芸術創造センター こぼれ話
Dropped talk of Performing Arts Center

2003年7月31日更新 Updated on July 31th,2003

2003/7/31

[浅き眠りにて]
 昨日は体調が優れず、帰宅して夕食を食べて片付けた後横になってうとうとしていたのですが(本格的に寝るわけにはいかない)、その時、自分が主人公のキャラになった明快な形で物語の最初から終わりまでを体験しました。その物語はずっと昔に夢で見たもので、ここでこういう会話があってボスキャラと戦闘するんだよな、とか思いながら夢を追いました。
 夢は脳の情報を整理する、と言いますが、約3時間の転寝で思い出した物語は二つ。どれも過去に夢で見ながら忘れていたもので、懐かしい気分で物語を楽しんでいました。やられなければ先に進めない場面もあったりしてなかなか楽しめました。
 どれも活字にしたら結構な量の作品になる話なので、何れオンライン、オフライン何れかの形で発表したいと思います。目覚めてからも夢を覚えているということはなかなかないことなので、見た夢は大切な記憶として保存しておこうと思います。

「普段の生活は何時もこんな風に夜主体なんですか?」

 今はバイトが夜とは言え、主体は昼間の大学だ。それが生活がかかった日常が夜主体となると、これまた失礼な言い方だが家族との時間−特に晶子との時間−がかなり限定されてくる。それが毎日となれば尚更だ。

「そうだね。この店は深夜3時までだし、他の店も夜主体だから、必然的に生活は夜行性になるね。だから昼間は殆ど寝てるよ。」

 やっぱりそうか・・・。晶子が仮に普通の仕事に−普通の基準なんて人それぞれだが、ごく一般的な基準を適用するとして−就いたとして、俺が昼間寝ていて、晶子が帰ってきたら俺が出掛ける、というすれ違いが起こることになる。出来るだけそういうことは避けたいんだが・・・この道を選んだとしたら避けられないと考えた方が良いだろう。晶子と十分話し合った方が良いな。

「あと・・・失礼を承知で言いますけど、生活は楽ですか?」

 これはかなり核心に迫る質問だと思う。自分一人での生活が成り立たないなら、必然的に晶子に頼るしかなくなる。そんな甲斐性のないことで晶子が納得してくれるだろうか?

「楽しいよ。」

 桜井さんの答えは俺の質問からずれていると思う。生活は楽かどうか聞いたのに「楽しい」なんて答えられても困る。そう思っている俺の心を見透かしたかのように、桜井さんは笑みを浮かべて言う。

雨上がりの午後 第1245回

written by Moonstone

 ありがたい言葉だ。まだ躊躇感は消えないが、ここは思い切って桜井さんの好意に甘えることにしよう。まずは・・・やっぱりこれだろう。

2003/7/30

[コミケまであと半月]
 出展される方は、今が正念場なんでしょうね。私はお目当てのサークルの場所に出かけて買うだけですから(行っても気に入らなかったら買わないし)、その点気楽なもんですが。
 私も何れはコミケに出展したいと思っています。でも小説、特にオリジナルは需要が低そうで、作るだけ赤字になるだけのような気が・・・。それなら例えば「魂の降る里」を何巻かに分けて収録して(勿論、書き直しや追加、それにゲストでイラストを加えたりして)売り出した方がまだましかな?
 今抱えている主な連載4つ、即ち「Saint Guardians」「雨上がりの午後」「魂の降る里」「譬え背丈は違えども」のうち、一番終わりが早そうなのが「魂の降る里」と予想しているんですが、どれも終わりまであと2、3年かかりそうな予感プンプン(笑)。それにネットで読めるものを、幾ら書き直しや修正やイラストの追加をしたところで、本になったものを買うか?という根本的な疑問が・・・。やっぱりコミケは買う側に徹するだけなんでしょうかね。

「さあて、どんどんいきますか。」

 桜井さんが軽快な声で言う。そうだ、まだセッションは終わったわけじゃない。恐らく全曲演奏するつもりなんだろう。こんな深夜でー時計を見ると午前0時を過ぎている−、しかもバイトが終わった後という疲れが蓄積している状況だが、泣き言は言ってられない。俺にとっては就職活動の一環でもあるんだからな。

「そうだな。次は何にする?」
「歌ものが珍しいから、『PACIFIC OCEAN PADRADISE』が良いかな。」
「そうだな。そう言えばその曲、ハーモニカはギターでやるんだろ?MD聞いたけど、なかなか興味深かったよ。あれも安藤君だろ?」
「はい。」
「君、なかなか器用だねぇ。このまま普通に就職させるのは惜しいな。」

 桜井さんの賛辞に俺は戸惑ってしまう。はあ、なんて曖昧な返事をして頭を掻く。だが、プロの人から誉められて嬉しくない筈はない。

「明。祐司君はまだ将来を模索中なんだ。今回のセッションはプロのミュージシャンってものを経験する就職活動の一環でもあるんだよ。」
「そうか・・・。このままだと普通の道を進んじまうよな。それを聞いて尚更、普通の道を進んでもらうのは惜しいと思う。」
「そういうわけだから、プロのミュージシャンの生活実態なんてのも教えてやってくれ。祐司君の参考になる筈だから。」
「分かった。安藤君、何か聞きたいことはあるかい?」

 聞きたいことは勿論ある。だが、果たしてそれをこの場で口にして良いものか・・・。躊躇している俺に桜井さんが言葉をかける。

「率直な質問は歓迎するよ。少しでも君の参考になれば、こっちも嬉しいからね。」

雨上がりの午後 第1244回

written by Moonstone

 晶子も住んでいる所や立ち居振舞いがお嬢様っぽいが、果たして順子さんから見たマスターと同じような「何か」を持ち合わせているんだろうか?ただ「俺について来い」と言うだけじゃ、晶子の両親の束縛−これも失礼な言い方だが−を晶子が突破出来ないかもしれない。この道を選ぶにしても何にしても、晶子を離さないだけの、晶子が離れなくないと思うだけのものを持たなければいけない。

2003/7/29

[合併では何も変えられない]
 民主党と自由党が合併することで合意したそうです。合併と言っても名称変更するわけではなく、自由党の吸収合併という感じなんですが、何にせよ、これで民主党が議席を増やすことには変わりありません。
 しかし、同時に何も変わらないことも同じです。以前にもお話しましたが、民主党はこのままでは選挙で勝てないという危機感に押された自民党と旧社会党の一部、旧民社党がくっ付いて出来た寄り合い所帯、自由党は自民党の中のタカ派が飛び出した分派の一団。それらがくっ付いたところで、出来上がるのは自民党政治の路線を基本的に受け継ぐブルジョア、タカ派政党であることには変わりありません。現にアメリカの介入、侵略戦争に日本国民を強制動員する有事法制に民主党も自由党も賛成したのですから。
 やはり今の国民圧迫の政治を大元から変えるには、今の政治の基本路線を変えず、単に首だけ挿げ替えるような政党では駄目で、明確な対立点を持つ政党の伸長が必要です。それには国民の側が「アカ」意識なる旧態依然の意識を捨て、思い切ってアンテナを伸ばすことが必要です。
 引き続き高音部での演奏が続く。こうして目を閉じていると、波一つない水面に雫が次々と落ち、真円の波紋を広げるようなイメージが湧いてくる。潤子さんの腕は一段と冴え渡っているような気がする。凄い。本当に凄い。
 そしてクライマックスに近い朗々とした華やかな印象のフレーズが展開される。今まで閉じていた蕾が一気に花開くようなイメージだ。音の花が浮かんでは残響を残して消えていく。音の花火とはまさにこのことか。
 ついにエンディングだ。先程とは一転して静かに、優しくフレーズが奏でられる。華麗な花火の後の静けさと言えば良いだろうか。最後のゆっくり階段を上っていくようなフレーズの後、高音部と低音部を使った白玉が優しい響きを残して消えていく。
 音が完全に消えた次の瞬間、大きな拍手と歓声と指笛の花束が潤子さんに手向けられる。俺も目を開けて限界いっぱいまで手を叩く。潤子さんは席を立ち、深々と一礼してステージを下りる。額にじんわり汗が滲んでいるものの、表情は普段のおっとりとしたものと何ら変わらない。たった一人での演奏なのに、緊張感に束縛されなかったんだろうか。

「やるわねぇ、潤子ちゃん。」
「ママさん、ありがとう。」
「文ちゃんも、良い奥さん捕まえたものねぇ。ピアノも出来て料理も出来るなんて、流石は元お嬢様よ。ホント、大したもんだわ。」
「『文ちゃん』は止めてくれ。でも、祐司君と井上さんがうちに来るまでは、潤子の料理とピアノで店がもっていたようなもんだからな。」
「あなたのコーヒーも、でしょ?」
「おやおや、相変わらずアツアツだねぇ。火傷しちゃいそうよ。」

 ママさんの言葉で笑いが起こる。元お嬢様、か・・・。なるほど、だとすれば、こう言っちゃ失礼だし、自分もそうなるかもしれないから大きな声じゃ言えないんだが、その日暮らしの流れ男と結婚させるわけにはいかない、という親の心理が働いた可能性が考えられる。潤子さんはそれでも勘当という選択肢を取ってマスターと結婚する道を選んだんだな・・・。

雨上がりの午後 第1243回

written by Moonstone

 高音部で繰り返されるリフとアルペジオが耳に心地良い。高音部で甲高く聞こえても不思議じゃないのに、朝露が新緑から零れ落ちるような、新鮮で清涼な雰囲気が醸し出される。マスターと結婚する前、単なる−と言っちゃ失礼だが−OLをやってたなんて信じられない。

2003/7/28

[久しぶりの作曲]
 シンセが直ってきて以来、作品執筆と睡魔に追われて触る機会に恵まれなかったシンセ。昨日は作品制作のスケジュールに余裕が出来たこともあって、久しぶりに作曲に挑むことにしました。
 しかし、その前に失われたデータの復元作業に忙殺。思いの他失われていて、これだけで3時間はかかりましたね。その後ようやく作曲に。とは言え、久しぶりのことだけに、何度も出来上がっている部分を聞いてからようやく未着手のフレーズの作曲へ。ギターソロのフレーズなんですが、思うように進まず焦るばかり。
 ようやくギターソロ16小節のフレーズが出来た時には、6時間が過ぎていました。やっぱり小説執筆より圧倒的に効率が悪い・・・。これじゃ、更新が滞るのも無理ないよなぁ。でも約束もあるし、早く片付けていかないと・・・。
「「「「「異議なし。」」」」」
「じゃあ、国府さん、ピアノお借りしますね。」
「あ、はい。どうぞ。」

 国府さんが席を立ってステージから降りると、代わってシンセサイザーの前からピアノの前に潤子さんが移動する。俺も含めて全員ステージから降りた。ステージでは潤子さんがピアノの鍵盤の上に手を翳すように構える。さっきまでざわついていた客席が急速に静かになっていく。店に居る客の視線と意識が全て潤子さんに集中していくのが分かる。
 ステージに一人取り残されて、俺達や桜井さん達、更に客の視線と意識を全て受けても、潤子さんの顔には緊張感に伴う強張りはまったく見られない。いつもキッチンで見せるおっとりとした、それでいて真剣な眼差しで鍵盤を見詰めている。弾き始める機会を計っているんだろうか?俺は次第に何だかじらされているような気分になってくる。
 と思ったら、ピアノの音が響き始めた。高音部のメロディと低音部のアルペジオが絶妙に絡み合い、静かに、そして柔らかに歌う。国府さんとはやっぱりタッチが違う。どっちが良いとかいう問題じゃない。潤子さんは潤子さんの持ち味をくっきり出しているということだ。
 フレーズは柔らかい雰囲気の部分に入る。ここは潤子さんの持ち味が存分に発揮されているように聞こえる。柔らかく、優しく、包み込むようなピアノの響きが店内にこだまする。赤ん坊に戻って子守唄を耳元で囁かれて眠りの世界に入るような感じだ。思わず目を閉じてしまう。耳に全神経を集中させようとする無意識の反応だろうか。

雨上がりの午後 第1242回

written by Moonstone

「やっぱり『energy flow』だな。知名度の面から言っても。」
「それじゃ『energy flow』で良い?」

2003/7/27

[茶羽野郎との格闘]
 今年は例年以上に茶羽野郎(ゴキブリ)が大量出没しています。奴らは不法侵入した上、汚らしく茶色に輝く身体で平然と彼方此方を歩き回り、時に洗い桶(洗い終わった食器を水切りする桶)にまで侵入します。
 勿論当方としては見過ごすわけにはいかず、強力なことが昨年の夏に実証済みの殺虫剤を用意し、ゴキブリを目視、或いは物音(紙などの上を通るとガサガサと音がする)を立てた場合、奴ら目掛けて殺虫剤を噴射します。
 迎撃確率は9割以上。譬え逃げたとしても、あの殺虫剤を食らったら生きてはいられないことは昨年証明されています。恐らく物陰で悶え死んでいるでしょう。しかし、茶羽野郎が我が家から根絶やしにされるまで、或いは茶羽野郎が姿を見せなくなる秋以降になるまで、戦いは続きます。私は殺虫剤を片手に茶羽野郎と格闘を続けます。
こんな戦い、好き好んでやってるわけじゃないですけどね(爆)。

「それじゃ、次は何にする?」
「今まで脇役だった潤子さんのピアノが聞きたいですね。」
「賢一、それ名案。では潤子さんにお願いしましょうか。」

 桜井さんと国府さんが潤子さんを指名する。潤子さんはきょとんとしている。潤子さーん。貴方が指名されたんですよ。分かってますかー?

「大助はどうだ?」
「異議なし。」
「光は?」
「是非聞きたいです。」
「というわけでこっちは全員賛成。そっちは?」

 桜井さんがこっちには話を振ってくる。答えは・・・決まってるよな。

「俺は異議なし。」
「俺も異議はありません。」
「私も同じです。」
「というわけで本人を除いて全員賛成だ。潤子、出来るか?」
「あ、私?良いわよ。曲は何が良いかしら?」

 潤子さんはマスターに言われて、ようやく話が自分中心になっていることに気付いたようだ。潤子さん、結構のんびりしたところがあるからな。しかし、自分の出番と気付くやリクエストに応えようとするなんて、余程自信があるんだろうな。まあ、普段弾かないシンセサイザーを弾きこなしたくらいだから、俺が心配する必要なんてないか。

雨上がりの午後 第1241回

written by Moonstone

 流れる汗を拭わず、青山さんがあくまでクールに感想を言う。素っ気無く聞こえるが、どうやら俺と晶子の技量は、青山さんのような自分にも他人にも厳しい評価に耐えうるものだったようだ。

2003/7/26

[今度は自分が]
 昨日、電源トランスの使用を業者が間違えた、という話をしましたが、私も間違ってました(爆)。コネクタには挿す方(プラグ)と挿される側(ソケット)があるんですが、オンラインで(Webから)カタログを見て注文する時にプラグとソケットを間違えて注文してしまい、本来必要のないプラグの方が着てしまいました(爆)。
 個数が少ないからまだ良いようなものの(いや、あまり良くないんだが)、数百単位で購入する部品だったら、と思うとぞっとします。まあ、数百単位で購入する部品は1個数十円とか数円というものなんですけどね(それでも間違えるべきじゃないのは言うまでもない)。
 お陰で昨日は殆どすることがなく(部品がないからしようがない)、祖ほのかの部品の発注をやったりして普段より早く帰宅しました。来週から忙しくなりそうなので、昨日はちょっと骨休め、と言ったところですね(でも、間違えたことの正当化にはならない)。
 マスターの艶っぽいサックスに控えめにギターを乗せる。本当に都会の夜景を見ているような気分にさせてくれる。これだけのフレーズを生み出せる作曲能力もさることながら、それを現実のものにする奏者の能力も凄い。普段コーヒーを沸かしたり洗物をしている様子からは想像もつかない迫力だ。
 再びAメロに戻ってマスターとユニゾンした後、ベースソロに入る前のフレーズに突入する。いよいよ最後だ。十分にタメて・・・フィニッシュだ!・・・決まった。最高の形で決まった。会心の出来栄えだと自分でも思う。
 それを証明するかのように、大きな拍手と歓声が津波になって押し寄せてくる。マスターは汗を拭うことなく客席に向かって一礼する。俺もそれに倣って一礼する。脇役だったがこういうのは欠かさないに越したことはない。

「うん、良い感じだった。流石は文彦。サックスの腕はまだまだ衰えてないな。」
「一線を退いても、自分の店で毎日吹いてるんだ。そう簡単にご隠居出来るか。しかし、明と賢一の腕はさすが現役って感じだったな。」
「文彦に負けちゃ居られないさ。一応この腕で飯食ってるんだから。」
「明に同じく。プロとしての意地と誇りってもんがありますよ。」
「ははは。確かにそうだ。」

 マスターが笑顔を見せる。髭面の笑顔が今は輝いて見える。

「しかし、初のセッションとは思えないほど上出来だな。そっちも相当練習してきたのか。勿論、個人の技量もあるんだろうけど。」
「大助。ギターとヴォーカルも合格点だろ?こっちもそっちに負けない面子が揃ってるんだ。セッションを崩すようなことはしないさ。」
「なるほどね。」

雨上がりの午後 第1240回

written by Moonstone

 ソロが終わりに近付くに連れて、マスターのサックスがより艶っぽさを増す。リフを繰り返すような一見単純なフレーズだが、マスターは一音一音にまさに心を込めて、次に控えているサビに向かって着実に進んでいく。雰囲気はどんどん盛り上がってくる。さあ、マスターとの変則ユニゾンだ。

2003/7/25

[トランス届く]
 此処で言う「トランス」とは「電源トランス」、即ち1次側に電圧を入力して2次側から新たな電圧や電流を得ようというものです。今回の仕事の中には、これの2次側耐圧が最低2kV必要という(市販品は1,4kV程度)特殊なものがひつようということで発注したんですが、何処をどう間違えたらそうなるのか、てんで違う仕様のものが届いたため突き返し、再製作させていたものです。
 何とか届いたは良いものの、今度は製作の指示ミス(勿論、代理店側の問題)で分納という形になり、正直呆れています。まあ、1つ入手出来たら製作可能なので、ちょっと仕事が忙しくなりそうです。
 なのに私はといえば、相変わらず少々のことでへとへとになって、今日もこのお話をする直前まで寝入っていました。まあ、明日の更新はそこそこ期待できるものになると思いますので、お楽しみに。
 サビに突入する。ここでは俺がマスターの奏でるメロディより3度下げて演奏する。サックスに気を取られて演奏を間違えないようにしないと・・・。しかし、何度聞いても良い響きだ。この曲はサビの部分がその名のとおり都会的でロマンチックだ。ジャズバーという場所もあって、雰囲気が余計に盛り上がって聞こえる。
 再びAメロに戻ってマスターとユニゾンし、前半のキメの部分を演奏する。ここでは全員の息が揃うことが絶対条件だ。俺は全てのパートの音を聞いて、テンポを崩さないように演奏を続ける。
 クラッシュシンバルを合図にしてベースソロが始まる。この曲のベースソロは全部で32小節と長い。低音を響かせ、同時に細かいフレーズを弾きこなさなければならないという、ベーシストにとっては歯応えのある場面だ。しかし、桜井さんのベース音はハイハットのワークに乗って軽快に音を刻んでいく。
 ベースソロにシンセ音が加わる。だが、ベースはシンセ音に飲み込まれることなく、逆にその存在感を際立たせて細かいフレーズを連ねる。圧巻だ。これが終わると、いよいよピアノソロだ。俺はバッキングに専念する。
 全員によるユニゾンが決まった後、直ちにピアノソロが始まる。・・・違う。潤子さんの演奏とは明らかに演奏のタッチが異なる。潤子さんがさらさらと流れる清流とするなら、国府さんは複雑な流れを見せる渓流といったところか。アタックの強弱をより強調した感がある。しかし、それが耳障りに感じないところはやはり凄い。
 都会の夜景を思わせる煌くようなフレーズが、すらすらと宙に書き連ねられる。見事だ。高音部を中心にしたフレーズが耳に心地良い。俺の背後で演奏されているからその様子は分からないが、ソロに隠れるように白玉のコード音が聞こえるところからして、片手で演奏しているんだろう。これだけのフレーズを片手で演奏できるんだから、余程指が柔軟なのか練習を積んだのか・・・。何れにしても凄い。さあ、この次はマスターだ。
 また全員で決めると、マスターが一段とブロウの効いたフレーズを奏でる。音が伸びるところでは十分伸ばして、細かく切るところは切る。そんなメリハリの効いた演奏と音域をフルに使ったフレーズが重なり合い、絶妙なハーモニーを聞かせる。これがかつてジャズバーを席巻した男の腕前か・・・。

雨上がりの午後 第1239回

written by Moonstone

 それにしても、マスターのサックスは何時も以上にブロウが効いて艶っぽく聞こえる。同じ楽器の筈なんだが・・・。奏法を微妙に変えているのか、それとも演奏している場所の雰囲気がそう聞こえさせるのかのどちらかだろう。マスターのサックスの邪魔にならないように、音量を少し控えめにしてマスターとユニゾンする。

2003/7/24

[うっかりすると直ぐ眠る]
 睡眠リズムが狂いっ放しです。疲れやすさも加わって、ちょっと作業をすると倦怠感と睡魔に襲われ、横になろうものなら簡単に小1時間は寝てしまいます。連載、予め書いておいて良かった〜。
 このお話をする前にも寝てました(爆)。どうもPCに向かっての作業は意外に疲れるらしく、30分程連載のストックを増やしたところで横になったら、一旦目を覚ましたのを含めて2時間半、すやすやと(笑)寝てました。勿論、今でも眠いです。
 夜寝たい時は直ぐに目覚めてしまうほど浅い眠り(夢を見てるってことは浅い証拠)でろくに疲れが取れない一方で、眠らなくて良いところで簡単に深く眠ってしまう。休日の超早朝起床も含めて、自律神経のバランスの崩壊ぶりは凄まじいものがあります。皆さんはこうならないように、仕事は程々に。

「それじゃ、流れは原曲と同じということで。」
「了解。」
「分かったわ。」
「分かった。」
「よし。」
「はい。」

 桜井さんの提案を全員が承諾する。いよいよ「BIG CITY」の始まりだ。目立たなくてもきっちり聞かせるところは聞かせる。それがプロだということを、2曲の演奏を通じて教わった気がする。
 この曲のスタートは決まっている。タムとスネアによるドラムの1拍分のフィルからだ。俺はエフェクターがナチュラルトーンになっているのを足で−フットスイッチだから−確認して、演奏開始を待つ。最初の8小節はナチュラルトーンによる単音バッキングだ。
 ドラムが鳴る。いよいよ演奏開始だ。潤子さんのフルートに似たシンセ音がイントロのリフを奏で、チョッパーベース(註:親指で弦を弾くベースの奏法)の低音が効いたベースの中、俺は単音のバッキングを奏でる。ぱっと効いただけでは目立たないが間違えると目立つという、なかなか厄介な個所だ。それほど難易度が高くないのが救いだ。
 イントロが終わりに近付くとマスターがサックスを構える。メロディの開始が近い。メロディは軽くエフェクトを効かせてサックスとユニゾンする。俺はフットスイッチに足を伸ばし、切り替えのタイミングを計る。
 シンセのベル音が最後の音を奏でたのを合図に、マスターと俺がメロディを奏で始める。テンポはミディアムだが音が割と詰まっていて結構神経を使う。マスターとのユニゾンはこれまでの冬のコンサートやリクエストタイムで経験してるから、余計な緊張感は感じない。

雨上がりの午後 第1238回

written by Moonstone

 特にピアノとサックスにとっては非常に難度の高い曲だ。俺は店で聞いたが、マスターのサックスは実に見事なものだった。ピアノは潤子さんが担当したが、これまた見事だった。本当に何時練習してるんだろう?それは兎も角、さっきジャズの香りたっぷりなソロを聞かせてくれた国府さんがどんな演奏を聞かせてくれるか、注目したい。

2003/7/23

[業務連絡みたいになりますが・・・]
 8月16、17両日に(確かこの二日間だけだったよね?)行われるコミケに、私も行きます。もう宿泊先を予約したので身体を壊したり不慮の出来事がない限り必ず行きます。何年ぶりですかね・・・。あ、勿論出展はしません(そんなものは持ち合わせてない)。お目当てのサークルさんを回って買うだけです。
 で、16、17両日に東京へ向かうので16日は東京で宿泊ですが(日帰りで2往復するほど馬鹿じゃない)、その際もシャットダウンはしない予定です。宿泊先にモジュラージャックがあるので、そこから更新可能なんです。もっとも接続先が何時もと異なるので、必要な情報はメモして持っていかなければなりませんが。
 更新するといっても此処くらいだと思いますが、毎日の更新を楽しみにされている方(居るのか?)のために、コミケ当日の様子をリポートしようと思います。諸般の事情で来れない方の分も楽しんでくるつもりです。
「なるほど・・・。声も透明感がある割に張りがあったし、通りも良かった。ヴォーカルとのセッションは初めてだけど、思わぬ収穫だ。」
「私も気持ち良く演奏出来ましたよ。彼女、ポップスだけじゃなくてジャズにも合う声を持ってますね。」

 潤子さんと桜井さんの評価に、見事なピアノソロを聞かせた国府さんが評価を加える。国府さんも自分の演奏をしながらしっかり晶子の「品定め」をしていたようだ。こういう余裕があるあたり、流石はプロだと思わせられる。

「それじゃ、そろそろ俺も混ぜてもらおうかな。」

 それまで壁に凭れて演奏を聞いていたマスターが、アルトサックスを下げてステージに上がってくる。それだけで客席からどよめきが起こる。かつてジャズバーを席巻したということは、言わば伝説となって店に残っているんだろうか?マスターのサックスを聞く機会が多い俺は、本当に幸運なのかもしれない。

「文彦が上がってきたってことは何だ?『BIG CITY』か?」
「ご名答。そろそろ俺も演奏したくなってきたもんでね。」
「それじゃ井上さんは勝田君と一緒に一旦休憩ということで。」
「はい。」

 歌うスタンバイに入っていた晶子は、別段不満そうな顔を見せることなく、さっさとステージを下りて行く。俺は曲名を聞いて、急いでギターをアコギからエレキに切り替える。この曲ではサックスとのユニゾンもあるし、長いバッキングもある。あまり目立たないけど油断ならない曲だ。

雨上がりの午後 第1237回

written by Moonstone

「潤子さん。彼女、なかなか良いね。」
「そりゃそうよ。うちの看板娘だもの。お陰でお店は連日大繁盛よ。」

2003/7/22

[ツケは回ってくるもの]
 今日はかなり焦りました。連載のストックが底をついたので、全面書き下ろしを余儀なくされたからです。こんなの2年ぶりくらいか?あの時は本業が激務続きで書いている暇がなかったから止むを得なかった面があるけど、今回は怠慢と言われればそれまでですからね。
 で、何時もより早くベッドから出て(寝てるなよ)執筆開始。どうにか今日の分+αを書けたと思ったら、エディタが妙な動きを見せ初めました。入力した筈の文字が消えたんです。嫌な予感を感じつつアンドゥボタンを連打していくと、益々動作がおかしくなって、とうとう悪夢の強制終了。
 そして起動しなおした私は、嫌な汗が流れるのを止められませんでした。セーブをした覚えがなかったからです、起動しなおしてファイルをロードしてみると・・・やっぱりない!(泣)というわけで同じ場面を二度も書く羽目になりましたとさ。
 流れるような、歌うようなピアノソロが終わると、再び晶子の歌が入る。当面感の中に張りのある、よく通る声は聞いていて気持ちが良い。普段以上に熱が篭っているのが分かる。晶子もウィスパリングだけでなく、こういう見た目からはちょっと想像がつかないような張りのある声で歌うことも身につけたようだ。
 晶子の歌が終わると、ストリングとピアノが複雑に絡み合うフレーズが始まる。寄せては返す波のようにダイナミクスを生かしたストリングスと、ジャズの香りたっぷりのピアノの細かいフィルが見事な調和を聞かせる。国府さんは兎も角、潤子さんは凄いな・・・。本当に何時練習してるんだろう?
 聞き入ってる場合じゃない。フィニッシュに向かって俺はカウントダウンを始める。そして高音の響きを生かしたストリングスの白玉でフィニッシュする。ドラムはクラッシュシンバルを軽く叩いただけ、俺もストロークを1回入れただけ。ピアノもジャズみたいに細かいフィルを入れるかと思いきや、複雑なコードの白玉で静かに締めくくる。
 音が消えると、割れんばかりの拍手と歓声が送られる。俺は右腕で額の汗を拭う。晶子はマイクの電源を切って小さく溜息を吐く。もっと大きな溜息を吐くかと思ったんだが、それほど緊張していなかったってことか?晶子もなかなかどうして、ステージ度胸が身についているじゃないか。

「良いね。理想の形だった。」
「そうだな。特に歌が綺麗だった。」

 桜井さんと青山さんが短く評する。青山さんが率直に、綺麗だった、と評価した晶子のヴォーカルは、プロの耳にも十分通用するものだったようだ。その晶子は客席に向かって一礼すると、また歌うスタンバイに入る。何時でも来い、という意思表示だな。

雨上がりの午後 第1236回

written by Moonstone

 晶子の歌が一旦終わると、ピアノソロが始まる。アタックの違いを生かしたジャズの匂いの濃いソロで、俺はバッキングをしながら聞き入る。流石にジャズバーで演奏しているだけあって、演奏がジャズの匂いを濃くするみたいだな。勿論、曲の雰囲気に合っているから良いんだが。

2003/7/21

[暑くなってきました]
 昨日は梅雨の合間の晴れ間ということで、カーテンを閉めていても室温がぐんぐん上昇していくのが分かりました。寝てるだけでも汗かくんだもんなぁ(^^;)。それでとうとう今期2度目のエアコンのスイッチONに踏み切りました。その涼しさのお陰で、日中殆ど寝てましたが(またか)。
 今日で連休も終わり。作品制作は一応予定どおり進んでいますが、起床時間の早さから逆算した制作時間に対しては少ないです。何とか今日は暑さ涼しさや眠気に負けずに作品制作に取り組みたいところです。
 ところで昨日今日の日記や連載はやけに短かいですが、実は連載のストックが底をついているんです(汗)。今日は書きたてほやほやのものを投入しました。こちらの方もどうにかしないといかんなぁ・・・。
 潤子さんは真剣な表情でキーボードに向かう。他の人達も続々と演奏準備に入る。俺も前を向いてフレットに指を当てる。晶子はマイクの上で両手を組んだ何時ものスタイルで身動き一つしない。大丈夫だろうか・・・。
 柔らかい、しかし津波のような勢いを持つストリングスの音色が響き渡る。潤子さんが両手を使って演奏しているんだろうが、音の厚みが凄い。それに実際にオーケストラが演奏しているような雰囲気を醸し出している。流石は潤子さんだ。次は俺も入る。音をよく聞きながら入るタイミングを計る。
 俺はストロークでボサノバのバッキングを刻む。ストリングスが控えめになった分、俺のギターがよく目立つ。バッキングとは言え、気は抜けない。フレットの上を動く指を見ながら、丁寧にストロークを重ねる。
 ドラムやベースが入ってくる。リズムの崩れはないようだ。ひと安心すると同時に不安が膨らんでくる。晶子は何時ものスタイルのまま微動だにしない。緊張で固まってしまってるんじゃないだろうな?だが、晶子が歌い始める地点は確実に近付いてきている。
 透明感のある柔らかい歌声が朗々と店内に広がり始める。・・・何だ。雅kは晶子なりに入るタイミングを窺ってたのか。これで安心して演奏に専念出来る。晶子の声は何時ものように、否、何時も以上に通りが良くて、歌の雰囲気に合わせるかのように切なげに響く。
 そこにストリングスとピアノがジャズっぽく絡んでくる。ストリングスはダイナミクス(註:音量の差)を、ピアノはアタック(註:発音の立ち上がり)や細かいフィルを活かして、けれどヴォーカルの邪魔にならないように自己主張している。本当に潤子さんは一体何時こんなに練習したんだろう?普段ピアノオンリーだからタッチが違うシンセサイザーには戸惑うと思ったんだが、余計な心配だったようだ。

雨上がりの午後 第1235回

written by Moonstone

「よし、潤子さんのソロで開始。ヴォーカルが終わって16小節でフィニッシュということで。」
「はい。」
「私からね。分かったわ。」

2003/7/20

[どうもね・・・]
 休日は起床時間がやたらと早い。寝付けないもんだからこのまま、と新作の執筆を開始するも、買い出しに行った後の休憩で急に眠くなって日中殆ど寝ているという生活リズム、昨日も再現されました。
 もうこれは避けようがないのか・・・。素直に追加の薬を飲んで寝た方が効率が良いのではないか・・・。色々思うものの、なかなか実行に移せません。失敗したら、という不安がありますからね。あー、眠い(さっきまで寝てた)。
 桜井さんの問いかけに青山さんが応える。「Fly me to the moon」となれば、当然晶子が加わる。それに今までシーケンサ任せだったストリングスやピアノなんかも生演奏になる。晶子にとってはまさに正念場になるだろう。
 その晶子は何処に・・・居た。マスターの陰に隠れるように立っている。「Fly me to the moon」という名詞が出たことで自分の出番が来たのだと察したらしく、その表情は何時になく真剣みと緊張感に溢れている。

「それじゃ折角だから俺はウッドベースにするか。賢一と大助はそのまま。潤子さんはストリングス、安藤君はギターよろしく。」
「はい。」
「了解。晶子ちゃん、皆さんに歌声を聞かせてあげて。」
「はい。」

 晶子はマイクスタンドの前に立ち、電源スイッチをONにする。後ろではベースやドラムやピアノやストリングスが適当にフレーズを奏でている。俺はさっき演奏したばかりだし、今度は裏方だからあまり緊張していない。緊張感に慣れたと言った方が適当か。
 それより晶子が大丈夫なのかが気がかりだ。俺は一応高校時代にステージ経験と生演奏のセッションの経験があるが、晶子は生演奏とのセッションの経験に乏しい。しかも今回は初対面の人達とのセッションだ。緊張して声が出ない、とかなったら大変だが・・・今は晶子のステージ度胸に託すしかない。

雨上がりの午後 第1234回

written by Moonstone

「次は何にする?」
「今回ヴォーカルが入るんだろ?となれば『Fly me to the moon』が良い。」

2003/7/19

[今週は連休ですか・・・]
 ついこの前まで気付きませんでした(笑)。この時期になるとそろそろ彼方此方で花火大会が催されるのですが、私が住んでいる地域でも盛大な花火大会が行われます。町の人口以上の人でごった返す中花火が上がり、大音響と共に色とりどりの花を咲かせるのですから、結構お祭り気分に浸れます。あの混雑だけは何とかならないものか、と思うんですが(^^;)。
 この連休に某所で花火大会が行われるんですが、今年は行きません。日にちがはっきり分からないのと(推測は出来る)、折角の連休にわざわざ遠出して疲れて帰ってくる必要もあるまい、と思って。こういう私は半ば引きこもりですな(笑)。
 先に挙げた、私のすんでいる地域で行われる花火大会に行くかどうかも微妙です。わざわざ出かけて見に行くのもなぁ、と思うんですよ。もう何回も見てますから。でも、これからのことを考えると今年は見に行った方が良いのかな、とも思ったり。やっぱり出不精が出てますね。

「なかなか良いじゃない、彼。」
「そうでしょ?うちの店の採用試験を文句なしにクリアしたんだから。」
「ああ、『Fly me to the moon』を楽器に応じてその場でアレンジして弾け、っていうやつ?ふーん、なるほどね・・・。それだけの腕は持ってるね。」

 ドラムの青山さんも感心した様子だ。こういうクールなタイプの人は、自分にも他人にも厳しい人が多いからなかなか人を誉めない傾向があるんだが−渉もそうだ−、そんな青山さんからも好感触を得られたことで、俺の中で充実感が急速に膨らんでいく。

「良い演奏だったね。気持ち良く吹けたよ。」

 勝田さんが笑顔で握手を求めてくる。俺は勿論それに応じる。

「文彦さんが、お前ら驚くなよ、とか言ってたんだけど、今回は驚かされたよ。文彦さんの言ってたことは嘘じゃなかったんだね。」
「当たり前だ。俺が嘘をつくような顔に見えるか?」

 壁に凭れていたマスターが、どうだ、と勝ち誇ったような笑みを浮かべて言う。マスターは事前に相当俺を売り込んでいたようだ。それが結果的に見事に的中したことで、マスターも満足しているんだろう。マスターや潤子さんの面子を潰すようなことにならなくて良かった。本当にそう思う。
 カウンターの方を見ると、ママさんが満足げな笑みを浮かべている。どうやら俺のギターはそこそこ好評を得られたようだ。初対面でいきなりセッションということでどうなることかと思ったが、終わってみれば割と呆気ない。でも、成人式会場のスクランブルライブ以来、約半年ぶりの、しかも初対面の人達とのセッションが一先ず上手くいったという充実感は格別だ。

雨上がりの午後 第1233回

written by Moonstone

 桜井さんの賞賛の言葉の数々に、俺は恐縮する。プロの人からこんな賞賛をもらえるとは思わなかったからだ。自分では良いと思っていた演奏が、他人が聞いたらガタガタだった、って可能性が十分ありえたからな。

2003/7/18

[ブルーローズ(青い薔薇)]
 今は遺伝子操作で病気まで治せる時代ですが、薔薇の花を青くすることは出来ないそうです。それが転じて、出来ないことを「ブルーローズ」とも言います。
 でも、今はブルーローズでもそれが未来永劫そうであるとは言い切れません。高速道路が物流の大動脈となっています(癒着の象徴でもありますが(笑))。電話はポケットに入るほど小さくなり、カメラ機能まで搭載するようになりました。何れもその発想が出来た当時はブルーローズだったものです。
 科学技術の進歩には目覚しいものがあります。しかし、使い方を誤れば人類はおろか地球を破滅に導きかねません。原子力がその代表格です。ブルーローズをそうでなくする技術者の一人として、ブルーローズのままにしておくべきものとそうでないものを識別する目を持つようにしたいものです。
 シンセ音とシンバルのロール音が響く中、俺は指の動きに任せて階段を駆け下りる感じでフィルを入れ、ギターの低音を効かせた白玉でフィルを締める。桜井さんのベース音が燻(いぶ)し銀というに相応しいフィルを奏でる。十分に音が伸びきったところで、自然と演奏は終わる。
 次の瞬間、大きな拍手と歓声が押し寄せてくる。カウンターの向こうに見えるママさんも笑顔で拍手をしている。どうやら成功したらしい。そう思った瞬間、全身から大量の汗が噴き出るのを感じる。緊張の糸が一気に切れたみたいだ。やっぱり緊張する。これは心臓に悪いな・・・。

「お見事。安藤君、潤子さん。潤子さんは兎も角、安藤君は若い割に随分ステージ度胸があるねぇ。良い感じで終わりに繋がっていったよ。最後のフィルもバッチリだった。」

 桜井さんが後ろから声をかけてくる。俺は後ろを向いて頭を下げ、続いて客席の方を向いて頭を下げる。拍手と歓声は止む気配がない。

「CDの原曲の真似事で終わらず、良い演奏やってたよ。文彦の言ってたことは嘘じゃなかったな。君、こういうのは初めてかい?」
「楽譜を見て終わりを適当に決めるというのは高校時代のバンドで経験がありますけど、今回みたいなのは初めてです。」
「ほう。高校時代にバンドやってたのか。それでも良いステージ度胸だ。演奏も立派だったし、こりゃ凄い逸材とセッション出来たもんだ。」
「うちの店の貴重なギタリストよ。そこら辺の坊やとは違うわよ。」
「潤子さんのお墨付きもあるのか。いやいや、恐れ入った。」

雨上がりの午後 第1232回

written by Moonstone

 自分では良いと思える感じでソロを締めると、曲は最初に戻る。俺はストロークに切り替えて演奏の終わりを待つ。潤子さんのシンセ音が軽やかに響く中、ドラムがタムを交えたフィルを入れる。よし、これで終わりだ。

2003/7/17

[映画の続編、第○弾]
 間もなく「ターミネーター3」が公開されますが、私は正直疑問を持っています。2までの話の流れから言って、もう続編は作りようがないと思うんです。「2」も「ターミネーター」で設定されていた、核戦争が起こる未来を捻じ曲げることになってしまい、蛇足ではないかと思っています。
 映画の続編や第○弾というものにはあまり期待しないほうが良いのでは、というのが私の見解です。どうしても前作以上のものを期待してしまいますし、それに応えられない作品の方が多いからです。「ターミネーター」のように設定をぶち壊しにしてしまう例もありますし。
 制作者も安易に続編や第○弾に依存せず、新しい作品で俳優や自身の持ち味を発揮して欲しいです。日本映画が衰退した背景には貧弱な制作環境もさることながら、斬新な作品を打ち出せなかったことがあります。これは映画に限ったことではないですけどね。
 このこともきっちり覚えておかないといけない。終わりが締まらなかったら折角の演奏が台無しになっちまう。俺は瞬時に頭の中で曲の構成を組み立てる。これくらいはバンドをやってた経験で間に合うつもりだ。

タ、タタタン

 軽めのスネアの音が入る。それが終わると同時に俺はストロークを入れる。他の楽器音もほぼ同時に入ってくる。潤子さんのシンセ音が気持ち良い。だが、余裕こいてる暇はない。演奏に集中しないと・・・。
 4小節分演奏した後、ドラムが本格的に入ってくる。これでベースと合わせてリズム隊が出揃った。このリズムとグルーブ感を耳だけじゃなく、身体全体で感じながら演奏を続けていけば良いな、うん。
 俺は強弱を大切にしながらギターを爪弾く。この「プラチナ通り」はライトな感じの曲だから、その辺も踏まえないといけない。軽快に、しかし浮ついた感じにならないようにフレットの上で指を動かし弦を弾く。・・・良い感じだ。
 前半が終わり、一旦間を置いて再び演奏が始まる。この辺も初めてとは思えないくらいうまく息が合っている。俺は間奏であるこの部分で、次に続くソロに備えて呼吸を整える。フルートが入ってくるが、生のフルートはどんな音なんだろう。こんなことを考えられるあたり、結構余裕があるのか?
 軽快なリズムに乗って俺のソロが始まる。それに勝田さんのフルートが入ってくる。良い音だ。緊張で強張った心が解きほぐされていくような、柔らかくて優しい音色だ。フルートの音が流れる中、俺は自分の演奏に専念する。大丈夫だ。今までやってきたようにやれば良いんだ。
 俺は演奏していく間、小節数をカウントしていく。少しずつ終わりに向けたカウントダウンが進んでいく。今までのステージでは自分がアレンジした終わり方で良かったが、今度はそうはいかない。最初に繋げるようなフレーズに自分で持っていかないといけない。ここが即興演奏の難しいところだ。俺は終わりと小節数を意識しながらひたすらギターを爪弾く。

雨上がりの午後 第1231回

written by Moonstone

「間奏から32小節ギターの後、最初の8小節に戻ってフィニッシュということで。」
「はい。」
「分かりました。」

2003/7/16

[終わりにしよう]
 別に皆さんとのお別れの挨拶ではありません(笑)。埼玉県知事が政治資金規正法違反容疑で家宅捜索を受けたことなどで追い詰められ、とうとう辞職しました。東京地検特捜部の調べでは、同じく政治資金規正法違反容疑で逮捕された長女が知事の資金管理団体に大手ゼネコンや地元企業を集め、多額の金を 集めては隠匿していたことが明らかになっています。
 知事の辞職に伴い選挙が実施されるわけですが、もう旧来の政治システム、即ち、地元企業や大手ゼネコンなどが金と人を動員して候補を勝たせるというシステムはこれで終わりにすべきです。そもそも地方自治の最高責任者が資金管理団体という財布を持っていること自体間違っています。そんなものを持たなくてもきちんと給与は出ている筈です。そんなものを持つということは、給与では足りない何かをしているということを暗に公言しているようなものです。
 恐らくオール与党候補対共産推薦(或いは支持)の候補の対決になるでしょうが、オール与党は先に挙げた金と人の動員に加え、公明党・創価学会による徹底した政教一体選挙、反共選挙に徹するでしょう。これに屈せず、正統派の候補が勝利することこそ、民主主義を根付かせる第一歩です。
「安藤君のギターが聞ける『プラチナ通り』が妥当じゃないか?」
「そうだな。よし、それじゃ『プラチナ通り』からいこう。安藤君、ギターの用意ね。」
「はい。」

 俺は桜井さんに言われてアコギのストラップに身体を通し、手早くチューニングする。背後ではシンセ音やドラム、ベースの音が聞こえる。左隣では勝田さんがフルートを適当に吹き鳴らしている。この曲では後半にフルートが入る。今まではシーケンサ任せだったが今回は生のフルートが間近で聞ける。これは期待が膨らむ。
 同時に緊張感も膨らむ。シーケンサは一旦テンポを設定しておけば、店舗のコントロールプログラムをしない限り一定のテンポを保つ。だからそれに合わせるように心がけていれば良い。ところが人間同士の演奏ではそうはいかない。複数の相手の息を確認しつつ、テンポが崩れないように注意しなければいけない。
 成人式の時のスクランブルライブは、年月を挟んだとは言え何度となく音合わせをしてステージを共にした仲間と一緒だった。今回は初めての相手、しかも事前の音合わせはなしだ。俺の腕が試されることになるのは間違いない。チラッと店を見ると、客の視線がステージに集中しているのが分かる。今更後戻りは出来ない。ならば・・・やるしかない。

「それじゃ大助。頭1つくらい出てくれ。」
「了解。」

 頭一つ出る。これは演奏を始める合図となる演奏をするという意味だ。一つちょっとというから1拍ぴったりじゃない。そこは「間」を読まないといけないわけだ。初対面の相手にいきなり隠語を使うあたり、それなりの腕を持っていると事前評価している証拠だ。フレットに当てる左指に力が篭る。

雨上がりの午後 第1230回

written by Moonstone

「これでオッケーだな。」
「よし。それじゃ何からいこうか?」

2003/7/15

[週明けは眠いっ]
 昨日は半分寝て過ごしたようなものでした。勿論出勤して仕事しましたけど、昼寝はするし、午後からの仕事では途中意識が飛んじゃうし(基板持ちながら俯いて寝ていた)、帰宅後も食後程なく夢の世界へ。お陰でネット接続大遅刻で、このお話は23:30過ぎに急いでしています(汗)。
 土日は5時に起床してああだこうだしようとするのに、普段はそれより起床時間が遅くて良い代わりに眠い時に寝るなんてことがあまり出来ませんから、身体のリズムが狂ったままなんでしょうね。昨日も5時に目が覚めましたし。
 やはり睡眠が残る課題と言えますね。これが治らない限り完治したとは言えないでしょう。しかし、寝たいときには寝られず、寝ちゃいけないときには眠くなるという逆転現象が解消されない限り、どうしようもありません。誰か良い方法を知りませんか?
「で、安藤君だったっけ?その子がギターで、井上さん?その娘がヴォーカルか。演奏の幅が広がるなぁ。」
「そのためにお前らにセッションしないか、って話を持ちかけたんだろうが。」
「そうだった、そうだった。俺達としては特に安藤君のギターに興味を持ってるんだ。話は文彦から聞いてる?」
「あ、はい。」

 突然話を振られて、俺は慌てて返事をする。この人達が俺のギターに興味を持っている・・・。その興味を盛り上げるか減衰させるかは俺の腕次第だ。気合を入れていかないとな。

「ものは試し、だ。早速セッションの開始といこうか。」
「そうだな。よし皆、機材をセットしよう。」

 俺達はマスターの後をついていって、楽器が置かれた一段高い場所−ここがステージか−に機材をセットする。中心は潤子さんが演奏に使用するシンセサイザーで、音源モジュールやエフェクターが入ったラックはフットスイッチと同様床に置いて配線する。俺は晶子からギターを受け取り、ケースから出してマスターが持って来てくれたスタンドに立てかける。
 5分もかからずに配線は完了した。ちょっとステージ上は窮屈な印象を受けるが、普段演奏しているステージが持て余すほど広いし、他にグランドピアノやウッドベースといった大型の楽器が鎮座しているから、余計に狭く感じるんだろう。とどめにマスターと潤子さんがマイクをスタンバイする。

雨上がりの午後 第1229回

written by Moonstone

「今回は潤子さんも加わるんだろ?」
「ああ。シンセ中心になるがな。」

2003/7/14

[ばったり、ぐったり]
 昨日はまさにそんな日でした(爆)。起床は朝5時だったんですが、朝食後少し小説を執筆していたら急に眠くなってきて、ベッドにばったり。買出しは昨日済ませてあったので、そういう安心感もあってか、日中殆ど寝てました。
 この分だと、文芸部門揃い踏みはまた不可能ですな。書く時間ないですし。まあ、義務じゃないですから出来る範囲でやれば良いんですが、自分の思い通りにならないというのは悔しいですね。
 5時に目が覚めた時点で起きないでもう一度寝れば、結局1日寝ることになるのが分かってますし、どうすれば良いのか分かりません。もうその日の体調に任せるしかないですね。無理が利かない身体が恨めしい・・・。

「それからこっちが・・・。」
「青山大助。ドラムとパーカッション全般が出来る。よろしく。」
「安藤です。宜しくお願いします。」

 俺はドラムを演奏していた男性、青山さんと握手する。続いて晶子とも握手する。他の人とは違ってかなりクールな印象を受ける。渉に近い感じだな。少なくとも宏一とは正反対のタイプだろう。

「それからこっちが・・・。」
「勝田(かつた)光(ひかる)。サックスその他管楽器全般が出来ます。どうぞ宜しく。」
「安藤です。宜しくお願いします。」

 俺はサックスを演奏していた男性、勝田さんと握手する。続いて勝つ多産は晶子とも握手する。こちらは何となく控えめなタイプのようだ。

「今日のために明君は久々にエレキベースも持ってきたのよね。」
「お前のエレキベースが聞けるなんて久しぶりだなぁ。」
「滅多に使わないからな。弾けなかったら笑って許せ。」

 マスターと桜井さんはそう言って笑い合う。少し固かったその場がほんのり和む。長く演奏を共にした仲間であると同時に、気心知れた友人という感じが伝わってくる。

雨上がりの午後 第1228回

written by Moonstone

 ピアノを演奏していた男性、国府さんが笑みを浮かべて手を差し出してくる。俺は慌てて宜しくお願いします、と言ってその手を握る。続いて晶子とも、よろしく、と言って握手する。

2003/7/13

[ゆったり、まったり]
 昨日はまさにそんな日でした。起床は5時と早かったものの、やはり眠気が噴出して午前午後に断続的にゴロリ。その合間を縫うように作品制作や買出しに出かけたりしました。どうにか1本新作を書き上げました。
 変わったことと言えば、久しぶりにプロ野球中継を見たことくらいですね。遅い夕食を食べながら音がないのはちょっと寂しい、と思って適当にチャンネルを変えていたら、丁度阪神×巨人戦の中継。いきなりもの凄いワンサイドゲームで大笑いしながら見てました。途中買出しに出かけましたが。
 それにしても今年の阪神は強いですね〜。もうマジックナンバー点灯だなんて。やっぱり連敗しないのが強みでしょう。連敗するとどうしてもチームのムードが沈滞してしまいますからね。18年ぶりの優勝に向かって驀進する阪神。このまま突き進めるのか、何処かのチームが行く手を阻むのか、今後が期待されます。
 拍手の中、ウッドベースの演奏を止めた男性が呼び声をかける。マスターがそれに応えて手を振る。ピアノを演奏していた見た目若そうな男性も俺達の方を向いて笑顔で手を振る。ドラムを演奏していた髪をオールバックにした男性もスティックを片手に持って笑顔で手を振る。サックスを吹いていた、髪を後ろで束ねた男性だけはぺこりと頭を下げる。演奏していた4人が俺達の方に駆け寄って来る。

「皆、待たせたな。」
「いやあ、文彦とまたセッション出来るなんて嬉しいよ。」
「曲の方は?」
「バッチリさ。ん?そこの兄ちゃんと姉ちゃんが、文彦が言ってた逸材か?」

 ウッドベースを演奏していた男性が興味深そうに俺と晶子を見る。俺はまず頭を下げてから自己紹介する。こういう時はこちらから挨拶をするに限る。

「はじめまして。安藤と言います。」
「井上と申します。」
「かなり若いね。二人共あの新京大学の学生だ、って文彦から聞いたけど、ホント?」
「はい。俺・・・否、私は工学部で・・・。」
「私は文学部です。」
「へえ・・・。でも音楽に学歴は関係ないからね。宜しく頼むよ。あ、そうそう。自己紹介がまだだったね。俺は桜井明(あきら)。ベース全般が出来る。一応このメンバーの代表者って位置付け。それからこっちが・・・。」
「国府賢一。ピアノ専門です。よろしく。」

雨上がりの午後 第1227回

written by Moonstone

「文彦、久しぶりー!」

2003/7/12

[肩が凝る〜!腰が痛い〜!]
 昨日お話したとおり、巨大な基板を作るためにはんだ付けする部分、しかも何百とあるその個所をちまちま剥がす作業を続けました。最初その作業をしていた自分のパソコンデスクではもの凄い猫背になって(この作業をするときは眼鏡を外します)しまうので、作業机に移動しました。
 しかし、こんな不毛な作業を無音でやっていたのでは気が滅入ってしまう。という訳で今週最初から疲労発散のために持参している音楽CDを近くのPCにセットして(制御用に専用のPCがある)イヤホンをしていざ開始。どうにか2時間くらいかかって完了。
 でも、これは所詮下準備。本番であるはんだ付け作業の前にはんだ付けする部分が剥がれた基板を見て頭痛がしました。こんなのはんだ付けするなんて嫌だ、と思うのですが、誰かがやってくれるわけでもないし、自分の仕事なので音楽をエンドレスで流しながらひたすらはんだ付け。流石に疲れて途中1時間ほど休憩しましたが、どうにか30%くらい完了しました。まだ30%かい、と言ってはいけない。この作業の大変さは経験しないと分かるまいて。ふっ(遠い目)。
「ええ、そうですよ。前に話したでしょ?」
「へえ・・・。話には聞いてたけど、ルックスは二人揃って合格点ね。女の子の方は特にポイント高いわ。」
「ほら、二人共。ご挨拶ご挨拶。」
「あ、はい。どうもはじめまして。井上と申します。」
「はじめまして。安藤と言います。」

 マスターに言われて、俺と晶子は女性に−この店の主人だろう−挨拶する。女性はにこやかに俺達の方を見て言う。

「はじめまして。私はミリンダ。こう見えても一応この店のオーナーよ。文ちゃんとは彼是20年近い付き合いなの。よろしくね。」
「こちらこそ、宜しくお願いします。」
「お世話になります。」

 俺と晶子は再び挨拶する。初対面の相手の印象を良くするには、挨拶をしっかりすることに限る。女性は笑みを絶やさずに俺達の方を見ている。余程俺達が来るのが楽しみだったのだろうか?
 店はかなり客が居て、皆一様に俺達の方を見ている。そりゃバーにごつい機材を持って入ってくりゃ嫌でも目立つよな。そんな中、演奏だけはしっかり続いている。何となくフィニッシュに近づいていることは分かる。それが終わってからご挨拶というところだな。俺は晶子と共に、マスターと潤子さんに続いて店の奥へと入っていく。
 ピアノの小刻みに踊るようなフィルの後、サックス、ピアノ、ウッドベース、ドラムがそれぞれに、しかし見事に調和したエンディングを聞かせる。俺は思わず演奏の聞こえる方向に見入ってしまう。流石プロ、否、これがプロというものなのか・・・。こんな人達とセッションするなんて本当にまたとない機会だ。思わぬ形で強運が姿を現したようだ。

雨上がりの午後 第1226回

written by Moonstone

「それよりママさん、連中は?」
「勢揃いよ。あら?可愛いお嬢さんと結構好い男が一緒じゃない。この子達が今日のセッションのメンバー?」

2003/7/11

[下準備がメインかも]
 今仕事でちょっと大きなものを作っているんですが、昨日ようやく基板が出来上がりました。出来たといっても基板の両面に配線を描いて穴を開けたというものなんですが。
 で、ここから直接はんだ付けしていっても構わないんですが、それはあまりにも無謀(近接しているグラウンド(電位0の場所。アースとも言う)や配線とくっつけたら一巻の終わり。そうでなくても、金属の細かい塵などが入ったら一発で動かなくなる危険性もあるので、緑色の絶縁剤を塗布します(基板が緑色なのはこのため)。もっとも工場みたいに大量生産じゃないですから、スプレーでちまちま塗布していくんですが。
 で、この絶縁剤を塗布すると近接するグラウンドや配線に接触しても大丈夫なんですが、はんだがくっ付かない。そのため、はんだ付けする部分だけ絶縁膜を剥ぐ(カッターの先などでちまちまと)んですが、今回はそれが推定約500箇所(少なく見積もって)!そのうち表裏はんだ付けする穴が少なくとも約200箇所あるので、300+200*2=700箇所を剥がなきゃならないんです。何時になったら終わるんだろう(大汗)。終わったらはんだ付けするんだよな・・・(遠い目)。
 俺はマスターからハードケースに入ったキーボードを受け取る。幾ら88鍵のピアノタイプのマスターキーボードじゃないとは言っても、結構な重量がある。俺は力が入れやすい右手でハンドルを持ち、晶子と潤子さんの後を追う。直ぐにマスターがキーボードの入ったハードケースと折り畳んだキーボードスタンド、それに束ねたケーブル類を持って俺を追い越す。ジャズバーに出入りするには筋力もそれなりに必要みたいだな。
 先頭に立ったが両手が塞がっているマスターに代わって、潤子さんが店のドアを開ける。チリンチリン、という甲高い鈴のような音がする。それが止むと、軽快なリズムとサックスの伸びのある音が聞こえて来る。

「いらっしゃいませ・・・って、あら、潤子さんじゃないの!」
「こんばんは。今日のことはご存知ですよね?」
「ええ。皆楽しみにしてるわよ。」

 マスターと晶子に続いて入った俺の目に飛び込んできたのは、右手に紫煙を立ち上らせる煙草を挟み持つ、茶色の髪を後ろで纏めた女性だ。店の照明があまり明るくないからはっきりとは推測出来ないが、潤子さんより年上、恐らくマスターと同じくらいの歳だと思う。

「ママさん、こんばんは。」
「あーら、文(ふみ)ちゃん。いらっしゃい。」
「四十路男を捕まえて『文ちゃん』は止めてくれよ。」
「何言ってるの。文ちゃんは文ちゃんでしょ?」

 俺は思わずくくく・・・と笑いを漏らしてしまう。晶子も両肩を小刻みに震わせている。髭面の厳つい体格のマスターが「文ちゃん」なんて可愛い愛称で呼ばれているなんて、笑わずにはいられない。

雨上がりの午後 第1225回

written by Moonstone

「祐司君。キーボード一つ頼む。」
「はい。」

2003/7/10

[帳簿は毎日つけましょう]
 私は家計管理と大型出費(PCの新調とか大きな買い物をすること)のタイミングを計るために家計簿をつけています。PCでつけるようになったのは旧PCが入った頃からですが(それまでは手計算だった)、毎日毎月の収支状況が良く把握出来ます。そのためにつけてるんですけどね(^^;)。
 でも、今年度は銀行へ行くタイミングが難しかったのと(記帳だけに行くのは土曜日と決めているし、銀行には手数料など一切くれてやりたくない)、元来のずぼらさが重なって、3ヶ月間以上中途半端な状態で放置してしまいました(爆)。今日は時間があったので、急いで通帳とレシート(全て保存してます)を見ながらPCに入力して計算。現在の所持金と比較したところ、500円以内の誤差で収まりました。店の帳簿じゃ1円違うだけでも大変ですけど、家計簿ですからその辺は甘いです(^^;)。
 銀行へ行くのも楽じゃないので、一度にある程度の額を下ろすわけですが、大きな金額を持ってるとつい使いたくならないか、と思われるかもしれませんが、私はそういうことはありません。逆に持ってるときほど使うのを躊躇う人です(爆)。ずぼらで天邪鬼な性格。こんな人間が一方で毎日日記と連載を書いてて、一方じゃ家計簿をつけるのをサボるんですから、いい加減なものです。

「この辺じゃ有名な店だ。ミュージシャンの交流場所としても有名で、多くのミュージシャンが出入りしてる。かつては俺もその一人だったんだが。」
「あなた。駐車場、空いてるかしら?」
「多分大丈夫だろう。ここへ来る客は大抵歩いて来るからな。潤子もそうだっただろう?」
「確かにそうね。この辺は小宮栄の駅からも近いし。」

 マスターと潤子さんの会話には昔を懐かしむ香りがする。ジャズバーを席巻していた一人のサックスプレイヤーと一人のOLが出会った場所。そして二人が一緒になったからこそ今の店があって、俺と晶子が共に過ごす時間を持てている・・・。時の流れの中には様々なドラマがあるんだな。
 マスターは対向車に注意しながら車を店の脇に入れる。そこはかなり広い駐車場で、結構埋まっているが空きはある。マスターは店に近い場所を選んで車をそこに入れる。そしてバンドブレーキをかけてギアをパーキングに合わせてエンジンを止める。
 俺達はそれぞれ近いドアを開けて車を降り−俺と晶子はギターを持っている−、マスターがトランクを開ける。これから機材の搬入だな。シンセサイザーや音源モジュールが入ったラックなんかは重いから、トランクに詰め込む時も俺とマスターが中心になった。入れるときがそうだったんだから、出す時も必然的に役が回ってくることになる。言われる前に先手を打つか。

「晶子。悪いけどこのギター、担いで行ってくれないか?」
「あ、分かりました。」

 俺は晶子にギターを渡すと、先にハードケースに入ったシンセサイザーを取り出していたマスターを手伝う。潤子さんは何もしないのかと思いきや、結構重いラックケースのハンドルを手に下げて店の方へ向かう。そう言えば潤子さん、見かけによらず結構力あるんだったっけ。

雨上がりの午後 第1224回

written by Moonstone

 俺は思わず感想を漏らす。店は大通りに面しているし、両隣の店とは結構間隔がある。つまり、相当数の駐車場を確保している可能性があるということだ。俺が抱いていたジャズバーのイメージがガラガラと音を立てて崩壊していく。

2003/7/9

[CD買い過ぎ(^^;)]
 ここ半月足らずの間にCDを買いまくっています。私の職場には生協(大学にある生協と同じ)があるので、CDなんかが1割引で買えるんですよ。それを良いことに、CDを半ば衝動買いしています。まあ、お目当てのミュージシャンですから正確には衝動買いじゃないんですけど。
 今のところ買ったのはT-SQUAREの「NEW ROAD OLD WAY」とTHE SQUARE(T-SQUAREの安藤さんと伊東さんのペアに、和泉、須藤、則竹各氏が加わった期間限定の5人編成)の「Spirits」。聞いて思ったんですが、「SQUAREの音楽も変わってるなぁ」という印象。何時までも同じスタイル、というわけにはいかないんでしょうが、個人的にはアルバム「WAVE」のスタイルを維持して欲しいところです。「WAVE」を上回るアルバムにはまだ出会ってない、というのが正直な感想。
 そして今日入手予定のCDが倉木麻衣さんの「IF I BELIEVE」。こちらは前回アルバム以降のシングル曲A面が全て入るようなので、期待大です。「IF I BELIEVE」はSEA BREEZEのCMでも使われていて、本人も出演してますよね。「IF I BELIEVE」だけシングルカットして、プロモーションビデオを作ってくれないかな・・・。

「幾ら練習してきたっていっても初めて行く場所なんだもの。緊張して当たり前よ。それに適度に緊張していた方が演奏にも締まりが出るわよ。」
「はあ・・・。」

 俺は思わず生返事をする。何と言うか、あまりにも呆気ない答えで拍子抜けしてしまう。てっきり檄(げき)か−潤子さんだから真綿のようにやんわりしたものだろうが−落ち着かせようとする言葉が飛んでくるかと思ったんだが、緊張して当たり前、と言われると、ああそうか、と思わざるを得ない。
 潤子さんはウインクして−潤子さんがすると様になる−前を向く。拍子抜けしたせいで緊張感が若干抜けた俺は窓の外に視線を移す。華やかなネオンサインやライトアップされた看板が林立している。流石はこの地方随一の繁華街。胡桃町駅前の繁華街とは比較にならない。車はその繁華街の中へ入っていく。
 車はひたすら大通りを走っていく。ジャズバーだから小脇に入ったところにこじんまりと建っているのか、と思っていたんだが、どうも違うようだ。少し走っていくと、赤地に黄色の目立つ看板が見えてくる。そこには・・・「TEMPO DE SER FELIZ」と書いてある。何て読むのかはどうにか推測できるが、意味はさっぱり分からない。

「へえ・・・。『幸福な季節』ですか。良い名前のお店ですね。」

 それまで無言だった−俺が話し掛けなかったせいもあるかもしれないが−晶子が前を見て少し感動したような顔をする。そういう意味なのか?晶子は独学でラテン語を読めるようにしているが、あの単語の列まで読めるとは思わなかった。流石は文学部。色々な言語に精通しているみたいだ。

「井上さん、よく分かったね。あそこがセッションする店だ。」
「かなり大きな店ですね。」

雨上がりの午後 第1223回

written by Moonstone

 大丈夫?・・・何で緊張してることが「大丈夫」なんだ?潤子さんの真意が分からない俺は潤子さんを見る。潤子さんは笑みを浮かべて、俺の疑問を見透かしたように言う。

2003/7/8

[愛と金とじゃ、どっちが強い?]
 気分転換に(どこが)こんな話題でも。アメリカの映画で、タイトルは忘れましたが、夫と子どもが居る女性が金持ちの男性にプロポーズされてシンデレラストーリーを掴むというものがあります。その映画はアメリガ中の女性にもてはやされ、アメリカ中の男性の顰蹙を買ったといいます。
 その女性は結局愛より金を取ったと言えるでしょう。実際でもこういうことは起こりうるんじゃないでしょうかね。自身恋愛小説をいくつか書いてて夢もへったくれもないこと言いますが、女性は特に、愛より金に傾きやすいんじゃないでしょうか?そうじゃなかったらあんな映画は生まれませんし、女性が喝采を送るようなことはないでしょう。
 極端な話、男は夢だけ追って生きていくことも出来ますが、女は金が伴わないと夢を追わないんじゃないかと。それは種の保存本能によるもので、女は子を生んで育てるという役割がありますから、それが出来る環境を、よりより環境を求める、と。森前首相の発言が出てきた背景にもそういうものがあるんだと思います。
闇夜にエンジン音が響き、二筋の光が闇を貫いて夜の町並みを浮かび上がらせる。こうして見ると、夜の街は結構不気味だ。住宅街だから家ばかりでネオンや電光掲示板といった目立つ光源がないのが大きい。

「店まではちょっと時間がかかるから、まあ、その間ゆっくり休んでてくれ。」

 夜道を巧みに走らせながらマスターが言う。今日も忙しかったからかなり疲れが溜まっている。そしてこれから初対面の相手とのセッションだ。疲れで眠い一方、緊張で目が冴えて、自分でもよく分からない状態になってしまっている。横の晶子も俺のギターを抱えて真剣さと緊張が入り混じった表情を浮かべている。
 カーステレオからはありがたいと言うべきか、俺達が演奏する曲が流れてくる。最初は「MORNING STAR」だ。この曲、潤子さんがシンセサイザーを演奏する曲の一つだ。そして店ではマスターがソプラノサックスでメロディやソロを演奏したが、実際は相手方が演奏するという。この曲にはギターとEWIのユニゾンがあるから、俺は初対面の相手といきなり息を合わせないといけないって訳だ。まあ、それはベースやドラムが生演奏になることを考えると、俺だけの問題じゃないんだが。

「祐司君、晶子ちゃん、緊張してる?」

 車の通りが少ない大通りを軽快に走っている中、助手席に居る潤子さんが話し掛けてきた。こっちを向いている潤子さんには緊張の色はまったく見えない。今までピアニストというイメージだった潤子さんは、ピアノとは演奏スタイルが大きく異なるシンセサイザーを演奏するから、多少は緊張しても不思議じゃないんだが・・・。

「緊張ですか?してますよ。同時に何て言うか・・・ここまで来たらもうなるようになれ、っていう思いもありますけど。」
「私、ドキドキしてます。初めてお店のステージに立つ前と同じ気分です。」
「そう。なら大丈夫ね。」

雨上がりの午後 第1222回

written by Moonstone

 機材を積み終えると、マスターは車のエンジンをかける。車の大きさからはちょっと想像出来ない軽い音がする。マスターは運転席に乗り込むとシートベルトを着けて車を発進させる。

2003/7/7

[何をお願いしようかな?]
 今日は七夕。だからと言って何か時期にあった作品をアップするわけでもなし(それどころじゃない)、竹切って来て願い事を短冊に書いて吊るすわけでもなし(そんな歳じゃない)。ただ今日からまた仕事というだけですな。夢もへったくれもない(^^;)。
 もし「願いを一つだけかなえてやろう。ホホホホホ」などと言って神が現れたら(こんな現れ方、やだなぁ)何をお願いしましょうかね。やっぱり金かな?有名人になったところで大した得がありそうもないですし、作家の才能を手に入れたとしても現行の締め切りに追われる日々になりそうですし。
 幼い頃はそれなりに夢があって、短冊に願い事を書いて竹に吊るした記憶があります。それが何時の間にやら現実臭くなって・・・。今はこうして色々な世界を描いているわけですが、夢の世界というものをもっと描けるようになりたいです。
 マスターはサックスがお馴染みのアルトよりソプラノが多くなったことくらいで、晶子も歌う曲が一つ変わったといってもレパートリーに入っている曲だから大して変化はないが、俺と潤子さんは随分大変なことになった。俺はエレキもあると思えばアコギもあり、メロディもあればバッキングもありで、ステージに出ずっぱりになった。潤子さんも日曜日以外でもステージ上がる機会がぐんと増え、普段シーケンサに任せているパートをシンセサイザーで演奏するという珍しい光景が見られるようになった。そのお陰か連日店は大入りで、バイトの時間は接客に調理に演奏にとてんてこ舞いする羽目になったが。
 残る懸案だったコンサート場所も、新京市公会堂の大ホールが無事8月第3週の日曜日に確保出来たので、潤子さんがデザインしたというチケットがコンサートの告示と共に販売され始め、俺が予想していた以上の速さで売れていった。チケット代が2000円と学生でも割と出しやすい額なことと、プロとのセッションが聞けるということもあってか、社会人は元より学生もこぞって買っていった。
 チケットの枚数は新京市公会堂大ホールの収容人数である1000人分のうち、この店が500枚、残る500枚を相手方が出入りする店に置いてもらって売るようにしたんだが、相手方の方はたった1週間で完売してしまった、という連絡が入った。これには驚いた。実力の知れない相手とのセッション、しかも小宮栄じゃなくて電車でもそれなりに距離がある新京市の公会堂でのコンサートにわざわざ出向くとはあまり思えなかったからだ。
 準備は着々と進み、とうとう相手方と初めてのセッションをする日がやって来た。ここまで来た以上、もう泣いても喚いても無駄だ。これまで積み重ねてきた練習の成果を存分に出し切る以外にない。
 俺と晶子は店の掃除を終えた後、「仕事の後の一杯」はなしで即機材の運び出しを始めた。晶子は自分自身が楽器だから別として、俺はエレキとアコギ、マスターはソプラノとアルトの2種類があるし、潤子さんはシンセサイザーを搬入する必要があるので、全員で手分けしてケースに入れてマスターの車のトランクに詰め込めるだけ詰め込んだ。入り切らなかった俺のギター二つは、後部座席で俺自身が抱え込むことになった。片方を晶子が持ってくれることになったので、ちょっと窮屈でなくなった。

雨上がりの午後 第1221回

written by Moonstone

 マスターと潤子さん、そして相手方の曲は変更なし。俺と晶子は時に協力して音合わせをして、バイトの間にも出来るだけステージに立つようにした。リクエストタイムでも夏季限定と銘打ってコンサートで演奏する曲をリクエスト候補に上げて、全員で少しでも練習機会を増やすように心がけた。

2003/7/6

[全ては朝が悪かった]
 寝たのが3時なのに目覚めたのが5時前。それでもここで寝てしまうと一日寝てしまう羽目になるので半分無理に起きて朝食。そして作品の執筆開始。ところが思うようにはかどらないせいもあって眠気が噴出してきたので、たまらずベッドにゴロリ。それからは案の定、一日寝たり起きたりの繰り返しになりました。
 特に昨日酷かったのが立ちくらみ。元々私は低血圧で貧血気味(これは血液検査で判明)という体質なんですが、現在自律神経を患っているせいもあって、眠気が残っている状態で寝たり起きたりを繰り返すと立ちくらみを起こすんです。普段ならその場に立っていれば少しして収まるのですが、昨日はとうとう倒れるところまで行きました。
 倒れるといっても尻餅をつく感じだったので怪我などはしなかったのですが、立ちくらみで倒れるところまでいったのは初めてだったのでちょっとショック。おまけに作品は1本も書けず、今日どうにかするしかありません。一つ気前の悪夢の繰り返しにならなきゃ良いんですが・・・。

「問題は結局、プロの人と生演奏で共演するってことだな。」
「やっぱりそれですよね・・・。」
「俺や晶子の腕がどこまで通用するかはやってみないと分からないけど、ベストを尽くすことは出来る筈だから、そのためにも十分練習を積んでおこう。今の俺と晶子にはそれしか出来ないし、それが最善の対策だと思う。」
「そうですね。プロの人と共演するなんて他のバイトじゃまずありえないことですし、折角の機会なんですから大切にしたいですよね。」
「ああ。精一杯やろう。悔いが残らないように。」

 この湿気だらけの季節が過ぎて少ししたら、いよいよ共演の時が来る。そのとき抱える不安材料を少しでも減らすには、やはり自分のパートをしっかりこなせるようになっておくしかない。これは別に特別なことじゃない。今まで新曲を披露する時にも、馴染みの曲を演奏する時にも共通することだ。練習に練習を重ねて不安を自信に換える以外に対策はない。
 梅雨空は時間が経てば夏空にとって替わる。だが、人間はそうはいかない。ましてや人間の技術がぶつかり合う共演というものは、時間の流れに身を任せていれば良いという都合の良いことにはなってくれない。相手が技術を持っているなら、こっちも技術を備えて対抗するしかない。
 シーケンサという便利な機械なしで人間同士が腕をぶつけ合うのは、あの成人式会場でのスクランブルライブ以来だ。あの時は2年のブランクを感じさせない息の同調があった。今度は息が合うかどうかは、自分の技術を最大限に高めておいた状態で初めて云々言える。相手は自分の腕で日々の生活の糧を得ている、本当の意味での実力派なんだから・・・。

 その後、相手方との調整で曲が一部変更された。主な演奏場所がジャズバーであること、そしてサマーコンサートと銘打っていることがその理由だ。俺の候補曲には変更がなかったが、晶子の候補曲だった「Make my day」は「Kiss」に変更になった。まあ、「Make my day」はバリバリのロックチューンだからジャズバーには似合わないとは思ってたが。

雨上がりの午後 第1220回

written by Moonstone

 でも、俺は晶子には十分ステージをこなせる実力は備わっていると思う。これまで新曲を初めて店で披露する時も失敗らしい失敗をしてないし、客がかなり居る前でもステージに上がって堂々と歌っている。練習では無理な、声量を存分に出して歌うことも自然にこなしているし。

2003/7/5

[ふー、やれやれ(^^A)]
 久しぶりに文芸関係6グループ揃い踏みです。今回は余裕を持って制作出来ましたが、例によって例の如く、Novels Group 4だけは更新直前にささっと書き綴ったものです(爆)。だって、この方がすんなり書けるんだもの。
 さて、国会ではイラク特別措置法案が特別委員会で強行採決されました。僅か6日の審議です。これで戦後初めて、戦場に地上部隊を派兵するという、武力行使や交戦権を否定した憲法に違反する法律が出来ていくのかと考えると背筋が寒くなる思いです。
 自衛隊はその名のとおり、自衛のための戦力だった筈です。なのにアメリカの要求があってアメリカと約束したからということで、自衛の戦力を「全土が戦闘地域」と現地の司令官が明言するイラクに送り込む。戦後初めて日本人が武力で外国人を殺し、或いは殺される事態が生じる危険性は非常に高いです。こんな憲法違反の法律を許してはなりません。
 思えばPKO法以来、自衛隊が海外へ出て行く足場が着々と構成されてきました。私はPKO法が成立した時、「終わった」と思いましたが、それが徐々に現実になりそうでなりません。気が付いたら、では遅いのです。今後控えている国政選挙で、数に任せて悪法を次々強行成立させていく与党三党、有事法制で与党と組んだ民主党や自由党に痛撃を加えるのは、有権者としての必須条件だと思ってください。

「俺だって初めての曲を人前で披露する時は、失敗するかな、とか上手く弾けるかな、とか思う。俺が高校時代にバンドやってたってことは知ってると思うけど、初めてステージに上がる前は心臓バクバクで、メンバーから顔色悪いぞ、って言われたもんだよ。」
「祐司さんは、バイトに採用される時に即興演奏の試験があったんですよね?前に潤子さんから聞きました。」
「ああ。あの時も緊張したなぁ。即興で演奏するのは高校のバンド時代に新曲を試し弾きする時にたまにやったくらいだったし、ジャンルがまるで違う曲だったから、楽譜見ながらあれこれ考えてた。」
「その時も不安だったんですか?」
「そりゃ不安だったさ。これで失敗したら採用されないだろうし、結構客も居たから大恥かくことになる、って思うと、顔から血の気が引いていくのが自分でも分かったさ。でも、いざ演奏を始めたら、演奏するのが精一杯でほかのことを考えてる余裕なんてなかった。それがかえって良かったのかもしれないな。」

 あの時は必死だった。バンドでバラードを演奏することはあったが、課題曲の「Fly me to the moon」は初めて弾くジャンル。おまけにそれをギター用にアレンジして即興で弾け、と言うもんだから、頭は完全にパニック状態だった。演奏が終わって拍手が聞こえてくるまで、本当にほかのことを考える余裕はなかった。失敗したら、とか考える余裕も勿論なかった。

「今度はジャズバーで演奏するけど、マスターが言ってたように演奏する場所が変わって、シーケンサの自動演奏が人間の演奏に代わるだけだから、普段どおりにやれば良いと思う。俺も晶子も店で何度も新曲の緊張感を味わってるんだし、案外普段どおりに出来るんじゃないか?勿論、自分のパートをしっかり練習して確実なものにしておく必要はあると思うけど。」
「・・・そうですね。」

 晶子の表情が徐々に明るくなってくる。俺は高校時代にバンドをやってた分ステージ経験があるからまだしも、晶子は音楽に本格的に取り組むようになって2年も経ってない。それでプロと共演するっていうんだから、緊張したり不安になったりするのはある意味当たり前だ。

雨上がりの午後 第1219回

written by Moonstone

 俺は言う。

2003/7/4

[これには同感(条件付きだけど)]
 昨日7/3付の「しんぶん赤旗」で、森前首相(覚えてます?「神の国」発言をした人です)が、鹿児島市で開かれた少子化や子育てをテーマにした討論会で「いいにくいことだけど、少子化のいま議論だからいいますが、子どもをたくさんつくった女性が将来、国がご苦労さまでしたといって面倒をみるっちゅうのが本来の福祉です」「ところが、子どもも一人もつくらない女性が、好き勝手とはいっちゃいかんけど、まさに自由を謳歌(おうか)して楽しんで、年とって税金で面倒みなさいちゅうのは、本当はおかしい」と言ったことに対して、女性団体などが「個人の結婚や出産の自己決定権を認めない女性差別発言だ」「女性を子どもを産む道具のように言う」などと批判しています。
 しかし、私にしてみれば森前首相の発言は、女性は重く受け止めるべきだとは思いますが批判出来る立場ではないと思います。私は基本的に共産党支持ですが、女性問題に関しては立場を異にしています。昔、とは言っても一世代前の女性は、今より厳しい環境下で子どもを複数生み育ててきたのです。にもかかわらず今の女性はことある毎に「女性の発言に対する反論異論は男女差別だ」「子どもを生む生まないは女性の権利」と言ってのけます。男性をチビだハゲだとこき下ろし、自分の勲章になるかならないかで男性を精子レベルで差別する一方、本来家族構成のあり方として両性が相談して決めるべき子どもを生み育てる問題を「女性の権利」として憚らない。こんな身勝手な女性が自由を謳歌しているという「身内」の問題には目を向けず、女性批判とあれば即座に牙を向ける女性団体などはどうかしてます。
 勿論、子どもを安心して生み育てられる環境を整備することは重要です。しかし、自分達が「男女差別」「女性の社会進出の妨げになる」と槍玉に上げる「母性」を、都合に応じて自分の身を守る盾に換えて「女性は守られなければならない」と言って当然と信じて疑わない女性団体などには、「自分達の足元をよく見てものを言え」と言っておきます。
 何となくだが、楽しみの方が比重を増してきたように思う。入ったことのないジャズバー。そこでの初対面の人達とのセッション。俺のそこそこ長い音学歴の中でも記念碑的なイベントになりそうだ。だから尚更、自分の腕をしっかり磨いておかないとな。
 俺と晶子は揃って店を出る。肌に纏わりつくような湿気が漂う中歩いていると、汗もかいてないのに肌に水分が現れて来そうだ。そんな中でも俺と晶子は手を繋いでいたりする。湿気と共に熱気を多少含んだ空気とは違う、独特の温もりと感触が感じられる。

「私、歌えるかしら・・・。」

 晶子がポツリと漏らす。見るとその横顔には真剣さと不安が入り混じっている。馴染みの「Fly me to the moon」が入っているとは言え、不安が大きいんだろう。バイトを始める前も遊んだ形跡がない晶子にとって、ステージが変わることは不安の材料になって余りあることだろう。それは俺にも言えることだが。

「今お店のステージで歌う時でも、失敗したらどうしよう、とか歌詞を忘れたらどうしよう、とか思ってるんですよ。今度は幾ら今のお店と似ているといってもジャズバーっていう独特の雰囲気があるでしょうし、一緒に演奏する人達はプロ。自分の歌が通用するのか不安で・・・。」
「俺は晶子が歌う曲が聞きたいな。特にジャズバーで聞ける『Fly me to the moon』は今から楽しみだよ。それにしてもどうしたんだ?この前は不安がってた俺を元気付けてくれたのに。」
「・・・覚えてますか?私が初めてお店で歌った日のこと・・・。」

 2年程前、俺の後を追いかけて同じバイトをすることになった晶子が挑戦することになったヴォーカルという新境地。練習の時は不安そうな素振りを一切見せず、半ば八つ当たり気味に指導する俺にめげることなく必死に食らいついてきた。だが、本番当日、今にも不安と重圧に押し潰されそうになっていたっけ・・・。

「ああ、覚えてる。晶子、凄く不安そうだったよな。」
「その場に立っているのも辛いくらいだったんですよ。失敗しないかどうか、失敗したらどうしようか、そんなことばかりが頭の中でガンガン鳴り響いて、どうすれば良いか分からなくて・・・。」
「そんなにプレッシャーに負けそうだったのか・・・。不安そうだったってのは覚えてるけど、そんなに過酷な状況にあったとは思わなかった。」
「以前、祐司さんに自分の腕に自信を持って、なんて偉そうなことを言いましたけど、いざ自分がその立場になると一人で立っていられなくなる・・・。勝手ですよね。」
「初めて、っていう条件で緊張したり不安や重圧に押し潰されるように感じるのは、誰だって同じだよ。」

雨上がりの午後 第1218回

written by Moonstone

「ま、あんまり構える必要はないってことだ。ステージの場所が違って、シーケンサの演奏が人間の演奏に代わる、ってくらいに考えれば良い。」
「ジャズバーなんて、行ったことないですから・・・。」
「祐司君は去年20歳になったばかりだし、大学とこの店のバイトで忙しいから行く暇もないだろうな。丁度良い機会だと思ってくれ。」

2003/7/3

[君のピアノが聞きたい・・・]
 な〜んて言ってみたいもんですねぇ(^^)。・・・とまあ、唐突且つ妄想炸裂的なことを言ってみたんですが、最近頓(とみ)にピアノの演奏を聞きたいという衝動に駆られています。連載で潤子さんが演奏する曲は、全てピアノソロ曲だったりします。自分の趣味を反映させてますね(笑)。
 私は元々ピアノよりエレピ(エレクトリックピアノ)が好きだったんですが(独特のアタック音と響きがね)、教授こと坂本龍一さんのミニアルバム「ウラBTTB」を聞いているうちに、ピアノの音って良いなぁ、と思うようになってきたんです。
 でも、直ってきたシンセサイザーに入っているピアノの音は所詮生ピアノの音をサンプリングして音域を広げて使っているだけ。鍵盤の端から端まで本物のピアノという演奏を聞きたいです。生憎ピアノ教室に通う余裕はないし(金銭的にも時間的にも)、ピアノ「だけ」が聞けるコンサートの情報はないし・・・。近場でピアノの演奏が堪能出来る機会はないでしょうかね。悔しいからピアノ曲作って公開しようかしら(作れるもんなら作ってみろ、って言われそう(^^;)。音楽グループ、3年近く更新してないもんなぁ・・・)。
「そうだなぁ。初めてから常連まで気軽に入れてゆったりしたペースで酒を飲み、音楽を聴く。そんなところだ。常連が初めての客に店の話をしてつれて来る、っていうのは、この店とよく似てるな。だから客が聞く音楽の幅も深さも様々だ。そんなに構える必要はない。」
「そうですか・・・。」

 どうやら耳の肥えた常連客が手薬煉引いて待っている、という店じゃないらしい。この店でも俺が顔を覚えている常連から初めて顔を見る客まで色々居る中で演奏を披露しているわけだから、場所に関してそれほど神経質にならなくても良さそうだ。

「お客さんの年齢層はどんな感じですか?」

 今度は晶子が尋ねる。俺より更に一歩突っ込んだ質問だ。関係なさそうに見えて意外に重要なことだ。俺と晶子が選んだ曲が客の知らない曲ばかりだと敬遠されてしまう恐れがある。

「当然だけど若い人は20歳以上ね。他にはそうねえ・・・。30代から40代が多いかしら。ちなみに男女の構成比は大体半数くらい。女性でも気軽に音楽と触れ合える場、ってことで好評よ。」

 潤子さんが答える。潤子さんもマスターと出会った時は20代だった筈だから、客の年齢層からすると若い部類に入っただろう。女性でも気軽に入れる店、ということは、音楽に「通」な客もいれば平均的な客も居ると考えて良いだろう。これも客の年齢層が幅広いことを除けば、この店と共通してるな。

雨上がりの午後 第1217回

written by Moonstone

「マスター。そのジャズバーってどんなところですか?」

2003/7/2

[英語力はどこまで必要か?]
 難しい命題ですが、ある程度の区分は出来ることだと思います。まず、インターネットを使う程度で外国人と接する機会がない方。こういう方は中学校程度の文法を知っていれば殆どの文章は読めます。あとは単語の数で勝負です。私達が日本語を使うにしても単語を知らないことには表現のしようがないことを考えてもらえればお分かりでしょう。
 次に英語の資料を使ったり、ある程度の会話が要求される方。こういう方もやはり中学校程度の文法さえ知っていれば大抵対応出来ます。あとはその場に応じた単語の数が鍵となりますね。英語のデータシートを読もうとなれば、それ関連の専門用語の英単語を知っている必要があります。会話も同様です。
 最後に英語で人に見せる文章を作る必要がある方。これは文章の程度によりますが、論文程度ならやはり中学程度の文法を知っていればほぼ対応出来ます。小説を書こうとなると流石にもっと文法を知っている必要がありますが。で、ここでも鍵になるのは単語をどれだけ知っているかということです。極端な話、単語を知っている文法に沿って並べればそれなりに通用します。あとは英語を使う機会を意識的に増やすことでしょうね。小説を英訳するとか。
 晶子は何時になく弱々しい返事をする。いきなり本番、しかもジャズバーで披露するとは思いもしなかっただろう。歌に自信が持てるレパートリーを出したとはいえ、ステージに立つようになって2年も経ってない晶子にとっては酷な条件だ。
 俺は更に厳しい。相手方から出された曲の練習も必要だし、それ以前にMDから自分のパート、即ちギターの音を拾い出す作業が必要だ。これが馬鹿にならない。寝る時間があるのかどうか疑わしいくらいだ。夏休みで講義やゼミがないのがせめてもの救いだ。これらまで重なったら過労でぶっ倒れるのは目に見える。

「で、問題の小宮栄のジャズバーは、俺が以前よく出入りしていた店で、潤子ともそこで知り合ったんだ。」
「そうなんですか。それじゃマスターと潤子さんの思い出の場所でもあるんですね。」
「そうね。今でもたまに行くのよ。生憎マスターは車の運転があるからお酒を飲めないけどね。」

 そういう背景もあるのか・・・。つまり俺と晶子は、マスターがジャズバーを席巻していた時代、潤子さんがOLをやっていた時代の思い出の場所に足を踏み入れるということだ。それなら尚更二人の思い出を汚すような失態は許されない。少なくとも自分のパートは確実にこなせるようにしておくことが必須条件だな。

「君達は俺が運転する車で送迎する。で、練習時間分のバイト代も払う。厳しい条件を飲んでもらう代わりにそれなりの待遇は保障するというわけだ。ここはひとつ、頑張ってみてくれないか?」
「・・・分かりました。やります。」
「私も頑張ります。」

 俺と晶子は連続で返答する。ここまで土俵が整えられたら後には引けない。まかりなりにも今まで様々な曲を練習してはこの店のステージで披露してきたんだ。その場所がジャズバーに変わるだけと思えば多少は気が楽になるような気がする。
 問題はそのジャズバーがどんな場所かということだ。マスターと潤子さんにとっては思い出の場所であり、今でもたまに通っている馴染みの店とは言え、俺と晶子にとっては未踏の地だ。店の雰囲気はどんなものか、客の耳はどれだけ肥えているのか、気になるところだ。

雨上がりの午後 第1216回

written by Moonstone

「マスター、それって俺や晶子にとって・・・。」
「厳しい条件だとは思う。だが、彼らが集合出来る時間とこっちの営業時間を考えると、それが一番妥当な線だろう。祐司君と井上さんには申し訳ないが、暫く大人の我が侭に付き合ってくれ。」
「はあ・・・。」

2003/7/1

[今月の背景写真]
 社会人の方は恐らく昨日ボーナスが出たと思いますが(出てない方、御免なさい)、ごっそり天引きされているのを見て驚いたかもしれません。これは前の国会で政府与党が健保本人三割負担などと抱き合わせで総報酬制(収入の全てを天引きの対象にすること)が導入したからです。私は知っていたので予想はしていましたが、まさかこれほどとは・・・と言うのが実感です。負担は増やすが保障は減らす、という国民生活に痛みばかり与える今の政治を変えるのは、有権者の皆さんの一票であることをこの機会にしっかり肝に銘じてください。また自民党、公明党、なんて言っていたら、自分の首を締めるだけです。
 さて、本日は月始めということで背景写真を変更しましたが(3日で変更するというのは初めてだな)、見たことがない花ではないかと思います。私が職場から病院へ行くルートに咲いている花を日曜の早朝に撮影したものなんですが、私も名称は知りません(爆)。
 ただ、初夏に咲く花だということは昨年の経験で知っています。たくさんの小さな花が集まって一つの大きな花を形成するところは紫陽花と似ていますね。この他にも何枚か用意していますので、ある日いきなり変わるかもしれません。隠し部屋に放り込む可能性もあります。更新チェックをお忘れなく(笑)。
ギターはメロディも弾ければバッキングも出来る便利な楽器だから、必然的に出番が増えるというものだ。前面に出なくてもリズム隊の一員としてしっかりリズムを刻む必要に迫られる。改めて自分のパートの責任感の重さを思い知る。
 相手方からも演奏したいという曲目が伝えられた。幸いにも「Fly me to the moon」が入っていた。その他には「WIND LOVES US」「NO END RUN」「AMANCER TROPICAL」。聞いたことはあるが自分のレパートリーにない曲が殆どだ。これでまた新たに練習曲数が増えたことになる。
 マスターから相手方が言ってきた曲のMDを借りた。これから自分のパートを抽出して演奏することが要求される。思わず頭を抱えたくなる。晶子は「Fly me to the moon」が殆どそのまま使えるらしいから、羨ましく思う。ギターがあるということで、相手方は何か過度に期待してやいないか?

「で、コンサートの日程だが・・・。」

 相手方の演奏曲が伝えられた「仕事の後の一杯」の席上、マスターは最も重要なことを告げる。

「8月の第2週の日曜日ということで会場を押さえる方針だ。向こうも練習が必要だし、今回は初対面の相手とのセッションだから、合同の練習の機会も必要だから、多少余裕をもって日程を組んだ。」
「今から1ヵ月半くらいですか・・・。で、合同練習の日程は?」
「君達が夏休みに入る7月第4週以降の土日の夜、小宮栄のジャズバーで本番を想定した練習をするという方針だ。」
「それってつまり・・・お客さんの目の前で本番同様に練習するってことですか?」
「そういうこと。」

 晶子の問いにマスターはあっさり答える。答えはあっさりしているが内容はとんでもないことだ。練習だからといって簡単にやり直しが出来ない、否、出来ないと言った方が良い。練習を積んでから人前で披露することが常だった俺と晶子にとっては非常に厳しい条件だ。日程的にも時間的にも。

雨上がりの午後 第1215回

written by Moonstone

 マスターの曲は俺とペアを組む曲があるので、必然的に練習する曲が増えることになる。まあこれは止むを得まい。

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