芸術創造センター こぼれ話
Dropped talk of Performing Arts Center

2001年4月30日更新 Updated on April 30th,2000

2001/4/30

[ぎりぎりセーフ(^^;)]
 一時不可能と思っていた「魂の降る里」の最新作第27章が、昨日から本日未明にかけての追い込みで無事完成しました。前回(第26章)が本ページでの規定容量(テキストで20kB〜30kB)をオーバーして残った分があったとはいえ、台詞と少々の描写が断片的にメモしてあるようなものだったので、それらに加筆や修正を施して見直して・・・と繰り返していたら、気付いたときには常備してある冷水を入れたポット(容量約2リットル)がすっからかん(汗)。完成した後はインデックスと圧縮ファイルを更新して、このコーナーの日記部分(即ち此処)だけを残して就寝しました。
 更新時刻は事情があって昼過ぎにずれ込みましたが、兎に角更新グループがNovels Group 3だけで終らなくてほっとしています(^^;)。しかし、「魂の降る里」を定期更新毎にアップしようとするのは、筆の遅い私には至難の業ですね(汗)。まずは月一回の安定した更新が出来るようにするのが先決でしょう。
 明日からは5月。背景写真の更新に併せて、余裕があれば隠し部屋を少しいじってみようかな、と思います。未だ残る肩凝りが消えたら、次の定期更新に向けての作品制作を始めるつもりです。それまでは少し体を休めることにします。
 ・・・色々考えているうちに溜まりに溜まった疲労の波が怒涛となって、意識という砂上の楼閣を本格的に崩し始めた。急速に目の前の闇が深まってくる。考えるのは・・・明日でも、それこそ考えようと思えば何時でも出来ることだ。もう・・・考えるのは止めにしよう・・・。

Fade out...

「・・・さん、・・・じさん。」

 何処からか声が聞こえる。深い霧に覆われた意識の中で、その声は輪郭を奪われて遠くの山彦のようにしか聞こえない。
再び意識が闇の中に遠のこうとしたとき、唇に何か柔らかいものが触れる。この感触は・・・!
 眠気が一瞬にして吹っ飛んだ俺は、がばっと起き上がって周囲を見回す。俺の左半身に密着して寝ていた筈の大きな猫、即ち晶子が悪戯っぽい笑みを浮かべて立っている。明るいグレーのセーターと淡い若草色のフレアスカートという姿に持参したらしいエプロンを着けている。

「お目覚めですか?お寝坊さん。」
「・・・晶子。お前、さっき俺に何した?」
「こういうことですよ。」

 晶子がそう言った次の瞬間、俺の唇が晶子の唇で塞がれる。今度はさっきのように唇と唇が触れ合う程度のキスじゃない。唇同士がほぼ完全に密着している濃厚なキスだ。
 暫くして−実際は数秒くらいだと思うが−晶子から唇を離す。悪戯が成功して満足げな表情を浮かべる子どものように微笑んで、舌を少し出して自分の唇を小さい範囲で舐める。・・・その動作がかなり艶っぽく見える。それを見た俺の心拍数が急上昇する。

雨上がりの午後 第470回

written by Moonstone

 もし俺と晶子が大きな一線を超えたとき、今のような関係を続けていけるんだろうか?前は・・・続かなかった。続けられなかった。今度は回避し続けるか?回避し続けられるか?・・・そんなこと・・・そのときになってみないと分からない。未来を映す鏡でもないと分からない。

2001/4/29

[うーん・・・(困惑&意気消沈)]
 昨日付のお話で触れたとおり、此処最近(特に99000人を突破してから)ご来場者数が伸び悩んでいます。作品の更新がない平日だけを見ても、以前のおよそ半分以下です。連休などで一時的に減っているだけなのか、作品の更新は週末しかないということで、このページが平日の巡回コースから離されているのか、或いは週末かどうかに関わらず巡回コースから離されたか、原因が推測しか出来ないのでかなり深刻に悩んでいます
 悩んだところで客足が以前のように戻るわけではありませんが、私にとっては今までも決して多いとは言えなかった客足が落ち込んでいるという事実は深刻なもので、それに(作品を新規公開したりメールを返信したりしないという意味で)黙っていても一日数百或いは千人単位でご来場者が増えるページではないので、余計に悩みは深刻です。
 ・・・もう限界なんでしょうかね。デフォルメキャラや可愛い女の子のCGが描ける筈もない、テキスト主体で固いページの運営というのは・・・。そもそもその手のCGが描けないという時点で、既にページ運営の限界が決まっていたのかもしれません。傷が深くならないうちにネットから撤退して、私だけが読んだり聞いたり見たりできるようにするべき時なんでしょうか・・・。
 改めて俺が布団に潜りこむと、待ってましたとばかりに晶子が身を寄せてくる。・・・猫みたいだ。俺が大人しく左腕を横に伸ばすと、晶子は左腕に頭を乗せて肩口にまで擦り寄ってくる。・・・やっぱり猫みたいだ。
 直ぐに寝てしまうだろうと思ったが、逆に寝付けない。疲労感は全身にたっぷり溜まっている筈なのに・・・。犯人は俺の左肩の肩口に擦り寄っている、「刺激物」をたっぷり備えた大きな猫のせいか。否、そうとしか思えない。
 左を向けば、この闇の中で微かに茶色の光沢を発している髪が残り香を漂わせているし、左脇の辺りには柔らかくて弾力のあるものを感じるし・・・。さらに左足の脹脛に何か別の、軽くて弾力のあるものが絡み付いている。至近距離どころか俺に密着している大きな猫は、俺の左半身をしっかり捕らえて離さない、と仄めかしているようだ。

 ・・・これ以上「刺激物」が多い左側に意識を向け続けていると、狼への変貌を余儀なくされると思って、俺は天井に視線と意識を移す。別に天井に何かあるわけでもない。今、高ぶりかけている興奮というか欲望というか、何て表現すれば良いか分からないが、兎に角そう言う感情を鎮めないことには・・・。
 暫く黙って天井を見上げていると、胸の奥で噴出る隙を窺っている感情が徐々にではあるが収まっていく。開いている右手でそっと布団と毛布を上げてみると、晶子が俺の肩口を枕にして動きが止まっているのが分かる。規則的で微かな呼吸音が静まり返った部屋に拡散していく。余程疲れてたんだろう。まったく目覚める気配がない。
 俺は布団と毛布を静かに下ろして、右手を毛布の下に潜らせる。そのまま暫く天井を見ていると、どこかに封印されていた今日の疲れがじわじわと全身に、そして意識にも染み渡ってくる。当然、瞼も重くなってくる。
 自分でまだしたいとは思わないって言って色々理由付けしておきながら、密着している「刺激物」の多さに欲情が顔を出しかけたなんて情けない話だ。どうにか落ち着いたところで、俺は晶子を起こさないように静かに小さな溜息を吐く。やっぱり恋愛関係になると、好きだという気持ちや言葉だけでは済まなくなってくるんだろうか?

雨上がりの午後 第469回

written by Moonstone

 俺は晶子の上を横切る形で、電灯の紐を掴んで3回引っ張る。紐を引っ張る毎に部屋や家具が普段の色合いから弱いオレンジ色を帯び、そして暗闇に淡い輪郭を帯びるだけになる。

2001/4/28

[間もなく4月最後の定期更新]
 昨日は現在の生活パターンに則って寝たり起きたり、そして食べたり(^^;)してました。今日明日で定期更新予定の作品を揃えるべく、起きているときは連載の書き溜めがメインで、その他は遅れに遅れている感想メールのお返事と、連載の一部修正を行いました。
 今回の定期更新は前回と同じ顔触れか、常連のNovels Group 3とSide Story Group 1の連載一部修正になりそうです。Side Story Group 2も更新したかったんですが、どうも間に合いそうにありません(汗)。朝から夜寝るまでずっと起きていられないということが作品制作やページの運営そのものを思うように進められない原因だと分かっているだけに、歯痒くてなりません。
 感想メールが来ないのは当たり前(妙なメールは結構来ますが)、それにここ数日、ご来場者数も伸び悩んでいますし・・・(溜息)。何だかお話しているうちに気が重くなってきました。4/26付では見方を良い方に考えてみたいとお話したのですが、やはりそう簡単にはいかないようです。
「真面目って・・・言うのか?俺の性格って・・・。」
「そうですよ。だからもっと祐司さんは自分に自信を持っても良いんじゃないかなって思うんです。ステージで演奏するときみたいに。」
「ステージに上がっている時は演奏のことしか考えてないからな・・・。」
「それじゃあ、私と一緒に居るときは私のことしか考えないようにしてみたらどうです?」

 晶子がそう言った次の瞬間、左の頬に熱くて柔らかい感触がする。・・・あの一撃だ。それも「公約」どおり不意打ちで。やられた、という思いが浮かぶ。気を抜いていた隙を突かれたという、ちょっとした自分への叱責と、ほわんとした幸せが入り混じっている。どうせ頬や耳は火傷したみたいに赤くなってるんだろうな・・・。

「・・・やってみる。」

 左の頬に手をやって、俺はそれだけ言う、否、それだけしか言えない。晶子を見ると、悪戯が成功した子どものような笑みを浮かべている。・・・俺は苦笑いするしかない。
 その後、風呂に入って−今回は「客」の晶子に先に入ってもらった−寝間着を着て寝る準備は完了した。俺はエアコンのスイッチを切って、湯冷めしないように着ていた上着を脱いで布団に潜り込む。続いて晶子も羽織っていた厚手の上着を−自宅で風呂上りに着ている半纏は鞄に入らなかったそうだ−脱いで布団に潜りこんで来る。

「それじゃ、電気消すぞ。」
「はい。」

雨上がりの午後 第468回

written by Moonstone

「全然逃げ口上には聞こえないですよ。祐司さんの気持ち・・・良く分かりました。」
「・・・そうか?」
「ええ。やっぱり祐司さんって真面目な人ですね。改めてそう思いました。」

2001/4/27

[自分の作品を読んでみる]
 昨日の夜から連載の書き溜めをしていて、ふとNovels Group 3で読めるようになっている「雨上がりの午後」やNovels Group 1の「Saint Guardians」を読みたくなりました。特に登場人物や世界観が比較的緩い「雨上がりの午後」は、設定が緩い分だけ逆に話が最初の方から現時点で最新のChapter 41まできちんと繋がっているのか、確かめてみたくなったんです。
 流石に全部読むことは出来なかったですが(肝心の書き溜めの途中ですからね)、どうにか構想どおりに話が進んでいることが確認できてほっとしています。唯一予想外なことは、Chapter 41にしてまだ終わりが見えないということですね(^^;)。書き溜めの分でも終わりの雰囲気は微塵もありません(^^;;)。勿論ラストまで構想は出来ていますが、それに辿り着くには此処での連載回数が4桁になる可能性が否定できません(汗)。「Saint Guardians」はラストどころか現在展開中の序盤、レクス王国編の終わりすらまだ見えません(爆)。
 元々「雨上がりの午後」は日記のみだったこのコーナーで、毎日更新ということで何か出来ないか、と思ったことが発端で、これほど長期化するとは思っていませんでした。それが今では連載第500回が視野に入ってきて、Novels Group 3も予想を上回るご来場者を迎えています。継続は力なり、というのは本当のようですね。
言ってみれば何時変貌するかも分からない狼男と隣り合わせているようなものだ。逆に言えば、俺が狼に変貌すればほぼ確実に「獲物を仕留める」ことが出来る。だけど・・・。
 暫しの沈黙の後、今度は俺から口を開く。

「まだ・・・したいとは思えない。」

 少しの沈黙の後、今度は晶子が口を開く。

「それは・・・どうしてですか?」

 さらに少し沈黙が過ぎ行き、俺が口を開く。

「勿体無いから・・・って言えば良いかな。」
「勿体無い・・・?」
「何て言うか・・・そこまでの過程をもっと味わいたい・・・。二人で何処かへ行ったり、一緒に買い物したり、さっきみたいにレパートリーを選んだりとか、そういうことを何度か繰り返していくうちに、俺と晶子の仲が深まっていく過程を一歩一歩踏み確かめていきたい・・・。」

「・・・。」
「それで・・・俺と晶子の気持ちが・・・変な言い方だけど頂点まで高ぶったら・・・自然にそうなると思う。」
「・・・。」
「まあ・・・逃げ口上に聞こえるかもしれないけどな・・・。」

 俺がそう言うと、晶子は首を横に振って軽やかに口を開く。

雨上がりの午後 第467回

written by Moonstone

 晶子はそう言うが、緊張感は少しどころじゃないと思う。何時隣の男が狼に変貌するか分からないんだから。自宅なら物音が周囲の迷惑になるとか何でも良いから理由付けして回避することが出来るだろうが、今夜は俺の家だ。

2001/4/26

[現在のところ、異常なし]
 週の前半は慌しかったですが、今はのんびりしています。今患っている病気の典型的な症状である、朝から夕方にかけては倦怠感と眠気が強く、夕方以降はそれらが消えてけろっとしている症状に甘んじて、眠いときは寝るようにしています(実際、今日も寝てました(爆))。夜寝るときは鎮静剤を飲めば寝られるので、昼寝し過ぎて夜寝られないということはありません。
 表面上は健康そのものですが、先にお話した症状が今尚あるということは、まだ完治していなくて小康状態にあると言うべきでしょうか。実際、飲んでいる薬は寝る前の睡眠薬が1日4回の鎮静剤に変わっただけですし。まあ、逆に考えれば睡眠薬を必要としなくなっただけ回復に向かっているとも言えますね。捉え方次第で良いようにも悪いようにもとれるわけです。
 「まだ」と「もう」のどちらか・・・例えば私の病で言えば「まだ此処までしか治ってない」と「もう此処まで治った」とか、コップに入った水で言えば「もう半分しかない」と「まだ半分ある」。それだけで見方が大きく変わるものですよね。今まで私は「まだ此処までしかやってない」と自分自身を追い詰める考え方しか出来なかったので、「もう此処まで出来た」と称賛する考え方が出来るようにしていきたいです。
 俺は意識が眠気の方に向くのを避けるために、床絨毯の上に座って待っていた晶子の右手側に座る。こういう場合、男が女の左手側に座ると女は不安に感じたり緊張したりするそうだ。・・・高校時代、優子の友人から聞いた話だが。

「祐司さんから私の傍に座るなんて珍しいですね。」
「そうか・・・な。」

 自分の家で晶子と隣り合わせで座っている。晶子の家では少しではあるけど慣れたように思うが、この家では初めてだ。緊張してなかなか会話が続かない。まあ、意識が眠気の方を向いて暗い穴の中に吸い込まれてしまうよりは、はるかにましだが。時計の秒針が刻む音が一定の間隔で沈黙の流れの中に打ち付けられていく。

「緊張・・・してるんですか?」

 晶子の方から沈黙を破る。俺は頭に浮かんだとおりに答えを発する。

「してないって言ったら嘘になるな・・・。」
「私の記憶に間違いなければ、私と祐司さんが両方健康な状態で一緒に寝るのは初めてですものね。」
「・・・そのとおり。」

 晶子も今夜が初めてづくしなのは分かっていたのか・・・。まあ、俺でさえ分かっていることだから、晶子が分かっていて当然か。

「緊張するのは、やっぱり私が女だからですか?」
「・・・それはある。」
「そうでしょうね。私も緊張してるんですから。」
「晶子もか?」
「少しですけどね。」

雨上がりの午後 第466回

written by Moonstone

 自分一人だったら雑誌を読むなり、ヘッドフォンをして大音量で音楽を聴くかしていればどうにか我慢できるだろうが、今夜は晶子が居る。一人の時と同じことをしてたら晶子は良い感じはしないだろうし、かと言って双方黙って待っていると揃って寝入ってしまって、浴室が湯で溢れ返ることになりかねない。さて、どうしたものか・・・。

2001/4/25

ご来場者99000人突破です!(歓喜)

 ・・・おおお、10万人まであと1000を切ったぞ(@o@;)。誰が10万の桁が0から1になる瞬間を見るんでしょうね。よろしければご一報を。10000のときは自爆してしまったので(^^;)二の舞にならないように気をつけなければ(笑)。

[熱いーっ!!]
 迂闊というか不覚というか、両手に火傷を負ってしまいました(大汗)。昨日夕食の準備をしていたのですが(大抵母親に手伝わされる)、私が担当した揚げ物をしていたとき、勢い良く材料を入れすぎたのかどうかよく覚えていませんが、揚げ物が順調に揚がっていたので恐らく170〜180℃の熱い油が両手にかかってしまいました(滝汗)
 もう熱いわ痛いわで大混乱。兎に角冷やすのが先決、ということでまず流水に両手を浸して、続いて氷水を患部に当てて、暫くしてから冷却スプレーをかけて湿布を患部に貼りました。処置が早かったので患部が赤くなる程度で済みましたが、一歩間違えば大惨事になっていた可能性もあったわけで、「慣れ」の恐怖を存分に思い知らされました。
 幸い、指は左手の中指を少しやられたくらいで無事でした。指をやられたらキーボードが使えませんからね(^^;)。あ、マウスもそうか。
 それだけ言うのが精一杯だ。衆人環視の前でやられたら・・・周囲の目が怖い。特に男の目が。

 全身の火照りがようやく収束に向かいかけたところで、再び眠気が強くなってきた。この部屋の掃除と「Stand up」の実験で溜まった疲れは、もう誤魔化したり押さえ込むことは出来そうにない。晶子も口を手で覆っているが、欠伸で口が開くのを完全には隠し切れない。

「今日はもう寝るか・・・。さっきから眠くてしょうがない。」
「そうですね。私も眠いです。」
「風呂の準備してくる。20分くらいで入れるようになるから。」
「お願いしますね。」

 晶子はそう言って小さい欠伸を手の指で覆い隠す。大口を開けて欠伸するところを人に見せないように、と躾られてきたんだろうか。男女問わず大欠伸を見せびらかしているような今時には珍しい。俺が見ているからそうしているのか、という疑念も多少はあるが、少なくとも欠伸を他人に見せないようにしていることには変わりはない。その日その時で出来るようなもんじゃない。
 風呂の準備といっても簡単だ。湯の量と温度、そして湯を使う場所を設定するパネルが壁にあるから、そこで風呂を選択して点火のボタンを押せば設定した量と温度の湯が風呂桶に張られる、というわけだ。どうせ湯は風呂場でしか使わないし−洗い物は殆ど出ないから−湯の量と温度は何時ものとおりだから、ただ点火のボタンを押せば良い。風呂桶の栓は今日の大掃除が終った後に塞いでおいたから間違いはない。あとはアラームがなるのを待つだけだ。俺が寝込んだ2日目の夜、晶子が俺の説明なしに風呂に入ったんだから、それだけ操作は簡単だということだ。
 実際20分程で風呂桶に湯が張れる。問題は只一つ、その時まで眠気に耐えられるかどうかだ。今の疲労から考えると、目を少しの間でも閉じているとそのまま眠りこけてしまうのは確実だ。もしかするとくつろいでいるだけで自然に意識が遠ざかっていくかもしれない。

雨上がりの午後 第465回

written by Moonstone

「じゃあ、慣れるまでしますね。勿論不意打ちですよ。」
「・・・せめて人の目がないところでやってくれ。」

2001/4/24

[ひー、疲れたぁ・・・]
 昨日、通院のために出掛けたんですが、体力が落ちていることを改めて実感させられました。往路はさほど電車が込んでいなくて割とゆったり行けたんですが、問題は復路。病院から30分以上歩いて、さらに恐怖の帰宅ラッシュに巻き込まれての約2時間。無事帰宅しても腹は減るわ全身の倦怠感は酷いわで、夕食を食べてから連載の書き溜めをしようにも、復路の疲れに薬の作用がプラスされた強烈な眠気のせいで、殆ど出来ませんでした。
 で、ラジオを聞いていたら何時の間にか寝てしまって、母親に叩き起こされてしまいましたとさ(^^;)。とっとと寝れば良いものを、0:00までの番組を聞こうとしたのが間違いだったな・・・。
 今日起きて早速更新の準備をしようとしたんですが、全身の倦怠感が消えてなくて、気合を入れようと聞いていた「Stand up」が子守唄になってしまって(汗)、更新は午後にずれ込んでしまいました。眠気にはなかなか勝てませんね(^^;)。
 それにしても新聞やテレビが自民党総裁選挙について、さも重大事項のように報道していますが、首相が退陣したなら衆議院の解散、総選挙が筋だということにまったく気付いていない、そして内容も分からない「構造改革」という言葉に酔っているのを見て、マスコミの無知無能ぶりをまたも実感しています。

「俺が横に居ないと不安なのか?」
「それもありますけど、やっぱり・・・祐司さんと一緒にステージに立ちたいから・・・。」

 晶子が得意とする少し上目遣いで懇願するような表情を見せる。・・・この「切り札」を使われたら、俺の対応は必然に一つに絞られてしまう。そしてそうすることが苦痛になるどころか、それが自然なことのようにさえ感じる。これも一種のマインド・コントロールなんだろうか?もしかしたら「好きだ」という気持ちそのものが、する側の相手も気付かないうちに実行しているマインド・コントロールなのかもしれない。

「分かった。シーケンサのデータは俺が居るときと居ないときの二種類を作っておくよ。」
「はい。お願いしますね。」

 晶子はにこりと微笑みながら俺に近付いたと思ったら、俺の右頬に点状の柔らかい感触が伝わる。・・・頬にキスされた・・・のか?そう思うと急激に、否、一瞬で身体が内側から熱くなる。晶子と交わした最初の口同士のキスと同じくらい、もしかしたらそれ以上に強烈な印象となって、俺の胸を激しく鼓動させる。

「な・・・、何すんだよ・・・。いきなり・・・。」
「今から頬にキスしますよ、なんて事前に言うと思います?」
「そ、そりゃあ、そうだけど・・・。」

 俺はまだあの感触が残る右頬に手をやる。何か言おうにも頭が混乱して口がまともに動かない。晶子は悪戯っぽい笑みを浮かべて俺を見ている。俺はギターを身体から離して壁に立てかける。まだ全身の火照りと痛いほどの胸の鼓動は収まらない。

「祐司さんって結構照れ屋なんですね。」
「ま、まあな・・・。それに・・・頬にキスってのは・・・何て言うか・・・虚を突かれた感じがするというか、慣れてないからというか・・・。」

雨上がりの午後 第464回

written by Moonstone

 実際、店が混んでいて俺の手が回らない場合に晶子のレパートリーが指名されたら、晶子は一人で一連の操作をして何度か歌っている。それでも俺の手が空いているときは必ず俺の手を借りようとする。勿論断ることはしないが・・・。

2001/4/23

[左手が・・・]
 昨日ずっと痺れていました(汗)。とは言っても、日常生活に支障を来すほどのものではなくて、何て言うんでしょうねぇ・・・正座した後の足の痺れが消える少し前のような状態と言えばご理解いただけるでしょうか?今日はこのお話をしている時点では痺れは感じません。一過性のものだったらそれで良いんですが。
 昨日は祖母の一周忌法要があって、朝から出掛けていました。でも、法要そのものは午後からで、何でこんなに早くから?と思っていたら、父親の買い物に同行した以外は暇を持て余していました。これなら午後から出掛けりゃ良かったのにと思うこと頻り(- -;)。それに法要の時間よりその後の食事会(で良いのか?)の方が長かったというのは、未だもって私には理解できないことです。その煽りで、昨日の更新も随分遅くなってしまいましたしね・・・。
 葬儀や法要は誰のためにあるのか?ただ、組(町内会の縮小版)の人達がその後の食事会で無料で飲み食いしたいだけにやってるんじゃないか?という疑問が頭から離れません。こういう非合理的な慣習や組や町内会という組織形態はいい加減見直すべきでしょう。このようなことが今尚横行しているところを見ると、日本は何も進歩してないな、と私は思います。
 曲自体がアップテンポな上に聞く側を扇動するような−悪い意味ではない−歌詞が特徴的だ。「Secret of my heart」と同じ人物が作ったとは俄かには信じ難い。Stand upとある部分では、俺もStand upと思わず口ずさんでしまう。
 晶子は上半身を揺らしてリズムを取りながら歌っている。今までは揺れる方向は上下だったが、この曲では肩が左右交互に前後に揺れていて、楽しげに踊っているようにも見える。この曲ならステージで晶子が実際に躍っても不思議はないな。ファンの声援を浴びながら軽快に歌う晶子の様子が目に浮かぶ。
 俺と晶子が同時にStand up、と歌って曲が終る。何時の間にか俺もリズムに乗って身体を動かしていたのか、身体が熱い。光熱費の高騰を押さえるために−生活費に響くんだな、これが−控えめにしている暖房が熱風を吹き付けているようにさえ感じる。

「良い感じだったな。晶子がノリノリで歌ってたし。」
「自然と体が動いちゃったんですよ。そういう祐司さんも珍しく身体が動いてましたよ。」
「え?そうか?自分じゃ気付かなかった。」
「他の曲が悪いって意味じゃないですけど、肩肘張らずに楽しく出来ますね、この曲って。」
「ああ、それは言えるな。」
「祐司さんのお墨付きならレパートリーに加えても良いですよね?」
「もう俺の判断を仰がなくて良いよ。晶子はもう充分に一人立ちできる力を身につけてる。ヴォーカリストとしてのな。」
「私はまだまだですよ。でも、バックの演奏はシーケンサだけじゃなくて、『Fly to the moon』とかと同じく、出来るだけギターは祐司さんにお願いしたいです。」

 今度は晶子から逆指名された。前のコンサートで初披露した『Secret of my heart』など一部の例外を除いて、『Fly to the moon』をはじめとする晶子のレパートリーの殆どは既にヴォーカル以外のパートのプログラミングが出来ていて、シーケンサで−とうに型落ちしたPCで動く、高性能なソフトウェアだ−作成したデータをロードしてフットスイッチを押せば、晶子は一人でも歌えるようになっている。

雨上がりの午後 第463回

written by Moonstone

 俺が五線譜にメモしたコードを追う中、晶子の歌声が入る。さっきの打ち合わせのとおり躓いたような感じもなく、俺のストロークで奏でる和音にヴォーカルか絡む。勿論音量は控えめだが、時折ブックレットを見ながら歌うその表情は、ステージに立つときと何ら変わらない。

2001/4/22

[まったりと過ぎ行く日]
 今は朝起きてから食事を済ませて、その日の更新をしています。とても健康的ですね(苦笑)。更新のときは如何に少ない時間で手際よく更新するかを考えています。数分のこととはいえ電話料金はアクセスポイントの関係で市外通話なので油断なりません(^^;)。その後は此処の連載や文芸関係のグループの書き溜めや展開の模索をしています。特に此処の連載は更新の度に必ず減っていくので(それも書いた時間の何十分の一の時間でごっそりと)、常に追いつ追われつです。
 昨日は寝たり起きたりの合間に此処の連載を書き溜めました。夕方頃までどうも頭がぽや〜として度々寝てしまったのでなかなか進まなかったのですが、今日の連載は確保して(確保しなきゃ見れんわな)明日の分の約30%を残しました。今日は午前中から家を空けるし、帰りも何時になるか分からないし、明日は明日で病院に行くし・・・。一時連載を10日分以上確保していたのが夢のようです(遠い眼)。用事が済んだら直ぐ書き溜めねば・・・。眠気(by薬の副作用)に負けないようにBGMは「Stand up」でいきましょうか(笑)。
 俺は五線譜の該当する部分をささっと消しゴムで消す。今回は実験的なものだから、それ程シビアに考えなくても良いだろう。音数に違いはあっても殆どはコードのストロークに留めておくことにする。

「−よし、これで良いか。晶子はどうだ?」
「私も準備OKですよ。」
「それじゃ、やってみるか。あ、今回は実験みたいなもんだから、立って歌わなくて良いよ。」
「はい。」

 俺はギターのストラップに身体を通してチューニングを済ませる。エフェクターの準備も出来たし、アンプの出力も必要最小限に絞ってあることも確認した。この時間に大音量で鳴らすなんて近所迷惑以外の何物でもない。このまま始めても一向に構わないんだが、此処は一つ、店のステージを思い起こさせる演出でもしてみるか。

「それでは続いて、井上さんによる『Stand up』です。」

 俺はマスターの曲紹介を真似してから、この曲で基本になっているストロークでの和音を刻み始める。

「あー、曲紹介なんてマスターの真似ですね。」
「ほらほら、もうすぐヴォーカルの出番だぞ。」

 俺は晶子の突っ込みを避けるのを兼ねて、晶子に出番が迫ってきていることを告げる。晶子はやられたという表情から直ぐに表情を引き締めて、歌声を入れるタイミングを窺う。

雨上がりの午後 第462回

written by Moonstone

「そうだなぁ・・・。そうするか。じゃあ、この部分は他と同じく4/4として次の小節からヴォーカルが入るってことにしておく、と・・・。」

2001/4/21

[見切り発車]
 先日の連載で「Stand up」が入った倉木麻衣の新しいアルバムが登場しました。今日現在の時点では勿論出ていません(爆)。シングルは既に売られているので(4/18発売)、それにすれば良かったのでは、と言われればそれまでなんですけど、シングルで出たなら多分次回のアルバムに入るだろう、と思ったのもありますし、恐らく「Reach for the sky」なども入るでしょうから、これからの選曲のバリエーションも増えるでしょう。うーん、まさに見切り発車だな(^^;)。
 で、「Stand up」は連載でアレンジから歌うまでの過程を書きたかったので、急遽シングルを買って来ました(爆)。まさかアルバム発売日まで待つわけにはいきませんからね。ひととおり聞いた後、「Stand up」を何度も繰り返し聞いていて連載のネタになりそうな部分を探した結果が今日の連載です(笑)。
 あと、安藤君と井上さんの二人が、最初の方の「指導者と教え子」という関係から、二人が対等の立場でレパートリーを一つ増やしていくようになったところに注目していただけると嬉しいです(^^)。
それにこの曲、かなり音が聞き取り易いしギターの出番も多い。俺もやってみたい気分になる。

「良いな、これ。ちょっと試しにやってみようか。」
「良いんですか?」
「ああ。俺も晶子のレパートリーに加えるには良い曲だと思うんだ。晶子のレパートリーはスローかミディアムテンポが多いだろ。だから意外性もあって面白いんじゃないか?」
「ありがとう、祐司さん。」
「礼なんて要らないさ。ちょっと待っててくれ。数回聞いて音取るから。」
「はい。じゃあ私はその間に歌詞をしっかり覚えますね。」

 俺はコンポに演奏を繰り返させて音を取って、五線譜にメモ感覚でコードの展開と主要な音を書き連ねていく。隣では晶子がブックレットを真剣に見詰めて、声を出さずに唇だけで歌って曲の流れを確認しているようだ。
 2、3回聞くうちに曲の流れとコードはほぼ把握できた。だが、どうしても引っ掛かるところがある。ヴォーカルが入る直前の部分だ。

「うーん・・・。」
「どうしたんですか?」
「いやな、ヴォーカルの入る直前の小節、此処が素直に4/4拍子になってない。・・・1拍半、余計にあるように聞こえるんだ。」
「祐司さんもそこで疑問に思ったんですか?私もCDに合わせて歌おうとしたとき、そこが一番難しく感じたんですよ。あれ?此処でヴォーカルが入るんじゃないの?って・・・。」
「これをどうするかだな・・・。原曲に忠実にいくならこれでも良いけど、客の立場からすると、特に初めて聞いた客の大半はこの部分で躓いたように感じる可能性が高いと思う。俺自身その部分に注目したとき、がくっとなったように感じたしな。」
「いっそ、その部分を4/4拍子にアレンジしちゃっても良いんじゃないですか?」

雨上がりの午後 第461回

written by Moonstone

「私のレパートリーに新しく加えようと思って・・・。」

 その「Stand up」が流れる中、晶子が話を切り出す。常に自分のレパートリーの充実を考えているのか・・・。ヴォーカルとしての探究心は大したものだ。

2001/4/20

ご来場者98000人突破です!(歓喜)

 ・・・一気に増えましたな(^^;)。19日はカウンタが機能しなくて(多分プロバイダのトラブル)分からなかったんですが、昨日ファイルをアップして確認したときカウンタを見てびっくり(笑)。やっぱり「魂の降る里」効果でしょうか?

[続・今、集めてます]
 倉木麻衣のライブチケット獲得(当選?)に向けて、対象商品の飲み物を飲みまくっています。今までは応募締め切りまでに数口分集めれば良いや、と思っていたのですが、出不精の私がそんな悠長なことをしていてはいけない、ということで、対象商品の500mlペットボトル10本を買って、2日間であと2本というところまで迫りました。もう執念だけで飲んでいるような感じです(^^;)。
 応募要項はコカコーラのページに詳細がありました。電話では早口すぎて半分以上聞き取れなかったんですが(汗)、その画面をキャプチャーしてJPEG画像にしたので安心、安心♪ついでに倉木麻衣のプロフィールのページもしっかりキャプチャーしたので安心、安心(爆)。
 晶子にはやっぱりかなわないな・・・。俺は差し出されたはんぺんを受け取ろうと取り皿を手に取るが、そこで晶子に止められる。

「取り皿は不要ですよ。」
「え、だって・・・!」

 晶子の望むことが分かった俺は取り皿を机において、差し出されたはんぺんの半分を咥え取る。そこで晶子がはんぺんから箸を離す。これって・・・間接キスだよな。そう思うと冷めかけていた全身が再びかあっと熱くなる。間接キスくらいでこうも興奮していたら、今日一緒に寝るときはどうなるんだ?
 口で受け取ったはんぺんは少々熱いが、一旦取り皿に置く必要があるほどではない。俺ははんぺんを噛む毎に口の中に引き込んでいく。そのままもぐもぐと噛んでいると、晶子が自分の分のはんぺんが入った取り皿を俺の前に差し出す。俺は晶子の意図するところを察すると、全身の熱がさらに増す。だが、ちょっとやってみたいという気持ちがあるのもまた事実だ。
 俺は晶子から取り皿を受け取ると、箸ではんぺんを取って晶子の口に近付ける。すると晶子は口でぱくっとはんぺんを咥える。その仕草は仔犬か仔猫を思わせる。俺がはんぺんから箸を離すと、晶子は俺がやったように噛む毎に口の中にはんぺんを引き込んでいく。俺と同じことをやっている。
 俺と晶子は顔を見合わせて笑う。口の中にまだはんぺんがあるから、噴出さないように口を手で押さえて。案外俺と晶子は似た者同士なのかもしれない。

 終盤ドキドキの夕食が済んで、俺と晶子は音楽を聴きながらくつろぐ。俺が持っているCDの他、晶子が前の休みの日に買ったというCDも聞く。そのCDは、クリスマスコンサートで一番の目玉だったと言って良い「Secret of my heart」を歌っている倉木麻衣とかいう女性シンガーの新しいアルバムだそうだ。
 スローかミディアムテンポの曲が多めだが、その中で快活な感じがする曲がある。「Stand up」という曲だ。聞いていると歌に合わせて「Stand up」と言ってしまいそうになるノリの良い曲だ。

雨上がりの午後 第460回

written by Moonstone

「・・・それ、食べて良いのか?」
「未練ありそうな顔してましたよ。」
「う・・・そうか?」
「ええ。それより、はい。」

2001/4/19

[そんなに主張することが悪いのか!]
 私は今、3月下旬にぶり返してさらに悪化した病気のため(詳細は以前このコーナーで説明したとおりです)、帰省して療養しています。まあ、見た目にはまったくの健康体なので療養には見えないでしょうけど。
 それはさておき、今回は母親との衝突が多いです。今の病気で帰省したのが2回目というのもあるでしょうが、私がこんなことになったのは全て私の考え方がおかしいと断言します。要するに理由や状況はどうであれ、私が相手に譲歩しなければならない、意見を言わないで上辺だけでも受け流せ、というわけです。
 これは絶対、断固認められません。私が自分の意見を言うときにヒートアップし易い、言い換えれば喧嘩ごしになり易いということは分かっています。しかし、ある状況における自分の正当性や物事に対する主張をぶつけて何が悪いというのか、まったく理解できません。徹底的に主張をぶつけ合ってその中から妥協点を見出せというなら分かりますが、上辺だけでも受け流せというのは、結局は自己を出すな、大人しくしていろという、前近代的な思想そのものではないでしょうか?それが母親曰く「大人になれ」ということなんでしょうか?
 そんなものは何も「大人」でありません。逆に主張をぶつけ合うことなく、なあなあでやり過ごして、自分の思想や意見を主張する人間を「アカ」呼ばわりする、今の体制に都合の良い「子ども」でしかありません。前にも此処でお話したように、材料や建築方法を悉く間違えて、異論を唱えると「アカ」差別で追いやって今のいびつな日本を作り上げたのは、まさにその「子ども」達なんですから。
 だが今日は自分の家だから遠慮も何もない。そうなるとあとは理性がきちんと働くかどうかだが・・・ちょっと当てにならないような気がしないでもない。ちらっと晶子の表情を見てみると、勿論OKですよね?と言いたげだ。・・・とても自分の家に帰ったらどうだ?とは言えない−言いたくなくもあるが−。・・・腹を括るしかないか。

「・・・ああ、良いよ。」

 心の葛藤を隠して答えると、晶子は嬉しそうに微笑む。もしかすると、一緒に掃除をしようと言い出したのは勿論そうするとして、本当のところは此処でご一泊するのが本当の理由だったんじゃないか?という疑念が浮かぶ。否、確信と言った方が良いかもしれない。

 そうこうしているうちに、おでんも残り僅かになってきた。二人が思い思いに具を放り込んだから、双方均等に具が行き渡るわけではない。既に大根と竹輪、それに卵は姿を消している。後はどういうわけかはんぺんが残っている。それも湯気がかなり少なくなった容器の中に1つだけ。
 俺自身は結構な量を食べたし、食い物の恨みは恐ろしいというし−まあ、晶子が執拗にあのときのはんぺん、なんて言うとは思えないが−、ちょっと手を出しあぐむ。残り一つを誰が取るか、というある種の注目の的は、食卓を囲む人数が一人以外のときは必ずと言って良いほどあることだ。
 第三者から見れば実に下らないことこの上ないことで、俺と晶子の箸が止まっているのは事実だ。・・・どうしよう?この最後のはんぺん。たかがはんぺん、されどはんぺん。うーん・・・。考えてるうちに湯気が少しずつ減っていく。さて、どうしたものか?冷えたおでんは食べたくないというのは本音なんだが・・・。
 俺が残り1つのはんぺんの取り扱い(?)について思考を巡らせている中、晶子の箸が動いた。俺が見守る中、容器の中のはんぺんを拾い上げて自分の取り皿に入れる。あれこれ考えていたうちに呆気ない幕切れとなったが・・・ま、良いか。
 俺が少々未練を残しながら箸を置くと、晶子がはんぺんの中央部分の端を噛む。そのまま食べるのかと思いきや、再びはんぺんを取り皿に戻し、噛んで切れ込みを入れた辺りに箸を入れて二つに分ける。そしてそのうち一方を箸で掴んで俺の前に差し出す。

雨上がりの午後 第459回

written by Moonstone

 考えていた矢先に晶子が尋ねてきた。「当初の予定どおり」なんて困ったな・・・。晶子の部屋でお泊りしたときは、此処が晶子の家だから、というある種の遠慮があったから、思い切ったというか、・・・まあ、第一次欲求の一つが表に出ることはなかったと思う。

2001/4/18

[定期更新の嵐を超えて]
 ぼんやりしてます(爆)。特に今回は予定容量の約1.5倍にもなった「魂の降る里」の編集に梃子摺った過程で体力と精神力を使い切ったので、次回分を書くにはもう少し「充電」が必要です。正直な話、「魂の降る里」を更新するとご来場者数がどかっと増えるようなので、カウンタの回転を早めるならNovels Group 3ののように定期更新毎にアップできれば良いんですが、それは流石に難しいです(筆遅いですからねぇ)。まずは月1回の更新を確立するのが先決ですね。まあ、Novels Group 3はこのコーナーの連載が元になってますから、比較対照にするべきではないかもしれません。でも、日々の積み重ねというのは大きいものです(しみじみ)。
 「魂の降る里」は勿論、暫く更新していない連載ものや文芸関係のグループも、時間的余裕のあるこの機会に書き溜めておきたいです。画像ファイルでは1枚で数十kBは当たり前のようなものですが、テキストファイルでは20kBでも厳しいですからね〜(^^;)。時間を上手くやりくりして安定した更新を心がけたいものです。

「意外って言っちゃうのも何ですけど・・・、結構美味しいですね。」
「ああ。俺もコンビニのおでんは初めてだから、味はどうかなって思ってたんだけど。」
「おでんや鍋物とか、そういう食べ物って一人で食べるより、誰かと一緒に食べるとぐっと美味しく感じません?」
「そうだな。でも、それはおでんや鍋物に限ったことじゃなくて・・・そこに会話っていう、一人だけの食事にはないものがあるから、美味く感じるんだと思う。」
「一人のときに会話があったら、ちょっと怖いですよね。」
「一人芝居しながら食事・・・か。見世物なら面白いかもな。」

 俺と晶子はくすくす笑う。湯気が立ち上る中、俺と晶子は食の間に会話を挟みながらのんびりとした夕食の時を過ごす。そう言えば・・・此処で俺と晶子が夕食を共にするってのは初めてなんじゃないか?前に俺が熱を出したときも、晶子が俺に食べさせた後で食べてたし、2日間看病してくれたお礼ということで夕食を共にしたときも外に出たよな・・・。
 二人で夕食を食べるのは晶子の家では、そう珍しいことでもなくなっている。これが晶子の思う壺なのかもしれないが、まあ、それは別として、やっぱり俺の家で夕食というのは今日が初めてというのは、多分間違いない。
 それに今日、晶子は此処に一泊するつもりでいる。俺が晶子の家に一泊したこともさほど珍しくないが−これも晶子の思う壷なのかもしれない−、此処では俺が熱を出して寝込んだ時の2日間だけ。それにあの時は俺が知らない間に晶子が寝てたから俺が驚いたくらいで済んだが、今度は俺の意識があるうちに晶子が隣で寝るのか・・・。煮込まれた大根を齧りながら、俺は夕食後の展開を考える。

「祐司さん。」
「ん?・・・どうした?」
「今日で掃除は終りましたけど、当初の予定どおり此処で泊まっていって良いですか?」

2001/4/17

ご来場者97000人突破です!(歓喜)

 ・・・あああ、やっぱり昨日の更新時に97000越えてた(汗)。ファイルをアップロードしてからページの確認をするので、どうしても後手後手になってしまうんですよね(^^;)。勿論、増えていく分には嬉しいことです(^^)。

[ごめんなさい、の一言です(滝汗)]
 昨日、4/16に定期更新を行うつもりでした。しかし、事情があってネットにまったく接続できず、おまけに「魂の降る里」が書いているうちに予想をはるかに上回る規模に発展したので、どう対処するかか迷って(結局当初予定していたところまで仕上げてアップしました)、その煽りでこのコーナーの更新が出来なくて、本日にずれ込む形で定期更新と相成りました。
 4/16から通常の運営を行おうとした矢先に躓いてしまって、先行きが大いに不安ですが(汗)、定期更新の曜日を変更するなど、今の環境に合った更新をしていこうと思っています。
 で、期間限定とした背景写真は、桜が咲いているかと思えば既に葉桜になりつつあるところもあるので、4月いっぱいはこのままにしておきます(笑)。花見をし損ねた方は背景写真を見て飲み食いしてみては如何でしょう?・・・って居ないか、そんな奇特な人は(爆)。
「おでんですか・・・。良いですね。温かいですし。」
「決まりだな。それじゃ早速コンビニへ買いに行こう。」
「ええ。」

 俺と晶子はベットから降りて、いそいそとコートを羽織って玄関を出る。この近くのコンビニといえば・・・2ヶ月前、俺と晶子が初めて出会った場所だ。晶子は・・・憶えてるだろうか?あの時晶子がふと俺を見なかったら、否、それよりも前に晶子がコンビニに来てなかったら、俺が普段どおりにバイトに行っていたら・・今の関係はなかったかもしれない。

「確かあの時、おでんはまだ無かったですよね?」
「!晶子も・・・憶えてたのか。」
「勿論ですよ。あの瞬間が無かったら、祐司さんと私の時間が重なることはなかったかもしれないんですから。」

 晶子も憶えていたのか・・・。そう、あの瞬間があったからこそ、全く違う二つの時の流れが同じ方向を向き始めたんだ。あの場所にコンビニがあって、そこに晶子がお茶菓子を買いに来て、大学もバイトもサボった俺が遅い夕食を買いに来て・・・そしてその行動が同じ時間だった。偶然に偶然が重なったわけだ。
 出会いは偶然が幾重にも重なって生じる、ある意味奇跡のようなものだ。その奇跡に気付くか、気付いたらどうするのか、それで新しい人間関係が生まれるかどうかが決まる。・・・そう思うと、俺は案外運の良い人間なのかもしれない。

 俺と晶子は二人分のおでんが入ったビニール袋を持って、俺の家に戻る。袋から取り出した半透明の容器は充分に温かい、否、熱いと言って良いくらいだ。蓋を開けると篭っていた熱気が湯気になって、ぼわっと宙に舞い上がる。
 俺は少し大きめの取り皿と箸を二人分食器棚から取り出してテーブルの上に置く。料理は全くしてないくせに−掃除のときも軽い水拭きと乾拭きだけで終ったくらいだ−食べるための道具はしっかり揃っている。その上、今だ使ってない食器の方が圧倒的に多い。親に無駄金を使わせてしまったかも言える。今ようやく食器棚で眠っていた食器に日の目を見るときが来たなんて・・・笑うに笑えない。

雨上がりの午後 第457回

written by Moonstone

 おでんなら好きなものも選べるし、調理の手間も必要ない。温かいのは当然だ。我ながら名案だと思う。あとは晶子がどう思うかだな。

「晶子はそれで良いか?」

2001/4/14

ご来場者96000人突破です!(歓喜)

 ・・・シャットダウン中でも来ていただいているんですね。ありがたや、ありがたや(合掌)。それは良しとして13日付更新で約96800人でしたから、今回の更新の時点では97000人をオーバーしてるかも(汗)。・・・ま、まあ「96000人突破」としておけば間違いじゃないでしょう(爆)。

[今、集めてます]
 コカ・コーラ系統(こういう表現で良いのかな?)のペットボトル。中身は別として蓋の上に張り付いている「happy」と書かれたシール。倉木麻衣のライブチケット入手のためにそれを集めてます。前は日帰りで行ける範囲ではライブが行われないらしいということで集めるつもりはなかったんですが、最近になって日帰りで行ける範囲でも行われることが分かって、急遽集めることにしたんです。
 今のところ集めたのは3点。5点で一口ということは分かっていますが、詳しい応募要綱はまだ知りません(爆)。蓋に電話番号が書いてあるので、そこに電話すれば済むことでしょう。でも電話かけるのは苦手なんだよな(猛爆)。
 木曜日(4/12)にラジオ番組に登場したのは勿論聞きました(録音だったそうですが)。チケットが当たったらあの声を生で聞けるのか〜。生来の籤運の悪さは承知の上で応募する価値がありますよ、ええ(笑)。
「あ、ああ、仮眠ですか。そうですよね。び、びっくりした。」
「?・・・!」

 晶子の勘違いが分かって俺の体がかあっと内側から熱くなる。あれほど厚く意識を覆っていた眠気が一気に吹っ飛んでしまう。晶子も顔こそ笑ってはいるが、その強張り具合は心の内側を如実に物語っている。

「「・・・。」」
「言い方が悪かった・・・かな?」
「え、あ、それは私が勝手に勘違いしただけのことですから・・・。」

 何故か俺と晶子はベッドの上で正座している。再び部屋が沈黙の海に沈むが、その海は深いことこの上ない。少し俯いたままで視線だけ晶子の方を見ると、晶子も俯き加減で視線を彼方此方さ迷わせている。
このまま空気が凍っていると何も始まらない。おまけに眠気がどんどん意識を覆い尽くしつつある。これをどうにかしないと・・・。

「・・・でも、ちょっと寝た方が良くないか?晶子も料理なんてしたくないだろ?」
「・・・正直言ってちょっと・・・。祐司さんが食べたいって言うならどうにかしますけど・・・。」
「威張れることじゃないけど、俺の家の冷蔵庫に材料の存在は期待できないぞ。そうなると・・・買出しに出掛けなきゃならないから、余計に疲れちまうだろ?」
「・・・ごめんなさい。予めお弁当でも用意しておけば良かったんですけど・・・。」
「晶子が謝る必要なんてないって。」

 眠気が吹っ飛んだら今度は空腹の問題だ。台所も新品同様になってはいるが、料理の材料がなければ宝の持ち腐れだ。はてさて、どうしたものか・・・。俺も晶子も手を煩わせる必要もなくて、出来れば温かい食べ物にありつける場所なんて・・・!

「そうだ。コンビニに行っておでんを買って来るか。」

雨上がりの午後 第456回

written by Moonstone

「・・・一回した方が良いか。」
「え?な、何を・・・?」
「仮眠だよ。1時間か2時間寝ればすっきりするだろ。」

2001/4/13

[約1週間、間が空きました(汗)]
 その間に何があったかというと・・・別にないです(爆)。犬の散歩以外は外出してないですからね。元々出不精な上に外出する用事もない、となれば外出する必要もないでしょう。・・・まあ、何も事情を知らない人は気分転換に外出した方が良いと言うでしょうが、本人に外出する気はないし、それを強要されては困りものです。ま、私もあまり人のことは言えないんですが・・・。
 さて、一見無期限にも思えるシャットダウンの終了(平常運営に復帰すること)は定期更新と同時、即ち16日にするつもりです。ただ、更新時間は私の事情で暫くの間は朝か昼、具体的には9:00〜13:00になると思います。場合によっては今日付みたいに夜になることもあるでしょう(汗)。
 あと3日に迫った定期更新では、シャットダウンしたからこれだけ出来た、ということを証明できるような内容にしたいと思います。このコーナーは勿論、最低でも2グループの更新に向けて準備中です。
「でも、言葉の節々にまで過去の記憶に拘っていたら・・・何時まで経っても祐司さんは自分の思いとは逆に、優子さんの幻影に振り回されることになりますよ。」
「・・・。」
「祐司さん。今、貴方の隣に居るのは優子さんじゃなくて、私、井上晶子なんです。それだけは絶対憶えておいてくださいね。」

 左手を広げて自分の胸に当てて言う晶子の言葉は、何時もの労わりに満ちた優しさとは少し違って、叱咤激励しているように聞こえる。・・・確かに晶子の言うとおりだ。失恋で痛い思いをしたとき決別の言葉として聞いた言葉だから、反射的に聞きたくない、と耳を塞いでいるだけだ。

「・・・分かった。」
「ちょっとキツい言い方してしまいましたけど・・・、私は祐司さんに・・・」
「いや、晶子の言いたいことは分かったつもりだよ。・・・ありがとう。」
「良かった・・・。」

 晶子は微笑みながら俺の肩に頭を乗せるようにもたれる。俺は幸せそうに目を閉じてもたれている晶子の顔を見て、小さく溜息を吐く。暖房が程よく効いた室内にはエアコンの低い音やたまに車の走る音が遠く聞こえるだけだ。静まり返った室内を見ているうちに俺の瞼も重くなってくる・・・。

・・・!

 俺が思わず舟を漕いだことで俺は勿論、肩にもたれていた晶子はびくっとして跳ね起きる。やっぱり俺もこの眠気にはちょっと耐えられそうにない。何をするにしても仮眠をした方が良さそうだ。

雨上がりの午後 第455回

written by Moonstone

「祐司さんが前に付き合っていた優子さんとの思い出に拘る気持ちは分かります。前にも言いましたけど、私自身手痛い失恋したことがありますから。」
「・・・。」

2001/4/7

[もう少しお待ちを・・・(汗)]
 本日付で「魂の降る里」の新作を公開できるよう準備していたんですが、思うように書けなくて来週の定期更新までお楽しみに、ということにしました(汗)。台詞や描写を色々考えていると、それだけで直ぐに疲れを感じるんですよね。それで横になってさらに考えていると何時の間にか眠ってしまうという、困った状況下にあります。運動とかで身体を動かさなくても疲れるというのは何とも・・・(- -;)。
 作品制作は進まなくても季節は巡るもので、実家に戻ったときはまだ固かった桜の蕾が今ではもう満開になって、一部はもう花弁が散り始めています。ただでさえ素っ気無いこのページに花を添える、という意味も込めて、このコーナーの背景写真を変更してみました。私が居るところで桜が全ての花弁を空に撒き終るまでの期間限定です。桜って開くまでに時間はかかっても、散って葉桜になるのは早いですから、何時まで背景写真が桜なのかは私にも分かりません(笑)。いっそ4月いっぱい桜のままにするという手もありますけどね。
 疲れた、という言葉が晶子の口から零れ落ちたとき、俺の脳裏に突然あの記憶が鮮明に蘇ってくる。永遠に続くと思っていた絆が「疲れた」の一言で切れた、あの記憶だ。今続いている晶子との記憶でセピア色に染まっていたのに、再び鮮明な色合いを伴って蘇ってくる。早い調子で減っていくテレホンカードの残り度数。ややくぐもった優子の声。そして優子は言ったんだ。「もう疲れた」と。
 俺は頭を抱えて蹲るような姿勢になって頭を何度も横に振る。頼む!早く消えてくれ!あの記憶は嫌な思い出に分別してセピア色に染まって、やがて埋もれていく筈だった!なのに、なのに・・・!また思い出しちまったじゃないか!

「祐司さん。・・・どうかしたんですか?」
「・・・晶子・・・。頼むから俺の前で『疲れた』って言葉は出来るだけ使わないでくれ・・・。」

 俺は思い出した記憶の重みに耐えかねて、両手を頭で支えて蹲るしかない。晶子に悪気があったとは思えないし、優子と切れたときの事情なんて話してないから知るはずもない。だが・・・聞きたくない!どうしても聞きたくないんだ!女の口から出る「疲れた」って言葉は・・・!

「疲れたのは祐司さんと私の二人ですよ?祐司さんの部屋を朝からお昼を挟んで夕方まで大掃除をしたから。違いますか?」
「・・・そのとおりだ。」
「だったら良いじゃないですか、それで。」

 俺は顔を上げて晶子を見る。労わりの表情の中に叱咤を感じる。

雨上がりの午後 第454回

written by Moonstone

「時間は・・・5時半を過ぎたところか・・・。食事にはちと早いか・・・?」
「私、今は食べる気力がないです・・・。兎に角もう・・・疲れたです・・・。」

2001/4/3

[あああ、間に合わなかったぁ〜]
 新年度最初の定期更新は昨日の予定だったんですが、1日遅れになってしまいました(汗)。それも更新したグループは1つだけ(爆)。初っ端からこれで大丈夫なんだろうか?(大汗)。勿論こうなったのにはそれなりに事情があって、事情でネットに接続できなかったのは勿論、作品制作そのものが思うように進まなかったことが原因です。
 既に準備できていた「雨上がりの午後」は兎も角、他のグループ、特に「魂の降る里」の更新に向けて努力はしたんですが、メモ感覚で書いておいた文章や台詞を展開どおりに並べているうちに、不足部分がどんどん出てきて定期更新にとても間に合わず(実は現在も執筆&編集中)、結局Novels Group 3だけの更新となってしまった、というわけです(大汗)。
 昨日の更新を期待されていた方には申し訳ありませんが、来週、或いは今週中にいきなり「魂の降る里」の続きを公開する気構えです。ぶつ切り状態なので正確な量は分かりませんが、少なくとも現状では2回分の文章や台詞はあるようです。どのグループも(客員は別として)制作や更新を放棄したわけではありませんので、気長にお待ちいただけると幸いです。
「祐司さん・・・。」
「・・・もう終った絆の欠片を追いかけるより、新しい絆を作る方が良い・・・。俺はマスターと潤子さん、そして何より晶子からそれを教えられた・・・。」

 俺は残りの紅茶を飲み干して小さく溜息を吐く。チラッと腕時計を見ると1時はとっくに過ぎている。少し長い休憩だが・・・これで過去の残像の一つが綺麗なセピア色のベールを被ったような気がする。

「どうにか・・・終りましたね。」
「そのようだ・・・な。」

 俺はベッドにぐったり腰掛けるしかない程の疲労感の重みを感じる。その横には晶子が座っているが、流石に全身から滲み出すような疲労感を隠すことは出来ない。暖房が要らないほど身体は火照っている。換気のために一度窓を開けたが、普段なら肌に突き刺さるような冷気の洪水が逆に心地良く感じたくらいだ。
 兎に角することが多かった。廃品回収に出す雑誌の山を−最新号以外は結局捨てることにした−部屋の隅に固めて、他のゴミを分別してそれぞれ用意した袋に入れ−これだけでも大変だった−、細かいところまで掃除機をかけて終わり、と思ったらトイレや浴室、そして台所の掃除がまだだったことに気付いて、二人で手分けして洗剤やスポンジ、時にはスチールウールを使って徹底的に汚れを落した。
 さらに晶子は押入れにある衣類入れを季節毎に整理してくれた。引っ越してきたときは母親が整理して入れたはずだが、季節が変わるごとに俺が引っ張り出して適当に突っ込んだりしたもんだから、もう滅茶苦茶。晶子はこの整理で余計に疲れただろう。心の中で何度も詫びるしかなかった。
 掃除の嵐が去った後の部屋は、隅々まで綺麗になった。これが今日の朝と同じ場所とは思えない。それどころか部屋そのものが倍以上広くなったように感じる。

雨上がりの午後 第453回

written by Moonstone

「いや・・・これで良かったんだ。あの席だったら俺は、晶子を優子の代役に仕立てて優子との思い出に浸ることしか出来なかったと思う・・・。」

2001/4/1

ご来場者95000人突破です!(歓喜)

 ・・・そろそろご来場者10万人が見えてきましたね。でも10万の桁が0から1に変わるなんて、いまいち実感が湧かないです(^^;)。

[3年目の始まりを迎えて]
 シャットダウン中という割にはしょっちゅう更新しているな、と訝られても仕方ないですね(汗)。明日は定期更新ですし(大汗)。心身が完全にダウンした前回とは違って、今回は心身共にかなり落ち着いています。それに今回は年度末と年度始めを跨ぐ形でシャットダウンしているので、その区切りともいえる年度末と年度始めに何か更新しておいた方が良いかな、と思いまして・・・。

 2年目を簡潔に総括すると、厳しい年だったということですね。本業は多忙を極め、私自身もとうとう本格的にダウンしてしまいました。それを理由の全てにしてはいけないのは勿論ですが、結果として定期更新も少なめで、何より原則毎日更新のこのコーナーに何度も穴を空けてしまいました。
 その一方、1年目を上回る数のご来場者を迎え、夢の大台である10万人も現実味を帯びてきました。何度か挫折やページ閉鎖の危機があったものの、数こそ少ないですが励ましのメールを頂いたことでギリギリのところで危機を乗り越え、今こうして3年目の始まりを迎えることが出来ました。

今後も芸術創造センターを宜しくお願いいたします(礼)。

・・・結局俺は自分可愛さに誰かが行動してくれるのを待って、開けた小道が出来たところにこそこそと撤退を決め込むつもりだったんじゃないのか?・・・卑怯な奴だ、俺は・・・。
 食事を食べ終わり、食後の飲み物が運ばれてきた。二人揃ってミルクティー。コーヒーは朝にも飲んだし、フルーツ系や炭酸系は滅多に飲まない質だから、そうなると残りは紅茶しかない。晶子が沸かした紅茶はストレートだけだから、ちょっとした冒険心でミルクティーを選んだ。
 あの主婦連はまだ何か言っているみたいだが、大して気にならない。気にしたって奴らを黙らせることは出来そうも無いから、放っておけば良いさ。ゆっくりしたペースで紅茶を飲む俺と晶子の席に落ち着いた雰囲気が漂う。この間、俺と晶子の間には会話はない。別に喧嘩をしたわけじゃない。倦怠期でもない。ただ晶子と向き合いながら紅茶を飲む。それだけで良い。
 −どれだけ時間が過ぎたか、晶子が1/3ほど紅茶が残ったカップを静かに皿に置いて、俺の顔を見ながら呟くように言う。

「この店に・・・何か思い出があるんですね?優子さんとの・・・。」

 以前なら顔を強張らせる名前が出ても俺は動揺することなく、あと一口程度紅茶が残ったカップを皿に置いて、ひと呼吸間を置いてから頷いて言葉を滑り出させる。

「ああ・・・。俺が優子と付き合っていたとき、必ずこの店に朝食を食べに来てた・・・。」

 最後の部分には俺と優子が深い仲だったということを含まれている。晶子なら簡単に分かるだろう。

「そのとき必ず座ってた席が・・・丁度晶子の後ろの席なんだ。」
「そこに座れれば良かったんですけどね・・・。」
「・・・。」
「その席に座ることで祐司さんが少しでも楽になるなら・・・その方が良いですよ。」

 俺と晶子の間に沈黙の雲が現れ、直ぐに消えていく。晶子が少し大きめにカップを傾ける。再びカップを置いたのを確認してから思うが侭の言葉を流し続ける。

雨上がりの午後 第452回

written by Moonstone

 晶子は俺が立ち上がって噂への「報復」を期待していたが、何時までもそうする気配もないし、耳障りな雑音を止めるのはもう自分しかない、と追い詰めての行動だったかもしれない。

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