芸術創造センター こぼれ話
Dropped talk of Performing Arts Center

2001年3月30日更新 Updated on March 30th,2000

2001/3/30

[再び新しい時の区切りを控えて]
 明日は年度末ということで(?)近況報告を兼ねての更新です。まあ、基本は実家で静養ですから、それ程変化のある生活ではないんですよね。変わったことといえば、寝る時間が早くなったのと睡眠薬を使わなくても十分寝られるようになったこと、ネットに接続する時間帯が変わって時間そのものも短くなったくらいでしょうか。プロバイダーのアクセスポイントの関係で市外電話を使わざるを得ないので、あまり長時間接続すると実家の電話料金を跳ね上がらせることになるので(^^;)。
 心身の調子はほぼ順調です。唯一鼻が詰まってくしゃみがよく出るくらいです。目は痒くないし多分軽い風邪だと思っています。鼻が詰まると口呼吸になって喉が渇くのが早いので、傍らにあるコップの水がすぐ空になります。
肝心の作品制作はそれなりに進んでいます。折角作品制作に長時間かけられるのですから、更新が長期間止まっている連載も公開出来るようにしたいです。
再び顔を上げると、さっきまでの鬼も裸足で逃げ出すような表情は何所へやら、何時もの晶子の表情に戻っている。・・・手品を見てるみたいだ。

「・・・ご、御免なさい。あんまりにも祐司さんの悪口が聞こえるもんだから、つい・・・。」
「い、いや、俺のことは別に良いけど・・・正直びっくりした。」
「私、一度怒ると無茶苦茶しちゃうんですよ。高校生のとき、担任の先生が私の友達の成績が学年最低だったことをネタにして皆の前で侮辱したのが頭に来て、その先生の頭を力いっぱい花瓶で殴って病院送りにしちゃったし・・・。」
「・・・。」
「だって・・・友人だって好きな人だって、自分にとって大切な人を侮辱されるなんて許せないじゃないですか。だから・・・。」

 さっきの自分の「荒業」を思い出してか紅くなって俯く晶子。俺の口元から思わず笑みが零れる。

「俺も同じだよ。晶子がしなかったら、俺がやってたと思う。それより・・・俺は嬉しいよ。晶子が大切な人だからってことで怒ったってことは・・・俺が晶子にとって大切な存在だっていうことが分かったから。」
「・・・祐司さん。ありがとう。」
「さ、馬鹿な集団は放っといて食べようぜ。昼からさらに忙しくなりそうだしな。」
「・・・ええ。」

 そう言ってフォークとナイフを再び手にした晶子の顔は・・・俺が大好きな何時もの晶子の顔だった。・・・ありがとう、晶子。
 でも・・・晶子しなかったら俺がやろうとしたことをやったなんて、所詮は結果論、そして綺麗事でしかない。晶子と話をしながら食べてただけだった。「報復」のために立ち上がることすらしなかった・・・。

雨上がりの午後 第451回

written by Moonstone

 主婦連は勿論、俺や他の客も声を失い、店にはクラシックの控えめなBGMが漂うだけになる。晶子は小さく肩を上下にしながらプイッと向きを変えて俺の方に戻って自分の席に座り、俯いて一つふう、と大きな溜息を吐く。

2001/3/28

[御迷惑をお掛けしました(_ _)]
 急に管理人である私が消えてしまいましたが、その理由は読んでいただいたでしょうか?人によっては気にするな、とか言いますが、仕事を続けるために仮眠をしていたのに、ただ「寝るなら帰れ」と言い放ったり、ルールを破っている本人が仮眠していた私にルールを口にするとは何事か、という火種にその問題の相手には私も散々苦しめられてきたという過去があったので、火種が一気に猛火に発展したんです。落ち度のなかった私の人格を散々叩き壊した報いは何れきっちり受けてもらうことになるでしょう。
 それはさておき・・・、私が今回思い知ったのは団塊の世代、特に体育会系の人間は能力は低いくせに、プライドは必死で高く誇示しようとする輩が多いということです。体育会系の人間は努力と根性しか知らず、まず年齢や学年を聞いてその結果に基づいて態度を変えます。あの管理職の木偶はその典型的な例です。自分より若いかどうかを尋ねて態度を急変させ、酒の席ではやりたい放題。野球は巨人、選挙は自民党の世代といえるでしょう。
 この世代が日本を作ったなんて言いますが、材料と製造工程などを悉く間違えて作られ、その間違いを正そうとすると「アカ」差別で追いやって完成した今の日本を作った責任を取れ、と強く主張します。有権者やそうでない学生諸氏も「野球は巨人、選挙は自民党」から脱却して、自分で情報を探し、真偽を見極めることが何よりも重要だ。私はそう思います。
「家の娘はしっかり教育してますわ。男には近寄らない、夜の塾は送り迎え。門限は7時。完璧でしょ?」
「家は男の子なんですけど、男女交際は兎角乱れがちですからしないようにと口煩く言っておりますわ。」

 ・・・いい加減なこと言ってじゃねえぞ、てめえら!晶子は俺の家の大掃除を手伝いに来てくれて、丁度昼時でひと段落ついたからこの店に昼飯を食いに来ただけだ!・・・確かに相手の家にお泊りなんてしたことは何度かあるが、19や20になってお前らの価値観から生まれた風紀だ何だと言われる筋合いはねえ!
 それにお前らの教育が正しいと思ってるのか?単に自分の芸術作品が思いどおりに出来ていくのを楽しげに観察してるだけじゃねえのか?常識的な範囲で楽しく付き合っている中高生なんて今時珍しくも何ともねえ!それを自分勝手に制限して何が楽しい?それで教育のつもりか?!
 晶子との楽しいひとときの手前、殴りかかりたいのを必至で堪えていると、突然晶子がフォークとナイフを置いて勢い良く立ち上がる。その顔は・・・眉が吊り上り、唇を噛み締めた今まで見たことのない憤怒の表情だ。視線こそあの主婦連のほうに向いてはいるが、間近で見る俺も恐怖を感じさせるに充分な表情だ。今まで晶子が怒った顔なんて見たことがないから、余計に怖い。立とうとしても立てない。・・・腰が抜けたか?
 晶子はそのままずかずかと主婦連の席に向かい、何と手元に合ったコップの水を力いっぱい主婦連にぶちまける。俺は声も出ない。俺なら兎も角、あんな荒っぽいことを晶子がしでかすなんて・・・。

「・・・さっきから聞いてれば・・・勝手なことばかりべらべらと・・・!」
「な、何なさるんですの?!」
「私と祐司さんは最近付き合い始めたばかりよ!ワイドショーや偏った番組を鵜呑みにして得た知識で、私達をネタにして勝手な噂話しないで頂戴!!」
「ゆ、祐司さん、ですって?まあ、ご夫婦みたい。」
「まだ言う気?!私と祐司さんの仲がどうだって貴方達には関係ないでしょ?!相手をどう呼んだって勝手でしょ?!私達は大学生よ!!それなりに自制して行動できるわ!貴方達は貴方達でお手製の工芸品だけしっかり抱き締めて頬擦りでもしてなさい!!」

雨上がりの午後 第450回

written by Moonstone

「随分良い雰囲気ですわね〜。まるで夫婦みたい。」
「若い美空で昼は外食、夜はホテルと決め込むんでしょうね。最近の子は風紀が乱れてるって本当ですわね。目の前で見ると良く分かりますわ。」

2001/3/19

[力と勢い、持続せず]
 昨日から続く怒りで何時もより早く目覚めて、その勢いで更新準備に取り掛かりましたが、だんだん落ち着いてきたというか、頭を熱くしていたものが徐々に火種のように胸の奥でふつふつと煮え立つような状態になってきました。
 此処で力と勢いを維持していないと目玉になる作品が書けないのに、と、断続的に眠り、CDを何度も聞きながらあのときのことを思い出して火種を再び燃え上がらせようとしましたが元の木阿弥。結局更新の数は前回より増えましたが、小手先の更新が目立つことになってしまいました。
 今日、その火種を再燃させてその勢いで書けなかったものを書きたい。このまま泣き寝入りでは終わらせたくない。何としても・・・戦います。理不尽なものを一つでも追放するために。
 晶子もそうだ。住んでる所はマンションだがそれ程広くないし、あまつさえ自炊さえしてる。仕送りを減らして親の負担を少しでも減らすためだろう。バイトで結構なお金が入っても遊びやアクセサリーに使ったりしてない。それくらい毎日見てれば分かる。なのに、あいつら・・・!

「・・・なあ晶子。変なこと聞くけど・・・良いか?」
「何ですか?」
「俺はバイトの金を完全に生活費に充ててるけど・・・晶子は如何してるんだ?」
「全部貯金してますよ。これから色々お金も要るでしょうし・・・4年の学費くらいは自分で払うつもりなんです。」

 ・・・このとおりだ。分かったか、ババア共!・・・って言わなきゃ聞こえないが。暫くしてメニューがほぼ同時に来て、俺と晶子は早速食べ始める。晶子はこれからの掃除の段取りの案を言ったり、新しいリクエスト用の曲を色々上げたりする。俺は勿論それを聞いて提案に一部改定を唱えたり−国会みたいだな−リクエスト曲の中で晶子の声の音域で一番綺麗にフイットする曲を考えて挙げる。普段平日の昼飯といえば揚げ物中心の学食が関の山だが、こうして全然違う場所で、そして好きな相手と話し、笑いながら食べる昼飯は普段よりずっと上手く感じる。
 ・・・しかし、それでも耳の片隅にあの雑音が引っ掛かって来る。まだ俺と晶子のことをあれこれ言ってやがる。気にしないつもりでも耳に引っ掛かってくるからどうしようもない。店が昼の嵐を通り過ぎて静まりを取り戻したから尚更通りが良い。

雨上がりの午後 第449回

written by Moonstone

 ・・・冗談じゃねえぞ、てめえら。俺は学費こそ親に払ってもらってるが、生活費の仕送りは毎月5万きっかり。それ以外は全部バイトで工面するって約束でこの町で一人暮らしを始めたんだ。勝手なこと言ってんじゃねえ!

2001/3/18

[久しぶりのゆったり更新]
 普段は深夜更新のこのページが、昨日は妙な時間(10:30頃だったか)に更新した理由は・・・急で予期せぬ事情のためです。まあ、早起きできてそれから一度も眠りにつくことなくPCの前に迎えるのは、久しぶりに湧き上がった感情のお陰でしょうね。え?何かって?怒りですよ。怒り。怒りは私の気力の源の一つです。お陰でキー叩きが進む進む。怒りは人間を強くして、それが持続すればするほど目の前の障害を叩き潰す気力が沸いてくるというものです。
 作品制作にとって必要なもの・・・。それはどんな展開にするか、どう喋らせるか、という本質的な部分は勿論ですが、それより前に面倒だと思う気持ちを打ち破れるかということだと思うんです。
 今までは日頃の疲れと心身の調子の悪さの前にそれが破れなかった部分があります。怒りで勢いづいた今、やれることをすべてやって、明日の定期更新でその結果をお見せしたいと思います。

・・・怒りで熱くなったんで、冷水飲んでます(爆)。

「折角来たんですから、もっと良いもの注文しましょうよ。」
「あのな・・・。俺はバイト代が生活費に化けるから懐具合が厳しいんだよ。」
「大丈夫ですよ。高くてもそれと比べて400円か500円くらいなんですから。折角ゆっくりするために来たんですかから、ちょっと贅沢にいきましょうよ。ね?」
「・・・晶子には負けるよ。」

 俺は苦笑いを浮かべながら諦めの溜息を吐く。言われてみればそのとおりだし、ボーナスも出たから400円や500円で躊躇するのは、考えてみれば何だか貧乏くさく思える。俺はプラスチックの置物を元の位置に戻して、広げたメニューに視線を移す。
 少しして俺は焼肉定食、晶子はハンバーグ定食に決めた。晶子はハンバーグが好きのようだ。俺と夕食を食べるときもハンバーグは出てくる比率が少しだけだが高い。何でも「一番失敗する確率が少ない洋食メニュー」なんだそうだが・・・料理の仕方と言えば、フライパンと油で切った野菜を熱すればはい出来上がり、という連想しか出来ない俺には実感が湧かない。
 俺はメニューを元の位置に戻して呼び出しのボタンを押す。すると少しして店員が少し早足気味でやってくる。注文や運びものがひと段落ついたからだろう。俺もバイトで歩く速さを使い分けているから同業者(?)には直ぐに分かる。
 それぞれ店員にメニューを告げると、店員は一度確認のために読み上げて立ち去る。先客が出て行ったせいか静まりが戻って来た・・・と思ったら、妙な話し声、否、雑音が俺の後ろ側から聞こえて来る。声の主は見なくても分かる。この席に案内されるときにすれ違ったあの主婦連だ。

「あの子達、この時間に一緒に喫茶店に来るなんて・・・きっと特別な関係なんですわ。ほら、最近の子は進んでるって言うでしょ?」
「同棲してそうな感じしません?二人とも行動に初々しさがないでしょ?親の目を盗んで同棲してるって言っているようなもんですわ。」
「大学生・・・くらいみたいですよ。多分奥様のおっしゃるとおりですわ。」
「まったく、親のお金で優雅な生活して、さらに同棲なんてねぇ。親の顔が見たいと言うのはこのことですわね。」

雨上がりの午後 第448回

written by Moonstone

「祐司さんは決まりました?」
「ああ、これにする。」

 俺はランチのイメージ画像と価格が隙間に入ったプラスチックの置物を晶子の前でヒラヒラさせる。すると晶子が不満そうな顔をする。

2001/3/17

[貴方はどう考えますか?]
 あるところに一人の社会人(男)が居ました。男は始業時からあと残り2台と迫った機器制作を進めました。昼食を挟んで午後からは発表と会議があわせて4時間以上続き、それからも男は懇親会で隣室で飲んで笑う連中を尻目に機器制作を続け、その間に他の同様の仕事場から来たFAXの質問に回答をし、文章だけでは表現し辛い部分には写真を添付してメールを送りました。
 直属の上司は会議で来ていた方の一人と出掛けたため、部屋には男一人。会議で来ていた方の荷物が置いてあったので紛失した場合のことを考えて、お二人が帰ってくるまでの番人を兼ねていました。
やがてお二人も帰られ、21:00過ぎに仕事がひと段楽したのをきっかけにどっと疲れが出てきて、椅子を二つ並べて横になって直ぐに寝ました。少し寝たら機器製作の続きをするつもりだったからです。
 そしてここからです。22:00前に管理職の木偶が現れ、男はその木偶の声で目を覚ましました。その男は午後の発表にも会議にも出席せず、ただ懇親会だけ出席していました。その木偶はそれまでの男の経緯など知るはずもないのに、ただ、「眠るなら帰れ」「そこは寝床じゃない。ルールってもんがあるだろ」と言って去っていき、隣室を覗けば一人の若い部下を捕まえて主役気分で説教をぶっこいていました。
 男はそれからすぐ帰宅しましたが、怒りと虚無感で更新の準備もせずにそのままベッドに直行。勢い薬を仕事場に忘れたせいで1、2時間おきに寝ては起きの繰り返しで、何時もより早く朝を迎える羽目になってしまいました。

この場合、悪いのはひと段楽した時点で帰らなかった男でしょうか?それとも事情を知らずにその場の状況でものを言った管理職の木偶でしょうか?

雨上がりの午後 第447回

written by Moonstone

「いらっしゃいませ。何名様ですか?」
「二人ですけど。」
「あ、ちょうどさっき空いたところですので、そちらへどうぞ。」

 偶然席が空いたところに来たらしい。俺は晶子を呼び寄せると一緒に店に入る。店内の視線が一瞬俺と晶子に集中する。しかし、それも直ぐに元通りになる・・・とはいかない。いかにも暇を持て余していそうな、よく似た体系と衣服の主婦連が、ウェイトレスに先導されて並んで奥の方の席に案内される俺達をじっと見詰めている。無視して通り過ぎたが、その後ひそひそと話す声が聞こえる。きっと俺と晶子のことをあれこれ推測して話のネタにしてるんだろう。勝手にしてろ。俺と晶子はこの店に昼飯を食べに来ただけだ。
 俺と晶子はかなり奥の4人用らしいテーブルに案内される。・・・此処は違うな。ちょっとした安心感と共に俺が店の出入り口側に座り、晶子は向かい合う形で奥を背にした場所に座る。いっそ並んで座っても・・・なんて思ってしまうが、まだそれを口にするのはかなりの勇気を必要とする。

「祐司さん、如何したんですか?顔、赤いですよ。」
「あ、ああ、寒いところから急に暖かいところに入ったからさ。」

 ありがちな言い訳で何とかその場を誤魔化す。晶子は別段疑う様子もない。もっとも、晶子が俺を疑うことを記憶から探す方が難しいが。
 注文を取ってもらうのは少し待ってもらうことにして、俺と晶子はメニューを広げて食べたいものを探す。とはいえ俺の場合、生活費に響くような高いものは遠慮させてもらいたい。ま、ランチで決まりかな・・・。ちょっと侘しい気もするが。

2001/3/16

[眠気・炸裂]
 午前中はかなり快調で、昼食を食べてから薬を飲んで別室で横になったら・・・(とても数値は書けない)時間熟睡(爆)。それに私の居る棟には誰も居ないし(猛爆)。昨日(実際は一昨日)の準備や片付けで疲れが溜まっていて、それが昼間の薬で一気に炸裂したのか・・・。何れにせよ、慌てて仕事の続きをやって帰宅しました。時計の針を見たときは一瞬目を疑いましたよ(汗)。あ、昨日の問題は無事片付きました(^^)。
 帰宅してからも炸裂した眠気の破片が残っていて、更新作業の準備はしてもとてもそこから先が進めないので、一旦横になって1時間ほどで起きてから連載と日記を書いて更新。時間がかかったのは他のページを少し長く巡回していたのと、連載を書いていて止まらなくなったからです(笑)。書ける時は即興でもすらすらと書けるんですけど、一度躓くと・・・なかなか起きられない(^^;)。
 明日は定期更新直前の追い込み。此処暫くNovels Group 3のみに留まっていますが、此処で本格的活動の足がかりを見つけたいです。
 俺は今まで優子から逃げてばかりだった。関係が切れたあの夜、酒の威を借りて思い出の品物を悉く破壊し尽くしたのも、優子本人に背を向け続けたのも、優子との過去が心の前面に引き出されて、そのときの自分、特に晶子と仲良くなってからの自分が覆い隠されそうな気がしたからだ。
 今やもう、優子は過去へと追いやられ、晶子が傍に居る・・・。そのことを自分の内面で改めてしっかりと認識するには・・・優子との思い出の場所へ行って結うことの思い出を過去へと追いやるしかない。・・・それが一番だ。

 俺と晶子はコートを羽織って揃いのマフラーを巻いて外に出る。流石に冬本番の冷気はコートやマフラー、さらに着込んでも容赦しない鋭さで頬に突き刺さる。この寒さがこれからさらに増すとなると、1月から再び大学へ行くのがある種の拷問に感じられる。
 『Alegre』は俺の家から駅の方に向かって暫く歩いて、線路に近い割と大きな通りに入って左手にある。俺がこの町に来て少ししてから自転車でぶらついているときに見つけた店だ。丁度優子が来た時に行く近場の飲食店をいろいろ探して覚えて居る最中に見つけた店なので、今でもはっきり覚えている。
 優子と切れて以来ずっと行ってないが、少し奥まった場所にある店にしては随分繁盛している店だ。住宅地や繁華街から離れた小高い丘の上にある『Dandelion Hill』とよく似ている。店が繁盛するかどうかは立地条件だけじゃなさそうだ。
 中を覗くとかなり混んでいるようだ。近くの主婦がランチを集団で食べに来るのが大き。今日は御用納めだからだろうか、近くのビルにあるオフィスの人らしい人も居る。二人座れるだろうか?ちょっと様子を伺ってみることにする。
 晶子にちょっと待ってて、と言ってドアを開けると、少し遠いところからいらっしゃいませ、という声が聞こえて、ウェイトレスが走ってくる。店内を改めてみると、やはり相当混んでいるのが分かる。

雨上がりの午後 第446回

written by Moonstone

 俺は何気なくその店の名前を口にしたが、そこはまた過去の記憶と関係の深い場所だ。優子と朝を迎えた後、必ず朝食を食べに行った店の名前だ。そこに晶子を連れ込むことは・・・俺が過去との衝突と決別を兼ねる意味がある。

2001/3/15

[嬉しいお便り]
 日付が変わってから帰ってきました(爆)。どうしても最後の1箇所が上手く動作しない・・・。明日には必ず片付けてくれるわ(燃)。
 さて、原則として毎日、日記と連載を書いてこのコーナーを更新していて、隔週で最低1つのグループを更新していてもろくに反応がないことに日毎に腐っていた私に昨日(実際は一昨日)1通のメールが舞い込みました。
 ちょっと読み出し時間が長かったので、さてはまたDMか、と溜息を吐きながら待機して開いてみたら、何と予想もしなかった励ましのメールでした。約1週間ぶりのそのまともなメールを読んでいくうちに涙が出そうになりました。こうして毎日更新していることを楽しみにしていること、約91000のカウンタが回っているということは楽しみにしている人がそれだけいるということ、などなど、頭では推測できても実感が沸かないことが改めて文章という形でいただけて、本当に嬉しく思いました。
 本日分もご覧頂いてると思いますが、メールを下さった方、本当にありがとうございました。メールのお返事は本業の多忙などの事情で遅れますが、必ずお送りしますので暫くお待ちください。

・・・今日届いたメールはウイルスメール。即刻破棄(怒)。
 晶子が沢山、のところを強調していったのでちょっとムカッとした俺は反論の材料を探したが、実際そのとおりだっただけに反論の材料が見当たらない。完全に俺の負けだ。
 ギターはほぼ毎日使ってるから殆ど汚れはなかったし、音源モジュールも埃を被っていても拭いたら原色の黒色を保持していた。しかし、原色が白や明るいグレーの家具は・・・暗いグレーかと思って水拭きしてみたら実際の明るい家具や電化製品らしい色が見えたときにはびっくりした。気付かないうちにこれだけ埃が溜まっていたかと思うと唖然としてしまう。
 何はともあれ、床を除く家具やものは綺麗になった。後は床を残すのみだが・・・これまた余計に時間がかかりそうだ。雑誌の束など重いものもあるから、拭き掃除をやっていたときの倍はかかるような気がする。時計を見ると12時前。ちょうど昼時だ。

「昼時だし、ここでちょっと本格的に休憩と行くか。」
「そうですね。じゃあ着替えますね。お風呂場貸してくれますか?」
「ああ、良いよ。」

 流石に掃除で作業着代わりに使っていた服のまま外出するのは気が引けるか。まあ、それは俺も同じだが。晶子は鞄から幾つか服を取り出して浴室の方へ走っていった。俺自身も着替えないといけない。彼方此方埃塗れだ。セーターじゃなくてトレーナーにしとけば良かったか。
 俺の方は10分ほどで着替えが終わった。そのときパタンと音がして着替えを終えた晶子が戻って来た。掃除のときはズボンだったが今は茶褐色のスカートだ。上には薄いグレーのセーターとシャツを着ている。着替えて荷物になったさっきまでの服は晶子が抱えて自分の鞄の上に置く。

「さて、何所へ行くかな・・・。」
「私は何でも構いませんよ。」
「・・・じゃあ、・・・『Alegre』へ行くか。」
「『アレグレ』?」
「普通の喫茶店だよ。」

雨上がりの午後 第445回

written by Moonstone

「これでまず、一つの山を越えましたね。」
「そうだな。しかし・・・家具の色があんな色だったとは。」
「それだけ埃を沢山被ってたってことですよ。」
「・・・そのとおりだけに言い換えせない。」

2001/3/14

ご来場者92000人突破です(歓喜)!

 ・・・何かこのところカウンタの回転が早いですね。別にDMで宣伝とか目立つ更新をしているわけでもないのに・・・。管理人の私には摩訶不思議な現象ですが(^^;)、色々なコンテンツをゆるりとご鑑賞ください。

[変なメール]
 感想や励ましのメールがろくにない一方、此処1、2ヶ月の間に変なメールが次々と舞い込むようになりました。大体アダルト関係が半分、DM関係が2割、後は所謂ウイルスメールですかね。それらだけで更新したときの10倍以上の量になりました(爆)。そのために用意したメールアドレスではないぞ。
 アダルト関係とウイルスメールは即刻破棄しますが、DM関係は保管しています。宣伝の表現とかメールのウィンドウに収まるくらいのスペースで必要な情報を書く方法とか、内容よりそちらの方を参考にしています。私が書くとどうしても長くなりがちなので。
 ページの殆どの場所にメールアドレスが表記されてますから、それらが情報として集められるのは止むを得ないとしても、「久しぶりのメールか?」と期待させておいて特にそれがアダルト情報だったときの虚無感と怒りといったらもう・・・(怒)。ウイルスメールは取り出す時間が長いからさらに腹が立ちます(激怒)。メールの内容を自動判別するソフトってないかなぁ〜。

「私も・・・今は今で充分幸せです。マスターと潤子さんも良い人だし、祐司さんが居る・・・。幸せを感じる場所も時代(とき)も違うし、 幸せの価値はそのときそのときで違いますからね・・・。時代の違う幸せを比べるのは意味のないことかもしれませんね。」
「・・・そうだな。」
「もし過去の幸せに拘ってたら・・・今の幸せが幸せに感じられない。それに新たしい幸せを取り逃してしまうかもしれない・・・。」
「幸せは・・・始まりも終わりもある日突然やってくる・・・か。」
「そして何時やってくるか分からないし、時にそれが幸せだって分からないときもある・・・。幸せって色々難しいですね。」

 詩篇の語り合いのような会話が続く。普段はとても出来そうもないことが出来てしまう・・・。これもこの空間の中に居るからだろうか?ゴミと俺の持ち物で雑然とした空間から切り離されたようなベッドの上に生じた小さな安らぎの世界に・・・。
 2杯目の紅茶が尽き始めた頃、ベッドの上に出来た空間が隔絶されていた現実の世界と徐々に融合していく。改めてみると溜息が出るような−つい昨日までそんな部屋を気にもしなかったくせに−ゴミが溢れる空間と・・・。

「そろそろ掃除の続きをしましょうか?」
「ああ、そうしよう。」

 俺が残りの紅茶を一気に飲み干すと、晶子は俺からカップを受け取って自分のカップとティーポットを台所へ持っていき、素早く洗って洗い桶の中に入れる。そしてセーターの袖を再び腕の半分くらいまで上げて、掃除の準備に取り掛かる。
 ・・・と、俺も見てばかりじゃいられない。同じようにセーターの袖を出来るだけ上げてベッドを降りる。掃除はまだこれからだ。のんびりさっきの世界の余韻に浸っている暇はない。

 押入れやベッドの下の引出しの整理をして−奥にあるH本が見つからないようにここは自分一人でやった−、さらに部屋全体を上の方から順番に水拭きしたところでふぅと溜息をついて額を拭う。これだけでもかなり部屋が綺麗になった。下さえ見なければ−此方はまだゴミだらけだ−新品同様だ。

雨上がりの午後 第444回

written by Moonstone

 俺が答えると、晶子は微笑を浮かべる。その微笑みはどこか切なげで・・・共鳴を感じさせる。

2001/3/13

[検査の結果]
 前回医者に採血してもらったのですが、その結果を見せてもらいました。やはりというか、血糖値が非常に低くて(朝起きたときより低いらしい)、自慢(?)の低血圧と組み合えば間違いなく立ちくらみや目眩を起こすというもの。飴などを舐めることを勧められましたが、口の中に物を入れて作業するのが苦手というか出来ない私にはちと無理な相談。これから仕事場にチョコレートを常備しておくか。あれなら気軽に食べられるし。
 今日は更新時間がかなり遅くなりましたが、更新する気力が沸かないまま転寝をしていて、ようやくこの時間になって更新準備を始めたからです。ろくに更新しなくてもメールや書き込みが溢れる巨大サイトとの違いは何なんでしょうね・・・。やっぱり可愛い女の子のCGが描けなきゃ駄目なんでしょうか?・・・何か理不尽というか、こうして毎日更新することに空しさを感じます。
そうすれば気持ちの整理が出来てあの雑誌の山を処分するかどうかこの場ですっぱり判断できたのに・・・。馬鹿な奴だ、俺は。

「祐司さん、如何したんですか?」

 晶子が声を掛けてくる。何時も俺の様子を見ているんだろうか?お陰で思考の波間に飲み込まれることはないが、もう少し考える時間がほしいという気持ちもある。

「いや・・・あの雑誌の山を見て、ちょっと・・・何て言うか懐かしい気分になってさ。」
「右の辺りの束は××年ってあったから、祐司さんの高校時代ですよね。」
「そっ。今までの中で一番やんちゃで、でも・・・気の合う仲間が多かった時代。」
「・・・その頃が一番幸せだったんじゃないですか?」
「・・・かもしれない。でも・・・今と比べるべきじゃないかもしれない。」

 部屋に沈黙が漂う。確かにあの時代は幸せだった。個性ある気さくな仲間とバンドを組んで、傍に優子が居て・・・。だが、今が幸せじゃないのかというとそうでもない。今はあの時代が展開された場所から離れて、言わば別の世界で暮らしている。そこには何故か気の合う友人が居るし、バイト先は居心地が良いし、そして俺の隣に晶子が居る・・・。基本となる条件が違うのに、どちらが幸せか、なんて比べるのはナンセンスな気がしてならない。

「じゃあ・・・今は幸せですか?」
「今は今で・・・充分幸せだよ。」

雨上がりの午後 第443回

written by Moonstone

 関係が切れてから優子とは偶然も含めて2回会う機会があった。その時逃げずに聞いておくべきだった。どうして俺と別れる気になったのか、その原因は何か、ということを。

2001/3/12

[起きては眠る(以下繰り返し)]
 目覚ましより1時間ほど後で起きて昨日行けなかった買出しに行って、帰ってきたらPCの前に座ってカウンタと担当のおしゃべりの内容が異なるグループ(Novels Group 1と3)を更新しようと思った・・・ところまでは良かったんですが、昼食を摂って薬を飲んだら眠気が湧いてきてベッドにばったり(爆)。
 それから2、3時間に1回目を覚ましながら寝続けて、久しぶりにご飯炊いておかず作って食べよ、と思ったのが21:00頃。作り終えて食べ終わったのが22:00頃。眠気の副作用があるとはいえ、殆ど寝てばかりの生活ですわ(^^;)。
 それにいざやろう、と思ってもそれが長続きしないんですね。何かどうでも良くなってしまうというか、更新してどうなるの?と思ってしまうんです。給料よこせ、とは言いませんが、初めての方は勿論、更新しても何の反応もないなら気分次第で更新止めても良いや、と思う今日この頃です。
・・・俺は家が飲食店をしているのに、厨房に立ったことがない。母親も一人暮らしの前準備として料理を教えようとはしなかった。男だから適当にコンビニや外食で済ませるだろう、と思っていたかどうかは知らないが、いっそ店の手伝いついでに多少は教えてもらうべきだったか。

「お茶、もう一杯どうですか?」
「ん?ああ、それじゃ頼むよ。」

 気付かないうちに俺のコップは空になっていた。カップを前に差し出すと、晶子はゆっくりと紅茶を注いでいく。1杯目とほぼ同じ量になったところで注ぐのを止める。感覚でどのくらい注いだか分かるんだろうか?
 時間をおいたせいか、少し濃くなった気がする芳香漂う液体を口にする。晶子が紅茶を持ってきてくれたお陰で、ゴミと埃に塗れた無残な部屋で呆然と立ち尽くすこともない。ゆったりと一息ついて次の段取りを考える。
 やはり山脈になっているあの雑誌の束の幾つか、或いは全てゴミとして処分するしかないだろう。高校時代から買い続けて来たから3年もの、4年ものなんてものもあるが−親にこんなもの持ってってどうするの、と言われた−押入れの中で埃を被ってそのままになっていた。よく考えてみると、開いて読んでいるのは今年の分くらいのものだ。
 でも、いざ「ゴミ」として処分すると何か後味の悪さというか未練が残る。あの雑誌を買っていた時代、即ち高校時代、個性ある友人達と・・・優子が居た。それらを「ゴミ」として処分するのは、あの頃の良き思い出まで処分してしまうような気がする。
 優子を見ると逃げ出したくなるのは、あいつの全てが許せないからじゃない。それまで何とか続けて来た関係を電話一つで断ち切ってしまったことだ。優子との思い出の中には良いものだって沢山ある。それまで「ゴミ」として捨ててしまうのは・・・躊躇してしまう。

雨上がりの午後 第442回

written by Moonstone

 でも、これだけは言える。親から子にその家庭の味を引き継いでいくことが難しい、否、そうすることが急減してファーストフードに代表されるように味が全国均一になっていく今の世の中、晶子と母親はしっかりした絆があると思う。

2001/3/11

[復帰しました(汗)]

ご来場者91000人突破です!(歓喜)

 ・・・最近更新が鈍りがちで、事前の予告なしにシャットダウンしたりしているというのに、来ていただいていることに改めて感謝します。それにしても今回は重症だったな・・・。帰宅したら風呂入って即ダウンの連続(汗)。

 3日間事前の予告なしに(9日に一応表記しましたが)更新を停止したのは、連日の日付変更線突破寸前での帰宅に加え、帰宅と同時に激しい睡魔と疲労感が襲ってきて、ネットに繋ぐどころかPCの前に座れなかったほどの重症だったからです(9日の表示は殆どぎりぎり)。金曜から通算で19時間寝てようやく食欲が回復して疲労感がほぼなくなったので、本日付から更新を再開しました。
 以前もっと忙しかったときは連載を書いて更新して寝るということも出来たんですが、相当体力が落ちている上に直ぐ疲れてしまう今の私ではとても無理です。あの頃はまだ病気になってなかったからな・・・。
 で、これからなんですが、本業の状況に変化はないことから(進んではいますが)、水曜日付以降土曜日付まで更新が不規則になったりしなくなる可能性があります。予めご了承願います(_ _)。
 3分くらい経つと、晶子がティーポットと戸棚から選んだ同じカップを−優子とコーヒーを飲んだ覚えがある−持って再び雑誌の山脈を越えてベッドに戻って来る。晶子の家のようにトレイなんて洒落たものはないからカップは片指に2つ引っ掛けている。躓いて怪我をしたり熱い紅茶を浴びたりしなければ良いんだが。
 幸い、晶子は無事にゴミや雑誌の荒野を乗り越えて、安全地帯であるベッドの上に辿り着く。晶子はカップを2つ共ベッドの上に置いて、そのうち1つに湯気が立ち上る紅茶をゆっくり注ぐ。

「はい、祐司さん。」
「あ、ありがと。」

 俺は晶子から紅茶の入ったカップを受け取る。湯気に混じって林檎の香りが鼻から全身に染み透ってくる。・・・アップルティーか。雑誌の整理の結果、さらに荒涼とした部屋にひとときの安らぎの空間が出来る。
 晶子は自分でもう1つのカップに紅茶を注いで軽く一口啜る。ポットは自分の横に置いてある。二人が二回飲める量を作ってきたようだ。ポットには茶褐色の液体がまだポットの半分よりやや下の辺りまで残っている。

「なあ、晶子。どうして湯を入れて3分待ったんだ?」
「ああ、あれは蒸らすためですよ。そうする方がより美味しくなるんです。ご飯を炊くのと同じようなものです。」
「・・・そう言えば、俺の炊飯器にも『蒸らし』っていう部分があったな。」
「蒸すことで美味しくなったり、それが料理の必要条件だったりするんですよ。」
「結構、奥が深いな・・・。」
「易しい解説書もいっぱいありますし、続けていれば自然と覚えられますよ。」
「そんなもんなのか?」
「私だってそうですよ。基本的なこと、例えば千切りとかそういうことは母に教えてもらいましたけどね。」

 前にこんな話をしてたとき、晶子は母親にこれが千切りか、と言われたことを思い出す。バイトのキッチンで見たり、晶子の家での夕食の千切りを見る限り、そんな下手な時代があったのか不思議でならない。

雨上がりの午後 第441回

written by Moonstone

 紅茶の葉に湯を注いだ時点で完成じゃないのか?どうしてだか分からないが、晶子に任せておけば間違いないだろう。することといえば、紅茶が出来たときに直ぐ飲めるようにマスクを外すことくらいだ。

2001/3/7

[最後の最後で・・・]
 それまで順調に進んでいた機器の組み立て&動作試験が、本当に最後の最後、出力のところで躓いてしまいました。それまで夕食以外休憩なしで続けていて、もう少しで完成だー、と思った矢先に躓いてしまって大ショック。
 表面上は異常が見当たらないので(表面に現れたらもうお終いだが)、これからどうやって異常部分を見つけるかを考えているうちに思わず寝てしまいました(爆)。幸い1時間ほどで目を覚ましたので、問題部分を取り外して検証の準備をしたところで体力の限界に達したのでギブアップ。時刻23:00突破。頼むからストレートで出来てくれよ(泣)。
 帰宅してからは風呂に入って着替えて、連載の執筆とこのお話をしているわけです。平日に包丁を握ったりご飯炊いたりする機会がめっきり減ったなぁ。身体の調子が割と良いことにオーバーワーク気味ですが、またぶり返すと怖い・・・。自分の心身に再び問題が発生する前に終わらせたいです。

「まずは彼方此方に点在する雑誌を年別に一まとめにしましょうか。」
「ああ。そうしよう。」

 掃除の主導権は完全に晶子に握られてしまった。まあ、俺は掃除の仕方なんてろくに知らないから、何時行っても綺麗なままの部屋を維持し続けている晶子の言う手順に従った方が安全で効率的だろう。

「・・・どうにか整理できましたね。」
「ああ・・・。まさかこんなにあったとは・・・。」
「ここでちょっとお茶にしましょ。準備しますね。」

 山というより山脈になった雑誌の束を目の前にしてベッドの上、即ち安全地帯に座っていた晶子が、マスクを外して鞄からティーポットと紅茶の入ったガラス瓶を取り出して、雑誌の山脈を乗り越えて台所へ向かう。そして下の戸棚から片手鍋を取り出す。俺よりよく知ってるな・・・。まあ、以前晶子が整理してくれてから俺がろくに使ってないせいもあるが。
 鍋に水を入れてガスコンロに掛ける。その間に晶子はティーポットの中にガラスのビンに入っている紅茶の葉を、別の戸棚から取り出したスプーンで注意深くティーポットに入れていく。水の量は適当みたいだったから、それ程葉っぱの量に気を使わなくても良いと思うんだが・・・。何時もの習慣か?
 少しして湯が沸いたが、晶子は直ぐに火を止めない。湯気がかなり立ち上ってきたところで火を止めて、それをティーポットにゆっくり注ぎ込む。一気に表面が白くなるところから、あれが相当の熱湯だということは分かる。

「あと3分くらい待ってくださいね。」

雨上がりの午後 第440回

written by Moonstone

 俺がぼやいている間に、晶子はバッグからマスクを取り出して一つを俺に差し出す。埃が出るのは十分予想されることだから、大人しくつけることにする。マスクまでして掃除するなんて、ある意味相当情けない話だ。今まで面倒くささで掃除をサボりにサボったツケが回ってきたか・・・。

2001/3/6

[急速疲労バッテリー?]
 何かするとその度に疲れが溜まってきて、適度に休息しないと次第に顔色が悪くなったり目には見えないけど「疲れてます」と言っているような雰囲気を醸し出す。これが普通の人。
 私の場合は何かする度に急速に疲労が溜まってきて、横になれるところがあれば即ゴロリ。座っていても意識が朦朧として舟を漕いで、後ろのものの角に頭をぶつけたりする。何ともまあ早い疲労の充電(汗)。これは今の病気の症状の一つなんですが、そこそこ食べられるようになった今では、これが最大の問題点なわけです。
 数えてみると大体1日3回は何らかの形で眠っていて、合計するとそれなりの時間になるんです。分散しているのがいけないのか?充電は物凄い急速で放電は普通かそれより遅いバッテリー・・・。機械とかに使われるバッテリーとしては理想かもしれませんが、人間だと何の得もありませんよ(泣)。

「自転車は祐司さんの隣において起きましたから。」
「それは良いよ。それより、さ、一先ず中に入って・・・。冷えるだろ?」
「それじゃ、お邪魔しまーす。」

 晶子は中が割と暖かいのを知ってコートを脱ぐ。茶褐色のセーターに黒のズボンという、掃除をし易い、即ち動きやすい服装だ。かく言う俺もグレーのセーターと濃紺のズボンという、それなりに動きやすい服装をしているが。

「鞄、何所に置いとけば良いですか?」
「ベッドの上に置いておくか。此処は安全地帯、ということで。」
「ゴミや整理中のものは此処には置かないってことですね。」
「そうそう。何せこの様だからな。避難場所を作っておかないと。」

 改めて見回すと・・・晶子の部屋とは正反対の、あっちが穏やかな風吹く平原としたら、こっちは曇天垂れ込める廃墟といおうか。兎に角足を置くスペースが格段に少ない。部屋の面積としては晶子のリビングよりは広い筈なんだが・・・。

「それじゃバッグは・・・よいしょっと。」
「随分入ってるみたいだけど、何入れてきたんだ?」
「これですか?今着てるのは作業着代わりなんで、掃除が終わってから着る服が入ってます。あとはパジャマとタオル。それからマスク。」
「マスク?」
「埃が出そうな場所を掃除する場合は、マスクをした方が良いですよ。埃でアレルギーになることもありますから。」
「・・・埃なら山と出そうだな。」

雨上がりの午後 第439回

written by Moonstone

 俺は一度ドアを閉めてチェーンロックを外してから再びドアを開ける。晶子は大きめのバッグを持っている。・・・やっぱり一泊するつもりか。でも、それにしてもバッグは何やらいっぱい詰まっているようだ。

2001/3/5

[暫くご迷惑かけます]
 週末になるとそれまでの疲労がどかっと出てさらに延々と持続するので、ろくに作品制作が出来ない状況にあります。日曜も殆ど寝ていて起きるのが苦痛でなりませんでした。決して倉木麻衣のCDを聞き続けているからではありません(爆)。
 そのくせ夜は睡眠薬を飲まないと眠れないし、ある時間までに飲まないと翌日に緒を引くので(物凄い眠気と倦怠感が出る)、平日は仕事で帰宅が遅くなるのが目に見えている現状では、普段はこのコーナーを更新するのが時間的にも体力的にも精一杯で、定期更新でも此処での連載を加筆編集したNovels Group 3が辛うじて更新できるくらいです。
 一番の原因は仕事が思うように進まないことなんですよね。幾つか作っていくうちに組み立ての手順は分かっているんですが、回路のごく一部にミスがあったりそれが別の場所で現れる、なんてこともあったりして1つのトラブルを解決するために2、3日かかることもあります。せめてこれが片付けば良いんですけどね〜(遠い目)。
 そんなわけで暫くは定期更新も寂しいものになりますが、これらの諸事情をご理解いただきますよう、よろしくお願いいたします(_ _)。
 トーストに苺ジャムを塗り、インスタントコーヒーを飲む。これも普段と何も変わらない。違うところをいえば暖房の電源を入れっぱなしにして、滅多に姿を現さない掃除機やはたきが壁に立てかけてあって、何時買ったか記憶にないゴム手袋と雑巾がバケツに掛けられて鎮座していることくらいだ。
 昨日、今年最後のバイトを済ませて帰宅してから−晶子の家に連れ込まれて紅茶1杯で乾杯したが−用意したものだ。これらを外に出すだけで雑誌の山を掻き分け押入れの中を捜索した。当日になってから探してたんじゃ到底間に合わないと思ったのが正解だった。
 そうそう、昨日は今年最後のバイトだということで、終わってから順子さんが用意した軽食を囲んで乾杯した。その後、マスターが俺と晶子に今月分の給料と共に所謂ボーナスをくれた。中を見てみたらなんと5万円。今年のコンサートが例年の2倍近い大盛況で、その「要因」となった−そんな自覚はないが−俺と晶子が揃って貰ったというわけだ。臨時の仕送りなど期待できない俺には金の延べ棒に匹敵する重みのある金だ。大切に机の引出しに閉まっておいた。
 さて、朝食を終えた頃に時計を見ると、約束の時間まであと15分くらいある。晶子は朝食を食べてからこっちに来る。多分遅れることはないだろうが、約束の時間まで長く感じる。やがてそわそわと落ち着かなくなって、時計を頻繁に目をやるが、なかなか進まないように感じる。途中で事故にでも会ったんじゃないのか、とか不安まで生まれてくる。
 約束の時間まであと5分となったところで、外の通路の方に人の気配を感じる。また勧誘員か何かか、それとも晶子か、吉と凶の予感が同時に頭に浮かぶ。俺はそそくさと立ち上がってドアの前へ向かう。
 よく響くインターホンが鳴る。俺は鍵だけ外してドアを開ける。ドアの隙間から見えたのは、ベージュのコートを羽織った晶子が立っていた。

「おはようございます。」
「ああ、おはよう。ちょっと待って。チェーンロック外すから。」

雨上がりの午後 第438回

written by Moonstone

 2日後、俺は2コマ目の講義を受けるときの時間に目を覚ました。勿論自発的に目が覚めるわけではなく、目覚ましを枕元に置いたからだ。普段の休日なら不機嫌に目覚ましをベッド脇の棚の一番上に放り出して寝なおすんだが、今日はそういうわけにはいかない。

2001/3/4

ご来場者90000人突破です!

 ・・・3/2に帰宅して一斉確認を行って気付きました。1週間に1000人くらいのご来場者があるようですね。明日の更新は何所まで出来るかな・・・?3/3は例によって寝てばかりだったし(汗)。

[無事帰還しました]
 初めて飛行機に乗っての出張。事故もなく(あったらページ更新は無理でしょう(汗))、無事帰宅することが出来ました。今回は口頭発表はなくて聴講のみだったので、時間的にも気分的にも割と余裕がありました。口頭発表は今まで2回経験したんですが、生きてる心地がしなかったなぁ(笑)。
 1日目最初の記念講演はボイコットして(理由は・・・お話いすると長くなる)会場の敷地を散策していたんですが、無闇に広くて疲れました。体力に限界を感じて休息室のソファに転がったら、目が覚めた頃には1日目の講演は全部終わってました(爆)。特に聞くようなものもなかったから良いんですけど。
 2日目は御当所の方が初めて口頭発表に望むということで、ほぼ全員で会場の一部を占拠(笑)。なかなかお見事な発表でした(^^)。それから幾つか聴講して、以前(創設当初の時期だから私は知らない)私の職場に居て今は此方に栄転されているという方のところへお邪魔して、色々と施設見学してそれから帰路に着きました。
 心身の調子がかなり安定していたので、不測の事態に備えた薬も必要なかったです。トラブルと言えば、荷物をホテルに預けたため途中下車して他のメンバーから遅れたり(でも空港行きバスには間に合った)道に迷って交番に駆け込んだり、2日とも目覚ましの時間設定ミスや目覚ましを消したことで大慌てで会場に向かったこと(間に合いましたけど)くらいですね。・・・多い(汗)。あと、飛行機の離陸時の加速は凄いと言うのが印象に残ってます。
「俺の?」
「ええ。祐司さんだけだと雑誌を積み重ねて終了、って感じがするし、二人なら効率よく出来ますよ。」

 前半はちょっとムカッとしたが、充分予測される行動だけに反論できない。それに雑誌の量や隠れたゴミの片付けを考えると、1日では到底終わりそうにない。ゴミ溢れる中で寝る羽目になりそうだ。・・・人によっては既にそういう状況になっていると言われるかもしれない。
 それに俺は、歩く場所があれば掃除する必要がないと思うくらい掃除が嫌いで苦手なタイプだ。すっぱり残す、捨てるの判断が出来る「他人」が居る方が思い切った片付けが出来そうだ。

「・・・じゃあ、手伝ってもらおうかな。想像以上に手間かかるかも知れんぞ。」
「大丈夫ですよ。日を越す場合は一泊させて貰いますから。」
「・・・あのな。」

 本当に警戒心がないというか何というか・・・何時俺が狼に変貌するか知れないのに、よく気軽に一泊させてくれ、と言えるもんだ。それだけ信用しているということか、それとも・・・欲望の手を伸ばせるような度胸はないと高を括ってるんだろうか?
 どうにか告白という一大事を乗り越えて以来、その気になれば押し倒したり、ベッドで覆い被さる機会は何度もあった。実際そうしようかと思ったこともある。でも・・・そうするには至らなかった。どうしてだ?
 優子との経験で知ったからだろうか?最後の一線を越えたとしても、それは心を繋ぎ止める理由にも、絆を強める理由にもなりはしないということを・・・。そして両者の合意が何よりも不可欠だということを・・・。過去の経験が今の自分に生きている・・・嫌な過去は全て否定するばかりで良い、と思っていたが。こうして今のある状況に生きてくるときが来るものなのか。

「・・・一泊する覚悟で来た方が良いかもしれない。確かに。」
「前にお邪魔したとき、雑誌の山が彼方此方に出来てましたからね。」
「実家に居た時からのものもあるからな。押入れに無理矢理放り込んだものもあるし、見るのも怖い状態になってるかも・・・。」
「大丈夫ですよ。私が非情とも思える判断を下しますから。」
「お手柔らかに。」

 俺は苦味を含んだ微笑を浮かべる。すると晶子が急に頬を赤らめていく。別に好きだ、と言ったわけにもないのに・・・何故だ?

雨上がりの午後 第437回

written by Moonstone

 何気なく俺がぼやくと、晶子が思い切った提案をする。

「それじゃ、明後日祐司さんの家の大掃除しましょうか?」


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