Saint Guardians

Scene 8 Act 4-4 帰結-Conclusion- 野望と希望の行く末は

written by Moonstone

「ルイ!!」「ルイさん!!」

 叫んだアレンとフォンを嘲笑うように、倉庫は激しい炎と煙に包まれる。

「ルイさん!!」

 一刻の猶予もないことは明らかだ。アレンは結界から飛び出して倉庫に全速力で駆け出す。

「ホーク!!貴様ぁ!!」

 激昂したフォンに対し、ホークは勝利を確信してニヤニヤと薄気味悪い笑みを湛えている。バライ族を忌み嫌うホークは端からルイを解放する気などなく、
再会を切望するフォンの目前で焼き殺そうと算段していたのだ。
 非常事態に直面した面々−フィリアはアレンの防御、ドルフィンとシーナは消化のための水系魔法の使用、リーナは水系魔物の召還に乗り出す。
しかし、フィリアが張る結界とドルフィン達が居る場所に、四方八方から魔法による猛烈な狙撃が降り注ぐ。魔法反応をいち早く感じた50)シーナが間一髪
結界を張って直撃を免れるが、魔法による狙撃に続いて重装備に身を包んだ兵士達が、これまた四方八方から押し寄せてくる。フォンを結界で防御する
フィリアも例外ではない。アレンを防御したいのは勿論だがフォンを抹殺されるわけにはいかないから、フィリアは襲い来る兵士達を魔法で撃退することに
専念せざるを得ない。ドルフィン達も剣を振るい、魔法を使って兵士達を蹴散らす。オーディション会場での教訓から、ドルフィンは剣で粉微塵に寸断し、
シーナは跡形も残さないように粉砕する。
 絶大な物理攻撃力を持つドルフィンとWizard故に絶大な魔法攻撃力を持つシーナが居るこちら側の情勢は比較的楽だ。最重要人物の1人であるフォンを
防衛するフィリアの情勢を気にかける余裕がある。

「クリス!フィリアの援軍に向かえ!」
「了解です!」

 ドルフィンの指示を受けて、クリスが結界から飛び出してフィリアの支援に乗り出す。途中兵士達が立ちはだかるが、クリスは全力で蹴散らし、続いてフィリアと
フォンを防御する結界に群がる兵士達を強烈な拳と蹴りで撃退する。結界を破らんと突進を繰り返す兵士達に脅威を感じていたフィリアは、クリスの支援を
見て気を取り直して撃退と防御を続ける。
 炎と煙が荒れ狂う倉庫の片隅で、柱に縛られたルイは煙を吸って咳き込む。このままだと焼け死ぬのは避けられないと感じる。死は神に召されて天国に
向かう転機とされているキャミール教の協議が深く根付いているルイには、死そのものはさほど恐怖ではない。それより、後悔の念が強い。
オーディションが終わった後、1人の女性としてアレンに聞いてもらうと約束を交わしたのにそれを果たせないこと、自分の気持ちを伝えられないことに対する
後悔だ。

『言いたかった・・・。伝えたかった・・・。』

 咳き込みながら、ルイは後悔と共にアレンを思い浮かべる。ホテルで過ごした日々の中で何度も見たアレンの様々な表情が、ルイの頭に浮かぶ。

「アレンさん・・・。」
「ルイさーん!!」

 ルイが漏らした呟きに反応するように、聞き覚えのある声が発せられる。気のせいか、と一瞬思ったルイは顔を上げる。

「ルイさーん!!」

 再び発せられた自分の名を呼ぶ声は、遠いが先ほどよりはっきり聞こえる。幻聴ではない。アレンが助けに来てくれたのだとルイは確信する。

「アレンさーん!!」
「ルイさーん!!何処ー!!」
「倉庫の・・・ゲホッゴホッ、1階の隅です!!」

 激しい煙に巻かれて咳き込みながらも、ルイは呼びかけに応えて自分の居場所を知らせる。ルイの声を聞いたアレンは、業火と煙が荒れ狂う倉庫内を
ひた走る。
咳き込みを激しくしながら顔を上げ続けるルイの瞳に映る紅蓮の光景の中から、アレンが徐々に姿を現す。待ち焦がれた人物の姿を見て、ルイは感激で目を
潤ませる。

「ルイさん!!」
「アレンさん!!」
「動かないでね!!」

 服の何箇所かに炎を纏いながらルイの元に到着したアレンは、ルイを柱に拘束する縄を剣で切断し、次にルイの両手を後ろ手に縛る縄を切る。
生きる気力を一挙に取り戻したルイは、拘束から解放されると即座に立ち上がる。

「逃げよう!!」
「はい!!」

 アレンがルイの手を取って走り出そうとした時、炎で接合部分が焼き切られた天井が崩壊し始める。敏捷なアレン単独なら脱出出来るかもしれないが、
今はルイを伴っている。勿論ルイを放り出すことなどアレンには出来ない。ついに全体が崩落を開始した倉庫の中で、アレンはとっさの行動に出る。

「ルイーっ!!」

 倉庫が炎と煙の中で崩壊するのを目の当たりにさせられたフォンは、悲痛な叫びを上げる。対するホークは高らかに笑う。倉庫崩壊とほぼ同時に兵士達が
撤退したことで視界が開けたドルフィン達は、衝撃の場面に遭遇して呆然と立ち尽くす。

「これで、私の次期リルバン家当主継承は確実なものになりましたな。兄上。」
「ルイ・・・。」

 勝ち誇るホークの言葉など耳に入らないフォンは、支えを失ったように両膝を突く。その身体は小刻みに震えている。またしても愛する者の危機に対して
無力に終わったことを知らしめられた衝撃は、その場面を見せ付けられたためより大きく強い。
アレンが突入したのを知っているフィリアの頭に、「アレンの死」という信じたくない事実が徐々に浸透していく。
 大小様々な、生焼けを残した部分もある炭が乱雑に折り重なるだけの廃墟に成り果てた倉庫の一角が、小さく動く。潮風を受けてのものもあるが、
一箇所だけそれでは解説出来ない動きを見せる部分がある。動きは徐々に大きくなり、その部分が崩落すると共にシルエットが人の形を成していく。
ぼろぼろに焼け焦げた服を纏い、彼方此方から鮮血を滴らせて白煙を立ち上らせる、見るからに重傷と分かるアレンだ。その足元には、気絶してはいるが
アレンとは対称的に無傷のルイが横たわっている。倉庫崩壊の直前にアレンが覆い被さる形で身を挺して護ったためだ。

「アレン!!」

 アレンの生存を見て、フィリアは絶望から歓喜に表情を一転させる。他の面々も最悪の事態が回避されたことに安堵する。

「くそっ!しぶとい奴め!」
「ホーク様。此処は私にお任せを。」

 舌打ちしたホークの背後に、目の部分だけに細い切れ込みを入れた仮面を着け、ローブを纏った小柄な人物がいきなり姿を現す。一連の事件の黒幕で
ある顧問だ。顧問が姿を現すと同時に、フォンを防衛するフィリアとクリス、ロムノを防衛するドルフィン達に向かって、魔法による狙撃と兵士達の突進が再開
される。あらゆる事態を想定して、確実にフォン直系の抹殺を遂行しようという意図が透けて見える。
 仲間が身動きを封じられた中、顧問はアレンに向けて非詠唱でサン・レイ51)を使用する。細く鋭い光線が闇を走るたび、傷だらけのアレンの身体に1つ、また
1つと傷が刻まれていく。遠距離攻撃に徹するのは、万が一の反撃を事前に回避するためだ。一撃で絶命させないのは、アレンが立ち上がったものの戦闘
出来る状態ではないと見越してじわじわ殺すためである。
 顧問の狡猾勝つ残忍な性格が露になった攻撃にたまらず膝を突いたアレンは、足元に横たわるルイを見る。ルイを守らなければという強い意志が、
アレンの頭に1つの対策を講じさせる。

「とどめだ。サン・レイ。」
「ア・・・アーシル!」

 レクス王国のハーデード山脈突入時にドルフィンから譲り受けた、魔法専用の生きる盾アーシルがアレンの左腕に現れる。
アレンが左腕を前にかざすと、アーシルの開いた口に光線が吸い込まれ、増幅されて顧問目掛けて放出される。顧問は強化された光線の直撃を受けて
後ろに跳ね飛ばされる。

「顧問様!」
「・・・大丈夫です。」

 顧問はゆっくり身体を起こす。ローブの光線の直撃を受けた部分が焼損しているが、大したダメージにはなっていないようだ。

「何処でアーシルを手に入れたのか知らんが・・・、まあ良い。こういう手もある。レイシャー。」

 顧問はアーシルで反射出来ない召還魔術、やはり遠距離攻撃タイプのレイシャーを召還する。サン・レイより幅が太い光線がアレンを襲う。やはり一撃では
絶命させない。反撃された分より苦しめながら嬲り殺そうとしているのだろう。
 傷がない箇所を探す方が難しいほどズタズタになったアレンは、大量出血で朦朧とする意識の中で必死に対策を講じる。ルイを守らなければという強い
使命感が、アレンに1つの対策を提示する。それは今のアレンにとって負担が大き過ぎる。だが、このままでは自分は兎も角ルイが殺されてしまう。
アレンは僅かな迷いを振り切って叫ぶ。

「オーディン!」
「何?!」

 アレンの目前に8本足の馬に乗った全身鎧の騎士が姿を現し、手にしていた槍−グングニルを顧問目掛けて投げつける。サン・レイやレイシャーに匹敵する
速度でグングニルは闇を駆け抜け、顧問がとっさに張った結界をも破って顧問の胸を直撃する。グングニルが手元に戻ったと同時にオーディンは消滅し、
アレンは大量に吐血してその場に倒れ付す。その時跳ね上がった破片の1つが、ルイの額に当たる。ルイはくぐもった声を上げる。

「こ、顧問様!」
「まさか・・・オーディンまで持っているとは・・・。だが、ここまでか。」

 顧問は破れたローブの下から血を流しながら、ゆっくり立ち上がる。ただでさえ少ない魔力で無理に召還したため威力がその分低減し、本来の威力なら
防御を貫通して心臓を突き破ったところが負傷で済んでしまったのだ。

「低い魔力でオーディンを召還するのは命と引き換えにするようなもの。だが、その行為も敵である私を倒せなければ無意味に終わる。」

 顧問がホークを伴ってゆっくりアレンとルイの方に近づく。アレンが沈黙したことで勝利を確信し、残るルイを間近で抹殺するつもりなのだろう。
血と瓦礫の海に沈むアレンは微動だにしないが、破片が当たったことで意識を回復したルイが身体を起こす。自身が無傷なことを不思議がったルイは、
傍に血塗れのアレンが突っ伏しているのを見て、驚愕して抱き起こす。

「アレンさん!!アレンさん!!」
「無駄だ。重傷の上に魔力を完全に使い切ったのだ。息をするのもやっとだろう。」

 5メールほどまで距離を縮めた顧問が解説する。息をしているかどうかも怪しいアレンを抱きかかえたルイに、顧問とホークがにじり寄る。顧問がローブの
内側から剣を取り出し、ホークに手渡す。邪魔者のアレンが戦闘不能に陥り、自らに唯一のフォン直系を絶たせる機会を与えられたことで、勝利の確信を
更に強めたホークは残忍でいやらしい笑みを浮かべる。

「残るはお前だけだな、ルイ。」
「プロテクション!!」
「馬鹿が。司教補風情でそんな強力な魔法を使って身体がもつわけなかろう!」

 黄金色の半透明の結界に包まれたアレンとルイに、ホークが嘲笑混じりに剣を振り下ろす。司教補のルイが防御系魔法の中でも高度な部類に属する
プロテクションを非詠唱で使っても直ぐ消滅すると、ホークと顧問は思う。振り下ろされた凶刃はしかし、維持される防御壁に阻まれて折れる。

「な、何故消滅しない?!」
「・・・私は・・・アレンさんに3度も命を救ってもらった・・・。」

 まさかの事態に当惑するホークと顧問に、防御壁の内側からルイが言う。その頬は涙で濡れている。

「今度は私がアレンさんを助ける番!!アレンさんには指一本たりとも触れさせない!!」
「小癪な!」

 顧問が至近距離でレイシャーを召還するが、防御壁はびくともしない。顧問は右腕を掲げて防御壁の方を親指で指差す。それまでパーティーを足止めして
いた魔法の狙撃と途絶えることなく押し寄せていた兵士達が一斉に矛先を変え、ルイが張り巡らせた防御壁に集中する。だが、フィリアの結界を揺らして
ドルフィンとシーナをも足止めした量と威力の魔法の一斉照射と、兵士達の総攻撃を以ってしても、黄金の防御壁は破れない。しかも魔法反応から威力が
増してさえいるのが分かる。
 顧問が再度攻撃を繰り出させようとした時、兵士達が個別に結界に包まれ、一斉に鎧ごと腐敗を始める。兵士達が液状になって腐り落ちるとほぼ時を同じく
して、空からも腐って泥のようになった肉塊が多数落下してくる。

ギド・コロージョン52)か!」
「そのとおり。泥人形も札(ふだ)ごと腐らせれば二度と復活出来まい。」

 ドルフィンが単独でホークと顧問に近づいて来る。他の面々は残りの攻撃からフォンとロムノを防衛するため、その場に待機している。
足止めがなくなったことでシーナが直前の魔法反応から狙撃位置を割り出し、ルイのプロテクションを突破しようと一斉に踵を返した兵士達諸共ギド・
コロージョンの標的として始末した。ルイ抹殺に躍起になった顧問の足元を救い、数の上でも形勢が逆転した。

「衛魔術の基(もとい)は人を助け、護ろうという心だ。その心が強いほど魔法の威力も増すし、魔力も高まる。魔法反応からするに、恐らく今のプロテクションは
セイント・ガーディアンで破れるかどうかといったところだろう。」
「くっ・・・。」
「仮面野郎、否、ザギ。今度は俺が相手だ。」
「・・・私はザギ様ではない。」

 顧問は仮面に手をやり、投げ捨てる。現れた顔は陰険さはザギと似通っているがザギそのものではない。

「衛士(センチネル)か。まあ良い。貴様からザギの居場所を聞き出すまでだ。」
「甘く見るな、ドルフィン。衛士(センチネル)に勝てると思うか?!」

 正体を現した顧問−ザギの衛士(センチネル)が懐から別の剣を取り出し、見かけからは想像出来ない速度でドルフィン目掛けて突進する。だが、剣が
ドルフィンに届くより前に、ドルフィンの蹴りが顧問の顔面を捉える。鼻がひしゃげて血が噴出す。
 反動で跳ね飛ばされるより前にドルフィンの足が顧問の後頭部を捉えて引き寄せる。ドルフィンは続けざまに足先で顧問の横っ面を左右交互に殴打する。
顧問の首が左右に何度も激しく揺れる。顔が原形を留めないほど腫れ上がった顧問は、ドルフィンの手繰り寄せるような踵(かかと)落としで地面に叩き
つけられ、ドルフィンに踏みつけられる。

「俺に勝てると思うか?」
「ぐ、ぐぎぎ・・・。」
「お前は知らんようだが、俺も衛士(センチネル)だ。貴様の親玉とは比較にならん強大な力を持つセイント・ガーディアンのな。」

 ドルフィンはホークを一瞥する。頼みの綱の顧問が脚一本で完膚なきまでに叩きのめされたことで、ホークは恐怖で身動きが取れない。
ホークの足が竦(すく)んで攻撃や逃亡が出来ないことを確認して、ドルフィンは踏みつけたザギの衛士(センチネル)でもある顧問を見下ろす。

「さて、貴様の親玉は何処だ?」
「い・・・言うわけなかろうが・・・。」
「ほう。」

 ドルフィンは顧問を踏みつける足にじわじわ力を込める。顧問の頭が潰れない程度に変形していく。

「がががががあああああ・・・。」
「これでも吐かんのなら、口を割らせる。」

 ドルフィンは脚を介して「気」を顧問の脳に送り込む。顧問の口はその意に反して真相を吐露し始める。

「ザ・・・ザギ様は・・・、半月ほど前私に・・・引き続きこの国での方策を進めるよう・・・命じられて・・・。以降・・・何処に行かれたか・・・知らない。」
「またしても、とんずらしやがったか・・・。まあ、良い。」

 ドルフィンは指をパチンと鳴らす。「気」の束縛から解放された顧問は、最重要機密を漏らしたことに伴う粛清−勿論死に決まっている−を思い浮かべ、
恐怖で顔を青ざめさせる。

「貴様は用済みだ。」
「ぴぎゃっ!!」

 ドルフィンが脚に力を込めると、顧問の頭が水を含んだ風船に針を刺したように勢いよく破裂し、脳漿を派手にぶちまける。顧問頼りのホークは最早丸裸も
同然。ホークは目前で顧問が残忍な死に様を見せられた衝撃と恐怖で、足が竦んでしまっている。ドルフィンでなくとも捕らえるのは容易だ。

「ひ、ひぃーっ!」

 ドルフィンが歩み寄り始めたことで、恐怖が極限に達したホークが海に向かって逃亡を図る。何処まで泳げるか怪しいものだが、この状況では海に飛び込む
以外に逃亡策が見当たらない。
 小太りの肉体を揺らしてひた走るホークの目前に黒一色の騎士が突然現れ、行く手を阻む。黒の騎士−ダークナイトはやはり黒一色の、剣を抜き一片の
迷いもなくホークを縦に真っ二つに斬ると、直ぐに姿を消す。衛士(センチネル)の死亡と同時にホークの口を封じるというザギの策略だろう。

「チッ。しっかり口封じしやがったか・・・。」

 最後の最後まで張り巡らされたザギの計略に、ドルフィンは苦々しい表情をする。ホークを捕らえてザギとの接触やザギの真意などを吐かせるつもり
だったのだが、眼前で口を封じられた。真っ二つにされたホークをどう問いただしても無駄だ。
 周囲に魔法反応や人などの気配がないことを確認して、ドルフィンはアレンを護るルイの防御壁の方を向く。脚一本で顧問をねじ伏せ、頭を踏んで潰した
ドルフィンと目が合ったルイは反射的に身を縮こまらせ、アレンだけは何としても護ろうとより強く抱きかかえる。

「安心してくれ。俺はドルフィン・アルフレッド。アレンの仲間だ。」
「アレンさんの・・・?」

 ドルフィンはルイの警戒を解くために愛用のムラサメ・ブレードを地に置き、表情を緩める。ドルフィンが名乗ったことで、ルイは少し躊躇しつつ防御壁を
解除する。
ドルフィンは警戒を多少緩めたルイの近くで屈み、虫の息のアレンの胸に手を当てて「気」を集中する。身体の彼方此方から白煙を立ち上らせていたアレンの
身体が、仄かに輝く。輝きの中で、アレンを絶命させんと続いていた出血の勢いが急速に弱まり、やがて止まる。

「出血を止めた。本格的な治療を受けさせよう。」
「誰に・・・ですか?」
「パーティーには腕の良い医師兼薬剤師が居る。心配は要らん。・・・アレンは俺が運ぼう。怪我はないか?」
「私は大丈夫です。」

 ドルフィンはルイからアレンを受け取り、軽々と抱き上げる。出血が止まって自己再生能力(セルフ・リカバリー)が発動しているアレンは、弱々しいことには
変わりないが確かに息はある。意識を失った血塗れのアレンを見て、ドルフィンは微かに苦笑いする。

「師匠と出逢った時の俺と同じだな・・・。」

 アレンを運んでドルフィンが歩き始める。涙を拭ったルイはその後をついて行く。警戒を解いたパーティーの面々とフォンとロムノが駆け寄ってくる。

「アレン!!」
「出血は止めてある。シーナ。治療を頼む。」
「分かったわ。」
「ロムノ。彼らを邸宅へ案内してくれ。併せて部屋の手配を。」
「承知いたしました。」
「邸宅への案内は私が承ります。」
「よろしくお願いいたします。」

 ロムノの承認を受けたイアソンが先導して、アレンを抱えたドルフィンがフィリアの付き添いを伴ってリルバン家邸宅に案内される。その後を追って来た
ルイとフォンの視線が合う。改めて娘と対面して感慨を滲ませるフォンに対し、ルイは悲しみと怒りが入り混じった様子で身体を小刻みに震わせ、やがて
唇を固く結んでフォンから視線を逸らす。

「・・・お話はアレンさんの傷が完全に癒えてから窺います。」

 フォンとすれ違いざまにルイは言い捨てる。横顔が怒りを滲ませたものだったのを見たフォンは、罪悪感と悲しみで肩を落とす。

「フォン様・・・。」
「・・・邸宅に戻るぞ・・・。」

 心境を思い遣ったロムノに、フォンは邸宅への帰還のみを口にする。ドルフィンに抱きかかえられたアレンを追うルイは、一度もフォンを振り向くことはない。
フォンとルイ。この親子の最悪且つ永遠の断絶は避けられた。しかし、長い年月でルイの心に培われた深い溝は埋まりそうにない・・・。

 その頃、リルバン家は再び騒然となっていた。本館別室に軟禁されていたホークの妻ナイキが、突如現れたダークナイトに斬殺されたからだ。
ホーク同様縦に真っ二つに斬られたナイキから事情を聞きだす手段もまた、強引勝つ強制的に封じられた・・・。

用語解説 −Explanation of terms−

50)いち早く魔法反応を感じた:魔法反応を感じることは賢者の石を埋め込んでいれば可能だが、その感度と範囲は魔術師の称号によって異なる。称号が
上がるほど感度が増し、感知出来る範囲が広がる。


51)サン・レイ:力魔術の1つで光系に属する。光子を収束させて放出することで攻撃する。射程距離が長く速い攻撃が可能。Magician以上で使用可能。

52)ギド・コロージョン:標的を個別に結界で包囲して一斉発動するコロージョンの発展形態。生命体に対して絶大な威力を発揮する。Wizardのみ使用可能。
「ギド」は古代フリシェ語で「発展した」「拡大した」を意味する。


Scene8 Act4-3へ戻る
-Return Scene8 Act4-3-
Scene9 Act1-1へ進む
-Go to Scene9 Act1-1-
第1創作グループへ戻る
-Return Novels Group 1-
PAC Entrance Hallへ戻る
-Return PAC Entrance Hall-