謎町紀行 第82章

西に佇む大学に垂れ込む、嗅いだ記憶がある腐臭

written by Moonstone

 ふう、流石に疲れた…。片道10時間見込みの運転は疲労が溜まる。適時SAやPAで休憩はしてきたけど、それでも少しずつ疲労が蓄積していく。しかも渋滞の連続。何故か事故が彼方此方で起こっていて、余計に時間がかかった。
 すっかり日が暮れた時間に何とかウツミ大橋を渡ったけど、目的地のE県ハルイチ市は更に4時間ほど運転が必要。シャルのサポートがあってもちょっと厳しい。シャルが運転を替わってくれて、助手席で寝入っている間にハルイチインターから降りて、ハルイチ市のホテルに到着したのは23時だった。

「ありがとう、シャル。運転替わってくれて。」
「替わるのが遅かったくらいです。一斉の姿勢を保持することによる疲労の蓄積を甘く見ていました。」
「身体の疲れは横になって休めばなくなるから良いよ。早速だけど、寝させて。」

 良い感じのホテルに着いて安心したことで、疲労が一気に前面に出て来た。食事はSAで済ませているから、歯を磨いておけばひとまず寝る準備は整う。洗面所で歯を磨いて、着替えて出る。浴室が結構広いけど、今日は湯船に浸かったら寝てしまうとしか思えない。

「さ、どうぞ。」

 シャルが掛布団を捲って、ベッドに腰かけて待っていた。シャルは何時の間にかワイシャツネグリジェに着替えている。シャルの服は自分で作っているから、出すのも消すのも一瞬で出来るんだった。でも、僕がプレゼントしたワイシャツは、着たり脱いだりする必要があるのに愛用し続けている。

「今日はゆっくり休んでください。分析結果などは明日の朝でも十分お話しできますから。」
「ごめんね。本当はシャルとしたいんだけど…。」
「義務になったら愛情の確認や体感にはなりませんよ。」

 義務じゃない。僕が毎晩シャルを抱いていたのは、シャルが好きだから。全部見て触れて、動いて動かして、それが受け入れられる愛情関係を確かめたいから。だけど、この眠気には抗えない。シャルの横からベッドに入って横になる。瞬間、強い眠気が噴き出してくる。

Black out...

 翌朝。シャルに起こされてシャワーを浴びてから朝食のためホテルのレストランへ。起きて外を見て初めて分かったけど、海が見える位置にある。そのせいか、ビュッフェには海産物のメニューが目立つ。和洋適当にピックアップして、確保しておいた2人用のテーブル席にシャルと並んで腰かける。

「眠気はどうですか?」
「ぐっすり寝られたから、スッキリしたよ。」
「隣で見ていて、深く寝ているのは分かりました。疲れが取れて良かったです。」

 宿はその地域で捜索する際の拠点になるし、なんだかんだで睡眠で1日の1/4~1/3くらいを使う計算だから、宿に居る時間の大部分を睡眠に使うことになる。シャルはその点を考慮してか、ベッドや布団が良質な宿を意識的に選択しているようだ。こういう気遣いがありがたい。
 食事をとりながら、シャルの説明をダイレクト通話で聞く。ここハルイチ市は、初期のデータベースと分析では候補に入っていなかったけど、これまでの経緯や情報を加えた分析で候補地に浮上してきた。しかも、これまでよりヒヒイロカネが関係している確率が高いと出ている。

『確率の高低は今までもあったと思うけど、シャルが明言するのは初めてだね。それだけ確率が高いってこと?』
『はい。これまでに入手した情報を分析したところ、ヒヒイロカネが存在もしくは何らかの形で関係している確率が高いと推定しています。』
『単刀直入に聞くけど、その根拠は?』
『チンピラマフィアと右翼の巣窟、ヒョウシ理工科大学と同一の学校法人が運営する大学が、此処ハルイチ市にあり、その大学の施設に重大な疑惑-核物質を保管しているのではないかという疑惑が存在するからです。』
『?!』

 ナチウラ市とヒョウシ市にまたがる捜索と推理、そして戦争を展開して、クロヌシという怪物として存在したヒヒイロカネを回収した。その過程で、ヒョウシ市に大学丸ごと核兵器発射施設と化した、否、大学に偽装した核兵器発射施設だったヒョウシ理工科大学で、クロヌシが飼われていた事実を突き止めた。
 ヒョウシ理工科大学は東都大学法学部卒の財務省官僚だったヒョウシ市の前市長が、ナチウラ市とヒョウシ市からなる選挙区選出の元財務相と、財務官僚出身の外資コンサルタントの日本法人社長という財務省の癒着トライアングルで、ヒョウシ市の土地を買い叩いて誘致した大学だ。
 この大学、学生の流入による若年層人口の増加や経済活性化など、鳴り物入りで誘致されたけど、アクセスが不便な土地だから初年度から定年割れ。しかも理工系大学と言いながら安全保障学部だけしかないという支離滅裂なコンセプトもあって、卒業生は就職難に晒された。
 起死回生の策として外国人留学生を大量に入学させたけど、定員という体裁を保つために技能研修である意味偽装入国させた外国人だから、日本語はおぼつかないし、大学で学べる学力もない。日本人学生も日本語が一応話せる程度の差しかない。そんな大学だから、学生は学業じゃなくて悪行に手を染めた。
 飲酒に喫煙-20歳を超えれば別に構わないけど、そんな区別はある筈がない-、空き巣に窃盗、博打にドラッグ、ひき逃げに強姦と犯罪のオンパレード。大学じゃなくてマフィアの巣窟と化した大学は、巨額の財政支援とそれに伴う市民病院の一時休止など、ヒョウシ市の巨大な負債となった。
 元無所属市議の現市長が、元財務相配下の市議の圧力に屈せずに、ヒョウシ理工科大学への財政支援を停止。同時に杜撰な監査や癒着の数々が明らかになって、財務省癒着トライアングルは崩壊した。だけど、大学は相変わらずマフィアの巣窟として留まり続けていた。
 僕とシャルがクロヌシを追ううちに、ヒョウシ理工科大学の地下に巨大な地下空間があって、そこに巨大な水槽と核燃料が保管されていることが判明した。ヒョウシ理工科大学は、度々放言失言を発して問題になった元財務相肝いりで、将来の核兵器発射施設をカモフラージュするためであることも。
 クロヌシは、ヒョウシ理工科大学の地下水槽で核燃料を餌として飼われていた。そして、伝説どおりに海鳴りがする夜に、不用意に海岸に出た人間を捕らえ、労働的あるいは性的な奴隷として酷使していた。元財務相が招聘した、元陸上自衛隊三佐の筋金入りの右翼団体構成員の教授が、偶然発見したクロヌシを核燃料で飼い慣らし、奴隷を狩るための道具としていた。
 これらの恐るべき野望や暗部は、僕とシャルの捜索の過程で続々と暴露され、元財務相や教授は、シャルの工作によって無防備な状態で怒りに燃える群衆の前に突き出され、激しいリンチを受けて病院送り。元財務相は後援会が解散し、所属の与党は離党勧告を出した。経営するグループ企業は警察の強制捜査が入り、未払いの残業代請求など、総崩れの様相だ。
 あの一連の出来事は、元財務相を中心とする癒着と地方自治体を食い物にする構図そのものだった。それがヒョウシ市があるC県から遠く離れた此処E県のハルイチ市と黒いつながりがあって、此処でも核物質保管の疑惑が取りざたされている。学校法人が同一なら、悪さを考える頭も同一になるんだろうか。

『ヒョウシ理工科大学と同一の学校法人が運営する大学は、ナカモト科学大学。こちらは一応複数の学部を擁していて、歴史もそこそこ長く、大学の体をなしてはいます。ただ、大学の評判は芳しくありません。教育研究のレベルが低い、就職実績は一見好調でも、中身を見ると学部学科に無関係な業種や、1人が複数の内定を得たらそれを実績とするなど、粉飾が散見されるなどなど。』
『ナカモトっていうのは、法人の理事長の苗字?』
『いえ、アヤマ市があるO県の都市の名称です。アヤマ市の隣に位置する地方都市です。そこに大学本部や大半の学部があります。』
『O県って、ウツミ大橋を挟んでE県と反対側にある位置関係だよね。そんな大学とハルイチ市とはどういう関係?』
『ヒョウシ理工科大学誘致と同じ、財務官僚の癒着の構図です。』

 ナカモト科学大学とヒョウシ理工科大学は、同じ学校法人が運営する。その学校法人は、ナチウラ市とヒョウシ市をまたにかけて暴虐の限りを尽くした元財務相のグループ企業の1つ。流石に警察の強制捜査や労働者、被害者や遺族の訴訟に加え、後援会の解散や所属与党の離党勧告で、国会議員としての寿命は風前の灯火と化している。
 元財務相が多数のグループ企業を抱えていることは、あまり知られていない。「本家」は崩壊寸前だけど、「分家」は今も健在。その1つがナチウラ市とヒョウシ市があるC県から遠く離れたO県にあるナカモト科学大学。ヒョウシ理工科大学は元々外国人留学生を無理やり入れて経営を維持していたくらいだし、今は壊滅寸前だけど、ナカモト科学大学はそれなりに歴史もあって、地元や近隣自治体には一定の知名度があって、経営も安定している。
 国会議員としての寿命は終了寸前だけど、グループ企業の頂点という立ち位置はまだ健在。警察もヒョウシ理工科大学における核物質貯蔵庫の原子力基本法違反や、「本家」グループ企業における拉致した被害者の逮捕監禁や傷害致死、強制性交、残業代未払など労働基準法違反で強制捜査しているけど、グループ企業全体に迫るほどじゃない。
 元財務相は、財務相時代の権限を最大限に悪用して、全国各地に利権の触手を伸ばしていた。E県は医学関係の学部を持つ大学が国立大学1校だけだった。国立大学だから定員は限られているし-悪名高い日本医師会の圧力もあるけど-、相応にレベルが高い。寄付金など金の力で入学させたい関係者は、安くて潤沢な土地があるハルイチ市に照準を合わせた。
 ハルイチ市は、都心から離れた地方都市の典型例で、人口の減少とこれまでの主力産業-縫製製品と農業業-の衰退に悩まされていた。そこに、元財務相(当時は現職)がグループ企業の看板で正体を隠しつつ、財務相の威光を使って直接E県知事と会談し、大学誘致を持ちかけた。
 E県の当時の副知事は、財務省からの出向者。そして大学の運営を担う理事会には、財務省OBが名を連ねる。「お国」「お上」の看板に弱い地方の例に漏れず、E県知事はあっさり誘致の話に乗り、広大な土地を安値で売り渡した。これがナカモト科学大学医学部・歯学部がある現在地だ。

『財務省の威光を使ってグループ企業の大学を持ち込んだんだね。』
『財務省の看板を盲目的に信仰したE県とハルイチ市の側も問題です。誘致だけならまだしも、これで終わらないのがこの手の癒着に付きまとう負の遺産です。』

 シャルは「その後」の説明を続ける。学生の転入による市の活性化と、大学誘致による税収増を当て込んで、E県知事から降ってきた大学誘致の話に、ハルイチ市の市長は乗った。結果ナカモト科学大学医学部・歯学部が誘致されたけど、シャルの言うとおり、その後の顛末は「そうは問屋が卸さない」というものだった。
 大学には学生が来たものの、元々金の力で入学させるレベルの学生だったり、金にものを言わせるタイプの親がいたりするから、素行は悪い。なまじ金があるからアパートよりマンション、オートロックやコンシェルジュ当たり前の高級マンションを志向するから、供給が追い付かなくて-ゲームじゃないからインスタントに建設できない-市外から通学或いは入学を辞退する学生が多い。
 しかも、免許を取って間もない頃から高級車が当たり前という世界だからか、兎に角運転が荒い。幹線道路だけじゃなく、市街地の細い道でも遠慮なく飛ばすから、事故が絶えない。そんな車の運転で市内の女子学生を強引にナンパしたり、繁華街でひと悶着起こしたりと評判は悪化する一方。
 大学は定員こそ何とか充足するものの、市にとっては高級マンションを所有する市外の業者やオーナーなど、一部しか恩恵がない。学校法人だから法人税は原則非課税。しかも定員は両方の学部を合わせても1学年200人程度だし、定収はないという体だから-高級マンションに住んでいても源泉徴収の対象になる収入にはならない-税収は期待したように増えない。完全に当ては外れたわけだ。
 市の内外を我が物顔で徘徊する学生の問題に加えて、重大な疑惑が浮上した。大学誘致と同時に建設された研究施設の中に、アイソトープ研究施設というものがある。そこは建設の際、原子力基本法の規制対象であるにもかかわらず、周辺住民は勿論、ハルイチ市にもE県にも一切知らされなかった。
 発覚した理由は、何とキャンパスマップが公開されたこと。よく見れば敷地の北西部にアイソトープ研究施設という建物があることが分かる。大学のWebを見ると、しっかりアイソトープ研究施設が掲載されていて、「放射線治療や放射性同位体を用いた研究に使用します」など簡潔に記載されている。
 Webで知った複数の市民が、ハルイチ市とE県には建設の事実を知っているか、ナカモト科学大学には何故建設を隠蔽したのかと問い質した。ハルイチ市とE県は勿論初耳。原子力基本法の規制対象の建物が出来るとは聞いていないと、ナカモト科学大学に事実確認をした。
 結果、ナカモト科学大学側は「高度な医学研究と医療提供のために必要である」「地元住民の無用な不安を喚起しないために、建設完了まで公表しなかった」「原子力規制委員会には届け出済み」という回答。確かに原子力規制委員会には届け出がなされていて、法的な手続きは問題ないという判断だった。
 確かに放射線やアイソトープを用いた医学研究は必要だ。だけど、法的に問題なくても、放射線や放射能に関してデリケートな日本で、地元住民に建設を隠蔽して、建設が完了したらWebでしれっと公表というのは、心証を悪化させるには十分。ハルイチ市とE県は不問としたけど、ハルイチ市やE県の住民の対ナカモト科学大学への印象は悪化するばかりだ。

『放射能を扱う施設を秘密裏に建設するのは、元財務相のグループ企業のお家芸なのかな。』
『言いえて妙ですね。以降、一部の市民がナカモト科学大学のアイソトープ研究施設の問題を検証し続けていますが、今のところ事故などがないため、ハルイチ市やE県は連絡体制の不備をナカモト科学大学に改善を求めるに留まっています。』
『そのアイソトープ研究施設に、ヒヒイロカネが隠されている?』
『現在まで、ヒヒイロカネのスペクトルは検出されていません。ですが、この敷地内に巧妙に隠蔽されている可能性はあります。』

 日本は放射能や放射線の取扱いやその設備にかなり厳しい基準が設けられている。その基準を掻い潜って秘密裏に建設したくらいだ。何かあると見て良い。現時点で気になることは1点。

『ヒヒイロカネのスペクトルを隠蔽できる物質や方法ってあるの?』
『非常に良い質問です。1つだけあります。強力な磁石です。』

 ヒヒイロカネは強固でありながら柔軟-これらは両立が難しい要素-、自己増殖するなど、金属らしからぬ特質を持つ。その1つに「磁気を拒絶する」ことがある。磁気があると、ヒヒイロカネの発するスペクトルが乱されて検出が難しくなり、一定以上の強さになると完全に検出できなくなる。性能や特徴には一切影響はない。
 ヒヒイロカネのスペクトルを検出できなくするには、10T(テスラ)以上の磁気が必要。一般的なスピーカーの磁気は1T~2.4Tとされているから、その4~10倍くらいの磁気。NMR(核磁気共鳴)の大型のものを数台で囲むと、囲まれたヒヒイロカネのスペクトルは検出できなくなるとイメージできる。
 このクラスの磁気を作るには、この世界では大型の超電導磁石と超伝導を実現するために液体ヘリウムが必須。どちらもそう簡単に用意できるものじゃない。超電導磁石は巨大で重量があるし、液体ヘリウムはこの世界では戦略物資の1つで、日本では輸入が必要だったり、高圧ガスの取扱いが求められる。
 この条件を両立できる環境が、医学研究にはある。NMRやMRIだ。原理的にはどちらも同じで、強力な磁気環境でラジオ波の電波を照射し、特に水素原子からの信号を得る。臓器や組織によってこの信号が異なることを利用して、画像処理するとMRIになる。医療で使うMRIは、臓器や組織が殆ど水素の塊と見ることが出来るから、水素原子の信号を見ることに特化している。
 NMRは物質、特に有機化合物の構造解析に、MRIは医療診断で必要。医学部や病院が揃うナカモト科学大学医学部・歯学部に導入できる条件が揃っている。これらを大量に導入してヒヒイロカネ隠蔽に使っていることが考えられる。つまり、医学部・歯学部の設置は、ヒヒイロカネ隠蔽のカモフラージュでもあるということだ。

『そこまでしてヒヒイロカネを隠蔽したいってことか…。気持ちは分かるけど、物凄いお金がかかるよね。』
『大型のNMRやMRIは数千万、場合によっては億単位の投資が必要です。建物を含め、通常ならおいそれと投資できない金額です。ですが、ナカモト科学大学は元財務相のグループ企業。国会議員としては再起不能レベルですが、巨大グループ企業の長としてはまだまだ健在です。』
『ヒョウシ理工科大学でクロヌシとして存在していたヒヒイロカネを現に事実上所有していたくらいだし、何処かで発見したヒヒイロカネを大学の皮を被って隠蔽していても不思議じゃないね。』
『はい。元財務相自身もヒヒイロカネを知っていることは十分考えられます。あの手の輩がヒヒイロカネを単に貴重品として保管するにとどめる筈がありません。』

 何しろ核兵器に使うための核燃料を餌にして、クロヌシを飼い慣らすという、思い返すととんでもないことをやってのけていた。単に飼い慣らして奴隷にする若者を狩ることに留まっていたとは思えない。クロヌシを飼い慣らす過程でヒヒイロカネの特徴を把握したことは十分考えられる。
 ヒョウシ理工科大学は設立時から曰く付きで、大学としての体をなしていなかった。一方で、ナカモト科学大学はそれなりの歴史と規模を有する。元々が元財務相の構想である核兵器発射施設のカモフラージュという立ち位置だったヒョウシ理工科大学での成果を、ナカモト科学大学に移転して本格的な研究に乗り出したことも、同じく十分考えられる筋書きだ。
 だとすると、事態は更に切迫している恐れがある。霞が関や永田町では、ヒヒイロカネは「支配者の証」として譲渡あるいは争奪の対象らしい。一方で、元財務相はグループ企業の大学を巧みに利用して、ヒヒイロカネの性質や特徴を研究させている確率が高い。
 前者はある意味トロフィーの奪い合いだ。実務の影響とか対外的なものを除けば、勝手にしていれば良い範疇だ。後者はかなり危険度が高い。この世界ではオーバーテクノロジーのヒヒイロカネの性質や特徴を突き止めれば、必ず元財務相は兵器や盗聴盗撮、果ては暗殺といったことに転用する。自分のためには人の命なんて何とも思わない人間が、金や権力を持つことは、非常に質が悪い。ヒヒイロカネなんて凶器にしかならない。

『どうやって大学に入る?流石に警備とかあるだろうし。』
『流石に住民との緊張関係を恐れているのか、入構手続きは必要ですが、出入りは比較的自由です。』
『食堂があって一般にも開放されているなら、昼時前後を狙おう。食事ついでの見学なら、大学側の警戒も緩むだろうし。』
『それが良いと思います。学生との無用な接触を避けるには、ピークを外した方が良いですね。』

 当座の方向性が決まった。凶悪な野望が水面下で蠢いている恐れが高い以上、放置してはおけない。それに加えて、放射性物質を大量に貯蔵しているという、この世界での違法行為の恐れも高いと来ている。ヒヒイロカネを有効利用しようとしないあたり、「この世界にあってはならない」ことを示している。情けない話だけど、これが現実だ…。