Saint Guardians

Scene 6 Act 2-4 強敵-Rival- ティンルーが醸し出す平和な時間

written by Moonstone

 東の地平線から日が昇って間もない時間、時計の針が6ジムを指した頃、アレンはゆっくりと目覚める。長年主夫業に携わって来ただけに、目覚しがなくても
自然にこの時間に目が覚めるのだ。
 アレンは少し残る眠気を取るのを兼ねて目を擦ってから身体を起こす。ふとベッドの方を見ると、3つの布団の盛り上がりがある。本当なら4つある筈なのに、
とアレンはソファから出て、足音を立てないように注意しながらベッドに近付いて改めて見てみる。
窓に近い方からリーナ、フィリアがそれぞれ1つのベッドで安らかな寝息を立てている。最も廊下側のベッドには、昨夜絶好の機会を見事にぶち壊してくれた
クリスだけが口を開けて寝ている。ルイは既に起きているようだ。
 アレンは水を飲もうと台所へ向かう。台所から人の気配がする。これまでの経験で人の気配を感じられるようになってきたのだ。
アレンがそっと覗き込むと、ルイが椅子に腰掛けていた。竈(かまど)とやかんを交互に見詰めるその目には、眠気はいささかも感じられない。

「ルイさん、おはよう。早いね。」

 アレンが挨拶すると、ルイははっと振り返る。

「アレンさん。おはようございます。」

 アレンはルイの左隣に椅子を持って来て座る。
既にルイは着替えていた。昨日とは違い、白の半袖ブラウスに水色のミニスカートという服装だ。ミニスカートを好むリーナと比較すると、リーナは如何にも
少女的な可愛らしさを描き出すが、ルイは大人びた色気を滲ませている。

「教会は朝が早いんです。自然と目が覚めちゃって・・・。」
「そうなんだ。教会ってやっぱり大変?」
「日によって違います。日曜は礼拝がありますから、その準備を早くからするんです。一応、責任者ですから・・・。」
「聖職者って衛魔術が使えるんだよね?使う時ってある?」
「ありますよ。特に怪我の治療は多いですね。田舎の小さな村ですから医療施設が整っていないので・・・。」

 二人は会ってまだ2日目なのに、ごく自然に話をする。お互いの顔から視線を外すことはない。端から見れば、どう見ても仲の良い恋人同士だ。

「そう言えば、どうして湯を沸かしてるの?」
「これですか?アレンさんは御存じないかもしれませんが、この国では、朝起きたらティンルーを飲むんですよ。」
「ティンルーを?」
「ええ。この国では一般的な風習なんですよ。」

 ルイは湯気を吹き始めたやかんを火から下ろす。少し時間を置いてから、既に準備してあった陶器製のポットに静かに湯を注ぎ込んでいく。そしてポットに
蓋をして軽く揺すって、これまた予め用意してあった2つのカップに注ぐ。茶褐色の液体が湯気を伴って出て来る。
 手慣れたルイの手つきを、アレンはぼうっと眺める、朝起きたら洗濯、朝食の準備と忙しかったテルサでの生活から考えると、嘘のようにゆったりした、
そして幸せな時間だ。

「どうぞ。」
「ありがとう。」

 アレンはルイからカップを受け取る。ルイは座っていた椅子に腰を下ろす。
二人は並んでティンルーを飲む。これまで飲んだ経験のあるものとは違う、薔薇を髣髴とさせる香ばしい匂いとほんのりとした甘みが口いっぱいに広がる。

「へえ・・・。美味しいね、これ。」
「村から持って来たんですよ。クリスがこれじゃないと嫌だ、って。」
「色々種類があるんだね。今まで飲んできたものと違うよ。」
「このティンルーは村の特産品なんですよ。牧畜と農業が主産業なんですけど、その中でもこのティンルーは結構需要があるんです。」
「ふぅん。でも、ティンルーの種類が分かるなんて、クリスさんも結構通だなぁ。」
「クリスは結構食事の味にもこだわるんですよ。」

 二人はティンルーを飲みながら談笑する。

「話は変わるけど、ルイさんとクリスさんって、同じ村に住んでるんだよね?」
「はい。幼馴染ですから、彼是10年以上の付き合いです。」
「でも、ルイさんとクリスさんって話し言葉が全然違うよね。どうして?」
「それは、この国の聖職者に関する全国的な特例措置に基づくものなんです。聖職者はこの国の何処に行っても共通の対応が出来るように、言葉遣いを
統一されるんです。同時に、自分が携わる人全てに平等な対応が出来るように、ということで・・・。修行の一環という位置付けです。」
「へえ、そうなんだ・・・。何処に行っても、ってことは、人事異動とかあるの?」
「ええ。本人の希望と異動要請が合致すれば、その人が居住する町村の中央教会とこの国の中央教会の承認を得た上で、異動するんです。」
「俺の国じゃ、そんな話は聞いたことないけどな・・・。」
「この国はキャミール教の影響が強いですから、教会の人事は国家的なものなんですよ。私にも異動要請が何度かあったんですけど、村を離れたく
なかったので・・・。」

 アレンは、ルイが14歳にして司教補に昇格した、という昨日のクリスの話を思い出す。
14歳で司教補に昇格、しかも祭祀部長という非常に優秀な聖職者だから、将来有望ということで異動要請があっても何ら不思議ではない。それを断ってでも
留まる道を選んだのだから、村に対する思い入れは相当強いのだろう。

「おっはよーっ。ルイ。相変わらず早いわねぇ・・・って、あれ?」

 ひょっこりとクリスが顔を覗かせる。服装はパジャマのままで、髪もおろしている。起きて間もないことが良く分かる。

「クリスさん。おはよう。」
「おはよう、アレン君。朝早いのねえ。こりゃびっくり。」
「習慣なんでね。」
「へぇ。ルイに優しく起こしてもらったんやなかったんかぁ。」

 アレンが自分より早く目覚めていたことを意外に思いながら、早速突っ込みを開始した。

「ね、寝ている人を無理矢理起こすことなんてしないわよ。」

 ルイは早くも反応を示す。

「まあ、あんたはそんなことせえへんか・・・って、ちょ、ちょっと・・・。」

 クリスはアレンの手にある、半分ほどティンルーが残るカップを見て表情を変える。

「・・・どうしたの?」

 アレンは不思議そうに尋ねる。
すると、クリスはにやぁーっと薄気味悪い笑顔を浮かべる。その不気味さに、アレンは思わず顔を強張らせてたじろく。

「な、何だよ、気味悪いなぁ。」
「ふっふーん・・・。ルイ、あたしにもティンルー頂戴よ。」
「あ、ちょ、ちょっと待って・・・。」

 何故かルイはそわそわしている。頬はほんのり赤みを帯びている。アレンはさっぱり訳が分からず、怪訝な表情で首を捻るしかない。
ルイはポットに湯を継ぎ足して軽く揺すってから、もう一つ用意したカップにティンルーを注ぐ。

「どもども。ルイの入れるティンルーは美味しいからねぇ。」

 クリスは台所に踏み込み、自分でテーブルに置かれたカップを手に取る。そしてアレンに向き直る。やはり薄気味悪い笑みを浮かべている。

「アレンくぅーん。それ、美味しい?」
「あ、ああ・・・。」
「そぉーっ、そりゃ良かったわねぇ。さぞかし美味しいでしょうねぇ。・・・うん、やっぱし美味しいわ。村から持ってきた甲斐があったっちゅうもんやわ。」

 ニヤニヤと笑いながらティンルーを飲むクリスは、誰が見ても気味が悪い。気味悪がるアレンの横で、ルイが頬をより一層赤く染めている。

「・・・クリスさん・・・。何で笑ってるの?」
「二人が朝っぱらからえーえ雰囲気だからよぉ。」
「・・・それだけ?」
「それだけ。」

 アレンは引っ掛かりを感じずにはいられなかったが、下手に問い質して逆襲されては敵わないので、大人しく手を引くことにする。
入れて間もない結構熱い筈のティンルーを、クリスは何の苦もなく早いテンポで飲んでいく。
クリスは空になったカップをテーブルに置き、ありがと、と言ってから再びアレンに向き直る。

「あ、そうそう。アレン君。あたしのことは、クリスって呼んでくれればええよ。さん付けで呼ばれるのって何かしっくりこやへんから。」
「ああ、分かった。」
「さぁーて、着替えるとしますか。うふふふふふ。」

 クリスは肩を上下に震わせて含み笑いつつ、台所から立ち去る。あまりにも気味が悪く、かつ意味不明な行動に、アレンは暫く声が出ない。

「・・・な、何なんだ、一体・・・。」
「クリスは・・・普段からあんな調子なんですよ・・・。」

 やっぱりルイと年齢を交換しているのではないか、とアレンは思わざるをえなかった・・・。
 その日の昼過ぎ。アレンは、部屋でシーナとイヤリング型通信機で連絡を取り合っていた。
部屋にはアレンの他には誰も居ない。喫茶店で昼食を摂って戻って来るなり、クリスが突然遊びに行こうと言い出し、それにフィリアが同調し、ルイが監視役と
して半ば強引に連れて行かれた。リーナも誘われて、スロットマシンの付き合いは御免だから、と断った上で出て行った。

『・・・そう。大変な目に遭ったわね。』
「でも、幸い二人は無事で・・・。」

 アレンから昨夜の出来事の報告を聞いて、当然の如くシーナは驚いた。シーナはドルフィンの呪詛解除の付き添いで中央教会に居るとのことだ。

『どうしてその娘達は襲われたの?』
「聞いてみたんですが、全く心当たりはないそうです。」
『それにしても、警備の兵士に扮装して来たってのが気がかりね。関係者以外は入れないように、人の出入りはきっちりチェックされてる筈なんだけど・・・。』
「警備の責任者って奴にはチェックの強化とかを約束させましたけど、はっきり言って信用出来ません。」
『そうね・・・。ドルフィンとイアソン君に相談してみるわ。』
「お願いします。」
『ところでさ、アレン君。昨日の話の続きなんだけど。』

 シーナの口調が急にからかい調子になる。

『どう?お目当ての女の子とのその後は。』
「な、何を突然・・・。関係ないじゃないですか。」
『誤魔化したって駄目よ。その娘って、アレン君が助けた例の娘のどちらかでしょ?』

 シーナはこれまで現場に居たかのようにズバリと言い当てた。

「う、そ、それは・・・。」
『今アレン君は立場上女の子なんだから、告白とかは暫くの間我慢しなさいね。』
「シーナさん!」
『あはははは。照れちゃって。じゃあ私、そろそろドルフィンのところに戻るから。』
「は、はい・・・。また後で・・・。」

 通信を終えたアレンは、ソファの背凭れに身を委ねて溜息を吐く。完全に攻守が逆転してしまったとアレンは思う。
しかし、嫌だとかいう気持ちは全く起こらない。どういう訳か、攻められた方が嬉しいとさえ思える。

「これが・・・恋なのかな・・・。もしかして・・・。」

 アレンは照れくさそうな表情で呟く。
シーナの時は憧れだった。描写でしか顔を知らない母への思いが重なったか、或いは以前から密かに望んでいた姉の存在を見たか。

『でも・・・。』

 俄かに表情を曇らせ始めたアレンは、未だ自分に自信が持てないで居た。
「男らしさ」の理想として追い求め続けるドルフィンには、到底手が届かない。相変わらず「可愛らしさ」で面白がられたり、羨ましがられたりするだけの自分が
情けなくてならない。ドルフィンと比較すればするほど、自分が「男らしさ」から程遠い「敗者」のように思えてならないのだ。

『俺には・・・恋なんてまだ早いんじゃ・・・。』

 アレンは深く重い溜息を吐く。
その時、ドアが勢い良く開いた。アレンはドアの方を向く。

「あーあ、付き合ってられないわ。」

 眉間に深い皺を刻んだ、一目で不機嫌だと分かる表情のリーナに続いて、ルイが部屋に入って来た。

「お帰り。早かったね。」
「ったく、あの馬鹿二人、何しに来たんだか。アレン、ちょっと聞いてくれる?」

 リーナはアレンの向かい側にどかっと腰を下ろす。

「あの二人、スロットマシンから離れようとしないのよ。ちょっと勝ったら『ようし、この調子で』って言って続けるし、負けても『次こそは』って言って続けるし。
完全にスロットマシン中毒よ、あれ。信じられる?」
「で、放って来たの?」
「当然よ。あんな奴等に付き合ってたらあたしまで馬鹿になっちゃう。ルイが管理してる遊興費を少しばかり置いて、ルイと一緒に出て来たわよ。途中で
図書室に寄って、本借りてきたわ。丁度薬剤師関連の本があったから。結構品揃えは豊富だったわ。暇潰しにはなるわね。」

 リーナは手にしていた本をテーブルに投げ出す。「薬草の化学合成・実践編」というタイトルのその本は、優に厚さ5セムはある。
リーナはソファの隣に立ったままのルイの方を向く。

「ルイも悲惨よねぇ。あんたのお守りしなきゃなんない立場なのに、逆にあんたに負担かけっぱなしでさ。」
「でも、此処に来るまではきちんと護衛してくれましたし、安全が確保されたんですから多少は息抜きしないと・・・。」
「ったく、あんたも甘いわねぇ。ああいう奴は一発ガツンと言ってやらないとつけ上がるだけよ。」

 リーナの場合は言うだけでなく、平手や拳や蹴りが飛ぶのだが、とアレンは思ったが口には出さない。

「途中、何も無かった?」
「何も。流石に昨日の一件で懲りたらしくて、警備の兵士が彼方此方に居たわ。で、ドルフィンの方は?」
「順調に進んでるって。さっき、シーナさんから聞いた。」
「そう。なら良いわ。」

 リーナは小さい溜息を吐いて、立ったままのルイに言う。

「何ぼうっと突っ立ってんのよ。座りなさいよ。」
「え、ええ。」
「あんたが座るのはそっち。」

 リーナの横に座ろうとしたルイに、リーナがアレンの横を指差す。

「でも・・・。」
「良いから!主役のあたしが言うんだから、護衛のアレンは文句言わないわよ。そうよね?」
「あ、ああ。」
「ほら、さっさと座る!」

 リーナに急かされて、ルイはアレンの左側に座る。

「あーあ、フィリアとクリスは馬鹿で似た者同士だけど、あんたとアレンは甘さとはっきりしないってところで似た者同士よね。しっかりしてるのはあたしだけ
じゃない。ったく、情けない話ねぇ。これじゃこの先思いやられるわ。」

 リーナは肩を竦めて首を横に振り、露骨に呆れを表現する。アレンは承服し難いものを感じずにはいられないが、下手にリーナに反抗すると数百倍にして
返されるだけに黙る他ない。

「しっかし、似た者同士って、並ぶと本当に違和感ないわねぇ。並んでスロットマシンやってた馬鹿二人もそうだけど。」
「何だよそれ。」
「言った通りの意味よ。そうだ、アレン。今からあたし本読むから、飲み物入れて。」
「何で俺が・・・。」
「文句あんの?」

 リーナがギロリと睨むと、アレンは渋々立ち上がる。こういう時リーナに逆らうと何をされるか分からない。
台所へ向かうべくアレンが自分に背を向けたところで、リーナはルイに向って顎を小さくしゃくる。ルイは小さく頷いて立ち上がる。

「わ、私も手伝います。」
「良いよ。一人で出来るから。」
「こら!人の厚意を足蹴にするつもり?!」

 やんわりとルイの申し出を断ったアレンを、すかさずリーナが叱咤する。

「わ、分かったよ。じゃあ・・・、お願い。」
「はい。」

 アレンはリーナの言動が理解出来ないまま、ルイと共に台所へ向かう。二人の姿が台所に消えたところで、リーナは小さく溜息を吐いて呟く。

「あたしも結構甘ちゃんよねぇ・・・。」

「あーあ、本当に我が侭なんだから・・・。」

 アレンは湯を沸かしながらぼやく。護衛というだけで召し使いのようにこき使われては、アレンの気分も悪くなって当然である。
戸棚を見るとコーヒーやらティンルーやらが何種類も瓶に入っている。わざわざ喫茶店に出向かなくても、客が自分で飲み物を準備出来るようにしてある
らしい。

「アレンさん。今朝飲んだティンルーにしましょうか?」
「そうだね。悪いけどカップ出してくれる?」
「はい。」

 ルイは三人分のカップを戸棚から出す。
火力が最初から強く出来るガスがない竈に火を起こすことは、足元にあるペダルのようなものを踏むことで自動的に炭に点火されることで可能だが−ルイが
部屋に据え置きの説明書で知ったそうだ−、湯を沸かすまでの時間は結構かかる。今朝自分が起きた頃には既に湯が沸きかかっていたことを考えると、
ルイは相当早く起きていたに違いない、とアレンは思う。
 アレンは火の加減に一段落ついたところで、そっとリビングを覗く。リーナは特段苛立っている様子もなく、やけに大人しく本を読んでいる。
自分を台所に行かせた時の口調から考えると、俄かには信じられないくらいの落ち着きぶりだ。アレンは首を傾げて、再び竈の方へ向かう。

『リーナって、よく分からない・・・。』

 単に感情の起伏が激しいだけなのか、或いは計算ずくのことなのか。行動を共にするようになってからかなり経つが、イアソンがあれだけ振り回されながらも
アプローチを諦めないのが不思議でならない。

「アレンさん。」

 ルイがアレンの横に立って居た。目線はほぼ同じだ。

「アレンさんの理想の女の人って・・・どんなタイプですか?」
「え?」

 唐突な質問にアレンは戸惑いを隠せない。

「う、うーん・・・。いきなり聞かれても・・・。そうだなぁ・・・、一緒に居て安心できる女性・・・ってとこかな。」
「見た目は?」
「見た目・・・かぁ・・・。髪は長い方が好きかな。あとは・・・特にない・・・と思う。」

 ルイは嬉しそうに微笑む。髪が長い方が好き、という答えは、髪が長いルイの心を弾ませるには十分だ。

「そう言うルイさんは?」
「私は・・・ありがちかもしれませんけど、誠実で、思いやりのある人が好きです。」
「でも、やっぱりそれに尽きるよね。」
「そういう人と、ずっと一緒に居られたら良いな、って・・・。抽象的過ぎる、って、クリスによく言われるんですけど。」
「そんなことないと思うよ。俺もそう思ってるし・・・。あんまり意味ないか。」

 ルイは首を横に振る。

「アレンさんもそう思っていてくれて、凄く嬉しいです。」

 アレンは何となく心が弾む気がする。
やかんの蓋がコトコトと音を立て、注ぎ口から湯気を吹き始めた。アレンは素早くやかんを火から下ろし、朝ルイがやったのと同じ様に少し時間を置いてから
ルイが用意したポットに湯を注ぎ、ポットを軽く揺すってカップにティンルーを注ぐ。香ばしい匂いが台所に立ち込める。素早くルイがトレイを用意する。

「ありがとう。」

 アレンが言うと、ルイは心底嬉しそうに微笑む。アレンはカップを静かにトレイに乗せて持ち上げる。

「先に行って待ってて。俺が持っていくから。」
「はい。」

 ルイは小走りでリビングへ向かう。アレンはティンルーを零さないようにトレイを静かに持ち上げて運ぶ。

「お待たせ。」
「良い匂いね。」

 リーナは読んでいた本に栞(しおり)を挟んでテーブルに置く。アレンはカップをトレイからそれぞれの席の前に置く。

「それじゃ、味見といきますか。」

 リーナはティンルーを一口飲む。カップから口を離すと、リーナは満足げな笑みを浮かべる。

「上出来ね。待った甲斐があったわ。」
「そう、良かった。」
「これ、今まで飲んだことがないタイプね。」
「ルイさんが住んでる村の特産品なんだって。」
「ふーん。」

 アレンも一安心してティンルーに口を付ける。ルイもカップを口に持っていく。

「やっぱりアレンが護衛で良かったわ。こういうの得意だし。フィリアだったら絶対一服盛られるからね。」
「おいおい・・・。」

 あながち出鱈目とは断言出来ないのが悲しいところだ。

「ルイ。こういう器用でまめな男を一人持っておくと得よ。利用価値が高いから。」
「な、何だよ、それ。」

 リーナはアレンの抗議には答えず、悪戯っぽい笑みを浮かべる・・・。
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