雨上がりの午後

Chapter 175 年を跨いでの語らい−1−

written by Moonstone


 俺は両腕で上体を起こす。下には口を少し開けた晶子が居る。
その浴衣は両側に開かれ、白い豊かな膨らみが2つ、1/3程顔を覗かせている。
胸は小さく早く上下に動いている。俺も自分の呼吸が早まっているのが分かるし、浴衣は言うまでもなく乱れている。
 互いの肌に指と唇を這わせる。それが晶子に女特有の事情がある時の、俺と晶子の愛の「儀式」の一つ。
晶子が月曜に俺の家で夕食を作ってくれるようになってから、どちらともなく始まり、今もどちらからともなく不意に始まるこの儀式は、万年発情期とも言われる
男の俺の欲求が他の女に向かないようにという晶子の意図もある。俺とて向けるつもりは毛頭ないが、男ってのはこと性欲に関しては厄介な生き物だからな。

「今はこれで止めておこう。」

 身を沈めて耳元で囁くように言うと、晶子は無言で頷く。普段は互いが満足するまで続くし、「儀式」はまだ序盤だが、今は来客を迎える必要がある。
ドアをノックしても応答がないと来客、すなわち面子の妙な関心を高めてしまう。面子が俺と晶子の夜の動向に関心を持っているのは、2日目の朝の時点で判明している。
 俺は身体を脇にずらして晶子を起こしてやる。そして一度軽くキスをしてから浴衣の着崩れを消す。
浴衣ってのは乱すのは簡単だが、元に戻すのは殆ど着る時と大差ない。

コンコン

 少なくとも見た目「何もなかった状態」になったところでドアがノックされる。タイミングが良かった、と言うべきだな。
俺はドアに向かい、鍵を外してドアを開ける。

「よう、持って来たぞ。」
「じゃあ開ける。」
「って晶子さんは良いのか?」
「大丈夫だ。ちゃんと着てる。」

 宏一の茶化しめいた問いに答えたは良いが、内心冷や汗をかく。
応答がないようだと全員集合しての年越しが、部屋の壁を挟んでの音だけの鑑賞会になるところだったのは目に見えている。危ないところだったな・・・。
 兎にも角にもドアを開けて面子を中に入れる。
全員が缶ビールやらつまみやらが入ったビニール袋を持っている。缶ビールはかなりの本数があるが、6人がかりなら多分飲み尽くすだろう。
面子がどのくらい飲むのかは知らないが、俺も晶子もそこそこ飲むし。

「広さ加減を考えると机を退けた方が良いな。」
「別に退けなくても良いんじゃないか?」
「いや、ちょっとTVと合わせたくてな。」

 耕次が珍しく言葉を濁す。何だか知らないが、時間が差し迫っているだろうからあれこれ言い合うより何れかの方向で動くべきだ。
俺は言い出した耕次と、机を万が一倒れても誰にも被害が及ばない壁際に運んで立て掛ける。机1つ退けただけなのに、一気に部屋が広くなったような気がする。
 気を利かして、晶子がTVの電源を入れる。その間、面子は空いたスペースの中央部にポテトチップやするめ、柿の種といったオーソドックスなものばかりの
−妙なものには手を出したくないが−つまみを広げて適当に配置する。それが終わると缶ビールをどかどかと出して、TVの方向を開けた、反対方向に偏った形で
これまた適当に積み上げる。かなりの量だな。

「これ、リモコンです。」
「ああ、どうも。」

 耕次が晶子からTVのリモコンを受け取る。
それにしても、耕次がTVと合わせるなんて意外だな。「TVは新聞と同じく、政府財界の意向を反映する堕落した寡占企業の媒体でしかない」というのが
耕次の持論だったんだが。
 TVと丁度向かい合わせになる位置に耕次が腰を下ろす。・・・妙に画面に食い入ってるな。耕次が注目するものって・・・。
・・・ん?何処かの屋内ステージが映ってる。
カウントダウンを示す人の背丈ほどはありそうな巨大LEDの下、照明が落とされているからよく見えないが、ドラムやキーボード、モニタ用のスピーカー
(註:コンサートなどでは演奏者が音を確認するためにステージの彼方此方にスピーカーを設置しています。各種ライブビデオを参照してください)がある。
何処かのライブ会場らしい。
 耕次の左側に渉、俺、晶子、右側に勝平、宏一という配置で座り、耕次以外はTVをチラチラ見ながら、耕次はTVに顔を向けたまま缶ビールを開ける。
よく冷えてるな。夏でも冬でもビールは冷えてないと不味い。
 TVに視線を戻すと、カウントダウン開始まであと3分を切った、と言っている。満員らしい会場は大盛況だ。
大成功だった今年の夏のサマーコンサートを思い出す。
会場は満員になったのに当日不覚にも俺が熱を出して、晶子のフォローとステージの熱で冷ましたという情けない思い出もあるが。
 乾杯の前に飲むのも何だから、つまみを適当に口に入れながらTVを見る。
ステージでは司会者らしい男性が観客を煽っている。LEDに「60」の数値が灯った。それを合図に会場が声を揃えて数値を読み上げる。
残り1分からカウントダウンか。よくあるパターンだが、耕次が見たがる理由がまだ分からない。
 考えているうちにLEDの表示が20を切った。文字どおりの秒読みはもう直ぐだ。
輪の中央に視線を移すと、全員が缶ビールを差し出す。視線は輪の中央とTVを交互に行き来している。
乾杯の準備は整った。後はカウントダウンを待つだけだ。

「10!9!8!7!」
「6!5!4!3!」
「2!1!0!」
「「「「「「あけましておめでとう(ございます)!」」」」」」

 晶子だけ語尾が別途付いたが、10秒前から全員の声が揃って6つの缶ビールが中央で軽くぶつかり合う。そして軽くあおる。
先走って少し早く開けてしまったが、十分冷えたビールの喉越しは良い。TVに映る会場は言うまでもなく大盛り上がりだ。

「今年も頑張ろうぜ!」

 宏一の景気の良い声と共に、近くの者、向かいの者、目が合った者同士でそれぞれ改めて缶ビールを軽く合わせる。どの顔も明るい。
晶子と缶ビールを合わせる時は「今年もよろしく」と心の中で付け加える。

「ところで耕次。どうして・・・」
「おっ、出て来た!」

 最も引っ掛かっていたことを改めて問いかけたところで、耕次が歓声のような声を出して身を乗り出す。
耕次のこんな輝いた横顔なんて、ライブ会場ぐらいしか目に出来なかったんだが・・・。

「あ、倉木麻衣さんですね。」

 晶子の声で反射的にTVを見ると、ブラウン管にはマイクを持って、笑顔で会場に向かって手を振る倉木麻衣が映っている。
・・・もしかして耕次の奴、倉木麻衣の年越しライブが、否、倉木麻衣が見たかったのか?

「耕次、もしかしてTVを見たかった理由って・・・。」
「ああ。実は最近、倉木麻衣に嵌っててな。」

 思わず驚きの声を上げそうになる。
高校時代からあれほど反骨・反権力・反体制・反主流の先導を走っていた耕次が倉木麻衣に嵌るなんて・・・。
意外と片付けるにはあまりにも勿体無い。いったい何がきっかけなんだろう?

「しかし、何でまた。」
「学生自治会の飲み会で話題に出たんだ。今年度まで自治会の中央執行委員長やってる先輩から聞いてみろ、ってCDを貸してもらってな。
興味がなかったから辞退しようかと思ったけど、法学部執行委員の頃から何かと世話になってきた人だし、まあ暇潰しに聞いてみるか、と思って。
そうしたら綺麗な声が印象的でそれを契機にアルバムは全部買った。」
「じゃあ、俺と晶子の携帯の着信音が『明日に架ける橋』なのは倉木麻衣の曲だと知ってて・・・。」
「ああ。内心羨ましいと思ってた。だけど祐司みたいに自分で作れるほど器用でまめじゃないし、携帯サイトでもこの曲のこの部分、ってのがなくてな・・・。」

 アルバムも全部買っていたのか。
そう言えば、俺が倉木麻衣の曲を聞くようになったのは、同じバイトを始めた−当時は押し込んで来たとしか思わなかった−晶子が倉木麻衣の「Secret of my heart」を
レパートリーに加えることになったのがきっかけだ。
それまではバイトを始めた影響でT-SQUAREをはじめとするフュージョン一色だったから、耕次のことをどうこう言える立場じゃない。
嗜好は時として意外な形で変化するもんだと改めて思う。
 倉木麻衣の歌声が流れ始める。「Winter Bells」なのは冬を意識してのことだろうか。
少し茶色に染めた髪をポニーテールにしているのは、晶子がステージで歌う姿とダブる。
茶色加減は直接本物を見るのとTVで見るのとでは違うだろうから断言は出来ないが、晶子の方が強いように見える。
 ・・・そう言えば晶子は言ってたな。髪が茶色がかってることのは生まれつきだが、そのせいで程度の低い奴等や教師達に因縁をつけられた、と。
大学に進学してモードが完全自由化になったことでようやくその苦悩から解放された、と。
ファッションで競わせる一方で画一化を迫る「学校の壁を境界にした社会の矛盾」は、耕次が校則の大幅見直しを迫って生活指導の教師達に攻撃された時に
よく引き合いに出した題材だ。

「確か、祐司と晶子さんがバイトしてる店って、喫茶店だよな。」
「ああ。」
「そこでも倉木麻衣の曲がよく流れるか?」
「流れるって言うか生演奏してる。」
「え?!」

 TVを眺めながらビールを飲んでつまみを口にしていた中でふと勝平から出た問いに俺が答えると、耕次が反射的に驚きの声を出す。
あ、そうか。「バイト先は喫茶店」とは言ってあるけど−バイト先が決まったその日に面子全員に電話した−、何をしているかまでは具体的に言ってないし、
「喫茶店」で「ジャズ喫茶」を真っ先に連想する人は少数派だろうから、当然か。

「演奏というより歌ってるんだ。俺じゃなくて晶子がな。」
「へえ・・・。晶子さんがねえ・・・。」
「アカペラなのか?」
「否、店にシンセがあってデータはGeneralMIDIだから、俺が家で作ってる。フェードアウトする曲とかはアレンジしてる。」

 耕次とのやり取りに飛び入りした渉の問いに答える。
潤子さんがリクエスト演奏に参加する関係で、リクエストの頻度が日曜に突出している「The Rose」と、俺とのペア曲限定にしたい「Fantasy」とかはまだしも、
他はアカペラだと晶子もやり難いだろうし、聞く側としても物足りなさを感じる。歌ものの主役は当然歌だが、楽器演奏という脇役も必要だ。
 やり取りが自然と中断して、全員がTVを見る。
今の曲は「Ride on time」。ライブだからノリの良いアップテンポの曲が多いだろう。
この曲は晶子のレパートリーに加えてない。間奏にある男声ラップがMIDIでは到底再現出来ないからだ。
サンプラー(註:音声を直接メモリに取り込んで再生するシンセサイザーの一系統)があれば事情は違ってくるが、店にはないし俺の家にもない。

「耕次は好きな曲は?」
「んー。色々あるけど、どちらかと言うとデビュー頃の方が好きかな。『Secret of my heart』とかメロディアスな感じのタイプ。この頃だと『Time after time』ってところか。」

 ライブがMCになったところで耕次の好みの傾向を聞く。
「Secret of my heart」は耕次も言ったとおり黎明期の作品の1つで、俺が初めてデータを作った倉木麻衣の曲でもあるが、店での人気は衰えることがない。
3年連続で店のクリスマスコンサートの曲に入ったし、サマーコンサートでも演奏した。
 「Time after time〜花舞う街で〜」はレパートリーに含めていない。
客からの要望は多いが−店のテーブルには備え付けのアンケート用紙がある−俺も晶子もそれに応えるつもりはない。
意地悪とか曲が嫌いとかじゃなくて、あの曲を歌って弾けるのは俺と晶子だけにしておきたいという気持ちがあるからだ。・・・意地悪か。

「倉木麻衣っていうと、デビューした暫くは宇多田ヒカルとよく比較対照にされたよな。後発の倉木麻衣の方が悪く言われてたっけ。
耕次と祐司はそのこと知ってるか?」
「知ってる。だが声の質−良いか悪いかじゃなくて性質って言ったほうが良いが、そういうのが全然違うし、そういうのを比較対照にすること自体がナンセンスだ。
所詮そういう奴等は常時けちを付ける対象を探していて、自分達の嗜好に合わないっていう意味で気に入らない対象を叩くことで評論家になったつもりになって
快感を感じたいために過ぎない。そういう似非評論家の言うことを相手にするだけ損ってもんだ。」
「俺はあまり知らないな。倉木麻衣の曲を晶子が歌うことにしたのは店の方針とかそういうもんが理由じゃないし、宇多田ヒカルを知ったのは割と最近なんだ。
曲は聞いたことないし。」

 勝平の問いに対して、話を振られた耕次と俺が順に見解を言う。
耕次は「らしい」見解だが、俺は単に「宇多田ヒカルより倉木麻衣を先に知って現在に至る」という安直なものだ。

「耕次以外はどうなんだ?」
「俺は色々聞くから、どっちが良いとかいちいち比較するつもりはない。」
「音楽鑑賞は趣味嗜好の1つだから、どう思おうが自由だ。」
「俺も基本的には同じ。だが、俺としては宇多田ヒカルの方が好みかな。倉木麻衣は一言で言っちまえば澄んだ声だけど、宇多田ヒカルは同じく一言で言うと
芯がある声だから。」
「そういう類の評価はよく聞くな。」

 俺の問いに勝平、渉、宏一の順で答える。
勝平と渉が「内政不干渉」の立場を表明した一方で、宏一は基本的には賛同を示してから自分の好みを言う。
耕次の追記的言葉で、耕次は自分のお気に入りの倉木麻衣に因縁をつけられるのが嫌なようだと分かる。自分の趣味嗜好の対象を悪く言われて良い気分がする人は
まず居ないだろうが。
 俺は宇多田ヒカルの名前こそ知っているが、曲は聞いたことがなかったりする。
店の客からも「倉木麻衣があるなら宇多田ヒカルを」という要望が時々あるが、これまでの経緯で晶子には倉木麻衣の声とイメージが強く結びついているから、
「これがあるからこれも」という類の要望にはあまり応えるつもりはない。晶子からも宇多田ヒカルの曲をレパートリーに加えたい、という提案は今までない。

「宏一が宇多田ヒカルの曲で好きなのは?」
「全部、って言っちまえばそれまでだけど、あえて挙げるなら『traveling』と『Can You keep A Secret?』か。あれには宇多田ヒカルの魅力が凝縮されてる。」

 先に勝平が言った、倉木麻衣がデビューして暫くはよく比較対照にされたという宇多田ヒカルの声と曲がどんなものかは知らないが、宏一曰く「芯のある声」が
映える曲なんだろう。確か店の客からもその2曲のリクエストが多かったように思う。
 再びやり取りを自然中断してTVに焦点を戻す。
曲は「PERFECT CRIME」。やっぱりライブということを意識してか、アップテンポの曲が続いている。
高校時代はこの面子で何度もライブをして来たし、店でもクリスマスコンサートをしてるけど、ライブは思いの他体力を消耗する。演奏曲が多いと尚更だ。
当然だろうが、体調管理をしっかりしてるんだろう。何をするにしても結局は健康が第一の条件になることは多いもんだな。
 倉木麻衣はノースリーブだ。
俺達面子も、ライブや練習では季節と場所を問わず時間を進めていくと汗が大量に吹き出るから、長袖を着たことはなかった。
ヴォーカルの耕次は半袖が普通、ライブや練習を進めていくとタンクトップになることもしょっちゅうだった。耕次は学生の時の顔とバンドのリーダーの時の顔が
まったく違うから、最初見た時は結構驚いた。
 晶子は夏でも長袖だ。
以前半袖の服は着ないのかと尋ねたら、こういう返事が返って来た。

私、半袖は着ないんです。
不特定多数の人に肌を晒すのはあまり好きじゃないんです。
そういうこともあって、制服で夏服が半袖だった中学高校の時代は、夏はあまり好きじゃなかったです。

 晶子は今まで辛い記憶を背負って来た。
学校では髪が茶色がかっているということで目をつけられ、仲が良かった兄さんと距離を作られて大学を入り直した。
これまでの過去を切り捨てて、新天地で生きる道を模索していた時に俺と出逢って今に至る、か。
 やはり俺に課された、否、担うべき課題は重大且つ切実だ。
俺との生活に幸せと生き甲斐を見出した俺の隣に居る女神の頬を涙で濡らしちゃいけない。それが俺の責任だ。
どういう道を進むにせよ、俺は俺だけじゃないということを念頭においていかないといけない。生活を共にするということはそういうことだと俺は思っている。

「晶子さんの歌って、店で評判なのか?」

 勝平が尋ねる。耕次も興味深そうに視線をこっちに向けている。

「大人気だ。リクエストされない日はないって断言しても良い。」
「私の場合は、私の歌より私を見ることが目当てのお客さんが多いようですよ。実力を反映したものじゃないと思います。」
「デビューの時は拍手喝采だったじゃないか。」
「初めて聞いて新鮮だったからだと思いますよ。」

 はにかむ晶子。だが、晶子は今年の夏のサマーコンサートでもヴォーカルを務めたし、その「試験」という位置づけだった、桜井さん達が活動している
ジャズバーでのセッションでも初めてとは思えないほどのステージ度胸と、耳が肥えている桜井さん達や店のママさんを唸らせたという実績がある。
 晶子は決して実力がないわけじゃない。むしろ溢れるくらいあると贔屓目を抜きにしても思える。
俺が教え始めた頃は楽譜から遠ざかって久しいこともあって楽譜を満足に読めなかったのが、今じゃしっかり楽譜を読んで、発声練習では俺がアレンジをする関係で
曲の流れを把握するために作るメロディラインだけのMDに録音した楽器音と合わせたりもする。
 才能がないんじゃなくて単に埋もれていただけで、才能は間違いなくあると思う。もっとも、それを開花させるだけの努力があったのは言うまでもない。
ついでに言うなら、その当時の自分の気分で邪険に扱っていた俺に食らいつくだけの忍耐力もあった。これらは今でも健在だが、後者は特に大きいと思う。

「晶子さんが歌う倉木麻衣の曲。1回聞いてみたいもんだな。」
「おっ、勝平。それナイスアイデア。」

 勝平が漏らした希望に宏一がすかさず賛同する。
宇多田ヒカルの方を好む宏一は、晶子を通じて倉木麻衣の歌を生で聞いてみたいんだろう。耕次も声にこそ出さないがかなり乗り気なのは、その目の輝きを見れば分かる。

「1つ聞くが、晶子さんが歌う時の声質はどんな感じだ?」
「透明感があって通りが良い。張りもある。聞き応えはある。」
「断言するなぁ。」
「プロも納得させたからな。」
「プロ?晶子さんは歌手デビューを目指してるのか?」
「あ、皆には今年の夏のことはまだ話してなかったな。」

 俺は今夏のサマーコンサートと、その前のジャズバーでの顔合わせを掻い摘んで話す。
俺と晶子がバイトをしている店のマスターの元同僚からサマーコンサートの話を持ちかけられて、新京市の公会堂で満員御礼の大盛況になったこと。
その初めての顔合わせのためにマスターが昔活動していたジャズバーに赴いて、現役のミュージシャンと実際にセッションをして、晶子のヴォーカルは高い評価を受けたこと。
面子は全員興味深そうに聞き入っている。

「−こんなところ。」
「そりゃ尚更聞きたいな。」
「それじゃ、TVのライブが終わってからということでどうでしょうか?」

 俺が意思確認をするより先に、晶子が要望を受けるという前提で条件を提示する。
元々TVを見ると言い出したのは耕次だし、それが終わってからでも十分間に合う。
幸いこの部屋の両側は面子の部屋で今は当然空いているから、他の客の迷惑になる可能性も低い。

「そうですね。じゃ、お願いします。」
「はい。」

 TVを見たいと言い出した耕次も納得したし、晶子も披露する気でいる。
今はギターを持ってないから俺は何も手出し出来ない。どの曲を歌うかもどれだけ歌うかも−全部歌うかワンフレーズのみか−晶子に任せよう。
普段は練習か店での実演で聞いてるけど、客という純粋に聞くだけの立場で聞けるんだから、俺にとっても良い機会かもしれない。

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