芸術創造センター こぼれ話
Dropped talk of Performing Arts Center

2003年3月31日更新 Updated on March 31th,2003

2003/3/31

[明日から新年度]
 桜が見頃を向かえるこの季節、いよいよ新年度を迎える季節がやってきました。私は今日、地獄を見るのは目に見えているんですけどね(泣)。新しいクラス、新しい学校、新しい職場・・・。新天地での新しい季節を迎える人もいらっしゃることでしょう。私も○年前、桜が迎える中、スーツを着て着任式に臨んだものです。懐かしいなぁ・・・(遠い目)。
 新しいところでは何があるか分かりません。楽しいことばかりではないでしょう。特に社会人の方は即戦力として期待されている面もあるので尚のこと厳しいことがあると思います。
 でも、私のように心を病むほど悩んだり落ち込んだりしないで下さい。まずは自分を大切にして下さい。人間、身体が資本です。それを壊してしまったら下手をすれば修復に時間がかかり、金でも時間でも損をしてしまいます。こんな時代だからこそ焦らず確実に、自分の足場を固める必要があると思います。新天地で明日を迎える皆さん、前に進みましょう。
 それから間もなく、潤子さんの快活な声と共に食欲をそそる匂いが近付いてきた。晶子と潤子さんが二つずつ特製ミートソーススパゲッティの乗った鉄板を持ってくる。この鉄板、意外と重くてそこそこ力があると思っている俺でも片手では一つしか持てない。
 晶子と潤子さんが入れ替わり立ち代わり店のキッチンと此処を行き来して4人分の昼食を食卓に並べる。スパゲッティの他にサラダとオレンジジュースまである、立派なものだ。潤子さんがフォークをそれぞれの席に配布して準備は完了した。晶子と潤子さんはエプロンを外して席に着く。

「「「「いただきます。」」」」

 4人の唱和の後に昼食が始まる。俺は早速湯気が立ち上るアツアツのスパゲッティに手を伸ばす。スパゲッティにミートソースを絡めて口に運ぶと、コクのある豊潤な旨味が口いっぱいに広がる。腹が減っているせいか余計に美味く感じる。俺はがっつくようにスパゲッティを食べる。多少熱いが空腹はそんなこと構ってやくれない。

「今年の年末年始はどうするんだ?」

 唐突にマスターが聞いてくる。どう答えようか迷っていると、隣に居た晶子が食事の手を休めて答える。

「今年は祐司さんが帰省するんで、私一人なんです。」
「む、それはいかんなぁ。祐司君。大切な彼女を放り出すとは。」

雨上がりの午後 第1123回

written by Moonstone

「はーい、おまたせー。」

2003/3/30

[不覚にも涙が出ました]
 昨日、「クレヨンしんちゃん」の映画をTVで見ました。普段から作品制作後の寛ぎに見ているのですが、劇場版は見たことがないんですよね。それに今回の映画はお役所も認めた(文化庁のアニメ部門で受賞)という代物。下品なギャグなどと親達からは不評を買っている「クレヨンしんちゃん」の今回の劇場版がどんなものか、興味津々でした。
 最初の方こそ普段の「クレヨンしんちゃん」らしいものでしたが、中盤以降は異なる時代の交流、特に食べ物と恋愛に関するシーンでは「そうだよなぁ」と思うこと頻り。当時は身分や国というものが第一で、個人の感情など考慮されなかったんですから、恋愛事情も大きく変化したものです。
 そしてラスト間近のまさかの展開。幾ら武士が何時死んでもおかしくない時代だとはいえ、あまりにも悲しい、そして狙撃した相手に怒りを感じるシーンで、私の目から涙が溢れました。寸前で零れるところまではいきませんでしたが、人の死がこれほど劇的な(語弊はあるかもしれませんが)シーンは今まで見たことがなかったです。
 今回の劇場版。本当に感動しました。時代は違えど同じ青空を見上げる家族と一人。私も一人でも良いから見る方に感動を与える作品を世に送り出したいと思いを新たにしました。良い2時間をありがとう、しんちゃん!

「晶子は?」
「晶子ちゃんは店のキッチンよ。今日は晶子ちゃんが作ってるのよ。」
「え?!」
「作り方を教えてから傍で見てたんだけど、覚えが良いわ。もう晶子ちゃんにあのスパゲッティを任せても大丈夫ね。」

 まさか晶子が作っているとは・・・。驚きも程々に、俺は潤子さんに言われて洗面所へ手洗いとうがいをしに行く。風邪をひいたらこの先どうしようもなくなる。晶子ほど喉に気を使わなくて良いだけまだ楽だと思っておいた方が良いだろう。
 手洗いとうがいを済ませた俺はキッチンへ向かう。キッチンにはマスターが居て、茶を啜っていた。潤子さんの姿はない。晶子の様子を見に行っているんだろう。俺を見たマスターが言う。

「おう、お帰り。未来の奥さんが張り切って昼ご飯作ってるぞ。」
「み、未来の奥さんって・・・。」
「何だ、そうじゃないのか?」
「いや、何と言ったら良いか・・・。」
「作り方を教えてくれ、と言い出したのは晶子ちゃんだ。自分の腕前を拾うしたいんだろう。この幸せ者め。」

 マスターがにやついて言う。マスターには潤子さんっていう、よく気が利いて料理も上手くて美人の奥さんが居るじゃないか。・・・これ以上言い返すと、何だか彼女自慢みたいになりそうだから止めにしておこう。俺は朝食のときに座った席にコートとマフラーを引っ掛けて、店のキッチンへ向かう。
 そこでは鉄板の乗ったコンロに向かうエプロン姿の晶子が居た。晶子は茹であがったスパゲッティを一掴み鉄板に乗せると、脇に置いてあったボウルから溶き卵を流し込み、さらに特製ミートソースをお玉でかける。その動きには迷いや戸惑いは見えない。潤子さんが言ったとおり、晶子に任せても間違いはなさそうだ。俺は心弾むのを感じながら自分の席に戻る。

雨上がりの午後 第1122回

written by Moonstone

 俺は中に入ってドアと鍵を閉める。靴を脱いで上がると、腹の虫を騒がせる良い香りが漂ってくる。これは・・・潤子さん特製のミートソースだな。てことは、昼食は潤子さん特製、店の名物ともなっているミートスパゲッティか。これは学食を食べずに帰ってきた甲斐があったというものだ。

2003/3/29

[新グループ設立について]
 Moonlight PAC Edition第24号で触れている新グループ設立の件ですが、4/1付設立&活動開始は見送りの公算が高いです。短い、と言ってもそれなりの量を書かないといけませんし、既存のグループを順調に更新しているとは言えない現状で新たに負荷を増やすのは、更新の義務化、仕事化を増すばかりになってしまうだけだと思うからです。
 私としては、既存のコンテンツをしっかり更新出来るようにし、尚且つそれを楽しめるようにしたいので、闇雲にグループを増やしてあれもこれも、とはしたくないですし、そうなりたくないんです。
 それに昨日は愚痴を零しましたが、反響を増やすよう試みなければなりません。自己満足でやっていることとは言え、反響がないとどうしてもページ運営や作品制作が空しく思えてきますからね。そうするにはどうしたら良いか・・・。年度内40万HITという目標を達成した今、新しい課題に直面しています。
そして今日明日と晶子の家に泊まって、明後日の朝に晶子の家を出て、俺の家に寄って荷物を置き、ギターとアンプを持って実家へ向かう予定になっている。親からは何も持ってこなくて良い、と言われているが、ギターとアンプはバンドのメンバーとの約束を守るために必要だから仕方ない。
 駅に着き、少し待って電車に乗り、10分ほど揺られて降りる。そして自転車置き場へ行って自転車を取り出して外に出る。学生が冬休みに入っているせいか自転車の数が少なくて取り出しやすい。逆に言えば、他の奴が休みの時にまだ補講があるという自分の境遇がちょっと嫌になる。考えない方が良いな。
 俺は冷たい風が吹き付ける中、緩い上り坂を登っていく。そして自分の家には向かわず、何時もの道を通って店へ向かう。昼食は何が用意されているんだろう。まさかレトルトじゃないだろうな。まあ、潤子さんだからそんな心配は無用か。
 どうにかこうにか店に辿り着き、裏側に回って自転車を止め、インターホンを押す。程無く潤子さんの声で応答がする。

「はい、どちらさまですか?」
「祐司です。帰ってきました。」
「はいはい、ちょっと待ってね。ドアの鍵開けるから。」

 トタトタ・・・と音が近付いてきて、ドアの鍵が開く音がする。そしてドアが開いて潤子さんが出迎えてくれる。

「た、ただいま。」
「そうそう。それで良いの。お帰りなさい。丁度昼食を作ってるところよ。」

雨上がりの午後 第1121回

written by Moonstone

 俺は智一と別れて駅へ向かう。今日はマスターと潤子さんの家に寄って昼食を食べた後、荷物を持って晶子の家に行くという段取りだ。

2003/3/28

[寝たいときには寝られない]
 昨日は何となく倦怠感があったので夕食後程なくベッドに横になりました。ところが一昨日とは違って、全く寝られない。結局もそもそとベッドから出てこのお話をしています。倦怠感は未だ消えないんですけどねぇ。
 倦怠感というよりやる気のなさかな・・・。何もしたくない、面倒だ、という漠然とした思いが心に漂っているように感じます。思うように仕事が進まないのもあるんでしょうが、大きな要因はネット状況でしょうね。苦労して設置した感想用掲示板STARDANCEはもとより、JewelBoxもメールも音沙汰なし。自己満足でやっているとは言え、適度に反応がないとげんなりするものです。手が出し辛いというのもあるんでしょうけど。
 ま、それはそれとして、長いようで短かった今週の仕事も今日で終わり。週末は例によって例の如く作品制作でしょうが、桜の咲き具合によっては夜はお出かけとなるかもしれません。今はまだ花開きかけた段階ですが、今週末で一気に開きそうな気がします。もう春ですね。

「ふーん。でもその間、晶子ちゃんを一人にしておくのは事実だろ?」
「・・・誘うつもりかよ。」
「勿論。コブが居ない間に、ってやつさ。」

 それを言うなら、鬼の居ぬ間に、だろうが。まあ、念のために晶子に智一のことを聞いたら、祐司さんに後ろめたくなるようなことはしませんし、誘われても丁重にお断りしますから、と言った。このことを言ってやろうかとも思ったが止める。俺が言ったところで信用しないだろうし。

「それは抜きにしてもさ、わざわざ成人式に出るためだけに帰省するのか?あんなの出たって意味ないぞ、はっきり言って。」
「俺だって成人式に出るためだけだったらわざわざ帰省しないさ。約束があるんだ。成人式の時に会おう、っていうバンドのメンバーとの約束がな。」
「ああ、そう言えばお前、高校時代にバンド組んでたんだっけ。」
「ギターとアンプを忘れるな、って念押しの電話があったよ。成人式の会場で約2年ぶりのセッション、と洒落込むつもりなんだろうな。」
「このくそ寒い中、外でライブかよ。大したもんだ。」
「ま、たまには良いんじゃないか?」

 他人事みたいな言い方だが、実際そう思うんだから仕方ない。それに普段はセッションなんてしないから−クリスマスコンサートはその意味で貴重な機会だ−、久しぶりに顔を合わせるだけで終わるよりは楽しみがあって良いと思う。悪戯好きの連中揃いだから−俺はギターのくせにクール過ぎ、ってよく言われた−多分会場前でやるんだろう。関係者からどう思われるかはこの際言いっこなしだ。

雨上がりの午後 第1120回

written by Moonstone

 晶子はそれを聞いた時沈んだ表情を隠さなかったが、直ぐに気を取り直して毎日電話しますから、と明るく言って俺の実家の電話番号を聞き出した。俺も晶子と離れるのは不安があるのは事実だが−距離が出来たことで切れたっていう「前歴」があるから余計だ−1週間程度なら大丈夫だろう。電話口で泣かれたりしたら困るが。

2003/3/27

[IC入手出来るかなぁ・・・]
 昨日は更新時刻がずれ込んですみません。ネットに繋ぐまでの間、ちょっと疲れたから、とベッドに横になったのが運の尽き。2時間ぐっすり寝てしまいました(爆)。それにしても本当に暖かくなったものです。このお話をしている段階ではエアコンのスイッチを入れていません。
 さて、先週から続けていたICのプログラミングなんですが、バグを潰し終わって完成しました。PC上では。実はプログラムの肥大化が原因でコンパイルして目的のICに当てはめようとすると「ICに当てはめるにはプログラムが大き過ぎる」とエラーが出てしまうのです。こればっかりは気合や根性でどうになるものでもありません。
 もう一つ上位のICなら問題なく当てはまるのですが、そのICが手持ちにない。更に入手出来るかどうかも不明。その上、入手出来たところでシミュレーションどおりに動作してくれるかどうかも不明(前回はここで失敗した)。一体何時になったら解決出来るんでしょうかねぇ・・・。精神衛生上、あんまり長く引っ張りたくないんですが。

「そういえば、お前、イブの夜は晶子ちゃんと一緒だったのか?」
「ああ。」

 クリスマスコンサートの後は二人揃ってバタンキュー、というのが本当のところで夢もロマンもありゃしないが、一緒だったことには違いあるまい。
「やっぱりかぁ。そしてお前に毒されて・・・ああ!」
「毒されて、って、お前なぁ・・・。」

 言いたいことは分かるが、俺が晶子を汚したと言っているようで気分が悪い。・・・まあ、寝たからある意味汚したとも言えるのは事実だが。

「で、年末年始も仲良く二人で年越しかよ。」

 深い溜息を吐いた智一がそう言ってまた深い溜息を吐く。答えを予測しているんだろう。だが、生憎そうはいかないんだよな。

「今年はそうじゃない。俺は帰省するから。」
「え?晶子ちゃんを放ったらかしてか?」
「人聞きの悪いこと言うな。俺は今年20歳になったから、成人式に出るために帰るんだよ。親からも一度帰って来い、ってしつこく言われてるしな。」

 そう。今年は晶子と二人で年越し、とはいかない。成人式だけならわざわざそれに出るために帰省する気はないし、親からの催促も無視するところだが、成人式の時に集まろう、という高校時代のバンドのメンバーとの約束があるから、成人式と帰省はそのついでだ。

雨上がりの午後 第1119回

written by Moonstone

 智一の奴・・・付け入る隙を窺っているな。以前崩壊寸前まで行ったことだし、油断はならない。こいつの話術と財力を持ってすれば、大抵の女は引っ掛かるだろう。晶子は譬え俺と切れた直後でも無理だと思うが・・・。あんまり考えたくないな、こういうことは。

2003/3/26

[そろそろ桜の季節・・・]
 桜に特別な思い入れはないんですが、朝晩の冷え込みが緩んできてマフラーは要らないかな、と思い始める時期になると桜が咲く季節が近付いているんですよね。私の職場の正門には、何度目かの桜のゲートが出来ることでしょう。それで花見をする人も居るとか居ないとか(笑)。
 桜といえば先週の「あたしンち」で桜をテーマにした話があったんですが、桜が美しいのは一瞬、という言葉には同感しました。もう少しすれば満開になる。でもそれは二、三日のことで、あっという間に桜吹雪になってしまう・・・。無口、無関心の父がワンカップの酒を片手に見知らぬ人と夜桜見物をしている姿には、何だかしみじみしてしまいました。歳だな(苦笑)。
 かく言う私は、今年初めて夜桜見物をしようかと思っています。職場からさほど遠くないところに桜が多く咲く場所があって夜にはライトアップもされるそうです。そこで缶ビールでも飲みながら桜の花弁が舞うのを見る・・・。考えるだけで心休まる時間になりそうです。
 今年のコンサートも無事終わった。今日は晶子の家に泊まることになっている。一緒にケーキを買いに行く約束もしている。昨日の夜マスターと潤子さんが二人でビールを飲んでいたように、俺と晶子の二人だけで、1日遅いクリスマスパーティーをするわけだ。一応プレゼントも用意してある。まあ、大して高価なものじゃないが、念入りに選んだものだ。晶子ならきっと喜んでくれるだろう。
 俺は自転車で駅へ向かって走る。身体の火照りが収まってきたのか、顔に吹き付ける風が冷たく感じる。冬らしいといえばそうなんだが、やはりちょっと辛い。まあ、こうして朝大学へ向かうのもあと二日。明日までの辛抱だ。頑張っていこう・・・。

「何でこう、俺達は不幸なのかねぇ。」

 2コマ目の補講が終わった帰り道、智一がぼやく。気持ちは分からなくもない。講義そのものは終わってるのに、休講の分はしっかり補講をしてくれる。こういうのをありがた迷惑というんだろう。補講のない連中が羨ましい。まあ、今の学科に入った以上、文句を言っても始まらないが。

「イブは一人きり。あーあ、つまんない年末だぜ。」
「誰か女探さなかったのか?」
「バーカ。俺には晶子ちゃんというターゲットがあるんだ。他の女にくれてやる金や時間なんてあるか。」
「・・・いい加減諦めろよ。」
「少なくともお前が彼氏である間は諦めるわけにはいかん。」
「どういう意味だ。」
「言った通りの意味さ。」

雨上がりの午後 第1118回

written by Moonstone

 俺は自転車の籠に鞄を入れて自転車に跨り、サドルを漕ぎ始める。外の空気は張り詰めているが、今はむしろ気持ち良いくらいだ。やっぱり顔が赤くなってるんだろうな。鏡見てないから分からないけど。

2003/3/25

[頭脳労働と疲労の関係]
 私の仕事は頭脳労働に属します。時に肉体労働になったりもしますが。今はもっぱらPCに向かってICのプログラミングとシミュレーションで試行錯誤する毎日。PCに向かっていれば良いだけなんだから楽でしょうね、なんて思われそうですが、これが意外に疲れます。
 肉体労働は肉体疲労という形で明確に現れて、睡眠や休息によって回復出来るものですが、頭脳労働は肉体疲労に加えて精神疲労が蓄積され、肉体疲労は回復出来ても精神疲労は回復しません。その仕事が終わるまでは蓄積されていく一方です。それで破綻を来したのが今の状態なわけです。
 昨日は早めに切り上げて帰宅したのですが、十分あった時間の大半は睡眠に費やしました。これでネット遊びが終わったらまた寝るんですから、寝すぎだと思われるでしょうが、それだけ寝ても精神的疲労は取れません。また破綻を来さないうちに完成すれば良いんですが・・・儚い期待でしょうね。こう願って上手くいった例がないんですから(溜息)。
 ・・・そう言えば夏に海に行った時、潤子さんが言ってたな。俺と晶子が自分の子どものように思える、って。子どもを作らない約束があるから、余計に俺や晶子に自分の子どものイメージを重ねているのかもしれない。
 朝食を食べ終わった俺は、ご馳走様でした、といって席を立ち、洗面所で顔を洗って歯を磨いて櫛で髪を整えてから二階に上がり、コートを着てマフラーを巻き、教科書とノートを入れた鞄を持って戻る。壁の時計を見ると7時半過ぎ。自転車を使えば余裕で間に合う。俺は靴を履いて行く準備を整える。そこに晶子が駆け寄って来る。何だ?

「それじゃ、行ってきます。」
「おう、行ってらっしゃい。」
「行ってらっしゃい。気をつけてね。」

 マスターと潤子さんの声が聞こえてくるが、晶子は俯いたまま何も言わない。それどころか頬を紅潮させている。・・・どうしたんだ?

「・・・行ってきます。」

 俺が改めて言うと、晶子の両手が伸びてきて俺の頬を挟んで・・・?!一瞬の出来事だったが、晶子は確かに俺にキスをした。俺は身体がじわじわと熱くなってくるのを感じつつ、何となく気まずいその場を取り繕うように、靴を履いた爪先で土間を何度か軽く蹴って、ドアを開けて外へ出る。
 あれって・・・「行ってらっしゃいのキス」ってやつか?晶子には本当に時々驚かされる。あ、でも今回のやつは晶子が思い立ったものじゃないかもしれない。マスターか潤子さん、或いは両方が唆したのかもしれない。惣考えた方が良さそうだな。晶子、頬が赤かったし。多分、俺も赤いんだろうが。

雨上がりの午後 第1117回

written by Moonstone

 ちょっとしたことかもしれないが、凄く嬉しい言葉だ。普通のバイトじゃまず味わえない好待遇の連続だな。帰ってきたら昼食が待っているんなんて、俺達を本当の子どものように扱ってくれているように思う。

2003/3/24

[「有害」とは如何に?]
 昨日の日曜洋画劇場で「羊たちの沈黙」の続編とも言える「ハンニバル」が放映されたのですが、その前に「残虐な描写が含まれていて有害なゆえ児童及び青少年の視聴には注意」との旨のテロップが流れました。残虐な描写は「羊たちの沈黙」でもありましたが、それらが児童及び青少年に「有害」とはどういうことでしょうか?年代が上がれば有害なものが有害でなくなるとでもいうのでしょうか?
 有害なものはどんな年代においても有害です。それを児童や青少年に限って有害と言うのは、児童や青少年の判断能力を馬鹿にしているということでしょう。「ガキ共はこれを見たら影響を受けてしまうだろう」と。猟奇的犯罪に手を染めた青少年も居ますが、それより残虐な犯罪をやらかす大人の方が多いのであり、同じようなことを青少年がやったから珍しがられ、騒がれるだけではないでしょうか。
 大人のやることなすことの方が歯止めがない分有害です。その最悪の象徴が戦争です。自分達の利害で他人に兵器を持たせて突っ込ませ、何の関係もない一般市民をも殺す。これ以上有害なことがあるでしょうか。児童や青少年に対する有害性を言う前に、大人は自分達の有害性を認識すべきでしょう。
 朝食のメニューはご飯に味噌汁、鮭の切り身を焼いたものに目玉焼き、青して味付け海苔、というものだ。晶子も朝食で和食を出すことがあるが、やっぱり味噌汁の味が違う。どちらが良いというものじゃないが、食べ慣れている分、晶子の方が舌に馴染んでいるかな。

「祐司君、補講は何時まであるの?」
「明日までです。」
「晶子ちゃんはないのよね?補講。」
「はい。もう講義は全部終わってます。」
「新京大学の理数系は厳しいとは聞いてるが、なかなか祐司君も大変だな。」
「まあ・・・。でも、そうだと分かってて入ったんですから仕方ないですよ。」
「学生は勉強が本業だとはいえ・・・御用納めギリギリまで補講とはな。まあ、今年もあと少しだから、身体に気をつけて頑張りなさい。」
「はい。」

 こうして声をかけてもらえるとほっとする。和やかな食卓の雰囲気のせいもあるんだろう。今日の補講は午前中のみ。明日は2コマ目のみだ。その3つさえ乗り切れば今年の大学はおしまい、というわけだ。マスターの言葉じゃないが、頑張らないとな。

「晶子ちゃんは今日、どうするの?」
「迷惑でなければ、祐司さんが帰ってくるまで居させてくれませんか?」
「一向に構わないわよ。ねえ、あなた。」
「ああ、勿論だ。ゆっくりしていきなさい。」
「祐司君が帰ってくるんだから、昼食も4人分用意しておくわ。一緒に食べましょうね。」
「良いんですか?」
「勿論よ。言ったでしょ?此処は自分の家だと思って良い、って。」

雨上がりの午後 第1116回

written by Moonstone

 のんびりした朝食の時間が始まる。普段ならギリギリまで布団に潜っていて、慌てて着替えてトーストとコーヒーを腹に詰め込んで駅へ、というパターンなんだが−火曜日の朝は晶子が世話してくれるから心配要らない−、こうして大勢で食卓を囲むというのはなかなか良いもんだ。

2003/3/23

[臨時休養日]
 一昨日の昼から鼻水とくしゃみが酷く、頭もぐらぐらしたのでとても作品制作どころじゃない、と判断して昨日は一日温かくして(汗をかくくらい)休んでいました。お陰でどうにか鼻水とくしゃみも収まり(まだ鼻がむずむずしますが)、今日は作品制作が出来そうです。
 そんな調子でしたので、特別お話することはありません。この週末で風邪を完治させて、万全の状態で週明けを迎えたいです。しかし、もの凄いティッシュの消費だったな・・・。半分くらい使ったんじゃなかろうか(汗)。
 これを予想してことだろうか、この日も泊まらせてもらうことになっていた。ケーキを食べ尽くし、シャンパンをしこたま飲んだ後、俺、晶子の順で風呂に入って歯を磨き、ビールを飲んでいたマスターと潤子さんにお休みなさい、と言って二階の部屋へ向かった。あの二人はのんびり祝杯を上げるつもりなんだろう。ああいう夫婦が理想だな。
 二階に上がった俺と晶子は、それこそ倒れこむように布団に潜り込んで眠ってしまったらしい。その後の記憶が全くないからだ。潤子さんに起こされた時、俺は晶子とくっついて寝ていたということだけははっきりしている。晶子が部屋を移動して服を着替え、二人揃ってダイニングに下りる。マスターが新聞を読んでいて、潤子さんは朝食をテーブルに並べていた。

「「おはようございます。」」
「おお、おはよう。ぐっすり寝られたか?」
「ええ、でも何だか頭がぼうっとしますけど・・・。」
「お酒が入ったからかもね。祐司君は補講があるんでしょ?ちゃんと食べていきなさいよ。」
「はい。」

 何だか実家に居るみたいだ。俺と晶子が席に着くと、マスターは新聞を畳んで、潤子さんが席に着いたことで全員で唱和する。

「「「「いただきます。」」」」

雨上がりの午後 第1115回

written by Moonstone

 片付けを終えた後は奥に入って、4人で大きなケーキを囲んで「乾杯」と相成った。ケーキは潤子さんの手作りだということだが、とても手作りとは思えない出来栄えだった。更に美味いし。高価なシャンパンも用意されていて、飲んで食べてしているうちにほろ酔い気分になってきた。シャンパン如きでほろ酔いになるとは不覚。疲れていたのもあったんだろうが。

2003/3/22

[隠し部屋更新]
 約1年ぶりに隠し部屋を更新しました。内容と入り口の場所は探してみてのお楽しみということで。入り口の場所はそんなに難しくないと思います。言っておきますが、ソースを見るのは反則ですよ。そう、そこの貴方(笑)。
 隠し部屋は自分にとってお遊び的な感覚でものを置いたり出来る場所、という位置付けです。でも、普段はコンテンツの更新で手がいっぱいでなかなかお遊びにまで手が回らないんですよね。実際、「名探偵コナン」と一緒に買ったブギーポップの新作が、1週間近く経った今でも最初の方しか読めてませんし。
 しかし、約1年ぶりに更新して確認するわけですが、どれだけカウンタが回ってるんでしょうね。他のグループなどはトップも含めて全て一覧出来るようにしてあるんですが、隠し部屋だけは除いてあるんです。どれくらいカウンタの回転が遅いかと思うと楽しくて(笑)。まあ、5桁はいっていないと思ってるんですが果たしていかに?皆さんは頑張って探してくださいね♪
 マスターの呼びかけに応えての四人揃っての唱和に、客席から大きな唱和が津波となって被さってくる。マイクがなくてもこの音量だ。客も腹の底から声を出しているんだろう。唱和の後には大きな拍手と歓声が、これまた津波となって押し寄せてくる。お腹いっぱい声援を貰って、俺も満足だ。
 去年と同じくらい、否、去年以上に充実したコンサートになったと思う。大勢詰め掛けた客に最高の演奏を披露出来たこと、そして最高の演奏が出来たことそのものが満足感と充実感になって俺の心を満たす。今日まで苦労もあった。晶子との仲が崩壊の危機に瀕したこともあった。でも、客からの大きな拍手や歓声で、それらが一気に吹き飛んだような気がする。
 良かった。今の気持ちを表現するのはこの一言で十分だろう。鳴り止む気配を見せない拍手と収まる様子を見せない歓声が、その気持ちを祝福してくれているかのようだ。このコンサートで演奏出来て良かった。このメンバーで演奏出来て良かった。本当に・・・良かった。

 2日目は1日目以上の大盛況となった。1日目の客に加え、彼らが誘ってきたらしい新顔の客が大勢詰め掛け、とうとう定員オーバーになってしまった。やむなく1日目に来た客には出来るだけ帰ってもらうように言い、今日が初めての客を優先することになった。開場前から寒風吹きすさぶ中行列を作って待ってるなんて想像もしなかったな・・・。
 コンサートが終わって客が全員引き上げた後は、恒例の後片付けが待っていた。飾り物を外し、テーブルと椅子を元に戻す。コンサートで疲れた身体には堪えるが、こればっかりは避けて通れない。明日が月曜で休みなのは幸いだ。まあ、俺は補講があるから完全な休みじゃないんだが。

雨上がりの午後 第1114回

written by Moonstone

「では改めまして・・・、様々な曲で飾った年の暮れ迫るこの日に、皆様、ご唱和をお願いします。メリークリスマス!」
「「「「「メリークリスマス!!」」」」」

2003/3/21

[・・・]
 詳細は今日公開した決議に書きましたから、ここではそれ以上詳しく述べません。2003年3月20日は、一握りの国が国際社会のルールを破って歴史の歯車を逆転させた愚かな日、として記憶に残しましょう。
 曲は流れを止めては再開することを繰り返して晶子のヴォーカルが消える。残された俺はギターを一音一音ツブをはっきりさせるように心がけて徐々にテンポを落としていく。そして晶子のハミングに合わせてストロークを聞かせる。音の響きが全て消えるまで、俺は態勢を保つ。
 一瞬の静寂の後、大きな拍手と歓声が沸き起こる。マスターと潤子さんが満面の笑顔で手を叩きながらステージに上がってくる。俺は「飛び入り」が無事に終わったことを実感しつつ、晶子と顔を見合わせて笑みを浮かべあい、客席に向かって一礼する。拍手と歓声が最高潮に達する。

「いやあ、参りました。まさかこんな演奏を隠していたとは思いませんでした。私と潤子に気付かれないように、隠し隠し練習してきたんでしょう。いい曲で改めて最後を締めてくれました。皆様、若き二人に大きな拍手を!」

 客席からの拍手や歓声は、マスターに言われなくてももうこれ以上ないというところまで音量が上がっている。俺はギターのストラップから身体を抜いてギターを自分の前に立てる。よく働いてくれたもんだ。またしっかり手入れしてやらないとな・・・。

雨上がりの午後 第1113回

written by Moonstone

 晶子のヴォーカルが静かに盛り上がっていく。俺はその伸びのある声を聞きながらギターを爪弾く。曲はクライマックスへ近付いてきている。割り込んで演奏したんだ。無様な真似は許されない。

2003/3/20

[一人きりの祝賀会]
 今月初頭、東京大学で業務発表をしたことはここでお話したとおりですが、今の病気を患って辛い思いをして3年越しにようやく復活の狼煙を上げられたことを祝して、外食しに行きました。場所は昼によく行く寿司屋。昨日の昼にも行って、帰り際に釜飯の注文をしておきました。
 店を訪れると、丁度釜飯が出来上がっていました。私は久しぶりに食する釜飯に舌鼓を打った後、何ヶ月ぶりかに酒を飲みました。薬を飲んでいる関係で原則飲酒禁止なんですが、薬は時間をおいた後で飲めば良いことだし、たまには良いだろうと思って飲みました。久しぶりの酒(ちなみに熱燗)は腹と心に染みました。否、大袈裟じゃなくて。
 それから寿司をしこたま食べて(普通の人は釜飯一つ食べたら満腹になる)久しぶりの解放感を味わうと共にガス抜きをしました。ここ数日難解な仕事で頭が混乱状態だったのですっきりしました。一人きりだったので気兼ねなく好きなものを食べて満足感に浸りつつ帰路に着きました。また今日から気合を入れて取り組みましょうかね。何時終わるのか分かりませんけど。
マスターと潤子さんはステージ脇に下がった。俺は晶子の隣に行って、店内が静寂に包まれたのを確認してから晶子を顔を見合わせ、身体を小さく揺らしてリズムを刻む。そして4拍目を数えたところでギターの弦を指で弾き始める。
 それと同時に晶子が客席に向き直って歌い始める。・・・一番厄介な出だしが上手くいったことで一先ず安心だ。練習ではここで一番苦労したからな。イントロなしの上に練習期間が短くて、更にこの1週間はマスターと潤子さんの家に泊まっていたから、聞かれないようにアコースティックギターをボリュームを絞ったエレキギターにしたり、晶子には無声音で歌ってもらったりと細心の注意を払っていたからな。普通注意を払うのは演奏や歌う方なんだが・・・。
 シーケンサの音は一切ない。俺のギターだけが晶子の歌を支える。静かな店内に俺のギターの音と晶子の済んだ声が良く響く。客席からも手拍子なんかはない。ただ俺のギターと晶子の歌声だけが店内に広がる。
 曲はサビへ入る。原曲ではシンセ音やバックコーラスなんかが入るんだが、ここではあくまで俺と晶子の力量にかかっている。晶子は少々声のボリュームを上げたようだ。俺はあくまで弦を爪弾いた時の音のアタック(註:音の最初の部分)と響きに任せる。その分弦を爪弾く指に神経を集中させる。テンポは晶子のリズム感に任せる。これは歌が楽器の演奏を引っ張るようなタイプの曲だからな。
 晶子のヴォーカルが一旦終わる。俺のギター音が豊かな残響を残しては消えていく。続く間奏では、晶子はウィスパリングを存分に聞かせてバックコーラスの部分を歌う。アコースティックギター独特の音色と絡み合って、タイトルどおりファンタジックな雰囲気を演出する。その最後で、俺が苦労して出来るようになったギターの胴を使った、ノックのようなリズム音を入れる。
 そして最初に戻る。ヴォーカルとギターだけのシンプルなフレーズが続く。シンプルなものほど誤魔化しが効かないから難しいことがままある。今はヴォーカルとギターだけだから誤魔化しようがない。その分神経が磨り減るが、やり甲斐があるのもまた事実。変に力が入らないように注意しながら、最後へ着々と近付く晶子のヴォーカルを支える。

雨上がりの午後 第1112回

written by Moonstone

 俺はマスターにマイクを返すと、急いでギターをアコースティックギターに換える。晶子はマイクスタンドの前に立ち、両手をマイクの上に重ねて歌う準備を整える。

2003/3/19

[ならず者国家、アメリカめ!]
 とうとう愚者が振り上げた拳を振り下ろす愚かな道を選びました。アメリカはイラクへの武力行使に繋がる新決議を取り下げ、国連を無視する形で武力行使に踏み切ることを選択しました。全くもって愚かなことです。いくら「イラクの武装解除」「中東の民主化」を叫ぼうとも、その本音がフセイン体制の転覆という露骨な内政干渉と、世界第二の埋蔵量を誇る石油利権の支配にあるのは明白。許されざる国連憲章、国際法無視の違法行為です。
 これでアメリカ、イギリス、スペイン他、アメリカに付き従う国は世界世論の厳しい批判に晒されるでしょう。そしてその評価は地の底まで落ちるでしょう。イージス艦を出して、アメリカに追従している日本も例外ではありません。新たなテロを引き起こし、報復との悪循環を作り出した元凶との批判を免れなくなるでしょう。
 これでお分かりでしょう。アメリカが自由と民主主義の国ではないということが。日本以上に軍隊と巨大利権が幅を聞かせる右翼国粋主義国家であるということが。こんな国家に付き従う日本に対するイスラム社会の信用は最悪のものになるでしょう。自分で自分の首を締める内閣にこれ以上政権を任せるわけにはいきません。一斉地方選挙で厳しい審判を下しましょう。
 マスターがサックスを首にぶら下げたままステージ脇に置いてあったマイクを持って、客席に向かって話し掛ける。

「多大なご声援、ありがとうございます。今日のコンサートも無事終わりを迎えることが出来ました。ここまで聞いて下さった皆様に、心から御礼申し上げます。」

 マスターの声で歓声がより大きくなる。マイクを通さないと何を言っても聞こえないくらいだ。観客の歓喜と興奮も最高潮に達しているんだろう。その表情を見れば嫌でも分かる。
 マスターの手招きに従って、俺と晶子と潤子さんはステージ中央に一列に並び、揃って一礼する。客席から大きな歓声と共に大きな拍手が送られる。これだけの「報酬」をもらえたら、寸分を惜しんで音合わせと練習に励んだ苦労が一気に満足感と充実感に変わるというものだ。さて、今までマスターに驚かされっ放しだったが、今度は俺が、否、俺と晶子が驚かせる番だ。フフフ、どういう反応を示すやら。

「では、様々な曲で飾った年の暮れ迫るこの日に・・・」
「ちょっと待ったぁ!」

 締めを飾ろうとしたマスターを制する。マスターは何事か、というような顔をしている。隣の潤子さんもきょとんとしている。俺はマスターに手を差し出す。マイクを貸してくれ、という合図だと悟ったのか、マスターは少々おずおずとマイクを差し出す。俺はマイクを受け取って客席に向き直る。沈黙した客の視線が一気に俺に集中しているのが分かる。緊張するが、俺が言わなきゃ始まらない。

「突然すみません。今日この瞬間まで秘密にして来た曲を披露したいと思います。」

 客席が少しざわめくが、直ぐに静寂を取り戻す。

「お、否、私は人前で話すのが苦手で上手く言えないんですが、兎も角ヴォーカルの・・・井上さんと秘密裏に練習してきた曲を聞いてください。曲は『fantasy』です。」

雨上がりの午後 第1111回

written by Moonstone

 決まった。俺がそう思った瞬間、客席からもの凄い拍手と歓声と指笛が押し寄せてきた。晶子は一礼してから客に向かって手を大きく振る。マスターも口からサックスを離して手を振っている。俺も充実感を感じながら手を上に掲げて声援に応える。潤子さんも席を立って手を振っている。

2003/3/18

[どうも疲れる・・・]
 本当にちょっとしたことでも眠りが必要な疲れが溜まってしまい、困っています。休みの日は自由に寝られるので構わないんですが、仕事ではそうもいかない。蓄積された疲れは帰宅後にどかっと出るので、連載の書き溜めも此処暫く全然出来ない状態で、底をつくのは時間の問題です。
 極端な話、夕食を準備して食べて後片付けするだけでも1時間眠るほど疲れるんです。でも、薬の力を借りないと4時間以上連続では寝られない。だから余計に疲れが蓄積するのです。休みの日なんて、新作を書いたら簡単に2、3時間は寝ますよ。
 前にもお話しましたが、この疲れやすい体質は持病のせいなのでどうしようもないんです。薬でも改善出来ません。連載休止なんてことにならないように、何とか頑張って起きて居たいんですが・・・。
 ヴォーカルが終わると、代わってサックスがSEを背景にしてメロウな響きを聞かせる。リズム音がないのに客もリズムを感じているのか、手拍子は崩れることはない。いよいよ数少ない、というか唯一の俺が前面に出るテーマが近付いてきた。これまでの演奏を台無しにしないようにと、自然と気合が入る。3、2、1・・・。今だ!
 俺はボリュームを上げてストロークで和音を掻き鳴らす。そこにサックスが絡んでくる。サックスは出すのが難しい高音も使った、かなり難度の高いフレーズだが、マスターは難なく華麗に歌い上げてみせる。
 再び最初のテーマに戻る。ウィスパリングが効いたヴォーカルが耳に気持ち良い。サックスが原曲と異なるフレーズを挟むが、違和感は全くない。この辺りはジャズバーを席巻しただけの腕前が生きているという確固たる証拠だろう。演奏しつつ聞いていても安心出来る。
 最初のテーマを繰り返す。ここからは去年とかなり様相を変えている。俺はバッキングを単音からストロークに切り替えて細かくする程度だが、ヴォーカルはアドリブで歌い、サックスがそれに絡み、ピアノが原曲ではオルガンのパートを含めた演奏をする。ピアノのグリスは圧巻だが、決してヴォーカルやサックスを打ち消すようなものじゃない。煌き感が混ざって曲に美しさをプラスする。
 さあ、いよいよフィニッシュだ。ヴォーカルが止んで、シーケンサが演奏するドラムの難しいフレーズ−シーケンサにとっては大したことではないだろうが−を背景に、サックスとピアノがジャズの臭いをたっぷり含ませた演奏をする。ここは音合わせで最初に聞いた時、仰天したところだ。ドラム音にぴったりリズムを合わせつつ、難しいアドリブのフレーズを演奏する。
 ラストはピアノの細かいリフ(註:繰り返しフレーズのこと)を背景にサックスがこれまた細かくて高音低音を多分に使ったフレーズを響かせる。サックスとピアノと俺のギター、そして晶子の「Thank you」という言葉がドラムのシンバルとぴったり息を揃えて音を響かせ、演奏を止める。

雨上がりの午後 第1110回

written by Moonstone

 ウィスパリングの割合が減ったヴォーカルが良く響く。流暢な発音で歌われる歌詞とピアノの絡みが耳に心地良い。ゆったりしたテンポだが、歌や演奏は結構忙しい。去年もラストを飾ったが、ハーモニーは去年異常のものになっていると思う。

2003/3/17

[「力の時代」に逆戻りさせる気か?!]
 これをご覧いただいている頃には何らかの「決着」がついているかもしれません。イラクへの武力行使を容認する修正決議案の取り扱いをめぐる米英スペインの首脳会談が開かれます。しかし、アメリカは修正決議案が採択されなくても武力行使をすると再三明言しています。
 これに対抗して一昨日3/15に世界的規模での反戦行動が取り組まれました。かつての世界的規模での反戦行動であるベトナム侵略戦争の時は、傀儡政権を目論むアメリカとそれに抗するベトナム、という明確な図式がありましたが、今回はイラクに問題があるのは百も承知、しかし、それでも武力行使は駄目だ、という気持ちで反戦運動が盛り上がっているのです。
 その反戦運動を無視する形でイラクへの武力行使に踏み切れば、アメリカなどは一気に国際的信用を失墜させるでしょう。それにつき従う日本も同様です。前にも述べましたが、振り上げた拳を下ろすことで面子は潰れません。振り上げた拳を下ろすことが日本にも世界にも打撃を与えることになる(原油価格の上昇など)ことをもっと認識すべきです。「戦争したい」政権に付き従う「下駄の雪」政権にはとっとと交代してもらう以外ありません。
 拍手の中に歓声が混じる中、マスターはマイクスタンドを一つ片付けてサックスのストラップに身体を通す。潤子さんはピアノの前に向かう。晶子はそのまま。俺は高まる胸の鼓動を感じながら、全員の準備が整うのを待つ。シーケンサの演奏を−殆どドラムとベースとSEだが−始めるのは俺の足だ。
 ようやく拍手と歓声が収束して客も演奏を聞く準備が整い、俺以外の三人も準備が整ったようだ。俺は躊躇なくシーケンサの演奏開始のフットスイッチを押す。マスターが言ったとおりこれで最後だが−実際はそうじゃないんだが−、最後だからこそ油断は尚のこと禁物。自然と気合が篭るのを感じる。
 2拍分のハイハットのフィルが入った後−これは去年なかったものだ−潤子さんのピアノの音が、清流が流れるように入ってくる。自然な響きが心地良い。SEが混じるが、ピアノの音がそれに圧されることはない。
 続いてウィスパリングを存分に効かせた晶子のヴォーカルが入る。俺はその邪魔にならないように注意しつつギターのフレーズを挟む。飾り程度のものだが手を抜くわけにはいかない。ヴォーカルの終わりにピアノとSEが入ってくる。これからだ本番だ、と告げているような、煌きを感じさせるピアノのフレーズにドラムが加わってくる。そう、これからが本番だ。
 ブロウの効いたサックスの音色が高らかに響く。それに負けじとピアノがダイナミクスを生かしたバッキングを奏でる。その中で俺は目立たないだろうが、自分のパートをきちんと演奏する。こういうパートって、聞いている人は聞いていたりするんだよな。だから疎かには出来ない。
 サックスと入れ替わる形でヴォーカルが入ってくる。ウィスパリングを微妙に効かせた良い声だ。それに高音部も含めたピアノのバッキングが絡む。ダイナミクスを生かしているといってもヴォーカルの邪魔になっていないところが凄い。聞いているだけでワクワクしてくる。音合わせの時でも、個人的に一番楽しめたのはこの曲なんだよな。自分の出番は殆どないけど。
 最初のテーマに戻ってウィスパリングが効いたヴォーカルが広がる。それに合いの手を加えるようにサックスが響く。ここから暫くはヴォーカルがメインだ。それにしても晶子も随分ステージ慣れしたもんだ。これだけの客を目の前にしても、練習の時以上の力を出せてるんだから。

雨上がりの午後 第1109回

written by Moonstone

「さあ、このコンサートもいよいよ最後の曲を迎えることになりました。今までソロにペアにと色々な形でステージに上がった私を含む四人全員が揃ってそれぞれの楽器に挑む、『COME AND GO WITH ME』で締めくくりたいと思います。どうぞお楽しみください!」

2003/3/16

[たまには読みたい・・・]
 今更言うまでもなく、私は幾つもの小説を書いています。週末ともなれば半日は新作執筆に費やします(書くのが遅いですから)。そうやって出来て積み重なった自分の作品を読み返すのもたまには良いんですが、当然ですが作品の展開が読めるだけにあまり娯楽にはならないんですよね。
 で、昨日の買出しのついでに本屋に立ち寄り、「名探偵コナン」最新刊(40巻)に併せてブギーポップの新作「ジンクス・ショップへようこそ」を買いました。「魂の降る里」の新作を書き終えた後、夕食を食べてから休憩がてら読もうと思ったんですが・・・ほぼ休憩なしで書き上げた疲れから寝てしまいました(爆)。ですので現時点ではまだ読んでいません。
 今日も新作執筆の予定ですが、その気になれなかったら読もうと思います。時間はたっぷりありますからね。作家の方もこんな気分、つまりは自分の作品以外の作品を読んでみたいと思うものなんでしょうか?
 それが終わると、いよいよサビの繰り返しに入る。二人の声は切なさを帯びたまま優しく柔らかい響きを存分に店内に広げる。気持ち良い。それでいて心に染みる。この曲にヴォーカルが必要なことを実感させるには十分だ。それだけの存在感を感じさせるものが二人の声にはあると思う。
 ラストは曲のタイトルでもある「Secret of my heart」を繰り返しつつ、フェードアウトしていく形だ。俺はボリュームを調整してシーケンサに合わせてギターの音を絞っていく。晶子と潤子さんはどちらが早まることも遅れをとることもなく、手足を揃えて徐々に声量を絞っていく。
 全ての音の響きが消えると、パラパラと拍手が起こり、それが急速に大きくなって店内いっぱいにこだまする。晶子と潤子さんは一度顔を見合わせてから、揃って一礼する。拍手は益々大きくなる。客は手が痛くないのかと思うほど手を叩いているように見える。でもその気持ちはよく分かる。
 拍手が止む気配はない。そこにステージ脇からマスターがステージに上って、潤子さんの前のマイクを抜いて、客に向かって言う。

「女性デュオならではの歌声を披露出来たのではないかと思います。皆様、見事に歌い上げた井上さんと潤子、そしてその陰で黙々と演奏をこなしていた安藤君に今一度大きな拍手を!」

 マスターの呼びかけに応えて、拍手がこれでもか、と言わんばかりに大きくなる。晶子と潤子さんはもう一度客席に向かって一礼する。思わぬ紹介を受けた俺もそれに倣って一礼する。別に紹介してもらわなくても良かったんだが、ほんの一部でも拍手が自分に向けられていると思うとやっぱり嬉しいもんだ。ここはマスターに感謝すべきところだな。

雨上がりの午後 第1108回

written by Moonstone

 曲は一番盛り上がる部分に入る。二人の声がより切なさを帯びたような気がする。音合わせで何度も聞いたが、二つの声が衝突するんじゃなく、良い感じで協調してデュオならではのハーモニーを作り出しているところには感心させられる。思わずギター演奏を忘れてしまいそうだ。

2003/3/15

[今回の更新について]
 ちょっと事務的な話になりますがご容赦の程を。今回4つのグループを更新したわけですが、そのうち圧縮ファイルを伴う2つが、前回の更新の際に、圧縮ファイルを更新し忘れていました。理由は簡単、本文のアップロードはしたものの、その確認を終えて安心して圧縮ファイルのアップロードを忘れてしまったためです。今回はきちんと更新しましたので(^^;)。
 その圧縮ファイルですが、やっぱりあった方が良いんでしょうか?更新の主力になっている「雨上がりの午後」と「魂の降る里」には圧縮ファイルがありますが、私として推したい「Saint Guardians」は、一応あることはありますが、最初だけで不完全なものです。
 私としては、更新の度に圧縮ファイルを別途用意して圧縮ファイルを構成するのは面倒なので止めたいんですが、結構需要はあるようでして・・・。「Saint Guardians」についてもご要望が多ければ圧縮ファイルをきちんと用意しますので、JewelBoxかSTARDANCEに書き込んでください。
ファンにとっては感涙ものだろう。去年でも大好評だったから今年も、とプログラムに組み込まれたわけだが、これを期待していた客も少なからず居る筈だ。

「片割れの潤子もステージに上がりましたので、余計なものは引っ込みましょう。では、『Secret of my heart』をお聞きください。どうぞ!」

 マスターが言うと、店内が大歓声でいっぱいになる。その間にマスターはマイクスタンドにマイクを挿して晶子の隣、潤子さんの前に素早く持って行く。晶子はマイクに両手を乗せる。それで二人の準備が整ったと感じた俺は、シーケンサの演奏開始のフットスイッチを押す。俺は物陰でバッキングを担当する。目立たないが、これらも重要な役割だ。
 安っぽいドラム音に混じって俺は単音のバッキングを演奏する。シーケンサ任せでも良いんだが、フットスイッチを押す役割があるのでついでに、といった感じだ。メインは何と言っても晶子と潤子さんのデュオでのヴォーカルだ。潤子さんが歌声を披露するのはこの曲しかないから、常連の客には目がったり叶ったりだろうし、初めて聞く客は興味深々だろう。
 二種類のソプラノボイスが柔らかい響きを醸し出す。自分が前面に出るんだ、という競争じゃなくて、手を取り合って一緒に、といった感じのハーモニーが美しい。途中から入ってきたストリングスの音色とも調和していて、切ない内容の歌詞が映える。
 曲はサビに入る。かと言って妙に声を張り上げることもなく、二人はあくまで優しく柔らかく、そして切なく歌う。ドラムが単調で安っぽいせいか、二人の歌声が自然と前面に出る。原曲ではバックコーラスが入るんだが、それがなくても十分歌詞が紡ぎだす雰囲気を表現している。
 最初のテーマに戻ってサビまでのフレーズを繰り返す。歌詞は変わっているが、どこか切ない内容が胸に染み渡る。これだけ見事に歌い上げられるんだから曲も本望だろう。原曲を知っている客も、声質の異なる二人のデュオを新鮮に感じるだろう。

雨上がりの午後 第1107回

written by Moonstone

 晶子がそう言って客席に向かって一礼すると、一旦止んだ拍手や歓声が再び大きくなる。ステージに新たに人影が現れたことでそれがより大きくなる。晶子と一緒に歌う潤子さんがステージに上がったからだ。

2003/3/14

[祝・ご来場者数400000人突破]
このお話の段階では予測です。ま、大丈夫でしょう(^^;)。
 開設から4周年を前にしてご来場者数400000人(以下、400000HIT)を突破することが出来ました。日ごろご来場いただいている方はもとより、作品公開の度にご来場いただいている方にも「ありがとう」を言いたいです。
 私の予測では、400000HIT達成は年度末ギリギリに縺れこむか、未達成に終わるかのどちらかだと踏んでいました。それが予想より早い達成を果たせたのは、継続的な作品公開と、ご来場くださる皆様全ての賜物だと思っております。
 勿論、これで全てが終わったわけではありません。あくまで通過点に過ぎません。500000、ひいてはミリオンHITと先はまだ長いです。これからも宜しくお願いします。

「井上さんは文系学部なんだよね。」
「あ、はい。文学部の英文学科に通ってます。」

 客席から、ほう、という声が起こる。あの流暢な英語の歌い方の背景が分かって納得、といったところか。

「井上さんはこの店で初めて本格的に音楽に取り組んだって話だけど。」
「はい。中学校の音楽の授業以来だったので最初は右も左も分かりませんでした。」
「でも、去年に引き続いて見事なヴォーカルを披露してくれてるよね。」
「最初にステージに立った時は歌うだけで頭がいっぱいでしたけど、今は自分の歌声を聞いてもらえることそのものが楽しくて、嬉しいです。」

 客席から拍手や歓声が起こる。この辺はファンが多い晶子ならではだな。それにしても、晶子も随分ステージ度胸がついたもんだ。てっきり右往左往するかと思ってたんだが。

「ヴォーカルをやっていて気をつけていることってあるかな?」
「やっぱり風邪をひいたりして喉を痛めないように注意してます。練習でもつい歌い過ぎってことになってしまいがちなので、その辺は自制するようにしています。」
「自分の楽器は自分自身ですから、自身の健康管理が大変だと思います。これからも良い歌声を聞かせて下さいね。」
「はい。ありがとうございます。」

雨上がりの午後 第1106回

written by Moonstone

 マスターが晶子の傍に歩み寄る。晶子は戸惑っている様子だ。そりゃ無理もない。俺だってインタビューなんて言われた時は戸惑ったし、まさか自分までインタビューをされるとは思ってなかっただろう。思ったとしても、まさかそんなことは、と打ち消していただろう。さて、何を聞かれるのやら・・・。俺との関係を聞きやしないだろうな?

2003/3/13

[今こそ戦争反対の声を!]
 イラク情勢が緊迫しています。アメリカやイギリスなどの戦争推進勢力、特にアメリカは新決議の採択の如何に関わらず戦争に踏み切ることを示唆しています。しかし、国際世論と多数の国が戦争反対の声を上げ、フランスなどがその中軸になっています。
 一方の日本はといえば、いち早く新決議に賛意を表し、多数派工作に乗り出すどころか、反戦世論を「誤ったメッセージを送る」「利敵行為」などと敵視するありさま。これが戦争放棄を謳った憲法9条を持つ国の政府の態度でしょうか。幾多の犠牲の上に築かれた日本国憲法や国連憲章が泣いています。
 今こそ皆さんは反戦の声を上げてください。このページの決議文を転載してもらって構いません。最寄の反戦デモなどに参加するのも良いでしょう、兎も角今、戦争はいけない、戦争をしなくても問題は解決出来る、振り上げた拳を下ろすことは面子を潰すことにはならない、という声を、特にページを持っている人は積極的に上げてください。罪なきイラク国民の血を大地に流させないためにも・・・。
 曲が静かに盛り上がっていく。ギターを弾く手に熱が篭る。身体が熱い。シーケンサの奏でる楽器音がうっすら聞こえる中、俺は懸命にギターを奏でる。いよいよラストが近付いてきた。ギターのフレーズが艶っぽさを感じさせるようになる中、俺はひたすら両手の動きを注視する。
 ラストだ。白玉の楽器音が流れる中、俺は駆け下っていく感じで何かを歌うようなフレーズを奏でる。最後の一音まで手を抜かず、優しく丁寧に・・・。今日までの練習の成果を出し切るまで気は抜けない。
 全ての楽器音が止むと、一気に大きな拍手と歓声が沸き起こる。指笛も飛び交う。演奏は成功だったと実感しつつ、俺は晶子と共に客席に向かって一礼する。拍手と歓声は益々大きくなる。それだけの演奏が出来たんだと思うと緊張感がひび割れてそこから充実感が湧き出してくる。俺は小さく溜息を吐く。これくらいは許されるだろう。

「皆さん、しっとり聞かせる3曲に満足していただけたでしょうか?」
「最高ー!」
「文句なし!」
「喜んでいただけて何よりです。」

 マスターがマイクを持ってステージに上ってくる。

「早いもので、このコンサートもいよいよ終わりが近付いてきました。最後はDandelion Hill夢のデュオ、井上さんと潤子による『Secret of my heart』、そして今年唯一の四人総出による『COME AND GO WITH ME』をお聞きいただきます。その前に・・・大人気のヴォーカリスト、井上さんにちょっとインタビューを。」

 おいおい、そんなことリハーサルじゃなかったぞ。まあ、俺のインタビューもリハーサルじゃなかったから、不意打ちによる面白さを狙ったものなんだろう。俺は晶子から離れてステージ奥に引っ込む。客の視線は晶子に集中しているだろうから、この間にギターをエレキギターに換える。

雨上がりの午後 第1105回

written by Moonstone

 曲はヤマ場に突入する。ギターのフレーズが再び複雑になる。俺は両手に神経を集中させる。左手はフレットの上を的確に移動し、右手は微妙な力加減を効かせて弦を弾く。テンポキープも忘れちゃならない。ギタリストの腕が問われる部分だと個人的には思う。

2003/3/12

[また寝過ごした・・・]
 一昨日に続いて昨日も寝過ごしてしまって、慌てて更新準備をしています。眠気には勝てません。そしてその原因である異常なまでの疲れには勝てません。
 疲れといっても本来なら、肩が多少凝る程度のものなんです。でも、今の私には、それが大量の仕事を抱えて走り回ってこなしたのと同じくらい、否、それ以上の疲れになってしまうのです。本当に少々のことで多大に疲れてしまう。それが今の持病を象徴する現象なわけです。
 これは薬でもどうにも改善できないもので、休み休みしながらするしかありません。でも、仕事をしたいと焦る気持ちと思い通りに動かない身体のギャップに苛立ち、自己嫌悪する日々です。これさえなくなれば、でもどうにもなくせない・・・。どうしたら良いのでしょう?
 流れ星を髣髴とさせるウィンドベルの音が駆け上がっていった後、俺が一人ギターを演奏する。アコースティックギターならではの響きと音色を生かすように心がけながら、自分でも浸れるように切なく謳い上げる。この日のために十分練習してきたんだ。大丈夫だ。晶子のコーラスを交えながら、俺はギターの音を店内いっぱいに響かせる。
 再び最初のテーマを歌い、奏でる。晶子の歌う歌詞は最初と一部違うが、ウィスパリングの効いた切ない響きに変わりはない。俺はそれに負けじと、しかしコーラスを切り刻まないように優しくギターで歌う。
 またギターの単独ステージになる。とはいっても晶子のコーラスが多少混じる。それが優しさと切なさを存分に感じさせる。曲の雰囲気にぴったりの良いコーラスだ。俺はそれで醸し出される雰囲気を壊さないように、あくまで丁寧に、そして優しくギターを奏でる。
 短い間奏に入る。ここは原曲では変拍子が混じるんだが、4/4拍子にアレンジしている。聞き手が困惑しないようにするためだ。アレンジと言っても一泊分伸ばすだけなんだが、するとしないとでは何となく違うように思う。原曲を何度も聞いて音をとったせいもあるんだろう。これが終わるといよいよギターが本格的に忙しくなる。
 間奏が終わるとギターのフレーズが複雑になる。フレット間の移動は激しく、弦を爪弾く力には微妙な加減が要求される。優しい雰囲気は崩さず、メリハリを利かせるという難しいところだ。流石にギタリストが作曲しただけのことはある。その人物が俺と同じ姓っていうのが何だか皮肉なような・・・。原曲を知っている客は、やっぱり比較しているんだろうな・・・。
 再び最初のテーマに入る。晶子のコーラスが優しく神秘的に広がる。俺はコーラスのフレーズにつられないように注意しながら自分のフレーズを奏でる。優しく、丁寧に、でも音のツブははっきりさせて・・・。

雨上がりの午後 第1104回

written by Moonstone

 1拍半のスネアのイントロが狼煙を上げる。俺と晶子はそれぞれのパートを歌い、奏でる。晶子の声はウィスパリングが存分に聞いていて、「TWILIGHT IN UPPER WEST」とはまた違った切なさを感じさせる。俺は歌につられないように、音のツブをはっきりさせると同時に晶子のコーラスをかき消さないように注意しながら、ギターを爪弾く。

2003/3/11

[新しいことを始める時]
 このページに最初からいらしている方はご存知でしょうが、ページ立ち上げ当初、本館・創作棟のコンテンツは6つだったんです。それが年月を重ねるにつれて増えていき、今や倍近い11にまでなりました。更に今、コンテンツを増やそうか、と考えています。
 私の作品はどうも長くなりがちで、気軽にさくっと読める、という観点からするとかなり肩が凝るものだと思います。ささっと書いてアップしているNovels Group 4が意外にご来場者数を増やしているのはそれを表しているのだと思います。そこで、小説という形式は取りながらも、さっと読める程度の長さに抑えた作品を書く練習を兼ねた新グループ設置を検討しています。
 実は巡回コースに入っている某ページで運良くキリ番を踏み、リクエスト出来ることになったんです。そこでその方に「手本」となる作品を書いてもらい、それを起爆剤にして新グループを立ち上げようか、と企んで、もとい、考えています。そのためには幾つかストックしておいた方が良いかな、とも思ったり。まあ、どうなるか見守っていてください。
今度はラストに向けたものでピアノの独壇場だから、潤子さんとしても神経を使うところだろう。ラストを飾らないことにはこの曲の締まりがなくなる。これはどの曲にも言えることだが。
 ピアノがテンポを自然な感じで落とす。次のフレーズが待ち遠しく感じる。そんな中、ピアノが高音部で消え行く黄昏の光をイメージさせるに相応しいフレーズを優しく丁寧に奏でる。高音部の甲高い響きが切なさを演出する。この曲のラストを飾るに相応しいフレーズと聞かせ方だ。
 ピアノの響きが消えると、客席から拍手が徐々に大波となって押し寄せてくる。見事。感想はこの一言で十分だ。見える範囲の客の顔は、どれも感嘆と歓喜に溢れている。目が潤んでいる客さえ居る。そりゃあれだけの演奏を聞けば涙腺が緩んでも仕方ない。歌詞がなくても聞き手の心を震わせることが出来るということの何よりの証明だ。
 マスターがサックスのストラップから身体を引き抜き、潤子さんが椅子から立ち上がってステージ中央に並んで一礼する。更に拍手が大きくなり、歓声も混じる。今までのラインナップの中で一番大きな反響なんじゃないだろうか?この演奏の後に俺と晶子の「Mr.Moon」が控えているんだが、大丈夫だろうか?ちょっと不安を覚えつつ、俺はギターをアコースティックギターに換える。
 マスターと潤子さんが分かれてステージの両脇に降り、代わって晶子がステージに上がり、マイクスタンドの前に立つ。晶子も不安を感じているかもしれないが、ステージに上がった以上泣き言を言っても始まらない。今度は俺と晶子がマスターと潤子さんの演奏と同じ、否、それ以上のものを聞かせるという意気込みでいかないとな。
 俺が前に進み出て晶子の方を見る。晶子は視線を感じたのか、俺の方を見て小さく頷く。客席からは拍手や歓声は消え、俺達の方を中止しているのが分かる。そうだ。今度は俺と晶子の番なんだ。俺は未だ残る不安を強引に吹き飛ばしてシーケンサの演奏開始のフットスイッチを押す。

雨上がりの午後 第1103回

written by Moonstone

 ギターが消え、サックスが雰囲気を保ちつつ、ピアノがシンプルな、しかし印象に残るフレーズを聞かせる。そしてサックスが余韻をたっぷり残して消えると、ピアノが三度イントロ部分を奏でる。

2003/3/10

[出張顛末記(3)]
 (昨日の続きです)滞在先を出た時間が多少遅かったので、私の発表の順番は分科会会場到着後程なくやってきました。でも、今までなら「顔面蒼白、そわそわ落ち着きがなくて、いかにも緊張している様子で、見てて笑える」状態になるところが、今回はなりませんでした。意外に淡々と席を立ち、発表場所へ向かいました。
 そして発表開始。ほぼ何度も練習してきたとおりに発表を進めることが出来、練習で計測した時間(約12、3分)で発表を終えました。その後の質疑応答では、私が想定していた質問とは全く違うものばかりが飛び出してかなり焦りましたが、どうにか乗り切ることが出来ました。
 発表終了後は昼食を挟んでひたすら聴講。適当なところで退出して上司と共に帰路に着きました。最初は私が往路で使った駅に案内すると意気込んでいたんですが、しっかり覚えていなかったせいで見事失敗。結局上司が往路で使った駅へ向かい、それから東京駅で新幹線に搭乗。何事もなく無事帰宅した私は、夕食を食べて「あたしンち」を見てから熟睡しましたとさ(笑)。
 尚、今回の出張顛末記は、近いうちに隠し部屋にアップする予定です。写真も何枚か撮って来ましたので、東大の様子を垣間見ることが出来るかと思います。乞うご期待(^^)。
 やがて・・・来た。サックスの音色がより甘さと切なさを帯びて大きく歌い上げる。聞いているだけで身震いがする。これがかつてジャズバーを席巻したという男の奏でるサックスなのか・・・。黄昏時の鮮やかで、でも儚いその情景が思い浮かぶ。俺は感傷的な気分に浸りながら、タイミングを見計らってギターを入れる。強く、しかし決して乱暴ではない上品な響きのピアノのクイが、俺のギターの上に刻み込まれる。曲はいよいよサビに入る。
 サックスが甘く切なく、朗々と謳い上げる。それに合わせて潤子さんのピアノと俺のギターがバッキングを流す。ギターはあくまで補強用。バッキングの主役であるピアノのクイが埋もれないように注意が必要なところだ。しかし、潤子さんのピアノはピアノの音域を十分に使って優しい音色を響かせる。
 サビが最後に差し掛かり、それまでの盛り上がりが波が引くように引いてサックスが変わらず謳い上げる中、ピアノがシンプルなバッキングを聞かせる。ここでは前半に比べてかなり控えめだ。サックスが自然と前面に出る。こういう聞かせ方は良いと思う。
 サックスの音色が消えると、ピアノが再びイントロを奏でる。今度はピアノソロに繋がる重要な部分だ。原曲ではストリングスが入るんだが、それがなくてもピアノが静かに消え行く黄昏の光のようなフレーズを聞かせる。全く口を挟む余地のない、素晴らしい演奏だ。
 ピアノソロに入る。客席からの視線が一斉に潤子さんに向いたような雰囲気の中、ピアノはあくまで静かに優しい詩を朗読するように音色を響かせる。テンポの割に細かいフレーズが随所に混じるが、低音でも高音でもそれぞれの音域を十分に生かした音がさりげなく流れる。やがて高音部のクイのフレーズになる。マスターがサックスを構える。ピアノソロの終わりと共に、サックスの出番が近いことを告げる。
 サックスが再び甘く切なく、大きく謳い上げる。それを支えるピアノのバッキングも優しいが芯はしっかりしている。俺もその中に加わり、切なさを存分に醸し出したままサビに突入する。
 甘く切ないサックスの音色が、バッキングと歩調を合わせてその魅力を存分に発揮する。俺のギターも加わってはいるが、やはり補強の域を出ない。出てはいけないんだが。あくまでもここはサックスがメロディを、ピアノがバッキングをそれぞれの持ち味を生かして奏でるところだから。

雨上がりの午後 第1102回

written by Moonstone

 最初のテーマが繰り返される。少し複雑になった−良い表現が見当たらない−ピアノを背景に、サックスの奏でる旋律が展開される。サックスはヤマ場へ向けて少しずつではあるが着実に階段を上っている。

2003/3/9

[出張顛末記(2)]
 (昨日の続きです)1日目は聴講のみでしたが、OHPよりPowerPointを使用している割合が多く、次回発表からはPowerPointの使用を検討してみようかと思いました。でも、質問を受ける際にページを切り替えるのにはOHPが圧倒的に有利なんですがねぇ。
 で、懇親会。流石に参加者が多いだけあって会場は大混雑。料理はあっという間になくなりました(^^;)。直ぐに追加料理が来た辺り、会場となった生協の規模の大きさを実感させられました。そんな中、労働組合設立の動きを見せている私に思わぬところから賛同者が現れ、自分のしていることに少し自信が持てました。それが終わって宿泊先へ。此処でようやく一人になった私は、持参したCDプレイヤーとラジオを聞いて、明日へ向けて緊張と不安を誤魔化せない自分を静めようとしましたが、薬を飲んでも寝つきは悪かったです。それにしても、ビジネスホテルとかにあるベッドの布団は、どうしてあんなに足先が詰まっているんでしょうかねぇ。寝辛くて仕方なかったです。
 そしていよいよ当日。目覚ましより30分早く起きた私は、念入りに髭を剃って(20分かかった(汗))朝食を取りにレストランへ。和食を選択してのんびりした食事を済ませ、荷物を纏めていよいよ出発。さてさて、本日2番目に控えている私の発表は上手くいくのか?!不安が次第に大きくなる中、先日の分科会会場へ向かいました(続く)。
 潤子さんの熱を帯びたジャズっぽいピアノにと抑揚激しいストリングスの波の中を、俺は必死でギターの音をサーフィンさせる。果たして客にギターの音は届いているんだろうか?気になるところだが、今は演奏に集中しなきゃ・・・。左手はフレットの上を動き、右手は弦を時に強く、時に優しく爪弾く。・・・良い調子だ。
 いよいよラストだ。これまで熱を帯びる一方だったピアノとストリングスが奥に引っ込み、ギターが前面に出て早弾きのフレーズを奏でる。ここでも音の一つ一つが聞き取れるように、フレットの位置とそこに応じた弦を爪弾く強さに細心の注意を払う。キュキュッとフレットノイズが立ち上る中、俺は最後のフレーズを客席に向けて放つ。
 全ての音の響きが消えた後、客席から大きな拍手と歓声が沸き起こる。それを聞いて、俺は全身が熱く火照っているのを感じる。汗が頬を流れるのが分かる。呼吸が荒くなっているのも分かる。テンポや弾き方に夢中になっているうちに演奏にのめり込んでいたようだ。まあ、それはそれで悪いことじゃないんだが。
 俺の隣に潤子さんが来て、客席に向かって一礼する。俺もそれに倣って一礼する。拍手と歓声が止むことはない。むしろ更に大きさを増したように思える。どうやら演奏は上手くいったらしい。そう思った俺はようやく表情が緩むのを感じる。演奏が終わった後の客席からの拍手や歓声は無形の報酬だ。ありがたく頂戴しておこう。
 さて、俺はこれでステージに引っ込むわけじゃない。再びエレキギターに持ち替えなければならない。何時の間にかステージに上ってサックスの準備をしているマスターを見て、俺は急いでエレキギターの準備をしてエフェクターを選び、奥に引っ込む。今回は完全に脇役、しかもサビの部分だけだから、マスターと潤子さんの演奏を聞く精神的余裕がある。おざなりに出来ないのは言うまでもないが。
 客席の拍手と歓声がようやく収束して静まり返ったのを受けるように、ピアノのイントロが始まる。この程度のフレーズなら潤子さんには楽勝だろう。だが、演奏はいたって丁寧で、潤子さんが真剣にピアノと向き合っているのが感じ取れる。その証拠にテンポの変な揺れが全然ない。サックスにこの曲「TWILIGHT IN UPPER WEST」のテンポを知らせているのかもしれない。
 イントロが終わり、ピアノの白玉のクイが響いて少ししてからサックスの旋律が始まる。甘く切ない音色を聞くと、思わず感傷的な気分になってしまう。曲に応じてそれに最も相応しい音色を聞かせるところは、マスターの腕の高さを否応なしに感じさせる。潤子さんのピアノともぴったり呼吸が合っている。二人の共演に俺のギターは不要だと思う。今回加えられたのはやはり隠し味的な意味合いだろうか?

雨上がりの午後 第1101回

written by Moonstone

 長かったように感じる俺のメロディーラインが終わり、潤子さんのピアノが前面に出る。ダイナミクスを生かして、ジャズの雰囲気を存分に醸し出す。流石に上手い。しかし感心してばかりはいられない。次は俺がギターでその雰囲気を受け継いで曲の抑揚をも表現しなきゃいけないからだ。

2003/3/8

[出張顛末記(1)]
 更新が遅れましたが、無事出張から帰ってまいりました。更新が遅れたのは夕食後「あたしンち」を観てからぐっすり寝ていたせいです(爆)。やっぱり疲れてたのね。4時間も薬なしで寝られたんだから(^^;)。
 何処へ行っていたかと言いますと、ズバリ灯台・・・もとい、東大です(ベタだな)。久しぶりの東京(コミケに3年程前に行った以来)、それに現代日本の最高学府(だろう)での場所での業務発表ということで、果たしてどんなことが待っているやら、肝心な発表は上手くいくのか、と不安続出のまま出発しました。しかし、当日朝ちょっと寝過ごしたせいで慌ててしまい、大切なものを幾つか忘れていってしまいました。遠距離用の眼鏡、黒の革靴(普段の茶色のスニーカーを履いていってしまった)、宿泊先での普段着・・・。まあ、なくても困らないといえばそうなんですが、気付いた時にはちょっと慌てました。特に靴は。
 そして東大に到着。「赤門」に代表される年期の入った建物を写真に収めつつ(デジカメ持っていった)、最初の会場である安田講堂へ。1960年代の学生運動の拠点だったその場所は、今は学生は卒業式にのみ入れるという由緒ある場になっていました。中はさながら国会議事堂。そして業務発表の開会式が始まりました。その後講堂内でのポスターセッション(発表項目を印刷して掲示するタイプの発表)、そして各会場での分科会発表(これが口頭発表)に移りました。中は建物の雰囲気を残したまま綺麗に整備されていて、緊張感を増すには十分でした(続く)。
 客席から拍手が起こる。不思議とそれが温かく感じる。俺は客席に向かって一礼する。この拍手には最高の演奏で応えたい。俺の身体の内に気合がみなぎって来る。良い演奏を聞かせるのがプレイヤーの使命だ。
 やがて拍手が止み、店内が静まり返る。演奏を待っているかのようだ。潤子さんがピアノの前に座り、こっちを向いて小さく頷いたのを見て、俺は右手を小さく振り上げて一呼吸おいてから潤子さんを見ながら手を弦に向かって下ろし、同時にフットスイッチを踏む。
 ・・・バッチリのタイミングでギターとピアノがそれぞれの旋律を奏で始める。今回の「EL TORO」はストリングスやドラムなども入ったフルバージョンだ。よりテンポの計測が重要になる。最初はテンポを刻む楽器音がないから、頭の中でテンポを考えながら演奏しなければならない。これが結構難しくて、音合わせでも念入りに練習したんだが、今のところは順調だ。
 ピアノの胸に響く旋律と共に俺はギターの弦を爪弾く。やがてストリングスが入ってくる。この曲のストリングスはオーケストラのようにダイナミクス(註:音量の上下)が激しいから、その波に飲み込まれないようにしないといけない。音のツブを一音一音しっかり際立たせて、存在感をアピールする。
 かといって、延々と強く爪弾いているだけじゃ機械的になってしまう。ストリングスの波とは違う、ギターの波を作り出さなければいけない。幾重にも楽器が重なった重厚な音色のストリングスにギター一本で対抗するのは、ストリングスのボリュームを控えめにしてあるといってもなかなか厳しいが、こういう時こそギタリスととしての腕の見せ所だろう。
 まず最初のヤマ場に差し掛かる。リズム音がなくなり、ギター、ピアノ、ストリングスが複雑且つ繊細に絡み合う部分だ。ここでもしっかりしたテンポ計測が必要不可欠だ。弦の爪弾きにメリハリを効かせ、押しては返すストリングの波とピアノの波をサーフィンするようにギターの音色を響かせる。波に飲まれないように慎重に、しかし大胆に・・・。
 よし、乗り切った。しかし安心しちゃいられない。明確なリズム音が出てくるまでにはまだ時間がかかる。それまではしっかりテンポをキープして、かつ歌うようにギターを奏でなきゃならない。これがこの曲の難しいところだ。ストリングスとピアノをよく聞きながら、リズムを崩さないように丁寧に、しかし明瞭に・・・。

雨上がりの午後 第1100回

written by Moonstone

「将来を手探りで歩んでいる感のある安藤君ですが、少なくともこのステージではギタリストとしての腕前を存分に披露してください。それでは宜しくお願いします。」
「ありがとうございます。」

2003/3/6

[行ってきまーす♪]
 いよいよ今日が業務発表の最初の日です。私は2日目、つまり3/7なのですが、事実上練習は昨日で終了。本番を待つのみとなりました。出発の時間が何時もより1時間以上早いので、眠れるかどうか不安だったんですが、それより先に居眠りしてたので、まあ、大丈夫でしょう(爆)。
 てなわけで、明日は久しぶりにシャットダウンとなります。メールや掲示板の書き込みをいただいても明日はお返事できませんのでご了承願います。まあ、多分ないと見込んでいるんですけど。
 久しぶりの遠出、しかも宿泊もありですので、ちょっとワクワクしている部分もあったりします(何なんだ、一体(汗))。まあ、今日はおろおろしながら発表用シナリオの最終チェックをしているでしょうけど(^^;)。再開後にはトップページのレイアウトを変更したいとも思っていますので、報告と併せてお待ちください。それじゃ、行ってきます!(^^)/~~~
 俺が半ば反射的に答えると、客席からどよめきが起こる。理工系で音楽っていうのはイメージが合わないんだろうか?それとも電子工学科っていう単語が高尚なイメージを与えるんだろうか?

「将来の展望として、ギターのプロを目指すつもりはあるかな?」

 マスターの質問を受けて客席が静まり返る。俺の答えを待っているということか?インタビューは勿論、こんなこと聞かれるなんて思いもしなかったからな・・・。

「んと・・・。そうですね・・・。」

 俺はその言葉の間に急いで思考を巡らせる。ここで言ったことが俺の将来を決定付けることになるんだろうか?否、まさかそこまではいかないだろう。でも曖昧な答えはしたくない。

「まだ自分の将来について真剣に考えたことはないんですけど・・・、もし自分の技量が通用するものなら・・・プロになりたいっていう気持ちはあることは否定出来ないです。」
「やっぱり、自分の技量が通用するかどうか不安なわけ。」
「はい。趣味を仕事にしたら仕事とプライベートの区別がつかなくなるような気がします。でも、周囲や世間体に流されるままに会社や官庁に就職っていう安直な道を進みたくないとは思います。あと1年もないですが・・・色々模索してみようと思っています。」
「難しい状況下で自分の進路を決めなければいけない難しい時代ですが、大学の学科が全てを決めるとは思わないで下さいね。」
「はい。」

雨上がりの午後 第1099回

written by Moonstone

「安藤君。君は理工系の学生なんだよね?」
「あ、はい。そうです。」
「学科は?」
「電子工学科に在籍してます。」

2003/3/5

[近付いてきました]
 準備を始めてから早一月あまり。業務発表の日がいよいよ明後日に迫ってきました。明日はもう会場へ出発しますから、今日が最後の練習&調整の日です。週明けからどうも落ち着かず、発表用シナリオと睨めっこして、実際の発表を想定した練習を繰り返しています。
 3年ぶりとなる業務発表。それも口頭発表という一大舞台で無難にこなせるのか?質問に答えられるのか?予想される質問の数はどんどん増えて、今になってもシナリオが完成していません。
 終わってしまえば、なあんだ、で済むようなことなんでしょうが、やはり大舞台は緊張を強いられます。明日はきちんと寝られるのか、当日頭の仲が真っ白になりはしないか、気がかりなことが膨らんできています。
 マスターの要請に応えて観客から温かい拍手が送られる。俺はステージ上で一礼する。チラッとステージ脇を見ると、晶子も客に向かって一礼していた。流石にこの辺はしっかりしてるな。

「前半は比較的ノリの良い曲をお届けしましたが、後半はしっとりした曲を中心にお届けしたいと思います。安藤君と潤子による『EL TORO』、私と潤子による今年の新曲『TWILIGHT IN UPPER WEST』、そして安藤君と井上さんによる同じく今年の新曲『Mr.Moon』。この三曲をお届けしましょう。」

 マスターの紹介で、客席から再び拍手が沸き起こる。俺は急いでストラップから身体を引き抜いてエレキギターからアコースティックギターに切り替える。これがワンタッチで出来れば便利なんだが、それは贅沢と言うものか。
 客席からどよめきが起こる。見ると潤子さんがステージに上がってピアノの前に向かっている。ステージに上がるだけでどよめきを起こせるなんて、潤子さんの存在感は相当なものだな、と再認識させられる。

「演奏の準備が整った・・・ようですね。それでは演奏前に、主役に脇役に忙しい安藤君にちょっとインタビューなど。」

 客席から拍手が起こるが、俺は突然のことに戸惑う。こんなこと、昨日のリハーサルにはなかったぞ。何を聞かれるんだ?まさか晶子との関係を聞かれやしないだろうな。もし聞かれたら・・・どうしよう。

雨上がりの午後 第1098回

written by Moonstone

 マスターが観客からの歓声を拾ってからマイクを自分の元に戻す。

「お褒めいただいて光栄です。今年は安藤君と井上さん、特に安藤君が学業多忙でコンサートに間に合うか難しいところだったんですが、よくやってくれていると思います。皆様、どうか安藤君と井上さんに拍手を。」

2003/3/4

[ちょっとバテ気味]
 日曜に動けて喜んでいたら、昨日はどうも身体が動かず、悩まされました。寝るのがちょっと遅れたせいもあるんでしょうが、しっかり疲れを取っておかないと後日に響くようです。こんな調子ではまだ完治には程遠いですね。
 さて。トップページのレイアウトの件ですが、未だに良いアイデアが思い浮かびません。やはり連載の導入部が決定的に邪魔です。これは撤去の方針で進めないと駄目のようです。全部を取るなんて出来ない。どれかを切り捨てなきゃならないなら仕方ないでしょう。
 できるだけ掲示板関係を上に持っていきたいので、連載の導入部を撤去さえすれば、これは何とかなると思います。でも、私としてはページのメインコンテンツである作品グループを上に置いておきたいという気持ちもありますし・・・。やっぱりどれかを切り捨てなきゃ駄目みたいです。忍びない気持ちはあるんですが、先へ進めるには止むを得ないことなんでしょうね。
 いよいよサビだ。まずはマスターのみで4小節。そして音色を切り替えた俺のギターが3度下で加わった4小節、そして俺が更に3度下げた8小節と積み重ねていく。その時は音合わせの時の打ち合わせどおり、俺とマスターがステージの左右で向き合って演奏する。コンサートではこういう「見せる」要素も大切だ。
 そして俺がサビのフレーズを続ける中、マスターのサックスがソロを響かせる。原曲では直ぐにフェードアウトしてしまうが、俺がアレンジして16小節分たっぷり演奏してもらうようになっている。マスターは比較的簡単なフレーズだからといって手を抜かず、艶っぽさとポップさを兼ね備えた音を店内いっぱいに広げる。
 ラストを俺とマスターのシンプルなユニゾンで締めくくる。俺がマスターのフレーズより3度下げているところがミソだ。演奏が終わると、大きな拍手と歓声が沸き起こり、指笛が飛び交う。安心して気が抜けた俺の左腕が掴まれ、高く掲げられる。俺が「Tonight's the night」が終わった時にしたことをマスターがしたんだ。客席からの拍手や歓声がより一層大きくなる。何かしらの反応があると嬉しいもんだ。
 俺の腕を下ろすと、マスターはサックスを手で支えたまま、ステージ中央のマイクスタンドからマイクを抜いて言う。

「まずは三つのペアによる三曲をお聞きいただきましたが、いかがでしたでしょうか?」

 そう言ってマスターはマイクを客席に向ける。それに対して観客が歓喜と興奮入り混じった表情でそれぞれの思いを発する。

「良かったぞー!」
「もう言うことなし!」
「最高ー!」

雨上がりの午後 第1097回

written by Moonstone

 サックスとの掛け合いが終わると、SEだけのサイバーチックなリズムが4小節分入って、俺は基本バッキングに戻り、マスターのサックスが艶っぽくそしてポップな音色で聞かせる。最初より賑やかだが、この曲全体がシンプルな作りだから一つ一つのパートがよく目立つ。

2003/3/3

[そろそろ完全回復か?]
 昨日はいよいよ完全休養ではなく、土曜日同様作品制作に取り掛かりました。いい加減日曜はぐったり、という状況から脱出したいですからね。ベッドから完全に出るのは遅かったですが(昼前(^^;))、朝食と昼食をきちんと済ませて作品制作に取り掛かりました。
 途中疲れを感じたので横になったら、約2時間ぐっすり(汗)。しかし、そんな休憩を挟んで、作品は無事完成しました(歓喜)。時間はかかりましたが作品制作が日曜でも可能だったということは大きな進歩です。
 まだ一日だけですからこれで以って完全回復に大きく前進、とは言えませんが、少なくとも土曜日に何時もと同じくらいの時間にきちんと就寝すれば作品制作が可能な状況になることはほぼ明らかになりました(先週も動ける状態ではあった)。完全回復の日を目指して、出来ることから少しずつ手をつけていこうと思います。
俺はドラムが入ってきたことで、テンポはドラムに任せてバッキングに専念する。少々眺めのイントロがスネアのフィル(註:曲のパートとパートと繋ぐための特別なフレーズ)で締めくくられると、俺は暫し休みになる。こういう時はサックスでも聞きながら楽しんで演奏するに限る。
 マスターのサックスが加わる。「WHEN I THINK OF YOU」の時とは違い、ポップでちょっと艶っぽい感じだ。同じサックスでも音が違って聞こえるのはマスターの腕が成せる技だな。ドラムとベース、そして途中から俺のギターの白玉と最初の基本バッキングが混じる中、マスターはサックスで「歌う」。客席からは客の笑顔と共に手拍子が飛び込んでくる。良い感じだ。
 そしていよいよサビだ。ここもバックは殆どドラムとベースのみで、サックスが艶っぽい音を聞かせる。前半4小節は、俺は白玉をストロークで聞かせるが、後半4小節はエフェクターを切り替えてサックスっぽい音色にしてマスターとユニゾンする。ユニゾンといっても俺のほうが3度音程が低いから音が明確に分かれる。俺はマスターに負けじとギターで「歌う」。
 サビが終わってスネアのロール(註:高速で叩くドラムの基本奏法の一つ)が入ると、俺はリズム音とSE(註:Sound Effectの略で効果音のこと)が入り乱れる中、ひたすら基本バッキングを刻む。そして後半から音色を切り替えて音を震わせながら音量を上げる。本当はこの部分でも基本バッキングが続くんだが、ギターはサックスとの掛け合いをする部分もあるから、俺はあえてバッキングを切り捨てて、サックスとの掛け合いに専念するようにアレンジした。
 まずは俺から。フレーズは簡単だが、音の伸びや震えが重要な要素だ。本当に歌っているような気分になる。そうでないといけないんだが。それが終わると少し休みじゃなく、ギターの音を引き伸ばして音量をフットペダルで規則的に上下させる。原曲ではヘッドフォンで聞くと回転しているように聞こえる部分だから、こういう風にアレンジしてみた。

雨上がりの午後 第1096回

written by Moonstone

 その4小節が終わるとズッシリとしたバスドラムと音程が高めのスネアドラムからなるシンプルなリズムが入ってくる。俺が刻む音とテンポはぴったりだ。

2003/3/2

[うーん・・・(思案中)]
 今、トップページの全面改装を考えているのですが、なかなか上手いアイデアが浮かびません。一つ試してみたんですが、決定的にレイアウトをバランス良くするに至らず、結局今のままです。
 正直言ってしまえば、トップページの「雨上がりの午後」の導入部分が邪魔なんですわ。あれさえなければ左側全体が上に持ち上げられるのでレイアウトがもっと平衡になるんですが、あの導入部を消すわけにはいかないので余計に頭を悩ませています。
 レイアウトをいじったり出来る時間は限られています。作品制作が優先ですからね。掲示板関係を出来るだけ上に持って来れて、尚且つ「雨上がりの午後」の導入部を消さず、更に本館・創作棟を下に追いやらないようなレイアウト・・・。はっきり言って欲張りですが、何とかしたいところです。
 それが終わると、最初の部分を演奏してフィニッシュだ。ブラスセクションと共に音の階段を一段ずつ下りて、ラストはブラスセクションの音の中で俺がシンプルなフレーズを演奏して、最後の音をブラスセクションの音の伸びに合わせて締める。
 決まった。そう思った瞬間、客席から大きな拍手と歓声と指笛が飛んで来る。それを受けて俺は自然と表情が緩むのを感じる。俺は満足げな横顔を見せる晶子の腕を取って高く掲げる。晶子は一瞬驚いたような表情を見せるが、直ぐに嬉しそうな笑みを浮かべて客席に向き直る。指笛が数を増したように思えるのは気のせいじゃないだろう。
 俺は晶子の腕から手を離して、晶子と共に客席に向かって一礼する。晶子はいそいそとステージ脇に下がる。その代わりに拍手と歓声に迎えられてマスターがステージに駆け上がってくる。マスターはさっさとサックスの準備を整える。休ませてはくれないようだな・・・。「前半」最後の曲は、俺とマスターでのペア曲「HIP POCKET」だ。
 この曲は以前からレパートリーにあることはあったが、あまり演奏したことがない。恐らく今日の客でも聞いたことのある人間は少ないだろう。アレンジは俺がしたんだが、本来二つ必要なギターのパートを一つにしたし、サックスのパートも一部演奏するようにしている。自分でアレンジしておきながら、自分が一番梃子摺った覚えがある。
 マスターが俺の方を向いて頷いたのを見て、気を改めてフットスイッチを押すと同時にギターのバッキングを始める。最初の4小節はギターのバッキングだけで聞かせる。ここでリズムを崩したら滅茶苦茶になる。俺は音を刻みながらテンポを計る。・・・これで大丈夫だろう。

雨上がりの午後 第1095回

written by Moonstone

 サビの繰り返しだが、俺のギター音が前面に出て晶子のコーラスともユニゾンする部分に入る。ここがこの曲一番の決め所だろう。俺はノリを大切に、歌うように演奏する。ギターの音と晶子の声が良い感じで重なり合って店内に広がる。

2003/3/1

[さあ、ドンと来い!(笑)]
 今日の更新内容をご覧いただければお分かりのとおり、感想用掲示板の運用を開始しました。名前は「STARDANCE」です。これは「雨上がりの午後」で演奏される曲の何曲かを作曲している神保 彰さんのアルバム「PENGUIN PARASOL」の中で私のお気に入りの曲のタイトルから取ったものです。「STAR」を含めることは決まっていたんですが、良い名称が思いつかなくて、近くに詰まれているCDを探っていたらちょうど目に入ったので命名しました。
 書き込みの内容は昨日もお話したとおり、掲載作品に関することならネタバレ、展開予測、果てはキャラに対するエールでも何でもありということにします(「留意事項」と書き込み「最初にご覧下さい」を読んでね♪)。これまでメールじゃ言えなかったけど言いたかったことをぶつけてみてください。
 勿論私もお返事しますが(キャラに対するエールはそのキャラがお応えします)、全てにお返事するとは限りません。ご質問もはぐらかす可能性があります。注意事項をご一読の上、楽しく熱く(笑)語ってください。他の人の書き込みへのお返事も勿論大歓迎です。存分に使ってやってください。
 俺は晶子の準備が完了したことを確認してフットスイッチを押す。シンプルなスネアドラムの1拍分のイントロを合図にして、本格的な−変な表現だが−イントロに入る。俺の奏でる基本フレーズにシーケンサが奏でるブラスセクションが加わる。さっきとは全く違う、ハネたリズムの軽快な雰囲気に、客席から自然に手拍子が起こる。晶子はリズムに合わせて身体を揺らしている。ぎこちなさが全くなく、リズムに乗っているのが良く分かる。
 俺はメロディを奏でていく。8小節プラス4小節のフレーズを弾き終えたところでチラッと晶子を見る。サビの部分でブラスセクションに混じって晶子がコーラスを入れる手筈になっている。頼んだぞ・・・!
 何のことはない。晶子は透明感のある明瞭な声でコーラスを入れる。俺は安心して自分のパートに専念する。うっかりしているとコーラスとブラスセクションで自分のパートを見失ってしまう。だから練習の時に最も力を入れた部分だ。
 無事にサビを乗り切った俺は、4小節フレーズを演奏して、続いてブラスセクションなどと合わせて音程の階段を一段ずつ下り、ソロに入る。この曲のソロは2種類あって、原曲では前半はエレピ、後半がギターなんだが、このアレンジでは全てギターで演奏する。音色はエフェクターをフットスイッチで切り換えて、原曲に近いものにしている。
 まずはエレピの部分。強弱や休符、クイを交えた表情豊かなソロを奏でる。決して難しくはないが表情の豊かさが問われる部分だ。俺は弦を弾く強さを意識しながら演奏を進めていく。
 エレピの部分が終わると直ぐにエフェクタを切り替えて、歪みが良い感じで効いた、いかにもエレキギターという音色でのソロに移る。ここはノリの良さが特に重要な部分だ。リズム自体がハネているから意外に難しい。日本人はこういうリズムは不得手だという。だからと言って平坦にしてしまったら話にならない。音のツブを際立たせ、音の伸びを聞かせる。
 長いソロが終わると、再びサビに入る。晶子も軽快に身体を揺らしながらコーラスを入れる。ここでのコーラスは基本部分と幾分違うが、晶子は流石に英語が得意というだけあって、誤魔化さずにきちんと歌っている。さて、ここが終わるといよいよ・・・。

雨上がりの午後 第1094回

written by Moonstone

 そうだ。次は俺と晶子の番だ。俺は晶子と共にステージに上がる。客席の拍手と歓声がざわめきへと変わる中、俺は急いでギターのストラップに身体を通し、念のためパソコンの画面が演奏曲のデータを表示して待機中になっていることを確認して、フットスイッチの場所に着く。晶子はステージ中央に立った、マイクが挿入されたマイクスタンドの前に立っている。

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