眺めている。宝石を撒き散らした、という表現がぴったりの夜空は綺麗の一言に尽きる。星空を眺めるのに障害になる蛍光灯が駐車場付近にしかないのが大きい。うっすらとだが天の川も見えるたりする。
 そんな天球が愛の炎を燃やすのか、此処は夜になっても人が多い。深い藍色に浮かぶシルエットは、カップルの熱愛ぶりを静かに、しかし雄弁に物語っている。抱き合っているものもあり、キスをしているものもあり・・・。かく言う俺も普段は晶子の家でしか出来ないようなことをしていたりする。これがバイトの帰り道だったら、絶対に晶子の肩を抱くなんて出来ない。
 帰る時間が街が眠りについた時間、場所は閑静な住宅街となれば、その気になれば肩を抱くことくらい造作もないことだろう。だが、生憎俺には、街灯が点々と灯る街路は何時現れるか分からない人目を無意識に警戒してしまう場所だ。そもそも夜にデートした経験があまりないから−高校時代は親が五月蝿かった−、夜の闇に乗じて、なんて考えが表面化してこないんだろう。

「祐司さん・・・。」

 微風のように晶子の声が耳を擽る。俺はゆっくりと晶子の方を向く。微かに届く蛍光灯の明かりを受けた晶子の瞳と唇が、俺を頻りに誘惑しているような気がしてならない。
 俺は何も言わずに右手で晶子の左腕を取り、晶子の肩を抱いている左手と同時にゆっくりと引き寄せる。晶子は何も抗うことなく、俺により密着してくる。俺との距離が一層近くなったところで、晶子は目を閉じる。何を求めているかはこの俺でも分かるつもりだ。キスはこれが初めてじゃない。だが、思わず音を立てて生唾を飲み込んでしまうシチュエーションに、俺は身体が小刻みに震えるのを感じる。

雨上がりの午後 第1437回

written by Moonstone

 俺は改めて晶子の肩に手をかける。すると晶子は俺の肩に凭れかかってくる。心地良い重みが左肩を通して伝わってくる。紅が徐々に西に消え、東から深い藍色が染み出してくる幻想的でさえもある光景を見詰めながら、俺は晶子の肩をしっかり抱く。離せと言っても離さない、と晶子は俺に言った。俺も離さない。離すもんか。

2004/2/11

[どうすりゃ良いの?]
 前にもお話したと思いますが、私は服用している薬の副作用で非常に口が渇きやすいんです。仕事は勿論、自宅でも新作を執筆している時は緊張感で尚のこと口が渇きます。喉が渇くのとは違って、口の中が乾燥して痺れてくる感覚なんですよ。食べることはおろか、水も飲めなかった盲腸手術後の夜に味わったもの凄く辛い思いは、Novels Group 4の単独制作作品No.43で表現しています。
 そういう状態ですから当然飲み物が手放せません。でも紅茶やコーヒーや茶を入れるのは面倒なので(それだけ頻繁に口に含まないといけないんです)、選択肢は水か湯のどちらかになるんです。
 ところが困ったことに、この季節は水を飲むには不適切。ただでさえ身体が冷えるところに追い討ちをかけるようなものです。かと言って湯は熱くて口に含んでいられない(ある程度含まないと口の渇きは鎮まらないんです)。ですから、湯を汲んで放置し、ぬるま湯程度になったところで口に含む、という面倒且つ時間のかかることをしています。ぬるま湯程度で保温しておけるポットなんてないもんですかねぇ・・・。

「祐司さん。これ、投げてください。」

 目の前に広がる風景に見入っていた俺に晶子が札を差し出す。そうそう、肝心なことをおざなりにしちゃいけない。此処から二人の名前を書いた札を投げたら、二人は一生結ばれる。そんなジンクスにあやかるべく、俺は右肩に担いでいたギターを降ろして右手に札を持ち、大きく振りかぶって渾身の力を込めて札を投げる。札は回転しながら見る見るうちに小さくなっていく。

「祐司さんとずっと一緒に居られますようにー!」

 晶子がもう札が見えなくなった水平線に向かって叫ぶ。

「晶子とずっと一緒に居られますようにー!」

 俺もありったけの想いを込めて叫ぶ。何処へ飛んで行ったか分からない札に、何処までもずっと一緒に居られるように、という想いを込めて・・・。きっとジンクスは働くだろう。否、働かせるんだ。晶子と手を携えて。ジンクスにあやかっておいてこんなことを思うのも何だが、願っているだけじゃ、思っているだけじゃ叶うものも叶わない。未来は自分達の手で作るものなんだから。

「ずっと・・・一緒に居ましょうね。」

 清涼感のある晶子の声が耳に届く。晶子も俺と同じことを思っていたんだろうか。何にせよ、答えに迷う必要は欠片もない。

「ああ。ずっと・・・一緒に居よう。」

雨上がりの午後 第1436回

written by Moonstone

 自然が醸し出す紅を主体にした眺めは荘厳の一言だ。鮮やかな紅に染まった空と海が、定規で引っ張ったかのような綺麗な横の紅い直線を描いている。朱肉のそれでも血のそれでもない紅さは、一大交響曲のクライマックスを髣髴とさせる。昼の終焉と夜の到来を告げる自然のオーケストラは、音がなくても見るものの心を鷲掴みにするには十分なものだ。

2004/2/10

[初めてのパワーポイント]
 パワーポイントってご存知ですか?Windowsをご使用の方や、企画・立案の仕事に携わっている方なら、使ったことはなくてもその名を目にしたり耳にしたりしたことはあると思います。そう、プレゼンテーションや発表に使う、Officeソフトのうちの一つです。
 私の仕事は電気・電子機器の設計・製作だけではなく、業務報告(専門が異なる人が寄り集まっている職場なので話題提供の側面もある)をする機会があるんです。今まではOHP(OverHead Projector)という、透明なシートを光で照らして鏡で反射させてスクリーンに投影する装置を使ってきたんですが、ノートPCが普及したこともあって、急速にOHPがパワーポイントに移行しています。私も次回の業務報告からパワーポイントを使おうと思って、本業の傍らでノートPCでパワーポイントを起動して使い始めたわけです。
 説明書?そんな上等なものありません。イルカのヘルプは邪魔なので「表示しない」にしました。そんな状態でも1時間ほどあれこれ操作していたらひととおりのことは出来るようになりました。本業の方が英文でしかも未知の領域なのに対して、パワーポイントは日本語で、しかも私でも呆気ないと思える程の簡単親切丁寧さ。結構癖になりそうです(笑)。
 おい、結構ぼったくるじゃないか。どうせジンクスに便乗した商売だろうに。まあ良い。一生結ばれるっていうジンクスにあやかれるなら、500円くらい安いもんだ。
 俺が晶子の肩から手を離して財布をズボンのポケットから−財布は左のポケットに入れている−取り出そうとすると、晶子が素早く500円硬貨を差し出す。女性はそれを受け取ると、どうぞ、と言って縦20cm、幅10cmくらいの白い札を一枚差し出す。

「お昼にお茶をご馳走になったお礼を兼ねて。」
「律儀だな。あの程度のこと、気にしなくて良いのに。」
「それより名前、書きましょうよ。」
「そうだな。」

 晶子が先に紐が結わえられたボールペン−何処の世界にもこういうものを持ち去っていく奴が居るからな−と札を俺に差し出す。まずは俺から書いてくれ、ということか。俺は晶子からボールペンと札を受け取って、札の表面の右側に自分の名前を書き込んでから晶子に手渡す。晶子はいかにも待ち遠しいという表情でそれらを受け取ると、さらさらと札に名前を書き込む。
 商売の邪魔にならないように、俺は晶子の手を引いてその場を後にする。札は晶子が持っている。さて・・・何処から投げるか・・・。手すり付近はカップルでいっぱいだ。ふと空を見れば夕焼け真っ盛り。燃えるような紅に染まる空と雲は雄大で、同時に神秘的でもある。ジンクスを演出するには最高の舞台と言えるな。

「あ、あそこが空いてますよ。」

 そう言うが早いか、晶子が走り始める。俺は一瞬前につんのめりそうになったが、どうにかすっ転ばずに晶子の隣に並ぶ。そして偶々空いていた小さな空間に飛び込む。割り込む、と言った方が良いかもしれないが。

雨上がりの午後 第1435回

written by Moonstone

「札、一枚下さい。」
「はい。500円になります。」

2004/2/9

[久しぶりに書いたなぁ〜]
 この休日は新作執筆に専念しました。先週、先先週とサボったので(体調不良や気分的な問題で書けなかったんですけど)果たして書けるかどうか不安だったんですが、書ける時は書けるものです。1日1作の目標は無事達成出来ました。勿論体力精神力を相当消耗しましたけどね(執筆は体力勝負の面もあり。同業者(で良いのか?)ならお分かりでしょう)。
 体力と言うと、私も運動不足だな、と思いますね。普段は自転車通勤(雨天時は徒歩)ですので脚力はそれなりにあると思いますが、体力の構成に必要な心臓や血管、その他の筋力は使ってませんから相当弱っているでしょうね。毎日走って通勤しろ、と言われると多分1日も持たないでしょう。翌日筋肉痛で。2日後以降に筋肉痛が出たらもう歳だな(歳だって)。
 かと言って平日は連載のストック執筆(これを怠ると当日書かなければならないから余計に負担がかかる)、休日は新作制作に使いますから、体力を向上させる機会がないんですよね。何か手っ取り早く、しかも効果的に体力を向上させる手段はないものですからね。って、そんなのあったら誰でもやってるよな(^^;)。

「今日・・・私の名前の隣に・・・祐司さんの名前を・・・。」

 そこまで晶子が言ったところで、俺は晶子の口を手で塞ぐ。こういう時の言葉は男の俺が言うべきだろう。事実上プロポーズとも言えるこの言葉は、離れろと言っても離さない、と言ってくれた、そして俺と一緒に未来を歩くことを約束してくれた晶子に対する俺の返事でもあるんだから。

「俺と晶子の名前を札に書いて・・・出来るだけ遠くに投げよう。ずっと・・・何処までも・・・一緒に居られるように、っていう願いを込めて・・・。」

 俺の手で口を塞がれたままの晶子は、目を細めて一度だけ、でもはっきりと首を縦に振る。俺は晶子の口を塞いでいた手を離し、その肩を抱いたままゆっくり腰を上げ始める。晶子は俺の動きに合わせて立ち上がってくる。
 完全に立ち上がったところで、晶子は俺の肩から頭を退ける。俺と晶子はあまり身長の差がないから、凭れたままだと首が痛くなるだろうからその方が俺としても良い。俺は周囲を見回す。すると東の方にカップルが群がっているところが目に入ってくる。多分あそこだな、札を売っているところは。
 俺は傍らに立てかけておいたギターを右肩に担いで、人だかりの方へ歩き始める。晶子の肩を抱いたままだが、晶子は少しも抵抗する様子を見せない。そりゃ抵抗されたらジンクスにあやかるどころの話じゃないんだが、こうして晶子の肩を抱いて歩いたことなんて殆どないから−バイトから帰る時に手を繋いではいるが−、ちょっと緊張感を感じる。
 「その場所」に近付くにしたがって、推測は確信に変わる。社務所を小さくしたような建物の壁には「恋愛成就の札 販売所」という看板がかかっている。そこでカップルが二人揃って何かしてから、嬉しそうな顔で立ち去っていき、それで出来た空間に別のカップルが入っていく光景が繰り返されている。札を買って二人の名前を書き込んでいるんだろう。
 俺は空間が出来るのを少し待って、あるカップルが立ち去って出来た空間に晶子と一緒に入る。そこでは巫女の衣装を着た−本当に社務所だな−二人の髪の長い若い女性が居て、一人は札を別のカップルに手渡していて、もう一人は所謂営業スマイルでこっちを見ている。

雨上がりの午後 第1434回

written by Moonstone

 やっぱり智一とジンクスにあやかろうとはしなかったんだな。俺みたいに宮城にふられたショックで自棄酒飲んで不貞寝した挙句にバイトを無断欠勤する−もっともそんなことがあったからこそ、あの日あの夜晶子と出会えたんだが−なんて衝動的なことこの上ないことを晶子がする筈はないよな。分かってたつもりだが・・・心の片隅にこびり付いていた小さな、それでいてしつこい欠片が完全に消えてすっきりした。

2004/2/8

[そんなにおかしなことなの?!]
 昨夜「クレヨンしんちゃん」を見ていたんですが(ほら、そこ。笑わないように)、そこでみさえが鍋にウインナーを入れて、それを見たひろしが驚愕する、というシーンがありました(人物名が分からない人は原作かTV(テレビ朝日系列)を見てね)。それを見た私は、就職して1、2年目とまだ間もない頃に所属している部署の忘年会(だったと思う)で鍋にウインナーを入れて、先輩諸氏がもの凄く驚き、「こんなの食べられんから責任持って始末しろ」と命令されて、どうしてそんなに驚くの、と思いながら全部食べたことを思い出しました。
 いや、実は私の実家では鍋にウインナーを入れていたんですよ。豆腐や白菜や葱といった鍋の定番メニューの中にごく当たり前に。それが異郷の地に来るや否や変人扱いされたので、鍋にウインナーを入れるってそんなにおかしなことなのか、と今でも疑問に思っています。
 リスナーの皆様も今の季節鍋を突く機会があると思いますが、その際ウインナーを入れる方は居ますか?「私も入れてます。あれって美味しいですよね」というご意見でもOKですし、「そんなの見たことも聞いたこともない。何だそりゃ」というご意見でもOKですので、是非掲示板JewelBoxへ書き込んでください。私の概念の正当性を確認したいので宜しくお願いします(_ _)。
 晶子の言葉を引き金にして、あの時の記憶が鮮明に蘇ってくる。俺に、好きだ、と言っておきながら智一のデートの誘いをOKしたことに腹を立てて口論、否、俺が一方的に怒鳴りつけるだけのやり取りの後、晶子が一人走って闇の中に消えていったあの夜・・・。どうしようもなく悔しかった。そして腹立たしかった。まだ癒えていない過去の傷の深さに怯えるあまり、自分の気持ちに真正面から向き合おうとしなかった自分が・・・。

「・・・ああ、憶えてる。」
「そのデートで伊東さんに連れて来てもらった場所の一つが・・・此処なんです。此処の通称もジンクスも、その時伊東さんが言っていたことの受け売りなんですよ。」
「そうか・・・。」

 俺は改めて前を見る。手を繋いだり男が女の肩を抱いたりして身を寄せ合っているカップルも居る中、何かを海の方に投げている男とそれを見守る女というカップルも居る。ジンクスにあやかろうとしているんだな。
 それはそれとして、やっぱりどうしても気になることがある。多分、否、きっとないとは思うし、そう思いたいが、どうしても引っ掛かることがある。聞くべきじゃないとは思うが、心の片隅にこのどうにももどかしい引っ掛かりを残したままジンクスにあやかりたくないから、聞いておこうか。

「で・・・、晶子は智一とそのジンクスにあやかって札を投げた・・・わけないか。悪い。どうしても気になってな・・・。」
「あの時自棄になった勢いで伊東さんとジンクスにあやかろうとした、って祐司さんが思うのは無理もないことですよ。」
「・・・。」
「変な言い方ですけど・・・大丈夫ですよ。此処に連れて来てもらって、景色を見ているうちに決めたんです。今度来る時があったら祐司さんと来るんだ、そしてその時祐司さんとジンクスにあやかろう、って。それより前に・・・、私がどれだけ自分を偽っているかを十分思い知らされましたけどね。」

雨上がりの午後 第1433回

written by Moonstone

 晶子の表情が少し曇る。どうしたんだろう?

「憶えてます?祐司さんと私が付き合う前、私が伊東さんにデートに誘われてそれをOKしたことで喧嘩・・・というより、私の一方的な気持ちの押し付けで祐司さんが怒った時のこと。」

2004/2/7

[この企画は成功するかな(ドキドキ)]
 Novels Group 2とSide Story Group 2のファンの方々、「御免なさい」が連続していて申し訳ないです(汗)。私も文芸関係6グループ揃い踏みをしたいので(2004年になってからまだ一度もないんですよね)、出来るだけ早期の公開を目指して執筆に励みます。なかなか頭の中で構想が綺麗に纏まらなくて・・・(^^;)。
 さて、トップページ上段にも宣伝文句を載せましたが、今日の更新では常連組の一つであるNovels Group 3で、次回アナザーストーリーの候補シーンを選考する投票所を稼動させました。投票所CometでもアナザーストーリーVol.2を希望する声が寄せられたので、間もなくページ開設5周年を迎えることも踏まえて、今日からの実施としました。本当は4/1からの一ヶ月間としたかったんですが、4月から職場の体制が大きく変わることを考えて前倒ししたんです。
 今までこのページで実施した企画は悉く失敗に終わってきたんですが、今回は先んじて私が自薦のシーンに1票投じたので、何の反応もなければそのシーンをアナザーストーリーVol.2にします。でも折角設置した投票システムですので、連載読者の方は勿論Novels Group 3のファンの皆様も是非投票して欲しいところです。皆様の投票をお待ちしております。あ、投票所Cometと同じく無記名投票ですのでご安心を。連続でなければ何度でも投票出来ますよ(^^)。
 どれくらい時間が過ぎただろう。空に紅が差し始める。蒼の中にポツリポツリと白が浮かんでいた世界が紅に染まっていく。夕焼けを見るのは別に今日が初めてのことじゃない。だが、今日の夕焼けは、綺麗だな、とのんびり眺めていたい気分にさせる。晶子とは何も話していない。でも、晶子は心地良さそうだし、俺もこうしているのが心地良い。

「祐司さん。」

 ぼうっと前の景色を眺めていた俺の耳に、晶子の声が流れ込んでくる。左肩に感じる微かな重みはそのままだ。見ると、晶子は俺の肩に凭れたまま上目遣いに俺を見ている。

「何だ?」
「此処が何て呼ばれてるか、知ってます?」

 此処って名前というか通称というか、そんなものがあったのか?俺は此処に初めて来たし、来るにしても晶子の道案内に従ってのものだったから、そんなもの知る筈もない。

「否、知らない。」
「此処は『別れずの展望台』って呼ばれてるんですよ。」
「別れずの展望台・・・?」

 俺はおうむ返しにその名を口にする。別れずの展望台、か。どうりでカップルがやたらと多い筈だ。景色の良さもあるんだろうけど。

「てことは、何かジンクスがあるわけか?」
「ええ。此処から二人の名まえを書いた札を投げ込むと、一生結ばれるんですって。」
「よく知ってるな。」
「・・・今此処でこんなこと言うべきじゃないとは思いますけど・・・。」

雨上がりの午後 第1432回

written by Moonstone

 俺は晶子の肩を抱き、左肩に微かな重みを感じつつ、目の前の景色を眺める。カップルが入れ替わり立ち代わりしていくのが分かる。それに伴って陽射しが徐々に優しくなっていく。もう秋はそこまで来ている、と実感出来る。湿気の少ない風が時折吹き抜けていく中、俺と晶子は二人の時間を過ごす。

2004/2/6

[分かりやすさの基準]
 相変わらず仕事で次世代Web開発言語Curlの解説書作りに取り組んでいます。昨日は普段より2時間長く職場に居座り、一人黙々とPCに向かっていました。ようやく2つ目の処理系統のサンプルプログラム作成と動作確認、注意事項の記述に差し掛かったところです。
 私は技術者という職業にも関わらず、物分かりが悪く、頑固で融通が利かない性格です。ですから、専門書籍でよくある「暗黙の了解」というものが許せず、そういうものを感じると「人に知識や技術を公開するなら明確な筋立てを示せ」「自己満足で良い気になるな」「こんなので印税稼ぐなんて詐欺だ」と怒りすら覚える始末です。ええ、まったく困ったもんです(^^;)。こんな人間が1500回近い連載を続けているんだから、世の中不思議が多いですね(笑)。
 ですから、自分が書く仕様書や報告書なども、必然的に自分が後で読んでも理解出来る範疇に収めようとします。今作っているCurlの解説書も兎に角「自分が読んで理解出来るもの」を想定しています。ですから多少なりともプログラム言語を齧ったことのある人が見れば、「説明がくどい」「ここまで書かなくても分かる」というものになっています。サンプルプログラムも客観的に見れば「何もここまで」と思うほど様々な事例を挙げています。
 「分かりやすさ」の基準を何処に設定するかで、特にこの手のものは読者の対象レベルが明確に決まってくると思います。あくまで「分かりやすさ」を貫くか、「暗黙の了解」を求めるか・・・。英文のオンラインヘルプを読んで噛み砕き、説明文やサンプルプログラムなどを作る過程でそれを痛感します。
 先にお話したとおり、私は物分かりが悪い上に頑固で融通が利かないという困った性格ですし、「分かりやすさ」の基準を自分にしているので、徹底的に分かりやすいものを求めてPCと睨めっこを続けています。先に私のページで(芸術創造センターではありません。分野が違いますからね)公開するつもりですが、その反響次第では実際に出版社に出向くつもりでいます。「お前、本当に技術者か?」と疑われるような気がしますが(笑)。
 弁当箱がすっからかんになったところで、俺と晶子は同時に唱和して箸を置く。料理は味もさることながら、量も多過ぎず少な過ぎずというもので−晶子が遠慮していたのかもしれないが−、思わず満足の溜息が出る。

「美味かったよ。」
「ありがとうございます。」

 晶子は嬉しそうに目を細める。俺と晶子はウェットティッシュで口を拭き、晶子がゴミをおにぎりが入っていた弁当箱に纏めて片付ける。出先でのゴミは持ち帰るのが基本だ。俺が言うまでもなく、晶子はそれが分かっている。こういうところも晶子と一緒に居て安心出来る点の一つだ。
 晶子が弁当箱をバスケットに納めた。さて・・・、これからどうしようか。生憎この辺の地理には疎いから−家の近くでもコンビニと本屋と駅くらいしか知らないが−、次はあそこへ行こうか、なんてことは言えない。晶子はどうなんだろう?

「これからどうする?」
「このまま此処に居るのは駄目ですか?」

 我ながら頼りないと思う問いを投げかけると、晶子から意外な答えが返って来た。俺は一瞬どう答えれば良いかと迷ったが、晶子が此処に居たい、と言うならそれに反対する理由はない。それに俺も此処に居たい、と思うし。

「俺は良いよ。」
「それじゃ・・・。」

 晶子は腰を浮かすと、俺との距離を詰める。そして俺の肩に凭れかかってくる。一瞬どぎまぎしたが−何なんだろうな、俺は−、心地良さそうな晶子の顔を見ていると、俺の表情が緩む。このままこうやって晶子と二人でゆっくり流れていく晩夏の時間を過ごすのは、ある意味至高の過ごし方と言えるだろう。講義が始まったら直ぐ試験が待っている。その後に何が控えているか分からない。就職に関する説明会みたいなものがある、という話をチラッと耳にしたことがある。俺ももう3年生。自分の将来というものを真剣に見据えなければならない時期が現実味を帯びてきたことには間違いない。今度は何時こんな機会が持てるか分からないなら、今という時を大切に、大切な人と過ごしたい。
 俺は晶子の肩を抱く。晶子は何ら抵抗しない。晶子の家で晶子の肩を抱くことは別に珍しいことじゃないが、悲しい男の性(さが)故に、家という密閉空間だとどうしても身体の芯がむずむずしてくる。今は幸福感が胸を満たしている。このまま時間が止まれば、というフレーズがあるが、今俺はまさにそんな時間を過ごしている。

雨上がりの午後 第1431回

written by Moonstone

「「ご馳走様(でした)。」」

2004/2/5

[ふと思ったことをつらつらと・・・]
 Curlの解説書作りはなかなか思うように進みません(汗)。もう少し分かりやすいように工夫出来なかったもんですかねぇ。ま、ぼやきはこのくらいにしておいて今日の本題に移りましょう。
 この日記と共に続いている連載「雨上がりの午後」。このウィンドウ上段の「メモリアル企画書庫」にある「連載1000回達成にあたって」をご覧戴いた方はご存知でしょうが、連載を始めたきっかけは、折角作ったこのスペースを有効利用したい、という極めて単純な思いつきなんです。100回程度で終わるだろう、という当初の見通しから大きく外れ、気がつけば1500回まであと70回の秒読み段階。この間何度かシャットダウンしたり連載の継続が危機的状況に陥ったりしたことがあるものの、我ながらよく続けてきたものだ、と思います。
 「雨上がりの午後」で語り手の祐司君とそのお相手の井上さんが繰り広げる恋愛は、実際今恋愛真っ最中の方から見れば「こんなのあり得ない!」というものだと思うんです。洒落たデートスポットやディナーもない、携帯電話もない、まさに無い無いづくしですからね。でも、せめて小説という仮想世界くらい自分の思い描く理想的な恋愛像が展開されても良いじゃないか、と思って頑固に続けています。創り手であるが故のある種の思い上がりと言えるでしょうが、祐司君と井上さんには何処までも私の理想を追い求めていって欲しい。そんな思いです。
「いいえ。今日のデートが凄く楽しみでしたから、絶対美味しいお弁当を作ろう、って意気込んでたんですよ。」
「その努力と苦労は十分反映されてると思う。」
「そう言ってもらえると尚嬉しいです。」

 晶子は笑顔を浮かべる。やっぱりこういう場面には笑顔が一番よく似合うよな。俺は唐揚げを飲み込むと、焼き魚の他に肉じゃがやきんぴらごぼうといった煮物関係にも手を出す。晶子はもう十分俺の味の嗜好を知っているし、店では潤子さんと一緒にキッチンで料理を手がけている程の腕前だから、安心して食べられる。どの料理も濃厚だがしつこくない味付けが施されていて、食が一層進む。

「祐司さんって、私が作る料理を凄く美味しそうに食べてくれますよね。」
「実際美味いものを食べてるから、そう見えるんだよ。」
「作った側としては、黙々と食べられるよりはやっぱり美味しそうに食べてもらえる方が嬉しいに決まってるんですけどね。」
「美味いものを食べれば自然と食が進むし、表情も明るくなるさ。それに晶子と一緒に食べてる、ってのも大きな要因だな。」
「・・・私もです。」

 譬え今食べているものとまったく同じものだとしても、一人だったら、ああ、結構美味いな、と思う程度で済んでしまうだろう。晶子が手間隙かけて作った料理を晶子と一緒に食べているからこそ、これだけ美味いと感じるんだと思う。晶子は俺にとって最高のシェフであると同時に最高の・・・何て言ったら良いんだろう・・・パートナー・・・、かな。良い言葉が思いつかないのが悔しい。
 二人でこうして外で弁当を食べるのは春のピクニック以来だ。晶子の料理の腕により磨きがかかっているのもあるんだろうが、月曜の夜に晶子の家で夕食をご馳走になる時より、こうして外で食べる方が心なしかより美味く感じる。今日が厳しいと言われる今年の残暑真っ最中にしては、湿気が少なくて爽やかなせいもあるとは思う。でも、まだ長袖が手放せなかった時期に外で食べた弁当も、こうして今食べている弁当も、やっぱり晶子の家で食べる時とは違った美味さがあるように思う。これもやっぱり・・・晶子と一緒だからだろうか。多分、否、きっとそうだろう。

雨上がりの午後 第1430回

written by Moonstone

「うん、唐揚げも美味い。」
「祐司さん、鳥の唐揚げが好きですからね。もっと美味しくしようと思って、昨日から鶏肉を漬け込んでおいたんですよ。」
「へえ・・・。頑張ったんだな。でも、昨日から準備するなんて大変じゃなかったか?」

2004/2/4

[なけりゃ自分で作ったる!]
 えー、今日のキャプションには自分の方言が混じっておりますが(ご存知の方も居られるかもしれませんが、私は関西系の人間です)ご容赦の程を(^^;)。何を作ろうと意気込んでいるかと言うと、昨日も触れた次世代Web開発言語Curlの見易い解説書です。
 昨日もお話したとおり、Curlの開発環境は全て英語で、その量は洒落になりません。おまけに彼方此方に飛び回っているので、初めてCurlに接する人間にはとっつきにくいという印象が否めません。しかし、日本語バージョンの登場を待っていたら、「自分だけが得ている技術」という技術者にとって必要な価値が下がっていくのは必然的です。それに日本語の解説書は(私が知る限りでは)まだないのが現状。HTMLやJavaScriptなどのような詳細で分かりやすい解説書が欲しい。でもそんなの待ってられない。だったら、ということで昨日から作り始めたわけです。ええ、直情的だ、とでも突発的だ、とでも言ってください(笑)。
 片方でオンラインヘルプ(全部英語よん)を見て、片方でCurlを実際に動作させ、片方でその結果やオンラインヘルプとの比較などをして纏めたものをWordで文章化していく。どうにか1つの処理系統を纏めたところでとっくに終業時間オーバー(苦笑)。この先リンクだのイメージだの、果ては3Dグラフィックやアニメーションとなったら、果たしてどれだけの文章を書かねばならないのか、と今から不安です(汗)。でも、この過程でCurlの知識は確実に身についていくことでしょう。「他人に見せても分かりやすい解説書」を目指して頑張ります(^^)。
今日は陽射しこそ厳しいがそんなに暑くないから温かいものでも良いかもしれないが、弁当を食べることと季節を考えると、冷たい方が妥当かな。俺はズボンのポケットから財布を取り出して自動販売機に小銭を入れ、小型のペットボトルの緑茶の冷たい方を二本買う。釣り銭を取って財布の小銭入れに放り込んで財布をポケットに入れて、取り出し口に出ていた二本のペットボトルを手にして晶子のところに戻る。

「お待たせ。冷たい方で良かったか?」
「ええ。それは全然構いません。それより・・・本当にすみません。うっかりしてたとは言え・・・。」
「お詫びは弁当を食べさせてもらうことで換えさせて貰うよ。それで良いだろ?」
「・・・はい。」

 晶子にようやく笑みが戻る。俺は晶子にペットボトルを一本渡してから、もう一本のキャップを捻る。そして置いておいたウェットティッシュの袋を破って取り出したウェットティッシュで手を拭き、晶子から差し出された箸を受け取る。まずは・・・やっぱりおにぎりから手をつけるか。

「それじゃ、いただきまーす。」
「はい、どうぞ。」

 俺はおにぎりを一つ取ってラップを剥がす。海苔が巻かれたそれに齧り付き、何度か咀嚼する。控えめな塩加減のご飯を背景にしたオカカの味が絶妙だ。十分噛んで味わってから飲み込み、晶子に向き直る。その表情はやや不安げだ。見た目だけじゃなくて味もしっかりさせたつもりだ、と言っていたが、いざとなると不安なんだろうか?

「美味いな、これ。」
「そうですか?良かった・・・。」

 晶子は表情を明るくしておにぎりの一つを取り、ラップを剥いて食べ始める。俺はおにぎりを一つ食べ終えると、好物の唐揚げを一つ箸で摘んで口に放り込む。たっぷりの肉汁と醤油味がこれまた絶妙なハーモニーを奏でる。自然と目が細くなる。

雨上がりの午後 第1429回

written by Moonstone

 自動販売機はオールシーズン対応を考えてか、温かいものと冷たいものがほぼ均等に揃っている。

2004/2/3

[何処から手をつければ良いのやら(汗)]
 先週から仕事で取り組んでいるCurlという言語。これはHTML、JavaScrpt、Java、Flash、ASP(Active Server Page)などのWebページ開発用の言語や技術を網羅した次世代Web開発言語です。例えばこのページではこのコーナーを聞く(見る)ウィンドウを開いたりご来場時刻を表示したりするのにJavaScriptを使っていますが、HTMLに加えてJavaScriptを覚えるのは結構大変なものです。より凝ったページを作ろうとなるとJavaやらFLASH、データベースを作ろうとなるとASPやSQLなどを覚えなければならず、開発環境を揃えるだけでも洒落にならない労力がかかります。その点、Curlはこれ一つ覚えてしまえばこれまでのWeb開発環境が網羅出来るというものなので、一つの開発環境で全てを作り上げることが出来るのです。
 ところが、その開発環境は無料で入手出来るものの全て英語(汗)。おまけにHTMLなどと違って詳細で分かりやすいマニュアルなんてものはありませんので(まだ知名度が低いせいもある)オンラインヘルプを見るしかないんですが、これも全部英語(汗)。しかもJavaなどの技術を網羅するというだけあって、テキスト表示から3Dグラフィック表示までありとあらゆることが詰め込まれているので、どこから読めば良いのかも完全に手探りです(汗)。
 どうにかテキスト、イメージ、テーブルの表示、リンクの貼り方までは出来たものの、これらを組み合わせたもの、例えばイメージをクリックすることで別のページにジャンプする、ということがまだ出来ません。自由度が非常に高い分、何処から手をつけて良いのか分からないんですよね(汗)。暫くPCとの睨めっこの日々が続きそうです。
晶子の方を向くと、バスケットと同じような形状の弁当箱と底の深い弁当箱を一つずつ、二人分のウェットティッシュを出している。俺は晶子と距離を開ける。晶子の膝の上で弁当を広げるのは無理があるし、何より晶子の負担になる。

「終わったんですか?」
「ああ。これくらい離れれば弁当広げられるか?」
「ええ。十分ですよ。」

 晶子は笑顔で俺と晶子の間に弁当箱を置いて、蓋を開ける。バスケットと似た形状の方にはラップに包まれた、綺麗に形の整ったおにぎりが詰まっていて、もう一方の弁当箱には俺の好物の唐揚げをはじめ、きんぴらごぼうや肉じゃがといった煮物、焼き魚など、彩り豊かで見るからに美味そうな料理が詰まっている。

「美味そうだな。」
「そうですか?でも、味の方もしっかりさせたつもりですよ。」

 晶子はビニール袋に入ったウェットティッシュを差し出す。俺はそれを受け取る。・・・そう言えば・・・。俺は袋を破る前に周囲を見回して「あれ」を探す。「あれ」は駐車場の隣に3台ばかり林立している。

「飲み物、買って来る。」

 俺がそう言って立ち上がると、晶子は目を見開いて口を手で塞ぐ。

「す、すみません。飲み物忘れてました・・・。」
「弁当作って持って来てくれただけでも十分だよ。何が好い?」
「え、あ・・・、お茶で好いです・・・。」
「分かった。それじゃちょっと待っててくれ。」
「すみません。本当に・・・。」
「気にしない、気にしない。直ぐ戻るから。」

 すっかり恐縮している晶子に声をかけてから、俺は「あれ」、即ち自動販売機のあるところへ向かって走り出す。走らなくても良い距離ではあるが、早く弁当を食べたいし、晶子を一人にしておくのは何となく不安だ。決して晶子が他の男に色目を使うとは思ってないが、直ぐ戻る、と言った手前もあるし。

雨上がりの午後 第1428回

written by Moonstone

 俺はギターのストラップから身体を抜いてギターをソフトケースに収める。ファスナーを締めてギターの収納は完了。

2004/2/2

[昨日はすみません(_ _)]
 繰り返しになりますが、昨日はろくな更新も出来ずにすみませんでした(_ _)。事情を説明すると「馬鹿馬鹿しい」と思われるでしょうが、一応説明します。理由が知りたい方のみお聞きください。
 金曜(1/30)の夜、ひととおり巡回コースを辿った後PCのアップデートを行っていたんですが、予想外に時間がかかり、更に最後の最後で不具合を起こしたためその対処に四苦八苦し、気がついたら朝の5時。何とか収拾がついたところで寝るには時間が遅過ぎるということで、新作の執筆に取り掛かったんです。ところが徹夜明けだった上に前日(木曜)の睡眠が十分でなかったこと、更にPCのアップデート関係で疲れ果てていたんでしょう。プロットは出来ていたのに筆がまったく進まず、9時頃になると視界が上下で細かく振動し(昨日のキャプションが「視界がぶれる」となっていたのはそのため)、手が細かく震え、おまけに嘔吐感まで感じ、脂汗も流れてきたので耐えられず横になったのですが、断続的にしか眠れず、頭痛と寒気が加わったため、危険を感じ、温かくして横になっていました。
 で、土曜(1/31)の夜は何とか更新した後薬を飲んで早く寝たんですが、昨日もあまり体調が優れなかったので大事を取って休んでいました。今(2/1 23:00)はほぼ大丈夫。一気にやろうとしないで日頃から少しずつやるべきでした。次回更新は大丈夫なのか、と思われるでしょうが、幸いにしてストックがあるのでそれで対処するつもりです。ご心配、ご迷惑をお掛けしてすみませんでした(_ _)。

「こういうのは嫌ですか?」
「・・・だ、だからさ・・・。こういうのは・・・その・・・。」
「電車の中とか街中とか、そういう場所だったら話は別ですけど、此処はカップルが集まるデートスポット。しかも私達の様子を見物してたんですよ。だったら私達がカップルらしいところを見せても何ら問題ないんじゃないですか?」
「そういうもんか?」
「そういうものですよ。」

 随分強引と言うか明快と言うか・・・。だが、晶子の言うこともまったく分からないわけじゃない。晶子が例に挙げた場所、電車の中や街中とか、老若男女問わず様々な条件の人が居る場所でのキスは、一種の迷惑行為と言える。だが、此処は俺が軽く見渡しただけでもカップルだらけ。言い換えれば、俺や晶子と同じ条件の人が集まっているわけだ。更に頼みもしないのに俺と晶子の様子を見物していた。ならば俺と晶子が手を繋ごうがキスをしようが、極端な話、ここでことを始めようが−する勇気はないが−、文句は言えないだろう。見たくなけりゃ見なけりゃ良いだけのことなんだから。

「お弁当食べましょうか。」

 何時もの表情に戻った晶子が話を持ちかけてくる。そう言えば腹減ったな・・・。此処に来るまで緊張の連続だったし、朝起きたのがやたら早かった−9月からはその「やたら早い時間」より早く起きなきゃいけないんだが−から、その分腹減っても無理ないか。

「そうだな。ちょっと早いかもしれないけど。」
「お休みの日くらいは、時間に縛られずに過ごしましょうよ。」
「・・・ああ。」

 晶子の言うとおりだ。講義が始まったら月曜は実験が待っているし、半月過ぎたら試験が控えているから、バイトが休みだからといって思うように羽を伸ばせないのは目に見える。だからバイトからも大学からも解放されている今日は、二人の時間を思う存分満喫すべきだ。今度の冬以降はどうなるか、まったく分からないしな。

雨上がりの午後 第1427回

written by Moonstone

 俺はそれだけ言うのが精一杯だ。人前では並んで歩いているだけでも冷やかしのネタになる、キスどころか手を繋ぐのも言わばご法度だった時代しか経験していない俺には刺激が強過ぎる。実際、俺の胸は自分でもはっきり分かるほど激しく脈打っている。

2004/2/1

[視界がぶれる・・・]
 リスナーの皆様、すみません。今日は勘弁してください(_ _)。詳細は明日お話する予定です。出来れば、の話ですが・・・(汗)。連載も少ないですが、どうかご容赦の程を・・・(_ _)。

「お、おいおい。やってくれるな・・・。」
「うわ、大胆・・・。」

 晶子は俺の頬から両手を離して、悪戯が成功した子どものような、文字どおり悪戯っぽい笑みを浮かべる。俺は身体の芯から急激に火照ってくるのを感じる。きっと顔は真っ赤になっているに違いない。こ、ここまでやるか?そうは思うものの口が硬直して動かない。
 周囲からざわめきが消えていく。どうにか動く首を壊れかけの玩具みたいに捻って見ると、ギャラリーが手を繋いだり男が女の肩を抱いたりして続々と立ち去っていく。中には参ったというか呆れたというか、そんな表情で立ち去っていくカップルも居る。はいはいご馳走様でした、後はどうぞご自由に、とでも言いたいところなんだろう。

「いっそ最初からこうするべきでしたね。」

 晶子はこれまたしれっと言ってのける。悪戯っぽい笑みはそのままだ。

「・・・し、心臓に悪いぞ・・・。」

雨上がりの午後 第1426回

written by Moonstone

 晶子との間でゆっくり距離が出来てくるにしたがって、耳の機能が回復してくる。周囲が少しざわめいているようだが、当の俺は晶子に人前でキスされた、ということで頭がいっぱいになって何も言葉が出て来ない。

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