芸術創造センター こぼれ話
Dropped talk of Performing Arts Center

2000年3月31日更新 Updated on March 31th,2000

2000/3/31

 とうとう明日で開設1周年です。使い古された言葉ですが、まったくもって早いものだと実感するばかりです。その割には更新準備とか作品製作がなかなか進まないんですが(汗)、1日で全部やろうとしなきゃ良いか、などと呑気に構えています。
 その理由は色々あるのですが・・・、最大の原因は心臓の具合が相変わらず思わしくないことです(汗)。状況がまったく改善されないので、とうとう総合病院で検査を受ける羽目になりました(神経症ではない可能性もあるそうな)。結果次第では週末のお出掛けどころか、シャットダウン以外は毎日続けてきたこのコーナーも一時停止せざるをえないかもしれません。その際はトップページに別ウィンドウで告示を出します。あ〜あ、何だかここ暫く何かと良くないことが多いなぁ・・・(溜め息)。

 前に「何だかんだ言っても建前が横行している」というお話をしましたが、さらにこの「建前」が横行しているのは何と言っても教育とやらでしょう。何か猟奇的な事件が起こる度に、「暴力シーンを垂れ流すテレビやゲームが悪い」とまくし立て、そして最後には「青少年の健全な育成」を叫ぶ・・・。よくそんな的外れな事が言えたものだと思うしかありません。日本よりずっと暴力や性的表現の規制が厳しい欧米では銃の乱射など珍しくないし、ホラー映画顔負けの猟奇殺人も起こります。彼らはこれをどう説明するつもりでしょうか?
 大体、映画や小説や絵画でどんなに残虐な殺人が起こっても咎めないのに、テレビやゲームなどだけ殊更悪の権化の如く攻撃するのは要するに、自分の価値観に合わないから排撃したいだけのことで、教育ではありません。否、教育というのは本来このような、「強い」親や大人が「弱い」子どもを自分の都合良く振る舞うようにする巨大なシステムなのかもしれません。

 「健全な育成」を言う輩ほど実際は健全ではないことくらい、その「健全な育成」の産物が晒す腐敗の数々を見れば容易に分かる筈です。結局ここにも「建前」が横行しているという何よりの証明と言えるでしょう。教育なんて、光もあれば闇もあって、覚悟と理性が無ければ闇(自分が分からないこと)には入らないように教えるだけで良いと思います。不完全な人間が同じく不完全な人間を「教育」しようなんて、思い上がりも甚だしいと言えるんじゃないでしょうか?

雨上がりの午後 第166回

written by Moonstone

 この部屋に女が泊るのはあの女、優子以来だ。その優子も数回入った中で泊っていったのは半分もないし、その度に結構緊張したものだ。何故なら泊っていくというのは寝たい−勿論二通りの意味がある−という暗黙の意思表示でもあったからだ。
 それを考えると、泊らなくなってから少しして俺との仲がぎくしゃくし始めたのは、或る意味気持ちが離れ始めているというサインだったのかもしれない。・・・否、あの女のことはどうでも良いが、そういう経験が重なったせいか、井上が止まるということで妙な気分を感じる。逆上(のぼ)せるのは熱のせいだけにしておきたいんだが・・・。

「何か・・・食べます?」

 井上が先に切り出す。そう言えば井上がバイトに行ってから何時の間にか寝てたし、本来なら店で夕食を食べている時間にも何も食べていない。急に空腹を感じ始める。

「ん・・・そうする。」
「どうします?お粥より昨日貰った食べ物の方が良いですか?」
「・・・お粥も食べたい。」

 空腹の度合いから考えると多分昼過ぎよりもっと食べられる。熱はあってももう食欲には影響ない程度に下がっている。昨日貰った食べ物も店の余りものなら潤子さんのお手製だろうから味の方は心配ない。ただ・・・昼過ぎに食べたあのお粥が無性に食べたい。お粥がないならあまり食べたいとは思わない。

「お粥・・・って、昼に食べたあれですか?」
「・・・そう。」
「普通の御飯が食べられるなら、そっちでも良いんですけど・・・。」
「・・・お粥の方が食べたい。」

 自分でも驚くほど正直に言う。すると井上は小さく頷いて微笑む。

2000/3/30

 居眠りしてたら、こんな時間になっちゃいました・・・(大汗)。

 あうう・・・。心臓の痛みが延々と続いています。周期が不規則で時々強くなる困った状態です。思考中に突然痛みに襲われるのはもう最悪です。今日辺りもう一度病院に行って根本的な対策を取れるなら取ろうと思います。結果次第では週末の外出予定はお流れですが、身体には替えられないでしょう(溜め息)。

 職場でPC(デスクトップ)を更新しています。いきなりPentium3の500MHzなどと飛躍的に強化されたので(笑)、当然といえば当然ですがあまりのパワーの違いに驚きを通り越して呆れています(^^;)。だって、ハードウェア開発用のシミュレーターを新旧のPCで同時に走らせると、かかる時間が10分の1ですからね(大笑)。
 ただ、今回は組み立てDOS/V(メーカー品でない)を買ったのですが、OSのインストールからドライバーの設定まで全て自分でやらねばならず、思うように進まなくて苦労の連続です。OS(某ゲイツOS)のインストールだけで3回失敗したし(- -;)。いくら早いPCでも、使えなきゃ話になりませんからね。道具でしかないPCに振り回されるのはやっぱり納得行きません。環境の移行もまだ途中ですし、本格的に使えるのは何時の話やら・・・。

「じゃあ祐司君。私達はこれで失礼するわね。」
「あ、どうも。」
「明日は店も休みだし、ま、ごゆっくりな。」

 ごゆっくり・・・って?!マスター!言葉の使い方間違ってるぞ!俺は思わず身体を起こしてマスターに尋ねる。

「お、お大事にじゃないんですか?」
「ん?こういう場合はごゆっくり、の方がぴったりだろ?なあ、潤子。」
「ええ、確かにそうね。」

 潤子さんまで・・・。昨日のマスターの爆弾発言じゃないが、俺と井上を唆してやしないか?昨日のはストレートすぎたせいか、潤子さんがマスターに爆弾を炸裂させたが、今日はアシストする側に回ってしまった。そう言えばさっき、井上に着替えを持っていくように勧めたって言ってたな・・・。俺と井上が親密になる事を期待してるのは、やっぱりマスターも潤子さんも同じってことか・・・。
 マスターと潤子さんが出て行くのを井上が見送りに行く。俺はベッドで横になって様子を見る。ドアを開けたところで何やら潤子さんが井上に耳打ちする。ばっと潤子さんの方を向いた井上は戸惑っているように見える。また何か唆されたんだろうか?

 ドアがゆっくり閉まって足音が聞こえなくなってから、鍵とドアチェーンを施して井上が戻ってきた。椅子に座ってじっと俺を見詰める。さっきの問題発言の余韻が在るだけに、何となく気まずいというか、切り出し辛い。

「・・・さっき、何て言われた?」
「まあ・・・昨日とよく似たことですよ。」

 少しはにかむような笑みを浮かべながら井上は答える。昨日のこともあるから何を言われたかは大凡察しがつく。以前の俺なら「都合の良い女」くらいにしか思わなかっただろうし、唆されてもまったくの他人事として片付けられただろう。だが、今は・・・。
 再び沈黙が部屋に立ち込める。見詰め合ったまま時間だけがじりじりと流れていく。退屈じゃないし、気まずくもない。ただ、昨日とは何処となく雰囲気が違う・・・。昨日は来てくれるなんて想像もしなかったし、考えるどころじゃなかったが、今日は井上が泊るという明確な事実がある・・・。

雨上がりの午後 第165回

written by Moonstone

「私がちゃんと看病しますから。」
「ふふっ、そうね。その方が祐司君も嬉しいだろうし。」
「・・・。」

 視線を落とす井上を潤子さんは微笑んで見詰める。からかってた・・・否、井上の出方を試したような感じだ。マスターはその後ろでしてやったりという表情をしている。

2000/3/29

 トップページで1周年までのカウントダウンを始めました。しかし、3日からというのは取って付けたような・・・って、実際そんな感じですね(笑)。1周年といっても模様替えはgif排除の一環として進めていますし、現状では1周年記念、として大掛かりなことは出来そうにないので、さらっと行こうかな、と。
 だったらこれ見よがしにカウントダウンなんぞするなよ、と言われそうですが、それは節目だからということで(よく分からん奴だ)。

 外見より中身が大切、と言いますが、これ程建前だらけのことが「建前より本音」と頻りに言われる中でも平然と言われているのには、怒りを通り越して笑ってしまいます。もし本当にそうなら、茶髪やピアスの他、面白い格好をしている若者を「だらしがない格好」と言えば「外見しか見ていない」と糾弾される筈です。一方、キャリア官僚や警察などの腐敗が明るみに出て未だ「何故エリートが」などと言うのは、所謂「中身」が経歴や地位とかでしかないことを示しています。
 これは男女間でも同じです。「性格が良ければ外見には拘らない」とか言いますが、これはまさに大嘘であって建前そのものです。結局は外見の良さが第一であって、それが多少駄目でも経歴や地位という「中身」が良ければオッケーなんじゃないですか?

 何故いきなりこんなことをお話するのか?いえ、失恋したとかいうのでは決してなくて(前にもお話しましたが、私にとって恋愛は想像上の産物でしかない)、昨日、心臓の痛みに苛まれながら仕事を終えてふと思っただけです。

「マスター、潤子さん。どうして此処に?」
「断っておくが、別に見物に来たわけじゃないぞ。井上さんを送り届けたんだ 。一人じゃ何かと物騒だしな。」
「その前に晶子ちゃんの家に寄ってきたのよ。荷物を纏めるためにね。」
「?荷物って・・・?」
「着替えとか色々よ。」

 俺は思わず体を起こして井上の横を見る。出掛ける時には確かになかったボストンバッグが置いてある。

「どうして・・・。」
「どうしても何も、君の看病以外に何があるんだ?」
「昨日は駆け込んでそのままだったって言うから、泊り込むなら着替えとか持って行ったらって勧めたのは私だけどね。」

 ・・・潤子さんまで嗾(けしか)ける側に回るとは思わなかった。だが、不思議と嫌じゃない。俺は照れ隠しに頭を掻く。
 潤子さんが井上の横に来て、少し屈み気味に俺の顔を見る。潤子さんをこんなに間近で見るのは初めてだ。ちょっと緊張してしまう。

「どう?祐司君。具合の方は。」
「まだちょっと熱っぽいですけど、昨日よりはずっと良くなりました。」
「そう。どれどれ・・・。」

 潤子さんは俺の額に手を当てる。ひんやりした感触に俺の緊張は強まる。

「確かに熱いわね。これじゃ確かにバイトなんて無理だわ。」
「・・・もしかして仮病だと思ってたとか。」
「そんなことはないけど、電話で聞いただけだからどんなものかって思ってね。」
「安藤さん。寝てないとまたぶり返しますよ。」

 井上が俺と潤子さんの間に割り込むように入ってきて、俺の両肩を少し強めに押す。俺が横になると、井上は直ぐに布団を被せて、何時ものように裾を肩口まで引っ張り上げる。その動きがちょっと荒っぽいというか、怒っているような感じだ。
 そして潤子さんの方を向く。擬音を付けるなら「くるっ」ではなくて「きっ」の方がぴったりのような気がする。少し眉が傾いているし・・・。

雨上がりの午後 第164回

written by Moonstone

「おっと、早速二人だけの世界に突入か?やってくれるねぇ。」
「茶化しちゃ駄目よ。こういうときは黙って見てないと。」

 マスターと潤子さんの声で俺と井上ははっと我に帰る。にやにやしているマスターと何故か嬉しそうな潤子さんが井上の背後に居る。反射的に振り返った井上は頬を少し紅く染めて俯く。

2000/3/28

ご来場者37000人突破です!(歓喜)

 ・・・昨日言い忘れてました(^^;)。さて、今日はトップページでも告知しておりますように、このコーナーの2500人企画として2500人目を踏まれたラル様から戴いたお便りを紹介させて頂きます。

 「こんにちは Moonstone さん
 作中で女性陣の容姿にはよく触れるものの 男性陣にはほとんど
 光が当たりません マスターは立木文彦さんか渡辺香津美さんを
 想像してますが あとは想像しにくいです
 容姿に関してイメージキャラがいたら是非教えてください 

 日々の更新忙しい中大変ですが頑張ってください  HN ラル」

 そうですね。確かにマスターは何度か「髭オヤジ」と描写していますが(笑)、語り部の安藤君や伊東君に関しては容姿の描写がないですね。別に男性陣はどうでも良いや、なんて思っているわけじゃありません(笑)。この機会に登場人物の容姿のイメージキャラと性格のイメージを全員分ご紹介しましょう。夢の中でしか出ていない優子は取り敢えず除きます。

安藤祐司:「ああっ、女神さまっ」の森里蛍一。
      性格は現在より連載初期の方がイメージに近いです。
伊東智一:「新世紀エヴァンゲリオン」の加地リョウジ。
      性格も大体同じですが、もう少し若者っぽい(笑)イメージです。
井上晶子:「カードキャプターさくら」の秋月奈久留。
      性格は「ああっ、女神さまっ」のベルダンディーが近いです。
渡辺文彦:「新世紀エヴァンゲリオン」の碇ゲンドウ。
      性格は全然違って、気さくなおじさんを想定しています。
渡辺潤子:「カードキャプターさくら」の観月歌帆。
      性格も同じイメージです。入れ込んでますね(笑)。

 出所がマンガ関係なのは実写のイメージが沸かないからです。ドラマとか映画を殆ど見ないせいでしょう。あと、容姿の描写は女性の方が書き易いかな、と思います。
 毎日の更新はこのところ時間的な余裕が少ないのもあって、少々しんどいものがあります。それでも日々順調に伸びるカウンタと、寄せられるお便りが続ける上で大変励みになっています。これからも応援よろしくお願いしますね。

ラル様、ありがとうございました。

雨上がりの午後 第163回

written by Moonstone

 俺は布団を頭まで被って壁の方を向く。ダイニングの方を見ていると、ますますこの部屋が広すぎて、自分が孤独としか思えない。もうこの気持ちは単なる人恋しさじゃない。・・・井上でしか、この気持ちは消えない・・・。
 こんな気持ちになるって判っていたら・・・責任感なんて仰々しいものを出してまで、井上をバイトに行かせなかっただろう。井上が玄関へ向かう時、引き止めていただろう。でも・・・もう遅い。

帰って来て欲しい・・・。

「−どうしてるでしょう・・・。」
「寂しがって泣き疲れて寝てるぞ、きっと。」
「まさか・・・。」

 何処からか聞き覚えのある声がする・・・誰だ?複数の足音が不規則に絡み合って聞こえる。

「あ、電気は点いてますね。起きてるのかな?」

 ・・・井上?!

「祐司君、玄関で待ってたりして。」
「あ、あり得るな。『お帰り、待ってたんだよ』って。」
「もう・・・、からかわないで下さいよ。」

 間違いない。井上だ。マスターと潤子さんも居るみたいだが帰って来てくれたんだ・・・。何時の間にか寝ていたらしいが、即座に目が覚めて俺は玄関の方を向く。ガチャッと鍵が開く音に続いてドアが開く。現れたのは・・・やっぱり井上だ。
 そして今頃になって思い出す。井上が出掛ける前に鍵は何処かと俺に尋ねたことを。そうだ、井上はバイトが終わったら此処に帰って来るつもりだったんだ。そんなこともすっかり忘れる程、俺は「一人」に苦しんでいたのか・・・。何とも情けない。

「ただいまぁ。・・・あ、起こしちゃいましたか?」
「・・・いや、良いよ。」
「御免なさい、遅くなっちゃって。思ったより時間が掛かっちゃって。」

 井上はコートを脱いで空いていた「指定席」に座る。その瞬間、心に空いたスペースにぴったり嵌まるパーツは、やっぱり井上だった。何かを横に置いたようだが、そんなことはどうでも良い。

2000/3/27

 週末で久しぶりに連載の書き貯めをしていたら寝る機会(タイミング)を逸して、そのまま徹夜。午前中から買い物に出たりしたのですが、午後だとどうしようもないほど混雑している店も意外に空いているものです。大抵寝てる時間なので午前の事情を覚えていないということもあるんですが(笑)。
 ただ、そんな気まま(無茶な)生活をしても心臓の痛みは相変わらず続いています。何かしていて忘れていても痛みますし、強い痛みになると動きが止まることも・・・。来週には出掛ける用事があるし仕事も色々控えているので早く治したいのですが・・・。

 その痛みを引き起こしている神経症の原因はそれこそ文字どおり精神的なものですが、当の本人は未だ実感が湧きません(爆)。前にもお話したように、ストレスが続いてるなぁという自覚が無かった(その状況がストレスという意識が無かった)というのもありますし、精神的なものが自分に現れるとは思ってもみなかったせいもあります。頭では意識しなくても身体は正直ということなんでしょうか?
 意外だったのは、職場の人の反応が「まさか」ではなかったことです(笑)。普段の様子からは、私は神経症などと言ってみればデリケートな人がなるような病気になるようなタイプではないという認識だと思っていたんです(^^;)。自分もそう思っていたんですが、それはもしかしたら自分だけだったのかもしれません。
 俺の家はベッドやテレビ、ステレオといったものが詰め込まれた8畳くらいのリビングと隣接するダイニング、そしてここからは見えないが奥にある風呂場とトイレという構成だ。楽器とか箪笥とかが詰め込まれたこの部屋は今まではむしろ狭いと思っていた。だけど今は・・・

「こんなに・・・広かったっけ・・・?」

 呟きが俺の口から漏れる。物が多くて雑然としているのは変わり無い。模様替えをしてすっきりさせたわけでもない。なのに、どうして同じ部屋がこんなにだだっ広くて静かに感じるんだ?昨日熱が高かった時は病気になると人恋しくなるっていう気持ちが実感できた。だが、熱がそれなりに下がった今感じるこの気持ちは・・・人恋しさだけでもなくて・・・病気だからというわけじゃない・・・。
 ベッドの横に置かれた椅子。そこにはついさっきまで井上が座っていた。不安そうに俺を見詰めたり、俺に薬を飲ませてくれたり、お粥を食べる様子を嬉しそうに見たり、俺に覆い被さるように密着したり・・・。その椅子に他の誰かが座ったら、今の気持ちは薄らぐんだろうか?

潤子さん・・・優子・・・マスター−ちょっと想像し辛いが−そして親・・・。

 色々想像してみるが、一番理想に近い潤子さんでも何か違和感を感じる。ジグソーパズルでよく似てるんだけど違うパーツで嵌まらない・・・そんな感じだ。

「井上・・・。」

 思わず井上の名を口にする。昼間も買い物に出てこの椅子が空いたが、あの時はこんな気持ちは感じなかった。それはきっと・・・目的がはっきりしていて直ぐに帰って来るという確信があったから・・・。今度だってバイトに行くっていう外出の目的ははっきりしている。だが・・・帰って来るかどうかは判らない。このまま自分の家に戻るかもしれない。そう思うと、目の前にある普段と何の変わりも無いこの部屋が、余計に広くて寂しく感じる。
 帰って来る・・・。潤子さんが電話で井上にそう言うと言っていた。あの時は井上と俺が一緒に暮らしてるような言われ方だったし、そんなイメージが一瞬頭を過ぎったからかなり動揺した。だけど今は帰って来て欲しいとしか思えない。

雨上がりの午後 第162回

written by Moonstone

 ドアが閉まって足音が遠ざかって聞こえなくなるまで、俺はずっとドアの方を見詰めていた。暫くぼんやりと天井を眺めたり寝返りを打ったりしてみたが、どうにも寝付けない。一人で退屈していれば寝付けるだろうと思っていたが、そうでもないらしい。
 音が無いから駄目なんだ、と思ってCDをかけてみたが、音が耳を空しく素通りしていく。考えてみれば普段寝る時にCDをかけたりしない。今鳴っているCDは時折通り過ぎる車の走行音と大して変わらない。

2000/3/26

 まだ心臓が痛いです(汗)。痛み止めはやっぱり効かないですね。怪我した痛みとはまた違うからでしょうか?目覚しをオフにして気の済むまで寝る・・・というのは週末には珍しくないし(笑)、眠たくなったら寝る・・・というのもやっぱり珍しくないんですが(笑)、それくらいでは消えないものなんでしょうか?神経性のものとは言われても、どうも実感が湧きません。それより土曜の夜6:30に地上波で放送されるはずだった「CCさくら」が高校野球なるもので中止になった怒りを受信料減額で表現出来ないものでしょうか?(無理だって)

 第1写真グループで公開中の風景写真は、誰でも少し足を伸ばしたり周囲に目を向けてみれば気付くような、「身近さ」を主なテーマにしています。それは自分のしたいことなので(他のグループもそうですが)何も不満はないのですが、写真集であるような未踏の自然、入り組んだ渓谷や広大な海も撮ってみたいと思います。勿論、今の私にはそんな時間も体力もありません(^^;)。
 そこで、自分で想定した地形でこんな角度から写真を撮ったらどうだろう?という想像を割と手軽に表現できるソフトに取組んでいます。「Terragen」というフリーウェアのソフトなんですが、これだけのパラメータを操作するだけで色々出来るなぁ、と感心すること頻りです。まだソフトに振り回されているのは否めませんが(笑)、多少まともに使えるようになったので、習作を隠し部屋に収録しました。将来的に「仮想世界の風景写真集」としてお見せできれば良いなぁと思います。
 西日の残像が消えて闇の度合いが深まる部屋は、まさに二人だけの世界には打ってつけだだろう。上を向いたままの右手を倒すだけで井上を捕まえることが出来る。布団の下に隠れた左手も使えば、井上をベッドに引っ張り込むことも出来るだろう。井上だってそれを期待して俺を誘っているような感がある。電話が鳴る前もそうだったし、今だって・・・。
 考えてみれば、一人暮らしの男の家で二人きりになって、その男に覆い被さるようにくっ付いて来るなんて、無防備そのものだ。そう思うと俺の中で欲望が膨らんで来る。電話が鳴る前はまだ距離があったからブレーキがかかったが、これだけ密着してはもう手後れだ。俺はゆっくりと固まっていた右手を倒していく。

「早く・・・良くなって下さいね・・・。」

 井上の囁きが俺に耳元で聞こえる。半分ほど倒れた右手がぴくっと弾けるように動いてそこで止まる。・・・俺を気遣ってくれている・・・。膨らんでいた欲望が囁きから感じた井上の気持ちに触れて、別の感情に姿を変えていく。

「・・・ああ・・・。」

 俺は小さく頷くと眼を閉じて、右手を静かに井上の頭に乗せる。不思議と早まっていた呼吸と鼓動が静まっていく。こうしているだけで心地良くて、さっきより井上が愛しく思う。感謝の気持ち・・・。井上と密着していても落着いていられるのは、この気持ちのせいだろう。
 井上が頬をゆっくり動かす。密着している頬と頬が擦り合う。店の状況を考えて井上にはバイトに行くように言ったし、潤子さんにもそう約束した。でも・・・このまま井上と頬を寄せ合って居られるなら、バイトに行って欲しくない。いっそこのまま時が止まってくれても良い。今願うのはただ・・・それだけだ。

 蛍光燈が相変わらず雑然とした室内を照らしている。ベッドから見詰める風景は何時もと変わらない。変わらない筈なのに、昨日までとは全く別の世界に居るような気さえする。今までこの部屋では一人が当たり前だった。今もその「一人」のはずなのに、この違いは何だろう?
 部屋に俺以外の人の気配はない。井上はあれから暫く後に俺が言ったとおりにバイトに出掛けた。気が変わったから行くな、とも言えず、時が止まる筈もなく、律義な井上は名残惜しそうに俺から離れた。「行って来ますね」と言って俺に背を向けて出て行くところを見て、俺は思わず引き止めそうになった。

雨上がりの午後 第161回

written by Moonstone

「!!!」

 井上はベッドから身を乗り出して覆い被さるように俺に密着している。頬と頬が触れ合い、微かな、少し早い呼吸音がすぐ傍で聞こえる。広がった髪の一部が俺のもう一方の頬に掛かっている。
 俺は不意のことで極度の緊張に対応できる筈もなく、完全に硬直した状態で天井を見上げるしかない。心臓は井上に聞かれるんじゃないかと思うくらい激しく脈打っている。手は井上の頬に添えていた状態のまま、上を向いて固まっている。

2000/3/25

 木曜午後から続いている心臓の痛みが消えないので病院へ行きました。結果、本来の心臓病(狭心症とか)ではなかったものの、心臓神経痛(症?)と診断されました。過労やストレスからなるらしいのですが、私自身はそれ程ストレスとは意識していなかったので(失敗の連続で落ち込んだりしたことは何度もありますが<=これがストレス?)、こんな形で現れたことに驚きました。
 本来ゆっくり休めれば良いのでしょうが、来週早々から仕事の発表とか決算とかいろいろあるので、そうも言っていられません。痛み止めはまったく効かず、未だに痛んでいます(汗)。来週末には定期更新だというのに・・・。

 来週でこのMoonstone Studioと芸術創造センターは開設1周年を迎えます(歓喜)。それと同時にグループやコンテンツの整理統合、新設をしようと思います。まあ、今の状況ではいきなり実行というのは無理があるので(gifのjpg置換もまだ残ってますし)、出来るものから順次、という形で進めていきます。
 正直な話、広報紙Moonlightは存続か廃止かが微妙な情勢です。以前ほど時間が取れないので薄幸が滞りがちで、そこならでは、ということが出来ていませんし・・・。その他のグループやコンテンツは存続が確定しています。で、新設の件は・・・まだ確定ではありませんが、具体像がほぼ固まっているグループがあります。まずは隠し部屋で仮公開を行って様子を見ようと思います。実は昨日のお話に関係あるんですが・・・(-∇-)。

「やっぱり・・・私、バイト休みます。」
「・・・あんまり説得力ないけど、大丈夫だから・・・。」
「そんなにお店のことが大切なんですか?自分の身体がどうなっても?!」
「落着いて聞いてくれ、頼むから・・・。」

 俺が立ち歩いたことが余程心配なのか、或いは俺にバイトに行かせると言われたことがショックなのか、井上は相当興奮している。こんな井上は初めて見る。どうにか井上は言葉を抑えたが、憤懣やるかたないといった表情だ。

「俺はどうしようもないとして・・・井上はバイトに行けるだろ?」
「行けます。けど、行けないです・・・。」
「昨日までならまだしも・・・今日は立って歩けて、多少は食べれるくらい良くなったから、付きっ切りでなくても大丈夫だ。」
「でも・・・!」
「いいから聞いてくれ・・・。バイトだからって本来そうそう休むべきじゃないって俺は思うんだ。俺みたいに病気なら兎も角・・・井上は健康なんだから・・・。」
「・・・。」
「それも二人同時に二日もなんて・・・マスターと潤子さんに、迷惑だと思うんだ・・・。」

 井上は少し視線を逸らしたまま何も言わない。内側で相当な葛藤があるんだろう。どうすれば井上を安心させられるんだろう?・・・そう言えば、井上に頬を撫でられて落着いたよな・・・。俺がやったらどうだろう・・・?
 俺は布団の中から右手を出して井上の頬に添える。葛藤の真っ只中にあったような井上は突然の感触にびくっと反応するが、やがてゆっくりと眼を閉じて掌に頬擦りを始める。

「俺は本当に大丈夫だからさ・・・。」
「大人しく寝てなきゃ駄目ですよ・・・。」
「子ども扱いするなよ・・・。」
「自分のことガキっぽいって言ったじゃないですか・・・。」
「・・・よく覚えてるな・・・。」
「当たり前ですよ・・・。」

 掠れる声でそう言うと、井上の頬が俺の手からゆっくりとずれて・・・その動きに併せて後ろで束ねた長い髪が少し舞い上がって・・・

雨上がりの午後 第160回

written by Moonstone

「久しぶりに立って歩いたから少し目眩がしただけだよ・・・。」
「さ、早く横になって下さい。」
「分かった・・・。」

 井上は俺の身体を両手で支えながらベッドへ誘導する。俺がベッドに腰を下ろして横になると、井上が起きた時のまま捲れ上がった布団を被せて、やはり裾を肩口まで引っ張りあげる。
 俺と井上の距離が再びぐっと近付く。少し怒ったような井上の顔を見ると、余計な心配を掛けて済まないという気持ちが沸き上がってくる。井上に安心してバイトに出掛けてもらうように頼むつもりだが、こんなことじゃ逆効果だ。

2000/3/24

 心臓が痛いです(汗)。胸が痛いではありません(笑)。いや、冗談ではなくて、今でも続いています。薄幸の美青年故に心臓に持病があるということはないのですが(爆)、場所が場所だけに危険なので医者に行くなり早めに対策を取ります。今時期は仕事を休むわけにはいかないんですが・・・。

 火曜日にBSで放送していた「CCさくら」が終了したそうです。私はBSなどという高尚なもの(?)は持っていませんし、ビデオデッキも無いので(笑)実際に見たわけではありませんが、大相撲中継が延長になったせいで録画では最後の方が欠けてしまったとのこと。そこまでして辻褄を合わせなくても良いでしょう。民放でも野球中継なんかで以後の放送を繰り下げるってことをやってるんですから。スポンサーの意向が最優先の民放なら兎も角、法律に基づいて徴集した受信料で放映してるんですから、それこそスポンサーである視聴者が番組を見られるような配慮をすべきでしょう。
 内容に関しては詳しく知りませんが、納得いかないという方が多いかもしれません(出来るか、という声が聞こえてきそう(汗))。ならばそれは一つの可能性として、自分で別の(真の、ではなくて)可能性を考えてそれを表現した方が良いと思います。作者自ら同人活動を認めているのですし、エヴァもそれ故に多くの二次創作作品を生み出したのですから。私?私はまだ未定です。
「私としては晶子ちゃんに来てもらえると有難いんだけど、祐司君は良いの?」
「昨日薬とか貰いましたし・・・大人しく寝てますから。」
「そうじゃなくて、寂しくないの?」

 潤子さんの問いに今度は俺が沈黙してしまう。井上がバイトに行けば俺はこの部屋で一人になる・・・。昨日熱で一人苦しんでいたことを思うと、正直言って不安だ。でも・・・だからと言って何時までも井上に甘えているわけにはいかない。

「・・・大丈夫です。」

 ともすれば心の底辺に垂れ込めている不安に吸い込まれそうになる自分に言い聞かせるように、俺は答える。

「じゃあ、晶子ちゃんにはこっちに来てもらえるように伝えてもらえる?私から言うより祐司君から言った方が良いみたいだから。」
「分かりました。」
「その代わり、バイトが終わったらちゃんと祐司君のところに帰るように言うわね。」
「!な、か、帰るって・・・?!」
「?」
「ふふっ、それじゃお大事にね。」
「は、はい。有り難うございます。それじゃ・・・。」

 俺は挨拶もそこそこに受話器を置く。帰るって・・・ここが井上の家みたいじゃないか・・・。そう思った瞬間、俺の脳裏に一瞬ある光景が浮かぶ。そこでは俺と井上の明るく弾む声がする・・・。

ただいまぁ。   お帰りぃ。

 次の瞬間、俺の意識が現実の世界に戻る。急激な光景の変化に軽い目眩を覚えた俺は額を押さえて首を横に振る。俺は一体何を想像してるんだ・・・?

「まだ治ってないんですから、無理しちゃ駄目ですよ。」

 井上が俺を支えるように寄り添う。少し強めの口調だが、それが俺を気遣ってくれてのことだと思うと有り難いとさえ思う。

雨上がりの午後 第159回

written by Moonstone

「・・・もしもし。安藤です。」
「あ、祐司君。起きて大丈夫なの?」
「ええ、何とか・・・。それより店の方はどうです?」
「今はまださほどでもないけど、夜の部は何時ものとおりだと結構忙しくなると思うわ。今日は私もリクエストに出る日だしね。」
「井上には俺の方からバイトに行ってもらうように頼みます。」
「・・・。」

2000/3/23

 広報委員会に「協賛リンクしています」として「綾波展」のバナーが貼り付けてあります。そちらで先頃、第1回推薦作品の公募が行われておりまして、その結果が公開されているだろうと思って結果を見てみると・・・

第1SSグループで連載中の「魂の降る里」がある?!(驚愕)

 私などよりずっと前から名作と評されるエヴァSSを書かれている方々と、推薦作品に並ばせて頂けるとは全く予想していなかっただけに、もうびっくりするばかりです(^^;)。その分、何かと滞りがちな連載を「綾波展」開催までにもっと進めておかねば、と身が引き締まる思いです。

 いきなりですがコミケのお話。私はコミケにこれまでに2度行っていますが何れも東京、そして買う側のみ(^^;)。一度くらいは売る側に回って自分の作品を出してみたいなぁ、などと無謀極まりないことを考えています。無謀というのは何と言っても創作というジャンルと見た目の問題。創作は二次創作(SS)に比べて知名度で圧倒的に不利で、その上文章だけというのは手に取ってパラパラと見て買おうという気にはなかなかなれないものです。
 仮にコミケに出品するなら「Saint Guardians」か、ここで連載している「雨上がりの午後」が有力候補(これくらいしかない(汗))なんですが、何れもテキストは膨大でイラストなし・・・(T-T)。これじゃ売れることなどおぼつかないので、イラストを描ける方を探しています。ある方の絵柄が気に入って一時期待したんですが、全くなしのつぶてでした(- -;)。やっぱり自分で描けるようにならなきゃ駄目なんでしょうか・・・?まだまだコミケへの道は遠そうです。
 どうやら俺の病状を確認する内容らしい。今度こそ大丈夫だろうと安心した矢先、井上の表情が強張り、消えかけていた頬の紅みが再び強まる。
 電話に出る前より紅みが強い。どうやら相当ストレートな突っ込みをされたらしい。やっぱりマスターは何かあったと踏んでいるらしい。確かにさっきは何かありそうな雰囲気だったが・・・。

「い、いえ、あの・・・安藤さんは熱が高かったですし・・・。い、いえ、そういう意味じゃなくて・・・その・・・。」

 防戦一方でそれすらも危なっかしい。このままだと根掘り葉掘り聞き出されかねない。別に疚しいことはない・・・筈だが、後々どうなるか、それこそ分かったもんじゃない。
 俺が上体を起こしてベッドから出ようとした時、井上が安堵の溜め息を吐く。電話の向こう側で昨日と同じように爆弾が炸裂したんだろう。

「もしもし。・・・いえ。・・・はい、さっきお粥を。・・・はい、昨日戴いた熱冷ましが効いたみたいです。有り難うございました。」
「・・・。」
「・・・私ですか?・・・まだ熱がありますし、もう1日お休みさせてもらおうかと・・・。」

 今日バイトに来るかどうかを電話の相手に−今は潤子さんだろう−尋ねられているようだ。井上の気持ちは勿論嬉しいが、昨日今日と俺と井上が二人して休むと店の方が心配だ。特に日曜は潤子さんがリクエストの対象になるから、キッチンと演奏を一人で切り盛りするのは相当大変な筈だ。
 俺はベッドから出て、そのまま井上の方へ行く。本当なら何かを羽織るべき何だが何もないから仕方ない。井上も俺が自分で起き出すことは想定していなかっただろうし、昨日の状態を考えればある意味当然だろう。

「井上・・・。」
「!あ、起きちゃ駄目ですよ!」
「昨日ほど酷くないから大丈夫・・・。それより、今日は店が忙しい日だから、バイトに行った方が良い・・・。」
「でも・・・。」
「俺は大人しく寝てるから・・・。」

 まだ視界が多少ふらつくが、壁伝いでなくても一応立って歩けるから昨日よりは随分ましになっている。もう四六時中付き添ってもらわなくても大丈夫だと思う。
 井上は不安そうに俺を見て押し黙ってしまう。井上のことだ。やっぱり心配だから、と言いそうな気がする。俺は受話器を井上の手から取って電話を替わる。

雨上がりの午後 第158回

written by Moonstone

「・・・マスター。」

 呟くような井上の応対から、電話の相手はマスターだと判った。ほっとしたのもつかの間、昨日のことがあるだけに電話の内容が気に掛かる。

「・・・はい。ええ、かなり熱は下がりましたけど、まだ・・・。はい、食欲も出て来ましたから今日明日あれば大丈夫だと思います。」

2000/3/22

 JewelBoxで展開中の1行リレーが随分賑わってきました(嬉)。現在展開中の4作品はお笑いもの、荘厳なもの、切ないもの、とバリエーションも豊富です。1日開けた一昨日から昨日にかけて1行がかなり増えまして、急いでその記録をした後(取ってるんですよ、これが)私も参加させてもらいました。嬉しい悲鳴とはこの事です。
 このお話をお聞きの方でまだ参加されていない方、「1行ずつ」というルール(プラス良識)さえあれば形式やジャンルを問わない1行リレーに、ぜひ御参加ください。途中参加は勿論、新規開始も大歓迎です(^-^)。

 警察の不祥事が芋蔓式に出て来て、マスコミが「秘密主義の改善を」「身内を庇うな」と言っています。警察は勿論、他の官庁や企業や団体も、極少数の幹部が自分の地位を守る為に大多数の職員を呆気ないほど簡単に切り捨てるものです。あのような行動は別に珍しくも何ともありません。それより、秘密主義や身内を庇うことに関してはマスコミも警察以上だということに自戒の言葉はないのは不思議です。
 あるマスコミで不祥事が起こると、他の社は一斉にそれを報道してコメンテーターがとんでもないというようなことを言う一方で、当事者のマスコミはだんまりを決め込む・・・。今までそのようなことが何度あったでしょうか?昨日当たりお話した警察とのギブ&テイクもそうですが、報道も所詮は権力であり、自分達が向いている方向が権力であるということをもっと自覚するべきでしょう。まあ、自覚しないからこそあのような報道や番組が出来るんでしょうが

それで良いのか?

 俺は井上にまだ告白の返事をしていない。それに好きという気持ちが本物なのかも−確実な結果があるからじゃなくて−判らない。井上に好きだと言えるのか自信がない。そんなある意味でいい加減な状況でこのまま井上を抱き寄せるのは、単に井上の好意−もう「想い」と言うべきか−に便乗するようなものじゃないか?それは・・・俺を一時の踏み台にして「身近な存在」とやらに乗り換えたあの女、優子がやったことと同じじゃないか?
 だが、車の走行音が遠くなっていく。視覚は元より、聴覚も、嗅覚も、触覚も、居全て井上に集中されていくのが分かる。井上の顔、吐息の音、肌と髪の匂い、頬に触れる指が俺の頭から考えることをじわじわと蝕み、広がる白の「無」の中に溶け込ませていく・・・。

・・・。

プルルルルル・・・

 電話のコール音で急速に現実の世界に引き戻される。井上がびくっと反応して急激に上体を起こす。俺は荒い呼吸を押え込んでいた反動で溜りに溜まった吐息を一気に吐き出す。井上は右手で胸の中央を押さえて肩で息をしている。・・・俺と同じ状態だったようだ・・・。
 電話のコール音は俺と井上のことなど当然お構い無しに同じ周期で繰り返される。誰からだろう?もしかすると・・・智一か?そんな予感が頭を掠める。

「私が出ますね・・・。」

 井上が胸を押さえながら電話が置いてある戸棚の方へ向かう。もし智一だとしたら、何かあったのかと妙な想像をされるかもしれないし、場合が場合だけにそれが感情を縺れさせる可能性だってある。実家の人間でも同棲しているなどと思われかねないから厄介には違いないが・・・。
 やっぱり俺が出るべきだろう、と俺がベッドから出るべく身体を起こした頃には、井上は受話器を取って左の耳に当てていた。

「はい、・・・安藤です。」

 そう言って電話に出た井上の表情が、一瞬の間を置いて驚きに変わる。もしかして、俺の予想が当たっちまったのか?!

雨上がりの午後 第157回

written by Moonstone

 身体に掛かる重みが少し増す。井上の顔がより一層近付く。その潤んだ瞳でじっと見据えられた俺は、魔法にでもかけられたように視界が固定され、内側から熱を発する身体が自らその動きを止める。井上との距離はもう10cmあるかないかというところだ。これだけ近いということは、恐らく井上はベッドにかなり身を乗り出しているに違いない。
 俺の左腕が無意識にぴくっと動く。このまま左腕を布団の外に出せば、井上の身体に手を回せる・・・。そしてそのまま距離をゼロにすることだって可能だろう・・・。その衝動にも似た気持ちが左腕を動かそうとする前に、あの疑問符が浮かぶ。

2000/3/21

 この更新を溯ること数時間前の更新で、日付を1日間違えていました(滝汗)。「春分の日=3/21」という勝手な公式が頭にあったんです。23:00頃に先行してトップを修正しましたが、日付が変わるまであと1時間くらいでやっても手遅れですな(汗)。今日から通常どおりの更新に戻りますのでよろしくお願いします(深々)。

 昨日(実際は数時間前ですが)は改編期のテレビ番組についてお話しましたが、ラジオでは改編期に特別編成になるということはないようです。年末年始にかけては多少変わりますが、それ以外はこの時間にラジオを点ければこの番組をやっている、ということがはっきりしています。そのため時計代わりになっている面もあります(笑)。
 でも、視聴者のどれくらいの人が特別番組を望んでいるんでしょうか?私は子どもの頃にこの改編期やプロ野球シーズンで何時もの番組がやっていないことに何度もつまらない思いをしたことがありますし、今でも、私が見る数少ない番組が特別番組などで無くなると同じ様な思いです。どうせするなら特別番組らしいことを、それこそ昨日お話したように警察や議員などの権力の闇を暴き出すような積極的なことをして欲しいです。それが出来ないのは他でもない、本来のジャーナリズムの意識がないということの裏返しでもあると思います。
 井上の表情がゆっくりと嬉しさのそれに代わっていく。小さく頷いた頃には、俺が昨日の晩に初めて自分の気持ちを素直に言えた時の表情になった。それを見てると、俺も自然と顔が綻ぶ。

「・・・また勝手に思い込んで勝手に拗ねちゃいましたね、私・・・。」
「いや、井上が悪いんじゃない・・・。これからは潤子さんとかを引き合いに出さないように気を付ける・・・。」
「・・・うん。」

 井上は少しだけ首を振るように、でも心底嬉しそうに頷く。良かった・・・。誤解は解けたみたいだ・・・。
 安心したところで改めて俺は井上との距離が近いことに気付く。井上の手が肘を曲げた状態で俺の頬に届くくらいだから、30cmもないだろう。布団から手を出せば、それこそ抱き寄せるのは簡単だ。・・・それくらい近いところに、井上の顔がある・・・。
 井上は俺の顔をじっと見詰めている。まるで何かを期待しているような・・・。推測というより確信めいたものを感じる。今までにも何度かこういうことはあったが、今日は何処か違う。今までよりぐっと近付いたこの距離のせいだろうか・・・?

「安藤さん・・・。」

 井上が沈黙を破る。視界の大半を占める井上の顔。頬を微かに撫でる指の感触。少し潤んでいるように思う瞳。それらが俺の心臓が刻むリズムをより早める。

「・・・ん?」
「・・・これだけ近付いても・・・抱き締めて・・・くれないんですか?」
「?!」

 消え入りそうな、それで居てはっきり耳に届いた井上の言葉に俺は驚きを隠せない。その表情は、さっきストレートな潤子さんと優子のことを口にした時のそれと似て・・・否、これは思い込みかもしれないが・・・俺を求めているようだ・・・。
 突然、昨日マスターが言った言葉が鮮明な声で脳裏に浮上してきた。そのことが俺の意識をより井上の方へ釘付けにする。口の渇きが早まり、呼吸が再び荒れ始める兆候を感じて俺は慌てて肺と横隔膜の動きを押さえようとする。よく見ると井上も僅かだけど肩が上下しているのが分かる。考えていることは俺と同じ・・・なのか?

雨上がりの午後 第156回

written by Moonstone

「もし潤子さんを恋愛対象で見てるなら・・・一緒に居て欲しいって昨日見舞いに来た時に言ってると思う・・・。」
「・・・。」
「今まで疑いまくって何だけど・・・それだけは信じて欲しい・・・。」

 都合が良すぎると自分でも思う。何かにつけて井上の行動には裏があると思い込んで疑って来たのは何を隠そう俺なんだし・・・。だけど今、井上には帰って欲しくない。このまま居て欲しい・・・。

2000/3/20

 今日はちょっと変わった時間に更新となりました。某ページの管理者様主宰のオフ会で出掛けていたためです。出発前にも殆ど寝てないので無茶苦茶眠いですが(^^;)、3/21付の更新は予定どおり行います。つまり、時間軸上では1日2回の更新ですね。連載もきちんと書きますので、2日分ごゆっくりお楽しみ下さい。

 3月もこの頃になると、テレビ番組が改変期を迎えて特別編成となります。それは別に良いんですけど(殆ど見ないし)、どうして?と思うのは警察24時とかいうスペシャル番組。の存在です。警察関係の不祥事はそれこそ毎日張り付いているマスコミ関係者(番記者とか)なら知っていたか、勘付いていたかのどちらかです。にも関わらず今になって芋蔓式に出てくるというのは、世論が警察に厳しい目を向けているという虎の威を借りて責め立てているだけの狐でしかないです。
 それに、警察関係の不祥事などOBや真髄のジャーナリストは既に告発していましたが、マスコミはそれらをまともに取り上げませんでした。何のことはない、警察から情報を貰って記事を書いていたんですから。ここまで警察が腐りきるまで事が明らかにならなかったのは、警察とギブ&テイクの関係にあったマスコミの責任は重大です。警察24時のスペシャル番組は、その関係を如実に証明していることに、どのくらいの方が気付いておられるでしょうか?

「・・・井上・・・。」
「・・・え?」
「何で・・・潤子さんが・・・?」

 俺が問い掛けると、今度は井上が視線を俺から逸らせる。井上にしては珍しいことだ。何か言い辛いことでもあるんだろうか?

「・・・だって・・・安藤さんは・・・。」
「?」
「安藤さんは・・・潤子さんが気になってるみたいだし・・・。」

 芯の無くなった声で最後の方は急速に音量が減っていったからはっきり聞こえなかった。怒っているような泣き出しそうな、はっきりしていることが特徴の井上にしてはやはり珍しい表情だ。井上と潤子さんは普段バイトでキッチンを手分けして切り盛りしているし、その時もよく喋ってるし、俺が知っている限り仲が悪いとは思えない。どうして潤子さんを引き合いに出すのか判らない。
 ・・・そう言えば、今まで俺が潤子さんのことに触れると、井上は何故かあまり良い顔をしなかったような・・・。最初の練習の日もそうだったし・・・っ!

「・・・もしかして・・・焼きもち妬いてるのか?」
「!!べ、別に、そんなんじゃ・・・。」

 そうは言うが、視線は彼方此方に振り回してるし、動揺ぶりは一目瞭然だ。井上は感情が表に出易いタイプだから、こういう時も例外じゃない。それをどうにか誤魔化そうとするところが何か・・・こう・・・可愛いというか・・・。

「潤子さんは・・・確かに奇麗で魅力的だけど・・・憧れてるだけ・・・。」
「憧れって・・・、それは・・・。」
「何て言うか・・・ほら、アイドルとか女優とかで、こんな相手と付き合いたいなぁ、とか言うだろ?あれと同じだから・・・。」
「・・・。」
「・・・疑ってるって感じの眼だな。」
「・・・だって・・・。」

 俺は頬に触れたままの井上の手に自分の手を被せる。少し拗ねたように視線を逸らした井上が驚いたように再び視線を俺の方に向ける。

雨上がりの午後 第155回

written by Moonstone

 掠れるような井上の声が、遠く車の走行音が聞こえるだけの室内に滲む。胸の鼓動が刻むリズムが早まる。頬に触れている井上の指が微かに揺れているのに気付く。もしかして・・・緊張しているのか・・・?でも、何を・・・?
 それより、どうして井上は潤子さんの名前を出してきたんだろう?あの女、優子が出てきたのは判らないでもない。井上にしてみれば、優子の存在はある意味で乗り越えなければならない障害のようなものだろう−思い上がった言い方かもしれないが−。でも、どうして潤子さんが出てくるんだ?かなり唐突な感がある。

2000/3/19

御来場者36000人突破です!(歓喜)

 ・・・うーん、よく此処まで伸びましたね(笑)。当初予測の3倍以上です。1999年度では最後の定期更新ということで意気込んだのですが、体力と時間が足りなかったです(汗)。gifを使っているだけで特許侵害になるという厄介な問題の対策もありましたが、製作の鈍化は否めません。これをどうするかがこれからの課題の一つでしょう。ただ、このコーナーをシャットダウン以外毎日更新できたこと、そして開設当初から掲げた「原則隔週で定期更新」はどうにか守り通せたことは重要ですし、このページの特徴として可能な限り守って行こうと思います。
 定期更新という峠は過ぎましたが、まだ終わったわけではありません。レイアウトの変更はまだ残っていますし、来週3/26に臨時更新の機会はあります。それにこのコーナーもありますからね(笑)。

 さて・・・土曜日の夜といえば「CCさくら」ですね(そうなのか?)。衛星放送という高尚な(?)ものを持っていない(ビデオデッキすらない(笑))私は、こうして地上波で見られるこの時間を楽しみにしてるんですが、番組予定表を見て・・・

何故今日はないのだ?!(怒)

 ・・・「理想の教育」?そんな優等生的回答しか期待出来ない番組なんかしないで、通常どおり「CCさくら」を放送せんかい(激怒)。・・・また1週間待たなきゃならんのか、と溜め息交じりでちょっと憂鬱な土曜の夜でした(^^;)。
 ふと井上が俺の方を向く。かなり近い距離で−朝方の額合わせ程ではないが−目が合って、身体の強張りが強まる。胸の鼓動が早くなり、喉に何かが痞えているような違和感を感じる。音を立てないように注意深く息を飲む。・・・これじゃキスされるのを待ってるみたいだ・・・。
 そう思うと一層胸の鼓動が早くなって、飲み込んだ筈の喉の痞えが前よりも大きくなって復活する。こういうのを悪循環というんだろうか・・・?

「あ、また熱出てきました?」
「い、いや、これは・・・。」

 顔色は実に正直らしい。俺は曖昧な言い方で誤魔化す。まさか距離が近いから緊張してるなんて言える筈が無い。それこそ何かを期待してると仄めかすようなものだ。
 視線を逸らした俺の額にひんやりした感触が伝わる。井上の手が触れている。そう思うだけで身体の強張りがゆっくりと解けていく。距離の近さは変わらないのに何故だろう・・・?

「まだちょっと熱いですね・・・。」
「・・・さっき薬飲んだばかりだから・・・。」
「顔色ほどじゃないから多分大丈夫だと思いますけど、もう少し様子を見た方が良いですね。」

 相当顔が紅くなっていたらしい。だが、病気の熱は外に出ても、こういう熱は意外に出ないみたいだ。ほっとしながら視線を天井の方に戻すと、少し不安げな井上の顔が視界の大半を占める。胸の鼓動は相変わらず早いが、不思議と心地良く感じる。鼓動にも破裂するような勢いはなく、軽くリズムを刻むような感覚だ。

「何かあったら遠慮なく言って下さいね。」
「・・・まだ居て・・・くれるのか?」
「治ってないのに放り出して帰るなんて、出来ると思います?」

 俺は黙って首を横に振る。額にあった井上の手が指先を肌に触れさせながら頬へと移動する。その痺れるような感覚を誘う愛撫に、俺はされるがままに井上を見詰める。部屋に差し込む西日の飛沫を受ける井上の顔は心なしか・・・妖艶に誘っているように見える。

「今、安藤さんの傍に居られるのは潤子さんでも、優子って女性(ひと)でもなくて・・・」
「・・・。」
「私だけなんですからね・・・。」

雨上がりの午後 第154回

written by Moonstone

 井上が持ってきた水で熱冷ましの錠剤を飲む。さっきまで熱いものを食べていたせいか、水の冷たさが腹の内側からじんわりと染み渡っていく感覚をより鮮明に感じる。井上にコップを手渡すと俺は横になって布団を被る。
 井上は今度も布団の裾を肩口まで引っ張り上げる。さっきもそうだったが、井上から見て奥側の布団に手を掛けると互いの顔の距離がかなり近付く。俺は体が軽く強張るのを感じながら、上から覗き込むような体勢になっている井上を見る。否、見詰めるといった方が言いだろうか?

2000/3/18

当コーナーのリスナーが2500人を突破しました!(歓喜)

 堅実に伸びてますね、此処は(^^;)。2500人目を踏まれたラル様から御連絡を戴いて嬉しさ倍増です(^^)。折角の御連絡ということでお名前を上に掲載させて頂きました。それにしてもリスナーの皆様は、この日記の部分か隣の連載か、どちらを主にお聞き頂いてるんでしょうか?ちょっと気になるところです。日記のついでに連載っていうパターンが多いような気がします。何となくですが(笑)。

 明日3/19は定期更新ですが、隔週の原則からすると、明日が99年度最後の定期更新になります。これで更新が終わりという意味ではありませんので念のため(笑)。99年度最後に相応しく大々的に・・・とは行きそうもないのが悲しいですが、できる限りの事はしたいと思います。更新が相当鈍っているグループは特に何とかしたいところです、はい。ただ、何分この日記+連載を書いてから正味1日しかないので、ぶっ通しでやってもきついかも(^^;)。・・・いや、絶対きつい(断言)。
 で、1周年で何をしようか、ということは前にも触れたと思いますが(^^;)、現状では通常の更新が精一杯ですね。兎に角平日に殆ど作品製作が出来ない状態が続いていますし、何かしようにも思いつかないというのもあります(爆)。お見せ出来るようなイラストが描ければ良いのですがねぇ(^^;)。

「昨日は私が来るまで何も食べてなかったんですか?」
「ああ、何も食べてない。」
「あれだけ熱があったんじゃ無理もないですね。」
「食べるってこと自体、思い付きもしなかった・・・。」

 熱で朦朧とする中、頭にあったのは井上が智一とデートに出掛けたことだけだった・・・なんてとても言えない。昨日見舞い(?)に来たマスターは、俺がショックで寝込んだようなことを言ったが、実際そんなようなものだ。
 出来立てならではの盛んな湯気を立ち上らせるお粥を一匙ずつ救って、数回息を吹きかけて口に入れる。俺は脂っこいものが好きな方だから、普段ならこういうものは味が薄いと思う筈だ。だが、今日は不思議と程良く感じる。病気になって味覚が変わったんだろうか?それとも・・・。

 最初は食べきれるか不安だったが、何時の間にか一人分の土鍋は空になった。レンゲを鍋の中に入れて蓋を閉める。物足りなくも多すぎでもない、丁度良いくらいの分量だった。井上はこういう事が分かるんだろうか?

「・・・ご馳走様。美味かった。」
「良かった。もう大丈夫みたいですね。」

 俺の中に小さな暗雲が生まれる。俺が持ち直したから、もう帰るんだろうか・・・?1日泊り込んでくれたんだし、帰ると言っても俺に止める権利はない。だけど・・・。

「もう一度熱冷まし飲んでもらって、後はゆっくり休めば良くなりますよ。」
「ああ・・・。」
「何か?」

 井上が俺の顔を下から覗き込む。無意識に俯いていたらしい。

「水用意しますから、身体冷やさないように横になってて下さいね。」
「・・・そうする。」

 俺は素直に横になって布団を被る。井上は布団の裾を肩口まで引っ張りあげると、空になった土鍋の乗った盆を持ってキッチンへ向かう。・・・まだ居て欲しい。その一言が素直に言えない自分がもどかしい・・・。

雨上がりの午後 第153回

written by Moonstone

 雑炊ならまだしも、お粥なんて食べた覚えが無い。お粥ってものは米を炊く時に水の分量が多すぎて原形を留めないほどにぐちゃぐちゃになった、味も素っ気もないものだと思っていた。だが、このお粥は不思議と美味い。控えめな塩味と梅肉から染み出した仄かな酸味くらいが加わるだけで、こんなに美味いと感じるものなんだろうか・・・?
 1日ぶりにものを食べるせいもあるかもしれない。だけど、空になった胃袋から染み渡るのはお粥の旨味や熱だけじゃないように思う。

2000/3/17

 インターネットを使用する際に気になるのが電話料金。テレホーダイなどのサービスを使っていても料金節約のために頻繁に接続/切断を行っている方も居られるでしょう。かく言う私も御多分に漏れずその一人で(笑)、JewelBoxや余所様の掲示板への書き込みやレス、感想を書くために参照する作品でそれぞれウィンドウを開いてから切断して、全部書き終えてから再接続して一気に書き込みや送信を行います。途中でダウンしたらやり直しなので(泣)、Netscapeとメールソフト以外は起動しないようにしています。
 水曜の夜も同じ事をやっていたのですが、書き込みや送信を終えて切断したつもりが切れて無くて、気付いたときには1時間半以上繋がりっぱなしになってました(爆)。週末はPCの電源を長時間入れっぱなしにしていることがあるので、しっかり確認したいものです。ああ、せっかちな奴だ(^^;)。

 第1写真グループで次回実施するテーマを考えています。第1弾が夕方の風景、第2弾が夜明けの風景、第3弾が朝の港と、割と時間帯が集中しているので次はそれにとらわれないテーマにしたいですね。今のところ「日常にあるささやかな風景」を掲げていますが、一度人物を撮ってみたいとも思います。これはwebページという特質やモデルの心当たりが無いことがネックなんですが(^^;)。
 今までで一番苦労したのは何と言っても動物です。何せ相手はこちらの都合などお構いなしに勝手に動きますからね(笑)。それにデジタルカメラってズームが意外に遅かったりします(処理が難しいのは百も承知)。こういうのが撮りたい、と思って延々と待ち続けてようやく撮れたと思ったらピンぼけだったり(爆)。ただ、動きの一瞬を捉えた時はかなり嬉しいもので、野生動物の写真を撮る写真家の心境が少し判ったような気がします。
 調理をしているところはバイトでも見るし、月曜の練習が終わった後でも見る。だが、今日は何だか特別な印象を感じる。

「もうちょっとで出来ますからね。」

 井上が俺の方を向く。俺が黙って頷くと、井上は再び土鍋の方へ向かう。その動きに合わせて束ねた髪が左右に振れる。バイトでは大抵束ねているからその動きも見慣れている筈なんだが・・・何だか妙に引き付けられるものがある。

自分の家だから、だろうか・・・?

 あの女、優子がこの家に来たのは数えるほどしかない。外で会っていたのもあるし、優子があまり料理が得意じゃなかったこともあって−それでも俺よりは遥かにましなのは言うまでもない−、来た時も食事は外へ出ていた。住人の俺ですら滅多に立たないキッチンに誰かが立って何かを作っている、というのは、それだけで魅力に映るんだろうか?
 もしかすると、料理が出来るっていうことは男であれ女であれ魅力になるのかもしれない。男女同権だの家事の分担だのと妙な理屈を捏ね回す奴は多いが、大抵そういう奴は自分が相手の為に何かをするのが嫌で、相手が自分にして欲しいだけだ。・・・そう、俺みたいに。

「はい、出来ましたよ。」

 井上が土鍋を盆に乗せて俺の方へ来る。土鍋にしろ盆にしろ、一人暮らしを始めるにあたって一通り揃えてもらったんだが、今まで一度も使われずにお蔵入りになっていた。井上が居なかったら今度引っ越すまでそのままだっただろう。
 俺はゆっくりと上体を起こす。まだ普段どおりとはいかないが、自力で起きれるようになっただけましというものだ。

「熱いから気を付けて下さいね。」
「ああ、分かった。」

 井上は上体を起こした俺のの太股の辺りに盆を乗せる。蓋を開けると封じられていた白い湯気がぼわっと立ち込める。中にはその中央に紅いもの−梅肉だ−が浮かぶ一様に白い表面のお粥があった。
 添えられたレンゲ−これも使ったことがなかった−を手に取って一口掬って口へ運ぶ。ほんのり塩味があってその中に梅干しの酸味が微かに混じっている。思わず感想が口を突いて出る。

「・・・美味いな、これ。」

 井上が少し照れたような、でも嬉しそうな微笑みを浮かべる。それを見て・・・俺も微笑む。微笑みも感染(うつ)るんだろうか・・・?

雨上がりの午後 第152回

written by Moonstone

 時間は何時になくゆっくりと流れていく。レースのカーテンだけ閉じられた窓から秋の名残を思わせる柔らかい光が時々まどろみを誘う。熱冷ましが効いてきたのか、全身を包んでいた倦怠感もかなり和らいで来たように思う。呼吸や脈拍もかなり落着いてきたのが自分でも分かる。
 井上はあれからずっと自分の家に帰らずに俺の傍に居てくれている。外へ出たのは、米が無いのに気付いて−何せこのところ御飯を炊いた記憶が無い−慌てて他の食材と併せて2kgの米を買いに出た時くらいだ。代金は勿論俺が出した。看病してもらって金まで払わせるわけにはいかない。
 そこそこ食欲が出てきた昼過ぎに、井上がそのお粥を作ってくれることになった。湯を沸かす時くらいにしか使わないガスコンロに髪を纏めた井上が立って調理をする様子を、俺はベッドからぼんやりと眺める。

2000/3/16

 イメージ置換の流れは此処にまで及びました(笑)。トップページで別のウィンドウを開くこのコーナーや記念企画、進捗速報に隠し部屋でもgifをjpgに入れ替えました。これから元々イメージをあまり使っていないので割とすんなり変更できました。この背景は緞帳みたいになったのですが、勿論偶然の産物です(爆)。グループの方は次回定期更新で一斉変更と行きたいのですが、現状ではちょっと無理なようです。

 水曜は仕事を休みました。このくらいで終わるだろうから、と前々から休みを確保しておいたのですが、その予測が皮肉な形で当たりました。連日1日の約2/3を費やしてがむしゃらにやっても何も進まず、それどころか逆戻りを強いられ、心身の疲労が極限に達しようとしていたので・・・。ゆっくり寝た後、買い物に出て、それから続いているHTMLソースの修正作業。ただ疲れを感じたら横になって再開、というように疲れを溜めないようにしました。食事も平日では久々に手の混んだことをしたので、食べ応えがありました(^-^)。
 結局自分の状態が一番良く分かるのは自分ですし、最終的に自分の味方は自分しか居ないのですから、その自分をたまには労っても良いと思っています。仕事で体を壊したところで、職場や同僚が面倒を見てくれる筈はないんですから・・・。と、こんな投遣りなことを言う辺り、我ながらささくれ立ってるなぁ、と思います。
 今日からどうなるかは分かりませんが、ちょっと落着いたことですし、某チャットの占い(あの機能は面白い)で「自信を持って」「絶対大丈夫」と出たので、気を取り直してもう一度やってみることにします。占いなど普段は見向きもしないのですが、今回は実に良いタイミングでした。
 それに・・・相手から好きだと言ってきてそれに応じるパターンは、前と同じだ。あの時、俺の気持ちはあの女、優子に向いてはいなかった。俺自身は初対面だったし、あの時の俺には別に好きな相手が居た。当然の如く片思いだったが、あの想いは真剣だったと思っている。
 勿論あの女に対する気持ちに嘘偽りはなかった。本当に真剣だった。そうでなかったらあんなにショックを受けたりしない。だけど・・・その時好きだった相手に「好きだ」と言わないで、あの女と付き合い始めたのは、また振られるのが嫌で無意識のうちに安全確実な方を選んだんじゃないんだろうか?

それで良いのか・・・?

「まだ・・・好きだからとは言わない・・・。今の気持ちが本当かどうか、まだ判らないから・・・。」
「・・・。」
「今回だって・・・俺が熱を出してなかったどうなったか・・・判らないし、今隙だって言うのは、井上の優しさに便乗して安全な方を選ぶみたいだから・・・ずるいような気がする。それが本当に好きだっていう気持ちか・・・自信がない。」
「・・・。」
「ただ・・・智一には試合放棄を取り下げるって言うつもりだし・・・、自分の本当の気持ちが判ったら・・・前の返事はきちんとする・・・。先延ばしかもしれないけど・・・今はこうとしか言えない・・・。」

 井上は小さく頷く。ちょっと表情が沈んでいるのはやっぱり俺が返事をすることを期待していたのに、それが裏切られたせいだろうか?

「じゃあ・・・、私は安藤さんが好きだって言ってくれることを期待してますね。」
「・・・悪い。この場で決断できなくて。」
「待てるまで待ちますって言ったのは私だから、良いんですよ。」

 そう言った井上は、不意に俺の上に突っ伏す。丁度今朝俺が目覚めた時の上体と同じ様に、両腕を交差させて顔を俺の方に向けて・・・。

「本当言うと・・・好きだって言って欲しかったなぁって。」
「・・・そんな眼だった。」
「もう一息ってところですか?」
「・・・そうかもしれない。」

 もしかしたら気持ちは固まっているのかもしれない。だが、俺はそれが判らないんじゃなくて、それと向き合う勇気がもう少し足りないのかもしれない。ずるいのは判ってるが・・・もう少し待ってもらおう・・・。

雨上がりの午後 第151回

written by Moonstone

 好きだ、と言ってしまうのは簡単だろう−そりゃ当然、緊張はするだろうが−。先に井上が俺に好きだと言っているから、俺が好きと言って断られる可能性はまず無いと言って良い。安心確実な結果が約束されているわけだ。
 だけど、それで良いんだろうか?振られる心配がないから好きだと言って、それで長続きするんだろうか?そんな「好き」という言葉が自分の気持ちだと思うのは言いようのない違和感を感じる。反則っぽいというか・・・気持ちを伝えたいという決断が躊躇いを凌駕して告げるんじゃないというのは、本当の気持ちだとは思えない。

2000/3/15

 引き続きgifの置換とレイアウト変更をしているのですが、その作業の多さにはぐったりします(汗)。背景を透過できるということで殆どgifを使っていたのに加えて、そのファイル数が・・・。文芸部門なんて洒落にならんです(泣)。特に50近い作品数を抱える第1創作グループと第1SSグループは、今から頭が痛いです。少なくとも作品数+インデックス分は手を加える必要がありますからね。「Access Streets」だけでもあれだけ時間掛かったのに、何時になったら出来るんでしょ?それに、肝心の作品製作の方は・・・?(滝汗)

 開設以来、定期更新として隔週で何か作品を公開するようにしているのですが、現在は非常に厳しい情勢です。平日に殆ど作品製作の時間がとれない上(帰りは遅いし疲れが取れないし)、休日は休養と家のことで思うようにできず、予定していたことが次々と後回しになっていくのが現状です。
 何せ私はずぼらなので(変なところで几帳面だったりしますが(笑))、定期更新というある種の「義務」で自分を突き動かさないといけない面があります。その「義務」が行き過ぎると心身を圧迫するので(今は本業でやられてます)、見直しの必要があるかもしれません。

 連載「雨上がりの午後」が本日で150回目を迎えました。でも、まだまだこの話は続きます。第3創作グループ共々、ご愛読の程をよろしくお願いします(あ、他のグループもお願いしますね♪)。もうちょっと進んだら、何か企画をしようかと考えています。
 ・・・井上はもうその頃から本気だったんだ。ストーカーみたいに執念深く食い下がって、挙げ句の果てに同じバイトを始めたのも、全て好きという気持ちが井上を突き動かした結果だったんだ。

「・・・安藤さんには私のこと、彼が居るのに見えないところで浮気するような女だって思われてたみたいですね。」
「・・・。」
「私も浮気したりされたるするのは嫌なんですよ。振られたことだってあるし・・・。もし誤解されてるなら、私はそんなことはしないし、したくないって思ってることは知ってて欲しいです。・・・でも、今の私じゃ説得力ないですね。ちょっと自分の希望どおりにいかなかっただけで、腹いせみたいにデートしたりするくらいだから・・・。伊東さんにも結局迷惑を掛けただけだし・・・。」

 俺は体を180度捻って井上の方を向く。井上の表情は最後の方の口調を反映するように沈んでいる。井上は俺に対しても智一に対しても済まないという気持ちなんだろう。

「智一は俺と違って、そういう気持ちとか理解できる奴だから・・・大丈夫だと思う。それに・・・元はといえば俺が・・・はっきりしなかったから・・・。俺が最初からはっきり言ってりゃ・・・こんなにこじれなくて済んだんだ・・・。」
「・・・。」
「智一には・・・俺からちゃんと説明する・・・。同じバイトをしてることとか・・・前に買い物に一緒に行った理由とか・・・。あいつは俺が試合放棄を宣言しておきながら井上と一緒に居たことに腹を立てて、その流れでデートの誘いに踏み切ったようなもんだからな・・・。」
「・・・私も安藤さんも・・・互いに意地を張ったばっかりに、伊東さんを巻き添えにしてしまったんですね。」
「そうだな・・・。智一には悪いことしたって思ってる・・・。謝らないといけないな・・・。」

 一旦会話が途切れる。だが、気まずくはない。俺はそうだし井上も恐らく、次に言う言葉を選んでいるんだろう。今回の被害者とも言える智一に説明すべき最大の要件について・・・。

「安藤さんは・・・私のこと、どう説明するつもりなんですか?」

 井上が先手を打つ。そうだ、智一に何より説明しなきゃならないことは、俺が井上をどう思っているか、ということなんだ。俺があの時に気持ちをはっきりさせてそれを言っていれば、こんな事にならなかったと思う。でも、こうして決断を促されて・・・未だどう言うべきか迷っている俺が居る。

雨上がりの午後 第150回

written by Moonstone

「・・・でもね、安藤さん。」
「・・・?」
「とっさに出たっていっても・・・何もないところからは出ないですよ。」

 それって・・・どういうことだ?俺は井上に背を向けたまま、耳に意識を集中する。

「そうなれば良いなぁっていう希望があったから・・・、ああ言ったと思うんです。」
「!」
「もっともあの時はバイト初日だったのもあって緊張してたから、どうしてああ言ったかってことはあまり深く考えなかったんですけどね。」

2000/3/14

 昨日に引き続きページの模様替えを行っていますが、先行して改称したばかりのリンク集を更新しました。まあ、余所様のバナー以外のgifをjpgに置換するか削除するかして、背景を単色にしたくらいですが、これでも優に3時間くらいは掛かっています(汗)。
 ちなみに今日の更新がずれ込んだのは、作業の残り(背景を作ってました)と、昨日の明け方まで作業をやっていた影響で、帰宅してから2時間ほど居眠りを決め込んだからです(爆)。

 で、今回追加したリンクをご覧頂ければ、今回膨大な手間が掛かる上に作品製作がますます遅れるにも関わらず、優柔不断な私が決断に踏み切った理由がお分かり頂けると思います。Webページ管理者の方、特にアニメgifを多用されている方々にはページの印象を左右する死活問題かもしれませんが、本当に洒落にならない問題なので、是非ご覧頂ければと思います。
 公正を帰すために、リンクの紹介やお勧めととられることはしないようにしているのですが(リンク集にコメントがないのはそのためです)、今回ばかりは例外でしょう。今回、背景があんな風になったのは、前の背景に近いものを作ろうとゴチャゴチャしているうちに春っぽい雰囲気になったので、試しに採用したからです(笑)。それにしても・・・似合わないなぁ(爆)。

 pngやjpgだと透明が出来ない(pngはブラウザの問題らしい)ですし、今後の改装の可能性などを考えるとイメージをあまり使わないようにするのが賢明だと思い、グループのインデックスはテーブルタグを応用してカラフルなものにしようとしています。結構上手く行ったと思うので、次回定期更新で出来たものから順にお見せしていきます。デザインセンスがないと苦労します(^^;)。
 本当のところはどうなんだろう?もし居るとしたら、井上が俺に告白したのは本気だからか?だとしたら井上は、あの女と同じ様に「身近な存在」にくら替えするつもりなのか?それが本当なら、俺は井上の気持ちを受け入れられるのか?井上のしようとしていることを許せるのか?だって、もし「先約」が居るなら、智一は巻き添えを食らったようなものだ。
 今までは井上の「領域」に踏み込むのには躊躇いがあった。井上の「遍歴」を聞きたくなかったという気持ちがあったのかもしれないし−最初井上の家に引っ張り込まれた時、かなり訝った覚えがある−、あの女と同じ事をしようとしているということを知りたくなかったのかもしれない。だが、何れ気持ちをはっきりさせようとするなら、「先約」がどうなのかを知ることは大きな要因になる。今この場で・・・聞いておこう。今くらいしか聞こうという気にならないかもしれないし。

「・・・井上。」
「はい?」
「バイト初日の日にさ・・・高校生の客がその・・・『これを頼む』って言って、井上を指差したこと・・・覚えてるか?」
「えっと・・・ああ、そんなことありましたね。」

 一瞬動きを止めた井上だが、どうやら覚えていたらしい。まあ、初日であんな経験をすることもそうそうないだろう。それにしても、俺が「注文」するみたいにちょっと躊躇したのは情けない。

「それでさ・・・、井上は・・・『先約があるから駄目』とか言ったけど・・・それは?」
「ええ、覚えてますよ。」
「その・・・こんなこと聞くのも何だと思うけど・・・先約は良いのか?」

 そう言いつつ、視線が何故か井上から壁の方へ逸れてしまう。別に俺に疾しいところがあるわけじゃないんだが・・・。きっちり「先約は居るのか?」とかいうつもりだったのに、何だか曖昧な言い方になっちまったし・・・。

「あれは・・・とっさに口を突いて出たんですよ。」
「・・・。」
「突然のことで驚いて、あれこれ考えてる間にぱっと言っちゃったような感じですね。」
「・・・そう。」

 「先約」はそれこそとっさに繰り出した返し技だった訳か・・・。何だかほっとする・・・って・・・、俺は・・・。
 また心臓が激しく脈打ち始める。全身が熱くなってくる。とてもじゃないが、今の状況で井上の方は向けない。俺は寝返りを打って壁の方を向く。

雨上がりの午後 第149回

written by Moonstone

 まだ続きがある。店内を仰天させるようなその「注文」に井上はこう言ったっけ・・・。

既に予約を戴いていますので、お受けできません

 先約がある。そのことがずっと俺の心の何処かにこびり付いていたのは間違いない。だから色々と誘惑(?)のポイントがあっても踏みとどまっていられたというか、踏み切れなかったというか・・・。

2000/3/13

 今回の更新は表面的には余り目立ちませんが、重要な問題の解消に向けた第一歩です。gifをjpgに置換したのは、gifの圧縮形式に関する特許で、gifを使用するだけで開発元が多額のライセンス料(約50万円)を請求してくる可能性があるからです。一先ずトップからは他所様のバナーを除いてgifを排除しました。各コンテンツではアニメgifが使用されていますが、順次jpgに置き換えていきます。その作業で殆どを費やしてしまいましたが、まあ、場合が場合だけにやむを得ないでしょう。連載の書き溜めはこのお話を御覧頂いていることにしていることでしょう(笑)。
 当然アニメgifも一切無くなるわけですが、10年以上経過していきなりライセンス料を取ろうなどという動きに対する抗議意思の表明として、近くMoonstone Studioとしてgifの不使用を呼びかけていきたいと思います。ただ置き換えるだけだと味気ないので、レイアウトなども変更してみるつもりです。

 土曜日は「CCさくら」で待ちに待った歌帆が登場したので、私は「はにゃ〜ん」となって転がってましたが(爆)、キャラに思い入れが出来るかどうかというのは、その作品にのめり込むかどうかの重要な要因になると思います。
 最初はどうしても「新しいもの」に手を出しかねるものですよね。面白そうなんだけど・・・という躊躇いを越えるには、コミックだと表紙やぱらぱらと捲った時に見える絵柄が好みにあうことが大きいと思います。「CCさくら」の場合は少女コミックということもあって相当躊躇しましたが(笑)、某チャットで紹介された絵柄が気に入ったので勇気を出して買い込みました。
 小説でも挿し絵とかで結構左右されることがあるんじゃないでしょうか?私が「ブギーポップ」を買った要因もそうですが、ぱっと見た目に印象が決まるイラストは強力な武器ですが、場合によっては逆に遠ざけるようなことにもなるでしょうね(汗)。・・・当面、あのイラストは隠し部屋に封印しておく他あるまい(爆)。

「今日もちょっとバイトは無理ですね。」
「・・・こんな身体じゃな・・・。」
「今は治すことが先決ですよ。まだ熱もあるから・・・。」

 井上は表情を曇らせながら、布団を掛け直す。井上の長い髪が顔に触れる。看病してもらうと意外に距離が接近するものだ。手を伸ばせば簡単に抱き寄せられるくらい・・・。
 ・・・どうしてこんな事を思うんだろう・・・?井上から告白を受けてから、やっぱり男と女ということが、つまりは恋愛の対象かどうかが先に頭を擡げてくるんだろうか?そうなることをあれほど避けようとしてきたのに・・・結局、男と女という立場や恋愛の対象かどうかということ抜きには出来ないんだろうか・・・?

夢でも魘されるような記憶を刻まれるくらいなら、
もう二度と恋愛なんてしたくない。
だけど・・・そうでなかったら・・・?

 こんなことを考えるのは、俺が弱っているからだろう。何時もの調子だったら同じ様に思うかどうか判らない。治ってからもう一度考えてみるべきかもしれない。ひとときの人恋しさに任せて流されたらそれこそどうなるか・・・判らない。
 ゆっくりと流れる沈黙の時間の中、俺は纏まりのないことをあれこれと考え続ける。考えは纏まらなくても纏まらないことは分かるなんて妙な話だが、これも熱のせいだろうか?それより、井上は退屈しないんだろうか?

「・・・井上。」
「はい?」
「退屈じゃないか・・・?」

 井上は小さく首を横に振って、口元を少し緩めた笑みを浮かべる。

「看病で退屈なんてしませんよ。」
「・・・そう。」
「それより、安藤さんは退屈しません?何か欲しいものとかあったら言って下さいね。」

 今は別にない、と言いかけたところで、ふと何かが脳裏に浮かび上がってくる。以前よく似たことがあった・・・。そうだ、井上がバイトの初日に高校生の団体に注文を聞いていて、最後に聞かれた奴が「これを頼む」とか言って井上を指差したんだ・・・。

雨上がりの午後 第148回

written by Moonstone

 井上は俺の唇にコップを近付ける。少し口を開くと井上がコップを傾けて水を飲ませる。水がある程度口に溜まったところで錠剤ごと飲み込む。井上はそのままコップをゆっくりと傾ける。一定間隔で含んだ水を飲みながら、俺は緊張を鎮めようとする。
 コップの水が無くなると、井上はコップを離して俺の頭をそっと横たえさせる。冷たい水が身体に浸透したせいか、少し緊張が静まってきた。椅子に座った井上と視線が合う。・・・こういう時、何を言えば良いんだろう?以前は顔を合わせて会話することも避けていたのに、今はそんな事を考えたりする。

2000/3/12

 昨日、洒落にならない現状をお話しましたが、来週少なくとも火曜日まではこの状況が続くことが予想されます。詰め込んだスケジュールでこれなので、もっと伸びるかもしれません。そうなった場合、作品製作は元より、このコーナーの更新も非常に危ない状況に置かれることは間違いありません。連載くらいは事前に準備しておけるので、最低2日分は今からキーボードを叩いておきますか(^^;)。
 それでも間に合わないなどやむを得ないと判断した場合は、昨日のようにJewelBoxで連絡しますので、そちらもご覧くださると幸いです。書き込み頂けるともっと幸いです(爆)。

 さて、3/11の18:45から教育テレビで「CCさくら」を見て・・・

ああ〜ん!!歌帆ぉ〜〜〜っ!!(*^o^*)
(ゴロゴロゴロゴロゴロゴロ・・・)

 ・・・自分の気持ちを何時もより大きなフォントで表現してみました(爆)。原作なら月峰神社登場の時点で登場する筈が、アニメでは関係者が何を間違ったか登場しなかったんですよね。あの時の怒りを受信料減額に変えても良い?NHK(爆)。それにしても・・・はぁ〜っ、相変わらず奇麗だなぁ〜。声もしっとり落ち着きがあって良いですねぇ〜。CVの篠原恵美さん、イメージにぴったりですわ〜(*^^*)。テレビ見て終始ぽけーっとしてました(爆)。これからもバンバン登場して下さいね〜。では、今日の台詞を使って・・・

知世「奇麗な先生ですわね。」
私「言うまでもないですね。ははははは。」(^o^)

 ・・・重症(大汗)。でも、どうしても「はにゃ〜ん」ってなっちゃんですよ〜(*^^*)。原作から考えると25歳くらい。私は歌帆より年上・・・。うん、条件にもぴったりですね(何のだよ)。ひとときとは言え、歌帆と付き合っていた桃矢が羨ましい〜っ!。・・・延々と続きそうなので今日はこの辺で(汗)。
 台所の方から断続的にゴトゴトと音がする。俺は首だけ台所の方へ向けて目を開ける。井上が流しの下にある戸棚を開けて、鍋やフライパンといった調理器具を取り出して、取り出した時とは違う順番で仕舞っていくのが見える。どうやら整理をしているらしい。俺は自炊をしないから調理器具なんてまともに使わないし、たまに使ったとしても洗って適当に乾かして戸棚に放り込むだけだ。でも、何で・・・?
 全て仕舞い終えると、井上は手を洗って掛けてあるタオルで拭く。そしてこっちを向いたところで俺と目が合う。俺が自分の方を向いているのが分かったらしく、井上はこっちへ小走りで駆け寄って来る。

「あ、起こしちゃいましたか?」
「・・・いや、それよりちょっと前に目が覚めたから・・・。」
「熱はちょっと下がったみたいですけど、念のため熱冷まし飲んで下さいね。あと、出来たら何か食べておいた方が良いんですけど・・・、どうですか?」

 額合わせで熱を計った時の呟きと同じ様なことを言う−最もそんな事を言うわけにはいかないが−。食欲はまだ殆ど感じない。熱が続くとそれだけでかなり辛いから、熱冷ましは飲んでおいた方が良さそうだ。

「熱冷ましは飲むけど・・・食欲は・・・まだない。」
「昼頃食べれるようだったらお粥とか作りますね。」

 井上はベッドの傍に置いてあった紙袋の中を探って、箱を一つ取り出す。その蓋を開けて錠剤を3つ取り出すと、箱を紙袋に仕舞って再び台所に走る。コップに半分ほど水を汲んで戻ってくる。随分忙しないが、そうさせているのは俺なんだよな・・・。
 昨日はガキみたいに甘えてしまったが、今度は自分で起きてみよう。両肘に力を込めて上体を起こそうとするが、なかなか上手くいかない。相当体力を奪われてしまったのか、力も満足に入らない。身体を台所の方向へ捻りつつ、いちいち気合いを入れて体を動かして、ようやく上体がベッドから少し浮き上がる。

「まだ無理しちゃ駄目ですよ。熱もまだあるんですから。」
「・・・自分で起きないと・・・。」
「病気の時くらい甘えて良いんですよ。」
「・・・。」
「さ、薬飲んで下さいね。」

 井上は枕元にコップを置くと、右手で俺の頭を支えて左手に乗せた錠剤を俺の口に近付ける。俺が大人しく口を少し開けると、井上の指が唇に少し触れて錠剤を差し入れる。それだけでもう俺は緊張してしまう。さっきの額合わせもそうだったが、井上は俺に振れることを何とも意識していないのか、それとも・・・。
 俺が錠剤を口に含んだところで、井上はそのまま身体を捻って枕元のコップに手を伸ばす。丁度俺の顔の上に井上の胸がある格好になる。コップを取って戻るまでのほんの僅かな時間で俺の緊張は極限に達する。身体が再び、それも急激に熱くなるのが分かる。

雨上がりの午後 第147回

written by Moonstone

 井上がまだ居てくれることが分かってもう一眠りしようとするが、1日以上満足に身体を動かしていないのでなかなか難しい。寝るといっても熱で気を失ってそのついでに寝ていたようなものだが、多少ながらも熱は下がったようだから、それも期待出来ない−あまり良いものではないが−。

2000/3/11

 JewelBoxをご覧になった方はご存知かと思いますが、あまりにも洒落にならない状態で何時もの時間には到底更新できませんでした。だって、本日の更新1時間程前に仕事先から帰宅したばかりなのですから(爆)。実は3/10の更新も同様の状態(もっと酷かった)だったのですが、昨日はある程度予想できていたので事前に準備しておいたファイルを仕事先から急遽アップロードした次第です(汗)。
 予定が大幅に狂ったにしても、無茶苦茶にも程があるというか・・・2日で4日分の仕事量になりました。殆どぶっ通しでしたし・・・。今日は一応休みなのでまだしも、昨日は帰宅して約6時間後には仕事場に戻ったから身体がおかしいの何のって。ははは(乾いた笑い)。また一昨年の悪夢(風邪から肺炎になって病院送り)が蘇りそうで怖いです。そんな訳で、今週の作品の公開はほぼ不可能ですので、予めご了承ください。

 疲れが溜まっていても眠れない。今はそんな状況です。どうにかして寝る為に酒を軽く呷るのですが、今週は既に2回・・・。かなり参っているのは自分でも分かりますし、かといって自分がどうにかしないと現状を打破できないことくらいは分かっているので、週末に鋭気を養って来週のダッシュに備えようと思います。勿論、このページの更新の方も・・・。
 やっぱり疲れたんだろうか・・・?智一とのデートに出掛け、俺のことを聞いて駆け込んで、ずっと付きっ切りだったとしたら・・・色々あり過ぎたと言って良い。俺には看病の経験はないから看病疲れはあまり実感が湧かないんだが。

「ん・・・。」

 井上が少しくぐもった寝言を言って僅かに体を捩る。乱れ髪がベールのように顔を少し覆っているのもあってか、間近で見るそれはかなり色っぽい。何だか誘っているような印象すら受ける。寝てるんだから意図的なものじゃないだろうが・・・。
 ぐっすり寝てるようだし、それを起こすのは気が引ける。昨日より幾分全身の倦怠感は減ったが、まだ自分の身体じゃないような感覚は健在だ。大人しく眠ろうとした方が賢明だろう。今までは熱で気を失ったようなものだし・・・。そう思って俺は眼を閉じて呼吸のリズムを落着かせようとする。

「・・・ん・・・あ、寝ちゃってた・・・。」

 そうこうしていると、井上の声が聞こえて程なく腹にあった重みが消える。井上が目を覚ましたようだ。もしかして俺が起こしてしまったんだろうか?額に何かがそっと触れるのを感じる。井上の手か・・・?否、何かがこつんと当たったような・・・。

「熱は・・・ちょっと下がったかな・・・?」
「?!」

 井上の声が俺の顔の傍から聞こえる。唇の辺りに微かに風がかかるのを感じる。ということは、今俺の額に触れているものは・・・!全身に緊張が走る。此処で目を覚ましたら、それこそこうなるのを待っていたと誤解されかねない。今は起きているのを気付かれないように呼吸を押え込むのが精一杯だ。
 額から感触がなくなる。額合わせは終わったらしい。

「起きたら熱冷ましを飲んでもらって・・・、あと、何か食べた方が良いんだけど、まだ無理かな・・・?」

 椅子の足が床を擦る音と共に井上の呟きが聞こえてくる。足音が台所の方へ遠ざかっていく。今日もまだ此処に居てくれるようだ。・・・そう思うと本当にほっとする。

雨上がりの午後 第146回

written by Moonstone

 ・・・ふと目を覚ます。今度は雑踏の中じゃなくて、ベージュ一色の無機質な天井が見える。左を見れば相変わらず散らかっているリビングと台所が見えるし、右を見ればこれまたベージュ一色の壁が見える。部屋全体にもカーテン越しに日の光を吸い込んでいて薄明かりの中に居る感じだ。此処はどう見ても見慣れた俺の部屋だ。また悪夢に魘されるのかと一瞬思った俺は胸を撫で下ろす。
 現実の世界だと確信したところで、腹の辺りに重みがあるのを感じる。何だろう?視線を腹の方へ向けると・・・交差させた両腕を枕にして突っ伏している井上が居た。着ていたコートを羽織って顔をこっちに向けて眠っている。初めて見る井上の寝顔に俺は思わず見入ってしまう。

2000/3/10

御来場者35000人突破です!(歓喜)

 ・・・およそ1週間で1000人くらいのペースですね。平日はこのコーナーくらいしか更新できない(定期更新がぁ・・・(泣))のに、こうして御来場者数が順調に増えていってくれるのは嬉しいものです。開設1周年で景気良くパーッと新作や連載更新の連続・・・とはいきませんが(爆)、芸術創造センターが「生きている」証としても、このコーナーの更新くらいは毎日続けていきたいと思っています。

 営団地下鉄の列車事故・・・私は水曜の夜に某ページの掲示板で初めて知ったのですが、今日新聞報道などで現場の様子を見て、その壮絶な現場に呆然としてしまいました。まさかこんなところで、というまさにその場所で起こった事故・・・。事故に遭われた全ての方々にお見舞い申し上げますと共に、不幸にして亡くなられた方々のご冥福を謹んでお祈り致します(黙祷)。
 望むらくは、この事故の原因が何かをあらゆる側面から究明され、それらが安全対策として生かされること、そして事故に遭われた方々のケアが万全になされることです。電車は安全というイメージがありますが、何トンもある金属の塊が時速何十kmで突っ走るわけですから、一旦事故になれば交通事故以上の大惨事にもなりかねません。今回の事故がそれを如実に物語っています。
 「対策は万全だった」それまではそうだったかもしれません。しかし、現に事故が起こった以上、その原因についての対策は万全ではなかったということです。原因の徹底究明と人のケア、そして教訓を生かすこと。これが今、何よりも求められることだと思います。

「だって・・・安藤さんはその優子さんって女性(ひと)が本当に好きだったんでしょ?結婚したいって思うくらい・・・。」

 俺は眼を閉じたまま無言で小さく頷く。もう今更隠し立てすることもない。

「そんな女性のこと、一月やそこらでなかったことにする、なんて出来ないですよ。ううん、ずっと心の何処かに残ると思うんです。もし全部忘れることが出来たら・・・きっとその好きだった、って気持ちは嘘だったか、心の何処かで何時か別れるだろうなって思ってたか、どちらかですよ。」
「・・・。」

 俺は目を開けて井上を見る。微笑んではいるが何処か切なげで・・・、忘れ去られた太古の女神像にも思えるその表情に俺は見入ってしまう。

「だから・・・忘れようなんて思わない方が・・・良いと思うんです。忘れようとしたり、否定しようとする方が・・・負担になると思うから・・・。」
「・・・時の流れに身を任せろ、って・・・ことか・・・?」
「私の考えですけどね・・・。」

 そんな悠長な、とも思う。だけど、あの日以来忘れようとして、否定しようとして一体何の進展があっただろう?自分にとって何の得になっただろう?思い返してみると・・・何もない。あったといえば、井上に対する粗暴な言動とその後の自己嫌悪くらいだ。それ以外は本当に・・・何もない。
 それよりも、きっかけこそ成り行きや押しの強さに負けたりといった、決して主体性のあるものとは言い難いことだが、受け入れた方が何かと良かったことが多かったように思う。今までは成り行きで何時の間にかそうなったと思っていたようなことも、元は受け入れたから生じた結果なんだと思う。

「井上ってさ・・・。俺より大人だよな・・・。自分が・・・ガキっぽく見えるよ・・・、本当に・・・。」
「一応、安藤さんより1年余分に生きてますからね・・・。」
「もっと・・・大人にならなきゃ・・・駄目だな、俺は・・・。」
「私だって勝手に思い込んで拗ねたりするんですから・・・お互い様ですよ。」

 井上の指が優しく俺の頬を撫でる。悪夢に強張っていた俺の顔が自然と綻ぶ。久しく感じなかったこの気分を・・・幸せというんだろうか?だとしたら・・・このまま続いて欲しい。今は素直に・・・そう思う。

雨上がりの午後 第145回

written by Moonstone

「忘れるなんて・・・出来ませんよ、きっと。」

 囁くような井上の声が聞こえる。子守り歌や寝物語でも聞いているような気分になる。これも天性の才能なんだろうか?それともやっぱり俺のガキっぽさ故にそう思うだけなんだろうか?
 熱を出して初めて素直に居て欲しいと言ったり、拗ねてみたり甘えてみたりする辺りは、ガキっぽいと言うにぴったりだ。

2000/3/9

 このコーナーは読込時間の関係で7日分しか表示しないことにしていますので、更新の度に月単位のバックアップを取っています。連載部分だけは後の第3創作グループでの公開用に別途集めているのですが、容量そのものは既に第1SSグループの「魂の降る里」と同等以上あります(^^;)。始めた時期はこちらの連載の方が半月以上遅いのですが、毎日の積み重ねというのはある程度続けると凄いことになるのだなぁ、と一人で感心したりしています(笑)。
 だったら他の連載なんかも毎日少しずつ創っていけば良いのでしょうが、これらは思考時間が長いんですよ。展開や台詞回しはこれで良いか、とか色々と・・・。此処の連載は後で編集したりするから、という軽い気持ちで進めているところが多いので、兎に角今日の分を書いて出すということもできるんですよね。そういう意味では気軽というか・・・。他の連載などももっと気軽に考えれば良いのかもしれませんが、私自身かなり構えて取組んでいるせいか、なかなか気軽に、とはいかないものです(^^;)。

 連載では昨日のシーンで新しい人物が登場しました。優子という名前は法則どおり声優さんの名前です(法則については第3創作グループをどうぞ)。・・・誰が由来か直ぐ分かっちゃいますね(笑)。この先展開にどう絡むかは引き続きご覧ください、としか言えませんです、はい。
 人物の名前が(井上晶子を除いて)声優さんの名前になっているのは、想定したOVAの配役も兼ねているところがあるのですが、実写だったら誰が良いでしょうね?個人的に松たか子さんに渡辺潤子か井上晶子をやってほしいなぁ、と思ってます(笑)。

「・・・大丈夫ですか?」

 手の横の動きに合わせて水分が拭われていく感触を額で感じる。どうやら汗をかいていたらしい。熱のせいだけじゃないのは自分でも分かる、否、熱の要因は度外視しても良いだろう。
 最悪だ。最初に別れを仄めかされた時と、別れを宣告された時の記憶がごっちゃになった夢に不意打ちを食らってしまった。それぞれの時の記憶が鮮明に蘇ってくる。見せつけられると言った方が良いかもしれない。

「凄く魘されてましたよ。」
「・・・そう?」
「ええ・・・。何度も譫言で『優子』って・・・。」

 !口走ってたのか?!口にしたくなかった、聞かれたくなかった名前・・・そう、俺を捨てたあの女の名前を・・・。
 俺は言い様のない気分で眼を閉じる。そうしていないと、あの時の記憶に涙腺が負けそうだ。情けないほどに弱り切った今の俺には嫌がらせに等しい。今になってもまだあの女の記憶をずるずると引き摺っている自分がとことん嫌に思える。

「前に・・・付き合ってた女だよ・・・。夢に出てきて・・・夢の中でも捨てられちまった・・・。忘れたつもりでも・・・潜在意識の中ではまだ・・・忘れちゃいないって・・・ことか・・・?はは、未練がましいったら・・・。」
「・・・。」
「別によりを戻したいとか思ってや・・・しないのに・・・、何でだろうな・・・。何もかも壊して、破いて・・・捨てちまったってのに・・・。記憶も・・・そう出来たら・・・どんなに楽か・・・。」

 独り言か、それこそ譫言みたいに俺の気持ちが言葉になっていく。こんなこと、井上に話したところでどうにもならないのに・・・。まさか聞いてもらって同情してもらおうとでも無意識に思っているんだろうか?
 だとしたらますますそんな自分が嫌だ。こんなこと、隠して葬り去るならまだしも他人に易々と語るようなもんじゃない。月並みなコメントで相談に乗った気になる恋愛評論家にネタをくれてやるなら話は別だが。
 頬に何かが触れる。井上の指だろう。そう思うと自然と呼吸が落着いていく。自棄気味に口走ることで勝手に昂ぶっていた気持ちが空気を抜くように静まっていく。何というか・・・ぐずっているのをあやされるような・・・。それだけ俺がガキっぽいということか?

雨上がりの午後 第144回

written by Moonstone

 次の瞬間、ばっと目の前の風景が変わる。黒の濃淡で表されてはいるが、紛れもなく俺の部屋だ。そして正面には・・・黒の濃淡に僅かに髪の茶色と肌の白さが浮かぶ井上の不安げな顔がある。
 ・・・夢だったらしい・・・。安堵した俺は眼を閉じて溜め息を吐く。溜め息の後、直ぐさま浅く速い呼吸が始まる。心臓が嫌な高鳴りを放っている。質の悪い脅かしに遭った後のようだ。

2000/3/8

 昨日アップロードの確認がてら(ごく希に失敗するんです(汗))このウィンドウを開いてみたら、何の因果か2323人目でした(爆)。あああ、久しぶりに自爆してしまった・・・。こういうことで運を使いたくないんですけどね。唯でさえ少ないというのに(^^;)。まあ、宝籤とか買わないから良いといえば良いのか?

 前々からここでもお話しているサーバー容量増設の件ですが、方針はほぼ固まりました。ややコストが掛かりますが、独自ドメイン取得で一気に増設を図ります。その方がURLも短くなるし、単に他のプロバイダーを探すより結果的には安上がりだと踏んだからです。後は費用の詳細な計算移行時期を決定することくらいです。
 1周年を迎える4月に移転するのが理想なんですが、年度末という厄介な怪物に仕事に(珍しく)外出予定が目白押しなので、相互リンクをして頂いているページの管理者諸氏への案内状準備や、カウンタやメールフォーム(自作予定)の調整をしていたら多分間に合わないでしょうし、慌てるとろくなことにならないのは何度も経験していることなので(笑)、もう少し先のことになりそうです。
 ・・・改めて思ったんですが、1周年まであと半月くらいなんですよね。何をしようか、と一応考えてはいますが、一先ず更新の充実を図ることが先決でしょう。容量を増やしても中身が増えなかったら勿体無いですしね(^^;)。
尚も待つ。
さらに待つ。
・・・それでも彼女は来ない。

 時計を見ると待ち合わせの時間から30分を過ぎている。おかしい、いくら遅れるといっても、こんなに遅れるとは思えない。・・・何かあったんだろうか?そう思うと、俺の胸の奥が急激にざわめき始める。どうしよう、家に電話するか・・・?しかし、入れ違いになるってこともある・・・。もう少し待ってみるか・・・。
 雑踏の風景がめまぐるしく変化する中、俺は次第に焦りと不安と苛立ちが濃くなってくるのを感じる。一体何時になったら来るんだ?もしかして事故でも?約束の時間からどれだけ過ぎたと・・・!だが、半月ぶりに逢うという気持ちを増幅することで、胸の奥のざわめきをどうにか封じる。

 ふと正面を見ると、見覚えのある顔が近付いてくるのに気付く。・・・彼女だ!今まであれほど燻っていた嫌な気分が一気に霧散する。彼女の家に電話しないで良かったと改めて思う。よく考えてみたら、待ち合わせに来ないと相手の家に電話するなんて、ちょっと間抜けな話だと思う。

「どうしたんだよ、珍しいなぁ。」

 気分がすっかり解れた俺は何時もの調子で彼女に声を掛ける。だが、様子がおかしい。何時もなら俺に固定されている視線が妙に泳いでいる。それどころか・・・俺と視線を合わせるのを嫌がっている・・・?

「悪かったわね。良いでしょ、別に。」
「?な、何だよ、何かあったのか?」
「もう・・・疲れたのよ。」

 俺が伸ばした手を乱暴に振り払うと、彼女はぷいっと背を向けて雑踏の中へ走り去っていく。俺は慌てて後を追おうとするが、突然立ちはだかるように数を勢いを増やした人並みに翻弄されて満足に近付けない。その間に彼女の姿はどんどん雑踏の中に消えていく。
 もう・・・見えなくなる!待ってくれ!一体いきなりどうしたって言うんだ!せめて理由くらい聞かせてくれ!!

優子!!

雨上がりの午後 第143回

written by Moonstone

 ・・・再び視界が戻る。意識が吸い込まれた時とは逆に、暗闇の中にぱっと電灯が灯るような感じだ。俺は雑踏の中に聳える柱に凭れて立っている。ようやく慣れ始めた大海駅の中央改札前。何時もの待ち合わせ場所に予定より10分ほど早めに来た。前に会って以来、2週間ぶりに会う。そう、彼女と・・・。
 俺は何度となく右から左、手前から奥へと視線を動かして彼女の姿を探す。だが、待てども待てども一向に彼女の姿は見えない。ふと時計を見ると、待ち合わせの時間を過ぎてしまっている。今まで何度かデートをしたけど、彼女が遅れるなんて事はなかったんだが・・・まあ、そういうこともたまにはあるだろう。俺だって危うく電車に乗り遅れそうになったことがあるから、一度や二度の遅刻で目くじらを立てる資格はない。

2000/3/7

 あうあう、夕食後に1時間ほど居眠りしたせいで、また更新時間がずれ込んじゃいました(^^;)。23:00〜1:00は回線が随分混み合うし、繋がっても転送が遅いのでこの時間帯は避けたいんですが、23:00前の更新チャンスを逃すとどうしても更新時間がずれ込みます。更新は早目に済ませて、掲示板とメールのレスと翌日の更新準備をしたいのですが、なかなか思うようにはいかないものですねえ。

 ・・・で、更新時間がずれたにも関わらず、居眠りの時間と同じくらい何を書こうかと考えてみても日記に書くことがなかったりします(汗)。仕事のことはリスナーの方には多分に意味不明なことが場合が多いので(専門用語の羅列になる)、某OSのあまりのいい加減さとか馬鹿みたいにCPUやメモリを要求する飽食ソフトに関することくらいしか書きません。
 まあ、仕事以外あまり変化のない日常ということです。それが良いのかどうかは分かりませんが、家の中まで競争だ権利だ衝突だなどとなるより、ずっとましなことじゃないかな、と思います。家族だったら安らぎがあるかといえば決してそんな事はないんですよ。・・・何だかこれだけで結構お話しましたね(笑)。
 井上はまず袋の中からものを取り出して、パックに入った食料と薬を分ける。それを終えてから冷蔵庫を開けて、食料を収納していく。自炊していないから冷蔵庫の中身はたかが知れている。整理がなってないのを除けば、多分食料は全部入ると思う。入らなければ冷凍庫という手もある。そこは夏場に氷を作るくらいで、今は空に等しい筈だ。その辺りの判断は俺がどうこう言うより井上に任せた方が確実だから、黙って見ていることにする。

 俺がベッドからぼんやり見ているうちに、井上は食料全てを冷蔵庫に収めて、薬を再び紙袋に詰めてこっちに戻ってくる。慣れているのか物凄く手際が良い。時計を見て確認したわけじゃないが、多分10分も掛かってないだろう。
 俺は再び椅子に座った井上を見る。すると井上が徐に手を伸ばしてきた。何をするつもりだろう、と思っていたら俺の額に添えるように置かれる。ひんやりとした心地良い感触に俺は自然と眼を閉じる。

「やっぱりかなり熱ありますね・・・。」

 俺は再び目を開ける。井上の表情が曇っている。手はまだ俺の額の上にある。

「・・・店に電話してベッドに戻る時・・・立てなかった・・・。」
「気をつけないと肺炎とかになったりしますよ。」
「今日起きたら・・・いきなりだったからな・・・。」

 今熱がどれくらいあるのかは判らない。全身から感じる熱さや脱力感は相変わらずだから多分下がってはいないだろう。ただ気分は楽だ。もしもの場合直ぐ傍に井上が居る、ということが精神に安定を保証しているからだろう。
 井上は俺の額に置いた手を頬へ持って来る。俺はその手に少し凭れ掛かるように首を傾ける。丁度井上がさっき俺の手で頬擦りしたのと同じだ。

「辛かったでしょ・・・?」
「・・・身体より・・・誰も居ないのが辛かった・・・。だけど・・・今は・・・。」

 その先を言おうとすると同時に、視界が緩やかに狭まっていく。頬に触れる井上の手に凭れ掛かるように首が勝手に傾く。意識が急激に何処かへ吸い込まれていく。その先が言えたかどうか、唇が動いたかどうかも、もう・・・。

Fade out・・・

雨上がりの午後 第142回

written by Moonstone

 内側からの高熱で喉が渇いていたのは事実だ。たかが水道水がこんなに美味いと思ったのは何時以来だろう。井上は俺が飲むペースに合わせてコップを傾けていく。喉を通った水の冷たさが腹の中でじんわりと広がっていくのが分かる。
 コップの中身が空になると、井上は俺の唇からコップを離して俺の頭を枕にそっと横たえる。

「食べ物とか冷蔵庫に入れときますね。」
「適当に・・・退けたりして良いから・・・。」

 井上は小さく頷くと再び席を立って、マスターと潤子さんが置いていってくれた食料や薬が入っているという紙袋を提げて冷蔵庫の方へ向かう。俺は首だけ台所の方を向いて井上の後ろ姿を見る。

2000/3/6

 土曜に起きてから今日のお話をするまで、仮眠無しの徹夜明けで所用で歩き回ってもうふらふらです(汗)。寝られれば勿論その方が良かったんですが、ちょっとある作業を始めたらそれがどうしても気になって、途中で切り上げて寝る機会を逸してしまいました。それが何かは・・・何れお話しますが、現在の趣味嗜好が突出した格好のものです。まあ、今あるグループやコンテンツも自分の趣味嗜好があるからやっているんですが(笑)。

 「ブギーポップ」はまとめ買いした「エンブリオ炎生」まで読み終わりました。いや、巻頭のイラストが気になるあまり最後の方をちらっと「先読み」してたんですが、こんな展開が待っているとは思いませんでした。それにしても谷口には参りましたよ。こういう行動を取れるところが、織機に心を齎したんでしょう。あまり無茶をして織機を泣かせてはいかんぞ(笑)。
 対して織機はやっぱり健気ですなぁ・・・。誰を責めるわけでもなく、動転して泣き叫ぶわけでもなく、ただ傍に居る・・・。こんなことそうそう出来ないと思います。もうトラブルに巻き込まれることなく、平穏に絆を育んで欲しいんですが・・・無理な相談なんでしょうか?(汗)
 一つ思ったのは、織機とレイ(エヴァのね)が色々な点で似ているなぁということ。今、連載でレイを描いているだけに、織機の心理変化の経緯には注目しています。ということで「VSイマジネーター」をもう一度読みます(爆)。
 俺はやはり背を向けたまま言う。食欲なんてこれっぽっちも湧かない。だが、井上が尋ねたことで胸の奥に立ち込めている気分がざわめく。そのざわめきは不快じゃなくて・・・こそばゆいというか、そんな感じだ。

「・・・やっぱり・・・怒ってるんですか?」

 井上の声の調子が少し沈む。俺の脳裏を嫌な予感が掠める。そしてそれは直ぐに強烈な思いとなって俺の口を突き動かす。

「違う・・・。ね、熱っぽいだけ・・・。」

 熱っぽいのは本当だが、言うことは口実だ。・・・そう、単に此処に居て欲しいということを伝える為の・・・。だったら正直に「居て欲しい」と言えば良いんだろう。だけどどういうわけか、さっきから感じる気分はこんな風に言ったりして井上をぎりぎりのところで困らせると、さらに膨れ上がる。これって・・・。

「・・・井上・・・。」
「・・・はい?」
「んと・・・喉乾いた。」

 背を向けたまま言ってみる。その直後ガタッという音がして、続いて足音が遠ざかっていく。もしや、と思ったがその足音は音色が変わってから−絨毯があるリビング部分と、フローリング剥き出しのダイニング部分の違いだ−直ぐに止まり、食器が軽くぶつかり合う音に続いて、水が溜まっていく音の音程が駆け上がっていく。それら一連の音の流れを聴いて、俺は安堵の溜め息を吐く。
 足音の音色が一度変わりながら近付いてくる。それはベッドの傍に来たところで止まる。俺は何かを感じて身体を井上の方向へ捻る。すると、あの笑顔で覗き込んでいる井上の微笑む顔が間近にあった。

「はい、持ってきましたよ。」
「・・・。」
「水を飲む時は起きないと駄目ですよ、甘えんぼさん。」

 ・・・そうだ、甘えたかったんだ、俺は・・・。俺はそのまま体を仰向けになるように捻る。井上は俺の頭と枕の間に手を差し入れて少し起こす。俺はされるがままに、井上が唇に触れさせたコップから少しずつ注がれる水を飲む・・・。

雨上がりの午後 第141回

written by Moonstone

「あ、怒りました?」

 井上が尋ねる。俺は井上に背を向けたまま首を横に振る。少しも怒ってやしない。ただ・・・井上が気遣うとさっきから感じている不思議な気分がより一層強くなる。何なんだろう、この気分は・・・。考えようにも熱で頭がぼやけてどうにも纏まらない。

「そうだ。お腹減ってます?」
「・・・いや、要らない。」

2000/3/5

 すみません。出来ませんでした(謝)。「魂の降る里」だけで10時間以上掛かってしまったので、他のグループや作品に全く手が回りませんでした(大汗)。トップのレイアウトを初めたらこれまた随分時間が掛かってしまって・・・(滝汗)。以前の臨時更新と数的には同じくらい。一月ぐらいしっかり作り込む時間が必要かな、と思います。だけど、そんなに間が開くとこのページなどすっかり見捨てられてしまうでしょう。あはははは(ToT;)。
 え?PlayStation2に嵌まってたんじゃないか?滅相もない。買ってもいません。ここ数ヶ月、PlayStationも手付かずのまま放り出してあるというのに・・・。「ブギーポップ」はすいすい読めます。読み始めるとなかなか止まらないんですが(爆)。

 週末の雨や雪というのは私には大敵です。洗濯物は乾かないし買い物にも一苦労(行かない時は良いのですが)。荷物が多い時など10kg以上の荷物を抱えて傘を頬と肩で挟んで歩くということにもなりかねません。・・・生活リズムが掛かってるんですよ、要するに(笑)。
 買い物に出ると色々な人が居ます。家族連れ、母親らしい女性、学生、夫婦やカップル・・・。私のような単身の男性は以前ほどではないにしても、やっぱりちょっと目立つ方です。最近、紅茶と一緒にビスケットやクッキーを食べるので菓子売り場に行くと殆ど家族連れ(大体母親と子ども)なので、賑わっていると少々躊躇します。まあ、ケーキ屋とかバレンタインの時のチョコ売り場よりはずっとましですが(笑)。
 逆に気軽に立ち寄れるのが酒の売り場。ここはお子様の入る場所ではありません(当然)。もっとも私が買う酒は大半料理用なので、試飲コーナーはあまり縁がありませんが、気まぐれで呑んで買っていきます(笑)。ざくろ酒もそうして知りました。この話をお聞き下さる頃には、打ち上げがてら呑んでいることでしょう(笑)。

「さっき・・・何言ってた?」
「え・・・まあ、上手くやれよとか、そういうことですよ・・・。」

 俺がさっきのやり取りを尋ねると、井上は照れ笑いと苦笑いが混じったような顔をして曖昧な言い方をする。まあ、さっきのマスターの爆弾発言−潤子さんの爆弾も炸裂したが−から考えれば、大体のことは察しが付く。
 俺だってガキじゃない−まあ、ガキの方が「上手」だったりするかもしれないが−。マスターが何を言おうとしてたかぐらいはちゃんと分かる。それは井上も同じだろう。

「・・・期待してるのかな・・・?」
「そうみたい・・・ですね。」

 井上は再び椅子に座る。相変わらず熱は高いようだが意識は不思議とぼやけない。はにかんだ笑みを見せる井上にしっかりと向いている。鼓動の速度がゆっくりと上昇し始める。これは熱のせいじゃない。井上が俺に好きだと言った時と同じタイプだ。
 俺と井上は見詰め合ったまま何も話さない。不思議と気まずくは感じないが、さっきマスターが放った爆弾発言の余波が消え去ったといえば嘘になる。井上も・・・意識してるんだろうか?

「・・・今、何時?」

 ちょっとは気の利いたことを言えれば良いんだが、オーバーヒートをとっくに通り越している俺の頭では無理な相談だ。もっとも普通の時なら言えるかというと、かなり怪しい。

「えっと・・・10時をちょっと過ぎたところですね。」

 井上は律義に俺の枕元にあるデジタル時計を見て答える。そんなに時間が過ぎてたとは・・・。俺が気を失っていた時間が長かったのか、それとも俺の手が井上と頬擦りをしていた時間が長かったのか、俺には判らない。今気になるのは・・・井上がどうするかだ。

「・・・帰らないのか・・・?」
「傍に居て欲しいって言ったの、誰でしたっけ?」

 井上が得意の笑顔を見せる。子どもに未遂に終わった悪戯の自白を迫る母親のような・・・。だが、今までと雰囲気が違うように感じるのは、やっぱり頬の赤みのせいだろうか?
 俺は何だか照れくさいようなもどかしいような、不思議な気分で俺は井上に背を向ける。このままだと井上に自分の全てを曝け出してしまいそうだ。前に付き合っていた女のことも、何もかも・・・。

雨上がりの午後 第140回

written by Moonstone

 マスターは潤子さんに殴られた頭を摩りながら手をすっと上げて、潤子さんに続いてドアの方へ向かう。俺がベッドから出ようとすると、やはり頬が紅い井上が俺の両肩に手を置いて軽く押す。寝ていてくれ、という合図だろう。俺は素直にベッドに横になって、井上が見送りに行く様子を見詰める。
 玄関先で何かやり取りがあった後、ドアが開いてマスターと潤子さんが出て行った。ドアが閉まって少し間を置いてから鍵とドアチェーンを閉める音がして、井上が小走りで戻って来る。再び二人だけになった手狭で乱雑な空間。音の種類がめっきり減った空間。床に置かれた紙袋だけが、ついさっきまで居た来客の存在を証明している。

2000/3/4

御来場者34000人突破です!(歓喜)

 ・・・意外に伸びますね(^^;)。明日は定期更新ですし、これから追い込みを掛けて第1SSグループ、第3創作グループ以外も更新できるようにしたいと思います。音楽グループはちょっと間に合いそうもないです(汗)。エンディングで躓いてそのままになってますからね・・・。行き詰まると長いんですよね(泣)。

 「ブギーポップ」で登場する谷口と織機のカップルは相当人気があるようです。カップルだと大抵どちらかは反感を(怒りかな?(^^;))を買うものなんですが、この差はどうして生まれるのかな、と考えてみました。多分・・・互いに相手のことを計算や思惑抜きで想っているからでしょうか?特に「VSイマジネーターPart2」でそんな気持ちが強烈に伝わってきます(だから琴絵とスプーキーEは絶対許せん(爆))。
 逆にこうも思います。どうしたらそんなに相手のことを心底想えるんだろう?と。それが通じなかった時にショックを受けることを考えていないのか、それともそんな事など端から頭に無いのか・・・。自身この日記と同時に恋愛もの(多分)を書いているのは、その心理を考える為かもしれません。

(それって要するに、疑り深いってことだろ。)
(・・・そうとも言う、かな。)

 ・・・まったくマスターは突然余計な事を言ってくれる。俺は顔を見られまいと横を向く。熱がまた上がったような気がする。・・・別の要因でだが。

「それで・・・晶子ちゃんはどうするの?今晩。」
「え・・・っと、その・・・。」
「居てあげた方が良いと思うけどな・・・。」

 潤子さんの同意を唆すような言葉に井上は答えない。というか、横を向いたままの俺からは見えない。だけど・・・出来れば同意して欲しい。だけどこんなこと、マスターと潤子さんの前ではまだ言うのを躊躇してしまう。気持ちを認めたくないんじゃなくて・・・単に照れくさいだけだ。それに今そんな事言ったら、後で何を言われるか分からない。

「じゃあ、私達はこれで失礼するから・・・。」
「・・・あ、ど、どうも・・・。」
「ふふっ、顔が紅いわよ。熱が上がったんじゃない?」

 潤子さんに悪戯っぽく言われて俺は視線を彼方此方に泳がす。自分では分からないが、多分潤子さんの言うとおりなんだろう。全身が内側から火照っているのがその証拠だ。

「そうそう、祐司君。これだけは言っておく。」
「は、はい?」

 珍しく神妙な口調になったマスターに、俺は思わず身を固くする。

「ちゃんとゴムを着けてだな・・・」
「?!」

 言葉を失った俺の前で、珍しく頬を少し赤らめた潤子さんがマスターの頭を平手で殴る。大きな音と共にマスターの首ががくんと前に折れる。不意のこととは言え、余程強く殴られたんだろう。

「・・・痛いなぁ、潤子・・・。」
「何馬鹿な事言ってるのっ。まったく・・・。さ、帰りましょ。」
「分かった分かった・・・。それじゃ。」
「祐司君、お大事にね。」

雨上がりの午後 第139回

written by Moonstone

「必要かなと思ったものを家から適当に見繕って持ってきたぞ。熱冷ましと咳止め、頭痛薬、あと店の残り物。多分薬とか食べ物とかが足りないと思ってな。食べ物は温めれば直ぐに食べられるから。」
「・・・ありがとうございます・・・。」
「良いのよ、気にしなくて。」
「しかし、まさか本当に熱出して寝込むとはなぁ。そりゃあ井上さんがデートするのがショックだったんだろうが。」
「!マ、マスター!」
「え?」
「井上さんが帰ってから物凄く暗かったからなぁ。相当堪えてたみたいだったよ。はっはっは。」

2000/3/3

織機 綺のビーフシチューが食べたいっ!(爆)

 ・・・ああ、またツボを突かれた・・・(^^;)。健気な上に表情も凄く豊かになって可愛いったらありゃしない。シチューは灰汁を丁寧に取りながらじっくり煮込むと美味しいですが、二人にもそんな風にじっくり気持ちを育んで欲しいですね(言ってて照れるわぁ(笑))。谷口よ、ちゃんと彼女を幸せにしてやるんだぞっ!(^o^)/(意味が分からない方は「ブギーポップ」を読んでね)

 ここでも度々料理のお話はしていますね。私自身料理の経験は正味6年程度とまだ年が浅くて、それまでは包丁を握ることも滅多になかったくらいです。最初はやろうと思って始めたわけではなく、事実上強制に近いものでした。就職して単身生活するにあたって「これからの男は料理くらい出来なきゃ嫁さんに逃げられる」という母親の意向で厨房に引っ張り込まれました。
 練習中は勝手が分からない上に始終怒られっぱなしで、かなり辛いものでした。でも、単身生活で料理を自分で作って、美味しく出来たときの感動や充実感は表現できないくらいでした。勿論失敗や(煮物が水っぽいとか)怪我も(指先を一部切り落としたことも(汗))無数にありますが、出されたものを食べるしかなかった料理が自分でも出来るようになると、面白いんですよ(^-^)。実家に戻ると、師匠である母親と食材や料理の談義をしています(笑)。

「私が出ます。」

 井上はそう言って、俺の手を頬から離して布団の中にそっと収めて席を立つ。俺は声が届くうちにと井上を呼び止める。

「・・・ちょっと・・・。」
「はい?」
「・・・ドアチェーン・・・掛けてな・・・。夜だし・・・。」

 相手が知らない人間の可能性が高い以上、迂闊にドアを開けるのは不用心だ。ましてや井上が危険に晒されても、満足に起き上がることも出来ない今の俺にはどうすることも出来ないだろう。だから用心を促さないといけない。
 井上は少し微笑むと小さく頷いて小走りでドアへと走る。ドアの向こうに誰が居るのか気になって仕方がないが、今の俺は変な奴じゃないことを祈るしかない・・・。
 カチャッという音がする。ドアチェーンを掛けたんだろう。そして井上が様子を窺うようにドアを少しずつ開ける。

「どちら様ですか・・・?え?!あ、ど、どうして?!」
「?」
「え、ええ。電話で聞いて直ぐ・・・。はい、起きてますよ。どうぞ。」

 井上の驚いたような声が聞こえて再びカチャッと音がする。そして井上がドアを開けると、姿を現したのは・・・何とマスターと潤子さんだった。

「おーい祐司君、生きてるかぁ〜?」
「お見舞いの言葉じゃないわよ、あなた。」

 俺は両方の肘で上半身を少し起こす。黒のロングコートを着たマスターと、茶色のハーフコートにショールを羽織った潤子さんの組み合わせは、何だかヤクザの組長と女優みたいでアンバランスだ。

「マスター・・・。潤子さん・・・。」
「高熱出しているって聞いたから心配で、お店を早く閉めて来たのよ。祐司君一人だし、もしものことがあったら大変だからね。」
「でも、俺と潤子が来る必要はなかったみたいだな。」
「え・・・。」

 俺が言葉に詰まり、井上は少し頬を紅く染める。マスターが持っていた紙袋を床に置く。何処かのブティックの袋のようだ。

雨上がりの午後 第138回

written by Moonstone

ピンポーン・・・

 時間が無くなったような感覚に浸っていた俺と井上を現実世界に引き戻したのはインターホンだった。俺と井上は同時にドアの方を向く。インターホンの音ってのは妙に大きくて部屋によく響く。こんな狭い部屋ならそれこそベルの音でも十分だ。特にこういう夜間なら。
 俺の家に来る奴は殆ど居ない。付き合っていた女と別れた以上、俺が知っている奴である可能性は極めて低い。意識を失った俺を目覚めさせたインターホンは井上だったし、今も俺の傍に居る。となれば、もうインターホンを鳴らすのは招かれざる客−そう表現するのも変だが−だろう。

2000/3/2

 ここで度々お話している「ブギーポップ」はアニメとして放映されています。昨日(火曜日深夜・・・って、水曜か(笑))試しに見てみたんですが・・・何のこっちゃ分からん(汗)。原作では視点や時間軸が飛びまわっても順を追っていけばちゃんと分かるのですが、アニメでは展開が不可解なだけになっているような・・・。「ブギーポップ」のあの手法は小説だからこそ表現が可能なのだと思います。ちなみに今は「歪曲王」を読んでます♪

 1月からグループやコンテンツ毎に担当を割り振って色々喋らせているのですが、いまいち実感が湧かない・・・。やはりイラストがないから想像に頼るしかないというのが大きいようです。トップはあまり重たくないようにしたいのでCGをあまり使わないようにしているのですが(軽くなったでしょ?)、グループやコンテンツでは多少重くなっても担当の顔が出てくればより親近感が湧くんじゃないかな〜と思っています。
 思うだけではどうにもならないのが世の常というもので、自前で運営するwebページなら尚更のこと。というわけで(長い前振り(^^;))イラストの練習を少しずつ始めました。必要なら避けては通れないでしょう、やっぱり。
 更新履歴に書いたのは、その第1弾なのですが・・・これでは本公開には程遠いことを実感しました(泣)。隠し部屋に収納したのはそのためです。見つけた方は見てやって下さい。このページがテキスト主体になった理由が納得して頂けると思います
 少しほっとすると同時に、俺は智一のことが気になる。まさかあれほど熱を上げていた相手に振られて平気で居られるとは思えない。まあ、俺みたいになるタイプではないと思うが。

「デートに誘われた時にちゃんと言えば良かったんですよね・・・。そうすれば・・・安藤さんも伊東さんもこんなに苦しめたりしなくて済んだのに・・・。」
「・・・。」
「私、ちょっと調子に乗り過ぎてたみたいです。安藤さんが音楽のこと色々教えてくれて、伊東さんに毎日のように声を掛けられて、何時の間にか天秤にかけるようなことをしてた・・・。嫌な女ですね、私・・・。」

 俺は首を小さく横に振る。嫌な奴なのは俺の方だ・・・。

「・・・嫌な女だったら・・・デート止めて・・・此処に来たりしない・・・。智一も俺もキープしておこうって・・・考えるさ・・・。」
「・・・。」
「俺は・・・井上に甘えてたんだ・・・。井上がいつも俺を気遣ってくれて・・・、俺に好意を示してくれることに・・・。だけど、その逆は・・・しなかったよな。ただ、待っていただけ・・・。」
「・・・安藤さん。」
「それなのにあの時・・・俺のこと好きって言っときながら・・・どうして他の男とデートなんてするんだって・・・頭に血が上って・・・。それならそうって・・・言えば良かったんだよな・・・。意地張ってたのは・・・俺も同じだ・・・。」

 井上は両手で包んだ俺の手を頬に摺り寄せる。冷気に浸されていた表面の冷たさとその内側から徐々に伝わって来る温かさが交じり合って、妙に心地良い。

「・・・冷えてるな。」
「今は・・・凄く温かい・・・。」
「・・・俺も・・・。」

 俺は井上の頬の感触を確かめるように手を擦り合わせるように動かす。初めて触れる井上の肌は滑らかだ。すると井上が頬を俺の手にさらに摺り寄せる。目を閉じて俺の手を愛しげに包んで抱き寄せる。
 時折車の走行音が遠くに聞こえるだけの静まり返った部屋で、俺と井上は互いの温もりと感触を確かめ合う。気を失うほどの高熱と底が見えるような浅く早い呼吸が自然と静まっていく。あのまま死んでなくて良かった。井上が傍に居れくれて嬉しい。今改めてそう思う・・・。

雨上がりの午後 第137回

written by Moonstone

 少し落着いたところで俺は改めてデートの顛末が気になる。あれほど井上とのデートに意気込んでいた智一だ。そう簡単に帰すとは思えない。一応智一とは既知の仲だ。智一のことも気になる。

「・・・なあ、井上。」
「はい?」
「その・・・デートのことだけど・・・智一は・・・?」
「・・・お断りしました。『気持ちは嬉しいですけど、私には好きな人が居ます。だからお付き合いすることは出来ません』って。」

2000/3/1

 今日から3月です。更新履歴では春の気配を感じさせるようなことを書きましたが、風は強いし冷たいし、まだまだ麗らかな日だまりには程遠いですね(汗)。恒例(?)の背景更新は帆船のものにしました。ただ、今のレイアウトだと殆ど隠れて見えないので(爆)、まだまだ改善の余地がありますね。

 片方で「ゆとり」や「共生」を言い、片方で「競争」や「弱肉強食」を言う・・・。こんな明らかな自己矛盾を平気で口にするのは他ならぬマスコミ、特に大新聞や全国ネットのテレビです。よく見てみて下さい。一日毎、いや、時にはページや番組毎に、上のような相反することを平気で主張しています。もっとも前者は後者の反面教師として利用され、結果的に後者が時流だという論理展開にしたいようですが。
 価値判断の材料を提供している、など奇麗事です。彼らにはそんな事などどうでも良く、先の例で言えば後者の方、すなわち「競争」や「弱肉強食」の世界が自分達に及ばない範囲であれば広がるべきと考えています。マスコミ自身は記者クラブや再販制度という、彼らが言うところの「前時代的」なものでしっかりと防禦していますから、これらを崩したくないのです。彼らが言うように、競争によって優勝劣敗が−所詮これは弱肉強食という単語の血なまぐさいイメージを払拭する為の造語−生きるなら、良い記事を書くマスコミが残る筈です。さあ、「競争」の荒波に漕ぎ出したらどうです?マスコミさん・・・。
 井上は酷く悲しそうな顔をする。智一とデートすると告げられた時、最後に見せたあの顔よりずっと悲しそうな・・・。何でそんな顔するんだ?それに気にしてたって、どうして・・・?

「安藤さんの・・・言ったとおりだったんですよ、結局・・・。デートしてて気付いたんです。私は安藤さんに止めて欲しかったんです。行くなって・・・。」
「・・・。」
「でも、止めてもらえなかったから妙に意地張って、腹いせみたいにデートしてやるって・・・。勝手ですよね。一人で思い込んで一人で怒って、一人で意地張って一人で気にして・・・。」

 俺は目を疑う。井上の目から涙が溢れて来る。井上は慌てて拭うが、涙は留まるところを知らない。まさか井上が泣くとは思わなかった・・・。生きてて良かったと明るく笑うものかと思ってたのに・・・。

「馬鹿ですよね、私・・・。しつこいと思われるくらいのことしておきながら、肝心な時に変な意地張って、待ちに入るなんて・・・。」
「・・・良い。」
「私・・・安藤さんに迷惑掛けてばかりですね・・・。本当に馬鹿ですね、私って・・・。ご、御免なさい・・・。」
「・・・良い。・・・良いから・・・もう・・・。」

 俺は渾身の力を振り絞って布団から手を出して、スカートをぐっと掴んでいた井上の手に乗せる。井上は少し驚いたように俺を見る。二つの涙の軌跡が電灯の光を反射して微かに煌く。奇麗だけど・・・こんな煌きは見たくない・・・。だから・・・。

「何も言わなくて良いから・・・。今は・・・ただ・・・傍に居て欲しいんだ・・・。」

 それしか言えない。でも、今そうして欲しい。ただ傍に居て欲しい。思ったままのことが・・・ようやく言えた・・・。井上は微笑んで俺の手を優しく包み込む。

「・・・うん・・・。」

 また見ることが出来た。井上の笑顔を・・・。心の底から良かった、と思う。これが素直になるってことなのか・・・。すっかり忘れてたな・・・。もっと早く素直になってれば、お互い・・・苦しまなくて済んだんだ。苦しまない為に巡らした「策」に逆に苦しめられるなんて・・・本当に馬鹿みたいな話だ。

雨上がりの午後 第136回

written by Moonstone

「・・・不思議ですか?」
「・・・ああ。」
「電話したんですよ。お店に。そしたら潤子さんから、安藤さんが熱出して寝込んでるって聞いて、びっくりして直ぐこっちに・・・。」
「電話って・・・昨日、バイト休むって・・・。」
「ええ、言いましたよ。でも・・・どうしても安藤さんが気になって・・・。ううん、気にしてたけど意地張っちゃってて・・・。」


このホームページの著作権一切は作者、若しくは本ページの管理人に帰属します。
Copyright (C) Author,or Administrator of this page,all rights reserved.
ご意見、ご感想はこちらまでお寄せください。
Please mail to msstudio@sun-inet.or.jp.