雨上がりの午後

Chapter 41 聖夜に広がる音の潮−3−
〜そしてささやかなる宴〜

written by Moonstone


 俺はふぅ、と目立たないように溜息を吐いて次の曲の準備を始める。
次はムードが一転して4人全員揃っての楽しいクリスマスソング『赤鼻のトナカイ』だ。
潤子さんと晶子がが左脇からステージに上がって所定の位置につく。最初はヴォーカルが主体なので、マスターは少し後ろに下がった位置に居る。
 少しして潤子さんの軽快なピアノのイントロが始まる。この4小節分のイントロの間に晶子がマイクをスタンドから引き抜く。
またステージを動き回りながら歌うつもりだな・・・。まあ、こういう感じの曲の場合、突っ立って歌うよりは動きながら歌う方が良い。
直ぐに晶子のヴォーカルが入る。これまた英語だ。聞き取りやすいには違いないが、俺には何のことやら分からない。
まあ、日本語と同じことを言ってるんだろうと勝手に思い込む。俺は今回、バッキングに専念しなきゃならない。
 一頻り晶子が歌い終わると、晶子が後ろに下がってマスターが前面に出て来てテナーサックスでメロディを演奏する。
サックスが入ると不思議とジャズっぽく聞こえる。
マスターが普段良く使うのはアルトサックスだが、テナーサックスは音域がやや低い分、渋い感じになる。
抑揚のつけ方が上手いから余計にそう感じるのかもしれない。
 マスターのサックスが終わると、晶子が再び前面に出てきてサックスとユニゾンする。高音域と低音域の交わりが良い感じだ。
潤子さんもノリの良さを感じたのか、バッキングが自然とジャズっぽくなる。
こうした場面でも臨機応変に対応できるのが凄い。俺も負けじとジャズっぽく演奏する。
 人間と人間のぶつかり合い・・・コンサートをする魅力は何といってもそこにある。
シーケンサは演奏データを正確に演奏するが、臨機応変に演奏のタイプを変えたりとかは出来ない。
その点からも、このコンサートをやって良かったと思う。

 最後もジャズっぽくマスターのテナーサックスのフリーで締める。大きな拍手と歓声が客席から沸き起こる。
街で流れている曲と違うタイプの『赤鼻のトナカイ』に新鮮さを感じたんだろう。
 ようやくコンサートも終盤に近付いてきた。晶子からマイクを譲られたマスターが前に出てくる。

「さて皆さん。このコンサートもいよいよ終幕を迎えつつあります。
若くて楽器の違う二人を加えて、これまでより幅を広げた今回のコンサート。最後は井上さんと潤子が初めてデュエットに挑む『Secret of my heart』、
そして4人全員で初めての披露となる『COME AND GO WITH ME』。この2曲を続けてお送りしましょう。」

 潤子さんが「指定席」のピアノを離れて、マスターが素早く用意したマイクスタンドの前に立つ。
その瞬間おおっ、というどよめきが起こる。潤子さんと晶子のデュエット・・・。ファンにとっては感涙ものだろう。
その脇にいる俺は恐らく目の片隅にも入っていないんだろうな。まあ、ヴォーカルがこの組み合わせじゃ太刀打ちできる筈がない。
 俺は二人がそれぞれ歌う体勢になった−晶子は両手をマイクに乗せて、潤子さんは左手だけマイクに乗せる−ことを確認して、フットスイッチを押す。
安っぽい音色のリズム音が始まる。俺はそれに合わせてバッキングを始める。
程なく軽いハミングが入る。これは潤子さんの声だ。マイクを通して聞く潤子さんの声は普段どおり上品に澄んでいる。

 そして二人のデュエットが始まる。同じソプラノボイスでも違う音色−敢えてこう言う−だから音の厚みが増す。
しかし、潤子さんの声は晶子に勝るとも劣らぬほど良く通る。なるほど晶子がヴォーカルの座を奪われると警戒する筈だ。
実際のところ、潤子さんのヴォーカルはこの曲限定だから警戒する必要はないと思うんだが。
 客席の様子を伺ってみると、手拍子こそあるが、ものの見事にヴォーカルの二人に視線が集中しているのが分かる。
特に男性客なんて、瞬きするのも惜しいような雰囲気を醸し出していたり、呆然と突っ立ったままの奴も居る。

 やがて曲はサビの部分に入る。二人の歌声にも熱が篭る。
その切なげな詞が会場の雰囲気を更に盛り上げる。俺の胸に切なく響いて来て、同時に今まで晶子が見せた切なげな表情が思い出される。
切なげな表情を見せられてこの歌を歌われれば、俺を含めて聞いた相手は大抵ノックアウトされそうな気がする。
実際、会場の男性客は魂を抜かれたような感じになってる奴が多い。

 曲はもう一度同じフレーズを繰り返した後、大きな山場を迎える。
一言歌詞が会場の空気に刻まれるたびに静かに、しかし激しく会場の興奮が増してくるのを感じる。
二人のヴォーカルを傍で聞いていて、俺は身体が震えるのを感じる。その震えが指に伝わらないようにするのが精一杯だ。

 そして二人の声が消え、演奏が終わる。と同時に割れんばかりの拍手と歓声と二人への声援が沸き起こる。
この曲をデュエットするという試みはズバリ的中して観客の心をがっしりと掴んだと言って良い。
観客にとってはこれ以上ないクリスマスプレゼントになったんじゃないか?
 あまりの反響に二人も面食らったらしく、互いに顔を見合わせる。そしてようやく客席に向かって揃って一礼する。
すると再び大きな声援が飛び交う。まさにアイドルのコンサートになってしまった。
二人ともルックスの良さに加えて抜群の歌唱力もあれば、こうなっても仕方ないか。
 ここでマスターがステージに出てきて、潤子さんの前にあるマイクスタンドからマイクを取って客席に向かって言う。

「えー皆様。落ち着いて。落ち着いて下さい。」

 マスターが言うと、徐々にではあるが客席の興奮がようやく収束に向かう。
何分本当に客がステージに上がってきそうな勢いだっただけに、俺も内心胸を撫で下ろす。

「いやー、今回のコンサートのために実験的に組んだペアなんですが、まさかこれ程の反響があるとは思いませんでした。
これから日曜限定でリクエストのレパートリーに加えようかと思います。それでよろしいでしょうか?」

 マスターの提案に、客席は拍手や歓声や指笛で応える。
この分だとこれから日曜日は潤子さんの『ENERGY FLOW』に加えて二人の『Secret of my heart』狙いの客でごった返しそうな気がする。
 さあ、次はいよいよ最後の曲、『COME AND GO WITH ME』だ。4人それぞれがそれぞれの「指定席」について準備を整える。
マスターはマイクスタンドを一つ片付けて自分が担当するアルトサックスを準備する。
コンサートの進行に加えてマイクスタンドの出し入れや自分の楽器の準備と、マスターが一番動き回っていると思う。
 1分か2分くらいでマスターがサックスを構える。晶子は歌うときそのままの姿勢で正面を向いている。
潤子さんを見ると、準備OKという合図か小さく首を縦に振る。俺も準備完了。となれば、フットスイッチを押すだけだ。

 ラジオ音のSEが混じるイントロが終わると直ぐに晶子の出番だ。最初の部分はリズム楽器が無いからリズムを自分で取るしかない。
晶子は身体でリズムを取りながら声量を控えめにして歌う。囁くような歌声は原曲を髣髴とさせる。
 最初のヴォーカル部分が終わると次はマスターのサックスだ。ブロウの効いた音色が歌っているように聞こえる。
演奏時間は短いが、長く続く次のヴォーカルに繋げる重要な部分だ。マスターの演奏から手を抜いている感じは全く無い。

 再び晶子のヴォーカルが前に出る。今度はイントロのときと違って明瞭な、それでいて透き通った声で歌う。
ゆったりとハネるリズムと客席からの手拍子に乗って晶子は会場に歌声を広げる。良い雰囲気だ。
ハイテンションでもなく厳かでもない適度なリズムは最後を飾るに相応しい。マスターと潤子さんも結構考えてプログラムを組んだものだ。
 晶子のヴォーカルが終わると次は再びマスターのサックスに替わる。今度はリズム楽器が無い状態でのソロだ。
かなりの難所だが、ここでリズムを崩すようなマスターじゃない。抑揚を聞かせて大胆に吹き鳴らす。
 途中からリズム楽器と俺のギターが加わる。ギターの音がサックスと並んで前面に出るのはこの部分だけだ。
自分の中でリズムをしっかり刻みながらマスターのサックスとの共演を楽しむ。
サックスは少々大変なフレーズだがそこはマスター。難なく吹きこなしてみせる。
 曲もいよいよ終盤。ヴォーカルとサックスが絡みながら会場に広がる。それを支えるように俺と潤子さんがバッキングを加える。
シーケンサはあくまで人の手が足りない部分の補助だ。
リズムが乱れては話にならないが、このステージに立つ4人が互いの存在を確認しあって曲を進めるんだ。
これこそコンサートの醍醐味。俺がかつてバンドで演奏するのが楽しいと思わせるようになったものだ。

 曲がエンディングを迎える。
パラパラと拍手が起こるとそれが直ぐにいっぱいの拍手と大歓声になって会場を包み込む。大盛況だ。
鳴り止む気配のない拍手と歓声の中、頬を紅潮させて満足げな笑顔を浮かべる晶子がマイクに向かって言う。

「皆さん、本当にありがとうございました。」

 晶子の一言で会場のボルテージが沸騰寸前に達する。
俺は急いでストラップから身体を抜いて立ち上がる。
客が今にもステージに殺到しそうな勢いだから、そうなったときは晶子をガードしなきゃいけない。

「あー、皆様、落ち着いてください。冷静に、冷静に。ステージには絶対上らないで下さい。」

 マスターが別のマイクを持って前面に出る。潤子さんが使っていたものだろう。
客のボルテージは相変わらず高いが、幾分収まったように感じる。マスターの面構えに圧倒されたか?

「皆様、お楽しみ頂けたようで何よりです。今年は新しく二人が加わったことで例年に無く賑やかでバリエーションに富んだコンサートとなりました。
ギターの安藤君、そしてヴォーカルの井上さんにどうぞ拍手をお願い致します。」

 一旦収束に向かった拍手が再び大きくなる。
俺と晶子は戸惑いながら顔を見合わせ、客席に向き直って一礼する。これは曲を演奏する側として当然の礼儀だろう。
しかし、これだけの人から拍手や歓声を受けるのは高校時代のバンドのコンサート以来だな。
体育館に比べれば狭い会場に客が犇めき合う様子は、もうライブ会場といったほうが良いかもしれない。
 潤子さんも会場の雰囲気の収束を感じてか、ピアノの方からステージ前に出てくる。
4人勢揃いしたことで、マスターが一列に並ぶように合図する。
ステージに向かって左から潤子さん、俺、晶子、そしてマスターの順に並ぶ。店の「顔」の二人に挟まれて、男性客の視線がちょっと痛い。

「今宵繰り広げられた音の饗宴に長らくお付き合いくださいまして、本当にありがとうございます。
これからもDandelion Hillをよろしくお願いいたします。」

 マスターの言葉に客は拍手と歓声で応える。潤子さんと晶子への声援がそれに何度も混じってくる。
生憎俺への声援は殆どないが、一人のギタリストとして最高のコンサートのステージに立てたことだけで充分だ。

「それでは皆様、ご斉唱をお願いします。メリークリスマス!!」
「「「メリークリスマス!!」」」

 客の声が一つの塊となる。それが弾けた後には惜しまない拍手と歓声が会場いっぱいに広がり、ステージに居る俺や晶子、
マスターと潤子さんに暖かい賞讃の雨となって降り注ぐ。それがとても心地良い。
 カッコつけ、と時に陰口を叩かれながらもギターをやっていて良かった。
自分の嗜好と洒落た建物のアンバランスに負けず、この店のドアを叩いて良かった。
そして・・・このステージに立てて良かった。

それに今、最高のパートナーが俺の隣に居る・・・。


「ようやく終わったって気分がしてきたな。」
「私もです。1日目はまだ明日があるっていう緊張感がありましたしね。」

 深まった闇の中で聞こえる音は、俺と晶子の会話と足音くらいのものだ。
 2日目は開演前から修羅場だった。
前日会場に居た人から口コミで聞いて初めて来たらしい客や、前日も見覚えのある客までぞろぞろと押し寄せ、会場は1日目にも増して鮨詰め状態になった。
止むを得ず、テーブル席の空白部分まで立ち見客を押し込んでようやく全員収容、となった。
 対してステージに立つ側である4人はといえば1日目の疲労が抜けきれてなくて、かと言って手を抜くわけにはいかないから1日目同様、
否、それ以上のパワーを振り絞って演奏に歌にステージを動き回った。
1日目は専ら座って演奏していた俺も、『Jungle Dancer』とかでは立ち上がって演奏したくらいだ。
 2日目も無事終了した後は、疲れの溜まった体に鞭打って後片付け。
テーブルや椅子をかなり動かしたから、それを元の位置に戻すだけでも一苦労だった。
勿論、飾り付けの取り外しも忘れるわけにはいかない。この店ではもうクリスマスは終わったんだから。

 まず一度目にコンサートが終わった、と実感したのは、「仕事の後の一杯」でシャンパンのグラスを4人全員で合わせたときだった。
マスターが音頭をとった後「かんぱーい!」と言いながらグラスを合わせたとき、思わず深い溜息が出てしまった。
達成感や充実感に加えて、この2日間を無事に乗り切った安堵の念も多分に含まれていたと思う。
 店の方は明日は休み−月曜日だから−。27日は通常どおりの営業で28日は店を閉めて大掃除をするということだ。
29日から1月4日までは年末年始のお休み。帰省するなり一緒に年を越すなり好きにしてくれ、とマスターはにやっと笑いながら言った。
何で一緒に年越しになるんですか、と言いそうになったが、疲れで苦笑いしか出来なかった。
もっとも晶子の前で言うには少し憚られる台詞だから言えなくて良かったかもしれない。
まあ、そんなに照れるな、と軽くあしらわれるだけだったかもしれないが。
 メリークリスマス、というこの日らしい挨拶の後、店を出て今こうして晶子と並んで、否、寄り添って歩くこと暫し、
それでようやく本当に終わったんだなぁ、という実感が内側から湧きあがって来るのを感じる。
今は疲労と満足感や充実感、そして安堵の生み出した心の酒にほろ酔いしているとでも言おうか。
 これから行くのは晶子の家だ。前々から言っていたとおり、晶子お手製のささやかなクリスマスパーティーにお邪魔するためだ。
今更帰るなんて言わせませんからね、といわんばかりに、晶子は俺の腕にしっかりと自分の腕を回している。
以前なら罠に引っ掛かりに行くようなものだ、と頑強に拒否して腕を振り払っただろうが、今はそんなこと微塵も思わない。

「ケーキの好き嫌いって、何かあります?」
「いや、妙な味がしないやつなら何でも食べる。」
「それはないと思いますけど・・・。予め好きなケーキとか聞いておいた方が良かったですね。」
「それだと楽しみがなくなっちまうよ。」

 俺なら兎も角晶子が選ぶケーキだから、得体の知れないものじゃないだろう。
・・・別に俺が意外性を求めて未知の物体のようなケーキを探して店を回るというわけではないが。

 そんなやり取りを交わしていると、目の前に晶子の住むマンションが現れる。だが、自分の中ではそんなに歩いたという実感がない。
店から直ぐのところにこのマンションがあるような気さえする。会話に夢中になってて距離の感覚がなくなっていたということか?
相変わらず頑強なセキュリティを通って、俺は晶子と一緒にパーティー会場である晶子の家に向かう。
この時間だと廊下を歩いてる人なんて見かけないし、足音も妙に良く響く。近所迷惑なんじゃないか、とさえ思う。
 晶子が鍵を開けて先に中に入る。俺も続いて中に入ってドアと鍵を閉める。
もう何度も繰り返したせいか、条件反射的にそうしてしまう。それだけ晶子の家に出入りするようになっているということか・・・。
 まったく、ほんの2、3ヶ月前まであれだけ晶子を毛嫌いしていたことが不思議に思えてならない。
晶子が初舞台を踏んだ日の帰りに紅茶を飲みに立ち寄って以来、何度となく通う間にこの部屋が自分の家のような錯覚すら感じるようになってしまっている。
この前も自分の部屋みたいに横になって、そのまま御一泊となったしな・・・。
 晶子はさっさとコートを脱いで椅子にかけ、紅茶を沸かす準備を始める。
暖房のスイッチは入れてあるらしく温風の流れを感じるが、まだコートが脱げるような状態じゃない。

「先にリビングに行ってて下さい。直ぐ用意しますから。」
「ああ、分かった。」

 俺はコートを着込んだまま、リビングに通じるドアを開けて中に入る。
部屋は相変わらず綺麗に整理整頓が行き届いている。俺の家はというと・・・今は想像しないでおこう。あまりの落差に余計に帰りたくなくなってしまいそうだ。
 暖房もそろそろ効いてきたから、俺はコートを脱いで晶子のベッドの上に置いておく。
そしてクッションの上にどかっと腰を下ろして晶子が来るのを待つ。
こうしてぼうっとしていると、本当に自分の家でくつろいでいるような気がする。部屋の風景ももう見慣れてしまってるしな・・・。
 少ししてドアを軽くノックする音が聞こえる。
両手が塞がってるんだろうな、と思って立ち上がってドアを開けると、もはや目に馴染んだ感すらあるティーカップにティーポット、
そしてモンブランとチーズケーキが1つずつ乗った皿を2皿、トレイに乗せた晶子が立っていた。
 ありがとう、と言って晶子がティーカップをテーブルの一辺に並べて、併せてケーキが2つ乗った皿を並べる。
普段並べるときはテーブルの1辺に一人分なのに・・・。晶子の可愛い魂胆が見えて思わず笑みがこぼれる。
以前だったら何の真似だ、とか食ってかかってただろうな。

「自分の好みでチーズケーキとモンブランにしたんですけど、これで良かったですか?」
「良いさ、勿論。わざわざ買っておいてくれたものだし、それに・・・。」
「それに?」
「ケーキ買って食うなんて、自分の今の家じゃ考えられないことだからな。男一人でケーキ屋に入るのって、ちょっと抵抗あるし・・・。」
「女の人が圧倒的に多いですからね。無理ないですよ。」

 俺と晶子はクッションを並べて座る。
少々手狭に感じるが、腕と腕が密着することが俺の中での晶子の存在感を増幅させる。クリスマスの夜に二人きりという事実がそれに拍車をかける。
・・・緊張するなぁ、やっぱり。

「じゃあ、いただきましょうか。」
「・・・ああ。」

 俺と晶子は共にケーキの乗った皿にあるフォークではなく、ティーカップに手を伸ばす。そして互いに向き合う。
事前に打ち合わせをしたわけでは勿論ない。俺も晶子も自然にティーカップを持って向き合った。

「やっぱり最初は乾杯かな、って・・・。」
「同じこと・・・考えてたんだな。」

 ケーキと紅茶で乾杯するというのは物珍しいことだとは思うが、店で4人揃ってシャンパンのグラスを合わせたときより大きくなった安心感と充実感が、
改めて通過儀礼をすることを選択させたんだろうか。

「それじゃ・・・コンサートの成功を祝して。」
「「乾杯。」」

 カツン、という軽く小さな音がして、俺と晶子のティーカップが触れ合う。そして湯気と共に仄かな芳香を漂わせる紅茶を一口喉に通す。
温かいものが喉を通って腹に入り、じんわりと体全体に広がる。本当にコンサートは終わったんだという意識が胸全体に拡散していく。

このホームページの著作権一切は作者、若しくは本ページの管理人に帰属します。
Copyright (C) Author,or Administrator of this page,all rights reserved.
ご意見、ご感想はこちらまでお寄せください。
Please mail to msstudio@sun-inet.or.jp.
若しくは感想用掲示板STARDANCEへお願いします。
or write in BBS STARDANCE.
Chapter 40へ戻る
-Back to Chapter 40-
Chapter 42へ進む
-Go to Chapter 42-
第3創作グループへ戻る
-Back to Novels Group 3-
PAC Entrance Hallへ戻る
-Back to PAC Entrance Hall-