雨上がりの午後

Chapter 274 京都最後の夜、そして締めくくりの挨拶へ

written by Moonstone

「おかえりなさいませ。」

 担当の仲居が出迎えてくれる。伏見稲荷からの夜景見物から無事宿に帰還。足元が碌に見えない上に急な下り階段の連続だったことで、上りと同じくらい
時間がかかってしまった。途中宿に電話して遅くなることを伝えておいた。

「お食事の用意は出来ておりますが、お運びしてよろしいですか?」
「お願いします。」

 俺は晶子を連れて部屋に戻る。掃除が行き届いた室内でコートを脱いでハンガーに懸けて腰を下ろすと、帰って来たという実感が湧く。晶子の疲労の
色は、伏見稲荷の四ツ辻の茶店に入る時くらいの濃さだ。休憩しておいて良かったと改めて思う。
 少しして夕食が運ばれてくる。何も料理や片付けをしなくても豊富な種類の料理が出てきて片付けもなされる夕食は、今日が最後だ。振り返ってみると
5日間なんて本当にあっという間だ。

「祐司さん。明日のことなんですけど…。」
「めぐみちゃんへの挨拶か。午前中だと立て込んでいるかもしれないから、午後からで連絡を取るか。」
「はい。私は構いません。」

 この旅行で恐らく最大の出来ごとだっためぐみちゃんとの邂逅。京都旅行の出発点でもあった京都御苑の出会いから、丸1日親代わりとして面倒を見て、
無事実質的な保護者である祖母の高島さんに再会させた。めぐみちゃんを長年苦しめてきたらしい両親も、あの一件を契機に高島さんが保護観察を始めた
ことで、めぐみちゃんの養育にも強力な保証が始まった。
 育児放棄の実例と無責任な親の実例に遭遇して腹を立てたこともさることながら、自分が親になることがおぼろげに見えた。予行演習としては上出来だった
ことには、前から子ども好きを自称して親への願望を口にしていた晶子の力量がいかんなく発揮されたことが大きい。晶子は本当に母親としてめぐみちゃんの
面倒を見ていた。その分、めぐみちゃんの保護と安全が確約されて親代わりがお役御免となった際にめぐみちゃんと別れることの辛さや哀しさは大きかった
だろう。あの時の高島さんの厚意に甘えて、京都を発つ前にめぐみちゃんに会って挨拶しておくのは、めぐみちゃんを可愛がっていた晶子が気持ちの整理を
つけるために必要だろう。

「俺と晶子が親になるのはもう少し先の話だろうけど、こういう親になろうとか、親としてこういうことはしちゃいけないとか、そういう感覚は何となく掴めた気が
する。」
「祐司さんはきっと良い父親になれますよ。ですから、めぐみちゃんに接している祐司さんを見ていて凄く安心しました。良い父親になってくれる男性が夫に
なってくれた、って。」

 世の中女性だけで全てがバラ色になると信じて疑わない連中も居るが、それは別として母親になるには父親が必要だ。母親になりたい、子どもを可愛がり
たいと思っても父親次第で全て破壊される可能性もある。付き合うだけなら見栄えの良さや羽振りの良さ、言い換えれば「自分がヒロインで居られる」男性が
最適だ。だが、その手の遊び慣れている男性が家庭や子どもといった束縛や責任を担うことは少ない。遊べなくなるんだから当然ではある。逆に、彼氏にする
には見栄えが良くなかったり周囲−女性の場合主に同年代の友人−に自慢し難い男性が、堅実な暮らし向きや金銭感覚、常識的な考えや行動が出来て
親になるには適している事例は多い。遊び慣れていない分、言い換えれば女性に相手にされない分仕事や勉強に注力して、一定の地位や収入を得たり、
その背景になるだけのある水準以上の家庭環境で養育されるからだろう。
 「恋愛と結婚は別」というフレーズは、そういった傾向から生じたものだと思う。遊ぶだけ遊んで生活や出産のためにそれらを保証出来そうな男性をあてに
するなんてご都合主義は腹立たしい限りだが、母親になれなければ家庭崩壊か離婚が待っているのは女性も同じだ。女性の場合、最初から離婚による
慰謝料や養育費を前提に出来るから、結婚が手段になるのはある意味当然かもしれない。

「めぐみちゃんの一件で、晶子の子ども好きが本物だってことと良い母親になれることが良く分かった。生憎、その環境は直ぐには揃いそうにない。」
「分かってます。何処に住むかも決まってませんし、引っ越すにしても家を選ぶことから始めて何かと出費がかさみます。あれもこれもと望んでいたら、
何処かで行き詰りますし、それが不満に変わることは避けられません。結婚も出産も1人じゃ出来ないから一緒になるんです。それで一緒になった男女の
総称が夫婦です。私はそう思ってます。」
「…。」
「私は祐司さんのお荷物になりたくないですし、楽をしたいために、働かなくても良い暮らしをしたいために結婚したんじゃありません。祐司さんと一緒になる
ことで、2人で頑張って助け合って生活基盤を整えて、やがて子どもをもうけて暮らしたいんです。そうしたいから…、祐司さんに結婚してもらったんです。」
「結婚にもしっかりした構想や考えを持ってるな。それなら周囲に惑わされることもないだろう。」
「周囲の意見や流行に流されていたら、私は今の幸せやこれからの幸せを掴めなかったですよ。…あまり偉そうに言えた立場じゃないですけど。」

 以前−と言っても数日前のことだが、そのことは結果的に俺と晶子の仲を強めたから気に病む必要はない。それより、晶子が結婚を夫婦という関係で
結ばれた男女の共同生活の始まりと位置づけ、堅実な構想を抱いていることが確認出来たのは大きい。
 結婚することで幸せになれる、と晶子が時々ゼミから借りて来る女性誌が喧伝している。だがそれは、結婚することで幸せな生活≒お姫様のような何不自由
ない生活を齎してくれる白馬の王子様と結ばれるというシンデレラのような物語の主人公になれると描いているにすぎない。結婚後の生活で新居が気に
入らなかったら?どちらかが身体を壊したり事故に遭ったりして収入が減ったら?結婚したらメイド付きのお城が新居になる筈もないのに、シンデレラ構想で
思い描いていた物事とは違う現実に直面すれば、それが出来ずに不満ばかりが募る。
 共同して対処して我慢や妥協をしながら改善を図るしかないが、それが出来ないなら不満がやがてピークに達して離婚と相成る。結婚や離婚はそれぞれの
意志で行われるにしても、何のために結婚したのか分からないという批判は免れない。バツ1の称号が欲しいのか慰謝料や養育費が欲しいのかとなれば、
まさに結婚が目的であったとしか言えない。
 晶子が浮気や浪費のリスクなしに安心して生活出来て安心して子どもを産み育てられる男性として俺を見定め、様々な手を尽くして結婚に持ち込んだ
ことはこの旅行を通じて分かった。晶子の結婚観を聞いて、晶子が結婚に疾走した理由が裏付けられた。こんな女性なら…、結婚して欲や見栄に振り
回される危険はない。結婚して良かったと思えるのは間違いない。

「一緒に生活していこう。結婚して良かったと思えるように。」
「はい。よろしくお願いします。」

 俺と晶子は揃って小さく一礼して思わず笑う。お願いしますと言うのは俺も同じだ。同居の段階で晶子の助力が俺の生活や大学での好成績に大きく貢献
したことは疑いようがない。考えられないような献身的なありがたい助力に応えることが、晶子への礼になる。勿論感謝の気持ちと言葉も忘れずに…。
 部屋で寛ぎの時間を過ごしている。夕飯後にめぐみちゃんの祖母である高島さんの携帯に電話して、明日の午後に挨拶に伺いたいと伝えた。高島さんは
2つ返事で快諾してくれた。
 高島さんからその後の状況を聞いた。めぐみちゃん一家は高島さんの自宅兼事務所への引っ越しが完了したこと。めぐみちゃんの両親は高島さんの保護
観察の下で事務所員として働かせながら、高島さんが本当の自立に向けた教育をしていること。めぐみちゃんはすこぶる元気で、間もなく迫った小学校
入学を待ち遠しそうにしていることなど。
 高島さんは、俺と晶子がめぐみちゃんを保護して世話したことを感謝すると同時に、こんな事態になるまで両親の自立と改心を期待して黙認していたことを
悔やんでいた。一歩間違えれば大変なことになっていたかもしれないだけに、育児放棄や虐待の事実を知りながら対策に乗り出さなかったことは批判される
べきだ。でも、それは警察や児童相談所の仕事。俺が説教出来る立場じゃない。それよりも、今回の一件でめぐみちゃんの安全と笑顔が保障され、
めぐみちゃんが安心できる環境で改めて生活を始められたことは嬉しい。めぐみちゃんを自分の子どものように可愛がっていた晶子も何より願ったのは、
めぐみちゃんが怯えることなく安心してのびのび生活出来るようになることだ。それが確実に始まっているのなら十分だ。俺はそう伝えておいた。
 今、俺の腕の中に居る晶子は、俺から伝え聞いためぐみちゃんの様子を聞いて喜んで安心していた。それで疲れが一気に噴き出してきたらしく、こうして
俺の腕の中で転寝を始めた。ウエストを抱えた俺の腕を抱きかかえるようにして寝息を立てている。

「…あ。」

 首がかくんと揺れて、晶子が目を覚ます。

「寝ちゃってましたね。」
「寝てて良いんだぞ。疲れてるのは分かってるから。」
「私だけ寝こけるのは、祐司さんに悪いですよ。」
「気兼ねしなくて良い。俺が眠い時は膝枕してもらってるし、お互い様だ。」

 学生実験が始まって暫くは、講義のレポートも複数重なって寝る時間が削られ、気を抜くと頻繁に睡魔に襲われた。バイト帰りに晶子の家に寄ったり、
土日に晶子が来たりした時、晶子が膝枕をしてくれた。何だか気持ち良くて直ぐに寝入ってしまった。
 慣れというのは恐ろしいもので、半年過ぎたあたりからはレポート疲れで眠気に翻弄されることはなくなった。それより晶子が俺の家に泊まる回数が増えた
ことによる夜の営みの増加で眠くなることの方が多くなった。そんな時でも晶子の膝枕で転寝していた。
 京都に来てから連日連夜夜が激しい。天井知らずと言って良い。体力がかなりある方の晶子もさすがに回復しきれなくなってきたところに、伏見稲荷での
山登り。急峻な勾配と高い石段、更に不安定な足場が重なって体力を大幅に消耗したのは間違いない。俺が膝枕をするのも良いんだが、晶子と違って
ごつごつしてるから−それほど筋肉質じゃないが−寝心地に自信はない。それなら、晶子が大のお気に入りの人間座椅子で俺に凭れかかって寝る方が、
晶子も安心出来ると思って実行したら大当たりだった。

「これから用事もないし、晶子の体力削減の原因は俺にもあるからな。ゆっくり休んで欲しい。」
「祐司さんは悪くないですよ。存分に愛し合ってのことですから。でも、疲れが溜まってこうして祐司さんに抱き込んでもらえるなら…、これからも頑張って
もらおうか、と。」
「夜に必要以上に晶子の体力を削ると、翌日の食事や弁当がお預けになりかねないから、それはパス。」

 食事や弁当がお預けになるのはかなり深刻だ。金銭的な面はさておき、好みの味で好物が詰まっている弁当は特に昼の憩いと疲労回復に欠かせない。
文字どおり「味を占めている」状態だから、それがなくなった時の喪失感は大きいに違いない。

「ご飯やお弁当は、寝不足くらいじゃなくなりませんよ。」
「そうかもしれないが、晶子がすることは料理だけじゃないからな。晶子も俺と同じで大学もあるしバイトもある。4年になったら就職活動もある。無理はさせ
られない。」
「嬉しい…。こんなに大切にしてもらえて…。」

 晶子は自分のウエストを抱え込む俺の腕で軽くじゃれる。身体を何度も俺にすり寄せる。当然のことだと思うが、それが嬉しいようだ。

「もう少しだけ、こうしていて良いですか?」
「気が済むまでしてて良い。」

 それこそ風呂に入るまでか寝るまでかになりそうだが、それならそれで構わない。時間や次の行動を気にかける必要はないんだから。今日で京都の夜は
最後。こんなゆったりした穏やかな時間が次に何時あるか分からない。普段の感覚を取り外してじっくり味わい楽しむに限る。
 晶子は再び規則的な寝息を立て始める。俺の左腕に両手を重ねて、俺の肩口に凭れかかって。安心しきっていると言うに相応しい。こんな心地良さそうな
寝顔を見ていると、晶子ほどじゃないがそれなりに疲れている俺もこのまま寝入ってしまいそうだ。…それも良いか。
 荒い呼吸を深い溜息で纏めるついでに収束を図る。少し鎮まった呼吸をしながら、眼下の晶子を上から順に見つめる。口を少し開けて多めに酸素を取り
入れようとしている。2つの白い胸の隆起が早いペースで上下運動を繰り返していて、豊満な身体には俺が放った飛沫が彼方此方に付着している。
 晶子が目覚めたのは10時過ぎだった。転寝程度で済ませるつもりが本当に寝入ってしまったと晶子は謝ったが、それだけ安心していたんだからむしろ光栄
だと俺は応えた。
 浴場へ行こうと思ったが、仲居から他に客が居る−1組は昨日から挙式と披露宴のために入って今朝新郎の方と出くわした新婚夫婦らしい−と聞き、部屋
付きの風呂場に方針転換。2人でゆっくり湯船に浸かった。晶子が寝入った時と同じく後ろから抱き込むことで、晶子は心地良さにも浸っていた。
 風呂上がり後に営みを開始。幾分回復したとはいえ十分でないことを考慮して、これまでのように激しく攻めたり晶子が動く体位を選ぶことは避けた。
仰向けに横たえた晶子の上で俺が出来るだけゆったり動き、最初の1回以外は晶子の外で絶頂に達した。その結果、晶子の身体は俺の飛沫塗れになった。

「もう…良いんですか?」

 隣に身体を横たえた俺に、晶子が顔だけ向けて言う。疲労感がやや色濃い恍惚とした顔にも、俺の飛沫が付着しているのが分かる。

「ああ…。十分…。」
「良かった…。私を気遣うあまり、満足出来てないんじゃないかと…。」
「満足してなかったら、晶子が今の状態にならない。」

 晶子の身体の事情で中で絶頂に達せない時の事後の1つが、今の晶子だ。晶子が俺の下で一糸纏わぬ身体をよじり、喘ぐのを見ると興奮が増す。それを
最大限に増幅させて晶子の身体に向けて放出する。放出先が晶子の中か外かの違いだけと言えなくもない。

「これで…良かったんですか?」
「俺は…良かった。晶子で気持ち良くなったから。満足出来るまで。」
「今まで激しかったですから…、それと比べてどうかな、って。」
「激しけりゃ満足するってわけでもない。それは晶子も同じじゃないか?」
「はい。」

 京都入りしてから、夜は連日激しかった。酒が入ったり興奮が今まで以上に高ぶったりしたことで、腰が立たなくなるまで晶子を攻めて、今まで想像に止めて
いたこともした。それはそれで勿論満足した。だが、激しくするだけがセックスじゃないと思う。激しい中にも兎に角欲望のままに動き動かし晶子をノックアウト
する以外にも、「愛してる」を何度も言ってじっくり味わうやり方もある。
 そして、今日のように晶子の体力消耗が極力少なくなるように、俺が絶頂に達するまでの動きを必要最小限に抑えるやり方もある。男の場合、満足するか
体力の限界まで放出を繰り返すことがセックスの1つの目的だ。晶子でそれが達成出来れば、激しさの度合いでセックスの満足は決まらない。

「この5日間…、祐司さんにいっぱい愛してもらいました。その証が…今日もこんなに…。」

 晶子は俺の飛沫が特に集中している腹部に指をやり、飛沫を掬う。絡みつく粘性の高い液体が、晶子の指からゆっくり滴り落ちて晶子の腹に戻る。恍惚と
した表情も相俟って何とも淫靡だ。燃え尽くした筈の興奮が再燃して来るような気がする。

「浴びる時って、どんな気分だ?」
「温かいものが私の身体に飛び散ってくるのを感じて、幸せな気分でいっぱいになるんです。祐司さんが私で気持ち良くなって、私はその証を全身で受け
止めてるってことが分かって…。」
「…。」
「外でもこんなに幸せな気分になれるんですから、中だともっと幸せで…気持ち良いんです。祐司さんの放ったものがお腹の中でじんわり広がって…満たして
いくのが感じられて…。」

 男は出す側、女は受ける側とか色々な表現があるが、対になることには違いない。立場が違うから当然感じ方も違う。男性を受ける側の感じ方は体験談や
想像に頼るしかない。
 晶子が俺の射精を受けるのは俺の愛を感じたいからだと、以前晶子から聞いた。だから、晶子の事情で中での放出が出来ない時は、晶子の外に解き放つ。
放出した後にぐったりしつつもうっとりしている晶子を見ると、快感に代わって満足感や征服感が膨らんでくる。放出するだけなら、何を興奮の燃料にしても
良い。現に世の中には本やDVDで様々な燃料が豊富に出回っている。だが、俺は「晶子で」気持ち良くなって放出したい。晶子でなければ単なる作業でしか
ない。

「だから…、こうして祐司さんの証を感じられる時間は…、私にとって幸せを強く体感出来る大切な機会なんです。」
「良かった。俺だけ満足してても意味ないからな。」

 晶子は嬉しそうに、そして愛しげに俺を見つめながら、ゆっくり寝がえりを打つように身体を俺の方に向ける。闇に浮かびあがる白く滑らかな身体には、
肌の艶とは明らかに異なる液体のきらめきが散在しているのが良く分かる。最も付着の量が多いふっくらした腹部を中心に、整った顔にも、形の良い胸にも
遠慮なく付着している。俺の愛情と欲望の証を無防備に受け止めた晶子を間近に見ていると、もっと晶子を感じたい、愛したい、自分のものにしたいという
欲求が急速に膨れ上がって来る。

「晶子…。」
「あ…。」

 俺は晶子の肩に手をかけて、晶子を再び仰向けにするのに併せてその上に乗りかかる。少し驚いた様子の晶子の唇を自分の唇で塞ぐ。舌は入れずにただ
唇を押し当てて軽く吸う。暫く吸った後、唇をそっと離す。再び空気と接した晶子の唇から小さい吐息の塊が浮かんで消える。

「祐司さん…。着いちゃいますよ…。」
「自分が出したものだから気にならない。それより…、もう1回晶子としたい。」
「何度でも…。」

 晶子の意志を確認して、俺は改めて晶子の唇を塞いで吸う。晶子の背中に腕を回して抱き締め、舌を差し込む。晶子の両腕が俺の背中に回り、俺の舌に
舌を絡ませてくる。全身が再び熱くなってくる。腹に欲望が充填されていく感覚が走る。京都最後の夜は…全てを振り絞って…全力で晶子を抱こう。そうじゃ
ないと…この溢れんばかりの欲望は収まりそうにない…。

Fade out...

「おはようございます。」
「あ…、おはよう。」

 晶子の呼び声で目を覚ましたが、意識に立ち込める霞はかなり濃い。俺の顔を上から覗き込む晶子の顔には昨夜の飛沫がくっきり残っているが、疲労の
色は消えている。
 再燃した欲望を完全に収まるまで、俺は放出の動きを繰り返した。晶子の負担を減らすために晶子は仰向けのままで体位を変えず、動きを最小限に抑える
方針はそのままに。結果、欲望の炎が鎮火した頃には俺は疲労がピークに達し、晶子の身体は更に俺の飛沫に濡れた。だから、俺がまだ半分寝ているような
状態なのは自業自得と言える。
 朝の光で闇の中よりずっと明瞭に照らされる晶子の身体には、俺の飛沫が拭われることなく彼方此方に付着している。我ながら放出した際の勢いの良さと、
何処にこんな精力があったのかと不思議に思う。

「俺が言うのもなんだが…、凄いことになってるな。」
「祐司さんがいっぱい愛してくれた結果ですから、清々しいくらいですよ。」
「晶子で存分に放出した俺も清々しい。…疲れはとれたみたいだな。」
「はい。祐司さんが居たわってくれたおかげで。」
「代わりに俺が眠いんだが、これは自業自得ってやつだな。」

 俺と晶子は笑う。そして改めて見つめ合う。双方全裸。双方疲労が溜まった状態で寝入ったから掛け布団すら被っていない。晶子は俺の飛沫に塗れて
いる。隠そうにも何も隠せないし、隠すものは何もない。
 この旅行で大きな見えない壁を越えた。全てを曝け出し全てをぶつけ、思いつくことを全て言って言わせて、思いつくことを全てして、させた。全てを
教えたし全てを知った。全てを感じて感じさせた。
 俺は一度欠伸をして脳に酸素を送り込んでから立ちあがり、晶子に手を差し伸べる。晶子は笑顔で手を取る。俺が引き寄せると晶子は立ち上がる。2人で
過ごした夢の空間に居られる時間は残り少ない。名残惜しいが旅立つ準備をしないとな…。
 俺と晶子を降ろしたバスが走り去っていく。京都郊外の住宅街は観光とは切り離されている。宿を遅くに出た俺と晶子は鴨川の畔を散策した後、京都駅
付近の喫茶店で昼飯をを済ませ、手土産を買ってバスに乗車した。目的は勿論、めぐみちゃんとその祖母である高島さんに挨拶するため。宿を出る前に
改めて電話を入れて訪問に問題がないことを確認してある。ひっきりなしに車の往来がある京都市街とは一線を画した住宅街は、車の姿そのものが今の
ところ見当たらない。
 バス停から暫く歩いていくと、堅牢な壁に囲われたひと際大きな家が見えて来る。この辺は京都の高級住宅街らしく大きい家が多いが、事務所も兼ねている
高島さんの家は敷地も含めて特別大きい。ドアの脇にあるインターホンを押す。少ししてインターホンがスピーカ起動時特有の音を立てる。

「はい。」
「こんにちは。安藤です。」

 聞き憶えのある声に俺が応答する。

「ようこそお越しくださいました。所長からお話は伺っております。ドアを開けますのでお入りくださいませ。」

 それまで固く閉ざされていたドアの鍵が外れる音がして、続いてドアが人1人入れる程度の隙間を作る。遠隔操作のあるドアとは凄い作りだ。
 俺と晶子は出来た隙間から敷地に入る。初めて案内された時と同じく、広大で手入れが行き届いた庭に敷かれた飛び石を歩いて玄関に向かう。ドアから
玄関までも距離があるのは、普段の生活では考えられない。見えて来た玄関のドアが開く。中から若い女性と幼児が出て来る。此処に案内された時にも
会った事務員の人と…めぐみちゃんか。

「あ!お父さんとお母さんだ!」

 懐かしく感じる声が響き、めぐみちゃんが勢いよく走り寄って来る。隣に居た晶子の顔が一挙に満面の笑顔になり、しゃがんでめぐみちゃんを抱きとめる。

「本当に来てくれた!」
「めぐみちゃん、こんにちは。」
「元気だったのね。良かった…。」

 はしゃぐめぐみちゃんを晶子は愛しげに抱き締める。今まであまり表に出さなかったが、やっぱりめぐみちゃんに会いたかったんだな。

「安藤様。ようこそお越しくださいました。」

 事務員の女性が声をかける。

「めぐみちゃんには今日のお電話の後で伝えたんですが、それ以来ずっとお2人が来るのを楽しみにしていて…。」
「そうですか。元気そうでなによりです。」
「先生もお待ちです。どうぞこちらへ。」

 俺と晶子は事務員の女性に案内されて家兼事務所に向かう。めぐみちゃんは晶子が抱っこしている。めぐみちゃんの面倒を見ている間は、よくこうして移動
したよな。めぐみちゃんはすっかりご機嫌の様子で晶子に抱きついている。
 玄関から家に入る。落ち着いた雰囲気の廊下を進み、初めて招かれた時にも通された応接間の前まで来る。事務員の女性がドアをノックする。

「失礼します。先生、安藤様ご夫妻がいらっしゃいました。」

 応答の後事務員の女性がドアを開けて、俺と晶子を招き入れる。あの時と同じソファに座っていた高島さんが笑顔で立ちあがる。

「ようこそ。早速めぐみが甘えてますね。」
「「こんにちは。」」

 挨拶の後、俺は京都駅で買った手土産を差し出す。

「どうぞご笑納ください。」
「わざわざご丁寧に…。ありがたく頂戴します。さ、おかけください。」

 手土産を買っていくのは晶子の発案だが、上々の効果だったようだ。晶子に感謝の意を込めて目配せする。晶子は微笑んで小さく頷く。俺と晶子は高島
さんの向かいに腰を下ろす。めぐみちゃんは相変わらず晶子にしっかり抱きついている。小動物みたいだ。事務員の女性が茶を出してくれる。

「本日京都を発たれるそうで。いかがでした?京都は。」
「色々なところを回ったんですが、思ったよりずっと広かったです。」
「京都と一口に言っても東西南北に広大ですからね。その中に有名な寺社仏閣が点在しているので、じっくり見て回るならお2人のように数日かけるのが良い
でしょうね。」

 おぼろげな修学旅行の記憶では、京都は割と小ぢんまりしているイメージだった。基本バスでの移動だったし、有名どころ数か所を1日で回るという忙しい
日程だったから、1日で回れる程度の広さ≒自分が住む町内くらいの広さ≒自転車で1周できる程度の感覚が出来上がっていたのかもしれない。
 今回はバスの他に地下鉄も使ったが、広さを実感した。5日間かけて有名どころの多くを回ったつもりだが、移動に相当な時間を費やした。全ての寺社
仏閣を見て回ろうと思ったら、一月は必要なんじゃないかと思う。

「本当に…、今回はめぐみ共々お2人にはお世話になりました。」

 茶を一口啜った高島さんが、少し神妙な顔になる。

「お2人のおかげでめぐみが事故に遭いませんでしたし、私も自分の誤りに気付かされました。めぐみの生活に笑顔が戻ったのはお2人のおかげです。」
「そういえば今日、めぐみちゃんのご両親は?」
「娘夫婦は法規の学習の傍ら、事務所の手伝いをさせています。」
「法規の学習ということは、法律関連の仕事をさせる方針なんですか?」
「はい。法律を扱う職業は多彩です。事務所の一員として下積みをしていけば、何れは独立開業も可能でしょう。」

 俺との問答で高島さんは娘夫婦、すなわちめぐみちゃんの両親の自立構想を説明する。知っているだけでも法律関連の職業或いは資格には弁護士、行政
書士、司法書士、社会保険労務士と色々ある。どの資格も受験に制限はないが、おいそれと合格出来るもんじゃない。ましてや今まで定職に就かずに遊び
呆けていたらしいめぐみちゃんの両親がいきなり資格取得や独立を目指すのは、あまりにも無理がある。
 幸い、高島さんは自宅と一体の大きな法律事務所を有している。弁護士の高島さんは言うに及ばず、複数いるであろう事務員の人も相応に業務に精通して
いるだろう。その下で勉強と経験を積ませて試験合格を目指し、更に実務経験を積んで晴れて独立となれば本当の意味での自立になる。

「勿論、そう簡単に事が進むとは思っていません。ですが、自立を言うだけでは針路が掴めず、結果停滞や堕落を生み、挙句は子どもに大変な思いをさせて
しまった…。めぐみをもう悲しませないためにも、私が責任を持って自立への道筋を作るべきだと思ったんです。」
「良いことだと思います。」
「これも、お2人のおかげです。不謹慎かもしれませんが…、めぐみが私とお2人を引き合わせてくれたんだと思っています。」

 めぐみちゃんとの出会いは思いがけないものだった。出会いに必然性や予定調和はないかもしれないが、片や新婚旅行と銘打った2人きりの旅行を始めた
ばかり、片や両親に置き去りにされた幼児。迷子だろうと思って保護したことが全ての始まりだった。
 めぐみちゃんを預かる中で色々な現実を見たし、学ぶべきことを目の当たりにした。メディアで騒がれる育児放棄の一例。子どもが出来ても怠けるばかりの
親。子どもが出来れば親になるんじゃなくて、親としての自覚や責任が伴って初めて親になること。そして、親であることの大変さと楽しさ。正直、親になること
には不安があった。親としてきちんと子どもの世話が出来るのか、そもそも親になるだけの資質が自分にあるのか、と。親になることをそれほど熱望している
わけじゃないのもあった。子どもを持つことと親になることの考えの違いは、晶子との唯一と言って良いほどの温度差だった。
 めぐみちゃんが飛びぬけて聞きわけの良い子どもだったこともあるが、親であることに対する漠然とした恐怖感や不安感はかなり解消された。「こういうもの
なら親になるのも良いな」と思えるようになった。子どもを熱望する晶子が喜んだのは、めぐみちゃんで母親としての実体験が出来たことと、俺が親になることに
前向きになったことの両方がある。
 そのめぐみちゃんは、1つ間違えれば重大事件に巻き込まれる恐れもあった。育児放棄や児童虐待をしていた両親と、それを知りながら自立を求めて
無条件の援助を続けていた高島さんの姿勢に問題があったのは間違いない。だが、めぐみちゃんが俺と晶子と出会ったことで、両親はきついお灸を
すえられたし、高島さんは援助一辺倒から自立に向けた指導や教育にシフトした。めぐみちゃんに笑顔の生活が戻ったならそれで良い。

「ご両親が働いている間、めぐみちゃんはどうしているんですか?」
「私かお2人を案内した事務員の女性−森崎さんが面倒を見ています。」

 話を聞いた限りでは、日中は両親は働くか勉強するかのどちらかのようだ。その間めぐみちゃんは部屋で1人で遊んでいるのかと思ったが、もう直ぐ小学校
入学を控えた時期だし今までが今までだったから、誰かが相手をした方が良いと思っていた。祖母の高島さんと森崎さんというあの事務員の女性には、
めぐみちゃんも随分懐いている様子だ。見知らぬ人に相手をされても、めぐみちゃんの不安やストレスは絶えることがない。

「めぐみはもう直ぐ小学生になります。幼稚園と小学校では生活のリズムが大きく異なりますから、今からリズムを作っておく必要があります。それにはめぐみを
よく知っていてめぐみが安心出来る大人が居た方が良いでしょう。」
「そうですね。」
「それに、家の中でも万が一ということもあります。一連の教訓からも、誰かがめぐみの傍に居るべきだと思いまして。」

 高島さんの言うことには全面的に賛同出来る。幼稚園と小学校では年齢では1年(以上)違うだけだが、そこでの生活は大きく異なる。幼稚園は通って遊んで
いれば良い−それが幼児の仕事だ−。小学校は通って勉強することが必要だ。短い休憩を挟みつつ30分以上同じ場所に座り続けることは、特に大きな
変化だ。
 幼稚園には教科も何もないが−恐らく社会性を養う場所という位置づけだろう−、小学校からは複数の教科が月曜から金曜まで並ぶ。更にはテストなんて
ものも入って来る。大きな環境の変化は期待や希望だけでは対応出来ない可能性もある。その観点からも、誰かめぐみちゃんが安心出来る大人が生活
リズムを指導して養っておくのは重要だ。めぐみちゃんが今までの生活で規則正しい生活を送れていたかどうか疑問だ。俺と晶子が面倒を見ていた1日は
問題なかったが、昼間遊び疲れて寝たことが規則正しく見えただけかもしれない。

「お2人は真っ直ぐご自宅に帰られるんですか?」
「はい。行けるところは昨日までに行きましたし、後は帰宅するだけです。」
「厚かましいお願いだとは思いますが…、少しばかりめぐみと遊んでやっていただけませんか?」

 何となく予想はしていた。めぐみちゃんは今尚晶子にくっついて離れないし、晶子は少しも鬱陶しがることなくめぐみちゃんを抱っこしている。このまま用が
済んだから帰るというのは、めぐみちゃんだけでなく晶子も寂しいだろう。俺は甘いのかもしれない。1日だけの母親代わりでも、晶子はめぐみちゃんを自分の
子どものように可愛がった。別れる時も後ろ髪を引かれるという表現がぴったりだった。情が移り過ぎないうちに距離を置いた方が晶子とめぐみちゃんのため
だと思えなくもない。

「…分かりました。晶子も良いか?」
「はい。お願いします。」
「ありがとうございます。」

 高島さんは頭を下げる。孫が目の前でこれだけ晶子に甘えているのを見ると、少しだけでも晶子にめぐみちゃんの相手をして欲しいと思わざるを得ないか。
やっぱり甘いんだろうが、俺も晶子とめぐみちゃんの願いを叶えようと思ってしまう。

「めぐみ。お2人が帰られるまで遊んでもらいなさい。」
「うん!」

 めぐみちゃんは目を輝かせる。晶子はそれを見て優しい微笑みを浮かべる。これだけだと、晶子が母親でめぐみちゃんが子どもにしか見えない。実の
両親が居るのにあまりにも違和感がないのは問題なような気もするが…。

「お父さんとお母さんに、絵本読んでもらう!」
「お部屋に案内してあげなさい。」
「はーい!」

 めぐみちゃんは此処で初めて晶子から離れて、床に元気良く飛び降りる。

「安藤さん。私は事務所に戻りますので、少しの間めぐみをよろしくお願いします。」
「分かりました。」
「お父さんお母さん、こっちだよ!」

 立ちあがった高島さんに見送られて、俺と晶子はめぐみちゃんに先導されて応接間を出る。めぐみちゃんは晶子の手を引いている。本当の親子そのものの
光景を見ていると、これが晶子との将来像かと思わずにはいられない…。

 めぐみちゃんに2階の1室に案内された。本棚には何冊も本が並び、棚や床には大小のぬいぐるみが置かれている。机がないところからして勉強部屋や寝室
とは別に、言わば遊び専用の部屋として設けられたもののようだ。
 ぬいぐるみの中には見覚えのあるキリンがある。俺と晶子が動物園でプレゼントしたものだ。受け取ってから片時も離さなかったキリンのぬいぐるみは、今も
めぐみちゃんの大のお気に入りらしい。これだけ気に入ってもらえたらプレゼントされたぬいぐるみも本望ってもんだ。

「此処って遊び部屋?」
「うん。おばあちゃんが、勉強するところと遊ぶところは別にしましょうって。」

 賢明な判断だろう。幼児期は集中が途切れやすいし散漫にもなりやすい。授業で幼稚園時代とは比べ物にならない長時間机に向かうことになるから、
集中力を養うには、勉強より気を惹きやすい遊び道具を隔離しておく方が良い。その方がメリハリも付くだろうし。

「これ読んで。」

 めぐみちゃんが本棚から絵本を取って来る。タイトルは「浦島太郎」。絵本の定番の1つだな。

「お父さんとお母さんが買ってくれた絵本も、あの本棚にあるよ。」
「本がたくさんあるね。」
「おばあちゃんが買ってくれた。たくさん本を読みなさいって。」

 幼児期から本を読む習慣をつけておくことは、色々な人が奨励若しくは推奨している。小学校から始まる9年以上の学校生活では、教科書という本が付き
まとう。それを読まないことには授業を受けることもおぼつかないし、テストを受けることもままならない。本を読むには一定の姿勢で集中する必要がある。本を
読む習慣をつけることそのものも大切だが、一定の姿勢を保つことや集中することもやはり学校生活では必要不可欠だ。本を読むことを推奨するのはこの先
必要な、本を読んで情報を得ることを身につけると共に、姿勢の保持や集中力の維持といった副次的な効果も狙えるからだろう。

「読む配役を決めるか。」
「折角ですから、めぐみちゃんにも加わってもらいませんか?」
「良いな、それ。」

 晶子が良い提案をする。読み聞かせをするのも勿論良いが、読み手の1人として参加すると作品の世界により深く入り込める。何より字を読んで発声する
好機にもなる。小学生になると聞くだけでなく、特に国語や英語では声に出して読むことも求められる。小学生の練習として読み手の1人になるのはより
効果的だ。

「めぐみも読むの?」
「めぐみちゃんの好きな役で良いし、読めない字はお父さんやお母さんが教えるから。やってみるか?」
「うん。やる。」

 少々戸惑った様子だったが、配役の1人になることはやぶさかではないらしい。めぐみちゃんは俺と晶子の間に座って本を広げる。俺と晶子は
めぐみちゃんを挟んだ位置に腰を下ろす。

「配役は、案内役と浦島太郎と亀、それに亀を苛める子どもと竜宮城の乙姫様や魚か。」
「めぐみちゃんはどれにする?」
「うーんと…。浦島太郎が良い。」
「それじゃ、お父さんとお母さんで残りの配役を決めるか。」

 俺と晶子はじゃんけんをして配役を分担する。俺が亀と亀を苛める子ども、晶子が竜宮城の関係者と案内役になる。苛める側と苛められる側が同じという
のは奇妙な気がするが、じゃんけんで勝った方から順次選んでいく方式だから、変わった配役になるのも無理はない。

「よし、配役も決まったから読んでみるか。」
「私からですね。めぐみちゃん、読む番になったら言うからね。」
「うん。めぐみも読んで待ってる。」

 案内役の晶子から読み始める。めぐみちゃんが読み手に加わることを踏まえてか、宿で読み聞かせた時よりペースを少し落としているように感じる。こうして
めぐみちゃんを挟んで晶子と絵本を読んでいると、将来像を思い浮かべてしまうな…。
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