Saint Guardians

Scene 2 Act 3-1 遺言-Will- 遺された記憶が語る過去

written by Moonstone

 不可解に開いた扉の中にアレン達の一行は慎重に足を踏み入れる。中はあちこちで小さな光が点灯したり点滅したりしているが、暗くて詳しい様子は
分からない。
アレン達が扉から1メールほど奥に入ったその時、扉が一行の背後で音も無く閉じた。一行は驚いて扉を叩くが、扉は頑丈でびくともしない。

「くそっ!罠だったのか!」
「フン、こんなもの、入口同様に吹っ飛ばしてやるわ。」

 リーナが扉に向けて両手を翳す。レイシャーで破壊するつもりなのだろう。
しかし、リーナがレイシャーを発動するより前に、突然明るくなる。部屋は家一件分はある広大な空間で、整然と並んだ机の上には見たこともない形の
道具らしいものがある。

「誰が明かりを点けたんだ?」
「何言ってんのよ。何百年以上も前の遺跡に人がいるわけないでしょ?」

 一行は周囲を見回す。部屋は不気味なほどに静まり返り、ランプが寂しげに点滅している。
突然、フィリアが悲鳴を上げる。

「ど、どうした?!」
「あ、あ、あれ・・・。」

 驚いて駆け寄ったアレンに、フィリアはがたがた震えながら前を指差す。アレンがその方向を見ると、ぼろぼろになった服を着た白骨が机に伏していた。

「・・・何だ、白骨か。脅かすなよ。」
「お、驚くわよ!白骨よ、白骨があるのよ!」
「馬鹿じゃないの?此処は古代文明の遺跡。遺跡に骨があっても不思議はないじゃない。」

 見慣れない白骨との遭遇にすっかり脅えてしまったフィリアとは対照的に、リーナはあくまでも冷静そのものだ。リーナは流血や死に対しては寒気が
するほど冷静だ。
 アレンは震えるフィリアを背後に回して白骨を調べていく。白骨は机に伏したものもあり、床に倒れているものもある。白骨には外傷はないものと、
頭蓋骨を貫く穴があるものの二種類がある。その近くには必ず縦5セーム、横10セームほどの不思議な材質のプレートらしいものが落ちている。
どうやら白骨となった古代人が必ず所有していたものらしい。

「何だ、この変な板は?」

 アレンは小さな板を手にとって観察する。その板は滑らかな手触りで木でもガラスでも金属でもない。所々に文字が浮き彫りにされており、片方の面には
中央に大きな矢印がある。
逆の面を見ると細かい文字で何やら書かれている。やはり、リーナが言うところの古代マイト語らしいが、文法が大きく異なるせいかアレンには理解
できない。
 リーナは部屋全体を注意深く観察していた。机の上には長方形のガラスらしい板が埋め込まれた長方形の箱が鎮座し、整然と並んだボタンがぎっしり
詰まった板がある。何れもその主な材質は木でも金属でもなく、ガラスとはまた異なるつるりとした滑らかな肌触りだ。

「何だろう、この材質・・・。不思議・・・。」

 興味深そうに机の上の物体を観察していたリーナに、アレンが白骨の脇に落ちていた小さな板を持って来る。フィリアは白骨と対面したショックが
余程大きいのか、アレンの後ろで袖をぎゅっと掴んで震えている。

「これ、何て書いてあるか分かる?」

 リーナはアレンからその板を受け取って暫く黙って見詰める。何度か首を捻った後、その文字を読み上げる。

「・・・『ガーズガルズ…従業員識別用・・・カード。』何て読むのか分かんない単語があるわね。で、その次は・・・『以下の場合にこのカードが必要です。
1.・・・敷地への出入り 2.・・・使用の場合 3.その他、従業員識別が必要とされる場合。このカードを紛失、破損した場合は速やかに庶務部職員課に
届け出て再発行の手続きを受けて下さい。』こんなところね。」
「文面からして、何か大事なものみたいだな。白骨の傍には必ずあったし。」
「そうみたいね。この矢印は何かしらね。」
「標識か何かかな?」

 一行が板切れを囲んでいると、不意にピッという短い音がして、近くの机の上の長方形の平面に画像が映し出される。一行が驚いて平面を見ると、
そこには板切れを細い溝に指し込む図と文章が表示されている。

「・・・『図のように、矢印の書かれた面を上にして、カード・・・にカードを入れて下さい。』って書いてある。」
「さっきまでここは真っ黒だったのに・・・?」

 アレンが興味深そうに平面に手を触れる。ガラスのようなつるりとした感触と同時にひんやりした感触も伝わってきたが、凹凸や絵の具の感触は全く
感じられない。
リーナは画面の指示通りに板切れの向きを確認して、赤くランプが点滅している右手脇の箱の細い溝に板切れを差し入れる。

「従業員識別用セキュリティ・カード入力完了。言語解析、行動解析の結果、入室者の言語は独立語、文化水準は中世レベルであることを確認。
中央制御機構から端末室を完全に遮断し、人格再現プログラムを実行する。」

 カードがするりと細い溝に吸い込まれると、画面の表示が消え、室内に無機質な声が響く。だが、これまでの『主』の声とは違い、どこか人間味を
感じるのは気のせいだろうか。
 一行はまたしてもあの金属の生物達が出て来るのでは、と厳しい表情で警戒を最大限にして周囲を見回す。
暗かった平面に突然、今度は人の顔が映し出される。画面の人間は顔立ちの整った、20代前半の青年だ。

「ひ、人が現れた!」
「中に捕らえられてるのかしら?だとしたら助けないと!」

 身構えたアレンとフィリアを、平面の中の青年が制する。

「落ち着いて下さい。私はここに閉じ込められているのではありません。」

 一行が驚いて画面に注目する中、平面に描かれた青年が生きているように微笑みながら口を動かす。

「まずは、ようこそこの部屋へ。そしてはじめまして。遥か未来の来訪者よ。」
「未来・・・ってことは、貴方は古代人?」
「そうです。私はこの部屋で貴方達の目の前にある不思議な箱を管理、操作することを職業としていた人間です。」
「貴方が古代人なら、どうして若いままでいられるの?」
「今、貴方達に話し掛けている私は、生きている私ではありません。箱の中に封印しておいた私の知識や思考を魔法の絵の力を借りて再現して
いるのです。」

 画面の中の人は呆気に取られている一行に優しく語り掛ける。

「私はマークス・ディングル。貴方達の時代から数えて3000年以上前に生きていました。貴方達の行動は、この遺跡の『主』の目を盗んで見ておりました。
その結果、貴方達がこの遺跡から、私達の時代の恐るべき遺物を運びだそうとする輩を阻止しようとして行動を共にしていることが分かりました。
貴方達には、私からの遺言を受け取って、実行して欲しいのです。」
「遺言って何だよ。」
「それは、この遺跡に残された恐るべき殺戮兵器が運び出されるのを何としても阻止して欲しいということ、そして、この遺跡を破壊して欲しいと
いうことです。」
「殺戮兵器?」
「そうです。今、格納庫に向けて進行している集団はそれを狙っているようですが、あれは私達の時代に創り出された悪魔の武器です。あれはたった一撃で
町一つを無に帰す程の威力を持っているのです。」

 マークスという画面の中の青年の話に、一行は仰天する。

「な、何よ、その兵器は?!」
「原理は貴方達の文化水準を大きく超えるものですから説明は省きますが、とにかくあの兵器は危険なのです。貴方達が古代文明と呼ぶ我々の時代の文明が
滅んだのは、あの兵器が使われたのが原因の一つなのです。」
「・・・『大戦』のことね。あの伝説は本当だったって訳ね。」

 リーナは何か思い出したらしい。

「伝説って何?」

 アレンが尋ねると、リーナが答える。

「ギマ王国の一部に伝えられてきた叙事詩よ。遥か昔に栄華を極めた人間から悪魔の王が現れ、悪魔の軍団を率いて人間を危機に陥れるって筋書き。
その中に『ガイノア23)』っていう物凄い威力を持つ武器が出て来るのよ。」
「・・・伝説が・・・本当だったって言うのか?」
「その黒い髪の彼女の言う通りです。この遺跡はその悪魔の武器を敵目掛けて放つ場所だったのです。戦争が終わってもなお、この遺跡は生き続け、
敵に向って武器を放つ時を虎視耽々と伺っています。格納庫に向かっている輩はその武器を運び出そうとしているのでしょう。」

 一行は愕然とする。特別警察はやはり遺跡の調査ではなく、危険な過去の遺産を受け継ごうとしているのだ。
王の狂気は途方もない方向に驀進している。王国1つを完全に支配下に置くだけでは飽き足らず、圧倒的な破壊力を以って世界征服に乗り出そうとしている
可能性が高い。

「それを阻止する方法は1つ。この遺跡の『主』を破壊することです。『主』を破壊すれば、遺跡は自動的に爆破される仕組みになっています。
悪魔の武器はその効力を奪われ使うことが出来なくなります。あの兵器が再び使用されることはあってはならないのです。」
「『主』って言ったけど、そいつは何なんだ?姿が見えないのに俺達の行動を完全に把握していた!」
「『主』はこの部屋にある不思議な箱の遥かに大型のものです。『主』は遺跡全体に配置されたたくさんの目と耳を使って、遺跡全体を完全に掌握しています。」
「たくさんの目や耳・・・。」

 一行は全身に目と耳が点在する人間の姿を想像する。

「貴方達の想像するものとは違うかもしれませんが、『主』はこんな格好をしています。絵を切り替えます。」

 ピッと言う音と共に、絵が青年の顔から『主』の姿へと切り替わる。
『主』は銀色に輝くいそぎんちゃくのような奇怪な姿で、何本もの触手をあちこちに伸ばし、中央の胴体らしい部分には幾つもの赤や緑のランプが灯り、
頂上には金属の塊らしいものを収めた透明の半球を乗せている、アレン達が今まで見たことも無い奇怪な姿をしている。

「これが、『主』なの?!」
「『主』も貴方達を苦しめた犬や骸骨と同様、特別な金属でできています。ですが、人間と同様に学び、考え、行動します。この建物はおろか、遺跡全体が
この存在の管理下にあるのです。」

 絵は再び青年の顔を映し出す。

「我々の文明は、人間が便利な生活を夢見て創り出しました。しかし、一部の人間が我こそは指導者と錯覚し、世界制覇の野望と侵略の被害妄想に任せて
殺戮兵器を創り出し、あろうことかそれを使ってしまったのです。この遺跡もその殺戮兵器を敵目掛けて放つために創られました。何百年、何千年もの
稼動に耐えうるように。しかし、自らが滅びても尚機械だけを動かし、甚大な破壊しか生まない兵器を維持管理して、一体何になるというのでしょう。」

 マークスは悲痛な表情で語る。一行は静かにマークスの時を超えた告白に耳を傾ける。

「この建物にいた人間は、あの戦争で閉じ込められ、もはや脱出できないと分かると深い絶望感に苛まれ、とうとう殺し合いをはじめました。僅かな食料を
奪い合ってのことです。機械を管理することは厳重にしていても、そこで働く人間のことはまるで考えられていなかったのです。建物は地獄となりました。
血と腐敗の臭いが充満し、断末魔の叫び声が昼夜を問わず響き渡りました。この部屋で働いていた私の仲間も例外ではありません。先が長くないことを
悟った私は、この部屋を封鎖して、この施設に関するできる限りの情報を集め、私の知識と共に魔法の箱に封印したのです。やがて時が流れ、この施設が
古代遺跡として再び日の目を見た時、我々の時代の負の遺産が引き継がれることのないよう、未来の来訪者に私の遺志を託すために・・・。」
「「「…。」」
「どうかお願いです。『主』を破壊し、この遺跡を永遠の眠りに付かせて下さい。それがあの戦争で多くの人命を奪うことに加担したことへの何よりの
償いなのです。」

 マークスの告白はまさに古代から未来への警告だ。悠久の時を超えた警告は、自分達と同じ轍を踏んで欲しくないという青年の願いでもある。
マークスの熱い願いを無下にする理由は何も無い。アレンは噛み締めるように答える。

「・・・やるよ。必ず、『主』を破壊する。」
「ありがとう。私もできる限りの手助けをさせてもらいます。『主』がいる地下2階の中央制御室までの道順は案内をつけましょう。『主』の目と耳を弱めて、
骸骨の追尾を減らすことはできます。あと、骸骨の一部を操作して貴方達を援護させます。」

 マークスは感謝の溢れる笑顔を浮かべる。どう見ても生きているようにしか見えない。

「一つ聞かせてもらえるかしら?」

 リーナがマークスに尋ねる。

「『主』を破壊してからこの遺跡が爆破されるまでには、どれくらいの時間があるの?」
「貴方達がこの遺跡の敷地に入ってからこの部屋に来るまでの時間くらいです。」
「抽象的ね。」
「私達の時代と貴方達の時代とでは時間の単位や基準が異なるでしょうから、そのように表現するしかありません。爆破までの時間は『主』が自ら知らせる
筈です。一応、此処に居た人間を退避させる時間がありますから。」

 リーナは小さく黙って頷く。

「あと、俺からも一つ。『主』の戦闘能力はどうなの?」

 アレンが尋ねると、青年は答える。

「『主』本体を説明する前に、その前に配備されている2体のゲート・キーパーを先に説明しておかなければなりません。」
「ゲート・キーパー?」
「骸骨や犬と同様、金属でできた迎撃用の兵器ですが、遥かに大型で強力です。貴方達が周囲に張り巡らせていたエネルギー勾配による防禦壁でぎりぎり
防ぐことが出来るというところです。」
「ちょ、ちょっと、何よそれ!」

 リーナが身を乗り出す。

「ですが弱点があります。外殻は非常に強固で大抵の攻撃を防禦しますが、侵入者殲滅のための最終兵器である破壊光線の発射口は防御壁がない
心臓部に直結しているので、それを攻撃すれば破壊できます。もっともそれなりに強化されてはいますが。これを見てください。」

 絵は青年の顔から、白銀色の亀らしいものと鰐らしいものが人体の概略図と並べて表示される。人体の概略図と比較すると、その亀と鰐は人間の優に
10倍の大きさを誇り、まさに巨大モンスターと呼ぶに相応しい。

「まず亀が控えています。次は鰐です。破壊光線はこのように放射します。絵を変化させます。」

 亀と鰐の絵が一部変化して、亀は甲羅が縦に割れて開いて巨大な筒が現れた状態に、鰐はその口が大きく開いた状態になる。

「この状態になってから破壊光線の発射まで少し時間があります。この間に集中攻撃を与えれば勝機は十分にあります。」
「成る程…。分かりやすい図だな。」
「よく憶えておいて下さい。破壊光線は亀や鰐が殲滅に一定時間より長くかかる場合、或いはとどめの一撃として使用する判断を下します。それまでは
とにかく攻撃に耐えるしかありません。貴方達が周囲に張り巡らせていたエネルギー勾配による防禦壁は常に最大にして下さい。これらのゲート・
キーパーは攻撃と防禦を重視したため重量があり、移動能力は殆どありません。しかし、近付き過ぎるとその鋭い牙や爪で直接攻撃を仕掛けてきます。
ですから最初に攻撃を受けた地点から近付かないでひたすら攻撃に耐え、破壊光線を使う準備に入ったところで集中攻撃するというパターンがもっとも
望ましいといえます。」
「…まどっころしいわね。まあ、仕方ないか。」

 リーナはうんざりしたような表情で言う。相手の攻撃にひたすらじっと我慢するというのは性に合わないらしい。

「焦ってはいけません。ゲート・キーパーの攻撃は生身で受ければ即死を免れません。では、『主』の説明に移ります。」

 再び絵が切り替わり、先程の奇怪な銀色のいそぎんちゃくのような『主』を映し出す。

「『主』は多数の触手の先端から電撃を放ってきます。勿論、その頑丈な触手自身も十分な凶器です。本体の防御力はゲート・キーパーを上回ります。
『主』はその性質上、過敏ともいえる攻撃反応を示すので、一度敵と認識した相手は死亡を確認するまで攻撃します。」
「物騒な奴ね。誰かさんそっくり。」
「まず、あんたから始末しようか?」

 フィリアの露骨な嫌みに、リーナが鋭い視線で睨み付ける。

「…喧嘩は後にして、ひとまず私の説明を聞いて下さい。」

 マークスは二人を宥めて説明を続ける。やはり、この辺の思考も生きているようにしか思えない。

「さらにゲート・キーパーのような明確な弱点がありません。触手は全部で20本。近付くこともままなりません。そこで、この様な作戦を考えました。
先程カードを差し込んでくれた溝からカードを出しますので、受け取って下さい。」

 リーナがカードを差し込んだ溝から、カードが半分ほど顔を出す。アレンがそのカードを手に取る。見たところ、外見に変化はない。

「このカードには、『主』の頭脳に相当する部分に攻撃を行う呪文を封じ込みました。ゲート・キーパー2体を倒した後、『主』が控える部屋に入るには、
通常そのカードが必要なのですが、貴方達を侵入者と見なしているのでカードは受け付けません。そのカードは強制的に入室できるための鍵の役割も
果たします。」
「このカードが…鍵か。古代文明って凄いなあ。」

 アレンはしげしげとそのカードを見詰める。

「強制的に入室できるようにすると同時に、封印が解けて、『主』の頭脳に攻撃を仕掛けるようになっています。『主』はこの攻撃を優先的に排除するように
作られています。この呪文は延々と異なる種類の攻撃を続けるので、侵入者と見なされている貴方達を攻撃するための触手の攻撃が減少します。人間と
同様、同時に複数の処理を行うことは『主』の頭脳にとって大きな負担なのです。」
「このカードに封じられている呪文の攻撃に追われている隙を突いて、攻撃するってこと?」
「そうです。触手も防御力が高いので一つ一つ潰していくのでは効率が悪すぎます。そこでこの部分、カードの呪文が攻撃を行う対象でもある『主』の
頭脳であるこの場所のみ集中攻撃をして下さい。」

 いそぎんちゃくの絵の、胴体部分の頂上にある透明の半球が赤く点滅する。

「この部分は定期的に交換されるため、開閉できる構造になっています。そのため他の部分に比べて防御力が低下しています。ここを破壊すれば、
『主』は非常事態と認識し、此処の秘密保護のため遺跡を爆破する合図を出します。」
「…『主』は頭を交換するの?何か理解し辛いんだけど…。」

 フィリアが口を挟む。頭を取り替えるということは結局人間を入れ替えることであり、ましてCPU交換という概念がない一行には理解し辛いのは当然である。

「『主』は常に最大の能力を発揮できるように自らの頭脳を取り替えていくのです。その頭脳は人間と同じ様に出来ていていて、『主』は管制下にある
製造室に、定期的に最新の頭脳に更新するよう指示して取り替えさせるのです。」
「…人間の作ったものが人間の手を離れたって訳ね。」
「そうです。そのような機能を持つ『主』にとって、人間は必要とはされなかったのです。高度な技術は創造者の手を容易に離れ、一人歩きしてしまう。
人間はそれを制御できなくなった。それが我々の文明を滅ぼした原因の一つかもしれません。」

 絵は再び青年の顔に切り替わる。

「道案内はこの部屋を出たところに待機している空飛ぶ目玉のようなもので行います。それで私から指示や情報をお知らせします。それを貴方達の
防禦壁の内部に入れて上げて下さい。準備ができたらドアの前に立ってドアに手を当てて下さい。それを合図に私はドアを開いて、『主』や骸骨などへの
妨害工作を始めます。」
「分かった。」
「私の遺志を受け取ってくれたことを感謝します。未来の勇者達よ、宜しく頼みます…。」

 マークスは微笑みを浮かべると、フッと平面から消える。平面は元通り黒一色の無味乾燥なものに戻った。

「・・・未来の勇者達・・・か。」
「何浸ってるのよ。」
「違うよ。あの人、俺達みたいな人間が来るのを何千年もずっと待ってたのかなって思って・・・。」

 アレンが真っ黒な画面を見詰めて言う。

「死を待つだけの状態でいつ来るか分からない未来の人間のために、自分の遺志を残したんだな・・・。その人間が遺志に反するかもしれないのに・・・。」
「きっと、訪れる人の良心に賭けたのよ・・・。」
「良心・・・ねえ・・・。」

 リーナが皮肉交じりに呟く。

「・・・それが期待外れに終わることは考えなかったのかしらね。」
「…そんなこと考えたら、何も出来ないよ。」

 アレンがリーナにやんわりと反論する。

「悲嘆に暮れながらただ、死が来るのを待ってるより、未来に繋がる何かを残したかったんじゃないのかな。」
「…あんたの言うことは、人間の本性を知らないおめでたい人間の台詞よ。」

 リーナはアレンを睨みながら吐き捨てる。

「一度あんたも痛い目に遭えば分かるわ。古代文明が滅んだのも人間の本性が剥き出しにされた結果。自業自得よ。」

 アレンはドルゴを召喚してそれに跨って、呟く。

「…同じ失敗を繰り返さないようにすることが、人間の本当の進歩…。以前父さんが言ってた…。」

 フィリアがアレンの後ろに跨ると、それに続いてリーナが黙って最後尾に跨る。
フィリアとリーナは直ぐに結界を張る。アレンは受け取った「鍵」となるカードを懐に仕舞う。

「アレン、準備はいいわよ。」

 フィリアが言うと、アレンはドルゴをゆっくりと進め、ドアに左手の掌を当てる。

「準備は整ったようですね。では行きましょうか。」

 これまでの無機質な声と違い、生命の息吹に溢れたマークスの声が聞こえて来る。その直後、けたたましい警告音が鳴り響き、あの聞き慣れた無機質な
声がドアの向こうから響いて来た。

「警告!再びA級警戒態勢プログラムに内部から重大なシステム・インタラプト発生!一部ピーキング・アイ管制離脱!一部IG-200HM管制離脱!
ワクチン投与フォールト!」
「ドアを開きます!」

 無機質な声に続いて、マークスの声が今度はドアの向こうから聞こえて来た。それに併せて、ドアが中央で割れるように開く。
目の前に握り拳大の白銀色の球体が浮かんでいる。その中央には人間の目のようなものがある。目玉がひとりでに飛んでいるようで、モンスターかと
錯覚してしまう。

「これを防禦壁内部に入れてあげて下さい。これを通じて私が道案内します。防禦壁を一時消して下さい。」

 フィリアとリーナは結界を消す。その物体が空中を滑るように結界の範囲内に飛び込んでアレン達が乗るドルゴの頭上に浮かぶ。
フィリアとリーナは再び結界を張る。

「これから目の前の侵入者阻止用の防禦壁を上へ押し上げます。骸骨の一部が援護しますので、後はその球体を通じて行う私の指示に従って下さい。」
「分かった。」

 アレンが返答すると、前方の灰色の壁が一斉に天井に吸い込まれるように動き始める。それを待っていたかのように、金属の骸骨が突進しつつ、
手にした筒を構えて小さな物体を一行に向けて撃って来た…。

用語解説 −Explanation of terms−

23)ガイノア:リーナが言う叙事詩とは、Prologueの「マンカ・デル・ニージャ」のことだろう。意味は古代マイト語で「死の槍」。それが意味するところは、記述から
おおよその推測は出来るだろう。


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