芸術創造センター こぼれ話
Dropped talk of Performing Arts Center

2001年12月31日更新 Updated on December 31th,2001

2001/12/29

[今年最後の更新です]
 3月から5月にかけて大荒れだった今年もあと僅か。このページの更新も今日が最後です。年賀状メールの準備も殆ど完了し、あとは当日の発送を待つのみです。私は年末年始に帰省しますが、ネットにはあまり繋ぎません。元旦の年賀状メール発送の際に少し更新する可能性はありますが。
 直筆の(イラストは印刷任せですが)年賀状も昨日無事に全てポストに投函しました。30枚以上の年賀状を一気に書き上げられるか不安でしたが、やってみると案外早いものなんですよね。それならもっと早くやれ、と言われると何も言い返せませんが(^^;)、1年経つと忘れちゃうんですよね。
 このコーナーのリスナーの皆様はどんな年末年始を過ごされるのでしょうか?私のように帰省される人やスキーや旅行に行く方も居られることでしょう。何れにしても事故や病気のないように年を越されることを願っています。

それでは皆様、良いお年を!(^^)/^^^

「俺もバンドやってたから頭の固い生徒指導の先生と睨み合ったりしたこともあるけど・・・晶子みたいに持って生まれたものに難癖付けられたりしたら、反抗して暴れるか登校拒否するかのどちらかだったと思う。本当に・・・辛かったな。」
「止めて・・・。慰めるのは・・・。」

 晶子の声が震え始め、その大きな瞳から涙が零れ落ちる。水晶にも似たその雫が晶子の手の甲に落ち、小さく弾けて小さな水溜りを作る。俺は晶子の肩をそっと抱いて自分の方に引き寄せる。晶子は声を出すまいと唇を噛み締め、嗚咽を漏らす。その目から止め処なく辛さの篭った涙が溢れ、頬を伝って零れ落ちる。
 俺は慰めようと言葉を捜すが、直ぐに止める。こんな時に下手な慰めの言葉をかけても無駄だし、不要だろう。ただ気の済むまで泣かせてやることで慰めになるんだと思う。今の俺にはそれくらいしか思いつかない。
 暫く震えていた晶子の体から震えが徐々に消える。晶子が真っ赤に充血した目で俺を見上げる。見ているだけで充分痛々しいその様を見て、俺は晶子の頬に出来た涙の跡をそっと拭う。

「・・・ありがとう・・・。祐司さん・・・。」
「礼なんて要らないさ。それより・・・少しは気が楽になったか?」
「はい・・・。泣いたせいで・・・嫌な記憶を流せました。」

 晶子は俺に完全に委ねていた体勢を立て直し、俺に密着した状態になって顔だけ俺の方に向ける。丁度真上を見上げるよう体勢と言えば良いだろうか?涙の後は消えても目の充血が痛々しい晶子の顔に笑みが浮かぶ。それだけで俺は胸を撫で下ろす。

雨上がりの午後 第691回

written by Moonstone

「・・・辛かったな。」
「止めてくださいよ・・・。私は・・・今この髪の色で居られることで充分なんですから・・・。」

2001/12/28

[急いでます(汗)]
 このお話をした後、年賀状書きが控えています(汗)。枚数が結構あるので今日中に出来るかどうか怪しいものですが、何とか完成させてその日のうちにポストに投函するつもりです。てなわけで今日のお話は短く済ませます(何時もそんなに長くないですけど)。
 今回の年賀状は前にも書きましたがプリンタの不調で、コンビニの印刷に頼らざるを得ませんでした。今まで干支とは無縁なオリジナル写真+一言メッセージだったのですが、場合が場合だけに仕方ありません。一言メッセージには今回から個人的付き合いのある方にURLとメールアドレスを付記します。果たしえ反応があるかどうか・・・。あまり期待はしていませんが、一種の自己PRにはなるでしょう。今ちょっと酔っているので(をい)気をつけて書かないと・・・。
「洗う時はまだ良いんですけど、乾かすのに時間がかかるんですよ。今くらいの時期になったらしっかり拭いて櫛で整えて終わりですけど、冬場はドライヤーで強制乾燥させるんですよ。風邪ひいちゃいますから。」
「そんな日々の手入れの結果が、晶子のその綺麗な髪を形作ってるんだな。」
「綺麗って言ってもらえると嬉しいです。今まであんまり良い思い出ないですから・・・。」
「どうして?」

 少し沈んだ晶子の表情が気にかかって、俺は思わず尋ねる。直ぐに答えを返さないところを見ると、聞かない方が良かったかな、と今更ながら後悔する。晶子は少しの沈黙の後、やはり沈んだ表情のままで口を開く。

「私の髪、見てのとおり茶色がかってますけど、これ、染めたり脱色したりしてるわけじゃなくて生まれつきのものなんですよ。でも、中学や高校では生徒指導の先生に『髪を茶色にすることが許されると思ってるのか!』とか何度説明しても度々難癖つけられたり、あまり質の良くないグループの人達から『優等生のくせにカッコつけるな』って言いがかりをつけられたり、街を歩いていて年配の人から白い目で見られたりして・・・。大学に入ってようやく自分の髪の色にコンプレックス持ったり、周囲の目を気にしなくて良くなったんですよ。」

 辛い。聞いてるだけでも十分辛い。それを我が身で味わった晶子はよく中高6年間耐えて来れたもんだ。それだけでも賞賛の拍手を送りたくなる。

雨上がりの午後 第690回

written by Moonstone

「お待たせしました。私、髪の毛洗うのに時間かかる上に長風呂なもので・・・。」
「それだけ髪が長いと洗ったり手入れしたりするのも大変だろ?」

2001/12/27

[悩むアートワーク]
 今依頼者の都合で停止している仕事の、これまでに見つかったバグを取り除いた回路配線図(アートワーク)をしているのですが、これがなかなか難しい。どうしてかというと、配線が1本新たに加わっただけで、これまでの配線を変更せざるをえないことがあるからです。
 この1本さえなければ、でもこの1本は必要だし、という一種のジレンマに陥ること数日、昨日ようやく解決しました。たった1本だけでこうも違ってくるとは、ある程度予測していたとはいえ厳しいですね。
 でも、これで終わりではありません。新たに追加する素子もありますし、その配線も当然割り込んでくるわけで、難題は山積みです。今年中に終れば万歳だったのですが、ちょっと無理みたいです。出来るところまでやって来年に繋げようと思います。そう言えば今日は、年賀状の印刷が出来てくる日なんだよな・・・。家じゃ宛名書きが待ってるのか(溜息)。
晶子の入浴の様子をリアルタイムで−以前、俺が熱を出して寝込んだ時に俺の家の風呂を使ったというが、俺は寝ていたから全く知らない−耳にするのは勿論初めてだ。俺の中で妄想と共に邪な考えが疼く。
 だが、表に出てきた疲れと心地良さが災い(?)してか、その邪な考えを実行しようという気にはなれない。妄想はしぶとく残っているが体の中心から熱くなるほど強烈且つ鮮明なものじゃなくなってきた。シャーッという音が聞こえなくなり、きっと晶子も良い気分で湯船に浸かってるんだろうなぁ、というくらいしか妄想が膨らまない。
 俺は頬杖をついて「Can't forget your love」に再び耳と心を浸す。これも晶子の策略なんだろうか、と思ってみたりもするが、いくら策士の晶子といえども、まさかそこまで策略を巡らそうとは思わないだろう。俺は湯船に浸かっているような良い気分でクリスマスの夜を髣髴とさせるBGMに意識を預ける。ふわふわ漂う旋律と音色で、心地良さは更に増す。このまま寝てしまいそうだ。

・・・。

 −何度「Can't forget your love」が繰り返されたか分からない。意識が殆ど遠ざかっていた俺は、ドアのノック音で急激に現実世界に引き戻される。

「どうぞ。」

 ちょっと場違いな応答をすると、ドアが開いてピンクのパジャマにはんてんを羽織った晶子が入ってくる。真冬でもあるまいしちょっと大袈裟じゃないか、とも思うが、風邪を引いて喉が潰れるのを警戒しているんだろうと思うと、その「厳重装備」にも納得がいく。晶子は風呂の準備をしに行くときとは違って、ベッドと俺の背中の間を通り抜けて俺の隣の「指定」クッションに腰を下ろす。

雨上がりの午後 第689回

written by Moonstone

 控えめの音量の「Can't forget your love」に乗って、シャーッという音がドアの向こうから聞こえてくる。・・・シャワーの音か?そう思うと、俺の頭の中に晶子がシャワーを浴びている様子が急速に妄想として浮かび上がってくる。

2001/12/26

[クリスマスなんて嫌いだ!!]
 昨日が正真正銘のクリスマスだったわけですが、腹立たしいったらありゃしない。台所の掃除を終えて来年まで使わないことを決めているので、夕食は必然的に外食になるわけですが、立ち寄った1件目の店では「5000円のクリスマスメニューしか・・・。」と言われ、幾ら何でも夕食に5000円も出す気はない私はその店を出ざるを得ず、続いて立ち寄った店も和食のくせにクリスマスメニューなど持ち出して、予約でいっぱいだと見事に門前払いを食ってしまいました(激怒)。
 結局自宅近くの焼肉屋で(最近見つけたばかりだったりする)夕食を食べたわけですが、そこでもエンドレスでクリスマスソングが流れていて、空腹だったのと2件門前払いされた怒りで余計に耳障りに聞こえました。クリスマスなんて嫌いですよ。クリスマスに便乗して暴利を貪るなんてあくどいというには度が過ぎます。今までもしませんでしたが、このページでは今後絶対クリスマス特集なんてしませんからそのつもりで。
「ん・・・。ちょっとな・・・。」

 俺は言葉を濁して晶子から視線を逸らす。晶子の真っ直ぐな瞳で見詰められると、自分がより一層情けない存在に思えてならないからだ。晶子は立ち上がってゆっくりと俺の元に歩み寄り、俺の右頬に手を当てて少し背伸びして唇を軽く押し付ける。俺の左頬に熱い点が出来た・・・。突然の晶子の意味不明な行動に俺はその場で固まってしまう。

「しっかりして。私の大切な人なんだから。」

 晶子は俺の耳にそんな言葉を残して早足でリビングから出て行く。俺はまだ唇の感触が消えない左頬に手を当てて、晶子が残した言葉を反芻する。部屋に流れる「Can't forget your love」が心に染み渡る。俺は・・・晶子に晶子なりの激励をされたんだ。そう思うと、嫌な色の海に沈んでいた心が徐々に光を取り戻しながら浮上してくるのを感じる。
 俺の口元に自然に笑みが浮かぶ。また晶子に余計な心配をさせちまった・・・。浮かんだ笑みには自嘲が篭っている。しかし同時に「やる気」の再燃を告げる狼煙の意味もある。そうだ、晶子の言うとおりだ。俺がしっかりしてなかったら、晶子はどうすりゃ良いんだ?何度も自分自身に問い掛けてその度に一つの答えを再確認した筈なのに、もう忘れちまったのか?
 全く困った奴だ、俺は・・・。そう思いながら「指定」のクッションに腰を下ろす。仄かに暖房が効いた部屋は湯冷めを防いでくれる。今日一日の疲れが表に出てきたのを感じながら、部屋に流れている「Can't forget your love」に耳を傾け、心を凭れさせる。柔らかいストリングスに乗った倉木麻衣らしいウィスパリングボイスが綿の球体のようにふわふわと部屋に漂う。良い気分だ・・・。さっきまであれこれ悩んでいたことが嘘のようにさえ思える。

雨上がりの午後 第688回

written by Moonstone

「お待たせ・・・。」
「湯加減どうでした?」
「丁度良かったよ。晶子のすることに問題を探すのは難しい。」
「・・・どうかしたんですか?」

2001/12/25

[惰眠貪る一日]
 昨日、何時もより1時間遅く目をさましたは良いものの、あまりの寒さと休みだという意識と布団の温もりという誘惑に負けてそのままお休み。何度か目を覚ますも寒さが邪魔で起きようという気が起こらず、一先ず寒さが凌げるほどになった午後2時ごろにようやく布団から出ました(^^;)。
 本来なら今日は家の掃除なのですが、昨日やってしまったのでとりわけすることも無く、のんびりした日を過ごしました。夕食はちょっと豪華にしてケーキを3つ食べたことくらいですかね、普段と違うところは。
 ラジオをつけてもクリスマス特別編成になっていたり、鬱陶しいことこの上なかったのですが、いちいち腹を立てても仕方ないこと。雪が降らずに晴れ上がった良い日でした(雪は嫌い。降る時は無茶苦茶寒いから)。
 また思考の泥沼に嵌って沈んでいたのか。それも頭や体洗ったりした時間を除いて−こんなものはせいぜい5分程度だ−20分近くも・・・。それで晶子に心配をかけてしまうなんて、俺も罪作りな奴だ。カッコツケじゃなくて嫌な意味で。俺はもう晶子に依存しないといけなくなっているんだろうか?そう思うと益々自分が情けなく、そして小者に思えてならない。

「大丈夫。物思いに耽ってただけだから。もう出るよ。」
「そうですか。じゃあリビングに戻りますね。」
「ああ。・・・済まない」

 最後はどうしても音量が下がってしまった。心配を掛けたことを詫びることさえまともに出来なくて何がプロだ・・・!自分の情けなさが怒りに変わる。俺は立ち上がって湯船から出て、ドアの向こう側に晶子の気配がないことを確認してドアを開けて外に出る。
 約40度の湯と蒸気に満たされていた空間から出ると、急に肌に突き刺さるような冷気が襲ってくる。俺は急いで薄いブルーのバスタオルを手に取って手早く頭から順に体の表面の水分を拭き取り、脱衣籠に入れておいた服を着る。下着も替えたいところだが、突然晶子の家に泊まることになったから着替えなんて持ってる筈がない。それに1日くらい下着を替えなくても死にはしない。
 髪型なんかにこだわりがない俺は髪を手櫛で適当に整えながら、リビングに通じるドアをノックする。はい、という応答が返って来たところで俺はドアを開ける。リビングでは晶子が「指定」のクッションにちょこんと座っていた。

雨上がりの午後 第687回

written by Moonstone

「ああ、大丈夫だけど・・・、どうして?」
「だって祐司さん、10分くらいしかお風呂に入らないって言ってたのに、もう20分以上入ってるから、寝てるのか逆上せちゃったのかと思って・・・。」

2001/12/24

[大損害だ!]
 年賀状印刷のために久しぶりにプリンタを動かしたのですが、まともに印刷されない・・・。紫系統しか色が出てこない、しかし、インクカートリッジを使い切らないと不具合を起こすとあるし・・・。仕方ないのでひたすら印刷させてインクカートリッジを使い切らせて(5時間かかった・・・)、昨日新品を買いに行ってセットして印刷してみたら・・・

一昨日と状況変わらないじゃないか!!(激怒)

 どうやらノズルが完全にイカれてしまったらしく、もはや使用不能と判断。コンビニに駆け込んで印刷を依頼しました。その印刷代だけで1万円ぐらいかかる計算・・・。動かないプリンタが益々腹立たしく思えてならないです。自棄になって部屋の掃除やっちゃいましたよ。ええ。
 その他、久しぶりにCD買ったり今日食べるケーキ買ったりしたので、かなり散財したんですよね。インクカートリッジも結構高かったのに・・・。PCを入れ替えるついでにプリンタも良いのに入れ替えないといけないですね。それにしても、インクカートリッジ代、惜しいなぁ・・・(しつこい)。
一緒に風呂に入る・・・。このまま俺と晶子の仲が深まれば、そうなる可能性は否定できない。何せ晶子は俺との同居の希望を口にしたくらいだ。そうでなくとも俺が音楽のプロを目指すことにすれば、必然的に晶子と生計を共にすることになるだろう。下積みでろくに収入が期待できないであろう俺は、晶子が前から言っているように晶子に支えてもらうしかないんだから。
 でも・・・晶子に完全に依存して良いんだろうか?晶子のことだ。今の痛いほど一途な想いが続く限り、音楽のプロを目指す時は俺を支え続けてくれるだろう。だが、その想いが必ずずっと続くという保証は何処にもない。晶子の気持ちを疑うつもりは毛頭ないが、この世に絶対というものが存在しない以上、晶子にべったりというのは問題があるんじゃないか?
 ならどうする?「流し」の間にアルバイトを挟むのか?それこそストリートミュージシャンになって当てのない収入に期待するのか?それとも今のバイトを続けて何処かのプロダクションの目に止まるのをじっと待つのか?
 そもそも俺に音楽のプロになるだけの腕前があるのか?確かに前には満員に近い客から大喝采を浴びたが、それはあくまで演奏した曲がよかったからであって、俺の演奏そのものが共鳴を呼んだんじゃないかもしれない。その証拠にマスターも潤子さんも、そして晶子も演奏したり歌ったりする度に拍手喝采を浴びるじゃないか。
 マスターや潤子さんの腕前は玄人裸足だと思うし、晶子の歌唱力も右肩上がりだ。そんな中でたまたま客から大喝采を浴びたくらいでプロになりたい、否、なれたら良いな、と思うこと自体が思い上がりも甚だしいんじゃないか?

・・・俺は・・・何処へ進むべきなんだろう・・・?

「祐司さん、大丈夫ですか?」

 ドアの向こうから聞こえてきた晶子の声で俺は我に帰る。湯煙に霞んだドアの向こう側に晶子のシルエットが見える。どうしたんだろう?

雨上がりの午後 第686回

written by Moonstone

 音のしない小ぢんまりとした空間。俺は腹の中に溜まってきた溜息を吐く。益々他所様の家の風呂場という認識が薄らぐ中、俺はすれ違い様に耳に引っ掛かった晶子の囁きを反芻する。

2001/12/23

[半日寝てた・・・(汗)]
 定期更新間もない昨日、あまりの寒さに耐えかねて朝食を食べた後、殆ど布団に潜ってました。これというのもエアコンがまだ直らないからだ・・・。こいつさえ直ってれば順調にことが進んだものを・・・(怒)。まあ、眠かったということもあったのは事実ですが。
 夕方過ぎにもそもそと起き出して、このお話をしています。仕事とも冬コミとも無縁なこの連休で、定期更新、年賀状書き(+余裕があれば電子メールも)、そして家の掃除をしようと思っています。でも、1日目からこんな状態で果たして大丈夫なんでしょうか?今からちょっと不安です。厄介なものが二つも絡んでますからね。昨日みたいなことにならないように、ホットカーペットは常時オンで、厚着でこの寒さを凌ぎましょうかね。・・・寒いの嫌い。
「そうですか。それじゃ途中から一緒に入るのは無理ですね。」
「なあ?!」

 仰天した俺は思わず妙な声を上げる。俺が風呂桶にのんびり浸かっている最中に、前をタオルで隠した程度の晶子が入ってくる・・・。そんな場面を想像、否、妄想していると鼻血が出そうだ。本当に出そうな感じがした俺は、鼻と口を手で覆う。

「冗談ですよ。」
「あ、そ、そうだよな。冗談だよな。ははは・・・。」

 俺は照れ隠しに頭を掻いて、晶子の居るドアへ向かい、晶子の横を通り過ぎようとする。その瞬間、俺の耳に辛うじて聞こえる程度の囁きが飛び込んでくる。

「何時かは一緒に入るんでしょうね・・・。」

 あまりに唐突な囁きに俺は思わず聞き返しそうになるが、また晶子に冗談だとかわされると思って、俺はそのまま風呂場へ向かう。全く俺の想像、否、妄想のネタを提供するのは止めて欲しいものだ。もし俺が本気にしたらどうするんだよ・・・。

 何時ものように頭と身体を洗ってから、湯船に身を浸す。丁度良い湯加減に思わず深い溜息が出る。こうしていると本当に此処が晶子の家だという感覚が拍車を掛けて薄らいでいく。自分の家の湯船に浸かっているのと気分的には殆ど変わらない。

雨上がりの午後 第685回

written by Moonstone

「それじゃ、お言葉に甘えて・・・。」
「祐司さん、お風呂どのくらい入ります?」
「んー、大体10分くらいかなぁ。実家じゃ烏の行水って言われてたくらいだし。」

2001/12/22

[もう限界っぽい・・・]
 自宅のエアコンがぶっ壊れて半月あまり。日に日に寒さは増していき、局地的な部分しか暖かくならないホットカーペットでは、日常の行動に支障をきたすようになってきました。コタツと同じで、その場(ホットカーペットのあるところ)から動けないんですよ、寒くて。
 それだけならまだしも、空気が冷たいせいでキーボードを長時間叩いていられないんです。かなりの冷え性なもので、暖かい場所でないと手足の先が(足はホットカーペットがあるから良いですが)冷えて動かなくなってくるんです。実際今もそうです。まだ血の気があるからまだましですが・・・。何時になったら直してくれるんだ?!見積もりだしてくれるんだ?!ビー○ーエアコンを扱う某社よ?!こうしてお話している間にもう手が冷たくなってきたぁ・・・(泣)。
 ドアの向こうから少しくぐもった、でも甲高い電子音が聞こえてくる。風呂の準備が出来たという合図だろう。俺の家のと比較しても1回の電子音の周期が違うくらいだ。
 晶子はすっと立ち上がって、御免なさい、と一言断ってから俺の足を跨いで急ぎ足でドアの向こうに消える。別に断りを入れる必要もないのに・・・。まあ、そういう几帳面なところが俺にはないところであって、それが同時に晶子の魅力でもあるんだが。
 ドアの向こうから微かに何やら物音がする。バスタオルとかの準備をしているんだろう。実はバスタオルは共用・・・なんてことはないよな、きっと。・・・全く何を想像、否、妄想してるんだ、俺は・・・。
 少ししてトタトタと床を走る音がして、ドアが開いて薄手のセーターの袖を少し捲った晶子が姿を現す。何で袖を捲ってるんだろう?湯加減を確かめてたんだろうか?俺の家のもそうだが、今の風呂は大抵、設定した温度に湯加減を調整してくれるというのに・・・。それともバスタオルとかを出したりするのに邪魔だから捲っただけかもしれない。何にせよ、それ程気に留めるようなことじゃない。

「お風呂の準備できましたよ。祐司さん、お先にどうぞ。」
「俺から?」
「だって祐司さんはお客さんですから。普通、お客さんに先にお風呂に入っても貰うでしょ?」
「まあ、そう言われればそうだな。」

 とは言ったものの、自分が客だという意識は極端に薄い。実際立ち上がろうとしてもクッションを通して根を張ったみたいで思わず掛け声を上げそうになるし、クッションも「指定」のものだし・・・。晶子に言われてようやく客とは認識したものの、いまいち実感が湧かない。此処が女性専用じゃなかったら、こうして同居が既成事実化していくかもしれない。否、多分そうなるだろう。前に晶子は俺との同居の希望を口にした「前歴」があるしな・・・。

雨上がりの午後 第684回

written by Moonstone

 俺と晶子は顔を見合わせてくすくすと笑う。共に失恋という痛手と受験という壁を乗り越えた俺と晶子の絆は、ある意味同じような経験を味わった連帯感が中枢を占めているのかもしれない。

2001/12/21

[年賀状作成]
 年の瀬になると話題に上るのがクリスマスと年賀状(笑)。私はクリスマスはほぼ無視を決め込みますが(ケーキ食べるつもり)、年賀状は1枚1枚手書きで宛名とメッセージを書きます。普段連絡を取れない人とは年1回、1枚の葉書を通してメッセージをやり取りしようという考えです。
 ネットでの友人にはいちいち住所と本名を聞いて・・・なんてやってる暇も余力もないので(メールだと秘匿漏洩の危険性があるし)、メールで年賀の挨拶をする予定です。実物の年賀状が出来てからの話になりますが、普段お世話になっている方にメッセージを添えて1月1日未明に一気送信を目論んでいます。それにしても、年賀状を買ったときはまだ一月ある、と思っていたのがあと15日を切ってるんですからね。全く時の流れは早いものです。
 晶子に問われて俺は描写や表現を思い出しながら−みっともないという気分はまた大きくなってきたが−考えを纏めて晶子に言う。

「良かったと思う。主人公の心理描写を中心にした話の進め方が結構面白かったし、相手、ってまあ俺のことだけど、その時の状況が良く分かるし。」

 不安げに曇っていた晶子の表情がぱあっと晴れ上がる。自分だけの中で書き進めてきた私小説とはいえ、他人である俺に見せた以上、その反応が気になるのは当然だろう。小説を書いたことはなくてもそれくらいは分かる。

「嬉しいか?やっぱり。」
「ええ。自己満足の世界で書いてきた私小説とはいっても、人様に読まれて誉められると嬉しいですよ。」
「俺の評価はあんまり当てにならんぞ。高校の時、国語と古文は大の苦手だったからな。」
「へえ。そうなんですか。」
「今思うと、受験勉強で頭に無理矢理詰め込んだってのもあるけど、それでよく大学に入れたなって思うよ。」
「私は祐司さんとは違って物理や化学が苦手で・・・。今の大学に入れたのは殆ど国語と英語で点数を稼いだと思いますね。」
「物理や化学か・・・。それまで苦手だったら俺は迷わず就職組に入ってたな、きっと。」

 国語も古文も苦手、英語が及第点、といった俺は、数学と物理化学が出来なかったら、実家か他の会社に「就職」するしかなかっただろう。そういう意味で俺はぎりぎりで、まさに綱渡りで今の大学に入れたと言って良いだろう。

雨上がりの午後 第683回

written by Moonstone

「ん・・・何て言うか・・・自分のあの時の情けない荒れ様を見せ付けられるのが恥ずかしくてさ・・・。」
「仕方ないですよ。祐司さんが荒れてたのは。私も失恋した時を今思い出してみると結構恥ずかしく思えますから。それより・・・出来はどうですか?」

2001/12/20

[良い音色・・・]
 世間のクリスマスとは縁遠い私ですが、昨日講演会の後に行われたクリスマスコンサートに聞き入っていました。コンサートと言っても何処ぞのライブのような派手なものではなく、聴衆50人くらい、演奏楽器はリコーダーとチェンバロというささやかなものでした。楽器の組み合わせからして流行りものの音楽ではないことが分かると思いますが、演奏曲は17世紀辺り、ガリレオが生きていた時代の曲でした。
 私自身、チェンバロを生で聞くのは初めてですし、それとリコーダー(正式にはルネッサンス・リコーダーといってクラシックなもの)との組み合わせということで注目していたんですが、これがまた凄い。演奏者お二人の腕前は玄人裸足で、独特の響きのチェンバロと柔らかいリコーダーの音色が絡み合い、美しい楽曲となって小さな会場いっぱいに広がりました。
 クラシックの雰囲気が充分に溢れる演奏は30分ほどで終了しましたが、その反響は当然良好で、惜しみない拍手がお二人に送られました。少人数とはいえ、人前で演奏するということは相当緊張を強いられたと思いますが、実に見事な演奏で年の瀬を彩ってくれました。良い時間を過ごせたと満足してます(^^)。
でなければ、初対面の−正確には二度目だけど−相手にあんな言い方はしない筈。一体何があったのか、無性に知りたい衝動に駆られた・・・。」一方的なやり取りの後にそんな記述がある。もうこの頃から晶子は俺に興味を抱いていたということか。一過性のものだとろくに気にも留めなかった−でも、しっかり覚えていたりするが−俺とは随分対照的だ。
 でも一つ腑に落ちない点がある。俺が晶子の兄さんに似ているという話は何度も聞いたが、どうしてこの小説では「あの人」と書いているんだろう?率直に「兄」と書けば済むことなのに・・・。
 まあ、事実を元にした私小説なんだから、何もかも本当のことを書く必要もないか。それに「あの人」と表現した方がより強い想いが会ったことを感じさせるしな。気にするようなことじゃないだろう。・・・でも、やっぱり引っ掛かるのは事実だ。
 それから暫くChapter1を読み進めていくと、晶子から見た3度目の出会いが−大学の一般教養の心理学があった講義室でのことだ−描かれたところで終っている。俺が智一の制止を振り切って講義室を飛び出した時、「彼は昨日出会った時と同じように、もの凄い鬼のような形相で、恐怖に固まった私の横を通り過ぎ、講義室を出て行こうというのか、出口へ向かって一直線に向かった。後ろの方で空席を探していたらしい人だかりがさっと道を開けた。あの表情が迫ってきたら恐怖を感じて道を開けても無理もないだろう。」と描写されている。・・・あの時の自分の荒れ様を文字放送のビデオで見せられているようで歯痒いというか、みっともない様だと改めて思う。
 俺は晶子の右手を覆っていた手をどける。恐らくこの後も俺と晶子との立場を換えた形で事実が小説仕立てで展開されていくんだろう。これ以上自分の無様な様を客観的に見せられるのにはちょっと耐えられない。晶子に対する罪悪感がどうしようもなく大きく膨らんできたからだ。

「・・・もう良いよ。ありがとう。」
「続き、読まないんですか?」

雨上がりの午後 第682回

written by Moonstone

 「その人は疎ましげに鼻を鳴らすと、私を無視して本屋を出て行った。どうしてそんなに怒っているんだろう?私には分からないけど、何か事情があったに違いない。

2001/12/19

[緊迫感を吹っ飛ばすもの]
 私の作品は全体的にシリアスなものが多いのですが、これをぶち壊しにしたうえ、くだらなくて不覚にも笑えるようにするようにする方法があります。こちらのページをご覧下さい。なんと対象テキストやhtmlファイルを大阪弁に変換してしまうというものです。
 私も自分の作品の中で「雨上がりの午後」「思い出の玉手箱(Novels Group 4単独制作作品に収録)」「魂の降る里」を大阪弁に変換してみたんですが、シリアス感も緊迫感もあったもんじゃない。脱力感溢れる作品に変貌してしまいました(^^;)。CGIの関係で実際に存在するファイルがNot Foundになってしまうこともありますが、これは本当に笑えます。是非一度お試しください。

「晶子・・・。」
「だから前に言ったじゃないですか。半分私小説みたいなものだって。」

 晶子が恥ずかしそうに言う。半分どころか・・・これはまるっきり俺と晶子の出会いの瞬間じゃないか!尚も読み進めていくと、その男に向かって主人公が驚きの声を上げて口を手で覆う。「あの人にあまりにも似てる・・・。」その場面にはそんな記述がある。
 レジの計算が終わり、主人公はジーパンのポケットから財布を取り出して千円札3枚を差し出す。男は先にレジを済ませ、主人公に目を向けることなくその後ろを過ぎ去っていくとある。・・・やっぱりこれは俺と晶子が出会ったコンビニでの場面だ。間違いない。俺もあの時晶子が驚きの声を上げて口を覆い、改めて俺の顔をまじまじと見詰めたということがあったから、鮮明な記憶が残っている。その記憶と照合しても、この場面の描写は立場を変えただけでぴったり一致する。
 尚も読み進めていくと、主人公の女性はレジを済ませ、コンビニの雑誌を手に取って少し立ち読みした後、外へ出て自転車の鍵を外して本屋へと向かう。自転車置き場に自転車を置いて鍵をかけた後、出入り口正面に立ったところで、「さっきコンビニで会った、あの人にあまりにも似ている」男と再び出くわし驚きの声を上げる。・・・あの時、俺は宮城から一方的に別れ話を切り出され、荒れに荒れていた時だ。「その人は、私をまるで汚いものでも見るような、忌々しげな目で私を睨んだ。」その場面ではそういう記述がある。実際、晶子をそんな目で見ていたかもしれない。

『俺の顔に見覚えでもあるの?』
『あ、貴方がどうして此処に・・・?』
『はあ?!』

雨上がりの午後 第681回

written by Moonstone

 主人公の女性は−まだ名前は分からない−コンビニでお茶菓子を適当に見繕って籠に放り込み、レジへと向かう。買いだめするタイプらしくかなり買い込んだ。そしてレジで計算待ちをしている間に、もう一つのレジに男がやってくる。その男はふわっとした感じのありふれた髪型、不機嫌なのかやや鋭い感じがする瞳、チェック模様の長袖シャツに紺の綿パンツの主人公と同じくらいの年代らしい・・・。な、何?こ、これって・・・もしかして・・・。

2001/12/18

[休眠状態・・・とはいかず]
 とうとう始まった1週間。朝起きるのはどうにかできたのですが、身体が眠い眠い、と言っているような状態でした。昨日と同じですね、などと暢気に構えてはいられない。気分次第で何時までも寝ていられた休日とは違い、仕事はそうはいきませんからね。
 スロースタートでしたが、アートワークの最適化は順調に進み(一度途中で再起動する羽目になりましたが)、9割方終了しました。あと数本配線すれば完了です。兎に角昨日は底冷えする日で足が寒くて仕方なかったんですが、コートを足に被せて凌ぎました。暖房では足元までは暖まらないんですよね、なかなか。
すると「雨上がりの午後」で始まるタイトルが縦に幾つも並んで表示される。1回書いたらそれで終わり、ではなく、何度か修正や加筆をしているんだろう。晶子のこだわりの一面が窺い知れる。
 晶子はそのファイル名の中で「Chapter1」とあるファイルにフォーカスを移してクリックする。するとA4サイズの画面にびっしりと文字が並ぶ。目眩を起こしてしまいそうだ。

「まだ出だしの部分ですよ。」

 晶子は少し恥ずかしそうに言う。俺はマウスの上にある晶子の右手に自分の右手を被せるように乗せて、画面右横のスクロールバーの空白部分にカーソルを合わせてびっしり詰まった文字列を追って行く。
 物語は一人暮らしの女性が自宅でくつろいでいるところから一人称で始まる。音楽を聴きながら主人公の女性が自分の好きな恋愛小説を読んでいたところで、お茶菓子が切れたことに気付く。・・・ん?何だか何処かで聞いたことがあるような・・・。
 その女性は家を出て近くのコンビニへと自転車を走らせる。お茶菓子を買うついでにコンビニ近くの本屋にも寄る腹積もりらしい。・・・やっぱり何処かで聞いたことがあるような気がする。兎も角、俺はスクロールバーの空白部分をクリックしながら、物語を読み進める。

雨上がりの午後 第680回

written by Moonstone

 晶子は「ファイル」のところにカーソルを動かしてクリックしてメニューをプルダウンさせ、「最近使ったファイル」のところにフォーカスを移してクリックする。

2001/12/17

[休眠状態]
 恒例の某グループの作品制作に加えてもう一つの作品制作を終えた土曜の活発さとは打って変わって、日曜は食事のとき以外は殆ど横になっていました。完全にお休み状態。勿論作品制作が進む筈がありません。
 どうも最近、日曜はこんな感じなんですよね。寒くなって尚更酷くなったような気がします。寒さが苦手できらいな私は、何で休みの日に早くベッドから出なきゃならんのだ、と思うんです。多分、そのせいじゃないかな・・・。
 まあ、定期更新の目処はつきましたし、今度の土曜にまた集中すればひととおり出揃うでしょう。2週間なんて、本当にあっという間ですね。今年最後の定期更新がもう来週なんですから。
 それがフェードアウトすると、「Enter Password」と書かれた、カーソルが点滅する画面に移る。やっぱりパスワードを設定してたか・・・。俺は視線をドアの方に向ける。他人のパスワード入力画面を見るのはマナー違反だ。俺の様子を見て「安全」を確認したのか、後ろでカタカタとキーボードを叩く音が聞こえる。

「もうこっちを向いても良いですよ。」

 晶子の声がしたので、俺はドアの方へ逸らしていた視線を再びパソコンの液晶画面に向ける。カリカリというハードディスクならではのアクセス音と共に液晶画面上の緑色のLEDが細かい周期で点滅し、桜の花びらで彩られた壁紙の背景に続々とアイコンが並んでいく。
 アクセスが終ると、マウスカーソルが時計の形から矢印になる。これでようやく使用可能になったわけだ。一昔前のパソコンのようにコマンドプロンプトが出るわけでもないが、時間がかかるのはいただけない。

「えっと、小説はっと・・・。」

 晶子はマウスでカーソルをアイコンの一つ、ペン先の形をしたアイコンの上に移動させてダブルクリックする。その様子からしてパソコン初心者ではないことは容易に分かる。意外にパソコンマニアだったりするかも・・・。
 俺がそう思っている間に再びカリカリというアクセス音がして、画面いっぱいにA4サイズの紙の画面が表示される。

雨上がりの午後 第679回

written by Moonstone

 晶子は徐に立ち上がって机の方へ向かい、身を屈めて何やらごそごそした後、ノートパソコンを持って戻ってくる。さっきのは電源コードを外していたんだろう。晶子はノートパソコンの液晶画面を上げて、電源スイッチを押す。ウィーンというハードディスクの稼動音に続いて、画面に製造会社のロゴが出る。

2001/12/16

[うおおおお・・・(号泣)]
 ものの見事にぶっ壊れたエアコンの様子を見て貰うために、休日にも関わらず業者の方が来てくれました(感謝)。で、室内機と屋外機を(こっちに重要な回路なんかがある)交互に見て業者の方が言った一言。

インバータの(直流電圧を交流電圧に変換する回路)基板がおかしいですね。
基板の交換が必要ですね。

 な、何ぃ〜!インバータといえば言わばエアコンの心臓部。それがぶっ壊れてりゃ動く筈がない。さらに業者の方曰く。

コンプレッサーも(空気を圧縮する装置)おかしいかもしれないですね。

 うわ〜っ!コンプレッサーといえばエアコンの肺に当たる部分。そこまでおかしくなってたのか。これで動いたら奇跡だわ。で、幾らくらいかかるか聞いたところ業者の方曰く。

インバータだけだと3万、コンプレッサーを含めると・・・
新しいものを買った方が早いかもしれませんね。

 おいおい。こっちは結婚披露宴で高額の出費があって間もないんだぞ、と言っても動かないんじゃしょうがない。見積もりを出しますと言って業者の方が引き上げた後、恨めしげにエアコンを見上げたのは言うまでもありません(爆)。いっそハンマーか何かで叩き壊してやろうか(怒)。
そこにちょこんと乗っているノートパソコン・・・。以前聞いた時、家計簿に使っていると同時に、小説を書いているって言ってたな。その小説は書き進んでいるんだろうか?その小説はどんな内容なんだろうか?
 俺は無性にノートパソコンの中を覗いてみたい−分解したいという意味ではない−衝動に駆られる。A4サイズの箱に封じられている晶子のもう一つの顔・・・。せめて冒頭部分だけでも読ませてもらえないだろうか?
 ドアが開いて晶子が戻って来た。俺は内心ちょっとどぎまぎしながら晶子を迎える。風呂を沸かすといってもボタンを押してガスを入れ、決まった量だけ風呂桶に湯を注ぐまで待つだけだ。全く便利な世の中になったもんだ。

「あと10分ほど待ってくださいね。」
「ああ。そんなの直ぐだよ。それよりさ・・・。」
「何ですか?」

 再び俺の横に陣取った晶子が俺の顔をまじまじと見詰める。参ったな・・・。この目で見詰められると、自分が何か邪なことを考えていたような−実際そうとも言えなくもないが−気がしてならない。
 でも、ノートパソコンの中にある小説がどうしても気になる。体が内側でむずむずする。此処は一つ、思い切って頼んでみるか・・・。晶子が風呂に入ってる間に盗み見するのも気が引けるし、パスワードを設定されていたらどうしようもない。

「あのさ・・・晶子が書いてるっていう小説、チラッとだけでも良いから見せてくれないかな?」
「私の・・・小説ですか?」
「ああ。どうしても見たくてさ。無理にとは言わないけど・・・。」

 俺が遠慮気味に言うと、晶子はちょっと考え込む。私小説に近いものだそうだからやっぱり見せたくないんだろうか?見てみたいのは山々だが、無理強いは決して出来ない。無理なら無理で想像するだけに−どうしても邪な方向に行ってしまうが−して置けばよいことだしな。

「・・・ちょっとだけなら・・・。」
「?!良いのか?」
「自己満足の世界ですけど・・・誰かに読んで欲しいっていう気持ちも正直少しありますから。」

雨上がりの午後 第678回

written by Moonstone

 一人リビングに取り残されたようにぽつんと座り込んだ俺は、何回繰り返されたか分からない「Can't forget your love」を聞きながら、机の方に視線を移す。

2001/12/15

[やっと乗り切れた・・・]
 今週はまさにそんな平日でした。150個もの中から目的の特性をもつものを一つ一つ測定したり、アートワークで最も頭を悩ませる最適化を(要は回路基板の無駄なスペースを無くしたり、配線を最短にすること)したり、そのソフトウェアの使い勝手の悪さに腹を立てたりで、心身共に疲れました。昨日も帰宅して夕食を食べた後1時間ほど寝ていました。そうでないと、PCの前に向かう気がしないからです。
 今回の週末は定期更新ではありませんが、作品制作を集中させたいのであまりのんびり出来ません。まあ、朝決まった時間に起きなくても良いだけでも随分ましなんですが、今年最後の定期更新を控えているだけに、自分自身に力を込めて作品制作をしようと思います。
 晶子はティーカップをテーブルに静かに置くや否や、がばっと俺に抱き付いて来た。突然の大胆な行動に、俺は晶子を抱き締めることさえ出来ずに一方的に抱き締められるだけだ。
 と思っていたら、晶子は俺の唇を唇で塞ぐ。そして半ば強引に口を割って舌を入れてくる。晶子の舌が俺の口の中をかき回す。俺は舌を絡めることも動きに合わせることもしないまま、晶子のなすがままに全てを委ねる。やがて晶子の舌が俺の舌に絡みつき、くちゅっ、くちゅっ、と艶かしい音を立てる。俺は晶子の背中にそっと手を回して、華奢な背中をゆっくりと撫でる。今の俺はそれくらいしていれば良いだろう・・・。
 ・・・晶子の「独演」がようやく終わる。晶子は俺からゆっくりと離れる。その目から涙が零れている。どうして・・・泣く必要があるんだ?感極まったと言わんばかりの晶子の表情に、俺は疑問を感じずにはいられない。

「何で泣いてるんだ?」
「ありのままの私を・・・受け入れてくれたから・・・。」

 そうか・・・。晶子は自分の「素」を思わず見せてしまったこと、そしてそれを俺が「受け入れた」ことに感動したんだな。そんなことでそこまで感激しなくても良いのに・・・。晶子は感受性が相当強いんだな。
 晶子は服の袖で涙を拭うと、俺に向かって微笑んでからティーカップとティーポットを手早くトレイに乗せて立ち上がる。そして普段バイトで鍛えている(?)腕力でもって右手一つで下からトレイを支え、左手でドアのノブを捻る。ドアのノブは大抵右利き用に作られているからちょっと無理がありそうな感じがしたが、それでもドアを開けてダイニングへ消える。

雨上がりの午後 第677回

written by Moonstone

「隠さなくて良いって。今更隠すこともないだろ?それに勿体無いっていう気持ちがある方が、俺は好きだな。」
「祐司さん・・・。」

2001/12/14

[頭痛いっす・・・]
 火曜、水曜にかけて実施した「宝捜し」の精神的疲労が尾を引いています。昨日の更新時間が遅くなったのは(気がつかなかったかもしれませんが)疲れで寝ていて気付いたら更新時刻を過ぎていたからです。
 昨日も頭が痛くて仕事が苦痛でなりませんでした。かと言って早退するほどのものでもないし、別に進めなければならない仕事もあるし、ということで、頑張ってやり過ごしました。早めに帰宅して夕食を作って食べた後、本来する予定だった台所の掃除も放ったらかしにして20時近くまでずっと横になっていました。
 何分疲れやすい身体ですからね。疲れたときには存分に休養を取りたいところです。今日を乗り切れば朝早く起きることからはとりあえず解放されるので、もう少し力を振り絞ろうと思います。

「祐司さんにとって、左手は宝物ですよね。」
「・・・そうだな。」
「この手から色々な音が生み出されてくるんですよね・・・。」

 晶子は俺の左手に自分の右手をそっと乗せる。晶子の仄かな温もりが左手を通して伝わってくる。俺を労わるような、柔らかい感触と共に。この温もりが愛しくてたまらない。俺を支えてくれるというこの温もりを大切にしなきゃな・・・。
 手を重ねているだけで時間がゆっくりと過ぎていく。晶子が俺を誘った理由であるところの「もっと話がしたい」というのはやっぱりきっかけに過ぎなくて、俺と触れ合いたいということが一番だったんだろう。でも別に騙されたとは思わない。俺自身、こうして晶子と触れ合う時間が持てて良かったと思ってるんだから・・・。
 俺は空いている右手でティーカップを取る。ティーカップからはもう温もりは感じられない。すっかり冷めてしまったラベンダーの紅茶を一気に喉へと流し込む。ラベンダーの香りだけが相変わらず自己主張する液体が喉を通って腹へ流れ込んでいくのが分かる。温かいうちに飲んでおくんだったな・・・。

「お風呂、沸かしてきますね。」

 晶子がそう言って俺の手から手を離して、自分のティーカップを手に取ってくいっと傾ける。意外な飲みっぷりに俺は声が出ない。まさか晶子が一気飲みをするとは思わなかった・・・。晶子の意外な一面が見れてちょっと嬉しい。

「けっこう豪快な飲み方するんだな。」
「え?・・・あっ、こ、これは・・・その・・・残すのは勿体無いと思ってつい・・・。」

雨上がりの午後 第676回

written by Moonstone

 俺は晶子の肩を抱いていた自分の左腕を戻して見詰める。何時もフレットの上を踊るこの五本の指に、どれだけの可能性が秘められているんだろう?自分のことなのに分からない。分からないことが多過ぎる。

2001/12/13

[ドラえもんの世界で例えると]
 世界の国をドラえもんの世界で例えるなら、ジャイアンはアメリカで決まりですね。自分が気に食わないことは悉く拒否し、他人に平気で暴力をふるってストレス解消をする。そのくせ要人の出身母体(母親)である大企業や軍事産業には何も言えない。・・・最低ですね。アメリカが自由と民主主義の国なんていうのは全くの幻想で、日本以上に右翼国粋主義がはびこる国なんです。それはのび太に例えられるアフガニスタンの惨状や要人の発言を見聞きすれば直ぐ分かることです。
 で、日本はやっぱりスネ夫でしょう。のび太より弱虫なのをジャイアンに胡麻をすることで隠して威張る。金持ちなのを鼻にかけて他国に企業を進出させてルール無視して儲けまくる。アジア諸国の信頼を得られないのは当然です。どうしてしずかちゃんになろうとしないんでしょうね。その方が他国から慕われることは間違いないのに・・・。今の日本には、ジャイアンであるアメリカに追従することしか頭にないようです。
「それはあの店の中での話だろ?それがそのまま通用するなら、俺が入ってた高校時代のバンド仲間は全員プロになってるさ。」
「祐司さんが入っていたバンドの実力は知りませんけど・・・、私が初めて祐司さんの演奏を聞いた時の腕だとしたら、相当な実力派バンドなんじゃないかな、って思いますよ。私も高校は共学でしたし、文化祭でバンドのライブをやってましたけど、その演奏を思い出しても祐司さんは相当な実力派バンドにいたんじゃないかな、って思うんです。」
「バンドのメンバーは確かに全員上手かった。俺を誘ったのも、お前の腕なら間違いないからだ、って言ってたくらいだからな。」
「だったら・・・。」
「でも、それがそのままプロに直結するわけないだろ?」
「可能性はゼロじゃないですよ。」

 晶子は譬え1%、否、ほんの僅かな可能性さえあれば夢は叶うと信じてるらしい。この辺は「現実的」な俺との考え方の違いだからどうしようもない。だが、晶子の言うことも全否定は出来ない。インディーズで地道に活動していたバンドがメジャーデビューするや否や全国区になった、って話もあることだし・・・。

「まあ・・・それはそうだけど。」
「ね?だから祐司さんはもっと自分は出来る、って胸を張って良いんですよ。実力があるんですから。」
「自分でどうもしっくり来ないんだよな・・・。何て言うか・・・俺はギターなら誰にも負けないっていう確証が持てないんだ。常に自分の腕はあのミュージシャンに比べてどうか、とか考えちまうんだよ。」
「祐司さん、慎重な人ですからね。でも、慎重も度が過ぎると臆病になりますから、もっと自分を信じてあげてくださいね。」
「自分を信じる、か・・・。」

雨上がりの午後 第675回

written by Moonstone

「私が思うに、祐司さんに一番欠けてるのは自信だと思うんです。お店でもあれだけの人から満遍なく拍手をもらえるんですよ?私みたいに固定のファンが居てその人達が決まってリクエストしてくれたり拍手をしてくれるのとは、レベルが違いますよ。」

2001/12/12

[宝(?)探し]
 電子回路の基本素子としてトランジスタというものがあります。スイッチングや電流増幅、インピーダンス(交流電圧によるコイルやコンデンサの抵抗成分を含めた抵抗値)変換など、様々な用途があります。極端な話、それらを超小型化して回路を組んだものが一般にICと言われるものです。
 で、そのトランジスタは普通、定格以上の電圧を加えると壊れちゃうんですが、中には高速な(n(ナノ)secやp(ピコ)sec単位)スイッチングをするものがあります。それをアバランシェトランジスタと言います。前置きが長くなりましたが、昨日は半ば苦悩に満ちる回路基板のアートワークに続いて、その素子を探し始めました。
 実は同じトランジスタの中でもアバランシェ現象を起こすものとそうでないものがあって、それは実際に測定してみないと分からないんです。昨日はひとまず10個くらいを測定して、その全てでアバランシェ現象が見られました。でもそれで終る筈がなく、あと140個くらい同じ測定をしなければなりません。一体何日かかるのか想像もつきません(^^;)。単調な作業ですが、これをしないことには目的の回路は制作できないので我慢のしどころです。
忘れ得ぬ貴方の愛・・・自分で言った言葉が頭の中でリフレインされる。晶子はその意味を込めてこの曲を選んだんだろうか?何となくそんな気がしてならない。ムードを大切にする晶子のことだからな・・・。

「祐司さん。」
「ん?」

 晶子の表情が何時ものそれに戻り、俺に話し掛けてくる。濃厚なことこの上ないキスを二度もしたから、一先ず欲求は満たせたんだろう。俺は晶子の肩を抱いたまま応答する。

「近い将来・・・オーディションとか受けるんですか?」
「・・・まだ考えてない。今の俺はまだ力不足だから。」
「そんなことないと思うんですけど・・・。」
「否、まだ自分の腕に確固たる自信が持てないんだ。」

 店での最近の演奏は好評を得ることが多い。今までそっぽを向いて自分達の喋りに夢中になっていた高校生集団や顔も知らない人まで、自分の演奏に盛大な拍手を送ってはくれる。だが、それは「Dandelion Hill」という、外に比べればごくちっぽけな閉鎖空間の中での話だ。そんな腕がマスターですら勝ち残れなかったオーディションの厚い壁を打ち破れるとは思えないし、思わない方が良いと思う。その中で満足してたら、前に潤子さんが忠告したとおり、鍍金で終るのが関の山だ。
 どうせプロになるなら、その手のジャンルには疎い人でも名前くらいは聞いたことがあるとか、ああ、あのCMや映画音楽の演奏者か、と言われるくらいになりたい。そのためには練習あるのみなんだが・・・いかんせん自動車学校という奴が時間を食ってくれるから、どうしても焦ったり、自分の腕に自信が持てないでいるというのが現状だ。

雨上がりの午後 第674回

written by Moonstone

 「Can't forget your love」はまだ流れている。シングルだからとっくに終ってて良い筈なんだが、同じフレーズがまた聞こえるということは、晶子がリピート演奏させているんだろう。

2001/12/11

[眠い〜、寒い〜]
 月曜日を一言で表すなら、キャプションのとおりに尽きますね。週明けは日曜の影響を引き摺って何時も眠いんですよね。まだ月曜は朝の冷え込みがそれ程きつくなかっただけましでしたが。問題は寒さ。一歩外に出ると強い冷風が吹き付けてきて、着込んでいても存分に寒かったです。いよいよ嫌いな季節が本格的になってきたなぁ、と思わせられました。
 職場は暖房が効いているのでまだましなんですが、家はエアコンが壊れてホットカーペットしか暖房器具がないので、座っている時しか温かくないんですよ。それ以外は布団に潜って暖を取るんですが、眠いと当然寝てしまうんですよね(汗)。お陰で月曜から始める予定だった「あること」は今日からにずれこみ。まあ、1日くらいは仕方ないでしょう。早くエアコン直らないかなぁ〜。
。俺も晶子も荒い呼吸をゆっくりと整えながら互いの顔を見る。ラベンダーには鎮静作用があると言うが、少なくとも今の俺と晶子には興奮作用を齎したような気がする。
 どうにか呼吸も落ち着いたが、晶子は尚も求めているようだ。やっぱり晶子にとって、キスは精神的欲求と肉体的欲求を同時に満たすものなんだ。一緒に居られる時間がバイトと月曜日の練習くらいになった今、晶子は精神的な繋がりと同時に肉体的な繋がりもしっかり保っておきたいんだろう。そうしないと、絆が切れそうで怖いんだろう。俺も永遠に続くと思っていた絆が呆気なく切れた経験があるから、晶子の気持ちは分かるつもりだ。
 虹の橋を切る為に、俺は晶子の唇に軽いキスをする。俺の顔が近付くと、晶子は反射的に目を閉じる。唇を離した後はちょっと長めのタイムラグの後に目を開く。それももっとキスして、という意思表示なんだろうか?

「・・・満足したか?」
「したと言えばしましたし、してないと言えばしてないです。」
「禅問答みたいだな。」
「出来るものなら、ずっとキスして居たい・・・。そうすれば、祐司さんが私から離れることがないから・・・。」
「おいおい・・・。」

 とんでもないことをいともさらりと言ってのける晶子。そりゃずっとキスしていれば離れようにも離れられないが・・・。そんなに俺とキスがしたいのかと思うと、正直言って嬉しい。晶子ほどの美女にキスして欲しいと言われれば、つい舞い上がってしまうのが男の性というものだ。

雨上がりの午後 第673回

written by Moonstone

・・・。

 俺と晶子はほぼ同時に舌を引っ込めて口に距離を挟む。蛍光灯の光で虹色に輝く唾液の橋が俺と晶子の唇を結んでいる。

2001/12/10

[ひー、ギリギリ間に合ったぁ〜]
 本日の定期更新で目標にしていたNovels Group 2の更新。ところが日曜は例によって例の如く日中ぐったりと横になる生活を送り、夕食を食べてから急いで制作を開始。約3時間半を費やしてどうにか間に合いました(^^;)。
 何故此処まで執念を燃やしたかというと、Novels Group 2は最も最近の更新が昨年の12/10。そう、丁度1年前だったんです(爆)。もうこれ以上放置するわけにはいかないと危機感をもっていたんです。このまま放置しっぱなしじゃ、ご来場者に失礼なことこの上ないですからね。
 今回無事更新できましたが、これで安心して再び1年放置、なんてことにならないよう、どのグループも満遍なく更新できるようにしていきたいです。ああ、そう言えば音楽グループ2つが1年以上放ったらかしなんだよなぁ〜(汗)。最近シンセサイザーの電源を入れた記憶がないし、どうにか作品制作を進めたいです。
 俺にとっては告白と並んで一大イベントだという位置付けだ。告白は普通1回だけだが−俺は同じ相手に何度も告白したことはない−キスは一度通じ合えば大抵何度かするものだと俺は思っている。最初は唇を重ねるだけだが、何度かするうちに、気持ちが高ぶるうちに、相手の口に自分の舌を入れるというある種セックスに近い行為へと発展する。そういう二段階を踏まえるうちにより親密な仲になれる。そういうものだと思っている。
 晶子にとってキスは、精神的欲求を満たすものであると同時に、肉体的欲求を満たすものなのかもしれない。舌を滑り込ませてくるのは必ずと言って良いほど晶子からだし、それを終えて恍惚とした表情になるのも−俺の表情は鏡を見てみないと分からないが、そんなに普通の時と変化はないと思う−、その表れなんじゃないだろうか?

「もっと・・・したいか?」
「・・・したい。」
「そうか・・・。」

 俺は呼吸を整えてから再び晶子の肩を抱き寄せて唇を塞ぐ。と同時に、晶子の舌が俺の唇を割って入ってくる。そこから先はもう晶子の思うが侭だ。俺の口をかき回し、その動きに追いつこうとする俺の舌に時に絡ませ、時に追いかけさせながら巧みに自分の口へと誘い込む。
 俺は晶子を捕らえて離すまいと晶子を限界まで抱き寄せて舌の動きを早める。晶子の口の中で二つの舌が濃厚なダンスを踊り、そして追いかけっこをする。半ば翻弄される俺の舌と入れ違いに再び俺の口の中に舌を滑り込ませてくる。俺はその舌に自分の舌を絡めて吸う。すると晶子も俺の舌を吸う。互いの唾液が交換される。紅茶の香りが染み込んだ味がする・・・。

雨上がりの午後 第672回

written by Moonstone

 晶子が艶かしい表情で小さな溜息を吐く。この仕草がまた色っぽい。キスの度に思うことだが、どうして晶子はこんなに恍惚とした表情が出来るんだろう?そもそも晶子にとってキスとはどういう位置付けなんだろう?

2001/12/9

[出遅れた・・・]
 土曜は兎に角寒い日。予定の時間には目覚めたものの、とても部屋の空気が布団から出られる状態ではなくて、そのまま布団に潜り続けてしまいました(汗)。そして昼食を食べる為にいそいそと布団から出て素うどんを作って食べて、また布団に潜ってしまいました(爆)。だってあまりにも寒いんだもん。
 結局買出しのために本格的に布団から出たのは午後2時。それから買出しに出てちょっとゲームして、今日の更新準備を始めたのは午後4時を過ぎた頃でした(猛爆)。あまりにも鈍い動きですが、勿論それなりの理由があります。
 一つは土曜が休みだったこと。仕事なら嫌でも起きますが、休みだから良いや、と緊張感が沸かなかったことが大きいですね。そしてもう一つは部屋の空気を温める筈のエアコンが完全に機能しなくなったこと。もはや壊れたとしか言い様がない状態です。これから冬本番だというのに(前にも言ったような)大丈夫なんでしょうか?とりあえずホットカーペットで凌いでいます。
 俺の唇を割って熱くて柔らかいものが入ってくる。俺はそれに抗うことも驚くこともなく、それに自分の舌を絡める。内側から熱くなってくる身体を誤魔化すように、俺は口の中を彷徨う晶子の舌を追う。
 晶子の舌が俺の口から出て行く。それを追いかけて晶子の口の中に舌を滑り込ませる。否、吸い込まれると言った方が良いかもしれない。晶子の舌は待ってましたとばかりに俺の舌に絡みつき、俺の舌の動きに合わせて生温かい空間を彼方此方彷徨う。
 ・・・俺が少し名残惜しい気持ちで晶子の口の中から自分の舌を引き上げさせようとするが、晶子の舌がなかなかそれを許してくれない。行かないで、と懇願されているような気がする。離れたくないのは俺も同じだが、そろそろ離れないと息苦しい。「大人のキス」は意外に難しいものだ。熱中すると−どうしても熱中してしまうものだが−呼吸を忘れてしまうし、かと言って鼻で充分な酸素を確保するのはムードを殺いでしまう。
 俺は晶子の肩を抱いていた腕の力を緩めて一度離れたい、という無言の意思表示をする。すると晶子も俺の「状況」を理解したのか、ゆっくりと、それこそ名残惜しそうに俺の舌を解放する。俺と晶子の間に距離が出来るが、さっきまでの想いの濃厚なダンスの痕跡が蛍光灯の光に照らされて虹色に輝く。
 俺は晶子に軽くキスをすることで、その虹の橋を落とす。これで一旦−またムードが高まったらすることになるだろう−舌のチークタイムは終了、という合図を兼ねている。目を開けると、晶子が俺の左肩に凭れ、顎をしゃくりあげたままの態勢で俺を潤んだ表情で見詰めている。この表情を見ると、キスを止めたのがもの凄く惜しい気がしてならない。女のこういう表情に男は弱いんだよな・・・。俺だけかもしれないが。

「・・・はぁ。」

雨上がりの午後 第671回

written by Moonstone

 晶子が少し顎をしゃくりあげる。俺の唇を求めるように・・・。俺はそれに吸い寄せられるように晶子の肩を抱き寄せ、目を閉じながらその唇に自分の唇を覆い被せる。温かくて柔らかい感触が俺の身体を幸せで痺れさせる。その痺れが身震いとなってより強く晶子の肩を抱かせる力の源となる。

2001/12/8

[新バージョン対応に向けて]
 「Total Guidance」で述べているとおり、私のページはNetscape4.7で見られるように作成されています。一方、数多くのページの中にはスタイルシートを使っているものもあって、デザインが崩れたりまともに表示されないこともあって歯痒い思いをしたこともあります。
 で、私もNetscape(日本語版)最新版のNetscape6をダウンロードして使える状況にしてあります。それで自分のページを表示させてみたら、BASEFONTタグが無効なのか、記述に問題があるのか分かりませんが、一部の文字が大きく表示されてしまいました。Novels Groupの作品はどれもこれも文字が大きくなって、意図しないレイアウトになってしまいました。その他、太文字が予想外のところまで及んでいたり・・・。
 とりあえず直せる範囲は直してアップしましたが、作品全てを意図したレイアウトにするには、GIFを駆除した時以上の手間がかかりそうです。でも、何れは新バージョンに移行せざるを得なくなるでしょうから、早め早めに手を打っておくべきなんでしょうね。今は定期更新の準備でそれどころではありませんが、余裕のあるときに少しずつでも改正していきたいです。

「これはなかなか・・・良い曲だな。」
「そうでしょ?店頭で初めて聞いた時、これは良い、って思って迷わず買ったんですよ。」
「まだシングルしか出てないのか。」
「ええ。前のアルバムが出てからまだ日にちもそんなに経ってませんし。」
「次のアルバムには間違いなく入るだろうな。」
「私もそう思います。」

 少しの会話を挟んで俺と晶子は曲に聞き入る。ストリングスとの掛け合いが今までにない倉木麻衣の魅力を醸し出しているように聞こえる。そしてほぼ独唱と言って良い部分を経て、再びストリングスやコーラス、リズム音との掛け合いが始まる。この手の曲にしては変化に富んだ構成だ。
 左肩に軽い重みを感じる。晶子が凭れてきたな・・・。勿論嫌な気はしない。俺は少し冷め始めた紅茶を口に運ぶ。その香りも加わって、心が眠くなりそうなほど静まってくるのを感じる。ついさっきまであれこれ話題を探していたり、精神的欲求だの肉体的欲求だのとあれこれ考えていたのが小恥ずかしくさえ思える。
 どうも俺はその場を取り繕おうとする傾向が強いようだ。無理に会話を作ろうとしたり・・・。晶子は会話がなくても一緒に居られればそれで良い、ってタイプの今時珍しい女だってことを忘れてしまう。宮城が話し好きで退屈を嫌うタイプだったから、その余韻をまだ引き摺っているのかもしれない。

「祐司さん・・・。」

 曲がフェードアウトし始めた頃、俺の左肩に凭れた晶子が声をかけてくる。その方を見て俺は胸をぎゅっと締め付けられたような気がする。微かに笑みが浮かぶ口元、潤んだ瞳、何かを求めているような表情・・・。どれもこれも魅力的で官能的で、視線を逸らすのを忘れさせるには充分だ。

雨上がりの午後 第670回

written by Moonstone

 『Can't forget your love』か・・・。日本語にするなら『忘れ得ぬ貴方の愛』といったところか。本格的なストリングスも入ってきて、倉木麻衣のウィスパリングも相俟ってロマンチックでタイトルに相応しい曲に聞こえる。店の雰囲気にも充分マッチしている。レパートリーに加えても何ら支障はないだろう。

2001/12/7

[IC炸裂!]
 火曜から3日間にわたって作ってきた回路が(とパネルなど)ようやく出来上がり、接続を確認して電源スイッチを入れたら、いきなり主要なICが白煙を吹き上げ始めました(汗)。勿論スイッチを切ってICを見たら、裂けたように傷ができ、ICソケットに(ICを交換しやすくするための台座のようなもの)至っては、一部が黒く焦げていました(大汗)。
 多分オシロスコープの(電圧波形を見る基本的な装置)のプローブ(測定するペンのようなもの)とグラウンドが(アース)短絡してしまったんでしょう。ICを交換してプローブを別の場所に移動させて再び電源スイッチを入れたら、問題なく動作しました。
 実はその後もう一度誤って短絡させてしまい、白煙を上げる羽目になったのですが(^^;)。ICはこんな風に目に見える形で壊れることは余程のことがない限りないことなので(だから壊れた時に異常を発見し辛い)、まだ良かったといえるのかもしれません。怪しい匂いが部屋に充満してしまいましたが(^^;)。
 話に夢中になっているうちに喉に渇きを感じて、紅茶を口に運ぶ。芳醇な香りが心を落ち着かせ、流れ行く液体が喉の渇きを癒していく。落ち着いたところで再び晶子の方を向く。晶子も俺と同じように紅茶を飲んでから俺の方を向く。大きな瞳に俺の顔が映っている・・・。それだけでも俺は想われているんだと感じさせる。
 俺の自動車学校の話題も底をついた。次は何を話そう・・・。そう考えている間も晶子は俺をじっと見詰めている。こういう場合ちょっと困る。考えるにも視線を逸らすことが出来なくて考えることに集中できないからだ。何の話を使用かな・・・。無難に音楽や練習の話をするか?でもそれだとマンネリだしな・・・。

「音楽、かけますね。」

 そんなことを思っていると、不意に晶子が立ち上がってCDやコンポの並ぶ棚へ向かう。そこでCDを選んだ後、CDをケースから取り出して引き出たコンポのCDスロットに置いてボタンを押す。鐘のような甲高いエレピ(エレクトリックピアノ)らしい音色のリフ(一定パターンの繰り返し)に乗って聞こえてきたのは倉木麻衣の声だ。初めて耳にする曲だが、クリスマスソングのような感じがする。
 晶子がさっさと俺の横に戻ってきて腰を下ろす。他の人間だったら邪魔に思えるくらいぴったりと・・・。やがて安っぽい一定のリズムを刻むドラムが−パーカッションと言っても良いくらいだ−入って、ミディアムテンポの曲の体裁を成す。これがなかったら本当にクリスマスソングだと言われてもああ、そうかと信じてしまいそうだ。

「これ、何ていう曲なんだ?」
「倉木麻衣の『Can't forget your love』っていう曲ですよ。新しくレパートリーに加えようかな、って思ってるんです。」

雨上がりの午後 第669回

written by Moonstone

 晶子もなかなか面白いことを言う。確かに免許を取って車に乗って路上に出たら、自動車学校の時みたいに危ないところで止められて注意や指導を受けるなんてことは出来ない。そう考えると、やっぱり男で良かったのかな、とも思える。

2001/12/6

[寒い日の困りごと]
 このところめっきり寒くなって、朝晩、特に朝の冷え込みは厳しいですよね(寒い地方の方にしてみれば可愛いものかもしれませんが)。そこで月曜からとうとう暖房を入れました。温度設定は23℃。夏なら肌寒く感じたほどの温度が今では暖かく感じるのは、思えば不思議な話ですね(笑)。
 ところが困った問題があります。エアコンが連続運転出来ず、途中で止まっちゃうんです。説明書を見ると、内部回路の異常とのこと。夏場も同様の問題に見舞われて、寝苦しい夜を過ごしたこともしばしば(- -;)。これからが冬本番だというのに、暖かい中で起きられないのは寒さが苦手で嫌いな私には辛い話です。
 使い始めて8年目ぐらいですから、寿命が来たのかもしれません。意外に寿命が短い電化製品もありますからね。しかし、その一方で10年、20年ものの電化製品が未だ現役なのを考えると、ちょっとこのエアコンは脆いかな、と言う気がします。今週末にでも電気屋に問い合わせてみようかな・・・。

「その・・・晶子はどう対処してるんだ?」
「不安ですか?」
「そりゃそうだよ。俺の目が届かないところでの出来事なんだから。」

 俺が少しむきになって言うと、晶子は口を右手の指先で軽く押さえてくすっと笑う。初めて見るその仕草が妙に可愛らしい。

「大丈夫ですよ。私、そんな軽い女じゃないつもりですから。」
「まあ、晶子がホイホイついて行くとは思えないけど・・・自分が見てない分、やっぱり不安なんだよ。」
「それは私も同じですよ。祐司さんが自動車学校で別の女の人に目が行ってないかとか・・・。」
「目移りしてる暇なんてないさ。こっちはきつい教官にあれこれ言われながら、実技が進むかどうか、びくびくしながらハンドル握ってるんだから。」
「教官の人、厳しいんですか?」
「厳しいも何も・・・ちょっと安全確認を忘れただけで『ほら、そこでミラーの確認!』とか怒鳴られるんだから・・・。」
「私の時は、確かに厳しい教官の人も居ましたけど、怒鳴られたりはしなかったですよ。」
「それが男と女の違うところなんだよ。自動車学校の教官は男の時と女の時とで人柄を使い分けるんだよ。大抵女には優しくて男には厳しい。」
「でも、練習の時に厳しく指導された方が良いと思いますよ。実際路上に出てからじゃ、誰も安全なところで止めたり注意したりしてくれませんから。」
「・・・そういう考え方もあるな。」

雨上がりの午後 第668回

written by Moonstone

 だが、心配なのは智一だけじゃない。何度も言い寄られるうちに、なんてことが絶対無いとは言い切れない。智一が俺の居ない隙に晶子に言い寄るのは予想していたことだが、まさか晶子が・・・なんて、信じてはいるがどうしても気になってしまう。しかし、だからと言って尋問するのも何だしな・・・。

2001/12/5

[注意喚起]
 このところ毎日のようにメールが届きます。普通のメールなら喜び勇んでお返事するところなんですが、それらのメールはそうもいきません。何故ならウィルスメールだからです。
 そのウィルスメールは今大流行しているもので(大迷惑な話ですが)、空白のHTMLメールにSubjectが「Re:」となっていて、そこにウィルスメールには欠かせない(ありがた迷惑な)妙な添付ファイルがついているというものです。これは旧バージョンのIEを使っている方はプレビューを見るだけで感染するそうです。詳しい情報はこちらのページをご覧下さい。
 どうも今回のウィルスは、感染すると、見たページに記載されているメールアドレスにまでウィルスメールを送りつけるらしいのです。よって皮肉なことにこの方がこのページに来てくれているのか、と分かってしまうのです。こんな形で知りたくはなかったんですが・・・。
 旧バージョンのIEをお使いのリスナーの方、是非こちらのページで感染のチェックや駆除を行ってください。メールが来た、と喜んで着信を待ったらウィルスメールだなんてがっくりしますから(感想メール慢性欠乏症の私の弁)。

「ま、まあ、それもあるけど・・・特に何の用事もないのに晶子の家に泊まるなんて多分、初めてだろ?それで・・・何て言うか・・・緊張して頭の中が混乱して・・・。」
「そうならそう言ってくれれば良いのに・・・。」

 晶子は少し呆れたような顔で言う。しかし、直ぐにその表情は消え、大きな瞳で俺をじっと見詰める。この瞳に見詰められると、心が洗われるような、俺がさっき思考の泥沼に嵌っていたことが馬鹿らしくて、同時に恥ずかしく思えてしまう。そんな魔法の瞳に自分の顔を映しながら、俺から話を切り出す。

「最近、一人で帰ることが多いだろ?一緒に居られなくて御免な。」
「良いんですよ。祐司さん、自動車学校に通ってるんですから。」
「智一の奴とよく会うんだろ?」
「え?どうして分かるんですか?」
「あいつのことだから、俺が居ない間に、なんて思っていそうだからな。言い寄られたりしてないか?」
「それが結構・・・。『俺の魅力に気付いたかい?』とか『祐司さんと自分、どっちが君に相応しいと思う?』とか・・・言ってきますよ。」
「・・・あの野郎。」

 晶子が苦笑いしている。やっぱりそうだったか・・・。多分俺が居ないのを良いことに、晶子に迫ってるんじゃないかと危惧してたんだが・・・。こういう悪い予想に限ってよく当たるんだよな、まったく・・・。
 しかし、智一も諦めが悪いというか何と言うか・・・。合コンで意気投合した相手とはたった1週間で「性格の不一致」を理由にあっさり別れたくせに、晶子に対しては相手が俺に確定した−現時点では、としておくべきか?−今でも、自分にチャンスがあれば、とばかりに言い寄るんだから・・・。それだけあいつにとって、晶子は魅力溢れる存在なんだろうな、きっと。

雨上がりの午後 第667回

written by Moonstone

 晶子に言われて俺は答えに窮する。確かに俺と晶子は向かい合いはしたが、まだ何も話らしい話はしていない。困ったな・・・。どうしようかな・・・。

2001/12/4

[まだ余波が・・・]
 土曜の酒と深夜までの制作活動が日曜日の行動を潰してしまったことは昨日お話しましたが、日曜に殆ど横になっていて眠っていたために、今度はその夜にきちんと寝られず、睡眠不足になってしまいました(爆)。お陰で日中気を抜くと直ぐうつらうつらしてしまい、精神的にかなり疲れました。
 やっぱり休日といえど規則正しい生活と禁酒を(本来、薬の関係で酒は極力飲まないようにと言われている)守らないと作品制作は勿論、仕事にも影響を及ぼすので良くないですね。以前、このページの運営を始める以前には3、4時間の睡眠が連続しても大丈夫だったのが不思議でなりません。あの頃が異常だったのか今が異常なのか、いまいち分かりかねます。
 ・・・駄目だ!その気持ち、否、精神へではなく肉体への欲望が膨らんでくる!俺は・・・そんな気持ちで晶子と一緒に居たいんじゃない!一緒に居て、時に話が出来ればそれで良い筈なんじゃないのか?!それ以上を求めるのか?!付き合い始めてまだ半年も経っちゃいないのに!
 でも・・・求めちゃ駄目なのか?恋愛は気持ちだけじゃ続かない。そのことは俺自身知ってる。晶子との関係が友情や単なる師弟関係じゃなくなった今、晶子に精神的欲求を満たす肉体的欲求を向けちゃ駄目なんだろうか?

「祐司さん。どうしたんですか?」

 晶子の声で我に帰る。久しぶりに思考の泥沼に嵌り込んでいた。俺は早まった胸の鼓動を押さえ込みながら、思考を元の起動に修正する。そうだ。俺は晶子に誘われて泊まらせてもらうことになったんじゃないか。一緒に居て話をしたりするための時間を持つために。
 晶子は怪訝そうに俺の顔を見ている。此処は一先ず、晶子をほったらかしにして志向の泥沼に嵌り込んでいたことを取り繕わないとな・・・。

「いや、悪い悪い。考え事しててな。」
「私と向き合って、ですか?」
「ほら、こうして夜に面と向かって話する機会なんて月曜くらいのもんだろ?今はだんだん日が長くなってきてるから、それも夜までっていう感じじゃなくなってきてるし・・・。それに月曜は殆ど練習やレパートリーに関係する話だし。」
「今はまだ、何もお話してませんよ。」

雨上がりの午後 第666回

written by Moonstone

 ・・・何だか妙な気分になってきた。一緒に居たいと思う気持ちは同じ。そして俺が泊まっていくという後に控えている状況。これらが重なる時、新たに生まれる気持ちは・・・。

2001/12/3

[調子に乗り過ぎた〜]
 本来なら最低でも次回定期更新用の作品を一つ仕上げておかなければ、日程的にきついんですが、土曜日帰宅してから勢いで深夜4時ごろまで書いていたのが拙かったらしく、肝心の日曜は朝起きるのも遅いし、そのまま寝たきり雀になってしまいました(汗)。
 私は規則正しい生活をすべき身体なのですが、ネットに接続してチャットにハマったりするとどうしても寝るのが遅くなってしまうんですよね。おまけに土曜日は約1年半ぶりに飲んだ酒と疲労が重なって、目覚めがかなり悪かったんですよ。それがそのまま尾を引いた格好ですね。
 こうなったら今度の土日で一気に仕上げなければいけませんが、果たして思惑どおりに事が運ぶかどうか・・・。土曜日の行動が鍵になりそうです。朝きちんと目覚めて家事をこなして、作品制作に打ち込めれば良いんですが・・・。

「・・・なあ、晶子。」
「はい。」
「どうして今日・・・俺に家に泊まっていかないか、なんて勧めたんだ?」

 俺の問いに晶子は微かな笑みを浮かべて答える。

「もっとお話がしたいから・・・。そう言いませんでした?」
「ああ、聞いたよ。でも・・・。」
「でも?」
「何だか・・・それだけじゃないような気がしてさ・・・。気のせいだと思うけど。」

 俺は何となくそう思っていた。話をしたいだけじゃない。一緒に居たい。むしろその思いの方が強いんじゃないか。口にはしないが−尋問するような感じがするからだ−、そう思えてならない。
 俺が自動車学校に通う羽目になって、晶子と一緒に帰れることが少なくなった。大学へ行く時間も常に同じというわけでもないし、譬え一緒に行けても学部が別だから一般教養の講義以外では顔を合わせる機会を持つのは難しい。バイト中にくっちゃべっているわけにもいかない。当然、俺と話す時間は勿論、一緒に居られる時間も少なくなる。だから晶子は・・・俺を誘ったんだろう。本来なら一緒に居られた筈の時間を少しでも取り戻す為に。
 そう思うと・・・俺もその気になってくる。一緒に居られない寂しさやつまらなさは俺とて同じだと思う。他愛のない話題でも良い、話がしたい。会話がなくても良い。一緒に居たい。そんな気持ちが心の奥底から湧き上がってくる。そして晶子の抱く気持ちも身に染みてくるような気がする。その気持ちに応えることは俺の欲求を満たすことと等価だ。今まで晶子と付き合ってきて、こんな状況になったことは初めてなんじゃないか?

雨上がりの午後 第665回

written by Moonstone

 晶子の音頭で俺と晶子はティーカップを軽く合わせる。そして一口分芳香香る液体を口に運ぶ。ティーカップを一旦テーブルに置いて、俺は晶子の方を向く。晶子も俺の視線に気付いたのか、ティーカップをテーブルに置いて俺の方を向く。

2001/12/2

[結婚披露宴に行ってきました]
 同僚の結婚披露宴が昨日ありまして、職場関係の人達と一緒に行ってきました。職場近くのホテルなどではなく、少々遠出になりましたので車で乗り合わせて約1時間半かかりました。食事は出るだろうと思って昼食は食べませんでした。あ、勿論(着慣れない)黒のスーツに白のネクタイという出で立ちで。
 新郎である同僚は、私のように辛辣なことを言ったりしない物静かなタイプで、披露宴中緊張を隠せないでいましたね(笑)。新婦の方はその日初めてお会いしたのですが、なかなかの美人でドレス姿が結構様になっていました。
 披露宴そのものは割と地味な感じで、お色直しも1回だけ、ウェディングケーキも後で切り分けられて配られるくらい小さく(人数はそれなりに居ました)、仲人を立てることなく、二人が主役の披露宴と呼ぶに相応しいものでした。華美な演出もなく、新郎の友人が「戦場のメリークリスマス」を見事に演奏してみせました。
 私は年齢では1歳下なのですが、職場経験は私が2年半ほど早いというややこしい関係なのですが、なかなか良い披露宴に招いていただいて楽しいひと時を過ごしました。私は多分自分が主役になることはないでしょうけど(笑)。
 例のガチガチのセキュリティを晶子に解除してもらって、俺は晶子に家へ案内される。電灯が灯った室内は屋外同様結構冷える。晶子はエアコンの電源を入れ、紅茶の準備を始める。この辺は月曜日の夜の練習と大差ないからさして緊張感は感じない。

「直ぐ準備できますから、リビングに行ってて下さい。」
「ああ、分かった。頼むよ。」

 俺はジャンパーを羽織ったまま、ドアを開けてリビングへ向かう。入り慣れているから、何だか自分の家にいるような錯覚さえ感じる。最も俺の部屋は以前ほどではないにしても散らかっているから、錯覚が現実感まで発展することはない。ちょっとみっともない話だが。
 俺はガラスのテーブルの前にクッションを引き寄せて座り、辺りを見回す。相変わらずきちんと整理されていて、俺が手を出す余地は全くない。背後にあるベッド、CDとコンポが並ぶ棚、机の上に乗っているノートパソコン。何時見ても変わらない風景が此処にある。変化がない分、ちょっと写真やポスターなんか、インパクトとは言わないまでも変化が欲しいな、と思ったりする。
 少しして、ドアがコンコンと軽く数回ノックされ、俺がどうぞ、と答えると、ドアが開いて片手で下からトレイを支えて晶子が入ってくる。トレイの上には茶褐色の液体が入ったティーポットとお揃いのティーカップが乗っている。結構重い筈なんだが、バイトで慣れた成果と言おうか、その様子が様になっている。
 晶子はトレイをテーブルに置くと、ティーポットとティーカップ2組をトレイから降ろすと、トレイをテーブルの足に立て掛け、ティーポットからラベンダーの芳醇な香りを放つ紅茶をゆっくりと注ぐ。八分目程で注ぐのを止めてティーカップを俺の前とその隣に−俺は暗黙の了解で座る位置をずらす−置く。

「じゃあ・・・今日もお疲れ様でした。乾杯。」
「乾杯。」

雨上がりの午後 第664回

written by Moonstone

 沈んでいた晶子の表情に微笑みが浮かぶ。本当に嬉しそうで幸せそうな・・・。それを見ているだけでも、俺は充分幸せだ。妙なことを考えていた自分が気恥ずかしく思えてならない。最近何かと慌しい日々だ。晶子とゆっくり話す時間を持つのも必要だろう。

2001/12/1

[もう師走ですかい]
 公では長く続いている仕事が終りそうで終らないことに振り回され、私生活ではこのページの定期更新が終った、あ、もう来週かぁ、ということを繰り返しているうちに、あっという間に2001年最後の年を迎えたという気分です。恒例となった背景写真の変更、今回のものはいかがでしょうか?
 昨日付の更新では、久々にFTPが途中でダウンせずに全てアップできました。その瞬間は凄く嬉しかったですね。って、こんなことで喜んでいてどうする(汗)。インフラ整備、IT革命も、所詮何時ものように言葉だけですね。
 それから今日の更新準備の際に昨日の分をバックアップしていて気がついたんですが、11月なのにずっとOctoberだったんですね(爆)。リスナーの皆さんも気付いていたなら一声掛けてくださいよ(^^;)。そういう些細なことでも連絡いただければ、きちんとお返事しますから。いや、本当に。
なのに今日、突然泊まっていかないか、と誘ってきた。その意図は何だ?晶子・・・。

「何でまた・・・いきなり・・・。」
「・・・祐司さんと・・・もっとお話したいから・・・。」
「・・・。」
「・・・駄目・・・ですか?」

 正直、晶子の誘いを断る理由はない。だが・・・何と言うか・・・はっきり言って今日はそれまでの成り行きがないだけに、自分の中に押さえ込んでいた−付き合って3ヶ月、もっと仲を深めたいという気持ちがない筈がない−欲望が弾けかねない。そうなったら・・・晶子の気持ちに反して俺が暴走してしまうかもしれない。それだけは絶対避けたい。避けたいが・・・内心チャンスだ、と思う自分が居ることを否定できない。
 どうすりゃ良いんだ?こういう場合は・・・。晶子を諭して振り切って帰るか?それとも晶子の願いに応えるか?どうすりゃ良いんだ?どうすりゃ・・・。なまじこういうシチュエーションに慣れてないだけに、答えが即座に見つからない。

「駄目・・・なんですね?」

 晶子の悲しげな声が胸に重く響く。晶子の涙だけは見たくない。晶子が悲しむことだけはしたくない。そう思うと、俺の中で混濁していたものが一つの答えに集約されていく。

「否・・・。俺は良いけど・・・。何せ急な話だったから・・・返事に戸惑っちまって。」
「御免なさい・・・。でも、今日はどうしても一緒に居て欲しいから・・・。」
「分かった。今日は晶子の家に泊まらせてもらうよ。」

雨上がりの午後 第663回

written by Moonstone

「・・・今日、家に泊まって行きませんか?」

 晶子の口を付いて出た言葉に、俺は言葉を失う。確かに正月以来、俺と晶子は相手の家に泊まったことはない。月曜日の夜の練習の後、遅くなっても晶子は名残惜しそうに、俺は後ろ髪を惹かれる思いを感じながらも、泊まっていくと言い出すことはなかった。

このホームページの著作権一切は作者、若しくは本ページの管理人に帰属します。
Copyright (C) Author,or Administrator of this page,all rights reserved.
ご意見、ご感想はこちらまでお寄せください。
Please mail to msstudio@sun-inet.or.jp.