雨上がりの午後

Chapter 76 二人迎えた朝の追及と告白

written by Moonstone


 ・・・意識が深淵の淵から浮かび上がってくる。ぼんやりした意識の形が徐々に輪郭を帯びてくる。
目の前が徐々に白んでくる。古びた天井の木目が目の前に現れる。
何度か目を瞬(しばた)かせると、残っていた眠気の残骸が殆ど消えて、天井の木目がはっきり見えるようになる。・・・朝か・・・。
 重みを感じる左肩に目をやると、茶色がかった長い髪を布団から床に広げて晶子が眠っている。
俺の胸のあたりまで掛け布団が掛けられてるから、丁度晶子は自分の肩まで掛け布団を被っている格好になっている。
その手は俺の胸の上にある。こういうところは月曜日の夜と大差ない。
 確実に違うのは、俺は勿論、晶子も俺が見える範囲で裸だということだ。
辺りを見回してみると、俺のパジャマの上下と晶子の浴衣が、布団の周囲に無造作に散乱しているということだ。
・・・夜、感情が高ぶった俺と晶子は互いに来ているものを脱がし合って・・・俺は今まで口をつけたことのない場所に口をつけて舌を這わせたんだっけ・・・。
 で、一線を超える前の「最終確認」で俺と晶子は抱き合って・・・俺はそれが凄く気持ち良くて・・・意識が遠くなって・・・

どうなったんだ?
そのまま寝ちまったのか?

でも、そうなら俺は晶子の上で寝てるかもしれない。否、ことが終わって何時ものスタイルで−今の状態だ−眠りに落ちたのかもしれない。
・・・あれ?何も思い出せない・・・。晶子と抱き合ってから・・・どうなったんだ?

「ん・・・。」

 寝言のような声を発してから、晶子がゆっくりと目を開ける。そして徐に顔を俺の方に向ける。
少し乱れた髪が頬を伝っていて、それが妙に艶かしい。まだ眠気が残っているのか、表情は少しとろんとしている。

「・・・おはようございます。」
「お、おはよう・・・。」

 とりあえず朝の挨拶を交わす。これは火曜日の朝と同じだ。だが、左半身に感じる感触は普段とは比べ物にならないくらい滑らかで、それに柔らかい。
改めて自分と晶子が裸だということが良く分かる。
頭に浮かんでくる夜の出来事と重なって、左半身に感じる感触がより一層明確になり、全身が火照ってくる。
 と、兎も角、今一番の問題は「最終確認」で晶子と抱き合った後どうなったのかということだ。
でも、どうやって尋ねりゃ良いんだ?
晶子は俺をじっと見詰めている。その目が切なげでもあり誘っているようでもある。やっぱり頭が真っ白になった状態で俺は晶子と・・・してしまったのか?

「あ、あのさ。その・・・夜のことだけど・・・。」
「・・・凄く良かったです・・・。」
「!!!」
「祐司さん、私を攻めに攻めるから、私はただ、祐司さんにしがみついてることしか出来なかったんですから・・・。」
「・・・。」
「まさか・・・覚えてない、なんて言いませんよね?」

 や、やっぱり俺は・・・興奮と快楽で頭が真っ白になった状態で晶子としてしまったんだ。
何てこった・・・。そんな至福の時を、否、重大なことを何も覚えてないなんて・・・。
かと言ってこんなこと、晶子に言える筈がない。自分を抱いておきながら覚えてないなんて酷過ぎる、と泣かれかねない。

「い、いや・・・。良い夜だった・・・な。」
「・・・本当にそう思ってます?」
「ああ。」

 少なくともこれは本心だ。晶子と抱き合った時、本当に気持ち良かった。
穏やかな晴天の空に浮いているような、温かくて心地良い感触を伴うものだった。
晶子の身体の彼方此方に口を付けた時の温もりと弾力と共に、今でもはっきり覚えている。
 晶子が更に擦り寄ってくる。
素肌そのものが密着しているところにそれを更に密着させてくるもんだから、晶子の肌の滑らかさと弾力がよりはっきり伝わってくる。
・・・またその気になってくるじゃないか。僅かではあるが眠気が残っていたが、それも一瞬で吹き飛んでしまう。

「もう後戻りは許しませんからね。」
「・・・分かってる。晶子の求めに応じたとはいえ、晶子を抱いたことには変わりないからな。」
「私は・・・どうでした?」
「・・・凄く良かった。それに・・・綺麗だった。」
「良かった・・・。」

 俺は晶子の頭に手を回して抱き寄せる。晶子は目を閉じて俺の胸に頬擦りする。
覚えてないのは勿体無いことをしたと思うけど、晶子とこうして素肌を触れ合わせるのは心地良いことには間違いない。
俺は幸せなんだ・・・。今、それを改めて実感する。

「二人共起きてる?」

 その時、襖の向こうから潤子さんの声が聞こえてきて、それとほぼ同時に襖がすっと開けられる。
思わぬことに身体を起こして襖の方を向いた俺と晶子は、浴衣姿でしゃがんだ状態で固まっている潤子さんと目が合ってしまう。
もの凄く重い空気が漂う。はっきり言わなくても・・・俺と晶子の状態はどう言い逃れしようと信じてもらえそうにない。

「・・・邪魔して御免なさい。着替えが済んだら・・・食堂へ来てね。」

 潤子さんは表情も姿勢も固まったまま、手だけ動かして襖を静かに閉める。
小さくぴしゃりと音がして襖が閉まった後も、俺と晶子は固まったままだ。
潤子さんにこの状態を見られたということは、即マスターの耳に入るだろう。・・・もう駄目だ。それこそ本当に役所に連れて行かれることになっちまう。
 俺は溜息を吐いて身体の硬直を解く。晶子は再び俺の方を向いて俺を見詰める。どうしよう?と問い掛けているようにも見える。
それを聞きたいのは俺も同じなんだけどな・・・。やっぱりここは男の俺がしっかりしないといけないな。

「もう言い逃れは出来ないんだから・・・逆に胸を張れば良いんじゃないか?」
「祐司さん・・・。」
「もう俺と晶子は只の彼氏彼女の関係じゃなくなったんだろ?婚姻届を役所に出したっていう形式上のものを除けばマスターと潤子さんの関係と同じだろ?
だったら俺達はそういうところまで進展しました、って言う他ないんじゃないかって思うんだ。」
「・・・祐司さん・・・。」

 晶子が俺に抱きついてきて頬擦りをする。俺はその華奢で柔らかい身体を優しく抱き締める。
その拍子で支えを失った俺と晶子は布団に倒れこむ形になったが、そんなことはどうでも良い。
晶子の温もりと柔らかさを感じながら、俺は晶子を抱き締めて、朝の光を受けて微かに煌く髪を撫でる・・・。

 そんな睦みの時を暫く過ごした後、俺と晶子は服を着る。
昨日あれだけ派手にやっておきながら何だが、裸の晶子を見ながら服を着るのはちょっと躊躇するものがある。
そういうことで、俺と晶子は背を向けて服を着る。

「・・・今日で帰るんですね。」

 後ろから晶子のしんみりした声が聞こえる。

「そうだな・・・。2泊3日なんて振り返ってみればあっという間だったよな。」
「でも、その短い間に色々ありましたよね。」
「確かに・・・。」

 そう、この2泊3日の海水浴をかねた小旅行では色々なことがあった。
思いがけない宮城との遭遇、初めて二人きりで話をして明確な区切りをつけたこと−宮城は諦めたわけじゃないとか言ってたが−、
そして夜は晶子の手以外の素肌に触れ、とうとう昨夜は・・・。
 どれもこれも、俺と晶子の心に思い出となって降り積もるんだろう。
特に今回は自分では覚えていないが、晶子と結ばれた。この夏一番の出来事と言えばそれ以外ないだろう。
覚えていないという点が悔やまれてならない。
不謹慎だと言われるかもしれないが、好きな相手と大きな一線を超える時ははっきり記憶に残しておきたかったというのが本音だ。
でも、事実として残った以上は認めないわけにはいかない。
記憶にないから今からしよう、なんてそれこそ不謹慎だし、晶子の心を踏みにじるようなものだ。記憶にないのは自分の失態として戒めるしかない。
 問題はこれからだ。
結ばれたことこそ記憶にないが、晶子の手以外の、服を脱がさなければ触れられない場所を自分の手で触り、口を付けた。
それらはその時興奮していたとはいえ、しっかり脳裏に焼き付いている。
これから先、晶子と二人で過ごす時間がただ晶子の身体を求めるだけのものにならないか、それが不安でならない。
そうなったら・・・破局が現実のものになるだろう。
 自制心が必要なのはむしろこれからなのかもしれない。否、そうに違いない。
一度したんだから今日も、なんていう一種の甘えに身を任せず、あくまでも双方合意の上でするようにしないといけない。
晶子の気持ちや事情も−女性特有のあれだ−考えずに晶子を押し倒すなら、発情期の動物と変わらない。
まあ、人間は万年発情期だとも言われるが、だからこそ自制心が必要だろう。

「祐司さん。私は準備完了しました。」
「あ、そう。もうちょっと待って。」
「はい。」

 いかんいかん。考え事をしていたら服を着るのをすっかり忘れてた。
俺は急いで服を着て髪を手櫛で適当に整える。触った感じじゃ寝癖はついてないようだ。
俺の髪はくせっ毛じゃないからまだ良いが、寝癖がつくと直すのはそれなりに面倒なものだ。
 準備を整えた俺は晶子の方を向く。
晶子は薄いピンクのワンピースという爽やかな印象を感じさせる服装だ。
対する俺はというと、白の半袖開襟シャツに紺の綿パンツという、季節感ゼロの服装だ。服装のセンスがないことが一目瞭然でちょっと情けない。

「マスターと潤子さんが待ってるでしょうから、早く行きましょうよ。」
「あ、ああ。待たせちゃ悪いよな。」

 俺は晶子の手を取って−何だか妙に照れくさく感じるが−、部屋を出る。
果たしてマスターと潤子さんはどんな顔で俺と晶子を待ち受けているやら・・・。考えただけで背筋が寒くなる。
他の客が居るだろうから声量を落としてはくれるだろうが−お構いなしな気がしないでもないが−、徹底的に突付かれるんだろうな・・・。
勢いと感情に任せて襖1枚隔てた部屋にマスターと潤子さんが居るという条件下でしてしまったのは失敗だったな・・・。
 俺と晶子が食堂に入ると、そこは結構賑わっていた。丁度他の客の朝食の時間とかち合ってしまったんだろう。
長いこと二人きりの時間に浸っていたのは間違いだったか。
此処は民宿。俺と晶子意外に人が居るってことがすっかり頭から抜け落ちてた。
 辺りを見回すと、やや奥の方の席でマスターと潤子さんが手招きしているのが見える。俺は覚悟を決めて晶子と共にその席へ向かう。
マスターがにやついているところからして−はっきりいって気味悪い−、潤子さんからことの次第は聞いているんだろう。場合によっては尾鰭がついた形で。
ああ、やれやれ・・・。どんな突っ突きが待っているのやら・・・。

「・・・話は潤子から全て聞かせてもらったぞ。」

 マスターがにやけながら低い声で言う。迫力をつけるためなんだろうが、にやついていては迫力どころか不気味なだけだ。
だが、やがて来る突っ突きを考えると、裁判官の判決を聞く被告みたいな気分になる。

「フフフ。お二人さん、とうとう大きな一線を超えたらしいな。やはり夏という季節が二人の愛の炎をより強くするのか・・・。」
「あなた。あんまり似合わないわよ、その台詞。」
「話の腰折るな、潤子。・・・ま、何にせよこれでお二人さんはめでたく夫婦同然の関係になったわけだ。めでたいめでたい。実にめでたい。
だが、二人はまだ学生の身。子どもが出来たことを理由にした関係にならないよう、避妊には十分注意して・・・」
「あ、あの、マスター。実は・・・。」
「井上さん。皆まで言うな。分かっておる。恐らく昨日は勢いと高ぶる感情に任せてやってしまったから避妊はしてなかっただろう。
だが、井上さんが安全日ならまず大丈夫だ。これからはきちんと・・・」
「ちょっとマスター。人の話を聞いてくださいよ。」

 何だか口調が奉行みたいになってきたマスターの言葉を晶子が遮る。何か言いたいことがあるのか?
あの場面を潤子さんに見られた上に晶子は凄く良かったと言うほどの−覚えがないのが本当に悔やまれる−夜を過ごしたんだ。
今更言い逃れをしようとしても無駄だってことは晶子も分かってる筈だけど・・・。

「む?何か異議があるのかな?」
「大有りです。・・・事実と違うからです。」
「「「・・・は?」」」

 晶子を除く三人が思わずユニゾンで聞き返す。事実と違うって・・・何がどう違うんだ?

「昨日の夜、祐司さんと私は・・・その・・・そういうことはしてないんです。」
「「「え?!」」」

 またしてもユニゾンで聞き返した俺とマスターと潤子さんに、晶子は頬をほんのり赤く染めて言葉を続ける。

「確かに祐司さんと私は、昨日その寸前まで行きました。私も気持ちは固まっていました。でも・・・。」
「「「でも?」」」
「・・・祐司さんが途中で寝ちゃったんです。何度耳元で呼んでも起きないくらい熟睡しちゃったんですよ。」

 な・・・何?!
ってことは、俺が晶子としたって記憶がないのは当然で、晶子はどういうつもりかは分からないが、晶子は意味深な言葉を並べて
俺が晶子としたという嘘の記憶を生成させたってことなのか?!

「と、途中で・・・。」
「寝ちゃったの?祐司君が。」
「はい。だから私は、私の上で寝ちゃった祐司さんを仰向けにして、くっついて寝ることにしたんです。祐司さん、本当にぐっすり眠ってましたから
起こすのは可哀相だったし、私も・・・その・・・気分が萎えちゃったので。」

 俺は安堵の溜息をごく小さく、マスターは呆れたと言わんばかりに頭を掻いて溜息を吐き、潤子さんはちょっと安心した様子で笑みを浮かべる。
良かった・・・。記憶がないまましたんじゃなくて・・・。するならするで、やっぱり自分の記憶に残したいしな。

「何だ何だ。散々期待させておいてそういうオチはないだろう?祐司君ももう少し頑張れなかったのか?ちょっと情けないぞ。」
「あの時晶子と抱き合ってたら凄く気持ち良くて、そのうち頭がふわふわしてきて・・・意識が吸い込まれるように寝ちゃったみたいです。
昨日何だかんだで疲れが溜まっていたところに気持ち良さが加わって、一気に吹き出したっていうか・・・。」
「眠いならそうなる前に素直に寝ろよ、祐司君。はーあ。何のために今後の対策を話したか分からんじゃないか。」
「でも、勢いに任せて一線を超えなくて、私は良かったと思うわ。」

 頻りに残念がると同時に俺の「無責任さ」を責めるマスターに、潤子さんが安心したような表情で言う。

「これから先は長いし、二人が実際何処まで進んでるかは知らないけど、もっとお互いを良く知ってからでも遅くはないんじゃない?
それに勢いでしちゃって、それから以降二人きりになったら欲求に任せて身体だけ求めるような関係になっちゃうよりはずっと良いと思うけど。」
「うーん・・・。まあ、そういう考え方もあるか。」
「そうよ。お互い納得の上で、きちんとするべきことをした上で一線を超えるなら、私達が止めることはないでしょうけど。
それに晶子ちゃんとしては相手が寝ている隙に、なんてことはしたくなかったでしょ?」
「は、はい・・・。」
「なら尚更、祐司君が寸前のところで寝ちゃったのは、その後のことを考えたらむしろ良かったんじゃないかしら?」

 俺もそう思う。
身体だけ求める関係になっちまうのは真っ平御免だ。
勿体無いことをしたとも思うが、覚えがないうちにしてしまってそれが「実績」になるのは騙されたみたいで良い気分がしないだろう。
その意味では潤子さんの言うとおり、俺が寸前で寝ちまったのは結果的には良かったと思う。
 しかし・・・晶子は何で思わせぶりなことを言って俺をその気にさせたんだ?
そのくせマスターが奉行みたいな口調で「説教」していたら、ことの真相を話したっていうのはどういうことだ?
黙ってればそれこそ既成事実が偽造できたっていうのに・・・。この辺のところは後で聞いておく必要があるな。

 俺達一行は朝食後に荷物を纏めて宿を出て、土産物屋や飲食店が並ぶ界隈へ繰り出して土産物を買ったり−俺はキーホルダーを買った程度だが−、
飲食店でちょっと寛いだ後、帰路に着いた。
出発の際には店に集合ということになっていたから、必然的に店まで送ってもらうことになる。
 今日が日曜ということで行楽地へ繰り出すらしい車で大通りは渋滞。
なかなか進まない車中では、一般的な家族やカップルや友人達とは恐らく違って、ジャズやフュージョンが流れ−こんなこともあろうかと
マスターがCDを沢山持って来ていた−、色々なことがあった夏のひと時が終わるのを惜しむように談笑していたから退屈はしなかった。
 店に着いたのは丁度昼過ぎ。帰ろうとした俺と晶子は潤子さんに呼び止められ、昼食をご馳走になることになった。
思わぬ誤算だったが、二人で帰った後も晶子に昼食を作らせるつもりはなかったし−実は日曜、月曜と晶子の家に泊まる約束があったりする−、
潤子さんお手製のミートスパゲッティとサラダ、ミックスジュースを飲み食いしながら、改めて一線を超える時の注意を受けた。
 帰り際にマスターから「明るい家族計画」一箱を貰い−一箱以上あるというところが何か凄い−、俺と晶子は昼下がりの陽射しの中、
マスターと潤子さんの見送りを受けて帰路に着いた。
向かうは晶子の家だ。昨夜の宮城との話し合いのことを中心に話していて、それが一区切りついたところで、俺は疑問を口にするべく話を切り出す。

「・・・なあ、晶子。聞きたいことがあるんだけど・・・。」
「何ですか?」
「聞きたいことは二つあって、一つ目は今朝・・・昨日の夜にさも俺が記憶にないうちに晶子としたように思わせるようなことを言ったんだっていうこと。
もう一つはそう言っておきながら自ら嘘を白状することになるようなことを言ったのかっていうこと。あのまま黙ってれば、俺は晶子としたっていう
嘘の既成事実が出来たのに・・・。」

 俺が疑問を一気に口にすると、晶子は少し間を置いてから答え始める。

「順に答えますね。まず一つ目の思わせぶりな言い方をしたってことですけど、あれは・・・あくまでも昨日の夜の出来事に対する私の感想を言って、
寸前で寝ちゃった祐司さんが眠る前のことを覚えてるかどうか尋ねたつもりなんです。それにあそこまで許したのにこれで私とは終わり、なんて
嫌でしたから、祐司さんに釘を刺すつもりで言ったんです。」
「あ、成る程・・・。」
「次に二つ目ですけど・・・、あれはマスターと潤子さん、それに何より祐司さんと私自身に嘘をつきたくなかったからです。
あのままマスターの話が進んだら、私は祐司さんと一線を超えたっていう嘘が事実になってしまって、寸前で寝ちゃった祐司さんがそのことで
私を見る目を変に変えたりするかもしれないってことが嫌で怖くて・・・。だから事実を言ったんです。それが祐司さんにとっては態度を
180度変えたみたいに感じられたのは、皮肉な話ですけど・・・。」

 そういう背景があったのか・・・。
つまりは、俺は騙されたんじゃなくて晶子の言葉や問いかけで自分自身で偽りの事実を作り上げたわけだ。
これで納得が出来た。晶子には変な疑いをかけて悪いことをしてしまったな・・・。

「すみません。妙な物言いしてしまって・・・。」
「いや、勝手にそっちの方向に解釈した俺も俺だから気にしなくて良いよ。事情が分かって疑問も消えたことだし。」
「ありがとう、祐司さん。」
「・・・寸前で寝ちまったのは勿体無いことしたなっていう思いはあるけど。」

 俺はぽろっと本音を漏らしてしまってからしまった、と思ったが時既に遅し。
横目で晶子を見ると、聞きましたよ、と言わんばかりの笑みを浮かべて俺を見ている。
その視線に耐えられず、俺はさっと視線を前へ向ける。

「あ、そういう本音があるんですね?」
「い、いや、さっきのは口が滑っただけで・・・。」
「口が滑ったってことは、それで言ったことが本音だってことですよ。」
「あ、あう・・・。も、もうそのことは良いじゃないか、な?」
「駄目です。私の家でじっくりお話を聞かせてもらいますからね。」

 しまったぁ・・・。これから晶子の家でちくちく突付かれるのかよ・・・。口は災いの元っていうけど、ありゃ本当だな。
何て言い訳すりゃ良いんだろう・・・?確かにあの時あそこまで、それこそあと一歩ってところまでいったのに迂闊にも寝てしまったのは
勿体無いことした、と思う。
だけどその一方で、勢いに任せて一気に一線突破、ってことにならなくて良かった、という気持ちもあるのも事実だ。
この際だから両方本音って言えば良いかな・・・。

このホームページの著作権一切は作者、若しくは本ページの管理人に帰属します。
Copyright (C) Author,or Administrator of this page,all rights reserved.
ご意見、ご感想はこちらまでお寄せください。
Please mail to msstudio@sun-inet.or.jp.
若しくは感想用掲示板STARDANCEへお願いします。
or write in BBS STARDANCE.
Chapter 75へ戻る
-Back to Chapter 75-
Chapter 77へ進む
-Go to Chapter 77-
第3創作グループへ戻る
-Back to Novels Group 3-
PAC Entrance Hallへ戻る
-Back to PAC Entrance Hall-