芸術創造センター こぼれ話
Dropped talk of Performing Arts Center

1999年10月31日更新 Updated on October 31th,1999

1999/10/31

 10月も今日で終わりです。珍しく外を歩き回ったら、仮眠のつもりが熟睡してしまいました(^^;)。お陰で今日の予定が大幅にずれましたし、「チューボーですよ!」も見損なっちゃった(笑)。体力不足・・・ですね。今週は次回定期更新の準備に専念する為、グループの更新を見送ります。かなり大型の更新になることが決まっていますが、その詳細は今日明日辺りに「Moonlight」紙上で発表する予定です。

 昨日と今日の連載で幾つか曲名が登場していますが、これらは全て実際にある曲です。まあ、エヴァをご存知の方なら今日登場した「Fly me to the moon」はお分かりでしょう(笑)。これらの曲は展開に応じて私がセレクトしたものです。勿論、私が聞くジャンルから選んでおります(^^;)。BGMにして読んで頂けると幸いです。「Fly〜」以外の2曲は全てT-SQUAREの曲です。「Midnight lovers」は「Refreshest」収録のものをイメージしています。
 マスターに言われて、俺はモップをロッカーに仕舞って更衣室へ向かう。程なく着替え終わると、カウンターにコーヒーの入ったカップが一つ置かれている。同じくモップを仕舞ったマスターが、カウンターに腰掛けてカップを傾けている。喫茶店ならではの「仕事の後の一杯」ってやつだ。片付けが終わったらこうしてみんなでコーヒーを1杯飲むのが習慣になっている。洗い物を終えた潤子さんもカウンターに出て、マスターの左隣でコーヒーを飲んでいる。この二人は本当に仲が良い。でも、不思議と嫌みな感じはしないのは無闇矢鱈と見せ付けるような事をしないからだろう。俺はカップが置かれているマスターの右隣に座る。この席の並びも俺がバイトを始めた時から決まっている指定席だ。
 午後10時を境に賑わっていた店は一転して静まり返る。音量を控えめにして流されている音楽が、静けさをより演出する。今流れている曲は・・・「Midnight lovers」か。一昨日まで続いていたあの女との電話を思い出す。でも、今は黒い炎が燃え上がることはなく、ただ過去の記憶として脳裏に漂っている。マスターのサックスで流れた涙が、黒い炎の火種を冷まして押し流してしまったんだろうか。

「・・・少しは気が楽になったんじゃないか?」

 マスターが話し掛けて来る。俺はマスターの方を向く。その表情はからかうようなものではなく、気遣うような柔らかいものだ。

「・・・ええ。」
「気を落とすなって言っても気休めにしかならんと思って、あの曲をやってみたんだ。正直あれで君が泣いてくれてほっとしたよ。」
「知ってた・・・んですか?」
「ステージからは店全体が良く見えるのは、君も知ってるだろ?」
「・・・。」
「何か不遇なことがあっても兎角自己責任やら忍耐やらが要求される時代だ。だけどな・・・感情を表に出せない社会なんてまともじゃない。笑う時は腹が痛くなるくらい笑って、泣く時は鼻水滴らして泣く。それが人間だ。それを社会が許さなくなったから、とんでもないことを平気でやらかす・・・。俺はそう思うな。」

 最初は嫌がらせかとも思った。けど・・・泣いて気が楽になったのは本当だ。今日、井上とかいう女に露骨ともいえる嫌悪感を剥き出しにしたのも、感情に錘を乗せていたのが原因だったのかもしれない。そう思うと・・・今更だが少し罪悪感を覚える。

雨上がりの午後 第22回

written by Moonstone

 今日のバイトも終わった。マスターのサックスで不覚にも泣かされた俺だが、その後ウェイターと演奏の二刀流をいつもどおりこなした。最後の演奏は俺とマスターの「Fly me to the moon」のデュエットで締めくくって拍手喝采を浴びた。
 店が終わるとシャッターを降ろして後片付けをする。俺とマスターの二人で最後の客のテーブルを片付けてから全てのテーブルを拭いて回る。その後床にモップをかける。潤子さんはキッチン回りの片付け専門だ。今日は最後まで残った客が結構居たから、洗い物もそれなりに多い。やっぱり、キッチンにもう一人居た方が良さそうだ。

「よし、お疲れさん。上がっていいぞ。」

1999/10/30

 温かい日々が続くと思っていたら何時の間にか落葉樹が枝を剥き出しにするようになりました。店頭に並ぶ食べ物も徐々に冬のものに移り変わっていますね(主夫だなぁ ^^;)。
 ただ、私は元々寒いのが嫌いなのと、嫌いな全国的イベントがあるのもあって、冬は嫌いです。嫌いなイベントというのは、クリスマスとバレンタインです。前者は12月に入ると彼方此方でバブル時代の幻想をさも当然のように叫びまわるし、バレンタインは店でフェアをやるようになるとチョコレート(菓子の中で一番好き)が買えなくなるからです。
 ですので、私の作品(文芸でも音楽でも)でこれらを扱った作品は非常に希少です。「第1音楽グループ」の「White Chiristmas」は例外的な存在です。恐らくこれからも殆ど題材にすることはないでしょう。「寒い季節だから愛する人と一緒に居たい」なんて何処かの煽り文句はそれこそ大きなお世話というものです。その関係もあってスキーも嫌いです。
 冬で良いのは鍋物(牡蠣や鱈がお勧め)と前にもお話した早朝の風景くらいですね。早く暖かい季節になってほしいものです(気が早いな・・・)。
 ・・・楽しかったあの頃の思い出が、憎しみの炎で焼き尽くされた筈の心の残像が、次々と色鮮やかに蘇って来る。突然の出会いと同時に受けた初めての告白、駅で待ち合わせて一緒に往復するようになった通学、嬉しくて舞い上がったデート、他愛ないことでも話すことそのものが楽しかった電話や会話、スリルと幸福に溢れた物陰に隠れてのキス、自分のクラスそっちのけで互いに熱い視線を送ったイベント、やがて訪れる春を思いながら乗り切った受験勉強、友人との卒業旅行と嘘をついて行った二人だけの旅行、そして至福の気分で迎えた夜明け・・・。
 サックスが駆け上がるフレーズを奏でる。胸に溢れかえった思い出は、熱いものとなって目の奥に急速に押し出されて来る。俺は・・・泣こうとしているのか?何で・・・?あの思い出を憎しみの炎で焼き払って、その炎に恋愛の萌芽すら投げ込んだんじゃなかったのか?
 ・・・俺はそうしたつもりだった。それで突然行き場を失った気持ちを昇華させたつもりだった。だけど、本当は・・・絶望感と無力感に蹂躪されるがままの心を護るために、憎しみの鎧を無理矢理着せ込んでいただけなのかもしれない。
もう・・・耐えられない。俺はぐっと眼を閉じてステージから目を背けると、小走りにカウンターの方へ向かう。この時間はテーブル席だけでカウンターは空いている。間違ってもこの涙を人前に晒すわけにはいかない。それが俺に残された最後のプライドなんだ。幸い客はサックスに釘付けになっていて、涙や鳴咽が溢れそうなことを俺が必死に押さえていることには気付いていないと思う。
 どうにかカウンターに辿り着いた俺は、ステージに背を向けるように一度目を拭う。照明に照らされたシャツの色が少し変わっている。これ以上泣くまいと思って眼を閉じても、上下の瞼の境界から涙が染み出して雫になって零れ落ちて行くのが分かる。これが・・・マスターの言う「癒し」なのか?俺に思い出を蘇らせて、一体どうしようって言うんだ?

「祐司君。はい、これ。」

 ふと、潤子さんの声がする。慌てて涙を拭い、一度大きく息を吸い込んでカウンターを見ると、カウンターにコーヒーカップが置かれている。近付いて中を覗き込むと、琥珀色の香ばしい液体で満たされている。

「音楽は弾き手の感情を乗せて聞き手の感情を引き出す。二つの感情が共鳴した時が感動になる・・・。彼がバンドマンだった時私に言ったことがあるわ。だから、泣いたってちっとも恥ずかしいことじゃないのよ。」
「・・・。」
「どうして良いか判らない時は・・・立ち止まってみれば?走るだけが人生じゃないから。」

 拭った筈の涙が再び溢れて来る。だけど、今度はもう瞼を閉じて封印することはしないでおこう。それで少しでもあの気持ちと思い出が昇華できるのなら・・・それで良い。

雨上がりの午後 第21回

written by Moonstone

 この曲はバイト初日、マスターのサックスで俺が初めて知った曲だ。ギターとベースとドラム以外の楽器をろくに知らなかった俺は、初めて耳にするサックスの音色に愕然とした。人の息遣いさながらに揺れ動き、脈動する音・・・。そして叙情感溢れるこのフレーズ・・・。俺にとってはギターに出会った時以来、或いはそれ以上のカルチャーショックだった。バイトが終わってからマスターに頼んでCDを貸してもらって、家で何度も聞いた。そしてこの曲のタイトルどおり、たとえ距離は離れてしまってもまだ愛してる、と自分の気持ちを確認したものだ・・・。
 今となっては、この曲もあの女を連想させる忌まわしい鍵の一つの筈だ。もう止めて欲しい筈だ。でも・・・俺はそのまま聞き入ってしまう。何故だか自分でも分からない。マスターがこの曲を「傷ついた心を癒す」と言った意味すら分からない俺は、サックスの情感溢れるフレーズに翻弄されるしかない。

1999/10/29

 今月から始めたこのコーナーの連載も今日で20回目を迎えました。20回になるのにまだ恋愛の「れ」の字も出てこない、とは言わないで下さい(_ _;)。前にもお話しましたが、これはこういう話なんです(言い訳?)。FMラジオでも以前やっていたラジオドラマのような感覚で続けています。最近では、誰かに声を当ててもらえると良いなあ、なんて思ったりもしています。

 出不精(様々な要因はありますが)の私は、ここ10年以上映画館に行ったことがありません。今では映画館が何処にあるのかすら知りません(笑)。CMなんかで知っても「観たい」と思うものがないんです。エヴァは知った時にはとっくに終わってましたし(笑)、最近のでいうと「タイタニック」は見る気もしませんでした。有名なあのシーンは嫌悪感すら感じます。「MATRIX」はSFXが凄いけど「攻殻機動隊」みたい・・・。今まで観た中では「ターミネーター」が一番です(^^)。「2」はサラの役者が変わったし、「女が主役になるべき、男は駄目」的な台詞が嫌いです。・・・好き嫌いが激しいですね(^^;)。
 俺も毎週潤子さんのピアノを聞くが、これがまた上手い。クラシックからジャズ、ポップスまでこなせる。初めて耳にした客は勿論、居合わせたら間違いなく食事や会話を止めて聞き入ってしまう。無論、俺もその一人だ。初めて聞いた時、テーブルに運ぶ途中の品をトレイに持ったまま、ステージの方を向いて突っ立っていたことを思い出す。惜しむらくは聞ける時間が限定されていることだ。料理に専念するから仕方ないんだが。

「野菜サンド出来たから5番テーブルへお願いね。」
「はい。」

 カウンターの傍で待っていた俺は、潤子さんから野菜サンドの乗った少し大きめの皿を受け取る。潤子さんは休む間もなく次の注文に取り掛かる。賑わう店のキッチンを一人で切り盛りするのは大変だと思うが、料理係は他に居ない。というか、バイトは俺一人だったりする。大体、「楽器が出来ること」という条件は普通、飲食店のバイトの条件にはない。その条件を除いて料理係を採用したらどうか、とマスターの熊さんに言ったことがあるが、店の関係者全員が楽器を弾けなきゃナイトカフェの意味がない、とか言って却下された。ジャズバーの雰囲気にこだわるのも良いけど、潤子さんが過労で倒れたらどうするつもりなんだろう。言っておくが、俺に料理を作らせるならごみ箱を隣に用意しておいた方が良い。
 そのマスターは今、ステージでテナーサックスを吹いている。ジャズのスタンダードを1曲終わって拍手を受けている。待っている間に聞いていたけど、ソロでも十分聞ける。俺は野菜サンドを運びながら、次の曲が何かを考えたりする。でもあと2、3曲演奏したら俺の番だから、そろそろ演奏する曲を考えなきゃならない。

「−じゃあ次は、ある傷付いた心を癒す為にこの曲を・・・。」

 野菜サンドを運び終えた俺はマスターの言葉を聞いて思わずステージを向く。・・・まさか、俺のことか?一体何のつもりだ?そんな俺を知ってか知らずか、マスターはアドリブらしいイントロを始める。これだけだと何の曲かは判らない。
 やがてメロディーらしいフレーズになる。ゆったりとスウィングするバラードだ・・・って、このフレーズは・・・。

Still I love you

 これがマスターの言う「癒す」曲か?「まだ愛してる」なんて思ってやしない!俺をポイ捨てしたあの女の・・・ことなんか・・・。

雨上がりの午後 第20回

written by Moonstone

 20時を過ぎると、丘の上のナイト・カフェは随分な賑わいを見せるようになる。仕事を終えて帰宅途中に立ち寄る社会人、塾帰りらしい中高生、デート中のカップルと様々だ。常連客が多いので顔触れは大体似通っている。曜日によって客層の割合が変化するくらいだ。社会人で立ち寄る夜の店というのは大抵酒が出るところだろうし、下戸には辛い。それよりも喫茶店の方が入り易いかもしれない。
 テーブル席はカウンターに向かって右側に広がっている。テーブルや椅子はカフェテラスによくあるような、洋風の細工が施された白いものだ。その奥に一段高い小ぢんまりしたステージがあって、そこに黒に店のロゴが入ったアコギ(アコースティック・ギター)とエレキ(エレクトリック・ギター)、やはりロゴ入りのソプラノ、テナーの2種類のサックス、グランドピアノとシンセ2台、そしてエフェクターやアンプの入ったラックが置かれている。グランドピアノは週1回日曜日の閉店近い時間だけ、潤子さんのよってのみその音色を響かせる。「夜の部」は料理に専念する潤子さんだが、この時だけはステージに上がる。「楽器が出来ること」というのはバイトの条件だけじゃないってことだ。

1999/10/28

 御来場者18000人を突破しました(歓喜)。昨日の精神的ダメージも和らぐというものです(^^)。立ち直るにはもう少しかかるでしょうが、連載の「俺」こと安藤祐司君よりは早いでしょう(妙な譬えだ)。そうそう、連載の登場人物の名前はほぼある規則に則っていますが、お分かりになった方は居られるでしょうか?(簡単なものです)

 私はご覧のように小説を書いていますが、読むことは殆どありません。最近では「パラサイト・イブ」くらいですが、それも4、5年前のこと。最近では専ら書く方に専念しています。その際に参考にするのは専門書(ファンタジーものや政治、経済ものまで)であったり漫画であったり・・・。コマ割りや声を考えながら書くので、漫画はかなり読みます。「Saint Guardians」の設定資料集でイメージCVを当てたりしているのは、その影響です。
 サイフォンのアルコールランプの火を消したマスターの熊さんが言う。やっぱり聞いていたのか。見てくれが良くないのは俺自身がよく分かっている。だが、こんな時にずばり言われると辛い。

「振られたら次だ。もっと良い相手を見つけりゃ良いじゃないか。」
「そんな簡単に・・・。」
「自分で壁を作っちゃ見えるものも見えんし、出来るものも出来んぞ。」

 壁・・・か。今日の昼、井上という女を前にしたとき実際俺は「壁」を作った。もう騙されまい、もう傷付くのは嫌だ、と。あの時、俺は自分を守ることが出来たと同時に、「次」の機会を逸したわけか。でも・・・それで良い。心に底無しの巨大な空洞が出来たようなあの時のことを思えば、壁を作ってひとときの甘美な罠に自分から近付いて行くことを未然に防いだ方が賢明だろう。
 ふと時計を見ると、20分近く過ぎていた。そろそろ「夜の部」の客が入って来る時間帯だ。俺は急いで食事を食べ終わると、ご馳走様、と言って潤子さんにトレイごと食器を差し出す。食事を終えれば、いよいよ仕事の始まりだ。

 俺は着替えを済ませてウェイターとしてカウンターに出る。白のシャツに黒のベストにズボン、蝶ネクタイと、如何にもウェイターという本格的なものだ。最初は着慣れないのもあって違和感があったが、今では結構気に入っている。しかし、潤子さんは普段着にエプロン姿で、マスターの熊さんはチェック模様のベストにネクタイと、店の関係者の服装はバラバラだ。この辺は未だに理解しがたいが、俺は蝶ネクタイの位置を気にしながら客を待つ。
 程なく、正面のドアが開いてカウベルが来客を知らせる。俺はトレイを持って出迎える準備をする。「夜の部」は潤子さんはキッチンで料理に専念して、客の応対はマスターと俺で分担する形だ。

「いらっしゃいませ。」

 背広姿の男性二人が店内に入ったところで俺が挨拶する。心のもやもやは一先ず押さえて仕事に専念することにしよう。

雨上がりの午後 第19回

written by Moonstone

「もう無理って決め付けない方が良いと思うけどな・・・。」

 潤子さんはそう言ってくれる。でも無理なものはどうしようもない。結局俺がいくら永遠なる恋愛を求めたところで、それに見合うもの−車や流行のもの、言うなれば金だ−を持っていない俺は、女に相手にされない。偶然両想いになってもそれは、俺がそう思い込んでいただけ。女は俺より自分に相応しい相手が見付かれば、それまでの思い出も何もかも放り出してその相手の元へ走るんだ。

実際、あの女がそうだった・・・。

 俺は再び食事を食べ始める。これで吹っ切れるとは少しも思ってないが、じっとしていると入り乱れた感情に押し潰されそうな気がする。

「君も見てくれの割に結構神経が脆いやつだなぁ。」

1999/10/27

 ・・・笑うに笑えない最悪の事態に見舞われました。詳細をお話する気にもなりませんが、OSの取り扱いには十分注意して下さい。精神的に大ダメージを受けたので、今日の連載は少しだけにさせて頂きます(昨日書き溜めておいた分が殆どです)。PCが家電になる日はまだ遠い先の話ですね・・・。

「・・・そうだったの。」
「馬鹿馬鹿しいですよ、本当に・・・。今までのことを電話一本でチャラにするなんて・・・。そりゃあ、向こうの方が俺より良いからって言われればそれまでですけど、そんなのって・・・あんまりですよ・・・。それならいっそ、別れたいような素振りを見せた時にすっぱり別れた方がまだ良かった・・・。」

 話の性質上仕方ないかもしれないが、結局愚痴になってしまった。話しているうちに一昨日の電話のやり取りが再び鮮明に蘇えって来たのに併せて、あの時の悲しさと怒りと情けなさまで次々と復元されて来た。もう、思い出したくなかったのに・・・。俺は顔を上げる気力もない。折角の食事も食べる気がしない。

「私がこんな事言うのも何だけど・・・女の子ってね、意外とそういうところがあるのよ。遠距離恋愛が難しいって言うのは、近くに居ないと離れ易い女の子の心を繋ぎ止めておくのに相当のエネルギーを使うからだと思うわ。だから・・・祐司君にしてみれば彼女は身勝手だけど、彼女にしてみれば仕方なかったんじゃないかな・・・。」
「じゃあ・・・俺があの女を引き止めるほどのエネルギーがなかった・・・ってことですか・・・?」
「どっちが悪いとか思わない方が良いわ。彼女とは縁がなかったのよ。」
「縁がなかったって・・・初めて両想いになれて、このままずっと続くと思ってたのに・・・。もう無理ですよ・・・。」

 そうだ。俺は生来の付き合い下手もあって、女とはそれこそ縁がなかった。好きな相手が出来ても勇気を振り絞って告白しても、その相手には別に好きな相手が居たりそうでなくても俺とは付き合えないと言われてばかりだった。あの女とは何かの巡り合わせで偶然両想いになれたようなものなのに・・・結局駄目だった。こうも敗北続きでは自信を持てというのが無理な話だ。

雨上がりの午後 第18回

written by Moonstone

 俺は言って良いものか、と躊躇する。実際はほぼマスターの言った通りだし、折角憎しみで粉々にしたあの記憶をまた蒸し返したくない。でも・・・今の気持ちを聞いて欲しいとも思う。こんな筈じゃなかった、どうして別れるなんて言ったんだ、今まで「好きだ」とか言ってたのは何だったんだ、と、本来ならあの女にぶつけるべき言葉が胸の奥で痞えている。犇めき合うその感情の摩擦が憎しみの炎を産んだのかもしれない。

「別に取り調べじゃないから言わなくても勿論良いんだけど・・・、言ったら少しは気分が楽になると思うけどな。」
「・・・。」
「溜め込んだままだと屈折しちゃうわよ。」

 残念ながらもう屈折どころか捻じ曲がってしまったんだが、聞いて欲しいと思う気持ちが不思議と強くなって来る。マスターに聞かれても構わないとも思う。多分聞き耳を立てているだろうし、無様だと笑われても実際そうだから仕方がない。俺はぴったり閉じていた口を開いて昨日の無断欠勤の理由を話し始めた・・・。

1999/10/26

 ついこの前「御来場者17000人ありがとう」と書いたのですが、定期更新後にどかっと増えましたので改めて書く必要がありそうです。勿論嬉しいのですが、驚きの方が先に来ます。何時の間にこんなに増えたんだ、と(^^;)。

 連載は2週間を突破してまだ1回も落とさずに続けています。「毎日更新」をうたい文句にした以上、シャットダウンを除いてそう簡単に落とすわけにはいかないという責任感もありますが、私自身結構楽しく書いているというのが大きいと思います。既存コンテンツも自分のやりたいことをやっているので楽しいのは間違いないですが、結構苦心します。どう展開させて行くか、ここでこのキャラはこんなことを喋るか、などなど・・・。その点、連載はあまり悩まずに済んでいます。こういう日常を舞台にした小説というのを書きたかったですし、後で読み返す時にも日記感覚で気軽に読めます。前と少し矛盾するところも見つけたりしますが(^^;)、あまり気にしません。
 でも「恋愛もの」の筈なのに恋愛の雰囲気が出てこないぞ、と言われるとやっぱり何も言えません(苦笑)。何処かで聞いたような言葉を使うなら「まだ愛は始まらない」というところでしょうか?最初は警戒するように触れ合い、やがて少しずつ密になって行く・・・そんな話を考えています。所謂「一目惚れ」の信憑性が私の中ではないんですよ、実は(^^;)。
 俺はカウンターの隅の方に座る。この店に来てまず最初にすることは腹ごしらえだ。一旦「夜の部」の仕事が始まるとウェイターと演奏をこなすので閉店までゆっくり食べられる時間はないから先に食べてしまうのが習慣になっている。もっとも今は客が居ないとは言え仕事中だから、そうのんびりは出来ないんだが。食事は潤子さんが作ってくれる。ここに来れば少なくとも夕飯は手作りの温かくて美味い食事にありつける。コンビニが便利なのは確かだが、やっぱり手料理にはかなわないとつくづく思う。

「はい、お待たせ。」

 潤子さんがトレイに乗せて出してくれたのは、御飯に味噌汁、サラダに焼秋刀魚、そして冷やっこに漬物というものだ。定食屋で食べれば結構な値段になるだろうが、ここなら無料だ。俺はトレイに乗った箸を取ると、いただきますと言って食べ始める。カウンターの向かい側から潤子さんが俺を眺めている。幾ら「女」が憎いとは言っても「女性」であるこの人だけは例外だ。物腰は柔らかいし、変に身構える必要がなくて安心できる・・・。俺にとってはお姉さん的な存在だ。

「ねえ祐司君。昨日はどうして休んだの?」
「え・・・。」
「無断で休むなんて君らしくないから、心配してたのよ。」

 俺は潤子さんの問いに答えられずに俯く。昼間あの女を前に激しく燃え上がった黒い炎はすっかり鳴りを潜めて、音もなく降り続ける雨が黒焦げになった俺の心を濡らしている。

「彼女に振られたショックで寝込んでたのか?」

 コーヒーを沸かしていた熊さんがいきなり割り込んで来る。離れた位置に居たので聞こえていないと思ったら、実はしっかり聞き耳を立てていたのか。俺は危うく咽てしまいそうになる。あの女のことは以前ぽろっと洩らしてしまったことがあるが、しっかり覚えていたんだろうか?なかなか油断がならないな。

「あなた。いきなり何てこと言うの。」
「今日入って来た時から何か落ち込んでる様子だったからな。まさか成績で悩むなんてことはないだろうし、考えられるのは恋愛、ってとこだろ?」
「そんなんじゃ祐司君が言いたいことも言えないでしょ。ちょっと黙ってて。」
「へいへい。」

 潤子さんが釘をさすと、熊さんは少しふてくされた様子でコーヒーの様子を見守る。熊さんは潤子さんにべた惚れだから、こう言われると言い返せないのだ。

雨上がりの午後 第17回

written by Moonstone

 この店Dandelion Hillは昼の11時に開いて夜10時に閉じるという、喫茶店にしては後ろにずれた時間帯で営業している。昼と夜で店の客層を変えることを狙ってのことだそうだ。昼間は主婦や学生の溜まり場として、夜はナイト・カフェを気取ってみる、と。客に演奏を聞かせるのは夜だけだ。
演奏する曲や順番は演奏する人間が決めることになっていて、リクエストにも応じることがある。演奏を聞かせるのは俺と熊さんことマスターだ。俺はギターだがマスターはサックスを聞かせる。その時俺はギターやシンセサイザーでバックを担当することもある。マスターは実のところサックスが上手い。何でも昔はジャズバーを席捲したそうで、その感覚を喫茶店でも、と思ってナイト・カフェと洒落込んだのだろう。記憶には忘れたいものと忘れたくないものがあるということか・・・。

1999/10/25

 何かを入力する為にキーボードに向かって考えていると、ついついCRTに「あ」の文字が数行並んでしまいます(^^;)。何故か左手の中指の待機位置が「A」のキーなんです。今日も何度かやってしまいました。ここの話と連載の展開を考えていた最中にです。

 前にここで「写真を撮ろうと思うがカメラがない」という話をしましたが、以前何かの時に使い捨てカメラを買ったのを偶然思い出しました。直ぐに見つかったカメラにはまだフィルムが残ってました。徹夜明け(またか)の私は窓から見える夜明けの雲を見て迷わず使い切りました。雲は同じ形で見えることはないので、「これ」と思った時に撮りたかったのですが、偶然でも撮れて良かったです(^^)。現像に出したらどんな写真になるのやら・・・。
 月曜日以外の毎日午後6時から午後10時まで俺は喫茶店でバイトをしている。週休1日、食事付きで時給1000円。飲食店にしては良い待遇といえるだろう。何故かといえば、この喫茶店のアルバイトの条件というのがちょっと変わっていて、俺はその条件に偶然一致したためだ。徒歩でそれこそ5分もかからない、少し小高い丘の上にその喫茶店−Dandelion Hill-はある。

「・・・こんにちは。」
「こら、ボイコットミュージシャン。」

 出入り口に付けられたカウベルを鳴らさないようにそっとドアを開けた俺に向かって、野太い声が飛んで来る。俺は観念してドアを開けて中に入る。カランカランという音が店内に響く。正面に見えるカウンターには、声から予想できるそのままのオッサン・・・もとい、マスターが腕を組んでこっちを睨んでいる。
マスターの名前は渡辺文彦。喫茶店のマスターとは思えないごつい身体に顎鬚を生やしたその姿で常連の客からは「熊さん」で通っている。この男が「たんぽぽの丘」なんて可愛らしい名前をつけたかと思うと悪い冗談としか思えない。

「・・・すみません。」
「ステージをボイコットするなんざ、10年早いな。」
「あら、私はプロになってもボイコットする人は認めたくないわ。」

 そう言ってトレイを持って現れたのは、マスターの奥さんの潤子さん。ストレートの黒髪とたんぽぽが描かれたエプロンが似合う美人だ。この人がマスターの奥さんだなんて、未だに信じられない。何か変な魔法でもかけたんじゃないかというのが定説になっている。

「祐司君。休む時は電話一本、ね?」
「・・・はい。すみませんでした。」
「分かればよろしい。さ、支度して。昨日の分もバッチリ演奏してもらうからね。」

 潤子さんは微笑んでウインクする。そう、ここでバイトする条件というのは「楽器が人前で演奏出来ること」だったりする。ウェイターをする傍ら、ギターの演奏を聞かせるのが俺のバイトの内容だ。

雨上がりの午後 第16回

written by Moonstone

 俺は智一と別れて帰宅の途に着く。智一は大学から徒歩5分もかからない場所のマンションに住んでいるが、俺は電車で二駅離れたアパートだ。家の経済力の差だからこれは仕方ない。それに俺としては、何かと親が五月蝿い実家から離れる機会が出来ればそれで良かった。
 少し古びたアパートの一階、3つ並ぶ部屋の一番西寄りの角部屋が俺の住処。鍵を開けてドアの郵便受けを確認して中に入る。この時期になると西側にある小さな窓から入る光は弱い紅か近くの街灯が発する白い光のどちらかだ。日に日に白い光がその割合を増している。俺は鞄を置くと、少し後ろめたい気分で再び家を出る。バイトの為だ。

1999/10/24

 はい、今日は定期更新の日です!内容盛り沢山でお届けします・・・とは言えない(T-T)。出揃ったのはSSが2編にMIDIが1つ。さ、寂しい・・・。もう在庫(書き溜めた分)はないし、「ねるふ・くえすと」は終わっちゃったし、次からどうしましょ?「泣き言は良いから早く創れ」と言われれば、もうそれまでです(^^;)。はい、次回定期更新では3つ以上のグループを更新する気構えで行きます。・・・出来なかったら御免なさい(_ _)。

 更新前にバタバタしているメインとは違って、このコーナーと連載は順調に続いてます(^^;)。連載は早くも15回目です。結構続けられるものですね〜(他人事ではない)。これから定期更新の日は拡大版でお届けします。あと2週間で結構ストックできそうです。2週間で何かあるかは・・・トップページと見比べてみて下さいね。

「話ってのは・・・それだけ?」

 取り敢えず人違いに端を発する俺の怒りはひとまず収束した。話が済んだのならもう終わりだ。お前を誘おうと狙っている男の相手でもしてやってくれ。手づくね挽いて待ってるぞ。

「じゃあ、俺は行くから。」
「あ・・・待って!」

 英語の講義がある場所へ向かおうとした時、その女が意を決したように呼び止める。だが、俺は話を聞く気がしないので女から離れる足を止めない。言いたいことは何となく分かる。あの表情と瞳を見て、それに騙された俺には分かる。俺は一旦立ち止まると顔だけ向けて先回りした返事を告げる。

「俺は御免だからな。」
「え?」
「何のつもりかは知らんが、兄貴に似た男を探すなら他を当たれってことだよ。」

 俺は前を向き直ると足早に立ち去る。これで終わりだ。あの女はもう追ってこない。目論見を突かれて何も出来ない、というところか?兄貴に似た彼氏、なんて陳腐な恋愛小説じゃあるまいし、ブラコン女の下らない妄想に付き合ってられる程、俺は暇じゃない。もし暇でも付き合う気はこれっぽちもないが・・・。
秋風が心地良い。内からの炎と熱にやられた頭を冷やすには丁度良い。だが・・・一度焼かれたものはもう元には戻らないだろう。だが、あんな辛い目に遭うことを考えたら、憎しみの炎に焼け焦げたほうがずっとましだ。

「−で、晶子ちゃんとはそれっきりか?」
「ああ。話は済んだしな。」
「うわーっ、勿体ねえなぁ。あんな美人、俺らの学科じゃ絶対望めないぞ。」

 英語とドイツ語の講義を終えて帰る途中、智一は顔を片手で覆って天を仰ぐ。大袈裟な奴だ。そんなに残念がるようなことか?・・・まあ、女の残酷さを知らない男なら当然の反応かもしれない。しかし、いきなり「昌子ちゃん」と呼ぶとは呆れたもんだ。
工学部は男と女の絶対数が大きく違う。化学工学科や建築工学科はまだしも、機械工学科や俺の居る電子工学科は10対1に近い。俺は何とも思わないし、むしろ憎悪の対象が少ないから有り難いのだが、智一にとっては切実な問題かもしれない。何せ以前「女は外で作るしかない」と息巻いてた。クラスの女が聞いたら今じゃセクハラものだろう。

「何で振ったんだよ?折角彼女の方から会いたいって言って来たってのに。」
「女が会いたいって言ったら男は付き合わなきゃならんのか?そんな勝手な話があるか。」
「否、そんなことはないけどさ・・・何で彼女をそんなに嫌うんだ?」
「別に嫌ってないさ。単に女と関わり会いたくないだけさ。」
「じゃあ、俺が昌子ちゃんを誘っても良いんだな?」
「好きにしろよ。俺には何の関係もないから。」
「よーし、後で後悔するなよ!」

 智一は妙に嬉しそうにガッツポーズをしたりする。これを見て明日以降の智一の行動はもう読めた。智一としては俺が「振った」ことは幸運なんだろう。こういっちゃ何だが後悔するのはお前だぞ。・・・まあ、標的を見定めて浮き足立つ今の智一に何を言っても無駄だろう。

雨上がりの午後 第15回

written by Moonstone

「・・・で、話って何だよ。」

 広場に着くなり俺は顔だけその女の方を向いて言う。無意識にぶっきらぼうな口調になるが、この女を見ているとどうしても心の内が不快にざわめくのが抑えられない。女だから・・・?それもあるが、それよりもこいつの表情・・・特にその瞳・・・。あの時、友人を伴ったあの女が見せた表情と瞳にそっくりだ。私の気持ちをいよいよ伝えるんだと興奮しているような頬の赤み、自分の気持ちを受け入れて欲しいと懇願するような瞳の潤み。・・・どれももう沢山だ。その表情と瞳の輝きで直ぐに変化する想いとやらを飾り立てて、あの女は俺を騙したんだ!3年近くも!
 俺の気持ちなど、あの女と同じ種類の生き物であるこの女に分かる筈がない。井上とかいうこの女は、言いあぐんでいるような様子でもじもじしている。止めてくれ、その餌を誘うような仕草は。どうせ少し距離を置けば簡単に心変わりするくせに!

「あ、あの・・・。」
「・・・。」
「き、昨日は・・・御免なさい。」

 謝ってほしくもない。どうせ本心じゃないんだから。それにこの面会が終われば俺とお前はそれっきりだ。さあ、早く本題を言ってみろ。

「そのことで怒ってるんだったら謝ります。でも、あれは・・・悪気があったわけじゃ・・・。」
「悪気でなかったとしたら、何なんだよ?」
「就職して家に居なくなった年子の兄に・・・あまりにも似てたんで・・・。」

 兄に似てる・・・?そう言えば昨日2回目に出くわした時、『どうして此処に』とか言ってたな。そりゃ就職して居ない筈の人間が平日の夜にいきなり目の前に現れれば驚いてもおかしくはない。それも1日に2回立て続けに出くわしたわけだからな。まあ、兄貴の面影を重ねるのは勝手だ。だが・・・俺はお前の兄貴じゃない。

1999/10/23

 昨日の更新でこの話のウィンドウが出るJavaScriptを変更してみました。今までフォームなどで目にするボタンだったのを普通の文字リンクにしてみました。「それだけかい」と言われるとそれだけなのですが(^^;)、「JavaScript=フォームボタン」という形式になっているのが気になっていて、前から直そうと考えていました。1時間ほどの試行錯誤の末成功したのですが、GIFアニメが停まってしまうのがいただけないですね・・・。何故?

 御来場者が17000人を突破しました(歓喜)。開設当初は一月で1000人増えるかどうかだったことを考えると、隔世の感があります(笑)。実際にwebページを運営するようになると、やはり御来場者数(カウンタ)の伸びが気になるというもので(^^;)。
 リンクさせて頂いているページは大抵人気ページでして、カウンタが数十万単位のものも珍しくありません(凄いよなぁ)。そういうページを観察してみると、ほぼ間違いなく投稿作品が数多いようです。作品を投稿してそれが掲載されることで身近に感じるということなんでしょうか?現在、当ページにおける投稿規程を検討中ですが、これまで読み手のみだった方が書き手にもなるきっかけとなってもらえれば幸いです。かつての私がそうであったように。

「一体、何のつもりだ?俺を馬鹿にして随分ご機嫌のようだな。」
「ちょ、ちょっと待てよ。彼女を誘ったのはちゃんと理由があってのことだ。」
「理由?ナンパの成功を見せ付ける為か?俺に自慢してもどうも思わんぞ。自慢するなら俺にしないで他の奴にしろ。」
「まあまあ、落ち着けって。彼女の方からお前に会いたいって言われて、じゃあ多分この食堂に来るから一緒にどう?って誘ったんだぞ。」

 その女の方から?俺は耳を疑う。余計に俺は前に居る二人の真意が分からなくなる。二人で共謀して俺を罠に嵌めようとでも言うのかとも思う俺に、智一が続ける。

「ま、詳しい話は後で彼女から聞いてくれ。恋のキューピット役はここまでってことで。」
「・・・大きなお世話だ。」

 これが偽らざる俺の本音だ。普通の奴なら今時の美人というその女から会いたいと言われて紹介されれば、まず飛び上がって喜ぶだろう。だが、今の俺は違う。・・・そうだ。あの女も友人とかいう女数人を付き添わせて「切ない思い」とやらを代弁させた。初恋に始まり今まで振られてばかりだった俺をそんなに想ってくれた人が居たのか、と感動してその場でOKしたが、結局あの様だ。もう騙されるものか。
 話を聞く前から俺は心に強力な壁を作る。これは防衛反応だ。あれだけ痛い目に遭ってのうのうと次の女を捜すほど俺は打たれ強くない。・・・もう恋愛沙汰は御免だ。二度とあんな痛い目に遭いたくない。

 昼飯を食べ終わると、智一はさっさと先に行ってしまった。お邪魔虫は退散するとか言ってたが、この「お見合い」を準備した時点で十分お邪魔虫だ。結局俺は井上というその女と連れ立って食堂を出た。話を聞く必要はないんだが、人の顔を見る度に驚くその女の言い分とやらを一度聞いてみるのも悪くはない。俺もそれだけは気になっている。その女が気になるわけじゃない。断じてだ。
 それより周囲の視線が気になる。特に男の目がだ。最初は俺の後ろをついて来るその女に目が行き、次に俺に目が行く。大方羨望と嫉妬だろう。心配するな。1時間もしないうちにこの女はフリーだ。声をかけるなり自分の部屋に連れ込むなり好きにすれば良いさ。この女も喜んでついて行くだろうぜ。
俺はさっさと広場へ向かう。大学っていうのは建物がぽつぽつと散らばっていて、それ以外は駐車場かグランドか空き地だ。土地の無駄遣いじゃないかとも思う。別に話を聞くだけなら通りでもいいんだが、下手に泣かれでもしたら悪者は男の俺だ。世の中ってのはそう出来ている。

雨上がりの午後 第14回

written by Moonstone

 俺はその女の顔を見ないようにするが、向かいに座る智一と隣り合っているという位置が位置だけにどうしても視界に入る。俺は早速テーブルの箸立てに大量に立てられている箸を取って食べ始める。食べていれば自然に下を向くことになるので、女の顔を見なくて済む。本当に観たくないのは俺を捨てたあの女なんだが、女であれば黒い炎に放り込む相手は誰でも良いと思う。何故なら、同じ「女」という生き物だから。俺を裏切ったあの女と同じ生き物だから!

「彼女、井上昌子(あきこ)っていうんだ。文学部の1年。俺達と同じ学年だぞ。」
「・・・。」
「何で誘ったかって聞きたそうだな。」

 思わず俺は箸を持つ手を止める。やはり確信犯か。俺が顔を上げると智一がにやにやと笑っている。図星だったかと言いたげなその表情に俺の表情がますます負の感情に歪む。

1999/10/22

 このところ小説の欄が左右に跨るレイアウトで落着いています。最初はこの話と同じくらいの量を想定していたのですが、この話の長さは日によって斑がありますし(短い時は2行だったか ^^;)小説の量と比べてこの話が少ないと空欄がぐわっ、と広がって見た目も良くないのでこういう形式にしています。今のところ、小説の1日分は2、3kBです。

 これからいよいよ寒い季節がやって来ますが、当然朝起きるのが非常に辛くなります(寝不足は別として)。ですがその寒さを我慢して迎える早朝の様子は散策のし甲斐があります。凛と張り詰めた空気は奇麗な氷水のようで、そこに日が昇ってくると見えない糸が解けて消えていくような感じがします。徹夜明けの週末(^^;)に気が向いた時に出てみるのですが、1時間は簡単に歩けます。
十分に防寒の準備をして眠気と戦い(仮眠するのも一案)東の空から白く変わって来た頃、外へ出て観てください。「冬はつとめて」の世界が堪能出来ますよ。ちなみに冬の夜明けを扱ったエヴァSSは「ま〜くの落書き部屋」の「Moonstone小説部屋」にて「日だまりの心模様 Beyond the dawn」として公開中です。
 牛歩のようだが行列は前へ進んでいく。セルフサービスなので食券を買うのに迷ったり食券を買うついでに両替を目論む奴が居なければ割と捌けるものだ。程なく俺は食券を買って安い方のA定食のメニューをトレイに乗せていく。相変わらずの揚物メニューだ。
 トレイを持って席を捜すが、この状況で相席を避けることは不可能だ。他人と隣り合って顔を突き合わせながら食事をする気分じゃないんだが、無理なものは仕方が無い。

「おーい、こっちこっち!」

 幸か不幸か智一の声がする。あちこち見回すと窓際の席でこっちへ来いとジェスチャーをしている智一の姿を見つける。この際贅沢は言っていられないのでトレイを持って智一の方へ向かう。混雑で分からなかったが、智一の左隣に見覚えのある女が座っている・・・。あの女じゃないか!智一の奴、一体何を考えてやがる?!

「何処行ってたんだよ。昼からは英語とドイツ語だから帰ることはないと思ったけど。」
「・・・何処だって良いだろ。」
「まあ兎に角座れや。」

 俺は智一の向かい側に座る。あの女は俺の顔を不安げに見ている。見るな。腹が立ってくる。俺の表情が再び険しくなってくるのが分かる。俺の心で燃え盛る憎しみの炎が要求する燃料は今や俺を捨てたあの女との思い出だけじゃない。女全てなんだから。
そんな俺の心など知らない智一は、頬杖を突いて呑気に話し掛けてくる。

「気になるか?彼女。」
「・・・嫌がらせにしては手が込んでるな。」
「嫌がらせはないだろう。折角誘ったんだから。」
「その時点で十分嫌がらせっていうんだ。俺をからかうのもいい加減にしろよ。」

 再び勢いを増す憎しみの炎に比例して、俺の語気が荒くなってくる。その女は不安というか脅えた様子を見せる。まあ、無理もないだろう。いっそとっとと逃げ出して欲しいとさえ思う。

雨上がりの午後 第13回

written by Moonstone

 再び俺の中で時間の間隔が戻って来た。こう言うと聞こえは良いが、要するに腹が減ったということだ。俺は思想家や哲学者には全く向いていない口だ。時計を見ると12時を少し回っている。2コマ目の講義が終わった後の1時間ほどの昼休みが始まったところだ。12時を回るか回らないかで学食にありつけるまでの待ち時間は大きく違う。この大学は学部や学生の数に比べて食堂の数と広さが足りない。何事も競争の御時世だから食事も競争しろという大学の配慮だろうか?兎も角空腹には変えられないし、午後の2コマは必須科目が並んでいるから帰るわけにも行かない俺は、そのまま学食へ向かう。
 当然というか、学食のカウンターには行列が出来ている。「行列の出来る店」なんてテレビや雑誌で紹介されるが、単に行列の有無で決めるなら大学の学食を紹介しても良さそうなものだ。一先ず並んで先を見ると、軽く2、30人は居る。俺は諦め気分で鞄から財布を取り出して食券を買う小銭を取り出す。

1999/10/21

 もし旅行に行くとしたら、貴方は何処へ行きたいですか?私は2通りあって、1つは街並みが楽しめる都市です。日本だと京都や金沢とか・・・。国外へは出たことがないので写真とかで見たイメージでしか言えませんが(^^;)、ドイツやノルウェー、フィンランドとかですね。それこそ小さな店が軒を連ねる商店街や、昔からの住宅街を散策するという・・・。その土地に生きる人々の生活や歴史が垣間見える、人々の普段の声が聞こえる風景を見てみたいです。天候は晴れだけではなくて、曇りや雨、雪の日でも観たいし、季節も違えばなお良いですね(^^)。
 もう1つは古代遺跡です。有名なピラミッドや万里の長城は勿論ですが、都市の遺跡、例えば(ピンクの怪獣ではない(笑))マヤ文明、モヘンジョ・ダロ、カッパドキアとかが特に観たいです。旅行会社とかのツアーに無いような場所だと尚OK(^^)b。かつてそこにあった人々の暮らし、人が消えた理由なんかを考えながら歩き回りたいです。
 いずれにしても、(偏見かもしれませんが)OLとかが好んで行くような観光客目当ての店回りツアーはしたくないです。私から見ればあれは旅行とは言えません。今は時間的にも金銭的にも厳しいので、当面は近くを散策するくらいですね(^^;)。
 もし智一が俺の表情を見ることが出来る位置に居たら、多分別の興味を抱いただろう。眉間に深い皺が刻まれ、口元が怒りと憎悪に歪んだ鬼のような形相だということが自分でも分かる。もっともその女にしてみれば、どうして2、3回の人違いでこうも露骨に嫌悪されなければならないのかと思うだろうが、生憎俺の中で荒ぶる黒い炎が女を見たとあらば頻りに憎しみの油を注げと要求するから仕方が無い。
 俺は鞄を持ってずかずかとその女の方へ近付く。俺の表情に只ならぬ気配を感じたのか、女は表情を少し強張らせて後ろに下がる。鞄を持ったことに驚いたのか智一が何か言っているようだが、兎に角一瞬でも早く立ち去りたいと叫ぶ俺の心がその声に耳を傾けることを許さない。 俺はそのまま女の横を掠めて後ろの出口へと向かう。後ろの方で空席を探っていたらしい人だかりが俺の顔を見てさっと道を開ける。余程恐ろしい顔をしているんだろう。

「お、おい!待てよ!」

 意外にも智一が追いかけてきた。てっきりあの女と並べて座れることで喜んでいるのかと思ったが。・・・こいつまでどす黒く見えてしまう今の俺は、憎しみの炎に焼き尽くされて変質してしまったようだ。

「どうしたんだよ、お前。彼女と何か・・・。」
「五月蝿い!言うな!」

 智一があの女に触れそうになった瞬間に、俺の中の黒い炎が爆発する。俺はその勢いで講義室を出て行く。智一は止めようとしたようだが、それより俺が飛び出すのが早かった。あの講義が聞けないのは惜しいが、兎に角あの場から立ち去らないと、多分手は出さなかったにしても何を口走ったか判らない。
 俺は講義室から離れた広場のような場所まで、ほぼ一直線に突き進む。刈り込まれた芝生の上に俺はどかっと腰を下ろし、膝を立てて顔を埋める。先程まで荒れ狂っていた憎しみの炎はすっかり消え、代わりに何であんな乱暴なことをしたんだろう、という猛烈な後悔の雨雲から降り注ぐ、黒い煤を含んだ豪雨が胸に染みてくる。ささくれ立ち、罅割れだらけになった俺の心には、この雨粒は大きくて痛くて・・・そして冷たい。

それから暫く、俺の中で時間の感覚が消えた・・・。

雨上がりの午後 第12回

written by Moonstone

「おい、祐司。お前、彼女と知り合いなのか?」

 背後から智一が小さい声で話し掛けて来た。その女の表情が変わり、俺の動きが止まったことで何かを感じ取ったらしい。全く抜け目が無いというか敏感というか・・・。もっとも大方、女嫌いのような口を利いていた人間に美人の知り合いが居たということで抱いた、芸能レポーターのような下世話な興味だろう。
 そう、俺の目の前に居る女は客観的に見て美人と言って良い。大抵の男なら一瞬でも気を取られて不思議はないし、多少勇気や自信がある男なら迷わず声をかけるタイプだ。だが、俺にはそんな事は何の価値も無い。むしろ、その見た目で数々の男を狂わし、弄んだのかと思うと虫酸が走る思いだ。

1999/10/20

 昨日までより表示までの時間が短縮されたかと思います。ご覧のように、7日分のみ表示するようにしましたので、連載では第4回までが消えてしまいました。「げ、忘れちまった」という方も11月7日(次次回の定期更新予定日)までお待ち下さい。何故かは・・・この話を毎日チェックされているリスナーならもうお分かりでしょう(^^)。

 「芸術創造センター」は客員の第1CGグループを除いて、全てのグループを自前で準備しているという珍しい(意固地な?)webページです。これは投稿を受け付けない、というのではなく、積極的に募集していないということです。投稿が連載であったり複数集まったりすれば客員グループを設置します。エヴァSSは既に彼方此方の有名ページで投稿コーナーが存在するので、当ページではオリジナル作品の投稿を特に重視したいと思います。自信は二の次、兎に角自分の作品を世に出したい、と思われる方は是非ご連絡下さい。投稿要綱に関しては追って「Moonlight」紙上で発表する予定です。
そんな生き物に甘い顔をするから、良いように弄ばれるんだ。
そうだ。そんな生き物を愛した俺も悪い。
恋愛なんて愚の骨頂だ。女を憎むんだ。
そうだ。憎めば愛することはない。

 焼き尽くされた心の荒野に、女に対する憎しみだけが残る。そしてその憎しみは瞬く間に膨れ上がり、巨大な暗黒の牙城を形作る。心の燻りを疎み、何時までも思い出の残像に振り回される自分に感じていた嫌気も何処かに消え失せ、牙城の建設に喜んで手を貸す俺が居る。それがさも当然だと誇らしげに思う俺が居る。
そしてまた別の声が、地の底から響くようなあの声とは違い、蹲って泣く小さな子どものような声が聞こえてくる。もう敗者になるのは御免だ。敗者になりたくなければ恋愛という戦いを拒否することだ。俺は失恋という敗者が舐めさせられる辛酸を二度と味わわない為に、強固な牙城に立て篭もることで恋愛を拒絶することを選んだんだ。そうしないとまた・・・同じ目に遭うだろう。否、そうに決まってる・・・。悲しげにそう呟く声が聞こえてくる。
愛の断片を燃料とする憎しみの炎を煽り立てる声と、恋愛という戦いで傷付くことを恐れて自分を庇う声が、俺の心の中で忙しなく入れ替わって自己主張を繰り広げる。

「・・・い、おい、祐司。」

 肩を叩かれ、何度も呼ばれて俺はようやく我に帰る。周囲は殆ど人で埋まっている。心の奥に意識が溶け込んでいた間に、相当の時間が過ぎたらしい。

「な、何だよ。」
「何だよ、じゃねえよ。ぼうっとしやがって。ほら、詰めてやろうぜ。」

 智一が小さく顎をしゃくる。通路の方を見ると誰かが立っている。出遅れたのか席がいっぱいで、僅かな空白に入り込もうとしているんだろう。俺は奥側に詰めようと少し腰を浮かし、ふと席が空くのを待つ人間の方を見て・・・思わず声を上げそうになった。

「・・・!」
「・・・あ、貴方は・・・。」

 そこに居たのは、そう、俺の顔を見て2度も驚いたあの女だった。その女は三度驚いている。俺の顔を見て驚いたのか、それともまた会ったことに驚いているのか?どっちにしても、俺にはどうでも良いことではあるが。

雨上がりの午後 第11回

written by Moonstone

 何時の間にか胸の奥の声は俺と一体化してしまっていた。黒い炎が更に大きく強く燃え盛ると、俺の胸に残っていたあの女との思い出の断片をも焼き尽くし、黒い消し炭へと変えていく。アルコールや思い出の品の徹底的な破壊でも消し去れなかった思い出が、見る見るうちに偽りの偶像という烙印を押され、火炙りにされていく。魔女狩りと呼ぶに相応しい。

俺は何も悪くない。
そうだ。俺は悪くない。
あの女は俺を裏切って苦しめた。
そうだ。あの女は許されざる裏切り者だ。
思えば俺がどんなに真剣な気持ちになっても、女達は悉く舌を出して嘲笑って走り去ったじゃないか。
そうだ。女はそういう醜い生き物だ。

1999/10/19

 身体、まだ痛いです(T_T)。くしゃみするだけで脇腹が痛い(ToT)。もうそろそろ治って欲しいなぁ・・・。おまけに頭も痛いし・・・ってこれは別の原因。急に寒くなりましたので、皆様、くれぐれも風邪にはご注意を。

 昨日の更新でこの話のファイルサイズが30kBを超えました。回線の込み具合にも依りますが、ダイアルアップだとかなり辛い量です。このままだと31日には50kBを超える可能性が高く、リスナーの皆様に多大なご迷惑とストレスをかけることになるでしょう。
 よって今日、連載開始の10/10より前の話を消去しました。また、これから1週間(7日分)分のみ表示するようにして、以後順次1日ずつずらしていく方式とします。今日宣言していきなり連載当初が無くなるのはちょっと・・・と思い、1週間分のみの掲載は明日からにします。テキストといえど大きくなるとロードに時間が掛かるということは、ローカルだと見落としがちですが大事な要素だと思います。CGが小さいのはロード時間を軽減する為です(一部言い逃れあり ^^;)。

「なあ祐司。あの娘達なんてどうだ?」

 智一が俺の左肩を叩いて俺の右側を指差す。見ると数人の女が前後の席に座って喧しく騒いでいる。まだ講義前だから喋っていても全然問題はないが、今の俺には女が目に入るところで笑っているだけで無性に腹立たしい。自分が嘲笑われているような気になるからだ。
こんな事、八つ当たりでしかないことは自分でも分かっている。だが、俺の胸の奥で「俺を苦しめたのはあれと同じ生き物だ」「あの生き物を憎め。憎んで憎んで憎み倒せ」という声がガンガン鳴り響いている。

「特に前の方のストレートの娘。なかなか美人だぞ。」
「・・・美人でも頭の中と腸(はらわた)は腐ってるぜ、きっと。」
「おいおい。えらい言いようだな。」
「着飾って化粧してそれらしく振る舞ってれば、本性を幾らでも隠せるからな、女って奴は。」

 俺は胸の奥の声に煽られて吐き捨てる。すると心で燻っていたものが興奮へと変化していくのを感じる。胸の奥の声は悪魔の囁きとでも言おうか。
智一の方を見ると、当然のようには怪訝な顔をしている。前から女の話にはあまりノリが良くなかった方だが、こうも露骨に嫌悪すれば当然だろう。

「お前・・・、何かあったのか?」
「別に。」
「そりゃあ自分で嘘って言ってるようなもんだぜ。顔にそう書いてある。」
「・・・ああ、そうかい。」
「意中の女に彼氏が居たとかってやつか?」
「違うね。俺は真理に目覚めたんだよ。」
「へ?」
「お前も痛い目に遭う前に目覚めた方が良いぞ。色恋沙汰で泣かされるのは男なんだからな。」

 ・・・何時の間にか、女は憎むべき存在だと認識している俺が居る。それが当然だと確信している俺が居る。胸の奥から「もっと憎め」「もっと憎め」と煽り立てることが聞こえる。そしてそれに応えて俺は黒い炎をさらに強める・・・。もう、止まらない。

雨上がりの午後 第10回

written by Moonstone

 隣に居るのは伊東智一(ともかず)。俺と同じ学科で同期、所謂クラスメートてやつだ。高校までとは違って大学ではクラスで纏まって何かする、って機会は学園祭くらいしかないから気の合う者同士以外との繋がりは希薄になり易い。元々人付き合いの苦手な俺には、独りで居ようと思えばそう出来るからこちらの方が都合が良い。
 智一はどういう訳かこいつの方から俺に話し掛けてきた。やけに陽気で人懐こい口調に最初は辟易していたが、何時の間にやら講義で並んで座って、学食を食べる間柄になった。こいつに言わせれば俺は「面白い奴だ」というが、俺にしてみればこいつの方がはるかに面白い。だが、智一も人を選ぶというか・・・付き合いは狭い方だ。俺に見せる態度からは想像もつかない。こいつが言うには「面白味のない奴はつまらん」からだそうだが、こいつより面白い奴というのは無理な相談だと思う。・・・じゃあ俺は何なんだろう?

1999/10/18

 首の痛みは消えました(^^)。でも今度はそれ以外が痛い(T_T)。筋肉痛が一日遅れで出て来た格好です。動かす度に身体の彼方此方が軋む感じです。ああ、日頃の運動不足が祟ったなぁ・・・。やっぱりもっと外へ繰り出す機会を増やさなきゃ駄目でしょうか?PCの前で考えているだけだと、煮詰まるのが過ぎて焦げ付きますからね(^^;)。
 この話のリスナー(ここでは敢えてこう称します)が500人を突破しました(^^)。連載を始めてからリスナーの伸びが増えたようで、連載開始によって基本的に毎日更新という利点を多少なりとも生かすことが出来たかな、と思います。
「500人目を踏みました」というご連絡も戴きました。こういうご連絡はこの話に限らず歓迎いたしますので、メールや掲示板でお知らせ下さい。ここでのメモリアルには何をしましょうかね・・・。「人生相談」なんて出来るほど大層な人間じゃないし、ろくなアドバイスしないと思うし(^^;)。
実際、2コマ目からということで余裕を持って来た筈が、既に半分以上の席は埋まっている。特に前の方の席は完全に埋まっている。後ろの方から埋まっていくという着席の「常識」とは全く逆だ。同じ学科の奴が数人抽選に落ちて別の心理学講義を取ったが、これがまたつまらないくせに出席を取りたがるとぼやいていたことを思い出す。きっとそいつらは後ろから座っているに違いない。

「おーい、祐司(ゆうじ)。」

 前の方から俺−安藤祐司−の名を呼ぶ声がする。見ると、中程の席でこっちを向いて手を振っている奴が居る。俺は無視する理由もないのでそいつの方へ向かう。ご丁寧にもそいつは通路に面する席に座っている。丁度黒板が中央に見えるベストな位置だ。

「オッス、御無沙汰だな。」
「昨日休んだだけで御無沙汰かよ。」
「まあ固い事言うなって。」

 そいつは一つ奥側にずれたので俺は空いた席に座る。鞄を狭い机に放り投げるように置くとそれを目ざとく観察していたのか、隣の奴が話し掛けてくる。

「随分ご機嫌斜めだな。何かあったのか?」
「・・・別に。」
「ま、あんまり気にしないこった。酒でもガーッと飲んで、ゴーッと寝ちまえばすっきり忘れられるぜ。」

 それは実際やった!・・・と叫びそうになるところでどうにか抑える。それでも忘れられなかったことが余計に無様に思えて仕方がないからだ。普段なら気にならないこいつの気さくさが、今は単なるお調子者の悪ふざけに思える。・・・何もかもがどす黒く見える。俺は完全に歪んじまったようだ。それが余計に嫌に思える。

雨上がりの午後 第9回

written by Moonstone

 翌日。アルコールの抜けた俺は大学に出向く。まだ体の芯に気だるさが残っている俺としては、2コマ目からというのは有り難い。工学部ってのは2年までに教養科目の単位を取っておかないと、3年への進級時に事実上留年が決まっちまうシステムなので、結構講義のコマは詰まっている。文学部とか法学部とかは3年の終わりまでで良いって話を前に聞いたが、羨ましいと思うと同時に不公平じゃないか、とも思う。
 最初の講義は心理学だ。この講義は話が面白いと人気があって、教養課程棟の一番大きい講義室の最大収容人数を上回ったので、申請時に抽選を行ったくらいだ。

1999/10/17

 うがぁ・・・。首が痛い(T_T)。滅多に運動しない人間がいきなり動かすとこうなります(^^;)。準備運動は首も忘れちゃいけないようです。そんな訳で、今日の更新は(臨時ですが)小規模です。・・・言い訳ですね。第2創作グループは次で更新しないと2ヶ月ほったらかしだし・・・あうあう(-o-;)(-_-;)。

 このコーナーで連載を始めてから、かなり重たくなってしまいました。擬似サーバーで試しても表示までに結構間がありますから、ダイアルアップの方にはご迷惑をおかけします(_ _)。この分量でも1週間で結構大きくなるものですね。・・・既存コンテンツも毎日少しずつ創っていけば良いのか(今更)。

「・・・俺の顔に見覚えでもあるの?」
「・・・あ、貴方がどうして此処に・・・?」
「はあ?!」

 店先にもかかわらず、俺は大きな声で聞き返す。見覚えのない女に驚かれ、その上此処に居るのが意外なようなものの言い方に、胸の蠢きが増してくる。

「あんた、さっきコンビニでも会ったよな?」
「・・・え、ええ。」
「一体何のつもりか知らんが、人の顔見て何度も何度も驚くな。そんなに珍しい顔してるか?」

 俺は無意識に声を荒らげる。2回も驚かれたのも勿論あるが、やっぱり・・・あの女と同じ「女」っていう生き物だというのがあるんだろう。八つ当たりといえばそれまでだが、燻っていた感情に一旦火が着くとどうにも止められない。

「これだけは言っておくがな、俺はあんたに見覚えはないし、驚かれる覚えもない!全く・・・何だって言うんだ!」
「・・・人違いでした。すみません。」
「ふん!」

 一転して神妙な顔で小さく頭を下げる女を無視して、俺はその女に背を向けて足早に立ち去る。全く忌々しい。やっぱり俺には女運ってものがないということか。悪いことには悪いことが重なるものだ。この世に神様とやらが居るんなら、何でこうも不平等なんだ?神の前では人は平等だなんて、口からでまかせだとしか思えない。

雨上がりの午後 第8回

written by Moonstone

 女は信じられないというような顔で俺の顔を見ている。こっちの方が信じられない。俺の顔を2回も見て、2回とも驚くんだから。そんなに俺の顔が珍しいか?それとも交番の掲示板に張ってある「この顔に・・・」の写真によく似てるとでも言うか?・・・多分、それはない筈だ。だが、自分の顔を見てまるで幽霊にでも出くわしたように驚いて立ち尽くされては良い気分はしない。

1999/10/16

 ・・・今日はお話することが思い浮かばないので、連載を拡張してお届けします。今日で丁度1週間です。よく3日坊主にならなかったな・・・(^^;)。
 本屋はコンビニと違って意外に人が多い。この辺りで夜遅くまで営業している書店というのは少ないし、雑誌類なら立ち読みも出来るから暇つぶしにはもってこいだ。店内は最近の流行というのか横にだだっ広くて、売れ筋や何とか出版社のフェアとやらで平積みの本が最初に出迎えるが、表紙が厚い本は読む気がしない俺はそれには見向きもせずにやや奥まった「音楽」のコーナーへ足早に向かう。
 目的の雑誌は・・・あった。まだ数的には余裕がある。買うことは決まっているが一応どんな内容なのかぱらぱらと眺めるのはいつもの習慣だ。俺の趣味はギターだ。中学時代にとあるバンドに憧れて衝動的に親に強請って買ってもらったのがきっかけで、高校時代にはクラスメートとバンドを組んでいた。学園祭では結構人気があったと自負している。実際、彼女と付き合い始めたのも・・・そうだ、あの女から言い寄って来たんだったな・・・。
 アルコールで残骸になった筈の記憶がすぐさま復活してくる。何てしつこいんだ。もう良いだろう?何処まで俺を苦しめる気だ?もう、お前は俺とは無関係なんだろう?!いい加減にしてくれ!!
・・・俺は開いていた雑誌を閉じるとそれを持ってさっさとレジへ向かう。自分でも分かるくらい足の回転が早い。あの顔をまた思い出した自分に腹を立てていることが分かる。恋愛ってのは終わっても尚手枷足枷となって引き摺らなければならないわけだ。もっともそれは、敗者だけに課せられる罰ゲームだろう。勝者になったことは今の今迄ないから、振った場合はどんな気持ちなのかは知らない。まあ・・・恐らくは清々するんだろう。一度で良いから、俺も勝者になってみたいもんだ。

 暇そうにしていたレジの女に近付くと、女は慌てて営業スマイルを浮かべる。店の教育なんだろうが、今の俺には忌々しくさえ思える。あの女が見せていた笑顔も営業スマイルだったかと思うと・・・。駄目だ。俺の精神は相当歪んでる。
 金を支払うと俺はさっさと出口へ向かう。外へ出れば何かのきっかけであの女のことが脳裏に浮かんでくる。何故だ?あの女は「身近な存在」とやらに乗り換えて俺を塵屑のように捨てたんだぞ。それでもまだ俺はあの女に未練があるって言うのか?!・・・冗談じゃない!!
 俯き加減に自動ドアの前に立つと、一瞬の間を置いてから開く。俺が店を出ようとした、まさにその時だった。

「・・・あっ!」

 聞き覚えの或る声に顔を上げると、正面には俺と向かい合って驚きの表情を見せる女が立っていた。コンビニで人の顔を見ていきなり驚いたあの女だ。

雨上がりの午後 第7回

written by Moonstone

 俺が自分でも分かるくらい眉間に皺を寄せていると、その女は口に当てていた手をゆっくりと退けて、改めて俺の顔をまじまじとみる。どうも俺の顔に見覚えがあるらしいが、どれだけ記憶の引き出しを探っても、俺にはその女に関する記憶はない。恐らく他人の空似ってやつだろう。この世には自分に似た顔の奴が3人は居るっていうが、意外に近くに居たりするのかもしれない。

「1316円です。」

 バーコードリーダーを品物に当てていたレジ係の若い男がちょっとぶっきらぼうな感じで言う。俺は財布から1500円を取り出して差し出す。

「2840円です。」

 隣のレジ、つまり俺の顔を見て驚いた女が居る方もレジ係の高校生風の女が無表情に言う。女はジーパンのポケットから財布を取り出す。

「184円のお返しです。」

 レジ係の声で俺はその方に向き直り、小銭だらけの釣り銭を受け取って財布の小銭入れの部分に無造作に放り込む。袋に入った食べ物を受け取ると俺はさっさとその場を立ち去る。買い物を済ませればもう用はない。俺は女の後ろを通り過ぎて出口へ向かう。
 自動ドアが開いて俺はコンビニを出る。次はここから目と鼻の先にある本屋へ向かう。大学生といっても俺が本屋で買うのは雑誌かコミック本が関の山だ。一応俺は工学部なんだがまだ教養課程というのもあるし、字が多い本は読んでいると眠くなる。今日は月刊の音楽雑誌を買いに行くつもりだ。発売日から数日過ぎているが、売り切れを心配する必要はあまりない。

1999/10/15

 このところ兎に角眠いです(-o-)。作品製作がかなり過密していて、深夜までPCの前で唸っていますから当然でしょう。毎日1編ずつ公開できるくらい景気良くキーボードを叩ければ良いのですが、そんなに上手にことは運んでくれません。1時間PCの前に居て1行しか進まないなんてこともあったりします(^^;)。このところ作品製作が停まっていますが、寄稿用の作品を製作している為です。来週の更新はちょっとキツイかな・・・。

 「Moonlight PAC Editon」の最新号(第10号)でも書きましたが、客員(戴きもの)しかない美術部門に自前のグループとして第1写真グループを持とうと考えています。題材は風景写真です。ここでは以前にもお話したと思いますが、上手く行けば今年度中に立ちあげるつもりです。上手く行けば、というのは要するにお金の問題です。カメラ、持ってないんです(^^;)。まあ、使い捨てカメラでも良いかもしれません。スキャナ買ったし。

雨上がりの午後 第6回

written by Moonstone

 アパートを出ると、思わぬ冷気に身を縮こまらせる。昨日の晩は暑さ寒さを感じる余裕なんてなかったし、今日も昼間は家で寝てたから分かる筈もないんだが、もう季節は白秋だ。太陽が近付いたんじゃないかと思うくらい今年の夏は暑かったし、暦の上で秋だと言っても冗談としか思えない日が結構長く続いた。けど、何時の間にか冷気と感じるほどになっている。・・・ずっと続くと思っていた夏が何時の間にやら終わってた・・・まるで、今の俺みたいだ。
 コンビニは俺みたいに料理はからっきし駄目で覚える気もさらさらない人間には、便利な冷蔵庫とも言える。食いたいものは大抵揃っているし既に調理済みだ。自炊だとこうはいかない。何の用があるのかと思うくらい−俺も人のことは言えないが−コンビニには何時でも誰か居る。今日は時間の割に客は少なめだ。俺は手頃におにぎりやサラダなんてのを買い込んで買い物篭に放り込んでいく。余った分は冷蔵庫に放り込んでおけば良い。どうせペットボトルくらいしか入ってやしないからスペースには余裕がある。
 レジへ行くと先客が居た。・・・女だ。ちょっと茶色がかった長い髪、白い長袖シャツにジーンズ。普段着ってやつだ。俺はもう一つのレジに立つ。丁度その女と隣り合う位置だ。

「・・・あっ!」

 不意に何か驚いたような声がする。その声は隣の女が発したものだった。その女は口を押さえ、目を大きく見開いている。・・・だが、俺はその女に見覚えはない。一体何だ?こいつは・・・。

1999/10/14

 第1SSグループで連載中の「マヤちゃん、ふぁいとぉ!」の第1弾、「ねるふ・くえすと」は大魔王ゲンドウ殲滅により事実上、勇者(マヤ)達の旅は終わりました。この次回作の構想は既にあります。今度はゲームの要素を盛り込んで、分岐を持たせてみたいと思っています。選択の仕方によっては「残念でした」に終わるということも・・・(このシリーズでは絶対死人は出ませんのでご安心を)。
 こういう試みは過去にもあったかもしれませんが、ちょっと手の込んだことをして譬え正解のルートを辿ってもすんなりとクリアできない罠を用意しようと考えています。ただ、この試みを実現するにはCGIが使えることが絶対条件です。プログラムは出来ますが(嫌というほどやりましたからね^^;)別料金が掛かるし、サーバーの残り用量も考えると「うーん」と考えてしまいます。CGIも含んで大容量のサーバー・・・なんて都合が良すぎるか(^^;)。

雨上がりの午後 第5回

written by Moonstone

 ・・・再び目を覚ましたら、部屋は真っ暗だった。結局昼間一日眠ったことになる。だけど、全身を包んでいた重苦しい倦怠感はまだ体の芯に残っている。あの女の思い出も・・・頭の片隅にしつこくこびり付いている。酒を放り込むように飲んで何もかも忘れてしまうつもりが、結局酒と思い出は残骸になって尚、俺に纏わりついている。
 枕元の蛍光を放つ時計の針は、とっくに9時を回っている。酒や思い出はしつこく残っていても腹は減る。人間の身体ってやつは正直に出来てるもんだ。この空腹を押し殺してまで不貞寝出来るほど、俺は我慢強い方じゃない。まあ、食って忘れられるならその方が良い。
重たい身体を起こし、部屋の電灯を点ける。雑然としたワンルームマンションの一室に残された、俺の心で荒れ狂った台風一過そのものの様子を露骨に照らし出してくれる。これを自分で片付けなきゃならないと思うと、さらに自分に嫌気が差す。
 昨夜帰ったままの服装は少々皺くちゃだが、夜の街を独りで歩くには差し障りはない。荒れ放題の床を飛び石でも踏むように横切ると、玄関で靴を履く。片一方は底を見せて床でひっくり返っている。情けない気分で靴を拾って、今後は多少行儀良く靴を履く。
目指すは歩いて10分ほどのところにあるコンビニと本屋。しがない男の一人暮らしを支える頼もしいパートナー・・・と言っておこうか。

1999/10/13

 昨日お話した男女のボクシング対決ですが、マスコミは女性称賛一色です。まあ、下手に女性を批判すれば「男女差別」だ、とか言われかねない世の中ですからね・・・。もっと男性が抗議の声を上げても良さそうなものですが、この程度では事を荒立てない「大人」だからでしょうか?

 今日で連載3回目の「雨上がりの午後」。まだ主人公の「俺」の名前すら出てません。「一体何時になったら恋愛が始まるんだ」と言われると非常に答え辛いですが・・・分量を考えるとまだ暫く先でしょう。「恋愛もの」ということでアツアツな話を期待された方には申し訳ないですが、こういう話ですのでご了承ください(_ _)。

雨上がりの午後 第4回

written by Moonstone

 ・・・翌日、俺が目覚めた時には昼をとっくに過ぎていた。勿論、1コマ目から講義のある大学は自主休講・・・要するにサボリってやつになる。午後からもあるけど、今日はとても行く気がしない。それどころかベッドから出る気もない。身体が猛烈に気だるい。二日酔いというほどのものではないが、全身の筋肉が弛みきったような気分だ。
 あれから俺は自動販売機で缶ビールを買いあさり、自宅で全部飲み干してしまった。アルコールの耐性は人並みというか、缶ビール1本で身体が軽くなったように感じるくらいだ。なのに床に散乱している空缶は軽く10本以上・・・。ここまで飲んだなんて、大学に入って始めてのコンパ以来だろう。
空缶に混じって、酒の肴の残骸がこれまた派手に散らばっている。酒の肴とは・・・そう、「思い出の品」ってやつだ。写真だの手紙だのプレゼントだの、思いつくもの全てを引っ張り出しては破り、千切り、叩き壊した。酒の肴を食い散らすにしては下品という他ない有り様だ。
 ま、何にせよ、これであの女を吹っ切れる・・・。俺をキープしておいて、用が済んだらポイ捨てしやがって。何時か「振るんじゃなかった」って思わせてやる。恋愛番組で「やり直したい」なんて言って来ても「今更遅い」って言ってやる・・・。
・・・小さな溜め息が音もなく出る。空しい。どんなに強がってみても、この空しさは全然消えない。結局俺は振られたんだ。その事実はどう足掻いても覆せない。
こんな気分は・・・もう沢山だ。こんな情けない、哀しい思いをするくらいなら・・・もう、恋愛なんてまっぴらだ・・・。
俺は、周囲が急に熱くなってきた目を右腕で覆い隠す。

1999/10/12

 この3日間、殆どPCの電源を入れっぱなしでした(^^;)。余裕のある時に一気に作り込まないとまた更新間際でバタバタする羽目になりますからね(10/10更新分ではかなりの誤字を指摘されました)。このところそんなのばっかりですし。

 徹夜したこともあって早朝からニュースを聞いていた(目はCRTを向いている)んですが、その中でボクシングで男女対決というものがありました。ちょっとテレビを見てみると・・・体格が全然違う!男性の方は騎手と兼業なせいか小柄で連敗中、対して女性の方はチャンピオンで筋肉質・・・。こんなのやる前から勝負は見えてるんじゃないか?
 で、案の定というか、勝負は女性の判定勝ち。女性の方は「夢が現実になって嬉しい」「もっと強い相手と戦いたい」とか何とか言ったそうですが、次は是非、現役ヘビー級と戦って欲しいものですね。この勝負、女性が男性より強いということを示す為のショーだったとしか思えません。まあ、女性上位の先進国アメリカらしいというか・・・そんな思いです。

雨上がりの午後 第3回

written by Moonstone

 その時は俺も必死だった。高校時代に手に入れた夢の世界を手放したくなかったから、何とか「身近な存在」に傾きかけた彼女の心を自分の方に引き寄せようと躍起になった。これまで割り勘が当然だったのを俺一人で支払ってみたり−この時、あの女から「ありがとう」の一言もなかったよな−、デートをエスコートしたり・・・。
それであの女の気持ちは、表面上自分の方に再び傾いたように思えた。けど、その時から今までの時間は、あの女が「身近な存在」とやらに完全に乗り換える猶予期間だったわけか・・・。
俺も・・・とことん馬鹿にされたもんだ。女は一度気持ちがぐらついたら修正は出来ないっていうけど、まさにそのとおりだったって訳だ。
 暗い夜道は人通りもなく、昼間は何故こんなに多いと訝ってしまうほどの車の量だが今は全くない。不気味なくらい静まり返った空気に、俺の足音が何かを打ち鳴らすようによく響く。空っぽになった心だから余計によく響くように感じるのかもしれない・・・。
通り沿いの家やマンションの灯りも大半は消えている。白色光を投げかける街灯が一定の間隔で闇を切り抜いている。
白と黒だけの世界・・・。今俺の目に映るのはそんな世界だ。心で感じる世界は・・・白黒が交じり合って灰色に感じる。セピア色なんて上等なものじゃない。今までの薔薇色の思い出は急速に色褪せ、何もかもが忌まわしくさえ思える・・・。そんな自分も忌まわしい。

1999/10/11

 昨日から右側で始まった連載なんですが、展開をどうするかは大体決まっています。ただ、ここではあまり難しいこと−他のコンテンツでは半ば「常識化」している人物の考察とか−は極力控えるつもりです。シリアス度は・・・これも初っ端から結構高めですね(^^;)。でも、いきなり甘い展開を始める事がし辛い体質なので、この点はご容赦ください(_ _)。
 日中殆どは作曲と編集に費やしました。一つは久しく更新していない(問題だ)第1音楽グループ公開予定のもので、もう一つは寄贈をお約束しているものです。「この長さでこんなにてこずったのか?」と思われるかな〜(^^;)。ちなみに後者は4/1以来更新していない(大問題だ)第2音楽グループ関連の作品です。

雨上がりの午後 第2回

written by Moonstone

 彼女・・・否、あの女が俺と別れたいと思っている事は、2、3ヶ月前から薄々感じていた。
高校時代から付き合っていた俺達の関係は、俺が大学進学と同時に親元を離れ、あの女が親元から短大に通うことになって間もなく、少しずつずれ始めていたのかも知れない。
所謂遠距離恋愛ってやつが難しいということくらい、いろんな情報から知るだけは知っていたから、俺としては自分でも不思議に思うくらい、まめに電話をしたつもりだ。
週6日のバイトの帰り、午後10時過ぎにあの電話ボックスから電話をかけていたなんて、ずぼらが性分の俺にしてみれば驚異的な事だ。
何故か電話は俺からかけるというのが、暗黙の了解になっていた。今にしてみれば、それもあの女からの別れたいという暗喩だったのかとさえ思える・・・嫌な奴だ、俺って。
ちなみに電話ボックスからかけていたのは、生憎自宅アパートの電話は親の名義のままなので、毎月の口座引き落としで急に増えた電話料金と使い道に突っ込みを入れられる事が嫌だったというのが理由だ。
 だけど、過ごす時間が初めて大きくずれることは、どうしようもなかった。過ごす時間が違うと違う付き合いが生まれるし、それに費やす時間が増えてくる。
俺は元々付き合いは深く狭く、というのが性分なんだが、あの女は俺と違って・・・言うなら「出来るだけ広く、出来るだけ深く」というところか。
それに・・・良く言われるように、女ってのはどうも「身近な存在」に惹かれるらしい。
以前久しぶりのデートの時、唐突にあの女がわざと別れたいような素振りを見せて「疲れた」と言ったが、その時に「身近な存在」を匂わせるような事を口にした。

1999/10/10

 定期更新と同時に横に大きく広がったこのウィンドウで、いよいよ新連載を開始しました。ちょっと不格好ですが縦に長くなると連載を読み直す時おっくうだろうと思いまして、左側に今までどおりのこのお話、右側に連載を乗せるという形式にしました。
毎日、この話と同じかやや長いくらいのペースで書き進めていきますので、展開はゆっくり感じられるかもしれません。気長にお付き合い下さればと思います。あと、このコーナーは1ヶ月毎にクリアされますが、連載はある程度纏まり次第、新グループとして単独公開しますので、展開を忘れてしまっても安心です(笑)。
 何処にでも居そうな人物が織り成す交流と衝突、やがて芽生える愛・・・。そんな話を書いていきたいと思っています。変則的な始まりとなりましたが、「雨上がりの午後」も他の文芸作品と同様、よろしくお願いいたします(_ _)。
 それでは、右側の薄いグリーンの部分をご覧ください。

雨上がりの午後 第1回

written by Moonstone

「・・・何でまた・・・そんなこと・・・。この前会って・・・。」
「御免なさい。でも・・・もう疲れたのよ。」
「・・・そうか。・・・じゃあ・・・さよならっ!」

 深夜の電話ボックスに荒々しく受話器が叩き付けられる音が響き、人の気配が消えた深夜の空気を震わせる。
自分の感情など知る由もない電話機は、お決まりの文句で挨拶を述べてテレホンカードを吐き出すが、それすらも今の俺には忌々しく思えて仕方がない。
譬え、それが単なる八つ当たりでしかないとしても・・・行き場のない感情をどうにかしないと収まらない。
俺はテレホンカードを引き抜くと、力任せにくしゃくしゃに握り潰す。
もう何枚目か忘れてしまったこのテレホンカードは、まだ買ったばかりで度数も半分以上は残っていたと思う。
だが、もうこんなテレホンカードの世話になることもないと思うと、清々するくらいだ。
・・・そうとでも思わなきゃ、どうしようもない。
 俺は変わり果てたテレホンカードを放り捨てると、電話ボックスを出て家路へと向かう。
暫く歩いて交差点に差し掛かったところで、徐に電話ボックスを振り返る。
ここ数ヶ月の間、毎日のように利用して来たあの電話ボックスは、意外に利用する人が少なくて、待ったり待たされたりする事が殆どない穴場だった。
だが、今日を以ってあの電話ボックスは安らぎのひとときを齎してくれる場所から、忌々しい思い出の記念碑になったんだ。
永遠に続くと信じていたこの恋が、あの場所で終わったから・・・。

1999/10/9

 明日定期更新ですが、それに併せてこの場である試みを実施します。その試みとは・・・

小説の連載です(本当)。

 このお話が基本的に毎日更新である点を利用して何か出来ないか考えている、ということは前にもお話したと思いますが、考えた結果、「毎日少しずつ進む小説」を始めてみようと思いついて、今回の実現にいたりました。
このお話を聞いてくれている方にだけ、いち早く紹介しますと、タイトルは「雨上がりの午後」といいます。内容はオリジナルの恋愛もの(本当)です。既存コンテンツとは全く関係ありません。
明日から早速開始しますので、是非毎日チェックして下さいね!(^o^)

1999/10/8

御来場者15000人突破しました〜!(歓喜)

 ・・・今日は頭痛が酷いので、ご挨拶だけです(_ _)。

1999/10/7

 帰宅したら寝てました(^^;)。電話のコール音で一度目を覚ましただけで、5時間ほどぐっすり。睡眠不足ってやつですが、寝られるだけましでしょう。でも、こうして製作が遅れてしまう・・・(^^;)。まだ、ぎりぎり間に合う結果になるんでしょうか?

 このお話をしている段階では未確認ですが、もうすぐ当ページも15000を迎えます。結構順調に御来場者数が増えるようになってきました(^^)。数十万単位の人気ページには遠く及びませんが、コンテンツを少しずつでも充実させていきますので、宜しくお願いします(_ _)。

1999/10/6

 先月から延々と続いていたプログラミングは、どうにか無事に終わりました(歓喜)。ここまでの遠い道のりは、決して一言では語れません。そう、あれは・・・(以下略)。終わったと思ったら、今度はこれまで止めていた本業が待っていたりして・・・(T_T)。何時になったら平穏な日々が訪れるのやら(ないかもしれない)。

 今回習得したwebプログラミングで、基本的なCGIは構築できる自信が付きました。使用しているサーバーに依りますが、「感想用メールフォーム」は簡単に実現できるでしょう。当ページに御意見、御感想を寄せて頂く手段としてはメールと掲示板がありますが、メールだと起動がおっくう、掲示板だと人に見られるのが嫌、という方も居られると思う(実は私もその一人)ので、このシステムは設置したいところです。
現在、予算を検討中ですので、決まり次第「Moonlight」でお知らせします。

1999/10/5

 今日のお話は昨日の続きですので、まだの方は先にそちらをご覧ください。

 どうにか作った曲をGM(General MIDI)に変換する・・・というのも、最初はGM対応音源で作らないからです。最初は所有のシンセ最大5台を組み合わせて作ります。全て異なるメーカーで、半数は海外メーカーです。同じ楽器の音でもメーカーによって異なるので、それらを組み合わせて音に厚みを持たせたりしています。
 GMファイルに変換するのは直ぐですが、そのままでは使えません。まず、リズム音の配置が全く違うので、一音一音GM用に入れ替えます。そして、GMシンセで音がちゃんと出るようにボリュームやベロシティ(鍵盤を押す強さ)を調整します。これをしないと、全く聞こえない場合があるんです(^^;)。

 ・・・という経過を辿ってようやく日の目を見るのですが、変換前後で聴いた感じが違うものもあります。該当する音がない、ということで削除したものもあります。「瀑布」のラストにあった爆発音のSEがそれです。原曲(変換前)はSEを自分で作ったので、やむを得ない事かもしれませんが・・・。

1999/10/4

 結局、予定は実現しませんでした。期待されてた方、すみません(_ _)。曲を創り始めたら途中で止まらなくて、明け方まで続けたところで床についたら昼過ぎだった、と。・・・ま、そういう訳です(^^;)。

 曲を創るというのは、同じパターンで量産できる某氏と違い、私には一大事です。珍しい場合を除いて、断片的なフレーズやリズムの一部、或いはメロディラインだけしか思いつかないので、それを手がかりに創っていきます。勿論、そんなに簡単に行く筈はありません。行けるなら音楽グループは今頃、二桁の作品数を誇っているでしょう。実際、あるパートの体裁を整えるまでで行き詰まる方がずっと多いです。
 で、一旦軌道に乗るとと一気に突き進みます。昨日深夜からの状況はまさにそれだったわけです。途中で止めると、浮かんだフレーズが霧散してしまうので、兎に角鍵盤を叩いて入力します。細かい修正は時と場合によりますが、一音一音なので結構根気が必要です。GM(General MIDI)にするには別に変換作業が要るのですが、これがまた・・・(^^;)。続きは明日にでも。

1999/10/3

 寝たり起きたり・・・というと、「とっても病弱な薄幸の青年(大嘘)」ですが、結局のところ、「久しぶりの眠気に身を委ねるままに寝てしまった(笑)」のです。その間を縫うように寄稿用の原稿を仕上げました。そのため、今週の臨時更新は小規模です。戴いたCGは凄く奇麗なリツコです。是非第1CGグループへ!

 本当は第1SSグループの作品もこの話の更新と同時にアップする予定だったのですが、上記の理由(?)で見送りました。引き続き執筆しますので、順調に行けば、昼間にでも第2回目の更新としてアップします。
・・・順調に進んだ試しがないけど(苦笑)。

1999/10/2

 昨日アップする時トラブルがあったらしくて、大きなフォントで「転送が中断されました!」と出てました。回線が込み合う時間とその前後数分は、きっちり避けた方が良いようです。イメージが絡む時は特に。

 今、心身共に非常に参っています。何が原因かはここではお話しませんが、これだけは言えます。

バブルな時代に社会に出た女は、ろくなものではない!!

・・・今日は以上です。うう、腰が痛いよぉ・・・(T_T)。

1999/10/1

今日で開設から半年を迎える事が出来ました(拍手)!

 このお話も7/1に始めて以来、3ヶ月を経過しました。他愛のない話をするこのコンテンツも、引き続き継続する事が決定しました。これからも気軽な「お茶請け」として御来聴して頂ければ幸いです。
 ただ続けるだけではなくて、ここで何か出来ないかな、と思案しています。日頃公開する作品はとかく大きくなりがちなので、本当に短い短編を書くとか、ここだけの秘密の連載をするとか・・・。それこそ一文節だけでも一月続けると結構な量になりますし、この話を聞いて下さる方だけが楽しめるものにできます。折角カウンタを設けたので、何か特色のある事をしたいと思っています。
 ある程度具体案が纏まったら、「Moonlight」で発表するか、ここでいきなり始めてしまうかもしれません(^^;)。


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